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おもらし千夜一夜4

1名無しさんのおもらし:2014/03/10(月) 00:57:23
前スレ
おもらし千夜一夜3
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657事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。12:2019/04/30(火) 01:13:56
  「――ま、間もなく開演です」

緊張しているのか少し上ずったアナウンスが聞こえた後、体育館の明かりが暗くなる。
それと同時に星野さんの手が私の頬から離れる。

『あ、しまった、おしっこしたいのに……白縫探し損ねた。まぁ、終わるまで我慢して、それからでいいかー』

不安な気持ちは殆どない……本当に平気なつもりで言ってる。
今までの『声』から考えて、恐らく沢山飲んだ事とトイレに行きたくなることが確り結びついて無い様に思う。
普通に身体の機能としてそのことを理解してる人も多いとは思うがそうでない人も少なからずいる。
沢山我慢できる人の場合、少々多めに水分を取っていたからと言ってすぐに強く催すことがないので実体験でその知識を得ることが出来ない。
星野さんはそういうタイプなのかもしれない。

……。

終わる頃には切羽詰まってるはず……だけど、もう一押し出来るならしてもいいかもしれない。
私は紙コップを取り出し、水筒の蓋を開ける。

「あ、コーヒー飲むの?」

音と香りで気が付いたらしい。
私は「はい」と言いながら半ば強引に紙コップを持たせる。

「ちょっと、別に私はいらないんだけどっ」

「……付き合ってよ、減ってないと戻ったとき宣伝活動サボったみたいに思われるし」

私はそれっぽい断りにくい言葉を返す。
星野さんは複雑な表情をしてから何も言わずに紙コップを私が注ぎやすい様に差し出す。

――……あー……やだなこの感じ……。

断ってくれてよかったのに、そんな勝手なことを思ってしまう。
善意を利用して罠に嵌める……自分でして置きながら胸が苦しくなる。
“あの言葉”を聞いたときの印象とはまるで違う星野さん。
今までのやり取り、そして欲しくもないコーヒーを飲んでくれる……星野さんは最低限の良識は確り持ってる。
私の中の星野さんはもっと自分勝手で良識無くて口が悪くて――……なんで……なんでそんなイメージしてた?

それは、相手を悪だと思いたかったから。
要するに私は自分の良心を痛めないための理由が欲しかった……。

星野さんはそんな人じゃない……わかったならこんなバカな事しなきゃいいのに……絶対後で後悔するのに。
それなのに……やっぱり私は“あの言葉”が頭を離れない。おもらしなんてありえない――……あの時の紗も……。

――……そう、わかってる……これは八つ当たりも含めてる……。

私は星野さんの言葉と紗に言われた言葉を無意識に重ねていた。
紗だって悪くないのに……そもそもあれは私が悪いはずなのに……。

全部わかってる……それでも、おもらしなんてありえないと言える、星野さんの『声』が聞きたい。
そういう『声』が好きなのは間違いないしそれが一番の理由……だけど、それだけじゃない…今日の私はきっと見返したいんだ。
おもらしなんてありえない……あってはいけない事だけど、あり得ることなんだって、ちゃんと知ってほしい。

……。

私は星野さんの紙コップにコーヒーを3割ほど入れて水筒を立てる。

「こんだけでいいの?」

「……うん、やっぱ悪いし、自分でも飲むし」

私はそう言って自分の紙コップには6割ほどコーヒーを淹れる。
中露半端な気持ちが、注いだコーヒーの量に反映されてる。
少しでも罪悪感を感じないように自分の分を多くして……だけどそれは私に余裕があるからで、結局打算的な考えで。
私自身、現時点でそれほど催しているわけじゃない。今が3〜4割程度……そしてこれ以外の水分も朝以降取っていない。
星野さんは最初のコーヒー以外にスポーツドリンクと今淹れたコーヒー。
仮に星野さんがまゆほど貯められるとしても私に十分余裕がある。

――……はぁ……。

私は気持ちを切り替えるため一口コーヒーを口に含み、視線を前に向ける。
演目は「ロミオとジュリエット」で定番ではあるがキャストは全員女性……女子校なので仕方がないのだけど。

『はぁ……ほんと、トイレ行きたい……けど、怪談……』

魅惑的な『声』に視線だけで星野さんを見るが仕草には表れていない。
でもそれは時間が解決してくれる。『声』が大きくなってきているのは間違いない。
それは飲んだものが下腹部に溜まり、尿意が膨らんで来ている証しなのだから。

658事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。13:2019/04/30(火) 01:15:18
――
 ――

10分、20分と時間が経つ。
最初は演劇に集中していたためか、時折『声』が聞こえる程度だったが、今は違う。

『ふぅ……おしっこ……うーおかしいな、いつもこんなことないのに……』

隣で座る星野さんの身体が僅かに揺れる。
間違いなく切羽詰まってきている『声』……演劇が終わるまであと20分くらいだけど、この勢いだとギリギリかもしれない。
だけど、星野さんの『声』は焦りというよりかは、苛立ち――……自身が置かれている状況が見えていない?

……ちがう。
多分星野さんはただわかってないだけ……限界の先に起きることを。

『あー……もう、ほんっと、落ち着かないなぁ……』

我慢は出来るものだと信じて疑わない。

『はぁ、コレ…結構辛い……ったく白縫どこいんのよ?』

もう子供じゃない、高校生があり得ない。

『っ……我慢…我慢……おしっこ…おしっこ…』

……。

演劇はもう終盤。
あと5分もすれば幕が下りる。

「(んっ……はぁ……)」『な、なんで……ま、待ってコレ……ほんとに辛いっ…んだけ…ど』

隣で星野さんが小さく息を漏らす。パイプ椅子の上で組んだ足が小刻みに揺れる。
さっきまでと違い『声』に焦りと困惑が膨らみ、切迫した状態なのが感じ取れる……。

――……そうだよ…我慢って無限に出来るものじゃない……。

「(あ、綾菜……ちょっと抜けていいかな?)」『白縫! とにかく白縫探さなきゃ! なにこれ……辛すぎ…じゃん、トイレっ、トイレ……』

私の肩を軽く叩いて、小さな声で話しかける。
演劇はもうクライマックスだというのに……。

――……星野さんにとって今…未知の感覚なんでしょ? それが我慢できないって事なんだよ?
だけど……まだ足りない。皆こんなものじゃなかった。まだ我慢できるはずだよ星野さん。
辛いでしょ? でももっと辛い……まだまだ辛くなる。これから更にずっと辛くなる……。
辛いなんて言葉でいられるのは今だけ……もっと直接的な言葉しか浮かばなくなるんだよ。
だから――

「(……もうちょっとみたいだし最後まで一緒に見よ?)」

私の口から零れたのは意地悪な言葉。
心臓の音が周囲の人にも聞こえてるんじゃないかってくらい大きな音で動いてる。

659事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。14:2019/04/30(火) 01:16:04
――……大丈夫。星野さんなら我慢できるよね?

今、星野さんを追い詰めているのは大きな尿意の波。
だけど、波はしばらくすれば落ち着いていく。一時的なもの……。

「(っ……ま、まぁ…いいけど)」『ふー、っ…あぁ、ダメ足が揺れちゃってる……早く、もう早く終わんなさいよっ』

演劇なんてもう見ていない。
私は時折気が付かれないように視線を向けて……声や『声』、身じろぐ音や気配に意識を傾け……。

――……これくらい我慢できるでしょ? だって星野さんが言ったんだよ……おもらしなんてありえない…って。

「(ふぅー…すぅ……はぁ……)」『っ……ちょっと…落ち着いた?』

明らかに落ち着きがなかった星野さんだったが、上手く波をやり過ごせたらしく『声』も少し落ち着く。
私はもう少し追い詰められても良かったと意地悪いことを思いながらも、心のどこかで少し安堵もしていた。

<パチパチ――>

周囲から拍手が起きる。
意識を舞台へ向けると演劇が終わったらしく幕が下りる。

「歌恋、見つけた、……メイドさんと逢引き?」

背後から突然声が聞こえて私は少し驚く。

「っ!! しら…っ! あっ…んっ!」『あ、ちょ……〜〜っ、あ、あぶな……え、危ない? って……』

当然私以上に星野さんは驚き、そのあとすぐ、ほんの数秒片手がスカートの前を押さえる。
驚きから我慢することへの意識が外れて……危うく失敗を犯してしまう一歩手前……。

『ありえない…服着てるし、人前なのに……ちょっと驚いたからって、おもらししそうになるなんて…ありえないよね? ……っ』

星野さんは一瞬想像した、一歩押さえるのが遅ければ、どうなっていたか……。
ありえないはずだと思っていることが、起きてしまえた可能性に。

「し、白縫っちょっと聞きたいんだけどっ! か、怪談! …っ、えっと、な、なんかトイレの怪談! あれってガセだよねっ?」
『は、はやくっ、早く教えてっ! 我慢してるってバレちゃう!』

星野さんはパイプ椅子に座る角度を変えて、五条さんに慌てて問いかける。
これが五条さんを探していた理由?

「怪談……七不思議? ……そう、あれは全部、ただの噂」

「そ、そっか、……っ綾菜、ちょっと待っててっ!」『あぁ、トイレ! トイレ〜!』

五条さんが答えると星野さんは音を立ててパイプ椅子から立ち上がり、小走りで体育館の出口へ向かう。
私もそのあとを追うために立ち上がる。

660事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。15:2019/04/30(火) 01:17:11
「……ちょ、まって――」
「雛倉さん、止まって」

五条さんが私の目の前に移動し静止をかける。

「え、えっと……?」

私は五条さんに視線を向けて言葉を待つ。
恐らく星野さんがすぐにトイレに入れることはないとは思うがなるべく早く後を追いたい。

「コーヒー、試飲したい」

プラカードに書いた“コーヒー試飲できます”を指差しながら五条さんは言った。
そういうことか……飲み比べの時の事も考えるに、五条さんはコーヒーが割と好きなのかもしれない。

「……あー、うん……ちょっと待って……」

時間は惜しいが流石に断れない。
私はプラカードを近くのパイプ椅子の上に置き、紙コップを取り出して五条さんに持ってもらう。
後は水筒に入ったコーヒーを――

「あんまり、歌恋の事、いじめないでね」

「え!」

急な言葉に手が止まる。

「あんなだけど、怖がりだから……」

――あ……そっちか、そういう事……。

私はてっきり故意にトイレ我慢に追い込んでいるのを見抜かれたのかと思って焦った。
だけど、幸いそうではないらしい。
私は「わかった」と返事をしてコーヒーを注ぐ手を再び動かす。

それにしても――

「……星野さんって五条さんの事、信頼してるんだね……たった一言で安心させられるだから」

ただの噂、その一声を五条さんから聞きたいがために星野さんは彼女を探していた。
噂かどうかなんて誰にでも聞けることなのに。

「ちょっと、勘違いしてる。……幽霊が怖いのは、得体が知れないから……でしょ?
私は、見えるから……得体がわかる人の言葉だから」

――……え?

一瞬何を言ったのかわからなかった。
見える……得体の知れないものが……つまりそれは幽霊が見える?
見える人からの怪談の否定、確かにこれ以上ないくらい信頼できる言葉だけど……。

――……見える? ありえ――いや、私のテレパシー、皐先輩の透視があるのなら、霊感って言うのも否定はできない?

超能力の一種、無い人にはわからないものを認識できるものが存在しているのならあるいは……。
それでも、俄かには信じられないが、よくわからない五条さんを見てると……あり得るのかも知れない。
私はコーヒーを注ぎ終わると「……そう、なんだ」と無難な言葉を言って荷物をまとめて持ち直す。

「……だとしても……信頼はされてると思うよ」

見えるなんて言葉を信じてる時点でそういう事。
私は軽く会釈をして背中を向ける。

「歌恋、大雑把で高慢ちきだけど、……意外と傷つきやすいから、出来れば優しくしてあげて」

背を向けた直後に五条さんはそう言って、私が振り向くと「コーヒー、ありがとう」と言って紙コップ片手に私たちが座っていた当たりのパイプ椅子に座る。

661事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。16:2019/04/30(火) 01:18:00
『っ……外まで並んで……あぁ、ど、どうしよ……辛い、さっきみたいにまた我慢辛くなってきた……』

星野さんの『声』が聞こえる。私は再び体育館の出口に向かう。
私が予想していた通り体育館を出たところにあるトイレは混雑してるらしい。
当然の事、演劇の後だしそもそもあそこのトイレは一か所しか使えない。

体育館を出てトイレの方へ視線を向けると星野さんが目の前にいて……まだ並ぶかどうかで迷っているらしい。
もしかしたら私が体育館に居るから、なるべく近い場所で……そう考えているのかも知れない。

身体が揺れ、落ち着きがない…それに手がスカートの前に?
押さえているのか、添えられているのか、スカートを握りしめているだけなのか、彷徨わせてるだけなのか……今の位置からでは判断できない。
私は確認するために星野さんに近づく。

『や、やっぱ別のトイレにっ』「っ!」

『声』と共に星野さんが急に振り返り、あっさり私に気が付く……。

『っ……もしかして押さえちゃってるの……見られてた?』

振り返ったときには既に手は前を押さえてはいなかったが
『声』で自白してくれたので、直前まで押さえていたことは確認出来た――……可愛い。

――……可愛い……か。さっきから可愛いはずなのに、ちゃんと意識したのって今が最初……?

今日は色々考えすぎてる……。
一番大事な事は、可愛い星野さんを見る事のはずなのに。

「……どうしたの――って……混んでるのか、演劇終わってすぐだしね」

私はトイレが混雑していることを、今気が付いた風を装い声を掛ける。
星野さんは「そうだね」と言った。さっき振り返ったのは他のトイレに行くため、このままじゃ簡単に間に合ってしまうかもしれない。
……押さえるのを見られたくない、それに五条さんも言っていた高慢ちきな……プライドの高い星野さん。

……。

「我慢……できる?」

ぽつりと呟くように私は星野さんに問いかける。

「なっ! 当たり前じゃん! このくらい全然平気だしっ」『大丈夫っ、ちょっと辛いだけだし、よ、余裕で我慢できる!』

期待通りの言葉が返ってくる……先手を打って正解だった。
ここで並ぶ並ばないは、本来我慢できる出来ないに関わらず選択できる言葉のはず。だけど、私の言葉でそれは少し変わった。
別のトイレに行くと言えば、我慢できないから……そう取られかねないと思うはず。
そして、その誤解を与えないために一言付け加えたとしても、それは言い訳しているみたいになってしまう。
実際、星野さんは限界が近い、だからこそ言い訳に聞こえるんじゃないかって強く意識する。
簡単には別のトイレに行くとは言えなくなった……はず。

星野さんは混雑したトイレの最後尾に並ぶ、私もその後ろに並ぶ。
外に並んでいるのは私たち以外は一般来場者、此処のトイレの事情を知っていない人。
その人数は4人、中にも2〜3人いるとして最低6人、一人2分とした場合12分。
思ったよりずっと頑張ってる星野さん……だけど『声』の大きさからして微妙な時間。
座っていたさっきまでとは違い、立ったままでの我慢は辛い。ましてや仕草を抑えて、前を押さえないでいる事なんて絶対に無理な時間。

弱音が聞きたい。
本当に追い詰められて「やっぱり他のトイレへ」って言ってくる星野さんが見たい。

662事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。17:2019/04/30(火) 01:19:14
「あ、綾菜も…トイレ?」『後ろに並ばれると……だめ、落ち着いて、平静平静……めちゃくちゃ我慢してるとか知られたくないし……』

私は頷きで返す。もちろん余裕はある。
それでも体育館で飲んだコーヒーの影響もあってか、それなりには溜まってきているけど。

「えっと、大丈夫…その格好と荷物?」『だめ、これ……辛い、我慢…我慢しなきゃなのに……押さえたい、じっとしたくないっ』

平静を装う声と焦る『声』のギャップが……。
ステップを踏みそうで踏まない足、だけど腰回りが少しもじもじと揺れていて――……バレてないつもり? 凄く可愛い。

……。

――……格好? あ、そうか……ロングのメイド服とこの荷物……。

荷物が多すぎる上に、あまりトイレに持ち込むべきじゃない試飲のコーヒーが入った水筒も持っている。
その上、ロングのメイド服と言うのも入りにくいし、飲食系であるメイド喫茶の印象を下げる可能性もある。
……やめた方が良いかもしれない。

「……確かに、この格好じゃ良くないか」

「だ、だったら…綾菜は一度クラスに…戻った方が、良いんじゃない?」『行って! その間に他のトイレに行ければもっと早く済ませられるっ!』

やっぱりそうなる。
星野さんの意見は正しい。トイレ待ちをしている間にクラスに戻れというのはとても自然な話。
だけど……私もここまで来て引けない。

「……まぁ、メイド服は気を付ければいいし、荷物は……私の時星野さんが持っててくれると助かるかな」

「――っ! そ、そう…っ……わかった……」『んっ…そんな……っ! あ、ダメ、押さえない、我慢、我慢、が…我慢して』

『声』がまた一段と大きくなる。
私がこの場に留まる事が決まり少なからず動揺を与えたのかもしれない。
立っているときは仕草を隠すのが難しいはず――……押さえずに、仕草を隠してこの波を抑えられる?

「(んっ…ぅ……っ)」『が、我慢、我慢する…だけじゃん! ……あぁ、なのにっ…これ……あ、んっ……だめ、我慢しなきゃ……』

声を抑えて、肩を震わせ必死に耐える。
交差させている足は不規則に揺れて……手はスカートの横の生地を掴んで太腿の前に。
僅かに前屈みで、頭を少し下げて足元に視線を落としているのがわかる。

軽く見ただけじゃわからない人もいるかもしれない。
だけど、注意深く見なくてもわかる程度には我慢の仕草が溢れ出てる――……いい…凄く可愛い。

「はっ、はぁ…っ」『あ、あぁ……だめ、ほんと……なんでっ…さっきより……つら――我慢、できなっ……あ、あっ…』

交差されて居た足を組み替え、同時に手が前に持って行かれる。
後ろからなのでちゃんと見えているわけではないが、その手は恐らくスカートの前を……。
その後も膝を時折少し上げ組み替えてを二度三度繰り返す。そのたびに身体が少しずつ前に傾いていく。
くねくねもじもじと揺れ動く姿は、さっきまでとは違い誰が見ても見っとも無い我慢の仕草で……ちょっと――ではなくかなり心配になってきた。
まだ、ちゃんと我慢出来てる……けど『声』の大きさはおもらし寸前のそれに近い。

「はぁ…っ……あぁ……」
『お、治まって! 無理…こんなっ……ど、どうしよ? あぁ、我慢しなきゃ…なのにっ、あっ…待って、あぁ嘘っ! ちょ…そんな冗談じゃ…くっ……あっ、あぁっ!』

もじもじと動いていた身体が強張り動きを止めたかと思うと、ほんの一瞬身体が跳ねるように動き、そのあと深く前に傾く。

――……っ! まさかっ――いや、大丈夫、足元は何ともない……けど、今のって……やっぱり……。

「はぁ…はぁ…うぅ……」
『なによ……これ、なんの冗談? っ……気のせいじゃ…ない? 今、私……ちょっとだけ……』

仕草が少し落ち着いていくのがわかる。
尿意の波を乗り切って……でも、仕草と『声』を察するに無傷じゃない。
被害がどの程度のものかはわからない。
だけど、ついに星野さんが……おもらしなんてありえないと言った彼女が、私の前で我慢できなくなってる。
おもらしが現実味を帯びてきてる……彼女にとってありえないはずの失敗……おもらし……。

663事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。18:2019/04/30(火) 01:20:12
――……っ…ど、どうする? まだトイレの中にさえ入れてない……このまま並んでたら間に合わないんじゃ?

順番待ちは並び始めてから二人分進んだ直後。
次の波が来たら星野さんは……ちゃんと我慢できる? 小さな失敗だけで済む?

鼓動が早くなる。思い知らせることが出来たし、最高に可愛いと思う……だけど、このままだとそれだけじゃなく……。
もし私のせいでこんな所で失敗なんて、おもらしなんて事になったら……違う、私のせいじゃなくても私は多分……助けたい。
自分で追い込んで……こんなの倒錯してるってわかってる。けど――

「……ほ、星野さん!」

「っ! や、これは……」『んっ…あぁ、見られた…よね…さっきの格好。うぅ、最悪じゃん……あぅ……トイレ――おしっこ……こんなところ見られるなんて……』

振り向いた星野さんの顔は一気に真っ赤になり私から視線を逸らす。
本当は星野さんの口から弱音を聞きたかった……だけど、もう待っているわけにはいかない。

「……別のトイレに行かない?」

「っ……え…、だ、大丈夫、私は我慢できる…し」『やだ、そんなの我慢出来ないみたい……絶対だめ、それだけは……我慢してやる、絶対にっ』

星野さんはそう言うと再び前を見てしまう。
意地になってる……見っとも無いところ見せて、これ以上は絶対にって……。
星野さんはわかってない。一度崩れだしたらそれはもう猶予がないってことに。
周りに気が付かれない失敗なんて精々20mlとかその程度のもので、量的には僅かな違いでしかない。
不意に失敗したものじゃなく、必死に我慢して失敗したということは、次同じくらいの波が来た時にまた繰り返す事になる。
そして、我慢する体力にも限界はあって、さっきの様にすぐに止めれる保証はない。

……。

「(……わ、私が間に合わないかもしれないから……)」

私は後ろから星野さんに耳打ちする。
口先だけでもいい、星野さんにどうにか動いてもらわないと……ここじゃ人が多すぎる。
私じゃ周りを誤魔化しきれない。

「そ、そんなに…いうなら……」『違う、多分…綾菜は私の為に? あぁ……んっ……我慢できる、出来るはず、なのに……早く、したい…はやくぅ、おしっこ、トイレっ――』

星野さんは振り向き、だけど視線を合わせずに応える。
私の言葉が本心でないことは察してる。

星野さんの片手は私が見ているにも拘わらず前から離せずにいる。
それはそうしていないと我慢が出来ないから……もしくは、その手で隠されたスカートの一部分には失敗の跡が残っていて、それを隠すために。

「……とりあえず校舎に向かおう」

距離から考えて、使うトイレは購買近くのトイレか、二階の更衣室前のトイレ。
購買近くのトイレは人の多い中庭に近く、個室の数が少ない。
更衣室前のトイレは個室の数が比較的多いが、生徒はそのことを知っているので演劇を見ていた生徒が向かった可能性がある。
二階にあるのも今の星野さんには辛い道のりかも知れない。

『っ……が、我慢…もう絶対……しない、さっきのはきっと…油断してたんだ……次は我慢、出来る……あぁ…トイレ、おしっこ……』

少し前屈みで覚束無い足取り、支えて歩いてあげようか迷ったが、きっとそれは求められていない。私はただ半歩後ろを歩くだけに留める。
もうすぐ校舎、そしたらどっちに歩みを進めるか……星野さんが決めるはず。

664事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。19:2019/04/30(火) 01:21:48
「はぁ……んっ…ふぅ……あ、んっ…はぁ……」『こ、これ……待って…っ! だ、大丈夫、油断…しないし、我慢する、絶対っ……』

校舎に入り、星野さんは階段の手すりに片手を置いて立ち止まる。
俯き荒い呼吸をする星野さんの『声』がまた大きく膨らんできてる……。

「んっ……くぅ……あぁ」『落ち着け、治まれ……あと少しなの……階段…二階……上のトイレ、トイレ……んっ…やぁ……が、まん……するんだからっ!』

――……これ、ほんとに……だって『声』が…どんどん大きく……。

絶対失敗しない我慢するという強い意志、だけど……焦燥も困惑も膨れていく『声』。
本当に限界、このままじゃ本当に……こんなところで……。

「あぁ、あ、あ……まって…っ! やぁ」『あ、嘘、だめこれ……む、無理っ…や、だめ、がまん、ぜったい、なのにっ…あっあぁぁ!』

先ほどと同じように身体が強張り、小さく全身が震える。

――……ほ、本当に……っ……どうしよ?

「くっ…んぁ……ちょ、だめぇ……」『あっ、あぁっ! んっ、で、出てっ――とめ、我慢…お願いっ!!』

私は斜め前から星野さんの様子を窺う。
心配だし、確認したい……人通りは多いわけじゃないが場合によっては私が何か対応しないと……。

――っ! ス、スカートが……ちょ、え……こ、こんなに……?

押さえ込まれたスカートの一部分が色濃く染まり、限界まで水分を含んだためかスカートの裾辺りまで染みの流れを作っていて……。
苦しそうな、今にも挫けてしまいそうな顔で、額から汗を流して……。

隠しようのない失敗……おもらし。
星野さん――……か、可愛いけど…けどっ! こんなところで…だめっ!

