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係争の異能力者(アビリター)
83
:
ライナー
:2011/08/18(木) 21:59:22 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
恵を除く全員は信じられなかった。洋は普段から食に対してしか興味を持たず、幼い頃は食べ物に釣られて誘拐までされるほどだったそうだ。
「私は是非聞いてみたいな」
恵はそう言って行儀良く空いている椅子に腰掛けた。
やはり、恵を除く全員は一斉に顔を見合わせた。そのとき啓助は思った、洋は食にしか執着心が無かったもののこの場を盛り上げようと頑張っているのだと、そして他の2人も同じ事を考えているのだと思った。
それは、クスッと笑って洋の方に目線を戻したからだ。
「じゃあ話すよ〜、あれはボクがユニオンに入る前のことだったんだ・・・・」
洋はその頃、少し貧しくてあまり豪華なものは口にすることが出来なかった。
「母ちゃん、おなか減ったよ〜。夕ご飯まだぁ〜?」
小学生の洋は薄汚れたランニングシャツにベージュの短パンを穿いていた。その頃から洋は丸々と太っていた。
「まだ3時だよ?いい加減おし、全く丸々太っちゃって・・・・」
洋は仕方なく外に出て、走り出していった。着いた先はその時でさえ滅多になかった駄菓子屋だった。
その駄菓子屋には見た目は古いが、コンビニに普通に立ち並ぶような菓子が置いてあった。
「よっ!デーブ!今日の朝見たときよりも真ん丸になってるなぁ〜!」
洋に悪口を言ったのは同じ学校のいじめっ子達、しかし悪口を言いながら去っていくいじめっ子達を見て洋は首を傾げていた。やはり鈍感なのもこの頃からだった。
「ボク今日のお昼はご飯3杯しか食べなかったけどな〜」
洋はそう言って、並ぶ菓子袋を眺めていた。
菓子が並ぶ向こうにはレジがあり、そこにはいつも居眠りをしている駄菓子屋のお婆さんがいた。学校ではそのお婆さんを「居眠り婆」と言い、眠っている間によく子どもたちに万引きをされていた。あのいじめっ子達もその犯人の一部だ。
洋は暫くその場で固まっていたが、黙って駄菓子屋を出て行った。
「あれ?井上君?どうしたのこんなところで」
洋に話しかけてきたのは同じクラスの細海 由香(ほそみ ゆか)洋がいつもいじめられる度に庇ってくれる水色のバンダナを被った正義感の強い女の子。
「うーん、お腹空いちゃって・・・」
「それで駄菓子屋にいたの?でも井上君お小遣い貰ってないんでしょ?万引きなんかしちゃ駄目よ」
「うん、だから見るだけにした〜」
すると由香は口を軽く押さえて笑い、洋に言った。
「しょうがないなー、私の家に来なよ。パンご馳走するから」
由香は洋の返事を聞く間もなく、腕を掴み走っていった。
2人が足を止めると、焼きたてのパンの良い匂いがした。由香の家は少し洒落たベーカリーカフェで時たま由香は洋に家のパンをご馳走してくれたのだ。
「今日のおやつはバターロールだけどそれで良いよね?」
洋が深く頷くと、由香はドアを押し開け中に入っていった。
84
:
ライナー
:2011/08/18(木) 23:08:08 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
由香の家にはいるとパンの良い香りが部屋中に広がっていた、その匂いを体中で感じることが出来るのは洋にとって、天にも昇る思いだった。
「ママ、井上君また連れて来ちゃった!」
レジの近くには由香の母が腰掛けていて、中々に美人だった。
「こんにちはー、井上君が来てくれるとお客が絶えないのよね。食べっぷりが良いからかしらね」
パン工房の奥からはコック帽を被って、由香の父が出てきた。
「今日も君の食べっぷり、見せて貰うよ!」
由香の父は焼きたてのバターロールの入ったバスケットをテーブルに置き、にっこり笑い「さあ!召し上がれ!」と言った。
由香と洋は洒落た椅子に腰掛け、バターロールを手に取った。
「いただきマース!」
2人は声を揃えてそう言うと、パンを口いっぱい頬張った。
由香の一口は小動物のような一口だったが、洋の一口は大きく見ているだけでこちらが満腹になってしまうような勢いで食べ続けた。
食べ終わると、由香の母親は親切にコップに水を注ぎ2人の前に置いてくれた。
「今日も井上君のお陰で夕方だっていうのにお客が押しかけてきたわね」
すると今度は由香の父がもう一つのバスケットをテーブルに置いて洋に差し出した。
「今日儲けさせてくれたお礼だよ!また来て儲けさせてくれよ!」
「もうっ!パパったら!」
その瞬間、その空間には沢山の幸せが詰まっていた。笑う事の出来る空間、笑顔を作れる空間、それが洋には嬉しくて仕方がなかった。
「じゃ、気をつけてね。バイバイ!」
ドアノブを片手に手を振る由香を見て、洋も2,3回振替すと背を向けて家まで走り出した。
家に帰ると、洋の母は台所で夕ご飯を作っているようだった。
85
:
明優
:2011/08/19(金) 16:31:20 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
久々にコメントさせてください^^
私の小説を最後まで見届けてくれてありがとうございます☆
あんな下手くそな小説なのに・・・。新しい小説も書きましたのでお暇な時
読んでくれたら嬉しいです☆
ライナーさんは表現力とか上手ですね!!
良いところがたくさん出ている小説だと思います☆
大変かと思いますが、もっと見たいです☆(←読者の声
ずっとこの小説を見届けたいと思うので、頑張ってください☆
86
:
ライナー
:2011/08/19(金) 17:09:58 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
明優さん≫
コメントありがとうございます!
僕は恋愛を物語に取り込んでみたいなと思って最初見ていたのですが、とても恋愛系の理解に苦しむ人間に分かりやすく書かれて、参考にっていうかいつの間にか物語に引き込まれていたのです^^だからそれが明優さんの実力ですよ!
読んでますよ!僕も受験生なのでなかなかコメントする機会がなく疲れています(焦)
お褒め頂きありがとうございます!表現力は結構自分でも力入れたつもりです^^褒められると調子乗ることがあるんで、アドバイスもビシッとして下さっていいですよ^^;
今書いているストーリーはサブなんで恋愛入れてます。なのでこの話が終わり次第、恋愛小説のプロにアドバイスお願いしたいと思います^^
87
:
ライナー
:2011/08/19(金) 17:26:35 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
訂正です
84≫の下から二行目の振替すは、振り返すです。
88
:
ライナー
:2011/08/20(土) 12:09:15 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
洋の至福の時も過ぎ、気持ちを切り替えるように静かに深呼吸をした。
深呼吸を3回ほど繰り返すと、母親を背に抜き足で台所に接する部屋を通過して行く。そして、真っ直ぐに自分の部屋に飛び込むと貰ったパンを隅に隠した。
その後、何食わぬ顔で母親の居る台所に足を運び、一言「ただいま」と声を掛けた。
「お帰り」
洋の母は洋に一言言ってそのまま何も喋らなかった。洋にはその時間がとても苦しかった、次第に心臓の鼓動が早くなり冷や汗が出てきた。
「・・・・洋」
母親に言われ、ドキッとして洋は母を見る目に力を入れた。すると、洋の母は炊事中の手を止めその手を拭くと、洋の方をゆっくり向いた。
「いくら隠したって、その匂いとアンタの行動で伝わってくるよ。また、細海さんの家に行ってたんだね?」
洋はガッカリした顔で頷き、そのまま顔を下に向けた。
「もうご馳走になっちゃいけないって言ったわよね?」
「で、でも、貧乏だからってみんなと同じような事しちゃ駄目なのかな〜・・・・」
静かに洋の母は台所から隣の居間に移ると、洋にここに座るように言った。
そして洋が座ってから、洋の母はその向かい側に正座すると洋に言った。
「洋が今していることは、みんなと同じ事じゃないのよ。あんなに毎日毎日行っているのは洋ぐらいなもの・・・・」
洋はその言葉を聞き、今まで自分がしてきた事が間違っていたと言うことにショックを受けた。
今までの洋の生活は暮らしが貧しく、世間に冷たく見られることの無いよう普通に過ごすというのが決まりだった。しかし、洋の食い意地の前にはその決まりも脆く、この前も散々と注意されたのだ。
その原因は由香の家に外出することだった。食い意地を張った洋はいくら食べさせても数分後にはまた腹が減り、世間には身なりのことも含め、ろくなものを食べていないと思われるのも無理はなかった。
「だからこれからは、なるべく給食でもおかわりの回数を減らすこと。いいわね?」
洋は弱々しい声で「はい」と言うとその話しは、そこで切れた。
その日の夜、洋はふとトイレに行こうと目が覚めた。そして部屋から出ると、居間の方から明かりが漏れ話し声が聞こえる。洋は無意識にその声に耳を傾けた。
「洋のことなんですけど・・・・・」
洋の母の声がする、誰かと話している様子だった。
「ああ、分かっている。俺の給料で、ああも馬鹿みたいに食われちゃたまらんからな」
もう一人の声は洋の父親だった。漏れる光に目を近づけると、ヨレヨレのスーツを着てコップに入った水をグイグイ飲んでいる。
「もう少し給料が上がれば晩酌くらい出来るのになぁ・・・・」
「それよりも、今日洋の先生から電話が掛かってきて、お子さんにはいつも何を食べさせているのですか?なんて聞かれちゃって。もうどうしたらいいのか・・・・」
洋はそれ以上話を聞く気になれず、耳を遠ざけトイレに行くのも忘れ寝床に戻った。
89
:
ライナー
:2011/08/20(土) 15:45:41 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
次の朝、洋は目が覚めた瞬間大きな失敗を犯してしまった事に気付いた。布団がグッショリと水気を帯びていたのだ。
久々の失敗に青ざめていると、それと一緒に昨夜の悲劇を思い出した。
自分が居ると多くの人に迷惑が掛かる……せめてまともにならなければ、と。
洋は濡れた敷き布団を窓に干し、何やら意気込んだ様子で自分の部屋を後にした。
「おはよう」
洋は朝の挨拶をキチッとすると、顔を洗い朝ご飯に手を付けた。
「(まともに、まともに……)」
朝ご飯はご飯に味噌汁、おかずには漬け物といった和食だった。洋にはいつもの半分以下の量で、おかわりを毎日のようにしていた。しかし、今日に限って用意されたものだけに食いつき、おかわりはしなかった。
その後、歯を磨き準備を完璧に済ませると、勢いよく家を出て行った。
「あれ?今日は随分と飯が残ってるんだな」
まだ家にいる洋の父はネクタイを締めながら朝の飯にありつこうとしていた。
「そう言えば、洋また食べた後二度寝してるみたいだから起こしてきてくれます?」
台所では洋の母が洗い物をしながら頼み掛けていた。
洋の父はヤレヤレと、いつもの家事に取り付こうとするように洋の部屋に行った。
しかし、洋の部屋に残っていたのは窓から差す眩しい光と、その窓に掛けてある乾いた布団だけだった。
「おーい、母さん。洋どこにも居ないぞ?」
「え!?もしかしてもう出かけたの?しかも、おかわりしてないみたいだわ……」
