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闇色

1ピーチ:2012/10/06(土) 23:02:15 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
こんにちはでーす! ピーチでーす!

多分ファンタジー一色になるであろう短編小説を書こうと思いまーす

気が向いたら目を通してみてくださーい←

2ピーチ:2012/10/06(土) 23:16:24 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『アカイセカイ』

 ―――ここは、どこだろう。
 何も見えない―――訂正。辺り一面が紅一色の世界。
 空も家も草も地面も植物も人工物も。
 そして―――人も。
「初めまして。そしてようこそ。………“チノセカイ”へ……」
 唐突に、そんな声が聞こえた。可愛らしい、少女の声。
 その声の主を探すため、俺は辺り一面を探し出した。
「あ……」
 居た。ショートカットの、小さな女の子が。
 でも。
「あれぇ? どうしたの、顔色悪いよ? ……あ、そうか。トウヤ君、まだあっちの人だなぁー……」
 異常、だった。
 頭ん中で、警鐘が鳴り響いている。早く逃げろ、と。
「ねぇ……早くこっちに来てよ。怖いモノなんてなくなるから、顔色なんて、伺う必要ないんだよ?」
 逃げたくても、逃げられない。足が竦んで動けない。
 その少女が、その小さな手に携えているもの。
「これで首を落としてー……あ、私の力を見くびんないでね? あくまでも子供の形(なり)をしてるってだけで、中身は正真正銘の地獄の番人なんだからさ?」
 そう言った少女が、手に持っていたもの―――まるで墨を塗りたくったかのように真っ黒な鎌を振り上げた。
 その後から、俺の記憶はない、はずなのに。
「―――これで、仲間が増えたね」
 ニィっと嘲(わら)ったその少女の顔が、見えた気がした。

3ピーチ:2012/10/07(日) 00:59:03 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『お騒がせなお嬢様(プリンセス)』

 ―――これは、とある国の王宮の中での小さな(でも本人達からすればかなり大きな)騒ぎ。
「―――また姫が居ない!?」
「は、はい…その、少し目を離した隙に、」
「言い訳は良いから、早く探すんだ!」
 + + + + + +
「………ふぅ」
 ここまで来れば、もう安心かな。
「…あ、」
 まぁとりあえず、ここでいいか。
「―――レン・フランキシー、か」
「はい」
「爵位はなし…学歴はあるのか?」
 ……書類見れば分かんないかなぁ…。
 まぁ、どっち道意味はないけど。
「はい一応。数回なら、家庭教師(ガヴァネス)の経験も」
「家庭教師か……何を専門に?」
 げ……っ、それ考えてなかった!
「え、と…勉学を専門に…」
「採用」
 …え?
「えぇぇぇぇぇ!?」
 ちょ、ちょっと待って? いくら何でも決めるの速すぎない?
「俺はアレックだ。忘れるなよ。新米」
「……はい」
 あ、自己紹介が遅れました。私はラナ・エーリアル。
 ……なんだけど。
「おいレン! ぼさぼさしてねぇで、さっさと仕事やれ!」
「分かりました! 今行きます!」
 レン。それは、私が良く使ってる偽名。
 主に、身分を偽って名前を変える時に。
「って言うか、何をすれば………っ!」
 その時。
 カツ、カツと言う、ヒール、もしくは男性が良く履いてる靴の音が聞こえてきた。
「………っ!」
 やば、と思って、すぐにアレックの所に逃げ込む。
「へ?」
 やっぱり、アレックもアレックで分かるわけないよね、うん。
 仕方ない。しばらく、私の盾で居てくれ。
 と、そこに。
「失礼します。プリンセス―――ラナ姫をご存知ありませんか?」
 出たぁ…!

