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邪気眼少女の攻略法。

282心愛:2013/02/03(日) 21:12:20 HOST:proxyag111.docomo.ne.jp
>>ピーチ

昴はユリアスと同類かなw いい人!


ありがとうごぜぇます…!(涙)
ごゆっくりお待ちを( ^-^)_旦〜

283名無しさん:2013/02/09(土) 10:02:57 HOST:EM114-51-170-28.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ユリアス様優しいよねっ! 分かるよ!

あれ、レイさんもいい人のような気がしてたんだけど……←

284心愛:2013/02/09(土) 17:56:47 HOST:proxyag088.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、レイさんもいい人だよ!
っていうかみんないい人なんだけど、それぞれキャラがみょーに濃いからね(つд`)

レイさんは影薄いって特徴が大きすぎるからつい「いい人」のカテゴリーに入れ忘れるw

285心愛:2013/02/11(月) 11:27:58 HOST:proxyag068.docomo.ne.jp


『文化祭』






「第63回、南高文化祭っ!」



「はっじまっるよーっ!」



『うぉぉおおおおおおおおっっっ』



オープニングセレモニー……なんて名前だけ妙に格式張った開会式。
約千人が集う体育館は、大変な騒ぎとなっていた。


これだけのエネルギーがどこから沸いてくるのかと不思議に思うくらいの熱狂ぶり。
あちらこちらで誰か(うちのクラスではとある変態男)の煽りによるウェーブが生まれ、拳を突き上げ足を踏み鳴らす男子生徒たちの絶叫が、体育館を壊しそうなほど激しく揺さぶる。

いつもは男子のテンションに苦笑い気味の女子も一緒になって叫び、笑い、手拍子で壇上の実行委員長と司会者を応援。



「……熱気だけで死にそうなんだが……」



「死ぬなよ貧弱娘!」



が、この異様な空気に溶け込めていない人物が一人。

人混みに酔ったらしく、美羽が虚ろな目でふらふらしている。
さすがに真夏で長袖ゴスロリじゃ無理があるよ。



「ひゃ」



「大丈夫!?」



振動によろけて倒れ込みそうになったが、小さな身体は柚木園の腕にぽすっと収まった。



「わ、悪いな……」



そそくさと離れようとする美羽に、柚木園は至近距離で妖しい笑みと共に囁く。



「今だけじゃなくて、ずっとこのままでもいいんだよ……?」



「謹んで遠慮させてもらおう!」



今日も王子様全開の柚木園は、この前の物憂げな様子に比べて少し吹っ切れたように見える。
それはこの場に、『あいつ』がいないことと関係……あるのだろうか。



隣でも怒鳴りあわなければ声が聞こえないほどの喧騒の中、漫才みたいなノリの二人の司会がボケつつツッコミつつ式を進行していく。



「校長講話ぁーっ!」



『フォォ―――ウ!』



……なんかもう、何でもいいらしい。
校長が席を立っただけで拍手が巻き起こり、会場が無駄に盛り上がる。



「えー、みなさん」



しーん。

これだけ生徒が熱心に校長の話を聞くことって、正直もうないんじゃないかな。




「この場で長い話をしても仕方ありませんので、一言だけ。……南高の歴史に恥じない、最高の文化祭にしましょう!」



『ヒャッホ―――ウ!』



空気を読んだ彼が速やかに退場するのを「校長先生ーッ」「愛してるーッ」とか歓声を上げて見送り、むしろ生徒より暴徒という表現の方が適切なんじゃなかろうかと思うくらいにテンション最高潮になったみなさんがさらにエキサイト。

生徒会長挨拶と実行委員長挨拶も、こんな感じで進んでいった。

かく言う俺も、冷静に分析しているように見せながらも実はちょっとわくわくしてたり。
会場全体の「お祭り気分」に呑み込まれてしまったらしい。

美羽も文句を言いながらもそれなりに楽しそうだし。



「では続いていきましょう、軽音楽同好会とダンス同好会のみなさんでーす!」



『ヒュオオオオオオオ―ウッッ』



―――が、すぐに「……」と微妙な顔になった。



ステージに上がった数十人のうち、前に進み出た一人の少女の名が叫ばれる。



『MI・KUッ! MI・KUッ!』



もちろん、頭の両側に艶やかな黒髪を流す彼女は美空先輩。
チアガール風の衣装に包まれた愛らしくも美しい姿を見せつけるように堂々と立ち、華やかな笑顔を振りまいてひらひら手を振ってみせる。


足場もしっかり、マイクを力を込めてその右手で握り。

ぺこっとお辞儀はするものの、いつぞやのようにマイクに額をぶつけたりはせずに一定の距離を保ったまま。


……これはいけるかも、と思わず拳を握ったそのときだった。





「―――みなさん、こっっ」




突然美空先輩が片手で口を押さえ、上半身をくるりと回れ右。



「…………〜〜…っ!!」



……舌、噛んだらしい。



涙目で声にならない悲鳴を上げる彼女は、何というか、とても痛々しかった。




「がんばれ美空ちゃんー!」



「めげるなー!」



が、観客の女生徒からの温かい声援が飛び、男子もそうだそうだと大合唱を始める。



「……ありがとうございますっ! ええと、今から踊る曲は―――」



それを受け、恥ずかしそうに顔を染めた美空先輩が明るく笑った。

286心愛:2013/02/11(月) 11:30:08 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp






短い説明が終わると、軽音楽同好会のみなさんが演奏する曲が流れ始める。


すかさず俺はムービーモードにしたスマホを掲げた。……機会があったら昴さんに見せようっと。



スッ、と先輩が黒に透き通る双眸を細めた。
セクシーで大人びた表情。
手や脚を滑らかに伸ばし、細い腰を女豹のように揺らす。


全員がぴったり綺麗に揃った身振り手振りはまさに圧巻。


激しくカッコいいロック調のリズムに陶酔させられているうちに、やがて曲が終わりを迎える。



……なんと転ばなかった!




『おおおおお……!』




驚嘆のどよめきが沸き上がる。


どや! と頬を火照らせ、美空先輩は美羽そっくりの得意げな笑みを作った。



「ありがとうございましたー! ダンス同好会は明日、ホールで発表を行います! ぜひ来てくださいね!」



ダンス同好会のみなさんが一斉に礼をし、美空先輩が喋っている間にぞろぞろと退場。


脇にスタンバイしていた実行委員にマイクを預け、大歓声を浴びながら笑顔の美空先輩がステージの階段に足を掛けたその瞬間、





《ずるっごろごろびった――――――んっっっ!》





『…………』



……やっぱり美空先輩は美空先輩だった。



美羽が痛ましげに顔に手を当て、柚木園がリアクションに困ったように立ち尽くし、春山が「救急箱救急箱っ!」と慌ただしく叫ぶ。

俺は色々悟りきった物悲しい思いを胸に、今までの様子を撮影していたスマホをゆっくりと下ろした。


主に部活仲間による手厚い介抱を受けてひとまずダメージを回復した美空先輩が半ば引きずられるようにして消え去った後、気を取り直すようにしきりに汗を拭きながら司会が再度登場。



「え、ええーっと! それでは時間も少なくなってきたことですし、毎年恒例のこの行事、いってみましょうか!」



本当にピンチに陥ったとき、人間は本能的に結託するらしい。
司会の精一杯の努力に応え、『おおおー!』と若干無理矢理ながら、会場をもう一度盛り上げる。



「みなさんご一緒にー! せーの、」




『女装コンテストー!』




「女装が恒例の学校なんて嫌だーっ!」



俺の叫びは鮮やかかつ華麗に無視された。


ちなみに正確に表記すると『じょーそーうーこーんーてーすーと〜!』である。
某国民的キャラクターの不思議ポケットを持つ青いタヌキみたいな生物の声を思い起こさせるノリだった。



「なんで男装コンテストがないんだろ」



もしそうだったら優勝確実なイケメン女が不満そうにぼそっと呟く。



「やっぱ男女比の問題じゃね? 男装は女子にしか需要がないだろうし」



美羽が苛立たしげに床を蹴った。



「ほら、そんなことより『彼』が出るだろう。見なくてもいいのか?」



「そうでしたねー……」



ステージに視線を移す。



意外なことに、そんなに気持ち悪くない。
思いっきりネタに走っているガタイのいい男もたまに混じってるけど、どこから調達したのかちょっと気になるセーラー服や、喫茶店の制服らしいメイド服、劇の衣装。
本当に女の子みたいに小柄な子とか、思わずドキッとするくらい綺麗な人が予想外に多い。

アピールタイムでは自分のクラスの出し物を宣伝する人が大半で、恥じらった感じで手を振ったりなんかすると体育館が熱い叫びで満たされる。




「それではいよいよ大本命のこの方!」




「一部から圧倒的な支持! エントリーナンバー8・姫宮さん、どうぞっ!」




……空気が、変わった。



情欲を誘う、ちらりと覗く細い足首。
やや俯き、何かに耐えるようにきゅっと唇を噛んだ『彼』が一歩を踏み出すたび、紅潮した頬を栗色の髪が柔らかに撫でる。
白菊、紅牡丹、桜の花片が散る薄紅の浴衣がまた、その可憐さ、愛らしさを助長していた。



……ごくり。



司会までもがアピールタイムを告げるのも忘れて見惚れる中。
マイクを両手で握りしめ、ぎゅっと目をつむって一言。





「―――僕は女の子じゃありませんっ!」





―――こうして、優勝、金賞、銀賞、審査員特別賞を根こそぎ一人でかっさらった男・姫宮夕紀は、南高の伝説となった。

287名無しさん:2013/02/14(木) 05:27:12 HOST:EM114-51-138-2.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美空先輩ー!? 痛いよそれ絶対痛いよっ!?

…優勝に金賞に銀賞に審査員特別賞……凄いですね、うん

288心愛:2013/02/14(木) 18:14:23 HOST:proxyag104.docomo.ne.jp
>>ピーチ

階段でつまずく→転げ落ちる→顔打ちつける(´ー`)

ここあも小学校の卒業式の練習で、全校生徒の前で体育館の入り口に突っかかって思いっきり顔面からコケたことがありますけどねw
あれは恥ずかしかった…w


夕紀、優勝の中の優勝でございます(o^_^o)

289心愛:2013/02/14(木) 18:15:11 HOST:proxyag104.docomo.ne.jp







1日目の今日、一般公開は11時から16時半。


南高伝統の文化祭は、毎年二日間で6000人以上が来校するというなかなか大規模なものだ。
いかにもテキトーな雰囲気で始まったとはいえ、本番前では否が応でも気合いが入る。


縁日ということで、教室の周りに黒幕を引き、風鈴や折り紙、団扇(うちわ)などで飾り付けることでなんとかそれっぽさを演出。
ヨーヨー掬いや射的、輪投げにくじ引きなどの出店が壁を埋めるようにずらりと並ぶ。
景品はコストを抑える目的で、お菓子の詰め合わせが中心となっている。


一般公開の時間が刻々と迫る中、俺たちは最後の仕上げに取りかかっていた。



「お待たせー」



「ヒナー、みうみうってば可愛いんだよ見て見て!」



「な、なんなんだ君たちはっ」



……っていうのは着替えタイムのことなんだけどね。



教室に入ってきた、浴衣姿が華やかな同級生に抱えられてじたばたしている美羽が目に入る。

もちろん、普段は誰に何と言われようと自分のこだわりであるゴスロリを貫き通す彼女も、今日ばかりはきちんと浴衣を身に着けていた。


銀糸と白、茜、黄金(こがね)の染糸を使った色とりどりの揚羽蝶が桜草に戯れる、深い瑠璃紺の逸品。
レースとフリルをこよなく愛する美羽らしく、珊瑚珠色の帯や袖には繊細なラッセルレースが縫い取られている。


でも何よりも強調したいのは―――ふさふさした黒い猫耳。
カチューシャなんだろうけど、彼女の黒絹のように光沢のある髪と同化して、本当にひょっこりと頭から生えているみたいに見えた。



こ、これは……。




「……私、実はぬいぐるみとか大好きなんだよね」



「わ、も、もふもふするなっ! ぼくはぬいぐるみじゃないぞっ!」



小声で何か口走り、キラキラした目で猫耳浴衣娘と化した美羽を捕捉したかと思えば、ぎゅーっと抱きついて撫でまくる柚木園。……いいなぁ。


「浴衣が崩れるっ!」と暴れて抵抗、なんとか柚木園の手から脱出した美羽は、それだけで体力を使い果たしたらしくぜぇぜぇ荒い息をしながら俺の後ろへと退散。


それでも近づこうとする女子共に、シャーッと毛を逆立てた猫みたいに威嚇する。



「……似合ってるよ、それ」



「……………ふん」



正直可愛すぎて困ってますなんて本心を包み隠さず暴露したらまず引かれるので、とりあえず当たり障りない感想を言ってみる。
美羽は背後でもそもそと身じろぎし、



「君も悪くないんじゃないか?」



「そう?」



まあ、調達したのは美羽だしね。

ちなみに浴衣が入っていた段ボールに、大してお洒落にお金を使わない俺でさえ知っているような、ここ数年で一気に台頭した某・超大手アパレル系会社のロゴが入っていたのは気のせいということにしておいた。俺の精神衛生上よろしくない。



