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天使も悪魔もカンケーないっ☆

15ピーチ:2012/09/28(金) 23:32:20 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第十二話・贄』

「―――っ……」
 小さな呻き声を上げたミューラは、自分の羽根に巻き付いた紅いものを見て、小さく震えた。
 羽根だけではない。両手首にも、全く同じものが巻き付いている。
 これは。
「魔力封じの糸、だよ」
 唐突に聞こえた声にびくりと肩を揺らし、恐る恐る顔を上げた。
 そこに居たのは。
「初めまして、と言うべきかな…僕はリバート。今の未界を仕切っている、君のお父さんのような存在だ」
 未界。
 その単語を聞いただけで無意識に顔を背(そむ)け、リバートから目を離そうとする。
 が。
「君の羽根や君自身、綺麗だね。………今すぐに、僕の物にしたくなるくらい」
 そう言ってミューラの顎を取り、己の方に顔を向けさせた。
「あ、やっぱり予想通りだ」
 そう言いながら残忍に笑うリバードを見て、彼女は動かない口を必死に動かす。
「な……に、が…?」
 身動きの取れない状態で怯えきったミューラを見て、彼はくすりと笑った。
 そして、彼女の漆黒の瞳を見つめたまま、こう言った。
「―――君が怯えてる所が、一番魅力的だと思っただけ」
 リバードがそう言った直後。
 バキ―――と言う嫌な音が聞こえたと同時に、ミューラが背中に痛みを覚えた。
 そして、良く見れば己の背中から、否、羽根から紅いものが流れている。
「あ、こらだめだろ? プリンセス・ミューラは、最初の餌となってくれる天使(エンジェル)なんだからさ?」
 ざわりと、長い栗色の髪が揺れた。
 今、彼女が思ったことはただ一つ。
 怖い、という恐怖の感情。
 しかし、自分が消えると言う恐怖よりも、先に立ったものが。
「………他の、」
「…え?」
「他のエンジェル達には、手を、出さないで……!!」
 自分一人の犠牲で済まされるのなら、それを受け入れる。
 だが、もし仮に他の天使(エンジェル)までもが危険に晒されたとなれば。
「お、ねがい………!」
 漆黒の瞳から大粒の涙が溢れて、しかしそれを気にする風もなく、ただ他の者を助けろと言っている。
 魔力封じの糸さえなければ、未界もひとつの世界だ。天使族がこの空間を逃げ出すなど、簡単なことに過ぎないだろう。
 しかし、その糸で魔力を封じられているのなら話は別。圧倒的に、こちらが優位に立てる。
「……ははっ…面白い発想するね、とてもプリンセスとは思えない発想だ」
 でも、と呟きながら、リバードは微笑を浮かべ。
「―――天界だけじゃない。何(いず)れは、全ての世界を滅ぼすのが、僕の夢なんだよねぇ?」
 だから、と言いながら、彼が残酷に言い放った。
「まず最初に、天界に犠牲になってもらおうと思ってさぁ」
 真っ白だった純白の羽根に、紅い液体が流れていく。
 それを見て、ミューラは唇を噛んだ。
 今、魔力封じの糸さえなければ。少なくとも、リバードの思惑を阻止することが敵ったかもしれない。
 しかし、現実は。
「さぁて……お喋りはここまで。そろそろ、休んでもらおうかな」
 そう呟きながらかざされたリバートの腕に浮かんだ紋様を見てしまい、彼女の意識が段々と遠退いていった。


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