4ピーチ:2012/10/08(月) 21:04:03 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『お騒がせなお嬢様(プリンセス)②』

「ら、ラナ姫って、あのクラーク王の……?」
 クラークって言うのは、この国を仕切ってる人であり、私のお父さん。
「はい。ただいま少々問題が生じまして。ご存知の通り、ラナ姫は……」
「あぁ…確か、脱走王女(プリンセス)って呼ばれてるんでしたっけ?」
「はい」
 な、何よそのあだ名……!?
 っと、いけないいけない!下手したらここに居るってことがバレ……
「レン、お前何か知らないか?」
 …………へ?
「はあぁぁぁ!?」
「ん?」
 やばっ!?
「い、いや! あたしはそんなこと…」
「―――ラナ姫。早急に王宮へとお戻り下さい」
 ………と、トムの奴……!
 トムって言うのはこいつ、今私達の前に居る執事の名前。
 トムってば、何かと言えば脱走した私を王宮に連れ戻すの。
 …今みたいに。
「王もご心配なさっていました。“あぁ、また脱走したのか”と」
 ぷちん。
「それは心配じゃなくて嘆くって言うのよ!執事ならそれくらい…」
 ―――あ…
 …あの、意地の悪い執事がにやっと笑った気がするんだけど、気のせい?
「いいえ。気のせいでは御座いません。私(わたくし)は貴方の目の前に居(お)りますとも」
「居なくていいわよ―――!?」
 ……………結局、私はトムのせいで王宮に連れ戻されたの。
 王宮って嫌いだなぁ、私。
 だって、自由がないじゃない? 自分で好き勝手やることも出来ない。
「あ、お嬢様」
「…何よ」
「先程の方が、“姫に対してとんだ無礼をしてしまい、真に申し訳御座いません”と仰っていました」
「…そう」
 別に、あれくらい何でもないのに……。
 逆に、遠慮なくこき使って欲しかったくらいなのにぃ・・・。
「……あ」
 いいこと、思いついた。

「―――ら、ラナ姫…?」
「先程は、身分を偽っていることを黙っており、真に申し訳御座いませんでした」
「い、いや! 私の方こそ、まさかラナ姫だなんて夢にも思わず、とんだご無礼をっ!」
 ……何で、皆こんなに硬いんだろう。
「いえ。そのお詫びと言ってはなんですが、宜しければ、これをと思いまして」
「………へ?」
 私が手渡したのは、新しい作業服。
 さっき、ちらっと見たんだ。アレックさんの作業着。
 あんなにぼろぼろになるまで使ってたってことは、相当古いものなんじゃないかって思って。
「こ、こんな高価なものを、宜しいんですか!?」
「えぇ……え?」
 これ、一番安いの選んだんだけど?
「ま、まぁ、宜しければお手元に置いて頂けると」
 苦笑いしながら、しっかりとアレックさんの手に作業服を握らせると、そのままトムが待ってた所まで走り出す。
「お嬢様、この辺は大変足場が悪いので、どうかお気をつけ下さい」
「分かってるわよ。さぁ、さっさと帰りましょう?」
 私の言葉に、トムがえ、と言うような顔をした。
「宜しいんですか?」
「うん。このままここに居続けると、その内はなれなくなるから。それに……」
 今度は、ちゃんと許可もらってから行くもんね、町には。
 そういったら、トムがやたらと優しい目を向けた。
「お嬢様も成長なさってくださり、真に嬉しゅう御座います…」
「何なのよその爺くさい言い方は!?」
 ………私こと、脱走王女(プリンセス)は、まだまだ懲りません!

5ピーチ:2012/10/11(木) 16:43:26 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『春先①』

 ―――私は、小さい頃からないものがあるらしい。
 それは。
 “感情”。
「おはよー」
「あ、ちょっと待ってよ!」
 同級生の声なのか、あるいは違う学年の声なのか、それさえも分からない。
 人間なんて信じない。
 興味を持つべきものがあるなんて、到底思えない。
 今までは、そうとしか思ってなかった。
「っ、わ……!」
 いきなり、後ろから走ってきた人とぶつかった。
 そのせいで危(あや)うく、借りたばかりの本を取り落としそうになった。
 でも、こう言うのは慣れてる。どうせ、ただの嫌がらせに……。
「悪い! 大丈夫か!?」
「―――え?」
 なに……今の本気で慌てたような声。
 まるで、本気で言ってるみたいに聞こえた。
 ネームの色が青ってことは、多分三年か…。
「あ、大丈夫? マジ悪い。今ちょっと急いでたから…」
「…別に、気にする程のことじゃありませんから」
 そういいながら、私はさっさと歩いていった。
 ―――驚いた? 感情のない、私が?
“感情ってね、一杯あるの。例えば―――”
「……おどろ、き…」
 その他には、喜び、悲しみ、憂い、怒(いか)り、痛みなんかも、感情だって、言ってた。
「…気のせいか、もしくは気紛(まぐ)れか…」
 やっぱり、私に人を信じろなんて到底無理な話。
 そう、思ってたのに。
「………………」
「あ、やっぱこのクラスに居た」
「何ですか? 貴方三年でしょう!?」
 何なんだこの男は。
「いや別に、ちょっとさっきのお詫びって言うかさ?」
「はぁ?」
 さっきの? 何それ?
 それが顔に出てたみたいで、この男が言った。