「ゆいのんかわいーね! ヒナもかっこいいよ」



そんな嬉しいことを言ってくれるのは姫宮だ。
彼が身に着けているものといえば桔梗色の染めに白の細い縦縞―――明らかに男物である。



「あのままでよかったのに」



「ぜっったいにいや!」



ぷっくーと膨れる姫宮。
でもやっぱりいかにも女の子が無理して男装してみた、みたいな感じでとても可愛らしい。


今日は店番ではないので実行委員オリジナルTシャツのままの春山が、美羽にニカッと笑いかけた。



「やー、結野ちゃんマジ感謝っ」



「……別に、当然のことをしたまでだ。君に感謝される覚えはないな」



「美羽は謙虚だね……あれ、そういえば私のぶんは?」



まだ着替えていなかった柚木園が空の段ボールを見て不思議そうな顔をすると、廊下から入ってきた人物の元気な声が聞こえてきた。




「はい、王子はこっちねー!」




「美空先輩?」



見れば、ついさっき舞台で盛大なドジをやらかした美少女の姿が。



「え、怪我はっ?」



「うん……。ありがと、大丈夫」



「美空のドジに対する回復力は驚愕に値すると思う」と美羽が小さく呟いていた。



「いいから早く!」



「え? え?」



いまだに状況を理解していない柚木園は、黒い笑顔の美空先輩にしっかり腕を掴まれ、女子更衣室に引っ張られていった。


……ご冥福を心からお祈りします。

290心愛:2013/02/16(土) 11:02:07 HOST:proxy10046.docomo.ne.jp







「きゃ、……ちょっ、やめ―――……っ」



柚木園のものとおぼしき悲鳴が耳に届く。



「おー、なんだ、いい肌してるじゃん王子! 見せなきゃ損だよ」



美空先輩は対照的に楽しそうだ。



「や、……だめ、ほんとにだめですってばっ」



漏れ出てくる声が、やたらと色っぽく聞こえるのは気の迷いか。



「あのフェミニストが、まさか美空相手に腕力で抵抗できるとも思えないからな。着付けを頼んでおいたんだ」



「わー、すっげぇ策略行為ー」



このへん、美空先輩との血の繋がりを感じる。


姫宮をはじめ、クラスのみんなで顔を見合わせてからそおっと更衣室の前に忍び寄った。
いつもと違って、今日使わせてもらってる二年生の教室はちょうど、女子更衣室の真ん前にあるからね。



「……ん、我ながら惚れ惚れする出来映え! 鏡見てみなよ、ほらほら」



どうやら着付けは済んだらしい。
美空先輩のものに続き、切羽詰まった声が耳に届く。



「絶対に嫌ですっ」



「なんで?」



そりゃ、いつもの格好からして抵抗があるのは分かるけど、あまりにも頑なに言い切るその調子に、俺は少し違和感を感じる。


柚木園は女だ。


自ら好んで男みたいな言動をしている彼女に、何か事情があるのかどうかは知らないけど。
でも、全部ひっくるめて、俺は―――もちろん変な意味じゃなくて、あいつのことが好きなんだ。
女とか男とか、そういう問題じゃなくてさ。


だから、何をそんなに柚木園が弱気になっているのか分からない。
まだ付き合いの短い俺でも、どんなに見た目が変わったって、そんなこと関係ないくらいに……あいつは魅力的な奴なんだって確信できる。



「自信持ちなよ、王子。似合ってるよ?」



「……どうせ、気持ち悪いだけですから」



ひっそりと紡がれた、弱々しく、なのに強く、拒絶するような声音。
姫宮が顔を強張らせた。



「似合うわけないんです。こんな……みっともない格好で、みんなの前になんか出られません」



扉の向こう側で、俺たちは黙り込む。
居心地が悪そうに俯く美羽が、きゅっと袖を握ってきた。



「せっかく手間をかけてもらったのに申し訳ありませんけど、やっぱり着替えますね。……私には、耐えられないから」



「王子……」



困り切った様子の美空先輩。
たまらず、俺が何か声を掛けようと声を出しかけたとき―――




「まいちゃんは女の子だよっ!」




驚いて、少し下にある栗色の小さな頭を見る。

姫宮は怒ったように、いつも和やかな表情を険しく引き締めていた。



「僕は、まいちゃんのことを全部知ってるわけじゃないし、何をえらそうにって感じだけど……これだけは言わせてもらうよ」



周りが呆気にとられているのも構わず、扉に向けて叫ぶ。



「理由を作って、あきらめて、逃げて、また同じことを繰り返すの!? それで本当にいいのっ!?」



異様な迫力。
その立ち姿には、普段の愛らしさなんて微塵もない。


そこにいるのは、紛れもなく……一人の、男だった。




「逃げてるだけじゃ、いつまでたっても変われないんだよ!」




「……っ」



美羽が息を呑んだ。
苦しげに、綺麗な顔を歪ませる。



同じように、扉の裏側でわずかに身じろぐ気配を察し、姫宮が柔らかに微笑んで。



「まいちゃんは、女の子だよ」



語気を和らげ、静かにそう、繰り返した。



……気が遠くなりそうな沈黙が立ち込め、俺たちが『やっぱり無理か』と半分あきらめかけた頃。



そろ、と恐る恐る扉が開かれ、中の人物が、ゆっくりと姿を現した。



思わず、ぽかんと口を開けてしまう。




―――……凄い美人がいた。




美人―――いや、麗人?



ひんやり透き通る硝子のように、青ざめた頬。
後悔と羞恥、怯えが入り混じった切れ長の瞳。
黒々とした睫、口紅なしでも鮮やかな薄い唇が力なく震えている。

291心愛:2013/02/16(土) 19:49:04 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp






しっとり落ち着いた黒の地に、燃えるような緋色の鬼灯が映える。
絽の白の帯には茜や梔子の染料で、真緋(あけ)と金朱の夕雲がごく淡く描かれていた。

ワックスやスプレーを使ったのか軽くふんわりとした印象になった髪には、薄絹でできた赤い珊瑚色の花のコサージュが、耳の上辺りにさりげなく留められている。



「い……」



びくっ、と本来の華奢さが浮き出た肩が跳ね上がった。




「いいじゃん!」




なんだよ、女バージョンでも普通に美人じゃんか! 心配して損したよ!


全力で叫ぶ俺を見て、ぷるぷる震えた末にドアの向こうへ引っ込みかけていた柚木園が、へっ? と目を丸くした。


あまりの変貌ぶりに言葉を失っていたクラスメイトたちも、我に返って興奮気味に騒ぎ始める。



「マジだ!」



「やべぇ、今普通にドキッときたわ俺。柚木園なのに騙されそうだわ」



「毎日そのカッコしてくればいいのに!」



そんなアホかつ非現実的な提案が出たところで、



「薄紫に白芙蓉か、藍に枝垂れ桜かと最後まで迷ったのだが……ふん、ぼくが見立てた通りだな」



満足そうに美羽が頷いた。



「結野ちゃんさっすがー!」



「ダテにゴスロリ着てないね!」



「それは関係なくね?」



口々に、意外なことにまともだった美羽のセンスを褒め称える。



「え、……?」



まさに茫然自失、何が起こっているのか分からないとでも云うように、瞬きすらも忘れて突っ立っている柚木園。

姫宮が近づいて、正面からその顔を覗き込み。




「綺麗だよ、まいちゃん」




ふわっ、と優しく微笑みかけた。




「それに、すっごく可愛い」




「………っっ」



言葉に詰まった柚木園の頬が、急速にカァ―――ッと赤く染まっていく。



……ん?



そんな謎のやり取りを目撃してしまった俺が首を傾げていると、続いて更衣室から出てきた美空先輩に肩を叩かれた。



「ほーら圭くん、そろそろ一般公開始まっちゃうよ!」



「え、もうそんな時間ですか!?」



「もうあと10分切ってる。急いだ急いだ! 王子もいい加減男らしく覚悟決めなさい!」



「この格好させておいて!?」



そんなこんなでけらけら笑う美空先輩と別れ、



「ヒナー、あとは頼んだ! ……あ、アブなそーな兄ちゃんとか来て暴れ出したら呼んで、俺だったら殴られてもなんともないから!」



「言うのがお前じゃなかったら責任感溢れるイイ台詞になってたかもしれないな」



サラッと欲望丸出しな台詞を吐いて、春山も実行委員会本部に向かう。

するとすぐにアナウンスが校内に響いた。



『一般公開開始の時間となりました。ご来客の皆様、―――』



「まあ、そんなすぐに客も来ないよな」



「……やっぱり、この間に着替えてきても」



『却下』



壁に寄りかかって余裕をかましていると、



「あーっ、女装の子っ」



「来ちゃったっ!?」



姫宮目当てだったらしい先輩方が入ってくる。
彼は「不本意な呼び方っ」と涙目だった。



「写真撮っていいですか?」



「コスプレ会場の楽しみ方ですよねそれ」



縁日の趣旨どこ行った。



「わー、そっちの子も可愛い! すごい綺麗な人もいるし……って、は!? え、まさか柚木園くん!?」



「嘘でしょ!?」



あっという間に先輩さん方に取り込まれ、可愛い可愛いともみくちゃにされ、写メを撮られまくる女性陣(ただし一部男)。
それにつられるように、次第に射的や輪投げなどのコーナーも賑わい始めた。



「……夕紀と美羽ならともかく、なんで私が……」



こんな目で見られるのは初めてなのだろう、やっとのことで抜け出してきた柚木園がため息をつく。
いつにもまして色香が凄まじい彼女に、笑って言った。



「たまにはいいんじゃない? こういうのも」



……こうして、縁日じゃなく浴衣ショーとかに名前を変えた方がいいんじゃないかという素朴な疑問を生みつつも、何かと忙しい文化祭第一日目は大繁盛で幕を閉じた。

292ピーチ:2013/02/20(水) 05:52:53 HOST:EM1-114-47-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ヒナさーんっ!? ご冥福じゃないってー!

苺花ちゃん似合うじゃん! 男っぽくしなくていーじゃん!←

293心愛:2013/02/20(水) 22:41:17 HOST:proxyag068.docomo.ne.jp





二日間に渡る文化祭も、最終日を迎えた。


今日の一般公開は9時半から14時半で、3時に閉会式がある。
完全下校は18時。それまでに全ての後片付けを済ませるというなかなかに過酷なスケジュールだった。



「それにしても、なんでこんなに混んでんだよ……」



「少なくとも約八割は彼女目当ての者だろう、おそらく」



大混雑の体育館。
パイプ椅子はとっくに足りなくなり、後方で立ち見をしている人がほとんど。

スポットライトで照らされたステージからは、演劇の有名すぎる台詞が聞こえてくる。



「“ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?
さっきわたしに語りかけた優しい言葉、あの愛の台詞が本当なら、名前はロミオでもいい、せめてモンタギューという肩書きを捨てて”」



劇の項目はシェイクスピアの名作、『ロミオとジュリエット』。
高校の文化祭としては無難なチョイスと言えるだろう。


……ジュリエット一人だし。



「ふん……。17歳と13歳という設定なのだから、高ニ男子と中一女子が恋に落ちた翌日に結婚―――現代日本ではとても考えられない上に教育委員会で問題になりそうな話だな」



「やめていらないからその予備知識」



「へー。ジュリエットって13歳なんだ」



今日はほとんどクラスの当番がないのをいいことに、主役のクラスメイトを観に来ている俺、美羽、姫宮が、ステージをしっかり見ながら小声で言葉を交わす。ちなみに宣伝のために浴衣は全員着用。



……そして、舞台袖には輝くばかりの我らが王子の姿が。



「“このまま彼女の独り言を聞いていようか、それとも―――”」



シャツにベスト、パンツを合わせた柚木園は完璧にイケメンだった。

昨日の印象を掻き消そうとでもするように、いつもよりもさらに気合いを入れて“そう”振る舞っているのがよく分かる。


ふっと瞳を憂いたっぷりに霞ませ、甘く切ない表情を見せるたびに観客席からため息が漏れた。


もう完全に一人舞台。
その艶めく危うさは、演劇部で一番の美人だというジュリエット役の女の子が軽く見劣りしてしまうほど。



「―――“ジュリエット、実力行使だ”」



熱く濡れた眼差しを注ぎ、ジュリエットの手を取る。



「“僕たちが先に婚約を果たしましょう。
結婚式を挙げて、指輪を交換して、婚礼の儀式を済ませてしまいましょう……”」



怖いほどガチな演技。
さすが、昔から劇の主役に引っ張りだこだったというだけはある。



「“あなたが本当に僕を信じてくれるなら”」



キラキラキラキラ。


きゃあっ、と小さな悲鳴が上がり、客席の女生徒たちまでが頬を染める。



「……“信じるわ、ロミオ”」



真っ赤に茹で上がり、今にも卒倒しそうなジュリエットがなんとか台詞を吐く。



「さ、さすがだな……」



「うわ、なんか俺までドキドキしてき…………? 姫宮?」



「……んー」



姫宮だけが、何故か不満そうな色が宿る瞳で舞台を見ていた。








*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*








「あれ!? 美羽?」



ちっこい背丈はすぐに人混みに呑まれて消えてしまう。
慌ててきょろきょろ探すと、



「潰れる……っ」



「わ、す、すいませんちょっとすいません!」



苦しげにもがいている美羽を、人の波を掻き分けながらやっとのことで救出。
いつもの人を寄せ付けない毒々しさがないため、自分から人を避けて歩くのに苦労している様子である。


友人と約束があると言う姫宮と別れ、美羽と二人で歩くごった返した廊下。
客引きや宣伝の怒鳴り声がそこかしこで交わされ、アトラクションの順番待ちの列に進路を阻まれ、ろくに身動きもできない状態だ。



「本当にここ、南高だよね?」



そんな声を聞き、思わず笑いそうになる。


なにしろ県随一の進学校だ。
勉強第一主義の生徒が主体となって催す行事なんだから、自然とマジメで堅苦しいものなんじゃないか、と勘違いされやすい。


でも、そんなことは全然なくて。


とにかく自由なんだ。教師も口を出さない決まりだから、なんでもアリ。

未成年者の出し物としては相当クオリティが高いと思う。
自己満足だけで終わらない。来客への配慮が行き届いた、そういう祭り。

294心愛:2013/02/20(水) 22:47:09 HOST:proxyag067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう、でも苺花に普段から女の格好させるのは至難の業だなw

