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36竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/18(金) 18:55:03 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 5

 萩原歌蝶はようやく学校から出た。
 実を言うと中々学校側が出してくれなかったのだ。彼女は一応教師である。しかも今日は一時間目から授業があるのだ。しかし、彼女は国語準備室に偶然あったマスクを使用し、あたかも病人のように振る舞いなんとか抜け出したのだ。
 彼女は装着したマスクを外し、鞄の中に突っ込む。
 彼女は街へと歩きながら意識を集中させる。今彼女が行っているのは魔力の捜索だ。『繰々師(くくりし)』は特殊な能力が備わっているため、身体の中に魔力という力の波動を宿している。人により大小の差はあれど、微弱ながらも感じ取ることは出来る。
 そこで、彼女はふと足を止めた。
 何かが可笑しいと思ったのだ。人乃宮凪の魔力を感じたまではいい。だが、彼女を中心に半径五キロ程度が薄い魔力に囲まれている。
 明らかに人乃宮凪のものではない。
「……結界か?」
 歌蝶はそう呟いていた。
 彼女の傭兵仲間の中に何人か魔術師がいる。数は多くはなく両手の指で足りるほどだが。魔術師は歌蝶らとは別の方法で力を手に入れた者達だ。魔道書を、あるいは学問を、または先祖の血を引き継いだり、そんな方法で力を手に入れた者が魔術師だ。歌蝶らは自分に特殊な力が宿るように、無理矢理力を開発させた、というやり方である。
 成功する確率は、魔術師の方が圧倒的に高い。
 歌蝶は低く舌打ちをする。
「新聞のあの男。やはりただの人間じゃなかったか……。にしても魔術師だったとはな。少し甘く見ていた。まさか―――」
 歌蝶は走り続け、ある場所で止まると虚空に手を添える。
 そこには変わったところは何もなく、同じように街の風景が続いているだけだ。だが、歌蝶の手は虚空で確かに止まっている。
 それは、ここに結界が張られている証拠だ。
 歌蝶は知る由も無いが、この先の何処かで凪を魔術師の男が追いかけている。
 彼女はただ、凪が無事なのを祈るしかない。祈りながら―――、
「……久しぶりに本気を出すか」
 左手に黒の皮手袋を装着する。
 彼女が手袋を着ける時は、仕事をする時。つまり『電撃の司者(でんげきのししゃ)』になる時だ。
 歌蝶は手袋をつけた左手を虚空に、結界に当てる。
 それから電撃を奔らせながら、
「―――オイシイところは君にあげるよ、澤木。お姫様を助けるのが王子様の役目だからな」

37竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/18(金) 23:40:48 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 6

「あっ!」
 凪は体力が限界に近づいていたのか、足をもつれさせて転んでしまう。彼女は身体を早く起こして逃げようとするが、体力の消耗がそれを遅れさせる。
 彼女は後ろを振り返る。やはり依然としてゆっくりと歩いたままこちらへと近づいてくる人物がいた。
 魔術師アルドルフ=グルタクスだ。
 彼は獲物を見つけた獣のように、草食動物を狩る時のような瞳で凪を見つめている。
 ―――捕まったら殺される。
 凪の本能がそう叫んでいた。恐らく何人かの『繰々師(くくりし)』は彼らに捕まり研究材料にされているだろう。非人道的な実験の過程で死んでしまった人もいるかもしれない。凪もそんな目に遭うかもしれないのだ。
 死ぬのだけは嫌だ。凪はそう思った。もう霊介と亜澄に会えなくなるのは嫌だ。そう、確かに思っていた。
 矛盾している、と自分でも思う。
 自分から離れていったくせに、会えなくなるのが嫌だなんて、自分でも分かるくらい可笑しすぎる。矛盾しすぎている。
 だから凪は立ち上がる。身体を必死に動かす。今はとりあえず逃げることしか―――、
 凪の足元の地面が魔術師の火の球によって破壊され、立ち上がった凪は再び地面に伏す。
「無駄だと言ったはずだ」
 魔術師の冷徹な言葉が放たれる。
 凪の首は、自然と男に向けられた。男は炎の扱う割には冷たすぎる瞳で凪を見下ろしていた。
「私は君の命があればいいんだよ。そのためには、君の身体を傷つけることも厭わない。今までが自分の力でかわしてきたと思わないことだ」
 凪は戦いのために『繰々師』の力を使うことを嫌う。
 ぬいぐるみではあるが『ろーたす』も彼女の友達である。傷つけられるのは嫌だ。凪はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。
 するとアルドルフは、今気付いたかのように眉を動かした。
「そうか、そうだった。君にはその力があるじゃないか。何故使わない? それを使えば私を撃退できるかもしれないぞ。それとも、それはただの飾りだとでも言うつもりかね?」
 凪はふるふると首を横に振る。
 アルドルフは口の端を吊り上げて、
「それもそうだな。君の力は世界を壊す力。こんなちっぽけな街一つ簡単に消し去れてしまうからな。使うのを躊躇うのも理解できる」
「……!」
 凪はびくっと反応を示す。
 自分は世界を滅ぼせるんだ。―――まだ子供の凪には想像もつかないほど大きな話だった。世界を滅ぼせるといっても上手く想像できない。
 だが、彼女は思い出す。
 自分が幼い頃見た景色を。瓦礫が散乱し、形を維持できている建物が無いほどの荒れ果てた大地を。人も、動物も、生命の確認を出来ないほど何も残っていない大地を。初めて力を使ったことの時を。
「君がいるだけで人が不幸になる。だったら、私達と一緒にいたほうがいいと思わないかい」
 凪はうずくまりながら、フラッシュバックした光景を消し去ろうと喚く。嘆く。叫ぶ。
 頭を押さえながら、涙を流しながら、彼女はひたすらに声を上げる。
「いやあああああああああああああああああああっ!!」
 アルドルフは彼女の泣き声を聞きながらも、非常に手を上げる。
「大丈夫だ。私が君と周りの人間の安全は保障しよう。まずは、君の足を切り落とすかな」
 アルドルフが凪の足を切り落とそうと手を振り下ろす。
 だが、その手は凪の足を切り落とすことは無い。何故なら―――、

