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1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/05(金) 20:22:45 ID:R4QiEhY.O


26910/60:2014/02/07(金) 21:54:50 ID:EWYWCO360
( ><)「……とにかく、見破ったのは君が初めてですよ。どうしてそれに?」

ミセ*゚ー゚)リ「んー、なんて言ったら良いのかな。"魂"の感じが同じだったから」

( ><)「同じ? 違う、ではなく?」

ミセ*゚ー゚)リ「私が"黒"を思い出したのは、ラウンジに着いてからだもん。ビロ君の魂は、私はまだ見てないハズ」

( ><)「……あなたが"黒"を使い始めてから、私とあなたはヨツマまで会っていないはずですが?」

ミセ*゚ー゚)リ「ううん。私はあなたを見ていたんだよ、『根の国』から、『天窓』越しに。君を見てやっと気付いた」

( ><)「……どういう事です? 記憶を取り戻したんですか?」

ミセ*゚ー)リ「それが、全然ダメ。虫食いだらけで、肝心な事は何もわかんない」

( ><)「そうですか」


この辺りの話は、まるで分からない。
よほど二人に事情を聞きだそうとしたほどだ。

少年は納得したように、ベッドの脇の椅子に腰を下ろした。

27010/60:2014/02/07(金) 21:55:48 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「君、ビロ君とは……ええと、どういう関係なの?」


少年は考え込むように軽く天井を見上げる。

双子か何かじゃないのか、私は気になって身体を乗り出した。
どうせもう既に私が興味を持っていることは二人に気付かれているようだし、きっと遠慮することも無いだろう。


( ><)「……お互いにお互いを必要としている、でしょうか。コインの裏表のようなものです」

ミセ*゚ー゚)リ「どうしてずっと君だったの? 君が出ていること、ビロ君はどう思ってるの?」

( ><)「本人に聞いてみます? 今は私の中で、悪戯がバレた子供のような顔でアタフタしていますよ」

ミセ*゚ー゚)リ「や、面倒だから要らないや。そんな事よりさ……」


出ているだとかアタフタしているだとか、どういうこと?
ますます訳がわからない、そんな私を少女が親指で指す。

27110/60:2014/02/07(金) 21:56:48 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……私の後ろに居る人なんだけど……」

( ><)「え? ああ、彼がどうかしましたか?」

ミセ*゚ー゚)リ「その、なんていうか、私はあと五日ここに居なきゃいけないじゃん」

( ><)「……で?」

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと未練があって、それでまだ『根の国』に行ってない人なんだけど……。
その未練、私と君でなんとかできないかなーって」

ミセ*゚ー゚)リ「っていうか、もう既に手を貸す方向で話つけちゃったんだけど」

(;><)「はぁ!? 何を言って――あ、いえ、騒ぎません。すみません」


そう言えば、そんな話を前にした気がする。

これには少年ばかりでなく、私も驚いた。
私と話せる人がこの部屋に入ってきたのも初めてだが、私の未練をなんとかしようとした人も初めてだった。


ミセ*゚ー゚)リ「お話、聞いてくれる?」


少年は諦めたように首を振った。
この二人の関係は、これで決定した気がする。

27210/60:2014/02/07(金) 21:57:35 ID:EWYWCO360
――未練、というのも、さしたるものじゃないんですが。
生きてる時にちょっと世話した鍛冶師さんが、私が死んだ理由が彼の武器のせいだと思い込んでいるのです。
最後にあの索塔獣の額をぶん殴った時に折れたのは事実だけれど、それは下手に突角を叩いた自分のミスで。
私としては彼の打った武器は大好きで、振るうのが毎回楽しくて仕方なかったと言うことを伝えたいのです。
それと最後に彼に注文しておいた大捩棍が完成していて、でも受け取りに行けないのが何より悔しいのです。

掻い摘んで説明した私に、椅子の少年は頭を抱えた。


( ><)「要はその、貴方の知り合いの装具屋に話を付けたいんですね」

ミセ*゚ー゚)リ「そゆこと。直接ってのは無理だろうし、ここは何か、手紙の一通でも渡すのが良いんじゃないかと」

( ><)「はぁ……それくらいなら手伝っても良いでしょうけど、でも、なぜ私にそれを?」


少女は固定された左腕を見せた。
右手一本で羊皮紙を広げて押さえつつ文字を書くのは厄介だ、そういう意味だと思う。

少年は「そうでしたね」と一言呟いた。御迷惑をおかけして申し訳ない。


ミセ*゚ー゚)リ「それに、他に見える人も居ないし。あ、でも君って、字は書ける?」

( ><)「書けますよ、ビロとは違いますから」

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃお願いしますー」

27310/60:2014/02/07(金) 21:58:15 ID:EWYWCO360
なにぶん手紙など書くのは初めてのことで、それも私自身がこんな姿になってからなど初めてのことで。
二人がさらの羊皮紙を用意し、インクと万年筆を調達しと、そうする間に伝えたい事は纏まらなかった。

少年少女が面接のように私を覗きこむ中、ええと、あの、なんて言葉をつっかえつっかえ気持ちをうろうろさせつつ、
そんなこんなで用意していただいた羊皮紙の半分にも満たない短い手紙を少年が代筆しきって下さった現在、既に陽は傾き始めている。


( ><)「完成、ですね。ところで、これが彼のものだと証明する手立てはあるんですか?」


二人の視線に晒されながら、申し訳なく思いながら、たぶんわかってもらえると思う、そうとだけ返した。
いちおう、自分と相手の名前と、注文した武器のことは書いてもらった。

それに……私のことを、彼が間違うはずが無い……と信じたい……んですけど……その……。


ミセ*゚ー゚)リ「要はなにも証拠は無いってことね」
( ><)「……はぁ。案外厄介だったかもしれませんね」


ごめんなさい、ごめんなさい。

27410/60:2014/02/07(金) 21:58:55 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「それじゃさっそく、届けて来ようか」


え、君は絶対安静って言われて入院してるんじゃないの?
私の質問を、少女は悪戯っぽく微笑みながら、完全に黙殺した。
少年は諦めたように鞄を取り、立ち上がる。


( ><)「……結局そうなりますよね、ミセリですし」


少女は手早く上着を着込み、帽子とマフラーを身にまとい、少し躊躇いつつも銀色の腕環を腕にはめた。

ナオルヨ先生が気付いたら目茶苦茶コワイよ、私が声を掛けると、少女はおびえたように身を固くした。


ミセ;゚ー)リ「や、それは、その……気付かれなければ大丈夫かなーって」

( ><)「たぶん気付かれるでしょうけどね。それでも行くんでしょう?」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」


少年は溜息を吐くと、青年が持ってきた荷物……見舞いの品や依頼書の束を少女のベッドに積み重ねた。
掛け布団で無理やり覆えば、即席のダミーだ。


( ><)「行きましょう。さっさと済ませて帰ってくるのが最良手です」

27510/60:2014/02/07(金) 21:59:55 ID:EWYWCO360
……

若者二人の作戦はシンプルなものだ。

屋根によじ登って、煙突から皮紙を投げ入れる。
差出人不明の巻物を見た受取人は中を見てビックリ、なんと故人からの手紙ではないか。
彼は感動に涙を流し、過去のしがらみから立ち直り、ヨツマ最高峰の鍛冶師へと大躍進。

助けて貰っている私が言うのも変な話だが、この二人、実は既にかなり飽きてきているんじゃないだろうか。


ミセ*゚ー゚)リ「……これで良し。重くない、君?」

( ><)「問題ありません。ビロとは違いますから」


少年が少女を肩車し、路地の外壁へと近付く。羨ましい。
作戦を決行するには、煙突の下の竈に火が入っていてはいけないので、部屋の様子を確認する必要がある。

ところがこの鍛冶師の工房の裏手の路地はやや複雑で、窓の下は階層ひとつ分程度に低くなっている。
小柄な少年少女の身長では、この路地に立つと、工房の窓を覗きこめないのだ。とはいえ、羨ましい。