次回は久々に美羽主役でいきます!
…サラッと書いてるけど、文化祭を男女で回るってそれだけでリア充認定されるんじゃないか←

295心愛:2013/02/21(木) 18:37:11 HOST:proxy10036.docomo.ne.jp






パンフレットで行事予定表と校内マップを確認。校舎一階校舎一階、っと……。

視界を横切るのは壁にびっしり貼り付けられたチラシ、休憩所、映画、メイド喫茶にアトラクションの数々。



「とりあえず、近いとこに適当に入っちゃおうか。うろうろしてても仕方ないし」



美羽がこくんと頷く。
さてどうするか、とまたパンフレットに目を戻すと、




「恐怖の館へ、よくぞいらっしゃいましたァァアアア」




そんな声が耳に入った。
見れば、ゾンビに扮した男子生徒が、一つの教室の前でプラカードを手に接客している。奇跡的なことに、待っている客はいない。

『ゾンビ屋敷・恐怖の館』。
……ふむ。



「面白そうじゃん」



「え!?」



美羽が「君は正気かっ?」という目で見てくる。



「……もしかして怖い?」



「はっ、笑えない冗談だな」



笑ってる上に膝が爆笑してますよとか突っ込んじゃいけないんだろうな、うん。



「仕方ない。孤独を愛し闇を僕(しもべ)とする吸血姫(ヴァンパイア)であるこのぼくが、君の束の間の戯れに付き合ってやろう」



お決まりの中二台詞も、浴衣姿のままでは説得力皆無だった。


ちょっとした悪戯心も手伝って、あえて彼女に気は遣わず、ゾンビに近づいていく。
ゾンビはニタァと凶悪な笑みを作って一言。




「恐怖の館へ、よくもいらっしゃいましたァァアアア」




「おい待て今『よくも』って言わなかったかこのゾンビ」



「ウフフ気のせいだよォウ……。中は暗いから、この懐中電灯を持って行ってね」



びっくう! と早速涙目になっている美羽には普通に接した後、案内役のゾンビは室内に半身を入れ、



「こちら山中。良く聞け、今から一年坊が入るが、奴は……女連れだ」



『(任せろ。一撃で仕留める)』



「物騒なっ!」



さすが南高男子、先輩とはいえいっそ清々しいほどにカスである。
はびこる悪事は見逃せど、他人の幸せは見逃さない。これぞモテない男の真髄。



「き、君が先に行け。主を守るのは眷属の義務だ」



「はいはい」



ゾンビに見送られ、懐中電灯で照らしながら暗い道を歩いていく。


壁にこびりついた血潮(絵の具)や転がっている生首(紙粘土。無駄にリアル)を見るたびに、「ひ……っ」と美羽が竦み上がって背中に張り付いてきた。

気にとめていない風を装ってあげつつ順調に進む。


なんだよ楽勝じゃんか、と思った瞬間―――暗闇から蠢く影が飛び出した!



『うぼぁあ゙あ゙ー……』




「っっっきゃ―――――――――――――!!!」




美羽が唐突に絶叫!



「え、美羽!?」



「ひゃぅ、うううう」



しゃくりあげながら、美羽がぎゅーっとしがみついてくる。
どうしよう、ラブコメではお約束のパターンだけど嬉しさとか恥ずかしさとか感じてる余裕ないんだけど。「きゃーこわーい」みたいなレベルじゃなく、相方マジ泣きなんだけど。



『(……ど、どうしよう)』


『(おいバカ泣かせてんじゃねーよ最低だなこのクズ!? 人間のクズ!)』



ニ体のゾンビが喧嘩していた。……人間じゃないだろお前ら。
それにしてもなかなかシュールな光景だ。



「………! ………〜〜っ!」



後ずさろうとしてその先にあった蛙や蛇の玩具にビビりまくり、ついには「ひっ、ひっ、」と泣きじゃくり出す。



「さ、さっさと行くか」



ささやかな罪悪感にちくちく痛む良心に耐え、一歩を踏み出そうとしたとき。



《ズルッ……ズルッ……》


床を這ってきた三体目のゾンビが、美羽の足首を掴むように手を伸ばした。



『おじょー……ちゃァん』



「いやぁああああああああああああああ!?」



体裁も構わず俺にひっついてガタガタ震える美羽へ、
そのゾンビは床からゆっくりと手を掲げ、



『わ、忘れものだよゥ……?』



「ゾンビのくせに超親切!」



可哀想なゾンビが差し出してくれたのは、浴衣と同じ生地でできた小花の髪飾り。

とりあえず俺が代わりに受け取っておく。



『ケケケ……浴衣、似合ってるよー』



「ふ、ふ、ふん……っ、い、一応、礼は言っておく……っ」



お礼を述べるときには、ちゃんと人の顔を見て言いましょう。

296たっくん:2013/02/22(金) 01:01:34 HOST:zaq31fa4bcb.zaq.ne.jp

またウンコスレッドか。
もうちょっと面白いスレ立ててよ

297たっくん:2013/02/22(金) 15:04:52 HOST:zaq31fa4bcb.zaq.ne.jp
        【1984年〜2013年まで】

人生を振り返ります。
ちなみにカードダスが発売したのは
1988年です。

ドラゴンボールZ
ナメック星編は1991年です。


ではスタート!

298ナコード:2013/02/22(金) 19:32:17 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
 >>296 人の作品を兎や角言える立場ではないと思いますけど?

 >>297 人の作品場に自分の作品を載せるのは馬鹿のすることだと思いますよ?
 荒らしは他のサイトでして欲しいんですけど?

299心愛:2013/02/25(月) 07:51:57 HOST:proxyag081.docomo.ne.jp






閉会式では、最後の挨拶で実行委員長が男泣きして、みんなで労いの拍手をしたり。
受賞したクラスが狂気の沙汰みたいにはしゃぎまくったり。

開会式以上の大盛り上がりで、華々しいフィナーレを飾った。



「あー、やっぱ私服って楽ー。つか腹減った」



「一日中帯締めてたら全然お腹すかなかったのにね」



「ダイエットによくない?」



―――後片付けも終え、打ち上げの料理店の予約時間までうだうだやっている教室。
完全下校時刻が一時間引き伸ばされたせいで、外はもうほとんど真っ暗だ。



「柚木園くん劇観たよ、かっこよかったー!」



「ありがとう」



女子の一人に言われ、にこやかに柚木園が微笑する。
やっぱり男の格好の方が落ち着くらしい。……なんだかなぁ。



「なーなー柚木園、それなんだけど!」



そんな彼女に、春山が軽いノリで声を掛けた。



「劇、俺観れなかったからさ。良いシーンとか、もっかい再現してみてよ。暇だし」



「え、王子の劇?」



「私も観たいー」



春山に同調し、ぱらぱらとみんなが手を叩く。

気前よく荷物から台本を取り出しながら、柚木園が笑った。



「一人でやるの?」



「んー、相手は姫宮ちゃんでよくね?」



……春山と姫宮の目が合った。


一瞬間の後、姫宮がしっかりと頷く。



「……うん」



……えーと?


勢い余って天井を突き抜けそうだったテンションはなりを潜め、何故か周りに妙な緊張感が漂い始める。


隣に座る美羽も、急変した空気を察したように表情を強ばらせた。

な、なにこれ。急にどうしたよ。
ただの暇つぶしを兼ねた遊び、って感じじゃなくなってない?


だいぶ混乱し始めた俺の視線の先、姫宮がにっこり首を傾げた。



「じゃあ、まいちゃんがジュリエットやってね」



「は!?」



あっさり言ってのける姫宮に、柚木園が顔を引き攣らせ声を上げる。



「なんでそうなるの!?」



「……だめ?」



うるうる潤んだ瞳で見上げられ、うっと言葉に詰まる柚木園。
しばらく見えない何かと葛藤するように視線をさまよわせ、



「……わ、分かったよ! ただし、台詞読むだけ、だからね」



「うん!」



すかさず増えた拍手に背中を押され、柚木園は姫宮に予備の台本を渡し、渋々といった顔で彼と向かい合う。


一旦引き受けたことはやる、という責任感が仇になってしまったみたいだった。



「電気消した方が雰囲気出るかな」



パチン、という音と共に生まれた、即席のささやかなステージ。


月光を浴び、窓辺に立つ二人の姿が暗がりの中に浮かび上がる。



沈黙が支配する闇を優しく押しのけるように。
姫宮が柔らかい表情で、そっと告げた。



「―――“ジュリエット、大好きなあなたが名前を呼んでくれた”」



演技とは程遠い、ただの台詞の読み合わせ。
なのに深々と降り積もる雪のように、情の籠もった、心に響く声色だった。



「―――“あの木々の梢を銀色に美しく染めて輝いているあの祝福された月にかけて、僕は誓います”」



月明かりの下、姫宮の台詞を受けて俯く柚木園の頬が、微かに赤らんでいる。



「………“いいえ、月にかけてお誓いなさってはいけません。
あの不実な月、丸い形をひと月ごとな変えてゆく、変わりやすい月にかけてはいけません”」



震える唇が紡ぐのは、弱々しい拒絶の言葉。



「“あなたの愛がそれと同じように変わってしまうといけませんもの”」



「“それでは何にかけて誓えばよいのです?”」



すっと真剣な顔つきになり、姫宮が言いながら一歩前へと進んだ。
それに気づいた柚木園の肩が跳ね上がる。



「……“誓いなどされないで”」



俺は完全に、二人の雰囲気に呑まれていた。
言葉が出てこない。


何かを確信したように、柚木園へとまっすぐな眼差しを注ぐ姫宮の横顔は、まるで別人のように凛々しく、淡い光に縁取られていて。



……これじゃあ、まるで―――……

300心愛:2013/02/25(月) 07:53:12 HOST:proxy10060.docomo.ne.jp







「まいちゃん」




そのとき。


姫宮が軽く背伸びして、
そっとその唇を、驚いたように一瞬硬直した柚木園の耳元に近づけ、



―――何事かを、囁いた。




「―――――ッ」




凍りついたかの如く、黒い瞳が見開かれる。

その奥に一瞬よぎったのは、


……恐怖?



ばさ、と台本が床に落ちる。



「柚木園っ!?」



「王子!?」



弾かれたように長身を翻した。


驚いて立ち上がる俺たちにも構わず、そのまま教室から走り去ってしまう。


姫宮は黙ったまま、静かに澄んだ瞳で彼女を見送り、



「………」



やがて睫を伏せて、面差しを暗く蔭らせた。


寂しそうな、哀しそうな、切なそうな―――そんな色が、小さな顔に浮かんでは次々に消えていく。




「……行ってあげなよ、姫宮ちゃん」




痛ましい沈黙を破ったのは春山だった。

場違いなほどに明るい笑みを零して言う。




「打ち上げは無理しなくていーからさ。ゆっくり話してきな」




「……ありがとう、春山くん」




硬い面持ちで頷いてみせ、姫宮がぱっと駆け出した。



「待っ、俺も」



「ダーメ」



あの様子はただごとじゃない。
後を追おうとした俺を、春山が声で制す。





「これで決まるから」




にやっと片頬を持ち上げて。



「どういうことだ?」



「おー、結野ちゃんってばそんな睨まないでよ、ゾクゾクしちゃう俺ー」



いつもと同じくへらへら笑い、何でもないような口調でこう宣う。




「どういうこと、かぁ。俺が言えるのは―――機会(チャンス)は作った。だから後は姫宮ちゃんの頑張りにかかってる、ってとこかな」




「……なんだよ、それ」




「あと一歩なのに、柚木園の方にちょっとわだかまりあるみたいだったんだよね。何だかは知んないけど、だいたい予想はつくじゃない?」




俺と美羽を除く級友たちが、『……やっぱり』と顔を見合わせて頷きあう。




「多少強引にでもだよ? 誰かが背中押してやんないといつまでもあのままだからさ」




柚木園と、姫宮のあの様子。
さらに、春山の遠まわしな言葉を冷静に噛み砕いてみれば。




「……まさか、」




「気づくのおせーよヒナ」




軽薄な―――見ようによっては、『そう取れるように』作られたような―――そんな笑みを湛える男。



「最近、明らかにおかしかったじゃん」



言葉が出ない。


……こいつは。
柚木園と姫宮の気持ちを察していて、こういう状況を作ったら姫宮が動くことも予想していて。

だからわざと、あんなことを言い出したのか?




「ほら、俺ってドMだから? 虐げてもらうには柚木園に元気になってもらわねーと調子狂うワケ」




「……君は……」




「あはは、とか言っても大したことはしてないけどねー」




多分、俺も同じみたいな顔、してると思うけど。
信じられない、という表情の美羽に、春山がニカッと歯を見せて。




「俺が仕掛けて、姫宮ちゃんは乗った。それだけ」




そして、ぱん! と大きな音を立てて手を叩いた。




「はいこの話終わり! みんな打ち上げ行くぞーッ! 店の予約7時半だから!」




春山慎太郎。


チャラくて変態で、どうしようもないバカで。


でも本当は、もしかしたらだけど―――



俺たちの誰よりも、賢くて。



仲間思いな奴、なのかもしれない。

301矢沢:2013/02/28(木) 17:03:34 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
匿名マジキモイよね。
名無し=たっくん&ffは、ガキなので矢沢の予言通りに死んでしまったけど。
セバスチャンも見下すレベル。

302心愛:2013/02/28(木) 18:51:43 HOST:proxy10001.docomo.ne.jp






「せっかくの食べ放題だ! 店の経営に差し障る勢いで食って食って食いまくれーっ!」



『おお―――――!』



南高生の常連が多いと聞く、駅前に店を構えたお好み焼き屋の二階にて。

視界の隅で店長と思しき壮年の男性が青ざめてブルブル震えているような気もするけれどそんなものお構いなしで、食べ盛りの高校生40人弱がジョッキ(もちろん中身はノンアルコール)を突き上げる。



「春山ー、こっちオレンジジュース足りないんだけどー」



「ありゃ、こっちもウーロンしかないわ。すみませーん、オレンジジュース追加でー!」



二人ぶんの空席を補うように明るく声を張り、春山が率先して場を盛り上げる。
それに気づいてても、彼に応えるように全力で騒ぎ、楽しもうとするみんな。



「……いいクラスだよ。本当」



黒塗りのテーブルに肘を付いて苦笑すると、向かい側で畳にこぢんまりと正座している美羽も黙って表情を和らげた。



『春山のー、ちょっといいとこ見てみたい! ……いっき! いっき!』



「えー、マジかよー。じゃあここは俺がこの特製ミックスジュースを」



『お好み焼き用ソースいっき!』



「ドMでも真っ青のリクエスト来たっ!?」



とか言いながら、春山が本当にテーブル備え付けのソースのボトルを傾けて喉に流し込んでいた。
男女入り混じった、盛大な歓声が弾ける。



「……正直、あれはやりすぎだと思うが」



「……うん」



良い子は真似しちゃだめだからね。
や、もちろん悪い子でもだめですけれども。



「こちら、豚チーズ玉とミックス玉でございます」



「あ、ども」



注文したお好み焼きの玉が届いた。

ボールを手に取り、さっさと玉を混ぜて鉄板の上に生地を流し込む。よし、適量。



「……ずいぶんと……慣れているな」



「家では俺が焼く係だからね。彩もみんな丸投げだし」



もちろん俺だけじゃなく、女子しかいないテーブルには自然と男子が一人二人派遣され、代わりに焼いてあげている。
テンションがいかにおかしかれ、紳士の心は忘れないのが我がクラス。


頃合いを見てひっくり返すことしばし、形も、焼き加減もそこそこのものが出来上がった。
四等分に切り分け、一枚を皿に乗せ、ついでに適当に味付けもしてやって。



「できたよ」



「………ぅ、む」



妙に容姿が店内に馴染まない美羽は、戸惑ったように数回瞬きして皿の上の物体を見る。


もしかして生粋のお嬢様は、こういう庶民的なものは食べたことがないんだろうか。
それとも、美空先輩から嫌になるほど聞かされてる偏食ぶりが発揮されてる?

