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1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/05(金) 20:22:45 ID:R4QiEhY.O


5140/78:2013/08/28(水) 11:48:15 ID:y780oguI0
ミセ*;゚ー゚)リ「ちょっと目の前の光景が信じられないんだけど、あれ、ネーヨさんだよね?」
(*;‘ω‘ *)「知らんっぽ。本人に聞いてみろよ」

ミセ*;゚ー゚)リ「……おーい、ネーヨさーん! どう鍛錬したら私もドラゴンになれるのー!?」

(∮₤;´ー) 「しらネーヨ……イヤ、なれネーヨ!」

ミセ*;゚ー゚)リ「なれないってさ……参ったね。どうする?」
(*;‘ω‘)「どうって、そりゃ逃げる一択だろ。戦って何とかできるか?」
ミセ*;゚ー゚)リ「無理。絶対無理。百回死んでも無理」


ミセリは溜息を吐いて、あたりを見渡した。

打ち倒された大樹のほかには、やはり泥の海を越える"道"など無い。
泥に沈んだ真新しい"切り株"を挟んで、向こう岸の巨竜と睨みあう。

あの竜を何とかする以外には、今のところ、ここを突破する手段は無い。


(*;‘ω‘ *)「……よし。それじゃ諦めて、ごめんなさいして引き返すっぽ」
ミセ*;゚ー゚)リ「嫌。それは、絶対に嫌」
(*: -ω -*)「はぁ、聞いてみただけっぽ……さっきから、なんで楽しそうなんだっぽ」

5240/78:2013/08/28(水) 11:49:03 ID:y780oguI0
(∮₤´ー)「相談は終ワッたか?」


ミセリは息を吐いた。
精霊が身体を満たし、瞳を染め上げる。


ミセ*゚ー゚)リ「うん。通るって決めた」
(∮₤´ー)「通さネーヨ?」
ミセ*゚ー)リ「だから、通るってば」

(∮₤ д)「……だッたら、止めるだけだーヨ……!」


巨竜は力強く吠えた。
泥の沼が揺れ、波紋が広がる。

遠く離れているはずのミセリ達ですら、その恐怖に足が竦んだ。
膝を震わせる二人に、巨大な影が迫る。

5340/78:2013/08/28(水) 11:50:49 ID:y780oguI0
ミセ*;-−)リ「ッ……」
(*;‘ω‘ *)「来たっぽ!」

(∮₤#´ー`)「オォオオオオオオオオオオオ!!」


初撃、最初の一撃を避けて背中に回れば、あの巨体では対応しきれないはずだ。
迫りくる両翼の突撃を、二人はそれぞれ全力で避ける。

……ミセリは確かに、ネーヨの翼を掻い潜った。
しかし、彼女の身体に自由が利いたのはそこまでだった。

'まるで見えない何かに引っ張られるように'、ミセリの軽い身体が後ろ向きに吸い寄せられる。


ミセ*;゚−)リ「――ッ!」


暴風、巨大な翼が巻き取る気流、竜巻。
そう気付いた時には、大渦の'目'に引き込まれたミセリを、大きな手が捩じ伏せていた。

5440/78:2013/08/28(水) 11:51:58 ID:y780oguI0
ミセ*; д)リ「ッ……!」
(∮₤´ー)「捕まエた」


両腕諸共ミセリを握りしめる、ゴツゴツと鱗ばった巨竜の右前肢。
軽鎧越しの圧力に、傷ついていた左腕が激しく痛む。

どう抵抗しようと、太い指はびくともしない。
一方で、ミセリを気絶させ、あるいは潰し殺すほどの力は込められていない。


ミセ*; д)リ、「待……ッて」


撒き餌。ミセリは自分の置かれた状況を直感した。
しかし、頭に血が上った相方の方はそうではない。


ミセ*; д)リ「ダメ、ぽっぽちゃん、逃げて……!」

5540/78:2013/08/28(水) 11:53:11 ID:y780oguI0
(*#‘ω‘ *)「てめェ、待てやゴルァ!」

(∮₤´ー)「ァア?」


"赤"の精霊を集め、ぽっぽはネーヨに飛びかかった。

打撃、破砕音。
蛇剣の洗礼を受けて削れた戦棍は、黒竜の鱗鎧を打つに耐え切れず、真っ二つに圧し折れた。


(*;‘ω‘ *)「ッ……んな……」
(∮₤´ー)「イッてェ」


ぽっぽの顔は驚きに歪む。
戦棍一本を犠牲にしたにも関わらず、殴られた巨竜の方は平然と鎌首を擡げた。
漆黒の竜尾が振るわれる。
回避する術も無く、ぽっぽの身体はパチンコ弾のように弾かれて吹き飛ばされた。

5640/78:2013/08/28(水) 11:54:04 ID:y780oguI0
(*; ω)「が、げほ……」
ミセ*;゚д)リ「ぽっぽちゃんッ!」


はるか遠く、受け身も取れずに地面を転がされたぽっぽは、仰向けに苦痛の息を咳き込む。

まるで抵抗の目が無い。
ネーヨは、倒れたぽっぽから必死で暴れるミセリへと目を移す。


(∮₤´ー)「済まネー。だが、大人しくしてイて貰エなきャ困るンダーヨ」

ミセ*;゚д)リ「ッ!」
(∮₤´ー)「……アとで仲間と一緒に、ヨツマまで送ッてヤる。今は寝てロ」


ミセリを握る五指に力が入る。

5740/78:2013/08/28(水) 11:55:02 ID:y780oguI0
骨が歪み筋肉が軋み、呼吸と身体を巡る血とが潰される。

悲鳴ひとつまともに上げられない。
逃れえない圧力に声すらも潰れた。

ぼんやりと薄れ、消えてゆく意識。
その片隅で、


「おい」
≡O (∮₤´ー)"「?」


力強い声が聞こえた。

58以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 12:10:24 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚) "   ∧ ∧
(⊂ 彡, .∴ '#メ)´Д)
   ,r⊂ ⊂ `ソ /  
 ∠イと.,_と.,__,ノ


(∮₤;´Д)「ウ、がァ……!」
  _
(#゚∀゚)o「てめぇ、俺の目の前で二人に手を出すたぁ、いい度胸じゃねぇか……!」

ミセ*;-д)リ「う……ッ!」


ジョルジュ、長岡。
その拳は竜の巨体を軽々と跳ね飛ばし、ミセリを解放した。

5950/78:2013/08/28(水) 12:11:48 ID:y780oguI0
<_プд゚)フ だいじょうぶ ミセリちゃん しっかりして
ミセ*; д)リ「ッ、ジョルジュさんッ、それに、キューさん……!?」


巨竜を殴り飛ばしたジョルジュが、ミセリを庇うように立ちはだかる。
膝を突いて咳き込むミセリの前に、白い幽霊が舞い降りた。


(∮₤´ー)「ッ……ジョルジュ、長岡……!」
  _
(#゚∀゚)o「ミセリ、動けるなら下がってろ。コイツはお前らの領分じゃない」


ネーヨの振り下ろした右の前肢に、ジョルジュは片腕を振り上げて応えた。
岩崩れのような衝撃を受けた両足は地面にめり込み、ジリジリと後退する。

一撃を止めきられたネーヨの方は、驚きもせずに左を横凪ぎに打ちはらう。
ジョルジュは大剣を振りかぶり迎撃する。顔を顰めたのは、ネーヨの方だ。


  _
( ゚∀゚)o「俺達の――『竜殺し』の領分だ!」

6050/78:2013/08/28(水) 12:23:59 ID:y780oguI0
(∮₤#´Д`)「オ……ガァッ!」
  _
(#゚∀゚)o「立て、走れ! 足手纏いだ!」

ミセ*;゚−゚)リ「……!」


前肢を振りかざし、ネーヨは乱入者に襲いかかった。

ジョルジュは大剣を盾にその打撃を受け止めた。
筋肉が軋み、殴られた剣は激しく悲鳴を鳴らす。

黒竜は間髪いれずに逆足を振り上げ、殴りつける。

  _
( -∀)「……!」
(∮₤#´д`)「カアッ…!」


冷静に、冷徹に、ジョルジュは双腕の嵐を防いだ。
いくらうまく防ごうとも、防戦一方では分が悪いのは間違いない。
やがて激しさを増す巨竜の猛攻のうち、一撃がその頬を捉える。


ミセ*;゚−)リ「……ごめん!」


ミセリは弾かれるようにその場を離れ、ぽっぽに駆け寄った。
ジョルジュが敢えて攻撃を受けているのは、後ろに倒れていた自分の為だと分かったから。

邪魔が消えたことを確認して、初めてジョルジュは黒竜と距離をとった。

6150/78:2013/08/28(水) 12:26:56 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚)o「よぉーし……存分にドツき合おうぜ、このクソガキ」
(∮₤´ー)"


答える代りに、ネーヨは大上段から爪を振り下ろした。
まともに受ければ普通の人間ならば即死程度で済むだろう、その一撃は空を切る。

ジョルジュが踏み込んだのは撃ち下ろした右前足の、その肘の外側。
ネーヨはこれには少なからず驚いた。
絶対的なタフネスを持つジョルジュならば、この手をも受けると計算していたのだ。

反撃も防御も利かない死角から、ジョルジュの大剣が巨竜の顔面を襲った。

6250/78:2013/08/28(水) 12:27:51 ID:y780oguI0
(∮₤//´Д`)「オ、が」
  _
( ゚∀゚)o「チッ、目を貰うつもりだったんだが……流石に良い反応しやがるな」


一撃、同時に下がったジョルジュのすぐ目の前を、ネーヨの裏拳が通り過ぎる。

追撃は、届かなかった。
ジョルジュは既に反対側、左脇をくぐって背中へ。

漆黒の翼に、大剣が踊った。


(∮₤// Д)「オォォァァァアッ!」


黒竜が痛みにのたうち回る。
千切れこそしなかったが、高速で飛ぶ力は削ぎ落とした、はずだ。

ジョルジュは振り回された尾を剣の腹で防ぎ、衝撃を利用して距離を取った。

6350/78:2013/08/28(水) 12:47:54 ID:y780oguI0
  _
( ゚∀゚)o「お前らの再生能力の高さは知っている。悪いが、これからは容赦なく削ぐぞ」
(∮₤// Д)「オ…ア…!」


ジョルジュは剣を手に、ゆっくりとネーヨの周りを回った。

視界を奪うか翼を奪うか。
"竜殺し"の定石は、常に冷静に戦力を削ることだ。

対するネーヨもまた、翼を傷つけられた事でかえって冷静さを取り戻していた。
痛む左翼にも構わず、無理やり突風を起こして距離を取る。

  _
( ゚∀゚)o「!」
(∮₤// Д) <3 コォォ…ッ


ネーヨは大きく息を吸い込んだ。
彼ら竜族が最強種たる所以、その身体能力と並ぶ、もう一つ。


                              (巛ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡)ミ彡ミ彡)ミ彡)
                            ,,从.ノ巛ミ   彡ミ彡)ミ彡ミ彡ミ彡)ミ彡)''"
                           人ノ゙ ⌒ヽ         彡ミ彡)ミ彡)ミ彡)''"
                   ,,..、;;:〜''"゙゙ /;:"     )  从    ミ彡ミ彡)ミ彡,,)
                        /;:"     )  从    ミ彡ミ彡)ミ彡,,)         
  ∧ ∧     _,,..、;;:〜-:''"゙⌒゙     /".,".     彡 ,,    ⌒ヽ      彡"
  (∮₤´Д):゙:゙             \":; ..    '"゙         ミ彡)彡'
   \ <   `゙⌒`゙"''〜-、:;;,_       .\;::        )  彡,,ノ彡〜''"  
    \.\____/ /      ⌒`゙"''〜-、,,    , ,彡⌒''〜''
      \       /
       ∪∪ ̄∪∪


