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紫の乙女と幸福の歌

636月波煌夜:2012/08/26(日) 19:27:56 HOST:proxy10021.docomo.ne.jp


特別編 『悩める王子と銀の妖精 9』





「……此処にいたのか」



夜風に短めの銀髪を踊らせるイルゼが振り向いた。


「王太子殿下」


「レオンで良い」


レオンはバルコニーの手すりに掴まる彼女の隣に立ち、微笑みかける。


「……は?」


「レオンと呼んでくれないか」


「え、……レオン、殿下?」


「そう……なのだが」


レオンは口元を緩め、



「……一度だけで良い。敬称を付けずに呼んでみてくれ」



「はい!?無理です、そんな無礼なっ」



「無礼かどうかは私が決めることだよ」



イルゼは王太子の命令に逆らうことはできないと判断したのか、助けを求めるように視線をあちこち彷徨わせた後。



「…………レオン」



耳まで真っ赤になって、レオンの顔を見ないまま消え入るような声で言った。


レオンはそれに満足げな笑みを浮かべる。



「有難う」



意味が分からないという顔のイルゼ。
それはそうだ。
レオンだってどうしてこんなことを言い出してしまったのか、自分でも良く分かっていないのだから。


分かることは、ただ一つ。



「……もう、行ってしまうのか」



ソフィアとの再会を果たしたのだから、彼女たちにはもう、この王宮に用はない。
明日にでも発つつもりなのだろう。



―――それが、イルゼと別れることが、嫌でたまらないということ。



「……はい」



イルゼはこくりと頷く。



「仕事がありますから」



「仕事?」



「……一応、家庭教師(ガヴァネス)を少し。専門は裁縫だけですが」



レオンはぱちくりと碧の双眸を瞬かせた。

それから。



「………はははっ!」



自分がおかしくなって、笑ってしまう。



「全く……。こんなことを思いつくなんて。どうやら私は、貴女を引き留める理由を作るのに必死らしい。困ったものだよ」


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