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1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/05(金) 20:22:45 ID:R4QiEhY.O


130100/140:2013/09/14(土) 01:49:12 ID:BxExUQ.Y0
感情のままに、ミセリはシャーミンに斬りかかった。
誰かを殺したいと心から思ったのは、十六年の人生の中で、初めてだった。

鋭い剣閃は、今度は相手を斬り裂かなかった。

シャーミンの身体は見えない糸に操られるように飛び退き、ミセリの間合いから一気に離れる。
精霊を纏わりつかせた屍は、新しい身体を確認するかのようにごきごきと骨を鳴らす。


,(〜)(〜),「おぉおぉ怖い怖い、斬られるのは結構痛いなりだすよ」
  ∀'  「それならそれで良いがな。代わりにおめーの公開処刑レイプでショーに華を添えるだけだ」

ミセ#゚−゚)リ「……もういい、消す」

,(・)(・),「はは、どうでもいいだすが、あんまり熱くならないほうが良いと思うだすよ?」

ミセ#゚−゚)リ「何を――!」


腕に走った違和感に、言い掛けた言葉を飲み込む。
シャーミンが指したミセリの左腕で、『呪』は、もう肘に達していた。

進行が速まっている。ミセリは眉根を寄せた。


,(・)(・),「不思議そうだすね。……さっきも触れたけど、『呪』化の進行は絶望が深いほどイイだす」
  ∀'  「ということは、だ。メスガキ、おめー、本当はもう心のどっかで諦めてるんじゃねぇのか?」

131100/140:2013/09/14(土) 01:49:56 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「何を……」

,(・)(・),「そりゃあ当然ナリだす。いくら斬っても死なない相手に、自分は不治の毒」
  ∀'  「たった今見かけただけの女ひとりの為に、お前が身を投げ出す事は無いと思うぞ?」

lw;´- _ ノv「……奴の言う通りだ、'名も知らぬ'剣士のお嬢さん」

ミセ*゚−)リ「!」


シューの掠れた言葉に、身体が強張る。
半ばまでを『呪』に侵し尽くされたまま、絞り出すように彼女は続けた。


lw;´- _ ノv「私はどの道、助からない。キミだけでも、生きるんだ」

ミセ* −)リ「……」

,(・)(・),「ほぉ、美しい自己犠牲なりだすね。泣っかせるぅー!」

lw;´- _ ノv「約束は……守れよ」

,(・)(・),「分かってるナリ。おいどんは契約を決して破らないだす」
  ∀'  「どうでも良いからサッサとやれよ。ほら」

ミセ* −)リ「……分かったよ」

132100/140:2013/09/14(土) 01:53:20 ID:BxExUQ.Y0
長剣、その切先は磔のシューへ。

――一閃。


ミセ*゚−)リ


斬り裂いたのは、シューの腕の。杭に縫いつけられたローブの、その両袖。
解放されたシューは立ち上がる力も無く、その場に崩れ落ちる。


ミセ#゚−)リ「ようやく分かったよ、呪式士。あなたの狙いが……!」

lw;´- _ ノv「何を言って……」
ミセ#゚−)リ「うるさい! 人の記憶を簡単に弄んで……!」

,(〜)(〜),「あ〜、期待通りなりだすね〜。都合が良い。纏めて『呪』にしてやるだす」
  ∀'  「……記憶? 何を言っているんだ、おめーら?」


"黒"の親和を通したミセリの目に、数本の、不可視の'影'が映る。
ボロボロの左腕を酷使し、ミセリはシューを抱えて飛び退いた。

シャーミンの足元から伸びたその'影'は二人を追うように自在に形を変え、迫る。

133100/140:2013/09/14(土) 01:54:24 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「っと、これは何?」
lw;´- _ ノv「"黒"の、精霊……! 捕まるな、『呪』に……引き込まれる!」


幸いにも、'影'の動きはそう速くない。
シューを背中に庇いつつ、ミセリはその触手の先端に剣を振るった。

精霊を纏った剣は不透明に濁った影を斬り裂き、斬られた先は樹海の空気に消えてゆく。
一本一本の動きは遅く、さしたる脅威ではないものの、その数は次第に増していて、厄介きわまりない。

ミセリは再び一度シューを担ぎ、さらに後方へと引き下がった。


ミセ*゚−)リ「……それで、あいつは何をしたら倒せるの」

lw;´- _ ノv「……術式核、身体の中心あたりに有る。
      それと、感情的になるな。奴は、キミの憎悪をそのまま『呪』に変える」

ミセ*゚−)リ「……了解。あとは私がやるから、また人質にならないように気を付けてろ」


影はどうやら、そう遠くまで伸ばせないらしい。
どす黒い渦を挟んで、剣士と魔人が向かいあう。

静寂が樹海に落ちる。
ミセリは静かに親和を起動した。

その瞳は"緑"、春に芽吹く若草の色。

134100/140:2013/09/14(土) 01:55:30 ID:BxExUQ.Y0
ミセ* −)))リ「――」


"黒"に費やしていた容量を、全て"緑"へ。
ミセリの視界から、蠢く'影'が姿を消す。

緑に染まった瞳でシャーミンを見据え、ミセリは真っ直ぐに歩み寄る。

獲物を狙う豹のように、静かにしなやかに。
それは例えるなら、矢風吹き荒ぶ戦場で目を瞑って歩くに等しい行為。

狩られるべきシャーミンは、驚きつつも、己の手に不可視の'影'を集めた。


,(・)(・),「おいおい、自殺でもするナリだすか?」


'影'が為すは、触れた生者を『呪』と変える死の槍。
眼前に迫るそれは、"黒"を切ったミセリの目には映らない。

――殺った。
魔人が確信したその瞬間、剣士はその身を真横に振った。
シャーミンが突き出した'影'はそのすぐ脇を走り抜ける。


ミセ* −)リ ヒュ…

135100/140:2013/09/14(土) 01:56:07 ID:BxExUQ.Y0
lw;´ _ ノv「!」
,(・)(・),「うん……!?」


最小の、最短の。洗練された獣の動き。
虚を突かれたシャーミンは、唖然とする。

咄嗟に引き戻した'影'の触手を、精霊を纏った長剣が両断した。

引き裂かれた'影'は"黒"の精霊に帰し、樹海に四散してゆく。


,(・(・;;),「んぐおッ……!」


核を、守らなければ。意思が形を為し、『呪』の鎧を纏う。
魔人の胴体から噴出した新たな'影'を、剣士は深追いせずに避けた。

"黒"の精霊は樹海に満ちた『呪』からほぼ無尽蔵に得られるとはいえ、
再生の暇も無く攻め立てられては、流石に分が悪い。

焦るシャーミンに、再び長剣が迫る。

136100/140:2013/09/14(土) 01:57:24 ID:BxExUQ.Y0
,(・(・;;),「勘……だと、野獣め……!」

ミセ*゚−゚)リ「失礼な、レディーに対して――」


振り据える触手を、ミセリはやはり紙一重で避ける。
その身体を突き動かすものは、それこそ、勘としか表現しえない。

霧を風が引き裂くように、闇を光が引き裂くように。

本領に帰したミセリの猛攻に、シャーミンは押されてゆく。

そして。


,( )( ),「ンぎばッ!?」

ミセ*゚−゚)リ「――滅多な事を言わないでよね」


'影'を繰る両腕を、今度はその軸であった"黒"の精霊もろとも、鋭い剣閃が断ち落とした。

137100/140:2013/09/14(土) 01:58:26 ID:BxExUQ.Y0
シャーミン松中という魔人の存在は、実のところ、その『核』のみにすべての機能を預けている。

