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ヴァンパイア・ブラッド

1竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/24(月) 21:38:06 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

初めまして、もしくはこんにちわの竜野 翔太です。
この作品は題名どおり、『VaMPiRe』のリメイク版です。『剣-TURUGI-』と同じくタイトルを変えさせていただきました。とはいっても、それほど変わってませんが。
作品の大体の内容を知る人は説明なくても分かると思いますが、この作品はヴァンパイアという存在が出てきます。あと悪魔もですね。
ヴァンパイアVS悪魔、という似た存在同士のアクション作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

この作品も、リメイク版なので名前の変更や、キャラの出番の増減があるかもしれません。
また、作者は白い娘と黒い娘が好きなので、ちょっと出番増えるかもn(( 満遍なく出せるよう努力します!

前作を読んだ方も、そうでない方も楽しめるように努力いたします!
どうぞ、お楽しみください!

2竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/27(木) 17:10:23 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
序章-prologue-

 少年の目に映るのは夕暮れに差し掛かった赤い空と、その空より更に赤い炎。目の前には腰まで伸ばした真っ赤な髪をなびかせる女子が立っていた。後姿なので表情まではよく分からない。ただ、背はそんなに高くないのと、学生服を着ているので、学生ということは分かる。
 その少女の足元には何かの残骸と思しき黒い塊。それが何なのか、少年には想像もつかなければ考えることも出来なかった。
 唖然とする少年の首を赤い髪の少女が強引に掴む。僅かに呻く少年を、少女はそのまま地面に押し倒した。
 馬乗りになられた状態で、少年はようやくその少女の顔の全貌を見ることが出来た。
 真っ赤な瞳だった。眼光は鋭くじっと少年を見据えている。赤い瞳なのに、冷酷や冷徹という言葉が一番似合いそうだ。顔立ちも整っており、目つきさえ鋭くなければ、普通に美人だと思う。
 少女は冷たい瞳で少年を見据えたまま、囁くように告げる。
「……そうか。貴様がそうなのか」
 意味ありげな言葉を囁く少女。
 彼女の顔には薄っすらと笑みが浮かんでいる。その様子に僅かに悪寒が走る少年。
 少女は服の上から少年の胸板をなぞりながら、口元をそっと彼の首元に近寄せる。
 何をされるかも分からずに、少年はずっと身を強張らせている。
 赤い少女は、舌なめずりでもしているかのような口調で、少年に囁きかけた。
「―――悪く思うな。貴様の血、少しいただくぞ」
 瞬間、首元に何かを突き刺したような痛みが走り、

「―――ッ!?」
 黒髪の少年はベッドから跳ね起きる。
 肩で大きく呼吸をしながら、首元と額にじわりとかいている汗を実感する。
 夢だったのか、と安堵する少年。
 時間は七時十分。彼が起きて支度をして、学校に行くまでには十分すぎる時間、いつも起きている時間だ。
 彼はまだ掴まれている感触が残る首と、傷跡は残らず痛みだけ残っている首元を軽く擦る。
 それから天井をあ仰ぎ見て、嘆息しながら呟いた。
「―――なんだったんだ、アレは―――?」

3匿名希望:2012/12/27(木) 17:24:21 HOST:zaq31fa5428.zaq.ne.jp
おおお

4匿名希望:2012/12/27(木) 17:28:03 HOST:zaq31fa5428.zaq.ne.jp
カードダススレッド宜しく。
他にも対戦格闘ゲームスレ
白人女性(外人さん)との出会いスレッドなど
数多くのドラマをここで再現します。

これは全て実話で決して空想ではありません。

趣味は色々ありますが今回のカードダススレというのは
その中の一つに過ぎません。

今後色々立てていきます。

5匿名希望:2012/12/27(木) 17:30:17 HOST:zaq31fa5428.zaq.ne.jp
、、、、、

6竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/30(日) 01:10:31 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第一章 夢の中の赤 -dream in red-

 1

 馬鹿馬鹿しい夢を見てしまった。
 学校へ向かう道の途中で大人しい髪型の黒髪の高校生、霧澤夏樹(きりさわなつき)はそう心の中で呟いた。夢の中でいきなり女に襲われるなど、自分は小学生かとでも思ってしまうような、とても幼稚な内容の夢だった。だが、首を掴まれた感覚が未だに残っている。実に現実感(リアリティ)溢れる夢だったなー、と他人事のように感想を抱いた。
 彼はまだ一年生である。彼の通う学校の校舎は、二階が一年、三階が二年、四階が三年という風に分けられている。夏樹は階段をゆっくりと上がっていき、自分のクラスである『一年三組』へと足を踏み入れた。
 朝のホームルームまであと十五分程度。登校している生徒もごく少数で、両手の指で足りるほどしかまだ来ていない。
 そんな中、後ろから二番目の席に一人の女子が座っている。肩口までの長さの黒髪に、大き目の黒い瞳。かなりの美少女である。夏樹はその少女の方へと近寄っていくと、
「こら、お前の席は一番前から二番目の窓側だろ。勝手に人の席に座るんじゃない」
 ぼすっと、夏樹の鞄が少女の後頭部に直撃する。いきなりの攻撃に少女は『ふにゃっ!?』という可愛らしい悲鳴を上げるが、それで動揺する夏樹ではない。それほど彼と彼女の付き合いは長いのだ。
 黒髪の少女は頭を押さえながら、頬を膨らませこちらを睨んでいる。
 明らかに不満なのだろう、そういうオーラが立ち込めている。
「ぶー、いけず。まだ来てないんだからいーじゃん」
「そういう問題じゃないだろ。お前の席に誰かが勝手に座ってたら、お前はどう思うよ?」
「腹立つ」
 素直でよろしい、と言いながら夏樹は自分の席―――つまり、今黒髪少女が座っている席の後ろに座った。
 黒髪少女の名前は、奏崎薫(かなでざきかおる)。夏樹の幼少期からの友人、つまりは幼馴染である。
 彼女が小さい頃から両親は、出張などが多く、ほとんど家に帰ることがなかった。そのため、薫は中学に入るくらいまでは、夏樹の家で暮らしていたのだ。小学生の頃はそれほどお互いを意識していなかったが、中学生になると、急に異性を意識し始め、薫から家に戻ったらしい。
 薫は黒髪をなびかせながら、踊るように夏樹の横へと移動した。明らかに疲れている彼の顔を覗き込むように見ていた薫は、
「お疲れだね。なんかあった?」
「……笑わないか?」
「約束する!」
 彼女の言葉を完全に信じきり、夏樹は夢の出来事を全て話した。
 離し終わると同時、耐え切れなかったのか薫がぷっと吹き出した後、盛大に笑い出した。やっぱ話すんじゃなかった、と後悔する夏樹だが、時既に遅しである。
 夏樹は顔を赤くしながら、笑いこける薫を睨みつけ、
「笑うなって言ったろ。こんにゃろう」
「だ、だって……っ、そんなっ話……!」
 笑いすぎて上手く話せないようだ。
 すると、薫は思い出したように、笑いすぎて涙が浮かんだ目を擦りながら、
「そういえばさ、今日女の子の転校生が来るらしいよ?」
「へー。興味ないな」
 ちょっとは興味持ちなよ、と言う薫だが興味ないものは興味ない。
 そんな夏樹を動揺させるように、薫が入手した転校生データをこっそり公開する。ちなみに、薫はデータの収集の速度は半端ではないくらいに早い。
 いつも夏樹は、その才能を別の場所に使えればいいのに、と思う次第だ。
「転校生の娘は赤髪」
 びくっと大きく肩を揺らし動揺する夏樹。
 しかし、小悪魔的な笑みを浮かべた薫は、
「でも長髪じゃないってさ。だから安心しなよ」
「……お前なぁ……!」
 幼馴染のささやかな悪戯に少し憤りを感じる夏樹だが、彼女との仲であれば思わず許してしまう。それが彼女の魅力の一つだろう。
 なんだかんだ言いつつも、夏樹は薫というたった一人の友人から離れることが出来ないでいるのだ。
 夏樹は小さく嘆息しながら、こいつからは離れられないな、と呟きながら彼女の笑みをしばし眺めていた。

7竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/30(日) 15:50:49 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 朝の幼馴染との何気ないやり取り。夏樹と薫は仲が良いことから、二人は付き合っている、という噂が流れている。それは中学の時もそうだった。何故なら休み時間も昼休みもずっと一緒なのだから、付き合っているといわれても可笑しくはなかった。二人は頑なに否定しているが、クラスメートからすれば、二人の照れ隠しだと思われるだろう。
 いちいち否定するのも面倒だったので、最近では否定も肯定もしなくなった。それ以前に、そういう噂が流れたのは入学からほんの二、三週間程度。今はもう七月間近だ。クラスメートもいい加減囃し立てるのも飽きたのだろう。
 ホームルームが始まるチャイムが鳴り響き、それとほぼ同時に担任の教師が入ってくる。眼鏡に小太りの四十手前の男性教師だ。
 教師は咳払いをしてから、クラスの皆に転校生のことを告げる。自分の右隣の席が空いてることに気付き、ここに座るのかと思っていた。転校して来たばっかりだから、教科書は見せてあげないとと思っていた。
 担任の教師が、教室前で待機している生徒に、中に入ってくるよう呼びかけた。
 転校生の少女は、静かにドアを開け、教室へと入っていく。
 薫の言うとおり、赤い髪が印象の少女だ。肩にかからない程度の赤い髪に、愛らしさを感じさせる大き目の瞳。肩幅は女子らしく狭めで、身長も低めの小柄な少女だ。そんな美少女にクラスの男子と女子はそれぞれ思い思いに声を上げる。
 その反応に少女は戸惑いながら、背を向けて黒板に名前を書き始める。
「おはようございます。赤宮真冬(あかみやまふゆ)……っていいます。よろしくお願いしますっ!」
 ぺこっと可愛らしくお辞儀をして、真冬は空いている席―――つまりは夏樹の隣の席へと歩いていく。
 男子は夏樹を睨みつけながら、嫉妬と怒りの視線を向けている。
 その状態に、夏樹は溜息をつくしかなかった。
 そんな夏樹に真冬はにこっと笑って、
「よろしくね。えーと、何て呼べばいいかな?」
 ノートの表紙に自分の名前が書いてあるのを見て、真冬はそう問いかけた。
 ぶっちゃけ女子っぽい自分の名前を呼ばれることは好かない。昔薫に『なっちー』などと呼ばれていたのを思い出したのだ。その前から、女子っぽい自分の名前は好きではなかった。
 夏樹は真冬に視線を移して、
「どっちでもいいよ。赤宮が呼びたい方で」
「じゃあ、夏樹くんって呼ぶね」
 よりによって名前を取ったか、と地味にヘコむ夏樹。
 しかし、真冬が楽しそうな笑みを浮かべているのを見ると、苗字で呼んでなどと言えるわけがなかった。
 一時間目は担任の教師が行う英語。案の定まだ教科書を持っていない真冬と、夏樹は教科書を共有することになった。

