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女子会板/2

191うのはな:2013/01/20(日) 19:11:59 ID:08rsSsiE
   パンケーキ

 小麦粉を水で溶きバターで焼いただけのパンケーキ。
それは亡き祖父の好物だった。粗挽きの全粒粉がボソボソして、まだ子供だった
私でもまずいとしか思えなかった。

 戦前、家族と共に満州に渡った祖父は、終戦間際に兵隊に取られ、一発の弾も撃つ
ことなく敗戦、混乱の中、シベリアに抑留された。電気技師だった祖父に、ある時、米国
製電気炉の組み立てが命ぜられた。失敗は即刻銃殺刑という、文字通り命懸けの仕事であった。

 組立図や取扱い説明書など全くなく、部下と二人、手探りで組み立てたものの、ピクリとも動かなかった。
だが絶望せず、連日徹夜して期限直前、辛くも運転に成功した。
「ハラショー(よくやった)」成功の褒美に与えられたのが二〇〇グラムの小麦粉とほんの少しのバターだった。

 祖父はその時焼いたパンケーキの味が忘れられなかったのか、いや、決して忘れまい思っていたのか。
九死に一生を得て妻子の元に戻った後も、折にふれパンケーキを食べ続けた祖父、胸の内に去来したものは何だったのか。

 私も二児の父となり、暖かな部屋で、子供たちがふっくら焼き上げたパンケーキに、たっぷりのバターとシロップをかけて
頬張るのを見つめる。一瞬、祖父の残した逸話が脳裏をかすめる。
 祖父が生きていたら何と言うだろう。「腹一杯食べたらええ」祖父は微笑み、きっとこう言ってくれるだろう。

 菊田朋之 機械技師 大阪府高槻市 『夕焼けエッセー』産経新聞社


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