その頃、洋は強い日差しの中を建物の陰に隠れながら学校へ向かっていた。
「おーい、デブ!今日は朝も早い分、真ん丸度もアップしてるな!」
いつもはいじめっ子達に合う時間にも家を出でなかった洋は、悪口より優越感が先走っていた。
学校でも洋は自分に「まとも」という言葉を言い聞かせ、おかわりは何とか一杯に抑えた。
難なく学校も終わり洋は腹を抱えながら家へ真っ直ぐ進んでいた。
「井上君!」
洋が緊急事態の中、由香が手を振って洋の方へと走ってきた。
「今日、おかわり一杯だけだったでしょ!今日も家に寄って来なよ!」
しかし洋はその言葉に首を横に振り、驚いて立ち止まっている由香を余所に歩き去っていった。
家に着くとただいまも言わずに自分の部屋に飛び込んでいった。そして空腹を紛らわすために、宿題をしていた。
空腹のあまりおかしくなっている洋は、晩ご飯前にグチャグチャの字で書いていた宿題を終わらせ、やはり晩ご飯はおかわりせずに平らげた。風呂から上がった後は急いで朝乾かした布団の中へ潜っていた。
90
:
kokoro
:2011/08/20(土) 22:02:11 HOST:d172.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
世の中には簡単で儲かる仕事があるもんだ(*・ω・)。 ttp://tinyurl.k2i.me/Xxso
91
:
ライナー
:2011/08/20(土) 23:55:45 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
次の朝、洋は布団から起き上がった。正確には空腹により眠れず朝が来たので仕方なく起きた、と言う方が正しいのであろう。何せ洋は1晩中腹を鳴らしていたのだから。
昨日ほどの元気はないものの、驚く両親に挨拶をして顔を洗い、おかわりは無しのルールで朝を済ませ家を出た。
眠いのか、それとも腹が減っているのか、もう何も分からない状態で家を出て行く洋に洋の父は急いで追いつき、歩く洋の腕を掴み引き留めた。
洋の父は片手にゴミ袋を持ち、いかにも朝のサラリーマンを醸し出した様子で話しかけた。
「洋、お前最近元気ないな。どうかしたのか?」
問い質す父親に洋は、細い目をさらに半開きにして振り向いた。
「僕は普通じゃないから〜……」
洋の分かりづらい答えを聞くと、洋の父はため息を吐いた。そのため息はガッカリした様子ではなく、微かな笑みが見えたため息だった。
「母さんがさ、朝はしっかり食べないと力も出ないから朝だけならおかわりいいってよ」
その言葉を聞いた途端、洋の重たい目は細いながらもパッチリ開き光を帯びて輝いた。
「ほら、もう一回食って来い!歯磨きももう一回、忘れんなよ」
洋の父は洋の背中を家の方向に向かって力強く叩くと、ゴミ捨て場にゴミを置き会社へと歩いていった。
洋は嬉しさのあまりその場を動くことが出来なかった。しかし、一回腹が鳴ると家の方向に向かってその足を踏み出した。
そしてその日の学校だった。朝ご飯をいつも通りしっかり食べてきた洋は昨日より威勢が良くなっていた。
洋はやっといつもの自分に戻れたと思い、由香に昨日のことを謝りに行こうと思った。昨日の自分はどうかしていた、と。
しかし、由香の机の方へと近づくと周りには何人もの女子がいた。いつもなら由香の机の近くには誰も寄りつかず、別グループを作って話している女子しかいなかった。そう、由香にもまともに女友達が出来ていたのだ。
洋のことばかりをヒイキするあまりに煙たがって誰も寄りつこうとはしなかったが、元は才色兼備で完璧な友達思いの優しい女の子だったのだ。
その事に気付いた洋は何だか気が引けて、また自分の席に座り込んだ。
「(これで良いんだ……今まで由香ちゃんはボクに巻き込まれていたからみんなに相手にされなかったんだ……良いんだこれで……良いんだ……)」
洋はその日の給食を我慢するどころか喉にも通せなかった。気付いたら、色々な大切なものを失っていたから。
もちろん食べることだって好きだったし、明るい家庭を作り出すことも出来、良かった。しかし、それ以上に大切な友達……いや、それ以上に思っていた人を失っていた。
この時、初めて洋が恋愛感情を知った。切なさを知った。失う事の辛さを身をもって知った。
その日は夕ご飯になっても、洋は空腹を感じることは無かった。
92
:
ライナー
:2011/08/21(日) 12:54:33 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
洋はそのまま、何日経ってもおかわりをすることはなかった。周りで何が起きようとどんなに叱られようと、洋の耳には一言も一文字も入らずただボーっとしていた。
そしてある日のことだった、洋は朝の食事を珍しく抜いた。それはもう辛い状況なのだが、それ以上に苦しみを訴える物には敵わなかった。
ぼーっとしているまま時は、既に下校時刻。担任の先生の招集があり洋のクラスの面々は教室に集まっていた。
「今日は皆さんに悲しいお話があります」
先生の話も早々に洋は机に伏せて寝ている。
「実は、細海さんの事なのですが、今日限りでこの学校とはお別れします」
洋はその言葉を微かに耳で感じ取った。無意識に耳に入ってきてしまった。
「み、皆さん。今まで仲良くしてくれて有り難う御座いました!」
由香の別れの挨拶で教室は拍手と様々な歓声が上がる。お別れの一言や、有り難うの一言などが……
洋はここで敢えて拍手も何もしなかった、自分が出しゃばれば白けると分かっているから。心の中で今までにない苦しみを抑え、涙を堪えた。
洋は自分が久々に感情的になったのに気付いた。自分は今まで鈍感でそんなことほとんどやったことがないから。
その日、洋は由香に話しかけられる事はなかった。今までもずっと断り続けてきたし、関わろうとしていなかったから話したくないのも分かる。
洋は家に着いてから、自分の部屋にこもった。
「(もう、会えないのか……)」
その時に洋は思い出した、由香が引っ越すまでの色々な出来事を。楽しく笑ったり、遊んだり、楽しいことはあったがケンカは一度もしたことはなかった。洋は鈍感だったからだ。
しかし、今では鈍感を振り払い、由香への気持ちを正直に伝えられるようになったのではないのか。
「………」
洋は気が付くと体が勝手に動いていた。一直線に家を飛び出し、外へ出た。そして一番近い駅の方向目掛けて、今までにない力を振り絞り駆けていった。
洋の居るこの街は京都ではないが、中々に碁盤の目のような形の道をしていて、道を一本間違うとドンドンずれていく厄介な代物だ。
しかし洋は急ぐ且つ慎重に事を進め、いつもマイペースな状況では到底出来ない疾走ぶりを見せた。
「(よーし、このままなら余裕に間に合うぞ〜!)」
駅に近づくに連れ、洋の足取りも軽くなり今までの悲しさが吹き飛んでいった。
しかし、後一歩のところで洋は足が止まった。洋が真っ直ぐ見据える先には、3人のいじめっ子達が横一列に並び邪魔をしていたのだ。
「どこ行くんだよー!デーブ!」
「退いてくれないか!駅に行くんだ!」
洋の凄まじい変わりように、いじめっ子達は驚いた。
「お、お前、何か最近変だな……暗くなったり、勢いづいたり……」
すると、別のいじめっ子が言った。
「だーから、由香に嫌われるんじゃネ?」
一人が言うと、他の二人も「だよな〜」と合わせ、洋の方を向いた。
「由香は今駅にいると思うけど、お前みたいな嫌われもんにはきっと会いたくねえんだよ!」
その瞬間いじめっ子達は木の棒を振り上げ、洋に襲いかかった。
93
:
ライナー
:2011/08/21(日) 14:37:54 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
16〜Ⅱ、思い出のバンダナ
洋は向かってくる棒に対し、躱すことが出来なかった。
普段はそこまで動くこともあるわけではないし、体型のことも考えると太った体は命中しやすいのも目に見えていた。
しかし洋はやられるだけでは留まらなかった。
「(由香に会うには痣だらけなんてみっともない……)」
そう思うと、洋の体には見えない力が溢れていた。叩かれたまま、体をいじめっ子達に突っ込むと、いじめっ子達はまるでボーリングのピンのように吹き飛びアスファルトの地面へと倒れた。
どうやら、洋のまん丸い体型も無駄ではなかったようだ。
洋はそのまま駅に向かって走って行く、まるで友を助けに王城へ走るメロスのように。
走れば走るほど辛く、時には血痰まで出てきたが、洋は諦めなかった。
駅に着くと急いで家から持ち出した金を使い切符を買った。そして改札を抜けホームへと走っていった。
しかし、そこには由香の姿はなかった。洋は急に今まで込めていた力がどこかへ消え、膝をついて座り込んでしまった。
暫く黙っていると、洋はゆっくりと立上がった。そしてその瞬間垣間見えた、希望の光が、洋にとってここぞと思える希望が。
なんと、不覚にも向こう側のホームに居たのだ。洋はそれ気付くと、急いで階段を上り、反対側のホームまでたどり着くと由香の方へ駆け寄った。
「おーい!」
由香はその声に気付き、洋の方を向くと嬉しさと驚きが詰まったような顔をしていた。
「井上君!!」
洋は立ち止まったときは息が荒く、とても喋れなかった。
「だ、大丈夫?」
由香がペットボトルに入ったお茶を差し出すと、洋はそれを全て一気に飲み干した。
「……由香ちゃん、この前はごめん」
由香は洋のその言葉を聞くと笑顔を見せ言った。
「いいよ、別に。今までケンカなんてしたこと無かったよね。最もケンカらしいケンカだったのか分かんないけど……」
二人は急にキョトンとした表情になり、その顔を見合わせると自然に笑いが込み上げた。
「でも、よかったぁ〜!!いつもの井上君に戻ってて」
「え?」
「だってさ、食欲のない井上君なんて井上君じゃないもん」
すると、ホームの向こうから電車のやってくる音が響いた。
「あ、あのさ〜。ボクも途中まで着いてって良いかなぁ?」
電車が目の前に停車し、ドアが開くと由香は深く頷いた。
電車の中では人が少なく、一番後ろの車両は洋と由香二人きりだった。
「パパとママが二人はこっちでおしゃべりしてればー、だって」
「まあ、由香ちゃんと会えるのも最後だからね〜」
「そんなこと無いよ!たまにはこっちに遊びに行くし、井上君だって私の所に遊びに来てくれるよね!?」
「うん」
洋は今までこのような至福を感じたことがなかった。由香の家で至福を感じたのは今思えば、パンの香りではなく由香の優しさだったと洋は思った。
そして洋の出なければならない時間が来てしまった。洋は次の駅で足を降ろし由香に言った。
「今までありがとう……まあ、いつか会いに行くよ〜」
「うん、じゃあこれ、私から」
由香は洋に山吹色のバンダナを差し出した。
94
:
ライナー
:2011/08/21(日) 16:00:10 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
「これ、私が被ってるのとツインだったんだけど、井上君にあげるよ」
「……ありがとう」
「井上君、じゃあね」
由香がそう言うと、電車のドアは閉まった。そして走る音を響かせながら電車は去っていった。
洋は山吹色のバンダナを受け取ったとき、由香の気持ちが分かった気がした。
言葉には出来ない思いの伝達が――
「……ってこんな感じかな〜」
「君にしては中々に面白い話しでしたよ。君にとってそのバンダナ、飾りじゃなかったんですね」
乃恵琉以外も少ししんみりした様子だったが評価が良かった。
