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紫の乙女と幸福の歌
650
:
心愛
:2013/03/10(日) 10:50:36 HOST:proxyag054.docomo.ne.jp
『黄昏の少女と祝福の羽根 2』
「ふふっ……。このぼくに、こんな物言い……。爵位を継ぐ前から色々な人間を見て来ましたが、こんなに愉快な女に会ったのは初めてですよ……」
「なにか言った?」
「いいえ」
少年は何故か、とても上機嫌な様子で花束を抱え直した。
「残念ですが、ぼくは至って健康です。気遣いは無用ですよ」
「そうなの? 良かった……って良くないよ!」
「はい?」
ぽかんとしてしまう少年。
アイリーンは打って変わって、真剣な顔で言った。
「元気でいるのに、それを残念なんて言っちゃ駄目」
少年は、じっとアイリーンの揺れる瞳を見つめ返す。
「元気になりたくても、なれない人だって……たくさん、いるんだから」
アイリーンの顔に一瞬、暗い影が立ち込める。
沈黙を割り、少年が口を開いた。
「……貴女のご家族のように?」
アイリーンは目を見開く。
「なんで、分かるの」
「あれを見ましたのでね。後はただの推測です」
少年はつい、と少し離れた場所を指差した。
ひとつの、申し訳程度に佇むちっぽけな、まだ真新しい墓石。
その周りには物寂しさを紛らわせるように、小ぶりの野花が一面に咲いていた。
アイリーンが持っているのと、同じ花。
彼女は息を吐いた。
「当たり。ママが眠ってるの」
「いつからです?」
「五日前。……ちゃんとしたお墓も、買ってあげられなかった」
肩を竦め、苦笑する。
「駄目ね。まだ、離れるのが嫌で……唯一の家族、だったから」
「それで、こんな辺鄙な場所で花売りを?」
「そんなとこ」
少年の勘の良さに軽い驚きを覚えながら、アイリーンは頷いた。
「……あはは。お葬式とかの費用で貯金は全部使っちゃったから、ほんとに一文無しなんだ、あたし」
つい、口が滑る。
アイリーンは見知らぬ子供相手に愚痴を零している自分が情けないような気がして、ただその笑みを深くした。
「まだお情けで置いてもらってるけど、家賃も払えてないし。だからこうして、ママの傍で小銭を稼いでるんだ」
はっ、と今まで黙って聞いていた少年が鼻で笑った。
「いい加減強がるのはやめなさい、白々しい」
意味が分からず首を傾げかけた彼女に、少年が続いて冷徹な声を浴びせる。
「貴女、全く吹っ切れていないではないですか」
「……」
再び笑顔を作ろうとして、でも、できなかった。
だらりと腕が下がる。
「娘を縛りつけることで、貴女のお母上が喜ぶとでも?」
何を思ったか、溜め息をついた少年が、突き出た岩にすとんと腰掛けて。
黙って立ち尽くすアイリーンの姿を、やや細めた大きな双眸に映し出し、呟いた。
「……悪くないと思いますよ」
「え?」
反射的に聞き返すと、微かに笑われる。
「夕陽色。……みすぼらしい小娘にしては、悪くない色です」
彼に言われて。
アイリーンは、背中に流れ落ちる、自らの髪を掬い上げた。
赤ともオレンジとも、純粋な金色とも違う、夕映えの雲のように不思議な色。
「そう? あたしは、あんまり好きじゃないんだ」
どうやら話し相手になってくれる気らしい少年に、アイリーンは髪と同色の瞳を静かに向けた。
「ああ、一日が終わっちゃうんだなぁ―――って、虚しくなるから……。太陽が沈むと、なんか変に悲しくなるよ」
「愚かなことで何をうじうじと感傷的になっているのです。沈まない太陽がありますか」
あまりにもあっさりと言われ、拍子抜けしそうになってしまう。
「黄昏の後に、冷たく暗い夜がやってくる。それは、ぼくらがどんなに努力しても、大金を積んでも、どうしようもないことです」
目を丸くしている彼女に、少年は口端を上げて笑んだ。
「―――でも、夜明けのない世界だって、ないでしょう?」
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