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☆男装少女 6人目のメンバー☆
1
:
いちご
:2011/10/25(火) 18:47:37 HOST:ntiwte053067.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
どうも、いちごです!
これで2作目になります、と言っても
まだ1作目は終わっていませんが(^_^;)
本当は、受験生なのでこんなことをしている場合じゃありません・・
なかなか書けないと思いますが、優しい目で見てください。
64
:
いちご
:2012/05/04(金) 16:05:07 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(なんでこんなことになったんだろう...。)
「ハァ...。」
ため息をつけば、木村は今日のスケジュールについて話始めた。
「今日は、9時から一時間リハーサル。
10時から番組の収録がある。12時からは雑誌の撮影。
色々わからないことがあったら、俺に聞いてくれればいいよ。」
「・・・はあ。」
絶対無理だと、ことりは思った。
65
:
いちご
:2012/05/04(金) 16:09:53 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ついたよ」
「・・・」
テレビ局前につき、ことりは目を見開いた。
今までに感じたことのない緊張感が走る。
マネージャーは駐車場に車を止めると、
後部座席のドアを開けてことりに出るように指示する。
「一人称は俺。あとは、適当に話を合わせてくれてればいいから。」
「・・・そんな簡単に、行くはずないですよ。」
「大丈夫大丈夫。俺もフォローするから。」
不安で仕方がない。
66
:
いちご
:2012/05/04(金) 16:41:14 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ことりは車から降りると、木村についていく。
メイクを担当してくれた女性とは入り口で別れた。
ぺこりを小さく頭を下げれば、女性は笑顔で手を振ってくれる。
「おはようございます!」
テレビ局に入った直後、自分に向けて挨拶をしてくる
黒いスーツの関係者達。
「お、おはようございます」
ことりは引き攣った笑顔で挨拶してしまった。
(なんなのよここ…)
大勢の大人たちに囲まれているだけで緊張するというのに、
こんな場所でカメラの前で収録なんてできるわけがない。
無意識に自身が震えているのを感じた。
67
:
いちご
:2012/05/04(金) 17:16:43 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「陽さん、こちらです」
「・・・」
「陽さん?」
「あ、ハイ!」
木村に呼ばれて、はっと顔を上げる。
そうだ。自分は今、陽だった。
『ことりちゃん、しっかりして。』
小声で木村にそう言われ、
ことりは曖昧に頷いた。
68
:
いちご
:2012/05/04(金) 17:20:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
そのまま楽屋へと案内される。
ドキドキドキ、
だんだんと鼓動が早くなってくる。
「じゃあ、陽さん。
リハーサル前になりましたら呼びに行きますんで」
木村はさわやかな笑顔を向ける。
「え!?木村さんは?」
「俺はほかに仕事があるから。
大丈夫、陽さんになりすまして、余計なことを話さなければどうにかなるよ。
じゃ、頑張ってねことりちゃん。」
あまりにも無責任だと思った。
ことりは泣きそうになるのを堪える。
背中を向けて歩いていってしまう木村をキッと睨みながら
どうしよう、と楽屋の前で悩む。
69
:
いちご
:2012/05/04(金) 20:23:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
しばらくその場で悩んでいると、
突然肩にポンと手を置かれた。
「ひいっ!」
「何突っ立ってんだよ、しかもなんだその悲鳴」
驚きすぎだろ!と声をだして笑う人物に
目を向けて、ことりは固まった。
「あ、あっ!」
今、自分の目の前にいるのは、
陽と同じグループの雪平 南。
芸能人が、アイドルが目の前にいる。
それだけでどうすればいいのかわからなくなり、
ことりは意味不明な声をあげてしまった。
70
:
いちご
:2012/05/04(金) 20:26:22 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
クラスの女子のほとんどが「スカイ」のファンなのだ。
それに、陽が時々話す内容の中にも
彼の名前はたびたびでてきた。
テレビでも何度か見たことがある。
「?とりあえず中に入ろうぜ!」
南はドアを開き、ことりの背中を押して
無理やり楽屋に押し入れた。
71
:
いちご
:2012/05/04(金) 20:28:28 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ちょっ、」
「おっはよー!」
元気よく挨拶する南に対し、
ことりは驚きのあまり声を出せなかった。
目の前には、テレビでしか見たことのない
「スカイ」のメンバーが揃っている。
「っ〜!」
ああ、もう、どうしよう。
ことりはパニックに陥っていた。
72
:
いちご
:2012/05/04(金) 20:34:50 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「・・・陽くん、大丈夫?」
冷たい表情をした 奥村 楓 が話しかけてくる。
言葉は心配しているのに、声音は低く、少し怖かった。
テレビで見たことのある楓は子供らしい笑顔で、
愛嬌があった。
カッコイイより、可愛いが似合う男の子だったはず。
なのに、目の前にいる彼は 違う。
ことりは驚き、こくこくと頷く事だけで精一杯だった。
73
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:08:30 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「陽くん、センターなんだからしっかりしなよ。」
楓が無表情で言ってきた。
どうやら彼は、陽の事をあまり良く思っていないらしい。
「う、うん。」
「すぐに僕が、抜くけどね。」
「え?」
「・・・ハァ、楓。いい加減にしろ。」
佐野 郁美が呆れたように言う。
「陽も気にするなよ。」
「……」
ぽんぽん、と自分の肩をたたいて
安心させようとしてくれる郁美は自分の味方らしい。
74
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:12:56 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(・・・なんなの、この雰囲気。)
てっきり、メンバー同士仲がいいと思っていたのに
そうでもないみたいだ。
コンコン、
楽屋にノックが響いた。
がちゃり、
そしてドアが開く。
「もうすぐリハーサルですんで、スタンバイお願いしまーす。」
「「はい」」
刹那、メンバーの目が変わった気がした。
75
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:14:54 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
関係者の人から衣装を受け取り、
全員が素早く着替え始める。
「え、ちょっ///」
目の前で着替え始める彼等に慌てて背を向ける。
「何してんだよー、陽。」
南が お前も早く用意しろよ と言い衣装を投げつけてくる。
それを受け取り、「と、トイレ行ってくる!」と言い
慌てて楽屋を出て行った。
76
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:18:56 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
近くのトイレに駆け込むと、
煩いくらいにバクバクと鳴っている心臓を
必死で落ち着かせようと深呼吸する。
(どうしよう...。)
手に握る衣装を見て、悩む。
できることならこのまま逃げてしまいたい。
どうしてはっきり無理だと言って断らなかったのだろう。
「っ...。」
ことりは、しゃがみこんだ。
77
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:20:44 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
キィ、
扉の開く音がして、ことりは視線を向ける。
「っ...え!?き、キャアアー!」
「!?」
突然入ってきた女性に、悲鳴をあげられてしまう。
なんで自分を見て悲鳴をあげるのだろう。
ことりは不思議そうな表情をして立ち上がり、あたりを見回すが
何も驚くような対象はない。
78
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:23:02 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「なっ、なんで女子トイレにいるのよ!!」
「あ!」
トイレの鏡にうつる自分を見て、ハッと気づいた。
そういえば、今は陽の姿だった。
「ご、ごめんなさい!間違えて...。」
「どこをどうすれば間違えるのよ変態!