……そういえば昼休みの弁当も、持参したサンドイッチ以外全然見たことないけど……。


こっそり心配していたら、箸で物珍しげに生地をつんつん突っついていた美羽は、



「………悪くは、ない」



ちょっとだけかじって、ぶっきらぼうにだけどそう言ってくれた。



「ほんと?」



「ふん……吸血姫(ヴァンパイア)は嘘はつかない」



無理してるのかな、とも思ったけど、そうでもないみたいだ。

ほっとして、自分のぶんにマヨネーズやソースをかけ始める。
お好み焼きの上でふよふよ動くかつお節に、びっくりした顔をする美羽がちょっと面白かった。



「モダン焼き早く来ないかなー」



「まだ何かあるのか……?」



ちまちま具を口に運ぶ美羽が軽く顔を引き攣らせていた。

それ、まだ一枚の四分の一だからね。一人前じゃないからね。

303心愛:2013/02/28(木) 19:09:54 HOST:proxy10036.docomo.ne.jp






「それにしても暑すぎないか、この部屋」



「そんなの着てるからだよ」



もう夏だというのに、黒い長袖のゴスロリ姿を貫く美羽はなんだか見てるだけで暑くなってくる。
でも本人は首を横に振って否定。



「装束の問題ではない。クラスのテンションが暑苦しいんだ」



「……確かにね……」



『春山ー、いっき! いっき!』



「げふ……えっちょ、まだやんの?」



『しょうゆいっき!』




「さすがに勘弁して下さいませんかねぇ!」



赤ら顔で悪ノリするクラスメイトたちに、春山がとても見事な土下座を繰り出していた。


……このドリンク、アルコール入ってないよね?



『……チッ』



「あれ、俺めっちゃ嫌われてる!? ……く、悔しい、でも感じちゃう……」



「きめぇ」



ハァハァする春山を横目に吐き捨てたところで、




「待っ……なんで!? なんでこれ外れないの!?」




「僕、握力強いんだよ? ちゃんと手加減してるし」




「確かに痛くないけど……って違う! 早くしないとみんなに見られ―――」




だんだんと近づいてくる声。
俺たちは誰からともなく視線を交わし合い―――



満面の笑顔を、入ってきた二人へと、向ける!




『ひゅ―――――ひゅ―――――!』




「遅かった―――っ!?」




柚木園の悲鳴に腹を抱えて爆笑する面々。



「笑いごとじゃない! ……ああもう、夕紀!」



「えー」



嬉しそうに頬を火照らせた姫宮と、彼に引っ張られる形で入ってきた柚木園。

二人の間で何があったかは分からないけど。



「おかえり」



祝福の笑みを含んだ俺の何気ない言葉に、一瞬驚いたように声を詰まらせて。
柚木園はそれから視線を逸らし、恥ずかしそうに小声で答えた。



「……ただいま」



いつもの調子を崩して、女の子らしく照れる様子は、やっぱりなんか……可愛らしい。
多分、これが本来の柚木園なんだろうけど。



「で。君たちは今まで、具体的に何をしていたんだ?」



「あの台詞の最後、姫宮なんて言ってたの?」



「んーとねー」



「夕紀!」



「はぁい。まいちゃんに怒られちゃうから、内緒」



俺と美羽が座るテーブルの、空いた席につく二人。



「ねーねーまいちゃん、おかえり、ってもう一回言ってみて」



「? ……おかえり」



「ただいま! えへへ、なんか夫婦みたいだねっ」



「ふ、ふぅーっ!?」



……負けてらんないなぁ。

初々しい二人の様子に触発されて、とある考えを思いついた俺は美羽に向け、少し大きな声を出した。



「あの、さ!」



ぽけーっとして姫宮と柚木園を眺めていた彼女が、こっちを見る。




「ちょっと付き合ってほしいとこがあるんだけど……その、次の日曜とか。お昼、一緒にどうかな」




今度は意識してボリュームを落とし、噛みそうになるくらい緊張して、なんとかそれだけ言い切った。


や、白状すれば、そんな場所なんてないんだけど……とにかく誘う口実がほしくて。


内心ドキドキしながら様子を窺う。


美羽は大粒の赤い瞳をさらに大きくし、数秒間呆けたように黙り込んでから、




「し、仕方ないな! 君がどうしてもと言うのなら……たまには眷属の我儘に付き合ってやるとしよう」




頬を染めて、いかにも傲慢そうに、顎をつーん! と突き上げた。



「よし……っ」



すんなり了承をもらい、テーブルの下でこっそり拳を握る。
これで、俺も一歩進んだ……か、な?



「いちゃついてんじゃねーよそこ!」



「これ以上リア充が増えるのはごめんだ!」



「「いちゃついてない!」」



慌てて反論すれば、クラス中からけらけらと笑われる。
そのタイミングを見計らって、春山が声を張り上げた。



「全員揃ったことだし、乾杯するぞー!」



彼の音頭を聞きながら、再び全員でジョッキを持つ。



「じゃ、シンプルに! ……文化祭お疲れっした! かんぱーい!」



『かんぱーい!』



ガラスのぶつかり合う涼やかな音が、熱気の立ち込める室内に大きく響いた。

304ピーチ:2013/03/02(土) 10:45:33 HOST:EM49-252-90-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

苺花ちゃんと夕紀ちゃん(?)成功!←

これ以上リア充増やすなー!!w

春山君は馬鹿っぽいけどいい人だった!

305心愛:2013/03/02(土) 19:05:12 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
>>ピーチ

主人公出し抜いてちゃっかりカップル成立させやがりました←
これに至る経緯はこれから、番外編でちゃんと書くよー!

「そこそこ勉強ができる上でのバカ」が隠れテーマなんだけど(ぇ)、
バカっぽく振る舞いつつも実は! みたいな演技派もここあは結構好きなのですw
見せ場はあと一回くらいしかない予定だけどね!

306ピーチ:2013/03/02(土) 21:40:59 HOST:EM49-252-124-211.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ほんとに主人公出し抜いてるしねw

やったー! めっちゃ楽しみだー!

優しいよね! 春山君以上に馬鹿なあたしが言えることでもないけど!

307心愛:2013/03/03(日) 18:37:42 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとーうっ!
苺花編は文化祭が終わるまで、もうちょい続くよーヽ(≧▽≦)/
そしたらヒナと美羽のデート(?)だなw


第一印象最悪だっただろう春山のイメージアップがなされたことを祈る!

308ピーチ:2013/03/03(日) 18:49:50 HOST:EM114-51-64-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

苺花ちゃんはやっぱり美人なのにね!

ヒナさんと美羽ちゃんのデートとなると、どーなるかなぁ…

……うん、確かに第一印象は…

309心愛:2013/03/04(月) 15:27:43 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

女としての自己評価が低すぎる美人さんですw
ここあキャラは無駄に美形が多いけど、だいたい自分の容姿レベルはわきまえてますがね!


甘酸っぱい展開にはなりそうもないことは確か←
デートといっても二人でちょっと出かけるだけだしね!
…でも、シスコン姉がこっそり暗躍しちゃうかも(笑)


第一印象がアレなのは無理ないと思うよ、うん。むしろ狙ってたしね、うん。
「なんだこいつもちょっとだけいいとこあるじゃん、キモいけど」とでも思ってやってーw

310ピーチ:2013/03/05(火) 05:16:29 HOST:EM49-252-6-237.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

低すぎるの問題じゃないくない? 最早女として見てなくない?←

分かる! 自分の容姿レベルわきまえてるから自然と美形が多くなる!

え、でもここにゃんって綺麗そうなのに?

311心愛:2013/03/05(火) 17:00:41 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
>>ピーチ


………ぇ(゚_゚)………?

いやいやいやそんなことぜんっぜんないよ!
つい自分と真逆の容姿のキャラを作ってしまうんだよ…。


ピーチこそ可愛い子だと思うよ!

312ピーチ:2013/03/10(日) 17:18:14 HOST:EM49-252-15-7.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

うっそだぁー!

でも分かる自分可愛くないからつい真逆に…みたいな!

ぜんっぜん可愛くないぞ多分顔見れたらその瞬間に失望するぞ!←何からだ

313心愛:2013/03/10(日) 19:11:33 HOST:proxyag118.docomo.ne.jp
>>ピーチ

…うーん、ここあの顔面レベルはヒナの自己評価と近いかも←
どうせ地味ヅラですが何か?(逆ギレ)

だからか、オーラばりばりの華やかな子を多く書いちゃうんだよねー(つд`)



ピーチは可愛いよ!
ここあが保証するわ、会ったことないけど!
だっていい子だもん!

314たっくん:2013/03/11(月) 10:16:17 HOST:zaq31fa58ac.zaq.ne.jp
>>1さん
糞スレ終了ですよ
糞ですよ糞

私に小銭を払ってとっとと去りなさい

315ピーチ:2013/03/12(火) 14:46:53 HOST:EM1-114-198-155.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いやあたしの場合ヒナさんの自己評価以下ですから!

どーせブスですから!←

オーラばりばりもいいけどあたしは控えめ且つおっそろしい美人を作っちゃうw

316心愛:2013/03/12(火) 18:53:09 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp
>>ピーチ


大丈夫それはない!


…あ、ここあはむしろレイさんかも! 地味具合が!


恐ろしい美人…天音ちゃん系?

317ピーチ:2013/03/13(水) 05:02:39 HOST:EM114-51-28-190.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いやまさか!

だってあたし同学年の男子に嫌われてるんですぞ? わーい←

天音は恐ろしい美人の代表格かもw

318心愛:2013/03/13(水) 22:03:11 HOST:proxy10010.docomo.ne.jp
>>ピーチ

思春期なんだよ、きっとみんなシャイなんですよw

ほら、ほんとに可愛い子よりノリよくて雰囲気が可愛い子の方がモテる時期だしね(なにげにひでぇ


天音ちゃん!
クールビューティー!

319ピーチ:2013/03/15(金) 05:48:40 HOST:EM49-252-224-96.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シャイも何もないのがうちのクラスなの!

可愛くなくてノリ悪いクラスの浮き者ですw←

天音はクールビューティだよね! 見た目は!

320心愛:2013/03/16(土) 11:08:15 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ピーチはきっと自己評価が低いんだよ!


み、見た目は!?(笑)

321ピーチ:2013/03/16(土) 20:52:42 HOST:EM114-51-179-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

低くないよ! ちゃんと自分をわきまえてるよ!

見た目はなの! あたしのキャラはみんな!←

322心愛:2013/03/16(土) 23:02:35 HOST:proxyag051.docomo.ne.jp


『デート……?』





約束の日曜日。

照りつけるような夏の日差しが眩しい駅の広場に到着した俺は、自分の格好がおかしくないかもう一度チェックする。

メールのやり取りで決めた待ち合わせの時間までかなり余裕はあるけれど、時間を潰すのもそろそろ限界だった。


何しろいつもより数時間早く目が覚めてしまい、無意味に自分の部屋を右往左往してみたりと家にいてもなんだかそわそわ落ち着かなくて、彩に気取られないうちにさっさと外に出掛けたはいいものの駅に着いてしまったのが待ち合わせ三時間前で、どうせだったらと『行きたいところ』にちょうどいいような良さげなレストランを見て回り、それでも時間が余ったから本屋にぶらりと立ち寄って適当に物色して、それもはっと気づいたら手に持って立ち読みしていた雑誌が『今熱い! イチ押しデートスポット特集』だったりして、落ち着けってデート違うだろバカ! 俺のバカ! と一人ツッコミを入れてみたりしていたのだから。


……こうやって冷静に回想してみると、なんか無性に恥ずかしくなってきた。
何やってんだよ俺。これだから彩にヘタレヘタレ言われるんだよ、ったく。


気温のせいとはまた違う要因で火照る頬をぺちぺち叩きながら歩き、目印である銅像の前に辿り着く。

時間になるまでベンチに座って待っていようかと思ったいたのだけれど、そこにはすでに先客がいた。



―――さら、と絹鳴りを思わせる音が小さく響く。

ベンチの隅にちょこんと座っていたのは、黒蜜みたいに艶やかで、濡れたように煌めく髪を持つ女の子。

優しく淡い色合いのラベンダーとピンクが愛らしい、細かい花柄のトップスの上に羽織っているのは華奢なレースつきの透けるカーディガン。
ふわふわフリルたっぷりで、花びらみたいに広がるピュアホワイトのミニスカートからは、刹那的な儚さのある、病的にまでに細く白い脚が伸びていた。