 英語、数学と真冬は秀才ぶりを発揮していた。
 どんな問題も詰まることなく答え、誰も答えなかった問題もすらっと解いてみせる。見た目だけじゃなく頭も良い彼女は、一気にクラスの男子の憧れの的となり、クラスから学年、学年から学校中に『一年三組の美少女、赤宮真冬』の話は広がっていった。
 休み時間中、隣の席で大勢の生徒に囲まれているのを、夏樹と薫が見つめていた。
 薫は校内にある自動販売機で買える紙カップのアイスティーを飲みながら、
「やっぱ美少女ってポイント高いんだねー。毎時間生徒が波のように押し寄せてきてるよ」
「あそこまで完璧な美少女もそうはいないしな」
「頭は努力でどうにかなっても、顔はどうしようもないしね」
 しかし、と薫は付け加えるように言葉を続けた。
「ああいう全てが完璧な娘において、何も無いってことはないのさ。大抵裏があったりするもんだよ。親がマフィアとか、超溺愛してくる両親だとか、考えられないくらい厳しい家庭だったりとか、実は超貧乏だとか。そういうのが二次元での、否。ギャルゲーにおけるヒロインのセオリーであって―――」
 薫のオタク発言は夏樹の軽いチョップによって制止された。
 彼女は誰もが聞いて驚くほどのゲームオタクである。夏樹も彼女と仲が良いため、何度か彼女の家に遊びに行ったことがある。その際、部屋が一面ピンクでゲームは全てギャルゲーだったのに驚いた(中にはエロゲーも混じっていたが)。更にはいくつものゲームを徹夜でプレイさせられた記憶がある。
 奏崎薫は、風邪を引かない。怪我をすることも滅多に無いし、成績も学年二十位に入るほど優秀だ。彼女もかなりの美少女の部類に入るが、裏があるというのは彼女にとても当てはまっていると夏樹は思う。
 次は理科。移動教室だと言っていたのを思い出し、目の前の薫と一緒に実験室へと行こうと思ったが。
 彼女がいない。
 もう少しで授業が始まるのを見て、一人で先に向かったようだ。真冬も次は何処へ向かえばいいか分からず、こちらを見ている。
「赤宮。実験室の場所、知らないだろ。一緒に行こうぜ」

8竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/31(月) 11:05:26 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 2

 夏樹と真冬は実験室へと向かっていた。
 自分達の教室が二階にあるため、実験室へは階段を一つ上がらなければならない。面倒くさいことこの上ないので、夏樹は移動教室はとにかく嫌いであった。
 実験室への場所が分からない真冬を先導するように、彼女の前を歩いていると、不意に後ろから真冬に声を掛けられた。
「ねえ、夏樹くん」
 本当に下の名前で呼ぶつもりか、と思ったがとりあえずは気にしないことにした。
 夏樹が歩きながら振り返ると、両腕で抱えるようにノートと筆箱を持った真冬がにっこりとした笑顔のまま問いかけてくる。
「休み時間中に思ったんだけどさ、夏樹くんって……えっと、奏崎さん……だっけ? あの人と仲良いよね」
 転校して来て間もないため、真冬は自信なさ気に名前を確認するように聞いた。
 夏樹は名前が合っているのと仲が良いのを肯定するように一回頷いて、
「小さい頃から一緒だったしな。いつからかは分かんないけど、気がついたら一緒にいた」
 へえ、と真冬は興味深そうに頷く。
 真冬から見ても、夏樹と薫は付き合っているように見えるのか、夏樹は少し気になっていた。まあ、思われても仕方の無いことだから、そこは別に気にしたりはしないが。
 夏樹は薫との仲の良さを話し終わると、真冬が小さく、付き合ってるわけじゃないんだ、と呟いたのを聞いた。やはり誰の目から見てもそう思われるのか。
 誰に対しても屈託ない笑顔で応対する真冬に、今度は夏樹が質問をした。
「なあ赤宮。お前はそういう友達とかいるのか?」
「うーん、前住んでたところにいなくはない、け……ど……」
 途端、真冬の身体が大きく横に揺れ始める。
 夏樹は彼女を支えようと彼女の肩を掴む。真冬は疲れたような表情でも笑顔のまま、
「……あれ? おかしいな……疲れてるの……かな……?」
「大丈夫か、赤宮?」
 真冬の手からノートと筆箱が落ちるが、今はそっちを気にしている場合ではない。
 真冬の身体からどんどん力が抜けていき、夏樹が彼女を抱えるような体勢になっている。真冬は息は少し荒く、目を虚ろになってきていた。
 彼女は必死に口を動かす。
「ね、夏樹くん……よかったら、私のこと……真冬ってよん……で……」
 最後の方の言葉はほとんど言葉として成立しないほど、小さく小さく空気に溶けていった。
 ふっと彼女が眠るのを見て、夏樹は真冬をお姫様抱っこをしながら彼女を保健室へと運んでいく。
 授業など、受けている場合ではない。

9竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/04(金) 19:34:28 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……ん……」
 赤宮真冬は目を覚ました。
 目が覚めてから自分が寝かされていることに気付く。冷たい床でも硬い廊下でもない、ふかふかのベッドの上だと気付く。周りがカーテンで囲まれていることに気付く。辺りが一面真っ白の空間にいることに気付く。
 ここは保健室だ。
 清潔そうな白いカーテンに、白い天井、白いベッド。何故自分がここにいつのか、彼女はよく理解できていなかった。
 自分の虚ろげな記憶を辿る。たしか、クラスの男子と一緒に実験室に向かっている途中に、視界が揺らいで―――、そこからの記憶がない。ということは、自分は廊下で倒れたのだと思った。
 時刻はもう授業が終わる五分前くらいに差し掛かっていた。一緒にいた男子も既に実験室へと向かって授業を受けているだろう。僅かに悲しさを覚えながら、真冬は上体を起こす。
 とりあえずベッドから降りようと掛け布団から足を出した瞬間、
「大丈夫か、赤宮?」
 ふとカーテンが開いた。
 カーテンがいきなり開いたことにも驚いた真冬だが、それ以前に教師以外がカーテンを開けたことに驚いていた。何故なら、授業に行ったと思っていた少年がそこにいたのだから。
 夏樹は覗き込むような表情でカーテンを開けながら、真冬の容態を訊いている。彼も彼女が起きたことに気付かず様子を見にきたのだろうか、彼女が目を覚まし、ベッドから降りようとしている状態を見るなり、優しい笑顔を浮かべた。
 彼はカーテンを開けながら、安堵の溜息をつくと、
「ったく、心配したぜ。いきなり倒れるんだから。貧血か?」
 ごめん、と真冬は誤って苦笑いを浮かべる。
 最近寝れていないのか、もしくは引っ越してきたばかりで忙しかったのか、彼女の事情はよく分からないが、夏樹はその辺りのことを問い詰めたりはしなかった。事情を聞いても自分が何か出来るわけではないし、そもそも他人の家庭に首を突っ込む勇気がなかったのだ。
 夏樹はベッドに座ったままの真冬の隣に座る。真冬は夏樹の横顔を見つめて、
「……その、ごめん……」
「何がだ?」
「……授業、受けられなかったでしょ……?」
 申し訳なさそうに言う真冬に、夏樹は心配するな、と言った。
 彼は両腕を上に伸ばし、思い切り伸びをする。その後脱力しながら彼は、
「理数は割と成績良いんだよ。文系に比べてな。写せなかったノートは後で薫にでも見せてもらうさ」
 夏樹はそう言いながら立ち上がる。
 そして、真冬の方を向いて言った。
「それにさ、目の前で倒れた女の子見捨てて授業に行くような薄情な男じゃねーぜ、俺は」
 その言葉に、真冬は夏樹の優しさを肌で感じ取っていた。
 そうだ、と夏樹が思い出したように目を大きく開けた。
「なあ、赤宮。覚えてるか分からないけど、倒れる寸前何か言おうとしてなかったか?」
 え? と真冬がきょとんとする。
 彼女は考え出し、自分が何を言いかけたか思い出した。自分が下の名前で呼んでいるのだから、相手にも下の名前で呼ばせようとしていたのだ。真冬としては二人の方が言いやすいのだが、廊下で歩きながらと保健室で二人きりというのはシチュエーションが違いすぎる。急に気恥ずかしくなってしまった。
 夏樹は言い淀んでいる真冬を見ながら首を傾げている。
 真冬が意を決したように、口を開きかけた瞬間、
「やっほーやっほー! 青春してるかね、若き少年少女よー! 自他共に認める美少女、奏崎薫ちゃんが熱烈スキンシップ看病をデリバリーだよ!」
 授業終了のチャイムが鳴ると同時に、元気な声とともに一人の女子が保健室のドアを大きく開け放ち、乱入してきた。
 霧澤夏樹でも手に負えない面倒くさい人ランキングぶっちぎりの一位であろう、奏崎薫だ。

10竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/05(土) 13:55:49 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ドアを思い切り開け、薫は夏樹と真冬のところへとやって来る。彼女は楽しそうな、それでいて可愛らしい満面の笑みを浮かべている。普通なら可愛い、と思うのだが、夏樹は彼女のこういう笑みは危険だと十五年間の経験で分かっていた。
 危険人物、というのが、夏樹の彼女に対する現在の肩書きだ。
 普段は危険さとは無縁の元気のいい明るい女子高生だ。成績も悪いわけではなく、中の上ほどをキープしている。誰にでも懐いていく奴なので、人付き合いが悪いわけでも、人間に対して好き嫌いがはっきり分かれる奴でもない。だが、情報収集が趣味なうえ、自分勝手な解釈を行う彼女が、授業をほったらかして転校生と保健室で二人きりになっている夏樹を見たらどう思うだろうか。
 夏樹の嫌な予感は的中する。
 薫は、にしし、と心底楽しそうに笑いながら、
「いやー、ごめんね夏樹。私ちょっと配慮が足りなかったわー」
 いきなり謝りだす薫に夏樹は困惑する。
 まさかもう誤解が始まっているのか、と夏樹は薫を注視している。次に薫の口から出た言葉は、
「そりゃアンタも男だもんね。そう考えるのは悪いとは言わないけどさー、場所は選びなよ? ここは学校だぜ? 神聖の神聖による神聖のための学び舎だぜ?」
 いやそれは違うだろ、と夏樹は冷静にツッコミを入れる。
 薫は夏樹と真冬の前で両腕を広げながら、まるで演説をするような身振り手振りで話し続けている。まったく話の流れが掴めず、夏樹はただ困惑するだけだ。彼女と付き合いの長い夏樹でさえこうなのだから、真冬はもうなにがなんだかわけが分からないだろう。
 薫は両手を腰に当てると、弟に注意するような口調で夏樹に言う。
「ここは学校なんだから、転校初日に転校生と保健室でいかがわしいことしちゃダメ―――」
「誰がするかっ!!」
 薫の盛大な誤解は、夏樹の叫びによって訂正された。後にちゃんと理由を説明して、なんとか薫にも理解はしてもらえた。もっとも、最初からなんとなく想像はついていたようだが。
 看病のために来たのだが、真冬が目を覚ました今、薫が出来ることは何も無い。しかし、元気そうな真冬を見て薫は満足そうな笑みを浮かべていた。
 それはそうと、夏樹が思っていた疑問を口にする。
「っていうかお前、チャイムが鳴ると同時に入ってきたけど早めに終わってたのか?」
 考えられる可能性はそれしかない。そうだよ、という反応を期待していた夏樹だが、薫の返答は想像を絶するものだった。
「ううん。授業が終わる数分前にトイレって言って抜け出してきて、ずっと保健室前でスタンバイしてたの。チャイムと同時に入れるように」
「アホか!!」
 夏樹のチョップが薫の頭部に直撃する。
 彼女は『ひうっ!?』という甲高い悲鳴を上げ、涙目でこちらを見つめている。可愛らしい状態だが、それを薫にやられたところで、夏樹には全くの無意味だ。
 そんな二人のやり取りを見ていた真冬が、ぷっと急に吹き出していた。
 二人が真冬を見やると、真冬は楽しそうに笑っていた。
「本当に二人って仲良いよね。私そういう人いないから、ちょっと二人が羨ましいな」
 真冬の言葉を聞いた薫が目をキラーンと輝かせ、彼女の肩を勢いよく掴む。
 いきなりの出来事に状況が飲み込めない真冬に、薫は満面の笑みで、
「じゃあ真冬ちゃんも今日から私達の幼馴染だ! 夏樹、今日から家族が増えたよ! お母さんは嬉しいよ!」
「はいはい。勝手に一人で言ってろ。大体今日から幼馴染ってなんだ。作るもんでも名付けるもんでもないだろ」
 薫のハイテンションな言葉を、夏樹がローテンションで受け流す。その光景に、真冬はまた笑い出してしまう。
 薫は窓の向こうを指差して二人に宣言する。
「よーし、野郎ども! あの夕日に向かって走るんだ! 全力ダッシュだ! ビリだった奴は夕飯抜きだ!」
 まだ夕日でてないぞー、と保健室を飛び出していった薫に、適当にツッコミを入れる夏樹。
 笑うしか出来ない真冬に夏樹は溜息をついて、
「悪いな。アイツといると疲れるだろ。十五年一緒にいる俺でさえも疲れるからな」
「でも、夏樹くん楽しそうだったよ?」
「そうか?」
 チャイムが鳴る前に教室に戻ることにし、夏樹はベッドから降りた真冬と一緒に教室に戻って行った。
 既に薫が教室に戻っていたのは言うまでもないことだった。

