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NO.10 数珠 浅葱(すず-あさぎ)(古参)

51ε:2011/06/07(火) 09:21:52
「失敗だよ」
 刹那は笑った。泣きじゃくるユウナに対して、刹那は頭を撫でた。
「期待させて悪いことしたな」
 そして、そっと抱き寄せる。しかし、ユウナは、それを突き返した。
「ふざけんな!」
「……不謹慎だったか?」
 そう問いかける刹那に対して、ユウナはわなわなと震えた。そして、無言で出て行った。


 アサギが目覚めると、そこにはユウナがいた。
 ユウナは膝を突き、アサギと視線を合わせた。
「……おはよう。アサギ」
「ダメだったのね」
「……」
 ユウナは答えられなかった。
「覚悟はしてたからいいの」
「ごめんなさい」
 ユウナは謝る。
「何を?」
「……」
「パパのこと? パパのことは仕方ないわ。私がママに、どうせ無理ならパパに治療してもらいたいって言ったんだから。それとも、ママは私を産んだことを後悔してるの?」
「そんなこと! そんなことない……!!」
「なら、もういいの。もう、いいから。だから、ママ、もう泣かないで」
「アサギ……」
 ユウナはそっとアサギを抱き寄せた。そのときだった。
「どういうことだよ」
 突如、刹那がドアを開けて入ってくる。
「どういうことだよ……!」
「どうもこうもないわ」
 ユウナが立ち上がり、刹那に詰め寄る。
「ママ……」
「もう出て行くわ。あんたの顔なんか二度と見たくない」
「おい、説明してくれよ……!」
「分からない? あんたと話すことなんてないって言ってるの」
 刹那は悲愴な面持ちで、アサギに視線を移す。
 アサギはユウナの袖を引っ張る。
「ママ、刹那をあまり邪険にしないであげて。刹那も最善を尽くしてくれたんだよ」
「……アサギ」
 ――刹那。
 その呼び方の違いに、刹那はアサギとの間の埋められない時間を感じた。

52ε:2011/06/07(火) 09:22:10
「ねえ、刹那。刹那はママのこと好き?」
 アサギはある日刹那にそう尋ねた。
「もちろん、好きだよ。当たり前だろ」
 刹那はそう答える。
 刹那は言えないでいた。先の手術の際にくだらないミスを犯してしまい、それが原因で手術が失敗してしまったことを。
 誰にも言えないでいた。
「ならさ、どうして刹那は、節操がないの?」
 刹那は答えに困った。そんなことに今まで疑問など抱いたことがない。
「さぁ、どうしてだろうな」
「自分のことなのに分からないの?」
「自分のことだからこそ、あまり意識したことないな」
「じゃあ、ポリシーとか、そういうもんでもないんだ?」
 刹那は考えてみるが、ポリシーなどと言う大それたものではない。
 特にそういうことを意識せずに過ごして来た結果が、現状であると思っている。
 だが、刹那はこの話の流れを考えるに、それを素直に言うのをためらわれた。
 しかし、刹那には負い目がある。
「どうなの?」
 刹那は思わず言ってしまう。
「そういうのじゃないと、思う……」
「そうなんだ。ならさ、私のパパになってくれない?」
「パパ?」
 自分はすでに父親だと思っていた刹那は面食らった。
「そう、パパ。ママだけを愛してあげて欲しいの。そうしたら、刹那のこと許してあげるよ」
「許す?」
 刹那はドキリとした。アサギはにやりと笑う。
「私の病気のことは私が一番知ってるよ。刹那、医療ミスしたでしょ? 私の手術」
「す、すまない!」
 刹那は頭を下げた。それを見て、アサギは笑いをこらえた。
「ふふ、鎌をかけたんだよ。こんなあっさり行くとは思わなかった」
 刹那は呆然とアサギを見ていた。
「まぁ、まだこうして話ができていることから、今回だけは刹那くんにチャンスを与えよう」
 アサギは尊大な態度で言った。
 しかし、すぐに態度を改めた。そして寂しそうに言う。
「さっきみたいな無茶な話じゃないよ。そもそも、刹那みたいな人が、パパになれるわけないんだよね」
 刹那はすぐさま否定しようとしたが、それを否定する言葉を持ち合わせていなかった。
「でね。私、悪い子だからね。最後にわがままを言おうと思うの」
 アサギはパッと笑った。
「わがまま?」
 刹那は聞き返す。
「私ね、ママの結婚式姿が見たいの。だから、その相手役になってよ」
「……」
「ママはね。刹那の目にはどう見えてるか分からないけど、すごく嫉妬深いんだよ。それでね、すごく真面目なの。お腹の中に私がいるのを知ったときだって、きっと刹那にそれを言いたかったと思うよ。でも、刹那はそんなでしょ? だから、ママは一人で育てるって決めたんだよ」
「だからと言って、今さら」
 ユウナが、そんなことを望むはずがない。刹那はそう思った。
「分かってないなあ! だから、私のわがままなんだよ。私の自己満足のために二人は協力すればいいの!」
 すぐに刹那は返事ができなかった。すると、アサギはじれったそうに声を上げた。
「もう! 分かってないな。後は、刹那がOKしてくれればいいんだよ!」
「ユウナが?」
「ママって以外とロマンチストなんだよ。長い付き合いみたいなのに気づかなかった?」
 刹那は自分が恥ずかしく思えた。
「で、もちろん、協力してくれるでしょ?」
 しかし、刹那はまだ何と答えていいかわからなかった。
 今まで、挙式をあげて欲しいと、何人もの女性に泣きつかれ、刹那はその度に逃げ出してきた。
 どこまでも尽くしてくれた女が、どれほど懇願しようと刹那はそうしてきた。それが、自分と関わる全ての女に対しての、刹那なりのけじめでもあった。それを考えると、そればかりは、覚悟を容易に決めることが刹那にはできなかった。
 しかし先の話もあり、アサギは刹那のその沈黙を肯定と受け取ったらしく、笑顔を輝かせた。
「じゃあ、約束だよ! 絶対ね!」
 楽しそうに式の段取りなどを話す、アサギを見て、刹那は自分の決心が未だにつかないことなど言えはしなかった。
 相槌をうちながら、時間が欲しいと切り出すタイミングを見計らったが、とうとう、そのタイミングはつかめなかった。
 刹那は後にこの事を後悔することになる。