『核』は、高度で狂気的な術式印。
流し込まれた"黒"の精霊を呼び風に、かつて滅びた彼という存在を再構築する術式。

ゆえに、彼の根源は"黒"の精霊であり、ゆえに彼は"黒"の精霊そのものである。

『核』に与えられた術式は精霊をして『呪』を為さしめ、彼の親和は『呪』をして精霊を為す。
触れた者を『呪』と変える『呪』の性質ゆえに、自身を『呪』に構築する彼は、核と贄ある限りは不死である。

オサムの遺書に記された"魔導師"シャーミン松中の、これがその正体だった。

……そして、その性質ゆえ、こうして精霊もろとも核から斬り落とされた肉体は、再生にやや時間がかかる。


,( ;;)( ;;),「あが、おいどんの、腕……」
  ∀'  「こんな、クソがぁッ!」


失った腕を取り戻すまでの隙は、この局面において致命的だ。
返す刃は胴を深く引き裂き、裂かれた腹からは行き場を失った"黒"の精霊が溢れだす。

剥き出しになった精霊回路――核は、小さな色ガラスの玉だった。


ミセ* −)リ「――!」


剣に僅かな迷いが生じた。
その一瞬に、傷口から漏れ出た精霊は『呪』の'影'を為し、ミセリは慌てて距離を取る。

138100/140:2013/09/14(土) 01:59:12 ID:BxExUQ.Y0
,( ;;)( ;;),「貴様、如きニ……」

ミセ*゚−)リ「……」


シャーミンの肉体は、溢れだす精霊に押されるようにして、グズグズに溶けてゆく。

……彼は『核』。彼は『呪』。彼は『精霊』。
それゆえに、彼がやがてこうなってゆくのは必然だった。

精霊が、呪が、渦巻くようにその核を覆い、膨れ上がる。

繋ぎとめるべき身体を捨て、膨れ上がった黒い靄。それが彼の――

;;::;;:;    ヾツ/
;:;       lミ;;|
,   ,(:::::::;;;;)(::::::::;;;;), 
:・:'``:``…―,、..,,.,;´.~/;;;(  「――俺の、真の姿を見せる事になるとはなァァアアァ……」
:::。::‘`l;;:::::;;;;;;;;;・`/;;;;;;;;;;;
・.;:::::;;;;::`-、:::;;;;;メ.,;;;;;;;;;;_,,、
, `;;・.,;::::::::::`'\=~;;;;;;;;;;;ヾツ/
w     |シp}  ,   ミツ/
V     ミン/     ノツ/
::::::::::::::::: \ ::::::::::::::::::::

139100/140:2013/09/14(土) 02:00:59 ID:BxExUQ.Y0
産声を上げる異形に、ミセリは身体の芯を震わせる寒気を感じた。

その新たな身体を為すのは、もはや親和無しでもはっきりと視認できる程の、濃密な『呪』。
全身から瘴気を噴きだしながら、数十もの捩れ青褪めた手足を突き出し、それは巨体を持ち上げた。


,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;), 「ふしゅううううううう……」

ミセ*;゚−)リ「……何それ、流石に聞いてないッスけど」


高さだけで自身の二倍を容易く超える、凶悪な芋虫。
その身体に粗雑に開けられた幾十の瞳が、やたら滅法に突き出された白い手足が、一斉にミセリを見る。


,(:;:::゚:>;;;)(:::・::゚。:;;;),「そりゃアそうだす。この姿を見て生き残った奴なんぞ居ないだすからね」

ミセ*;゚−)リ「ッ!」

,(:;:。:=;;)(l・::。;:;;;),「人間の、生物の脆い身体を捨てたおいどんに、敵うものなどはどこにも居ないィ!」


身体をくねらせ、奇妙な芋虫はミセリへと突進した。

140100/140:2013/09/14(土) 02:03:29 ID:BxExUQ.Y0
外見に惑わされるな、努めて冷静に剣を振るえ。
ミセリは己を奮い立たせた。

鈍重な巨体、その動きは、それが人型を取っていた時と比べても決して速くはない。
巨大な『呪』の突撃を、ミセリは余裕を持って避ける。

しかし、その余裕を埋めるように、巨体の中心近くから、一際長く青白い腕が伸びる。


ミセ*;゚−゚)リ「な――」

,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;),「死ね」


突然の、想定の枠をぶち抜いた不様な奇襲。
咄嗟に剣を盾にしたミセリを、細長い手指が捕え、突き飛ばした。

節くれだったシャーミンの指が、纏めて宙を舞う。ミセリを握り取ろうとして剣に阻まれたものだ。
一方で左腕を痛めていたミセリは、受け身すら取れずに地べたを転がる。

141100/140:2013/09/14(土) 02:04:56 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;-д)リ、「いっつつつ……割かし速くて力も有るのな」

,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;),「あぁあぁ、そりゃあもう、おいどんは復活以来数十年、不敗を保ったナリだすからね」

ミセ*゚−゚)リ「……ほざけ、卑怯者。お前なんて『カロン』の足元にも――」
lw;´- _ ノv「ば、馬鹿、止せ!」


慌てて制止するシューの声は、しかし、既に遅かった。

理由も分からず眉根を寄せるミセリに、シャーミンは身体の正面の、大きく引き裂けた口を歪めた。


,(::::: :;;;;)(:::::: :;;;;),「へぇ、お前もあの雑魚ギルドの仇討ちナリけるだすか」
‘`l;;:::::;;;;;;;;;・`/「ちゃぁんと覚えてるぞ。男の前で俺に犯されてひぃひぃヨがってた女だとかなぁ?」

ミセ#゚−)リ「……ッ!」


意識が一瞬で吹き飛んだ、気がした。
「冷静になれ」、頭の指令を心が跳ね付ける。

"黒"の精霊が身体から噴出するのがわかった。
そして、それが罠だということも。

それでも、心の波を抑えることなど、到底できなかった。

142120/140:2013/09/14(土) 02:07:08 ID:BxExUQ.Y0
lw;´- _ ノv「落ち着け、感情を抑えろ!」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「手遅れだすよ」


――シャーミンの持つ、向けられた憎悪を吸収して『呪』に取り込む能力。
気付くとほぼ同時に、左肩に激痛が走る。

左腕の呪毒が、一気に上腕を染め上げ、胸にまで達していた。

体内に直接熱した鉄を流されたような強烈な痛みに、ミセリはその場に膝をつく。


,(:::・:。:゚:;;;)(::^::^:;;;;),「ひゃはは、馬鹿が! 簡単に釣られけるだす! お前はカモなりだす!」

ミセ*; −)リ「あ……」


蹲るミセリの首を、青褪めた腕が掴みあげた。
苦しさ、悔しさ。ミセリの両目に、透明な涙の珠が浮かんだ。

143120/140:2013/09/14(土) 02:08:13 ID:BxExUQ.Y0
,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「んー……その声、顔、良いだすねぇ。生前なら間違いなく射精してたナリだす」


五指の鋭い爪に傷つけられた柔らかい肌から、血の代わりに膿が漏れる。

喉元までもが呪に侵されてしまった。
右手から滑り落ちた剣が、吊り上げられた身体の下で、乾いた音を立てる。

必死に腕を振り解こうとして初めて、ミセリは精霊の加護が自分の身体に残っていないと気付いた。
その瞳には親和を示す"緑"の輝きは無く、本来の薄茶色に戻っている。


ミセ*; −)リ「な……んで……親和が……?」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「なんで? 簡単だ、お前さんが弱っちいからナリだす」


