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146復興G:2013/10/10(木) 11:11:29 ID:AB6RqYXc

   < 「文化の本源としての神想観」 つづき>
      (谷口清超先生 『神は生きている』 より)

     三

 戦争は人間の悩みを最大限に拡大して、露呈する。戦争の破壊力は物質的の破壊力のみに止(とど)まらずして、人間の精神をも破壊する。人間の理想と夢とを戦争は無残にもふみにじる。そのあとには、何ものによってもきずつけられる事のない 「永遠なる真実」 と 「悪の華(はな)」 とが混沌として入りみだれる。

 しかしやがて 「悪の華」 は自ら消滅し 「永遠者」 のみが生きのこり繁栄する。「悪の華」 がいまだ完全に消滅せず、かえってこれに適当した温床が与えられる時には、やがてふたたび第二の自壊作用としての 「戦争」 が勃発するのである。

 第一次世界大戦の後に生じた一つの反逆精神があった。それは今までの理想、秩序、権威等、すべての力あるものに対する絶望であり、嘲笑であった。それは精神の不安である。

 一九一六年、チューリッヒに於てトリスタン・ツアラは 「ダダイズム」 という言葉を創始した。ダダ (dada) とは 「何事も意味しない事」 である。つまりカオスの象徴であり、釈迦が王宮を出た時の絶望と通ずるものがある。釈迦が絶望のうちに何か 「新しき光」 を求めて出家した如く、ダダも 「何事も意味しない」 とは言うものの、何事かを意味するために誕生した言葉であったのだ。そこに意識されざる矛盾がひそんでいた。これが大いなる禍(わざわい)の種となろうとは、誰一人として知らなかった。

 ダダイズムは何ものも神聖なるものをみとめない。dadaということばはフランス語で馬を追う時につかう 「ドウドウ」(ダダ) といういみであり、そこには 「既成概念を追っぱらう」 という「意味」がひそんでいた。

 戦争の原因となった旧(ふる)き観念を追いはらうという意味に於てダダが使われている限り、それは正しかったのであるが、彼ら同人の用いた 「ダダイズム」 は虚無にまで転落して、それ以上にはい上ることが出来なかった。

 かくしてダダイズムは自滅した。その反旧精神をうけついであらわれたのが、シュールレアリズム(超現実主義)であった。ツアラはこの運動に同志と共に加入し、アンドレ・ブルトンが主宰した。

 それは精神的に現実界を超越したより高き理想の世界を夢みる運動であり、それを直接的表現に移し植えたのであった。そこに、現実の暗黒と矛盾とに対して生じた革命精神を包含している。

 それは、正しく指導されれば、宗教的真実の彼岸に到達し、そこに真の超現実の実体を見出すことが出来たのであるが、当時のシュール・レアリスト達はあまりにロマンチシストでありすぎた。彼らは現実を超えたつもりで観念の世界に停(とどま)っていた。イマージュの世界に止っていたのだ。そこには何ら、現実を動かす所の力がなかった。彼らは彼岸の彼方を遠く眺望して、いたずらに幻想をたくましくしているにすぎなかった。彼らに欠けていたものは、もう一歩の前進であり、超現実と現実との立体的力学の把握であったのである。かくして、あくまでも現実の革命精神に燃えるアラゴン一派が、共産主義改革 即ち、政治革命へと満足を求めて離反して行った。

 結局彼らにとって最も欠けていたものはというと、彼らが何に反逆し、何に対して絶望し、何を求めて苦しんでいたかという、はっきりした対象を見出し難かった所にある。彼らが現実を超えんとした時、その現実とは如何なるものであるかという明瞭な認識を欠いていた点にあった。

 彼らがせっかく超現実を標榜(ひょうぼう)しながらも、神の国に投入し得なかった最大の理由は、「神の国」の感覚(センス)が彼らの近代感覚の触覚にこころよく感じられなかったからである。それは、神の国をとく宗教がフランス製のアラモードをつけていなかった点にもよる。しかし、根本の原因は、彼らの唯物論的残滓(ざんし)にあったのだ。

 彼らは何ものかを求めた。彼らの求めていたものはたしかに 「神」 であった。しかるに彼らはそれを 「意識しなかった」 或は 「意識しまいとつとめた」 のだ。何故であるか。それは、当時の宗教のとく神の衣裳の感覚が彼らの感覚(センス)に合わなかったからである。表現の問題である。そこに芸術的感覚と宗教的感覚との一致が要求せられる所以がある。

 吾々の思想運動、宗教運動が、一つの大いなる芸術運動を標榜しているのも、ここに原因がある。「宗教」 は宗教に関心をもつ者のみを救うのでは何にもならぬ。「宗教」 が宗教的臭味を脱した時、そこに凡ての人に接近しうる親近性が付与されるのである。
 <つづく>


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