スカイの陽が変態だったなんて...」
79
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:27:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(...もう、やるしかないのかな。)
どうせ誰も、陽の双子の
妹のことりだなんて知るはずがない。
もし失敗したとしても、
それは陽が失敗したことになる。
そう思うと、不思議と気持ちが軽くなった。
80
:
いちご
:2012/05/05(土) 09:31:10 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
素早く衣装に着替えると、男子トイレから出た。
楽屋に戻るとそこにはすでに
準備が整っているメンバーが居た。
「おせーんだよ陽。」
南が呆れたような表情で話しかけてくる。
「うん、ごめん。」
「じゃあ、行くか。」
郁美が静かに言った。
それに頷き、全員が収録場へ向かう。
81
:
いちご
:2012/05/05(土) 10:10:24 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「・・・・」
「?」
そういえば、メンバー内でも最年長の
橋本柚希とは一言も話していないな
と思い視線を向ければ、ぱちりと目があった。
気まずくなりばっと視線を外す。
(び、ビックリした...。)
収録場につくと、テレビでしか見たことがない
セットが並んでいる。
少し緊張が落ち着いたというのに、
また鼓動が早くなってきた。
「じゃあ、最終確認をします。」
聞きなれた声に、ことりはばっと顔をあげた。
目の前にはスカイのマネージャーの木村が、
台本を持って立っている。
「き、木村さん...。」
不安そうな声をあげれば、木村は笑う。
「どうしたんですか、陽さん。」
82
:
いちご
:2012/05/05(土) 13:59:26 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ッ、...やっぱり、無「陽さんは、ここに座ってくださいね。」
「え!」
言葉を遮られて、台本を見せられた。
やはり人気というだけあり、ど真ん中の席だ。
「本番は、司会者とトークをして
終わったらスカイはすぐにステージに移動。
歌うのは最初だから、宜しくお願いしますよ」
ことりは沈んだ顔をしていた。
「陽、今日可笑しくないか?」
「さ、佐野さん...。」
「佐野さん?お前、いつも俺の事名前で呼んでただろう?」
「あ、あー...そうだった!大丈夫だよ、郁美。」
引き攣った笑顔を向ければ、郁美は訝しげな表情を浮かべた。
「そんな笑顔じゃ、テレビに出れないよ。」
呆れたような表情を見せる楓に、 ゴメン と謝るとため息をつかれた。
83
:
いちご
:2012/05/05(土) 17:18:14 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「リハーサルまで10秒前〜、9、8、7、」
言われた席に、ドキドキしながら座った。
目の前には大量の機材。
自分を映しているんだと考えると、自然と手が震えた。
(...陽、)
その震えに気づいていたのは、隣に座った郁美だった。
今日の陽は可笑しい。
同じグループのメンバーとして、
できるかぎりフォローしようと決める。
84
:
いちご
:2012/05/05(土) 17:20:28 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「3、2、1、スタート!」
「っ...。」
自然と顔が強張った。
自分は陽なんだ、大丈夫。と何度も言い聞かせるが、
震えは止まってくれない。
「今日のゲストは、今人気急上昇中のスカイです!」
司会者がそういうと、
リハーサルから見ている観覧客がわー!と盛り上がる。
85
:
いちご
:2012/05/05(土) 17:28:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「今日、新曲のCDの発売日なんですよね?」
司会者は問いかける。視線は陽に向いていた。
「ッ…、」
いきなり振られて驚いたのか、ことりはどうすることもできなかった。
すかさず郁美がマイクを持ち、口を開く。
「そうなんです。スカイの二枚目のシングルCDなんですよ。」
陽の異常に気付いた司会者は、一瞬不思議そうな顔をしたものの、
そこには触れずに郁美に視線を向けて質問を繰り出す。
「どういった曲になっているんですか?」
「アップテンポで、聞きやすくなってます。
曲も覚えやすいんで、よかったら買ってくださいね。」
郁美はクールな表情を崩さず、綺麗に笑った。
すると観覧客から、 キャー! という歓声が上がる。
86
:
いちご
:2012/05/05(土) 18:21:05 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「では、その新曲を今日、テレビで初公開ということで
スカイのみなさんスタンバイお願いします!」
「はい。」
「よろしくお願いします。」
メンバーは立ち上がり、ステージへと移動する。
郁美はことりの震えている手を掴み、立ち上がらせた。
「え!?郁美君と陽君が手つないでるー!」
「キャアアー!可愛いー!」
「い、郁美っ...。」
「しっかりしろ、陽。」
87
:
いちご
:2012/05/05(土) 18:29:02 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「う、うん...。」
トークは郁のフォローでどうにかなったものの、
歌とダンスはどうしようもない。
隅で自分達を見ている木村に視線を向ければ、
他人事のように手を振られた。
初めの立ち位置はどこなのか、
どういった曲なのか、
どういうダンスを踊るのか。
全くわからないまま、ことりはステージに立つ。
88
:
いちご
:2012/05/06(日) 08:48:07 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「陽はここだろ。」
初めはメンバー全員が、横一列に並んだ。
スポットライトが当たる。
柚希、楓、陽、郁美、南という順だった。
(お兄ちゃんは、いつもこんな緊張する中で頑張ってたんだ…)
陽は、真ん中で一番目立つ位置にいるのに
いつも自信満々に踊っていた。輝いていた。
89
:
いちご
:2012/05/06(日) 08:52:53 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(私は…)
やっぱり、兄の代わりにはなれない。
「陽。」
「...?」
今まで一言も話さなかった柚希が、口を開く。
「いい加減にしろ。」
ズキリ、
胸に、重い言葉が突き刺さった。
どうして自分がこんな目に合わなければいけないんだろう。
無理やりステージに立たされて、
何もわからないのは当たり前の事なのに。
緊張を忘れ、ことりの頭には血が上った。
90
:
いちご
:2012/05/06(日) 08:55:33 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
――もう、限界だ。
「いい加減にするのは、そっちだろ!」
収録場に、ことりの声が響く。
刹那、シンと静まりかえった。
木村は焦ったように目を見開き、慌てて駆け寄る。
「よ、陽さん!ストップ!」
「元はと言えばアンタがっ...。」
キッ、とことりは木村に視線を向けた。
91
:
いちご
:2012/05/06(日) 16:46:08 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ことりがステージを降り、
木村の前に向かおうとした時だった。
ぐい、
腕を引かれ、引き留められる。
「郁美...。」
「っ、いい加減にするのはお前だ。」
パァン!
乾いた音が響き、頬に痛みが走った。
92
:
いちご
:2012/05/08(火) 18:39:42 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
どうして自分が叩かれたのかわからなかった。
「……」
ぽかんとした表情で郁美を見る。
郁美は睨むような視線を向けると
自分の立ち位置についた。
「すいませんでした。」
そして頭を深く下げる。
観覧客も何が起こったのか理解できず、
茫然としていた。
93
:
いちご
:2012/05/15(火) 19:01:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「あー、もう本番まであまり時間がない!