6ピーチ:2012/10/11(木) 16:57:05 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『春先②』

「あ、自己紹介遅れたけど、俺は作間 圭吾(さくま けいご)。一応、君の言う通り三年やってます」
 やってますって何よ、明らかにおかしいじゃない。
「………花崎 神奈(はなざき かんな)です。で、何の用ですか?」
 用がないなら帰る、と言わんばかりの私の態度に、こいつ―――作間……先輩は苦笑しながら言った。
「どうせ、今から帰りだろ? 良かったら一緒帰んない?」
「―――は?」
 一緒に、帰る?
 …冗談じゃない。
「すみません。私いつも色んな場所から帰るんで」
「へぇ、奇遇だね。俺もその癖あるよ?」
「…………っ、」
 思わず小さく舌打ちしてしまったのが聞こえたようで、こいつが笑いながら言った。
「美人が舌打ちって似合わないよ?」
「お世辞が上手いんですね、さようなら」
「ちょ、ちょ! それ酷くない!?」
 一応一緒に帰ろうって言ってるんだけど! とか何とか言ってるあの馬鹿は、もう放っておこう。
 そこまで考えて、私はふっと思った。
 ―――“呆れる”って、このこと……?
 そう思ったと同時に、この人が怖くなった。
 感情がない、言わば“人形”の私に、ここまで言い寄ってくること自体、おかしい。
「おーい? 花崎ー? 一緒帰ろうって言ってんだけど、返事はー?」
 ……この男、見かけによらずチャラい奴…?
「好きにして下さい。私は貴方と帰るなんて思いませんから」
 そう言った時、この馬鹿の方からやった! と言う声が聞こえた気がする。

7ピーチ:2012/10/11(木) 18:53:31 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『春先③』

「………でさ、」
「……はぁ…」
 さっきから、一体何なんだろう。
「ねぇ、聞いてる?」
「一応、嫌でも耳に入ってきますね」
「酷い言い草だよねさっきから!?」
 …私、あんまり酷い言い方した憶えないけど。
「おーい! けーいっ!」
 唐突に、そんな声が聞こえた。
 何だろうと思ったけど、私には関係ない。そう思ったのに。
 ……この、チャラ男(圭って呼ばれてるらしい)の知り合いだったみたいで。
「お? あ、何だ。裕也かよ」
「何だじゃねーだろ、一応ダチだろーがオレ達は?」
「………お友達がいらっしゃったなら、私は失礼します」
「いやいやいやいや!? ちょっとくらい待ってよ!?」
 そう言ってさっさと歩き出そうとする私の腕を、あの馬鹿男が掴んだ。
「……大体、何なんですか? さっきから付き纏ってきて、まるでストーカーですよ?」
「だってこーゆーのナンパの基本だし?」
 …………この馬鹿男は、一回嬲(なぶ)り殺してやろうか。
「あ、君に出来るならやってみてよ?」
「勝手に人の心境を読まないでくれます?」
 迷惑だ、と言わんばかりに盛大にため息を着いて見せた。
 その直後。
「あれ、もしかしてこの娘(こ)って圭がこの前から言ってたあの彼女?」
「わ、バカ……っ!」
 ―――この前、から?
 小さくそう呟くと、チャラ男の友達(陽(よう)とか聖(ひじり)とか言うらしい)が言った。
「そ。こいつね、かなーり前から君に目付けてたのに、オレらがびっくりするくらい緊張してろくに話しかけらんないままに一週間とか二週間とか過ぎてたワケ」
「お前ら、それ以上言ったら殺すぞ……?」
 そう言ったチャラ男の目には、静かに見えるけど、確かに殺気が宿っていた。

8ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/10/12(金) 18:48:44 HOST:EM117-55-68-169.emobile.ad.jp

ピーチが恋愛書いてるの初めてみたかも!←
圭吾くんかっこいいやばいw
がんばってー!

