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☆男装少女 6人目のメンバー☆
113
:
いちご
:2012/05/25(金) 21:26:39 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
がちゃん、
5人は楽屋に戻る。
南、郁美、楓、柚希の視線が自分に降り注いだ。
ピリピリした空気に肩を震わせれば、楓が陽を睨みつける。
「僕たち、お前の引立て役でも、
バックダンサーでもないんだけど。分かってる?」
「ご、ゴメン。」
ことりは、謝るしかなかった。
114
:
いちご
:2012/05/25(金) 21:30:27 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「今日の陽は、可笑しい。」
「....。」
(だって、私はお兄ちゃんじゃないし。)
心の中でそう思ったがことりは口に出さずに、
郁美を見上げる。
「あーもー!やってらんねーよ!」
南は大きなため息をついた。
「お前、最近一番人気があるからって調子に乗ってんだろ!?
自分が一番目立つようにあんなアドリブまでしやがって!
仕事をなんだと思ってんだよ!?」
あわせてるこっちの身にもなれよ!と南は大声をあげた。
それに驚き、ことりは目を見開く。
115
:
いちご
:2012/05/25(金) 21:37:02 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「別に、そんなつもりじゃ...。」
「じゃあどういうつもりだよ!?
お前、この後も単独で雑誌の撮影あんだろ!?
...俺達の事見下してんのか?」
「み、見下してなんか...。」
助けを求めるように郁美に視線を向ければ、
彼も怒っているらしく、ことりから視線を逸らす。
「・・・陽、今後もこのようなことがあるなら
スカイから抜けろ。」
柚希は低く、そう言った。
「っ....。」
険悪な雰囲気が漂う中、がちゃりと楽屋のドアが開いた。
「スカイのみなさん、お疲れ様です!
いやあ、今日の収録は良かったですよー!
陽さんのおかげですね!」
「き、木村さん...。」
マネージャーの木村は、空気を読まずに
笑顔で無神経なことを口にする。
116
:
いちご
:2012/05/26(土) 10:11:08 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「で、陽さんはこの後すぐに移動になりますけど
他のメンバーの方はこちらに目を通しておいてください。」
「なんですか、これ。」
木村はメンバーある書類を手渡した。
「来月のコンサートの詳細ですよ。
丁度収録が終わったあとに社長から連絡が来まして...
新曲を一曲、追加したいらしくて...。」
「...新曲?」
「ただでさえ忙しいのに、今からじゃ無理だろ!」
今でもスケジュールはいっぱいだった。
コンサートのダンス練習もあるのに、今から新曲を入れるとなると
歌詞や振付、立ち位置。すべてを覚えなければならない。
多忙のスカイにとって、不可能に近い。
117
:
いちご
:2012/05/26(土) 10:56:43 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「大丈夫ですよ、曲自体はそれほど難しくないんで...
けど、ダンスも歌もそれぞれパートに分かれてるんで、
同じパートの人どうし、息がぴったり合わなければ成功しない曲です。」
「...まじかよ。あ、俺は郁美と柚希と同じだ。」
紙を見て、南は呟く。
「・・・ってことは、僕は、」
「楓は陽とだな。」
「・・・。」
楓はキッ、とことりを睨んだ。
「...おい、このダンス、難しくないか?」
柚希が呟く。
メンバー全員が紙に目を通し、目を見開いた。
アクロバティックのような振付が多すぎる。
しかも、同じパートどうし息があわなければ
失敗しそうなものばかりだった。
118
:
いちご
:2012/05/26(土) 17:46:53 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「まあ、頑張ってくださいね。
スケジュールの関係で、新曲のレッスンは明日とコンサートの二日前しか
ないんですよ。各自自主練でどうにかしてください。」
「げ...。」
「あ、陽さん!後で迎えに来ますんで、
それまでに着替えておいてください。」
「は、ハイ...。」
木村は言いたいことだけをいうと、楽屋をでていった。
楽屋は沈黙する。
「ハァー、ま、決まったことはしょうがねえよな!」
「練習しかないな。」
南と郁美の言葉に、柚希は頷く。
「この後、郁美と柚希は予定空いてるか?」
「夜なら空いてる。」
「俺も。」
「なら3人で夜から練習しようぜ。」
南の言葉に二人は頷いた。
119
:
いちご
:2012/05/26(土) 19:08:42 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...僕帰る。」
楓はそんな3人を横目に、
さっさと着替えて楽屋を出て言ってしまった。
ことりはどうすればいいのかわからず、
茫然としていた。
――――
―――――・・・
「....ハァ。」
場所は変わり、車の中。ことりは大きなため息をついた。
「お疲れ様、ことりちゃん、
思ってたよりどうにかなってよかったよー。」
運転席に座るのは、マネージャーの木村。
「どうにかなんて、なってないですよ。」
状況は凄まじく悪化しました、とことりは呟いた。
120
:
いちご
:2012/05/27(日) 14:59:57 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...でも、大丈夫だって!」
「どこがですか!やっぱり私、お兄ちゃんの代わりに仕事するの
今日でやめます!こんなの、絶対無理です!
メンバー同士もそんなに仲良くないし、
私、嫌われてるし...来月のコンサートなんて、聞いて、ないし...。」
だんだんと声が小さくなっていく。
そんな彼女を見て、木村は苦笑した。
「陽君も、初めは今のことりちゃんみたいだったなあ。」
「え?」
「何度も仕事で失敗して、移動中に泣きながら弱音を吐いて、
そのたびに、もうこの仕事やめたいって言ってたよ。」
懐かしいなあ、と木村は言う。
家では仕事をやめたいなんて一言も言っていなかった。
いつも、楽しい と言っていたのだ。
自分や母親を心配させない為に、
ずっと弱音を吐くのを我慢していたのかもしれない。
ズキン、
ことりの胸が痛んだ。
121
:
いちご
:2012/05/27(日) 15:07:25 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「だから、大丈夫だって〜。慣れないのは最初だけだしさ、
ことりちゃんならイケる。」
「どこからその自信がくるんですか。」
「まあまあ。...ことりちゃん、もう少し頑張ってくれないかな?」
「...え、」
「無理そうな仕事は、できるだけ断って
ほかのメンバーにまわすし、...お願い。」
鏡越しにうつった木村の顔は真剣だった。
「....。」
ことりは迷う。
このまま自分が陽の代わりを務めていても、きっと、いつか限界がくる。
しかし、今まで誰かに頼られたことがなかったことりは
嫌だと思う反面、嬉しいと思う気持ちがあった。
122
:
いちご
:2012/05/27(日) 16:58:06 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「でも...。」