11たっくん:2013/01/09(水) 12:25:08 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
毎日、勉強!勉強!です。
学生ってホントツライですね〜
うちのスクール定期考査80点以下赤点ですもんね。
参ります。

12矢沢:2013/01/10(木) 11:36:44 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
たっくんのペニス

13竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/12(土) 00:27:21 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 3

「ったく、薫の奴! 掃除を全部俺に押し付けやがって!」
 愚痴を大声で叫びながら、夏樹は夕暮れの帰り道を一人で歩いていた。
 彼の不機嫌の理由は言葉からも分かるとおり、幼馴染の奏崎薫である。今日は夏樹と薫が掃除当番だったのだが、薫はゲームを買うとか行って、さっさと帰って行ってしまったのだ。
 一人で掃除をやる羽目になった夏樹だったが、途中までは真冬も箒を手伝ってくれたりしていたので、彼女に対しては感謝しても足りないくらいだ。彼女曰く『保健室に連れて行ってくれたお礼』らしいが、残って掃除を手伝ってくれるのはありがたかった。
 それでも真冬も途中で用事で帰ってしまい、最終的には一人で掃除をやることになってしまっていたのだ。気がつけば空は夕暮れで、夏樹も適当に切り上げて帰ることにしたのである。
 そうして今に至る。
 中学の頃も、何度か掃除の当番をすっぽかされたことがった。彼女のそういうところを直して欲しいと、切に願う夏樹である。
「アイツも、そういうところを除けば普通に可愛い女の子なのに」
 ふと言葉をもらす夏樹。
 今のを本人が聞いていたら、私は性格を除かなくても完璧な美少女だよーん、とかいう腹立たしい台詞が返ってくるだろう。だから、彼女の前ではそういう言葉を迂闊に言わないようにしている。
 夏樹が幼馴染について色々考えていると、自分の上に巨大な影が差してきた。
 上を見上げると、背後に巨大な身体の黒い生き物が気味悪く蠢いていた。何処からか腕か足かも分からない。ナメクジのような身体を持った生物。夏樹の知識では人間を余裕で数十人覆えるようなナメクジはいない。そもそも人より大きい時点で大問題だ。
 どうすればいいか分からないまま、ナメクジは夏樹に気付かず、前進する。このまま進んでくると夏樹は巨大なナメクジに踏み潰されてしまう。
 そんな時、
「こっち!」
 少女の声と共に腕を思い切り引っ張られた。
 茫然としながらも腕を引っ張られそちらの方向へと足を進ませる夏樹。腕を引いている人物に視線を向けると、夏樹は大きく目を剥いた。
 赤宮真冬だ。
 彼女はこんなイレギュラーな事態にも全く慌てず落ち着いていた。まるで、こういう状況に慣れているかのように。
「赤、宮……? お前、何でここに……?」
「……それはあとで。とりあえず、今はあれを何とかしよう」
 真冬は丁度相手の死角になるような物陰に、夏樹と一緒に身を潜める。身体を寄せ合うくらい狭い空間だ。夏樹は妙に密着している今の状況に、僅かにどきどきしている。
 真冬は真冬で、ナメクジの出方を伺っている。
 夏樹はそんな真冬に先ほどの質問をもう一度投げかけた。
「……赤宮……。お前はアイツが何なのか知ってるのか? 知ってるんなら教えて欲しいんだが?」
「……」
 真冬は黙り込んだ。言いにくいことであるのは間違いない。あんな特大サイズのナメクジが何なのか知っている、などそうそう言えるはずも無い。
 だが、ナメクジはその沈黙を守ってくれはしなかった。
 ナメクジは夏樹と真冬が隠れている物陰の方へとずんずん進んできている。スピードはたいしたこと無いが、相手の身体が大きいため一歩で詰められる距離も大きい。
 夏樹が舌打ちしながら、真冬と一緒に逃走を開始する。
 巨大なナメクジは気持ちの悪い声を上げながら、逃げる二人をどんどん追い詰めていく。

14竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/13(日) 12:23:07 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「くそっ! どうにかならねぇのかよ!」
 巨大なナメクジから逃げながら、夏樹は叫んでいた。
 異形の生物。自分が狙われているのも、真冬が都合よくこんな場所にいるのも分からないままだ。どうやら、真冬にはあのナメクジが何か分かっていて、何か関係があるようだが、話そうとはしない。あんな怪物と関係があっても、そうやすやすと話せはしないだろう。
 真冬も夏樹の後について走っていた。見た目からして体育が得意そうではないし、体力にも自身があるとは思えない。案の定で少し息切れし始めている。夏樹は体力や腕っ節にもそれなりに自身があるため、まだ息切れはしていない。
 夏樹は真冬の腕を引いて、塀の影に隠れる。あの怪物は頭が悪いのかただ道を曲がっただけなのに動きを止めて辺りをきょろきょろとしている。
 夏樹は塀の影で息を潜めながら、
「あんな奴が街に出たら大騒ぎになるぞ! でも倒せる方法も見当たらないし、どうすりゃいいんだ!?」
 巨大なナメクジが街に出たら、手当たり次第に蹂躙するだろう。
 真冬は意を決したように、夏樹の方へと視線を向ける。
「……夏樹くん、お願いがあるの……」
「お願い?」
「うん。あのナメクジを倒す方法……きっとこれしかない」
 夏樹は真冬の言葉を待った。
 あのナメクジを倒す、唯一の方法を。
 真冬は俯いた後、僅かに口ごもった。それからばっと顔を上げる。その顔は少し赤らんでいる。
 真冬は叫ぶように、
「わ、私と……、私とキスして……!」
「はぁ?」
 唐突に紡がれた言葉に、夏樹は動揺する。
 いや、この状況動揺する以外にどうするのが正解なのだろうか。
 訳の分からないことを言われ、ナメクジを倒す方法がこれしかないと言われても納得が出来ない。ナメクジを倒すために、転校生とキスをしろというのか。本来ならば喜ぶべきだが、状況が状況なので笑い話にもならない。
「お前、こんな時に何言って……!」
「で、でも……これしかないの!」
 顔を赤くして迫ってくる真冬。
 このやり取りの声が聞こえたのか、ナメクジも夏樹と真冬の居場所に気付いたようだ。
 もう深く考える時間は無い。
 夏樹はもうやけくそになって叫ぶ。
「ああもう、分かったよ! 好きにしろ!」
 瞬間、夏樹と真冬の唇が重なる。
 そして、黒いナメクジが縦に真っ二つに引き裂かれ赤い炎に包まれる。
 その光景に夏樹は見覚えがあった。
 今朝、夢で見た光景だ。
「……赤宮、なのか……?」
 夏樹が問いかけたのは、目の前の人物が自分の知る赤宮真冬とは違っていたからだ。
 背を向けていた彼女が振り返ると、夏樹は絶句する。
 赤い長い髪と鋭い瞳。口の端からは鋭く尖った牙が除いている。
 夢でであった、あの女だ。
 その少女は笑みを浮かべるとこう告げた。
「……今朝ぶりだな。何故か懐かしく感じるよ、夏樹」

15竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/13(日) 19:04:09 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 4

「またかこのパターンッ!!」
 そう叫びながら夏樹はベッドから跳ね起きる。彼は額に嫌な汗をだらだらとかいている。
 再び見た夕暮れに赤い炎の中立っている、赤い長髪の女。
 言葉遣いも目つきも髪の長さも全く違うのに、彼女が本当は赤宮真冬でした、などとあるはずもない。さっきのはきっと夢だ。夢の中で夢から覚めて転校生と知り合いになったという夢からさっき覚めたのだ。
 そう考えると赤宮真冬の存在も夢ということになってしまう。そのことは少し残念だが、夏樹はまだ金曜日であるはずの今日も学校に行くためベッドから降りようとしたところで、
 ベッドの隣に赤宮真冬が正座して座っていることに気付いた。
「……」
「……?」
 言葉を失いながらこちらを眺めてくる夏樹に、真冬は首を傾げている。
 ようやく真冬がいるという状況を把握したのか、夏樹は表情を驚愕に染めて、
「んなああああああああああああっ!?」
 強烈な叫びを上げた。
 声のボリュームが大きかったのか、近くにいた真冬は耳を塞いでいる。
 夏樹は目の前にいる真冬が本物なのか確かめるために、頭に手を置いてみる。肩に触れてみる。頬に触ってみる。その後自分の頬をつねってみる。痛い。さらに殴ってみる。超痛い。現実だ。
 目の前にいる転校生は、自分で自分を殴ったので少し慌てた様子を見せている少女は、ナメクジを倒すため自分にキスをしようと迫ってきた彼女は、紛れもなく本物の赤宮真冬である。夢や幻なんかではない。ここにちゃんと存在している。
 ようやく落ち着きを取り戻してきたのか、夏樹は目の前にいる真冬を見つめる。
「……お前は、赤宮真冬だよな……?」
「……うん……」
 真冬は顔を俯かせた。
 僅かに見える彼女の表情は、どこか申し訳なさそうな顔をしている。
 夏樹は次の質問を口にする。
「……あのでかいナメクジを倒したのも、お前なんだな……?」
「……うん……」
 そうか、と夏樹は納得したように言う。
 夏樹は窓を見てみる。そこで、夏樹はあることに気がついた。
「あれ? そういえば、俺いつ家に戻ってきてたんだ!?」
 自分の記憶が曖昧になっている。自分で家の前に立って、鍵を開けた記憶は無い。
 何がどうなっているのか分からないまま考えていると、真冬が遠慮気味に手を小さく上げながら、
「あの……多分、私だと思う……」
 ここに運んだのが、ということだろうか。
 夏樹は自分の記憶を辿ってみる。
 あの、夕暮れ時のことを―――。

16ちー:2013/01/13(日) 20:12:47 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
すごいね^^プロみたい^^
私、文芸部なんやけど、顔負けやね…
でも、応援してます^^

17竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/19(土) 16:15:31 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
>ちーさん

コメントありがとうございます。

いえいえ、私なんてまだまだ未熟ですよ。プロみたいなんて、もったいないです。
そんなことないと思いますよ。自分に自信をもってください!

18竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/20(日) 21:27:59 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 5

 現在の時刻は七時半。今から十六時間前、夏樹と真冬は巨大なナメクジに襲われていた。が、突如現れた赤髪少女によりその怪物は撃退された。
 その時のことを、夏樹は鮮明に覚えている。
 何故かそこから先の記憶は、少し曖昧になっているのだが。
 空はオレンジ色。周りは真っ赤な炎に包まれた、そんな現実味の全く無い景色の中に霧澤夏樹はいた。
 彼は地面に座りこみながら、自分の目の前にいる赤髪ロングの女子に問いかける。
「……お前は、赤宮なのか……?」
 問いかけに少女は振り返る。
 冷たさが宿る赤く鋭い瞳に、整った端整な顔立ち、小柄な割には意外と大人っぽい雰囲気がある少女だ。
 彼女は口の端に笑みを浮かべると、
「今朝ぶりだな。何故か懐かしく感じるよ……夏樹」
 少女は名前を知っていた。
 勿論名乗った覚えはない。今出会ったばかりだし、そもそも夏樹は少女に対して問いかけることしかしていない。周りの物にも彼の名前を知ることが出来るような物が転がっているわけでもない。
 ただ、彼が彼女に『赤宮なのか?』と問いかけたのには二つの理由があった。
 さっきまでこの場にいた赤宮真冬が姿を消していたからだ。一人で逃げたとは考えにくい。そもそも人にキスを要求しておいて、したらすぐに逃げるとは何とも最低な奴としか言いようがない。これが、彼女が真冬だと思った一つの理由だ。
 二つ目の理由は、彼女が真冬に似ていたからだ。顔立ちや目つきはともかく、長さは違うにしても全く同じ色の髪。同じ制服。同じ着こなし方。偶然にしてはよく出来すぎているくらい、目の前の少女は赤宮真冬との共通点が多く発見された。
 これは疑わざるを得ない。
 赤髪少女は、夏樹と目線を合わせるように屈みこむ。
「貴様の思ったとおり、私は赤宮真冬本人だ。だとするならば、今まで貴様が見ていた赤宮真冬が姿を消したのも、彼女と共通している点が多い私がいるのも、納得できるだろう?」
 少女はそう言った。
 自分が赤宮真冬だ、と。信じれるような信じられないような。髪の長さはウィッグなどで誤魔化せても目つきや顔立ちまでは不可能だろう。メイクだったとしても早すぎるし、メイクで顔立ちを変えたとは思えないほどの自然さでもある。
 夏樹はようやく立ち上がり、もう一度疑問を投げかける。
「……本当に、お前は赤宮なんだよな?」
「さっきからそう言っているだろう。……だが、こうも変わってしまっては信じるのにも勇気が要るか? ならば貴様が赤宮真冬に関する質問をいくつかしてみるがいい。それに私が答えることが出来たならば、信じてもらえるか?」
 夏樹は彼女の言うとおり質問する。
 一時間目の英語の授業の答え、二時間目の数学の教師の名前と二問目の答え、三時間目が移動教室だったこと、向かう途中に倒れて保健室に運ばれたこと、保健室で夏樹と話していたら奏崎薫がデリバリー看病をしに来たこと、そのまま彼女が夕日に向かって走って行ったかと思えば教室に戻っていたこと。すべて赤宮真冬が知っていることだ。
 ここまでくると夏樹も信じざるを得なかった。
 夏樹は彼女が赤宮真冬であることを認める。
「……お前が赤宮本人だってのは分かった。だったらあの怪物は何だ? お前は何者だ? 何で髪も顔も変わっている? お前とあの怪物の関係は、一体何なんだ!?」
 質問攻めされた真冬は僅かに困ったような表情を浮かべた。
 その表情は、休み時間生徒の対応に困っている真冬と同じ表情だった。
 彼女はその表情のまま腕を組み、低く唸っている。
「……その質問は、任せよう」
「は?」
「もう一人の私、つまり貴様のよく知る赤宮真冬に任せると言ったのだ。安心しろ貴様が目を覚ました頃には、元の姿に戻っているよ」
 納得できない夏樹は思わず叫ぶ。
「待てよ! 焦らさずにさっさと教え―――」

 夏樹の腹に赤宮の鋭い突きが突き刺さり、そのまま夏樹は力なく地面に倒れた。

「そう焦るな。ちゃんと教えるさ。私は説明が下手なんだ」
 言いながら真冬は倒れた夏樹は抱える。夏樹の知っている真冬には絶対に出来ないことである。
 真冬は高く飛び、家の屋根から屋根へと渡っていく。
 向かっているのは勿論、夏樹の家である。

 霧澤夏樹には、その時の記憶はほとんど無い。

19ヤハウェ矢沢:2013/01/24(木) 05:20:02 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
ペインちゃん(>>1)、御ハローバイ。

20竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/27(日) 01:00:40 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「ほんっとうにごめんなさいっ!!」
 その時のことを思い出した真冬(夏樹の回想を聞いていただけだが)は、急に顔を真っ赤にしたかと思えば、慌てふためいた後に勢いよく頭を下げた。
 いくらなんでもボディーブローはないよ、と呟いている。
 とりあえず性格が正反対だとはいっても、目の前の彼女に助けられたことは事実である。ボディーブローの件は夏樹も水に流そうと、彼女に頭を上げるように言う。
 夏樹が気を遣ってくれたことにさらに申し訳なさそうにしながらも、ゆっくりと顔を上げる。
 真冬は夏樹の顔を見上げて、もう一度言う。
「本当に、ごめんなさい」
 座っても身長差があるため、真冬は上目遣いで夏樹を見上げる状態になっている。
 女子から、しかも知り合って間もない女子に上目遣いをされて、思わず顔を赤くする夏樹。
 彼は目線をゆっくりと右へと移していくと、視線のシフトに気付いた真冬が身体を動かし、夏樹の視線に自分の顔が移るようにする。
 うおっ、と思わず驚く夏樹。自分の目の前にいきなり顔が現れたらびっくりするのも仕方ない。
 夏樹は適当に、別にいいよ、そんな気にしちゃいねーし、と返すと真冬はホッと安心したようだった。
 しかし、問題はここからである。
 昨日の真冬―――裏真冬と仮名をつけよう。裏真冬は『貴様の良く知っている真冬が説明する』的なことを言っていた。
 とりあえず今夏樹が聞きたいことは三つである。
 一つ目は、裏真冬は一体何なのか?
 二つ目は、赤宮真冬とは一体何者なのか?
 三つ目は、あのナメクジは一体何なのか?
 この三つである。
 真冬もどう説明しようか悩んでいる、そういう仕草をしている。
 そんな真冬の準備が整うまで夏樹は待とうと思っていたが、真冬が正座して夏樹に向き直ると小さく咳払いをした。
「じゃあ、説明するね。まずは私が何者か……からでいいかな?」
 真冬はそう切り出す。
 自分が聞こうと思っていた夏樹は僅かに驚いたような表情を浮かべた。
 しかし、真冬の真っ直ぐな瞳に圧されこくりと頷いた。ぶっちゃけ、彼としても聞く順番とかは特に気にしていなかったので、相手が説明の順番を決めてもそこは構わない。
 じゃあ、と真冬は話を切り出す。
「まず私の招待。私は―――『ヴァンパイア』。和名、吸血鬼」
 夏樹が聞き返す間もなく、真冬が次の言葉を口にする。
「私は、魔界っていう異世界から人間界にやってくる悪魔を退治しに来た、たくさんいる『ヴァンパイア』の一人」
 夏樹は、何も言うことが出来なかった。

21矢沢:2013/01/27(日) 04:44:53 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
この物語のヒーローは、山田一朗。

22竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/10(日) 00:14:51 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「『ヴァンパイア』……?」
 夏樹の言葉に、真冬がこくりと頷く。
 彼の頭のイメージにあるヴァンパイアは―――髪が白くて、肌も色白で、黒スーツに黒マントの、男だ。
 目の前にいる、『ヴァンパイア』だと名乗る少女は夏樹のイメージとはかけ離れていた。そもそも、一致する部分が何一つ無い。
 まず髪も白くない。色白は……言うほど白くもない。ごく平均的だ。普通の肌の色だ。黒スーツに黒マント、うん違う。そして、性別はどう見ても違うだろう。こんな可愛い男がいてたまるか。
 夏樹がじろじろと見てくるので、真冬は困ったように目線を逸らしながら、
「あ、あの……夏樹くん……? どうしたの、そんなに見て……ちょっと恥ずかしいよ」
 真冬が顔を赤らめて言う。
 その言葉に夏樹はハッとして、すぐに見つめるのをやめた。何故か自分も照れくさくなってしまったのだ。
 悪い、と短く謝ってから、真冬は話を戻すように咳払いをした。
「……じゃあ、説明を続けるね。私以外にも、『ヴァンパイア』はここに来てるの。みんな優秀で強くて、中には私の知り合いも何人かいるよ。多分、学校にも二、三人は」
「いるのかよ!?」
 夏樹は思わず叫んでしまった。
 だったら、真冬のように転校して来た人物が怪しいのか。そう考えたが、ここ最近で転校生の話は聞いたことがないし、二、三年生の情報など知っているわけもない。
 こういうとき、情報通の薫がいればなー、と普段は煙たがっている相手の存在を、こういうときに求めてしまう。
 真冬は話を続けた。
「でも、『ヴァンパイア』は一人じゃ戦えない。夏樹くんも知ってると思うけど、吸血鬼は人の血を吸う。私達はその血を吸って、それを炎に変換して戦うの。こんな風に」
 言いながら真冬は人差し指を上に突き出す。すると、小さい赤い火の玉が灯る。そういえば、あの巨大ナメクジ(真冬が言うには悪魔)を倒したときも炎を使ってたような気がする。まあ、今部屋の中であの規模の炎を出されたら一家全焼は間違いないので、火の玉でよかったと思う。
 そういえば、と夏樹が思い出したように言う。
「お前があの巨大ナメクジ倒したとき、何かお前別人だったけどあれって……?」
「ああ、あれね」
 真冬が乾いた笑いを浮かべながら言う。言葉では笑っているものの、目が完全に笑っていない。さすがにあの時の自分は好きではないらしい。
「『ヴァンパイア』は二つの種類に分けられるの。一つは血を頻繁に吸わなくても自分である程度炎を生み出せる、常時戦闘型。もう一つは血を吸わないとまともに戦えない、炎も戦うには全然足りないぐらいしか生み出せない、覚醒型。私は後者の方で、覚醒型は皆戦うときああなっちゃうの」
 要するに真冬は覚醒型だから、戦うときはあんな姿になってしまうということだ。
 夏樹からしてみれば、常時戦闘型、というのが想像はつかないが、一応質問するのはやめておこう。
「そっか、『ヴァンパイア』が戦うには、血を吸わないとねぇ……」
「うん。だから、夏樹くんにお願いがあるの……!」
 お願い? と夏樹が首を傾げる。
 真冬は顔を赤くしながら、夏樹に言う。
「私が、私が戦うときに、力になってくれませんか……ッ?」

23竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/11(月) 17:34:17 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 6