もういい!中止だ!」
監督に言われ、スカイのメンバー全員の表情が歪んだ。
「時間がおちてる。このまま本番に入るぞ!
全員位置について!!」
「「はい」」
メンバー全員が先ほどトークをした位置へと戻っていく。
94
:
いちご
:2012/05/15(火) 19:02:39 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「こと...よ、陽さん!」
木村が叫ぶ。ことりは力なく振り向いた。
「すまない...。」
謝罪が、ずしりと心に伸し掛かる。
木村は、陽の双子の妹の自分に
少なからず期待していたのだろう。
陽の妹だから、期待していた。
「っ...。」
瞳に涙が溜まる。
95
:
いちご
:2012/05/18(金) 19:26:39 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(私が皆に期待されないのは、お兄ちゃんのせいじゃない...
全部、私が悪かったんだ。)
自分から変わろうとせず、全部を周囲のせいにした。
兄の優しさを素直に受け入れず、傷つけていた。
「っ...。」
ことりは、ぐっと拳をつくった。
(...っ、やってやる。)
私は、何もできないわけじゃないってこと
証明させてやる。
私は、陽じゃない。森山ことりなんだ。
先ほどとは変わった、しっかりとした足取りで
自分の位置へと戻っていった。
そんな陽を郁美はちらりと見て、ふ、と口元を緩めた。
96
:
いちご
:2012/05/18(金) 19:50:14 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
そして、本番が始まる。
何台ものカメラが自分の方に向く。
受け取ったマイクを強く握りしめた。
「今日のゲストは、スカイのみなさんでーす。」
「よろしくおねがいしまーす。」
「よろしくお願いします。」
ことりは作り笑いを張り付けて、挨拶をする。
97
:
いちご
:2012/05/19(土) 22:46:06 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「今日は、新曲のCDの発売日なんですよね?」
司会者は気を使い、郁美へと視線を向けた。
郁美はリハーサルの時と同じように答えようと
マイクを口元に近づけた時だった。
「はい、そうなんです!」
しかし、答えたのは郁美では無かった。
ことりは頬を少し赤く染めながら、元気よく答える。
98
:
いちご
:2012/05/20(日) 09:24:48 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「え、陽...?」
いつもの陽の雰囲気と違うと感じたメンバーは、
ぎょっとして彼を見る。
「どういった曲になってるんですか?」
「俺は、うまくは説明できないんですけど...
凄く良い曲になってるんで、みなさん、是非買ってください!」
曖昧すぎる返答に、司会者は思わず苦笑する。
しかし、いつもと違った陽が見れて興奮しているのか
観覧客は歓声をあげる。
99
:
いちご
:2012/05/20(日) 14:42:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「陽さん、いつもと違いますね。」
「少し緊張しちゃって...。」
あはは、とから笑いを見せるとさらに歓声が大きくなった。
「では、今日テレビ初披露ということで、
新曲を聞かせてもらいましょう!みなさん、宜しくお願いします。」
「「お願いします」」
トークは何とか終わり、ステージに移動する。
全員が立ち位置についたとき、陽はごくりと喉をならした。
(大丈夫、いける。)
自分に言い聞かせ、深呼吸をすると真剣な表情へと変わった。
100
:
いちご
:2012/05/20(日) 14:43:04 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
はい!100いきました!
更新遅いですね…ハイ。
特にもう一つのスレのほうが…
放置です…ハイ←反省してます、マジで
多分そのうち書くんで、ヨロシクお願いします(-_-;)
101
:
もこ
:2012/05/20(日) 15:23:27 HOST:proxy20080.docomo.ne.jp
早く続きが見たいです!!
楽しみにしてます♪
102
:
いちご
:2012/05/20(日) 19:17:37 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
<もこs
感想ありがとうございます!
こっちは結構早く書き終えると思います(←多分
続き頑張りますね(´∀`*
103
:
いちご
:2012/05/20(日) 20:45:11 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「....。」
楓はそんな彼を見て、小さく笑う。
しばらくして、曲の前奏が流れ始めた。
張りつめた空気の中、
ことり以外のメンバー全員が完璧に踊りだした。
ことりだけが動かず、マイクを握りしめ,
知らない曲を聞きながら,必死に口パクで歌う。
(っ、陽!?)
(アイツ何してんだよ!)
メンバーは驚きの視線を向けたが、今は本番の収録中。
怒鳴るわけにはいかない。
104
:
いちご
:2012/05/20(日) 20:46:52 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「か、監督、カットしましょう!」
陽の異変に気付いたスタッフが止めるように頼むが、
監督は口元をつりあげて笑った。
「いや、面白い。このまま続けよう。」
「ええっ!?」
105
:
いちご
:2012/05/20(日) 20:50:26 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ことりは笑顔を張り付けたまま、口を動かす。
冷や汗が頬を伝った。
木村はじっとことりを見ている。
ことりは、自分が間違っていると思わせないほど堂々としていた。
(陽の奴、ダンス忘れたのか!?)
郁美はフォローにまわるべく、ダンスを自然にやめて歌いながら
陽の元へといき、背中合わせになる。
それを見たメンバーが二人に
あわせるようにアドリブをしだした。
106
:
Mako♪
:2012/05/21(月) 02:54:28 HOST:hprm-57422.enjoy.ne.jp
100おめでとうございます!
これからも楽しみにしてます!
107
:
いちご
:2012/05/22(火) 18:53:46 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
<Mako♪s
コメントありがとうございます!
楽しみだなんて…(〃´ω`)ゞ
続きがんばりますね!