「こんな事を頼れるのは、ことりちゃんしかいないからさ。」
自分は頼られている。
(...どうしよう。)
ことりは悩んだ。
それを察した木村が、彼女を安心させるように笑った。
「大丈夫。本当に無理だと思ったら、
また俺に言ってくれればいいから。」
「...ハイ。」
木村に良いように言いくるめられてしまった。
中途半端な自分に嫌気がさし、視線を窓の外へと向けた。
123
:
いちご
:2012/05/27(日) 21:37:17 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
そしてふと脳裏に浮かんだのは自分と同じパートになったことが
気に食わなかったらしく、一人で先に帰ってしまった楓の事。
南や郁美、柚希は今夜3人で練習するらしい。
「...木村さん、やっぱり私も楓くんと練習した方がいいですか?」
「え?新曲のダンスの事?」
「はい...えと、佐野君たちは練習するみたいだし...。」
「佐野君...ああ、郁美さんの事か。
それはことりちゃんの判断に任せるよ。あ、あとコレ。」
「?...。」
思い出したように木村は片手で鞄から携帯を取り出した。
「これ、陽さんの仕事用の携帯。
借りてきたから連絡を取るときはこれを使って。
あと、陽さんは他のメンバーの事を名前で呼び捨てにしてたから
ことりちゃんもそうしてね。」
「は、ハイ。」
少し戸惑いがちに携帯を受け取った。
124
:
いちご
:2012/05/27(日) 21:45:14 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
゜.:。£+゜写真撮影゜£+゜.:。
「さあ、ついたよ。」
車が停止し、次の撮影場所についた。
ことりは息を飲む。
雑誌の撮影。うまくできるかどうかわからない。
緊張した面持ちで車を降りた。
「今日は野外撮影になるよ。」
「野外撮影?」
「うん、町にでての撮影。」
町に出ての撮影と聞いて、ことりは青ざめた。
町にはたくさんの人がいる。
その中で写真撮影をするなんて緊張するどころの話じゃない。
「っ...無理です!」
「無理じゃないって〜、ほら、これに着替えてメイクさんに
メイクしてもらってきて。」
木村は陽に衣装を差し出すと、楽屋へと押し込んだ。
無言で衣装を見つめ、ハァとため息をつくと仕方なく着替え始める。
125
:
いちご
:2012/05/29(火) 21:42:58 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(大丈夫、撮影は今日だけだ、大丈夫。)
自分に言い聞かせ、落ち着かせる。
着替え終わり、鏡に自分の姿をうつして改めて 陽 そっくりなことに驚く。
コンコン、
ノックの音が聞こえて返事をすると、
外からメイク担当の女性が入ってきた。
――――
―――――…
そして、メイクが終わると木村が再び現れた。
「陽さん、時間です。」
「...ハイ。」
力なくそう返事をすれば、木村は陽の肩を数回たたいて
頑張れ と言葉をかける。
少しだけ肩の力が抜けたような気がした。
まずは、スタジオをでてすぐのところにある公園で撮影をするらしい。
公園についた瞬間、スタッフがテキパキと用意をし始めた。
126
:
いちご
:2012/06/03(日) 10:51:39 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ねえ、あれってスカイの陽じゃない?」
「え?マジで!?うわーっ、超カッコイイ!」
通りすがりの一般人は、陽の姿を見つけると
黄色い声をあげながら集まってくる。そしてすぐに人だかりができた。
スタッフが、撮影に邪魔にならないように注意をしている姿が目に入る。
「キャー!陽くんこっちむいてー!」
声をかけられて振り向けば、さらに歓声は大きくなった。
(...さすが、お兄ちゃん)
やっぱり人気は絶大だ。
「陽さん、始めますよ。」
「あ、はい。」
準備ができたのか、スタッフが声をかけた。
「よろしく、陽くん。」
人懐っこい笑顔をしたカメラマンが挨拶をしてくる。
ことりはすかさず頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
127
:
いちご
:2012/06/03(日) 11:48:36 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「じゃあまず、普通に好きなポーズをとってみて。」
「っ、え。」
好きなポーズ、と突然言われて困惑することり。
さすがに雑誌の撮影でピースはまずいだろうと思い考えたが思いつかない。
それを見てカメラマンが指示をだした。
「いつもならパッとできるのに、今日は調子が悪い?」
「す、すいません...。」
いつもなら、と言われてもことりが知るわけがない。
困ったような表情をすればパシャ、と一枚撮られた。
そのことに驚いているとまた一枚撮られる。
「そのまま歩いてみて。」
「え?歩くんですか?」
「うん。」
言われるがまま歩けば、カメラマンは何枚も写真を撮っていく。
128
:
いちご
:2012/06/03(日) 15:23:04 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
思っていたより緊張はしなかった。
ぶわぁ、と風が吹き、ことりは無意識に髪をおさえる。
本来の自分は髪が長いため、いつもの癖でおさえたのだが
髪に触れてはっとする。
パシャ、パシャ、
「陽くん、今日はいつもより落ち着いてるね〜。」
「そう、ですか?」
「うん、カッコイイっていうか、可愛いよ。」
その言葉に思わず振り向き、カメラマンを見る。
可愛い、と言われたのは初めてだった。
嬉しくなって自然と笑顔になる。
最後に一枚、その表情をカメラにおさめた。
129
:
いちご
:2012/06/03(日) 15:36:05 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
公園での撮影が終わり、
スタッフ全員で撮れた写真をチェックする。
「今日の陽君、表情がぎこちないな。」
スタッフの一人がそういうと、他の人も頷いた。
「いつもの陽さんじゃないみたいですね。」
何かありました?とスタッフが聞いてきた。
「い、いえ...何も...。」
そう答えるのが精一杯で、ことりははにかむ。
「まあ、いいじゃないですか。
次の撮影場所に移動しましょう。」
「は、はい。」
木村は 行きますよ、 とことりに声をかける。
「えー!行っちゃうの!?」
「陽くーん!」
ファンの声が聞こえて、自分が注目されてるのだと強く実感した。
車に乗り込むとき、ふとファンの群れを見る。
小さく手を振ると、歓声がさらに大きくなった。
130
:
いちご
:2012/06/06(水) 19:52:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
♪〜♪〜
移動中、渡された仕事用の携帯が鳴った。
メールが一件、来ている。
「・・・。」
見てもいいのかな、と思いつつも受信ボックスを開くと
そこには郁美からのメールが届いていた。
”プライベート用の携帯、電源切ってるの?”
プライベート用の携帯は陽が持っている為に、
連絡がつかないのは当たり前だ。
ことりは少し考えて、
”プライベート用の携帯が壊れたから、
しばらくは仕事用の携帯しか使えない。ゴメン。”と送る。
すると数分後に返信が来た。
”了解。話したいことがある、会えないか?”
