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時と悪魔と契約と

5森間 登助 ◆t5lrTPDT2E:2012/06/03(日) 10:17:53 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 この美少女は実体ではない、幻覚だ。そう自分に言い聞かせ、俺はそのまま歩いて行く。
「一丁前に無視か、それともこっちに向かって喧嘩打ってるのかい?」
 悪魔のコスプレをした美少女は腕を組んで俺を睨み付ける。恐れるな、これは幻覚だ。ツンデレ大好きという俺の幻覚だ。
 幻覚・幻聴、だから透けて通れる。俺はそのまま歩き続け――――

 ――――腹部に拳が食い込んだ。

 肉と骨がぶつかり合う音が鳴り終え、ゆっくりと拳が引かれる。
 俺は意識が朦朧とし、折った膝を床へと落とした。口内に鉄の味が充満する。
「うぅ……」
 そして、うっすらと開いた目で俺は見た。
「これほどまでに馬鹿な人間は初めて見たぞ」

 悪魔の羽で飛んでいる、少女を。

 ――
 ――――
 俺は気が付いたら、自分の部屋で正座させられていた。その正面には、背中の翼を羽ばたかせて宙に浮く悪魔コスプレ……いや、少女悪魔の姿がある。
 狭い部屋の中で羽ばたきながらゴスロリ系の洋服を靡かせている様子は……例えようがない。何せゴスロリに角と蝙蝠のような翼なんだから。
 唯一共通点を付けるなら黒いと言うところだろうか。相手の瞳だけはルビーのように赤く輝いているが。
 すると、相手は急に鋭い視線。
「…………」
 正座したまま、俺、硬直。
 ここまで見せつけられたら恐怖心がボルテージマックスになるのも無理はないだろう。ああ、俺、輪廻のサイクルから外されるんだろうな……
「……まあそう恐れるな。確かに少し乱暴だったが、私も反省している」
 俺の身体が小刻みに初期微動しているのに気付いたのか、少女悪魔は謝罪した。物理的にも比喩的にも、上から目線だが。
 反省って言っても、殺される予感しかしない。ああ、死ぬんだったら天使に運ばれていきたかったよ。眠いよパトラッシュ、的な。
「で、私が誰だかはもう分かるよな?」
 少女悪魔は羽を休め、床のカーペットへと足を下ろす。
「悪魔、みたいな……?」
 俺の口からは曖昧に言葉が放たれた。わざと曖昧に言ってしまうのは、今自分がこの状況を信じたくないからだろう。だが、現実とは避けられない物である。
「そういう事だ」
 薄々は感づいていたが、まさか本当だったとは……
 俺の中の半信半疑が、否応なしに全信無疑に変換される。そして、身体の震えはついに主要動へと本性を現していた。
「お前、何か勘違いしていないか?」
 少女悪魔が、俺の震える身体を見ながら何やら呟く。
「……え?」
 疑問が優先度を増して、恐怖が一時的に俺の前から消えた。
 ポカンとしている俺をおいて、少女悪魔は言葉を続ける。
「確かに人間界では、悪魔は人の命を何かと交換するみたいな伝説があるが、冥界のルーツでは死神が担当する事だ。それに私は部署が違うから、死神にもあったことがないぞ」
 冥界に部署とかあるんかい。
 しかし、今の解説で俺の恐怖と警戒心が弱まった。やはりどこに住んでいても社会というのは存在するようだ。人間も悪魔も不思議な生き物である。無論、悪魔が実在するなんて知らなかったが。
 ……とはいえ、俺の主要動でそこまで推測できるとは。
「では、そろそろ本題に移らせて貰うが……お前、時間が戻せたらって思っただろ?」
 少女悪魔は改まった様子で俺に言う。
「…………はい」
 時間を戻したい。その感情はフラれた時以外にも存在していた。自分の不幸は人並み以上なのだ。
 しかし、悪魔なら相手の感情も読めると言うことなのだろうか、言っていることは合っていたが不気味な感じが否めなかった。
「そんなお前の願いを叶えてやろう。私の優しさに感謝し、そして崇めろ」
 いや、有り難いけど優しさが明らかに矛盾してます。全く、こんな綺麗で可愛いのに変な育ち方して……。親悪魔の顔が見てみたいな。
 しかし本当に口にしたら何されるか分からないので、土下座で礼。
 少女悪魔はそれに満足したのか、自慢気に鼻をフフンと鳴らした。
 とりあえずご機嫌は取れたようだ。俺は一安心して頭を上げる。
「じゃ、試してみろ。自分の夢が叶うかどうか」
 俺が顔を上げた先には、少女悪魔が黄金に輝く懐中時計を俺の目の前に差し出していた。


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