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光のロザリオ

18竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 11:57:29 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 倉木先生に訳を正直に話したところ『友情という事でオッケーなのよ!』らしいので、早退することが出来た。
 それにしても、友達の様子見だけで早退させてくれるとは頭のネジが何本か富んでいるんじゃないだろうか、と思った黒崎だったが口にしたら早退させてくれなくなりそうなので、黙っておいた。
 白銀の寮もアパートで五階の一番端っこにある部屋が白銀の部屋らしい。
 倉木先生によると白銀の他にもう一人ルームメイトがいたらしいのだが、何ヶ月か前に何処かに行ったきり帰ってきていないということだ。自分の家に来たのは寂しかったからなのかもしれない。そう思うとさらに謝らなければならないと黒崎は白銀の部屋のインターホンを押す。
 音が鳴ってから数秒、全く扉が開く気配は無い。
「……留守か?」
「どーだろうな。少なくとも扉の向こうからは音がしねぇ」
 扉に耳をつけて中の音を聞いていた奥村はそう言う。
 昨日から帰ってないというのなら、それはそれでさらに心配だ。黒崎と奥村も彼女の行きそうなところを考えてみるがやはり思い当たらない。
 奥村はそんなに話したこともないし、黒崎はつい最近知り合ったばかりだ。
 最初に見たときの事を考えれば本を読んでいた気もするが、自分が来るまで本を読んでいたわけでもなさそうなのでそこまで本が好きというわけでもなく、ただ暇つぶしに読んでいただけだろう。
 そこで黒崎は、この周辺に詳しそうな人を思い出す。
「そうだ!チャラ男さんなら知ってるかも」
「……チャラ男さん?」
 奥村は黒崎の口から出てきた奇抜なニックネームに目を点にする。
 『チャラ男さん(仮名)』は黒崎が帰宅中に紫眼鏡(仮名)が探していた人だ。貰った連絡先を書いてある紙に名前が記されていなかったので、一応『金髪チャラ男』で携帯電話に登録していたはずだ。
 黒崎は携帯電話を取り出して例の『金髪チャラ男』に電話をしてみる。
『ふぁ〜い、もしもしぃ?』
 電話から飛んできた声はかなり眠たそうだった。
 九時過ぎだから眠たいのは分かるが、もしかして寝起きなのではないだろうかと思う。
「チャラ男さん、聞きたいことがあるんだけど」
『誰がチャラ男さんだ!!俺には…ってその声あの時の少年か!いつ電話してくるのかと思って待ってたんだぞ!』
 チャラ男さんの声に元気が戻る。
 とりあえず黒崎はチャラ男さんの長くなりそうな話を遮るかのように本題に入る。
「チャラ男さんって第十地区に詳しい?」
『んあ?まあ、詳しいっちゃあ詳しいかな。可愛い子探しに行ったりしてるし、むしろ十地区に住んでんだぜ?』
 『詳しい』と『可愛い子』探しで黒崎は確信を持ったのか、単刀直入に聞く。
「じゃあ、ここ最近で長い銀髪の女子を見なかったか?」
『ああ、見た見た!ありゃあお前と一緒の高校だろ。でも、昨日いつも見かける道で待ち伏せてたけど見なかったな。帰ると仲間が『誘拐事件』について話してたけど……?』
 黒崎の眉がピクッと動く。
 誘拐事件。
 白銀と関わっているのなら何か分かるかも知れない。
「……奥村、お前は先に帰っててくれ」
「はぁ?お前はどうすんだよ?」
 黒崎はもう一度携帯電話の向かって、
「チャラ男さん!俺を、アンタの仲間のところに連れて行ってくれ!」

19竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 20:46:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒崎は一人でチャラ男さんに指定された場所まで来ていた。
 着いたのは一つの廃工場のような場所。目を疑うような場所だが、ここで間違いないはずだ。
 最後まで反対していた奥村だが、渋々了承して先に帰ってもらった。あとで奥村にも謝らないとな、と黒崎は心の中で呟き廃工場の扉を開く。
「やあ、待ってたよ」
 中には奥の方でシートが引かれており、その上にテーブルや飲食物が置かれている。随分と雑な状態だが辛うじて生活は出来ているらしい。
 シートの上には紫色の髪の眼鏡をかけた青年が座っていた。
 彼は黒崎にロザリオを渡してくれたチャラ男さんを探していた人だ。
「……あら、貴方は…」
 黒崎は横合いから飛んできた呟くような声の方向に首を向ける。
 そこにいたのは着物を着た美人な女の人と、その女の人の妹のように傍らにくっついている、この前ぶつかった少女だ。
「…あんた達、この前の…」
 黒崎も彼女達のことを忘れていなかった。
 小さい女の子の方はともかく、着物を着た長い黒髪の人なんてそうそう忘れられないだろう。
 眼鏡をかけた青年が携帯電話を取り出して、黒崎に話しかける。
「話は聞いてるよ。例の誘拐犯のことだよね?情報を掴んだのは僕じゃないから、情報主に連絡するけど……一つだけ訊いてもいいかい?」
 眼鏡をかけた青年は黒崎の目を真っ直ぐに見つめてそう問いかけた。
「その誘拐犯に攫われたらしき少女は、君にとって救う価値は何かな?」
 黒崎は白銀のことを思い出す。
 第一印象は成績優秀で可愛い子。でも実際は口数が少なく、無断で人の家に上がり込んだり、修行と称していきなり剣を振り回したり、弁当を作ってきてくれたりと、見た目とは逆な奇抜な行動が残っている。
 でも、黒崎が彼女をどういう理由で救うか、どういう価値があって助けるか。そんなものは彼女がこの先何をしようが変わらない。
 黒崎は眼鏡をかけた青年を真っ直ぐに見詰め返して、
「友達だからだ」
 ただそう告げる。
「オッケー。今からネットカフェにいる仲間に連絡を取るよ」
 数回コール音が鳴ると、電話をかけた相手は抑揚の無い声で『はい』と返す。
「バルかい?君がこの前話していた誘拐犯のことだけどさぁ…場所、確定出来るかい?」
『舐めてんの?そんなモン、情報知ってから二十八秒後に見つけたさ』
 電話の相手はずっと平淡な声で、
『場所は第十七地区の潰れた娯楽施設の中にある一つのビル。ビルは一個しかないからすぐ分かるはず。分からなかったらクズ以下』
「誘拐された人の名前も特定できてる?」
 だからなめんなって、という言葉の後に返答が帰ってくる。
『最近誘拐された人は黄金高校の一年所属の白銀流奈。白い髪が特徴の可愛い子だよ』
「ありがとう。じゃあまたね」
 眼鏡をかけた男は電話を切って、折りたたみポケットにしまう。
「君だけじゃ心配だから僕も行くよ」
「んじゃ、俺も……」
「貴方はダメよ。女の子に何するか分かったもんじゃない」
 チャラ男さんの勇み足を鋭い言葉で着物美人が止める。
 着物美人は傍らにいた女の子の肩をポンと叩いて、
「代わりに行きなさい」
「おっす!」
 着物美人の声に女の子は元気よく返事をした。
「じゃあちょっと準備とかあるから、一時間後駅で会おう」
「はい!」
 黒崎が返事をして、廃工場を出ると入り口の壁に奥村が腕を組み、壁にもたれた状態で黒崎が出てくるのを待っていたかのように立っていた。

20竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/19(金) 19:37:28 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……奥村……」
 奥村は黒崎が向かった場所へとこっそりついて行ったのだ。
 話の内容は大体分かった。
 詳しくは聞き取れてなかったが、白銀が攫われたことと、黒崎と廃工場にいる二人とともに白銀を助けに行く、ということは理解できた。
 奥村は力になりたい、と願っていた。
 それなのに、自分を巻き込まないとはいえ、蚊帳の外にされるのは嫌だ。
 だからこそ、奥村は悔しさを噛み砕いて黒崎に尋ねる。
「……何も、言わなくていい」
 黒崎は奥村の目を見て黙ってしまう。
 睨まれたわけでも、ガンを飛ばされたわけでもなく、ただ彼女の目力に口を開くことが出来なかった。
「お前がここで何をしていたのか、理解は出来た。お前は俺を巻き込ませないために、俺をここに連れて来なかったんだろう?」
 ああ、と黒崎は小さく頷く。
 奥村は怒らない。
 相手の気持ちを汲み取って、相手を信じているから怒らない。
「…信じて、いいんだな」
 奥村は真っ直ぐに黒崎を見つめる。
 期待や願望ではなく、ただ信じて。
「戻って来てくれるのか。お前も白銀も無事で」
 黒崎は奥村を見つめ返して、告げる。
「当たり前だ。信じてくれるか」
 奥村はフッと笑みを浮かべ、当たり前だろ、と返す。
 奥村はすれ違い様に、
「信じてるよ」
 と小さく呟いて、黒崎の頬に軽くキスをする。
 一気に黒崎の顔が赤くなり、その反応を楽しむ奥村。
 からかわれた黒崎は今にも奥村に殴りかかりそうな雰囲気だが、
「行け。戻って来ないと撃ち殺すからな」
「……撃ち殺されてたまるか。絶対に戻ってきてやる!!」
 黒崎はその場から走り去る。
 その背中を見えなくなるまで奥村は眺め、踵を返し歩き出す。
 ただ一言呟いて。

「案外、二人のこと好きなのかもな」


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