「・・・。」
どうしよう。ことりは悩んだ。
131
:
いちご
:2012/06/07(木) 18:50:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「木村さん、雑誌の撮影が終わった後って予定ありましたっけ?」
「いや、無いよ。早くいけば夕方には終わる。」
「わかりました。」
郁やメンバーとは、あまり仲がいいとは言えない気まずい状況なのだ。
郁が話をしたいと言っているなら、話をするべきだろうと考えて
18時からなら空いてる、と言った。
"じゃあ、18時に。いつものスタジオの前で"
それを見て、了解と送ると携帯を閉じた。
気まずい雰囲気が少しでも良くなるといいと思う。
132
:
いちご
:2012/06/07(木) 18:53:01 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ついたよ、ことりちゃん。」
「...え。」
ついた場所を見て、陽は大きく目を見開いた。
自分が通っている学校だったのだ。
「な、なんで、ここ...。」
「特別に許可をとって、学校の中で撮影をすることになったんだ。
スカイの陽も、普段は普通の男子高生っていう事を
アピールしようと思ってね。」
「...。」
ああ、気まずい。
本来なら今日、ことりはこの学校に登校しているはずなのだ。
なのに自分は陽の姿で、今、ここにいる。
133
:
いちご
:2012/06/07(木) 20:54:27 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ああ、ここ、ことりちゃんが通ってる学校だっけ?」
「は、はい...。」
「大丈夫、誰もことりちゃんなんてわからないよ。」
ほら、行くよ。と言い駐車場に車を止めて降りる。
ごくり、ことりは生唾を飲みこむと、重い足取りで木村の後に続いた。
―――
――――…
スタッフが校長に挨拶をしている間、ことりは学ランに着替える。
そして軽いメイクをしてもらうと撮影に入った。
今は昼休みの時間の為に、生徒達が集まってくる。
「え?マジでスカイの陽!?」
「うわー、カッコイイ!後でサインもらおー!」
聞き覚えのある声に振り向けば、同じクラスの女子生徒。
自分を馬鹿にしていた奴等だった。
134
:
いちご
:2012/06/07(木) 20:56:53 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「アイツ、今日休んでてよかったね。」
「それわかるー!」
アイツ、とは自分の事だろう。
なんだか無償に腹が立ってきた。
「陽君、普通に歩いて、教室に入って好きに動いて。」
「っ、ハイ。」
生徒達の視線をあびながら、
ことりは教室へと足を踏み入れた。
好きなように動いて、と言われてもどうすればいいのかわからない。
ことりはとりあえず、窓際の一番後ろに座った。
その場所は、ことりの席がある場所でもあった。
それを見て、黄色い歓声をあげていた女子生徒は黙り込む。
135
:
いちご
:2012/06/09(土) 13:49:16 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...。」
頬杖をついて、窓の外を眺めた。学校でいつも自分は一人だった。
誰もことり自身を見てはくれない。色々な事を思いだし、急に切なくなった。
今思えば、ちゃんと自分を見ていてくれたのは、
陽だけだったのかもしれない。
(それなのに、私は...。)
窓から入る風がことりの髪を靡かせる。
差し込む太陽の光が、ことりを引き立たせる。
「っ、」
思わずその場にいた全員が息を飲んだ。
カメラマンでさえ、茫然とことりを見ている。
「ことりちゃん...。」
木村は、誰にも聞こえない声で呟いた。
136
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:00:45 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
今のことりは、陽ではない。
カシャ、カシャ、
カメラマンはハッとして数回シャッターを押した。
「陽君、その場所に何か思い出があるの?」
カメラマンに問われ、ことりは顔をあげる。
「...いえ、特には。」
「独特の雰囲気がでてる、綺麗だ。
そのままこちらに歩いてきて、教室から出て。」
「はい。」
ゆっくりと立ち上がり、歩いていく。
自分に向けられる冷たい視線を思いだし、自然と手が震えた。
カシャ、カシャ、
「いいねー、告白する前みたいな緊張感がある。」
「えっ///」
全くそんなつもりはなかった為に、ことりの頬は赤くなった。
カシャ、
「〜っ///」
色々思いだし、感傷に浸っていたのが馬鹿みたいだ。
ことりはガラ、と扉を開けると教室を出た。
137
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:21:29 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
それから、写真撮影はあっという間に終わった。
初めは緊張したものの次第に慣れてきて
色んな表情を出せるようになる。
カシャ、
最後の一枚を撮り終わり、カメラマンは満足したような笑みを向けた。
「陽君、お疲れ様。今日の陽君はよかった、いつもの雰囲気とは違ったからね。」
「あ、ありがとうございます。」
「次もよろしく頼むよ。」
ポン、とカメラマンに肩に手を置かれてことりは驚く。
「お疲れ様です。」
木村はすぐにことりのもとに駆け寄り、笑顔を向ける。
「今日の仕事は終わりだよ。」
「お疲れ様です。」
今の時間は午後4時。
たしか、郁美との待ち合わせは午後6時。
余裕で間に合うだろう。
138
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:30:05 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「陽くーん!」
黄色い歓声をあげる女子生徒には、ことりは目を向けなかった。
ことり自身、嫌いだからだ。
いつもの陽なら振り向いて愛想笑いを浮かべるだろう。
「ことりちゃん、ファンサービスも立派な仕事なんだよ。」
耳打ちされてことりはため息をつきたくなった。
ことりは振り向き、今日一番の笑顔を向ける。
「俺の事、見ててくれてありがとう。
これからも応援よろしくね。」
「「キャーーー!!!!」」
爆発的な悲鳴に耳を塞ぎたくなったが、ことりは耐えた。
「これでいいんでしょ。」
「上等です。」
木村はことりを連れて、スタッフ達に挨拶をしながら控室に向かった。
139
:
いちご
:2012/06/09(土) 14:59:26 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
゜.:。£+゜ダンスレッスン゜£+゜.:。
「お疲れ様です。」
控室で着替えて、ことりは帰る仕度をした。
この後はもう仕事がない。
「ことりちゃん、家まで送ってくよ?」
「この後予定あるんで、いいです!」
「そう?じゃあ、お疲れ。明日の18時からのダンスレッスン忘れないでね」
「わかりました。...あ、木村さん!」
「何?」
ことりはひとつ、気になったことがあった。
「学校って、どっちの学校に通えばいいんですか?」
「ことりちゃんは、ことりちゃんが通っている学校に通っていいよ。
陽さんが通う学校には長期休暇の届を出しておいたから。」
陽が通う学校は、芸能人が多く通う学校らしい。
郁美、南、楓も陽と同じ学校に通っている。
「そうなんですか...じゃあ、もう行きます。お疲れ様でした。」
もう一度丁寧に挨拶をすると、木村は笑顔でことりに手を振った。
140
:
いちご
:2012/06/09(土) 15:13:13 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
学校から、郁美との待ち合わせ場所までは近い。まだ結構時間はある。
なんとなく、兄の事が気になった為に病院に向かうことにした。
―――
――――…
病院に入り、まっすぐと陽の病室に向かう。
受付のナースが驚いたような表情で
自分を見ていたことには気づかない。
ガラ、
病室には、母親はすでにいなかった。
きっと帰ったのだろう。
ベッドで気持ちよさそうに眠る陽を見て不思議な気持ちになる。
「お兄ちゃん...。」
何故か、兄の事を嫌いだとは思わなくなっていた。
今日、兄がしている仕事を身をもって体験したからだろうか。
知らないところで苦労しているんだと理解できた。
「私、今、お兄ちゃんの代わりに仕事してるんだよ...。」
聞こえているかわからないが、話しかける。
「いままで、ごめんね...。」
ぽたり、
ことりの瞳から、涙が落ちた。
141
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:13:10 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「私、お兄ちゃんの事、何も知らなかった...。」
陽の手を握り、ことりは続ける。
「...でね、お兄ちゃんが戻って来やすいように
私、仕事も頑張るから...はやく、目を覚ましてね。」
反応がない陽を見て、ことりの表情はさらに歪む。
これ以上涙が零れないように、口をぎゅっと紡ぐ。
腕で涙をふいて、ことりは笑顔を見せた。
「お誕生日おめでとう、お兄ちゃん―――…」
142
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:13:29 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...。」
奥村楓は、自室のベッドで寝転んでいた。
(陽と同じパートなんて、嫌だ)
頭の中にあるのは、そのことばかり。
しかし、二人で練習しなければきっとダンスは成功しない。
「....明日、同じパートのメンバー変えてもらうように
頼もう。」
楓はそう呟き、瞳を綴じた。
143
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:17:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
――
――――…
もうすぐ待ち合わせの時間だ。
ことりは病院を出て、郁美に言われた場所に向かう。
ここからすぐの場所の為に、5分でついた。
少し早くつきすぎてしまったらしい。
郁美はまだいなかった。
しばらくすると、郁美が歩いてくる。
帽子を深くかぶり、バレないように配慮しているらしい。
「陽。」
静かに名前を呼ばれ、ことりは駆け寄る。
「お前馬鹿か?少しは気をつかえ。」
ほら、と郁美が持っていたサングラスを無理やりつけられる。
「あ、ありがとう。」
ドキ、
心臓が高鳴ったのは気のせいではないだろう。
収録の時は緊張で、何も考えられなかったが
改めて郁美を見ると格好良い。
ぼうっと見とれていると、郁美はことりの頭を叩いた。
144
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:36:12 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「そこ座ったら?」
「う、うん。」
郁に言われて近くのベンチに座る。
「...なあ、陽。」
「何?」
「今日のお前は、お前らしくなかった。」
「...ごめん。」
「過ぎたことはもういい。お前、何かあったのか?