「んじゃ、お前ら!張り切って任務行くぜ!」
「何アンタが仕切ってんのよ」
洋のお陰でチーム全員が何やら吹っ切れた、そんな1日だった。
95
:
ライナー
:2011/08/22(月) 23:54:09 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
17、乃恵琉の事情
ある日のチームルームだった。名ばかりの物だが第3番隊B班として自覚を持った時だった。
「何て言うか……暇だな〜」
丁度この日は2週に1度の定期的な休暇の日だった。
啓助は早々とチームメイトや、別隊のチームから任務を取られほとんど仕事をしていなかった。
「アンタこれ以上サボると単位落ちて訓練生に落とされるわよ〜」
麗華は余裕の表情で啓助をからかった。ちなみに単位とはユニオンに付属されたシステムで、単位が一定に上がると専攻隊や良くなれば隊長までも任されることがある。しかし、それとは逆に単位を落とすとほとんど一日を訓練で終える訓練生に落とされるのだ。そしてその下に待ち受けるのは最終的に脱退、一つ間違えれば過酷な運命を受け持つシステムだ。
隊員が少なくなったせいで単位のレベルが下がり、ややさぼり気味の啓助は一言「ヨッシャ!」と気合いを入れるように立上がるとチームルームを出て行った。
「ちょっと、アンタどこ行くの?脱退すんの?」
「気が早すぎるだろ!っていうか同じチームなのにそれは無いだろそれは!」
啓助はチームルームのドアから顔を覗かせている麗華を振り向き、咄嗟に突っ込んだ。
「じゃあ、どこ行くの?脱退届出しに行くの?アンタにしては潔いわね」
「だから違うって言ってんだろがっ!お前はどんだけ俺を脱退させてェんだよ!俺は心身共に鍛え直すため師匠の元にだな……」
突っ込んだ後、啓助が誤解されないように真剣な表情で説明していると、麗華がチームルームのドア越しにポテトチップスを囓りながら言った。
「じゃあ、破門されに行くの?ってか破門するの?」
「破門するって自ら自分で破門する奴見たことねーよ!ってか破門されるために行くのもどんだけ無駄足なんだよ!」
啓助が息継ぎしないで突っ込み終わり息を荒くしていると、麗華がチームルームからヒョコッと出て来た。
「んじゃ、私も着いていこうじゃない。破門の瞬間をこの目で見るため」
「だから破門じゃねェェェェェーー!!」
啓助の叫びがユニオンの廊下中に響き渡った。
結局啓助は麗華を連れ、師の所へ行くことになった。
「何で着いて来るんだよ……」
「いや、まともにザコの異能力者(アビリター)も倒せない奴がどんな師匠に教わってんだろうと思って」
「とても突っ込みたいが、言い返せないのは何故だ……あ、俺がまともにザコ異能力者(アビリター)倒せてないからか……」
啓助は麗華の騒動後の任務で二度も違反を犯した異能力者(アビリター)を逃がしていた。その時麗華も同行していて、きっとその事を根に持っていたのだろう。
「にしても何で、狼火の里(ろうびのさと)に?こんな荒れたところにいるの?」
狼火の里とは、啓助が以前遠征に出かけた街の名で、啓助が洋(ひろし)に悉く出番を奪われ炎狼を倒した時に付いた名だった。あれ以来、炎狼がこの街付近に生息するようになったととも言われている。
しかしながら啓助は思った。しっかり家も建ち、電気がやや使えなく、地面のアスファルトが剥がれているだけで麗華にとって「こんなに荒れている」なのだから。
「居るよ、しっかりとな。お前みたいなお嬢様育ちじゃ分からないか」
麗華は少しムッとして、言い返した。
「破門育ちには分からないわよ」
「なんだよ破門育ちって……」
すると突然、前方から強い風が吹いた。啓助は驚いて2、3歩後退ると、麗華の騒動が終わりカールが掛かった桃色の髪が縦に螺旋を描き啓助の顔面に当たった。
「痛てて、お前の髪目に入っちまったよ」
「うっわ、最悪。後で洗い直さないと」
麗華はそう言って、嫌そうに髪をハンカチで拭いた。
「俺はどこかのいじめっ子か」
「それよりも、今のただの風じゃないようね。衝撃波かしら」
麗華は啓助の通う道場を一直線に見つめると、その中からは戦闘をしながら出てくる乃恵琉と英治の姿があった。
96
:
燐
:2011/08/23(火) 12:06:00 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
コメしますw
凄すぎです!!!
また少ししか読んでませんけど・・←殴
でも、少しずつ読んでいきます!!!
これからも頑張ってください!!
97
:
ライナー
:2011/08/23(火) 22:00:35 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
燐さんコメントありがとうございます!
出来たら凄い部分を教えて頂けると今後の参考になるのですが……^^;(欲しがるな)
そうですね、全然少しずつで良いと思いますよ。僕の小説なんかより良い小説いっぱいありますから(笑)
98
:
ライナー
:2011/08/23(火) 22:59:52 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
「あれ?師匠何やってんだ?乃恵琉も門下生だったか……」
「あれって辻の師匠だったんだ。まあ、乃恵琉に余裕で遣り合っているから『弱い』は無いわね」
2人は乃恵琉と英治の戦闘を見ながら会話を交わした。
戦闘を続けている2人は通行人に関わらず危ない戦い方をしていた。道の端には窪みが出来、道場の隣の建物は外壁にヒビが入り大変だった。
その戦いをまじまじと見つめ、15分ほど経ったときに啓助達は思った。この戦闘は試合じゃないと。
気が付くと乃恵琉達が戦っている辺りは段々と荒れ地と化し、通行人や壊された建物に住んでいる人々は迷惑そうにその戦闘を見つめていた。
「辻、あれ何とかしなさいよ」
「あ、俺ちょっと用事思い出した」
啓助は何とも態とらしく白を切っている。
「その用事があの人なんでしょ」
麗華は何とも冷静に言い返すと、啓助は渋々乃恵琉達の方へ近寄った。
啓助が近寄っても2人は気付かず、絶えず戦闘を行っている。その戦闘をしている中でも、やはり英治の方は笑顔が顕在していた。
頃合いを見計らって啓助は氷を作り出そうとするが、双方中々距離を取らず難しかった。
「ホラ、辻ー!さっさとしなさいよー!」
麗華の催促が聞こえ、啓助は少し焦りつつも頃合いを見計らう。そして両者の技同士がぶつかり合い距離を置いたその瞬間、啓助はその間に道幅半分くらいの氷山を作り出した。
すると、啓助が見越したとおり両者の動きが止まった。乃恵琉はハッとした表情をしていたが、英治は恐れ入るほどに笑顔しか映っていなかった。
「師匠に乃恵琉。もっと状況見て判断しようぜ……」
乃恵琉と英治は啓助の存在にやっと気付き、2人して同時に啓助を見た。
「こ、これは失礼。僕としたことが……またも冷静な判断力を失っていた……」
乃恵琉は啓助の方に歩み寄り、反省した様子だったが英治は全くその様子が見られなかった。
「乃恵琉君、僕も必死で止めたのに聞いてくれなかったのかい?」
英治はこの期に及んで言い訳をしてる。
「父さん、いい加減にして下さい。母さんが心配しておられます、家に戻って下さい」
その時、啓助と麗華は自分の耳を疑った。乃恵琉は今、英治のことを父さんと言っていた。しかし、勤勉で真面目な乃恵琉と笑顔が眩しい穏やかな英治はあまりにも違いすぎた。唯一似ていると言えば、眼鏡を掛けているところだ。
唖然としている啓助と麗華に乃恵琉は気付き、感づいたように紹介した。
「あ、こちらは僕の父、黒沢英治です。それと、啓助君。さっき父の事を師匠と呼びましたよね?この人に教わらないほうが良いですよ……」
そして気付いた。啓助は、乃恵琉と英治の苗字が同じ事を。
「啓助君、久しぶりですね。また私の所に修行に来てくれましたか、先に道場に入っていてください」
「だから、父さん止めて下さい!いい加減母さんの所へ……」
乃恵琉が言いかけると、英治はそれに対して笑顔で言い返した。
「大丈夫ですよ、お母さんには手紙をしっかり出していますし」
「だからそうではなく、たまには家に帰ってこいと言っているんです!母さんは父さんに強く言うのが怖くて僕の方に手紙をくれるんですよ!」
英治がうーんと唸りながら首を傾げて考えていると、啓助と麗華が目に入った。その途端、いかにもマイペースな提案が英治の口から放たれた。
「じゃあ、帰るか帰らないか、啓助君達で勝負を付けて貰いましょう。詳しく説明すると、僕と乃恵琉君が啓助君かあのお嬢さんを鍛え、2週間後に対決させる。トレーナーバトルです」
英治の自分勝手な提案に乃恵琉は「良いでしょう」と本人達の同意もなく引き受けた。
「では僕は啓助君を貰っていきますよ」
乃恵琉はそう言って、啓助の腕を引っ張ると思い詰めたような顔で、ズンズンと歩いていった。
「(って、乃恵琉。あの壊した部分どうすんのよ……)」
麗華が心の中で呟くと、同様に腕を引っ張られ英治に道場へと連れられた。
「啓助君を取られてしまったので、お願いしますよ。お嬢さん」
「あ、私麗華って言うんだけど……ってどうなってんのよぉ〜!!」
99
:
ライナー
:2011/08/24(水) 00:51:38 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
一方、啓助と乃恵琉の方では啓助が未だに乃恵琉に腕を捕まれたままだった。
「ちょ、ちょっと待てよ!展開早すぎて訳分かんないって!どういう事なのか説明しろよ!」
啓助がそう言って乃恵琉の手を振り払うと、乃恵琉は啓助の方に振り向いた。
「しょうがないですね。じゃあ、落ち着いて聞いてください……」
乃恵琉は歩きながら話し始め、啓助は2週間後に対決するのを覚悟してその後を追った。
乃恵琉が言うに、英治は実の父親と同時に1人の優秀な武道家らしい。
その頃の英治はある武道の四天王の1人に君臨する人材で、その名を世に轟かせていたらしい。
その頃の英治は無口で勤勉な性格で人々からはその無言さでとても恐れられていた。
しかし、珍しいことにフランスに四天王と互角に渡り合うという武道家が居たらしく、英治はその武道家に会うべくフランスに発った。だが、その先でエメラルドグリーンの瞳を持ったフランス人女性と恋に落ち、結婚した。それが後に乃恵琉の母となる人だった。
それからというものの、英治の性格は一変し、無口から明るい性格になり「四天王は疲れました〜」とふざけたようにその座を降りたとか。
そして、その性格ぶりは周りを振り回し今に至るという。
「よく、お前そんなこと聞き出せたな」
「父さんじゃありませんよ、四天王の方達にです。それに父さんに聞いても笑ってごまかすだけですしね」
気が付くと、歩いた先は鉱山が一面に広がっていた。
100
:
ライナー
:2011/08/24(水) 15:53:51 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
〜 作 者 通 信 〜
丁度良い数100≫と言うことで作者通信です^^
物語はもちろんいろんな人々からのコメントや、誤字脱字の訂正(苦笑)キャラクター紹介などでレス番号100に到達しました。読んでくださっている皆様ありがとうございます! m(_ _)m
99≫は何だか詰めるためにやった感じがもろに出ていますが^^;
飽きっぽく何やっても1ヶ月以上続かない自分がここまで出来たのは読者の皆様のおかげだと思います!