……たとえ顔が見えなくとも、凛と冴えた雰囲気を持つ彼女は明らかに、そこらの人間とは一線を画する美人だった。
道行く人が皆振り返り、見惚れるのが分かる。


チェーンバッグを膝の上に置き、俯いて気怠げにケータイを弄る指は信じられない程に華奢だ。



……どこかで見たような光景、だな。


失礼なのを承知でまじまじと見つめる。


やがて彼女が自分に向けられる視線に気づいたらしく、両手で包めそうに小さな顔をぱっと上げた。


しっとり透明な艶のある肌、薔薇色の頬。
精巧な陶製人形(ビスクドール)を連想させる美貌―――



あ、あれ?
なんかものすっごい既視感。


長い睫に縁取られた、漆黒に煌めく二つの宝石みたいな瞳。
大粒のそれは金の粉を散らした夜空の如く、吸い込まれそうなくらいに透き通っていて―――




「ヒナ! まだ待ち合わせより30分以上早いじゃないか!」




聞き覚えのある可愛らしい声が、驚いたように言う。
それは紛れもなく、彼女の小振りな唇から発せられたものだった。



「……あ………え、ええと、ぼくがこんな時間からここにいるのは、そう、どうしても何もすることがなくて暇で暇でしょうがなかったからで、」



美少女が赤くなり、ぱたぱた腕を振って何やら言い訳を開始。



「それにしても君はさっきからどこを見て…………あ、も、もしやこの服装のことか? ち、違うんだ。ぼくは非常に不本意だったのだが、美空に言われて仕方なく、本当に仕方なくだな」



さっきから俺に向かって何言ってんだろこの娘(こ)、暑さで頭おかしくなっちゃったのかな。



「だ、だからなんなんださっきから! ぼーっとしていないで何か言え!」



はっ!
…………うん、大丈夫。俺は冷静だ。


美空先輩身長縮んだ? とか考えてなんていない。まったく考えてなんていないさ。

女の子をひとまず放置し、スマホを取り出して迷わず指を滑らせる。



「もしもし美空先輩?」



『お、圭くーん! どうよどうよびっくりしたー?』



すぐに電話口の向こうから、朗らかな美声が聞こえてくる。



「一つ、訊きたいんですけど」



ぎゃんぎゃん騒いでいる美少女のつむじ辺りを、俺はじっと見下ろしながら。




「―――もしかして先輩、もう一人妹います?」




「はああ!?」

323ピーチ:2013/03/16(土) 23:45:35 HOST:EM114-51-31-109.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いやいや失礼だからねヒナさん!?

電話していきなり「もう一人妹います?」はないでしょ! 明らかに美羽ちゃんでしょ!

……どんだけ早起きしてんだよ、二人とも…

324心愛:2013/03/18(月) 17:07:10 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ

どんだけ意識してんだよって話だよねw

ヒナ、動揺のあまりかなーり失礼なこと言ってますが…?

325心愛:2013/03/18(月) 17:07:39 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp






『ぷっ……く、あははははっ!!』



電話口から、美空先輩の大爆笑が聞こえてきた。



『ひーおなか痛……うわ危なっ、今椅子から落ちそうになった……っ』



「こんなときまでドジ属性発揮しないでくださいよ……」



『だ、大丈夫だってば。……ちょっと昴! そんなに言わなくてもいいでしょー? 大丈夫大丈夫!』



傍に昴さんもいるらしい。
美空先輩は昴さん相手に二、三言会話を交わした後、




『それ、美羽ちゃんだよ』




「ヒナ! さっきから美空と何を話しているんだ! ぼくはぼくだぞ、高貴なる吸血姫(ヴァンパイア)ミウ=黎=リルフィ―――」



……などと俺の胸より低い位置で叫び、黒い瞳を怒らせている美少女を、見る。
少なくとも容姿には痛々しさなんて欠片もない、初恋の“ミウ”がそのまま成長したみたいな、恐ろしく可愛い女の子を、もう一度見て。



………。



…………………。



「まっさかぁ」



『そのまさかです』



「ヒナ! 契約を交わした主が分からないとは何事だっ」



……確かに台詞を聞いてみれば、いつもの美羽だ。
それだけじゃなくて、声も顔も体格だってそう。


でも、まだ信じられない。

だって、あの美羽がだよ? どや顔でゴスロリ着て学校来ちゃう美羽がだよ?

まさか、こんなにまともな格好をしてくる日が来るだなんて。

そりゃあ文化祭では浴衣も着てたけどやっぱりいつもの“美羽らしさ”はあったわけで、今日とは全然違う。
人って、身に着けるものの色だけでこんなに変わるものなんだろうか。


呆然としてしまう俺に、美空先輩が簡単に解説してくれる。



『最初はゴスロリで行こうとしてたんだけどね。あたしが“どうせ二人で出掛けるならそんなカッコより、こういう方が圭くん喜んでくれると思うけどな〜?”って脅したら、大人しく言うこと聞いてくれたんだー。服に合わせてカラコンも取り上げちゃった』



「美空っ!? 今絶対余計なことを言っただろう!?」



スマホを奪おうとするように頑張って手を伸ばし、ぴょんぴょん飛び跳ねて憤慨している美羽。
それでも身長差のせいで届かないけど。


美空先輩の笑みを含んだ声が、耳をくすぐる。



『今まで誰がいくら言っても聞かなかったのに、圭くんの名前出したら楽勝で丸めこめたんだよ。やっぱり、圭くんの存在は相当大きいんだね』



「や……そんな、」



謙遜の言葉を言いかけながらも、正直少し、嬉しくなってしまう。

全部を真に受けるつもりはないけど、美羽がそれなりに今日を楽しみにしてくれていて、ちょっとでも服装に気を遣ってくれたというのは、多分本当なんだろう。



「……美空先輩」



それから。
美羽の気持ちも嬉しいけど、何より。


目の前にいるのは美羽張本人で、今日の服装はどうやら美空先輩のチョイスらしい―――ということをようやくきちんと頭で理解した俺は、感動で目を潤ませる。



「俺、一生先輩について行きます」



『うむうむ。ついて来るがよいぞ、我が弟子よ。今日は存分に、この絶好のチャンスを生かしてくれたまえ』



「ありがとうございます師匠!」



二人して変な演技をしつつ簡単に別れの挨拶を済ませ、通話を切る。


改めて下の方を見ると、美羽が膨れっ面で横を向いていた。



「……なんだ、一生って」



ぷくっと頬が膨らんでいる。


何に不満を覚えているのか分かんないけど……くそ、可愛いじゃないかよちくしょう!



「……ヒナ?」



「え、あ、……ご、ごめん。あの、つい動転しちゃって」



って違う。とりあえず謝るのが先だろ俺!
恨みがましい声と共に見上げられ、慌てて頭を下げた。



「ふん。結野家に新たな娘が追加されたという、ぼくも知らなかった新事実についてか?」



「ほんと、すみません……」



美羽の言い分を全部スルーして本人の正面でその姉に電話をかけ、挙げ句に「もう一人妹います?」はないよね……。

我ながらどんだけ酷いリアクションだよ。いくら罵られても文句は言えない。

326ピーチ:2013/03/19(火) 05:44:02 HOST:EM114-51-140-40.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ヒナさん落ち着けー!?

…ここまでくると動揺の域を超えて見えるのはあたしだけか←

327下平:2013/03/19(火) 13:51:41 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
ピーチ

328心愛:2013/03/19(火) 19:42:37 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp





あ……でもこれだけは言っておかなくちゃ。



「……じゃ、なくて。その……あんまり珍しいカッコしてたからさ」



途端、美羽は不安そうな、哀しそうな影を端正な顔に落とした。
困り果てたように俯き、純白のスカートの裾をいじる。



「そ、そんなに変か」



しゅん、と小さい身体をさらに小さくする。



「ち、ちがっ……!?」



「うぅ……やはり美空の言いなりになるんじゃなかった! 少し待て、一ノ瀬に連絡していつもの着替えを持ってきてもらう!」



「違うって!」



大きな声を出すと、びくっと細い肩が震えた。
「ごめん」と声量を落とし、自分を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸してから。




「いや、……普通に似合ってるし……いい、と思う」




……なんか無愛想な台詞になってしまった。

なぜだ、なぜなんだ俺。
ここで「“かわ”いい」とでも自然な感じで言えたら、好感度上げられたのかもしれないのに!
さっき読んだデート攻略本に「彼女のイメチェンに気づいたら、『可愛いね』『似合ってるよ』などと必ず声をかけてあげましょう」って書いてあったから実践してみたのに! デートでも彼女でもないけど!

くそう、俺にはまだ難易度高すぎたかっ?


一人脳内で頭を抱えていると。



「そ、……そう……か」



美羽は頬を染めて小さく呟き、それから、はっと正気に戻ったように早口でまくしたてる。



「ふ、ふん。真の実力者は闇の装束を身につけていなくとも、魔力を帯びることができるからな。支障はない」



よかった。どうやらこの反応で満足してもらえたみたいだ。

ほっとして息を吐き、それからふと疑問を覚えて首を傾げた。

ってことは……その設定だと、いつもゴスロリじゃなくてもいいってことになっちゃうんじゃ。


美羽も気づいたようで、「……あ」と小さく漏らして。



「きょ、今日だけだからな!」



「えー」



そんなぁ。

がっかりして肩を落とすと、美羽が不思議そうに見てくる。



「む……君もやはり、ぼくがこういう格好をして来た方が良いと思うのか?」



「え」



そりゃそうだ―――と普通に頷きそうになったけれど、俺はいったん言葉を止めて考え直す。



「……んー……美羽はやっぱり、いつものままでもいいんじゃない?」



もし美羽の気が変わって、ゴスロリをやめて学校に来たりなんかしたら。
この類い希な美少女ぶりに、勘違いする男が急増するだろう。それは、俺としてはちょっと避けたい。

ついこの間、姫宮が「まいちゃんにあんまり可愛くなられると、嬉しいけど困るんだよね……」とか言っていて、ただのノロケじゃねぇかよとあのときは軽く聞き流していたけど、今彼の気持ちがすごく良く分かった気がする。

可愛すぎたり綺麗すぎたりする彼女がいる彼氏って、いつもこういうことを思っているのかもしれない。



「もちろん、それはそれでいいと思うけど。新鮮で」



「それもそうだな。戯れにこのような装いをするのも、少しなら悪くない」



見るからに機嫌が良くなった美羽が小さなバッグをぽすぽす叩いた。



「それで? 行きたいところがあるのだろう?」



「あ、そうそう。一人じゃ入りにくくってさー」



……………嘘も方便って、素晴らしいことわざだよね!


意識的に歩幅を合わせながら、美羽を先導して歩き出す。


広場と駅の中を抜け、反対側に出ると。




「……ねこかふぇ……?」




看板の広告を見て、美羽が立ち止まった。
俺も足を止める。



「猫が店の中に放し飼いにされてるカフェだよね、確か」



「なっ」



美羽が黒水晶の瞳を大きく見開いた。



「この腐れた世界に、そ、んな理想郷(アルカディア)が……?」



衝撃を受けたように、長い髪がわなわな震えている。


……あー。



「行ってみる?」



こくこく! と嬉しそうに頷いた美羽は次いで、『あれ?』という顔をした。



「君が言っていたところというのは―――」



「あーうん、そう、ここ!」



明らかにおかしいにもかかわらず、浮かれているらしい美羽は「そうなのか!」とすぐに納得してくれた。


嘘を上塗りしちゃって申し訳ないけど、どうせ行くなら美羽が楽しいところの方がいいよね。

329心愛:2013/03/19(火) 20:16:16 HOST:proxy10052.docomo.ne.jp
>>ピーチ

落ち着け落ち着けw

でもやっぱり異性関係はこんな感じが書きやすいここあでした←

330ピーチ:2013/03/19(火) 22:07:14 HOST:EM114-51-160-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

良かった冷静さ取り戻したねヒナさん!

ネコカフェ…あたしは死んでも入れない←

331心愛:2013/03/20(水) 10:11:51 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そっか、動物嫌いなんだっけ←

ここあも入ったことないんだけどね! 気分気分!

332心愛:2013/03/20(水) 10:53:34 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp





俺って結構動物好きだし、あんまり抵抗はない。
ここにバカでかい広告があるのは知っていたので、ちょっと興味があったくらいだ。

……まさか美羽と来ることになるとは思いもよらなかったけど。



そんなわけでまたしばらく歩いて目当ての建物を見つけ、さくっと入店。

スリッパに履き替えて、入り口近くの受付に向かう。



「……はゎ……」



「美羽さーん?」



額縁に飾られている猫の写真を見ただけでそわそわしている美羽に代わり、仕方なく俺が代わりに店員の人から説明を聞く。


おためし10分100円からスタートして1時間600円、2時間1200円などと時間ごとに料金が決まるらしい。



「閉店は22時、か。日曜は何時間いても3500円は超えないらしいぞ……?」



「何時間いる気だよお前」



明日学校だからね?