大剣を盾に構えたジョルジュを、爆炎が包み込んだ。

6450/78:2013/08/28(水) 12:48:34 ID:y780oguI0

  _
(  ∀)o

常人ならば一瞬でケシ炭に変わるような灼熱が、ジョルジュの全身を撫でる。
"白"は拒絶の色。ジョルジュを守る精霊が輝き、業火の深紅を一時的に遮る。

優れたパワーとリーチを生かす、豪快さ。
優れたタフネスに頼り切らない、冷静さ。

何より、遭遇した強敵を侮らない、竜族らしからぬ慎重さ。
  _
( ゚∀)o

竜を狩る者の最も大きな武器は、剣や矢、槍ではない。

狩られる竜が自ら抱えている、膨れ上がった傲慢さだ。
時に新世界を統べる五竜すらも滅ぼす、その傲慢さだ。

そして、このネーヨは、最強種の本能が冒険者の悟性と混じり、彼自身を完成に導いている。
大陸で狩ってきたドラゴンと比べ '非常に年若く、小柄な' ネーヨを、ジョルジュは高く評した。

とはいえ、それでも。

6550/78:2013/08/28(水) 12:58:32 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚)o「てめえはまだ俺には届かねぇよ、このバラガキが!」

(∮₤;´д`)「!」


途切れた炎の吐息の向こうで、ジョルジュが敢然と吠える。

ネーヨは初めて恐怖した。
初めて出会った、竜種の一端たる彼を駆逐し得る存在に。


(∮₤;´д`)「冗談じャ、ネーヨ…!」
  _
( ゚∀)o

(∮₤;´д`)「ブレスを破られた程度デ、俺が負けるカーヨッ!」


大きく咆哮を返し、ネーヨは身を固めた。
ジョルジュは満足そうに笑うと、大剣を手に駆けだす。

6660/78:2013/08/28(水) 12:59:29 ID:y780oguI0
……

ミセ*;゚−゚)リ「ぽっぽちゃん、大丈夫!?」
(`ω` ;*)「ぽ……ミセリ……だ、大丈夫だっぽ」


弱弱しく答え、ぽっぽは身を起こした。

意識ははっきりしているし、大きな傷もないようだ。
手の中に残った鉄木の破片に目を落とし、彼女は舌打ちする。


(*;‘ω-)「アタシは大丈夫っぽ……それより……」


見渡す限りの湿地で唯一の道だった大樹は、既に泥の底に沈んだ。
泥の海を渡り切る方法は、残っていない。


ミセ*゚−゚)リ「……うん。キューさん、この沼を抜ける一番近い道は?」
<_プ−゚)フ シューはもうシャーミンと戦ってる 迂回するの時間は無いよ
ミセ*゚−゚)リ「だったら!」

<_プー゚)フ アタシが道を作るよ 実はその為に来たんだ

ミセ*゚−゚)リ「……!」

6760/78:2013/08/28(水) 13:01:19 ID:y780oguI0
<_プ−)フ 十五秒後に 対岸に向けてまっすぐ走って
ミセ*゚−゚)リ「え、何を……?」
<_フ-д)フ


キュートは答えず、代わりに彼女は目を閉じて、詠唱を始めた。

ミセリは驚きに目を見開いた。

神話の世界から連なる、精霊への言葉。
その意を知る者は精霊の他に無く、その音の届く所は精霊の他に無い。

白い幽霊を中心に、"白"の精霊が集い、強烈な冷気を形作る。

キュートの姿が見えず"白"の親和も持たないぽっぽが、苛々とミセリに訊いた。


(*;‘ω‘ *)「なんだ、素直キュートは何をしてるっぽ?」
ミセ*゚−゚)リ「道を作るって――」


言いかけたミセリの背に、長柄の刃が振り下ろされる。
三日月の刃がその背を裂くより先に、ミセリはその気を感じ取り、咄嗟に飛び退いた。

空気を引き裂き、月牙が落ちる。


('、‘*川「楽しそうな事してるのね。悪いけど、それは許してあげられないわ」

6860/78:2013/08/28(水) 13:02:28 ID:y780oguI0
(*;‘ω‘ *)「……行け、ミセリ! こいつはあたしが相手するっぽ」

('、‘*川「勝手に話を進めないでよ」


ぽっぽが"赤"の親和を起動し、ペニサスの懐に飛び込んだ。

長柄の画戟を自在に操る技術、戦局に応じた計算力。
総合的な戦闘能力を比較すると、ペニサスの方がずっと上だ。
しかし、スピードと爆発力だけを比べるならば、ぽっぽの方が高い。

垂直に抉りあげるような蹴りを、ペニサスは緩やかに下がって避ける。
画戟の反攻が襲う前に、ぽっぽは膝を沈めて身体を回転させた。

狙いはペニサスの下手――画戟の柄尻に近い方を握る右手側から、側頭部への後ろ回し蹴り、続けて水面蹴り。
あえて奇襲的な動きを選んでいるにも関わらず、ぽっぽの一撃必殺の猛槌は、読まれているように空を切った。


(*;‘ω‘ *)「くっ……」
('、`*川「ん、若い割には結構がんばるわね」


お返しとばかりに画戟の柄が振るわれ、ぽっぽの横っ腹を打つ。
殴られて地に伏せたぽっぽは、休む間もなく身を転がし、迫り来る三日月の刃を避けた。

6960/78:2013/08/28(水) 13:03:10 ID:y780oguI0
ミセ*;゚д゚)リ「ぽっぽちゃん……!」
(*;‘ω‘ *)「良いから、行け! どのみち"赤"しかないあたしじゃ役に立たないっぽ!」
<_プд゚)フ ミセリちゃん 早く


言いながらも、ぽっぽは鋭く踏み込み、身体を捻って次の蹴りを繰り出した。
ペニサスは涼しい顔で避け続け、時折画戟を振るって牽制を返す。

反撃の暇を許すまいと攻め続けるぽっぽ、ただ淡々とかわし続けるペニサス。
手にした長剣に、じっとりと汗が滲む。術式を構えたキュートが歯噛みするミセリを急かした。


ミセ*;゚−゚)リ「……信じるよ」


親和を起動し、"緑"の精霊を集める。
泥の河は静かに揺れ、獲物を求めるように唸る。

ミセリは川岸を蹴って、流れの中に踏み出した。
ペニサスが驚きに声を上げた。彼女には、ミセリの行動は自殺にしか思えなかった。

しかし――踏み出したミセリの足元の泥は、しっかりと彼女の体重を支えている。

7060/78:2013/08/28(水) 13:04:33 ID:y780oguI0
('、`;川「な――!?」

ミセ*;゚−゚)リ「わ、とと、何これ!?」
<_プー゚)フ へっへ こいつぁジブンの術ですぜ


踏みしめた泥は、まるで石のような感触。
驚くミセリの爪先の下で、硬質な泥は少しずつ沈んでゆく。


ミセ*;゚д゚)リ「うわわ……ッ!」
<_プー)フ ほら 走って 長くはもたないよ


"緑"の親和、それに、ハインの鍛錬で培われたバランス感覚を生かし、二足目を踏み出した。
進む先の泥を氷が固めているのだと、ミセリは走りながら気付いた。

即席で作られた浮島の道は踏み抜くとあっさりと割れて沈み、後には痕跡すら残らない。
慌てて追おうとしたペニサスの足は、そこで止まる。


<_プー゚)フ へっへ 『カロン』のジブンが渡し守なんて ちょっとオシャレだよね

ミセ*;゚д゚)リ「ちょ、ごめん、待って……今、あんまり返事する余裕無い」


振り返ることも、立ち止まることも出来ない。
死の河を渡る細道は、前にしか続いていなかった。

7160/78:2013/08/28(水) 13:12:57 ID:y780oguI0
('、`;*川「ま、待ちなさい!」
(*‘ω‘ *)「残念、行かせないっぽ!」


自らの親和を使い、何とか追い縋ろうとするペニサスを、ぽっぽの踵が襲う。
大斧を思わせる鋭い蹴撃に彼女は咄嗟に腕を合わせ、その軌道を逸らした。

致命的な隙だった。もはや、ミセリは彼女の手出しできる範囲には居ない。
出し抜かれた、苛立ちに歪んだペニサスの顔を、ぽっぽが覗き込む。


(*‘ω‘ *)「もうミセリには届かないけど、今どんな気持ちっぽ?」

('、`#川「……イラついてるわ、そりゃあもう――」
m9(‘ω’ *)「ざまぁああああッ!」
('、`#川「――速やかに貴女を泥の底に沈めて、追いかけます」


軸足を外に捻り、身体を開いた横蹴り。
弧を描くような鋭い一撃をペニサスは画戟の柄で受け止め、横刃で斬り返した。

横薙ぎの剣閃は、手応えを返さない。
ぽっぽは地を這うように身を伏せ、身体を回転させて踵をペニサスに叩きつける。

一撃毎に、一足毎に、ぽっぽの動きは速く、鋭く、重くなっている。
ペニサスは冷静に打ちこまれた踵を捌く。

72以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 13:17:34 ID:6011ZuWoO
支援支援!