少女は窓横の壁に手を付き、少年の肩に足を掛け、立ち上がった。


ミセ*゚ー゚)リ「位置よーし、高さよーし……ちょいと失礼しまして……」

27610/60:2014/02/07(金) 22:01:31 ID:EWYWCO360
部屋をそっと覗きこんだ彼女は、部屋に聞こえない程度に、「あっ」と小さく声を上げた。


ミセ*゚ー゚)リ「……ねぇ君」

( ><)「なんです?」

ミセ*゚ー゚)リ「部屋にぽっぽちゃんが居るんだけど」
(;><)「はぁ!?」
ミセ;゚ー゚)リ「わわ、あぶなっ、動かないで……!」


私はとっさに二人に手を伸ばしたが、その手は難なく二人の身体をすり抜けた。
少女は慌てながらも体制を維持し、静かに少年の肩から飛び降りる。

……気付かれただろうか?
部屋の様子を窺うが、特に反応は無い。
恐らく主人はぽっぽちゃん、確か少年と二人で少女を訪ねて来ていた娘だが、彼女との話が盛り上がっているのだろう。


ミセ;゚ー゚)リ「と、とにかく、一旦離れよう……」


二人は素早く路地を抜け、表通りへ逃げ込んだ。
焦る必要のない私は、もう一度だけ部屋を見上げる。
三年前と変わらない、工房特有の陰気な気配がした。

……考えてみると、わざわざ二人に肩車なんてさせなくても、私が壁抜けできたじゃん。

27710/60:2014/02/07(金) 22:02:31 ID:EWYWCO360
( ><)「……はぁ、驚いた……」
ミセ#゚ー゚)リ「それはこっちのセリフだよ……!」


表通りでは、肩から振り落とされかけた少女が、知らん顔の少年に鼻息荒く抗議していた。
少年の方は少女の抗議には目もくれず、件の装具屋の木彫りの看板を見上げている。

少女もまた彼のマイペースな態度を目の当たりにし、抗議を諦めたように深く息を吐きだした。


ミセ*゚ー゚)リ「……そういえば、ぽっぽちゃんも新しい棍を買いに行くって言ってたっけ」

( ><)「そうですね。まさか、ここの工房だったとは」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん? 知ってたの、ここの事?」

27810/60:2014/02/07(金) 22:03:33 ID:EWYWCO360
( ><)「実はちょっと、店主とは顔見知りなので」


意外なこともあるもんだ、私はつい声にだしていた。
まさか、あの傲慢な貴族崩れの引きこもりが、こんな曰くありげな少年少女らと知り合いだったとは。
鍛冶師の顔を思い出していたそのとき、私は少女の背後を漂っていて、彼一人が店に背を向けていた。


( ><)「それより、ぽっぽに見つかるのは好ましくありませんね。見つかったら何と言われるか――」
ミセ*゚ー゚)リ「!」
「――それは頭の良いお前には分かってるだろ」


少年は雷に打たれたように振り返った。
間が悪いというか、あるいはお約束と言うか、そこに立っていたのは。


(*‘ω‘ *)「よ、ミセリ」


敵意を隠そうとすらしない、少年の相方だった。

27910/60:2014/02/07(金) 22:04:11 ID:EWYWCO360
( ><)「……はぁ。ぽっぽですか。久しぶりですね、直接お話しするのは灰毛の件以来でしたか」
(*‘ω‘ *)「楽しく話しこもうってつもりはアタシには無い。ここで何をしているっぽ?」

ミセ*゚ー゚)リ「……?」


あれ、昨日やその前は随分と仲が良さそうだったのに。
怪我している方の少女をみると、彼女も彼女で良く分からないといった表情。

少年は一瞬で平静を取り繕うと、わざとらしく両手を上げる。


( ><)「何と言う事も無い、ただの散歩の途中です」

(*#‘ω‘ *)「っち。二度と勝手にその面を出すなと言わなかったか?」


攻撃的なセリフに、少年は肩を竦めて黙りこむ。
少女は苛々した様子で、怪我の少女に矛先を移した。

……どうやら、彼女には私の姿は見えないらしい。
残念なことに、彼女の視線は私を素通りしてゆく。

28010/60:2014/02/07(金) 22:05:15 ID:EWYWCO360
(*#‘ω‘ *)「……ミセリ、お前も」
 ミセ*゚ー゚)リ「……」ビクッ

(*#‘ω‘ *)「コレにはもう構うな。コイツはビロに取り付く、寄生虫みたいなものだっぽ」

ミセ*゚ー゚)リ「……でも」

(*#‘ω‘ *)「何度も言わせないでくれ。コイツの相手なんて、しちゃダメだっぽ」


ぶちっとか、そんな空耳が聞こえた気がする。
恐る恐る怪我少女の顔を覗きこむと、予想通り、彼女もまた爆発寸前といった様子で。


ミセ#゚ー゚)リ「……」(‘ω‘ #*)


まだ若いと言えど、女性は女性。
私としてはこんな事情も分からない修羅場からは今すぐ逃げ出したいところではある。
逃げ出したいところであるとは言えど、流石に自分の頼みが発端とも有れば、そうはいかない。

私は助けを求めて少年に視線を向けた。
臆病な私とは対照的、問題の中心でもあった少年は、ここで勇敢にも声を上げる。


( ><)「わかりました、私はミセリと当面の縁を切りましょう。また“眼”が必要ならば、お声を」


なんだと。

28110/60:2014/02/07(金) 22:06:15 ID:EWYWCO360
ミセ#゚ー゚)リ「?」

(;><)「……え、えぇ!? ベル君、この状況で逃げないで欲しいんです!」
(*‘ω‘ *)「ビロ」


え、どういうこと。私の頭の上には何度目かの疑問符が乗った。
少年の様子が変わった、ということは、また演技を始めたのか?

しかし向かいあう憤懣冷めやらぬ少女の方も、平然とその演技に乗っかっているようで。


(;><)「はぃいっ!?」ビクッ

(*#‘ω‘ *)「アレを呼び出すのは、目を開ける時だけにしろと言ったはずだっぽ。二度とするな」

(;><)「で、でも……」

(*#‘ω‘ *)「……っち」


ドスの利いたの恐喝の前に、少年は小さくなって黙りこんだ。
余裕に満ちた先ほどまでの態度と比べると、まるで別人のように情けない姿だ。

少女ぽっぽはミセリに、「すまなかったな」と一言残し、怒りのままに踵を返した。


ミセ#゚ー゚)リ「……」
(;><)「……あうぅ」

28210/60:2014/02/07(金) 22:07:44 ID:EWYWCO360
(;><)「ご、ごめんなさい。ぽっぽちゃんは、その……ベル君の事が大嫌いみたいで……」

ミセ*゚ー゚)リ「それは、なんとなく気付いてたけどね、まさかここまでとは。ごめんね、無理に引っ張りまわして」

( ><)「たぶん嫌とは思ってないんです。彼は本当に嫌なときは意地でも出てきませんから」

ミセ*゚ー゚)リ「そだよね、もう彼の扱い方も分かってきたよ。……でも、ぽっぽちゃんめ」


ここまで聞いて、ようやく分かった。
そうか、このビロード=ベルベットという少年は、多重人格だ。

二人は私の存在など忘れたかのように話を盛り上げる。


( ><)「その、たぶん、ぽっぽちゃんは……あの……」

ミセ*゚ー゚)リ「うん?」

( ><)「彼と僕がバラバラなのが良くないと思っていて、それで……その……
つまり、僕らの事を何とかしたいと思ってくれているんです」

ミセ*゚ー゚)リ「何とかって、どうやって?」

28330/60:2014/02/07(金) 22:09:03 ID:EWYWCO360
( ><)「その、つまり……彼が僕の一部だから、僕が彼に頼らなければ、彼は消えてゆく、と……」

ミセ*゚ー゚)リ「……そうなの?」

( ><)「そんな訳ないんです。彼が僕の一部であるのと同じだけ、僕が彼の一部というか、その……」

ミセ*゚ー゚)リ「どっちが上とか、無いの?」

( ><)「無いんです。この"眼"を得た時から、私たちはただ二人でビロード=ベルベット・ミリオムでした」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか……うん、私達?」