だけど、私はどうすればいいかわからない。
どうすれば助けられる? トイレはまだ遠い、それに今無理に移動させるなんてこと出来ない。
こんな姿……誰かに見られたら星野さんは――

「っ……ふっ…んっ! はぁー……」『――っ、と、止まった? でもっ…あぁ、まだ、私っ……んっ――てか、嘘…スカートが…こんな……』

星野さんは一度始まった大きな失態を押さえ込んだ。
それでも、その被害は誤魔化せるものなんかじゃなくて……足にも、靴下にまでその失敗の跡を僅かに残すほど。
この格好のまま移動するのは危険、簡単に隠せる程度の被害じゃない。だけど、星野さんはまだ沢山我慢してて……。
正面は階段の手すり、廊下側には背を向けてるし私の身体で死角にもなっているけど、もし階段から降りてくる人が居たら……
見られたらおもらしだと一目でわかってしまう……だからどうにかしないと、ここにずっといるわけにはいかない。
それに此処に留まり続けたところで、恥ずかしい水たまりを作ることになるのはもう時間の問題。
そうなれば水たまりも、音も……廊下側からも当然気付かれてしまう。

――……え、ど、どうするの?

「んっ…み、ないで……はぁ…――綾菜…んっ…」『や、やだ、こんな……の……隠れ、とりあえずどこかっ!』

――っ!

私の顔を見た星野さんは顔を背けて、私を押しのけるように駆け出す。
向かった先は階段下の備品倉庫――……そうか、人がいない見つかる可能性が低い場所!

薄暗い普段は誰もより付かない場所。星野さんは鉄の扉を慌てて開けて中に飛び込む。
照明もつけずに飛び込んだ星野さんの後を追って、私は照明のスイッチを押して中に入る。

「えっ! あぁ、綾菜! こ、来ないでっ! あっ…んっ……」
『こんな…姿……み、見られてるっ……のに…あぁ、だめトイレ……次どうする? トイレは? トイレに行かなきゃ意味ないのにっ……あぁ』

「……星野…さん……」

私は言葉に詰まる……濡れたスカートを握りしめ、涙目で自身の犯した失態に混乱しながらも必死で我慢を続ける星野さん。
そんな姿を私に見られて恥ずかしく思い、だけど、そんな事ばかり考えていられるほどの余裕がない。
本当に可愛い……もう、ここには他人の視線はない……私たちだけ。

665事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。20:2019/04/30(火) 01:22:48
……。

「……もう我慢……できない?」

――あ、あれ? 私…何言って……?

言いたかった言葉。今なら言える?
星野さんを見返すための言葉。

涙目で、真っ赤な顔をこちらに向ける星野さん……口の中が乾く。唇が震える。――……最後に、取っておいたあの言葉……。

「……高校生が…おもらしなんて、ありえない――…ですよね?」

ダメなのに……言っちゃいけないのに。
こんなに私は気にしてた……この言葉……。
言いたかったんだ、私……こんなに、星野さんに――言いたかった。
その言葉を――星野さん自身が言ったその言葉を聞いて……どう感じる?

星野さんは私の言葉を聞いて動揺し、困惑した表情で顔を背ける。

「ち、ちがう……これは、おもらしじゃ……ちょっと…だけ……みたいなっ…それだけ、じゃん」
『だって、こんなにまだ、我慢してるっ、あぁ……だめ……でも、もう本当に……』

おもらしじゃないと言い張る星野さん。多分言い訳のつもりじゃない、少し失敗しただけだと……それが星野さんの本心。
周りから見たらそれはどう見てもおもらし……だけど、星野さんの言うこともわかる。
我慢を諦めてない、目に見える失敗ではあれど、水たまりも作ってない、まだ沢山その下腹部に溜まってる……当人にとってこれはまだおもらしじゃない。認められない。
だってまだ、今にも負けそうになるほどの尿意を抱え続けているから。

「……そう、それは少し失敗しただけ……ちゃんとトイレに行けば、まだ間に合う。だって、おもらしなんてありえないんだから」

私の言葉に跳ねるようにして反応する星野さん。彼女自身ありえないと思ってるはずの失敗……それを私から何度も聞かされて強く意識してしまう。
それなのにこれ以上の失敗は、もう認めざる終えない……それが目の前まで迫ってる。

……。

私はカバンを置いてしゃがみ込み、中から替えのスカートと新品の下着、それとタオルを取り出す。

「え……なに? どうして着替え……?」『んっ……どういう事? あぁ、ダメ、考え…られない、おしっこ……早く……でもっ――』

「……流石にその格好じゃここから出れないでしょ? 着替えてトイレに行けばちびっちゃったこともバレないし……」

わかってる私がしてること。
私はまだ星野さんに……辛い我慢の選択を選ばせようとしてる。

「でも……っ、そうかそうだよね…んっ、借りても…いいの?」『だ、大丈夫……さっきより我慢できてる、間に合う、おもらしなんて……しないっ! 今度こそ、もう失敗しないっ!』

恥ずかしいのか申し訳ないのか、喋り方が少ししおらしくなって……だけど――

――……凄い…強いよ星野さん……。 それに凄く可愛い……。

私の言葉を聞いて、まだ必死に我慢しようとする強い意志……。
楽にしてあげないのは悪い事? ……だけど、その星野さんの意志は折れてない、ちゃんとトイレで……そう望んでる。

「……いいよ、使って」

私はまずタオルを渡し、スカートと下着を星野さんの近くのダンボールの上に置く。
見届けてあげる、それはきっと私のためだけど……我慢を諦めないなら、ちゃんとトイレまで間に合わせたいと思ってるなら……私はそれを手伝いたい。

666事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。21:2019/04/30(火) 01:23:41
「あ、ありがと……ちゃんと洗って…返すから」『はぁ……っ、お願い、トイレまで、落ち着いていて、お願いだからっ……もう、しない、我慢しなきゃっ……』

我慢してるためか、ぎこちない動きでスカートを下ろす。
赤の……一部を真紅色に染めた下着が見えて――それを見て私は慌てて後ろを向く。
星野さんはパニックになっているのか、見られることへの意識が薄くなってる?

「と、扉、開かないように見とくから……」

「えっ! あっ……そっか、ごめん……」
『な、なにして、私……目の前で脱いっ――や、だめっ、待ってそれよりも、は、早くしないとっ…またっ……トイレ……おしっこ……』

<コツコツ…コツコツコツ>

不規則に踏み鳴らす足踏み音……着替えながら、後始末しながら必死で我慢を続ける音。
時折零れる焦燥の声。激しい運動をした後のような荒く熱い息遣い。力が籠められた息を詰める呼吸音。

……。

私は胸に手を当てる……ドキドキしてる……苦しいくらいに。
きっと星野さんは今の私以上に鼓動を早く、大きくして……でもそんなことに気づけないくらい混乱と焦燥、そして我慢の中にいて……。

「はぁ…早く……んっ…はぁ……はや、早くしないと……ほんとに……」『やだ、もうすぐ、着替え終わるのに……こんなのっ、また……だめ、ちゃんと我慢、我慢、がまんしなきゃっじゃんか!』

『声』が再び少しずつ大きくなっていく。
スカートを大きく濡らすほどの失敗をした後だけど……でもそれは結局コップ一杯にも満たない量のはずで。
確かに失敗する前よりも貯め込まれた量が減ったのは間違いない。だとしても、度重なる我慢で括約筋の疲労は確実に蓄積されている。
意志の力で我慢できる? 折角終えた後始末、折角着替えた下着とスカート。今度こそそれを汚すことなくトイレまで――

「っ……き、着替えた、っ…はぁ……は、早くトイレ、トイレ……」『だ、大丈夫、我慢できる……絶対できる、しなきゃダメっ…だからぁ……』

今にも膝から崩れ落ちてしまいそうなほど足が震えて。
着替えたばかりのスカート、その前に両手を重ねて抑え込む。
今からそんな恥ずかしい格好で、ギリギリの状態で本当にトイレまで辿り着けるのか……。

……。

「……紙コップ……使う?」

言っては見たがあれは試飲用に使っていた余りの紙コップで、ギリギリまで入れても200mlに満たない。
使い終わった紙コップだってどう処理すべきなのかわからない。
それでも、もし星野さんが使いたいと思うなら――

「は? ちょっ……ば、馬鹿じゃないの!? んっ…使えるわけ、ないじゃん!」
『が、我慢できる、んっ…する、紙コップなんて……トイレまで、我慢…すればいいっ…それだけ、だからっ』

――……まぁ、そうなるよね…プライド高いし、こんな密室で私がいる前でなんて簡単に出来るわけない…か。

星野さんはちゃんとトイレまで我慢するって言う選択をした。
だったら一刻も早くここから出てトイレに――

667事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。22:2019/04/30(火) 01:24:31
「え? あ……(待って星野さん)」

私は両手が塞がってる星野さんの代わりに扉を開けようと思ったが、扉の向こうに人の気配を感じて星野さんに待ったをかける。
何人かの声……中まで入ってくるような感じではないが――

「あ、綾菜? なに? っ早く……しないと…わたしっ……」『なんなの? あっ……くぅ…開けてよ、早く、じゃないと、本当もう……我慢が…っ』

「(……静かに、ちょうど扉の前付近に人がいるみたい……)」

「え……や、なんでっ……」『そ、そんな……こんな時にっ……あぁ、おしっこ……少し、あと少しなのにっ……』

星野さんは私の声に数歩後退り、隠れられるところを探すかの様に周囲に視線を巡らせる。
だけど、倉庫内は狭く両サイドにダンボールや棚が置かれてはいるが、扉辺りから見えない位置というのは存在しない。
星野さんは隠れることを諦めたのか扉から距離だけ取って、膝を床につけて膝立ちになる。
身体を前に傾け、両手で必死に抑え込んで……。こんな状態からさらに我慢の時間を引き延ばされることになるなんて思っても見なかったのだろう。
開けて出て行くことは可能ではある……けど、急に備品倉庫なんて普段開かないところから人が出てくれば注目されるのは間違いない。
注目なんてされなくても星野さんの状態は一目瞭然……本来なら人目を避けてトイレに向かいたいくらいの状態であって……。
星野さん自身が見られても良いと思ってるなら扉を開けてトイレに急ぐのも一つの選択だと思ったが、彼女の態度は明らかに見られることに強い抵抗を感じている。

――……当然だよね、そんな格好。……でも、だったら待つしかないし、仕方ないよね?

心のどこかで、もう少し今の星野さんを独り占め出来る事に私は喜んでる?
我慢してる星野さんが見たい、その結果どうなるのか……見届けたい。
そんな後ろめたい欲望に忠実な気持ちは確かにある……だけど、それでも私の助けたいという気持ちも本心で……。

「ふぅーっ…ふぅーっ……んっ…ぁぅ……ふぅーっ……」『がまん、がまん、がまん、がまんして、絶対、絶対…ぜったい……っ……我慢だからっ』

膝立ちで必死に何度も押さえなおされる両手、前後上下に揺れる身体。
涙目で、荒く熱い息を零して……必死に我慢を続ける。

「んっ…あぁ、だめ……これ……っはぁー…っ…ふぅーっ、んっ…」『無理、ほ、ほんと、このままじゃ…あっ、間に合わ――っ……だ、だめぇ…が、我慢しなきゃ…しなきゃっ!』

次第に動きは小刻みに、震えているような動きになって『声』もまた大きくなり始める。
リズムが崩れてより不規則な呼吸と動きが限界なのを表してる……。

――……ほんと可愛い……でも、早くしないと……。

私は扉の外へ意識を向ける。
人の気配は――……あ、遠退いてる? 開けれる?

私は扉をゆっくり少しだけ開けて外の様子を確認する。
人はいない、大丈夫今出ていっても誰かに注目されることはない。

「ほ、星野さん、今なら――」
「っ! あ、だめ……今っ……あ、あぁ…やだ、あ、あや…なっ」『くる、きちゃうっ…これ、だめ……まだなのにっ、我慢できなっ、こ、こんなの…まに、間に合わないっ!』

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz73081.jpg

振り向くと縋る様な目を向ける星野さんが居て……。
私は星野さんを極力驚かせないように小さく口を開いたつもりだった。
実際驚いたのか、私の言葉に気が緩んだのか、このタイミングで波が来たのか……。
ただ、分かるのは星野さんの『声』が“我慢できない”に傾いてる……。

668事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。23:2019/04/30(火) 01:25:28
「こ、コップっ! だめ、あぁ、紙っ…コップ、あやなっ! あぁ早くぅ」『無理、もうダメっ……なんでもいいから…早くぅ、漏れちゃう…おしっこ、ほ、ほんとに…んっ! おしっこ出ちゃうぅ……』

私は星野さんの緊急事態に、床にカバン置いて慌てて中から紙コップを一つ取り出す。
膝立ちになってる星野さんの前まで行き、私はそれを目の前に差し出す。

「んっあ、あぁ……や、ごめん、み、見ない…でっ――んぁあぁっ! だめぇ!」『あぁ、もれちゃう、おしっこ、だめ…これ……やだ、コップ……あ、あぁ、あぁっ!』

星野さんは私の手にある紙コップを見て、スカートの前を押さえていた片方の手を離し、奪い取るようにして紙コップを取る。
そしてスカートを押さえていたもう片方の手を一気に離し、その手でスカートを浮かせ、紙コップを持った手と共に両手をスカートの中に入れて――

<ぱたたっ…じゅうっ、じゅぃぃー――>

直後、目の前から紙コップを叩く音、そしてそれは直ぐにくぐもった音に変わり……スカートで見えないけど、恐らくその中で下着をずらして紙コップに放たれる音。

「んっ! あぁ、あっ!」『だめ! 止めないと…と、止まって、止まれっ!』
<じゅっ、じゅ…じゅぃぃっ……>

何度も途切れながら……でも、スカート越しでもわかるくらい音が少しずつ高くなって……。
それは紙コップ内の水位が上がってきていると言う事。
200mlにも満たない紙コップ……星野さんはそれがいっぱいになるまでに何とか止めようと必死で。

「はぅんっ! あぁ…うぅ…ん〜〜っ……」『お願い、止まってよ……溢れちゃう、やだ……』
<じゅっ…じゅぃぃ…>

時折息を詰めて必死に力を入れながら……だけど、注がれる音は止まず、声にならない声を上げて……。
星野さんは見ないでと少し前に言った。だけど、私がその言葉に従うことが出来たのはほんの一瞬だけで、もう目が離せないでいる。

「んっ――、ふぅーふぅーっ、あぁ……だめ」『ダメ、これ以上ダメ……あふれ、でも、こんなのっ…もうっ!』

激しい息遣いは続くもののスカートの中から聞こえる音が止んだ。
そして震える手で紙コップがスカートの中から取り出され、その中には縁ギリギリまで注がれた恥ずかしい熱水が入っていて……。

――……こんなところで……こんなに紙コップをいっぱいにして……。

「あ、あっ…だめ」『もれちゃうっ……あ、あ、あぁっ!』

星野さんは手に持っていた紙コップを乱雑に床に置く。水面は揺れ、縁から流れる様に溢れ、コップの下に小さな水たまりを作る。
下着をずらしていたであろう左手はそのままスカートの中で、そして紙コップから解放された手はスカートの上から前を再び押さえこむ。
溢れるくらい沢山してしまって……それでも尚、限界の尿意は引かず星野さんを苦しめる。

669事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。24:2019/04/30(火) 01:26:43
「だ、だめっ…あぁ、あやなっ…もういっこ、コップ! これっ…あぁだめっ! でちゃうのっ!」『むり……こんなのっ……もう、限界っ……』

星野さんは再び縋るような目を私に向ける。涙で一杯にして……精一杯の力を込めながら。
そして、押さえ込まれたスカートに染みが少しずつ広がってきているのに気が付く……ちゃんと止められてない、我慢が効いてない……。
私は慌てて踵を返し、扉の前に置かれたカバンまで移動し、中に入っている紙コップを今度は袋ごと取り出す。
さっきも一個じゃなくこうすれば良かったのかもしれない……そうすれば、もっと早く次を渡せた……。

私は再び星野さんの前に行って、袋から取り出した紙コップを差し出す。
それを星野さんは見て手を伸ばして――

「あっ」

だけど、慌てて伸ばした指先が紙コップを弾いて床に落とす。
そして……その手は紙コップを追わずに再びスカートの前に持って行って。

「あっ、あ、あぁ……っ」『だ、だめぇ……』

<じゅ…じゅぅ、じゅうぅぅぅ――>

くぐもった音……だけどさっきの音とは違う。
紙コップに放たれる音ではなく、スカートの中で、下着の中で渦巻く小さな――でも確かに聞こえる失敗の音。
スカートは押さえ込まれた部分から色濃く染まり、捲れたスカートから見える膝……そこから幾つもの恥ずかしい流れが、床に水たまりを拡げていく……。
最初は断続的に……だけど、次第に音を変えるだけで継続的な音に変わる。

おもらし……間に合わなかった。
何度もおちびりを繰り返し、着替えたのに、紙コップも使ったのに……必死に我慢したのに。
ありえないはずのおもらし……星野さんがそう思っていたはずの恥ずかしい失敗……。

「あ、あぁ……はぁ…っ……ふぅぁ……んっ」『止まってよっ……なんで、これ……どうしたら止まる? あぁ、だめ、わかんない……くらくらする……』
<じゅぅぅぅ――>

止めようと思っても止められない。力の入れ方がわからない。
『声』は我慢を続けている様で、でもその大きさは次第に小さくなって……。

「はぁ……はぁ…んっ……あぁ、ふぅ……はぁ……」『だめだ、これ……おもらし……私が………こんなとこで……』
<しゅぅぅぅ――>

荒い呼吸と恥ずかしい音が響く中『声』が消えてゆく。
水たまりは大きく拡がり続けて、星野さんは水たまりの中に一人……。

<ばしゃっ>

そして、その水たまりの中で膝立ちをやめてお尻を落とす。
ただ茫然と焦点の定まらない目で、水たまりの上にある指で弾いた紙コップ辺りを見て……。
それでも拡がり続ける水たまり……1分以上――もしかしたら2分ほど音は止まなかったかもしれない。

「はぁ……はぁ……」

肩を上下させ、息遣いがけが響く――……可愛い、可愛いのに。
私は一歩二歩後ずさる。

「……ご、ごめん……っほ、保健室で服貰ってくるからっ」

私は逃げるように鉄の扉を開けた。
慌てていて外は確かめていなかったが、幸い誰もいない……。

私は扉の前で額を抑えてしゃがみ込む。

670事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。25:2019/04/30(火) 01:27:31
――……なんで私……逃げて……。

私が星野さんを追い込んだ……後ろめたい気持ちが苦しくて、優しい言葉を掛けられなかった。
彼女はこの扉の向こうで、自分の残した水たまりの中で一人なのに……。

……。

――……だめ……とりあえず服、それからだ……自分の気持ちを整理してちゃんと星野さんに向き合うのは……。

私は立ち上がる。
五条さんは言っていた、星野さんは傷つき易いからって。優しくしてあげてって。
本当ならどれほど傷ついた? おもらしなんてありえない……そう思っていた星野さんが私の前でおもらし……。
失敗なんて誰にでもある……そう思っていない人の失敗。そもそも傷つかない人なんていないくらいの大きな失敗。

「助けが必要そうなら力になってあげることね」……ふと体育祭の時、私を見逃してくれた朝見さんの言葉が思い浮かぶ。
その通り……私はそうありたいし、そうしたいと思ってる。

私は胸に手を当て深呼吸して歩き出す。
すぐ近くにある保健室……私はノックして扉を開けた。
中には珍しいことにちゃんと先生が居た。

「あら、綾菜ちゃんじゃない保健室で会うなんて珍しいというか初めて?」

「……何度か尋ねているのにいつも先生がいないだけかと」

私の言葉に先生は反論する。こんなに外が魅力的な日にも拘わらず、保健室で待機してることを自慢気に話す――……残念ながら普通です。

「それで、何か用事? 顔が赤いし風邪? というか可愛い格好ね」

「……こ、これはクラスの宣伝目的で――ってそんなことより、……き、着替え一式貸してもらえませんか?」

あのまま星野さんを長い時間置いておくのは良くない。

「着替え一式ね……下着とか、濡れタオルとか、乾いたタオルとか、お土産袋もいる感じで?」

ご明察です。
私は頷き、大体察してくれたので説明はせずに必要なものを受け取る。

「……ありがとうございます」

「どーいたしまして。ささ、行ってあげなさい」

私は背中を物理的に押されて保健室から追い出される。
斎先生……妹とは違った意味で良い人ではあるんだけど。

671事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。26:2019/04/30(火) 01:28:33
私は着替えとか一式を持って再び備品倉庫の前へ。
深呼吸して、周りに人が居ないのを確認した後、ノックと小さく声を掛け、扉を開ける。

目の前にいるのは隠れるところもなく、水たまりの中で体勢を体育座り変え、顔を下に向けている星野さん。
スカートを手で伸ばし、可能な限り恥ずかしい姿を隠そうとしているが、精々足が隠れる程度で大きな水たまりは隠せるわけがなく
また、そのスカート自体も面積にして半分以上が色濃く染まっている。
耳を澄ますと嗚咽……必死に声を抑えて。
近づいて慰めてあげたい……だけど、水たまりの中に足を踏み入れる行為は避けた方が良いかもしれない。
必要以上に申し訳なく思ってしまうかもしれないし、不快な思いも与えるかもしれない。
私が逃げて時間を置いてしまってるから尚の事、冷静に判断されると思うし、私も勢いで行動できない。

……。

「……水たまりから出てきて、じゃないと入っちゃうよ?」

「っ! ……ぐすっ…」

涙を流して、睨んでくる星野さん。

この言葉の選択が正しいのかはわからない。
でも、メイド服だって流石に汚すわけにも行かないし、落ち込まれるよりかは私にぶつけてくれた方がいい。

星野さんは視線を逸らした後立ち上がる。
スカートから雫が水たまりに落ちてぴちゃぴちゃと音を立てる。
星野さんはその音を聞いて、表情を硬くする。

「……自分で出来る?」

私は貰って来た袋からタオルを取り出して見せる。
星野さんは私の顔を見ずに頷き、水たまりの中を一歩二歩歩きタオルを手にする。

――……出ていった方が良いのかな……?

でも、さっき逃げてしまって再び星野さんを一人にするのは……。
だからと言って後始末をしている星野さんを直視するなんてことは出来ず、私は目を逸らす。

「(うぅ…なんで……っ…なんで、我慢…できなかったん…だろ……)」

私の視界の端でタオルを握りしめる星野さん。
震えた消え入りそうな声……。

「(ありえない…のに……私だけが…こんなっ……もう子供じゃ…ないじゃんっ……)」

「ち、違う! 星野さんだけじゃないっ!」

私は星野さんに目を向けて、語調を強めて答える。

「……し、失敗は恥ずかしいことだと思う……でも…それでも、ありえないことじゃない……」

だけど、ありえちゃいけない事なのかもしれない。
ちゃんと我慢してトイレまで……そうしなきゃいけない。それでも――

「……我慢はずっと出来るものじゃない……星野さんは凄く頑張ってたと思う……」

必死にトイレまで我慢しようとする意志は凄まじかった……。
そうしなきゃって思う気持ちの強さは、もしかしたら今まで『聞いた』誰よりも強かったかもしれない。

「だと…しても……間に合わなかった…のは……事実…じゃん……みんな、間に合ってる、のに……私だけっ――」
「違うっ! それは星野さんが知らないだけだよ……わ、私だって…こういう事…ないわけじゃ……ないし」

星野さんの見開いた瞳が私に向けられる。逆に私は星野さんから目を逸らす。
顔が熱い……星野さんにわかって貰うためとは言え……恥ずかしいものは恥ずかしい。
というか、多分この私の態度が嘘じゃない証明みたいなもので――……だめ、どんどん顔が熱くなってるっ!

672事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。27:2019/04/30(火) 01:29:09
「……きょ、今日の失敗だって…私以外に見られてないわけでしょ?」

自分で言って置いて自分の事から話を逸らす……。

「……みんな知らないところで少なからずこういう事…あるものだから」

私は沢山の失敗を知ってる。
我慢が苦手な子も、得意な子も、トイレが言えない子も、言えるはずの子も……。
皆がみんな、失敗してるわけじゃないけど……それでも、私は沢山知ってる。

「嘘だよ……そんなの……知らないところとか、ただの都合のいい考え方じゃん」

星野さんはそう言ったが、その言葉はさっきほど震えていない気がした。
ちゃんと伝わったのかはわからない……だけど、少しでも気持ちが楽になっていればと私は思う。
星野さんはそのあと小さく深呼吸して後始末の続きを始める。
私には「あっち向いてて」と言いはしたが、出て行けとは言ってこない。

「綾菜の失敗って……どんなだった?」

――っ!