今回は何故この物語を出したのか、について書いていこうと思います。
題材はこの前区切りが付いたばかりの、麗華救出編についてです。
この話は本来、洋が洋(ひろし)の方に変化し、どこかのお嬢様と結婚する条件として屋敷の支配人を啓助達と戦わせ勝つ、という設定にしようとしました^^;
何故そこで麗華の話しに変更したのか、それは本編で空気キャラと化しそうになったからです。(救出編でもかなり影薄くなりましたが^^;)
でも、戦闘の部分は人数が減っただけで、全然問題ないはず!しかしバトルものとなると戦闘のバリエーションが中々思いつきません(焦)
これからも読者が読みたくなるような、バトル、感動、恋愛、ギャグ、などなど入れていきたいので応援宜しくお願いします!!
101
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/26(金) 16:32:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
100レス到達おめでとうございます!
読んでる途中に思って、あまり言及されていなかったから気になっていたんですが、やっぱ英治は乃恵琉の肉親でしたか^^
ホントは兄と思ってたけど…。
まあそれは置いといて。
これからも頑張ってくださいね!
このコメントを僅かな力の足しにしていただければ幸いです。
続きも楽しみにしてますので、お互い頑張りましょう!
102
:
明優
:2011/08/26(金) 17:30:14 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
100突破おめでとうございます!!
これからも読者でいたいので、よろしくお願いします^^
これからも頑張ってください☆
103
:
ライナー
:2011/08/26(金) 23:10:19 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
二方様コメントありがとうございます!画面の向こうでモノホンの土下座もやらせて頂きます。m(_ _)m
竜野翔太さん≫
いつも読んで下さり、ありがとうございます!
コメントの度に小説の内容まで語って頂けるので嬉しいです!!
確かに、英治さんは年齢ハッキリと出してないんで兄にしようか親にしようか自分も迷っていた次第にごぜぇます(笑)
はい、これからも頑張りますので仲間として、ライバルとして(敵うかどうかは分かりませんが)頑張りましょう!!
ちなみに受けが良かったようなので、メイドさんのレギュラー化計画を今立てています^^
明優さん≫
またのコメントありがとうございます!!
こちらこそ、これからも読者であって貰いたいので、宜しくお願いします^^
明優さんの小説もちょくちょくコメしますのでお互い励まし合い、頑張りましょう!!
104
:
ライナー
:2011/08/27(土) 00:38:21 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
18、武器の道程
啓助は言われずともこの場で修行することは目に見えていた。鉱山は鉱山でもやはり山、山と言えば修行の原点なようなものだし、何よりそれ以外に鉱山に来る理由が無かった。
乃恵琉は、暫く歩きながらモノクロに染まった鉱山の地面を見つめていた。そしてふとある所で足を止めしゃがんだ。
しゃがむと、足元に転がっている野球ボールくらいの鉱石を片手に取り、その石を真上に軽く投げ重さを量っていると、突然、啓助にその石を投げつけた。
啓助は慌てて両手を出し、その石を掴み取ると、大きさに似合わない重さが啓助の両手を襲った。
「なっ!何だこの石……!」
乃恵琉は人差し指で眼鏡を押し上げると、啓助に言った。
「ここの石は物質その物は石ですが、密度が鉄並みにあり、筋力向上に持って来いかと……」
「なるほど!んじゃ、早速修行を……」
啓助がそう言いかけると、乃恵琉が手のひらを目の前に出し待ったを掛けた。
「君にこれからは武器を握って貰います」
面倒くさそうに「武器ィ……?」と呟く啓助に乃恵琉は1つ大きな溜め息を吐いた。
「……君は今、自分が補助として装備しているエアライフルで充分、なんて思っているようでは駄目ですよ。普通時の攻撃が素手だと、ちゃんとした武術を習っていない限り腕1本無くなるのは確実です」
啓助は先程のやる気のない顔を強張らせ、唾を呑んだ。
考えてみれば、乃恵琉は槍型のナチュラルランスとその第2形体のエレクトリックナイフを持ち合わせているし、洋は武器を装備していないが異能力(アビリティ)『メター』で体の部位を打撃系の武器に変換することが出来る。この前一緒のチームになった恵に至ってはエナジーボントという銃2丁も持っている、しかもあのタイプは確か銃把を逆さに持ち、撃鉄、銃身、銃口を突きのように繰り出す『銃拳術』が出来るタイプだと本人が目を輝かせながら教えてくれた。
「あれ?でも、麗華は?」
「麗華はチームで唯一、アビリティと武器を同時に使う事が出来、異能力(アビリティ)『サイコキネシス』を用いた『物体念動』を使います」
物体念動というのは、麗華が独学で編み出したらしい術で、武器に念力を纏わせその武器の力を向上させるという術だった。啓助はその言葉に少々疑問符が浮かんでいたが、乃恵琉の丁寧な説明でとりあえずは理解をした。
「それで、まあ問題の武器の方ですが、麗華はジャックナイフを六刀流で使います」
「6ッ……!俺は一体どんな武器を持てば良いんだろうか……」
六刀流と聞いただけで物凄く弱気になっている啓助に、乃恵琉はポンと肩を叩いた。
「武器は自ら動くことはありません、ですからそれを操る人間の素質と、その人間に合う武器を選ぶことが大事です」
すると向こうから、啓助の聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ?若と、啓助さんじゃないスか」
啓助達がやってきた方向と同じ方向から聞こえた声の人物は、啓助が道場で一戦を交えた福井健二の声だった。
105
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/27(土) 08:53:11 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
いつになったら言うのかな?みたいな感じで待ってましたw
迷ってたんですか?でも父という方が意外性あるかも?みたいな感じですよ^^
いやいや、ライバルんんて僕が敵うわけないじゃないですか…。
はい、お互いを励みにして頑張りましょうね!
おお、これは吉報!
今からもう楽しみです^^
106
:
ライナー
:2011/08/28(日) 13:50:27 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
正直、英治さんは出て来るときに乃恵琉も出そうと思っていました。ですが、何か訳分からん内にその設定から遠ざかってしまいまして^^;でも、父親設定を気に入って貰えたので良かったです^^
ネタバレになるのであまり言えませんが、メイドさんが仲間になるのはだいぶ後になるかもです^^;その替わり、チョクチョクメインキャラの誰かを邪魔して現れますのでご期待下さい!