7360/78:2013/08/28(水) 13:20:31 ID:y780oguI0
(*`ω` *)「まぁ頑張れ。どの道、残念ながら、シュー様のゴメイレイは失敗だけどな」
('、`#川「……少しは言葉を選んだらどうよ」


足首の骨を粉々に砕くような、容赦のない水面蹴り。
ペニサスは足を浮かせてその鎌をかわし、長柄を顔の横、縦に構える。

狙い澄ました上段蹴りが、ペニサスの構えた画戟に吸い寄せられ、弾き返された。


(*‘ω)「お前を相手にそんな配慮しても無駄だろ?」
('、`*川「へぇ、気付いてたんだ」


素早く距離を置いたぽっぽに、ペニサスは画戟を突き付けた。
スピードに優れるぽっぽが本気で時間稼ぎを狙えば、防御的なペニサスの戦闘では、追い付かない。

速さで翻弄しようとするぽっぽの魂胆を知りつつ、ペニサスには現状を打開する手立てが無いはずだ。
作戦勝ちを確信しつつも、ぽっぽは油断なくステップを刻む。


(*‘ω‘ *)「おかしいとは思っていたんだ。お前の"読み"は鋭すぎるっぽ」

('、`*川「へぇ?」


変則的な攻撃を受ける時と、直情的な攻撃を受ける時。
ペニサスの反応は、前者に対する方がずっと安定している。


(*‘ω‘ *)「お前の親和能力が"読心"だからだっぽ。違うか?」

7460/78:2013/08/28(水) 13:22:50 ID:y780oguI0
('、`*川「……正解。あなたが"今考えている事"は、大体合ってるわ」


ペニサスは諦めたように画戟を下げた。
そのまま数歩、ゆっくりと左へ。

ぽっぽは眉を潜めた。
ペニサスは足を止めず、川下、ジョルジュ達の戦っている方へと、緩やかな足取りで歩く。


(*‘ω‘ *)「それで、どうする? 諦めるか?」

('、`*川「……いいえ、私達のすることは変わらない。速やかにあなた達を倒すわ」

(*‘ω‘ *)「どうやって? 頼みのネーヨはこのままジョルジュに負けるぞ?」

('、‘*川「ネーヨも私も、B級ギルド『エメロン』の冒険者よ? "奥の手"の一つ位は持ってるわ」


ネーヨのドラゴン変身の時点で、十二分に"奥の手"だっぽ。
ぽっぽの思考が伝わったのだろう、ペニサスは声を上げて笑った。

7560/78:2013/08/28(水) 13:24:16 ID:y780oguI0
('ー`*川「そうね……補足してあげる。私の親和能力は、言うなれば心の声――」
(*;‘ω‘ *)「――("受信"するだけじゃなく、"発信"することもできる)――!」


ぽっぽの頭に、ペニサスの言葉が直接流れ込んだ。

たった一言の言葉、だけじゃない。
――"右足を"、"左足を"、"右足を"、"左足を"――"踵に"、"爪先に"、"膝に"、"腰に"――"ネーヨの近くへ"、"ジョルジュの近くへ"――"二人を射程に入れる"
――"命令を守らなくては"、"動かなくする"、"追い掛けて仕留める"、"命令を守らなくては"、"殺してはいけない"、"命令を――"
激しい"声"の奔流に、ぽっぽは思わず耳を押さえて蹲った。


('、`*川「あー……ごめんね、やりすぎちゃった? まぁ、ヒトの声くらいなら、すぐに慣れるわ」
(∩;-ω-)「や、やめてくれっぽ――(そのまま気絶しててよ)――もう止めろ!」

('、`*川「まったく……その程度、私は生まれた時から聞き続けてたのに」


ペニサスは溜息をつきながらも、歩み続ける。

ぽっぽは、一歩も動くことが出来なかった。
"声"は幾重にも折り重なり、積み上がって、ぽっぽを圧迫する。

――"それじゃあ、このまま"声"の範囲にヒトよりもずっと"声"が強い生物が入ったら、どうなると思う?"

その答えは、ペニサスが"そこ"に足を踏み入れた瞬間にぽっぽを襲う。

7660/78:2013/08/28(水) 13:29:56 ID:y780oguI0
(∮₤メд`) コォアアァア…
――引き裂け、叩き潰せ、踏み躙れ、噛み割れ、焼き尽せ。
――骨肉を喰らえ、血潮を飲み干せ。
――殺せ。

(*; ω  *)「――――――――ッ!」


あまりに強大な、苛烈な、剥き出しの本能。
圧倒的な"咆哮"、最強種への恐怖が、ぽっぽを貫いた。
そして、それよりも深く彼女を圧倒したのは。


('、`*川「……」
(*; ω  *)「なんで、こんな……!」


――"憎 い"、"憎 い"、"憎 い"、"憎 い"、"憎 め"、"憎 め"、"憎 い"、"憎 め"、"憎 い"――
――"殺 す"、"殺 す"、"殺 す"、"殺 す"、"殺 せ"、"殺 す"、"殺 せ"、"殺 せ"、"殺 せ"――
  _
(;゚∀゚)o「うおッ、何だこりゃあッ!?」


竜へのどす黒い憎悪で心を満たした、ジョルジュの"呪詛"だ。

7760/78:2013/08/28(水) 13:35:25 ID:y780oguI0
('、`*川「……悪く思わないでね」


動けくなるのも仕方ない、弱い人間ならば廃人と化すか自殺を図るくらいだ。
頭を押さえて蹲るぽっぽに目もくれず、ペニサスはネーヨに駆け寄った。

今まさに剣爪を交えるジョルジュは、頭に直接響いた怒号に驚きこそすれ、隙を作る様子は無い。

とんだ化物も居たものだ、ペニサスは内心で舌を巻く。

ネーヨの"咆哮"を心に直接叩きこまれたら、普通はぽっぽのように立ち向かう心が粉々に砕かれる。
だと言うのに、ジョルジュは平然と立ち向かい、大剣を振るっている。
人獣を問わず持っているはずのドラゴンへの根源的な"畏れ"が、この男には全く残っていないのか。

ペニサスは即座にジョルジュを"ネットワーク"から外した。
意識を逸らせないのであれば、情報が筒抜けになるだけだ。


('、`*川「ネーヨ、プラン『S−P』!」
(∮₤メд`)"

7860/78:2013/08/28(水) 13:36:09 ID:y780oguI0
('、`*川「……悪く思わないでね」


動けくなるのも仕方ない、弱い人間ならば廃人と化すか自殺を図るくらいだ。
頭を押さえて蹲るぽっぽに目もくれず、ペニサスはネーヨに駆け寄った。

今まさに剣爪を交えるジョルジュは、頭に直接響いた怒号に驚きこそすれ、隙を作る様子は無い。

とんだ化物も居たものだ、ペニサスは内心で舌を巻く。

ネーヨの"咆哮"を心に直接叩きこまれたら、普通はぽっぽのように立ち向かう心が粉々に砕かれる。
だと言うのに、ジョルジュは平然と立ち向かい、大剣を振るっている。
人獣を問わず持っているはずのドラゴンへの根源的な"畏れ"が、この男には全く残っていないのか。

ペニサスは即座にジョルジュを"ネットワーク"から外した。
意識を逸らせないのであれば、情報が筒抜けになるだけだ。


('、`*川「ネーヨ、プラン『S−P』!」
(∮₤メд`)"

7960/78:2013/08/28(水) 13:37:31 ID:y780oguI0
(∮₤メд`) ヒュー…ッ

  _
( ゚∀゚)o「あん?」


ジョルジュが打ち払った大剣を、ネーヨは一歩下がって避ける。

牽制の袖払いから、本命の大上段。
ジョルジュの狙いは、返しの一撃。

大ぶりで落とされた一閃は地面すれすれまで空を裂き、返礼とばかりに竜の爪突がジョルジュを襲う。

  _
(;゚∀ )「んぐ」


親和、"白"の精霊を生かして衝撃を軽減。
胸を強かに打つ一撃に、ジョルジュはたたらを踏む。
呼吸が一瞬止まる、が、すぐに剣を構えて次の攻撃を防ぐ姿勢に。

果たして振るわれた裏拳は、ジョルジュの読みを外れ、盾と構えた大剣のすぐ前を通り抜けた。

ネーヨの動きが、変わった。
急なフェイントに虚を突かれたジョルジュに、尾の一振りが叩きこまれる。

8070/78:2013/08/28(水) 13:49:25 ID:y780oguI0
  _
(; ∀)o「ぐぁッ、……!!」


したたかに尾を打ちつけられたジョルジュの身体は、ゴム毬のように弾かれて飛んだ。
格段に動きが狡猾になった相手に驚く間もなく、樹々を真っ赤な閃光が照らした。

灼熱の、火球。

  _
(;゚∀゚)o「う……おぉおッ!」


                ;:"゙':;,         ,;:'"゙:;
               '':;  ',,;..;;:::''''''':::;;..;,,'  ;:''
               . "',:;'' ';:,     ,:;' '';:,'"
           ............:;::;;;';:,;;;;;;・  _ ,_;';;;::;:.............
     ,,,,,,,;;;;;;''''''''"""".:;; ; ';:・(д##ヽ),:;'    ;:.""""'''''''';;;;;;,,,,,,,,
  """""'''';;;;,,,,,............. ・ :;  ∵ と`';:;;ヽ;  ; ;: . .............,,,,,;;;;''''"""""
          """"''''':;'':::::::;;;,;_/⌒ヽ;,ノ・,;:::::'';:'''''""""
               .:; ,:;'.(;:;;:ノ;:;/ .';:, .;:
               .'::,;; ,:;'(;:;;:ノ.';:,  ;,::'.
              :;" ",'';:::::..,,,,,..::::;''," ";:
               ';..,,.;:'        ':;.,,..;'

8170/78:2013/08/28(水) 14:00:31 ID:y780oguI0
竜の体内で巻き起こせる限りの火炎を凝縮した、光の塊。
盾と構えられた大剣に着弾した光球は、熱と閃光を撒き散らし、一気に爆発した。

衝撃。炸裂音。
真っ白に染められた視界を焦げ臭い真っ黒な煙が覆う。


(*;‘ω )「じょ、ジョルジュ……ッ!」


ぽっぽは茫然と、一時的に失われた眼で、ジョルジュの立っていた爆心地を見た。

巻きあがった炎は大渦を為し、天へとかけのぼる。
ぽっぽの網膜には、木々を照らし上げる閃光の残映がくっきりと焼き付いていた。


(∮₤メー`)「ヤッたカーヨ!?」
('、`*川 「……いいえ、まだ"声"はあるわ。流石にダメージは大きいみたいだけど……」


やがて煙が晴れ、閃光に眩んだ目が戻る。

駐屯兵が誇る城塞火砲が直撃したかのような凄まじい抉れ跡、その傷跡の上に。
根元まで溶かされ、圧し折られた大剣。真っ黒に焦げた鎧の断片。

そして。

8270/78:2013/08/28(水) 14:04:56 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀ )o「、……いってぇ」


腕を盾に立つ、狂戦士の姿。
全身を焼かれ、焦げた体から煙を吹き上げながらも、"竜殺し"はなおも己の足で立っていた。


(∮₤;メー`) 「……冗談じャネーヨ」
('、`;川「ッ……! どれだけ化物なの!?」
  _
(##゚∀)o「お前らが言うなよ。俺じゃなきゃ蒸発してる。それより、さっきのはどういうカラクリだ?」


答えずに画戟を構えるペニサスに、ジョルジュは諦めたようにぽっぽを振り返った。

ぽっぽは脱力してその場に尻もちを突く。
先ほど戦棍を交えた竜人が、彼の前に立ちはだかった剣士が。
ラウンジで短い時間を過ごした二人が、自分とまるで次元の違う戦いを見せている。

8370/78:2013/08/28(水) 14:07:38 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「ぽっぽ、お前見てたろ? シラネーヨの動きが化けたの、なんでか分かる?」
(*;‘ω‘ *)「……ペニサスだ! お前の心を読んで、ネーヨと共有してるっぽ!」
  _
(##゚∀)o「さんきゅ、それだけ分かれば充分だ」


ジョルジュは拳を打ち鳴らして、二人に向き直った。
左足の火傷は見た目にも重く、少し引き摺るように歩いているのが分かる。

画戟を持つペニサスの手が、僅かに震えた。


('、`;*川「……カラクリを知っただけで勝てると? 丸腰の貴方が?」
  _
(##゚∀)o「馬鹿言うんじゃねぇよ。俺は初めから、お前ら三人纏めたよりもよっぽど強い」

(∮₤;メд`) 「!!」


一歩、また一歩。
幽鬼の如き足でゆっくりと進むジョルジュ。

ネーヨは慌てて息を吸い込んだ。
もう一度火炎弾を叩きこむために、そして、この戦場の重圧から逃れたいために。

そして――ジョルジュという天敵の前で、その焦りが致命傷となる。

8470/78:2013/08/28(水) 14:12:46 ID:y780oguI0
('、`;*川「待って、ネーヨ! 駄目!」
  _
(##゚∀)o「遅い!」