「……べ、別に普通……」

普通ってなんだって自分で突っ込みたくなる。
だけど、それ以上言葉を続けられない。

「そっか……ご、ごめん、変なこと聞いて……」

残念そうな声で星野さんは謝る。
謝るのは私の方なんだけど……追い込んでおいて自分の失敗談も言えないでいるんだから。

服を脱ぐ音、身体を拭く音、着替える音……。

「おわった…よ」

その声に私は星野さんに視線を向ける。
目も顔も赤くして、視線を逸らして――……可愛い。

私は星野さんに近づく。
星野さんはそれに気づき身を強張らせる。

……。

抱き締めてあげたい……けど、後始末を終えたとはいえシャワーを浴びたわけじゃないわけで……。
本当メイド服が凄く邪魔……メイド服じゃなければ抱き締めてるのに……。

「……さて、次どこ回ろうか?」

無難な言葉で私は星野さんの手を取った。

673事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。-EX-:2019/04/30(火) 01:31:20
**********

「あ! えっーと、真弓ちゃん、梅雨子の妹の真弓ちゃんよね!」

私は祭りの時に完全に忘れてしまっていた友達の妹を見つけ声をあげる。
彼女は真弓ちゃん。梅雨子の妹。通りで聞いたことある名前だと思った。
外見は、何度か家を訪ねた時に窓の向こうに影を見た程度のものだったが、何度か梅雨子が写真を見せてくれたこともあった。
余り記憶にないが、確かに見覚えはあった。
それに、今こうしてみると少し梅雨子に似た雰囲気も感じ取れる。

「あー……えっと、気付いちゃいましたか」

決まりが悪そうな顔で視線を逸らす真弓ちゃん。
祭りの時、名乗りはしたものの私の事を知らないように装った理由は当然あの時の事。

「ほんっとーーーにごめん! それとあれは梅雨子に無理矢理……えっとまさかトラウマとかになってないよね?」

恥ずかしい音を聞かれて、それを梅雨子のデリカシーのない言葉で――――私も興奮からなにか口走ってた気がするけど――――嫌な思い出になっていて当然で。
それに梅雨子の話だとあれからほぼ口をきいてくれないって時々嘆いてたし……。

「いやー大丈夫ですよ、もう気にしてませんし」

明るく言う彼女の言葉に私は胸を撫で降ろす。
そして注文したコーヒーに口を――空だ……。

「あ、コーヒーもういっぱいくれる?」

「あやりんが居ないからって焼け飲みしないでください……もう既に二杯飲んでるんじゃないですか?」

「えー、綾のメイド接客楽しみにしてきたんだからちゃんと居座り続けないと!」

それにほら……コーヒーって利尿作用あるし。
……いやいや、こんな公共の場で我慢とか――
でも……。
………。
い、いや、流石にダメでしょ!

「あの……私がお姉さんと顔見知りだった事……もう少しだけあやりんには黙っていてくれませんか?」

私が恥ずかしいことを考えていると、真剣で…でも少し不安を抱えた顔で真弓ちゃんは言う。
ところで――私と顔見知り? それはどうなんだろう……。
トイレの扉越しでのあの会話――――会話とは言えない一方的なのもだったけど――――と2〜3度窓越しで真弓ちゃんらしき影を見たくらいのものだと思ったけど。
いや、でもあっちは一応私を見ていたと言うことなら顔見知りと言えるのか。
それを綾に秘密に――秘密?

「えっと? いいけど…どうして秘密?」

「それは……あやりんにはそういう事言わずに友達になったから……でも、ちゃんと私から正直に言わなきゃってずっと思ってて……」

なるほど、その気持ちはわからなくもない。
もし私がそのことを話せば綾はきっと真弓ちゃんに少なからず不信感を抱く。
どうして隠していたのか……って。
……。

――あれ? どうして隠してたんだろう? …あぁ、でもどんな関係って聞かれて、私に恥ずかしい音聞かれましたって言うわけにもいかないか。

「あら、お久しぶりです雛倉先輩」

聞き覚えのある声に振り向くとそこには金髪の上品な子がいて。

「あぁ! ……――さ、皐ちゃん!」

「正解です……けど今一瞬名前出てこなかった感じでしたよね。……はぁ、相変わらず勉強以外は微妙な記憶力ですね」

私は口を噤み目を逸らす。

「それと……黒蜜先輩の妹さんもごきげんよう?」

「……真弓です」

「あら、ごめんなさい、真弓さん
私、一度ちゃんと真弓さんと話したかったんですよね」

「っ…それは……奇遇ですね会長さん。私もですよ」

――……ん? なんか急に空気が重く……。
二人の間に火花が見える気がする。

「ここではなんですから、お二人とも生徒会室に案内しましょう」

――あれ!? なんだか私まで巻き込まれてる!?

「ふふふ♪ 当然ですよ雛倉先輩。だって生徒会室で行う密談は綾菜さんの事なんですから」

おわり

674「星野 歌恋」:2019/04/30(火) 01:33:54
★星野 歌恋(ほしの かれん)
1年A組の生徒
校内の友達とバンドを組んでいるが軽音部ではない。
黒蜜 真弓とは同じ中学出身で友人関係。
同じく同じ中学出身の朝見 呉葉については顔すら覚えていない。

強気でまっすぐな自由人。
周りの空気に良くも悪くも流されない人物。

膀胱容量は非常に大きめ。
物心ついた時から小さな失敗すらしておらず、また限界まで我慢した経験も非常に少ない。
体験、目撃経験がないために、高校生にもなって我慢できないことに現実味を感じず
またそれが恥ずかしく情けないことだと強く思っている。
あからさまな我慢の仕草も同様に小さい子がすることであり、恥ずかしいことだと感じている。
そもそもそう言ったことに余り関心がなく、カフェインの効果に利尿作用があることを知らなく
また沢山飲むことが頻尿に繋がることも理解していない。

成績は下の上、運動はそれなり。
歌うのが好きでバンドグループではボーカル兼ギター。
ただボーカルもギターも特別上手いわけではない。
性格は気性が激しく、自分勝手、素直じゃなくて、プライドがそれなりに高く、口が悪い(悪気無し)。
余り周りに関心を持っていないが、気になる相手はとことん気になり
そういう相手に関しては得意ではないが多少の気遣いや配慮をすることもある。
基本的にはコミュ力は高いので、性格に多少難があっても彼女のペースに引き込まれる。
割とツンデレな部分もある。

綾菜の評価では沢山我慢できる人でおしっこの我慢を舐めてる人。
初めの印象は良くなかったが、話すうちにその誤解は解けた。
わかって貰うためとはいえ、私情も挟み、悪気がなかった人を自ら追い込んでしまったことを後悔している。

675名無しさんのおもらし:2019/05/01(水) 01:30:10
待ってました!
平成の締めくくりにふさわしい話だった

676名無しさんのおもらし:2019/05/01(水) 09:39:06
平成の最後に相応しい作品です。
令和でも楽しみです。

677名無しさんのおもらし:2019/05/01(水) 09:50:31
更新ありがとうございます。
もう一つの小説のキャラや雪姉も登場して、まさに学園祭の雰囲気ですね。
そして、勃発するあやりん争奪戦。

678名無しさんのおもらし:2019/05/04(土) 09:57:27
更新待ってました!
おもらしに追い込んじゃうのいいシチュエーションです!最高でした!

679名無しさんのおもらし:2019/09/21(土) 12:38:18
新作希望

680名無しさんのおもらし:2019/10/14(月) 12:33:21
今宵は美術作品展示会。
高貴なる身分の紳士達が…紳士と呼ぶには見栄っ張りで、傲慢で、自慢したがりな貴族達が年に数度、自身の作品を見せ合い自慢し合う会。
煌びやかな会場の各所に、紳士達の誇る「自慢の作品」が展示されている。
作品の趣向は様々で、一点を除き共通性に欠けている。
丈の短いスカートを着用した、内気そうなメイド。
下の毛まで綺麗に剃られた裸見の女性。
見る物全てを睨みつける、両手を縛られた少女奴隷。
決意を秘めた目をした修道女。
逞しい筋肉を持った、女騎士。
これらの「作品」は彫刻でも絵画でもない。生身の女性なのだ。
彼女達の何が「作品」なのか?どこに共通点があるのか?
答えは展示された彼女達のぷっくり膨らんだ下腹部にある。
彼女達は妊娠ではない。膨らんだ下腹部の正体は、溜まりにたまった「お小水」である。
「作品」とは「お小水を我慢している女性」の事なのだ。
貴族紳士達にとって、お小水を我慢している女性とは美その物なのである。
今宵は美術作品展覧会。
紳士達が心血を注ぎ育て上げた自慢の「美術作品」を見せ合う会なのである。

681名無しさんのおもらし:2019/10/14(月) 12:36:15
展示会と呼ぶからには、作品にも優劣が存在する。
もっとも美しい優れた作品とは何たるかと問えば、誰よりもお小水を我慢した女性の事だと紳士達は口を揃える。
では、早々に粗相をしてしまった作品は劣る作品なのかと言わば…それも否だ。
「あぁっ!見ないで、見ないでくださいましっ!」
展示されたメイド服の女性の足の間から、お小水が滴り零れる。
恥かし気に顔を両手で覆い泣きながら失禁するメイド女性を見、紳士達は満足げに頷いた。
「恥ずかしがる従女…基本に忠実な良い作品ですな」
「しかし、在り来たりでもあります。私はもっとこう…インパクトがある方が好みです」
真っ先に粗相してしまったメイドを魅入り、語り合う紳士達。不意に会場内に叫び声が響いた。
「し、将軍殿ォォォォォ!申し訳ありませぬぅぅぅぅぅぅぅ!」
驚いた紳士達が一斉に振り向けば、軽装の鎧をまとった女騎士の「作品」が粗相をし始めた所だった。
悔しそうな表情で剣を掲げポーズを取った女騎士のズボンからは、先程のメイドとは比べ物にならない勢いの小水が下品な音を立て豪快にまき散らされた。
「おぉ!なんと豪気で勇ましい失禁ではないか!これは痛快だな」
「武門と知られるスピア家ならではの、印象に残る魅せ方ですなぁ」
そう。作品の優劣は我慢の長さだけでは決まらない。粗相の仕方も作品の美しさを決める重要な要素と言える。
如何に長時間、大量の小水を貯めるか。我慢の仕草に色気はあるか。如何に甘美に粗相するか。作品の優劣はそれらの要素から決まるのである。

682名無しさんのおもらし:2019/10/14(月) 12:39:43
展示会に展示される女性の事情も様々だ。
良い成績を得れば釈放してやると囁かれた盗賊の娘もいれば、借金の肩代わりにと無理やり脅されて出品された奴隷の少女もいる。
自身の商会や信仰を知ってもらおうと自ら参加を志願した商人の娘や修道女などもいる。
修道女は、股に手を当て震えながらも朗々と聖書の一文を読み上げている。
商人の娘は自らの商会の商品をアピールしようとワインを鱈腹飲んで酔いつぶれ、寝息を立てて失禁して場の笑いを誘った。
「卿?いかがですかなうちの娘は?まだ12歳ではありますが、これほど下腹を膨らませても淑やかな態度を保っていられるのですぞ」
中には、自身の娘を上流貴族に嫁がせようと展示し自慢する貴族もいる。
この会がきっかけで結ばれる縁や婚姻もあるだけに、成り上がりを狙う貴族や商人の目は真剣そのものだ。
展示する側、展示される側。様々な思惑と欲求をはらみ、会は進む。
1人、また一人と粗相する事で完成していく作品達。それを下劣な目で見る紳士達。
今宵の会は最後まで朗読しながら我慢し、神に祈りながら美しい粗相を見せた修道女が優勝した。
上機嫌で岐路に着く紳士達の股間は熱を帯び、固くなっている。
この熱を各々の妻に注ぎ、貴族の家々は子宝に恵まれた反映するのだ。
情熱的な一夜が明け、さわやかな目覚めを迎えた紳士達は考える。
「次回は、どんな『作品』を用意しようか」と。

683名無しさんのおもらし:2019/10/14(月) 12:41:44
幼き頃にここの作品群を見て育った者です。
良質なオカズを下さったここへの感謝の気持ちを込め、またこの場が再び盛り上がる事を願い、お粗末な出来ですが作品を投稿しました。
下手な作品ながら、少しはこの場への恩返しとなれば、幸いです。

684名無しさんのおもらし:2019/10/17(木) 01:00:36
こういうファンタジー系の作品は独自性があってとても好み。

685事例の人:2020/01/16(木) 07:20:21
>>675-678
感想とかありがとうございます。

あけましておめでとうございます。
めっちゃ早朝ですが、文化祭一日目の午後になります。
いつも言ってる気がしますが、長いです。

686事例17「高倉 悠月」と駆け引き。1:2020/01/16(木) 07:25:54
「……」

12時過ぎ、私と星野さんは体育館への渡り廊下の横に設置されたベンチに座って、その辺りで買ったお昼を食べる。
私はサンドウィッチ、星野さんはホットドック。

――……食べてるとはいえ会話が……やっぱちょっと気まずいなぁ、というかトイレ行きそびれたままだ……。

6〜7割と言った感じの尿意? 余裕がないわけじゃないけど、そろそろ行かないと不味いと思えるくらいにはしたい。
今は座っているから落ち着いてはいるが、立ち上がってじっとしていられるかと言われると難しいかもしれない。

「……星野さん」

「っえ! な、なに?」

名前を呼んだだけで小さく驚き、でも明るく振舞おうとする笑顔が――……可愛い。
気まずかったとはいえ、こうして健気で可愛い姿を見ると少し名残惜しいけど――

「……そろそろ喫茶店の方に戻ろうかと思って」

「あー、……ん、そっか。なんだかんだ午前中ずっと付き合って貰ったし……それと色々その……迷惑、かけたし……」

少し残念そうな顔で、だけどその顔は徐々に変わり最後は不安そうな顔をする。

「……いや、大丈夫、気にしてないから……それより、本当に倉庫の後始末は手伝わなくていいの?」

「う、うん……放課後、タイミング見てひとりで片付ける、……というか、あんなの改めて見られたくないじゃん」

それはまぁ……納得の理由。
でも、横に置いてあったダンボールとかにも被害あったし、何よりあの量の後始末はかなり大変になると思う。
星野さんも恐らくそれをわかった上で言っているはずなので、これ以上は言わないけど。

私は「……それじゃ」と小さく手を振ると星野さんもこっちを見て、まだ固い笑顔を向けて手を振ってくれた。

文化祭の喧騒の中、クラスに戻ると――……廊下にまで少し人が溢れてる?
どうやら、お昼時になりある程度混み始めたらしい。
私はスタッフ出入口――――と言っても教室の前の扉の事だけど――――を開けて中に入る。

「あ、ようやく帰ってきた」

厨房側に居て話しかけてきたのは斎さん……。

「ちょっと事情があって一人抜けてるのと、見ての通り今混んでるから……早く手伝って」

淡々と状況を言って私に手伝うように迫る。
本来は朝から12時までが私のシフトなのだけど適当な理由を付けて抜け出した負い目がある。
しかも斎さんは私の本意を知っておいて抜け出させてくれたわけで……。

『うーんお手洗い行きたい……でもまだ忙しいし抜けるの迷惑になるよね?』

――っ……この『声』は弥生ちゃんだよね?

弥生ちゃんの『声』が隣から聞こえてくる。隣と言うことは接客をしているらしい。
斎さんからの手伝いの要請、弥生ちゃんも我慢してるとなればこの場を離れる理由は……。

――……だめだ、私が不味いことになる……先に済ませることは済ませないと……。

687事例17「高倉 悠月」と駆け引き。2:2020/01/16(木) 07:26:51
「……ご、ごめん先に着替えてトイレだけ行ってくる」

こうやって立ち話しを続けているだけでかなり切羽詰まってきている。
このまま仕事をするには流石に尿意が大きすぎる。
弥生ちゃんの『声』が聞けなくなるのは確かに勿体ないとは思うが仕方がない。我慢しているということを知れただけでも良かった。

「ん、わかった忙しいんだから急いでよ?」

私はその言葉を聞きながら、着替えるために衝立で簡易的に作ってある更衣室に入る。
私はメイド服を脱いで、自分の服を手に取り着替える。

『はぁ……もうちょっとお客さんが少なくなればなぁ……』

聞こえてくる弥生ちゃんの『声』。
私はこれからトイレに行くわけだけど……弥生ちゃんの『声』を聞くために苦手ではあるが途中で止めるか
あるいは斎さんの水筒に残ってるコーヒーを飲んだ上でちゃんと済ませるか……。

……。

弥生ちゃんの『声』は聞きたいけど、やっぱり途中で止めるのは苦手だし嫌い……。
私はもう温くなったコーヒーを水筒のカップに注ぐ。

――っ……音が…下腹部に響く……。

音を立てないように足踏みをして、膨らむ尿意を宥めて、注いだコーヒーを一杯、そしてすぐに二杯と残りのちょっとを注いで飲み干す。
水筒を洗って返したいところだけど、トイレに持って行くのは流石に気が引けるので、放課後ちゃんと洗って斎さんに返そう。
最悪家に帰ってから部屋を訪ねても良いかもしれないが……マンションだと学校よりも気不味いので出来れば避けたい。

着替え終えて衝立から出て、目が合った斎さんに軽く頭を下げて教室から出る。
教室前のトイレは……ちょっと混んでる。
廊下の角まで行って購買近くのトイレを軽く確認すると……混んではなさそうだけどちょうどトイレに入って行く人が二人見えた。
どちらに行ってもすぐには済ませられないなら近い方が良い。私は教室前のトイレまで引き返して順番待ちの最後尾に並ぶ。
順番待ちと言っても三人だけ――

――んっ……まだ平気、だけど……やっぱもうすぐだと思うと……っ……。

個室は三つなので私の順番が回ってくるのに時間は掛からなかったが、危うく仕草が零れるところだった。
私は個室内で更に辛くなった尿意に前を押さえてそわそわしながら、準備を済ませてしゃがみ込む。

<ジャバー>

音消しの音に合わせて、息を吐き、力を抜く。
危なかった――というところまでは行かなかったけど、これは流石に我慢しすぎたとは思う。

音消しが終わる前にどうにか済まし終え、始末をして立ち上がる。

――星野さん……さっきの私の3倍以上長かったよね?

星野さんは必死に止めようとしていたし、限界まで我慢したときは思ったほど勢いよく出ないものだし
単純に3倍以上の量だとは思えないけど……それでも1.5倍――もしかしたら2倍ほどあったんじゃないかと思う。

688事例17「高倉 悠月」と駆け引き。3:2020/01/16(木) 07:28:02
個室を出て手を洗い教室に戻る。そして再度メイド服を着て仕事を始める。
とりあえず厨房側から移動すると、すぐに弥生ちゃんを見つける。様子は――……仕草には出てない? いや、ほんとに軽くだけど足が落ち着いていないかな?
接客中の弥生ちゃんは踵だけを軽く上げたり下げたりを繰り返して――とても可愛い。
こちらに気が付いたらしく視線が合うが、接客中な為弥生ちゃんは仕事に戻る。

接客係は私を含めて4人。混んでなければ3人で十分、最悪2人でもどうにかなるが、今はそうもいかない。
そして、見渡すとシフトに入ってるはずのまゆが居ない事に気が付く。
事情があって一人抜けてるというのはまゆの事だったらしい。
私もとりあえず仕事を見つけて参加する。

――
 ――

片付け、案内、注文、給仕。
時折弥生ちゃんの様子を見つつもしばらく慌ただしく仕事を続けていると――

「あ、あの雛さん……」

給仕を終え、片付けに向かう私の袖を引っ張りながら弥生ちゃんが声を掛けてくる。
振り向き弥生ちゃんを見るとそわそわと落ち着きない様子で――……本当可愛い。

「その、お手洗い行きたくて……ちょっとだけ抜けても大丈夫……かな?」

私が仕事を始めてから20分ほどたって、尿意も増してきたのかもしれない。
周囲を見るとまだそれなりに混んでいる……宣伝効果?
まだ私に尿意がなく『声』が聞こえないし――――凄く『聞きたい』のだが――――本当は忙しいからダメだと言いたい。
だけど、トイレも混んでるかもしれないし、こんなところで失敗、それ以前に我慢の仕草を沢山の人に晒すというのもさせたく無い……それに星野さんの事、少し自分の中で引きずってる。
弥生ちゃんに優しくしたからと言って、星野さんへの罪滅ぼしにはならないけど、罪を重ねるのもいけない事で……。

「ごめーん! 今戻ったー、あやりんもごめんっ!」

厨房の方から執事の格好をして出てくるまゆ。
メイド兼執事喫茶を名乗って置きながら、執事率が低いのでそれを気にして衣装を選んでくれたのもか知れない。

私は一度まゆに視線を向けてから、弥生ちゃんに向き直り――

「……大丈夫みたい、行って来たら?」

それを聞いてコクコクと頷いて、着替えるために厨房の方へパタパタと駆けていく。

「……それで、まゆは何してたの?」

私は弥生ちゃんを見送りつつ、まゆに近づき話しかける。
弥生ちゃんが今までトイレに行けなかったのも、私がこうして当番じゃないのに働いてるのも大体まゆのせい。
別に恨めしく思っているわけではないけど。

「生徒会室にね、ちょっと会長さんに呼ばれちゃって」

「皐先輩に? ……まさか、クラス委員長を私の代わりにしてとかそんな話?」

「いや、そんな話にはならなかったけど、まぁでも、割とシリアスな話かな?
……それと、後で私からも話しておきたいことがあるんだけど……この感じだと放課後かな?」

――シリアスな話? ……気になる。それに後で話しておきたい事ってわざわざ言うのも、まゆらしくないというか……。

「……ん、じゃあ後で、とりあえず仕事しようか」

気にはなるが忙しいので、いつまでもこうしているわけにも行かない。
仕事に戻りテーブルを片付けて、次の人を案内するために廊下へ向かう。
ウェイティングリストを見て名前を呼び案内する。
待っていたのは最後の一組だったが、リストの紙が埋まっていたので一応別の紙を持って再び廊下に出て紙を取り換える。

689事例17「高倉 悠月」と駆け引き。4:2020/01/16(木) 07:29:05
「ねぇ、狼さん案内してくれる?」

紙を変えていると後ろから声を掛けられる。
狼さんなんて言う人には心当たりが一人しかいないので嘆息しながら振り返る。

「……生憎だけど、今席が埋まってるから此処に名前を書いて頂けますか、鞠亜お嬢様」

「ちょ、お嬢様って――あ…(いや、メイド喫茶だからそれでいいのか?)」

ちょっと悪意を込めて言ったんだけど、メイド喫茶なので納得してしまった。
そんな霜澤さんを見ていると、名前欄に“霜澤”と書いている。私は紙に書かれた“カタカナフルネームで”ってところをトントンと指差す。

「ったく、細かいわね……」

そう言って名前をシモザワマリアと――……シモザワマリア? あれ、この名前なんだか……。
違和感、既視感……よくわからないけど不思議な感じ。

「書いたわよ、あんたは仕事に戻らなくていいの?」

「あ……うん、戻る」

ぼーっと名前を眺めていた私はその言葉に現実に戻される。
霜澤さんはそんな私を見て怪訝な顔を向ける。
心配してくれてるのか、ただ訝しんでいるのかはわからないけど、私は何事もなかったように背を向け教室へ戻る。
だけど、仕事に戻ってからもなぜか名前が頭にチラつく。

――なんでだろ? シモザワマリア……シモザワ…………シモ…ザワマリア……っ!?
え、偶然? いやいや、ないよねそんな偶然……なんで……アナグラムなんて……。

私は気が付く。
空いたテーブルを見つけ、私は慌てて片付けて廊下へ向かう。

「あ、空いた?」

携帯を弄りながら視線を一瞬だけ私に向けて、再び視線を手元に戻しながら彼女は言う。

「……空いたよ……紫萌…ちゃん」

私の言葉に霜澤さんは携帯を操作していた手を止める。
昔、病院で会い手紙をくれた人の名前、「字廻紫萌」は「霜澤鞠亜」のアナグラム。
あのカタカナを見た時に感じた違和感は、字廻紫萌って名前について調べていた時期があったから。