107
:
ライナー
:2011/08/28(日) 15:28:51 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
啓助は呼ばれて返事をしたが、一つの言葉が耳に引っ掛かった。そして目を瞑って、頭の中で記憶を巻き戻ししてみる。「あれ?若と、啓助さんじゃないスか」……
若?若とは誰だろう?啓助は再び疑問符を浮かべたが、その答えは言うまでもなくここまで一緒に来た人物だった。
「福井さん、その呼び名は止めて下さいと申しておいたはずですが……?」
乃恵琉が嫌物を見るような目で健二を睨んだ。
「ま、良いじゃないスか。ところでこんな何もないところで何してるンスか〜?」
健二が問いかけると、乃恵琉はヤレヤレと言わんばかりの顔で先程まであった一部始終を漏れなく全て語った。
啓助は、乃恵琉のアウトプット能力は優れているなと思ったが、近所の家々を壊したことを隠していたのが気に食わなかった。
「フーン、どおりで師匠は普段習っている門下生を差し置いて、一人の少女を個別指導をしていた訳だ」
乃恵琉は嫌物を見るような表情は一切変えなかったが、健二に「父が申し訳ありません」と一言言った。
この遣り取りを見て啓助は、麗華と洋を2人に照らし合わせた。何となくそう感じたのだ。キリキリした方と、それを宥めるように場を和ませる暢気者、人間とはこの2種類で構成されているのか、そうとさえも思っていた。
「ま、僕も暇ですし、次はちゃんとした試合をするためにも付き合うスっよ」
健二はそう言うと、何歩か後ろに下がり、先程啓助が掴んだボールくらいの石を手に取り大きく振りかぶった。
「んじゃ、啓助さん投げますんでどちらか片手で取って下さいよ〜」
「え!?片手!無理無理無理無理、さっき両手でも大変だったんだぞ!!」
啓助の言葉を耳に入れず、健二は剛速球を投げるピッチャーのように投球した。
その速さは当然の如くプロ並みではなかったが、あの重い鉱石を100キロ近い速さで啓助に向かって飛ばしている。
啓助は反応することが出来ずに、竦んだままその石を見据えていた。しかし、啓助の右手は反射的に石の目の前に出て、鞭を地面に叩き付けるような軽い音が啓助の手に響いた。
「……と、取れた」
「なるほどなるほど、啓助さんの場合は右手が反応しやすい手……つまり、武器の利き手ッスね」
「今のは偶然だっつの!大体両手使わないと無理だって!」
啓助の意見に健二は、「あ、そう」と一言言うと続けて、これしかないと言わんばかりの声を上げた。
「左手で右手を補佐出来るように、洋剣を使ってみたらどうスか?」
洋剣、またの名はサーベルだが、チーム内では誰も使っていないことから啓助は少し親近感を持った。
しかし、親近感を持てた事と自分がそれに合う事で、乃恵琉の言う「その人間に合う武器」は決まった訳だが、肝心の「それを操る人間の素質」は未だ遠い存在だった。
「では、武器が決まったところでトレーニング開始と行きます」
そして、洋剣を使うための修行が乃恵琉の掛け声で始まった。
108
:
ライナー
:2011/08/30(火) 00:07:10 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
「では、武器を持つときの握力を鍛えましょう。そうしないと、簡単に武器を手元から外されてしまいますから」
乃恵琉は先程と同じ、野球ボールくらいの鉱石を二つ持ってくると、啓助の手にそれぞれ一つずつ持たせた。
ただ重量が二つ分になると言うだけのことなのに、二倍とは到底思うことの出来ない重さが啓助の両手を襲った。
「そして、武器で攻撃する場合は腕力の力は必要不可欠ですが、それを充分に支えるための足腰の強化も必要ですね、両足にも取り付けましょう」
啓助が反論する前に早々と乃恵琉は動き出す。足にフィットする様な鉱石を見つけ出し、縄できつく縛り付けた。
啓助は立ち止まっている時点で限界に近く、ただ地蔵のように立ち尽くすしか術がなかった。
「これほどにも……辛いものなのか……」
「これくらいでへバるようじゃ、二週間後はキツいっすよ〜?」
「まあ、最初はキツイでしょう。ユニオンの訓練ほどだとは思いますが……」
啓助は苦笑いをして、ロボットのモノマネをやるように歩き、訓練を開始した。
それからというもの、啓助は訓練でも乃恵琉に腕力、足腰を鍛えるようにと言われ、鉱石を手足に縛り任務に出かけた。啓助自身チームメイトとの実力の差がありすぎることが判明し、頑張ろうと思う気持ちがそこかしこに漲っていた。
だからこそ、任務中でも脱水症状寸前で成果を出したり、ユニオンの通常訓練でも良い効果を残せた。
しかし、一番大変だったもの、それは……寝起きに襲う筋肉痛だった。
「痛っ〜!この前の任務はホントに死ぬかと思ったぁ〜!でも、今じゃほとんど警察頼りに何ねぇみたいだし、俺も頑張んなきゃな!」
啓助はベッドから飛び起きると、急いで着替え個室を出て行く。
チームルームに入ると、乃恵琉が椅子に格好良く腰掛け、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。洋は洋でいつもながらパンをこれでもかと押し込むように頬張っている。
「ハヨッす、あれ、麗華と恵は?まさか寝坊か〜?全くし方がないな〜」
乃恵琉は白いカップに入れられたコーヒーを音無く飲み干すと、そのカップを静かにテーブルに置く。そして、本に栞を挟んで懐にしまった。
「啓助君じゃあるまいし、そんなことあるわけ無いでしょう。麗華はともかく、関原さんは寝坊はしませんよ」
白いカップを食器洗浄機に逆さにして置くと、乃恵琉はチームルームのドアの前に立ち、そして言った。
「それに、いま女性達は水中戦訓練をしているところです。女性達が終われば、今度は僕達の番ですから僕は先に行っていますよ」
乃恵琉は啓助達を背にそう言い残すと、チームルームを出て行った。
洋もそれを追い掛けるように急いで出て行った。
「フー、にしても何日か錘を背負ってただけで、立ってるだけでも辛いとは……水中戦訓練大丈夫かな、俺……」
弱音を吐いていても始まらない、啓助は自分にそう言い聞かせてチームルームをヨタヨタと出て行った。
以前は迷宮だ、何て言っていたユニオンの廊下だが今はだいぶ慣れていた。そう言う場面での成長で啓助は自分を励ましていた、そうもしなければ精神的に参ってしまうのだ。
しかし、その参ったことに……いや、今回は迷宮が啓助の中で復活してしまったことに参っている。
元々、普通科・水中科・空軍科・潜入科などなど色々なグループがある中で、ほとんど水中科しか使わない訓練なのにと普通科の啓助は心の中で愚痴った。
実は情けない話し、更衣室の場所を久々だからか、ど忘れしてしまったのだ。
「ヤベー!あの時洋に付いてけば良かったぁ……」
啓助は慌てふためきながら、ユニオンの廊下という迷宮の奥へと進む。すると、奇跡かと思えるほどに偶然にも水中戦訓練室に繋がる更衣室を見つけたのだ。
藁に縋り付く思いでそのドアを開けると、恵が視界に入ってきた。
その姿は、完全にどこからどう見ても着替え真っ直中でユニオンで普及されていた水着を脱ぎかけている。
啓助は暫く、その透き通るような肌と美しい白銀の髪に魅了されていた。
突然、恵は「え?」という表情で啓助の方を振り向く。そして啓助は我に返り、自分のしてしまった行為に気付きドアを思いっきり音を立てて閉めた。
「(やっちまったー!よりによってチームメイトだとは……!)」
啓助が更衣室を背に、心の中で何度も後悔した後、全力で恵への謝罪の言葉を考えていた。
考えている途中、意外にも早く背後からドアの開く音がした。途端に啓助が謝ろうと振り向くと、二人の顔は互いの目の前にあった。
109
:
ライナー
:2011/08/31(水) 00:12:11 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「あっ……」
2人は声を漏らし、同時に顔を火照らせた。
啓助は、自分の中で心臓がバクバク鳴っているのが聞こえた。恵に近づくほどに、何故かいつもと違う心境になってしまうのだ。
暫くお互いの時間が止まったかのように思えた。
咄嗟に恵は我に返ると、素早く顔を遠ざけひどく顔を赤面させた。
「……関原、ごめん!言い訳にしか何ねェけど、修行が思ったよりきつくてフラフラしてたんだ」
啓助も少し赤面したまま、頭を深く下げた。
恵は顔を真っ赤にしたまま、大丈夫と言うように、両手の手のひらを前に出した。
「あ、あ、あの、あの!ぜ、全然気にしてないからっ!しゅ、修行大変なんだね!が、頑張ってねっ!」
そう言い残すと、恵は赤い顔を両手で隠しながら、素早くユニオンの廊下を走っていった。
啓助はその姿を見送り終わると、遅刻しそうなのを思い出した。
「やべー!急がなねェと!」
そして、女子更衣室でなく男子更衣室に飛び込むように入っていく。
啓助が支給された水着を慌ただしく着た。しかし、ユニオンで支給した水着とはいえ、スクール水着とさして変わらなく素早く着替えることが出来た。
水技室に入ると恐ろしく広いプールが啓助の目に広がった。今の今まで、啓助は水中戦訓練は重力コントロール室で仮想訓練することになり、任務の成果で実践的な訓練の許可を出されていたのだ。
「今日、調度入ってきた辻ね?初日から遅れるなんて良い度胸……罰としてクロール100m一本」
水着姿で、首にホイッスルを提げた女が啓助に言った。この女性は、第二番隊隊長、霞浦(かすみうら)で薄紫色のショートカットという髪型に、細い目にはほんのり青が掛かる瞳を持っていた。
啓助が渋々返事をし、プールの方へ振り向くと、幾人かの男子隊員が泳ぎながらこちらを覗くように見ていた。恐らく、霞浦の方を見ているのだろう、啓助はそう思った。
顔立ちは実年齢30前半という情報とは裏腹に、10歳以上若い顔つきで、それにプラスされて大人っぽいスタイルがあるのだ。
しかし、啓助はそれを好きにはなれなかった。鋭い目つきが異様に恐ろしく見えてしまうのだ。
啓助はプールサイドを歩きながら、乃恵琉と洋に挨拶代わりのアイコンタクトを苦笑いの顔でする。
向こうが気付くと、啓助は安心したようにプールに足を入れ、背後の壁を蹴った。
水面と水中の間を手に行き来させ、クロールを泳ぐ。
プールの底は下へいく度に黒が増した。実際の海をなるべく表現しようと、出来るだけプールの底を深くしたらしい。
さらに凄いと思われるのは、プールの縦幅が霞浦に指定された、調度100mなのだ。しかし、啓助は修行の成果があったおかげか、早く泳ぎ、バテる事無く泳ぎ切った。
啓助が水から上がると、霞浦が招集を掛けた。
全員が集まると、座るように指示し、バケツに入ったゴムボールを前に出した。
「これから、実践的訓練を開始する。今から、ここにあるゴムボールをプール全体にばらまくから、それを一番多く取ってきた人が勝ちよ。ちなみに勝った人には、単位得点をあげる。ルールとしては、ボールの取り合い有り。それと、水中で遣り合うから、スイムチューブは着用オッケーよ。それじゃ開始します」
霞浦は、ゴムボールをバケツごと放り込むようにして投げ入れた。
「啓助君、君の修行の成果を見せて貰いますよ」
乃恵琉はそう言うと、啓助よりも先に深いプールの中へ飛び込んだ。
「……しゃ!やってやるぜ!」
啓助も意気込んでプールへと飛び込んでいった。
110
:
レイ@ヴァルガ
:2011/08/31(水) 15:39:37 HOST:110-133-206-232.rev.home.ne.jp
読ませていただきました。
素晴らしい作品だと思います。
わざとらしくない程度にフォローが入れられているので
とてもいい文章力だと思います。
一つ言えば、乃恵琉の口調的に、もう一つ「、」などで
区切りを増やしたほうが似合うかと。
上から目線ですみません))ペコ
これからも応援させていただきますので、どうぞまた。
byレイ
111
:
saorin
:2011/08/31(水) 22:30:57 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(#^^)b☆ ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh
112
:
kokoro
:2011/09/01(木) 11:23:17 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(・_・)!! ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh
113
:
ライナー
:2011/09/02(金) 08:00:38 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
レイ@ヴァルガさん≫
コメントありがとうございます!
アドバイス、参考になりました!しっかり活用していきたいと思います!