口調と雰囲気が、また一転した。
彼は確認するように私に視線を寄こし、また溜息を吐いた。
どうやら彼も、随分と幸せを逃がすような性格をしているらしい。


( ><)「まったく、私が折角チャンスを作ったのに、ビロードのヘタレは……」

ミセ*゚ー゚)リ「?」

( ><)「とにかく、現状はこんな感じです。
     ぽっぽはビロードが主人格だと思っていて、私の方を親和の副産物程度にしか見ていない」

28430/60:2014/02/07(金) 22:10:09 ID:EWYWCO360
( ><)「ビロードを苦しめる親和そのものとして見ている、と言った方が適切でしょうか。
     “眼”を移植されるより前の事は、実のところ、私達にも分かっていませんが……」

ミセ*゚ー゚)リ「……移植って?」

( ><)「おや、ビロードから聞いていませんか。……そうですね」

ミセ*゚ー゚)リ「……聞いて良かったの?」


私も居るけど、良いんですかね?
少年はここまでほぼ完璧に私を無視してきたが、この時は私にも視線を向け、「構いません」と告げる。


( ><)「特に隠していた訳でもないようですし。ええと、この眼ですが……」


少年は細い眼を指でゆっくりと押し開ける。

増幅器を思わせる、深紅の瞳。私は息を飲んだ。
親和を起動しているときともまた少し違う、作り物めいた人口の赤。


( ><)「これは“オルガンの眼”と言う、古代の変換器です。私達が七歳の頃に移植されました」

28530/60:2014/02/07(金) 22:11:10 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……なんで、そんなものを。誰が」

( ><)「さぁ。最強の親和能力者を生み出すのが目的だとか聞いていますが、本音は知りません。
     施術は市議会の指示で、薬方院の者が担当したそうです。私達は何も覚えていませんが」

ミセ*゚ー゚)リ「……」


だいたい十年前、と言うと、私がヨツマに来る少し前くらい。
『VIP☆STAR』が天国山脈を踏破して帰って来た頃で、とすると、荒巻議長の治世に移った頃だったか。

当時は議会にも薬方院にもひたすら黒い噂が流れていたものだ。
ラウンジ辺りの工作員が混乱に乗じて流したものだと思っていたが、案外、ただの噂じゃないのかもしれないな。


( ><)「とにかく、何の影響か、私達はそれ以来、強力な親和と二人分の人格を持つようになった。
     一人は臆病で幼く、力の無いビロード。もう一人は冷酷で冷淡、力の制御が無いベルベットです」

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ、その移植の前のことは? 何か覚えてないの」

( ><)「記憶はあります。……ですが、その記憶の主体は思い出せません」

ミセ*゚ー゚)リ「ん? どゆこと?」

( ><)「例えば……そうですね、この腕の傷ですが」


少年は右の袖をまくって見せた。前腕、柔らかそうな白肌の上に、古く短い切り傷。

28630/60:2014/02/07(金) 22:13:04 ID:EWYWCO360
( ><)「これは私達が五歳の頃、ぽっぽに無理やり荷車に乗せられて、崖下に突き落とされた時のものです」

ミセ;゚ー゚)リ「……うわぁ」


うわぁ。少女ぽっぽは今と変わらず、苛烈なロリッ娘だったわけだ。


( ><)「記憶ははっきりしています。荷車の木目の形も小石を踏みつけるリズムも、ぽっぽの悲鳴も。
     壊れた台車の破片が飛び散る瞬間も、それが刺さった時の血の色も臭いも痛みも鮮明に覚えています。
     ……ですが、私達が何を考えていたのか、それだけがどうしても思い出せません」

( ><)「台車に乗っていたのがベルベットだったのか、それともビロードだったのか……わかんないんです」

28730/60:2014/02/07(金) 22:15:21 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「どっちでも良い、って言うのはダメ?」


そんな適当な。
私が口に出す前に、「構いません」、少年があっさり首肯した。

なんだよ、それじゃ別にどうでもいいじゃんよ。


( ><)「私もビロードも同じ意見ですから。ただ、それじゃ納得しない人も居ます」

ミセ*゚ー゚)リ「……ぽっぽちゃんか」

( ><)「ええ、ぽっぽです。理由は……必要なら、ぽっぽから直接聞いてください」


こういう場合、少女はあっさり引き下がる。
短い付き合いだが、彼女は見た目に反し、なかなか慎重だと傍目にもわかる。


ミセ*゚ー゚)リ「そーする。ありがと。それじゃさっきの、別の話だけど」

( ><)「はい」

ミセ*゚ー゚)リ「“オルガンの眼”って言うのは、どういうモノなの?」

28830/60:2014/02/07(金) 22:17:09 ID:EWYWCO360
( ><)「そうですね、あまり詳しくは知りませんが……“オルガン”というのは、古代大陸の人造兵士です。
      十数年前にブーン兄さん達が、ガセウ遺跡で停止していた一体を発見して再起動したとか」

ミセ*゚ー゚)リ「……知らなかった」

( ><)「一応は国家機密でしたからね。私もブーン兄さんから直接聞きました。
      ……それで、この両眼はその兵器“オルガン”が停止した際に残された遺品だそうです」


知らなかった。
それなりに長く冒険者していた分、知識もそこそこ蓄えてたつもりなんだけど。


ミセ*゚ー゚)リ「停止」

( ><)「はい。なんでも、強力な“森の人”を追い詰めた際に活動限界を超えるダメージを受けたとか。
ブーン兄さんもドクオ兄さんも、彼が、その……亡くなった時の事は詳しく話して下さいませんが」


そりゃ仕方ない。身内の死亡なんて語りたがる奴は居ないさ。

28930/60:2014/02/07(金) 22:18:45 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「あのさ、もう一つ聞いて良い? その、ブーン“兄さん”って?」

( ><)「……? 何かおかしいですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「や、おかしいっていうか、なんで兄さんって付けてるの?」

( ><)「なんでって、血は繋がってないとはいえ、同じ孤児院で育った先輩ですし……」

ミセ;゚ー゚)リ「……それは完ッ全に初耳なんですけど」

(;><)「え、初耳って……ビロードもぽっぽも、今まで何をしてきたんですか……?」

ミセ;-ー-)リ「うう、耳が痛いです」


そう言えば確かに以前どこかで、ブーンさんが孤児院の出身だったとか聞いたことがあったような……

29030/60:2014/02/07(金) 22:19:32 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「それにしても、こんなに長く君と話したのは初めてだね。
今まで知らなかった事ばっかり教えてもらえて、なんか新鮮」

( ><)「今後しばらくは私がビロードのフリをしますし、何かあればまたいつでも聞いて下さい」

ミセ*゚ー゚)リ「え、なんで?」


少年は私を顎で指した。
そっか、少年ビロードのほうは怖がりすぎて私の前に出られないんだっけ。


ミセ*゚ー゚)リ「あ、そっか……今までもそうやって成りすましたりしてたの?」

( ><)「……実は。幽霊がビロードの視界に入る度に、ぽっぽに気付かれないように代わっていました」

ミセ*゚ー゚)リ「本当に、コインの裏表なんだね」


こっちとしてはたまったもんじゃ有りませんけどね、少年ベルベットは首を振って愚痴を漏らす。


( ><)「それで……この手紙ですけど」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、忘れてた。うーん……」

( ><)「いえ、これは私が何とかしておきます。縁のある相手でしたから」

29130/60:2014/02/07(金) 22:24:07 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……大丈夫?」


良いんですかね、お任せしちゃって。


( ><)「任せて下さい。それより、ミセリはもうそろそろ薬方院に戻った方が良いのでは?」

ミセ*゚ー゚)リ「あれ、もうこんな時間だったんだ……ねぇ、明日も薬方院に来る?」

( ><)「行きますよ。何か欲しいお土産はありますか?」

ミセ*゚ー゚)リ「市のみかんをお願いします」

( ><)「了解です」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、あとさ……君の事ってどう呼べばいい?」

