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一年だけの契約

1紘暢:2013/01/25(金) 15:35:58 HOST:wb79proxy01.ezweb.ne.jp
初めまして、紘暢(ひろのぶ)と申します。
たぶん初の投稿作品になると思います。出来る限り続けられるように頑張るので、よろしくお願いいたします。

評価やアドバイス、コメントがあれば入れてください。まだまだ慣れていないので不出来な部分は出てくると思います。

まずは主要登場人物の簡単な説明から。

新谷 ひより(16)
性別は女の高二。
入学したときからイジメに遭っている為、諦めが早く自分を卑下しがち。でも、実は負けず嫌いな部分もあったりする。


久追 政継(17)
性別は男の高二。
ケンカっ早く、学内だけでなく近所からは根っからの不良と有名。去年の秋に他校のケンカして怪我をし、約半年の入院のため留年している。


山本 暁(17)
性別は男の高三。
久追の自称腐れ縁。フェミニスト気質あり。迷惑がる久追の世話をなんだかんだと焼いている。

2紘暢:2013/01/25(金) 16:03:51 HOST:wb79proxy09.ezweb.ne.jp


 夕焼け空に染まる河辺に長い影2つ。ゆっくりとした足取りで、カサカサと鳴る紙袋を持ちながら無言で歩く。そこにはどこかしんみりとした空気が漂っていた。

「終わったね……」

 そんな空気を断ち切ったのは前方を歩いていた少年だった。茜色に染まった髪を微かに揺らして振り向く彼の表情はどこか暗い。その理由を後ろを数歩空けて歩いていた少女、ひよりは知っている。彼女もまた複雑そうな表情を浮かべていた。

「一年の契約ですから……」

 そう自分に言い聞かせなければ受け入れられないぐらい、ひよりの心は深く悲しみとに囚われている。
 ひよりの言葉に少年は少し躊躇いがちに視線を外して空を見上げた。赤く染まる空に飛行機が東の方へと向かうのが見える。少年の視線を追うように、ひよりも空を見上げた。

「私、後悔はしてませんよ」
「……え?」

 空を見上げながら、ひよりは微かに笑みを浮かべて言った。それを聞き取れなかったのか、少年は聞き返す。そんな少年を見てひよりはまだ赤く腫れ上がった目をしながらも笑ってみせた。

「政継くんに出会えたこと、後悔なんかしません。たとえへ遠く離れても、この一年、私は幸せでしたから」
「……そう。キミがそう言うなら久追も心残りはないよな」
「はい、あったら私は政継くんを許してやりませんよ」
「ひよりちゃん、本当に強くなったね」
「すべては政継くんのおかげですよ、山本センパイ」

 そう言ったひよりの顔は満面の笑みだった。

3紘暢:2013/01/25(金) 18:02:52 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp
 ことの始まりは一年前に遡る。ひよりが少年と知り合う前の話だ。二年に進級したばかりの春。桜が最後の花びらを散らず頃の話。当時のひよりにとって毎日が苦痛で、生きているのが嫌だと思うには十分なほどのことが、日常茶飯事に学校で起きていた。
 今日こそはと、誰もいない屋上に足を踏み入れて、靴を脱いで揃えると落下防止用のフェンスに手をかけた。制服のまま全身ずぶ濡れで、瞳からはいくつもの涙がこぼれ落ちていた。
 もう嫌だ、なぜ私が。
 そんなことの繰り返しで。最終的には、この決断に至った。いっそ死ねば楽になれるかもしれない、苦しみから解放される。そんな安易な考えに至ってしまうほど、ひよりの心は追い詰められていたのだろう。
 死ぬのに恐怖はある。でも、一瞬だ。これからも起きる毎日の苦痛に比べれば、そんなことなんて小さい。そう自分に言い聞かせて、ひよりはフェンスに力を込めた。

「おお、決定的瞬間を目撃だな」

 突然後ろの出入口から声がして、ひよりはビクッと身をすくませた。そろりと振り向くと、そこには他のクラスの生徒。しかも『二年に留年した不良がいる』という話で有名人の久追政継。
 たしかにケンカ慣れしてそうな、どこをどう見ても不良だ。怒らせたら危険、というか関わりたくはないタイプ。

