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一年だけの契約
15
:
紘暢
:2013/04/10(水) 19:49:50 HOST:wb79proxy04.ezweb.ne.jp
いろいろなクレープがあるなか、ひよりはすでに並ぶ前に何を食べるか決めていた。というか食べれるものが少ないというのが現実だったりする。
「なぁ」
ふいに横から声をかけられて、ひよりが振り向くと、これまた真剣な表情をしてメニューとにらめっこをしている久追の姿かあった。
「クリーム入ってないクレープねぇの?」
「は?」
「なんかメニュー、ほとんどクリーム入ってんだけど……」
「基本的に入ってるのものでしょ、クレープって」
「マジかよ……」
ひよりの答えに、肩を落とす久追。どうやらクリームは苦手なようだ。
「じゃあ、私と同じチョコバナナにする?」
「クリームないならなんでもいい……」
すでに意気消沈している様子の彼を横目に、ようやく順番がきたので店員に注文をした。クレープ代は久追が率先して出す。誘ったのは自分だからという変な責任感を抱いているようだった。
クレープを片手に、二人は近くのベンチに腰を降ろし、のんびりと食す。温かな生地の中から甘いチョコとバナナが口に広がる。
「……初めて食ったけど、意外とイケるな」
クレープを食べながら久追が感心したように呟いた。クレープ食べたことない人を初めて見たひよりは、物珍しげに眺める。美味しそうにクレープを頬張る彼の姿を見て、不思議な感じがした。
不良……よね?こんな顔できるんだなぁ。新鮮だ。
ひよりが半分ぐらい食べたところで、久追はクレープを平らげていた。満足気に腹部を叩いている。そしてベンチから立ち上がると、まだ食べているひよりを見下ろして笑った。
「飲み物買ってくる。何がいい?」
「……じゃあ、ミルクティ」
「了解。そこで待ってろな」
ひよりの返事を待たずに彼は少し離れたところにある自販機に向かって歩いていく。その後ろ姿を眺めつつもクレープを食し、ひよりはぼんやりと考えていた。
不思議。昼間ではあれだけ絶望していたのに、今、私……楽しんでる気がする。
視界の先には、自販機にたどり着いた久追の後ろ姿が映っていた。
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