( ><)「……ベルベット。ベルベットでお願いします。
      ビロードとぽっぽは私のことを、昔はそう呼んでくれましたから」


ひとしきり話すと、少女ミセリは少年に手を振り、薬方院への道を引き返してゆく。

少し迷ったが、私は彼女を見送った。
その場に残った少年は私に視線もくれず、装具屋の看板を見上げている。

29230/60:2014/02/07(金) 22:27:35 ID:EWYWCO360
少年は、私が止める間もなく大股で店の入り口まで近づき、ノッカーすら無視してドアを無理やり引き開けた。

い、いかん。いかんよ少年、挨拶はなにより大事だ。


( ><)「お邪魔します」

( ^Д)「……ん、お前は……」


お、おじゃましまーす……。

恐る恐る声を掛けたが、私の声はやはり届かない。
落胆とも何とも付かない気持ちで、私は店主を窺う。


( ^Д^)「何しに来たんだ? ちんぽっぽの奴ならもう帰ったぞ」

( ><)「分かってます。今日は別の用事です」


少年はずかずかと店内に上がり、カウンターに件の手紙を置いた。
プギャーの方はさして興味無さそうにそれを見下ろし、続いて少年の顔をしげしげと見る。


( ^Д^)「なんだ、お前――もう一人の方か」

( ><)「はい。お会いするのは二回目ですね、プギャー・ストロサス」

29330/60:2014/02/07(金) 22:28:12 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「まさか今さら俺にトドメを刺そうってんじゃないよな。これは何だ、ラブレターの類か?」

( ><)「それは読めばだいたいわかります。そんな事より、ちんぽっぽと何を話していたんですか?」


そんな事とはなんだ。
私の抗議の視線には一切の興味すら示さず、少年は言いきる。

プギャーは豆鉄砲を喰らったハトのような顔になった。


( ^Д^)「なにって、そりゃあ武器のことだよ。戦棍を売れって言ってきてる」

( ><)「それは知っています。どれを売るつもりなのかと聞いています」

(  ^Д)「……どれも売るつもりは無い。半端な武具はもう売らないことにしているんだ」

( ><)「それは――?」


私のせいだよ。

思わず口を挟むと、少年は意外にも、言葉を切って振り返った。
ややあってから彼は、心得たりと頷く。

29430/60:2014/02/07(金) 22:29:02 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「なんだ?」

( ><)「いいえ。ですが、ぽっぽは数日ここに通い詰めているのでしょう? それは何故ですか?」

( ^Д^)「……さぁな。そっちの、そのデカい捩棍が気に入ったらしいが……」


私は、はっと眼を見開いた。
彼が指し示した先、棚の一角には、まぎれも無く私の注文した黒鉄木の大捩棍が立て掛けられている。

少年は棍を見るフリをしながら、私の顔を窺った。
だが、たとえ気付いていても、私には彼に視線を返す余裕は無い。

私は既に、あの『黒天大王』の虜になっていた。

29530/60:2014/02/07(金) 22:29:58 ID:EWYWCO360
 ^Д^)「なんにしても、アレを売ることはできねぇよ。あのチビには大きすぎるし重すぎる」

( ><)「へぇ、本当に客のことを考えているんですね」

( ^Д^)「……大事な金ヅルだからな。勝手に死なれちゃ困るんだよ」


プギャーは冷たく言い放ち、カウンターの上の羊皮紙に手を伸ばそうとした。
しかし――その手を遮ったのは、糸目の少年だった。


( ><)「……すみませんが、やはりコレはまだ貴方にお渡しする事ができません。手前勝手で申し訳ない」

( ^Д^)「あ……? まぁ、別に良いけどよ」


良くないよ、なんでだよ!

29630/60:2014/02/07(金) 22:31:44 ID:EWYWCO360
プギャーは黙って引き下がり、少年は私の手紙を片手に、殊勝にも、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

きっと彼の謝罪は、私にも向けられていたんだと思う。


( ><)「……すみません。でも、私にとって、ちんぽっぽほど大切なものは無いのです」

( ^Д^)「けっ、惚れてるってか」

( ><)「はい。惚れています」


プギャーは心底面白そうに笑い、車椅子を繰って私達に背を向けた。


( ><)「プギャー。くれぐれも、ちんぽっぽをよろしくお願いしますよ」

(  ^Д)「……けっ。せいぜいお前らからも、『黒天大王』は諦めろ、そう言い聞かせとけ」

( ><)「分かってます。それでは、また近いうちに」

( ^Д^)「お、おい、近いうちって」

( ><)「……後日あなたに一つ依頼をすることになります。報酬は……そうですね、“オルガン”の事」

(;^Д^)「あ? “オルガン”だと……待て、おい!」


言い終えるとすぐに店を出て行く少年、私は慌てて彼の後を追った。

29730/60:2014/02/07(金) 22:32:46 ID:EWYWCO360
表通りに出たあと、彼は再び私の存在を完全に無視し、足早に歩き続ける。
私がいくら声をかけても、あるいは追いこして目の前に立ちはだかって見ても、彼は鬱陶しげに眉根を寄せるだけだった。
そして、三つ目の角を曲がったところでようやく、彼は一言、「目障りです」、こう呟く。

……少年、それはちょっと、あんまりな態度じゃありませんかね。


( ><)「そもそも。なぜ私に着いてくるんですか? 私は家に帰って休みたい。邪魔するなら焼却しますよ」


や、お邪魔だなんてそんな、自分はちょっと、君がどうして手紙を取り返したのか気になっただけで……。

私がしどろもどろと言い終わる前に、すでに彼は再び歩きはじめていた。

後を追う勇気は無かった。あれは本気の眼だ。
どういう訳か、多分だけど、彼は私ひとりを無理やり『根の国』へ返すくらいの芸当は出来る気がした。

しかし、彼は数歩進むと、一度私を振り返る。

29840/60:2014/02/07(金) 22:34:42 ID:EWYWCO360
( ><)「一つだけ、聞いておきたいことが有ります」


は、はい、なんなりと!


( ><)「あの『黒天大王』……でしたか。貴方はなぜ、あの棍棒が気に入ったのです?」


少年の問いは、心の中心を握りしめるようだった。
私は言葉に詰まり、それでも、なぜかこの問いについて少年に失望されたくなくて、必死で答えを探した。


――あの棍棒は、なんていうか、響いて来るんだ。

( ><)「響いて、来る」

――良い武器ってのは、上手く言えないが、語りかけてくるんだ。
  俺をこう使え、俺が最高だ、俺と居ればお前は負けない、って。
  私の持論論だけど、この“声”には素直に従うのが一番良い。