9ピーチ:2012/10/12(金) 19:21:38 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ねここ>>

初めての恋愛←

圭吾はチャラ男を目指してるけど挫折しそう←

神奈が何気に酷いww

10ピーチ:2012/10/12(金) 22:13:45 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『春先④』

「殺されたくないんで失礼します」
 後は勝手にやってろ馬鹿共が。
「いやちょっとくらい待ってよ!?」
「いやですそちらの迷惑な事情に振り回されたくありませんので」
「―――っ、なら……」
 作間、先輩がそう言った直後。
「…………え?」
 唐突に、私の身体が傾いた。
 手を引かれたんだ、と思った時には、既に後ろからこの人に抱きしめられてた。
「ちょ………!」
 慌てて逃れようとするが、意に反して身体が上手く動かない。
 ……この先輩が、腕をのけないせいだけど。
「はなし……!」
 て、と言いかけた言葉を、後ろから聞こえた声が掻き消した。
「ねぇ、ちょっとでいーから一緒に居てやってくんない?」
「……!?」
 後ろを見ると、さっき手を振り回してた先輩が言ってた。
「な、なんで…」
「こいつが、初めて本気で惚れたのが、君だから」
 ―――え?
「ホレタ……?」
 なんで、私なんかに?
 そう思って私を放さない人の顔を見ると、呆れるくらい顔が真っ赤になってる。
「や、その、今見ないで。今の俺すっげぇかっこ悪いから」
「………なん、で…?」
「え?」
「なんで、私なんかを」
 言いかけた言葉を、この人が遮った。
「“感情”がないって、知ってる二年の子から聞いてさ」
 最初は、遊びのつもりで観察してたらしいけど、なぜか惚れたらしい。
 ……その原点が分からないけど。
「で、最近こう思ったんだ。“感情”を知らないなら、教えてあげようって」
 ―――あ、
「だから、さ…」
 今思った。
「……馬鹿みたい」
「へ?」
 この人、いい人だ。
「貴方、相当の馬鹿ですよ?」
 思わず笑ってしまった私に、この人がずいっと顔を近づけて言った。
「圭吾」
「え?」
「俺の名前は、圭吾だって言ってんの。忘れんなよ?」
 意地の悪い笑みを浮かべながら、言った。
「これからは、絶対にずっと圭吾って呼ぶこと」
「…………はぁ!?」
 突然、顔が火が出たみたいに熱くなる。
「あ、真っ赤だ。恥ずかしいとか?」
 その言葉を聞いて、思った。
 これが、“恥ずかしい”って感情?
「とーにーかーく!俺のことは絶対に圭吾。後、迷惑じゃなかったら………神奈って呼びたいな」
 ―――あぁ。
 私にも、感情ってあったんだ。
 そう思うと、いきなり涙が溢れて来た。
「あ、ちょ…」
 そう言っていきなり、作間…先輩が私の目元を自分の手で覆った。
「こんなとこで泣くのはナシ。泣いていいのは俺の前だけ」
「な……っ」
「で、さっきの返事は?」
「へ?」
「……一応、告ったんだけど…」
 それを聞いて、私がはっと我に返った。
“感情を知らないなら、教えてあげようと思って”
「えっと…作間せんぱ…」
「圭吾」
「……圭吾」
 何か、無償に恥ずかしいのは何でだろう。
 そう思いながらも、私が小さく名前を読んだ。
「はい」
 さく……圭吾も、なぜか真面目に答える。
「…少しずつでいいなら、貴方のことも、知っていきたい……」
 これが、精一杯の応え。
 今までいろんな人と遊んでた人なら、簡単に分かってくれるよね?
 案の定、圭吾は一人でぽかんとして。
「やったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 いきなり、そう叫んだ。
「あのさ、花崎のこと神奈って呼んでいい?」
「………構いませんけど?」
 私が答えた後、圭吾の友達が笑いながら言った。
「どーでもいーけど神奈ちゃん? こいつと付き合うなら頑張れね?」
「へ?」
 どう言う意味か、それを聞く前に、その先輩が答えてくれた。
「こいつ、一回掴むと話さないから。大切なものなら、それこそ一生」
 ……………あ。
 はっとして後ろを見ると、にっと笑った圭吾の顔があった。
「安心安心、最初で俺のことを分かっててくれれば、俺も説明する必要ないからさ?」
 そう言った圭吾と、私の手は、未だに繋がっている。
「ちょ、はなし…」
「ダーメ! 一生離さねぇし?」
 ……………私の困難は、いつまで続くんだろう。今からそう思ってしまう。
 でも。
「…望むところじゃない」
 本当に、一生私を放さないか、しっかり監視しててあげる。