114
:
ライナー
:2011/09/02(金) 18:16:55 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
訓練生降格が掛かっている啓助は、やけに気合いが入っていた。
だが、その気合いの良さも束の間だった。スイムチューブのお陰で水中でも息は出来る、だが深いプールの底に着いて気が付いた。その水圧と、光の届かない世界に。
水圧は水深50mと言うほどあって、中々に苦戦を強いられるようだった。背中には錘が乗せられるように。
一方、明度の問題だが、太陽の光に照らされているのとは訳が違い、真っ暗で何も見えない。
「(これ以上単位を落としてたまるか……!)」
恐ろしいほどの水圧を避けるため、そこの部分よりも少々高い場所へ浮かび上がる。
そして、その場で暗さに目を慣らすと、そこの方に向かって睨み付けた。
暗い中、何とか目を凝らすと、鮮やかな色のゴムボールから次々と見つかった。と言っても、たったの2個だったが。
他のゴムボールを見つけるべく、再度啓助は目を凝らす。しかし、啓助はこちらに向かってくるアビリティのオーラを感じ取った。
啓助が感じ取るに、アビリティのオーラは3つ。しかし、異能力者(アビリター)で無い者もこちらに向かっているかもしれない。
既にボールを1個ほど持って行って、水面に浮かび上がっていった者もいたが、恐らく単位得点に余裕のある者。
今、調度感じ取っているオーラは、専攻隊に行くことに憧れを抱く者、単位得点が厳しい者だろう。アビリティ使用禁止とはいえ、オーラでとても必死さが伝わってくる。
こちらとしても、単位得点的には厳しい。そう考えた啓助はオーラの発生地を正確に感じ取り、挟み撃ちにならないよう水面近くへと浮かび上がった。
そして、啓助が下を見下ろすと、水中でも破門を打つように激戦が繰り広げられていた。
「(フー、危ねェ……!)」
啓助がホッと胸を撫で下ろす。そして激戦が落ち着くと、啓助はコソ泥の様に零れ球を探そうとした。
が、その瞬間、啓助の左腹部に激痛が走った。
「(……!な、何だ!?)」
水中だというのにも関わらず、その勢いで啓助はかなりの距離で飛ばされる。
啓助は、驚き振り返ると、そこにいたのは乃恵琉の姿だった。
乃恵琉は突き出した足を元に戻した、激痛は乃恵琉の蹴りだったのだ。
得意顔になっている乃恵琉を見て、啓助はハッとした。自分の手のひらを見ると、先程まで握っていたゴムボールが消えていた。
そして、乃恵琉の方を再び振り返ると、乃恵琉が持っているゴムボールの他に、啓助の持っていたゴムボールが握られていた。
「(乃恵琉……!俺を試そうとしているのか……!?それに俺の単位得点まで掛かってるってのに……)」
得点を失い訓練生になりたくない、仲間にこれ以上負けられない、修業の成果を無駄にはしたくはない。啓助はその一心で乃恵琉を追った。
乃恵琉は素早く水面へと浮上する、このまま啓助のゴムボールを持って行き、自らの得点にする気なのだろう。
そして、乃恵琉が水面に顔が触れ、そこから顔を出そうとした途端だった。啓助は乃恵琉の足を掴んでいた。
啓助は乃恵琉の足を掴んだまま、勢いよく水中に引き戻し、ゴムボールを持つ手に手を掛けた。
乃恵琉はそれを両足蹴りで引き離し、体勢を立て直すと、距離を取り、逃げるように泳いだ。
「(させてたまっか……!)」
再び乃恵琉を水面に近づけさせないよう、啓助は水面近くを泳ぎ、乃恵琉を追い詰めた。
暫くして、逃げる乃恵琉の動きや、数々のフェイントをくぐり抜け、やっとの思いで壁際に追い詰めた。
そして、勢いをつけて乃恵琉に蹴りを繰り出した。
しかし、追い詰めた壁が仇となり、乃恵琉は壁を利用し素早く蹴りを躱す。
啓助は不意を突かれ急いで乃恵琉を追うが、先程よりも素早さもキレも増した泳力が啓助を更に引き離した。
現在、啓助の持つゴムボールの数は0。かなりの時間が経っていることから、余ったゴムボールはもうないだろう。しかし、ここで諦めては単位が下がり訓練生へ降格するのは確実だろう。
「(くそぉ……!)」
115
:
yuri
:2011/09/03(土) 07:14:16 HOST:7c294c75.i-revonet.jp
世の中には簡単で儲かる仕事があるもんだ(#^^)b! ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh
116
:
ライナー
:2011/09/03(土) 11:39:44 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
yuriさん≫
こういう一行レスは受け付けておりません。
お仕事の宣伝は、別の場所でやってください。
ちなみに、こういう事をする人間を荒らしというのですよ^^
以後参考に。
117
:
ライナー
:2011/09/03(土) 13:35:28 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
しかし、その事が分かっていても啓助の体力は既に限界に達していた。
一週間頑張った修行は、今まで啓助以上の修行を経験してきた乃恵琉達に比べたら、何の力も発揮しなかったのだ。
啓助は自分の無力さを知り、乃恵琉を追うその動きを止めた。
乃恵琉はそのまま水面へと浮上していった。そして、啓助の脱力した姿を目を細めて見ると、態とらしくゴムボールを啓助の真下に落とした。
驚いた様子で、啓助は落ちてくるゴムボールを拾う。
そして、何か思い詰めたように水面に浮かんでいった。
水から体を上げると、全員がプールサイドで霞浦を囲むように座らされていた。
「これで全員ね。辻は……1個ね、じゃあ0の人が1単位取り上げって事で」
霞浦の言葉で、啓助単位降格は免れた。
啓助は一瞬乃恵琉の方へ目をやる。しかし、乃恵琉は何事もなかったような顔で体を拭いていた。
「じゃあ、今日はここまで。次の訓練では長距離水泳のタイム計るから、そのつもりでね」
こうして、水中戦訓練は無事に終わった。
訓練終了後、啓助はロッカーに急いで入れてしわだらけになった隊服を着ていた。
「啓助君」
着替え中に、ふと乃恵琉が啓助に声を掛ける。
乃恵琉は早々に着替え終わり、キチッとした着こなしが真面目さをより一層引き出していた。
「今回の事で、君の実力の方を、試させて貰いましたが……」
啓助は思わず唾を呑む。
あれ程やられっぱなしだと、お世辞にも結果がよいとは言えない。
「今の実力では、洋よりも、弱いです」
乃恵琉の言葉に、啓助は石で殴られたような頭痛を覚えた。
自分でも分かってはいたものの、ああもハッキリ弱いとだけ言われると、今までの修行の辛さや苦しみが蘇るようだった。
「それに、君は最後僕からゴムボールを取り返すことを諦めましたね。その時点で君は麗華に勝つことは不可能でしょう」
一方こちらはチームルーム。
訓練を終了し、恵と麗華が何やら話し込んでいた。ガールズトークというヤツだろう。
「で、何か進展あったの?」
麗華が恵に問う。
「え?な、何のこと……?」
恵は冷や汗を流しながら、引きつった顔で笑みを見せる。
「顔に書いてあるわよ、好きな奴がいるって」
顔を引きつらせたまま、恵は目線を麗華から逸らし、斜め上に向けた。
「だから、筋とはどうなんだって聞いてんの!」
麗華の言葉を聞いた途端、恵は顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「ち、ち、違うよぉ!そんなこと無いよ!」
麗華は恵の言葉を聞き、つまらなそうな表情で「あ、そう」と一言言った。
しかし、恵の顔を見て思った、顔は正直者だと。
「……ま、誰かというのは置いといて、恵のアビリティは『ヴィーナス』なんだから上手く使わないとね」
啓助の話から遠ざかると、恵の顔からは段々と赤みが消えていく。
だが、その顔は薄く火照りが残り、恥ずかしそうな表情が残っていた。
「で、でも、『ヴィーナス』は動物と心を通わせる能力であって、べ、別にこんな事をするつもりは……」
「でも、出来ない訳ではないんでしょ?」
麗華の問いに、恵の顔はまた少し火照り、浅く頷いた。
すると、チームルームのドアが開き、訓練を終えた啓助達が戻ってきた。
訓練は厳しいし、疲れるのは当然なのだが、明らかに啓助は乃恵琉や洋よりも元気がない。
「……麗華、お前は修行の方順調?」
「もちろん、辻は駄目なの?」
「ああ、ちょっとな……」
啓助は、ため息を吐きながら視線を逸らすと、一瞬恵が視界に入ったのを感じた。
「関原、ちょっと良いか?」
相手の返事を聞かぬまま、啓助は恵の腕を引っ張り、チームルームを出た。
118
:
kokoro
:2011/09/03(土) 13:40:24 HOST:7c294c75.i-revonet.jp
>>楽に稼げるアルバイトの件。情報載せておきます(^ω^)。 ttp://tinyurl.k2i.me/Xxso
119
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 16:08:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
久しぶりです^^
進めば進むほど面白くなってきますね!
やっぱ僕はメイドさんと麗華ちゃんが好きでs((
ところで、文中に出てきた『金』に『垂』という字は何て読むのですか?
120
:
ライナー
:2011/09/04(日) 14:22:53 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
お久しぶりですね^^読んでますよ小説、魁斗君が羨ましい所までですが(今から読みますよ!)
麗華は結構僕も好きです。ツンデレっぽく仕上げたいので(笑)
メイドさんの件は、少しレギュラー化に時間が掛かりますが、宜しくお願いしますm(_ _)m
錘ですか?あれは(おもり)と読みます。広辞苑見たんで、正確なはずです!
