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鈴扇霊

95ピーチ:2013/06/15(土) 23:42:17 HOST:em49-252-234-80.pool.e-mobile.ne.jp







「猟陣隔依(りょうじんかくい)、本失総来(ほんしつそうらい)」
 早かったのは誠人だ。明人が彼の背後を守るかのようにゆっくりと彼の背に回る。
 誠人の痩身からゆらりと青白い霊気が立ち昇り、それが次第に姿(かたち)を持っていって。
 ―――やがて、彼を包み込むように尾を丸めた、龍の姿が。
「……やっぱ凄いな、天野さん」
 小さく呟いた天音の傍で、めぐみが笑った。
「確かに。………あんたが行かないなら、そろそろあたしがやらせてもらおうかな」
 そう言って口の端(は)に笑みを乗せ、彼女が片腕を突き上げる。
「天野さんとか天音たちには敵わないけど。あたしだって、一応それなりの能力(ちから)持ってるよ?」
 生まれついて持った異能の強さは尋常でない。
 それを自負していながら、彼女はそれを利用して。
「―――吉凶を見定める我が僕(しもべ)、我らに降りかかるそれを見定めよ」
 厳かな響きが木霊する。
 確かな威厳と威圧を持った彼女の声に反応するように、地が僅かに揺れる。
 めぐみの双眸が昏く輝いた。
 突き上げた片手に握られた細身の槍を振りかぶる。
 迷うことなく振られたそれは、正確に妖の位置を捕えていて。
「うわ……っ」
 昇が条件反射で避け、気付いた誠人が障壁を築いた。
「……お見事」
「そりゃどーも」
 軽く笑って受け流す彼女に、天音が半ば驚嘆する。
 そして、めぐみの祓った妖を見て、
「あ………っ」
 小さく呟いた。
「これ…」
「大方、何の害もないだろうな」
 たったこれだけのものに大勢で挑んだのか俺たち馬鹿じゃんと呟く昇に、天音が小さく苦笑して。
「同感ね」
 同じことを考える天音である。
 ということは、まだほかにも居るのだろう。
 こういった類の妖は、集団で行動する割に人間に害を為すことがない。
 だからあまり気にされないのだが、今回はたまたま遊び回っている音が聞こえたということか。
「………………………ぅー……」
 切り刻まれたはずの妖が小さく呻く。それを認めた天音が、さすがに目を瞠った。
「……手加減、した?」
「まさか」
 即刻切り返すめぐみに、確かにと返して。
「…ねぇ、天音ちゃん」
「はい?」
 誠人の呼びかけに応じ、少女が振り返る。
 彼が苦笑気味に笑った。
「……害はないみたいだから、助けてあげたら?」
「………そうした方が、いいですか?」
 あくまで嫌そうな態度を取る天音だが、誠人にうんと返されて大人しく雑鬼を救い上げる。
 そして。
「汝、この快癒の呪(まじな)いの力を知れ」
 薄暗い光が転じ、次いで雑鬼を包み込む。
 やがて、その雑鬼の身体が再生されて。
「……………あれ? 俺生きてる?」
 全身を見回して呟いた妖に、天音が一言。
「次この店に迷惑かけたら、ただじゃおかないわよ」
 貴方たちのせいで私たちが駆り出された、と言う天音に、妖が怯えたように頷いた。
「わ、分かったからそのおっかないものひっこめてくれ!」
 めぐみと昇の持っている剣と槍を見て言ったのだろう。二人が顔を見合わせて、大人しくするならと約束してからそれを戻す。
 それを認めて、妖がわーっと叫びながら屋根裏へと走って行った。
「………で」
 全てがひと段落ついたから言う。言わせてもらうが。
「柊、は?」
 ぴしっと青年三人が凍り付く。
「…昇?」
「うん、たぶんあそこだあの部屋だ。何なら行ってみて来ればいいさ!」
 変に爽やかな彼に合わせるように、明人が笑った。
「じ、じゃあ俺そろそろ帰るわ! たぶん薄情者じゃない誠人が助けてくれるから安心しろ天音ちゃん!」
「は?」
 わけが分からない。
 混乱している天音に、めぐみが苦笑気味に言った。
「あたしたちはもう帰るけど、行ってみれば? 飛鳥井さんが言ってる場所に」
「……えぇ、そうさせてもらうわ」
 頭の中での整理ができていないながらに、彼女は小さく笑って答えた。


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