終わり←

11ピーチ:2012/10/13(土) 11:38:01 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『紅と藍』

“貴方、いつも此処に居るの?”
 その声を聞いて、俺がふっと振り返った。
 そこに居た子は。綺麗で、優しそうで、―――ただ一つ、違う所を除いて、凄く綺麗な女の子だった。
“……あは、やっぱり変だよね、こんな色じゃ…”
 そう言った彼女の瞳の色は、両眼(りょうがん)ともに紅(あか)かった。
 俺が、それを気にせずに何日か会ってたことがある。
 場所は、特に決めてないのになぜか森だった。
 俺が、一番楽な場所だから言うと、彼女は笑った。
“じゃあ、これからは森に行こっ”
 そう言って、本当に彼女は森に来るようになってた。
“―――やっぱり、私には普通に出来る場所なんかないんだよね…”
 初対面ではそこまで会話がなかったのに、しばらくするとそこまで話せる間柄になっていた。
 でも、彼女のその言葉を聞いて、思わず言ってしまった。
“そんなことない!!”
 それを聞いて。彼女は驚くようにその真紅の瞳を見開いた後、ふっと笑った。
“ねぇ、そう言えば君の名前、何て言うの?”
 まだ聞いてなかったよね、と言う彼女の言葉に、俺が少し戸惑いながら。
“―――山代 悠(やましろ ゆう)”
 小さく答えた後、お返しと言わんばかりに俺も聞いてやった。
“で、君は?”
“ミユメ”
 ミユメ。
 口の中で反響しながら、呟いた。
“ミユメ、だよ。ユウだったら、……悠しかないねぇ”
 苦笑しながら言ったミユメを見て、俺も笑った。





恋愛難しい←

12ピーチ:2012/10/13(土) 12:01:09 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『紅と藍②』

 ミユメとの出会いから数年が経った。
 あの後、ミユメが言ってきたんだ。
“私ね、学校に行けないの”
 そう言ったきり、ミユメはたっと走り去って、それ以来こなくなった。
「ゆーうっ! おはよ!」
 いきなり、俺が背中を強く叩かれた。
 そこには、クラスメイトの西村 りお(にしむら りお)が居た。
「わっ!? おま……」
「何考えてたの? 前に言ってた、あの女の子のこと?」
 言いかけた言葉を遮られた上りおに単直に聞かれて、俺は小さくうっと洩らした。
「………そうだよ」
「…一途ねぇ、あんたも」
 にやにやしながら訳の分からないことを言ってくるりおに対し、俺がはぁ? 呟く。
「んだよ、それ?」
「気付かないなら教えなーい」
 いつものように意地悪く言うりおを見て、俺はふっと、なぜか安心した。
“貴方の瞳の色、綺麗だね”
 入学式で、一番最初にそう言ったのがりおだった。
 俺の瞳は、生まれつき藍色だった。
 生まれつき両目が真紅だったミユメとは、ちょっと違ったけど。
 そりゃ小中学校から同じ奴らはこの瞳のことも理解してるけど、りおは高校で初めて知り合った。
 そして、今日は夏休み明けで始業式。
「まぁ、神様にその思いが届けば、何(いず)れまた会えるって」
「…あぁ」
 りおは優しい。
 こうして、俺が沈んでいる時には必ず声をかけてくれる。
 それが、嬉しかった。
「おーす悠ー!」
 唐突に聞こえた声に振り返ると、俺の小学からの親友、慎也がぶんぶん手を振っていた。
「おーす」
「はよー」
 俺とりおが、それぞれに答える。
「ねぇ慎也聞いてよ! 悠ってばまた懲りもせずに沈んでたのよ!」
「沈むのに懲りるとか懲りないとかあるんだ!?」
 初めて聞いたよそんなの。
「むー…また懲りもせずにか…」
「お前も乗るな!!」
 慎也が腕組みをしながら難しい顔で唸る。それを見て、俺が咄嗟にそうつっこんだ。
「まぁいいや。今日、転校生来るらしいぜ?」
「へぇ」
 転校生か。最近、そんなの聞いてないから何か新鮮だな。
 ……でも、俺はまだ知らなかった。
 その転校生が、男か女か、どんな奴なのか―――。

