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鈴扇霊

6ピーチ:2012/06/04(月) 00:21:00 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第一話・裏組織』

「・・・迷えし魂よ・・・今還れ、己の行く道へ」
七月半ば。小中学生・・・他には、高校生までがそろそろ夏休みに入るといった時期だ。昼間も、かなり暑い―――が、そんな暑さも忘れ去るような涼やかな鈴の音が、どこからともなく聞こえてくる。
りん・・・と儚げな、優しい鈴の音色が、あまり人気(ひとけ)の無い学校の一部に響き渡る。その音が完全に響き終わったのを認めて、その少し後に、いささか不機嫌さを含んだ少し高めの声が響いた。
「・・・で?何でこんな所にいるの?」
神代 天音。その外見こそ普通の中学生だが、実際はただの中学生ではない。強いて言うなら―――能力者。
その中でも、彼女はある一種の裏組織・裏界(りかい)に所属している。・・・と言うより、裏界の中で二番手を誇る実力者とも言えるだろう。尤も、数少ない組織の中での「二番手」だが。
「何でって言われても・・・多分、同じことを感じたから」
その天音の声を聞いて、少し後退しながら答えるもう一つの声の主は、飛鳥井 小夜。彼女もまた、強いて言っての能力者。しかし、天音とは違う組織・闇夜(やみよ)に所属しており、天音とはいささか非友好的な関係。本来なら、闇夜に所属している人間がもう一人この学校内にいるが、今は別の用件で学校を休んでいる。
「・・・来た所で、何もできないくせに・・・」
と、忌々しげな視線を向ける。その視線に対し、小夜がしっかり反論する。
「な、何もできないわけじゃ・・・」
「・・・だったらあなたに何ができるの?私はまだ、今みたいな霊を送り届けることができる。その能力を受け継いでるから。じゃあ、あなたは?咄嗟に使える特技と言ったら霊感くらいでしょ?」
天音の尤もな意見に、小夜はぐっと押し黙る。そう。天音は紅色の鈴と同じ色の紐を用い、「鎮めの唄」を唄ってその迷える魂の「行くべき所」へと向かう道を創る仕事を担っていたのだ。そして、これからも担っていく。それが、天音の中での“誓い”の一つでもある。
これは、神代家に代々伝わる特殊な能力(ちから)であり、天音はその血を色濃く受け継いでいる。したがって、その実力は神代家の中でもずば抜けている。それと同時に、妖や邪を放つもの、土に還ったことを認めぬ霊などを封じるための道具―――紅い扇を用いた「封邪」を駆使し、その扇に半永久的に封ずることをも専門とする家系だ。
「とにかく、私はあんたに助けを求める気はないから」
それだけ言って帰ろうとする天音を見て、小夜が慌てた口調で言った。
「ちょ・・・この学校に、「裏界」の人間が一人しかいなくても!?」
小夜の言葉に、天音は一瞬立ち止まった。そして、振り返らずに、無表情な声音で言った。
「別に。私には父さんや母さんがついてるから」
そう。自分には、あの男に殺された両親がついてくれている。
それだけの会話で、天音が一方的に踵を返した。
「あ・・・っ」
そう言った声は天音には届かず、しかし別の人間に届いた。
「あーあ、完全に相手にされてねぇな」
これじゃあ俺もやばいじゃん、と少々困ったような声が聞こえる。
その声を聞いた小夜は、咄嗟に振り返り、後退った。
「・・・別に、学校でまで何かする気ねぇから」
そう言って周りをぐるりと見渡した人間は、三池 猟弥。天音や小夜とは敵対関係にあり、その二つの組織とも違う、また別の組織・境界に属している。境界は、「闇組織」とも呼ばれている。裏界や闇夜とは、また別の意味での「闇」で活動しているような組織だから、そう呼ばれるのだ。
「大体、今回は神代に用があっただけだしな」
「え?」
「いや、別に」
そう言って、猟弥はそのまま踵を返した。


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