( ><)「……それで?」

――あの棍は、その声が一番バカでかいんだ。何言ってるかよくわかんねぇ位に。それで……


私の答えを聞いた少年は、既に踵を返していた。
彼の表情が満足気だったのは、きっと私の気のせいではない。

かくして一日目のあれこれは終わり、私は薬方院の桜の元へと舞い戻るのである。

29940/60:2014/02/07(金) 22:37:04 ID:EWYWCO360
……

翌日。
隣のベッドの少女の、その様相はかなり重度の変容を遂げていた。


ノミノノ゚二]「おはよー、ぽっぽちゃん、に、ビロ君」

(*;‘ω‘ *)「お、おう、ミセリだよな……おはよう……」
(;><)「……昨日のミガワリ作戦がバレたんですね……」


視線だけを動かし、拘束帯で雁字搦めにされた少女が二人の訪問者に笑いかける。

視線だけを動かした。違う。視線しか動かせなかった。
さながら蜘蛛の巣に磔にされた蝶のごとく、あるいは、大陸の伝承に残るミイラと称された化物のごとく。


ノセノノ゚二]「本当、何もここまですることは無いよねー……」


今、彼女の身体のうち、自由に動かせる部分は顎しか存在しない。
それ以外の各箇所は拘束帯により、目釘一本すら動かせないほどにきつく締めあげられている。

30040/60:2014/02/07(金) 22:37:41 ID:EWYWCO360
ノミノノ゚二]「これ、すごいんだよ。力がまったく入らないの」


筋肉の動きを熟知したナオルヨ先生ならではの必殺技だからね。
病室を抜け出しても同じくミイラにされずに済む、私が命を落として良かったと思える数少ない事柄だ。

出来の悪い機巧人形のように、少女は目と口だけを動かし、覇気の欠片も無い声で話す。


(*‘ω‘ *)「……はぁ。確認するが、怪我の具合が悪くなった訳じゃないっぽ?」
ノミノノ゚二]「うん、それは平気。そだ、ぽっぽちゃん、それ」

(*;‘ω‘ *)「あん? なんだ、この高そうなケース……うおっ!?」

ノミノノ゚二]「びっくりだよねー。私達、もうB級なんだってさ」

(*;‘ω‘ *)「なんだって急に……ラウンジの時の詫びか口止め料のつもりか?」


……この少女は残りの二人より頭の回転が速いようだ。
ミイラ少女が首肯し、少女は納得したようにケースを畳んだ。


ノミノノ゚二]「で、それは良いんだけど、問題はそっちの羊皮紙の綴り束で……」

30140/60:2014/02/07(金) 22:38:19 ID:EWYWCO360
(*‘ω‘ *)「今度はなんだっぽ?」


少女はパラパラと束をめくり、目を通した。
糸目の少年は興味深げにその手元を覗きこんでいる。

おそらく、ビロード君ではなく、ベルベット君だろう。


(*‘ω‘ *)「あぁ成程、B級にもなれば名指しで依頼が来るのも当然か」

ノミノノ゚二]「そそ、それそれ。私もそう遠くない内に完治するから、先に次の冒険を決めておきたいなーって」

(*‘ω‘ *)「ふぅん、このご時世にねぇ……ま、ミセリのリハビリがてら、簡単なのを受けるのが良いか」


「お願いしますー」、ミイラ少女が弱弱しく同意する。

彼女が順調に快復してゆけば、冒険に戻るまで残り四日。
大抵の依頼には準備期間が用意されているから、ちょうど復帰戦には丁度いいだろう。

……ぺらぺらと束をめくる彼女の手が、ある一枚の羊皮紙の上で止まった。

30240/60:2014/02/07(金) 22:38:54 ID:EWYWCO360
( ><)「どうしたんです……って、それ」

(*‘ω‘ *)「『ガセウ』……と、あと『ビロード』、『護衛』、『D級』、までしか読めないっぽ。ミセリ、これは」

ノミノノ゚二]「ん……遺跡調査員さんの護衛、だって。ビロ君は特別に、調査に協力してほしいとか」

( ><)「へ、僕ですか? なんで?」


ビロード少年……に扮したベルベット少年は、わざとらしくも不思議そうに首を傾げた。

ガセウ遺跡と言えば、少年の話だと、“オルガン”が発見された場所だ。
そして今、その“オルガン”の眼はこの少年が持っている。

少女ぽっぽをみると、思い当りつつも口には出し難いといった表情でごにょごにょとやっている。

どうやらこれは、少年から少女への、ちょっとした仕返しのようだ。
気付いた私、それにミイラ少女は、つい可笑しくて噴き出してしまった。


ノミノノ゚二]「“オルガンの眼”だよね。ごめんぽっぽちゃん、もうベルベット君から聞いちゃった」

(*;‘ω‘ *)「んなっ、ベルが……いや、もういいや。ごめんっぽ」

30340/60:2014/02/07(金) 22:39:23 ID:EWYWCO360
ノミノノ゚二]「読んだ限りでは危険なことには協力させられないみたいだし、級位の割には報酬も良いね」

( ><)「うーん、僕はこれ、受けたいですけど……」
(*‘ω‘ *)「……は? なんで?」


実験台にします、そう言っているようなものなのに?
少女ぽっぽは不満げに少年を見返す。


( ><)「だって、これが“オルガンの眼”の関係なら、この依頼は僕しか達成できないじゃないですか」

(*‘ω‘ *)「ぽ……それは確かに、そうだけど……」

( ><)「僕は、僕にできることをしたいんです」

30440/60:2014/02/07(金) 22:39:54 ID:EWYWCO360
沈黙、見つめ合い。
糸目の少年、たぶんベル君だと思うけれど、彼は思いのほか粘って見せる。

やがて、目を逸らしたのは少女ぽっぽの方だった。


(*‘ω‘ *)「……はぁ、わかったっぽ。ミセリ、お前はどう思う?」

ノミノノ゚二]「うーん……良いんじゃない? それにしよっか」

(*‘ω‘ *)「じゃ決まりだな。……それなら、済まないが、ちょっと出かけてくるっぽ」
( ><)「あ、それじゃ僕は市議会に行くんです。依頼受領の報告に」

ノミノノ゚二]「あい、いってらっさい。私は解放されるまで寝ておくことにしますー」


少女と少年は、何事かを言いあいながら部屋を出て行く。

こうして二人は去り、少女ミイラと私ゴーストの奇妙なコンビが残された。

30540/60:2014/02/07(金) 22:40:51 ID:EWYWCO360

ノミノノ゚二]「悪いけどさ、こっそりあの二人に着いて行ってくれないかな?」


へ、私が? なんで?
私は思わず、間抜けな声でミイラ少女に答えた。


ノミノノ゚二]「そそ、あなたが。私、近くに人が居たら寝られないんだ。二人も心配だし」


そ、そうなのか。それは済まなかった。


ノミノノ~二]「いいよいいよ。それじゃベル君によろしくね」


あいあい。
眼を閉じた少女に返事を返しつつ、私は身体を滑らせた。

どことなく適当な感じとはいえ、少女は珍しくも私の話相手になってくれる。
その彼女のたっての願いを無碍に断るなど、この私にできようものではない。

……などなど、私自身の出歯亀根性に言い訳をしつつ、私は中庭を通り抜け、薬方院の門まで漂った。

30640/60:2014/02/07(金) 22:41:35 ID:EWYWCO360
左右の路地を見渡せど、ターゲットの姿は無し。
これは追いぬいたな、当たりを付けた私は近くの壁に身体を滑り込ませ、目元だけを透過させて様子を窺う。

私としては、何か仲睦まじい会話の一つでも交わしていてくれると嬉しかった。
しかし、私如きの願いを少年少女が知りうるはずもない。

かなり遅れて薬方院から出てきた二人は明らかに険悪で、いまにも殺し合いそうな雰囲気だった。

……おいおい、何があったって言うんですか?
私は興味をそそられ、目元を壁に引っ込め、代わりに耳を出した。

小さく二人分の声が聞こえて来る。


「……それで? アタシにその手紙を読み聞かせて、お前は何をしたいんだ?」
「答える義理は有りません。少しくらい自分の頭で考えたらいかがです?」

30740/60:2014/02/07(金) 22:42:22 ID:EWYWCO360
二人の声は、私が隠れている壁に沿って離れていった。
私は耳のみを出したまま、匍匐前進の姿勢で後を追う。

どうやら、少女ぽっぽは少年が少年ベルだと気付いているらしい。
というよりは、むしろ少年ベルが自ら正体を明かしたのだろうか。

気をそらしていた私の頭上で、壁に衝撃音。

慌てて目を出して確認すると、イライラした様子の少女が少年の襟首を掴んで、壁に押しつけていた。


(*#‘ω‘ *)「……調子に乗るなよ。理由が無いなら今すぐ消えろ。ビロードに身体を返せ。さもなくば――」
( ><)「はは、何をするって? 折檻しますか、ビロードの身体を? 貴女よりずっと強い私がわざと無抵抗でいる間に?」

(*#‘ω‘ *)「……く、そ、この寄生虫野郎が……」

( ><)「好きに言いなさい、ボウケンシャ。不満なら力で示せよ、無理やりにでも私を追いだして見せろ」

(*#‘ω‘ *)「……あぁそうだな! 方法が見つかればお前なんていつでも消してやるっぽ!」

30840/60:2014/02/07(金) 22:44:32 ID:EWYWCO360
……のっぴきならない。
おいおい、昨日の話では少女ぽっぽが一方的に勘違いしてるってはずなのに、見る限り少年ベルの方が油を注ぎまくってるじゃないか。