108
:
いちご
:2012/05/22(火) 18:54:34 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「・・・おお。」
監督は感激の声をあげる。
木村も目を見開いた。
ダンスは形になっていないが、メンバー全員がフォローしあい
中心にいる陽が良い意味で目立っていた。
「すごいじゃないか...スカイ...。」
「か、監督?」
様子が可笑しい監督にスタッフが声をかけるが
聞いていなかった。
「俺が求めていたのはこれだよ。
常識にとらわれないアイドルグループ。
こいつら...伸びるぞ。」
監督は確信したように言った。
109
:
いちご
:2012/05/22(火) 19:00:23 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...はぁ、はぁ...。」
なんとか無事に曲が終り、メンバーは観覧客に笑顔を見せる。
刹那、
「「キャー!!!」」
爆発的な歓声があがった。
ことりはほっとしたような表情を見せる。
「スカイのみなさん、有難うございました!」
司会者の言葉を合図に、 カット! という監督の声が響いた。
メンバーは息を整えると、こちらに向かって歩いてくる監督に視線を向けた。
110
:
いちご
:2012/05/22(火) 19:12:02 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
えー、さっきこの小説を読み直したんですが
>>78
と
>>79
のとこが変
というか、話がとんでいました。
まぁ、‥そこはことりがショックを受けたという感じでww
ホンットすいませんでした…
111
:
いちご
:2012/05/22(火) 19:15:00 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「素晴らしかったよ!」
がし、と陽の両手を掴み、視線をまっすぐ合わせる。
「は、はあ...。」
「森山陽君!君は素晴らしい人材だ!期待しているぞ。」
「え?」
突然褒められ、何がなんだかわからない。
監督はことりの背中を数回叩くと、上機嫌で戻っていった。
「...陽。」
ビク、
郁美の低く冷たい声が背中に突き刺さる。
「い、郁美...。」
ことりは焦った。自分勝手な行動をし、
メンバーに迷惑をかけた。
112
:
いちご
:2012/05/22(火) 19:16:35 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
痛いほど理解しているため、謝ろうと口を開いた時だった。
「楽屋で話がある。」
「...うん。」
収録場にはまだ観覧客がいる。
そのために、スカイのマイナスイメージを与える発言はできない。
郁美に言われて頷くと、お疲れさまですと挨拶をして
楽屋へと戻っていった。
113
:
いちご
:2012/05/25(金) 21:26:39 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
がちゃん、
5人は楽屋に戻る。
南、郁美、楓、柚希の視線が自分に降り注いだ。
ピリピリした空気に肩を震わせれば、楓が陽を睨みつける。
「僕たち、お前の引立て役でも、
バックダンサーでもないんだけど。分かってる?」
「ご、ゴメン。」
ことりは、謝るしかなかった。
114
:
いちご
:2012/05/25(金) 21:30:27 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「今日の陽は、可笑しい。」
「....。」
(だって、私はお兄ちゃんじゃないし。)
心の中でそう思ったがことりは口に出さずに、
郁美を見上げる。
「あーもー!やってらんねーよ!」
南は大きなため息をついた。
「お前、最近一番人気があるからって調子に乗ってんだろ!?
自分が一番目立つようにあんなアドリブまでしやがって!
仕事をなんだと思ってんだよ!?」
あわせてるこっちの身にもなれよ!と南は大声をあげた。
それに驚き、ことりは目を見開く。
115
:
いちご
:2012/05/25(金) 21:37:02 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「別に、そんなつもりじゃ...。」
「じゃあどういうつもりだよ!?
お前、この後も単独で雑誌の撮影あんだろ!?
...俺達の事見下してんのか?」
「み、見下してなんか...。」
助けを求めるように郁美に視線を向ければ、
彼も怒っているらしく、ことりから視線を逸らす。
「・・・陽、今後もこのようなことがあるなら
スカイから抜けろ。」
柚希は低く、そう言った。
「っ....。」
険悪な雰囲気が漂う中、がちゃりと楽屋のドアが開いた。
「スカイのみなさん、お疲れ様です!
いやあ、今日の収録は良かったですよー!
陽さんのおかげですね!」
「き、木村さん...。」
マネージャーの木村は、空気を読まずに
笑顔で無神経なことを口にする。
116
:
いちご
:2012/05/26(土) 10:11:08 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「で、陽さんはこの後すぐに移動になりますけど
他のメンバーの方はこちらに目を通しておいてください。」
「なんですか、これ。」
木村はメンバーある書類を手渡した。
「来月のコンサートの詳細ですよ。
丁度収録が終わったあとに社長から連絡が来まして...
新曲を一曲、追加したいらしくて...。」
「...新曲?」
「ただでさえ忙しいのに、今からじゃ無理だろ!」
今でもスケジュールはいっぱいだった。
コンサートのダンス練習もあるのに、今から新曲を入れるとなると
歌詞や振付、立ち位置。すべてを覚えなければならない。
多忙のスカイにとって、不可能に近い。
117
:
いちご
:2012/05/26(土) 10:56:43 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「大丈夫ですよ、曲自体はそれほど難しくないんで...
けど、ダンスも歌もそれぞれパートに分かれてるんで、
同じパートの人どうし、息がぴったり合わなければ成功しない曲です。」
「...まじかよ。あ、俺は郁美と柚希と同じだ。」
紙を見て、南は呟く。
「・・・ってことは、僕は、」
「楓は陽とだな。」
「・・・。」
楓はキッ、とことりを睨んだ。
「...おい、このダンス、難しくないか?」
柚希が呟く。
メンバー全員が紙に目を通し、目を見開いた。
アクロバティックのような振付が多すぎる。
しかも、同じパートどうし息があわなければ
失敗しそうなものばかりだった。
118
:
いちご
:2012/05/26(土) 17:46:53 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「まあ、頑張ってくださいね。
スケジュールの関係で、新曲のレッスンは明日とコンサートの二日前しか
ないんですよ。各自自主練でどうにかしてください。」
「げ...。」
「あ、陽さん!後で迎えに来ますんで、
それまでに着替えておいてください。」
「は、ハイ...。」
木村は言いたいことだけをいうと、楽屋をでていった。
楽屋は沈黙する。
「ハァー、ま、決まったことはしょうがねえよな!」
「練習しかないな。」
南と郁美の言葉に、柚希は頷く。
「この後、郁美と柚希は予定空いてるか?」
「夜なら空いてる。」
「俺も。」
「なら3人で夜から練習しようぜ。」
南の言葉に二人は頷いた。
119
:
いちご
:2012/05/26(土) 19:08:42 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...僕帰る。」
楓はそんな3人を横目に、
さっさと着替えて楽屋を出て言ってしまった。
ことりはどうすればいいのかわからず、
茫然としていた。
――――
―――――・・・
「....ハァ。」
場所は変わり、車の中。ことりは大きなため息をついた。
「お疲れ様、ことりちゃん、
思ってたよりどうにかなってよかったよー。」
運転席に座るのは、マネージャーの木村。
「どうにかなんて、なってないですよ。」
状況は凄まじく悪化しました、とことりは呟いた。
120
:
いちご
:2012/05/27(日) 14:59:57 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...でも、大丈夫だって!」
「どこがですか!やっぱり私、お兄ちゃんの代わりに仕事するの
今日でやめます!こんなの、絶対無理です!