ではでは今後ともごひいきに^^
121
:
ライナー
:2011/09/04(日) 14:30:12 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
32行目の筋ですが、辻です。
122
:
ライナー
:2011/09/04(日) 15:12:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「スキャン完了デスね」
チームルームの外から、男がノートパソコンを広げていた。
男は白いワイシャツの上に、青いスーツとオレンジのネクタイを身につけている。
その男は一見どこかの正社員のように思えたが、足下だけがそのイメージを翻していた。
足下にはバスケットボールのような灰色の玉があり、男を浮かび上がらせていたのだ。恐らく、ユニット系のロボットだろう。
ユニット系のロボットは、男の両足に3つずつ付いていて、下半球の部分は青白い光を帯びていた。
男はノートパソコンを閉じると、ユニット系のロボットを使い、上空に舞い上がった。
舞い上がった先には、砲台などの武器が完備されたユニオンの屋根があった。
そして、男はロボットを操りながら、砲台の上に腰掛けると、再びノートパソコンを開いた。
「ここの砲台センサーは範囲が狭すぎデスね。まあ、そのお陰で楽に侵入できマシタが……」
男はノートパソコンのキーボードを鳴らしながら独り言を呟いている。
「にしても調べてみれば、あの井上洋という太めの人物、沙斬を殺したとは到底思えないデス。しかし、DNA検出で完全一致していマスし……」
男は、ノートパソコンに刺さっているUSBメモリーを抜き出し、ポケットにしまった。
「やはり、ここのチームも戦闘力は低いが、侮れなさそうデスね。堂本さんに報告、報告」
男はキーボードの音を暫く鳴らしたまま、砲台の上に座っている。
キーボードの音を止ませると、男はロボットの方に目を移した。
「……磁場浮遊システムが狂っていマスね。やはり、もっと信用のおけるメーカーのものを使うべきデシタ」
男は、ロボットの青白く光る半球を見つめて言う。
そして、懐からマイナスドライバーを取り出すと、ロボットを分解し始めた。
それでも何か物寂しいのか、再び独り言を呟く。
「そう言えば、この前雇ったスイーパーの少女。あの人は、水野家でまんまと黒沢乃恵琉にやられマシタね。彼も侮れないデス」
男は分解した部品を他のロボットの上に置く。
「それに、水野麗華。あの少女も侮れないデス。この前修行らしい事をやっていたみたいデスが、あの動きは名前の通り華麗デスね」
ロボットに持たせた部品を受け取りながら、独り言をまだ続ける。
「思い出せば、柿村君が裏切っていマシタっけ。行方が知れず、堂本さんが処分に困っていマシタね。まあ、雑魚は大きくなってから釣るものデスし……」
男はネジを受け取ると、ロボットに付けた。どうやら修理は完了したらしい。
「では、そろそろ行きマスかね。ユニオン完全封鎖に……」
123
:
ライナー
:2011/09/04(日) 17:23:12 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
19、刺客はキルブラック
啓助は、恵をチームルームのすぐ側に連れ出していた。
「あー、いきなり連れ出してゴメン。関原なら分かってくれると思って……」
頭を軽く下げながら、啓助は言う。
「だ、大丈……夫!そ、相談事?」
恵は顔を真っ赤にして、無理矢理な笑顔を作った。
「ああ、俺ってさ、チームの中でも……結構弱いじゃんか。だから、どうやったら役に立てるかなって……」
「え………?」
何となく期待はずれな表情で、恵はキョトンとした。
一方、ドアの内側では、麗華がドアに紙コップを付け、耳を澄ましている。
「……!辻ったら、こんな状況で……!」
紙コップを耳に当てながら、麗華は文句を言っている。
乃恵琉はコーヒーカップを片手に大きくため息を吐いていた。
「盗聴はいけませんよ、麗華」
「ど、ドアのメンテナンスよ!さっき辻達が出てったときに、変な音がしたような……」
麗華の言い訳に乃恵琉はまたも大きなため息を吐く。
「蝶番が軋む音でしょう。僕が油を差しておきますから、麗華はどうぞ紙コップを引いて下さい」
乃恵琉の完璧な推理に、麗華は渋々ドアから紙コップを引いた。
「こんな性格だから、女子にもモテないのよ」
麗華は悔し紛れに、乃恵琉の嫌みを言い放つ。
しかし乃恵琉はその言葉に動じず、涼しげな顔で言った。
「僕は、女性が嫌いなんです。特に話しが通じない女性は、絶対拒否です」
「ホントは女の子苦手なんだよね〜」
洋の言葉に、乃恵琉はほんの少し頬を火照らせた。
横では麗華がバレない程度に笑いを堪えている。
「……やっぱ、こんな質問答えらん無いよな」
啓助の言葉に、恵は慌てて否定する。
「あ、いや、そうじゃなくて……その、啓助君は啓助君のペースで頑張れば良いと思う。だって、みんなより遅いスタートだし、そうと思えば修行の成果出てると思うよ!」
「………」
「あ、やっぱり駄目だった?」
恵は、恐る恐る啓助の様子を伺う。
すると、啓助は少し俯きながら嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お前に話して良かったよ、ありがとな!」
啓助は顔を上げ、恵に視線を向けた。
恵は少し照れながら、戻ろうか、と一言言った。
そしてドアノブに手を掛ける、が、何故か鍵が掛かっている。
啓助は、ドアを叩きながら乃恵琉達の応答を待つ。
「こちらは大丈夫ですが、ドアは鍵が外れません。とりあえず、メインコントロールルームに向かって下さい。こちらのコンピューターは使えませんので」
何とか乃恵琉の返事を聞き、啓助はひとまず安心した。
「分かった。じゃあ、とりあえず行ってみる。何かあったら、お前らもこっちに連絡しろよ」
啓助は恵とアイコンタクトを取ると、恵の先導でコントロールルームへ向かった。
124
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/04(日) 17:57:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
僕はツンデレ好きなので麗華を好きになったかもしれません((
もしかして語尾がカタコトの人が言っていた乃恵琉に負けたメイドって…いや、なんでもないです((
そうなんですか、ずっと読めなくてちょっと困りました…
難しい漢字とかはなるべくふりがなふった方がいいと思いますよ^^
125
:
ライナー
:2011/09/04(日) 18:41:24 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
ユニオン廊下を走りながら、啓助達は周りの異変に気付いた。
所々電灯が切れていたり、システムがダウンしているところが見られたのだ。
「関原、これって良くあることなのか?乃恵琉は随分冷静だったが、俺にはかなりの非常時にしか見えねェんだけど……」
「まあ、黒沢君はああいう性格だし……あ、それと、啓助君。私のこともファーストネームで良いから……」
そう言う恵の顔はほんのり紅が差していた。
「え?ああ……」
啓助は曖昧な返事で済ませる、そして気が付くとメインコントロールルームと書いてあるドアを見つけた。
ドアに近づき、重たそうな自動ドアを引き戸のように開けようとする。
しかしドアは鉛のように重く、鍵が掛かっているようにしか思えなかった。
「何で開かないか?それは僕が止めておいたからデス」
声がする方に2人は振り向く。
すると、そこには黒装束を来た下っ端らしき人物と、青いスーツを着た男がユニット系のロボットを操って浮かんでいた。
「僕はキルブラック右陣隊長、来待(らいまち)。宜しくデス」
この、いかにも辛抱強そうな名前の持ち主、来待は片手にノートパソコンを手にしていた。
「また、キルブラックか……今度はユニオンに乗り込んで来やがったな!どういうつもりだ!」
来待はノートパソコンのキーボードをいじりながら口を動かした。
「ユニオン全員をユニオン内に封鎖して、毒ガスをばらまいて全員殺す予定なんデス。でも、君達は一番動きやすい位置にいるので先に排除させて貰いますデス。危ないですから」
手を払うようにして、来待は下っ端達に啓助達を殺すよう指示をする。
下っ端の行方を分けて、啓助は右の下っ端を、恵は左の下っ端を分けて倒すことになった。
「軽く予行演習の相手になって貰うぜ!」
啓助は自分の手元に氷で作った剣を出し、下っ端に向かって斬りかかる。
しかし、下っ端は30cmほどの小刀を逆手持ちにして上手く防ぎ、啓助との距離を取った。
相手のペースを作られないよう、啓助は氷の剣を右手に持ち、急接近していった。
氷の剣が振り下ろされ、下っ端は小刀の刃を上に向ける。
剣同士、鈍い音を立てながらぶつかり合うが、またも同じように距離を取られる。
啓助は次こそ距離を取られないようにと、渾身の力を振り絞り、氷の剣を振り払った。
今度は啓助の力が勝り、啓助のペースに持ち込めたと思えた。が、使用している剣が氷だったため、刀身にヒビが入ってしまう。
仕方なく、啓助は身を引き自ら距離を取った。
「(こう距離を取られちゃ、攻撃するにも一苦労だ。それに歩かされてる気がする……下っ端だからって気は抜けないな)」
氷の剣を啓助のアビリティ『フリーズ』で、ひとまず修復する。
「(こっちから近付けば適応に対処されるし、こっちが待っても近付きはしない。どうすれば……)」
しかし、下っ端なんかに手こずっては駄目だ。啓助は自分にそう言い聞かせると、黒装束目掛けて氷の剣を突き出した。
それでも、同じように小刀で弾き返されてしまう。それに相手はじっとその場で身を固めいるが、啓助の運動量は下っ端との距離、往復10以上しているため、息がかなり荒い。
そして、思わず啓助の足下がふらついてしまった。
126
:
ライナー
:2011/09/04(日) 18:51:32 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
ツンデレって良いですよね(笑)
まあ、存在感維持に……そんなところです^^;
そうですか?竜野さんも結構難しい漢字使ってるんで大丈夫かと思いました。
それに、自分で推測できる程度の漢字しか使用していないので、大丈夫かなと……
それではガンガン……というわけでもありませんが、ふりがな使っていこうと思います。
アドバイス、ありがとうございました!
127
:
ライナー
:2011/09/08(木) 00:04:54 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
足がふらつき、何とか一歩後ろに下がるところで、踏ん張りを効かせた。
すると、啓助が後ろに下がったとき同時に黒装束は距離を詰めるように一歩踏み込んだ。
「(……!?)」
啓助は試しに、もう一歩後ろに下がる。
またも同じに黒装束は、同じ分だけ距離を詰めた。
「なるほどな……!」
何かを悟ったように、啓助は笑みを溢し、距離のある相手に向かって氷の剣を突き出す。
突き出された氷の剣は、剣先が砕け氷の破片が下っ端を襲った。
下っ端は纏っている黒装束を、なびかせながら平行移動で躱す。
しかし、下っ端の平行移動した先には啓助が駆け寄っていた。
相手が気が付く間も無く、砕けて尖りが増えた氷の剣を腹部に食らう。
地割れでも起こるような衝撃を与え、啓助はゆっくりと剣を引く。そして、倒れ込む下っ端を余所に来待の方へと視線を向ける。
「今のは勿論小手調べだよな?」
その言葉が出ているときには、恵も勝負が付いていた。恵の足下で、黒装束の下っ端が寝そべるように倒れている。
啓助の言葉に、来待はノートパソコンの画面を見つめながら言った。
「ええ、お陰で欲しいデータは集まりマシタ。データのため僕はそろそろおいとましマス」
下っ端達をコテンパンに倒した啓助達に、来待は背を向ける。
「おい、逃げるのか!」
来待は、去ろうとする動きを止め、背を向けたまま言った。
「僕は必ず、少なくとも四捨五入して100%の勝率がなければ戦いマセン」
「何故100%にこだわる!」
来待は鼻で笑い、ヤレヤレというような声調で言った。
「僕は、キルブラックに就く前は平凡な株式会社で働いていマシタ。ある日、ある取引で、99,5%は確実でしょう、そんな言葉に騙されたばっかりにその会社は潰れマシタ。だから90%さえも僕は信じマセン」
昔話を語る来待の声調は、進む度に険悪さを増していく。
まるで、変身途中の狼男のように。
「共倒れした会社の人は、保証してくれる。そう言ったはずなのに、それにも関わらずその人は逃げマシタ。99,5%は人から全てを奪ウ、そうとしか思えマセン」
啓助は、来待が敵だというのに心のどこかで同情をした。
裏切られる辛さを、身をもって体験しているとどうも同じ心境になる。
「だから、運を加算して僕の勝率を計算すると、99,6%デスが、99,8%を超えなければ僕は戦い増せん」
計算のことについては啓助はサッパリだったが、相手の勝率を上げればいい、その事だけは理解し来待に言った。
「さっきの戦いでバテ気味なんだが……」
意外と平気をそうに啓助を見る恵は、キョトンとしている。しかし、来待は驚いたように啓助に笑みを見せた。
「……良いデショウ」
そうして、互いに話がまとまり、戦闘態勢に入る。
恵の方も啓助の後ろで、銃把を逆さに持ち、銃拳術の体勢を作っていた。
「では、僕の信用できる武器をお見せしまショウ」
すると、来待は高く跳び上がり、床に足を付けた。
その時に、来待の足の下に浮かんでいた、バスケットボールくらいの大きさのユニット系のロボットが動き出す。
「これは、僕の武器「リモートユニット」100%僕の理想が詰まってマス」
合計六機のリモートユニットは、所々青白い光を照らし威嚇していた。まるで、生きているかのように。
128
:
明優
:2011/09/08(木) 12:25:12 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
久々のコメントさせてください☆
本当にライナーさんの小説って
いつ見ても面白いし、読みやすいし・・・。
文章力もすごいですね!!
