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天使も悪魔もカンケーないっ☆

13ピーチ:2012/09/28(金) 21:56:18 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第十話・誘拐』

「じゃあ、この問題を……天羽?」
「え? あ、はい!」
 現在三校時目の授業、理科の真っ最中。
 …にも関わらずボーっとしていた未央を見て、理科担当の教師の前園 康人(まえぞの やすと)がどうした、と問う。
「具合でも悪いのか?」
「あ、いや……すみません、ちょっと空を見てて……」
 普段の未央の授業態度を見ている康人は、それを見て小首を傾げる。
「まぁ、次からは気を付けるんだぞ」
「はい……」
 少しヴェーブがかった髪が頬にかかり、彼女はそれを無造作に掻きあげた。
「…………」
 いつもは和やかに笑っている未央の表情が、この時だけは何かに怯えるかのように、強張っていた。

「起立、姿勢、礼」
「さようなら」
 クラスの中からたくさんの声が聞こえ、その数秒後には男子生徒が数人、鞄を半分からいながら教室を飛び出して行く様が見えた。
 そして。
「―――本当に、大丈夫かなぁ……」
 そんな不安げな声が聞こえた。
 未央の、不安げな声。
 そして、さすがに同じく不安げな声が響く。
「……まだ、良く分からないけど、それでも数は増えてるのよね?」
 彼女の親友、闇菜の声だ。
「………うん……」
 そう答える未央に、闇菜は小難しい表情をしながら。
「…とりあえず、帰ってすぐにあんたが一番信頼できる天使(エンジェル)についててもらってれば? 一時凌ぎにはなると思うわよ?」
 だが、闇菜の言う通り、本当にただの一時凌ぎだが。
「そだね……ごめんね、これくらいのことで」
「いいよ、別に気にしてないし」
 そんな会話を済ませた後、闇菜が戻って行ったのを確認してから未央がふっと羽根を羽ばたかせる。
 気にしなければ、何も問題はないんだ。
 そう思った未央が、間違っていた。
「あ、れ………?」
 天界まで行くだけで、こんなに時間がかかっただろうか。
 そう思い、何となしに後ろを振り返った。
 そこには。
「………え…!?」
―――ようやく、一人になったな…
―――この時を、幾度と待ち望んだことか…
「や………っ!」
 いつの間に、時空を隔てる空間に忍び込んだのか。
 ここなら、絶対に安全だと思っていたのに。
―――娘よ、聖天使の許になぞ生まれたから、こんな目に遭っているのだぞ……
 そう言った種族らしきもの達の翼と瞳の色に、見覚えがあった。
「冥界、の…?」
 青灰の羽根に、同色の瞳。それは。
 冥界に住まう生き物達の、特別な色。
―――そうぞ、我らは冥界に住まうものよ…
―――そして娘、お前を邪魔者と見なすものよ…
―――未界の連中に話したら、さぞ喜んでおった。……極上の餌が来る、となぁ……!
 餌、とは絶対、ミューラのことを指すのだろう。
 ぞくりとした冷たいものが、勢い良く背中を滑り降りたような感覚に見舞われる。身体が、動かない。
「や……だ…っ」
 しかし、この時空を隔てる空間は特殊なもの。天国や天界に住まう生き物達からすれば、この空間ほど自由を奪われる場所はないだろう。
 反対に、地獄や魔界などに住まうもの達は、これくらいで自由がなくなることはない。
「いや……こ、ないで…!」
 そして、冥界はそのどちらにも当てはまらない。
 故に。
―――天使(エンジェル)と我らは違う。
自由を奪われることもなければ、自由に動き回れるわけでもない。
 そう言った“誰か”の言葉に呼応するかのように、いくつもの影がミューラの影を覆い、あっと言う間に消し去った。
 ミューラの影が完全に見えなくなった後、ミューラの居たはずの場所から不気味な声が響いた。
―――一匹目の天使(エンジェル)、確保…

 魔界へと戻り、自分の部屋で退屈そうに小さい悪魔の尻尾をぶんぶんと振り回していたリュルは、不意にはっと顔を上げた。
 “助けて”
 そんな声が聞こえた気がして。
「……今のは、ミューラの声…?」
 まさか、そんなわけがない。
 そう思い直して再びその悪魔で遊び出したリュルの部屋のドアが、乱暴に開け放たれた。


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