ペニサスが制止した時に、既に手遅れだった。
ネーヨの口内にある炎晶体――火炎を生み出す器官は、既に灼熱している。
もはや彼自身にも、止める事は出来なかった。
思考を読む力が無くても、今この場限りにおいて、ジョルジュにも少し先の展開は見えている。


(∮₤;メд`)「な」


光弾が放たれる、直前。ジョルジュは焼け焦げた足を引き摺って、大きく一歩を踏み込む。
口腔内で維持しきれなくなった豪火球がネーヨの口を溢れ出し、苦し紛れに飛びだす。
叩きつけられた猛炎弾を掻い潜るように、ジョルジュは大きく斜め前へと飛んだ。

再びの轟音、閃光。熱の爆風。
思わず目を覆ったペニサスは、ネーヨの"恐怖の悲鳴"の、その"声"を聞いた。

8570/78:2013/08/28(水) 14:15:14 ID:y780oguI0
熱の閃光が通り過ぎた後、覆った眼を開いたペニサスの前で、死闘は終わりかけていた。

黒竜の鱗ばった右前肢を、ジョルジュのゴツゴツした左手がしっかりと掴んでいる。
純粋な力比べで、若いとは言え最強の竜種を相手に、身体中を火傷に覆われたまま。
それでも、ジョルジュの腕力は、その相手が逃れることを許さない。


('、`;*川「ネーヨ――ッ!?」


相方の窮地を見たペニサスが慌てて画戟を振りあげた、その手首を鉄木の固まりが殴り抜いた。

"声"の外から投擲された折れた戦棍の片割れ、増幅器付きの先端部分。
"赤"の精霊が生んだ衝撃で画戟は彼女の手を離れ、遠く地面を転がる。


(*‘ω‘)「……お前の相手はあたしだ、って、言ったっぽ」
('、`;*川「くっ、この……」


得物を失ったペニサスには、二人の怪物の戦いに僅かでも介入する力は無い。
痛む腕に構わず画戟を拾い上げようとした時には、既に勝負は決まっていた。

8670/78:2013/08/28(水) 14:16:35 ID:y780oguI0
(∮₤;メд`)「放セーヨ……ッ、放セッ!」
  _
(##゚∀゚)o「お断りだね」


巨竜の胸元に、ジョルジュは右手を伸ばした。
胸筋を覆う、黒く鋭い鱗の隙間に手を掛け、しっかりと掴む。

ペニサスを介して、巨竜はその狙いを知り、抵抗しようと足掻いた。
自由な左前肢が数度、ジョルジュの頬を打つ。しかし、狂戦士は揺るがない。


(∮₤;メд`)「放……ッ!」
  _
(##゚∀゚)o「長いこと、良く頑張ったが……ガキはお寝んねの時間だよ!」


怒号と共に、ジョルジュは両腕に全力を掛けた。
漆黒の竜の巨体を背負い込むように、両足を踏ん張る。
巨体が宙に浮き上がり、受け身すら取れないままに、一直線に地べたに落ちる。


(∮₤メ д )「ガァぁッ!」


強かに頭を打ち付けたネーヨは、完全に脱力し、その場に伸びきった。

8770/78:2013/08/28(水) 14:24:46 ID:y780oguI0
……


(*‘ω‘ *)「……終わった、っぽ?」
  _
(##゚∀゚)o「多分な」

地面に大の字を描いて倒れたネーヨ、ジョルジュはその喉元にしゃがみ込み、手を触れた。

呼吸はしているが、反応は無い。
どうやら、完全に意識を失くしているようだ。
油断なく勝利を確認するジョルジュの背後に、手首を押さえたペニサスが立った。


('、`*川「……まさか、ここまで手も足も出ないなんてね」

  _
(##-∀)o「流石に火球はキツかったよ。あんたは、もう良いのか?」

('、`*川「ええ、降参よ。シューには"ネーヨが負けたら諦めろ"って言われてるから」


脱力した様子で言いながら、彼女は腰のポーチを探った。
警戒するジョルジュに構わず、漆塗りの薬筒を彼に差し出す。

8870/78:2013/08/28(水) 14:33:49 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「本当に?」

o ('、`*川「本当に。ほら、火傷に使いなさい」


彼女の様子は確かに、戦闘中のそれとは違う。
ジョルジュは受け取った薬筒に目を落とした。

蓋を開けると、白い、強烈な腐敗臭を放つ膏薬。
毒とも薬とも取れる悪臭に、思わず顔を背ける。


('、`*川「毒じゃないわ。一応だけど薬術の心得はあるから、効果は保障する。
     何より、そもそも貴方には普通の毒じゃまともに効かないでしょ」
  _
(##;-∀)~o「いやだって、この匂いはなぁ……」

('、`*川「ま、信用ならないと思うとしたら、それも当然ね。気持ちはわかる」


ペニサスはそれだけ言うと、倒れたネーヨに向き直り、懐から別の瓶を取り出した。

8980/78:2013/08/28(水) 14:49:16 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「そりゃ信用するわけ……って、ジョルジュ!?」
  _
(##゚∀゚)d~「うわぁ、これを顔に塗るのは流石に嫌だなー……」


言いながらも、ジョルジュは一掬いの軟膏を指に取って、顔の火傷に塗った。
まだ熱の冷めない傷跡に、ジクジクと薬効が染み込んでゆく、気がする。

臭いを気にしなければ、それなりの効果は有りそうなものだ.
ジョルジュはその場に座り込み、黒焦げになった薄手のズボンの裾をぺりぺりと肌から剥がした。

熱で崩れた左足の組織から、ぽっぽは目を逸らした。

  _
(##゚∀゚)「そう気張るなよ。敵じゃないなら喧嘩腰になるだけ無駄だろ」

(*;-ω-)「はぁ……あたしの感覚の方が普通なんだよな?」
('、`*川 「そうね、自信持っていいと思うわ」

9080/78:2013/08/28(水) 14:53:57 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「それで、この泥沼を渡る方法は無いのか? ミセリ達が心配だっぽ」


ぽっぽは小瓶の口を開けようと苦戦するペニサスに尋ねた。
ミセリが泥河の向こうの森に消えてから、まだそう長くは経っていない。
しかし、非道を極める"魔導師"の死霊が相手とあっては、一刻の猶予すら無いと思った方が良い。

ペニサスは彼女に目を向けると、諦めたように小瓶をジョルジュに差し向け、答える。


('、`*川「方法は……一応、ある」
  _
([#]∀゚)o「?」 ポンッ…


彼女の腫れあがった手首を見て、ジョルジュが代わりに瓶口のコルクを抜いた。

膏薬の腐敗臭を大きく上回る、強烈な刺激臭。
ペニサスはその劇物を壜を仰向けのネーヨの口に差し込み、一気に逆さにした。

とんだ罰ゲームだ。ジョルジュが小さく呻く。

9180/78:2013/08/28(水) 14:56:59 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「その方法ってのは?」

('、`*川「……すぐに荷物を纏めて」
(∮₤;メд`),;/ ・゚ ガハッ


劇物を流し込まれたネーヨが咳き込み、その巨体を大きく痙攣させた。
巨体をのた打ち回らせて苦しむ彼の頬を、ペニサスは容赦なく平手で張る。


('、`*川「ほら、起きなさい。仕事よ」

(*;‘ω‘)「……まさか……!」
('、`*川「正解」


三発、四発目の平手で、痙攣する竜が小さく唸り声を上げた。
頬を押さえた彼は、虚ろな目で身を起こす。

視界の端でジョルジュの目が少年のように輝いたのを、ぽっぽは見逃さなかった。

92以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 15:01:28 ID:y780oguI0
今日の深夜に来ると言ったな? すまん、ありゃ嘘だった。

半端と言えば半端ですが、長いので、ここで区切らせて頂きます。申し訳ない
纏まったご挨拶は後編の後に差し上げますので、よろしくお付き合い下さい

93以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 15:05:29 ID:y780oguI0
あと一応、ジョルジュやハインをしっかり書くのは最初の予定ではハ章と五章でした。
よろしければ気長にお付き合い頂けると幸いです

94以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 20:40:31 ID:1rQBwQ260
ショシルジュつええええ


95以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/29(木) 04:24:45 ID:mkZu2z2oO
乙でした、後編はいつかな

96以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/29(木) 08:00:41 ID:yCR66cUk0
乙です!
ちんぽっぽも強くなってきたな

97以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/30(金) 01:26:21 ID:ESwA5dls0
ネーヨすげええええええええええええええええええええ

98以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/30(金) 21:19:05 ID:ESwA5dls0
次が待ち遠しいぜ

99以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/01(日) 14:56:22 ID:877ikvNA0
先日は御迷惑お掛けして本当に申し訳ない

後編の書き溜めは半分くらい終わってるので、遠くないうちにまた参ります、と報告します

100以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/02(月) 07:11:49 ID:9Hg6DXlI0


101以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/02(月) 21:58:48 ID:7LWJTYpc0


102以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/10(火) 04:42:43 ID:Cf9Ea7DY0
待ってます

103以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/11(水) 01:54:49 ID:xP7cMZao0
おつ
この作品のジョルジュ好きだ
おっぱい言わないけど

104以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 00:57:47 ID:BxExUQ.Y0
回線が……
取り敢えず投下します、がいつまでもつやら

105以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 01:13:48 ID:BxExUQ.Y0
……


泥の大河を越えて対岸に渡り付いたミセリは、肩で息をする

泥上を走っている間は、まるで生きた心地がしなかった。
何しろ、一歩でも踏み外すと、即座に底無しの泥沼だったのだから。

なんとか呼吸を整えたミセリの目の前にキュートが降り立ち、その顔を覗き込む。


<_プー゚)フ ナイスラン 感動したよ

ミセ*;-ー)リ「あー……ありがと」


振り返ると、遠く泥沼の向こう、三つの人影と一つの竜影が見える。
呼吸を整えたミセリは、進む先、樹海の奥の"黒"に目を戻した。


ミセ*;゚ー゚)リ「あの"黒"の真中、だよね」

<_プー゚)フ そ 道案内は要らないみたいッスね

ミセ*;゚ー゚)リ「ん、ありがと」


安心した、そう言い残し、キュートは道を譲る。
彼女の透き通った白い半透明の手がその色を薄めている事に、ミセリは気付いた。

10680/140:2013/09/14(土) 01:15:05 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*゚ー゚)リ「え」
<_プー゚)  ええとですね ジブン 見ての通り大した無理ができない体でして


親和を起動するなんて、そうそう出来ないんですよ。
既に半ばまで消えかけた身体で、キュートは笑った。


_プー   暫く"下"で休んでるから あとはお願いね

ミセ*;゚ー゚)リ「お、おう! またな!」

 _フー    あーい


気の抜けた声を残し、少女の幽霊は姿を消してゆく。

彼女が闇に溶けきった後は、暗い夜色の森で、ミセリは独りだった。
風も、光も、空も、暗き湿林には無い。

ビロード、ぽっぽ。ハイン。ジョルジュ。
ブーンやドクオ、ダイオード、フォックス。ツン、なち。そして、キュート。

肩を並べて戦った誰も、ミセリの側には居ない。

10780/140:2013/09/14(土) 01:15:45 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;-ー)リ


