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白銀月夜の狼
14
:
緋織
:2011/12/28(水) 08:27:59 HOST:121-84-18-13f1.hyg2.eonet.ne.jp
1-12
「ああ、本当さ」
微笑みながら抱きしめてやると、ようやくティファニーは落ち着き始めた。
腕を解いて立ち上げると、ブライスがそっとカーティスに囁いた。
「……流石ですね。素晴らしい。このお嬢さまの憤懣を爆発せずに慰撫できるとは。屋敷中を探しても、貴方様に勝る方はいらっしゃいません。素晴らしい、実に素晴らしい。私も見習わせていただきます」
素晴らしい、素晴らしいと連呼するさまは、日頃巻き髪少女にどれだけ手を焼いているかをよく表していた。
ブライスさん、必死になりすぎると駄目ですよ。押しちゃだめです、引くんですよ。
と余計だろうが(ブライスはプライドが高い。ことに教育に関しては)つけたしてやると、ブライスは意外に、
「非常に参考になります。ありがとうございます」
と一礼してみせた。
……その後ティファニーはベックフォード家に戻るのかと思いきや、
「ティファニー、今日はカーティスの屋敷にいたい! だってベックフォードに帰っても誰もティファニーの話聞いてくれる人いないんだもん……。ねぇ、ブライスいいでしょ?」
来たときとは打って変わって、ティファニーは笑顔全開だ。
しかし、ブライスは顔面にレンガをくらったような顔をして、動かなくなっていた。これは恐らくショックを受けている顔だ。「話を聞いてくれる人がいない……? おかしい、私は毎日聴いて差し上げているのに……」とブツブツ呟いていたので、カーティスは必死に執り成した。
「そんなわけないだろう、ティファニー。ブライスさんだってちゃんと……」
「ううん。ブライスはすぐ『消灯の時間です。おやすみなさいませ』だけ言ってすぐ電気消しちゃうんだもん」
言葉を用意していたかのように、カーティスの言葉を途中でぶった切った。
ブライスは完全に固まっているのを見て、カーティスはまた苦笑い。
……ベックフォード家からもエアルドレッド家からも了承を得て、ティファニーはエアルドレッド家で一夜を過ごすこととなった。
しかし、結局はティファニーはベックフォード家に戻ることになった。
それは深夜のこと。
年が離れているとはいえ、カーティスとティファニーは異性なので同じ部屋で寝るわけにはいかない。そこで、ティファニーはジュリアナと一緒に就寝することになったのだが……。
カーティスが夢の真っただ中にいる中、扉を遠慮がちに叩く音がした。寝ぼけながらでも何となくわかった。この叩き方はジュリアナだ。で、ジュリアナがカーティスに用があるとすれば……。
「……ティファニーか」
予感は見事的中。ジュリアナが部屋に入ってきたとき伴われていたのは。
「夜分遅くに申し訳ないわね。……でもティファニーが」
「……ティファニー。何があったんだよ……」
ティファニーは何故か泣きじゃくっていた。目元は腫れているような気がする。
ティファニーが泣いて答えないので、ジュリアナが代わりに答える。
「……家が恋しいみたい。ブライス、ブライス、って呟いていたから……」
何だかんだ言って、やっぱり頼りになるのはブライスさんじゃないか。
「どうする? ティファニー、ブライスに迎えに来てもらう?」
ジュリアナが訊くと、ティファニーは僅かながら首を縦に動かした。
ジュリアナは執事を起こし、ティファニーの迎えを寄越すようにとベックフォード家に連絡を入れさせた。
ティファニーが馬車で帰るのを見届けると、カーティスもジュリアナも倦怠感が襲ってきた。それもそのはず、今は真夜中なのだ。しかもジュリアナはティファニーがグズっているのにも付き合っていたため、疲労は甚だしい。
「カーティス、もう寝ましょう。おやすみなさい」
「おやすみなさい、姉さま」
こうして2人はそれぞれの自室に引き上げて行った。
……というわけで、今日はぐっすり眠って朝寝坊していたかった。執事がその旨伝えてくれているはずなので、カーティスもジュリアナも今日は朝食は遅くても構わない。
「……とはいえ、二度寝は出来ないからなぁ……。よし、起きるか」
15
:
緋織
:2011/12/29(木) 17:03:53 HOST:121-84-18-13f1.hyg2.eonet.ne.jp
1−13
朝食を食べに食堂へ降りると、ジュリアナはもう食事を開始していた。
「おはようございます、姉さま。お早いですね」
「あら、おはよう、カーティス。実は私も寝られなくってね」
ジュリアナは微笑むと、カーティスに向かいの席に座るように促した。カーティスは素直にそれに従って椅子に腰かける。
ナイフとフォークを握って、食物を口に運ぶ。