「……どうして黙ってたの? 病院で会ってたこと……そっちは覚えてたんでしょ?」

今まで、霜澤さんの行動や言動に違和感を感じたことがあった。
その理由がきっと私の事を覚えていたから……。

「覚えてた……けど、言う必要もないでしょ、狼さんにとっては恥ずかしい思い出でもあるし」

「っ……そう、だけど……」

「終わりよ、お・わ・り! 別にどうでもいいじゃない。昔ちょっと話したからって、今は他人なんだしっ」

他人……そう言われて私は胸が痛んだ。
確かに、私は覚えてなかった。思い出したから友達なんて都合のいい話……。
あんなにあの手紙を大事に持っていたのに、霜澤さんと再会したとき思い出せなかった私に腹が立つ。
だけど……。

「……私は思い出す前から……と、友達くらいには思い始めてたけど……」

「あ…ぅ……せ、精々知り合い…くらいでしょ?」

……。

「……じゃあ、友達になってよ紫萌ちゃん」

「なっ! ――っていうか、紫萌ちゃん言うな!」

――……いや、待って、そもそもなんでアナグラムにしてたのよ! ちょっと変なとこあるし中二病的な?
でも、言うなって言われても……思い出してみると霜澤さんは紫萌ちゃんなわけで、また呼び方を霜澤さんに戻すのもなんか……。
と、友達でいつまでも苗字にさん付けって言うのも……いや、変ではないけど……でも――

「……だったら霜澤の霜で……霜ちゃんということなら……」

一体なにが「なら」なのか……よくわからないけど、折角思い出せたのだから仲良くなりたい。なぜだかそう思った。

霜ちゃんは困った顔をした後視線を逸らす。
そのあと口を開きかけて、一度大きく嘆息してからもう一度口を開いた。

「もう好きにして……さっさと案内しなさいよ」

そう言われて私は席に案内する。
注文を聞こうとすると、私に喋る隙を与えずコーヒー券を押し付けるようにして渡される。
なんだか、折角思い出したのに私だけが妙に空回りしてるみたいで――

「ボクは今まで通り態度を変えるつもりないから……」

私が席を離れる時に背中に投げかけられた言葉に視線を霜ちゃんの方へ向けるとこちらを見ていなくて……。

……。

私は何も言えずその場を離れる。
「態度を変えるつもりないから」……そう言った霜ちゃんは以前より冷たく、そして遠く感じられた。

690事例17「高倉 悠月」と駆け引き。5:2020/01/16(木) 07:30:52
――
 ――

しばらくして、弥生ちゃんが帰ってくる。
私が声を掛けると、なぜか妙に動揺していて――……もしかしてちょっと失敗した?
そこまで切羽詰まっていたようには感じ無かったが『声』が聞けなかった以上、正確にはわからない。
まさかスカートを捲るわけにも行かないし……真相は分からず仕舞い。

そして、どうにか客入りも落ち着いてきて、まゆが戻ってきたことで人数も通常通りになり私は抜けることにする。
結局途中理由を付けて抜け出していたとは言え、かなり長時間、着慣れないメイド服を着ていた為か少し疲れた。
メイド服から制服に着替え、手を上にあげ軽く背筋を伸ばす。

――っと、今更したくなってきちゃった……。

仕事の忙しさで意識から外れていた為か、大事なところで来てくれなかった尿意は今になってそれなりの大きさで主張してくる。
これからどうするか……折角の尿意、『声』を聞くためにもう少し我慢するか、もう今日は止めにするか……。

――……あ、そういえば雪姉、結局うちのクラスに来なかったなぁ……折角無視してあげようと思ってたのに……。

しばらくいなかった時に入れ違いになってる可能性は十分あるけど、ちょっと寂しい気分になる。
嘆息しつつ、更衣室から出る。

「あ、委員長ってコーヒー班だったよね? ちょっとコーヒーの味見て貰って良い?」

余り交流のないクラスメイトから声を掛けられ、コーヒーを差し出される。
委員長と呼ばれることは割と珍しくて……多少は委員長としてクラスメイトに認められて来たのかもしれないが、当人である私は正直どうでも良かったり。
それにしても、味見するほどのものでもない気がするけど、私は差し出されたコーヒーを飲む。……――うん、全然わからない。

「……うん、大丈夫だと思うよ?」

「そっか、私って不器用だから、なんか間違ってるかもって思っちゃったら心配になっちゃって! ありがとね!」

私の適当な答えに、元気よくお礼を言ってくれる彼女に少し驚きつつ返事を返す。
一口飲んだコーヒーを返そうと思ったが、客に出すわけにも行かないし、結局私はそれを持って廊下に出る。
あんなに普通に話しかけてくれるとは……まゆはもちろん、最近瑞希ともよく話すようになったおかげかも知れない。

手に持ったコーヒーを飲みながら、とりあえずトイレに視線を向け、『声』を確認する。

――……『声』はあるけど……全然切羽詰まってる『声』じゃないかな?

私自身の尿意についてもまだ余裕はある。
折角の文化祭、とりあえずどこか回ってみてもいいかもしれない。
星野さんと回った場所以外だとこの棟の二階と三階がまだ回っていない。
後はプールを使ってるバカンスカフェ、図書室や美術室――――何してるか知らないけど――――と言ったところか。

二階と三階は正直学年が違う教室と言うこともあって一人じゃ回りたくない。バカンスカフェも一人で行くのはハードルが高い。
自分の教室を覗き込むと、客の中で知り合いは霜ちゃんだけ……一緒に回りたくはあるが、霜ちゃんは携帯を弄ってゆっくりコーヒー飲んでるし、軽食まで追加で注文している。
どうもしばらく出てくる様子はない。それ以前に、あの冷たい態度……断られるかもしれない。

――はぁ……図書室方面にしておこうかな……。

コーヒーを飲み、歩を進めながら考える。
図書室だと、図書委員や文芸部? そもそも出し物してるのかどうかも把握していない。
出し物をしているものとして考えると、この辺りの歴史とか、お勧めの文庫本とか、そういったものだろうか。

691事例17「高倉 悠月」と駆け引き。6:2020/01/16(木) 07:32:10
道中、途中で空になったコーヒーの紙コップをゴミ箱に捨てて、目的の図書室に到着する。
周辺にあまり人の気配がない。文化祭でお祭り騒ぎのはずなのに、遠くで聞こえる喧騒は何とも言えない趣があるというかなんというか。
私は図書室の引き戸に手を掛け、力を籠める。

<ガラガラ>

中に入り軽く見渡すが、まずカウンターには誰もいない。入ってすぐの長机にはお勧めの文庫本……大体の予想通りだが、管理者は不在。
委員や部活以外にもクラスでの出し物がある以上、手が回らないのかもしれない。
私は、適当に文庫本を眺めて――

「あ」

誰もいないと思っていたところに声が聞こえて、私は驚き、視線を声のした方へ向ける。

「綾菜さん……だっけ?」

数歩入らないと本棚で見えない位の位置にいたのは、午前中に会った雪姉の友達と言っていた名前も苗字もわからなかった背の低い方の人。
ノートや教科書を広げて恐らく勉強しているらしく――……なんで勉強?

「……は、はいそうですけど…………勉強…ですか?」

彼女は頷くでも首を振るでもなく、持っていたペンを置いて手招きをする。
私はそれに従い歩みを進め、彼女の座る4人席の机の前まで行く。
机に広げてある教科書やノートは如何にも大学で使ってそうなもので、難しそうなものばかり。

「……えっと……」

なんで呼ばれた? それをどう聞けばいいのかわからなくて言葉に詰まる。

「あ、えっとさ……時間ある?」

私はその問いに小さく頷きで返す。
彼女は丁度良かったと安堵の声を出してから少し申し訳なさそうに口を開く。

「私にテスト勉強の仕方教えてほしんだけど?」

――……はい?

「無理して良い大学入ったのはいいものの、難しくて……美華は――あ、美華って言うのは私と一緒いた子のことで――」

話すのは苦手なのか話が前後したりして、わかりにくいが、状況を説明してくれる。
要約すると、大学の講義についていけない、テスト難しすぎ、範囲広すぎ、美華さんには入学の時散々迷惑かけていたから頼りたくないと言った内容。

「それで、なんで私が……大学の勉強を教えれるほど――」
「いや、こうなんて言えばいいのか、テスト勉強の秘訣を知りたくて……雪に聞いたらそういうのは妹の方が適任って言ってたし」

――雪姉……勝手な事を……。

でも、雪姉に教えて貰うって言うのは確かに無理な話だとは思う。
雪姉はサヴァン症候群を疑うほど勉強に関しての記憶力が凄まじく、教科書を数回流し読みするだけで何ページにどんな内容が書いてあったのか大体覚えられるくらいだし。
そんな雪姉の勉強法とか全く参考に出来ない。「教科書とノート全部覚えたら大体わかるよ」とかいう人だから。
その割に、私より人の顔や名前を覚えるのが苦手とか……どういう頭の構造してるのか本当に謎。

692事例17「高倉 悠月」と駆け引き。7:2020/01/16(木) 07:32:59
「だからって……秘訣って言われても……」

「雪から聞いた話だと、テストに出そうなところがわかるとかなんとか……」

「……いや、それ、先生の授業直接受けてるから大事そうな場所とかテストに出したそうな場所に見当が付くだけで、秘訣でもなんでも……」

机の上に置かれたノートや教科書に視線を向ける。
そもそも、内容が理解できないものを教えれるのか――……でも、割と綺麗にノート取ってる……。
教科書にも付箋だったりマーカーで線が引かれてたり……どうしてこれで点が取れないのか……。

――……トイレにも行きたいし、あんまり時間取られるのも……
お昼にサンドイッチと一緒にコーヒー飲んだし、その後も追加で結構飲んだし……。

「やっぱ、だめですか……」

そう言って彼女は机の上に置かれた500ml以上はありそうな大きさのタピオカミルクティーらしきものを太いストローで飲む。
そういえば、そんなの中庭の隅で売っていた気がする。

……。

――……500ml……かなり多いよね? ミルクティーって紅茶だし利尿作用もそれなりにあるだろうし……
タピオカが入ってるとはいえ、ミルクティーだけで500mlくらい普通にありそう……。
今はトイレに行きたいとは思ってないみたいだけど、それは時間の問題だし、話すの苦手そうだし、教えて貰ってる立場上席を外し難いだろうし……。

自身の尿意と天秤に掛けて考える。
確かにコーヒーは沢山飲んだけど、1時間や2時間で我慢できなくなるほどじゃないと思う――……だったら――

「……わかりました…役に立つかは保証できませんけど、それでもいいなら」

「っ! ありがとう……自分で言うのもなんだけど…明らかに年下に頼むことじゃないのに……」

変なことだって気が付いているなら、もっと大学でなにかしら方法がありそうな気がするけど。
とりあえず、断りを入れて彼女のノートを手にする。
さっき開いていたページ以外も綺麗に色分けされたりして、上手くノートは取れてると思う。
内容はよくわからないことばかりで範囲も広いが、重要そうな場所はなんとなくわかるし、割と苦労せずに教えられそうな気がする。

――でもまぁ、彼女の『声』が聞こえるまでは何も説明せずに時間稼ぎ……かな?

時折気が付かれないように視界の隅で彼女の様子を窺うと、
私が読んでいる間、手持無沙汰になるためか何度もストローに口を付ける。

身長は私よりも低いくらいだけど、恐らく私よりも3つ年上の女性。
大人な我慢を見せてくれるのか、身長と同じくらい子供っぽいところを見せてくれるのか……割と気になるところ。

――……大人なんだし……流石に間に合わなくなる前には……言うよね?

勉強を教えている間彼女が言い出せない可能性を考えながら、自分を納得させる言い訳を考える。
子供じゃないんだから、言い出せないのは彼女の責任……実際そうかもしれないけど……。

『ん…トイレ……そういや10時くらいに行ったっきりだったっけ?』

――っ……『声』…聞こえた……。

『声』が聞こえただけで、期待が膨らみ、ドキドキして。
色々思うことはあるけど、実際『声』が届くとやっぱり私はこれが好きなんだと強く自覚する。

視界の片隅に見えるタピオカミルクティーは、もうほとんど空で……そろそろノートを見るのをやめても良い頃合い。
私はノートを机に置いて、正面にあった椅子を彼女の斜め前に移動させて座る。

「なんでざわざわそっちに?」

「え……だって、教え難いじゃないですか?」

半分くらいは本音。残りの半分は正面だと机が邪魔で見たいところが見えないから。

「あーそうか、……なるほど?」

――……? なんだろ、理解してもらえた感じはしたけど、何か違和感持たれたような?

私の行動理由は理解して貰えたが、別のところに何か納得のいかない事がある……そんな感じの態度。
その態度に対して何かリアクションすることは藪蛇になりかねないので、何食わぬ顔で話を続ける。

「……えっと、まずは先生がどんな感じで授業してたのかとか聞きたいんだけど――」

ノートからだけでは読み取れない部分を出来る限り聞き出す。
板書していないことをテストに出す天邪鬼な先生だっているし、口頭でも大事な話をする先生だっている。
そういう情報を読み取ることが出来れば、テストに出す範囲がある程度絞れる。

その作業を何度か繰り返し、ノートのテストに出そうな部分をマーカーで囲っていく。

693事例17「高倉 悠月」と駆け引き。8:2020/01/16(木) 07:34:07
――
 ――

『あー……こんなにしたくなるなんて……まだ、もうちょっと平気だけど……』

しばらくして彼女の『声』に少し焦りが見え始める。
だけど――

――……っ……私も流石にコーヒー飲み過ぎた……。

弥生ちゃんの『声』を聞くため、早く尿意が来るように多めに飲んでいたのが完全に裏目に出てる。
結局あの水筒に入っていたコーヒーの大半は私自身で飲んでしまったわけで……その上、味を見るために更にコーヒーを追加で飲んでる。
だから今、この状態に陥ってるのは至極当然な話。
図書室に入ってから50分弱……飲み過ぎたと言ってもあの水筒に入るのは精々1リットル、トイレも一度は済ませている。
利尿作用が高いとはいえ、水分を大量に体内に入れたわけではないので、このペースで尿意が膨らみ続けるわけではないと思う。
それでも、あと1時間我慢出来るかと問われると自信がない。

……。

彼女もあれだけの量を飲んだのだから近いうちに強い尿意に襲われることになるはず。

――……とはいっても、座った位置はちょっと失敗だったかな……。

机の角が二人の間に来るように座ってしまったので相手の足が見やすいのはいいけど、同時に私の足も相手に見えるわけで……
たまに少し動かして、きつく足を絡める……この程度なら――

『はぁ…私も我慢してるけど……この子も我慢してる?』

――っ! うぅ…鋭い……断定してる感じじゃないけど……でも、感付かれているならキリの良いところでトイレに行くべき?

今見てるノートはもうすぐ終わる。
さっきよりも仕草に出さないように意識して我慢するが……仕草を抑えれば抑えるほど、尿意は膨らんで行くように感じる。

「――と、こういう感じでテストに出そうな範囲を絞って
言い方は悪いけど山を張って、そこを完璧に出来る様にしておけば、最低限の点数は取れると思います」

彼女は私の言葉に頷き、ノートを見る。
次の教科に入るにはちょっと私が無理な気がしてきた……我慢出来ないというわけじゃないが、仕草を抑えれる自信がない。
テスト範囲の絞り方はある程度教えれたと思うし、これでお開きでも問題な――

「うん、それじゃ次……この講義が一番心配で……」『まだ、こっちはそんなに辛くないし……』

――っ……この人、自分も我慢してる上、私の我慢に感付いてるのに……。

ありえない。普通そういう行動は取らない。
明らかに私は話を終えようとしていたし――……それに、「こっちは」って……私の事なんて関係ないみたいな言い方?

……。

違う……さっきのニュアンスはそうじゃなかった。
関係なく思ってるんじゃない、どちらかと言うとむしろ私に何かを期待してる……それは多分、私が我慢できなくなることを期待してる?

694事例17「高倉 悠月」と駆け引き。9:2020/01/16(木) 07:35:17
「……わかった、それじゃまたノート見せて下さい」

私は彼女の前にある次のノートを何食わぬ顔で手にする。
もしかしたら、この人も私と同じ観察者側……だから、私が尿意を感じているのを敏感に感じ取れていて、それを観察しようとしている。

……。

仮にそうだとしても、彼女は私が事前にどれだけ水分を取っていたか知らないはず。
逆に私はある程度知ってる、彼女がどれくらい飲んだかを、今どれくらいの尿意を感じているのかを。
図書室に私が来た時、彼女の飲んでいたタピオカミルクティーは殆ど減っていなかった。
それは勉強の為に私が来る少し前に持ち込んだ飲み物だから。
私たちのクラスのコーヒーを飲んでから随分時間が空いてるし、割とどこにでも飲み物が手に入る環境ならその後も何か飲んでいるはず。
お昼も挟んでいるから水分の摂取がなかったという方が不自然な話。
それに加えてトイレを最後に済ませたのは10時……。

観察されることに抵抗は当然ある。観察してる立場を知っているからこそ相手にそれを観察されるというのは余計に意識するし不快な事。
それでも……多分このままいけば私のが優位に立てる。もちろんそれは相手が一般的な我慢強さだった場合ではあるが。

恥ずかしいから仕草は極力抑える。観察は可能な限りさせない、されたくない。
私はノートを置いて、彼女に説明を促す。

「あ、うん、ここは――」『平然としてる? 我慢してると思うんだけど、口から少しコーヒーの匂いもしてたし……私のが我慢してるとかじゃないよね?』

説明しながら私を観察しているらしく……いつも私がしてる側だと思うと最低な事してるってよくわかる。
匂いで少し前にコーヒーを飲んでいることがバレてるのは想定外……。
私は説明を聞きながら仕草に出さないように平静を――

――っ……ぅ、波……見せない…表情に出さない、仕草にもっ……――

そうは思うが、すぐには引かない尿意の波にどうしても足に力が入ってしまう。
気が付いたような『声』は聞こえてこないが、今私は彼女の観察に意識を割いているわけじゃない。
『声』が聞こえないのは彼女が気が付いていないからなのか、波長が合っていないからなのかわからない。

――うぅ……宥めたい……足を揺すったりとか押さえたりとか……っ……はぁ……だ、大丈夫……落ち着いてきた……。

「――聞いてますか?」
「え! う、うん……大丈夫です」

やっぱり現時点で追い詰められてるのは圧倒的に私の方。
でも、相手の『声』だって――

『ん……頑張るな…この子……私も結構したくなってきたのに……』

確実に彼女の『声』は大きくなってる。
私が8割とするなら、彼女は6〜7割……確実に差は縮まってると思う。

「そういえば、妹さんって雪の趣味の事……知ってたりしますか?」

――っ! え?

急にそう質問した彼女の言葉に一瞬思考が止まる。
趣味……彼女の言う趣味って……。

「……いえ、姉に趣味なんて……ありましたっけ?」

「……や、どうだろあれは…趣味とはいえないかも?」

私の態度を観察した上で今の話はなかったことにしてと言わんばかりの返し……。
彼女は多分知ってる……雪姉の秘密……。

――わ、私だけが知ってる秘密なのにっ! というか雪姉、この人に観察されてる?

大学での雪姉を私は知らない。なんだか無性に悔しくなる。
私の知らない今の雪姉をこの人は知ってるかもしれない……。
もしかしたら観察どころか……同意の上での――……いやいや、ないでしょ? ……ないよね?

695事例17「高倉 悠月」と駆け引き。10:2020/01/16(木) 07:36:37
「……そう…それでノートの続きだけど――」

私は乱れに乱れた心を騙す様に平静を装い、彼女の前に置かれたノートを指差しながら重要な場所の説明をする。
ただいくら机の角とは言え、少し身を乗り出して説明しなきゃいけないのは、今の尿意だと厳しい。
左手はスカートの上……前じゃなく膝の上で硬くこぶしを握り最小限の仕草で抑える。
だけど、その仕草は見る人が見ればきっとわかってしまう……。

『ふぅ……大丈夫、この子の方がずっと我慢してる……必死に隠してるけど、隠しきれてないし……うん、良いじゃない、可愛いじゃない……まぁ、美華には劣るけど』

――っ! か、かわっ――! だめ……動揺しちゃだめ、ていうか美華には劣るって……我慢してる姿がってこと?

美華さんは彼女と一緒にいた人の事。
雪姉だけじゃなく、この人は――……ま、まぁ……私も大概酷いけど。

観察されてるだけでも辛いのにその『声』が聞こえるのは本当に居た堪れない。『可愛い』とか言わないで欲しい。
正直なところ逃げたいという思いが強くなる……だけど、やっぱり色々悔しい。
僅かな仕草を見破られ観察され楽しまれていることも、雪姉の秘密の事も。

だけど、こういう相手だったら、私も罪悪感を強く感じずに追い詰められる。
私自身、『声』を聞くために自分が失敗することは自業自得だと思ってる。
だから、私を観察するために自分の尿意を棚に上げた彼女が、もし失敗したとしてもそれは自業自得。
さっきの『声』からも余裕がなくなってきていたのは読み取れた。
彼女が『言う』様にまだ私の方が辛い状態なのは事実……でも相手がそう思っているからこそ立場が逆転されるだなんてきっと思ってもいないはず。

私は少しキリが良いところで小さく嘆息して椅子に座り直して彼女に問いかける。

「……あの、さっき飲んでたタピオカミルクティー? あれってトイレに行きたくなりませんか?」

「え、あぁ……確かにティーっていうくらいだし」『なってる、なってる……でもそれ私に行きたいって言わせたいだけでしょ?』

そう思ってくれて構わない。
まだ自分が優位に立ってるって思って貰った方が都合がいい。

「まぁ、まだしたくないし、教えて貰ってるんだからキリが良いところまで行ってからでも全然平気かな」
『言ってあげないよ? したくないって言うのは流石に嘘だけど、まだ私は我慢出来る……でも貴方はどう? 無理でしょ? この話続ける? それとも本音で?』

……。

「……そうですね、折角なのでこのノートを終わらせましょう」

『っ! ……この子正気? 雪の我慢趣味の事知ってるみたいだし……まさかこの子も?』

――違います! 同じ変態でも私は観察者側っ! ……それと動揺を見せたつもりなかったんだけどなぁ……雪姉の事思いっきりバレてる……。
……というか今の……『聞こえた』のはちょっと意外……。

さっきの『声』は小さかった。
恐らく尿意からの『声』ではなく、相手への強い興味からの『声』。
尿意ほど、ストレートに感情の影響を受けた『聞き』取りやすい波長――――慣れてるから余計に聞き取りやすい――――ではないけど
今のが『聞こえた』ということはお互い相手の事を分析しようと必死で……。

『声』が聞こえたのは自身が優位に立つ上で重要な事だけど、本当に聞きたいのは彼女が尿意に追い詰められた『声』。

696事例17「高倉 悠月」と駆け引き。11:2020/01/16(木) 07:39:11
私が食い下がるって思っていた彼女。
もしかしたら、私が尿意を告白してくるんじゃないかと期待していた彼女。
彼女の「まだしたくない」って嘘は、私に恥をかかせた上で二人でトイレに行くという結果を想定して使った言葉。

『はぁ……落ち着いて……限界になったら流石に言うでしょ? っ……じゃなきゃちょっと困るかも……』

――……したくないって言ったけど……したいでしょ? あんなこと行っちゃった手前、仕草なんて易々と出せないよね。
……んっ…そうは言うけど……私も……っ……だめ、まだ大丈夫……。

押さえたい……。だけど、彼女の行動にも仕草が見え隠れし始めてる。
ノートを指差しながら視線だけを足元に向けると、ミモレ丈のジャンパースカートが揺れしっかりと閉じ合わされた足が確認できる。

「だ、大丈夫? ちょっとさっきから苦しそうに見えるし、息も少し荒いし?」『足ももじもじさせてるし、……そ、そろそろ限界でしょ?』

――っ!