心臓が急激に高鳴る。
汗が噴き出て止まない。
ミセリは、己の心を締め付ける"それ"の正体に思い当たった。

これは、"恐怖"だ。

そして、それが"恐怖"だと分かった時、ミセリは躊躇わず、樹海の奥に駆け出していた。
今、一人で戦っているのは。今、一人で"恐怖"に挑んでいるのは、自分じゃない。


ミセ*;゚ー゚)リ「……根性ッ!」


友の元へ、仇の元へ。
……ミセリがその凄惨な死闘の場に辿りつくまで、そう時間は掛らなかった。

死闘の場。より正しくは――

10880/140:2013/09/14(土) 01:16:31 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*゚−)リ「シャーミン、松中……」

,(,,・)・)",「あん? またお客様だすナリか?」


ミセリは"黒"の中心に辿りついた。

斜めに傾いだ首の上の鍔広の帽子を猟銃に掛けた親指で押し上げ、血塗れの男が振り返る。
地面には三つの死体。いずれも内側から引き裂かれたように、無残に腐った傷口を大きく晒している
そして、唯一その場に立つ男、彼がくるくると指し向ける猟銃の先に。



lw´ _ ノv


――そう、より正しくは、凄惨な死闘が終わった痕に辿りつくまでに、だ。

頭部を布袋で包まれ、大樹に十字磔された呪式士を、ミセリは茫然と見上げた。
ローブを赤黒く染めたその姿はまるで、標本に縫いとめられた黒い蝶のようで。


ミセ*;゚д)リ


左胸の黒い痣が熱く鼓動を打った。
喉の奥で潰れた声が悲鳴を上げる。

10980/140:2013/09/14(土) 01:17:51 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚д゚)リ「――な、」

,(,,・) ),  y[≡]======== 「すまないだす、今ちょっと盛り上がってるなり。要件は後で聞くなりだす」
 ,∀ /ミシ            「それともてめーもオレに混じるか、え?」


言いながら、シャーミンは猟銃の引き金を引いた。

止める暇すら無かった。
火薬が爆ぜる不快な音と臭い。銃弾は真っ直ぐに飛び、張り付けられた蝶の左腕を撃ち抜く。

真っ赤な血が流れ、黒いローブを斑に染める。


lw;´ _ ノv「――ッ!」
ミセ*;゚д)リ「や、やめろ、撃つな! そのヒトを撃つな!」


そのヒト。
自分の口を突いた言葉に、ミセリは自分で驚いた。

素直シュール、シューさん、シュー姐さん。
頭の中に有る言葉が、堰止められたように、胸で止まって固まった。

激しい痛みに、磔にされたシューは声も無く震える。
シャーミンは混乱するミセリに目を戻すと、口の端を持ち上げて見せた。

11080/140:2013/09/14(土) 01:18:44 ID:BxExUQ.Y0
,(,,・) ・),  y[≡]======== 「……まぁ、お客人が言うなら考えてもいいだすが……」
 ,∀   /ミシ           「どの道"赤"を使えない俺じゃ大した威力は出ねーしなあ」


銃。旧世界の遺した兵装技術。

その希少さを裏付けるのは、その生産に必要な技術の『高度』さ。
その希少さを裏付けるのは、その使用に必要な火薬の『貴重』さ。

ラウンジに優れるこの"高貴"なる兵装が、長く続くヨツマとの"度重"なる抗争の目的であり、手段だった。

ミセリは長剣を握り、親和を起動した。

銃は"赤"の精霊の加護があって初めてその威力を発揮する。
もし相手にクーやなち程の親和があれば、シューを跡形も無く消すこともできたはずだ。

――警戒が僅かでもこちらに逸れた隙に、踏みこんで銃身を切り飛ばす。


ミセ*゚−゚)リ「それ以上そのヒトを狙うなら、容赦なく叩き斬る……!」

11180/140:2013/09/14(土) 01:20:08 ID:BxExUQ.Y0
,(;,,-)-),「それは怖いナリだすね、ちょっと考えさせてほしいだす」
 ,∀ 「それじゃあ、ここで俺が銃を捨てれば見逃してくれるか?」


銃口を動かさないまま、シャーミンは目をあちこちに這わせる。。

視覚、それに、聴覚も奪われているのだろう、痛々しい姿のシューは、
二人の会話に何の反応も示さず、ただその身を強張らせていた。

……ミセリは怒りを必死で呑み込み、彼の申し出に、躊躇いながらも頷く。

シャーミンはそれを確認し、ゆっくりと磔の蝶に目を向けた。


,(,,・) ・),「……じゃあ、考えた結果だすが」


そして、ミセリの甘さを嘲うように、彼は笑った。


 ,∀「やだプー」


不格好な長槍は、その円筒形の穂先を呪式士を向けたまま、短く火を噴いた。
磔の蝶の、その左足に深紅の華が咲く。

11280/140:2013/09/14(土) 01:21:01 ID:BxExUQ.Y0
lw;´ _ ノv「ッ!」

ミセ#゚д゚)リ「お……お前、お前は――!」

,(・)(・),「あひゃ、怒った? 怒っちゃったなりだすか!?」
 ,∀  「はははあははあはあッ! おら掛って来いよチビガキ!」


シャーミンは弾切れの銃を投げ捨て、腰のナイフを抜いた。
一直線に飛び掛かったミセリがその長剣を振り下ろすと同時に、彼の腐りかけた足が動く。

長剣は空を切り、地面を断ち割った。


,(・)(・),「ぶぁぁぁか、まともに受けるワケねぇだろ?」


ナイフを抜いた迎撃の姿勢は、それ自体が罠。
失策だった、頭が理解すると同時に、素早く体制を立て直しつつ敵影を目で追う。

よろよろと凭れ掛かるように、彼が行き付いた先は。


ミセ*;゚−゚)リ「!」

,(・)(・),「動くなよ。人質ゲェムの再開ナリだす」
lw;´ _ ノv「ッ……ッ……!」

11380/140:2013/09/14(土) 01:22:01 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「んの卑怯者ッ……離れろ!」

,(・)(・),「卑怯って、別に正々堂々戦うなんて言った覚えはないだすが……」
 ,∀  「離れるのはてめーだ。まぁ、この女を見殺しに出来るなら近寄って来ても良いが」


ナイフの先端を首筋に押しつけられ、その冷たい感触にシューは身体をビクッと震わせる。

視力も声も、恐らく聴覚も奪われたシューには、その肌に触れる恐怖だけが感覚の全てだ。
彼女の胸元の増幅器は光を発しておらず、抵抗する力も、その意思も無い事を示していた。


,(・)(・),「ほら、下がるだす。おいどんは先端恐怖症だから、長剣とか怖くて仕方ないナリよ」
 ,∀  「でないと、この女がどうなっちゃうかも分からないなぁー……!」

ミセ*;゚−)リ「……私が下がったら、お前もナイフを下げて、そのヒトから離れろよ」

,(,,~),~),「あ〜あ、良いだす。あい分かった、約束するだす」
 ,∀  「"魔導師"シャーミン松中の名に誓って、そうする」


ミセリは、一歩、また一歩、静かに下がった。
酷薄さ、狡猾さ、不快さ、どれをとっても、目の前の魔導師を上回る者など見たことがなかった。

11480/140:2013/09/14(土) 01:23:36 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「……これで、満足? だったらナイフを下げて」

,(・)(・),「よぉーし良い子だ、きっと長生きするだすね。もう五年もしたら食い頃の良い女なりよ」
 ,∀  「ちょうどこのアマみてーにな」
lw;´ _ ノv「!」


ナイフを下す、どころでは無い。
シャーミンはむしろ、刃先のフック部分をシューの顎に押し当て、のけ反らせた。

自由な方の手が、シューの形の良い胸を鷲掴みに掴み、乱暴に揉みしだく。
驚きと恐怖に強張る彼女の身体を、シャーミンは楽しむように弄り続けた。

長剣を握る手が、抑えきれぬ怒りに震えた。


ミセ#゚−)リ「ふざけるなよ、"誓い"とやらはどこに消えた!?」

11580/140:2013/09/14(土) 01:24:26 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・),「まぁ、落ち着くなり。おいどんが満足したら、すぐにその"誓い"とやらに従うだす」
 ,∀  「指くわえて見てろよ。参加したくなったら何時でも言ってきな、ケヒヒ」

ミセ#゚д)リ「今すぐだ! 今すぐその汚い手をどけろ! それ以上そのヒトに触れるな!」


ミセリの怒号に、シャーミンは肩をすくめた。
奇妙に捻じれた首を縦に戻しながら、下卑た笑いをその顔に張り付かせる。

その目はミセリを通り越し、樹々の合間に投げかけられていた。


,(・(・,,),「……お嬢ちゃん、この森が『呪い』に沈んだ経緯は知ってるだすか?」

ミセ#゚−)リ「……?」

11680/140:2013/09/14(土) 01:25:08 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・), 「『呪い』って、何だと思うだす? 草木が病に歪んで、瘴気が満ちて、死霊が這いまわる――」
 ,∀  「――俺達みたいな半端な死体どもにとっての楽園は、いったいナニから作られると思う?」
lw;´ _ ノv「ッ! ……ッ!」

ミセ#゚−゚)リ「何が言いたいの?」


シューの身体を這う手はやがて、彼女の服の首元を引き下げ、その奥へと侵入しはじめる。

一歩、ミセリはシャーミンに詰め寄る。
たった一歩、それ以上はならなかった。
シューの首元のナイフが己の存在を誇示するように煌めき、ミセリは奥歯を噛み締めて歩みを止める。


,(・)(・),「……おいどんの研究は、不死の追及だす。生命を精霊に置き換えて、魂を取り出す実験」
 ,∀  「ラウンジの先代、バジリオの元、俺は日夜を費やし研究を重ねた。成果はすぐに上がった」

ミセ#゚−゚)リ「だから何? 悪いけど、自慢話なら木にでも向かってやってくれない?」

,(・)(・),「まぁ聞くだす。研究の過程でおいどんが生み出した副産物は幾つもあるだすなり」
 ,∀  「『魂転移』を初め、『屍兵』、『人造森人』、『魂魄喰らい』、そして……『呪砲』!」

11780/140:2013/09/14(土) 01:27:01 ID:BxExUQ.Y0
ミセ#゚−゚)リ「『呪砲』……?」

,( 。 )( 。 ),「そう、『呪砲』! 精霊と生命の融合を強制的に起こす、至高の大砲ナリ!」
     「たった数人の火種で、ヨツマの精鋭部隊数千をこの呪いの森に沈めた、決戦兵器ナリだす!」


狂ったように高らかに叫ぶシャーミンに、ミセリは思わず息を飲んだ。
焦点の合わない虚ろな両目は樹海を彷徨い、その声はまるで獣じみた咆哮。

口角に真っ赤な血の泡を飛ばしながら、興奮した魔人は叫び続ける。


ミセ*;゚−゚)リ「……"数人の"火種? 数千の精鋭を、呪いに沈めた?」

,( ゚)(。),「あひゃは、知らなかった? 知らなかっただすか! んじゃあ教えてやるだす!」
 ,∀   「――数十年前、ラウンジとヨツマの大戦はほぼ決着していた。忌々しい、ヨツマの勝利にな」

ミセ*;゚−゚)リ「……?」

 ,∀「クソ天使サマとやらの加護を受けたヨツマの騎士に、ラウンジの兵団は手も足も出なかったのさ。
   ダットの支流に掛けられた要塞群は悉く突破され、ここ朱琴平原に至った。その数、実に数千!
   ラウンジを滅ぼすに足るその数千の兵団を、一瞬で滅ぼし返したのが俺様の『呪砲』さ!