13ピーチ:2012/10/13(土) 22:12:55 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『紅と藍③』

 転校生が来ると、聞いた。
 確かにこの耳で、しっかりと。
 でも。
「藍原 美夢(あいはら みゆめ)です。よろしくお願いします」
 ―――ミユメ? 今、そう言ったよな?
「とりあえず、今はそこの席に座ってて。窓側の、後ろから二番目」
「はい」
 担任の言ったことにいちいち礼儀正しく受け答えしてから、窓側の後ろから二番目の席に着いた。
 ついでに言えば、俺の席は丁度、窓側の後ろから二番目の席の右側。
 ―――つまり、藍原は俺の隣の席。
「…………マジか」
 歯車って、こんな簡単に回り出すものだったっけ……?
 そう思った直後。
「ねぇ」
 唐突に、鈴のような声が耳に入ってきた。
「え?」
 横を向くと、藍原の整った顔が正面にあった。
「おわっ!?」
 俺の反応を見て、藍原がくすりと笑う。それを見て、俺が呆然とそれを見ていると、
「よろしくね」
 そう呟いた声が酷く低いもので、俺は一瞬、無意識に全身が硬直した。

14ピーチ:2012/10/13(土) 22:39:45 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『紅と藍④』

“―――よろしくね”
 その言葉を聞いた後くらいから、俺の記憶が吹っ飛んでいる。
 別に熱があったとか気分が悪かったとか言うわけじゃない。
 何もなかったのに、いきなり記憶がなくなってた。
「―――ん……」
 いつの間にか眠ってたみたいで、俺が目を覚ました時には既に、見覚えのない部屋に寝かされていた。
「ここ………は…」
 恐らく、普通の人界じゃない。
 この、藍色の瞳がそれを告げている。
「目が覚めた?」
 その声を聞いて、俺がびくりと肩を揺らした。
 今の、声は。
「何年ぶりかしらね…貴方みたいな人に出会えたのは」
 そう言った、目の前の人影―――藍原は、何がおかしいのか、俺を見てくすくすと笑う。
「………藍原」
「久しぶりなのよ? こうやって、友達になれそうな人が居ることが」
 そう言った藍原の両眼は、紅かった。
 それを見て、俺がふっと笑った。
「……友達じゃん」
「え?」
 そうだよ。少なくとも俺は、ずっと前から友達だと思ってた。
 お前がどう思っていても、友達だって思いたかった。
「俺は、お前のその色を知ってる」
 藍原の身体が、小さく痙攣する。それとほぼ同時に、彼女の紅い瞳も微かに揺れた。
「…………やっぱ、運命ってそう簡単には動いてくれねーや」
 自嘲気味に言った言葉に、俺は自分で納得してしまう。
 何もかもそうだ。失いたくないもの程、失う。だめだと、そう思いながらも結局は護れない。
「……れ…?」
 何で俺、泣いてるんだろう。
 藍原に限らず、心に限らず、大切なものを何一つ護れない自分が悔しい。
 そう思った直後。
「――――――…!?」
 唐突に、視界が遮られた。
 良く見ると、藍原の栗色の髪が、俺の真横にある。
「へ…………!?」
 思わず足掻いたが、女とは思えない程の力に、どうしても敵わない。
「―――ユウ?」
 唐突に気これたことに対し、俺がはっと目を見開いた。
 そして、その後にこうも言った。
「今のクラスで、私のこの紅い瞳を知ってる人なんか居ないのよ? ………黒いカラーコンタクトで、隠してたから」
 俺の肩の辺りに、何か水滴みたいなものが零れた。
「あ……い、はら…?」
「何で分かったの? 私が、あの時の藍原 美夢だって」
 彼女の口ぶりから、どうやらあの時のことは憶えているようだ。
「そりゃ分かるよ」
「だから何で、」
 言いかけた言葉を遮り、俺が言った。
「こんなに綺麗な紅い色を、忘れるわけねぇだろーが」
 それから、憶えてた理由はもう一つ。
「……どこの世界に、初恋の女のことを忘れられる奴が居るんだよ?」
 恥ずかしさ紛(まぎ)れに、思わず何もないはずの空間に視線を彷徨わせながら言った。
「………え?」
 そう言った藍原が、俺の顔を覗き込もうとする。
 けど。
「や、今無理」
 こんな顔、間違ってもこいつにだけは見せられない。
 初めて、こんなに恥ずかしい思いした気がする。
「……ここ、ね」
 いきなり、藍原がそう言い出した。
 顔を上げる俺を見て薄く微笑し、彼女は続ける。
「私の、二つ目の部屋なの」