「い、いえ……平気です、私普段から余り喋りなれてなくて……」

仕掛けてきたのは彼女。
彼女の仕草を見ながら私も同じような仕草をしていたらしい……。
それに……僅かな息遣いまで……。
私の言い訳は正直苦しいが、ちゃんとした言い訳をしたところで結局はバレているわけで、この際どうでもいい。
それよりも、私にトイレに行かせようと必死になってることの方が重要……私に恥ずかしい台詞を言わせようとしているだけじゃない。
彼女が尿意を抑えきれなくなってきてるから、私を利用してトイレ休憩に持ち込もうとしてる。

「続き……いいですか?」

「え……あ、うん……お願いします」『っ…何でっ……まだ我慢続けるつもり? 本当にこのノートが…っ……終わるまで?』

私からは仕掛けない。
さっきのタピオカミルクティーの話題が私から出した唯一無二の攻撃のつもり。
彼女が言い出し難い状況を作って、私がトイレ休憩を取らなければ――……見せてくれるよね、可愛い仕草。魅力的な『声』。

『っ……どうしよ……ほんとに我慢辛く……っ! ……まさか…この子私がしたい事知ってて?』

どうやら私の思惑に気が付いたらしい。
彼女…さっきから薄々わかってはいたけど勘が鋭い……。

『っ……我慢してること自体が嘘というわけじゃないはず、だけど……んっ…もしかして、もう私の方が限界に…近い?』

私から見ても正直わからない。
両方8割を越えてるくらいだとは思うが……だけど、同じくらいなら多分先に限界になるのは彼女の――

――んっ! だめ……あぁ……だめ、やっぱこれ、私のが…限界に近い…かも……っ、はぁ…っ……。

大きな尿意の波に足を大きく擦り合わせ、だけど押さえるのだけはどうにか踏みとどまる。
それでも、押さえずに我慢してるせいかなかなか宥めきれない。

「っ! トイレ行きたいんでしょ? 一旦休憩にしようか?」『っ…どう? 流石に今の状態でも、続ける選択が出来る?』

此処がチャンスとばかりに彼女は私に休憩を提案する。もちろん私を理由に。
尿意の波の真っ只中――……トイレに行きたい……凄く行きたい。けど、だけど――

「い、いえ……ちょっと足が…疲れて……動かしたくなったっ…みたいな……」

「……っ! 正気? わかってるよね、そんな苦しい嘘バレてるって」

……。
分かってます。
このやり取りを続けるのにはもう無理がある。
ここまで派手に恥ずかしい姿晒してこれ以上続けるのは、もはやただの我慢大会――

697事例17「高倉 悠月」と駆け引き。12:2020/01/16(木) 07:40:50
<ガラガラ>

――っ! な…んっ……だめっ……!

私は慌てて前を押さえる。
尿意の波を宥めきれない中、図書室の扉が開く音に不意を突かれて――

――……だ、大丈夫……漏れてないよね? 今のは不意を突かれた……だけだし。
それより今の音って……。

私は押さえたことで波が治まるのを感じて、ゆっくり手を前から離し、図書室の入り口の方へ視線を向ける。

「あ! 見つけた!」

私と視線が合い声を上げて駆け寄ってくるのは――

「ゆ、雪姉!」

抱き着いて来ようとする雪姉に私は慌てて右手を突き出して、拒絶する。

「わっ……もう、久しぶりでサプライズなのにつれないなぁ……」

私の手に驚き足を止めて、不満そうな顔をこちらに向ける。
今抱き着かれたら、本当に危ないかもしれない……。

「あ、悠月……」

雪姉は私から視線を外すと、さっき勉強を教えていた彼女に気が付き声を出す。
悠月(ゆづき)……今更だけどそれが彼女の名前らしい。
名前を呼ばれた悠月さんはと言うと……教科書やノートを慌ててカバンの中に詰め込んでいて――

「悠月、勉強してたの?」

もう一人の雪姉とは違う声が聞こえて……。

――……そっか、さっきこの人には迷惑かけられないって……。

「み、美華……これは一通り回り終えて時間あったし…ちょっと復習しておこうかなって……っ」『こ、こんな時に…ダメ…これ波……っ……』

そろそろ限界でトイレに行かなきゃいけないタイミングでの今の状況。
特に悠月さんは今の状況に激しく揺さぶられたらしく、片手がスカートの前を押さえていて――……可愛い。

「悠月? あ! ふふ、へーそうなの?」『悠月……我慢してるんだ、綾菜ちゃんの前で言えなかった? 今日は私が意地悪しちゃおっかな?』

――っ! 美華さん?!

急に美華さんから聞こえた『声』。
私と同じく可愛いと思う『声』……それに『今日は』ってことはいつもは立場が逆という事?

「ねぇ綾ー、私、綾のクラスで割と待ってたんだけどー」

「っ! くっつかないで! わ、私だってずっと店番してるわけじゃないしっ」

いつの間にか後ろに回り込んでいた雪姉が、私の胸元を抱くようにして話しかけてくる。
そんな雪姉に驚き、慌てて離れるように言うが一向に離れない。

「ん、あれ?(もしかしてトイレ我慢してるの?)」

……。

私は顔が熱くなっていくのがわかる。
スカートの裾を握り締め、小さく震えていたのだから気が付いて当然。
いつも我慢してる側が今我慢してなくて、観察側の私や悠月さんが我慢してる……。
我慢してるだけじゃない……観察されちゃってる……。

698事例17「高倉 悠月」と駆け引き。13:2020/01/16(木) 07:41:45
私は雪姉の手を振りほどくようにして立ち上がる。
立ち上がってみると身体が伸びて下腹部が硬く張り詰めているのを嫌でも感じる……。

「……う、うん、ちょうど悠月さんと一緒にトイレ行こうかって話してて……」

私は悠月さんに目を向ける。

「っ……そ、そう……そういう話してた…ところ」『ダメ、本当に…んっ……早くトイレ……』

辛そうにしながらも悠月さんは出来る限り平静を装い――――装えていないけど――――私の言葉に同調して立ち上がる。
さっきまでは二人で意地の張り合いのようなことをしていたが、今はそうも言っていられない。
誰かの我慢は見たくても、自分の我慢は見せたくないもので……。

「悠月、カバン私が持ってあげるね」『思った以上に限界近そう? そんな押さえちゃって……もしかして間に合わなかったり?』

「綾は? 私もカバン持とうか?」『綾も悠月も可愛いなぁ……二人して言い出し難くて我慢してたのかな?』

二人が私たちに向ける『声』……美華さんの方はそれほど私に関心がないのかもしれないが、二人とも少し楽しそうで……。

「……ゆ、雪姉…私は大丈夫」

カバンの中にはもう着替えはないが、ハンドタオルはもうひとつ入れてある。もしもの時のため手元に欲しい。
それに悠月さんのカバンは教科書やノートで重いのだろうけど、私のはそうでもない。

「っ……はぁ……んっ……」『ほんとに不味い…私こんなに……こんな姿見せて……っ……それにこの二人……変態のくせに絶対楽しんでるっ……変態のくせにっ!』

変態の下りは私も完全同意。
それと、立ち上がったことで悠月さんも今の自身の状態に改めて気が付く。
私が我慢していたからそっちに意識が逸れていたのかもしれないし、単純に座っていたことで安定していたのかもしれない。
『声』の大きさからみても、そう長くは持たないほどに尿意が膨れ上がってるのがわかる。
私も危ないことには変わりないが、衝撃とか不慮の事が起きなければもう少し我慢出来そうではある。

――……んっ…はぁ……大丈夫。
……色々予定外の事起きてるけど、悠月さんの必死な我慢は見れたし……うん、可愛い……っ…可愛いけど…と、とりあえずトイレっ……。

図書室から近いトイレは階段を下りてすぐの昇降口近くのトイレか、長い廊下の先の更衣室前のトイレ。

「えっと、昇降口の方が近いかな? 更衣室の方は個室は多いけど、体育館も近いから混んでるかもだし」

「……そ、そうだね」

私は足踏みしたいのを必死に抑えながら雪姉の言葉に同意で返す。
雪姉と美華さんが図書室から出る動きに合わせて――――私たちが恥ずかしがってるのを見て、気を効かせて先頭へ行ってくれた?――――私と悠月さんはその後ろをついて歩く。

「はぁ……っ……んっ……」『だめ、治まんないっ……なんで? あぁ……本当にもう……』

隣で少し前屈みで歩く悠月さん……。
必死に荒い呼吸を抑えて、治まらない尿意に焦った表情を見せて……。

――……本当に…可愛い……けど、限界なんだ……っ、私も、似たような感じ……だけどっ!

彼女から視線を外して前の二人が見てないのを確認してスカートの前に手を添える。
図書室を出る少し前に一度落ち着いた尿意が膨らみだすのを感じる。

699事例17「高倉 悠月」と駆け引き。14:2020/01/16(木) 07:42:28
『んっ……妹さんも限界? あっ……ダメ、もれっ……んっ…ふっ、ふぅ…はぁ……』

隣から可愛い『声』と恐らく押さえてるところを見られた反応をされるが……私ももう前は離せない。
個室が一つしか空いてなかったときどうしよう……トイレ前でちゃんと我慢できるかと問われると正直自信がなくなってきた。
悠月さんのが年上なので体裁を気にして順番を譲ってくれるかもしれないけど――……私が先に入ったら悠月さんは?

……。

階段を下りる。下腹部に負担を掛けないように慎重に。
悠月さんも隣で手すりを持ち、額に汗を滲ませながら険しい表情で……。

階段を下り終わるともうすぐ……だけど――

――……っ! 今二人…トイレに入って……。

階段を降りて昇降口の方に歩みを向けた直後、前を歩く雪姉と美華さんの間からそれは見えた。
此処のトイレは個室が二つと少ない。
利用者もほとんどいないので普段はそれほど気になるようなことでもないけど。

――あの二人以外に…先客が、いなくても……個室が開くまで、順番待ち……っ…ダメ……っ!

もうすぐだったトイレ、その油断から尿意の大波が私を襲う。
もう少し大丈夫だと思ってた、だけど椅子に座っての我慢を続けていたのは悠月さんだけじゃなく私も同じで。

――っ……そ、それだけじゃないっ……その前のトイレも…我慢しすぎてたからっ…んっ……や、これっほんとにっ……!

急激に切迫する感覚に私は焦る。
図書室での仕草を必死に抑えていたのも良くなかったのかもしれない。
押さえず宥めるようなこともせず、括約筋の力だけで必死に耐えていたせいで我慢が効かなくなってきてる。

トイレに駆け込んで済ませるくらいなら何とかなるかもしれない。
だけど、順番待ちは確定していて更には私か悠月さんのどちらかは、さらに待たなくちゃいけない。

「……っ」『あっあぁ……でちゃっ――っだめ、まだっ……で、でもさっき…人がっ……む、無理かも、私、ほんとにもうっ……っ』

隣で『声』が聞こえる。
今にも溢れそうな……もしかしたら少し溢れてしまっているかもしれない『声』。
このままじゃ、私も悠月さんも……。

私は前の二人に視線を向ける。
二人はお互い健全な一般人としての体裁を保つためなのか、こっちを見ずに前を見ながら二人で話しながら歩いてる。
このままついていけばすぐには空かないトイレ……。

私は視線を渡り廊下に移す。
私のすぐ横……教室棟に向かうための渡り廊下――

――っ……き、緊急事態だからっ!

私は隣で歩く悠月さんの肩を二回軽く叩いて、前の二人に気が付かれないように渡り廊下へ。
このまま教室棟のトイレまで? 違う、そんなのトイレが混んでいたらそれまでだし、そもそも教室棟まで間に合わない可能性だってある。
教室棟の方が人は多いし、こんなあからさまな我慢姿で行けるわけがない。
……中庭を一望できる渡り廊下だけど、その反対側には植木が校舎を囲むようにして植えられてる。

「(っ……い、妹さん? んっ――)」『っ…な、なに? トイレあるの? っ……はぁ、ダメ……早くはやくしないとっ本当にっ…ああぁ……』

後ろから小さく声を掛けられるが、説明してる余裕は私にはないし、それを聞く悠月さんにもない。
ただ、私は「こっち」と小さく答えて、渡り廊下を外れ、植木の内側の犬走りを歩き出す。
恐らく校舎の壁の向こうには雪姉や美華さんが居て今頃私たちが居ないことに気が付いてる。
そして、進行方向のこの壁の向こうは……私が間に合わないと判断したトイレ。

700事例17「高倉 悠月」と駆け引き。15:2020/01/16(木) 07:43:14
「(ちょ、ちょっとっ…あ、ま、まさか…んっ……こ、ここで?)」『あ、あぁ、ダメちょっと、あぁっ…んっ!』

後ろから制服の袖を引っ張られて振り返るとスカートの前を必死に抑えた悠月さんが居て――

――……か、可愛――っ! あ…んっ……そ、そんな、事…言ってる場合じゃっ! あっ! あぁ! やだっ!

<じゅうぅ…じゅ……>

手で押さえるスカートの中……下着の中で渦巻く熱さ。
必死に押さえ込んでるのに……悠月さんへの説明もなにも出来てないのに――……ぁ、だめっ、こ、これ以上は! あ、あぁ、ああぁっ!

私は咄嗟に校舎に凭れるように中腰になってスカートをたくし上げる。
空いている片方の手で下着を――

「ぁっ! んぁ……」<じゅううぅぅうぅぅぅ――>

下着をずらして……悠月さんが近くにいるのに、中庭からの喧騒が聞こえるのに、すぐ壁の向こうに雪姉がいるのに、右手の壁の向こうはトイレなのに……。
しちゃってる……私、我慢出来なくて外で……『声』が聞きたかったが為に…我慢して、我慢して……でも出来なくて。

「(え、ちょ――っ! あぁ、や、待ってっ!)」

悠月さんの声に、意識を内面から外へ向ける。
今も恥ずかしい音を響かせてる私だけど、隣にはまだ我慢を続けている悠月さんが居る。
必死に押さえて、足踏みさえできないほどに追い詰められている姿……。
それは、おもらし数秒前――

――っ! し、染み? もう、始まってる!?

「(ゆ、悠月さん! は、早く捲って――)」

押さえ込まれたスカートの前が色濃く染まり始めているのを見て、咄嗟に声を掛ける。
下着をずらしながら、恥ずかしい熱水を迸らせてる私が多分悠月さんの止めを刺したのだと思う。
悠月さんは私の声が届いたのか片手を離しスカートに手を掛けるが、膝丈以上もあるスカートは慌てた手つきでは上手く綺麗に上がらない。

「あ、あっ…あ…っ!」

足元のコンクリートで出来た犬走りに、恥ずかしい雫を落とし濃い斑模様を作る。
黒いタイツを伝い、スカートの内側を伝い、押さえ込まれた場所から染み出して。

「だ、だめっ〜〜〜っ」<じゅぃぃぃ――>

足元に落ちる雫が流れに変わり始めた直後、スカートの両脇を両手で吊り上げてしゃがみ込んだ。
当然両手はスカートを吊り上げているため、恥ずかしい音は下着の中でくぐもった音を発していて……。

「はぁ……はぁ……っ…はぁ……」

スカートには大きな染みと流れた跡。
タイツも下着を履いたままで……。
もう少し早くタイツと下着を諦めてしゃがんでいればスカートへの被害は最小限に抑えられたかもしれない。
だけど、焦って、藻掻いて……だから――おもらしに……。

701事例17「高倉 悠月」と駆け引き。16:2020/01/16(木) 07:44:10
「っ……」

私自身が恥ずかしい状況な事も忘れ悠月さんのおもらしに見入っていたが、勢いがなくなり下着をずらした指に熱さが伝い始めて我に返る。
腰をさらに落として――……私も下着は――っ! え? あっ…す、スカートがっ……うそ、こんなに染みちゃってた?

視線を下げると今更になって自身のスカートも押さえ込んでいたところに拳ほどの染みがあることに気が付く。
此処についてから始まった先走り……思った以上に出ちゃってた……。

……。

――ご、誤魔化せるよね? 結構染み大きいけど……お、おちびりだよね、私のは……。

トイレではないけど、私は間に合ったと言っても支障ない程度の――

「(はぁ……結局二人とも…おもらしなんて……最悪……これ、どうしよ……)」

――っ……お、おもらし……っ……私も……。

隣から震えた声が聞こえて……。
私は下着から手を離してゆっくり立ち上がる。
……被害の大きさが違えど、認めたくはないけど、自分を誤魔化さずにスカートをちゃんと見れば、皺が出来た部分に大きな染み……確かにこれは……。

「(哀れだね、私たち……でも、ここに連れて来て…くれたのは……助かったかな)」

悠月さんは真っ赤な顔で、乱れた呼吸で、涙目のままだけど……それでも気丈に振舞い、スカートを手で揺らし雫を落とす。
そういえば椛さんも鈴葉さんも落ち着いてからは気丈に振舞っていたけど、年下には見せられない大人の意地みたいなのがあるのかもしれない。
私も悠月さんもあのままだったら多分トイレでおもらししちゃって、それを雪姉、美華さん……それに、トイレの中の人にも見られていただろう。

「(はは、ほんとバカみたい、二人して牽制し合って)」

「(……す、すいません)」

悠月さんは嘆息して、スカートのポケットからハンカチを取り出し後始末を始める。
当然、染みを消し去ることなどできはしないけど……。
私もカバンの中からタオルを取り出す。

「(さっきの感じだと、妹さんも雪と同じくらい我慢出来るの?)」

――っ!

後始末をしていると声を掛けられる。
こんな状況なのに少し楽しんでいるような声色で……。

「(……姉の…量まで知ってるんですか?)」

視線は合わせず後始末を続けながら質問を返す。
というか、悠月さん自身があんな状態だったのにも関わらず、私の量に関してちゃんと分析してるって――……お、音? 長さとか? 本当この人変態……。

「(雪はまぁ、たまたま聞こえた感じだと、かなり多そうかなって思っただけ……私は答えた、妹さんは?)」

……質問せずに無視すればよかった。
その返し方じゃ答えないわけには行かないけど、なんだか悠月さんが全然損してなさそうで……ずるい。

「(……姉の方が恐らく我慢出来ます……あんな趣味ですから)」

私が主語にならないように――――ごめん、雪姉……――――に言葉を選んで返す。悠月さんは「確かに」と相槌を打つ。
本当、雪姉とどんな関係なんだろう……。

702事例17「高倉 悠月」と駆け引き。17:2020/01/16(木) 07:45:00
……。

後始末も大体終わり、しばらく茫然と立ち尽くす。
「ここでしました」ってところに長居したくはないのだけど、染み付きスカートで校内を練り歩くって言うのも勇気がいる。

  「あ、あのっ、お久しぶりです」

私はその声に驚き肩を震わす。隣で悠月さんも姿勢落とし固まる。
渡り廊下からの声……一応私たちがいる場所はギリギリ死角になってるはずだけど……。

  「え、あ、でも夏休みにも一度あってるから――あ、はい、そうですね」

その声は誰かと話しているようだけど、相手の声は聞こえない。
恐らく電話……というか、この声って――

  「はい――、いえ、メイド喫茶ですね――――えぇ!? そ、そんな、可愛くなんてないですからっ!」

――……弥生ちゃん……だよね?

誰かと楽しそうに話す弥生ちゃん……。
学校の友達じゃない、親戚とか、中学の時の友達とかその辺り?

  「あはは……――はい、では明日……――はい、待ってますね、雛さん」

――えっ!? ……雛さん? どうして私の名前……。

違う、私じゃない。別人、同じ雛さんだけど……。

……。

思い返せば、弥生ちゃんは私のことを最初から『雛さん』と心の中で呼んでいた。
だったら、今のヒナさんは……私を雛さんと呼ぶことの元となった人物?

「(知り合い? まぁ、なんでもいいけど、これからどうする?)」

植木から弥生ちゃんの様子を覗き込んでいた私に、悠月さんが話しかける。
弥生ちゃんの事は気にはなるけど……とりあえずは――

703事例17「高倉 悠月」と駆け引き。18:2020/01/16(木) 07:45:42
――
 ――

<ピンポーン>

此処はマンションの九階。
私は玄関チャイムを押して扉が開くのを落ち着きなく待つ。

<ガチャ>

扉が少し開き、無言で覗き込んでくるのはクラスメイトの斎さん。

「……こ、こんばんは……」

私は緊張を隠せず言葉が詰まる。
そんな私を斎さんはじとっとした目で睨んでくる。

「なに?」

「……ごめん、放課後返そうと思ってたんだけど、色々あって早く帰っちゃったから……す、水筒……」

自宅で洗って持ってきた水筒を差し出す。
斎さんは不機嫌な顔をしながらも受け取ってくれる。

「ちょっと神無! 折角綾菜ちゃん来てくれてるのに!」

「はぁ? 黙ってて! そもそも綾菜が友達拒否して来たんでしょ! そんな相手にどんな態度取ろうが私の勝手でしょ!
安く部屋借りてるくせに、友達作る気ないからーって、そう言ったのはこいつじゃない!!」

――っ……その通りだけど……。

当時、此処に引っ越してきたときのことを思い出す。
マンションオーナーと親類関係にある斎家に挨拶しに行ったときの事。
年の近い彼女が気さくに話しかけてくれて、友達になろうって言ってくれた。
嬉しくて……でも、もう友達を作らない、……そう考えていた私にとっては彼女の言葉はとても苦しいもので、それを断ってしまった。
断られるなんて思っても見なかったであろう彼女は機嫌を損ねたものの、怒りはしなかった。
事情はそれぞれあるからって納得してくれた。
だけど……あんなことを言って置いて、まゆと友達になった私を快く思うわけもなく。
当然のこと……まゆと友達になる前に彼女にはちゃんと謝って、私から改めて言うべきだった。
友達になろうって……。

私は玄関で怒る彼女に何も言えず、頭を深く下げて早足で逃げるようにその場を離れる。
学校ではある程度普通に接してくれる、本当に良い人。
さっきも、姉の斎先生が来るまでは最低限の対応はしてくれていた。

……。

だけど、私にはもう彼女の友達になる資格はない……。
友達になるのに資格なんていらない、そういう人もいるかもしれない。
だからきっと資格なんてことは言い訳に過ぎない……ただ、私が怖いだけ……断られるのが怖いだけ。

――……それでも……いつかは……ちゃんと謝るくらいはしないと……。

704事例17「高倉 悠月」と駆け引き。19:2020/01/16(木) 07:47:22
<ガチャ>

「おかえりー!」

リビングから雪姉が玄関を開けた私に手を振ってくる。
私はその底抜けに元気な雪姉に頬を緩める。

「おかえり、妹さん」「おかえりー綾菜ちゃん」

……。

結局あの後、私は自転車で帰れたが、車で来ていた悠月さんはそうはいかなかった。
車の鍵が美華さんの持っていた悠月さんのカバンの中らしくて仕方なく事情を話すことにしたらしい。
その時私のことは伏せてくれていたみたいだけど、雪姉も美華さんも悠月さんの車でこの部屋に来てしまい、あっさり私の失敗もバレてしまった。
失敗した瞬間を見られなかっただけ良かったが、雪姉の心配しつつも少しニヤニヤしたあの顔はもう見たくない。

そんなことより、私が帰ったとき洗濯機が既に回されていて、中に雪姉のスカートと下着が入っていたのが凄く気になる。
雪姉は一度家に寄ってから学校に来たらしいからその時か、あるいは11時頃には学校に来ているはずの雪姉を、悠月さんも美華さんも15時過ぎまで見かけなかったらしいから……。
問い詰めたかったが、自身の失敗もあって言い出し難く――――しかも、雪姉の方は何か零して着替えたとか言い訳できるし――――、逆に雪姉の方もあまり私の失敗について言及してくることはなかった。

「……ただいま……えっと、私はもう、お風呂に入って寝ますので――」

雪姉の友達なのだから私は邪魔だろうし、泊まるつもりならお風呂も順番に入らなきゃいけないだろうし、そもそも失敗がバレて面と向かうにはまだ恥ずかしい。
私は適当に挨拶して早足で浴室へ向かい、お風呂へ。

……。

――……はぁ、先に帰っちゃったけど、何か迷惑かけてないかな?