このあいだレッスンしていた時はダンスも歌も、トークも完璧だった....。
今日の陽は、可笑しい。信じたくないけど...
もしかして、南や楓が言ってた通り、俺達を馬鹿にしてんのか?」
「違う!絶対違う!」
ことりはばっと立ち上がり、ベンチに座る郁美と向き合う。
145
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:48:11 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ッ...お、俺はそんなつもりはない!
今日はただ調子が悪くて、ダンスと歌詞、ド忘れしただけで
次はちゃんと、頑張るから!」
「陽....。」
「郁美、ゴメン!」
「っぷ、ハハハ!」
いつもクールな彼が、声をあげて笑ったことに
ことりはキョトンとする。
「何必死になってんだよ。
陽はそんな奴じゃないって、分かってる。
俺も、今日は言いすぎた。悪かった...頬、大丈夫か?」
郁美は手を伸ばし、ことりの頬に触れた。
「だ、大丈夫///」
郁美は綺麗に微笑むと、ことりの頬から手を離した。
146
:
いちご
:2012/06/09(土) 19:55:19 HOST:ntiwte061076.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「何かあったら相談しろよ。」
「うん、ありがとう郁美。」
「....。」
ことりが微笑めば、郁美はじっと彼女を見る。
「な、なんだよ...。」
「お前、本当に陽か?」
「え?」
ドキン、先ほどとは違う緊張感がことりを襲った。
(ば、バレてる...?)
「な、何言ってんだよ。陽に決まってるだろ。」
「そう、だよな。」
いつもと違う陽の雰囲気に戸惑う。
いつもとは少し違う、甘い香りと少し子供っぽい
女の子のような表情にドキドキした。
147
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:42:07 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「郁美?」
陽の色っぽい唇に、無意識に視線が向いてしまう。
「〜っ///」
陽の事を 可愛い、と思ってしまった。
「俺、この後南達と練習するから...もう行くよ。」
「あ、うん。」
「分かってると思うけど、お前も楓と練習しろよ。」
「わ、分かってるよ!」
「じゃあ、また明日な。」
早口で郁美は告げると、ことりを一人残して走っていってしまう。
「...。」
途中、郁美の様子が少し可笑しかった気がしたが、
仲直りできてよかったと思った。自然と頬が緩む。
「あ、そうだ。」
気はのらないが、楓と練習しなければいけないんだった。
でも、練習する前に自分は基本的なダンスも踊れない。
まずは自分ひとりで自主練習した方がいいと考え、
参考書を買おうと近くの本屋に向かった。
148
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:44:40 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
――――
―――――…
「ただいま。」
家に帰宅したのは、夜8時だった。
今日は色々ありすぎて、クタクタになったが休んでいる暇はない。
「ことり、お帰り。」
「...うん。」
ことりはウィッグとサラシを取る。
解放感と脱力感が彼女を包んだ。
「ご飯できてるわよ。」
「後ででいいよ。やることあるから。」
「そう?あ、今日のお仕事どうだったの?大丈夫だった?」
「う、うん。大丈夫だった、じゃあ私行くから!」
母親を適当にあしらうと、大きな袋を抱えて自室へと向かった。
149
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:47:49 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ドサッ
買ってきた大量の参考書、
スカイのCDとコンサートDVDを床にバラまく。
「っ、」
(練習しなきゃ。)
もう、今日の収録みたいなことは通用しないだろう。
なら、やるしかない。
並大抵の努力ではどうにもならないことは薄々わかっている。
これ以上メンバーに迷惑をかけたくない。疲労感を我慢して、ことりは、
「はじめてのダンスレッスン」という参考書を手にした。
150
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:52:41 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「な、何これ...。」
良くわからない。一人で練習していても、
それであっているのかすらわからない。でも、聞ける人がいないのだ。
「疲れた...。」
無意識に呟く。
「あー、もー。」
ぼふっとベッドに倒れ込んだ。
「...郁美くん、」
脳裏に浮かぶのは、郁美の姿。
彼の事を考えると、少しだけドキドキする。
郁美や、メンバーの為に、頑張ろう。
陽が築き上げてきた立場を、自分が護らなければならない。
ことりは再び起き上がると、練習を始めた。
151
:
いちご
:2012/06/15(金) 19:55:59 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
―――
――――…
ぐぅうう、
「...お腹すいた。」
時計を見れば、すでに0時をすぎていた。
そういえば晩御飯、食べてなかったな。と思いリビングへと向かう。
ふとテーブルに目を向ければ、
ことりの分の晩御飯がラップされて置かれていた。
『ことり、無理しないでね。』
紙に、そう一言書かれていた。
母親の文字に心が温かくなる。
152
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:00:22 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「......」
もしかして、母親は陽だけを見ていたんじゃないかもしれない。
いつも気づかれないよう、影で努力する陽に気づいて
心配していただけだったのかも、と思う。
もしそうだったなら、自分は大馬鹿だ。
何も知らずに、まわりにあたり散らしていただけだった。
自分は、何も知らない子供だった。
「、っ」
ことりは椅子に座ると、ラップをとり遅めの晩御飯を食べ始めた。
(食べ終わったら、また頑張ろう。
もう少し練習すれば、あのステップができるようになるし...。)
―――少しずつ、ことりは変わり始めていた。
153
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:22:30 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
―――
――――…
チュン、チュン、
小鳥の囀りが聞こえ、朝日が差し込む。
「...あ。」
気づけば朝になっていた。
練習に夢中で、全く気が付かなかった。
寝ていないせいで、頭が重くぼんやりしている。
ぼうっと時計を見れば7時30分。
「っ、学校!」
ハッと思いだし、ことりは急いで風呂へ向かうと入る。
風呂から上がると、バタバタと用意をし始めた。
154
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:29:00 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「行ってきます!」
目の下にできてしまったクマを気にしつつ、ことりは家を出た。
しかし、頭の中はダンスの事ばかり。
昨日覚えたステップとダンスを忘れないように、何度も思い出す。
「あ、森山先輩!」
「?」
突然声をかけられ振り向けば、
同じ制服をきた女子生徒がいた。
「な、何?」
普段学校であまり声をかけられない為に戸惑いながら
返事をすると、彼女は嬉しそうに笑った。
155
:
いちご
:2012/06/15(金) 20:32:44 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「昨日、学校で撮影してたよね。」
「え、どういうこと?」
「あなたの双子のお兄さん。あたし見たよ!」
「あ、そうなんだ...。」
ことりは驚きつつ、彼女を見る。
「私、高1の奥村彩乃。よかったら、友達にならない?」
(...奥村?)
聞いたことある苗字に、少し考える。
「...いきなり友達って言われても。」
困ったような表情を見せると、彩乃は残念そうな表情を見せた。
「私...モデルしてるから、あんまり学校にこれなくて...