「む……面倒だな。こうなったら貸切にするか、むしろ店ごと買い取って」



「やめんか」



意味不明なことを口走る若い客にぽかーんとしていた店員から入店証を受け取り、愛想笑いで適当にその場を誤魔化してから早速中に足を踏み入れた。


外観もそうだったけど、内装も普通にお洒落な喫茶店風。
向かって右手には喫茶ブース、向かって中央から右手に大規模な猫用の遊具がある。



「わ、わ」



グレーの猫がガラス玉みたいに透ける瞳でこちらを見、てくてく歩いてきた。
ぱああっと美羽の顔が輝く。


おそるおそる差し出された美羽の指に鼻を近づけ匂いをかぎ、敵じゃないと認定したようで頬をこすりつけてきた。

ふにゃーっと表情が蕩ける。



「猫、好きなの?」



「ふ、ふん……まあ、な。猫とは元来高貴さの象徴であり古代エジプトの時代から神聖視されつつも一方では魔性の獣ともされるという相反する属性を兼ね備えることから《純血の薔薇(Crimson)》に所属する一級魔女の使い魔として最もふさわしい動物と言えるだろう」



肉球めっちゃふにふにしながら力説されましても。



「あー……俺、あっち座ってるわ」



「ん」



ソファに腰掛け、メニューを眺める。


フリードリンクやデザートなんかは別料金で注文するらしい。
パスタなんかもある。
まだ時間が早いせいでお腹すいてないけど、場合によっては頼んでみてもいいかもね。


こうして見ていると、意外とカップルも多い。
写メを撮ったり、寝ている猫を撫でたりと思い思いにくつろいでいる。



「お、マンガもあるじゃん……」



数百冊はあるんじゃないかな。
マンガ好きな俺にはありがたい心配りだ。
本読みながら時に猫を愛でられるっていうのがこの店の売りらしい。


と、茶色い毛並みの猫が一匹、俺の方に近寄ってきた。
遊んでほしいアピールなのか、脚にまとわりついてくる。


……か、可愛いじゃん。


顎の下を人差し指で撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。



「可愛らしい彼女さんですね」



「えっ? い、いや、そんなんじゃ」



急に店員のお姉さんににこやかに話しかけられ、キョドってしまう。
地を這うかの如き俺のコミュニケーション能力が憎い。


それにしても、や、やっぱり同じ年頃の男女が連れたってこんな場所に来たら、そういう関係性だと思われるんだろうか。
今日の美羽は文句なしに可愛いし。

嬉しいような恥ずかしいような……。



で、当の美羽はといえば黒猫を抱き上げ、真剣な顔つきで何やら言い聞かせていた。



「ケルベロス、今に見ていろ。きちんと一から特訓すれば秘められた力が目覚め、背から翼が生えてくる。そのときにはぼくの眷属にしてやろう」



「人様の猫に名前つけんな。変な調教施すな」



あと俺って猫と同列なの?
……むしろ喜ぶべき?



「……?」



俺と美羽を見比べる、店員さんの不思議そうな目が痛かった。

333ピーチ:2013/03/20(水) 19:20:52 HOST:EM1-114-57-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

そーなの、猫嫌いなの!←

気分か! あたしも似たようなことある!

……ヒナさん、猫と同列か…

334心愛:2013/03/20(水) 23:30:29 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ

大好きってことだよw

…普通に見たらアレだけどね。


はいデート回終了! 実質待ち合わせして猫カフェ入っただけだけども!

とりあえず美羽の意識が変わったってことで一つ←

335ピーチ:2013/03/23(土) 09:48:49 HOST:EM1-114-3-215.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

大好きなんだよね!

デートなんだ!? これデートに分類されるんだ!?←

336心愛:2013/03/23(土) 18:58:47 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

だからタイトルに? がついたんだなw


ほんとのデートができる日はくるのか…。
頑張れヒナ! そしてここあの頭と指!

337ピーチ:2013/03/23(土) 21:50:39 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

なるほどそんな理由があったかw

ほんとのデート…来てくれ!

いや、ここにゃんの頭は問題ないと思う。指は疲れない程度に!

そして時間よ止まれ!←

338心愛:2013/03/24(日) 00:04:43 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

先は長そうだね…(~_~;)


ほんとに時間がほしい!
止まれー!

…いっそ世界中の時計を壊してしまえば時間という概念がなくなr(ぇ

339ピーチ:2013/03/24(日) 00:15:23 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

先は長い方が面白い! あたしが気長に待てれば!

だよねー! 時間なんてありすぎるように見えて全くないもんね!

…その手があったか! さすがここにゃん!←おい

340心愛:2013/03/24(日) 18:17:06 HOST:proxy10051.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ねー!
今のスレは今月中に完結できたらいいなーなんて考えてたのに、まだ半分いったかどうかだもんね…。
夏までに終わるかな(´・ω・`)


よし、まずは家の時計を破壊するか(ぇ

341ピーチ:2013/03/25(月) 21:03:52 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

だよねー!

やっぱり考えが似てる人が居ると安心する!←

家の時計を破壊したらお母さんが鬼になる(おい

342心愛:2013/03/25(月) 22:16:17 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、うちも怒られるのに加えて病院に運ばれるかもしれない←
精神科w


小説は楽しいしいつまでも趣味にしていたいけど、いかんせん時間がね…。

343ピーチ:2013/03/25(月) 22:41:53 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

怒られるで済むかな、うち…←

精神科あり得るかも!

あたしはできれば作家になりたいなぁ…と思ったけどここにゃんで趣味だったらあたしにゃ無理だw

344心愛:2013/03/26(火) 10:53:48 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp
>>ピーチ

作家とな!
なれるよ絶対なれるよピーチなら!

で、なったら教えて、サインもらいに行くわ(ぇ
ここあはピーチのファンだよ!



ピーチは余裕でなれても、ここあのコレは完全に趣味でしか片付けられないからなぁ…。
でもこうやって一年以上やってきて、誰かに見てもらうって楽しさを覚えちゃったわけで←

ほんとは今年でバッサリやめるはずだったんだけど、いつかちゃんとした小説サイトに投稿したりしてみようかな…。

いくら下手でも楽しいんだからしょうがないじゃん! っていうw

345ピーチ:2013/03/26(火) 13:55:47 HOST:EM114-51-147-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

作家ですそうです!

なのに文才が哀しいという←

頑張って読書してんのに、勉強そっちのけで(おい

ここにゃんこそ余裕でなれそうじゃん!

346心愛:2013/03/26(火) 17:15:00 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ

あれだけのもの書ける学生ってそうそういないと思うよピーチ!
自信持とうよ!


読書はほら、国語の勉強だからねヽ(≧▽≦)/
仕方ない仕方ないw


ここあのレベルでは到底無理な話ですよ…←
でも好きなもの書いてお金もらえるとか素敵だよね!

347ピーチ:2013/03/26(火) 21:54:49 HOST:EM114-51-188-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まず周りに小説書いてる友達が少ないっていうw

しかも書いてる友達が後輩で、その後輩にまで負けるっていうねw

だよね! 読書は国語だよね!

ここにゃんだったら絶対プロなれるのに! 謙遜ばっかはよくないぞ!

だよねー! 作家さんとかうらやましいよねー!

348心愛:2013/03/27(水) 13:33:54 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

まず、小説書いてる友達がいる時点でうらやましいよ…。

ここあ、親にバレたら殺されるしね!


というかピーチを超える人っているの…? いなくね?
後輩さん恐ろしい! どんなもの書くんだ一体!

っていうか、作品に優劣とかないと思うけどねw
思い入れが強い方が勝ちだよ、多分!


……将来、一歩も家から出ずに好きなもの書いて過ごしたい……無理だけど。

349優佳 ◆k9BuPe0hZk:2013/03/27(水) 21:11:27 HOST:zaq31fbd3c6.zaq.ne.jp
どうも!

心愛さん>>文章読みやすくていいです!
内容も凄い!

350ピーチ:2013/03/28(木) 07:02:27 HOST:EM114-51-160-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

居たんだよ嬉しいことに!

あたしは親公認(?)だから!←

居る居る、居すぎて泣きたいくらいw

思い入れは強いつもりだよ、一応!

何でー? ここにゃんだったらあっさりできそうだよー?

351心愛:2013/03/29(金) 09:39:40 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>優佳さん

初めまして!
こんなのを読んでくださってありがとうございます(*^-^)ノ
これからよろしくですw


>>ピーチ

いーないーなーw


うん、きっと自分のキャラをどれだけ愛せるかということさ(意味分からん


いやぁ、うち親厳しいから…←
それにここあの落書き程度じゃ逆立ちしたって無理だよ(*´д`*)

352優佳 ◆/78g8W0Be6:2013/03/29(金) 19:18:11 HOST:zaq31fbd3c6.zaq.ne.jp
こんな小説だなんて!凄すぎます(*^_^*)
美羽ちゃん見たいな子が現実にいたらいいだろうなぁ♪

353ピーチ:2013/03/29(金) 20:59:51 HOST:EM114-51-148-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

仲間居ることだけは嬉しいw


そだね愛せてるよ多分!←

うちはそこまで厳しくないよー

逆立ちしたらここにゃんの最高のアイディアがばら撒かれそーだねー!

354心愛:2013/03/30(土) 14:53:59 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
>>優佳さん

まだまだ全然ですよー(=_=;)

そう言っていただけると嬉しいですw
美羽が現実にいたら…色々面倒そうですけどね!



>>ピーチ

いいなーw


いやぁああああ!
ばらまけるほどないけどっ、ここあのギリギリ崖っぷちなアイディアがぁぁあーーー!

355心愛:2013/03/30(土) 14:54:39 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp


『夏祭り』





「なぁ、オレ、思ったんだけどさ」



窓を突き抜けるセミの鳴き声に辟易とする生徒たちが集う教室。
冷房のお陰で冷たくなった机で、各自だらけている。



「これ、夏休みじゃなくて夏勉強期間じゃね? オレ、部活以外勉強しかしてないんだけど……」



確かに、せっかくの夏休みなのに、夏期課外という意味分からん催しに強制参加させられている俺たちの体力はもはや限界と言ってもいい。


何しろ小テストは毎日、中規模でも成績に反映するテストは毎週、さらに定期試験が毎月。
その間に校内模試が挟まってくる上に、無慈悲にも積み上がる課題の山。


私立の中高一貫校よりは幾分マシなのかもしれないけど、青春もへったくれもない高一の夏休み。
課外は午前中で終わるのが唯一の救いだ。



「……百点満点で赤点九割以下とか頭おかしいよね? 先生たちも暑さで相当イッちゃってんじゃないの?」



「忘れがちだけど、『元・(地域名)の神童』の巣窟だからなここ。先生も期待してるんだよ迷惑極まりないけども」



「『元』ね……」



「『元』だな……」



かったるい授業に加えて、この猛暑。
太陽はそんなに人間を焼き肉にしたいんだろうか。

まったく、こんな日はキンキンに冷えた部屋で一日中だらだらマンガ読むに限る。



「そうそう、課題のこの問題集、今年で絶版になったらしいぜ? 難しすぎて、扱える学校がないんだと」



「むしろ使わずにブッケオフに売った方がよくね?」



「バーカ、価値出るまでぴっかぴかな状態で取っといてオークションにかけるに決まってんだろ」



「使わないも何も、提出しないと居残りじゃん……」



ぼそっと呟いた俺の覇気のないツッコミはスルーされた。



「ぼくの妖気をもってしても消すことができないとは、何という暑さだ……」



それにしても暑い。
エアコンはついてるけど、暑いものは暑い。
でも気温というよりは、窓から差し込む日差しの強さと、狭い教室に押し込められたクラスメイト40人のせいのような。
あ、窓ガラス曇ってる。



「ふっ、向こうがその気なら仕方ない。ぼくは灼熱の宴に興じるとしよう……」



「その気って何だよ……」



隣では、黒白ずくめのゴスロリ少女・美羽が頬を赤く火照らせて机にでろーんと伸びていた。
暑いなら、もうちょっと涼しい格好すればいいのに。



「ところでヒナ」



「んー?」



突っ伏したまま、小さな声で呼びかけてくる美羽。
少しためらうように口を噤んでから、




「………夏祭りというものが、あるらしいな」




「ああ、うん。毎年彩に付き合わされるよ」



俺の町では毎年、駅前の商店街辺りでなかなかに大きな夏祭りが開かれる。
道路を通行止めにしたり有名人による企画があったりと、この地域では最も賑やかなイベントだ。



「…………」



「…………」



「………………あー……行ってみる?」



「ふ、ふん、仕方ないな!」



黙ってもの言いたげにじーっと視線を寄越していた美羽がぱっと顔を輝かせ、それを取り繕うような声を出す。


確かに、せっかくの夏休みだし。
一回くらい、美羽との思い出があってもいいかもしれない。



「ヒナがどうしてもと言うなら仕方ない。主であるぼくが付いて行ってやろう」



「はいはい」



そんなに行きたかったのか……。素直じゃないなぁ。



「え、ヒナたちどこ行くの? 僕たちも一緒に―――」



「そうそう、なんかヒナと結野ちゃんってば最近仲良くね? 姫宮ちゃんに続いて結野ちゃんまで取られちゃったら俺泣くよ!」



「なっ、べ、別に良くはっ」



「ふぅん……? 誰が夕紀と美羽を取るつもりだったって?」



「だ、大丈夫だよまいちゃんっ、僕はまいちゃん一筋だよっ」



「お、柚木園がやる気にっ? いいぜドンと来い! 思いっきりッ!」



爽やかな笑顔で拳を握る柚木園を見て、春山が嬉しそうに目を輝かせる。

……奴が姫宮の問いを上手く流してしまったような気がするのは、俺の考えすぎだろうか。

356ピーチ:2013/03/30(土) 21:01:37 HOST:EM114-51-184-84.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

それ以外は色々とうるさいんだけどね、特に勉強に関して

大丈夫! 仮にばら撒かれてもあたしが拾い集めてネタ盗んでから返すから!←こら

357心愛:2013/03/31(日) 20:24:21 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp





「彩、ほんとに行かなくていいのか?」



「うん! 新作の乙女ゲーやるからさ!」



出発前に今日何度目かの確認を取ると、やはり満面の笑みが返ってきた。
多分、美羽が行くと聞いて気を遣ってるんだろう。



「……確かにいつまでも兄妹でってのもおかしいよな。次からは、彼氏できたら一緒に行けよ」




「え、いるよ?」




きょとんとする彩。


え? ……うん?
イルヨ? 要るよ? い、る……………



「えッッ!!??」



「うわびっくりしたぁ!」



彩が耳を両手で押さえているけど、そんなことには構っていられない。



「ただねー」



驚愕に硬直する俺と対照的に、彩は恋する乙女みたくピンク色の吐息を漏らし。




「―――恥ずかしがって画面の中から出てきてくれないの」




「ゲームキャラかよッ!」



がっかりだよ!



「せいかぁい。たっくんは彩の嫁!」



「騙された……!」



「あははっ! ねぇねぇお兄ちゃん。もし、彩がほんとに彼氏連れてきたらどうする?」



連れてきたら、って。
そりゃあ……。



「殴る」



「殴るんだ!」



え、ここそんな驚くとこ?