湯船につかりながら考える。
一応、初日の15時以降は自由に帰宅しても問題ないらしいし、メイド喫茶の片付け当番にも私は入っていない。
すっかり忘れていた水筒はついさっき解決したし、星野さんの失敗も自分で何とかすると言っていたし、霜ちゃんのことは色々気にはなるが帰る事には関係ないし。
まゆの後で聞く話の約束については、事情が出来て先に帰る連絡を入れたときに、明日の夕方にしようと言ってくれた。
弥生ちゃんの電話の相手も気にはなるが……まぁ、私が気にすることでもない。

……。

今日一日色んなことがあった……当然私の失敗も含めて。
私は湯船に口を沈めてぶくぶくと音を立てる。

――……今日は我慢しすぎたし、明日もきっとその影響でトイレが近くなってることだろうから……
まぁ、明日は大人しく普通に文化祭を楽しもう……。

おわり。

705「高倉 悠月」:2020/01/16(木) 07:52:08
★高倉 悠月(たかくら ゆづき)
「雛倉 雪」の友達で、同じ大学に通う。
同じく雪の友達である「乾 美華」と一緒にいることが多い。

綾菜と同様、観察者側の気質を持ってはいるが、それを向ける対象の殆どが美華、たまに雪。
特に美華と仲良くなった経緯がトイレの我慢に深く関係しているため、半同意の上でそういう関係を定期的に楽しんでいる。

両親を幼い頃に亡くしていて、現在はとある大家さんが保護者のような立場をしている。
両親からの遺産がそれなりにあるらしいがそのすべてを大家さんに管理してもらい、必要分だけ貰うようにしている。

膀胱容量は人並み。
基本的にはトイレを申告できるし、我慢するような性格ではない。
ただ、我慢していることを美華に悟れると、美華が日頃の反撃をしてくるため
美華の前では我慢を極力悟られないよう振舞っている。

成績それなりに優秀、運動並。
有名大学に入ってはいるものの、割と奇跡的な合格であった為、単位の取得に苦戦している。
運動は得意ではないが、運動神経は悪くない。
性格は基本的には冷静沈着。
頭の中で色々考えてはいるが、言葉にするのは得意ではなく、人付き合いも苦手。
面倒くさがりであり、Sっ気を持ち、若干合理的主義者。
料理は一人暮らしの経験が長いため得意ではあるものの、買った方が楽なのであまり積極的にしない。

綾菜の評価ではとても変態(同族嫌悪)。
感が鋭い人。悪い人ではないが、雪姉との関係が気になったりで、なんとなく好きにはなれない人。

706名無しさんのおもらし:2020/01/17(金) 00:03:12
更新待ちに待ってました。あやりん初めての野ション最高でした。

707名無しさんのおもらし:2020/01/17(金) 21:52:10
あやりんもたいがいシスコンだなあ

708名無しさんのおもらし:2020/01/17(金) 23:59:35
回収されたところで2年越しの教訓。
アナグラム使う時は、元のキャラ名をちゃんと考えておかないと、伏線の効力が一気にさがってしまうので注意。
それはいいとして今回もグッドでした。やっぱ仕草隠し系我慢は最高。
事例の欠番がいつうpされるのかも楽しみです。

709名無しさんのおもらし:2020/01/18(土) 11:43:55
新作投稿ありがとうございます!今回は雪月華とのクロス回ですね。
どちらも優秀でちょっと似てるところあるのに、雛倉姉妹と黒蜜姉妹の差が気になります。
あやりんも段々と社交的になってきた感じしますね。もともとがそうなのかもしれませんが。
霜が「狼」と呼ぶのはそうあって欲しいという暗示なのかな。

710名無しさんのおもらし:2020/01/18(土) 22:31:24
>>705 新作ありがとうございます!
あやりんの失敗(未遂?)はいいですね!今回もシチュエーション最高でした。

711名無しさんのおもらし:2020/01/19(日) 22:39:44
病院回読み返そうとして勢いで最初から全部読んできてしまった
当時のコメントでも気づいてた人いたけど俺は全然気づかなかった……

712名無しさんのおもらし:2020/01/30(木) 10:01:49
ゆきこさん 運動会閉会式でおしっこをおもらし!

713名無しさんのおもらし:2020/01/31(金) 19:07:04
「いや 、すでにそれが歓びなのか 、苦痛なのかさえわからなくなっていた 。その証拠に 、八木橋が特製鞭の雨を見舞ってきても 、満里亜の躰は痺れきった神経によって 、陶酔に甘く酔いしれ 、洩れる悲鳴には喜悦の響きが混じっていた 。鞭 、バイブ 、便意のバランスをきわどく保つ責めにこれまで身悶えしながらも 、耐え続けてきた美しいスチュワ ーデスの躰にも 、ついに完全なる崩壊が近づいていた 。最初に 、肉体よりも意志が限界を迎えた 。ボロボロになっても 、やはり自らその瞬間の決断を下す恥辱感は残っていた 。鞭を浴びる度に身をよじり 、呻き声を放って 、貌をしかめていた満里亜は 、その刹那 、握りしめていた鉄棒から手の力を抜くと 、ほとんど穏やかな表情を浮かべて 、屈辱の安楽の中へ身を投じていった 。ヒップの方から崩壊がはじまると同時に 、バイブに貫かれた躰は 、四肢を打ち抜くばかりの喜悦の爆発に見舞われていた 。その二つがぶつかり合い 、それは恥辱も苦痛も歓喜も絡め合いながら 、凄まじい法悦の絶頂感となって 、麗しいスチュワ ーデスの五体に襲いかかってきた 。ガクガクガクッと下肢を慄わせ 、その上体は大きくのけ反りながら 、寄せ返す衝撃の荒波みに打ち上げられて 、烈しい痙攣をくり返した 。そして 、最後には 、なおも死者に鞭打つように 、満里亜自身の意志とは無関係に 、制服の下の白い豊かな股間はゆばりを放ち 、その前でズボンを下ろした八木橋の股間の持ち物から 、劣情の白液を誘発していった 。

714名無しさんのおもらし:2020/01/31(金) 19:14:35
「トイレへ行きたいのかね 」八木橋が歩きながら 、やっと声をかけてきた 。満里亜は大きく頷いてみせる 。 「そうだろうな 。グリセリンの源液を注入してやったんだから 」 「 ! 」 「公園まで我慢しろ 。まさか途中でチビったりするなよ 」そう言うと 、踵を返して 、わざと遠まわりをしながら 、公園に向かう 。それは完全な地獄と言ってよかった 。少しでも 、神経をヒップからそらせば 、崩壊が起こるに違いない 。が 、ヒップに神経を注ぐことによって 、疲れきった両脚が 、ハイヒールを穿いた不安定な状態で 、いつバランスを崩すかもしれなかった 。その結果 、躰が倒れ 、ショックで崩壊が起こるかもしれないのだ 。まさに 、針の上を綱渡りしているも同然だった 。公園が見えてきたとき 、満里亜はだから 、思わず涙を溢れさせていた 。すでに 、公園を出てから二十分以上が経っていた 。八木橋はしかし 、すぐにトイレに行かせてくれるほどヒュ ーマニストではなかった 。 「その前にして欲しいことがあるんだろう 」そう言うと 、鉄棒の一番高いところへ連れていき 、両手をバンザイをする恰好に吊り上げた 。続いて 、猿轡が外される 。 「ああっ … …は 、早く 、おトイレに … …ククッ ― ― 」 「遠慮することはないさ 。オ × × ×が欲しくてたまらなくなっているんだろう 。眼がそう言っているぞ 。少しは奥さまにも愉しんでもらわないとな 、これはプレイなんだから 」正面に立つと 、八木橋はブラウスをくつろげ 、ブラのフロントホックを外してくる 。 「そ 、それより早く 、おトイレに ― ― 」言いかけたものの 、八木橋の手が豊乳を把み上げてくるなり 、 「ほおおっ 」目眩く愉悦に 、全身が溶け出すような感覚の拡がりを覚えて 、あられもない声を送らせていた 。ギュンッ 、ギュンッと力委せに揉まれるほどに 、満里亜の五体に歓喜のうねりが燃え拡がっていく 。が 、今の満里亜はその喜びに浸っているわけにはいかなかった 。腹部を襲う便意と痛みはそれ以上に大きい 。ピンクに染まった美しい貌が 、すぐに青ざめるのを見て 、八木橋はバイブレ ータ ーを持ち出して 、ハイレッグの黒いパンティの上から 、ムンッと盛り上がる頂きを押し上げてくる 。 「ふうっ ! 」ブルッとガ ータ ー ・ストッキングをふくらませる豊かな太腿を慄わせたかと思うと 、満里亜の股間は待ちかねていたように左右に開かれ 、バイブの尖端へ自ら頂きを擦りつけていった 。数回なぞり返すと 、八木橋は濡れまみれたパンティを引き下ろし 、直接クレヴァスに当てがってくる 。 「はうっ ! 」新たな刺戟に 、満里亜は股をあられもなく開いたまま 、たちまち昇りつめそうな快美感に襲われた 。実際 、じかにクレヴァスを擦られて 、便意と痛みがなければ達していたに違いない 。神経はヒップの一点に集中はしているが 、バイブによる官能の刺戟は 、一瞬ではあっても苦痛を忘れさせてくれる良薬だった 。濡れに濡れた熱い肉体は 、極太のバイブレ ータ ーを 、押し入れられるままに迎え入れていった 。八木橋が手をはなしても 、優秀な満里亜の躰は 、しっかりと咥え込んで落とすようなことは決してしない 。便意とバイブの振動によって 、満里亜は未知の歓喜の中で苦悶するように 、全身をのたうちまわらせていた 。
いや 、すでにそれが歓びなのか 、苦痛なのかさえわからなくなっていた 。その証拠に 、八木橋が特製鞭の雨を見舞ってきても 、満里亜の躰は痺れきった神経によって 、陶酔に甘く酔いしれ 、洩れる悲鳴には喜悦の響きが混じっていた 。鞭 、バイブ 、便意のバランスをきわどく保つ責めにこれまで身悶えしながらも 、耐え続けてきた美しいスチュワ ーデスの躰にも 、ついに完全なる崩壊が近づいていた 。最初に 、肉体よりも意志が限界を迎えた 。ボロボロになっても 、やはり自らその瞬間の決断を下す恥辱感は残っていた 。鞭を浴びる度に身をよじり 、呻き声を放って 、貌をしかめていた満里亜は 、その刹那 、握りしめていた鉄棒から手の力を抜くと 、ほとんど穏やかな表情を浮かべて 、屈辱の安楽の中へ身を投じていった 。ヒップの方から崩壊がはじまると同時に 、バイブに貫かれた躰は 、四肢を打ち抜くばかりの喜悦の爆発に見舞われていた 。その二つがぶつかり合い 、それは恥辱も苦痛も歓喜も絡め合いながら 、凄まじい法悦の絶頂感となって 、麗しいスチュワ ーデスの五体に襲いかかってきた 。ガクガクガクッと下肢を慄わせ 、その上体は大きくのけ反りながら 、寄せ返す衝撃の荒波みに打ち上げられて 、烈しい痙攣をくり返した 。そして 、最後には 、なおも死者に鞭打つように 、満里亜自身の意志とは無関係に 、制服の下の白い豊かな股間はゆばりを放ち 、その前でズボンを下ろした八木橋の股間の持ち物から 、劣情の白液を誘発していった 。

715あぼ〜ん:あぼ〜ん
あぼ〜ん

716あぼ〜ん:あぼ〜ん
あぼ〜ん

717あぼ〜ん:あぼ〜ん
あぼ〜ん

718名無しさんのおもらし:2020/02/27(木) 10:13:09
わくわく

719名無しさんのおもらし:2020/03/30(月) 12:39:06
あげ

720事例の人:2020/07/02(木) 00:18:46
>>706-711
感想とかありがとうございます。
あやりんは間違いなくシスコンです。事例の欠番は……単体では大した話ではないのですけどね。
現在の板の行数仕様が6行以上(?)は駄目っぽいです。レス消費数計算するまでもなく断念。今後の事色々視野に入れつつ、9月頃までは様子見とします。

721名無しさんのおもらし:2020/07/02(木) 01:40:01
うおお今そんなことになってるのか……
早く事例の続き見たいから楽しみに待ってます

722名無しさんのおもらし:2020/07/06(月) 20:40:22
開放されたよ。

723名無しさんのおもらし:2020/07/08(水) 18:07:35
解放されたので新作希望

724事例の人:2020/07/12(日) 22:07:00
解放されたらしいので
文化祭一日目の裏側となります。

725事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 1:2020/07/12(日) 22:09:31
『どうしたの、こんなところで?』

私はその『声』に驚き振り向く。
その直後こちらに何かが投げられそれを反射的に受け止める。
手元にあるのは……ペットボトルのお茶。普通に危ない。
私は視線を上げて、それを投げ『声』を掛けて来た人を見る。

「……う、潤さん、わざわざ文化祭に来て下さったんですか?」

「そりゃ数少ない可愛い顧客は大事にしないとね」『って言いたいところだけど、ちょっとこの学校には思い入れがあってね』

思い入れ……潤さんは此処の卒業生じゃなかったはず。
どこか寂しそうな顔をしながら、彼女、告宮 潤(つげみや うるみ)は私の隣に来て一緒に中庭に視線を落とす。

「ほほー良い眺めだね、屋上からみんなの様子を見る楽しみ方も悪くないわね」『あ、そのお茶飲んでいいからね』

私は、『声』に対してお礼を言いつつ、潤さんと並んで中庭へ視線を落とす。
そこには生き生きした表情、動き、喧騒……皆が文化祭を楽しんでいる。
それなのに私は、こんなところでそれを他人事のように見ている。

「その様子だと、例の子と一緒に見て回る計画は上手く行っていないようね」

私は図星を付かれて表情を硬くする。気分を紛らわすようにして、さっき貰ったペットボトルを開け、口元で傾ける。
半分ほど一気に喉に流し込み、ペットボトルに蓋をして小さく嘆息して……それでも動揺が解けない私はフェンスを掴む手に力が籠る。

『テレパシスト同士だもの、踏み込めないのは当然ね』

私の様子を十分に観察してから、顔を覗き込みながら優しい口調で『言った』。
興奮を含んでいない、大きな主張でもない普段聞くことのできない『声』で。

告宮家。それは私の朝見家とは別種のテレパシスト家系。
私の家、朝見家が受信型テレパスなのに対して、告宮家は発信型テレパス。
ただし、彼女――潤さんは発信型とは言えない特殊なもの。
それは、『声』の波長や大きさを完全制御できるだけの力。つまり発信としての機能は持ち合わせていない。
それはもはやテレパスとは言えないただ凄く器用なだけのもので、私や雛倉さんの受信型のテレパシストにのみ有効に使える力。

『相手は深層意識基準で可変……だったわね?』

私は小さく頷く。
可変と言うのは間違いではないが、より正確に言えば同波長。
あまり細かく話すのは雛倉さんに対して申し訳ないわけで、潤さんには可変と濁して伝えてある。
特定は難しいとは思うが、それでも潤さんがその気になれば容易い事――多分しないけど。

『前にも言ったけど、呉葉ちゃんには受信耐性があるから触れられない限りは大丈夫……だけど――』

触れられてしまえば『聞こえる』、そうなれば受信耐性も知られてしまう恐れがある。
さらに言えば、私が触れられないように行動していたことから、雛倉さんがテレパシストであると私に知られていることも感付かれ
果ては、テレパシストだと気が付いた理由を突き詰めれば、私がテレパシストだと考え至っても不思議ではないし
そもそも触れられた時に私の『声』が動揺から自爆……なんて事にもなりかねない。

726事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 2:2020/07/12(日) 22:11:37
「はぁ……呉葉ちゃんはその子とベタベタ触れ合いたいわけだからしかたないわね」
「っ! ふ、普通に接したいだけですっ!」

私は予想していなかった言葉に真っ赤な顔で慌てて抗議する。
その反応に潤さんはくすくすと笑い、私は取り乱してしまったことを恥て、黙る。
普通に接したい。抗議するために出た台詞だったが――そう、私は普通に接したかった。

私に向けられた雛倉さんの『声』を聞いた時、思っていた以上に私は傷つかなかった……苦しくならなかった。
その理由は自身でも把握できていない部分もあるとは思うが
自分に『声』を向けられた時、彼女が優しい人だったと改めて気が付けたのが大きな要因なのは間違いない。
彼女の趣味趣向はどうしても理解できないし、止めて欲しい。それは変わらない……。
だけど、彼女はちゃんと誰かを今でも救ってる……認めたくはないけど、きっと私も救われた一人で。
雛倉さんはやっぱりあーちゃんのままだった。
それなのに不器用な私は、いつまでたっても壁を作って……せめて普通に……そうでありたいのに。

『前にも言ったから繰り返しになるけど、基本的に『声』ってのは表層に溢れたものしか聞き取れないから
どうにか、その“可変”に当てはまらないことで頭を一杯にしてやり過ごすのがいいんじゃないかしら?
ただ、その“可変”が特定できないのであれば不自然に思われないことを表層で意識するか、もしくは表層では何も考えないか……しかないわね』

「わかって……ます」

確かに潤さんの言うことは正しいと思う。
だけど、ほかの事で頭を一杯にすると言うのは自然に接することへの障害になる。
不自然に思われないことを表層で意識すると言うのも意外というか当たり前というか難しいもので……。
表層では何も考えないとか更に訳が分からない。出来る人には出来るらしいが今の私にはとても出来る気がしない。
……私に超能力なんてものがなければ、雛倉さんの超能力についても知らずに済んだし、何も悩むことなんて無かったのに。

『仕方がないわ……受信型のテレパシストなんてそういうものよ……もって生まれただけで損をする、その代表と言える超能力なんだから』

……。

まるで私の『声』が聞こえたんじゃないかと思えるほど、的確な事を『声』で届ける。
それは以前にも聞かされた覚えがある。
持っていない人は多分「あるに越した事はない」そう思う人が大半。
だけど、現実は違う。
得をするのは要領の良いごく限られた人と、気が付けない程度の力――感が良い程度と認識してる人たちだけ。

『呉葉ちゃんのは特に損ばかりね……聞きたくも無い『声』ばかりでしょ?』

私を心配する『声』。

「いえ……慣れましたから」

私は心配させまいと嘘をつく。
潤さんはそれを知ってかそれ以上は何も言わなかった。

受信型のテレパシスト――心が読める人……そんな人と関わりたいと思える人は滅多といない。
忌み嫌われる存在であり、恐怖の対象。
心の声を盗聴する、生まれ持っての加害者なのだから。

だから聞きたくもない『声』を感じて、耳を塞ぐこともできずただ何事もなかったように振舞う。
そうやってテレパシストは皆、その能力を隠さなければいけない。
でなければ……一人になってしまうから。

――……なのに…………雛倉さんは、本当に強い……。

加害者なのに開き直ってる――と言うと聞こえが悪いけど。
それでも……多分、それは強さなのだと思う。

<♪〜>

携帯がポケットの中で鳴る。
私は取り出し確認する。

「電話? 出てもいいわよ?」

「あ、いえ……メールです」

差出人は皐……わざわざ生徒会室に呼び出しとは珍しい。

「まぁ、後悔しないようにね……大切な人なんでしょ?」

「だ、だから…そういうのじゃ……ない……」

揶揄う潤さんの言葉に歯切れの悪い否定で返す。

「でっ、では、さっきのメール、呼び出しの連絡でしたので……」

「まぁ、慌てちゃって可愛い」『まぁ、慌てちゃって可愛い』

――っ……ひとりで同じ台詞を……。

……。

「はあ……とりあえず、ありがとうございました……文化祭楽しんでいってください」

私の言葉に潤さんは微笑んで「呉葉ちゃんもちゃんと楽しみなさい」と優しく言ってくれた。

727事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 3:2020/07/12(日) 22:12:40
――
 ――

「なんですか……この……えっと…この方たちは?」

扉を開け、生徒会室に入ると皐以外の人もいて……。
クラスメイトの黒蜜さん、面倒くさそうな顔をしている副会長の人、そして……雛倉雪さん。

「呉葉ちゃん、早速だけど質問して良いかな?」

黒蜜さんが座ったままこちらに視線を向け声を掛ける。
いつもの笑顔? ――違う、どこか威圧的な感じを含んでる。
だけどそれは私に向けられたものではないように感じる。

私は皐の方に少し視線を飛ばすと何かを期待するような…でも少し緊張した不安そうな顔で――正直意味が分からない。
そんな皐から視線を外して、私は黒蜜さんの言葉に頷きで返す。

「呉葉ちゃんって、あやりん、霜澤さん、生徒会長さんと昔からの知り合いだよね?」

――っ!

私は動揺する。
どうして黒蜜さんがその事を?
……いや、違う、多分これは――かまをかけている?

動揺を悟られないようにして、伏せるべき事柄に注意して口を開く。

「いえ、……皐とは知り合いだけど、雛倉さんと霜澤さんについては此処に入学してからの知人です」

皐とは入学して間もない時から校内で時折話す機会があった。
もしそれを見られ、黒蜜さんが知っていたなら入学してからと言うのは学年の違いからも流石に不自然。

「あぁ! もうっ! どうしてっ!」

突然皐が声を上げて机に突っ伏す。
――あ、あれ? 嘘? 私何か失敗した?

「呉葉ちゃん流石だね、生徒会長さんはさっき罠に掛かっちゃったのに」

私は何度か瞬きをしてから、さっきの皐の態度の意味を理解して嘆息した。
要するに皐は私が罠に掛かることを期待した目で見てたという事。

「皐……っ――」

私は皐に問いかけようと口を開き――だけどすぐに噤む。
「どこまで喋った?」……黒蜜さんが私に言わせたかった本当の言葉はこっちかもしれない。
隠し事全てが暴かれたわけではないのなら、聞くべきではない……。
だけど、情報を皐と共有出来てないのは良くない。
皐はぼろを出したあと何か話した?

「呉葉、とりあえず座って下さい」

皐が悔しそうな顔をしながら、扉から一番近い席に座るよう私に促す。
その顔を見ながら手に持ったペットボトルを机の上に置き、とりあえずは皐に従い私は椅子を引いて座る。
私が座った後、副会長さんは立ち上がり、それを目で追うとどうやら飲み物の準備をしているようだった。

728事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 4:2020/07/12(日) 22:13:34
「はぁー、この際もう話しましょう、割と看破されているようですし、綾菜さんの親友である真弓さんとは正面切って話すべきでしょう」

「いや、会長、知り合いとかその辺の話は私も初耳だけど、自分がぼろ出したからって開き直るのはどうなの?」

紙コップに注いだお茶を運びながら副会長さんが辛辣なツッコミを入れる。
皐はその言葉に視線を誰もいないところに向ける。

「はぁー…ったく……」

そんな皐に副会長さんは嘆息しながら私のところに紙コップを持ってきてくれる。
私は小さく頭を下げて、紙コップを口元で傾け、一口二口、緊張で渇いた口の中を潤してから口を開く。

「えっと、まず此処がどういった場なのか、説明が欲しいので――」
「綾菜さんの生徒会役員入会についての話し合いの場です!」

私の言葉に皐が食い気味に答え、黒蜜さんがそのあとに「私は生徒会長さんと一度ちゃんと話したいって名目だったんだけど」と付け加える。
なるほど……だけど何で雛倉さんのお姉さんまでここに――

『はぁー、困ったなー、トイレ結構行きたくなってきちゃった……』

――っ!? ……これ、お姉さんの……。

意識をお姉さんに向けた時、それは『聞こえた』。紛れもないお姉さんの『声』。
今のこの話し合いの雰囲気からの中座は少し難しい感じがするけど――どうするんだろう。

『はぁ、綾のクラスでコーヒー2杯飲んだからなぁ……あれって一杯で200mlくらい?
その前にも一度寄った家で紅茶3杯飲んできたし……ん、なんかドキドキして――い、いやいや不味いでしょ……』

お姉さんは飲んだものの整理を頭の中で始めだす。
それにしても家で紅茶3杯とは……余程の紅茶好き? それにドキドキ――というかこの『声』の感じって……。
主張の大きいだけの『声』とは少し違う、これは――興奮を含む『声』?

『ダメだよね……ちゃんと余裕があるうちにトイレって……まぁ、まだ大丈夫……なんだけど』

――……お、お姉さん? まさかとは思うけど、……こ、故意に?

ダメだってわかってて『声』では否定もしてるけど……でもまだ大丈夫って理由付けて先延ばしにして……。
家で紅茶を沢山飲んできたのも、お小水を溜めるためで――

……。

私は一旦落ち着くために紙コップを手に取りそれを飲み干す。
そうして一息ついて……たとえお姉さんがそういう変態的意図で行動していたとしても、尿意が強くなればお手洗いに行ってくれるはず。
『声』でも余裕のあるうちにと言ったのだから……――ですよね?

「話を戻します、ぼろを出して開き直ったと言われても仕方がないのは分かっています……
ですが、わたくしは雪さんにもこの事はちゃんと話すべきだと思ってここに呼びました……雪さんは綾菜さんの家族なのですから」

皐が再度口を開く。お姉さんは急に自分の名前を出されて少し動揺している様子。――変な事考えてるから……。
……私は小さく深呼吸してから思考を切り替える。

皐がぼろを出してしまったのは……もともと話すつもりでいたから油断していたのかもしれない。
もちろん、後付けの言い訳である可能性も否定はできないが。
だけど、私もお姉さんには伝えるべきことだと思う。でも――
「――でもその人お手洗い我慢してるので一旦お手洗い休憩にしましょう」とは流石に言えない。
……というか駄目だ……私、全然思考が切り替えられていない。

729事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 5:2020/07/12(日) 22:14:37
「皐ちゃん……綾と昔からの知り合いって話だけど……それっていつ頃の話? 綾から全然聞いて無くて……」
『私、真面目な話に参加してるのに……実のところおしっこを我慢してるとか……だ、大丈夫だよね? 気付かないよね?』

――ちょ、話を自ら進めないでくださいっ! 私が気が付いてます!