友達少なくて...。だから、森山先輩と友達になれたらいいなって
思ったんだけど...。」
やっぱり、急には無理だよね。と寂しそうな顔をした。
156
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:02:52 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
なんだか自分が悪いことをしているような気がして、
ことりは慌てて訂正した。
「わ、私でよかったら!是非!」
「わあ、本当!?」
ありがとうっ!と彩乃はことりの両手を掴んだ。
「アドレス教えてくれない?」
「あ、うん。」
携帯を取り出し、赤外線通信をして連絡先を交換する。
彩乃は長い髪を耳にかけるしぐさを見せて、
交換が終わるとにっこり笑った。
157
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:14:13 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(...誰かに、似てるような)
「実はね、あたしのお兄ちゃんもスカイのメンバーなんだ...
あ、これ内緒にしてね。」
「うん...って、ええええ!?」
「森山先輩!声でかいよ!」
彩乃は慌ててことりの口を手で塞ぐ。
「モデルになったのは、自分の実力なのに...
兄のおかげでなれたって、思われたくないからオーディションの時から、
ずっとまわりにはスカイにお兄ちゃんがいるってこと秘密にしてるの。」
「そ、そうなんだ...。」
ことりは驚いて目を見開く。
誰かに似ているとずっと思っていたが、そうだったんだ。
158
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:26:27 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
(か、楓君に似てる...。)
子供っぽい、人懐っこい可愛い笑顔がそっくりだと思った。
「なんか、森山先輩とは仲良くなれそうだし、よろしくね!」
「うん、宜しく。」
ことりは彩乃につられて笑う。
そのまま、一緒に登校することになった。
玄関で彩乃と別れ、一人教室へ向かう。
ガラ、
教室のドアを開けたとたん、
数人のクラスメイトが駆け寄ってきた。
「森山さん!」
「っ!」
驚いて目を見開けば、女子生徒は更に詰め寄る。
「1年のモデルの、奥村彩乃と登校してきたでしょ!?」
「えっ、う、うん。」
「聞いてほしいことがあるんだけど。」
有無言わせない、圧力のある言い方でことりを脅した。
159
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:44:16 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「な、何...。」
言葉に詰まりながらも必死に答えると、
女子生徒はバッと新聞を突き出してきた。
「?」
「これが本当か、聞いてきてよ。」
「っ!」
今日の新聞の一面を大きく飾っていたのは、
まぎれもない陽と彩乃の姿だった。
内容は、昨日の午後7時にモデルの彩乃とスカイの陽が
ホテルに向かうところを目撃した、というものだった。
身に覚えのないことりは否定しようと口を開くが、
それより先に女子生徒が言葉を発した。
「今すぐ行ってきて。」
160
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:47:30 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
昨日の午後7時は、本屋にいた。
なのになぜあんな一面が撮られたのかわからない。
ましてや彩乃とホテルなんて行くはずがない。
先ほど交換したアドレスに、メールを送ることにした。
''今日の新聞の事で、聞きたいことあるんだけど。''
するとすぐに返信が来る。
''今日の昼休みに、屋上で話そう''
それを見て、昼休みに話す事に決めた。
一年の教室には行かずにクラスに戻ると、
女子生徒達が集まってくる。
161
:
いちご
:2012/06/16(土) 19:56:26 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「森山さん!なんで戻ってくるのよ!」
「昼休みに話す事になったから。」
戸惑いがちになんとかそういえば、納得いかない表情を見せたが
渋々と言った感じで了承してくれた
「奥村彩乃が、もし陽君と付き合ってるなら、ただじゃおかないわ。」
「ねえ、森山さん。家で陽から何も聞いてないの?」
苛めの対象が、明らかに自分から
一年の彩乃に変わろうとしている。瞳が揺らいだ。
「き、聞いてないよ...昨日は、あ、会ってないから..。」
不自然にドモってしまう。
162
:
いちご
:2012/06/16(土) 20:20:51 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ふ〜ん...ま、昼休みにわかることだしね。」
女子生徒はことりに笑顔を向けて、自分の席に戻っていった。
「っ...はぁ。」
ほっとしてため息をつけば、予鈴がなる。
ことりは自分の席につくと、教師にバレないように
鞄の中からダンスレッスンの本を取り出すと復習し始めた。
午前中の授業は、全く頭に入らなかった。
それもそのはず、ずっとダンスレッスンの本を読んでいたからだ。
今日は新曲の練習がある。自分だけ遅れをとるわけにはいかない。
163
:
いちご
:2012/06/16(土) 20:32:14 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「森山さん、お願いね。」
昼休みになると、女子生徒がことりの元に来てそういった。
頷き、ことりは鞄を持って教室を出て屋上へ向かう。
今日知り合ったばかりなのに、図々しくないか心配になったが、しょうがない。
キィ、
屋上の扉を開くと、すでに彩乃は来ていた。
「森山先輩!」
楓そっくりの笑顔を向ける彼女に戸惑う。
まわりにいた男子達が、彩乃に注目している中ことりは
彼女の近くに歩み寄る。
164
:
いちご
:2012/06/16(土) 20:34:11 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「どうせだから、ごはん食べながら話そうよ!」
「あ、うん...。」
彩乃はコンクリートの地面にすわり、弁当を広げた。
「奥村さんのお弁当、すごいね。」
弁当を見て、思ったことをそのまま口に出すと彩乃は恥ずかしそうに笑う。
「これ、お兄ちゃんが作ってるの。」
「え?」
「お父さんとお母さん、海外で仕事してて家にいないから。
二人暮らしみたいなものだよ。」
「そ、そうなんだ...なんか、意外。
奥村さんのお兄さんが料理できるなんて思ってなかった。」
「そうかな?...あ、そういえば森山先輩、
あたしに聞きたいことあるんでしょ?」
にっこり、
感情の読めない笑みを向けられ、ことりは戸惑う。
165
:
いちご
:2012/06/16(土) 20:36:07 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「お、奥村さん、今日の新聞に載ってたことって本当なの?
その、お兄ちゃんとホテル行ったって...。」
「先輩、昨日陽さんと会ってないの?」
「う、うん。」
自分が陽の代わりに男装してるなんて口が裂けても言えない為に、
適当に会話を合わせることにした。
すると彩乃は少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「本当だよ。」
166
:
いちご
:2012/06/16(土) 21:13:49 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ことりは困惑した。
昨日は自分が陽の代わりに男装して生活していた。
なのにどうして彩乃が 陽とホテルに行った と言うのかが分からない。
「...そ、なんだ。」
嘘でしょ?とは聞けなかった。
どこか思いつめるような表情で、
発言を否定させないような雰囲気に思わず躊躇う。
「まさか、撮られてたなんて思ってなかった....。」
私、陽君のファンに殺されちゃうかも。とおどけて話す彼女は
嘘をついているようには見えない。
まさか、意識不明だった兄が目を覚まし、彩乃と一緒にいたのか?
否、それはない。
だって、自分が見舞いに行ったときはピクリとも動かず、眠っていた。
167
:
いちご
:2012/06/16(土) 21:20:02 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「まあ、そういうことなの。
...私、陽君が好きだから...ごめんなさい、森山先輩。」
先輩のお兄さん取っちゃうような真似して、ゴメン。
素直に謝る彼女に、ことりは慌てて口を開いた。
「あ、謝らなくていいよ!
お兄ちゃんが誰と居たかなんて、私と関係ないし...