「……でも、そうだなぁ。それで不幸にならないって、お前が自信持って言うなら……殴らない、かな」



「ちょ、ちょっとちょっと、実の妹ルートに突入してどうするのさお兄ちゃん! 彩じゃなくて美羽さんを惚れさせなきゃ!」



「分かってるよ! 分、かっ……て、るんだけど、ね……」



それができれば苦労しないよ……。



「あ、そろそろ出なきゃ。なんか買ってきてほしいものある?」



「お土産? んーとねー、焼きそばでしょ? たこ焼きでしょ? あとはー、お兄ちゃんの思い出話ってことでひとつ」



「分かった分かった、焼きそばとたこ焼きな」



「お兄ちゃんの意地悪ー!」





゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚





「わ、悪い。待たせたか」



離れた場所で車を降りてから歩いて来たらしい美羽に、「よっ」と片手を上げる。


息を切らせている彼女は普通にゴスロリだった。
……いや、普通にゴスロリって表現はおかしいような気もしますけども。



「テレビで見たときより、人が凄いような気がする……」



「あれ、初めて?」



そういえば、誘われた(?)ときも、そんな感じの口振りだったような。

っていうか、なんで初めてなのに身内の美空先輩じゃなくて、俺と来ようとしたんだろうか。嬉しいけど。

と、いう疑問が顔に出ていたのか、美羽がすぐに早口で弁解を始める。



「ち、違う! 最低限のパーティーにしか出ないぼくと違って美空は何かと忙しいが、特に予定もなさそうなヒナを連れて一回くらい行ってみてもいいかと思っただけ―――じゃなくて、ヒナに付いて行ってやろうと思ってだな!」



今サラッと結野姉妹のセレブ生活の一部が垣間見えてびびったけどそれには触れず、「そ、そか」と言うに留めた。


その後、漂う甘い匂いに釣られて蝶みたいにふらふら屋台に引き寄せられてしまった美羽とわたあめを購入。

最初は棒に纏わりつくふわふわした物体をしげしげと眺めていたものの、



「……甘い」



おっかなびっくり、ちょっとずつなめては嬉しそうに相好を崩す。
なんか和む光景だった。



「おっ! そこのお嬢ちゃん、ヨーヨー釣りやってみない?」



ゴスロリ少女が相手でもさすがのお祭りテンションと言うべきか、もの凄くイイ笑顔を向けてくるおじさん。

人見知りモードが発動し、困惑して後ずさる美羽の背中を押して彼のもとへ。
流れで一応釣り紙は持ったものの、やり方が分からない様子で固まっている。……マジですか。



「貸して」



仕方なく、後ろからそれを奪い取る。



「ひぁっ」



「どれがいい? ……って……あ」



と、しゃがんだ彼女の背中がびくっと震えるのが分かるくらいに密着してしまっているのに気づき、遅れてどっと汗が噴き出してきた。

この体勢はまずい。色々と、まずい。



「こ、これ? これだねっ?」



早くしないと心臓がもたない。
俺は釣り紙を握りしめ、さっさと終わらせようと躍起になったのだった。

358心愛:2013/03/31(日) 20:35:57 HOST:proxyag112.docomo.ne.jp
>>ピーチ

残念ながら盗む価値のあるアイディアは微塵もないと思うよ!
ストーリーのオリジナリティがほしい…←


やっと次から夏が終わり始めるかな!
…季節感ねえー。

359ピーチ:2013/03/31(日) 20:49:39 HOST:EM114-51-186-14.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ヒナさん頑張れ! こーゆーときの美羽ちゃんはいつも以上に可愛いんだから!←

盗むアイディアがありすぎる気がする!

大丈夫! 季節感ないのはあたしも一緒だ!(こら

360心愛:2013/04/01(月) 21:14:55 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美羽可愛い? そうだといいな←

と言いつつもこれでお祭り終了という鬼進行w

ヒナの健闘を祈ろう!


アイディアも何もただの思いつきと言うかなんと言うか…
ほんとにカスばっかりだよ!

361ピーチ:2013/04/01(月) 21:41:38 HOST:EM114-51-206-242.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

可愛いじゃん! めっちゃ可愛いじゃん!

お祭り終わったよ早いね!

いやこの神文章のどこを捕まえてカスと言う言葉が出てくんの!?

362心愛:2013/04/02(火) 12:46:55 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>ピーチ

次のデートもどきっていうか進展ありのイベントは、旅館にお泊まりになるかなw


徹頭徹尾すべてを通してカッスカスだよ!

363ピーチ:2013/04/02(火) 18:58:45 HOST:EM114-51-136-117.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

イベントーw

旅館だー!←

ここにゃんでカスだったらあたしのゴミにさえなれないじゃん!

364心愛:2013/04/03(水) 15:55:34 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp


『試験勉強』





「いいか彩。お前は俺と同じで頭は良くない」



「あっさり!」



べたりと机の上に倒れ込む彩を「まぁ聞け」と促し、俺は腕を組んでちょっと威圧的に言ってみる。



「けどな。凡人は天才にはなれない。でも、秀才にはなれるんだ」



「なんだろう、なんか凄く深いこと言われた気がする!」



夏休みも終わりかけのこの時期、彩がいつまでもだらだらだらだらしていて勉強をちっともしないので、兄による説教タイムが始まったところだった。


休み明けにはテストが控えてるのに、何やってるんだよこの愚妹。



「だって彩、勉強嫌いなんだもん……。英語とか、日本ではやんなくても生きていけるよ……」



「英語なんかパターンと単語分かれば一番点取りやすくて楽しい教科じゃんか。何が嫌なんだよ」



「嘘だ! 少なくとも彩にとっては一番点取りにくいよ!」



「そう言われても俺、中学まで英語で95点以下とか取ったことなかったし……」



「変人がいるぅー!」



めそめそ泣く彩。失礼な。



「うう……英語はもういいよ……。他の教科で、なんかやる気出る勉強方法とかないの?」



「試験範囲の問題集を全部暗記する勢いで頭に叩き込め。目ぇ瞑ってても問題と答えが浮かんでくるくらいになれば、テスト終わってもそこそこ記憶に定着するから」



「彩は人間だよ!?」



「たった5教科だろ? 全部95点以上で100点2、3教科取れば学年1位はほぼ確定。頑張れ」



「赤点回避すれば十分なんだけど!」



「情けないこと言うなバカ。お前俺の妹だろ」



「彩はお兄ちゃん大好きっ子だけど、こればかりはお兄ちゃんの妹に生まれてきたことを心底後悔するよ……」



彩は何故かどんより暗い影を背負っていた。



「もー、お兄ちゃんじゃ話にならないよ! ちゃんとしたアドバイスくれる人はいないの?」



「えー……なら美羽にでも訊いてみる?」



言って、スマホを手に取る。

美羽に電話をかけるのも随分と慣れてきた今日この頃です。



『……勉強のコツ?』



突然の通話を迷惑がることもなく、美羽は少し考えてから。



『努力あるのみ、だな。悪いが、特に効率的だったり、変わったことをしているわけでもない』



「あ、やっぱり?」



言動の残念さを除けば割と真面目で努力家な彼女らしい答えが返ってきた。



「でも、美空先輩に教えてもらったりしないの?」



確か、先輩は相当頭良いって話を聞いたことがある。
美羽にべったりだし、そういうこともあるんじゃないのかな。


もし時間あれば、是非とも彩の家庭教師をお願いしたいくらいなんだけど―――



『いや、美空は教えるのが壊滅的に下手なんだ。自分が完璧に理解していても、相手がどうして分からないのかさっぱりでな。もう諦めた』



「……あー」



なるほど、そういうタイプか。
俺はなんとなく納得する。



『で、その美空と言えば、だが』



美羽が明日の天気でも話すみたいに何でもないような口調で―――こんな衝撃発言を繰り出した。

365心愛:2013/04/03(水) 15:56:41 HOST:proxy10045.docomo.ne.jp






『この前の模試で、総合科目全国1位を取ったらしい』




「……………は?」



なにそれ、え?


……いや。いやいやいや。



「えええええええええ!?」



『にゃわっ』



数秒遅れて、『うるさい! 耳が壊れるかと思ったじゃないか!』という怒った声が聞こえてくる。



「……美空先輩が、……ぜんこく……? え、模試ってあれでしょ? 最高峰の学校しか受けないっつう……まさか、冗談だよね」



「残念ながら本当だ。あいつは昔からぼくに遠慮するところがあるから、こそこそ隠していたが」



マジですか……。
美空先輩はドジ属性を抜けば、飄々としていて何でも器用にこなすイメージがあったけど。


身近にそんな凄い人がいるって、いまいち現実味が沸かない。



「そういうのって都内のエリート高校じゃないと有り得ないと思ってたよ……」



『うちでもごく稀な快挙だそうだ。……ああ。受験前に、教師陣にかなり手酷く叩き込まれたらしいがな』



「そ、そうだよね! 授業とは別に特訓とかしないと無理だよね!」



『いや、ケアレスミスと名前の書き忘れの注意を』



…………。



「うん、次元が違うってことが良く分かったよ」



どうやら先輩の今回の成績は、天性のドジを発動せず、本来の実力を発揮した結果ということらしい。化け物か。


電話越しに美羽は『まあな』と笑い、



『ぼくは一生、美空と同じ世界を見ることはできない』



「………」



一瞬、かける言葉をなくす。


確かに、そんな優秀な姉を持つとなれば、美羽にかかる圧力だって尋常ではないだろう。
美空先輩の名声は、美羽を守るだけじゃなくて、彼女を追い詰める凶器にもなる。



『……でも、昔からあいつの背中ばかり見てきて、いつからかこう思うようになったよ』



なのに、美羽の声は劣等感なんて微塵も感じさせないくらいに―――不思議な程に、優しいものだった。




『大抵のことは、天才の何十倍もの努力をすれば、いつか凡人でも必ず追いつける―――と』




プライドが高く、良くも悪くもまっすぐで、“理想”のためには努力を惜しまない。
美羽が今の美羽になったわけが、なんとなく分かったような気がした。


その先輩にかける想いはきっと、先輩が美羽を大切にする気持ちと同じくらいに強い。



「……自慢のお姉さんだもんね」



『……ふん。一応、尊敬はしている』



照れ隠しにそっぽを向く様子が目に見えるようだ。


今の、美空先輩が聞いたら喜ぶだろうなぁ。

美羽が大好きで優しくて、本当に非の打ち所がない、良いお姉さんで―――



『ドジだがな』



「ドジだけどね」



うん、そこは忘れちゃダメだけど。



美羽に礼を言ってから通話を切る。


それにしても、当初の目的が消し飛ぶくらい、凄い話を聞いてしまった……。

彩に偉そうに話してたのが、今になると若干恥ずかしい。



「……彩、勉強します……」



「……分かってくれて何よりだ」



でも、元々の目的は達成されたので良いとしよう。

366ピーチ:2013/04/03(水) 21:27:21 HOST:EM114-51-142-165.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

嘘でしょヒナさん!? あたし英語なんて赤点取らなかったことないよ!?

そして美空先輩!? 全国で一位ってどーゆーことですかっ!?

…………彩ちゃんの気持ちがよーく分かるのはなぜだろう←

367心愛:2013/04/03(水) 22:17:05 HOST:proxy10060.docomo.ne.jp
>>ピーチ

マジか(・∀・)

ここあは中学時代、95…と言いたいとこだけど94点以下は取ったことないんだぜ! 英語だけは!
ちなみに、基本的にヒナと同じ考え方のここあは友達に「キモい」と言われました。悲しいね。
一回得意になっちゃえば、頑張ったぶんだけ点数が伸びる教科だと思うよ英語!


美空は、ここあの学校の先輩が去年全国1位取っちゃって騒ぎになったからそれを使わせてもらいました! ごめんね先輩!

…さらにちょっと自慢すると、ここあは今年、とある模試の国語で全国5位だったんだよ(*´д`*) えへん。
数学は底辺だけども!

まあここあでも奇跡的にこんな順位取れるんだから、美空もいけるさ! と頑張らせてみた(*^-^)ノ


…「学校のお勉強ができる」と「頭がいい」ってのはまた別物だけどね←


長文すみませんw

368ピーチ:2013/04/03(水) 22:48:38 HOST:EM114-51-142-165.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いーないーなー! あたしなんか英語の単元テストで堂々の10点取ったことあるんだぞー!←

キモいんじゃなくて何でそープラス思考で考えられんの!? ってことで驚きですはい。

一回も得意になれない教科だと思うよあたし……

美空先輩何でもできるもんね! ちょっとドジだけど!

369心愛:2013/04/04(木) 21:15:35 HOST:proxyag102.docomo.ne.jp
>>ピーチ


大丈夫さ! 今から巻き返せばいいだけのことだよ!

ここあ的には数学が一番恐ろしい…。



苺花と比べると、美空は先天的な才能が大きい「なんでもできる」子ですねw
でもちゃんと努力はしてるよ(`・ω・´)

370ピーチ:2013/04/04(木) 21:43:46 HOST:EM49-252-234-200.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

今から巻き返せる…かなぁ?

数学理科英語この三教科凶器デスネ←

努力家の天才…羨ましいよぉ…

371心愛:2013/04/05(金) 15:55:33 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

大丈夫だよ、あれだけの小説書ける頭があるんだから!
自信を持てー!