指の千切れた青白い腕が振りあげられる。

戦う力は、もう残っていなかった。
目前に迫る死を、ミセリはただ虚ろに見つめた。

144120/140:2013/09/14(土) 02:10:28 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*; −)リ"

ミセ*; −)リ「……なんで……あなたが……」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「おっと……邪魔を」


振り下ろされた長腕は、剣士に届かずに止まる。

彼女の背中を、ミセリはただ眺めた。
命を刈り取るはずだった死神の鎌を、己の冒険に鐘を鳴らす手を掴み止めたのは。


lw  _ ノv「悪いね。私は健気に待ってたんだよ。お前が"その"姿に戻るのを」


その身の殆どを呪毒に侵された、一人の復讐者。

145120/140:2013/09/14(土) 02:11:17 ID:BxExUQ.Y0
lw;*~/._ ノv「……キミは少し、身体を酷使しすぎたんだ。もう精霊を受け入れる余地が無い。少し休め」

ミセ*; д)リ「その、顔……!」

lw;*~/._ ノv「……ああ。もう、本当に保たないね――『我が名において、命ずる』」
ミセ*; −)リ「ッ!」

『金色に輝く豊穣、此の地に息吹を満たせ』


燭台の炎が揺らめくように、儚く、弱弱しく、そして、仄かに温かく。
ミセリを、シューを、シャーミンを包み込むように、金色の輝きが広がる。

シャーミンは小さく呻き、ミセリを握っていた手をはなした。
崩れ落ちたミセリは、黄金の温かさの中、肩で息をした。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「そんなに、先に死にたかったナリだすかぁ?」

lw;*~/._ ノv「死ぬのは、私一人だよ。そして、お前も消滅して、ハッピーエンドだ」

ミセ*; д)リ「何、を……?」

lw;*~/._ ノv「すまない。もう少しだけ、我慢してくれ」

146120/140:2013/09/14(土) 02:12:03 ID:BxExUQ.Y0
地に伏したミセリの左腕に、シューはそっと手を触れた。
呪毒をなぞるように、彼女の遺した"黒"の精霊がその身体を押し包む。


lw;*~/._ ノv「『我が名において』――『命ずる』……ッ!」ゲホッ

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「何をしている……おい、その詠唱を止めるだす」


シャーミンの歪な腕が、強かにシューを打つ。

ミセリには、何も出来なかった。
無造作に拳を振り下ろすシャーミンに剣を向けることも、身を捨てて盾となるシューを止めることも。

血を吐き、歯を食いしばって詠唱を続けるシューをただ見上げることしか出来なかった。


lw;*~/._ ノv「『八重八十重の、花――』」
,(:::::゚:;;;;)(::::::。:;;;;),「……止めろ。詠唱を止めろと言っているだす! 」


精霊が渦を為し、シューの手に集まる。
止める事は、もはや叶うまい。
シャーミンは忌々しげに彼女を殴りつけた。

目や口、耳鼻から血を流しつつも、彼女は自ら生み出した金色の野に不死の王を振り返る。
ミセリは呪毒に苦しむはずの彼女の、満足気な、勝ち誇ったような顔を見た。

147120/140:2013/09/14(土) 02:12:34 ID:BxExUQ.Y0
"黒"の親和は、魂に触れる忌まわしき力。
心を繰り、情を繰り、果ては命にすらその手を触れる、異端の力。

魔人は、その力を命に触れる術に注ぎ込んだ。
死せる身体を、消えゆく魂を、精霊の"黒"を持って補う、酷薄たる死の取引。
得たものは消し得ぬ呪いに満ちた、病める生命を樹海にもたらす。

呪式士は、その力を心に触れる術に注ぎ込んだ。
内なる記憶を、刻まれた意思を、精霊の"黒"を持って書き換える、強欲な闇の取引。
得たものは――


『八重八十重の花――灰折り重なる空に咲け』


その命は、柔らかく、優しい言葉。
精霊は主の意に従い、彼女の手の中に薄く温かな光を灯す。

その姿は、春の風に眠る幼子の如き。

148120/140:2013/09/14(土) 02:13:52 ID:BxExUQ.Y0
,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「……枝、と、花?」

lw;*~/._ ノv「……ああ。理知的な私らしく、なかなか洒落が利いているだろう?」


この花は、私なんだ。

呪式士の言葉を理解する前に。
鮮やかに柔らかく色付いた、紅色の蕾が花開いた。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「え」
ミセ*; −)リ「!」


穏やかな光に、ミセリは身体がスッと楽になるのを感じた。
腕と首に刻まれた呪毒の苦しみが、ゆっくりと引いてゆく。

赤子の柔肌の白、色付けるは血潮の深紅。
己の身体を抜けてゆく呪毒、その行く先を、ミセリは見上げた。


ミセ*; −)リ「……何が……?」


その手に捧げ持った一枝が花開くと共に、呪式士は淀んだ『呪』に黒く染め上げられてゆく。
……そして、八重に咲く花に『呪』を奪い取られているのは、ミセリだけではなかった。

149120/140:2013/09/14(土) 02:15:00 ID:BxExUQ.Y0
シャーミンが断末魔に喘ぐ一方で、『呪』の苦しみから解放されたミセリの身体には、僅かに力が戻っていた。

必死に剣に手を伸ばすミセリを振り返り、シューは穏やかに微笑む。
呪毒に命を侵され、身体を引き裂かれ、それでもその二本の足で立つ彼女は、美しかった。


ミセ*; −)リ「止めろよ……もう、あなたは……」

lw;*;;;~/::._ ノv「……流石に私の呪毒までは消せないのさ。せめて、最期まで出来る事をさせてくれ」

ミセ*; ‐)リ「そんな、そんなの、それじゃ、私――私は、あなたを助けたかったのに――」


彼女はゆっくりと首を振った。

魔人となった魔導師の、シャーミンの身体が、日差しの中の湿り土のようにボロボロと崩れてゆく。
再び剥き出しになった術式核が、削れた芋虫の胴の下で断末魔の悲鳴を上げ、"黒"に明滅していた。

呪式士の枝には次々と新たな蕾が芽吹き、咲き誇ってゆく。

150以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 04:15:58 ID:JZ.kedSU0
きてたー!乙

151以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 04:16:44 ID:rb7556EcO
いいところで……、朝起きてPC直ってたら続きを!