「何があったかなんて、その姿見たら容易に想像つくけどな」

 馴れ馴れしい態度。それだけでもひよりには恐怖でしかなかった。また悪夢の再来なのかと。怯えた顔をするひよりを見て久追は苦笑をした。

4紘暢:2013/01/26(土) 02:26:48 HOST:wb79proxy08.ezweb.ne.jp


「そんなに怯えなくたって俺は何もしねぇよ」

 そう言われても、ひよりには自分以外は全て敵にしか見えない。直接彼のような有名人と関わったのは今が初めてなのだが、それでも簡単に心を許せるほど、その時のひよりに余裕はなかった。警戒心を露にするひより。

「あ、俺に構わず続けて。あんたがやろうとしてることを止めるほど俺は出来た人間じゃないし」
「……」

 まさか促されるとは思ってなかったので、ひよりは呆気に取られた。止められても踏みとどまるつもりはなかったし、バカにされて笑われることだって覚悟していたのだが、普通に促されてしまうことまでは想定してなかった。

「出ていけ、て言うなら出ていくが、俺としては屋上に居たい気分なんだわ」

 久追という人物がどんな人間なのか掴めないが、とりあえず飛び降りをしようとしてる相手に向かって言うセリフではないのは確かだ。だが、折角促してくれたのだから遠慮なく飛び降りてしまおう。そう考えて、ひよりは再びフェンスに力を込めた。

「イジメを苦に自害か……」

 不意に聞こえた声に、ひよりはかけていた足を止めた。

「……何が言いたいの?私の邪魔しないで」
「邪魔するつもりはないんだが、実に残念だなとは思う」
「は?」

 久追の言葉の一つ一つにひよりは過敏に反応してみせる。彼は顎に手を当てて少し思案するような素振りを見せた。

5紘暢:2013/01/26(土) 21:55:18 HOST:wb79proxy08.ezweb.ne.jp


「まだ十数年しか生きていないのに、自らその命を絶つのは勿体ないだろ?むしろ、イジメてるやつらに、あんたのたった一つの大切なものを捧げてやることはないと思うぞ」

 止めるつもりはなかったのではないのか?

「貴方に私の何が分かると言うのよっ」
「分かるわけないだろ、あんたじゃないんだから」
「っ!」

 同情されてる気がして拒絶するような言い方をしたら、正論で返されてしまって言葉に詰まる。久追は小さく吐息を漏らすと、まっすぐにひよりを見つめた。逸らすことを許さない何かが彼に感じる。

「綺麗事を並べるつもりは俺にはないし、本当に死にたいなら止めはしない。だが、ほんの一時でも死ぬことに迷いがあるんなら、生きろよ。世の中、そんなに悪いものじゃないぜ?」

 彼はひよりを引き留めようとしているのだろうか。しかし、その真意は彼にしか分からない。

「そりゃあ、毎日好き放題に過ごしてる貴方には悪くないかもしれないけど、私はもう嫌なの。毎日、何をされるのか怯えながら過ごすのは」
「好き放題に、か……。あながち間違ってないよな」

 ひよりの言葉に久追はクスクスと笑う。

「なら、あんたも好き放題に過ごしてみたらどうだ?案外、他のやつら驚いて何もしてこないかもよ?」
「簡単に言わないで。そんな勇気があったらとっくに……」

 やっていると言おうとして、ひよりは真剣な表情の久追に言葉を濁す。

6紘暢:2013/01/26(土) 22:13:01 HOST:wb79proxy09.ezweb.ne.jp


「死ぬ勇気のほうが、もっと必要じゃないのかよ?」
「……」
「そんなに軽いのか?あんたの命は。……違うだろ」
「……」
「もう一度言う。一時でも迷いがあるんなら、生きろ」

 ひよりはその場に泣き崩れる。

 本当は死にたくない。でも、生きていることのほうが辛くて、死に逃げようとしていた。

「一人で立ち向かうのに不安があるなら、俺が一緒に戦ってやる。一人が寂しいなら、気がすむまで隣にいてやる。俺みたいな不良と一緒が嫌なら、信頼できるやつを紹介する」
「……」
「強くなれ。その為なら俺は助力は惜しまねぇよ。あんたを辛い現実に引き留めた責任だからな」

 スッと差し出された手。その手を掴むのに勇気は必要なかった。きっと明日から、いや、今から変わるのだ。新しい日常が。あの悪夢から、解放される日がきっと来るはずだと、不思議と久追を見ていたらそう思えた。

7紘暢:2013/02/24(日) 02:33:33 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp


 後に、ひよりは軽く自分の判断を後悔する。信用しようとしているのは、学内外に有名な不良。いじめ以外の弊害が起きないはずかない。それに気づくの遅れるほど彼女は追い詰められていたのだろう。