メンバー同士もそんなに仲良くないし、
私、嫌われてるし...来月のコンサートなんて、聞いて、ないし...。」
だんだんと声が小さくなっていく。
そんな彼女を見て、木村は苦笑した。
「陽君も、初めは今のことりちゃんみたいだったなあ。」
「え?」
「何度も仕事で失敗して、移動中に泣きながら弱音を吐いて、
そのたびに、もうこの仕事やめたいって言ってたよ。」
懐かしいなあ、と木村は言う。
家では仕事をやめたいなんて一言も言っていなかった。
いつも、楽しい と言っていたのだ。
自分や母親を心配させない為に、
ずっと弱音を吐くのを我慢していたのかもしれない。
ズキン、
ことりの胸が痛んだ。
121
:
いちご
:2012/05/27(日) 15:07:25 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「だから、大丈夫だって〜。慣れないのは最初だけだしさ、
ことりちゃんならイケる。」
「どこからその自信がくるんですか。」
「まあまあ。...ことりちゃん、もう少し頑張ってくれないかな?」
「...え、」
「無理そうな仕事は、できるだけ断って
ほかのメンバーにまわすし、...お願い。」
鏡越しにうつった木村の顔は真剣だった。
「....。」
ことりは迷う。
このまま自分が陽の代わりを務めていても、きっと、いつか限界がくる。
しかし、今まで誰かに頼られたことがなかったことりは
嫌だと思う反面、嬉しいと思う気持ちがあった。
122
:
いちご
:2012/05/27(日) 16:58:06 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「でも...。」
「こんな事を頼れるのは、ことりちゃんしかいないからさ。」
自分は頼られている。
(...どうしよう。)
ことりは悩んだ。
それを察した木村が、彼女を安心させるように笑った。
「大丈夫。本当に無理だと思ったら、
また俺に言ってくれればいいから。」
「...ハイ。」
木村に良いように言いくるめられてしまった。
中途半端な自分に嫌気がさし、視線を窓の外へと向けた。
123
:
いちご
:2012/05/27(日) 21:37:17 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
そしてふと脳裏に浮かんだのは自分と同じパートになったことが
気に食わなかったらしく、一人で先に帰ってしまった楓の事。
南や郁美、柚希は今夜3人で練習するらしい。
「...木村さん、やっぱり私も楓くんと練習した方がいいですか?」
「え?新曲のダンスの事?」
「はい...えと、佐野君たちは練習するみたいだし...。」
「佐野君...ああ、郁美さんの事か。
それはことりちゃんの判断に任せるよ。あ、あとコレ。」
「?...。」
思い出したように木村は片手で鞄から携帯を取り出した。
「これ、陽さんの仕事用の携帯。
借りてきたから連絡を取るときはこれを使って。
あと、陽さんは他のメンバーの事を名前で呼び捨てにしてたから
ことりちゃんもそうしてね。」
「は、ハイ。」
少し戸惑いがちに携帯を受け取った。
124
:
いちご
:2012/05/27(日) 21:45:14 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
゜.:。£+゜写真撮影゜£+゜.:。
「さあ、ついたよ。」
車が停止し、次の撮影場所についた。
ことりは息を飲む。
雑誌の撮影。うまくできるかどうかわからない。
緊張した面持ちで車を降りた。
「今日は野外撮影になるよ。」
「野外撮影?」
「うん、町にでての撮影。」
町に出ての撮影と聞いて、ことりは青ざめた。
町にはたくさんの人がいる。
その中で写真撮影をするなんて緊張するどころの話じゃない。
「っ...無理です!」
「無理じゃないって〜、ほら、これに着替えてメイクさんに
メイクしてもらってきて。」
木村は陽に衣装を差し出すと、楽屋へと押し込んだ。
無言で衣装を見つめ、ハァとため息をつくと仕方なく着替え始める。
125
:
いちご
:2012/05/29(火) 21:42:58 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(大丈夫、撮影は今日だけだ、大丈夫。)
自分に言い聞かせ、落ち着かせる。
着替え終わり、鏡に自分の姿をうつして改めて 陽 そっくりなことに驚く。
コンコン、
ノックの音が聞こえて返事をすると、
外からメイク担当の女性が入ってきた。
――――
―――――…
そして、メイクが終わると木村が再び現れた。
「陽さん、時間です。」
「...ハイ。」
力なくそう返事をすれば、木村は陽の肩を数回たたいて
頑張れ と言葉をかける。
少しだけ肩の力が抜けたような気がした。
まずは、スタジオをでてすぐのところにある公園で撮影をするらしい。
公園についた瞬間、スタッフがテキパキと用意をし始めた。
126
:
いちご
:2012/06/03(日) 10:51:39 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ねえ、あれってスカイの陽じゃない?」
「え?マジで!?うわーっ、超カッコイイ!」
通りすがりの一般人は、陽の姿を見つけると
黄色い声をあげながら集まってくる。そしてすぐに人だかりができた。
スタッフが、撮影に邪魔にならないように注意をしている姿が目に入る。
「キャー!陽くんこっちむいてー!」
声をかけられて振り向けば、さらに歓声は大きくなった。
(...さすが、お兄ちゃん)
やっぱり人気は絶大だ。
「陽さん、始めますよ。」
「あ、はい。」
準備ができたのか、スタッフが声をかけた。
「よろしく、陽くん。」
人懐っこい笑顔をしたカメラマンが挨拶をしてくる。
ことりはすかさず頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
127
:
いちご
:2012/06/03(日) 11:48:36 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「じゃあまず、普通に好きなポーズをとってみて。」
「っ、え。」
好きなポーズ、と突然言われて困惑することり。
さすがに雑誌の撮影でピースはまずいだろうと思い考えたが思いつかない。
それを見てカメラマンが指示をだした。
「いつもならパッとできるのに、今日は調子が悪い?」
「す、すいません...。」
いつもなら、と言われてもことりが知るわけがない。
困ったような表情をすればパシャ、と一枚撮られた。
そのことに驚いているとまた一枚撮られる。
「そのまま歩いてみて。」
「え?歩くんですか?」
「うん。」
言われるがまま歩けば、カメラマンは何枚も写真を撮っていく。
128
:
いちご
:2012/06/03(日) 15:23:04 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
思っていたより緊張はしなかった。
ぶわぁ、と風が吹き、ことりは無意識に髪をおさえる。
本来の自分は髪が長いため、いつもの癖でおさえたのだが
髪に触れてはっとする。
パシャ、パシャ、
「陽くん、今日はいつもより落ち着いてるね〜。」
「そう、ですか?」
「うん、カッコイイっていうか、可愛いよ。」
その言葉に思わず振り向き、カメラマンを見る。
可愛い、と言われたのは初めてだった。
嬉しくなって自然と笑顔になる。
最後に一枚、その表情をカメラにおさめた。
129
:
いちご
:2012/06/03(日) 15:36:05 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
公園での撮影が終わり、
スタッフ全員で撮れた写真をチェックする。
「今日の陽君、表情がぎこちないな。」
スタッフの一人がそういうと、他の人も頷いた。
「いつもの陽さんじゃないみたいですね。」
何かありました?とスタッフが聞いてきた。
「い、いえ...何も...。」
そう答えるのが精一杯で、ことりははにかむ。
「まあ、いいじゃないですか。
次の撮影場所に移動しましょう。」
「は、はい。」
木村は 行きますよ、 とことりに声をかける。
「えー!行っちゃうの!?」
「陽くーん!」
ファンの声が聞こえて、自分が注目されてるのだと強く実感した。
車に乗り込むとき、ふとファンの群れを見る。
小さく手を振ると、歓声がさらに大きくなった。
130
:
いちご
:2012/06/06(水) 19:52:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
♪〜♪〜
移動中、渡された仕事用の携帯が鳴った。
メールが一件、来ている。
「・・・。」
見てもいいのかな、と思いつつも受信ボックスを開くと
そこには郁美からのメールが届いていた。
”プライベート用の携帯、電源切ってるの?”
プライベート用の携帯は陽が持っている為に、
連絡がつかないのは当たり前だ。
ことりは少し考えて、
”プライベート用の携帯が壊れたから、
しばらくは仕事用の携帯しか使えない。ゴメン。”と送る。
すると数分後に返信が来た。
”了解。話したいことがある、会えないか?”
