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女子会板/2

188うのはな:2013/01/18(金) 22:27:46 ID:3jb./WYM
    一切れのスイカ

 大玉のスイカが、六百円で売られていたので買った。冷蔵庫で冷やすため半分に割る。
真っ赤な果肉に、真っ黒い小さなタネの点々模様が美しい。五十六年前、姉が夢中で食べていた光景が、
またもよみがえってきた。

 戦時下、女子挺身隊に徴用された姉は、三重県四日市の軍需工場の寮生活で結核に感染し、戻されてきた。
やがて戦争は終わったが、食糧難は一層深刻で、姉は栄養失調も加わり日ごとにやせ衰えていった。
 終戦翌年の暑い日、近所のお婆さんが「一切れじゃが、久子に食べさせてやっておくれ」と、井戸で冷やした
櫛形のスイカを持ってきてくれた。お婆さんが浜辺の開墾畑で作ったもので、それにしても、育ち盛りの孫がごろごろいる
のに......。

 無愛想で、よく孫を叱りつける怖い人だったので、私にはお婆さんの好意がとっさに理解できなかった。
母は深く礼を述べて、すぐに姉の枕元へ置いた。すると姉は、まるでキリギリスのようにスイカにかぶりつき、
赤い部分をきれいに食べ、「ああ、おいしかった」と満足したため息をついた。
私は、少しでも残してくれないかな、と唾を呑み込みながら見ていた。

 それから数日後、喀血した姉は十九歳で逝った。姉の命をもらってか九十九歳まで生きた母は、スイカを食べるたび
「あのお婆さんは、菩薩さんみたいな人やった」と語っていた。

小出光子 (66)主婦 大阪府八尾市 『夕焼けエッセー』産経新聞社


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