 二人きりの屋上に、しばしの沈黙が訪れる。それを打ち破ったのは、なにやら考え込んでいた久追のほうだった。


「なぁ、俺ら付き合わねぇか?」
「……は?」


 いきなり何を言い出すのか。面識などないに等しい間柄なのに、どういった意図でそんな話になるのだろう。


「別に本当に付き合うんじゃねぇよ。俺みたいなのが、あんたの彼氏という話になれば、迂闊にあんたにちょっかいかける奴も少なくなるだろ?」
「それって、彼氏という名ばかりのボディーガードってこと……?」


 ひよりの問いかけに久追は大きく頷いた。本当にそんな扱いをされて彼は構わないのだろうか。


「俺のことは気にすんな。俺はやりたいようにやってるだけだし。本音を言えばだな、一度『恋人』とやらを体験したかっただけだ」
「……」


 なんだろう、この適当さ加減は。気遣ったこっちがバカみたいではないか。


「期限は、そうだな……。来年の春まで。一年間だけ『恋人ごっこ』をやらないか?」


 こちらが黙っているうちに、久追はさっさと話を進めていく。ひよりの意思は無視のようだ。なんと強引かつ勝手なのだろうか。

 ……でも。

 どこか新しい玩具を与えられた子供の気持ちになっている自分がいることに気づく。なんだかんだと、楽しんでいるんだなと、ひよりは心の中で呟いた。

8紘暢:2013/04/08(月) 19:02:19 HOST:wb79proxy12.ezweb.ne.jp
 ひよりと久追が付き合いだしたという噂は瞬く間にその日のうちに広まった。それは放課後、帰宅の準備を黙々としているひよりのクラスに、久追が顔を出したことがきっかけであった。

「ひより、帰るぞ早くしろ」
「ま、待って……!」

 不良として有名な久追がひよりを迎えに来たことに周りはざわつく。しかし、それだけならば久追の下僕にでもなったのかと思うところだろう。クラスメイトの見ている中で、ひよりはきごちなく鞄を手にして久追の元へ駆けていった。

「ごめん、遅くなって……」

 少し気まずそうに謝罪するひよりの頭を久追が優しく撫でる。まさか頭を撫でられるとは思わなかったひよりは驚いて顔をあげた。そこには、怒るどころか楽しげに笑う久追の姿があった。

「よし、罰として帰りにクレープ奢れ」
「……え?クレープ……?」
「なんだ、嫌いなのか?クレープ」
「違うけど」
「よし、決まりだ。さ、帰るぞ」

 そう言って久追はひよりの肩を抱いて廊下へと連れ出す。そして肩越しに振り向いてから、呆然とするクラスメイトたちに牽制をするような目付きをした。

「ひよりは俺の女だ。これから俺の許可なくひよりに何かしたら女であろうが男であろうが容赦しねぇからな……」

 吐き捨てるように言った後、久追はひよりとともに教室を後にしたのだ。久追にここまで言われては、ひよりをいじめようと思えない。もししたら、きっと病院送りにされる。それは確実だった。

9紘暢:2013/04/09(火) 16:46:16 HOST:wb79proxy02.ezweb.ne.jp
 駅前のクレープ屋に向かう道中、ひよりはひたすらに駆け足になっていた。久追とひよりの歩幅が違いすぎて、先を歩く彼を追いかける形になっている。さすがに学校を出てから走り続けていて肺と心臓が悲鳴を上げていた。いい加減走るが疲れたひよりは、その場に立ち止まって呼吸を整える。

「……あ」

 二人の距離が50メートルほど離れたあたりで、久追が振り向いてひよりが呼吸を整えていることに気づいた。そして駆け足で戻ってくる。

「悪い、俺の足が速かったんだな。女と歩くなんてことしたことなかったから分からなかった」

 ひよりのそばまで来て久追は謝罪をする。その頃には呼吸も落ち着き、ひよりは顔を上げた。

「ううん。私がちゃんとついていけなかっただけだから……」
「違うだろ」
「……?」

 ひよりが答えると、すぐさまそれを否定されて目を丸くする。久追は少し怒ったような表情でまっすぐにひよりを見ている。

「これは彼氏である俺の非だろうが。彼女なんだから「速い」って言っていいんだぞ」
「……ごめんなさい」
「いや、だから謝るのは俺なんだって」

 叱られた気がして思わず謝罪を口にすると、少し焦った様子で久追が言った。

「とにかく、これからは俺がひよりの歩幅に合わせて歩く。いいな?」
「え、あ……うん」

 別に許可を得なくてもいい気がしたが、あえてそれは口にしなかった。そうして二人並んで歩き始める。今度は歩幅を意識しているのかゆっくりと歩いてくれていた。

 やがて駅前に着くと、目的のクレープ屋を見て二人は固まる。放課後という時間帯のせいか、クレープ屋には長蛇の列ができていた。今並んだとしても、たぶんクレープを食べられるのは30分後な気がする。ひよりは隣に立つ久追の様子を窺った。誘った張本人がどうするのか気になったからだ。