「―――おい、オッサン。なにうちの凪を泣かせてんだよ?」

 表情を怒りに染めた少年、澤木霊介がアルドルフの手首を掴み、彼の頬へと拳を叩き込んだからだ。
 凪は涙で潤んだ瞳を霊介に向ける。
 霊介は凪の方を振り返って、笑みを向けた。

38れあ:2013/01/19(土) 03:35:39 HOST:<xmp>">http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/comic/3134/1348900885/, 133.242.140.96
とりっぷちゃんねるでえーっす

39竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/19(土) 16:06:38 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 7

 ―――来た!
 廃ビルの屋上から『繰々師(くくりし)』と魔術師の追いかけっこを退屈そうに眺めていた赤髪の傭兵は、楽しそうに口を端を吊り上げて勢いよく立ち上がった。彼女は腰にある短刀の柄に手を当てる。
 ぶっちゃけ今回の件に対しては、自分の力は必要が無いと思っていた。彼女自身はアルドルフが魔術師だと聞かされていなかった。だから彼女は前もってアルドルフから『必要と思った時に加勢してくれ』と言われていた。走るのでさえ普通の人間のスペックを下回っている『繰々師』を相手に、彼女が思う加勢するタイミングは能力を発動された時だ。
 だが、どういうわけか今彼女は能力を使おうとしていない。彼女が錯乱しだしたのを見ると、前に何かトラウマがあったようだ。この調子なら自分の加勢は必要ない、と赤髪の傭兵は思っていた。
 けどもうそれはどうでもいい。
 追い詰めたアルドルフの前に現れた人物を見て、『繰々師』を助けにやって来た人物を見て、魔術師を容赦なくぶん殴った人物を見て、彼女は加勢のタイミングなどどうでも良くなった。彼女にとっては、今は突如やって来た人物に興味がある。
 彼女を楽しませてくれた少年。武器を持っている自分を前に引くこともしなかった少年。彼女はもう一度あの少年に会いたかった。もう一度戦ってみたかった。
 アルドルフが窮地だろうがそうでなかろうがもう歯止めは効かない。
 彼女が屋上から戦場へと降り立とうとした瞬間、
「―――邪魔は無粋というものだ、少女」
 肩に手を置かれると同時、少女のような声が耳に届いた。
 置かれた手は小さく、手袋を着けていた。しかも声は初めて聞くものではなく、幼くも威圧感を感じさせる類のものだった。
 赤髪の傭兵はゆっくりと振り返る。
 そこにいたのはシャツに短パンという動きやすい服装の上から白衣という、何ともミスマッチ過ぎる服装の少女のような人物だった。
 赤髪の傭兵が忌避してしまうほどの人物、『電撃の司者(でんげきのししゃ)』萩原歌蝶。
 彼女の左腕には火傷したような傷跡が残っており、力なくだらんと下がっている。
 歌蝶は落ち着いた口調で、
「何とか間に合ったようだな。しかし澤木(アイツ)、意外と走るの速いな。今度陸上部にでも勧誘してやるか」
「な……なんでここにいるって分かったんすか……?」
 歌蝶はふん、と鼻を鳴らして、
「君のような小娘の考えることなど分かる。目の届く範囲で、依頼者に危険が迫れば手を貸す―――そんなところだろう。私が雇われる仕事の多くは護衛ではなく迎撃だ。依頼者を仲間が守ってる間、依頼者を狙う刺客を私が潰す。それが私の仕事だ。刺客の潜みそうな場所など、ここ付近では数十個もある」
 あとは君が隠れるの下手だから楽に見つけられたがな、と歌蝶は締めくくった。
 それでも、と赤髪の傭兵は歯を食いしばる。
「ここには結界が張ってあった! まさか、それも粉砕したっていうんすか!?」
「粉砕とまではいかなかったよ。さすがに私も現役から退いているのでね。だが人が通れるくらいの隙間は作れた。タイミングよく澤木が来てくれて助かったよ。久しぶりに無茶をしすぎて左手が上手く動かん。ああ、壊した部分の結界は私が直しておいた。さすがに―――」
 歌蝶の全身に眩いほどの黄色の電撃が奔る。
 赤髪の傭兵は小さく悲鳴を上げた。
「一般人を巻き込まない自信はないのでな。生憎、久しぶりで加減の仕方を忘れてしまったようだ」
 勝敗は決した。
 赤髪の傭兵は膝からその場に崩れ落ち、恐怖に身体を震わせている。
 そんな少女を歌蝶は一瞥し、『繰々師』のいる下へと視線を向けた。
「あとは任せたぞ」


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