372心愛:2013/04/05(金) 15:55:56 HOST:proxy10026.docomo.ne.jp


『進路アンケート』





「将来就きたい職業……ねぇ」



進路指導部から出された提出必須のアンケート。
第一志望大学、平日休日の勉強時間なんかの中に、そんな欄を見つけた俺はシャーペン片手に唸った。


どうしよう、分からん。



「なんて書いた? これ」



「闇の女王」



「美羽に訊いた俺が馬鹿だったよ」



担任からの呼び出しは確実だ。



「なんだとっ」



「……え、えーと、姫宮は?」



後ろを振り返って、紙の該当箇所を見せてもらう。
丸っこい字で書かれていたのは―――



「看護師?」



「うん。家が医療系だから、なんとなく」



この笑顔で看病されたらどんな病気でも一瞬で治りそうだ。
癒し効果ってことで姫宮セラピーとか新しく始めてもいいんじゃなかろうか。



「小さいときはお花屋さんかケーキ屋さんになりたかったんだけどね」



乙女か。


と思っていたら、その隣の柚木園がびくっと反応していた。



「……柚木園?」



「えっ? い、いや、まさか! 子供の頃とはいえ、私がそんな夢見るわけがないでしょっ?」



……こいつも乙女か。


「まいちゃんかわいー」と姫宮が嬉しそうに微笑んでいる。お前もな。



「なるほどなるほど。あとひとつはもちろんお嫁さ―――」



「な、な、なんで知っ……じゃない! 違う! ぜんっぜん違うからそんな目で見るのやめてよヒナ!」



まさかの正解。
なんか柚木園が可愛いんですがどうしましょう。


耳まで赤く染めて涙目になってしまった柚木園。
可愛いけどさすがに可哀想なので、罪滅ぼしに彼女のペースに戻してあげようと俺は口を開く。



「ホストとかヒモとか向いてそうだよね。性別隠せるならだけど」



「うん、是非ともやりたい。女の子を幸せにできる仕事がいいなぁ………でも、ね」



ひも? と首を傾げている姫宮を見て、柚木園はふっと微笑んで。



「それはあきらめるしかないか」



「ん。それがいいと思う」



「具体的な職業っていうと、私も迷ってるんだよね。未定って書いとこうかな」



「じゃあ素直に『お嫁さん』って書けばいーじゃん! 心配しなくても姫宮ちゃんが貰ってくれ―――あふんっ」



ゴスッ。
登場と同時に殴り飛ばされた春山が床に転がった。
この間僅かに二秒。

柚木園は拳を握りながら、ビキビキに引き攣った笑顔を作る。



「少し頭、冷やそうか」



「ど、どうどう」



そして名前が挙がった当の姫宮はというと、真っ赤になってもじもじしながら。



「あ、あのね? 男は18歳からしか結婚できないし、そういうのは大学を卒業してから考えることで、ね……?」



「もうやだこのクラス!」



あまりの羞恥に耐えきれなくなったらしい柚木園が耳を押さえて喚く。いやあ、青春だね。



「で……春山は? やりたい仕事」



床でハァハァしている変態は、満面の笑みで親指を突き出して。



「犬」



「え、えと、春山くん? だ、大丈夫……?」



「夕紀、それは頭がってこと? それとも顔? 人格?」



「全部だろうな」



「せめて一つに限定しろよっ?」



春山には特に遠慮がなく冷たい柚木園と美羽。
悦ばせるだけで逆効果なのに。



「やだなぁ、いくら俺でも自分が霊長目ヒト科だってことくらいわきまえてるから! 下僕と書いてイヌと読む方だって!」



「分かってるよ! 分かってるから引いてるんだろ!?」



高校生が将来の夢に動物を希望していたら色々問題だ。
叶うとしたらそれは来世の話だろう。



「そー言うヒナはどうなんだよ」



「えー……」



ほとんどなんの参考にもならなかった自由な回答たちを思い出し、



「……今のところは公務員にしておくよ。堅実に」



「地味だな」



「ツッコミようがないねー」



「高校生のうちくらい、こういうとこでボケといてもいいんじゃない?」



「空気読もうぜー、ヒナ」



「お前ら全員公務員の皆様に謝れ!」



一番まともなのになんで非難されなくちゃならんのっ?

373にゃにゃですが:2013/04/05(金) 16:53:43 HOST:zaq31fa522f.zaq.ne.jp
↑お前のスレつまらん
ゴチャゴチャぬかすな

>>1
毎度毎度糞スレ御苦労様

374ピーチ:2013/04/05(金) 21:00:17 HOST:EM114-51-47-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

何でだろうヒナさんがもの凄く哀れに見える!

あたしも小さい頃は花屋とかケーキ屋とかそこらへんの人が書いてたのを真似してた気がする←

確かに公務員の方々に悪いね、それはw

375心愛:2013/04/11(木) 22:42:10 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ヒナは哀れなポジションだからねw

花屋ケーキ屋は小さい女の子の夢だよね!
男と男装少女の夢としてはアレだけどね!


ここあは昔は歌手になりたいとか言ってた気がする(つд`) …なんでやねん←

376ピーチ:2013/04/12(金) 05:48:54 HOST:EM114-51-151-123.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いや哀れすぎるでしょいくら何でも!?

うーん、ちょっと男の子はなー…←

あたしなんか色んな仕事掛け持つ、とか言ってたからね!←

377心愛:2013/04/12(金) 19:09:07 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
>>ピーチ

掛け持ちか!
それだけ聞けばデキる女っぽい(`・ω・´)



さてさて、旅行編スタートだよ!

378心愛:2013/04/12(金) 19:09:50 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp


『温泉旅行』





「そろそろ修学旅行のシーズンだねー」



くてーっと机に突っ伏した姫宮がこちらを見上げてくる。
そのほわほわした笑顔に、同じくほわほわした気分になりながら。



「高校生で一番のイベントだよなー」



「高二の人が羨ましいよねー」



ほわほわーっと微笑みあった後―――二人して声を揃える。



「「なんでうちはないんだろ……」」



そう。俺たちの学校、南高に修学旅行はない。
分かってたことだけど……学校生活が楽しくなってきた今、それを思い起こすとちょっと悔しいというか虚しいというか。



「まあまあ。勉強合宿とかないだけ感謝しようよ」



柚木園がさらりと大人の発言。
姫宮は唇を尖らせる。



「でもやりたかったなぁ……。みんなでお泊まりって楽しいよね」



「うん、特に夕紀はそういうの好きそう」



姫宮は「好きだよー」とにっこりし、



「中学のときは旅館に泊まったんだ。でもみんなでお風呂だーって楽しみにしてたのに、僕が行ったときには誰もいなくて……残念だったな」



「そりゃ良かった」



「えっ? なんで!?」



いくらこいつとそこそこ仲がいい俺だって、姫宮が男湯に入ってきたら動揺しない自信はない。



「旅館っていいよね。私はホテルだったよ」



「わ、なんか豪華な感じだー」



柚木園の話ににこにこした姫宮が、次いで俺に話を振ってくる。



「で、ヒナはなんかいい思い出とかないの?」



「……俺の、修学旅行の思い出かー……」



俺はふっと微笑み、目を霞ませて遠くを見る。


修学旅行。修学旅行ね……。



「憂鬱すぎる班決め……人数合わせで無理矢理放り込まれた俺+仲良し三人組……みんなが盛り上がってる中寝たふりをした新幹線……」



「ひ、ヒナ?」



「悪夢の自由行動……きゃっきゃしている三人の後ろを数歩離れてついていく俺……特に行きたくもない寺巡り……『みんなで写真撮ろーぜ! ……あ、日永君いたんだ! 撮ってくんね?』……っつーか班で俺だけ名字呼び……」



「ひ、ヒナ! 戻ってきてーっ! こっちの世界に戻ってきてぇー!」



必死になった姫宮にガクガク肩を揺らされるも、俺はぼーっとしたまま思い出話を吐き続ける。



「『すげ、お前あいつと話せんの? マジ勇気あるわー』『だって一回話したことあるもん、この前の罰ゲームで』『え、名前なんだっけ?』……はっ!」



覚醒した。



「ちくしょう、いい思い出なんかあるかよバカーッ!」



「ごめんねヒナ! 僕が悪かったよ!」



「その思い出は胸の奥にそっと封印しておいて!」



力いっぱい叫ぶ俺をとりなす二人。


うぐ……べ、別に自分の話でうっかり傷ついてなんかないんだからね!



「美羽は? どうだった?」



話題転換のつもりなのだろう、今までだんまりをきめこんでいた美羽に、柚木園がさり気なく話し掛ける。

それに。
俯いた美羽は、きゅっと軽く拳を握った。




「……行ってない」




なかった、でもなく。


暗い声でぽつりと紡がれたその一言は何故か、ずっしりと重くて。



「え、えーと、……」



何かしらの事情を察知した俺と柚木園が瞬時にアイコンタクトを交わし、間を保たせようと口を開いた、その矢先に。




「やり直そうよ!」




姫宮が元気よく声を上げた。


はい? と目を丸くする俺たちに、姫宮は満面の笑みで提案してくる。




「京都とか奈良とかまでは行けないけど、このメンバーでお泊まりしてみない? ちゃんと旅館取ってさ!」




「お、おお……! すげえ、なんかリア充ぽい……!」



とてもまともかつ素晴らしい案に感動する俺に続き、柚木園もにこりと笑う。



「ただの旅行だけど修学旅行気分で、ってことか……。私はもちろん賛成だけど、どう? 美羽」



急速に展開する話に、驚いたように赤い瞳を見開いていた美羽が、数秒遅れてこくんと頷いた。



「あ、……あの……そういうことなら、美空も一緒でいいか? あいつなら、宿泊する場所も上手く話をつけてくれると思う」



「そうなの? もちろん大歓迎だよっ」



任せてくれ、と言う美羽は、やっぱり少なからず嬉しそうだった。

379ピーチ:2013/04/13(土) 19:16:45 HOST:EM114-51-187-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

今はそんな世間知らずなこと言えるわけないけどね!←

ヒナさーん! 戻ってきてぇー!

哀しいよそれ無茶苦茶哀しいよ!

380心愛:2013/04/14(日) 19:59:55 HOST:proxyag059.docomo.ne.jp






「一ノ瀬、さん……ですよね。お世話になります」



「こちらこそ。姫宮様と柚木園様でよろしいですか? 美羽様から常々お話は伺っております」



「一ノ瀬! 余計なことを言うんじゃない!」



広々としたリムジンの車内。
連休を利用して、俺たちは予定通りに旅館へと向かっていた。


グレーのボタンダウンシャツにジャケット、細身のデニムというラフな装いの昴さんが運転席から涼しげな微笑みを向けてくる。

高校生だけでは不安だと考えた美羽たちのお父さんが、保護者兼運転手として彼を任命したらしい。
昴さんに好感を持っている俺としては嬉しい誤算だ。



「美羽ちゃんは照れ屋さんだからねー。でもあんまりつれないことばっかり言ってると、女の子の友達できないぞ?」



昴さんの隣の助手席で、水色のミニワンピース、ブラウンカラーのブーツ姿の美空先輩が振り向いて「圭くんはいいけどねー」とにやにや笑う。

案の定、後部座席の美羽はすぐに噛みついた。




「誰が照れ屋だっ! それにそんなもの、苺花だけで十分でっ―――………………あ」




……あれ、そういや美羽が柚木園のことをちゃんと呼んだのって初めてじゃね?



「……み、美羽〜〜〜っ!」



「ち、違う! こ、これはっ、……ぁ、わ、だ、抱きつくな! 抱きしめるな! く、くるし……っ」



口を片手で覆う美空先輩がこらえきれず「くふふ」とほくそ笑んでいるのが見える。
……まさか、今のって先輩の誘導……?


いや、それより。



「……俺、負けてない?」




幸い俺の呟きは、賑やかな後ろの二人や、早くも俺の隣ですぅすぅ寝息を立て始めた姫宮(昨日楽しみで眠れなかったとか可愛いことを言っていた)には聞かれることはなかったようだ。


それにしても男女混合で旅行とか、勝ち組ぽいよなーとか考えて、一人でテンションを上げてみる。

だって年頃の、しかも気心が知れた仲間と旅行だ。否が応でもわくわくしてしまう。



「ふ、ふ……っ、そんな攻撃、ぼくの物理障壁にかかればなんてこと……っ」



「あーもう美羽は可愛いなー! 膝に乗せたくなってくるよ……ぎゅーっ」



「すっかりキャラが変わっているぞっ? いつもの王子キャラはどこへ行ったんだ!? そう簡単に捨ててい……ひゃわっ」



「ん、あれ? 旅館ってもっとあっちの方じゃなかったっけ?」



「いえ、合っているはずですよ。……お嬢様はドジでいらっしゃる上に、極度の方向音痴なのですから……」



「なにそれひどーい! バカにしないでよ、今日は朝から三回しか転んでないんだから!」



……ちょっとだけ、メンバーが強烈すぎるような気もするけども!


これに『男三人で一緒にお風呂だとッ!? しかもお泊まり、ちょっ、きゃっほぉ――――うッッ!!』と奇声を上げていた彩を追加したらどんなに恐ろしいことになっていただろう。想像したくもない。



「―――圭様、あと10分ほどで着きますよ」



「え、マジっすか! 意外とそこまで遠くないんですね」



窓の外の景色を眺めることしばらく、昴さんがミラー越しに薄く微笑んできた。
多分姫宮が寝てしまって話し相手がいない俺を気遣ってくれたんだろう。昴さん優しすぎる。



「そうそう。結構いいとこだから期待してて大丈夫だよ」



「……っていうか先輩、そこそこ人気の旅館を無料で完全貸切とか、どんな荒業使ったんですか?」



そう。美羽の言った通り、急な話にもかかわらず、美空先輩はあっという間に最高の条件で手配を済ませてしまったのだ。
そんな上手い話、裏があるようにしか思えないんだけど……。



「え、別荘のが良かった?」



「べっ……!?」



「今から行くとこって、特別観光地ってわけでもないからね。でも別荘は夏の方がいいなー。せっかく海あるんだし」



ぽんぽん飛び出すとんでもないセレブ発言に間いた口が塞がらない。



「あ! そういえばこの辺に新しいホテル出来たんだよね。そこもあたし顔利くんだけど、今からでも無理やりねじ込―――」



「旅館サイコーッ!」



ケータイを探しだした先輩の台詞を遮り、俺はぐっと拳を握る。
なんか良く分かんないけどこれはやばい、と俺の本能と止まることのない冷や汗が告げていた。

381心愛:2013/04/14(日) 20:07:34 HOST:proxyag059.docomo.ne.jp
>>ピーチ

夕紀の中学の修学旅行でお風呂に誰もいなかったのは、どこかの会員の皆さんの仕業なんだぜ……?
悲しかったぶん、ヒナには今回ちゃんと楽しんでもらおう! うん!


そして始まりました旅行編、今回名前も登場してない某クラスメイトがいるような気もしますがここは気にしない方向で!

美空は無敵だよ! ドジさえなければ!


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