「・・・。」
どうしよう。ことりは悩んだ。
131
:
いちご
:2012/06/07(木) 18:50:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「木村さん、雑誌の撮影が終わった後って予定ありましたっけ?」
「いや、無いよ。早くいけば夕方には終わる。」
「わかりました。」
郁やメンバーとは、あまり仲がいいとは言えない気まずい状況なのだ。
郁が話をしたいと言っているなら、話をするべきだろうと考えて
18時からなら空いてる、と言った。
"じゃあ、18時に。いつものスタジオの前で"
それを見て、了解と送ると携帯を閉じた。
気まずい雰囲気が少しでも良くなるといいと思う。
132
:
いちご
:2012/06/07(木) 18:53:01 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ついたよ、ことりちゃん。」
「...え。」
ついた場所を見て、陽は大きく目を見開いた。
自分が通っている学校だったのだ。
「な、なんで、ここ...。」
「特別に許可をとって、学校の中で撮影をすることになったんだ。
スカイの陽も、普段は普通の男子高生っていう事を
アピールしようと思ってね。」
「...。」
ああ、気まずい。
本来なら今日、ことりはこの学校に登校しているはずなのだ。
なのに自分は陽の姿で、今、ここにいる。
133
:
いちご
:2012/06/07(木) 20:54:27 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ああ、ここ、ことりちゃんが通ってる学校だっけ?」
「は、はい...。」
「大丈夫、誰もことりちゃんなんてわからないよ。」
ほら、行くよ。と言い駐車場に車を止めて降りる。
ごくり、ことりは生唾を飲みこむと、重い足取りで木村の後に続いた。
―――
――――…
スタッフが校長に挨拶をしている間、ことりは学ランに着替える。
そして軽いメイクをしてもらうと撮影に入った。
今は昼休みの時間の為に、生徒達が集まってくる。
「え?マジでスカイの陽!?」
「うわー、カッコイイ!後でサインもらおー!」
聞き覚えのある声に振り向けば、同じクラスの女子生徒。
自分を馬鹿にしていた奴等だった。
134
:
いちご
:2012/06/07(木) 20:56:53 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「アイツ、今日休んでてよかったね。」
「それわかるー!」
アイツ、とは自分の事だろう。
なんだか無償に腹が立ってきた。
「陽君、普通に歩いて、教室に入って好きに動いて。」
「っ、ハイ。」
生徒達の視線をあびながら、
ことりは教室へと足を踏み入れた。
好きなように動いて、と言われてもどうすればいいのかわからない。
ことりはとりあえず、窓際の一番後ろに座った。
その場所は、ことりの席がある場所でもあった。
それを見て、黄色い歓声をあげていた女子生徒は黙り込む。
135
:
いちご
:2012/06/09(土) 13:49:16 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...。」
頬杖をついて、窓の外を眺めた。学校でいつも自分は一人だった。
誰もことり自身を見てはくれない。色々な事を思いだし、急に切なくなった。
今思えば、ちゃんと自分を見ていてくれたのは、
陽だけだったのかもしれない。
(それなのに、私は...。)
窓から入る風がことりの髪を靡かせる。
差し込む太陽の光が、ことりを引き立たせる。
「っ、」
思わずその場にいた全員が息を飲んだ。
カメラマンでさえ、茫然とことりを見ている。
「ことりちゃん...。」
木村は、誰にも聞こえない声で呟いた。
136
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:00:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
今のことりは、陽ではない。
カシャ、カシャ、
カメラマンはハッとして数回シャッターを押した。
「陽君、その場所に何か思い出があるの?」
カメラマンに問われ、ことりは顔をあげる。
「...いえ、特には。」
「独特の雰囲気がでてる、綺麗だ。
そのままこちらに歩いてきて、教室から出て。」
「はい。」
ゆっくりと立ち上がり、歩いていく。
自分に向けられる冷たい視線を思いだし、自然と手が震えた。
カシャ、カシャ、
「いいねー、告白する前みたいな緊張感がある。」
「えっ///」
全くそんなつもりはなかった為に、ことりの頬は赤くなった。
カシャ、
「〜っ///」
色々思いだし、感傷に浸っていたのが馬鹿みたいだ。
ことりはガラ、と扉を開けると教室を出た。
137
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:21:29 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
それから、写真撮影はあっという間に終わった。
初めは緊張したものの次第に慣れてきて
色んな表情を出せるようになる。
カシャ、
最後の一枚を撮り終わり、カメラマンは満足したような笑みを向けた。
「陽君、お疲れ様。今日の陽君はよかった、いつもの雰囲気とは違ったからね。」
「あ、ありがとうございます。」
「次もよろしく頼むよ。」
ポン、とカメラマンに肩に手を置かれてことりは驚く。
「お疲れ様です。」
木村はすぐにことりのもとに駆け寄り、笑顔を向ける。
「今日の仕事は終わりだよ。」
「お疲れ様です。」
今の時間は午後4時。
たしか、郁美との待ち合わせは午後6時。
余裕で間に合うだろう。
138
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:30:05 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「陽くーん!」
黄色い歓声をあげる女子生徒には、ことりは目を向けなかった。
ことり自身、嫌いだからだ。
いつもの陽なら振り向いて愛想笑いを浮かべるだろう。
「ことりちゃん、ファンサービスも立派な仕事なんだよ。」
耳打ちされてことりはため息をつきたくなった。
ことりは振り向き、今日一番の笑顔を向ける。
「俺の事、見ててくれてありがとう。
これからも応援よろしくね。」
「「キャーーー!!!!」」
爆発的な悲鳴に耳を塞ぎたくなったが、ことりは耐えた。
「これでいいんでしょ。」
「上等です。」
木村はことりを連れて、スタッフ達に挨拶をしながら控室に向かった。
139
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:59:26 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
゜.:。£+゜ダンスレッスン゜£+゜.:。
「お疲れ様です。」
控室で着替えて、ことりは帰る仕度をした。
この後はもう仕事がない。
「ことりちゃん、家まで送ってくよ?」
「この後予定あるんで、いいです!」
「そう?じゃあ、お疲れ。明日の18時からのダンスレッスン忘れないでね」
「わかりました。...あ、木村さん!」
「何?」
ことりはひとつ、気になったことがあった。
「学校って、どっちの学校に通えばいいんですか?」
「ことりちゃんは、ことりちゃんが通っている学校に通っていいよ。
陽さんが通う学校には長期休暇の届を出しておいたから。」
陽が通う学校は、芸能人が多く通う学校らしい。
郁美、南、楓も陽と同じ学校に通っている。
「そうなんですか...じゃあ、もう行きます。お疲れ様でした。」
もう一度丁寧に挨拶をすると、木村は笑顔でことりに手を振った。
140
:
いちご
:2012/06/09(土) 15:13:13 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
学校から、郁美との待ち合わせ場所までは近い。まだ結構時間はある。
なんとなく、兄の事が気になった為に病院に向かうことにした。
―――
――――…
病院に入り、まっすぐと陽の病室に向かう。
受付のナースが驚いたような表情で
自分を見ていたことには気づかない。
ガラ、
病室には、母親はすでにいなかった。
きっと帰ったのだろう。
ベッドで気持ちよさそうに眠る陽を見て不思議な気持ちになる。
「お兄ちゃん...。」
何故か、兄の事を嫌いだとは思わなくなっていた。
今日、兄がしている仕事を身をもって体験したからだろうか。
知らないところで苦労しているんだと理解できた。
「私、今、お兄ちゃんの代わりに仕事してるんだよ...。」
聞こえているかわからないが、話しかける。
「いままで、ごめんね...。」
ぽたり、
ことりの瞳から、涙が落ちた。
141
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:13:10 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「私、お兄ちゃんの事、何も知らなかった...。」
陽の手を握り、ことりは続ける。
「...でね、お兄ちゃんが戻って来やすいように
私、仕事も頑張るから...はやく、目を覚ましてね。」
反応がない陽を見て、ことりの表情はさらに歪む。
これ以上涙が零れないように、口をぎゅっと紡ぐ。
腕で涙をふいて、ことりは笑顔を見せた。
「お誕生日おめでとう、お兄ちゃん―――…」
142
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:13:29 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...。」
奥村楓は、自室のベッドで寝転んでいた。
(陽と同じパートなんて、嫌だ)
頭の中にあるのは、そのことばかり。
しかし、二人で練習しなければきっとダンスは成功しない。
「....明日、同じパートのメンバー変えてもらうように
頼もう。」
楓はそう呟き、瞳を綴じた。
143