それに、奥村さんなら...いいと、思う。」
何適当なことを口走ってるんだろう、と自分でも後悔した。
その言葉を聞いた彩乃は嬉しそうに微笑み、 ありがとう と言う。
168
:
いちご
:2012/06/16(土) 21:55:22 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
♪〜♪〜、
ふいに、陽の仕事用の携帯に着信が鳴った。
それを取り出し、画面を見て焦る。
奥村 楓 からだ。
彩乃がいる前で電話をでる事もできず、
あたふたしていると不思議そうな顔をされた。
「電話、出ないの?」
「え、ああ、うん!ちょ、ちょっと電話でてくるね。」
ことりは立ち上がると、彩乃から離れる。
なるべく人のいないところに移動すると電話に出た。
男装しているときのように、少し声音を低くして話す。
169
:
Mako♪
:2012/06/16(土) 21:58:08 HOST:hprm-57422.enjoy.ne.jp
のわぁぁぁぁ!?
二人(?)の筈の陽くんに3人目が!?
こ、これは、一体……!?
いちごさん、頑張ってね!
170
:
もこ
:2012/06/17(日) 09:30:42 HOST:pc10131.amigo.ne.jp
ことり「嘘でしょ?」って聞けばよかったのにぃ〜!!
171
:
いちご
:2012/06/17(日) 14:33:34 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
Mako♪s>
感想ありがとうございます!!
最近はけっこう更新してます(*^^*)
(期末テストあるのに…)
でも頑張って書きますww
もこs>
そうですね(*´∀`)
でも彩乃©は悪役じゃないんで
多めに見てあげてくださいww
172
:
いちご
:2012/06/17(日) 14:52:37 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「もしもし。」
『今日、学校に居ないんだね。』
「え、あ、うん...暫く、学校休むことになったから。」
昨日木村に言われたことを思いだし、
そう説明すると不満そうな声が聞こえた。
『なんで?仕事?今日、わざわざ陽くんの教室行ったのに
居なかったから無駄足だったんだけど。』
刺々しい言い方にことりは思わず苦笑してしまった。
それに気づかれないように、 ゴメン と謝る。
『佐野も心配してた。』
郁美の名前を出され、申し訳ない気持ちになったが仕方がない。
今、陽はいないのだ。
173
:
いちご
:2012/06/17(日) 14:55:47 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...うん、仕事が忙しくて...で、何か用?」
『新曲の事なんだけど、僕、陽くんと同じパート嫌だから
今日変えてもらう予定。それだけ言っとこうと思って。』
はっきりと言われたことに、ことりは驚いた。
ズキン、と心が痛む。
真っ向から拒絶され、少なからず傷ついた。
「...なんで?」
『何度も言わせる気?僕、陽くん嫌いだから。』
「そ...っか。」
自分が嫌われてしまった理由は明白だった為に、
何も言い返す事はできない。
陽がいない間に、だんだんと状況が悪化しているような気がした。
ことりは泣きたくなった。
174
:
いちご
:2012/06/17(日) 15:07:39 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
『じゃ、そういうことだからよろしくね』
プツリと切られた携帯。
ことりはそれを見つめ、泣きそうになった。
(私...どうすればいいんだろう。)
とりあえず待っている彩乃の元に向かうと、
もういいの?と聞かれる。
頷けば、 だいじょうぶ? と顔を覗き込まれた。
「だ、大丈夫。」
「今の森山先輩、昨日のお兄ちゃんみたいな顔してる。」
「え?」
「相手に言いたいことあるなら、はっきり言えば?
ため込んでても疲れるだけだよ。」
「....そうだよね。」
175
:
いちご
:2012/06/17(日) 16:07:59 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
刹那、予鈴が鳴った。
彩乃はその音を聞き、鞄を持って立ち上がる。
「あ、じゃあ私はもう行くね!
ねえ、森山先輩が良かったらこれからも一緒にご飯食べない?」
「うん。」
特に一緒に昼食をとる友達もいない為に頷けば、彩乃は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また明日ね!」
手をひらひらと振られて、彼女は去っていく。
一人残されたことりは、弁当箱を片づけると自分も教室に戻っていった。
176
:
いちご
:2012/06/17(日) 16:09:44 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
教室に戻ると、お決まりのように
女子生徒達が自分のまわりに集まってくる。
「森山さん、どうだった?」
「...人違いだって言ってた。」
ことりは嘘をついた。
彩乃を傷つけたくはなかったからだ。
「本当に?」
「うん、昨日は仕事してたって...。」
「じゃあ、あの記事はなんなのよ?」
「合成か何かだと思う...たぶん。」
曖昧に答えると、女子生徒はことりをギロリとにらんだ。
177
:
いちご
:2012/06/17(日) 20:35:10 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ま、今回は陽君に免じてそういうことにしておいてあげるわよ。」
納得がいかない様子だったが、女子生徒は身を引いた。
そのことにほっと息をつく。
今回は引いてくれたが、次がどうなるかわからない。
どうして彩乃が昨日、陽と一緒にいたと発言したのか、
できれば真相を調べようと考える。
ことりは、そのまま自分の席に戻ると、午後の授業の準備をしだした。
178
:
いちご
:2012/06/17(日) 20:41:25 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
キーンコーンカーンコーン、
予鈴の音で、ハッと頭を上げた。
どうやら、自分はいつのまにか眠ってしまっていたらしい。
無理もなかった。昨日は一睡もしていない。
ふと時計を見れば、授業はすでに終わっていて
下校を始める生徒達がいる。
「!」
ことりは慌てて教科書を片づけると鞄を持って教室を出た。
(ダンスレッスン行かなきゃ!)
どっとくる疲れを無視して、ことりは急いだ。
179
:
いちご
:2012/06/17(日) 20:53:25 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ことりが学校を出ると、見覚えのある車が校舎前で止まっている。
「ことりちゃん!」
「あ...木村さん。」
マネージャーの木村が迎えに来てくれたのだ。
「斉藤、メイクを頼む。」
「ええ。」
ことりが後部座席に乗り込むと、隣に座っていた斉藤は
メイクポーチを取り出し、ことりに化粧を施していく。
黙ってされるがままになっていると、木村は口を開いた。
「ことりちゃん、ダンスの事なんだけど...
一から覚えるのは大変なんだ。並大抵の努力じゃどうにもならない。」
「...。」
ことり自身、分かっているつもりだ。
こくん、と頷くと木村は真剣な表情で言った。
「頼むよ、森山 陽 。」
丁度メイクが仕上がる。
そして胸にサラシを巻きつけると、着替えにくいが車の中で着替え始めた。
180
:
いちご
:2012/06/17(日) 21:02:32 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
暫く車で走り、ダンスレッスン場についた。
時間ギリギリだったらしく、ことりは少し慌てて会場に入る。
「ことりちゃん、頑張ってね!俺は仕事あるからもう行くけど
何かあったら連絡して!」
「はい!」
できるだけ大きな声で返事をすると、木村は笑顔を向けてから
車を走らせた。
181
:
燐
:2012/06/18(月) 19:40:23 HOST:zaq7719df3a.zaq.ne.jp
いちご>>全然ここに顔出していませんでした(-_-;)
しばらく小説読まれへんかもしれんわ…。
読むのはたぶん夏休みぐらい??
