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668シャンソン:2019/06/13(木) 19:51:37
    夜遅くに、娘とスモモのジャムを煮て  高見沢たか子(ノンフィクション作家)

 寿命がのびただけ、運命のいたずらで思いがけないことが降りかかってくる。
私の場合は、夫がパーキンソン病と診断され、共に難病を背負って過ごした体験がそれに
あたるかもしれない。夫は定年を迎えて三年目に発病した。

 健康にだけは自信があったので、確かに納得いかなかった。だが、二人とも「なぜ?なぜ?」といくら突き詰めて
考えてもしかたがない。「難病」というからには、原因がわからないのだ。しかし病気の進行を抑える薬はある、治すことはできないがすぐ死ぬわけじゃない。
現実をまっすぐ見ることのほうがだいじではないか。いま真っ先にしなければならないことは何だろう?

 そう自問自答しているうちに、元気が出た。やがて歩行困難になるかもしれない夫のために、まず家の中をバリアフリーにすること。信頼のできる専門医を見つけること。
すぐにも実行に移さなければならないことがたくさんあった。答えの出ない問題に執着しない、できることから問題をひとつずつ解決していく習慣は、この体験で身についたと思う。
そんなとき、「なるほど!」と心に響く言葉と出会った。「よりよく生きることこそが、運命への最高の復讐」、スペインの古いことわざだそうだが、与えられた運命へのしっぺ返しをするつもりで、
毎日をできるだけ楽しく過ごすことだけを考えるようにした。

 最近、幼友達の息子が亡くなった。小さい頃からよく知っているだけに、電話で訃報を受けたとき、どうしていいかわからないほど悲しかった。ふっと我に返ると、なんと私は台所のあちこちの掃除を始めていた。
そして見通しのよくなった冷蔵庫の庫内や、古いものを捨てて、すっきりとした戸棚を眺めているうちに、不思議と気持ちが落ち着いてきた。葬儀が終わり一ヵ月ほどが過ぎた。心配になって友人に電話をかけてみた。
「どうしてる?元気?」と聞くと、「私いま、仏壇磨いているの」と妙なことを言う。

「えっ?」と思わず聞き返した。両親が亡くなってから、たまにほこりをぬぐうくらいだった仏壇を、思い立って徹底掃除wそいたという。まもなく息子の新しい位牌が入ると思うと、塗りのはげたところも気になり、修正材を買ってきて、きれいに直しているとか。
「ときどき泣いたり、また磨いたり、だからけっこう忙しいのよ」、私たちはなんとなくおかしくなって笑ってしまった。
私の母は、何か心配事や悩みがあると、夢中で編み物や縫物をしていた。

 気が紛れて妙なことを考えずにすむと言っていた。ムシャクシャすると鍋を磨くという人もいる。
夫が危篤状態になったとき、夜遅く病院から戻ってから、突然思い立って娘と二人でジャムを煮たことを思いだす。家の庭に生ったスモモを腐らせてしまうにはしのびなかったからだ。
部屋中に甘い香りが満ちて、いつものように、夫がジャムの仕上がりを待ちかまえているような気がした。

 女の人は、こうして生活の中で、悲しみやくすぶった感情を一時的にもぱっと発散する力を持っているのだと思う。
そしてこれこそがほんとうの意味での自分を支える「生活力」ではないだろうか。どれほどの人が突然に降りかかった困難や不幸に、強い心で立ち向かえるだろうか。その衝撃を和らげ、気持ちをそらすことが、急場を救うことにもなる。
発病後十年、夫は次第に深刻な状況になってきた。しかし意外にのんきにかまえていた。胃に開けた穴から栄養を注入する毎日になったのに、往診の医師に、「先生、蕎麦を食べてもいいですか?」と言って私を呆れさせた。

 普段から私たちはよく冗談を言い合ったが、それは病気が進行した日々でも同じだった。よく夫が面白いことを言って、訪問介護の医師やヘルパーさんたちまで巻き込んで、大笑いをした。笑って気持ちがほぐれると、介護スタッフ人たちも、打ち解けて助言をしてくれた。
こうした体験から、私はぐちを言って嘆くよりも、周囲の人たちをなごませるほうがずっといいと思うようになった。
笑うことで、不安や恐れで緊張した心がほぐれ、からだの中の新しい血が流れる。心もつまりは、からだの生理的な作用に大きな影響を受ける筈だ。生き続けるためのユーモア、自分を励ますためにもユーモアの習慣は忘れたくない。

 『明日はきっと、いい日になる』 PHP編集部 編


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