152以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:37:24 ID:H2SISWgY0
lw;*;;;~/::._ ノv「……充分だよ。キミは私の……私達の旅を、見届けてくれた」

ミセ* ‐)リ「!」


呪式士の手の中で、かつて生命の輝きを失った魂達が再び淡い薄紅に光り、咲き誇る。
闇に舞う花弁の儚い色は、彼らの、そして彼女自身の旅の、その終着点を飾るように。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「ヤメロ、やメ――」

lw;*;;;~/::._ ノv「『我が名において、命ずる――八重八十重の花、吹き抜ける東風に舞え――』」


幾千にも散った薄紅色が稲穂の海の金色を照り返し、暗い湿林を引き裂いて天へと昇ってゆく。

陰を消し飛ばす淡い光の大渦の中で、ひび割れてゆく術式核の声が聞こえた気がした。
それは寂しげな、安堵するような、小さな言葉。

十数年にも及んだラウンジの長い夜が、終わりを迎えた。

153以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:39:18 ID:H2SISWgY0
……

役割を終えた薄紅の花と金色の野が、静かに光を失い、消えてゆく。
人型に戻ったシャーミンは、術式核から精霊を噴きだし、膝を突いていた。

戦うだけの力は無いだろうが、それでも、まだその核は生きている。

静かに見下ろす呪式士に、シャーミンは背を向けた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「あ、あぎぃ……おいどん、の身体がぁ……!」
  A"  「こんな、所でっぇぇええぇ……!」


ボロボロの身体を引き摺って、魔人の残骸は樹海の奥へ逃げてゆく。

呪式士は、それをただ見送った。
彼女の全身を覆う『呪』は今も緩やかに主の命を蝕んでいる。


lw;*~/._ ノv「あれのことは放っておけば良いよ。どの道、すぐに消滅する」

ミセ* −)リ「……すぐに、森の外に」
lw;*~/._ ノv「それも要らない。どの道、私もすぐに消滅する」


根っこのところまで『呪』にやられていて、もうどうしようもないのさ。

呪式士はミセリのすぐ側に腰を下ろした。

154以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:40:27 ID:H2SISWgY0
ミセ* ‐)リ「じゃあ……それじゃあ……!」

lw;*~/._ ノv「何もしなくて良いよ。もう終わったんだ」

ミセ* ‐)リ「だって、私、何も……!」

lw;*~/._ ノv「気付いてるかい? 最後の術のとき、シャーミンが私の憎悪を糧にできなかったこと」


キミが居たからだよ。
キミが居たから、私は憎しみのまま終わらずに済んだ。

呪式士は、ミセリの左胸で熱を持つ痣に、そっと指を触れる。

――術式印。
ミセリが気付いたのは、その痣が身体を離れ、精霊となって呪式士の元に戻ってからだった。

自分を為していた大切な何かが、そのまま抜け落ちたような感触。


ミセ* −)リ「……ヨツマで既に付けてたの?」

lw;*~/._ ノv「そ。なに、預けていたものを返してもらっただけだよ」

155以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:41:15 ID:H2SISWgY0
ミセ* −)リ「私の記憶を消したのも、それ?」

lw;*~/._ ノv「ちょっとだけ違うな。コメとライスくらい絶妙に違う」


言うなれば、魂の表面に薄い膜を付けておいたようなものだ、呪式士は説明する。
ミセリの中の彼女の記憶を、または、ミセリの魂を侵す呪毒を、表面に留める為の膜。
後にそれらを剥ぎ取りやすくする為の、言うなればただの下準備だ。


lw;*~/._ ノv「つまり、あれは言うなれば田植えの前の開墾だ。こう言えばわかるかな?」

ミセ* ー)リ「分かりにくいよ……」


汗と泥にまみれたミセリの頭を、細い指が梳く。
呪式士の優しい指に、身体に溜まっていた疲れは眠気を為す。

そうして微睡むミセリを置いて、彼女はスッと立ち上がった。

156以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:41:59 ID:H2SISWgY0
「私ももう行くよ、ここに居たらキミも新しい『呪』に巻き込んでしまうから」

ミセ* −)リ「……あ」


彼女の袖へと伸ばした右手は、何も掴めなかった。

――大丈夫、目覚める頃には、すべて忘れてるから。
名を呼ぼうとして初めて、ミセリは彼女の名前が既に思い出せないことに気付いた。


「ああ忘れてた、その腕輪はキミにあげるよ。心ばかりの報酬だ」

ミセ* ‐)リ「待ってよ……待って」

「『悠久に座す静寂よ――』」

ミセ*;−)リ「お願い、待って――」

157以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:42:53 ID:H2SISWgY0
……


,冫,,)( ,,;; ノ",「あひぃ……『呪』、『呪』を吸収、いや、人の、人を――核を交換しなければ……ッ!」


破れた魔人の残骸は、樹海をふらふらと逃げていた。

信じ難い、有ってはならない敗北。
歩みを進めるシャーミンの"心"は、怒りと憎悪に震える。

しかし、今はそれよりも。
彼は体内で明滅する核に目を向けた。

傷つきひび割れた'それ'は、もはや崩壊を待つのみだった。

――この身体は、じきに"死"ぬ。
狡猾な魔導師は手にした不老不死に早々に見切りをつけ、"生き残る"手段を必死に探す。


( )


彼が樹海をさまよう小柄な人影を見つけたのは、その手段を『憑依』に定めた丁度その時だった。

158以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:43:46 ID:H2SISWgY0
,冫,,)( ,,;; ノ",「お、あ……あの、そこの、方――頼む、助けて――」

( )「……」


シャーミンは出来る限りの哀れさを装い、よろめく足取りで影に近付く。

影は、答えない。
シャーミンは内心で舌打ちしつつも、尚も必死な素振りで話しかけた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「すまねぇ、ちょっとでいい、近くに来て、ぐれッ」


もはや、核は崩壊し始めている。
これは彼にとって、事実上の最後のチャンスだった。

……縋るような声に答えるように、人影は緩慢に振り返る。

159以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:44:31 ID:H2SISWgY0
(` )「……待ってろ」

,冫,,)( ,,;; ノ",「は、はぁぁああ、恩にき――!!」
「――そうやってオサム達も騙して、『呪』にしたんだな」


背中に、衝撃。
血も痛覚も無い身体は、ただ違和感だけを訴える。

――核、核を守らなければ。
無意識に伸ばした手は、腹から突き出した人の腕に触れて止まる。

どてっ腹を突き破った腕の、その指先には、小さな女物の髪留め――シャーミンの術式核が握られていた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「え……あ……おぁ、お前ぁッ!」

「久しぶりだな。再会早々で申し訳ないが……もう歳なんだ、そろそろお休みの時間じゃないか?」

,冫,,)( ,,;; ノ",「ま、待で、やめてぐれ! お前は俺の息子だろ――」


胴体から引き抜かれる腕、シャーミンはその主を振り返ろうとして、しかし出来なかった。
膝が、腕が、腰が、身体中が、支えを失った糸繰り人形のように崩れ、土塊と化してゆく。

小さな術式核は、小柄な影の手の中で粉々に砕かれていた。

160以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:45:09 ID:H2SISWgY0
,冫,,)( ,,;; ノ",「――おのれ――ド――ク、オ――」


それが、呆気ない終わりを迎えた魔人もどきの、最後の言葉だった。
遺された土の塊には、呪砲を発明し、ラウンジを隆盛せしめた、偉大なる魔導師の面影は無い。


('A`)「気安く呼ぶんじゃねぇよ、クソ親父。……じゃあな」


別れの言葉は、たった一言ですんだ。
踵を返し、男は独り暗い樹海を歩む。

161以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:45:43 ID:H2SISWgY0
……

エピローグ2/3-1/3-1/3

……

162以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:52:34 ID:H2SISWgY0
('(゚∀゚∩「肩と肘が見事に砕けてるよ。手首もきっと折れてる。で、それぞれ炎症のおまけつきと来た」


温厚なナオルヨ先生が冒険者を叱り飛ばす様子は、この薬方院の名物だ。
私はつい気になって、脇腹の傷に響かないようにそっと寝返りを打った。

今朝隣のベッドに入ってきた患者さんは、女性だった。
女性というか、まだ少女と呼ぶ方が良い年齢の冒険者。

肌着から伸びる彼女の左腕には、芍薬の甘い香りが染み込んだ包帯。
伝承のミイラを思わせるその腕に、先生は木彫りの腕甲を当てがう。

彼女が昏睡から目覚めたのは、確か数刻前だったはず。
つまり、彼女は数刻にも渡って先生に説教されている。


('(゚∀゚#∩「ここまで酷いのはそうそう見ないよ! どんだけ長い間感覚を遮断してたのさ!」

ミセ ;-ー)リ「ご、ごめんなさい」

163以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:53:07 ID:H2SISWgY0
痛みは身体の大事な信号云々、先生の怒りの説教はゴリゴリ続く。

