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闇色

10ピーチ:2012/10/12(金) 22:13:45 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『春先④』

「殺されたくないんで失礼します」
 後は勝手にやってろ馬鹿共が。
「いやちょっとくらい待ってよ!?」
「いやですそちらの迷惑な事情に振り回されたくありませんので」
「―――っ、なら……」
 作間、先輩がそう言った直後。
「…………え?」
 唐突に、私の身体が傾いた。
 手を引かれたんだ、と思った時には、既に後ろからこの人に抱きしめられてた。
「ちょ………!」
 慌てて逃れようとするが、意に反して身体が上手く動かない。
 ……この先輩が、腕をのけないせいだけど。
「はなし……!」
 て、と言いかけた言葉を、後ろから聞こえた声が掻き消した。
「ねぇ、ちょっとでいーから一緒に居てやってくんない?」
「……!?」
 後ろを見ると、さっき手を振り回してた先輩が言ってた。
「な、なんで…」
「こいつが、初めて本気で惚れたのが、君だから」
 ―――え?
「ホレタ……?」
 なんで、私なんかに?
 そう思って私を放さない人の顔を見ると、呆れるくらい顔が真っ赤になってる。
「や、その、今見ないで。今の俺すっげぇかっこ悪いから」
「………なん、で…?」
「え?」
「なんで、私なんかを」
 言いかけた言葉を、この人が遮った。
「“感情”がないって、知ってる二年の子から聞いてさ」
 最初は、遊びのつもりで観察してたらしいけど、なぜか惚れたらしい。
 ……その原点が分からないけど。
「で、最近こう思ったんだ。“感情”を知らないなら、教えてあげようって」
 ―――あ、
「だから、さ…」
 今思った。
「……馬鹿みたい」
「へ?」
 この人、いい人だ。
「貴方、相当の馬鹿ですよ?」
 思わず笑ってしまった私に、この人がずいっと顔を近づけて言った。
「圭吾」
「え?」
「俺の名前は、圭吾だって言ってんの。忘れんなよ?」
 意地の悪い笑みを浮かべながら、言った。
「これからは、絶対にずっと圭吾って呼ぶこと」
「…………はぁ!?」
 突然、顔が火が出たみたいに熱くなる。
「あ、真っ赤だ。恥ずかしいとか?」
 その言葉を聞いて、思った。
 これが、“恥ずかしい”って感情?
「とーにーかーく!俺のことは絶対に圭吾。後、迷惑じゃなかったら………神奈って呼びたいな」
 ―――あぁ。
 私にも、感情ってあったんだ。
 そう思うと、いきなり涙が溢れて来た。
「あ、ちょ…」
 そう言っていきなり、作間…先輩が私の目元を自分の手で覆った。
「こんなとこで泣くのはナシ。泣いていいのは俺の前だけ」
「な……っ」
「で、さっきの返事は?」
「へ?」
「……一応、告ったんだけど…」
 それを聞いて、私がはっと我に返った。
“感情を知らないなら、教えてあげようと思って”
「えっと…作間せんぱ…」
「圭吾」
「……圭吾」
 何か、無償に恥ずかしいのは何でだろう。
 そう思いながらも、私が小さく名前を読んだ。
「はい」
 さく……圭吾も、なぜか真面目に答える。
「…少しずつでいいなら、貴方のことも、知っていきたい……」
 これが、精一杯の応え。
 今までいろんな人と遊んでた人なら、簡単に分かってくれるよね?
 案の定、圭吾は一人でぽかんとして。
「やったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 いきなり、そう叫んだ。
「あのさ、花崎のこと神奈って呼んでいい?」
「………構いませんけど?」
 私が答えた後、圭吾の友達が笑いながら言った。
「どーでもいーけど神奈ちゃん? こいつと付き合うなら頑張れね?」
「へ?」
 どう言う意味か、それを聞く前に、その先輩が答えてくれた。
「こいつ、一回掴むと話さないから。大切なものなら、それこそ一生」
 ……………あ。
 はっとして後ろを見ると、にっと笑った圭吾の顔があった。
「安心安心、最初で俺のことを分かっててくれれば、俺も説明する必要ないからさ?」
 そう言った圭吾と、私の手は、未だに繋がっている。
「ちょ、はなし…」
「ダーメ! 一生離さねぇし?」
 ……………私の困難は、いつまで続くんだろう。今からそう思ってしまう。
 でも。
「…望むところじゃない」
 本当に、一生私を放さないか、しっかり監視しててあげる。





終わり←


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