53ε:2011/06/07(火) 09:22:28
 アサギは、病の身でありながら、人前でその苦しさを表に出すことが決してなかった。
 それゆえに、刹那はアサギが、自分のミスのために、いつ亡くなってもおかしくない状態であるということを忘れていた。
 いや、アサギのその強さに甘えていた。


 そして、挙式の日、刹那は行方を晦ました。しかし、ちょうどその日は、台風が重なったため、式は中止となった。
 その翌日になって、アサギの様態は急変し、そのまま近くの病院で息を引き取った。
 刹那が駆けつけたとき、アサギの葬儀は終わっていた。


 アサギの遺言で、ユウナは刹那を表面的には許したが、その心の内には深い溝ができた。
 刹那はそれから数年の後、消息を絶つ。
 再び刹那が友人らの前に現れたとき、彼の傍らには「浅葱」がいた。










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54ε:2011/06/07(火) 09:22:57
*闇との性交/浅葱に関する根も葉もない噂の一つ?/この噂に根拠はない


 刹那はアサギを蘇らせる方法を探していた。
 中途半端な生ではなく、完全な生をアサギに与えたかった。
 それが自分にできる唯一の罪滅ぼしだと刹那は考えた。


 刹那は探した。
 何年も何年も探し続けた。
 そして、ある洞穴の奥深くで、あるものを見つける。


 刹那はアサギの墓を暴き、その骨をあるものに捧げた。
 そして、その仄暗い闇の中で、刹那は、アサギの魂を移した名状しがたい''何か''と契る。
 刹那は気が狂いそうになりながらも、アサギへの罪悪感と、気づかぬうちに娘に抱いていた劣情を糧に、なんとか正気のようなものを維持し続ける。
 だが、自分が自分でないものに取って代わられていく恐怖によって、刹那の精神は日に日に蝕まれていった。
 浅葱が、それより生まれたときは刹那は、すでに正気とは言いがたい状態だった。
 その後、その洞穴を出て、麓の村で浅葱を育てていた刹那だが、十年目にとうとう限界が生じ、村人を殺してしまう。
 浅葱にはそれを隠し、村から出、かつての友人らの元へと姿を現す刹那。正気である振りをしながら、かつての友人らに浅葱を孫と紹介して回った。


 しかし、すでに刹那の肉体jは異形と化しており、正気の振りをし続けるのにも限界が生じた。


 ゆえに刹那は浅葱をユウナに預け、そのまま自ら命を絶った。




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