11880/140:2013/09/14(土) 01:30:11 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・),「『呪砲』の仕組みは至って単純だす。『呪』の毒を着弾点に撒き散らし、感染させる」


ミセ*;゚−゚)リ


実に、単純だろう。
それじゃあ――その『呪毒』を浴びた人間は、どうなると思う?

シャーミンは、ナイフの先端のフック部分をシューの服に掛け、一気に引き裂いた。


ミセ*;゚д゚)リ「――」
lw;´ _ ノv

,(。,,)" ゚),
 ,∀  「"こう"なってゆくのさ!」


冷たい外気に地肌を晒され、シューは身体を震わせる。
大きく晒された豊かな白磁の胸、その肌の一部が、どろどろに溶けた昆虫のように変色していた。

11980/140:2013/09/14(土) 01:31:40 ID:BxExUQ.Y0
,(^)・・(^),「あひゃはひゃはひゃは! 如何なりだすか、おいどんの芸術は!?」
  ,∀   「最ッ高の見世物だろう! 病み付きになるねぇ!」

ミセ* д)リ「……なんで、こんな……」

,(,,・)・),「あー、っとぉ……勘違いしないで欲しいナリだすが、これはおいどんが生きる為でもあるだす」


魔人はゆっくりとナイフを動かし、シューのスカートを引き裂いてゆく。

扇情的な即席のスリット、その下には闇に映える雪色の肌。
ほっそりとした左の太股の真中に、真っ赤な銃痕が血を吐き出している。

残忍な笑みを浮かべたシャーミンは、傷口に指を這わせ、優しく撫でた。

シューが声もなく悲鳴を上げる。
痛々しい傷の周りの白い肌は、魔導師の指が触れた所から、『呪』に侵された部分と同じく腐っていった。


ミセ*;゚−゚)リ「! やめろ!」

12080/140:2013/09/14(土) 01:33:59 ID:BxExUQ.Y0
,(,,-)-),「っあぁぁあ、この絶望に浸された女の肌……癒されるなりだす」
 ,∀ 「こうして心痛む拷問を続けるのも、要はこの女を『呪』に変えるのが目的なのよ」

ミセ*;゚−゚)リ「……その手を、どけろ」

 ,∀ 「この"布晒"ってのは、目と耳鼻を封じて触覚を増大させる拷問法なんだが……。
   この女は随分と"黒"が強いらしい。かなり抵抗していやがる」


"黒"が強いって事は、それだけ強い『呪』に化ける可能性があるって事だ。
数百年に一人いるかどうかの逸材を、みすみす捨てる手は無い。
口の端を吊り上げるシャーミンに、ミセリは姿勢を低く構えた。


ミセ* −)リ「そう。それが分かれば、充分だよ」

,(・)(・),「……? 何をする気だすか? こっちには人質が居るなりだす」
 ∀"; 「おい、それ以上動いたらこの女を――」

ミセ*゚−)リ「これ以上動いたら、何をするって?」


シャーミンの脅しに構わず、ミセリは平然と歩み寄った。

――縞。
魔人の淀んだ視神経の奥で、ミセリの影は薄く焼けつく。
一瞬の後には彼の腕は樹海の闇に解けるように消滅し、ナイフが地面に落ちた。

12180/140:2013/09/14(土) 01:35:59 ID:BxExUQ.Y0
,(;・)(),「んぐぉあがッ、い、あ」

ミセ*゚−)リ「間抜け。簡単に殺すつもりが無いなら、人質にはならないじゃん」


地面を転げ回る魔導師を横目に、ミセリはシューの顔を覆う布を引き裂いた。
彼女の知覚を妨げる"黒"の精霊が、敗れた布の隙間から漏れ出る。

その顔にはまるで精気が無かったが、しっかりと呼吸している。
ミセリは安堵の息を吐いた。


lw;/_ -ノv「……うッ……?」

ミセ*゚−)リ「大丈夫、今この杭も――ッ!」
 ∀,「勝手な事してるんじゃねーよ、クソ」


気の杭に手を掛けたミセリの喉元に、透明な何かが巻き付いた。
不可思議な攻撃に驚く間もなく、一気に締め付けられる。

12280/140:2013/09/14(土) 01:37:05 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*; д)リ、「か、は……何が……?」

,(;;〜) ;~)。「痛いなり、痛いなりだすぁぁ……!」


"何か"に触れようとしても感触が無く、それでもギリギリと首は締まってゆく。
足元のシャーミンは左手を押さえて蹲り、小さく呻いている。

ミセリは"緑"の精霊を込めた足を、背中を丸めた振りあげた。


ミセ*; д)リ、「なにを、したッ!?」
,(#) )。)「ギャあっ?!」


蹴り飛ばされたシャーミンは、血を噴きだしながらゴロゴロと転がる。
それでも、喉に纏わりついた不可視の感触はますます強まるばかりだった

空気が足りず、頭がぼーっとする。ミセリはその場に膝をついた。


ミセ*; д)リ「……ぁ……」

lw;´ _ -ノv「ッ、親和…… "黒"を通して見ろ……!」

12380/140:2013/09/14(土) 01:37:58 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*; д)リ「!」

絞り出すようなシューの声に反応して、ミセリは"黒"の親和を起動した。
精霊に応じ、瞳の輝きが黒に染まる。

その目に映ったのは、半ばで千切れた不透明な左腕だった。
べったりとした血糊も爛れた皮膚も、斬り落としたシャーミンの腕と同じだ。

ただ、実体だけが無かった。


ミセ*; д)リ「な、に、これ……!」

lw;/ _ ノv「精霊を集めて……そしたら、触れる……ッ!」

ミセ*;-д)リ「〜〜!」


冷たく、ぶよぶよした腕。
渾身の力を、精霊を込めた右手で、ミセリはその腕を振り払った。


ミセ*;゚д゚)リ「っは、アブな……今、助けるから……」
lw;´ _ ノv「ダメだ! それより早く、逃げ――!」

  ∀' 「――逃がさねぇよ」

12480/140:2013/09/14(土) 01:38:45 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−゚)リ「!」
,(。,,(゚”),「うびゃあああああッ!?」


シャーミンの身体が、ばね仕掛けのように跳ねあがる。

避けられない。すぐ後ろには、磔のままのシューが居る。
ミセリは長剣を斜めに振るい、襲いかかる影を斬り下ろす。

肉と骨が斬れる、鈍く不快な手応え。
身体の半ばまで長剣をめり込ませたまま、シャーミンは尚もミセリに、身体をぶつけた。


ミセ*;゚д゚)リ「え、ちょ……ッ!」

,(。,,(゚”),「あびょみょびょっびょみょッ」
“∀” 「死ね」

ミセ*; д)リ"「ッ!」


ミセリは咄嗟に、左腕を咄嗟に身体の間に挟んだ。
痛覚を通していない腕に、深い違和感。

12580/140:2013/09/14(土) 01:40:32 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「ぐ……離れろ!」

,( ,,( ”),「びゃぶるら!」


緑の親和を駆使し、鼻面を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたシャーミンは、どす黒い血を撒き散らしながら数歩下がった。

ミセリは彼の異様な風体に、吐き気を抑えられなかった。
首は完全に圧し折れて引っくり返り、片腕を失い、それでもなお平然とナイフを持ち上げてみせる。

その姿は、まさに亡者の王と呼ぶに相応しい。


  A,  「……あー……準備、完了だ」
'( ゚)(。)'「く、首ぃ!? おいどんの首がぁあ!?」

ミセ*゚−)リ「……準備?」


腕に突き立てられたナイフを引き抜こうとしたミセリは、自らの身体の異常に気付いた。
痛覚を遮断した型の先、その下腕は、数百もの蟲が溶け合ったように――

ミセ*;゚д゚)リ「! これは……!」

  A,  「ひゃははっはあはあああはッ! 勇敢なお嬢ちゃんにも『呪』のプレゼントってなぁ」
'(;;;゚)(。;;;)' 「痛い、痛い痛い、痛いよぉぉおぉ!?」

12680/140:2013/09/14(土) 01:41:51 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−゚)リ「……くっ……!」


禍々しい紫の腐敗にどっぷりと侵された左腕から、強引にナイフを引き抜く。


左腕の傷口を中心に、『呪』はじくじくと広がっている。
親和をもってしても、その進行を止める事はままならない。

シャーミンは首を無理やり回転させて元に戻し、焦るミセリを嘲うように奇妙に捩れた声で笑った。


,(・)(・), 「ヒィーッ……残念なりだすが、それはもう治らないだす」
  ∀'  「『呪』が"心"に達したら、おめーもおしまいだよ」

ミセ*;゚−)リ「……そうなる前に、お前を倒すだけだ」


意識を剣に、視線を敵に。
額に汗を浮かべたミセリに、魔人は鼻で息を噴いた。

127100/140:2013/09/14(土) 01:44:57 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・), 「おいどんを斬ったとしても、その『呪』は二度と消えないぞ?」

ミセ*;゚−)リ"「!」

  ∀'  「事実だ。残念ながら、完全な解『呪』の方法は見つかってねえ」


呪式士の身体は既に半ばまでを黒い斑渕に浸され、呼吸は荒く掠れている。

誰の目にも、彼女に一刻の猶予すらない事は確実だった。
そして、もうしばらく放っておけば、間違いなくミセリ自身も同じ道を辿る。

口角を狡猾な笑みに釣り上げ、シャーミンは恍惚の表情で捩れた両手を広げた。


,(・)(・),「ま、そんなに嫌なら――ひとつ取引の提案があるナリだすが?」

ミセ*;゚−゚)リ「……断る、決まっているだろう!」


鋭く踏み込み、長剣を袈裟に振り下ろす。
シャーミンは、その一閃の前に身動き一つ取らなかった。

128100/140:2013/09/14(土) 01:45:59 ID:BxExUQ.Y0
――めり。

肩口から入った剣は、心臓の有るべき場所を引き裂き、崩れた背骨を抜けて身体を両断する。
シャーミンはそれすら想定内と言うように、己の腰を右手で掴み、バランスを取った。

真っ二つの身体を一つに保つ彼の姿はまるで、奇妙に捻じくれた腐肉の接ぎ樹。
吐き気のするような歪んだ芸術に、ミセリは無我夢中で剣を振り下ろす。

血飛沫は、上がらない。
解体される調理場の生肉のように、シャーミンの身体は細切れになってゆく

右腕を、両太股を、腰を、首を。
斬り刻まれたシャーミンはべちゃべちゃと崩れ落ち、潰れて飛び出した目玉が虚ろにミセリを見上げる。


,(−)(−),「そりゃあ断りたいナリだすね。だとしてするからに、お前が生き残る道が他にあるなりか?」
  ∀'  「死にたくなきゃ従え。いいか、俺は別に、おめーの生死には興味なんてねーんだ」

