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女子会板/2

172うのはな:2013/01/13(日) 16:19:47 ID:08rsSsiE
  61年前の手紙 

 夫の兄から初めて手紙が来た。そろりと開封する。なんと、東郷元帥の
四銭切手が貼られた薄茶けた封筒が入っており、差出人は六十一年前の夫である。
中学を卒業し、故郷の信州から東京に就職して間もない兄への便りだと知った。

「お兄さんお元気ですか。ぼくも元気です。こちらはま冬というほど寒く、二センチの
あつい氷もはりました。きのう大根とりました。きょうはもち米ついて、もちをつくと父が
言いました。母はお蚕のせわでいそがしいです。ばあさんも元気ではたらいています。
 お正月が近づきました。兄さんが来るのをゆびおりかぞへています。その時、空気銃と弾。
どんなやつでもいいです。あと、おみやげはいりません。どんなことをしても、元気でかへって来て下さい。
おねがひいたします」

 この思いがけない幼い自分の手紙に、夫は黙りこくり、私はそのいじらしさに泣けた。
相次ぐ兄たちの出征と就職、さすがに末っ子の腕白坊主も、肩の荷は重くなったという。
文章の拙さは野良仕事に追われ通しだったからだとか。

 義兄の手紙には、空気銃の願いを多分、叶えてやれなかった、と詫びてあった。
でも、そんなことより、今となっては、こんな貴重なものをよくぞ仕舞っていて下さった、
と感謝の気持ちでいっぱいである。

 吉澤千代子 主婦 大阪市福島区 『夕焼けエッセー』 産経新聞社


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