私は思わず目を背けた。
先生は本当に、本当に優しい人だ。冒険者が無茶をすると、決まってああして説教に入る。
今日ほど怒っているとなると、誰かが止めなければ、朝までだって延々と話し続けるだろう。

今日この場についてその役を請負ったのは、彼女に付き添っていたもう一人の少女だった。


(*‘ω‘ *)「……で、どれくらいで治るっぽ?」

('(∀゚∩「……うーん、薬漬けで絶対安静にしてれば、たぶん一月ないくらいで治るよ。自信無いけど」


付き添いの少女の問いに、ナオルヨ先生は顔を顰めた。

先生のそういう様子は珍しいから、私もつい身を乗り出してしまう。
もしかして、よっぽど症状が重いのだろうか。


(*‘ω‘ *)「怪我の割にはえらく早いな。自信無い、ってのは?」

('(゚∀゚∩「"緑"持ちは自然治癒が馬鹿みたいに速いからね。有る程度処置したら、あとはほぼこの子次第だよ」

(*‘ω‘ *)「成程」


成程。

164以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:53:30 ID:H2SISWgY0
('(∀-#∩「全く、今はアイシス局長も戻ってないのに……」


ナオルヨ先生は頭を掻きながら個室を出てゆく。

人出が足りないというだけの事はあって、それなりに忙しそうだ。
恒例のお説教が若干短いのもそのせいだろう。

傷だらけの少女が、その背中に声を掛けた。


ミセ ゚ー゚)リ「そだ、ナオルヨ先生。渡辺さんは元気?」

('(゚∀゚∩「……渡辺さんって誰?」


不思議そうに問い返す先生に、ベッドの少女は驚いた様子。
彼女はそれ以上深く追及せずに、言葉を濁して先生を見送った。

先生の姿が敷居の向こうに消えると、付き添いの少女も首を振って、もたれ掛かっていた壁から背を離した。


(*‘ω‘ *)「……あたしも先に用事を済ませて来るっぽ。一人でも寂しくないな?」

ミセ ゚ー゚)リ「大丈夫だよ……あ、ぽっぽちゃん、ちょっと待って」

(*‘ω‘ *)「あん?」

165以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:54:11 ID:H2SISWgY0
ミセ ゚ー゚)リっ∮「このブレスレット、知ってる? すごく良い増幅器みたいだけど……」

(*‘ω‘ *)「……それは、依頼人からお前への報酬だっぽ。大事にしてやれ」

ミセ ゚ー゚)リ「……? うん」


当然だけれど、ほとんど盗み聞きしているような私には、二人の話が全く分からない。
ところが、それは寝ている方の少女も同じだったらしく、少し困惑したように頷いた。

二、三言葉を交わして付き添いの少女が出てゆくと、ベッドの少女は窓の外を眺めた。


ミセ ゚ー)リ「……あのさ。そこの樹だけど、あれってなんて名前?」


私ははじめ、それが私に向けられた言葉だとは気付かなかった。

この病室には、他に誰も居ない。
どうしたものかと悩む私に、彼女はちらっと視線を寄こす。

あれは、桜っていう樹だよ。

私はなるべく平静を装って答えた。


ミセ -ー)リ「……そっか。ありがとう」

166以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:56:59 ID:H2SISWgY0
少女は起していた上体をベッドに寝かせ、天井を仰ぎ見た。

窓の外では、秋の風に桜花が静かに揺れている。


ミセ ー)リ「なんでかなぁ」


一人きりの病室に、呟きが漏れる。
遠くの足音、話し声。窓の外で風が草木を揺らす音。

私は静かにベッドを抜け出した。
そのまま壁をすり抜けようとする直前、彼女はもう一度、私に声を掛けた。


ミセ ∩ー)リ"「……ごめんね、気を遣わせちゃって」


私はただ何も言えず、静かに中庭へと降り立った。

いずれ彼女にも再び武器を取り、樹海へと挑む時が来る。
血や涙を、心を失った私には、そんな彼女が羨ましかった。

……

167以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:57:39 ID:H2SISWgY0
……

親和で強化した目を通しても、一寸先も見通せやしない。
彼女は諦めて親和を切り替え、嗅覚に神経を集中させた。

微かな花の香りが潮の磯香に交じり、道標のように漂う。

……螺旋階段を下りた先は、光片一つすら無い、真の暗闇だった。
彼女はゆっくりと磯を辿り、やがて一つの独房の前で足を止める。


从'ー'从 ノ「よっす。不様ですなぁ」

「……嫌味でも言いにお出でなさったのかな」

从'ー'从「そんなんじゃないよぉ、追加のお仕事」

「っと、何これ……マメノキ?」

从 'ー从「外区画の素直別邸、五刻後。どっくんが潜伏してるから、補佐して」

「補佐……って、親和も殆ど無いあたしに何をしろって?」

从'ー'从「呪毒の除染治療だって。ラウンジとの重要な情報管だから、何としても死なせられないんだ」


独房の闇の奥から、溜息が暗闇に漏れる。

168以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:59:02 ID:H2SISWgY0
「無茶言ってくれるよね。ま、ドクオさんが居るなら何とかなるか」

从'ー'从「うん。それじゃお願いね、局長」

リハ*゚−リ「……はいはい、サクッと行って来ますよ」


音と光、風の無い独房に、背を向ける。
巻き添えになるのも、疑われるのも避けなければならない。

数刻の後、巨大なマメノキの蔓が地下牢を貫き、ラウンジはシハサ牢獄の屋根をぶち破った。

……

169以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:00:31 ID:H2SISWgY0
……


飛び散った欠片を拾い集めるように。

物語は、続く。


……

170以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:03:50 ID:lDx7oePY0
長らくのご静聴、ご愛顧、ご支援、誠にありがとうございます。
長くて重くて筆の乗らない第二章はここまでとさせて頂きました。

例によって、何かありましたらこちらにお願いします

171以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:09:17 ID:lDx7oePY0
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/link.cgi?url=http://www.youtube.com/watch?v=neibvJHm55Y

172以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:10:34 ID:lDx7oePY0
おっと、誤送信。参考資料でhttp://www.youtube.com/watch?v=neibvJHm55Y

引き続き、ミセリ樹海をよろしくお願い申し上げます。

173以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:22:34 ID:gG6dZ6fI0
おつ!

174以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 11:57:58 ID:tmj2j0qg0
乙!
さっさと仕事終わらせよう

175以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 17:43:16 ID:rb7556EcO
痣はレズシーンのときだろうが記憶はいつ消したんだろう 
誰か教えて!

176以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 20:27:07 ID:cjYADz8.0
……あれ、レズシーンなんてあったっけ?
記憶はシャーミン戦の最後の方、地の文からシューって文字が減りはじめたタイミングを裏設定してました

177以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 01:12:59 ID:.S/qUy860
おおう、シュー…
ドクオも複雑な生まれだったんだね
乙!!!!