今日の朝食は、朝遅いこともあって少なめに摂った(昼食が食べられなくなるので)。
「昨日はお互い大変だったわね。今日はゆっくり休んでちょうだい。……あら」
「どうかなさいました?」
「ええ、今日は雪が溶けてるな、と思って」
ジュリアナが窓の外に視線を向けたので、カーティスもそちらを伺う。
白銀の雪はほとんど溶けかけていて、新緑の草がちらほら見える……。って、
カーティスはまだ朝食途中なのに、ナイフとフォークを叩きつけるようにして食堂を飛び出した。
「え!? ちょっと、カーティス!?」
ジュリアナの絶叫が後ろで響いていた。
「グレアム! グレアム! 急で悪いけど馬車出してくれ!」
馬小屋で馬の毛並の手入れをしていたグレアムは、カーティスの声に振り返った。
「はぁ、いかがなされたのですかな」
「いいから、今すぐ! 行先は前の森で!」
急いでいるというのに、このグレアムの鈍感さは若干じれったい。
が、従順なグレアムはカーティスの顔色に気づき、弾かれたように慌てて馬車を出してきた。
カーティスはそれに乗り込むと、森へ急いだ。
白銀髪の少女―――フェリシアがいる森へ向かって。
16
:
緋織
:2011/12/29(木) 17:04:38 HOST:121-84-18-13f1.hyg2.eonet.ne.jp
1−14
『行くな、何処へも。……お前だけは』
『ああ、いるとも。私たちは、2人でひとつなのだから』
『……私たちにとって、幸せとは何なのだろう』
『はたして幸せはあるのだろうか』
『―――……いつまでも……共に』
***
「ああ、もうここでいい、降ろしてくれ!」
森まではまだ少しあるが、カーティス自身の疼きが声を作っていた。
えっ、ここで? とグレアムが言うより早くカーティスは馬車から転がり出た。その弾みで、靴先を扉付近で思い切りぶつけてしまったが、痛みを知覚野にのぼらせる時間を与えている暇はない。
今日より澄みわたった空を、カーティスは生まれてから見たことが無い。いつもは寒くて凍えてしまいそうなのを防ぐために着こんだ服は暑くてしょうがないくらい。走りながら、身体中が汗を吹きだしているのが分かる。
数日前まで雪しかなかったくせに、あんなに積もっていたのに。快晴だからとはいえ、何でたった半日程度で溶けかけようとしてるんだ。
『私は厳寒の地でないければ生きられないのだ』
哀愁を漂わせながら、そう呟いた少女の顔が忘れられない。頭からこびり付いて離れない。
その姿を脳裏に思い浮かべると、不安で心配で。
雪の彫刻で創られたかの如き少女は、―――溶けていないだろうか、と。
「フェリシア! 君はどこにいるんだ!?」
カーティスの悲痛な叫びは、木々が空気を吸うかのように吸い取ってしまった。
***
銃身から飛び出た弾丸は、真っ赤な血を引きずり出した。
一瞬だった。
生まれ持った素質と、鍛えぬいた反射を持ってしても視界に捉えることは出来なかった。
何がどうなったのかは理解できなかった。
片手で片眼にそっと手を当てる。その手に染みついたものをもう片方の眼で見つめる。
そのとき初めて何が起こったのかが分かった。脳が、そして身体中が全てを理解した。しばらくの間沈黙していた痛みは、患部に集中する。
『フェリシアッ!』
甲高い悲鳴が辺りに響くが、そんなことにまで精神を割けるほど、この身体が頑丈でないことを思い知る。
なんだ、所詮やはり寿命ある生物だったのか。それでは生み出された意味が。
『おのれ、よくも―――! 思い知れ、下劣で下等な者よ!』
駄目だ、そんなことをしては。
薄れゆく意識の中で、感情に任せて暴れまわるもう一人の自分をみた。
そこにいたのは人々が魔界の住人と恐れ、蔑んできた獣の姿であった。
感情を制御する機能が備わっていない獣は、暴れ狂い己の全てを出し尽くすまで止まることはない。たとえ、同胞であったとしてもくい止めることは不可能だ。
誰であっても暴走を止められない。それ故に、獣と畏怖されるのだ。姿だけでなく、中身までも狂暴な血と細胞で埋め尽くされているのだと。
しかし、それではいけないのだ。
それでは、我らはこれからもずっと誰からも信用されない。
助かるために、生きるために、折れることは必要なのだ。怒りや憎しみといった感情を手放さなければならないのだ。
『……何ということを。やはりお前らには無理なことであったか。……咎人は消え去るほか道はない―――!』
やめてくれ。そいつを私からとらないでくれ。
私にはもう何もない。何も、誰かのぬくもりでさえも。
二人でずっとずっと共に寄り添い、生きると約束したのだ。だから……。
「私たちを離れさせないでくれ、孤独は嫌だ、独りにしないで……!」
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