少年は少女ぽっぽを鼻で笑い、糸目のまま不敵な笑みを浮かべた。


( ><)「方法が見つかれば、ね。ガセウ遺跡の調査依頼に賛同したのも、その為でしょう?」

(*#‘ω‘ *)「……ッ!」

(*><)「方法が見つかれば、だなんて……はっはっはっは、それじゃお笑いも良いところだ!
     そもそも調査に協力するのは、“オルガンの眼”をより上手く使えるのは私です。私の力で、私を消す手段を探すと?」

(*#‘ω‘ *)「調査は……ビロードの力だけで、充分かもしれないだろ……!」


少年の高笑いが路地に響いた。
歯噛みする少女の顔は、見る見るうちに真っ赤に染まっていった。

30950/60:2014/02/07(金) 22:46:10 ID:EWYWCO360
( ><)「ま、せいぜい頑張ると良い。必要ならばいつでも“私”を頼れ、あの言葉は今まだ有効です」

(*#‘ω‘ *)「誰が、お前なんかに……!」

( ><)「そのセリフは何度も聞きましたよ。それでも貴女は、何度も私の力を頼ってきた」

(*#-ω-)「……」

( ><)「……さて、もういい加減にこの手を放せよ。
      忘れちゃいないよな、お前は俺がちょっと瞼を動かすだけでケシ炭なんだぜ?」

(*#‘ω‘ *)「……」


少女ぽっぽは、静かに手を離した。

肝が冷え切った。この場は完全に決着がついている。
脅しにしろ交渉にしろ、なによりも重要な“胆”の部分で、少年は完全に少女を圧倒していた。

31050/60:2014/02/07(金) 22:46:46 ID:EWYWCO360
(*#‘ω‘ *)「……くそが」

( ><)「とんでもない、貴女は賢明ですよ。それで、この後はどうするんですか? まだあの黒天大王を?」


少女ぽっぽは、きっと少年を睨みつける。
当然だ。彼女が黒天大王を求めていることを、からかうように口にしたのだから――?

ん、すると、彼はこの少女に読み聞かせる為に、私の手紙を差し戻したのか?
なぜ、そんな事を?

私の疑問の答えは、少女ぽっぽが出してくれた。


(*#-ω- )「……ああ、何としても売ってもらうっぽ。くそ忌々しいが……それは、お前に、感謝しなきゃならん」

( ><)「おや、殊勝ですね。一応、理由を聞いておきましょうか?」

(*#‘ω‘ *)「この手紙を、プギャーが先に読んでいたら。アイツはきっと、死ぬまで黒天大王を手放さなかっただろうからだ」


……え。

31150/60:2014/02/07(金) 22:47:36 ID:EWYWCO360

(*#‘ω‘ *)「お前は、ムカつくが、『チェトレ』を優先してるっぽ。アタシが上手く棍を買いつけられるように。
      プギャーよりも、見ず知らずのマリオルドよりも、『チェトレ』の利益を考えてる。だから……」

( ><)「……」

(*#‘ω‘ *)「だから、今回は、お前の外道な策に乗っておいてやる。アタシも外道になる。〜〜の気持ちを踏み躙る」

( ><)「そうですか。では、一つだけ助言を」

(*#‘ω‘ *)「……」

( ><)「武器を選ぶときは、その武器の声を聞くのが何より良い。これは、その〜〜の受け売りです」

(*#‘ω‘ *)「……おう。覚えておく」


少女ぽっぽは南東へと歩き去る。
私は茫然とその背中を見送った。

少年は少女ぽっぽが見えなくなるまで立っていたが、やがて、初めから分かっていたように、私を見下ろした。


( ><)「……と、こういう事です。最後まで協力できなくて、申し訳ありません」

31250/60:2014/02/07(金) 22:50:06 ID:EWYWCO360
――私は……どうしたらいい?
情けなく震えた私の声に、少年は顔色一つ変えずに、侮蔑的に私を見下したまま、答える。


( ><)「好きにしたらいい。出来るかぎりのことをしたらいい。貴方は――」


少年が語り終える。
私は彼に背を向け、走り出した。
家々も城壁も、入り組んだ路地も、身体をすり抜けてゆく。


そうだ、なぜ気付かなかったんだろう。

私は――私の名は榊原マリオルド、冒険者だ!



……そこへは、すぐに辿りついた。

31350/60:2014/02/07(金) 22:50:52 ID:EWYWCO360
ノッカーに伸ばした手は、やはり触れることも無く通り抜ける。

主は工房に籠っているのだろう、出迎える者はなかった。
無人の店内を、私は音も無く滑る。

剣の棚、投擲器の棚、その向こうに、打撃器の棚。
何度も通い詰めた頃のまま、手入れの行き届いた武具が立ち並んでいる。

一振りの棍の前で、私は立ち止まった。

私の依頼品、私の未練。
私の手に収まるはずだった、私の相棒。

いくら手を伸ばしても、私は彼に触れることが出来ない。
ただ見上げることしか、身体を持たない私には出来ない。

私はそうして長らく、彼を見上げて過ごした。
……やがて工房から車椅子の音が聞こえ、私はそちらに顔を向ける。

31450/60:2014/02/07(金) 22:52:43 ID:EWYWCO360
主は二年前と同じ、覇気の無い様子でカウンターに着く。

懐かしく、そして、愛おしい、あの冒険の日々に帰ったようだった。
主は店内を見渡し、私の居る棚の方へと視線を向け、覇気の無い声で言う。


( ^Д^)「なんだ、また来たのか。何の用だ?」


私は声を張り上げ、叫ぶように答えた。
届いてくれ、祈るような気持ちだった。


――あの棍を、黒天大王を、俺に振らせてくれ!
一度だけでも、あの一振りに触れることができなければ、俺は死んでも死にきれないんだ!


……叫ぶように答えた私の声は、届かなかった。
彼の眼は一度だって、私を見ていなかったから。


(*‘ω‘ *)「……黒天大王。あの棍を、私に譲ってくれ」

31550/60:2014/02/07(金) 22:53:30 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「やれやれ、今日もそれかよ」

(*‘ω‘ *)「で?」
( ^Д^)「だめだ」

(*‘ω‘ *)「……ち」


それからの二人の会話は、私の耳には入って来なかった。

どうやら二人の交渉が決裂したこと、少女が手を尽くしてプギャーを説得しようとしたこと。
棚が崩れてプギャーの車椅子が壊れたこと、……彼が私の死を思い出して今も苦しんでいること。

どれも私の耳には入って来なかった。
ただ黒天大王の声だけが響いていた。

叩く、殴る、潰す。固く、硬く、堅く。
乱暴に響き渡る棍の声は、どれも私のためのものだった。
私の妄執は、すでに私がどうこうできる域を超えていた。

私は既に、死者としてのヒトすら失っていたのだと思う。

……やがて、少女が店を出てゆく。
一気に静かになった店内に、ゆっくりと杖の固い音が響く。

私の隣に、プギャーが座り込んだ。
私と彼は、互いに言葉をかわせぬまま、彼の来訪まで、ずっと座り込んでいた。

31650/60:2014/02/07(金) 22:54:54 ID:EWYWCO360
……

( ><)「お邪魔します……って、これは一体、何があったんですか?」

( ^Д^)「……なんでもねぇよ。棚が崩れただけだ」


少年ベルベット。少年の姿をした、悪魔の様な男。

彼はプギャーを、その隣の私を見て、察したと言うように首を振る。
思えば、私がヒトを失くして妄執の塊となってしまうと、彼は気付いていたのだろう。

私に目をくれることも無く、彼はプギャーの隣に歩み寄る。


( ><)「プギャー・ストロサス。貴方に一つ、依頼があります」

( ^Д^)「昨日お前が言ってた件か」

( ><)「はい。ぽっぽに、武器を一つ用意して頂きたい」

( ^Д^)「……だが、あのチビはサイズの合ってない黒天大王以外には目も――」
( ><)「――その黒天大王を。ぽっぽに合わせて打ち直して頂けませんか?」


……この悪魔、今……なんと、いった?