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:17:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
――
――――…
もうすぐ待ち合わせの時間だ。
ことりは病院を出て、郁美に言われた場所に向かう。
ここからすぐの場所の為に、5分でついた。
少し早くつきすぎてしまったらしい。
郁美はまだいなかった。
しばらくすると、郁美が歩いてくる。
帽子を深くかぶり、バレないように配慮しているらしい。
「陽。」
静かに名前を呼ばれ、ことりは駆け寄る。
「お前馬鹿か?少しは気をつかえ。」
ほら、と郁美が持っていたサングラスを無理やりつけられる。
「あ、ありがとう。」
ドキ、
心臓が高鳴ったのは気のせいではないだろう。
収録の時は緊張で、何も考えられなかったが
改めて郁美を見ると格好良い。
ぼうっと見とれていると、郁美はことりの頭を叩いた。
144
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:36:12 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「そこ座ったら?」
「う、うん。」
郁に言われて近くのベンチに座る。
「...なあ、陽。」
「何?」
「今日のお前は、お前らしくなかった。」
「...ごめん。」
「過ぎたことはもういい。お前、何かあったのか?
このあいだレッスンしていた時はダンスも歌も、トークも完璧だった....。
今日の陽は、可笑しい。信じたくないけど...
もしかして、南や楓が言ってた通り、俺達を馬鹿にしてんのか?」
「違う!絶対違う!」
ことりはばっと立ち上がり、ベンチに座る郁美と向き合う。
145
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:48:11 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ッ...お、俺はそんなつもりはない!
今日はただ調子が悪くて、ダンスと歌詞、ド忘れしただけで
次はちゃんと、頑張るから!」
「陽....。」
「郁美、ゴメン!」
「っぷ、ハハハ!」
いつもクールな彼が、声をあげて笑ったことに
ことりはキョトンとする。
「何必死になってんだよ。
陽はそんな奴じゃないって、分かってる。
俺も、今日は言いすぎた。悪かった...頬、大丈夫か?」
郁美は手を伸ばし、ことりの頬に触れた。
「だ、大丈夫///」
郁美は綺麗に微笑むと、ことりの頬から手を離した。
146
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:55:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「何かあったら相談しろよ。」
「うん、ありがとう郁美。」
「....。」
ことりが微笑めば、郁美はじっと彼女を見る。
「な、なんだよ...。」
「お前、本当に陽か?」
「え?」
ドキン、先ほどとは違う緊張感がことりを襲った。
(ば、バレてる...?)
「な、何言ってんだよ。陽に決まってるだろ。」
「そう、だよな。」
いつもと違う陽の雰囲気に戸惑う。
いつもとは少し違う、甘い香りと少し子供っぽい
女の子のような表情にドキドキした。
147
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:42:07 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「郁美?」
陽の色っぽい唇に、無意識に視線が向いてしまう。
「〜っ///」
陽の事を 可愛い、と思ってしまった。
「俺、この後南達と練習するから...もう行くよ。」
「あ、うん。」
「分かってると思うけど、お前も楓と練習しろよ。」
「わ、分かってるよ!」
「じゃあ、また明日な。」
早口で郁美は告げると、ことりを一人残して走っていってしまう。
「...。」
途中、郁美の様子が少し可笑しかった気がしたが、
仲直りできてよかったと思った。自然と頬が緩む。
「あ、そうだ。」
気はのらないが、楓と練習しなければいけないんだった。
でも、練習する前に自分は基本的なダンスも踊れない。
まずは自分ひとりで自主練習した方がいいと考え、
参考書を買おうと近くの本屋に向かった。
148
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:44:40 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
――――
―――――…
「ただいま。」
家に帰宅したのは、夜8時だった。
今日は色々ありすぎて、クタクタになったが休んでいる暇はない。
「ことり、お帰り。」
「...うん。」
ことりはウィッグとサラシを取る。
解放感と脱力感が彼女を包んだ。
「ご飯できてるわよ。」
「後ででいいよ。やることあるから。」
「そう?あ、今日のお仕事どうだったの?大丈夫だった?」
「う、うん。大丈夫だった、じゃあ私行くから!」
母親を適当にあしらうと、大きな袋を抱えて自室へと向かった。
149
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:47:49 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ドサッ
買ってきた大量の参考書、
スカイのCDとコンサートDVDを床にバラまく。
「っ、」
(練習しなきゃ。)
もう、今日の収録みたいなことは通用しないだろう。
なら、やるしかない。
並大抵の努力ではどうにもならないことは薄々わかっている。
これ以上メンバーに迷惑をかけたくない。疲労感を我慢して、ことりは、
「はじめてのダンスレッスン」という参考書を手にした。
150
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:52:41 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「な、何これ...。」
良くわからない。一人で練習していても、
それであっているのかすらわからない。でも、聞ける人がいないのだ。
「疲れた...。」
無意識に呟く。
「あー、もー。」
ぼふっとベッドに倒れ込んだ。
「...郁美くん、」
脳裏に浮かぶのは、郁美の姿。
彼の事を考えると、少しだけドキドキする。
郁美や、メンバーの為に、頑張ろう。
陽が築き上げてきた立場を、自分が護らなければならない。
ことりは再び起き上がると、練習を始めた。
151
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:55:59 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
―――
――――…
ぐぅうう、
「...お腹すいた。」
時計を見れば、すでに0時をすぎていた。
そういえば晩御飯、食べてなかったな。と思いリビングへと向かう。
ふとテーブルに目を向ければ、
ことりの分の晩御飯がラップされて置かれていた。
『ことり、無理しないでね。』
紙に、そう一言書かれていた。
母親の文字に心が温かくなる。
152
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:00:22 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「......」
もしかして、母親は陽だけを見ていたんじゃないかもしれない。
いつも気づかれないよう、影で努力する陽に気づいて
心配していただけだったのかも、と思う。
もしそうだったなら、自分は大馬鹿だ。
何も知らずに、まわりにあたり散らしていただけだった。
自分は、何も知らない子供だった。
「、っ」
ことりは椅子に座ると、ラップをとり遅めの晩御飯を食べ始めた。
(食べ終わったら、また頑張ろう。
もう少し練習すれば、あのステップができるようになるし...。)
―――少しずつ、ことりは変わり始めていた。
153
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:22:30 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
―――
――――…
チュン、チュン、
小鳥の囀りが聞こえ、朝日が差し込む。
「...あ。」
気づけば朝になっていた。
練習に夢中で、全く気が付かなかった。
寝ていないせいで、頭が重くぼんやりしている。
ぼうっと時計を見れば7時30分。
「っ、学校!」
ハッと思いだし、ことりは急いで風呂へ向かうと入る。
風呂から上がると、バタバタと用意をし始めた。
154
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:29:00 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「行ってきます!」
目の下にできてしまったクマを気にしつつ、ことりは家を出た。
しかし、頭の中はダンスの事ばかり。
昨日覚えたステップとダンスを忘れないように、何度も思い出す。
「あ、森山先輩!」
「?」
突然声をかけられ振り向けば、
同じ制服をきた女子生徒がいた。
「な、何?」
普段学校であまり声をかけられない為に戸惑いながら
返事をすると、彼女は嬉しそうに笑った。
155
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:32:44 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「昨日、学校で撮影してたよね。」
「え、どういうこと?」
「あなたの双子のお兄さん。あたし見たよ!」
「あ、そうなんだ...。」
ことりは驚きつつ、彼女を見る。
「私、高1の奥村彩乃。よかったら、友達にならない?」
(...奥村?)
