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白銀月夜の狼
11
:
緋織
:2011/12/19(月) 19:10:32 HOST:121-84-18-13f1.hyg2.eonet.ne.jp
1−9
カーティスはその日も、勉学に励んでいた。
政治に経済、物理に科学に数学に至るまでありとあらゆる分野の知識を頭に柔軟に叩き込む。
カーティスには既に2人の兄がいる。しかもどちらも屈強な父に似て頑丈な体躯をしている。長男か、長男が不幸なことになれば次男か。どちらにせよ、カーティスが跡継ぎという可能性は低い。
次兄は、長兄がエアルドレッド伯爵となった暁には、国王陛下直属の軍隊に入隊するつもりらしい。貴族の子弟は、よっぽど無能ではない限り、尉官や佐官以上の上級将校の地位が約束されている。
要するに軍か学か、どちらかで身を立てていくのだ。
そして三男であるカーティスは後者を選ぶつもりでいる。兄たちのように力がないことはもう十分分かりきっているし、何より軍人というものが苦手なのだ。
兵器を使いこなせる自信も、傷つき流す血を無心で眺めていられる自信もない。誰かの命を奪うということはどうしてもやりたくない。そして「祖国のためだ、国王のためだ」という覚悟も恐らく出来ない。陛下の御尊顔は肖像程度で、直に拝見したこともないのに、尊い命など捧げられるものか。口に出せば貴族社会から煙たがられてしまうだろう。だから漏らしはしないが、軍人、軍役などはごめんだ。
次兄は過去の軍書を読んで、心が勇み震えたという。だがそれは実戦に出ていないからだ、とカーティスは思っている。大きな砲弾や破裂音が飛び交い、冷静にいられる人間がいるものか。「勇み震える」は「恐れ慄く」に変化していくに違いない。
「戦争や恨みごとがない世界に変えられる人になりたい」それがカーティス心からの願いで、夢だ。だから色々な方向から物事を捉えることを可能にするために、膨大な知識を身に付けているのだ。貴族だからって優遇されたくない、実力で未来を切り拓きたい。
「戦争のない世界」……綺麗ごとなのも分かっている。この世には何万という膨大な数の人々がいる。その何万が1つの考えにまとまるなどあり得ない。違う思いや意見を持っていて当然だが、それが諍いになり、国単位の戦争に発展していくのを食い止めることが出来たら……。命を捨てて国を護るより、話し合いや外交で国を護るほうが何倍も格好いいに決まってる。カーティスはそう確信していた。
外国の読解不能の書物は、それぞれの教科の教師に訳してもらう。それは教師もカーティスも難儀したが、得られるものは少なくない。
今日の分の勉強が済むと、もう日が落ちようとしていた。ぶっ通しで4時間弱机に向かっていたということになる。毎日フラフラになるが、確かな手応えは日々感じている。
頭が疲れて痛くなってきたので、カーティスは自室の寝台に倒れこんだ。夕日が放つ淡い橙が優しく癒してくれる。
少し睡眠を取ろう、とウトウトしている状態のとき、扉を叩く音が聞こえた。
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