したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

鈴扇霊 二つ目の物語

28ピーチ:2013/07/23(火) 08:42:28 HOST:em49-252-87-183.pool.e-mobile.ne.jp







 家の前についた瞬間、鉄の臭(にお)いがした。
「…………え?」
 いくら探ってみても、両親の霊力が微塵も感じられない。
 ゆっくりと、家に足を踏み入れる。
「…お父さん、お母さん? 居るでしょ?」
 重い本堂の扉を開け放った、刹那。
「――――――っ……!?」
 重なるようにして倒れ伏した、二つの物体。
 否。―――両親の、死体。
「………っ、お父さん!?」
 はっと我に返った天音が二人に駆け寄る。母の身体に触れた途端、左手に紅いものがべっとりとこびり付いた。
「え………」
 呆然と呟き、少女が己の手を凝視する。そして。
「…あ……………」
 この、霊気は。
「飛鳥井……」
 同じ学年に居た。飛鳥井小夜。
「―――………い、や…」
 この両親が殺される意味などない。あるわけがないのだ。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 うずくまって頭を抱え、混乱に呑まれないよう自分を保つのが精一杯だった。
 呑まれれば、欲のままに動くことになる。
 でも。
「飛鳥井………っ」
 本当に死ぬべきは、どちらだと。
 そう問われれば、彼女は即座に答えるだろう。
 飛鳥井に決まっている。
「……殺し…て…」
 殺してやる。
 澄んだ黒曜の瞳に昏い光が灯った、刹那。
 ―――お止めください。
 唐突に聞こえた声に、少女がぴたりと止まった。
「な………っ」
 ―――貴方様の行動で、哀しまれる方がいらっしゃるのですよ……?
 殺すなど考えるな。
 呑まれるな。
 言外に告げられている気がして、少女が小刻みに震え出す。
「じゃあ……お父さんたちを殺した人間を野放しにするの………?」
 そんな危険なこと。
 ―――貴方様が、力で打ち負かせればよいのです。
 今はまだ不安定なそれを、確実なものに変えて。
 少女の瞳から零れた滴が、紅く染まった床に落ちる。
 そのまま、天音が小さく呟いた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板