聞いたことある苗字に、少し考える。
「...いきなり友達って言われても。」
困ったような表情を見せると、彩乃は残念そうな表情を見せた。
「私...モデルしてるから、あんまり学校にこれなくて...
友達少なくて...。だから、森山先輩と友達になれたらいいなって
思ったんだけど...。」
やっぱり、急には無理だよね。と寂しそうな顔をした。
156
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:02:52 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
なんだか自分が悪いことをしているような気がして、
ことりは慌てて訂正した。
「わ、私でよかったら!是非!」
「わあ、本当!?」
ありがとうっ!と彩乃はことりの両手を掴んだ。
「アドレス教えてくれない?」
「あ、うん。」
携帯を取り出し、赤外線通信をして連絡先を交換する。
彩乃は長い髪を耳にかけるしぐさを見せて、
交換が終わるとにっこり笑った。
157
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:14:13 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(...誰かに、似てるような)
「実はね、あたしのお兄ちゃんもスカイのメンバーなんだ...
あ、これ内緒にしてね。」
「うん...って、ええええ!?」
「森山先輩!声でかいよ!」
彩乃は慌ててことりの口を手で塞ぐ。
「モデルになったのは、自分の実力なのに...
兄のおかげでなれたって、思われたくないからオーディションの時から、
ずっとまわりにはスカイにお兄ちゃんがいるってこと秘密にしてるの。」
「そ、そうなんだ...。」
ことりは驚いて目を見開く。
誰かに似ているとずっと思っていたが、そうだったんだ。
158
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:26:27 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(か、楓君に似てる...。)
子供っぽい、人懐っこい可愛い笑顔がそっくりだと思った。
「なんか、森山先輩とは仲良くなれそうだし、よろしくね!」
「うん、宜しく。」
ことりは彩乃につられて笑う。
そのまま、一緒に登校することになった。
玄関で彩乃と別れ、一人教室へ向かう。
ガラ、
教室のドアを開けたとたん、
数人のクラスメイトが駆け寄ってきた。
「森山さん!」
「っ!」
驚いて目を見開けば、女子生徒は更に詰め寄る。
「1年のモデルの、奥村彩乃と登校してきたでしょ!?」
「えっ、う、うん。」
「聞いてほしいことがあるんだけど。」
有無言わせない、圧力のある言い方でことりを脅した。
159
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:44:16 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「な、何...。」
言葉に詰まりながらも必死に答えると、
女子生徒はバッと新聞を突き出してきた。
「?」
「これが本当か、聞いてきてよ。」
「っ!」
今日の新聞の一面を大きく飾っていたのは、
まぎれもない陽と彩乃の姿だった。
内容は、昨日の午後7時にモデルの彩乃とスカイの陽が
ホテルに向かうところを目撃した、というものだった。
身に覚えのないことりは否定しようと口を開くが、
それより先に女子生徒が言葉を発した。
「今すぐ行ってきて。」
160
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:47:30 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
昨日の午後7時は、本屋にいた。
なのになぜあんな一面が撮られたのかわからない。
ましてや彩乃とホテルなんて行くはずがない。
先ほど交換したアドレスに、メールを送ることにした。
''今日の新聞の事で、聞きたいことあるんだけど。''
するとすぐに返信が来る。
''今日の昼休みに、屋上で話そう''
それを見て、昼休みに話す事に決めた。
一年の教室には行かずにクラスに戻ると、
女子生徒達が集まってくる。
161
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:56:26 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「森山さん!なんで戻ってくるのよ!」
「昼休みに話す事になったから。」
戸惑いがちになんとかそういえば、納得いかない表情を見せたが
渋々と言った感じで了承してくれた
「奥村彩乃が、もし陽君と付き合ってるなら、ただじゃおかないわ。」
「ねえ、森山さん。家で陽から何も聞いてないの?」
苛めの対象が、明らかに自分から
一年の彩乃に変わろうとしている。瞳が揺らいだ。
「き、聞いてないよ...昨日は、あ、会ってないから..。」
不自然にドモってしまう。
162
:
いちご
:2012/06/16(土) 20:20:51 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ふ〜ん...ま、昼休みにわかることだしね。」
女子生徒はことりに笑顔を向けて、自分の席に戻っていった。
「っ...はぁ。」
ほっとしてため息をつけば、予鈴がなる。
ことりは自分の席につくと、教師にバレないように
鞄の中からダンスレッスンの本を取り出すと復習し始めた。
午前中の授業は、全く頭に入らなかった。
それもそのはず、ずっとダンスレッスンの本を読んでいたからだ。
今日は新曲の練習がある。自分だけ遅れをとるわけにはいかない。
163
:
いちご
:2012/06/16(土) 20:32:14 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「森山さん、お願いね。」
昼休みになると、女子生徒がことりの元に来てそういった。
頷き、ことりは鞄を持って教室を出て屋上へ向かう。
今日知り合ったばかりなのに、図々しくないか心配になったが、しょうがない。
キィ、
屋上の扉を開くと、すでに彩乃は来ていた。
「森山先輩!」
楓そっくりの笑顔を向ける彼女に戸惑う。
まわりにいた男子達が、彩乃に注目している中ことりは
彼女の近くに歩み寄る。
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