15ピーチ:2012/10/14(日) 10:52:49 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『紅と藍⑤』

「二つ目の…部屋…?」
 思わず問い返した俺の言葉に、藍原は淡く微笑みながら言った。
「そう。私の……負の感情を押し込んだ部屋」
 ………つまり。
「ここ…お前の心ん中ってわけか…」
 さすがに、それはちょっと抵抗ある気がする。
 だって、だってさ?
 ―――何が悲しくてこいつの深層心理みねーといけないわけ?
 仮にも初恋の相手だよ? ……今では、ちょっとわけありみたいだけどさ。
「……私、ね。今までずっと、学校を転々としてたの」
「…へ?」
 いきなり、学校の話…?
「その所々で、必ずこの瞳のことを言われた。だから、言った人を、ここに押し込んでた時期があった」
 …それってまさか…
「一応、解放はしてあげてたけど、それでも悔しかった」
 生まれつきのこの瞳を忌み嫌う人が、それを理由にいじめなんて始めようとするする人達が。
 そう言って藍原が俯いた拍子に、彼女の長い髪で表情が隠される。
「だから、カラーコンタクトなんて使い出したの…少しでも、好奇の目を避けたかった」
 俯いて、少し涙声にも聞こえる声で呟く少女を見て、俺はふっと思った。
 やっぱり俺、こいつのこういった所が好きなんだ。
 何に対しても一歩引いて、全部を見てるような、でも見透かしたような感じは全くなかった、あの頃の“ミユメ”。
 だったら。
「―――俺が、護ってやるよ」
 自然と、言葉が出ていた。
「………え?」
 顔を上げた瞬間を狙って後ろから抱きつく。
「え、ちょ……山代く、」
「なぁ、藍原ってさ」
 何に対しても、いつも自分を後に回してる。
 そう口にすると、藍原は戸惑ったように視線を彷徨わせた。
 …やべ、
「…山代君?」
「お前、可愛すぎ」
 なぜか言ってしまった言葉に、藍原が耳まで真っ赤にして何かを言いかける。
「な、ななな………!?」
「護らせて、くんねーかな?」
 お前を、一生。
 人からも、何からも。
 そう言うと、藍原は真っ赤になりながら、
「…………それ、どう受け取ればいいの?」
 それを聞いて、俺が思わず吹き出す。
「な、何よ!?」
「別に、どう受け取ってくれても構わないよ?」
 元々、本人に初恋の相手だって言った時から開き直ってる。
 後はどうとでもなれって感じ?
「………あの頃と、同じ?」
「え?」
「この色…嫌わない?」
 藍原の言葉を聞いて、俺は思わず彼女の瞳を見る。
 偽られていない、吸い込まれそうな程に綺麗な紅い瞳。
 心配そうにこちらを見る藍原に、俺は笑いながら言った。
「こんなに綺麗な色を、嫌う奴の感性が分かんねー」
 それを聞いた藍原が、やっと心からの笑顔を見せてくれた気がした。





ちょー駄文になった←


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