ミセ*; −)リ「……」


沈黙を承服とでも捉えたのだろう。
シャーミンは折れ曲がった右腕で首を支えたまま、不敵な顔で続ける。

129100/140:2013/09/14(土) 01:47:18 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・),「『呪』の強さは、種にした人間の"黒"の親和と、抱える絶望の深さで決まるだす」
  ∀'  「この呪式士の親和は逸材だ。生前の俺にも匹敵する。あとは絶望を深めるだけだ」


だから、
地面に転がった魔導師の顔がその先を言う前に、ミセリはそれの頭を思い切り蹴り飛ばした。
歪にひしゃげたボールは勢いよく飛び、遠くの樹に激突して汚らしく爆ぜる。

彼が何を要求しようとしているか、はっきりと分かった。

背後で別の猟師の死体がうぞうぞと蠢き、身を起こす。
何事も無かったかのように失った肉体を'挿げ替え'る魔導師に、ミセリは怒りのままに剣を向け直した。


ミセ#゚−)リ「ふざけるな、そんな取引……!」

,*(‐)(‐),「っあ゙ぁぁー、この蘇る瞬間が心地よいナリだす……」
  ∀'  「良いから、まずは話だけでも聞けよ」


絶望とは、希望が無いという事ではない。
絶望とは、希望が絶たれるという事だ。

嘲るような魔人の言葉に、剣を持つ手が震えた。


  ∀' 「おめーの持ってるその剣で、希望とやらを絶て。その女をナマス斬りにしろ」

130100/140:2013/09/14(土) 01:49:12 ID:BxExUQ.Y0
感情のままに、ミセリはシャーミンに斬りかかった。
誰かを殺したいと心から思ったのは、十六年の人生の中で、初めてだった。

鋭い剣閃は、今度は相手を斬り裂かなかった。

シャーミンの身体は見えない糸に操られるように飛び退き、ミセリの間合いから一気に離れる。
精霊を纏わりつかせた屍は、新しい身体を確認するかのようにごきごきと骨を鳴らす。


,(〜)(〜),「おぉおぉ怖い怖い、斬られるのは結構痛いなりだすよ」
  ∀'  「それならそれで良いがな。代わりにおめーの公開処刑レイプでショーに華を添えるだけだ」

ミセ#゚−゚)リ「……もういい、消す」

,(・)(・),「はは、どうでもいいだすが、あんまり熱くならないほうが良いと思うだすよ?」

ミセ#゚−゚)リ「何を――!」


腕に走った違和感に、言い掛けた言葉を飲み込む。
シャーミンが指したミセリの左腕で、『呪』は、もう肘に達していた。

進行が速まっている。ミセリは眉根を寄せた。


,(・)(・),「不思議そうだすね。……さっきも触れたけど、『呪』化の進行は絶望が深いほどイイだす」
  ∀'  「ということは、だ。メスガキ、おめー、本当はもう心のどっかで諦めてるんじゃねぇのか?」

131100/140:2013/09/14(土) 01:49:56 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「何を……」

,(・)(・),「そりゃあ当然ナリだす。いくら斬っても死なない相手に、自分は不治の毒」
  ∀'  「たった今見かけただけの女ひとりの為に、お前が身を投げ出す事は無いと思うぞ?」

lw;´- _ ノv「……奴の言う通りだ、'名も知らぬ'剣士のお嬢さん」

ミセ*゚−)リ「!」


シューの掠れた言葉に、身体が強張る。
半ばまでを『呪』に侵し尽くされたまま、絞り出すように彼女は続けた。


lw;´- _ ノv「私はどの道、助からない。キミだけでも、生きるんだ」

ミセ* −)リ「……」

,(・)(・),「ほぉ、美しい自己犠牲なりだすね。泣っかせるぅー!」

lw;´- _ ノv「約束は……守れよ」

,(・)(・),「分かってるナリ。おいどんは契約を決して破らないだす」
  ∀'  「どうでも良いからサッサとやれよ。ほら」

ミセ* −)リ「……分かったよ」

132100/140:2013/09/14(土) 01:53:20 ID:BxExUQ.Y0
長剣、その切先は磔のシューへ。

――一閃。


ミセ*゚−)リ


斬り裂いたのは、シューの腕の。杭に縫いつけられたローブの、その両袖。
解放されたシューは立ち上がる力も無く、その場に崩れ落ちる。


ミセ#゚−)リ「ようやく分かったよ、呪式士。あなたの狙いが……!」

lw;´- _ ノv「何を言って……」
ミセ#゚−)リ「うるさい! 人の記憶を簡単に弄んで……!」

,(〜)(〜),「あ〜、期待通りなりだすね〜。都合が良い。纏めて『呪』にしてやるだす」
  ∀'  「……記憶? 何を言っているんだ、おめーら?」


"黒"の親和を通したミセリの目に、数本の、不可視の'影'が映る。
ボロボロの左腕を酷使し、ミセリはシューを抱えて飛び退いた。

シャーミンの足元から伸びたその'影'は二人を追うように自在に形を変え、迫る。

133100/140:2013/09/14(土) 01:54:24 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「っと、これは何?」
lw;´- _ ノv「"黒"の、精霊……! 捕まるな、『呪』に……引き込まれる!」


幸いにも、'影'の動きはそう速くない。
シューを背中に庇いつつ、ミセリはその触手の先端に剣を振るった。

精霊を纏った剣は不透明に濁った影を斬り裂き、斬られた先は樹海の空気に消えてゆく。
一本一本の動きは遅く、さしたる脅威ではないものの、その数は次第に増していて、厄介きわまりない。

ミセリは再び一度シューを担ぎ、さらに後方へと引き下がった。


ミセ*゚−)リ「……それで、あいつは何をしたら倒せるの」

lw;´- _ ノv「……術式核、身体の中心あたりに有る。
      それと、感情的になるな。奴は、キミの憎悪をそのまま『呪』に変える」

ミセ*゚−)リ「……了解。あとは私がやるから、また人質にならないように気を付けてろ」


影はどうやら、そう遠くまで伸ばせないらしい。
どす黒い渦を挟んで、剣士と魔人が向かいあう。

静寂が樹海に落ちる。
ミセリは静かに親和を起動した。

その瞳は"緑"、春に芽吹く若草の色。

134100/140:2013/09/14(土) 01:55:30 ID:BxExUQ.Y0
ミセ* −)))リ「――」


"黒"に費やしていた容量を、全て"緑"へ。
ミセリの視界から、蠢く'影'が姿を消す。

緑に染まった瞳でシャーミンを見据え、ミセリは真っ直ぐに歩み寄る。

獲物を狙う豹のように、静かにしなやかに。
それは例えるなら、矢風吹き荒ぶ戦場で目を瞑って歩くに等しい行為。

狩られるべきシャーミンは、驚きつつも、己の手に不可視の'影'を集めた。


,(・)(・),「おいおい、自殺でもするナリだすか?」


'影'が為すは、触れた生者を『呪』と変える死の槍。
眼前に迫るそれは、"黒"を切ったミセリの目には映らない。

――殺った。
魔人が確信したその瞬間、剣士はその身を真横に振った。
シャーミンが突き出した'影'はそのすぐ脇を走り抜ける。


ミセ* −)リ ヒュ…

135100/140:2013/09/14(土) 01:56:07 ID:BxExUQ.Y0
lw;´ _ ノv「!」
,(・)(・),「うん……!?」


最小の、最短の。洗練された獣の動き。
虚を突かれたシャーミンは、唖然とする。

咄嗟に引き戻した'影'の触手を、精霊を纏った長剣が両断した。

引き裂かれた'影'は"黒"の精霊に帰し、樹海に四散してゆく。


,(・(・;;),「んぐおッ……!」


核を、守らなければ。意思が形を為し、『呪』の鎧を纏う。
魔人の胴体から噴出した新たな'影'を、剣士は深追いせずに避けた。

"黒"の精霊は樹海に満ちた『呪』からほぼ無尽蔵に得られるとはいえ、
再生の暇も無く攻め立てられては、流石に分が悪い。

焦るシャーミンに、再び長剣が迫る。

136100/140:2013/09/14(土) 01:57:24 ID:BxExUQ.Y0
,(・(・;;),「勘……だと、野獣め……!」

ミセ*゚−゚)リ「失礼な、レディーに対して――」


振り据える触手を、ミセリはやはり紙一重で避ける。
その身体を突き動かすものは、それこそ、勘としか表現しえない。

霧を風が引き裂くように、闇を光が引き裂くように。

本領に帰したミセリの猛攻に、シャーミンは押されてゆく。

そして。


,( )( ),「ンぎばッ!?」

ミセ*゚−゚)リ「――滅多な事を言わないでよね」


'影'を繰る両腕を、今度はその軸であった"黒"の精霊もろとも、鋭い剣閃が断ち落とした。

137100/140:2013/09/14(土) 01:58:26 ID:BxExUQ.Y0
シャーミン松中という魔人の存在は、実のところ、その『核』のみにすべての機能を預けている。

『核』は、高度で狂気的な術式印。
流し込まれた"黒"の精霊を呼び風に、かつて滅びた彼という存在を再構築する術式。

ゆえに、彼の根源は"黒"の精霊であり、ゆえに彼は"黒"の精霊そのものである。

『核』に与えられた術式は精霊をして『呪』を為さしめ、彼の親和は『呪』をして精霊を為す。
触れた者を『呪』と変える『呪』の性質ゆえに、自身を『呪』に構築する彼は、核と贄ある限りは不死である。

オサムの遺書に記された"魔導師"シャーミン松中の、これがその正体だった。

……そして、その性質ゆえ、こうして精霊もろとも核から斬り落とされた肉体は、再生にやや時間がかかる。


,( ;;)( ;;),「あが、おいどんの、腕……」
  ∀'  「こんな、クソがぁッ!」


失った腕を取り戻すまでの隙は、この局面において致命的だ。
返す刃は胴を深く引き裂き、裂かれた腹からは行き場を失った"黒"の精霊が溢れだす。

剥き出しになった精霊回路――核は、小さな色ガラスの玉だった。


ミセ* −)リ「――!」


剣に僅かな迷いが生じた。
その一瞬に、傷口から漏れ出た精霊は『呪』の'影'を為し、ミセリは慌てて距離を取る。

138100/140:2013/09/14(土) 01:59:12 ID:BxExUQ.Y0
,( ;;)( ;;),「貴様、如きニ……」

ミセ*゚−)リ「……」


シャーミンの肉体は、溢れだす精霊に押されるようにして、グズグズに溶けてゆく。

……彼は『核』。彼は『呪』。彼は『精霊』。
それゆえに、彼がやがてこうなってゆくのは必然だった。

精霊が、呪が、渦巻くようにその核を覆い、膨れ上がる。

繋ぎとめるべき身体を捨て、膨れ上がった黒い靄。それが彼の――

;;::;;:;    ヾツ/
;:;       lミ;;|
,   ,(:::::::;;;;)(::::::::;;;;), 
:・:'``:``…―,、..,,.,;´.~/;;;(  「――俺の、真の姿を見せる事になるとはなァァアアァ……」
:::。::‘`l;;:::::;;;;;;;;;・`/;;;;;;;;;;;
・.;:::::;;;;::`-、:::;;;;;メ.,;;;;;;;;;;_,,、
, `;;・.,;::::::::::`'\=~;;;;;;;;;;;ヾツ/
w     |シp}  ,   ミツ/
V     ミン/     ノツ/
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139100/140:2013/09/14(土) 02:00:59 ID:BxExUQ.Y0
産声を上げる異形に、ミセリは身体の芯を震わせる寒気を感じた。