 今日は学校もないので、夏樹と真冬は街に出ていた。
 気分を入れ替える、というのが表面状の目的だったが、真冬はまだここに来て日が浅いらしい。だから、街の案内をしてあげようと思ったのだ。気分を入れ替えるのも真冬の質問にどう答えるか考えるためだ。
 ――私が戦うときに、力になってくれませんか――
 夏樹はこの質問にまだ返事をしていない。真冬は自分は覚醒型だといった。つまり、戦う前に誰かから血を吸わないと充分に戦うことが出来ない。力を温存して覚醒状態を解いたら、翌日になっても戦えるらしいが、それでも充分といえるほどではない。昨日の巨大なナメクジのような悪魔が相手ならそれで充分だろうが、もっと大きな、もっと強い悪魔が来たら太刀打ちできない。
 そこで、夏樹は真冬に質問してみる。
「なあ赤宮。昨日のあのナメクジみたいなの、悪魔なんだろ? 悪魔ってみんなあんなんなのか? アレより大きい奴とかやっぱいるのか」
 真冬は少し考えるように唸ってから、口を開いた。
「あれより大きいのは少ないよ。あれが最大サイズっていってもいいくらい。あれより強くなると、姿変わっちゃうからね」
 夏樹が首を傾げる。
 真冬によると、悪魔は大きく分類して三つに分けられるらしい。言葉もまともに喋れなく、考えることさえもほとんどしない、形が歪なものが多い下級悪魔。人語を理解し、話すことも出来る、どちらかというと人に近い形の中級悪魔。知能を有し、形も人と見分けがつかないほどの上級悪魔。悪魔は人に近くなるにつれて強くなっていく。中でも最強といわれるのが『七つの大罪(ななつのたいざい)』を司る、『七大悪魔(ななだいあくま)』らしい。個々の力下級悪魔数百体の力を有しているらしい。
 確かにそんな存在がいるのならば、血を吸わせて充分な状態で戦わせた方がいいのだろうが。
 しかし、夏樹は具体的にどうやって血を吸わせるのか分からない。そういえば、昨日ナメクジに襲われたときは――
 思い出して、夏樹は顔を赤くする。
 もしかしたら、血を吸うにはキスをしなければならないんじゃないだろうか。そんな恥ずかしいことを毎回できるほど、夏樹は慣れていない。むしろ、昨日の真冬とのキスがファーストキスだ。
 彼女はとてつもないことを、自分にお願いしているんじゃないだろうか、と考えてしまう夏樹である。
 そうだ、と夏樹は思い出したように真冬の方を向く。
「昨日なんか言いかけたことあったろ。いきなり倒れたり、薫がやって来たりで聞いてなかったな。結局何を言おうとしたんだ?」
「へ!?」
 真冬はいきなりで上擦った声を出してしまう。
 夏樹に下の名前で呼んでほしい、と言った記憶は確かにない。言おうとした記憶はあるが、どうしても色んなことが重なって言えずにいたのだ。
 しかし、真冬は今は言わずに置こうと思った。また今度でいい、と。だから、
「ううん、なんでもない。私のことどう思うって聞きたかっただけ」
「な、何だよその質問は……」
 的外れすぎる質問に夏樹は肩をすくめる。
 真冬はふふ、と可愛らしく笑ってみせる。傍から見れば仲のいいカップルだろう。しかし真冬が美少女なだけあって、周りからの目線は冷たく痛い。
 そこへ、今の状態でなければ安心しないような、厄介者の声が夏樹と真冬の耳に届く。
「ぅおおーい! そこの地味な冴えない少年と赤髪美少女やーい!」
 とんでもなく失礼な言い方だな、と思い夏樹はうんざりしながら声の方向へと顔を向けた。案の定、嵐と騒動とやかましさを運んでくる傍迷惑少女、奏崎薫である。
 彼女は楽しそうな笑みを浮かべながら、二人を交互に見遣る。
「二人でお出かけ? それともおデート? 私お邪魔だったかしらん?」
「何だその気持ちの悪い言い方は。赤宮がここに来て日が浅いから、街の案内だよ」
 薫は手をぽんと叩いて、
「なーるほど。あ、そうだ。二人ってこの後暇かい?」
 夏樹と真冬は顔を見合わせる。
 特に予定や用事は入ってない。真冬に街を案内し終わったら、家に帰るつもりだ。
「良かったらうちにおいでよ! 真冬ちゃんの歓迎会を、三人で開いちゃおうぜ!」
「……はぁ」
 真冬は戸惑ったような調子で返事をした。
 未だに彼女のテンションについていけてないようだ。

24たっくん:2013/02/11(月) 23:17:04 HOST:zaq31fa5a2f.zaq.ne.jp
昔の古いバージョン(旧)専門です。宜しくお願いします。
この頃は何と言ってもドラゴンボール全盛期時代
初回放送時です。

1991年のカード・・
本弾シリーズ第9弾 スーパーバトルカードシリーズ第1弾 PPカード ビジュアルアドベンチャー’91
ビジュアドとスパバトは91年にデビューしました。

       【スーパーバトルカードの思い出】

昔、欲しかったのはスーパーサイヤ人孫悟空、ベジータなどです。
しかし人生というのはなかなか思い通りにいかないものです。都合よくいかないんですね〜。
何故かクウラとかドクター・ゲロとか敵キャラカードばかり出る。
本弾シリーズ9のほうではクウラやフリーザが・・
スーパーバトルシリーズ第2弾、3弾(?)などでは
ドクター・ゲロがのほうでは

何故いつも孫悟空が出ないんだろう?
当時一番欲しかったのはスパバト第1弾の超サイヤ人孫悟空で
時代はフリーザ戦時です。

>>1
貴方にこんな事言っちゃ悪いかもしれませんが
貴方のスレつまらないので私が面白いして差し上げましょう。

昔の古いバージョン(旧)専門です。宜しくお願いします。
この頃は何と言ってもドラゴンボール全盛期時代
初回放送時です。

1991年のカード・・
本弾シリーズ第9弾 スーパーバトルカードシリーズ第1弾 PPカード ビジュアルアドベンチャー’91
ビジュアドとスパバトは91年にデビューしました。

       【スーパーバトルカードの思い出】

昔、欲しかったのはスーパーサイヤ人孫悟空、ベジータなどです。
しかし人生というのはなかなか思い通りにいかないものです。都合よくいかないんですね〜。
何故かクウラとかドクター・ゲロとか敵キャラカードばかり出る。
本弾シリーズ9のほうではクウラやフリーザが・・
スーパーバトルシリーズ第2弾、3弾(?)などでは
ドクター・ゲロがのほうでは

何故いつも孫悟空が出ないんだろう?
当時一番欲しかったのはスパバト第1弾の超サイヤ人孫悟空で
時代はフリーザ戦時です。

悪いですがこのスレ・・カードダス20スレッドにしますね。
勘違いされると困るので最初に言っておきますが
私は荒らしではありませんよ。勘違いするなよ
じゃあ

25たっくん:2013/02/11(月) 23:18:00 HOST:zaq31fa5a2f.zaq.ne.jp
ドラゴンボールといえば最初に出てくるのが
孫悟空 そして超サイヤ人・・それは基本中の基本

26たっくん:2013/02/11(月) 23:19:06 HOST:zaq31fa5a2f.zaq.ne.jp
私が自分が好きな話しかしないので
嫌いな話は一切しないですからね。予めご了承下さい。

あんたらの話に合わせる気はない
あくまでも自分の話

27ナコード:2013/02/12(火) 18:50:44 HOST:i118-17-185-78.s41.a018.ap.plala.or.jp
 すいませんが、此処、竜野 翔太さんの小説場なんですけど?
 オリジナル作りたいなら下↓まで行って作って下さい。
 あと、自分勝手作りたいなら勝手にして下さい。迷惑です。

28竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/15(金) 22:30:04 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 7

 薫に誘われるがまま、夏樹と真冬はそれらしい抵抗も出来ず彼女の家に招かれた。
 彼女の家に到着した夏樹と真冬は、家を見るなり驚きの声を上げた。
 立派な二階建ての大きな一軒家だ。見た目もとても綺麗で、イメージとしてはお嬢様風な女の子や、裕福な家族が住んでいそうな家である。この家の娘が奏崎薫であるとは、なんという肩すかしだろうか。
 薫と付き合いが長い夏樹でも、彼女の家に来る度に驚いてしまう。相変わらずでかい家だなー、などと慣れた感想を抱きながら歩いていると、前を歩いていた薫にぶつかってしまう。彼女が不意に立ち止まったからだ。
 夏樹が首を傾げていると、玄関前で止まった薫があははー、と笑って、
「今多分私の部屋散らかってるだろうから、ちょっとここで待っててね! すぐに、もう驚くぐらいの超スピードで片付けてくるから待ってて! あまりの片付けテクニックに腰抜かすぐらいの綺麗さで二人を迎えるから――」
「さっさと行け」
 夏樹にツッコまれて薫は二階にある自分の部屋へと駆け上がっていった。
 中に誰かいる気配はないし、生活しているという風も全くない。その雰囲気にどことなく違和感を感じた真冬が、夏樹を見上げながら聞いてくる。
「ねぇ、もしかして薫ちゃんって一人暮らし?」
 真冬の質問に少し口ごもる夏樹。相手のプライベートに関わることだから答えるのに迷っているようだ。
 やがて夏樹は溜息をつくと、本人には感づかれないようにな、と釘を打って話し始めた。
「アイツの両親は共働きで転勤とか多いんだ。二人の仕送りで生活や学校の授業料とかも差し支えないけど、ほとんど家に帰ってくることは無い。だから小六くらいまで俺ん家で一緒に住んでたんだよ」
 夏樹がどことなく薫に恋人以上の接し方をしている理由が分かった。
 友達と呼ぶには軽く、親友や恋人とも違う。夏樹と薫は家族のような存在なのだ。だからこそ、夏樹は薫に心を許しているし、薫も夏樹に心を許している。
 真冬はそんな二人の関係を、どことなく羨ましく感じていた。
「クラスの奴らが俺と薫は付き合ってるって囃し立てるけど、今となっちゃアイツを恋愛対象で見ることはできない。それ以上に近い関係になってるからな。……なんつーか、妹みたいに思えてくるんだよ、アイツが」
 ふふ、と真冬が小さな笑い声を漏らす。
「分かる気がする。だって薫ちゃんを注意したりツッコんだりしてるときの夏樹くん、妹に手を焼いてるお兄ちゃんみたいだもん」
「……そんな風な表情してんの、俺って」
「無意識なんだろうね。私から見ても相当分かりやすいから、多分周りの人も気付いてるんじゃないかなぁ?」 
 えー、と夏樹が苦笑いを浮かべている。
 二人が話していると、上から薫の声が聞こえてくる。部屋の片付けが終わったようだ。
 夏樹と真冬は玄関で靴を脱いで、二階にある薫の部屋へと上がっていく。
 そんな中、夏樹の表情が曇っていることに真冬が気付いた。彼の口から時折『あの部屋に入るのか』とか『変わってたら幸いだな』などという言葉が聞こえる。
 それほどトラウマになるような部屋なのだろうか、と真冬の中で期待と不安が混ざり合う。
 二階に上がると、薫が自分の部屋の前で腰に手を当てたまま自信満々な顔で立っていた。
「じゃあ見せてもらおうか、俺らが腰抜かすほど驚く片付けテクニックによって片付いた部屋を」
「ふふん。それは宣戦布告と受け取るよ。目を大きく見開いてこの光景を焼き付けるがいい!」
 薫が自分の部屋の扉を大きく開け放った。
 二人の目の前には、驚きの光景が広がっていた。

29竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/01(金) 17:29:00 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ピンク色のカーテン、カーペット、椅子の上にある座布団、布団の色。全てピンクの色に染まった世界が眼前に広がっていた。確かに腰を抜かしてしまいそうだった。片付き具合に目などいくはずもなく、相も変わらずピンクな部屋に、夏樹は驚いていた。
 何故か薫はふふーん、と腕を組んで自慢げな表情を浮かべている。どこを自慢しているのかさっぱり分からない。部屋の色か、部屋の色を自慢しているのか。もう見逃したピンクはないと思い扉を閉めるが、なんたることか扉の裏までピンクだった。色を見てこんなにも気持ちが悪くなるものなのか、と夏樹は頭を手で押さえながら溜息をつく。
 夏樹と真冬はカーペットの上に、薫はベッドの上に座り込んだ。
 彼女部屋は三人入っても少し余裕があるくらい広かった。部屋の隅に角を合わせるように置かれた机、その後ろ側にはベッドが置かれている。そして、カーペットの上に三人用くらいの大きさの丸いテーブル、扉とは逆側に置かれているテレビ。下の小さめの引き出しの中には恐らくゲームのカセットやコントローラーが入っているだろう。引き出しの横にゲーム機がセットされている。
 薫がうあー、と呻きながらベッドに仰向けで倒れこむ。
「何するー?」
 と聞いてくる。
 なるほど、最初に言っていた『真冬の歓迎会』は忘れているらしい。まったく都合の良い人間だ、と夏樹は思う。行く途中に何も買わなかったので、おかしいとは思ったが、やはり予想通りだった。
 薫はがばっと起き上がると、
「そーだ! ゲームしようぜ、ゲーム! 色んなジャンルあるよー。アクションとかRPGとかレース系とかノベルゲームとか! でも一番のオススメは恋愛げ――」
「それ以外で良いのは?」
 薫の言葉が終わるより早く、夏樹が口を開いた。
 呆気なく自分のオススメを拒否された薫は泣きそうな顔で夏樹を見つめる。しかし夏樹は絶対にやらん、と首を横に振る。彼女の持っているゲームは既に夏樹は(薫に強制的にプレイさせされて)プレイ済みだ。二人とはわけが違い、三人で遊ぶんだからそういうのをやろう、と夏樹が提案したところで、
 真冬が、遠慮がちに手を挙げている。
「お、真冬ちゃん! どうしたの!? 何かしたいのあった? どれ、どれ、どれよ!?」
「もうちょっとゆっくり聞いてやれよ。せっかちか、お前は」
 薫にすかさずツッコミを入れる夏樹。
 真冬は戸惑いながらも口を小さく動かしながら言う。
「……やるよ、恋愛ゲーム。……ちょっと、興味があって……」
 おお!! と薫の目が輝く。
 薫は夏樹に目配せして、複数のカセットを持たせる。ジャンルは同系統のものだ。どうやら三種類あるから一緒に説明しろ、ということらしい。
 夏樹と薫は真冬の前にスッとカセット群を差し出して、
「俺が持ってるのは女主人公になりきって、男性キャラと恋するやつ」
「私が左手に持ってるのは男主人公になりきって、女性キャラと恋するやつ。右手に持ってるのは同性愛もの。女子同士は良かったけど、男性同士は見てて吐き気してくるよ」
 真冬は薫の持っている同性愛もののパッケージを手で覆いながら目を逸らす。パッケージでキス寸前や抱き合っているなど、純粋な真冬には刺激が強すぎるようだ。
 彼女が興味を示したのは女性キャラクターを攻略する方のゲーム。薫が差し出している三つの中から『絵柄がすごく綺麗』という理由で一つのカセットを選ぶ。タイトルは『僕の彼女はべりー☆すいーと』というなんともコメントしにくいものだ。タイトルの割に、確かに絵はとても綺麗だった。
 薫は『これ結構いい話だよー』と言いながら、ゲーム機にカセットを入れ、ゲームを開始させる。
 夏樹、真冬、薫の三人は、キャラクターの攻略に向け協力することにした。

 そしてアップテンポな可愛らしいオープニング曲とともに、タイトルが表示された。

30竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/01(金) 22:15:46 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 とりあえずは主人公の名前から決めることとなった。
 真冬は名前を打つ画面を前にうーん、と唸りながら悩んでいる。操作するのは男性キャラクターだ。自分の名前を使うのもどうかと思うし、だからといって『赤宮まふお』というのも嫌だった。
 彼女は身近にいる男子に一瞬だけ視線を送って、名前を決定していく。
 男性キャラの名前は『霧澤夏樹』。いま側にいる少年の名前だ。
「っておい!? 何で俺の名前なんだよ! もうちょっと考えろよ!」
「じゃあ、たとえば?」
 たとえば? と夏樹は目を点にする。
 恐らく真冬は、男性の名前を提案しろと言っているらしい。夏樹も恥をかきたくないので、何処にでもいそうでカッコいい名前を出した。
「あんどうゆうき!」
「その子五組にいるよー」
 本当に何処にでもいるとは思わなかった。
 夏樹は次なる名前を出す。
「つだりんたろう!」
「はい、三組」
「ひめじまきょうた!」
「彼は二年六組だねー」
「はやしがわかずひこ!」
「一年二組と三年七組にいるよー」
 二人もいた、と自分の名前の平凡さに愕然とする。
 真冬も仕方ないなあ、と名前をリセットして自分で考えることにしたようだ。五秒じっと考えてから、閃いたのか笑みを浮かべたままコントローラーを操作していく。
 打たれた名前に、夏樹と薫は口を開けて固まった。
 彼女が打った名前は『鳳凰ヶ原朱羽刀(ほうおうがはらしゅうと)』。真冬は自慢げに夏樹と薫を見つめている。なんというか、とてつもなくコメントがし辛い名前だ。発想がぶっ飛ぶのにも限度がある。
 薫は乾いた笑みを浮かべながら、こちらを見つめている真冬に、
「……うん、まあカッコいいね。私の情報網じゃうちの学校にはいないなぁ……」
 これになるんだったら、自分の名前を使われていたほうがいいとさえ思ってしまうし、今まで出した名前の方がまともだ、というのが夏樹の感想だ。
 とりあえず彼女には名前を付けさせたりするようなことは任せないでおこう、と夏樹は心に決めた。
 とにもかくにもようやく物語を進め始めた。
 まず最初のヒロインとの出会いだ。肩までの桃色の髪が特徴的な美少女だ。出会い頭にぶつかるCGでいきなりパンチラだ。真冬は顔を赤くしながらシナリオを進めている。
 開始からどれくらい時間が経過したろうか、シナリオは最終局面を迎えている。しかも相手のヒロインは最初の娘ではなく、金髪のセミロングに、後頭部の大きなリボンが特徴的な女子へと変わっている。
 真冬の好みが分かった気がする。今攻略しようとしてるキャラクターはお姉さん系で、面倒見のいい性格だ。真冬は面倒見のいい人が好きらしい。
 告白終了、そしてエンディング曲と一緒にスタッフロールが流れる。幸いハッピーエンドに終わり、真冬はエンディングを見ながら涙を流している。夏樹も一度プレイしたことがあるので、このゲームのエンディングが感動的なのは知っている。もっとも、夏樹が攻略したキャラは銀髪ショートカットの、大人しいキャラクターだったが。
 真冬は息を吐いて、思い切り脱力する。
「意外といいものだね、こういうゲームも。思わず泣いちゃった」
「だよねぇ! ホントこのゲームの刹那(せつな)先輩ルートは泣けるんだよ! あと刹那先輩と同じくらい泣けるのが最初の娘! 桃井結呼(ももいゆいこ)ちゃんのルートも号泣ものだよ!!」
 薫はこれでもか、とティッシュを取り出し涙を拭っている。そこまでか、と呆れながら見つめると、涙を拭き終えた薫が顔を上げて、
「あ、そーだ……。二人とも今日泊まっていきなよ。もう七時前だし」
 もうそんな時間かよ、と驚き、夏樹は家族にメールで薫の家に泊まることを連絡する。
「赤宮も親とかに連絡しとけよ」
「あ、うん」
「じゃあお次はアクションバトルで対決だー!」
 言いながら薫は次のゲームのカセットを入れる。
 操作とか私分からないよ、と言いながらもコントローラーを受け取る真冬。薫から説明書を渡され、操作法を覚える。
 夏樹も薫と結構やったので、初心者の真冬に負けるはずがないと自信があった。

 その後、夏樹が初心者の真冬に勝てなかったのは言うまでもない。

31竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/02(土) 01:42:22 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 8

 夏樹たちが夕飯を食べたのは八時近くになってからだった。
 厳密に言うと、調理は七時半から始まっていた。薫は料理経験に乏しく『私が包丁握ったら絆創膏まみれになるよ?』と自慢げに言ったため、自室でゲームでもしてろと夏樹が追い出したのだ。真冬も料理経験はさほどないようだが、材料を切ったり下準備をしたりなど出来るらしいので、彼女はキッチンに置いておこうと思っていたのだが、薫が真冬を呼んでゲームを始めたため、結局夏樹が一人で作ることになった。
 家を空けがちな母に代わって、家事の多くは夏樹の妹である梨王(りおう)が担ってくれている。だが夏樹もたまに彼女の料理を手伝ったりするため、それなりに料理は出来るはずだ。そもそも、梨王が作るまでは自分がやっていたんだし、と夏樹は少々自分に自信を持つ。
 薫が冷蔵庫にあるものは好きに使っていい、と言ったので賞味期限が近づいている卵を消費しようとオムライスを作ったのだ。さすがにお店で出されるような半熟オムライスは無理だったが、真冬も薫も幸せそうな表情で食べてくれた。その光景に、夏樹は思わず笑みを零してしまう。
 夏樹が流し台で食器の後片付けをしていると、隣に薫がやってきて食器をタオルで拭いていく。
 何も言わずに、夏樹が洗った食器を丁寧に拭いていく。その姿は兄妹のようにも見えた。夕飯を作ったお礼かな、と思いながら夏樹は小さくありがとう、と呟いた。
「へ?」
 その言葉に薫はきょとんとした顔でこちらを見つめてくる。
 何か言った? というような表情だ。夏樹はもう一度小さく笑ってからなんでもねーよ、と食器を洗うことに専念する。
 すると、今度は薫が思い出したように口を開いた。
「そーだ夏樹。洗い物終わったらお風呂入っていいからね」
「風呂? お前いつの間に沸かしてたんだ?」
 ふふ、と薫は笑いながら、
「私に抜かりはないのだよ! なーんてね!」
 ウインクしながらそう答える。
 夏樹はありがとう、と言いながら僅かに頭を下げる。薫もニコニコと笑いながら食器を拭くのに集中する。
 内心薫は嬉しいのだろう。
 今まで家に帰っても誰もいなかったのだから。家に帰ったらご飯は自分で作らないといけないし、風呂を沸かしても自分しか入らないし、食器を洗うのも拭くのも自分の仕事だ。だから薫は、誰かと一緒にいれる時間がほしかったのだ。そう思えば、彼女が夏樹と真冬に『泊まっていきなよ』と言ったのも、普段の寂しさからなのかもしれない。あれは彼女の本音だったのだ。
 食器を洗い終わり、上の階に戻った夏樹は、今更ながら着替えをどうするか悩み始める。さすがに薫も、男物の着替えは持ってないだろう。真冬の分は薫の服でまかなうとして、夏樹の場合はそうもいかない。
 夏樹がどうしようか、と考えていると、
「着替えならここにあるよ」
 彼女は壁みたいになっている襖をスライドさせるそこから出てきたのは衣装ケースだ。ケースのふたを開けてすぐ上に、男物のTシャツとズボンが出てきた。
 夏樹は目を丸くして、
「それ、俺のじゃん! 何でお前が持ってるんだ?」
「中三の頃、アンタが忘れていったやつ。置いといてよかった。サイズも問題ないと思うけど」
 言いながら薫は自分の下着が入っているであろうタンスの引き出しから、夏樹の下着を彼に向かって投げる。夏樹はそれを受け取ると、
「じゃあ一番風呂をいただきますよ」
「うん。今からここはガールズトークの場だからね! 入る時はノックしてよ」
 はいはい、と夏樹はどこか楽しそうな溜息をついて、脱衣所へと向かった。
 尚も行儀良く正座している真冬の目の前に薫は座り、彼女を真っ直ぐに見つめながら言葉を切り出した。彼女にしては珍しい、真剣な表情だ。
「さて、夏樹もいないし……真冬ちゃんにちょっと聞きたいことがあるんだ」
「……聞きたい、こと?」
 真冬は僅かに狼狽した。
 彼女は、薫が自分に対して聞きたいことをに心当たりがあるからだ。多分、真冬ちゃんは一体何者なの? 何で夏樹と一緒にいたの? という類だろう。その場合、どう答えるのが適切だろうか。自分は『ヴァンパイア』で悪魔を倒すために来ました、と正直に答えるわけにもいかない。
 薫は言いにくそうに俯いた。やがて、顔を上げて真剣な表情で真冬に質問をする。
「……今日、夏樹と一緒にいたよね?」
「……うん」
 真冬はこくりと頷く。
「なんで真冬ちゃんが夏樹に街を案内されたのかは聞かない。でも、これだけは聞かせて」
「……?」
 真冬が首を傾げる。
 薫は意を決したように真冬に問いかけた。真冬が驚くような、質問内容を。
「真冬ちゃんは――夏樹のこと、どう思ってるの?」
「……え?」
 真冬の口から出たのは、そんな間の抜けた声だった。

32竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/03(日) 01:12:55 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 突然の意表をつく質問に、真冬は硬直してしまった。
 彼女が固まった理由は質問の内容だけではない。彼女の目の前に座る薫が、今まで全く見せない真剣な表情と眼差しで、真冬をじっと見つめていた。その瞳に射抜かれたように、縫いつけられたように、真冬は口を動かすのも難しかった。香るの真剣な表情と眼差しで真冬は悟った。
 ――彼女は彼が、霧澤夏樹のことが好きなのだと。
 幼馴染は中々恋に発展しない。家族のような存在になってしまい、近しいからこそ恋愛に発展しない。いわば、幼馴染の恋は、兄と妹、もしくは姉と弟で恋をするようなものだ。真冬は姉からそんなことを言われていた。その言葉には、真冬も納得したものだ。
 だが、目の前の彼女は違う。
 近しい存在だとしても、兄と妹のような存在だとしても、相手が自分にそういう感情を抱いていなかったとしても。彼女自身は、いや他の誰にも、奏崎薫というたった一人の少女が、霧澤夏樹という一人の少年に抱く感情は誰にも変えられないし、否定も出来ない。
 真冬は、胸の奥がずきん、と痛むのを感じた。
 彼女は今、薫以上に夏樹と近い場所にいる。そして、真冬は薫がしていないであろう、夏樹とキスまでしてしまった。それは自分にとっても予想外の出来事だが、非常事態だったとはいえその事実は否定できない。さらに、真冬は彼に『自分に力を分けてくれる存在』に。――つまりは契血者(バディー)になってほしいとまで頼んでいる。もっとも、その答えは今はまだもらえていない。
 自分は夏樹が好きなのだろうか。
 そういう感情が自分の中を駆け巡る。非常事態とはいえ、好きでもない相手とキスをするだろうか。好きでもない相手に協力してほしいと頼むだろうか。ましてや、好きでもない相手を『どう思うか』と聞かれて、これほど困るものだろうか。
 やはりこれは――、自分の中にあるこのもやもやした、不確定な感情は――、
「ごめん」
 質問の答えを口にしようとした真冬より早く、薫がそんなことを言った。
 真冬は『へ?』という声を漏らしながら、薫を見つめた。
「いきなりそんなこと聞かれても、真冬ちゃんも困るよね。ごめんね、いきなり変なこと聞いちゃって」
「……ううん。でも、そんなこと聞くってことは薫ちゃんは……」
「好きだよ、夏樹のこと」
 薫は迷わずにそう言った。
 さらにこうも言った。街で二人を見つけた時、声を掛けるかどうか迷った、と。
 理由は二人が本当に恋人同士に見えたからだ。そんな風に囃し立てていた薫も、言ってて自分で寂しくなった、とその時の心中を吐露した。
 真冬は胸の奥の痛みを感じながら、薫の言葉をずっと聞いている。
「夏樹が私をそういう目で見てないってのは分かってる。叶わない恋だっていうのも理解してる。でも、いつかは言わないとって思ってるんだ。これはいつかは伝えないとって。じゃなきゃ自分で自分を納得させるのも無理だって」
 真冬は僅かに表情を綻ばせた。
 そんな健気な薫の力になりたい、とそう思ったのだろう。
「じゃあ私、応援するね。薫ちゃんの恋を!」
「……いや、それは大丈夫だよ」
 薫は真冬の応援を断った。
 彼女は笑みを浮かべながら、
「自分で頑張ってみる! それに、真冬ちゃんも夏樹に惚れないって確証はないしね。ライバルになるってことも考えられるんだよ? その時は――」
 言葉を切った薫が拳を差し出してくる。
 続きの言葉を理解できたのか、真冬はにっと笑って、薫の拳に自分の拳を突き合わせる。
「正々堂々、ね!」
 二人の少女は笑い合い、固い約束を交し合った。

33竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/10(日) 15:13:48 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二章 身近な場所の協力者 -cooperater-

 翌日の昼頃、夏樹と真冬は薫の家から帰ることにした。
 出る二人を薫は、家の外まで見送ってくれる。寂しいのを忘れさせてくれたことに対する、彼女なりの感謝の気持ちなのかもしれない。
 真冬は薫に小さくお辞儀をして、
「ありがとうね、薫ちゃん。楽しかったよ」
「ううん、私こそありがとね。いつも一人だったから、すっごく楽しかった」
 薫はいつもどおりの笑顔で言葉を返す。
 すると彼女は、今度は夏樹に視線を向ける。視線を向けられた夏樹は、きょとんとした表情を浮かべている。
 薫はにやっと笑って、夏樹を指差す。
「ちゃんと明日宿題やってきなさいよ。絶対に見せないからね。真冬ちゃんも見せてあげちゃダメだよ?」
 う、と夏樹は言葉を詰まらせた。宿題という存在を完全に忘れてしまっていたのだ。
 あからさまに肩を落とす夏樹を見て、真冬と薫は笑みを零す。すると、薫は真冬の耳へと顔を近づける。夏樹に気付かれないように、何かを伝えようとしているのだ。
 一瞬、顔を近づけられたことにドキッとするが、真冬は薫の言葉に耳を澄ませる。
「……真冬ちゃんが夏樹を好きになったらその時は教えてね!」
「うん。じゃないと正々堂々にならないもんね」
 女子二人は拳を突き合わせる。
 ショックから立ち直った夏樹が、『じゃあ帰るか』と言い真冬と肩を並べて家へと向かって歩き出す。
 後ろで薫が『また明日ねー!』と大きく手を振っていた。夏樹と真冬は彼女に手を振り返し、今度は振り返らずに歩いていく。
 歩いている途中、夏樹はふと思った疑問を口にした。
「そういや赤宮。お前って何処に帰るんだ? 良かったら送っていくけど?」
「あ、別に気にしなくていいよ」
 真冬が割りと明るめの声で返す。
 夏樹はてっきり、魔界からそういうのが決められているのかな、などと考えていた。
 だが、真冬が口にした言葉は、夏樹の想像を上回るものだった。

「夏樹くんの家に泊めてもらってもいいかな?」

 思考が停止した。
 別に気にしなくていい、という言葉は何処にいった? と表情を引きつらせる夏樹だが、真冬は頬を赤らめながら、僅かに俯いている。
 こういう話をすると途端に恥ずかしくなるため、彼女なりの努力で先ほどは明るい声を出したのだろう。
 夏樹は溜息をつき、
「……俺の家?」
「うん。……やっぱりダメかな?」
 そういうわけじゃなけど、と夏樹は首を左右に振る。
 彼は疲れたような表情を浮かべながら、真冬に問いかけた。
「何で俺の家なんだ? 魔界はそういうの用意してくれてないの?」
 自分の口から自然に魔界、と出るのが正直恐ろしかった。我ながら順応早いなー、などと思いながら真冬の答えを待つ。
 真冬は小さく頷くと、彼女も困ったような表情で説明を始めた。
「……本来『ヴァンパイア』は契約を結んだ契血者(バディー)の家に住むことになってるの。いつでも力を貸せるようにね」
 でも、と真冬は一度言葉を区切る。
「私はまだ契血者(バディー)いないし、だから……お願いっ! 私が契血者(バディー)を見つけるまででいいから!」
 真冬は頭を下げる。
 夏樹は少々うろたえるが、彼女の頼みを無下に断ることも出来ない。
 彼女の期待を一身に背負い、家族の説得をしようと心に決めた。

 そして、ついに決戦の場――家へとたどり着いてしまった。

34竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/16(土) 21:25:32 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 2

 何だか家が魔王の城のように、今の夏樹には思えてきた。
 学校があまり好きではない男子高校生霧澤夏樹にとって、身体を休められる家というのは、本来一番落ち着くはずの場所である。しかし、今となってはその平穏の地は決戦の地のように思える。
 家に入るにいたっては問題はない。だが、家に入ってからが問題だ。普通に息子が見知らぬ女子を連れて来たら、母親は事情を把握しようと問い質すだろう。夏樹には妹もいるので、女二人から質問攻めだ。
 夏樹は真冬のことをどう説明するか悩んでいた。彼女の性格からして、フォローしてこないことはないと思うのだが、真冬が解答に困るようなことがあれば、こちらからも助け舟を出してやらなければいけない。ここはお互いがフォローしあうべきなのだ。
 そこのところをどう思っているのか、夏樹は真冬ちらっと見てみる。真冬はこちら見ながらうんうん、と頷いているが分かっているのか。
 とりあえず中に入らなければ始まるものも始まらない。ここで悩んでいたって、時間がただ無駄に過ぎていくだけだ。まあ、入らなければしたくない説明をしなくても済むのだが、そういうわけにもいかない。
 家のドアの鍵を開けて、夏樹は玄関へと足を踏み入れる。玄関には靴が二つ。見慣れた靴なので、母親と妹のものであることは間違いない。
 いてほしくない時にいやがるな、と思いながらも夏樹は小さな声で『ただいまー』と呟く。
 すると、玄関から近いところにあるリビングのドアが開き、背丈の低い少女がこちらを覗き込むように顔を出してきた。
 肩に触れるか触れないかくらいの黒髪に、幼さが残る顔立ち。口には棒つきの飴でも舐めているのか、白く細い棒が飛び出している。少女は帰ってきた夏樹を見ると、驚いたように目を見開き、リビングに姿を消した。
「お母さん、お兄ちゃんが彼女連れてきた! しかもすっごい可愛い子! 薫ちゃんじゃないよ!」
「何ですって? じゃあ今日は赤飯ね! 早く準備をしないと!」
 ドアが閉められたリビングからそんな二つの声が聞こえてくる。
 夏樹は、家族の誤解を解こうと家に上がる。真冬も靴を脱いで、夏樹の後についていく。
「彼女じゃねーよ。つーか梨王、それ何本目だ」
「まだ三本目だよ?」
「飴は一日一本って言ってるだろ。そんなに食いたきゃ自分で買えよ」
 夏樹は妹の梨王に向かってそういう。言われた梨王は頬を膨らましているが、それが不機嫌だからか飴を口に入れてるからかはよく分からない。
 一方で、台所の流し台で洗い物をしている黒髪を一つに纏めたエプロン姿の女性、恐らくは母だろうが、洗い物を済ませると、夏樹の隣いる真冬を凝視する。
「ふーん……やっぱり、大人しそうな雰囲気の女の子が好みなわけだ。どーりで薫ちゃんとくっつくないわけだ」
「何言ってんだよ! 別にそんな関係じゃねぇって!」
 ふーん、と母親の霧澤冴子(きりさわさえこ)は面白そうににやりと笑いながら、
「そういう関係じゃないなら、どういう関係? というか、連れて来た理由から話してもらおうじゃない」
 やっぱりそうくるか、と夏樹は苦笑いしながら母親と向かい合うように座る。
 彼の隣に真冬、母親の隣に梨王、という構図だ。
 梨王は顔の前で指を組みながら、最初に質問をしてきた。
「さて、お兄ちゃん。もうキスはしたの? っていうかもう一歩踏み込んだ? もうヤっ……あぅ!」
 妙な言葉を口走りそうになった梨王の額を、隣にいた冴子がぺしんと叩く。梨王は額を押さえながら、うーと唸っているが冴子は見向きもしない。
 彼女は同じように指を組みながら、
「まあキスをしたとかヤったとかは置いといて。その子とはどういう関係? っていうか、彼女の名前は?」
 まずそこからだよな、と夏樹は真冬を見る。
 真冬は小さく頷くと、冴子と梨王に向かって自己紹介をする。
「えっと、赤宮真冬っていいます」
「そう真冬ちゃんね。よろしく。どうやら夏樹の言うとおり、恋人じゃないみたいだけど、だったらどういう関係?」
 真冬が夏樹に視線を向ける。
 視線を受け取った夏樹は口を開いた。
「ただの友達だ。でも、赤宮の両親がこりゃまた厳しい人達でな。友達は選べだのなんだので嫌だから、しばらく泊めてやってもらえないか?」
 我ながらなんという誤魔化し方、と思いながらも口にする。
 すると、梨王がすっと立ち上がった。
「なら全然オッケーだよ、真冬お姉ちゃん! あたし、実はお姉ちゃんがほしかったの! ね、いいよね、お母さん!」
「ふーん。まあそういうことならいいか。うちでよければ、泊めてあげる」
 冴子が納得したような表情を作ってそういう。
 すると真冬はぱあっと明るい表情になって、勢いよく立ち上がると、ばっと頭を下げた。
「ありがとうございますっ!」

35竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/17(日) 14:55:38 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 3

 晩御飯を終えた夏樹と真冬は部屋に戻り、寝る場所をどうするか相談していた。
 そもそも寝床を別々にするという手段や、梨王が『真冬お姉ちゃんと一緒に寝たい!』というので、梨王の部屋で寝かせるという手段もあったのだが、母の冴子が『自分の女なら一緒に寝ちゃえば?』と言ったため、こういう状況になったのだ。
 あの母親には、もう彼女じゃないと言っても無駄だと思う。
 勿論、夏樹のベッドは二人が入って寝れるほど大きくはない。少し窮屈だろうから、二人でベッドで寝るという案は排除する。そもそもベッドが十分な大きさでも、その考えは排除していたが。だとしたら、どちらかがベッドで、どちらかが床に布団を敷いて寝るということになるのだが……。
「赤宮、お前ベッドで寝ていいぞ」
「えっ?」
 夏樹の言葉に真冬が驚く。
 真冬は泊めてもらう身だ。贅沢はもちろんのこと、家の手伝いも何でもやるし、住まわせてくれることに対しては感謝してもしきれないくらいだ。しかし、ベッドの所有者を押しのけて、自分がベッドで寝るということにはかなりの抵抗がある。
 彼女はぶんぶんと顔を左右に振って、
「いや、いいよ! 私布団でも寝れるから、夏樹くんがベッドで寝なよ。そもそも、ここ夏樹くんの部屋だし……」
 最後の方が妙に小さくなっていた。少し意識しているらしい。
 そんな真冬に夏樹は言葉を返す。
「ここは確かに俺の部屋だ。だったら誰がベッドで寝るかも俺が決める。遠慮すんな」
 言いながら、夏樹は真冬の頭に手を置く。
 でも、とまだ渋っていたようだが、やがて真冬はしぶしぶ頷いた。とりあえず寝るにいたっての問題は解決した。
 夏樹としては、布団を敷いているとはいえ、女子を床で寝かせるのはのはかなり気が引ける。
 すると、夏樹の部屋のドアがどんどん、と雑に叩かれる。恐らく梨王だろう。彼女は返事も聞かずにドアを開けて部屋に入ってくると、真冬の服の袖を掴む。
「真冬お姉ちゃん、お風呂一緒に入ろ! うちのルールでは女子が先に入って、男子は一番最後なんだよ!」
 言いながら梨王は真冬を引っ張って下へと降りていく。真冬は引っ張られながらも夏樹に『じゃあ先にお風呂いただくね』と言って部屋から出て行った。
 霧澤家には色々とルールがある。冷蔵庫は開けたらすぐ閉めるだとか、水は出しっぱなしにしないだとか、風呂は母→梨王→夏樹の順(今日から夏樹の前に真冬追加)といった、節約生活的なルールがある。冷蔵庫には『開けたらすぐ閉める』と書かれた貼り紙が貼られている。
 大体梨王は一時間くらい入っているので、その時間をどうするか、と思いながら夏樹はリビングに降りる。
 すると、そこには椅子に座りながらテレビを見ている冴子の姿があった。彼女が見ているのは、冴子が好きな芸能人が司会をしているバラエティ番組だ。
 夏樹はコップにお茶を注ぎ、一口飲んでから、さっきから一向にこちらを見ようとしない冴子に言う。
「……母さん、ありがとうな」
 言われた母は、驚いたような表情を向け、やがてその表情を意地悪な笑みを含んだものへと変えていった。
「ふーん、アンタが素直にお礼を言うとはね。どうしたの、変なものでも食べた?」
 うるさい、とそっぽを向きながらコップを流し台に置き、夏樹は部屋に戻ろうとする。
 しかし、リビングを出ようとしたところで、
「なぁーつきぃー」
 母親に肩を組まれた。
 少し暑苦しいと感じていると、不意に冴子が口を開いた。
 夏樹が驚くような言葉を。

「真冬ちゃんの本当のことを話してもいいと思ったなら言いなさい。私はそれまでゆっくりと待っておくわ」

「……ッ、母さん、真冬のこと知って……?」
「なーんにも知らないわよ。あの子がアンタと秘密を共有してるってことしかね。共有してる秘密がなんなのか知ってるわけないじゃない。私は心を読むだなんて出来やしないわ」
 冴子は冷蔵庫から缶ビールを出し、それを一口含みながら続ける。
「ただ、アンタはある嘘をつくときに声が僅かに高くなるのよ。そして声が高くなる嘘をつくときは、必ず誰かを守るとき。アンタのそういうtころ、お母さんは大好きよ」
 冴子は再び椅子に座り、司会のツッコミに笑っていた。
 そんな母親を見ながら、夏樹はリビングを出ると同時に、小さく呟くように言った。
「……本当にありがとう」
「どーいたしましてってね」
 夏樹は聞こえていたのか、冴子も呟くように言葉を返していた。

36竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/18(月) 11:50:13 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 4

 翌日の学校へは一緒に登校することとなった。
 一緒に住んではいるし向かう場所も一緒なので別に時間をズラす必要もないのだが、夏樹としては転校生の美少女と一緒に登校してきた、と注目を浴びるのが嫌なのだ。そのたびに、あの刺々しい視線を身体で感じるのはもう限界だ。
 真冬としても、夏樹に迷惑をかけたくないからか、時間をズラす方を考えていたのだが、朝食を食べていると冴子と梨王の二人が親指を突き立てて『グッドラック!』などと調子のいいことを言ってきたので、結局一緒に登校する羽目になってしまったのだ。まあ、幸い夏樹の家の付近に住んでいる生徒で思い当たるのは薫くらいなので、他の生徒に目がつくようなことはないだろうと思う。
 ……それでも薫にバレたら面倒なことには変わりないが。
 学校へ向かう途中、自分からは中々話を切り出さない真冬が口を切った。彼女から話す、ということは恐らく『ヴァンパイア』関係だろう。
 真冬は夏樹に視線を向けずに、俯きながら言う。
「ねえ、夏樹くん。うちの学校にいる『ヴァンパイア』の人……探さない?」
 真冬の提案に夏樹は少々動揺した。
 確かに、これから真冬の正体がバレないようにするのには協力者が必要となってくる。夏樹一人ではフォローしきれないし、もし真冬に契血者(バディー)が出来たら助けてやる必要がある。夏樹もここまできて、契血者(バディー)が出来たからって見捨てるわけにはいかない。
 しかし、
「……いるのか。うちの学校に」
「……? あれ、言ってなかったっけ? 二、三人ほどいるって」
 真冬が首を傾げながら聞いてくる。
 確か言ってたような気がする。が、それはあくまで比喩的な表現で、『全校生徒の三人程度が「ヴァンパイア」』という割合で街にいるんだよー、的なものだと思っていた。夏樹の学校の生徒はおよそ千人。千分の三だったとしても、割合的には相当な数になるのだが。
 なんにしても、真冬の『学校に二、三人』は割合の話ではなく、真実だったらしい。
 夏樹はとりあえず探すことを承諾するが、探すにいたっての疑問を口にする。
「しかし、見つかるのか? 赤宮を見てて思うんだけど、『ヴァンパイア』って普通の人と見分けがつかねーじゃん」
「大丈夫だよ。契血者(バディー)は何か憶えてるよね?」
 『ヴァンパイア』が悪魔を倒すために必要な炎を出すために、そのエネルギーとなる血を与える者。そんな感じだった気がする。
 真冬は続ける。
「契血者(バディー)が出来ると、『ヴァンパイア』とその人の右の中指に指輪が嵌められるの。普段はつけてる気はしないし、悪魔や『ヴァンパイア』のことを知らない人には見えないようになってる指輪が」
「……つまり、生徒の右中指に注目しろってか」
 真冬が頷く。
 先ほども言ったとおり、夏樹の学校の生徒は相当多い。その中からたった二、三人の『ヴァンパイア』を探せというのか。
 相当に難易度が高そうだ。
「協力、してくれる……?」
 真冬が上目遣いで頼み込む。
 断ったら泣き出してしまいそうな印象を与える真冬の仕草に、夏樹もノーとは言えなかった。
 彼は溜息混じりに答える。
「……分かったよ、協力する」

37竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/23(土) 00:48:36 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ――探す、といっても実際は難しいものである。
 手を注視するという方法があるが、人によって常に外に出している人と、ポケットの中に入れている人といる。男性は大抵後者だ。他にも手は常に止まっているわけではない。身振り手振りを交えて話したり、角度によっては見えないこともあるだろう。
 つまり、簡単に『校内にいる「ヴァンパイア」と契血者(バディー)を見つける』と言っても、難易度は高めなのだ。
 授業中ぐらいしか、人の手の隙もないのでその時間に注視しているが、角度によって見えない人がほとんどである。ちらっと真冬を見ると、彼女も夏樹の隣の席なので、状況は芳しくないようだ。
 一時間目、二時間目と終わり、彼は休み時間にトイレに行くことにした。授業中にトイレで抜け出すなど、少し恥ずかしい。
 夏樹は途中ですれ違った女子が何か落としたことに気付き、落としたものを拾いながら落としたと思われる女子に声を掛ける。
「おーい、これお前のか?」
 呼ばれたと思った女子は足を止め、振り返る。
 真冬よりも小柄な少女だった。肩口まで伸びた綺麗な白髪に、大きめな青色の瞳。雪国のお姫様のような印象を与えるほど、その少女の容姿は愛らしかった。
 少女は夏樹の持っている淡いピンク色のハンカチを見ると、『おお』と声を上げて近づいていく。
「ありがとねー! これお気に入りの奴なんだー! 失くしたら大騒ぎだよ」
 薫と並ぶくらい元気な少女だった。いや、薫よりはマシか。
 夏樹はお礼を言う少女に対して、どういたしまて、と軽く言葉を返した。
 少女は受け取ったハンカチをポケットに直すと、走り去りながら夏樹に言葉を掛けた。
「じゃあね、君とはまた会いそうな気がするよ、夏樹くん!」
「お、おう……じゃあな」
 同じ学校なんだから、会わないというのも不自然だろう、と思いながら戸惑う夏樹。
 だが彼はここで、彼女の言葉の可笑しな部分に気がつく。気がついてしまう。

 ――何故彼女は、夏樹の名前を知っていたのだろうか。

 名乗った覚えは無いし、今まで出会った記憶もない。
 さっきだって、ハンカチを拾ってそれを渡し、お礼を言ってくるので返事をしただけだ。名前を名乗ろうなど、ましてや相手の名前を聞こうなどとも思っていない。
 彼女はどうやって夏樹の名前をしったのか? そして、彼女は一体何者なのか?
 まあ中学時代色々やってたし、それで名前を知る機会もあったのだろう、と適当に結論付け、夏樹は教室に戻っていく。

 次の授業中、トイレが耐え切れなくなり、途中で席を立ったのは想像に難くない。


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