てか、夏休みも予定詰まってきてるからなるべく早く読みます<(_ _)>
182
:
いちご
:2012/07/07(土) 09:44:25 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
<燐
更新遅れてすみません(;´Д`)
ホンットすみません…
期末がありましてね…(←言い訳
読むのはゆっくりでいいよ(^^)
183
:
いちご
:2012/07/07(土) 09:59:35 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
キィ、
遠慮がちに押し扉を開けると、
中には郁美以外のメンバーがいる。
「こ、こんにちは...。」
ことりが挨拶すれば、南、柚希、楓の視線がこちらに向いた。
「...来るのが遅い。」
柚希は静かにそう言った。
時計を見れば、まだ5分前だ。
どうして遅いと言われたのかわからないことりは首をかしげたが、
喧嘩にはなりたくないため、ゴメンと謝る。
184
:
蹴球
:2012/07/08(日) 19:45:25 HOST:i219-167-175-178.s02.a018.ap.plala.or.jp
初めて見てみました。
楓 コワイ
185
:
蹴球
:2012/07/08(日) 19:45:39 HOST:i219-167-175-178.s02.a018.ap.plala.or.jp
初めて見てみました。
楓 コワイ
186
:
もこ
:2012/07/08(日) 22:35:35 HOST:proxy20008.docomo.ne.jp
待ってました!!
187
:
いちご
:2012/07/13(金) 20:54:22 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
<蹴球s
そうですね(-_-;)
私もこういうキャラ苦手です←
隣の席の人をもとに楓をつくりましたww
<もこs
わー!!( ;´Д`)
全然更新してなくてすみませんでした!!
もう部活とか勉強が忙しく過ぎて…(←言い訳
書いておきますね!
188
:
いちご
:2012/07/13(金) 20:58:55 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...郁美は?」
「外せない用事があるから、遅れてくるらしいぜ。」
南の答えに、そうなんだ、と少し残念そうな表情を見せた。
「じゃあ、今から練習を始めるわよ〜。」
パンパン、と手を二回たたいてからレッスン場に
入ってきたのは女性だった。
「「宜しくお願いします」」
ことり以外の声が重なる。
女性は、ことりに視線を向けた。
それに気づき、慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします...。」
「じゃあ、最初はパートごとに分かれて練習しましょう。」
「すいません、そのことなんですけど。」
楓が一歩前に出て、発言した。
189
:
いちご
:2012/07/13(金) 20:59:50 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「何?奥村。」
「パート、変えてくれませんか。」
ズキン、
ことりの胸が痛んだ。
「駄目だ。」
しかし、それをキッパリと女性は断った。
「どうしてですか、七瀬さん。」
どうやら、ダンスを教えてくれる女性の名前は七瀬と言うらしい。
真剣な表情で七瀬を見る楓に、彼女は呆れたように言う。
190
:
いちご
:2012/07/13(金) 21:02:08 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「このパートは、奥村と森山にしかできないからよ。」
「...たしかに。俺たちがこのパートをやるとなると、身長的に無理だな〜。」
南が書類を見ながら呟いた。
メンバーの中で身長が低めの陽と楓しかできないダンスだから、
二人を選んだと七瀬は言う。
「っ...分かりました。」
楓はあきらめたようにそういうと、嫌そうな顔でことりを見た。
「...この後、開いてる?」
「う、うん...。」
「僕の家で練習するよ。」
「わかった。」
191
:
いちご
:2012/07/13(金) 21:30:01 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「じゃあ、今から一度だけ通して踊るから
それを目で見て、しっかり覚えて。」
「!?」
ことりは目を見開いた。
あまりにアバウトな練習法に驚く。
「まだ佐野が来てないから、奥村と森山のパートからするわね。」
ちゃんと見ておきなさいよ、と七瀬は言う。
頷くのを確認すると、七瀬は踊りだした。
ことりは思わず息を飲んだ。
あまりの高度な、キレのあるダンスに目を奪われる。
(じ、自分にできるわけないよ...)
ダンスを初めてまだ1日しかしていない。
基本的な動きをやっと身につけたばかりのことりにとって、難しすぎた。
192
:
いちご
:2012/07/14(土) 13:14:23 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ここまでよ。」
「七瀬さん、ここのステップから次に動くときって
こうであってますか?」
「うん、そう。」
ことりは隣で、一度見ただけで
大体踊れている楓を見て驚愕した。
「奥村、全然なってない。」
それなのに全然駄目だと言われている。
ことりは手足が震えた。
「次、森山。やってみなさい、
アンタこういうダンス得意でしょ?」
勝手に得意にされても困る。
(ど、どうしよう...。)
出来ない。できるわけない。
この場から逃げ出したくなった。
193
:
いちご
:2012/07/14(土) 14:00:15 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「森山?」
七瀬は不思議そうな表情で自分を見る。
「っ、」
どうしよう、頭が真っ白だ。
今七瀬が踊っていたダンスを忘れてしまう。
ことりは、意を決して足を踏み出した。
昨日覚えたばかりのステップを刻む。
その光景に七瀬だけじゃなくほかのメンバーも目を見開いた。
「森山、何やってるの?」
「...スイマセン、おぼえられませんでした。」
素直にそう言って頭を下げれば、七瀬は更に驚いた。
いつもなら一度で大体を覚えてしまうのに、今日は違う。
「調子が悪いようね...もう一度書類に目を通して、
できるかぎりダンスを把握しなさい。」
「ハイ…」
194
:
いちご
:2012/07/15(日) 21:12:42 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「ハァ…」
休憩時間、ことりはため息をついた。
ダンスが難しすぎる。ことり以外のメンバーは確実に上達していく中、
一人だけ置いて行かれていた。
そんなことりを見かねた楓が、ため息交じりで近寄ってくる。
「陽君、真面目にやってる?」
ことりは汗だくの首をタオルで拭きながら、
楓を見上げた。
195
:
いちご
:2012/07/15(日) 21:15:07 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ドキ、
「うん...ごめん。」
楓は、汗で濡れている髪と
暑さで頬が赤くなっていることりを見て、心臓が高鳴った。
動揺を隠せない楓は、ばっと視線を逸らした。
「楓?」
何処か様子の可笑しい楓を心配し、
大丈夫?と彼に触れようとした瞬間、バシ、と手を払われる。
「あ、」
楓も無意識だったらしい。
「ご、ゴメン。」
「僕こそ...。」
彼はことりを見て、小さく謝った。
196
:
いちご
:2012/07/15(日) 21:23:39 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「遅れてすいません。」
刹那、郁美が姿を現した。
「郁美、お前おせーって。」
お前がいないと全く練習になんねえ、と南は言う。
「しょうがないだろ。これでも急いできた。」
「佐野も来たことだし、練習を再開するわよ。」
再び、練習が始まる。
ことりは少しふらふらしたが、気にせず立ち上がり
最初の立ち位置へと移動する。
197
:
いちご
:2012/07/15(日) 21:25:49 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「陽…お前大丈夫か?」
「え?」
そんなことりを見た郁美が気づき、彼女に近寄る。
「顔色悪いぞ。」
「だ、大丈夫だよ。」
「無理、するなよ。」
心配そうな表情を見せる郁美にドキドキしつつ、
ことりは平常を保ち笑顔を見せた。
それからもダンスレッスンは続いたが、ことりだけ上達していない。
無理もなかった。体がついていかないのだ。
一人泣きそうになり、瞳を潤ませる。
198
:
いちご
:2012/07/18(水) 17:42:06 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「森山。」
七瀬が低い声音で彼の名を呼んだ。
「今日は帰りなさい。」
「え、」
ことりは驚いて顔をあげた。
どうして、帰れと言われなければいけないんだろう。
自分は何か間違ったことをしただろうか?
