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おもらし千夜一夜4

652事例16「星野 歌恋」と整理できない想い。7:2019/04/30(火) 01:07:27
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 ――

「っと! あれ? あやりんその格好は?」

教室を出るとちょうど休憩を終えたまゆとぶつかりそうになる。
そして、私のメイド服、プラカード、水筒、カバン――――中身は紙コップといつもの着替えとか――――装備の姿に驚く。

「……客足減ってきたから宣伝しにいこうって思って」

「ほえー、でも遊びに行く口実でしょ?」

「……同じような台詞さっき斎さんからも言われたよ……まぁ簡単に言えばその通りなんだけど」

「あはは、神無ちゃん鋭いからねぇ」

まゆはその後「そんじゃ頑張ってー」と言って教室へ入っていく。
私は文化祭特有の廊下の喧騒を抜けて中庭に向かう。
すれ違う人が私を見る……だけど、文化祭という環境からか立ち止まる人や見続ける人は少ない。
目立つ格好であることには変わりないが、注目の的のようにはならなくて個人的には助かる。

『あ……――でもまぁ、後でいいか』

中庭に出ると小さいが『声』が聞こえた。
紛れもない星野さんの『声』。ただ尿意を感じてすぐの様だし『声』も大きくない。
時間は9時50分……朝、星野さんは比較的早い段階でうちのクラスに来ていた。つまり飲み始めてから40分ってところ。
ライブの一発目の開始は10時ちょうどのはずなので準備の時間も含めれば、此処を離れるのは極力しないはず。
星野さんが『後でいいか』と言ったのはそういう事だろう。

私はステージの方へ足を向ける。
人混みと言うほどではないが、周りには少しずつ人が増えてきている。
そしてステージの脇にあるパイプ椅子に座る星野さんを見つける。
手には私たちのメイド喫茶の紙コップが一つ握られていて……どうやら結局ひとつは貰い手が見つかっていないらしい。
すぐに貰い手が見つからなければ暖かいコーヒーは冷めてしまうわけで、そんな温いコーヒーを欲しがる人なんていなくて当然。

――……でもどうするんだろう? 演奏始まるまで時間ないけど……。

疑問に思いしばらく眺めていると、紙コップを持つ手が上がり星野さんの口元で傾けられた。

――あ、飲んでるんだ……ってことは4杯目?

もし4杯ならコーヒーだけで800ml……。
よくまぁそんなに……いや、飲みたいわけではなく貰い手がなかったから仕方がなく――なんだろうけど。

これなら例え星野さんが我慢強くても、それなりの尿意になるまで時間の問題。
演奏時間は一組2〜30分くらいだったと思うから……限界までは行かないとは思うがかなり期待できる。

「あ、綾菜!」

「っ! ……」

無表情の下で危ない視線を送っていた私に星野さんが気が付き、手を振ってくる。
軽い挨拶…ではなく手を振り続けてる彼女を見るにどうやらこっちに来いと言っているようだった。
私は仕方がなく歩みを前に進める。


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