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Shangri-La――シャングリラ――

17bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/04/14(土) 00:17:01 HOST:p1181-ipbf1608sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp

Episode.6 Reincarnation<再来>

純白を捨て、漆黒に堕ちた天使。
彼らの一度目の襲撃から数日が経過した頃、ある〝怪事件〟が人間界――ケルント国内を騒がせていた。
それは囁かれる噂や新聞、あらゆるかたちでエステヴァス家に伝わる。
シトシトと雨が降り続く中――屋敷の自室で新聞の表紙を飾る記事を暫く目で追った後、イリーシャは傍らで同じ場所を見据えているバラリオに語りかけた。
「〝名門ウィングベル家、謎の失血死を遂げる〟、その後相次いで数人の被害者が……明らかに怪しいわよね、これ」
イリーシャが読み上げた大きな見出しの横には、今回最大の被害を受けたウィングベル一家とその他数名の顔写真が掲載されている。
バラリオはその一人ひとりをじっくりと眺めた後、一面に羅列する文字の一部分を人差し指でなぞった。
「ええ、〝現場と遺体の傍には、決まって漆黒(くろ)い羽根が〟……これは天使のもので間違いないでしょう。本格的に動き出したようですね」
エステヴァスと同じく、ケルント内で名門貴族として知られるウィングベル家。その高度な防犯装置(セキュリティ)の網を掻い潜り、いとも簡単に屋敷の人間を手に掛ける――とても人間の成せる業(わざ)ではない。
「失血死って……」
そう呟き、イリーシャが僅かに青褪める。一体どれ程の血が流れ出たのか――実際そのような状況に身を置いた事は無い為想像にすぎないのだが、その光景を描く脳内では妙に現実的(リアル)な映像が流れていた。
「恐らく動機は数日前の襲撃と同様……お嬢様?」
ぽつりと呟くなり黙り込んでしまったイリーシャに、バラリオが言葉を切って問い掛ける。
「え、あ……御免なさい、続けて頂戴」
生まれてから現在(いま)まで、そこまで大量の出血を目にした事はない。つまりは十分な耐性が無い為に少々意識を飛ばしかけていたイリーシャは、横から響いたバラリオの声に新聞から顔を上げた。
――その表情に浮かぶ、微かだが明らかな〝恐怖〟。隠し切れずに滲み出ているそれは敢えて指摘せずに、バラリオはただ返された言葉通り改めて口を開く。
「家柄問わず被害者全員に共通しているのは、致命傷となった〝逆十字〟の傷跡が首筋に刻まれている事です……恐らくあの夜、貴女にも施される筈だったものでしょう」
「私に……」
あの夜――そう言われて浮かぶのは自分に迫る刃。あの時天使と名乗った男は、確かに〝血を寄越せ〟と言ってきた。
――血を、欲しがっていた。
「……ねえ、バラリオ」
「はい」
「天使にとって人間(わたしたち)の血は……」
一体何なのか――そう問おうとして、イリーシャは言い澱(よど)む。
続きを紡ごうと止まってしまった唇を動かそうとした時、
「御馳走(ごちそう)ですよ」
言葉の先を察したバラリオが淡々とそう告げた。あまりにもあっさりと――そして迷いなく言い切られた答えに、イリーシャは驚愕を隠せずに瞳を見開く。
そんな様子に追い討ちをかけるように、バラリオは続けた。
「言い方を変えるなら甘美なスイーツでしょうか……今の天使達にとって、〝欲〟にとり憑かれた人間の血液程美味なものはありませんから」
遠い昔、神の下天上の世界で暮らしていた天使達――清らかなものしか映さなかった瞳は今や〝欲望〟を求め、その化身とも言うべき人間を貪る。
貴女も人間ならば欲の一つや二つ、その胸に持っているでしょう――そう言ってきたバラリオに小さく頷き、イリーシャは自身に向けられる薄群青の瞳を見つめ返した。
そして一つ、疑問を投げ掛ける。
「悪魔(あなた)にもあるの……?」
確かに人間は、いつの時代も欲と共に生きている。その生を終えない限り、逃れる事は不可能だろう……。
自分も決して例外ではないと分かっているからこそ、生まれた疑問――
それを受けたバラリオは一瞬瞳を伏せ、次の瞬間には微笑を添えて口を開いた。
「いいえ、そもそも私達には人間のように複雑な感情(こころ)は在りませんから……そのような感覚は理解しかねます。唯一在るとすれば……」
――それは、〝Shangri-La(シャングリラ)〟への憧れ。
「Shangri-La(シャングリラ)…………」
何処か遠くを見るような眼差し――そんなバラリオの様子にイリーシャがそう呟いた刹那、


――室内が眩い光に満たされ、凄まじい雷鳴が響いた。


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