その新たな身体を為すのは、もはや親和無しでもはっきりと視認できる程の、濃密な『呪』。
全身から瘴気を噴きだしながら、数十もの捩れ青褪めた手足を突き出し、それは巨体を持ち上げた。


,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;), 「ふしゅううううううう……」

ミセ*;゚−)リ「……何それ、流石に聞いてないッスけど」


高さだけで自身の二倍を容易く超える、凶悪な芋虫。
その身体に粗雑に開けられた幾十の瞳が、やたら滅法に突き出された白い手足が、一斉にミセリを見る。


,(:;:::゚:>;;;)(:::・::゚。:;;;),「そりゃアそうだす。この姿を見て生き残った奴なんぞ居ないだすからね」

ミセ*;゚−)リ「ッ!」

,(:;:。:=;;)(l・::。;:;;;),「人間の、生物の脆い身体を捨てたおいどんに、敵うものなどはどこにも居ないィ!」


身体をくねらせ、奇妙な芋虫はミセリへと突進した。

140100/140:2013/09/14(土) 02:03:29 ID:BxExUQ.Y0
外見に惑わされるな、努めて冷静に剣を振るえ。
ミセリは己を奮い立たせた。

鈍重な巨体、その動きは、それが人型を取っていた時と比べても決して速くはない。
巨大な『呪』の突撃を、ミセリは余裕を持って避ける。

しかし、その余裕を埋めるように、巨体の中心近くから、一際長く青白い腕が伸びる。


ミセ*;゚−゚)リ「な――」

,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;),「死ね」


突然の、想定の枠をぶち抜いた不様な奇襲。
咄嗟に剣を盾にしたミセリを、細長い手指が捕え、突き飛ばした。

節くれだったシャーミンの指が、纏めて宙を舞う。ミセリを握り取ろうとして剣に阻まれたものだ。
一方で左腕を痛めていたミセリは、受け身すら取れずに地べたを転がる。

141100/140:2013/09/14(土) 02:04:56 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;-д)リ、「いっつつつ……割かし速くて力も有るのな」

,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;),「あぁあぁ、そりゃあもう、おいどんは復活以来数十年、不敗を保ったナリだすからね」

ミセ*゚−゚)リ「……ほざけ、卑怯者。お前なんて『カロン』の足元にも――」
lw;´- _ ノv「ば、馬鹿、止せ!」


慌てて制止するシューの声は、しかし、既に遅かった。

理由も分からず眉根を寄せるミセリに、シャーミンは身体の正面の、大きく引き裂けた口を歪めた。


,(::::: :;;;;)(:::::: :;;;;),「へぇ、お前もあの雑魚ギルドの仇討ちナリけるだすか」
‘`l;;:::::;;;;;;;;;・`/「ちゃぁんと覚えてるぞ。男の前で俺に犯されてひぃひぃヨがってた女だとかなぁ?」

ミセ#゚−)リ「……ッ!」


意識が一瞬で吹き飛んだ、気がした。
「冷静になれ」、頭の指令を心が跳ね付ける。

"黒"の精霊が身体から噴出するのがわかった。
そして、それが罠だということも。

それでも、心の波を抑えることなど、到底できなかった。

142120/140:2013/09/14(土) 02:07:08 ID:BxExUQ.Y0
lw;´- _ ノv「落ち着け、感情を抑えろ!」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「手遅れだすよ」


――シャーミンの持つ、向けられた憎悪を吸収して『呪』に取り込む能力。
気付くとほぼ同時に、左肩に激痛が走る。

左腕の呪毒が、一気に上腕を染め上げ、胸にまで達していた。

体内に直接熱した鉄を流されたような強烈な痛みに、ミセリはその場に膝をつく。


,(:::・:。:゚:;;;)(::^::^:;;;;),「ひゃはは、馬鹿が! 簡単に釣られけるだす! お前はカモなりだす!」

ミセ*; −)リ「あ……」


蹲るミセリの首を、青褪めた腕が掴みあげた。
苦しさ、悔しさ。ミセリの両目に、透明な涙の珠が浮かんだ。

143120/140:2013/09/14(土) 02:08:13 ID:BxExUQ.Y0
,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「んー……その声、顔、良いだすねぇ。生前なら間違いなく射精してたナリだす」


五指の鋭い爪に傷つけられた柔らかい肌から、血の代わりに膿が漏れる。

喉元までもが呪に侵されてしまった。
右手から滑り落ちた剣が、吊り上げられた身体の下で、乾いた音を立てる。

必死に腕を振り解こうとして初めて、ミセリは精霊の加護が自分の身体に残っていないと気付いた。
その瞳には親和を示す"緑"の輝きは無く、本来の薄茶色に戻っている。


ミセ*; −)リ「な……んで……親和が……?」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「なんで? 簡単だ、お前さんが弱っちいからナリだす」


指の千切れた青白い腕が振りあげられる。

戦う力は、もう残っていなかった。
目前に迫る死を、ミセリはただ虚ろに見つめた。

144120/140:2013/09/14(土) 02:10:28 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*; −)リ"

ミセ*; −)リ「……なんで……あなたが……」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「おっと……邪魔を」


振り下ろされた長腕は、剣士に届かずに止まる。

彼女の背中を、ミセリはただ眺めた。
命を刈り取るはずだった死神の鎌を、己の冒険に鐘を鳴らす手を掴み止めたのは。


lw  _ ノv「悪いね。私は健気に待ってたんだよ。お前が"その"姿に戻るのを」


その身の殆どを呪毒に侵された、一人の復讐者。

145120/140:2013/09/14(土) 02:11:17 ID:BxExUQ.Y0
lw;*~/._ ノv「……キミは少し、身体を酷使しすぎたんだ。もう精霊を受け入れる余地が無い。少し休め」

ミセ*; д)リ「その、顔……!」

lw;*~/._ ノv「……ああ。もう、本当に保たないね――『我が名において、命ずる』」
ミセ*; −)リ「ッ!」

『金色に輝く豊穣、此の地に息吹を満たせ』


燭台の炎が揺らめくように、儚く、弱弱しく、そして、仄かに温かく。
ミセリを、シューを、シャーミンを包み込むように、金色の輝きが広がる。

シャーミンは小さく呻き、ミセリを握っていた手をはなした。
崩れ落ちたミセリは、黄金の温かさの中、肩で息をした。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「そんなに、先に死にたかったナリだすかぁ?」

lw;*~/._ ノv「死ぬのは、私一人だよ。そして、お前も消滅して、ハッピーエンドだ」

ミセ*; д)リ「何、を……?」

lw;*~/._ ノv「すまない。もう少しだけ、我慢してくれ」

146120/140:2013/09/14(土) 02:12:03 ID:BxExUQ.Y0
地に伏したミセリの左腕に、シューはそっと手を触れた。
呪毒をなぞるように、彼女の遺した"黒"の精霊がその身体を押し包む。


lw;*~/._ ノv「『我が名において』――『命ずる』……ッ!」ゲホッ

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「何をしている……おい、その詠唱を止めるだす」


シャーミンの歪な腕が、強かにシューを打つ。

ミセリには、何も出来なかった。
無造作に拳を振り下ろすシャーミンに剣を向けることも、身を捨てて盾となるシューを止めることも。

血を吐き、歯を食いしばって詠唱を続けるシューをただ見上げることしか出来なかった。


lw;*~/._ ノv「『八重八十重の、花――』」
,(:::::゚:;;;;)(::::::。:;;;;),「……止めろ。詠唱を止めろと言っているだす! 」


精霊が渦を為し、シューの手に集まる。
止める事は、もはや叶うまい。
シャーミンは忌々しげに彼女を殴りつけた。

目や口、耳鼻から血を流しつつも、彼女は自ら生み出した金色の野に不死の王を振り返る。
ミセリは呪毒に苦しむはずの彼女の、満足気な、勝ち誇ったような顔を見た。

147120/140:2013/09/14(土) 02:12:34 ID:BxExUQ.Y0
"黒"の親和は、魂に触れる忌まわしき力。
心を繰り、情を繰り、果ては命にすらその手を触れる、異端の力。

魔人は、その力を命に触れる術に注ぎ込んだ。
死せる身体を、消えゆく魂を、精霊の"黒"を持って補う、酷薄たる死の取引。
得たものは消し得ぬ呪いに満ちた、病める生命を樹海にもたらす。

呪式士は、その力を心に触れる術に注ぎ込んだ。
内なる記憶を、刻まれた意思を、精霊の"黒"を持って書き換える、強欲な闇の取引。
得たものは――


『八重八十重の花――灰折り重なる空に咲け』


その命は、柔らかく、優しい言葉。
精霊は主の意に従い、彼女の手の中に薄く温かな光を灯す。

その姿は、春の風に眠る幼子の如き。

148120/140:2013/09/14(土) 02:13:52 ID:BxExUQ.Y0
,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「……枝、と、花?」

lw;*~/._ ノv「……ああ。理知的な私らしく、なかなか洒落が利いているだろう?」


この花は、私なんだ。

呪式士の言葉を理解する前に。
鮮やかに柔らかく色付いた、紅色の蕾が花開いた。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「え」
ミセ*; −)リ「!」


穏やかな光に、ミセリは身体がスッと楽になるのを感じた。
腕と首に刻まれた呪毒の苦しみが、ゆっくりと引いてゆく。

赤子の柔肌の白、色付けるは血潮の深紅。
己の身体を抜けてゆく呪毒、その行く先を、ミセリは見上げた。


ミセ*; −)リ「……何が……?」


その手に捧げ持った一枝が花開くと共に、呪式士は淀んだ『呪』に黒く染め上げられてゆく。
……そして、八重に咲く花に『呪』を奪い取られているのは、ミセリだけではなかった。

149120/140:2013/09/14(土) 02:15:00 ID:BxExUQ.Y0
シャーミンが断末魔に喘ぐ一方で、『呪』の苦しみから解放されたミセリの身体には、僅かに力が戻っていた。

必死に剣に手を伸ばすミセリを振り返り、シューは穏やかに微笑む。
呪毒に命を侵され、身体を引き裂かれ、それでもその二本の足で立つ彼女は、美しかった。


ミセ*; −)リ「止めろよ……もう、あなたは……」

lw;*;;;~/::._ ノv「……流石に私の呪毒までは消せないのさ。せめて、最期まで出来る事をさせてくれ」

ミセ*; ‐)リ「そんな、そんなの、それじゃ、私――私は、あなたを助けたかったのに――」


彼女はゆっくりと首を振った。

魔人となった魔導師の、シャーミンの身体が、日差しの中の湿り土のようにボロボロと崩れてゆく。
再び剥き出しになった術式核が、削れた芋虫の胴の下で断末魔の悲鳴を上げ、"黒"に明滅していた。

呪式士の枝には次々と新たな蕾が芽吹き、咲き誇ってゆく。

150以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 04:15:58 ID:JZ.kedSU0
きてたー!乙


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