「ひより、どうする?待つことが嫌じゃないなら買うけど」

 久追もさすがに迷っている様子だった。どのみち家に帰ったところで、なにもすることはない。それなら待ってみるのも悪くはないかと思った。

「大丈夫、待てるよ」
「じゃあ並ぶか」
「うん」

 こうして二人は長蛇の列の最後尾に並んで待つことにした。

10上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/09(火) 18:53:38 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp


>>紘暢さん
お初にお目にかかります…!
上総と申します。題名にひかれて、ちゃっかり最初から拝見していましたっ!!
二人のこの先の展開を楽しみに覗かせて頂きます((笑←

これからは感想を載せたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。
応援してます、頑張って下さい*

11紘暢:2013/04/10(水) 17:14:03 HOST:wb79proxy10.ezweb.ne.jp
>>10
初めまして、こんなところに読者さんがいるとは思ってませんでした。自分の自己満足で終わるだろうなぁとか思っていたので、コメントいただけて嬉しいです!

拙い部分は多々ありますが、頑張って執筆します!よろしくお願いします。

12紘暢:2013/04/10(水) 17:42:09 HOST:wb79proxy12.ezweb.ne.jp
 列は少しずつではあるが、前へ前へと進んでいる。その間、二人に会話らしい会話はない。知り合って数時間の二人に共通点を見つけるのは困難である。

 ひよりは、この変な沈黙をどうにかしたかったが、相手は接点のない不良。話が合うとは思えなかった。チラリと隣に立つ彼を盗み見る。

「……」

 久追はひよりに興味がないと言わんばかりにスマートフォンを弄っていた。

 フリだけど、仮にも彼女をほったらかしにしてスマートフォン弄る?あり得ないし。

 しかし、よく彼を観察すると、ゲームなどをやっている様子ではなかった。真剣な表情で、文字を打ち込んでいるようだ。何を打っているのか気になったので、後ろから静かに覗きこもうと試みる。

「人のケータイの内容を見ようとすんなよ」

 怒りではなく呆れに似た表情を浮かべた久追が覗きこもうとしたひよりを注意する。素直に謝罪しながらも、ひよりは心の中で舌打ちをした。

「なに打ってたの?」

 注意されても興味はあるので、今度は素直に問いかけてみる。

「秘密」
「いきなり隠し事?」
「うるさい。ひよりが知る必要はありません」

 どうやら絶対教えてくれなさそうな雰囲気だ。

「彼女じゃないの?私」
「フリであろうが彼女であろうが、人には触れてほしくない部分てものがあるんだよ」
「不良がなに言ってるのよ」
「言うね、お前……」
「根は素直なので」
「……その強気な部分をクラスのやつらに見せておけば良かったんじゃね?」
「集団相手に、強気になれるほど私の肝は据わってないの……」

 ようやく会話らしい会話ができたと思えば、結局はこの話題になるのだ。二人の接点など、こんなところだろう。なにやってんだろうと、ため息をついたひよりの頭を、久追が優しく撫でる。思わず顔を上げたら、彼が笑っていた。

「俺相手に強気でいられる女なんかお前だけだよ」

 ……嬉しくありません。

 なんだかんだと他愛のない会話を続けていると、ようやくメニューが見えるほどにまでやってきた。

13胡桃 ◆H2TfONSNIA:2013/04/10(水) 18:06:00 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp


>>紘暢さん
こんな私にお返事を返して頂けるなんて…感謝致しますっ!!!!
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。


ひよりちゃん、クラスメイトが思っている程弱くは無いですよね。←
「俺相手に強気でいられる女なんかお前だけだよ」という部分が読んでいて、ニヤリと微笑んでしまいました((

14上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/10(水) 19:00:09 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp


>>13
申し訳ございませんっ(>_<)
名前を変更するのを忘れてしまいました…貴重な一レス無駄にしてしまってごめんなさい、、、


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