31750/60:2014/02/07(金) 22:57:56 ID:EWYWCO360
(;^Д^)「あぁ? お前、それがどれだけの労力の要る作業だと思ってやがる?
      一度武器に成型した黒鉄木を素材とし直すのがどんだけキツいか……」

( ><)「貴方ならば不可能ではない、そうでしょう?」

(;^Д^)「……くそ、できないとは言えねぇよ。俺も一応は、ストロサスの鍛冶師だ」

( ><)「報酬は約束します。まずここに金貨を四十枚、それに加えて昨日の約束を果たします」

( ^Д^)「……“オルガン”の情報、か。そりゃ一体……」

( ><)「私の眼が“オルガンの眼”だとは知っていますね?」

( ^Д^)「……?」

( ><)「この眼のもとの持ち主、ヨコホリと名付けられた彼の、その躯の在処」

(;^Д^)「……! そりゃあ……」


プギャーの心が揺れ動く、手に取るように分かった。
“オルガン”の組織があれば、彼の二度と動かない足も、もしかしたら。

そうでなくとも、鍛冶師にとって“オルガン”は理想そのものだ。

31850/60:2014/02/07(金) 23:00:51 ID:EWYWCO360

( ><)「ストロサス一門の技術力ならば、あるいは、組織の複製は可能かもしれませんね」

(;^Д^)「……なるほどな、そりゃ確かに、充分すぎる報酬だ。だが……」


プギャーはもう一度、黒天大王を見上げた。
断ってくれ、私は祈るような気持ちで二人のやり取りを見つめた。

私はもう自分の気持ちにウソを吐くつもりはない。
あの『黒天大王』は、私の、私だけのものだ。
誰にも譲らないでくれ。私から、私の心の支えを取り上げないでくれ。

しかし、悪魔の手は、私の祈りを引き裂くように、狡猾だった。


( ><)「この手紙、これを今度こそ貴方にお渡しします」


ああ、こんな……ひどすぎる。

31950/60:2014/02/07(金) 23:02:15 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「……これは」

( ><)「差出人は、マリオルドです。私が代筆しました」

( ^Д^)「……」


プギャーは無言で封を解き、読み始めた。

膝が崩れるような思いだった。
プギャーの心が、私の、私がヒトだった頃の思いによって、今の私の妄執とは逆の方向に動かされている。

私にとって最悪のタイミングで、私にとって最悪のカードが切られた。

読み終えたプギャーは封紐を巻き直し、悪魔に手渡した。


( ^Д^)「間違いないな、このバカ丸だしの言葉使い、こりゃマリオルドのもんだ」

32050/60:2014/02/07(金) 23:03:36 ID:EWYWCO360
( ><)「分かって頂けたようで何よりです」

( ^Д^)「だがな……この金貨、これは持って帰れ。“オルガン”の身体も今は要らない」

( ><)「……」


私は静かに首を振った。

私の、負けだ。


( ^Д^)「その代わり、お前も鍛冶を手伝え。車椅子が無いんだ」

( ><)「……それでは……!」

(  ^Д)「俺は鍛冶師だ。冒険者に、必要な武具を造る。それが鍛冶師だ」

( ><)「ありがとう……ございます……!」

32150/60:2014/02/07(金) 23:04:47 ID:EWYWCO360
悪魔の手が、鍛冶師に言われるまま黒天大王を掴み、妄霊の私から取り上げる。

絶望が、私の心を満たした。
二人の姿を、敗れた私はただ見送るしかなかった。

妄執が復讐へと姿を変えてゆく。

……この後に待ち受ける私の悪行について、ただ一つだけ言い訳させてほしい。

私はこのとき、私ではなくなったのだ。
誇りある冒険者としての私は、すでに『根の国』へと舞い戻っていたのだ。

やがて私の『黒天大王』は、その魂を残したまま『黒天飛王』への転生を終える。

32260/60:2014/02/07(金) 23:05:41 ID:EWYWCO360
……

ミセリはベッドに身を起こし、窓の外の桜を眺めていた。

あれは、桜っていう樹だよ。
教えてくれた幽霊は、もうずっと姿を見せない。

ナオルヨ先生が退院を言い渡したのが、今日の朝。
もう数刻をもって、ミセリは再び冒険の身に戻る。

足音が近づき、彼女はその主を振り返る。


ミセ*゚ー゚)リ「ん……ビロ君……じゃないや、ベル君だよね?」

( ><)「はい、私です。と言っても、もう私がビロの代わりに出て来る理由もありませんがね」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか。それじゃやっぱり……」

( ><)「〜〜の幻影は、消滅しました。私が消滅させました」

ミセ*゚ー)リ「……ん」


窓から見える桜が、風に静かに揺れる。


ミセ*゚ー)リ「聞かせてくれる? 彼の、最期」

323訂正:2014/02/07(金) 23:06:37 ID:EWYWCO360
……

ミセリはベッドに身を起こし、窓の外の桜を眺めていた。

あれは、桜っていう樹だよ。
教えてくれた幽霊は、もうずっと姿を見せない。

ナオルヨ先生が退院を言い渡したのが、今日の朝。
もう数刻をもって、ミセリは再び冒険の身に戻る。

足音が近づき、彼女はその主を振り返る。


ミセ*゚ー゚)リ「ん……ビロ君……じゃないや、ベル君だよね?」

( ><)「はい、私です。と言っても、もう私がビロの代わりに出て来る理由もありませんがね」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか。それじゃやっぱり……」

( ><)「マリオルドの幻影は、消滅しました。私が消滅させました」

ミセ*゚ー)リ「……ん」


窓から見える桜が、風に静かに揺れる。


ミセ*゚ー)リ「聞かせてくれる? 彼の、最期」

32460/60:2014/02/07(金) 23:08:06 ID:EWYWCO360
( ><)「……マリオルドは、黒天大王が黒天飛王に変わるのを、私達の近くで見届けました」


ベルベットの言葉を聞きながらも、ミセリの視線はただ窓の外へと注がれていた。
がらんとした部屋に、大柄で半透明の隣人は居ない。


( ><)「彼はすでに生前の彼ではありませんでした。黒天大王を手にしたい、その一心だけの、言わば残響に過ぎませんでした」

ミセ*゚ー)リ「……」

( ><)「大王の死と飛王の誕生を見届けた彼は、標的を飛王に替えました。
      飛王を手に入れることに、彼の妄執は自然と移り変わったようです」

ミセ*゚ー)リ「……そっか。当然だよね」

( ><)「はい。……そして、彼は当然、気付いてしまいました。飛王を己が手に収め、冒険に立ち戻る術に」

ミセ*-ー)リ「……この腕環、だね。マリオルドさん、一度だけここに戻ってきたよ」

( ><)「はい。彼はその腕環……生者と死者を曖昧にする、その腕環を使って……ぽっぽの身体を、乗っ取ろうとしていました」

32560/60:2014/02/07(金) 23:09:18 ID:EWYWCO360
閉ざされた目蓋をすり抜けて、柔らかな太陽の光が届けられる。

暖かく、優しい光。
ヒトを、精霊を、樹海を、生命すべてを平等に照らす光。


ミセ*-ー)リ「……どうやって、消滅させたの?」

( ><)「……“オルガンの眼”は、映るもの全てを焼き尽くします。
      例え相手が死霊でもただの妄執でも、この眼に映るものならば、例外などありません」

ミセ*-ー)リ「……」

( ><)「繰り返しますが、あれは最早、マリオルドではありませんでした。ただの抜け殻でした。
      本当の彼はきっと、すでに『根の国』に辿りついているでしょう」

ミセ*-ー)リ「……そっか。それなら、良かった。またいつか、この世界に芽吹いて来るなら……」


この暖かい光は、きっと彼の元にも届いているだろう。

32660/60:2014/02/07(金) 23:10:31 ID:EWYWCO360
( ><)「……さて、最近は出ずっぱりで疲れましたし、しばらく休みます」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……ねぇベル君、いつか君も、ぽっぽちゃんと――」


