したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

鈴扇霊 二つ目の物語

37ピーチ:2013/07/26(金) 11:00:34 HOST:em114-51-172-105.pool.e-mobile.ne.jp







「―――昇?」
 手紙を読んで、彼でないと思い込んでいた天音が思わず呟いた。
 呼ばれた少年が振り返り、にやっと意地の悪い笑みを浮かべる。
「よ。小夜だと思ったか?」
「えぇ。貴方なら、名字では書かないと思ってたから」
 それともう一つ。筆跡が明らかに女のそれだったから。
「あぁ、そりゃ当然だ」
 うんうんと頷いて、昇が言った。
「だってあれ、小夜に書いてもらったし」
 やっぱりか。
 そう思った直後。
「なぁ、小夜?」
 振り返らず後方に向かって問うた彼に呼応するように、少女が姿を現した。
「………っ…!?」
 さすがに予想していなかった展開に絶句する天音の傍から、さらに二人。
「ごめん天音。この入れ知恵、あたしのなんだ」
 あおりが顔の前で両手合わせているのを認め、天音が胡乱げに眉をひそめた。
「どういうこと? 場合によっては、これ以後一切―――」
「天音」
 柊一に遮られ、不本意そうにしながらも天音が彼の方を見る。
 少年が穏やかに笑った。
「凪沙(なぎさ)さんたちが亡くなった本当の原因。聞いてみない?」
 幼馴染の言葉に、天音が目を見開いた。






「……準備、いいな?」
「…えぇ」
 天音の返事を聞いて頷いた昇が、神社に植えてあった桜の前に立ち、両手を胸の前で組み合わせる。
「―――御礼(ぎょれい)。神代龍弥、凪沙。我、汝らがこの桜に依り真(まこと)の意思を継がんとするもの」
 厳かな声が、辺りに木霊した。
「神へと昇(のぼ)る御身へ今願い申す。我が眼前、桜へと依り給え」
 刹那。
 ごぉっと、桜を軸に眩い純白の光が放たれた。
 呆然とそれを見届けていた天音がはっと我に返る。
「お父さん……」
 もう、七年も前に失った父の声が、少女の耳に忍び込んだ。
 ―――久しぶりだね、天音。
「………………っ…!」
 応えようとして、声が出ないことに気付いた。
 怖いのだ。本人たちの口から、真実を聞くことが。
 ―――天音。私たちはね、長くこの姿を保つことはできない。
 凪沙の言葉に、天音がはっと顔を上げる。
 ―――だからよく聞いて。私たちは、確かに飛鳥井に殺されたのかもしれない。
「じゃあ………っ」
 ―――でも、それは本人たちの意思じゃない。だって、私たちが仲間割れする理由なんてなかったもの。
「……え?」
 思わずと言ったように問い返した天音に、龍弥が頷く。
 ―――そうだよ。……二人は、呑まれたんだ。
 妖に、呑まれた。
 ―――だから、二人とも悪くない。それに気付けなかった……………
 言いかけたところで、二人の姿に歪みが生じた。
「お父さん、お母さん!?」
 ―――ごめんね、昇くん。
 凪沙が彼を労(いた)わるような仕草をする。昇が小さく笑った。
「大丈夫です。………少しでも持たせますから」
 言っている傍から大量の脂汗を流す彼を見て、二人が顔を見合わせ。
 ―――いいや、もう充分ですよ。
 そう言って、微笑んだ。
 ―――最後に、天音。
 呼ばれて、無意識に背筋が伸びる。
 ―――小夜ちゃんも彼女のご両親も、何も悪くない。
 断言した直後、二人の姿がふっと消え失せた。
「あ………」
 天音が呟いたと同時、どさっと誰かが倒れる音が聞こえる。
「昇!?」
「悪い……俺、限界だな……」
 そう言ってそのまま気を失った彼はあおりが何とかするだろう。問題は。
「………………………………」
「小夜ちゃん、今日は帰ろう?」
 柊一の言葉に、小夜と天音が顔を上げる。
「二人とも、ゆっくり考える時間が必要だと思うから」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板