「5年前の夏です……鞠亜だけは違いますが……」

「っ! それって事故の――……あ、もしかして綾が話してくれないんじゃなくて…忘れてる? ……だとしたら、ごめんなさい」

皐は「いえ……」とだけ言ってその後言葉に詰まり、短い沈黙を作る。
その後皐は深呼吸してから口を開く。

「わたくしは鞠亜に誘われて、呉葉はたまたま居合わせてあの公園で綾菜さんと出会いました」

『え、あれ? これ馴れ初めを話す流れなの? ……話長くなる? 中座しにくいよね? うぅ、なんだか本当にドキドキしてきた……』

――はい、そうみたいです……そうみたいなんですけど、なんでそれで、ちょっとテンションが上がるんですか……。

不安よりも楽しみが漏れ出してる『声』……トイレに行けない時間に期待してる……? ――頭痛くなってきた……。
とは言え、霜澤さんと違い私たちの馴れ初めなんて一か月にも満たない期間の話。
要所だけの話なら早々長くはならな――

「まず……そうですね、呉葉と出会った日から順番に行きましょうか――」

――出会った日から順番って、まさか全部話すつもり? ちょっとは掻い摘んで――っ! あ、って言うかダメ、初日は私の失敗談がっ!

私は焦った顔で皐を見ると、皐もこっちに視線を向けていて……。

「――その日、呉葉は公園にいた子に嫌がらせを受けていたところをあーちゃ――いえ、綾菜さんが助けて……
と言ってもその日は、わたくしは後から合流でしたので聞いた話にすぎませんけど――」

嫌がらせの内容は皐も認識していたはずだけど、私の名誉のためか伏せて話してくれた……本当に焦る。
私はコップに手を伸ばすが、先ほど飲み干したことに気が付きペットボトルのお茶を紙コップに注ぎ、口を付ける。

その後もかくれんぼ、警泥、色鬼、缶蹴り、ブランコで靴飛ばし、アクセサリー交換、カードゲーム、オセロ、麻雀、水鉄砲……様々な遊びをしていたことを皐は懐かしそうに……そして楽しそうに話す。
――……今更だけどなんで公園で麻雀してたんだろう。ルール霜澤さんしか知らなかったし。

「わたくしにとって、公園での集まりは本当に楽しくて……外であんな風に遊んだのは後にも先にもあの時だけでした。
わたくしを誘ってくれた鞠亜と、公園での集まりの中心だった綾菜さんには本当に感謝しています……あ、もちろん当時愛玩動物的だった呉葉も良い役割分担でしたよ?」

――それ、フォローになってないし……。

「随分、綾がお世話になったのね……」『よかった、まだもうちょっとトイレ平気だし……ま、まぁもうちょっと長くてもよかったかな?』

――っ! お姉さんは何を期待して――っ……ん、えっ…あれ? ……。

不意に感じたのは……尿意。
気が付いてみるとそれなりの尿意で……、お姉さんのことを言ってる立場ではなくなった。
私もこの場で中座はしにくいわけで我慢するしかない。

「お世話していたというか、呉葉がお世話を掛けてたわけですけど」

お手洗いに行きたくても、気が付かれていない以上、話は構わず進行する。

私がお世話を掛けていた……その皐の言葉を否定したいが事実なので何も言えない。あの時の私はただただ守って貰って、そして構って貰っていただけの子だった。
霜澤さんが私を黒姫とお姫様扱いの蔑称で呼んでいたことも良く理解できる。今も本質的には何も成長していないかもしれないけど。
黒姫……多分黒姫伝説とかそういうのは関係ないと思う。銀狼も金髪も見た目からの印象だろうし。

730事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 6:2020/07/12(日) 22:16:37
「……え、結局なに? 何の話し合いの場だっけ?」

……。
副会長さんの言葉に皆が皐を見る。

「ごほんっ、つ、つまりわたくしが言いたいのは――」
「――会長と綾は過去に会ってるけど、綾が記憶喪失で会長を覚えていない、そんな会長が綾を生徒会に誘っていまーす。
記憶を取り戻させてしまう可能性があるかもだけど、雪はそれでいいですかー? って話よね? 前振り長すぎっ!」

皐が何か言いたそうにしながら結局何も言えず、少し落ち込んでいるのが見て取れる。
学校ではそれなりに威厳のある出来る生徒会長なのに、この副会長さんの前だと形無しらしい。
――まぁ、普段から私や霜澤さんの前だと、それほど威厳とか感じないけど。

「そもそも――」「あのっ!」

お姉さんが少し申し訳なさそうな顔をして、副会長さんの言葉を遮るように言葉を挟む。
副会長さんはお姉さんの方を向き小さく嘆息して見せて、口を閉ざした。
それと……副会長さんと雛倉姉妹は親しい関係にあるように見える。
誰もそれについて何も言わないということは、私が来る以前に既に話に出ていたのかもしれない。

「えっと、記憶については……事情の知ってる私たちもハッキリとは決めかねて、だらだら5年も経っちゃたわけだけど……
記憶を戻しても大丈夫だとは思う……綾はそんな弱くないし、父も幸い生きてるわけだし……それでも、記憶をなくしたのにはそれなりの理由があるからなのもわかる。
だから、故意には思い出させない……一応事情の知ってる人にはそうしてもらってるの」
『あぁ、また真面目な事言って……んっ、バレたら恥ずかしいけど、絶対仕草に出さないし大丈夫、まだ大丈夫っ!』

大事な話をしているのに『声』との落差が酷過ぎて……。
楽しんでいる『声』……だけど、少しずつ変化を感じる。

「そうですか……約束します、故意に思い出させることはしません。綾菜さんに入って貰うのは優秀な生徒であるのが一番の理由ですし」

……。
皐の言葉に私は複雑な気持ちになる。
故意に思い出させると言ったことはしないとは思う……だけど皐は――

「どうしてそこで嘘をつくんですか?」

そう声に出したのは黒蜜さんだった。
今まで口を挟まずただ黙って聞いていた彼女は、目の前の机に表情なく視線を落としていて……。

「……どういうことですか? わたくしは嘘なんて――」
「あやりんに入って貰うのは優秀な生徒であるから……嘘ですよね? 会長さんは、あやりんを通して昔のあやりんを見てる……気がする。
初めからずっと、初対面みたいな態度してなかった……」

……。

「そんなこと……ありません」

自分に言い聞かせるように皐はハッキリとした口調で答える。
そんな皐を見ていられなくて私は小さく口を開く。

「皐……悪いけど私も黒蜜さんの言ってることなんとなくわかる……皐も知ってると思うけど私も最初はそうだった。
雛――綾菜さんの過去の姿ばかりが過って、比べてた……。その時の皐は私から見たらちゃんと綾菜さんを見てるように見えたけど今は違う……。
皐が生徒会に綾菜さんを入れる話をした後、何を考えているのか何となくわかるの」

私は一度言葉を止めて皐を見る。
本当に自覚がないらしく不思議そうな、でも少し不安気な顔を見せている。
私は小さく深呼吸してから皐から視線を逸らし答える。

「また昔のようにって……そう思ってるでしょ?」

昔のように……。
皐と雛倉さんと私で生徒会、そして新聞部の霜澤さん。
生徒会と非公式の部活である新聞部が対立するのはごく自然な話……それは公園での疑似対立ごっこ、そのままの再現……。
きっと、私があーちゃんに依存していたように、皐はあの頃のあの関係に依存していた。それも無自覚に……。
これは私の想像なんかじゃない。実際にそう口にしたこともあった。

731事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 7:2020/07/12(日) 22:17:26
「っ! え、違い――え? ……だってわたくしは――」

目を泳がせて頭の中で自分の記憶を辿るようにして……。
私は気が付いていながら指摘しなかった……もしかしたら心のどこかで、雛倉さんや皐と生徒会が出来る事を期待していたのかもしれない。

「待って待って! 会長の事だからきっと無自覚なんだろうけど、綾を生徒会に誘う誘わないはそれとは別でしょ?」

気怠そうにしていた副会長さんが皐の思考を中断させるように大きめに声を張り上げる。
大きな嘆息をした後、さらに――

「それと……事情が事情だし仕方ない所もあるけど、当事者抜きで入れる入れないって話は良くなくない?
普通に会長は入れたい! 必要! そういう意思を綾に伝えればいいし、真弓ちゃんも何となく入れさせたくない意思は感じるけど
それはここで話すことじゃなくて、綾と話した方がいいでしょ?」

副会長さんは最後に少し呆れたように嘆息を零す。
確かに副会長さんの言う通り、お姉さんまで巻き込んで生徒会に入れる入れないを当事者抜きで話を進めるのは間違ってる気がする。
此処で入れる入れないを決めてしまえば、雛倉さんは自分の意志で判断し辛くなる。
割り込んだタイミング的に、皐が混乱してることへのフォローの意味が強かったのだと思うが……何にせよ、皐を確り支えてる優秀な人らしい。
私は少し緊張した空気の中紙コップに口を付けて残りを飲み干――……あ、お手洗い行きたかったんだった……。

失敗した……一度忘れてしまっていたが、再度意識した今はそれなりの尿意で……。

「うん、椛の言う通り、生徒会の件はお互い綾と話し合って決めてくれたら…っ、良いと思う」
『んっ……あれ? 結構、というか……もうかなり……ふぅ……したいかも』

お姉さんは言葉を一瞬詰まらせて、座り直すように身じろぐ姿を見せる。
明らかに切羽詰まってきている……『声』も未だ興奮を含んではいるが、尿意の大きさからか、主張の大きいものに変わりつつもある。

「私は……会長さんをよく知らない」

黒蜜さんが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「だから、こうして話しできてよかったと思う……会長さんの態度が無自覚だと知れて、それを知って悩んでくれて……
私も人のこと言えなくて、ちゃんとあやりんを見ていない時期があって……でもあやりんは、あやりんだから
だから、会長さんにもちゃんと今のあやりんを見てほしい」

……。

「ええ、それは……必ずちゃんと見ます。
……まだ整理はついていないけど、皆をあの時の再現のために利用しようとしていたのだから
綾菜さんの親友である貴方が怒るのは当然の話ですわね……呉葉も、ごめんね」

――うん、皐……だけど、それより……っ…お手洗い……お姉さんの為にも休憩かお開きに……。

……。
違う……お姉さんの為、それは嘘じゃないけど……それだけじゃない。

「副会長さんもありがとうございます。あやりんに言いますね、私の気持ち……」

「わたくしも、ちゃんと綾菜さんを見たうえで、改めて生徒会へ勧誘します」

732事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 8:2020/07/12(日) 22:18:48
――
 ――

――っ……と、とりあえず解散になった…んっ………ふぅ…。

あの後、副会長さんによる黒蜜さんの生徒会への勧誘まで話が伸びるとは……。
一応話始めてすぐに、皐と黒蜜さんがお昼を理由に解散を求めたので、早い段階で切り上げられ助かった。
助かったのはお姉さんの事だけじゃなく……私も含めて……。

「呉葉ちゃん、私、クラスの仕事抜けてきたしこのまま仕事に戻るけど――あ、用事が終わったらでいいけど、来たら接客してあげるからね」

用事……その言葉の意味を理解して私は顔が熱くなるの感じる。これでも仕草は隠してるつもりだったのに。
そんな私を黒蜜さんはあっさり見抜いて……だけど、気まずさを感じたのか隣のお姉さんに軽く礼だけして、少し慌てたようにしてその場から離れる。

『はぁ、ふぅ……やぁ、これ本当に……、はぅ……たくさん飲んだから、もう、パンパン……んっ、大丈夫、トイレまでは…多分なんとか……ふぅ……』

お姉さんの『声』……我慢して切羽詰まってる『声』なんだけど――ほかの人より妙に艶っぽいところが……。

――って、そんなこと、言ってる場合じゃ……んっ…ない……ふぅ、っ……。

もうすぐお手洗いに……そんな思いが先走りを始めたのか、あるいは話し合いが終わり気持ちが緩んだのか。
私は膨らむ尿意に息を詰めて、目をつむり、足を固く絡める。
だけど、それだけじゃ足りない……――足りないけど、これ以上のはしたない仕草をするわけには――

「だ、大丈夫? 呉葉ちゃんもトイレ? っ……は、話長かったもんね、私ももう……その、げ、限界…な、なんてねっ…」
『っ…我慢してるの? 限界? 凄い可愛い…んだけどっ……っていうか…っ……私…限界って言っちゃった…言っちゃった……』

――っ!

目を開くと心配そうに顔を覗き込むお姉さんが目の前に、そして手をこちらに伸ばしてきていて――

「さ、触らないでっ!」

私は一歩下がり、同時に尿意が膨れ上がり、手でスカートの裾を握りしめる。

「ふぇっ!? え……ご、ごめん、でも……あぅ、ごめんね」『さ、触らないで? ……拒絶…っ…めっちゃショック……』

「や、今のは違っ――」

目を開いた瞬間、お姉さんの顔が雛倉さんと重なって見え、つい酷い言葉を。
だけど、二人は姉妹だし、テレパシストである可能性もあるなら触られることを避けた方が良いのは確かで――

「えっと……んっ、じゃあ、触るね?」
「すいません、やっぱりダメです」

テレパシストかもという以前に、言い方が生理的にダメでした。
この人はちょっと天然でちょっと変態なだけだとは思う。――……ちょっとじゃないかもしれないけど。

「そ、それより、お手洗いにっ…ふぅ………ここからなら更衣室前でしょうか?」

私は精一杯、平静を装い向かうお手洗いの場所の提案をする。
我慢してるのは伝わってしまっている。だけど、それでもギリギリだなんて思われたくない。
さっき感じた強い尿意の波は治まってくれたが、余裕があるわけではない。

「う、うん、それがいいかも」『はぁ、ふぅ……んっ、膀胱が…パンパンで……はぁ……』

……。

生徒会室があるのは一階。
選択肢に上がるお手洗いは、昇降口前、体育館横、購買近く、そして更衣室前。
この位置からだと実のところ、どれもそれほど距離は変わらないが、他の3つとは方向が違う昇降口前だと混んでいた場合他のお手洗いが遠くなる。
なので、目指す方向は3つのお手洗いがある方、その中でも混んでいる可能性が低く、個室の多いお手洗い――つまりは二階の更衣室前のお手洗い。
出来れば利用者の少ないお手洗いを目指したいが、既にそんな余裕がなく、文化祭と言う環境下ではいまいち利用者の少ないお手洗いと言うのがわからない。

733事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 9:2020/07/12(日) 22:19:52
私は小さく深呼吸して仕草を抑える。
この辺りは生徒会室の他に職員室や放送室、外来玄関に保健室と特に催し物がない廊下ではあるが人通りがないわけじゃない。
突き当りに行けば生徒昇降口があるし反対側は体育館、来場者の動線としては割と使用される廊下、あからさまな仕草を見せるわけには行かない。

「(っ……はぁ…んっ……ふぅ……)」『あぁ、波っ……本当もういっぱいだ……、呉葉ちゃんも私くらい辛い? やっ……多分これ、私の方が…はぅ……』

苦しそうな息遣い。
そんなお姉さんに『私くらい』と比較された自身が恥ずかしい。
仕草も抑えてる、息遣いだって抑えてる……だけど――

「(ふぅ……んっ…はぁ……っ)」

抑えきれていない。
お姉さんから見て、私は十分比較対象になるほど我慢してるように見えている。
そして、それは間違いじゃない……。
私自身がそう感じる……抱えてる量は違うかもしれないけど、同じくらい我慢できなくなってきてる。

額に汗を浮かばせて、それでも私は平静を装い歩みを進める。あからさまな我慢なんて出来ない……したくない。
廊下の角、曲がってすぐの階段を登れば――

「っ!」『えぇ! 嘘!?』

少し前を歩くお姉さんが、廊下の角を曲がってすぐに歩みを止める。
発せられた『声』も含めお姉さんの行動に疑問と不安を抱きながら、少し遅れて私も廊下の角を曲がる。

「――!」

私たちは階段を登らなきゃいけない……だけど――

「ち、ちょっと、もうちょっとゆっくり! 階段なんだよ!」
「りょーかい、りょーかーい」
「す、すいません、ちょっと通りますね」

上の階から降ろされる大きな物、それを何人かで運ぶ生徒。
恐らく体育館で行う演劇か何かの大道具……。

「っ……く、呉葉ちゃん、っどうしよう?」『ふっ……んっ、ちょっと……これ……んっ、本当にっ』

切羽詰まった表情と『声』。
前屈みで、さり気無くだけどスカートの前を押さえるお姉さん……。
私は再度階段の方を見るが、横をすり抜けていくには狭くて、そして大きさの関係で凄くゆっくりで――

「こ、購買の方にしましょう」

購買のお手洗い……個室の数は少ない、だけど、此処で待っていられるほどの余裕はない。
距離はそんなに変わらない、あとは混んでるかどうかだけ。
私の声にお姉さんは頷く。……どうして年下の私が、主導しなきゃいけないのか。
追い詰められたお姉さんだから、平静を装っている私に頼ってしまうのかもしれない。
だけど、本当は私だって……。

――んっ……わ、私も……なんで、こんなに……お姉さんと違ってわざとじゃないのに……。

どうして……。
あの時もそうだった、私が体育館横の個室の中で我慢していた時も。
私は何も悪いことしてない……それなのにどうして私が、わざと我慢してるお姉さんと同じように苦しまないといけないの?

……。
わかってる、そんなこと関係ない。
私を追い詰めてるのはほかでもない私自身で。
今思えば、少し水分を取り過ぎたことは認めざるを得ない事で。

――んっ……潤さんから貰ったお茶……生徒会室で…貰ったお茶……。

潤さんから貰った分はまだ僅かに残ってる。
だけど、それ以前にも自分のクラスのコーヒーも潤さんに会う少し前に一杯飲んでしまってる。家を出る前の朝食でも水分を取ってる。
最後に行ったお手洗いは朝、家を出る前だった……――したくなるのは当然……。

それを「どうして私が」とか「わざとじゃないのに」とか……言っちゃいけない。
今、この状況に陥ってるのは結局は私の落ち度でしかない。

734事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 10:2020/07/12(日) 22:20:57
購買近くのお手洗いが見えてくる。だけど、まだ安心も油断も出来ない。
それに人通りも多い……何かに焦り、早足で歩く私たちを周りがどう見ているのか。
平静はある程度は装えてるつもりではあるけど……。

「(はぁ……っ、ふぅ、はぁ……)」『あ、あぁっ……だめ、もうすぐ、っ…だから……んっ』

切羽詰まった様子のお姉さん……仕草も私より大きくて……私の方がきっと少し余裕がある。
そんなお姉さんを追い抜かないようにして、どうにかお手洗いの中に入る。
順番待ちは――

「っ……」『ふ、二人……んっ……だ、大丈夫……あと、あと少し……っだから……』

――……二人……それくらい――っ、や、あぁ……な、なんでっ……んっ!

安心なんてしてない。油断なんてしてない。もうすぐだなんて思ってない。
それなのにそれは……言い聞かせてるだけで、心のどこかじゃ意識してて。
膨れ上がってくる悍ましい程の尿意。こんなところで感じちゃいけないはずの感覚。

お姉さんの後ろで前屈みに俯き、呼吸も出来ないほどの尿意の波に身体を緊張させる。

――だ、大丈夫、我慢出来る、我慢、我慢……っ、一時的な波、だからっ、これを……越えたら、はぁ…だ、大丈夫、だから……。

この期に及んで手は横で、スカートを握りしめて……。
もう平静なんて装えてないのに、だけど、それでも押さえるなんて事、出来なくて。

「(……っ、…はぁ……)」

前の……お姉さんの小さく揺れる足に視線を向けながら、大きな波が僅かに落ち着くのを感じる。
その視界の隅に前から二人、誰かが通り過ぎたのに気が付く。

「(……つ、次……んっ、はぁ……うぅ……)」『もうすぐ、もうすぐ……んっ、あぁ、本当、限界ぃ……』

さっきの二人は、個室から出た人……。
自分の事ばかりで、扉の音とか全く聞こえていなかった。
だけど……――わ、私も、次の次……殆ど一緒に入ったと言うことは…同じくらいに……そのはずよね?

そんな時、後ろから慌てた様子で駆けてくる足音に気が付き、私は可能な限り姿勢を正す。

「っ! ここも混んで――っ、……あ、朝見さん、と――……え?」

私の名を呼ぶ声、それは聞き覚えのある声……。

「ひ、雛さ――……じゃなくて、お姉さんも……」

私は下腹部に負担を掛けないようにゆっくり振り返り、声の主である篠坂さんへ視線を向ける。
篠坂さんは駆け込んだお手洗いに私がいた事、そしてなにより雛倉さんによく似たお姉さんを前に驚いている様子だった。
ただ、お姉さんだと分かったって言うことはどこかで面識が――……そうだ、コーヒー飲みに行ったって少し前に『声』で……。

それと……本人は驚いていて気が付いていないようだけど、手は前を押さえていて、篠坂さんも強い尿意を抱えていることが窺える。

「あっ!」『わっ! 私、今、押さえ……あぁっ、嘘見られたっ』

私の視線に気が付いて顔を赤くし、慌てて手を離す。
凝視していたわけじゃないが、悪いことをしてしまったかもしれない。

「(うぅ……)」『っ……で、でも、お手洗いっ、は、早く……』

篠坂さんはスカートの裾を握った手を少し後ろに回して、足は交差させて。
……彼女はお手洗いが近い。
いつも小まめにお手洗いへ行く彼女がここまで我慢して、急いでいる経緯は……外し忘れたであろうヘッドドレスを見てなんとなく想像が付いた。
きっとメイド喫茶の接客担当で、抜け出す事が出来なかったんだ。
今ここにいるのは、黒蜜さんがクラスに戻ったから?

735事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 11:2020/07/12(日) 22:21:58
――っ……でも、ど、どうしよう……私やお姉さんの方が…多分、限界が近い……。

篠坂さんの状態を見て置いて、順番を譲らないということは、私たちの現状を吐露したに等しい事?
……流石に自意識過剰かもしれない、それでも、そういう考えが過ってしまう。

「し、篠坂さん――」

考えが纏まるより先に、私の口が言葉を発する。
――いけない……個室は二つ……さっきみたいな波が来たら……今度は越えられないかもしれない……間に合わないかもしれないのに。

「――仕事、……抜けて来たのでしょう? 先に…どうぞ……」
「あっ、わ、私も後で大丈夫だからっ」
『んっ…もう本当に限界、だけど…篠坂さんも辛そう…だし……わざと我慢してる私のせいで、失敗なんてさせられないし……それに――呉葉ちゃんだって譲ったんだし……』

――っ…お姉さん……やっぱりこの人は、優しい…きっと私なんかより……んっ…ずっと……。

私たちの言葉に篠坂さんは顔を赤くしながら俯き、「スイマセン」と小さく声を出して一番前へと移動する。
お姉さんの『声』は後ろめたさだけじゃなく、ちゃんと篠坂さんを案じてるように感じた。
対して私は……限界まで我慢してるって悟られたくなかった…だけ。そこに篠坂さんを思いやる気持ちなんてなかったと思う。

――んっ…や、待って……あぁ、まだっ……ダメ、もうすぐじゃない…から、二人の後っ……なのにっ……。

下腹部が小さく波打つ。さっきよりも大きな気配。
スカートの横を掴む手に再び力を入れる……だけど……足りない、これじゃ我慢出来ない。
足を交差して身体を揺らして。

「(っ…んっ……はぅ…っ)」

はしたない声が溢れる。これ以上声が零れないように――そうしないといけないのに……。
波は高くなり続けて、私を追い詰めて――

『や、やっぱり…っ……呉葉ちゃんも、限界なんだ……っ』

――っ!

聞こえて来たのはお姉さんの『声』。
揺さぶられる……動揺しちゃう……。今はそんなことに気持ちを割いていられないのに。

『呼吸も荒いし…っ…辛そうだし……膀胱をパンパンにして…いっぱいに抱えて――可愛い……』

――こ、呼吸っ…かわ――…や、だって……っ、ダメ、『聞きたくない』のにっ。

『んっ……はぁ…ひ、他人事じゃ無いけど……はぁ、っ……もう、我慢できない?』

――が、我慢っ…ぁ、あぁっ! ま、待ってっ――

『声』に意識を掴まれ、気持ちが揺らぐ。
そんな私を見逃さず、尿意の波は高く大きく襲い掛かる。

――あっ、あっ…っ!