――。
少年は静かに首を振った。


( ><)「……いいえ、その日は来ないでしょうね。それに、願う資格すら私にはありません」


何か言葉を掛けようとしたその瞬間、オレンジ色の玉が放り投げられる。

ミセリは咄嗟に、自由な右手でその玉を掴み取った。
手の平に収まる程度の玉、その正体は、小さな蜜柑だった。


ミセ*゚ー゚)リ「もう、ベル君……って、あれ、ビロ君?」

( ><)「は、はい。あの、ベル君はもう寝るって言ってて、その、それはお土産だそうです」

32760/60:2014/02/07(金) 23:13:11 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……そっか、約束したっけ。もう、遅すぎるよ」


丁寧に皮を取り、実を一粒とって口の中に放り込んだ。
舌の真ん中が引っ張られるような、強い酸味が弾けた。


ミセ*゚ー)リ「……うぐぐ、酸っぱいー……」

( ><)「あの、伝言なんですけど……もし、酸っぱかったら、日頃の、行いのせいだ、って」

ミセ*-ー)リ「あんにゃろう……」

( 。><)「……ご、ごめんなさい……ごめ、なさ……マリオ、ルド、さん……」


ミセリは何も知らない風に、窓の外に視線を移した。
桜は静かに、吹き抜ける秋風に枝葉を揺らしている。

ビロードが大粒の涙を流し終えるまで、ミセリは枝葉を包む太陽の光を眺めていた。
……これは傷を癒した冒険者達が樹海へと舞い戻る、その前日の物語。


ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

幕間δ−裏 了

328以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 23:21:15 ID:FLheXTJM0
以上で本日の投下は終了です。
正直に言うと、今日ばかりは感想聞くのが怖いですね。
でも、もし何かご意見その他おありでしたら、ご遠慮なくこのスレに書き込んでください

ご静聴ありがとうございました

329以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 23:36:51 ID:LuybH03o0
追記、本編とは無関係のレスになりますが……

シベリア図書館様、開館四周年おめでとうございます。
このミセリ樹海、御図書館を愛する一人とし、心よりお祝い申し上げます。
51スレ目、ずいぶん大きくなったね。1スレ目の君に一つもレスがついてなかった頃から、ずっと見てたよ。
これからも誰かを支えたり、助けたり、そんな場所であり続けてください。
私の故郷へ、初代し記録より

330以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/08(土) 01:35:45 ID:nQbuq/Fc0
ミセリ、ポッポ、ビロ、B級昇進おめでとう

つかの間のチェトレの平和な日々の話だったけど、どんでん返しが新鮮だった
ビロとベルの関係とか過去話もおおー!ってなった
いよいよ新たな冒険って感じになってきたし次回も楽しみ!

331以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/08(土) 21:24:42 ID:fA9Z6xWU0
更新 乙!

今からじっくり読むわ

332以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/09(日) 13:15:08 ID:CvKUVRJk0
乙!!
冒険ものはこういう装備が強くなったりするところが良いね

333以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/09(日) 14:19:42 ID:RIgkgVlo0
乙ん

334以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/15(土) 00:45:33 ID:I.Lqr12.0
乙でござる

335以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/27(木) 11:08:18 ID:ikpr8sAo0
いやー全くwwwwww引越し作業が大変だなぁwwwwww
まだ働きたくねーよwwwwwwもう少し大学生で居たかったぜwwwwww
作者もきっとwwwwww新生活wwwwwwの準備が忙しくて大変だと思うけどwwwwww頑張ってくださいwwwwww

336以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/28(金) 23:51:16 ID:/MQH89ZE0
貴様絶対に許さん便所に追い詰めて肥溜めに叩き込んでやる

337以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/03/05(水) 00:12:50 ID:y2Q.9jFc0
大丈夫、俺は新社会人を1ヶ月半で

338以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/03/05(水) 00:14:16 ID:y2Q.9jFc0
間違えて途中で送った

挫折したんだぞと続けたかった

339以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/03/11(火) 00:17:51 ID:kZ8eqlOg0
思い通りにはならないだろうけどなんとかなるさ

340以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/09(水) 22:47:12 ID:pq1OR7wg0
調子どう?風邪引くなよ

341以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/14(月) 02:00:15 ID:dHloMDPA0
待ってる

342以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/15(火) 11:57:00 ID:iyi2s4bs0
元気ー?

343以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/19(土) 20:50:30 ID:y.4w/SSw0
待ってる

344以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/20(日) 00:46:37 ID:Ck30a9J.0
噂を聞いてやっと追いついた
頑張って

345以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/05/17(土) 01:53:33 ID:0PfqAgW60
何も書かないけど毎日確認に来てるよ
待ってる

346以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/08(日) 21:49:11 ID:T/t34FKA0
ごめんなさい 結局なんとか卒業して就職したのです
投げ出すつもりは無いんだけど、週あたり労働時間が80超えててですね

347以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/08(日) 21:51:49 ID:T/t34FKA0
ご声援ありがとうございます
じわじわ確実に頑張ります

348以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/09(月) 01:00:00 ID:1rhyE2fg0
おおお、おめでとうというかなんというか...頑張ってください!

349以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/12(木) 20:38:09 ID:SUnzeQ9I0
頑張れよ
もう頑張れ以外にお前に言ってやれる言葉はない

350以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/14(土) 01:29:58 ID:sGyRLshU0
おおお!卒業おめでとう!!就職おめでとう!!!!
一年目きついだろうけどがんばってくれよ
たまに生存報告してくれりゃ年単位で待てる

351以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/23(月) 00:52:32 ID:Bhz4tlw20
専ブラあれば年単位とか余裕で待てるよな
無理せずがんばってくれ

352以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/07/22(火) 23:55:55 ID:MQuMPRVY0
そろそろ仕事の疲れがどーっと出て来たりしてないかーい?

353以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/08/06(水) 17:23:14 ID:F.X2F3yQ0
返事が無い……五月病こじらせたか

354以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/08/13(水) 13:47:23 ID:dOyxWxDU0
そろそろお盆休みかい?
ゆっくり休んでくれーたまに生存報告くれー

355以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/09/30(火) 13:06:55 ID:kZGReycc0
生きてるかだけでいい・・・生存報告してくれええええええ

356以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/10/03(金) 23:39:49 ID:FooWx2C60
この物語を終わりまで読む為に
仕事頑張ってるんだ(´・_・`)

357以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/04(日) 19:40:53 ID:gLe8/J5E0
待ってるぞ!

358以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/14(水) 15:36:48 ID:XZzksaNY0
実生活頑張れよ〜
気長に待ってるぜ

359以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/15(木) 19:03:03 ID:AXd0w5N20
長いことすまない。春と夏と冬は吐くほど仕事が詰まるんです
もうしばらくのんびりしていてください

360以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/16(金) 12:30:17 ID:hpzN3pzs0
おう、のんびりしとくやで

361以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/25(日) 00:49:26 ID:GAkskQMA0
こっちはどんだけでも待てるがお前さんの体調だけが気がかりだぜ
忙しいだろうが、体を大事にな

362以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/02/03(火) 16:28:28 ID:0yDriEIY0
まっつよー

363以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/03/18(水) 00:23:16 ID:FNrkcUlw0
年度末だな
体調崩さないでくれよ

364以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/17(日) 15:00:33 ID:L5kyxxLw0
保守

365以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/23(土) 01:30:44 ID:uPUd.L9.0
辞表出してきたぜぇぇぇえええ!
待たせたな各々方!!

366以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/23(土) 07:32:50 ID:ehZuuOvU0
え、まじで!?
そうかー辛かったんだなあ
戻ってきてくれて嬉しいよ

367以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/23(土) 10:21:36 ID:0jvT86Ss0
おつかれさまでした…

368以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/24(日) 16:05:56 ID:Wgk0wJFk0
お疲れ様でした。
無理せず頑張って下さい。
楽しみにしています。


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