178以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 02:07:44 ID:Hi8l056UO
>独房の闇の奥から、溜息が暗闇に漏れる。 
 
誰が幽閉されてるか気になるがこれはネタバレだからだめな質問だろうな

179以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 05:43:04 ID:Cfzo/lqk0
>>178 アイシスじゃない?
渡辺さんってラウンジで工作してたって下り、確かどこかにあったよね。読み返して来るか……

180以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 04:04:09 ID:FT/CcP6U0
何気にクーが天涯孤独になってしまったなあ

181以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 21:56:55 ID:DeX6v6sA0
え?
シュー生きてるんじゃ無いの?
俺の勘違いなのか?

182以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 22:55:54 ID:HCt7uo5U0
そもそもクーの実家は普通に健在……だよな?
しばらく待てば拳マスタリーLv10のヒートちゃんも出して来るはず

183以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/28(土) 03:15:23 ID:6OHruua20
|ω・`)チラッ

184以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/03(木) 18:48:21 ID:/wB/xqdQ0
すんません、ちょっと職探しがですね。このままだと僕自身も樹海に入る事になってしまうのです
良ければまた月末を目処にお願いします

185以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/03(木) 22:57:46 ID:9hCeOGbU0
就活乙
俺もなんだぜ、お互いがんばろうな!

186以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/18(金) 10:51:04 ID:iVKaWUls0
作者「樹海で逝く者のようです」、か

187以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/29(火) 02:38:28 ID:NikpwrD60
月末やでー!就活どうよ?

188以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/29(火) 21:08:56 ID:NVbNvU6Q0
就活って一つ内定貰えると勢いつくよね
たまには息抜きも大事だよ

189以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/11/01(金) 21:44:57 ID:FRKYM5lw0
ごめんなさい実はまだ内定いっこも貰ってないんです

190以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/11/04(月) 01:59:10 ID:nGhtVsFw0
俺もなんだぜ…

191以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:01:38 ID:otpZ82sk0
二つ、報告します

192以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:03:38 ID:otpZ82sk0
まず一つ目。いいニュース

健闘の甲斐あり、というか、皆様のご支援の甲斐あり、無事に北海道のとある企業様から内定を頂きました!

193以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:04:50 ID:otpZ82sk0
そして二つ目は悪いニュースですが。




内定もらったんだけどね。
卒論不受理で留年確定しましたorz

194 ◆LpPqFskzB6:2013/12/18(水) 22:09:37 ID:qByO7/qM0
いやー、本当ね。
地球、樹海に沈まねぇかな。マジで

こんなゴクツブシですが、来年もよろしくお願いします

195以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/19(木) 09:46:44 ID:.JWAQoOsO
あらー、色んな意味で乙ですな

196以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/19(木) 18:39:15 ID:wpM4QqA20
おっと、忘れるところだった
ミセリ誕生日おめでとう

197以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/20(金) 00:03:27 ID:W6U854Js0
おお、それは大変だったな・・・乙
俺もたまに隕石降ってこいとか願ってるぜ('A`)地球が樹海に沈むのもいいな

ミセリ誕生日だったのか、おめでとう

198以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/01(水) 20:59:45 ID:vlc7PjZY0
あけましておめでとう
今年も楽しみにしてるよ

199以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/14(火) 20:53:22 ID:AHUnCEGk0
元気ー?

200以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/15(水) 01:34:32 ID:sGS7gzoI0
風邪引いて死にそうだよー
作者は元気ー?

201以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/17(金) 22:18:01 ID:pP6gmeTM0
>>200
お大事にね

202以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/18(土) 01:23:22 ID:b057QQBA0
奥歯二本もぶっこ抜いたせいで色々と問題出てるけど元気です

後始末に手間取ったけれど、そろそろ投下します

203以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/21(火) 18:40:29 ID:.WGEbL1A0
wktk

204以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/21(火) 21:21:53 ID:Hxj0H7E20
おーついにか!
待ち遠しいわ

205以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 20:21:16 ID:OW8ngGY.0
たまに、ありがたくも、創作でやってくれって意見を言って下さる方が居らっしゃいますね

ごめんなさい、もう少しこの廃墟板で頑張ってみたいんです。お引っ越しは、当面は行わない心積もりです
ご支援ありがとうございます

2061/50:2014/02/07(金) 20:29:01 ID:g96DFvxs0
据え付けられたノッカーを乱雑に数度打ち鳴らし、返事を待たずドアを押しあける。
歓迎は晩夏に似合わぬ異常な熱気と、所狭しと並べられた増幅器付きの武具の数々。

ぽっぽは重苦しい武具棚の間を抜け、店の奥、工房への扉を潜った。

店主を兼ねる工房主は、鉄輪付きの車椅子に腰かけ、鉱炉を覗き込んでいる。


(*‘ω‘ *)「よっす、久々」

(  ^)「……なんだ、お前か。ちょっと待ってろ」


鉱炉から引き出された金属細工は熱を吸った橙色、刻み針がその熱塊に表情を与える。

ぽっぽはただ、無言で彼の手元に見入った。
空色の石が金属の中心に浮かび、その澄んだ眼を開けてゆく。

2071/50:2014/02/07(金) 20:29:48 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「それは……アンプか?」


工房主は答えず、作業台の術式回路に精霊を流し込んだ。
壺型の冷却機巧が回転し、氷混じりの白い霧を噴きだす。

鉛鉄の覆いを乗せた増幅器の元型を壺の底に慎重に横たえ、主はようやくぽっぽを振り返った。


( ^Д^)「何しに来たんだ、チビガキ」


プギャー・ストロサス。
数十の職工を束ねる溶鉱炉の護主・ストロサス一門の、その落とし子。
貴族を名乗ることを王に許された唯一の工廠一家の、異端のはぐれ者。

不自由な足に代わる車輪を軋ませ、不機嫌そうな声で彼はぽっぽを出迎えた。

2081/50:2014/02/07(金) 20:30:46 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)っ[ミ]


作業台に置かれた布の小包みに、プギャーは怪訝な顔を見せた。
拳大の包みを開くと鉄木の欠片、その中心には上質な大ルビー。

顔を上げると、客人は至極申し訳なさそうに目を逸らしている。


(;^Д^)っ「なんだ、これ。増幅器……付きの、ワンドの欠片?」

(* -ω)「悪い、折れたっぽ」

(#^Д^)「ふざけ、おま、何度目だよ! ウチの武器の評判落とすの止めろって!」

(*‘ω‘ *)「一応聞くけど、それ直るか?」


プギャーは無言でルビーを取り上げ、その脇に纏わりつく鉄木片に小刀の腹を押し当てた。

2091/50:2014/02/07(金) 20:31:14 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「ま、今回は長持ちした方か。……それで?」

(*‘ω‘ *)「蛇剣に芯まで削られて、そのままドラゴンの後ろ頭をおもくっそブッ叩いたっぽ」

(;^Д^)「はぁ? 随分ハデな冒険してるんだな」

(* -ω-)「そのワンドにはずいぶん助けられたっぽ」

( ^Д)「……ふん。それなら良い」


木片から削り出した赤い増幅核を、プギャーは片手で放った。
真球の宝玉が、受け取ったぽっぽの手の中で仄かに熱を放つ。


( ^Д^)「核が無傷なのは不幸中の幸いってところだな。下手に加工しなくても、転用できる」


プギャーは冷却機巧を止め、車椅子を巧みに操って店の方へ抜けた。
ぽっぽは無言でその後に続いた。床木が軋む音色が寂しく後を引く。

2101/50:2014/02/07(金) 20:31:56 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「それで、どうするんだ?」