<じゅゎ……>

不意に下着に広がる熱さ。慌てて手を前に持って行く。
だけど、尿意はそれでも治まらない。篠坂さんとお姉さんが終えるまで我慢しなくちゃいけないのに……。

――っ……だって、さっきの『声』は…卑怯……。

『い、今のって、っ……あっ! ……ん…やだ……私もっ……』

お姉さんの『声』。切羽詰まった、限界だと感じさせる『声』……。
飲んでいた量からして、私よりずっと多くの量を抱えているはずのお姉さん。

736事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 12:2020/07/12(日) 22:23:03
<ガチャ>

扉が一つ開いて、篠坂さんが個室に入っていく。
少し前までなら、あの個室に入るのは、今私の前にいるお姉さんだった。
そして、もうひとつ……今、水の流す音が聞こえて来た方には私が入るはずだった。

「(ぁっ…っ)」<じゅ…じゅぅ……>

――だめっ、違う、もうすぐなんかじゃ…ない、私が入るのは篠坂さんが入った…方……な、なのにっ……あぁ、やだ……んっ……。

下着がまた熱くなる。落ち着かない……治まってくれない。
押さえる指先にまで熱さが広がってる? それが錯覚なのか現実なのかもわからない。
それくらい力を込めて押さえてる……だけど、全く引いてくれない……。これ以上は駄目なのに、我慢……できないのに……。

「んっ……く、呉葉ちゃん…次、入っていいからね?」『あ、っ……だめっ……ちょっと…っ…我慢、呉葉ちゃんを先にっ……だから、お願い…もうちょっとだけっ……』

――次? 何言って……っだって、そんな……っ……。

<ガチャ>

個室の扉が開く。
だけど、本当にお姉さんはその場から動かず、私に辛そうな顔で笑いかける。
お姉さんの押さえるスカートの前には、手に隠れて染みが出来ていることに気が付く。
お姉さんも、もう我慢出来ないはず、それなのに。

――っ…あ、だめっ……あぁ、もう限界っ……。

私は、際限なく大きくなる尿意に限界を感じて、声を絞り出す。

「ご、ごめんなさいっ」

お姉さんの状態をわかっていながら、私は謝りながら個室に飛び込む。
先に使って良いという選択を与えられて、もう歯止めが効かない。そうしなきゃ間に合わない。
治まらず、高まり続ける尿意の波に抗うように個室で何度も足踏みして、長い髪を首に巻き付け、下着に手を掛けて――

「あっ、ぁ……っ!」<じゅっ、じゅぅっ……じゅぅぅぅ――>

しゃがみ込む前、というよりも下着を下ろし始める前――足踏みを止め下着に手を掛ける直前から……。
間に合ったとは到底言えない、それでも安堵から何度も深い息が漏れる。

『えっ!? えぇっ? こ、これ、朝見さん? 先にって言ってくれたけど…我慢……してたんだ……』

――っ!

隣の個室から聞こえて来た『声』に驚き、口に手を当てる。
同時に音消しさえしていなかったことに気が付き慌てて水を流す。

『んっ…あぁ、は、早く……や、またっ……だめ、だめなの……お、落ち着いて……宥めなきゃ…っいけない、のにっ』

扉の外から聞こえるもうひとつの『声』。
我慢して我慢して、ようやくお姉さんが入るはずの個室が空いたのに……それなのに私が。

「はぁ……んっ…あ、ぁっ!」『っ…だめ、これ以上っ…ここ、学校…なのにぃ…宥め――だめ、あ、あぁっ! でちゃ…あっ……』

――っ……お姉さん…その『声』我慢出来てる? ……どうして譲っちゃったんですか……篠坂さんに…私に……。

『声』だけじゃない息遣いも、足踏みの音も……。
故意に我慢する変態ではあるのだろうけど……それでも、今まで聞いた『声』からして、人前での失敗を好んでいるようには感じなかった。
今も最後まで我慢を諦めようとしていない、失敗しまいと必死になってる。
潜在的には、追い詰められる状況を求めていた?
故意での我慢の後ろめたさから、順番を譲った?
大人としての立場がそうさせた?
……どれもが少なからずお姉さんの選択に影響を与えたかもしれない。
だけど――……この人は…優しいから。きっとそれが、一番の理由……。

隣の個室では篠坂さんが済まし終えたらしく、急いで個室を出るための音が聞こえてくる。
外のお姉さんの様子は『声』が聞こえなくとも、一刻の猶予もないことが伝わるほどで、篠坂さんはそれに急かされるように個室を開ける。

<ガチャ>「お、お待たせしましたっ」

扉を開けると同時に発せられた篠坂さんの声。直後に個室の中にお姉さんの足音が響き、すぐに扉が閉まる音がする。

「あ、あぁっ、や、ちょっと…まっ……ぁっ! …やっ」『あぁ、でちゃ……出ちゃってる……待ってよっ…は、早くっ……』
<ぴちゃ、ぴちゃ……>

私の個室で鳴っていた音消しと恥ずかしい音も既に止み……隣から確かに聞こえる、床に落ちる雫の音。
足踏みが響く中で聞こえるその音は、準備を終えていないのに始まってしまっていることを表していて……。
そして――

「あぁ……っ、はぁ…はぁ…」<じゅぃぃ――>

深く熱い息遣いと共に、水面を穿つような音が聞こえ始める。私は後始末を終えて、お姉さんの音を隠すようにして水を流す。
被害の大きさはまだわからないけど……きっと私のせいでお姉さんは間に合わなかった……。

……。

私は立ち上がり視線を下へ向ける。
自身のスカートには、皺が出来た真ん中に、ほんの少しの染みが出来ていたが――……大丈夫、これくらいなら……。
押さえる手に湿っぽい感覚を感じてはいたが、それは本当に指先だけ。水が跳ねて付いたような、それくらいの大きさの染み。
ただ下着は……個室の中での失敗を含め、酷いの言葉に尽きる……。

737事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 13:2020/07/12(日) 22:23:51
私は深呼吸して、身だしなみを整え個室の扉を開ける。

「あ、朝見…さん……えっと…その、順番……ありがとう…ございます……」

個室の前には篠坂さんが居て、深々と頭を下げながらお礼を言う。
その後上目遣いにこちらを見てくる彼女に、私は個室での『声』の事を思い出し、顔が熱くなるのを自覚して顔を背ける。

――それに……お礼なんて……、結局私の順番に、変化は無かったわけで……。

『はぁ……はぁ……凄く気持ち良い…けど……うぅ、完全に失敗した……しかも学校でなんて……』

――……っ、気持ち良いって……我慢してたから、ただ解放感がって意味…ですよね? ……それもちょっと変な気がするけど。
けど、だけど……私がそんなこと……それ以上に駄目なのは私だから……。

故意に我慢するお姉さん……だけど、彼女は周りの人を助けることが出来る。
篠坂さんも、私も……助けられた。
雛倉さんも同じ。私よりずっと誰かを助けられるだけの行動が出来る……。
だったら私は……その二人の趣味趣向に嫌悪感を抱けるほど出来た人間なのだろうか。
良くない事、いけない事、酷い事、最低な事……そんな言葉を、誰も助けられない私が言えたことだろうか。

……。

背けた顔を篠坂さんへ向ける。
未だ、申し訳なさそうな上目遣いでこちらに視線を向けていて……。

「……お礼なら……お姉さんへ言ってあげてください……」

私にお礼を言うなんて間違ってる……。
それを受け取ることなんて出来てないし、資格もない。

「え、で、でも……すぐに声を掛けてくれたのは朝見さんでしたしっ
えっと、沢山……その、我慢してるのに譲ってくれたのは……嬉しかった…というか……」『た、“沢山”は余計だったっ! 私馬鹿っ!』

違う……私は自分が我慢してるって思われたくなかっただけ。
私は後ろめたさから再び視線を逸らす――……沢山とか言われて恥ずかしいのもあるかもだけど。

……。

<ジャバー>

個室から響く水を流す音が、気まずい沈黙を壊してくれる。
篠坂さんは個室に視線を向けて、私は視線を落とす。
謝らなきゃいけない……私のせいで失敗させてしまったことを……。

<ガチャ>「ね、ねぇ……えっと、誰もいない…かな?」『あう…どうしよ……』

その声に、私も気まずい気持ちを抱いたまま視線を上げる。
個室の扉を少しだけ開けて、顔を覗かせるお姉さん……。
そういえば、篠坂さんが来て以降は、新たにお手洗いに入ってきた人はいない。

「だ、大丈夫ですっ、私たちだけです!」

篠坂さんがオドオドしながらも力強く言う。
恐る恐る出てくるお姉さんはロングスカートの前をカバンで隠す様にして、それでも隠し切れない染みが良く見なくても確認出来て……。
顔を赤くして「えへへ……」と自嘲気味に笑って見せる。
もし、私と順番を換わらなかったら……その被害は隠せる程度のものだったはずで……。

738事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。@呉葉 14:2020/07/12(日) 22:25:12
「あの、順番、ありがとうございますっ……」『あう……やっぱり失敗させちゃってた……』

篠坂さんが勢いよく頭を下げてお礼を言う。
お姉さんはその様子をオドオドしながら対応して……――二人ともオドオドしてる……このままじゃ見つかるのも時間の問題なんじゃ……。

「あの、とりあえず……手洗い場に……」

私はそう二人に伝え、移動し手を洗う。
お姉さんのスカートの染みは殆どが前なので、今お手洗いに人が来ても、手を洗ってる間は染みを見られることはないはず。

「こ、このあとは……?」

……。

「し、篠坂さんは、もう教室に戻ってもらっていいから、仕事抜けてきたわけだし……」
「で、でも――」

何かしてあげたい……篠坂さんはそんな顔でこちらを見るが、そんな表情や挙動不審な仕草
それに外し忘れのヘッドドレスも非常に目立つ。背が低いのも周囲の視線を下げる原因になり得る。
一緒にいると注意を引きかねない。

私は一度篠坂さんから視線を外す。

「お姉さんは……この後、私の後ろに付いてお手洗いの裏に回りましょう」

お手洗い裏……渡り廊下から中庭じゃない方へ降りれば行ける。そこなら出し物なんてしていないし、身を隠せる。
篠坂さんには「三人だと目立つから」と短く説明すると、少し悩んだ末に「わかりました」と言って先にお手洗いを出ていく。
私たちも遅れてお手洗いを出て、目立たないように渡り廊下から外れて身を隠す。

「はぁ……あとは駐輪場まで行けば……」

お姉さんはどうやら自転車で学校まで来たらしい。
家に寄っていなかったら、自転車はなかったはずだから――と言っても家に寄っていなかったら、そもそも紅茶なんて3杯も飲まなかっただろうけど。
そしてカバンの中から袋に入った靴を取り出す。来客用のスリッパは中庭とか歩くのに不便なので持ち歩いていたらしい。

「ありがとね、呉葉ちゃん」

――っ……なんで……。

靴を地面に置いて、笑顔と言うには少し苦しい表情でこちらを見ながらそんな台詞を言う。

「……お礼を…言われる資格なんて無いです……順番を譲って貰って……助けられたのは……私…です……」

「そう? 今助けられてるのはどう見ても私だと思うんだけど」

違う……違うのに、お姉さんは本当に不思議そうに私を見る。
こんなことになったのは私が我慢出来なくなって、仕草を隠せなくなって、順番を譲らせちゃったから……。

「これは私のせいで――だから、当たり前のことで……
私は……助けられるんじゃなくて…誰かを助けられるような人になりたかった……ずっと……」

――何言ってるんだろう……こんなこと言っても困らせるってわかってるのに……。

弱かった自分を磨いて、あの頃の助けられてばかりの私から変わりたかった。
誰かに手を差し伸べて救える人に……。

――「あーちゃん、ありがとう……いつか私も正義の味方になってみたい、……ううん、なるからっ」――

「えっと、私を助けられてないって思ってるの? 貴方がそれを決めるのはきっと……違うと思う……」

――……え?

「私が助けれらたって思ったんだもん…否定しないで……向かうトイレの選択、案内だって私は助けられたと思ってる。
トイレの順番を弥生ちゃんに譲る決断が出来たのも、きっと呉葉ちゃんが先に言ってくれたおかげ……
あの時それを言えなくて……もし弥生ちゃんが間に合わなかったらって思うと……。
だから私は助けられたの、だから私は呉葉ちゃんの助けになりたかったの、持ちつ持たれつみたいな?」

……。
お姉さんの言葉は、私を気遣って言った綺麗事?
違う……この人はそうじゃない。

「な、なんか勘違いしてたら…へ、変な事言っちゃったかな?」

お姉さんは顔を赤くして誤魔化すようにして苦笑いをする。
私は首を横に振る。

「良かった、ちょっとは最後に先輩出来たかな? あはは、なんて、こんな格好じゃそうも言えな……
――って違うからね! これは呉葉ちゃんがどうとかじゃなくてっ、私が我慢できなかっただけ、いつもならこう、もうちょっと落ち着いて宥めなれたはずでっ――」

私がまた気にすると思って必死にフォロー入れてくれてるのはわかる。
だけど、「いつもなら」とか……言わないで欲しい。
本当にこの人は変態で天然でそして……優しい人。

『でも……実際結構溜まってたよね? 計量したらどれくらいだったんだろ?
あぁ、それより、人前で限界とか言っちゃたり――というかおもらしまでしちゃうなんて…あぁー…うぅー……』

……。
計量も酷いとは思うけど……粗相したことに恥ずかしさだけじゃない感情を僅かに混ぜるのやめてください。

739事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。-EX- 1:2020/07/12(日) 22:27:18
**********

「はぁ……」

生徒会室で一人、わたくしは大きく嘆息する。

……。

結局お昼以降は、文化祭を楽しむことも出来ず、仕事も殆ど手に付かなかった。
わたくしは気が付いていなかった。
全て受け入れているつもりでいた。

「また…昔みたいに――ふふふ……確かに言ってましたね…思っていました……」

昔みたいに……。
口にも出していた本当の気持ち……それなのに何も自覚できてなかった。

ふと、目の前――生徒会長の席の前に影が見える。
椛さんはわたくしの分の仕事も終わらせて少し前に帰ったし、他の役員も既に見送った。

「ったく、らしくないメールばっかり……はぁ…送ってこないでよ……」

内容や声から相手が誰なのか特定できた。
視線を上に向けるまでもない……きっと呉葉から大体の話の流れを聞いて、此処に来たのだろう。

「止めようかな、綾菜さんを生徒会に誘うの……。どう思う、鞠亜?」

……。

鞠亜は何も答えずにわたくしの言葉を待っている。
綾菜さんの記憶を取り戻させたくない彼女からしたら、さぞ満足のいく選択のはずなのに。

「……わたくしはずっと綾菜さんを確りと見てきたつもりでした……引きずってるのは呉葉と鞠亜…だと」

綾菜さんの事故の後、二人は沢山泣いていた。
現実が受け止められなくて、泣いて泣いて……。

「なんで皐は自分が引きずってるって自覚してなかったかわかる?」

自覚……確かに。
きっと二人は自覚していた……。

「泣かなかったからだよ……綾に会えなくなってから、ボクと呉葉がずっと泣いてて……それを皐がずっと泣かずに励ましてくれてたから……」

「……それが何だって言うの?」

確かにわたしくはあのことで泣いた覚えなどない。
悲しくなかったわけじゃない……だけど……。

「……皐だけが一つ上のお姉さんだったから、確りしなきゃって……
だけどそれはきっと目を逸らすための建前で、皐の中にはずっとあの時が壊れず残ってた」

……。

「受け入れて……あの日、綾は忘れた…ボク達の全てを。……綾は公園の集まりの中心だった、だから同時にあの関係も壊れた」

――やめて……。

「公園で沢山遊んだ全て、話した事全て、ボク達が覚えてる思い出……綾は覚えていない」

「やめてよ! もう、やめて……」

「……聞きたくない? でもボクは言える、きっと呉葉も言える……」

わたくしは視線を上げる。
鞠亜らしくない、申し訳なさそうな顔でわたくしを見ている。

740事例17裏「雛倉 雪」とテレパシスト。-EX- 2:2020/07/12(日) 22:28:12
「……わたくしは…失いたくなかった……あの時を……ぅ…ず、ずっと4人だと……思ってた……
っ…泣いて崩れる二人を見て……目を逸らして…二人だけを見て……っ……」

初めてだった……お金持ちに生まれて、息苦しい世界で唯一仲間と言える関係を築けた。
目を逸らして、二人を励まして……そうしていれば、元通りになるんだって……思っていた。
そうじゃないって二人はわかっていたから泣いていたのに……。

――っ!

いつの間にか皐は隣で屈んで、わたくしの手に手を重ねて……。

「本当……無理しすぎなのよ……だからこうやって皐は時々壊れちゃう」

「っ……こ、壊れるって……何よっ……」

「生徒会長とかお嬢様とか……そういうの時々やめない?
そして、甘えなよ……ボクに、呉葉に、皆に……」

自身の頬が濡れていることに気が付く。
その雫が鞠亜の手に落ちる。

「ぅっ…ぁ……ま、鞠亜に…甘えるとか……く、屈辱です……」
「酷くない!?」

「ごめん、皐……こんなに悩んでるなんて私、思ってなかった……」

――っ!

もう一人の声に私は情けない顔を上げる。
そこには呉葉が居て……。

「ちょ、ちょっと…っ……ま、鞠亜貴方、わたくしを騙してっ」
「別に呉葉が居ないなんて言ってないし」

――ま、鞠亜はともかく、呉葉にまでこんな醜態っ……。

「あぁ、もうっ! 今吹っ切りました! こんな姿見ないで下さい!」

わたくしは恥ずかしくなって鞠亜の手を解いて立ち上がる。
大きく深呼吸して指で涙を拭い、鞠亜に視線を下ろす。
わたくしにこれだけのことを言った彼女には、言いたいことがある。

「鞠亜、一応、感謝はしておきますけど……貴方ももっとわたくしたちを頼って下さい!」

鞠亜はずっと何かを隠してる。
あの日、加害者と被害者以外で唯一事故現場に居合わせたらしい鞠亜……。
鞠亜は小さく嘆息して立ち上がり、今度は鞠亜が私を見下ろす。

「……何度も言うけど、それは話す気はないよ……
悲しいことは分け合えばいいとは思うけど、罪は犯した者だけが背負うものだから……」

「何が、“ふ、罪は犯した者だけが背負うものだから……”よ! 中二病!」

「なっ! “ふ”とかつけてなかったでしょ!」

――まぁ、言ってなかったけど。

わたくしが煽ったせいもあって、結局、有耶無耶にされました。

おわり

741名無しさんのおもらし:2020/07/13(月) 03:00:18
朝見さんも最初はクールな強キャラっぽく見えてたけどずいぶん印象変わったなあ……
あとおしっこももっと我慢できる子だと思ってた

742名無しさんのおもらし:2020/07/15(水) 08:50:00
>>724-740
乙です。
個人的には父親死亡説を考察していたんだけど生存の方か。
まあこの状況で離婚は考えづらいので、いわゆる植物状態ってとこだろうか。
あとは、事例5の前編に出てる「車輪の絵」の作者=父親というとんでも展開が考えられるけど、母のハードワークぶりを見るにそっちは薄そうだね。
いずれにせよ今後の展開に期待。

743名無しさんのおもらし:2020/07/15(水) 19:24:39
更新ありがとうございます!
"緊張や動揺、不安に直面すると喉が乾き、持参のお茶をついつい飲んでしまう割る癖"が存分に発揮された回でしたね。
また、徐々に綾菜達の過去が明らかになってきた感じがしますね。
事故であり、被害者と加害者があって、罪とも言えて、そして雛倉父との関係、まだまだ謎があって楽しみです。

744名無しさんのおもらし:2020/10/03(土) 20:23:02
男だけど何度か限界まで我慢試してから読み直したら
人物の行動とか心理とか共感できるようになってシコリティ増した

745名無しさんのおもらし:2020/11/19(木) 17:45:06
あげ

746和泉遥:2020/11/20(金) 06:42:40
和泉遥
1982年10月31日
さそり座
AB型(RH−で、父A型、母B型、姉O型)
身長162cm
体重51kg
靴のサイズ24cm
加藤あい似のハーフ顔の美人
愛知県名古屋市出身
ポルシェカイエン(銀)を所持

747足立聡:2020/11/20(金) 06:43:46
足立聡
1986年5月21日
おうし座
AB型(RH+で、父B型、母A型、弟O型)
身長174cm
体重62kg
靴のサイズ27cm
千葉雄大似の可愛い系イケメン
宮城県仙台市出身
ジープグランドチェロキー(黒)を所持

748和泉遥:2020/11/20(金) 06:46:37
本体は先日、私和泉遥がプールに入る前に尿検査をした夢と、私和泉遥がサービスエリアのトイレでおしっこをした夢を見ました、これは本当です

749和泉遥:2020/11/20(金) 07:04:33
>>746
色白の美人
胸は大きめのDカップ
マン●は陰毛濃いめ、ビラビラもクリトリスと小さめ、クリトリスは少しだけ皮が被っている、色はピンク、性的に興奮すると、ビラビラが大きく開き、クリトリスも3分の2が露出して、尿道や膣がトロトロになる

を追加します

750和泉遥の本体:2020/11/20(金) 07:07:31
私のオリキャラは、栗山千明似か香里奈似か加藤あい似のどれかにしようと思いましたが、結論は加藤あい似にします、なぜなら最近、加藤あい似のオリキャラがトイレでおしっこをしている夢を見ることが多いからです(^ω^)

751名無しさんのおもらし:2020/11/21(土) 21:34:33
新作希望

752和泉遥:2020/11/22(日) 07:39:56
おはようございます、私の身長は164cmが正解です、本体の思いつきと間違いでした、私のデータを改めて書きます

和泉遥
1982年10月31日
さそり座
AB型(RH−で、父A型、母B型、姉O型)
身長164cm
体重51kg
靴のサイズ24cm
加藤あい似の色白のハーフ顔の美人
真面目で責任感が強いが、直情的で負けず嫌い
愛知県名古屋市出身
ポルシェカイエン(銀)を所持
軽度の知的障害者
胸は結構大きめのDカップ
マン●は陰毛濃いめ
ビラビラもクリトリスと小さめ
クリトリスは少しだけ皮が被っている(いわば軽いクリトリス包茎)
色はピンク
性的に興奮すると、ビラビラが大きく開き、クリトリスも3分の2が露出して、尿道や膣辺りがトロトロになる
性別年齢関係なしに、相手からはマン●が綺麗とか美マンとかよく言われる

753三軒家万智:2020/11/22(日) 08:01:10
私のデータも書きます

三軒家万智
1983年2月20日
うお座
AB型(RH+で、父B型、母A型、姉O型)
身長162cm
体重48kg
靴のサイズ24、5cm
北川景子似の色白の和風顔の美人
素直で気配り上手だが、頑固で短気
兵庫県神戸市出身
レクサスIS(黒)を所持
軽度の知的障害者
胸はやや小さめのBカップ
マン●は陰毛薄め
ビラビラもクリトリスも小さめ
クリトリスは露出している
色はピンク
性的に興奮すると、ビラビラが大きく開き、クリトリスが100%露出して、尿道や膣辺りがトロトロになる
あまり相手からはマン●が綺麗とか美マンとかは言われたことない

754三軒家万智:2020/11/22(日) 08:03:21
私のデータ修正します

私もデータ修正します

三軒家万智
1983年2月20日
うお座
AB型(RH+で、父B型、母A型、姉O型)
身長162cm
体重48kg
靴のサイズ24、5cm
北川景子似の色白の和風顔の美人
素直で気配り上手だが、頑固で短気
兵庫県神戸市出身
レクサスIS(黒)を所持
軽度の知的障害者
胸はやや小さめのBカップ
マン●は陰毛薄め
ビラビラもクリトリスも小さめ
クリトリスは露出している
色はピンク
性的に興奮すると、ビラビラが大きく開き、クリトリスが100%露出して、尿道や膣辺りがトロトロになる
あまり相手からはマン●が綺麗とか美マンとかは言われたことない

755三軒家万智:2020/11/22(日) 08:03:40
私のデータ修正します

私もデータ修正します

三軒家万智
1983年2月20日
うお座
AB型(RH+で、父B型、母A型、姉O型)
身長162cm
体重48kg
靴のサイズ24、5cm
北川景子似の色白の和風顔の美人
素直で気配り上手だが、頑固で短気
兵庫県神戸市出身
レクサスIS(黒)を所持
軽度の知的障害者
胸はやや小さめのBカップ
マン●は陰毛薄め
ビラビラもクリトリスも小さめ
クリトリスは露出している
色はピンク
性的に興奮すると、ビラビラが大きく開き、クリトリスが100%露出して、尿道や膣辺りがトロトロになる
あまり相手からはマン●が綺麗とか美マンとかは言われたことない

756和泉遥&三軒家万智:2020/11/22(日) 08:07:20
>>754は本体が連投してしまったので無しで
私たちはAB型です
私たちは顔がぼちぼち良いです
私たちは美マンとはよく言われます
私たちは毎日おしっこ我慢とかオ●ニーをしています(〃ω〃)


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