「調子が悪いのに、無理にレッスンしても意味ないでしょ。
今日の森山はダンスのキレが悪すぎよ。
今日は帰って。調子が戻ったら自主練しなさい。」
「…ハイ。」
ことりは小さく返事をした。
どうやら、いつものようなダンスではない為に調子が
悪いのだと勘違いされてしまったらしい。
メンバーも、陽の調子が悪いということに気づいていたが、
あえて何も言わなかった。
ふらふらとした足取りで自分の荷物をまとめ、肩に担ぐ。
199
:
いちご
:2012/07/18(水) 17:54:15 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「...奥村ー。」
そんなことりを見かねてか、
七瀬は練習している楓に声をかけた。
「はい。」
「送っていってやりなさい。」
「え…」
なんで僕が、と声を濁らせたが、
七瀬はもう一度力強く同じことを言った。
「奥村も、今日はそのまま帰りなさい。
同じパートの森山がいないなら練習にならないでしょ。」
たしかに、七瀬が言うとおりだ。
楓は、ハァ、とため息をついてから、荷物をまとめてことりの後を追う。
「行くよ。」
「ご、ゴメン…。」
「別に。…お疲れ様でしたー。」
「お、お疲れ様でした!」
楓につられて、ことりも挨拶をする。
メンバーが茫然とこちらを見ている中、二人は練習場を後にした。
200
:
いちご
:2012/07/18(水) 18:01:08 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
゜.:。£+゜仲間゜£+゜.:。
「陽君。」
楓の視線が突き刺さる。ことりは焦った。
自分のせいで、たったの二日間しかない新曲のレッスンを最後まで
受けることができなかったのだ。
ことりは戸惑った表情で楓を見る。
「...本当に体調悪いの?」
「ぜ、全然平気!大丈夫!」
笑顔を張り付けて彼を見れば、「なら、いいけど」 と言う。
201
:
いちご
:2012/07/18(水) 18:03:59 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ことりの家の方向とは、別の方へ向けて歩き出す彼をみて
不思議に思った。どこかに行くのだろうか。
「ねえ、楓」
「何。」
「どこいくの?」
「僕の家に決まってるだろ。」
「え?」
「練習」
体調悪くないなら、僕の家で練習する。と言う。
本来ならダンスレッスン後に練習する予定だったのだが、
半強制的に帰宅命令が出されてしまった為にしょうがない。
202
:
いちご
:2012/07/20(金) 21:18:04 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「楓の家に行ってもいいの?」
「仕方ないでしょ。場所がないんだから」
ことりは息を飲んだ。
男の子の家には行ったことがない。
いくらダンスレッスンのためと言えど、
緊張しないわけがなかった。
203
:
いちご
:2012/07/20(金) 21:20:16 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
―――
―――――…
「ここだよ」
「でっか...。」
目の前にあるのは、大きな屋敷だった。
自分の家の3倍はありそうな楓の家に、言葉が出ない。
「何突っ立ってるの?」
「あ、今いく」
声をかけられて、慌てて彼の後につづいた。
204
:
いちご
:2012/07/20(金) 21:21:56 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
お邪魔します、と告げて中に入る。
「お兄ちゃんお帰りー」
「ただいま」
妹の彩乃の声が聞こえて、思わず肩をビクつかせた。
「あれ?お客さん?」
彩乃は足音がもう一つ聞こえる事に気づき、
リビングから顔を覗かせた。
「っえ!?な、なんで森山陽がっ...」
「新曲の練習。彩乃、邪魔しないでよ」
「う、うん」
ほら、さっさと行くよ。と言い、楓はことりを案内する。
彩乃の前を通り過ぎる時に控えめに頭を下げておいた。
205
:
いちご
:2012/07/21(土) 12:07:31 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
とある部屋の前で立ち止る。
楓はそこに入る。ことりも続いて入り、中を見て目を見開いた。
「うわあ...」
「ここ、ダンスレッスン用の部屋」
目の前にとても大きな鏡があり、
レッスン場並みの広さのそこに驚きを隠せない。
楓は鞄からレッスン用のCDを取り出すと、
近くにある大きな機材にセットし始めた。
「陽君、なんで急にダンス下手になったの?」
ズバリとそう聞かれて、戸惑う。
自分は陽ではない、そう言ってしまえば楽なのにそれはできない。
なんて言おうか悩んでいれば、楓は大きくため息をついた。
「ま、どうでもいいけど。僕と同じパートになったからには
ちゃんと完璧にしてよね」
「...うん」
ピ、と再生ボタンを押すと音楽が流れ始めた。
206
:
いちご
:2012/07/21(土) 12:17:05 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
ことりは楓の隣に立ち、始まるのを待つ。
足元がふらふらするが、休んでいる暇はない。
眠気と怠さと疲労が一気にことりに襲い掛かる。
「っ、」
唇を噛みしめて、なんとか堪えた。
「笑顔」
隣の楓に言われて、慌てて笑顔を張り付けた。
無理やり張り付けたぎこちないそれに、楓は無言でことりを見る。
207
:
いちご
:2012/07/21(土) 12:29:44 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「や、る、気、あ、ん、の?」
むぎゅう、とことりの両頬を引っ張る。
「いひゃい.…」
「いい加減にしてよね。
足手まとい、役立たず。時間は限られてんだよ、
その中で完璧にしなきゃいけないのに」
楓は本気なんだ。自分の仕事に誇りを持っている。
だから、嫌いな自分とでも文句言わずに練習している。
ことりは、頬の痛みに涙目になりながらも、もう一度決意を決めた。
(完璧に、ダンスが踊れるようにしよう)
彼女の目つきを見て、楓は満足したのか解放する。
208
:
いちご
:2012/07/21(土) 12:33:27 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「―――陽君は、僕の憧れなんだから」
「え?」
ぽつりとつぶやかれた言葉は、
ことりに届くことはなかった。
209
:
いちご
:2012/07/27(金) 19:20:13 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
それから2時間、心を入れ替えたからか、
ことりは急激に成長していた。
なんとか楓のダンスについていけるようにまでなる。
曲が終わった瞬間、ことりはその場に座り込んだ。
「はぁー、はぁー、」
「陽君、このくらいで疲れてんの?」
いつもなら、疲れていても休憩時間も
一人で練習しているくらい努力しているのに。
「――…陽君?」
彼女の頬が赤く火照っていることに気づく。
210
:
いちご
:2012/07/27(金) 19:28:04 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「よ、陽くん…」
何処か焦点があわない瞳をしていた。
楓は彼女の視線に合わせてしゃがみこみ、額に手を触れた。
「――ッ熱」
ことりは熱を出していた。
昨日からずっと無理をしていたせいだろう。
「…家まで送る」
「立てる?」と楓はことりの腕を掴んだ。
彼女の腕の細さに驚き、目を見開く。
こんなに陽は筋肉が無かっただろうか。
「…ッ!?」
ことりは限界だったのか、ガクッ と、その場に倒れ込んだ。
211
:
いちご
:2012/07/28(土) 13:32:38 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
苦しそうな呼吸を繰り返している。
これにはさすがにヤバイと感じた楓が、慌てる。
とりあえず、ここから一番近いリビングのソファーに寝かそうと思い
ことりの体を横抱きにして持ち上げた。
男を横抱きにするなんて、と内心思ったが文句は言ってられない。
持ち上げた瞬間、想像していたよりもずっと軽い彼の体に
楓は目を見開いた。
212
:
いちご
:2012/07/29(日) 11:56:52 HOST:ntiwte023008.iwte.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「彩乃!」
「どうしたのお兄ちゃんって、陽君!?」
リビングに入ってきた、楓に抱えられていることりを見て
彩乃は声をあげた。
「熱があるみたいなんだけど」
楓はソファーにことりをそっと置きながら言った。
彩乃は陽の額に手を当てて、驚く。
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