(*‘ω‘ *)「代わりになる戦棍が欲しい。今ある品を見せてくれ」

( ^Д^)σ「そっちの、奥の棚だ」

(*‘ω‘ *)「さんきゅ」


ぽっぽは指された棚を見上げた。
下段は叩き潰すことに特化した大柄な槌棍から、上段は軽さを優先した細い鞭棍まで、数十の棍が並んでいる。

これらの得物はすべて、ストロサス家の工蔽で製造・量産されたものだ。

隣に並んだプギャーが棚下の引き出しを開け、掛け金の鍵を取り出した。

2111/50:2014/02/07(金) 20:32:22 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「ほら、好きなのを試しな」

(*‘ω‘ *)「ん」


前の一振りと大きさが近い一本を選び、手に取る。
見た目に反して、随分と軽い。

求めているものではない、ぽっぽは精霊を通すことなく棚に戻す。


(*‘ω‘ *)「これより重いのは無いのか?」

( ^Д^)「予算次第だな。基本的には重いほど頑丈で、頑丈なほど高い」

(*‘ω‘ *)「ほう」

2121/50:2014/02/07(金) 20:32:59 ID:g96DFvxs0
続けて手に取ったのは、一周り大きな槌鉄付きの棍。
先端部分にも増幅器が埋め込まれ、赤く輝きを放つ。

片手に持ち上げると、極端に偏った重さのバランスは存外に持ちにくかった。

首を捻り、棚に戻す。これもまた、しっくり来ない。


( ^Д^)「んで、予算の都合はあるのか?」

(*‘ω‘ *)「とりあえずは考えなくて良い。少なくとも前のと同じ位の額は出せるっぽ」

( ^Д^)「じゃあその打棍は明らかに力不足だな。三つ左隣りの、黒樫を取ってみろ」

(*‘ω‘ *)「これか?」


示されたのは、肉厚の鉈の形に整えられた、単純な作りのオールメイス。
皮を巻いただけの持ち手は馴染みが悪かったが、重みもバランスも悪くない。

ぽっぽは目を細めた。

2131/50:2014/02/07(金) 20:33:54 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「前の捩棍からだと慣れるまではかなり辛いだろうが、それがウチの売り物で一番良い棍だ」

(*‘ω‘ *)「ふぅん……確かに、これは悪くないな」


親和を通すと、先端の精霊機巧は精霊を推進力に変えた。

振り下ろすと、鋭い風切り音。
その形状ゆえだろうか、重さの割には速度が乗り、なかなか心地が良い。


(*‘ω‘ *)「……悪くないっぽ。ああ、悪くない」

( ^Д^)「じゃソイツはダメだな。最初に取った時『良い』と言えない武器は、肝心な時にぶっ壊れる」

2141/50:2014/02/07(金) 20:34:28 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「ん……すまんな」

( ^Д^)「良いさ。半端に選んで樹海で死なれるよりよっぽど良い」

(*‘ω‘ *)「……っぽ」


黒樫を棚に戻し、ぽっぽは棚を眺めた。
姿形はそれぞれで、しかし、「これ」と思うものは一つも無い。


( ^Д)"「ま、気に入るものが無いなら無理に買わなくても良い。気が済むまで試しな」

(*‘ω‘ *)「……なぁ、プギャー」


車椅子を反転させ、工房へと向かうプギャー。
ぽっぽはその背中に声を掛けた。


(*‘ω‘ *)「お前の工房に大事に飾ってある捩棍、アレは売り物じゃないのか?」

2151/50:2014/02/07(金) 20:35:17 ID:g96DFvxs0
(  ^)「……あれは、前の客の特注品だ。縁起が悪くて売るに売れないから、後ろに置いてるだけだ」


ちょっと待ってろ、プギャーはそう言って工房へと姿を消す。
戻ってきた彼の手には、黒鉄木の大戦棍が握られていた。

ビロード二人分にも迫るような大柄な柄材に、先端には精霊出力機巧。
握りの鋳鉄も本体に比例して太く、ぽっぽの手には大きく余る。

名棍の器を持ちながら、その巨大さゆえに常人には振りあげることも、振り下ろすことも困難なほど。


( ^Д^)「『黒天大王』、その棍の銘だ」

(*‘ω‘ *)「……重い、な。どんな客の注文だ?」

( ^Д^)「トカラス人の、バカでかい冒険者だよ。しばらく前、クフ高原のスタンピードで殉死した」

2161/50:2014/02/07(金) 20:35:48 ID:g96DFvxs0
親和を起動。
"赤"の精霊を、柄と先端の増幅器に通す。

埋め込まれた増幅器は決して質の悪いものではなかったが、相性が合わず、求めただけの出力は出ない。


( ^Д^)「その核は仕上げの際に交換する予定だった。もともと仮留めだ」

(*‘ω‘ *)「……良い」

( ^Д^)「あん?」

(*‘ω‘ *)「ここの棚の、他のどれより良い。これが気に入った」


金は言い値で払う。だから、売ってくれ。
ぽっぽの求めに、驚いたのはプギャーだった。

2171/50:2014/02/07(金) 20:37:39 ID:g96DFvxs0
(;^Д^)「な、何言ってるんだ。お前それ、持つこともできないだろうが」

(*‘ω‘ *)「それは……後で握りを削ればなんとか……」

(;^Д^)「そいつは黒鉄木だぞ、素人にそんな加工は無理だ。それに第一、重さだってお前の身体に合わない」

(*‘ω‘ *)「……くっ……」


ぽっぽは悔しげに引き下がった。

戦棍を選ぶ際に基準となるのは、何よりも重さと大きさだ。
腕力が足りなければ振り回す出来ないし、体重が足りなければ自分が振り回される。

切るように叩く鉈型の打棍ならばともかく、重心が先端に寄った捩棍を選ぶ際には、
そのバランスが絶対の条件として挙げられる。

黒天大王、その一振りは、ぽっぽが持つにはあまりにも大きすぎ、重すぎた。
あと、それを買うなら予算は金貨数十枚は下らないぞ。この言葉は、プギャーはなんとか飲み込んだ。

2181/50:2014/02/07(金) 20:38:16 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「だいたい、そんな異端品のどこが気に入ったんだよ」


モノの良さで言うなら、さっきの黒樫だってストロサス本家から取り寄せたものだ。

種別が少し違うとはいえ、使い易さも精霊効率も、段違いに向こうの方が上だ。


(*‘ω‘ *)「うまく言えないが……とにかく、気になるっぽ」

( ^Д^)「……そうかい。だが、それでも売れないな。お前には合わないんだからよ」

(*‘ω‘ *)「ぐぅ……」


ぽっぽは渋々と棍をプギャーに返した。
プギャーはそれを受け取らず、代わりに棚の端、空いた一枠を指差す。
立ち並ぶ棍の数々と比べても、この黒天大王は一周り以上は大きい。

ぽっぽは名残惜しげに示された棚に棍を立てた。

21915/50:2014/02/07(金) 20:39:12 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「どんな奴だったんだ?」

( ^Д^)「……変人。んで、ぶち抜けてバカだった。腕っ節は良かったんだがな」

(*‘ω‘ *)「……ふぅん」

( ^Д^)「放って置きゃいいのに、クフ高原のスタンピードに立ち向かって、喰われて死んだバカだよ」


車椅子を回転させ、プギャーは店の奥へと進んでゆく。
ぽっぽは棚から目を離し、その後を追った。


(*;‘ω‘ *)「なぁ、もしかしてあの黒天大王って……」

( ^Д^)「……ああ、俺の作品だ。昔のモノとは言え、褒められた出来じゃねぇ」

(*‘ω‘ *)「そんな事は無いっぽ。お前、調整だけじゃなくて精造もしてたんだな」

22015/50:2014/02/07(金) 20:40:53 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「その話は良いさ。それより、この先の武器はどうするんだ?」

