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非武装信仰板

1801シャンソン:2019/09/06(金) 20:43:31
>>1800

意味が分からず目を丸くしている二人に、祖父は言った。
「まだ若いのにこんなに集める大変だったべ。うちは機材は残ったし、なんとかなっから大丈夫だ。めげないで頑張んな」
それから半世紀が経った。祖父も20年前に他界した。そんな今でも僕の実家には、お中元とお歳暮は欠かさずに届いているという。
今では気仙沼を離れ、遠い地で暮らしている二人の気持ちは今でも僕たちの元へ届いている。

 その祖父が建てた建物は、あの大津波でもなんとか倒れずに多くの従業員の命を守ってくれた。
「そう言えば内部はぜーんぶ流されたのに、おじいちゃんの位牌だけは残ってたよね」ワカが言った。
事実、すべての家財を波が流してしまった部屋の隅に、祖父の位牌だけが残されていた。

 泥の塊の中で「ここだここだ」と主張していたらしい。さすが、僕の祖父である。
津波なんかに流されんぞ、という執念を感じる。「うん、きっとじいちゃんに感謝するたくさんの人たちの気持ちが、
流されないように守ってくれたのかもしれない」

 親の因果で子に報われる。人間、悪い方にばかり考えがちだけど、実はそれ以上に良い行いが返ってくることだってたくさんある。
良かったこと、嬉しいこと、ありがたいこと、そういうことに目を向けて明るく生きる。それが災いや病気を吹き飛ばす最良の術だと思う。
店を出ると、もう夕方だった。東京とはいえ、秋の黄昏時は涼しい。

 レンガ色のビルの間を足早に行き交うサラリーマンの姿が、目に飛び込んでくる。
こういう人たちが社会を動かしているのだな、と感じて僕はなんだか刺激を受ける。
 鞄を肩に掛け直して言った。

 「よし、仙台に帰ろう。急いで今日の話をまとめたい」
せっかくためになる話を聞いたんだ。一刻も早く、原稿に載せたいと思うのが物書きの性である。
「私も同じ新幹線に変更する!もっと話したいから、一緒に帰ろう」
りっちゃんが言った。積極的に希望を伝えるのは大事なことだ。それから、臨機応変に立ち回ることも。

 ヴヴヴ、ヴヴヴ。ジャケットの内ポケットでスマホが震えた。
「あれ?電話だ」僕はスマホを取り出し、液晶画面を確認する。

     『命と魂の長いお話』 小野寺S一貴 著


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