(*‘ω‘ *)「……どうするかな。気に入ったものがアレしか無い以上、他の物を買う訳にはいかないっぽ」

( ^Д^)「ふぅん……ま、それなら一度、ストロサス本家の工房に行ってみろよ」


プギャーはカウンターの下から一枚の小さな柄付きの鉄判を取り出し、工房へと入った。

鉄判の印形は、ストロサスの銘。
鉱炉の竈に翳して灼熱したそれを、プギャーは小さな羊皮紙片に押し当てた。

獣臭い、皮素材が焦げる匂いが漂い、ぽっぽは思わず顔を顰める。


( ^Д^)っ□「ほら、こいつが紹介状だ」

(*‘ω‘ *)「いいのか? 助かるっぽ」

22115/50:2014/02/07(金) 20:41:13 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「いいか、ただの冒険者が工房に入れんのは日没後の一刻の間だけだ。遅れるな」

(*‘ω‘ *)「ほーん」

( ^Д^)「……さっさと行け。今から行けば、日没には間に合うだろ」

(*‘ω‘ *)「……っぽ。また来る。次は茶の一杯くらい用意しとけっぽ」


足音が遠ざかり、ドアが軋み、静寂。
プギャーは乱雑に印型を放った。

カラカラと、澄んだ、乾いた音が響く。


( ^Д^)「……ふん」


反響音が静まり、再び静寂。
工房の主は、空き手に相棒の鎚を取り上げる。

重く冷たい鉄塊が、炉の赤を照り返した。

22215/50:2014/02/07(金) 20:44:10 ID:g96DFvxs0
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

幕間δ−表

22315/50:2014/02/07(金) 20:45:05 ID:g96DFvxs0
……

( ^Д^)っ“旦「……んで結局、本家じゃ何も買わなかったと」

(*‘ω‘ *)っ旦~「ぽ。どーにも肌に合わないというか、まぁ、とにかく、気に入らなかったっぽ」

( ^Д^)「贅沢な冒険者サマだな」


差し出された茶を一息に飲み干す客人に、主はあきれた声を出した。
熱気を逃すために開けた窓の外に、白昼の喧騒が遠く聞こえて来る。


( ^Д^)「親父の銘の入った作品なんて、手を触れるだけでも中々出来ないってのによ」

(*‘ω‘ *)「……すまん」

( ^Д^)「いや、良いさ。しっかし、そうすると、お前の気に入るような戦棍なんぞ誰も造れんぞ」


ぽっぽは静かに首を振った。

22415/50:2014/02/07(金) 20:45:59 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「悪くは、なかったっぽ。きっと、誰が扱っても“悪くない”だけの品だった」

( ^Д^)「……だろうな」


なにせ国王お抱えの貴族様だ。

自嘲するようなプギャーの声を背に、ぽっぽは棚を見上げていた。
立て掛けられた巨大な戦棍は物言わず、ぽっぽを見下ろしている。


(*‘ω‘ *)「お前は、貴族や冒険者に戻るつもりは無いのか?」

( ^Д^)「無い。というか、戻りたくても戻れねぇよ。この足じゃな」

(*‘ω‘ *)「……悪い」

( ^Д^)「いいさ。それだけじゃないし、何より……」


プギャーは言葉を切り、ぽっぽの視線の先の戦棍を見やる。
巨大な戦棍はやはり物言わず、プギャーを見下ろしていた。

22515/50:2014/02/07(金) 20:46:31 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「……?」

( ^Д^)「……いや。ソイツにきっちりケリ付けるまでは、ここを畳む気になれねぇんだ」

(*‘ω‘ *)「例の、トカラス人だったか」

( ^Д^)「……」

(*‘ω‘ *)「……なぁ」


車椅子を繰って、プギャーは捩棍に背を向けた。
そのまま工房へと引こうとする彼の背に、ぽっぽは声を掛ける。

22615/50:2014/02/07(金) 20:47:18 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「どうしても、アレを売ってくれるつもりは無いのか?」

( ^Д^)「ああ、無い。お前の身体に合わないし、死んだ客の為の武器なんぞ縁起が悪くて売り物にならん」

(*‘ω‘ *)「……仕方ない」



(*‘ω‘ *)「それなら売ってくれるまで通うまでだっぽ」

(;^Д^)「……あ? 何言ってんだ、お前……おい待てって!」



呼びとめるプギャーを無視し、ぽっぽは一足に店を飛び出した。

乱暴に扉が閉ざされ、再び静寂。プギャーの溜息が静かに蹲る。


( ^Д^)「……どうしろってんだ」


疲れた、そう言外に語る声を、巨大な戦棍は物言わず見下ろしていた。

22715/50:2014/02/07(金) 20:48:19 ID:g96DFvxs0
……


(*‘ω‘ *)「で?」
( ^Д^)「だめだ」

(*‘ω‘ *)「……ち」


堂々の宣戦布告から六日、両軍は膠着状態を打破できず。

片方が頼むと言えばもう片方は駄目だと返し。
片方が諦めろと言えばもう片方は嫌だと返す。

現在までのところ、両者共に根負けする予定などは無い。


( ^Д^)っ“旦「……ったく。ほれ」

(*‘ω‘ *)っ旦~「さんきゅ」


差し出された茶を一息に飲み干すぽっぽに、プギャーは片肘をついてあきれた視線を向ける。
もう三日も前から、彼はこの厄介な客人が来る定刻の直前に茶を用意するようになっていた。

鼻息荒く押し入ってくる彼女も、湯呑を机上に置く頃には随分と大人しくなっているものだ。
良い値段に釣り合う効能は出ているらしい、プギャーは目を細めるぽっぽから目を逸らした。

22815/50:2014/02/07(金) 20:49:42 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「毎日毎日、本当に御苦労なもんだ。糸目のチビはお守してなくて良いのかよ?」

(*‘ω‘ *)「問題無い。奴なら別のチビに任せてあるっぽ」

( ^Д^)「別のチビ、ねぇ……どんな奴?」

(*‘ω‘ *)「あー、えーと……腹黒で意地っ張りで、チビで癖っ毛でオカルト体質で、とにかく良い奴だっぽ」


ぽっぽの回答に、思わず呆れて額を手の甲に押し当てる。


(;^Д^)「良い奴だと思うんだったら少しは良いトコも挙げてやれよ」

(*‘ω‘ *)「いやだ。……んで、今は肘の骨をぐちゃぐちゃに折って入院してるっぽ」

( ^Д^)「肘って……お前の棍を折ったとかいうドラゴンか?」

22915/50:2014/02/07(金) 20:50:21 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「ドラゴンはまた別だっぽ。ミセリはラウンジの、よくわからん親和使いにやられた」

( ^Д^)「はぁ、そりゃまた何とも……」

(*‘ω)「もうあと数日で完治するらしいけどな。出来ればそれまでに心変わりしてくれると嬉しいんだが」

( ^Д)「残念ながら、そんな予定は無いな。今のところ、新しく別の品を入荷する予定も無い」

(* -ω-)「はぁ。……仕方ない、間に合わせに別のを売ってくれ。実はあまり時間も無い」


プギャーは驚き、顔を上げた。
目の前のぽっぽは、空の湯呑に眼を落したまま、動かない。


( ^Д^)「なんだ、依頼でも受けたのか?」


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