でもたまに読めない漢字があります(泣
まぁ、これは私がバカなだけなのですが(泣
色々な漢字を知っているライナーさん、
小説が面白いライナーさん!!
本当にすごいと思います☆
前に、燐と2人でライナーさんの小説、すごいよね!と
話してました☆
これからも面白い小説を、書いてください☆
必ず見ます☆
129
:
ライナー
:2011/09/09(金) 14:48:41 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
明優さん≫
コメントありがとうございます!
いつもお褒め頂き、書く意欲があがっております(笑)
とりあえず明優さんの小説も見ていますが、まだ読みが途中なのでもう少し待っていてください^^;
これからもよろしくお願いします!
130
:
ライナー
:2011/09/09(金) 20:44:58 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
127≫30行目の増せんは、マセンです。
131
:
ライナー
:2011/09/09(金) 22:04:07 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
啓助はロボットの威嚇を跳ね返すように睨み返し、氷の剣を構える。
次の瞬間、啓助は力の限り走りの一歩を踏み出し、ロボット達に斬り掛かった。
しかし、啓助の渾身の一歩も空しく、変則的な動きでロボット達に斬撃を躱されてしまう。
「恵!そっち行ったぞ!」
3機のロボットに恵は動揺しながら返事をすると、奇妙に動くロボットを銃口の対象にする。
だが、銃口を向けても、あの変則的な動きに狙いがほとんど定まらない。
「あ、あわわ……」
完全に動揺し、目が回っている恵を何とか助けようと、啓助はその3機に向かって駆け付けた。
近くまで駆け付け、啓助は跳び上がってロボットを叩き落とそうとする。が、やはり変則的な動きにはほとんど無意味だった。
攻撃はもう終わりか、そう言うようにロボットは青白い光を照らし付け、6機になるよう集まる。
啓助は、相手に攻撃のペースは出来るだけ与えたくない、そう思い冷気を放つが、ロボット全機は青白い光を広げ、その冷気を防いだ。
来待のロボットは、啓助に一瞬100%の強さを持っている。そう思わせた。
冷気を防ぎ切ると、6機のユニット系のロボットは来待を取り囲むように輪を描いた。
「99,8%は、君にはやはり荷が重すぎマスデス」
輪を描いたロボット達は、来待の周りを加速しながら回転し始める。
加速回転したロボットは青白い光を再び放ち、光の一線は啓助に方にレーザー性の弾丸を無数に放った。
「くっ………!!」
放たれたレーザーの弾丸は啓助の目の前で弾けて消える。
来待と啓助は驚き、目を見開く。すると、啓助の前には、エナジーボントの銃口から煙を上げさせた恵の姿があった。
「大……丈夫ですか?」
啓助は、まだ少し驚いた表情を残したまま、
「ああ」
と、一言言った。
ロボットは恵の銃撃に、周りから外装から電流を流し、変則的な動きを失っている。
その隙を利用し、啓助は恵の横を風のように過ぎ去り、来待の目の前に跳び上がった。
「これで終わりだ!」
氷の剣を片手に、啓助は来待に向かって振り下ろす。
そして、ユニオンの通路には、鈍いガラスが割れるような音が響き渡った。
「正直、甘いデスよ」
ロボットは外装から電流を流し、痺れているはずだった。しかし、それは甘い考えだったのだ。
ユニット系のロボットはもう3機潜み、その姿を啓助の攻撃と一緒に現れたのだ。
「なっ……!!」
「これが終わりだというナラバ、終わるのは、あなたの……」
氷の剣の一撃を防いだロボット3機は、啓助にとって危険信号な青白い光を放ち始めた。
そして、来待は言いかけた言葉を続ける。
「人生デスね」
その時、青白い光は啓助の全身を包み込んだ。
132
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/09(金) 22:22:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
どうも、コメントしに来ました。
来待強いですね!いや、ここはロボットが強いと言ったほうがいいのでしょうか…。
とりあえず、スピード感があって、一気に読めますね。
こういう世界観は僕には到底生み出せないものなので尊敬します^^
あと、擬音はあまり使わない方がいいですが、ちょっと使ってみてはどうでしょう?
その方が、どういう感じの音なのか分かりやすいと思うので…。
余計なお世話だったらすいません。
133
:
ライナー
:2011/09/09(金) 23:41:28 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
来待さんの強さは後に分かりますよ……!
スピード感はありすぎてバトル展開が早い原因かも知れません^^;
擬音ですか、擬音は本来使う場合はギャグ以外にはあり得ません。
やはり、チープに感じてしまうので、ギャグ入ってるときは使用可と言っておきましょう。
100歩譲ったとして、擬音絡めという裏技があります。
それは、擬音を無い擬音とある擬音で混合してしまうと言う技です。
この寒さは何だろう、まるでキンキンとする頭で、絶えずかき氷でもずっと口に含んだ状態と言えようか。
これが例ですね、キンキンは実際に出ている音ではありませんが、その場を凍らせるような心境を感じさせます^^
ですが、もう一度注意しておきます。多使用は禁止です!あくまで伝えづらいところで使うこと、それに限ります。
では、ご参考までに^^
134
:
ライナー
:2011/09/10(土) 00:18:05 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
啓助は微かに光の中で意識を保っていた。
「………」
しかし、体の節々に痛みが走る。
光の外からは、小さく恵が叫ぶ声が聞こえた。
小さく聞こえるのは、多分、レーザーの中にいるからだろう。
「………」
啓助は心中で呟いた。
「(俺は、俺は、俺の力は……)」
途切れる心の呟きは、次第に啓助の体力を奪っていった。
しかし、無力過ぎた。啓助は自ら思う。
せっかく恵が与えてくれたチャンスをものにすることが出来なかった。
仲間として、人間として、諦めきれない。しかし、体はもはや言うことを聞かなかった。
力は出せない、そう、力は。肉体的な力だけは……
啓助には、有力なミクロアビリティがあった。『フリーズ』という異能力が……
微かな意識を保ちながら、啓助はオーラを放った。
恐らく、啓助自身が今までで一番力強くオーラを出していただろう。
「僕は、頭脳コンピューターでこのユニットを9機バラバラに動かすことが出来マス。関原恵さんは動いたら狙い打ちできる状況デスからね」
来待は、恵の周りに6機のリモートユニットを浮かばせていた。
「啓助君……」
恵は青白い光に包まれた啓助を見て、泣きそうになっていた。
「では、そろそろ毒ガスを蒔かせて貰いマスかね」
リモートユニットを操り、来待は恵の意識を飛ばす。
恵には倒れた後、青白い発光が残った。
来待は、恵から啓助に視線を移す。
「君は、今は殺せマセンね。アビリティを抜かなケレバいけマセンので……」
応答のない啓助に、来待は語った。これも独り言の分類に入るのだろうか。
「まあ、死ぬことは変わりアリマセンガ」
来待は、既に仕事が終わったように振る舞う。
「これでも、あの黒翼(カラス)の赤羽を追い詰めた人間なのでショウカ?まあ、勘の鋭さだけの問題だったようデスが」
来待は、操るリモートユニットと、恵を背に靴の音を鳴らしながらゆっくりと去っていく。
すると、突然。来待の背後から爆発音が聞こえた。
驚いて振り向いてみると、群青色の光に包まれた啓助がその場に立ち、リモートユニットの3機が潰れ、煙を上げていた。
「システムを凍結させて毒ガスの放出を止めマシタね?その『フリーズ』のオーラで分かりマスよ」
来待はリモートユニット6機を引き寄せ、戦闘態勢に入った。
「アビリティに呑まれマシタか……」
135
:
ライナー
:2011/09/10(土) 00:56:34 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
来待を睨む啓助の目は、完全に人の目をしていなかった。
例えるなら、獣の目だろう。目の前の敵を、必然的に狩る獣の目。
「僕の勝率は82%と大幅に下がりマシタ。戦闘は放棄シマス……と、言いたいところですがそうもいかないようですね」
啓助はただ、何も言わずに来待を睨んでいる。
浮遊するリモートユニットを、来待はボーリングの球のように指を差し込んで握った。
「では、特別に君の行動から読み取る『気合い』でカバーさせて貰いマスかね」
来待は足にもリモートユニットを両足に3機ずつ取り付け、光でブーストさせた。
群青色の光に包まれた啓助に来待は接近するが、凍てつくほどの冷たいオーラに後退る。
すると、啓助はオーラを広げ、来待をリモートユニットごと凍らせた。
「負けられマセンヨ」
来待は負けじと体に付いた氷を弾き、啓助に殴り掛ける。
しかし、啓助の身体に近付けば近付くほど、冷気の気流は寄せ付けない力を生み出した。
「白青光(ムーンライト)」
来待がそう言うと、右手のリモートユニットは青白く光り、オーラを突き抜けた。
「まだデスよ、白赤光(サンライト)」
今度の発言は、左手のリモートユニットを赤白く光らせ、突き抜いたオーラの中の啓助の身体に突きを繰り出した。
啓助は、獣のような咆哮を上げ、唸った。
「キルブラック右陣隊長の力はこれで終わらないデス」
「(俺は……仲間のためだけに……力を……)」
互いに距離を取り、同時に次の一歩を踏み出した。
「これで……」
「……最後デス」
赤白い光と群青色の光は混じるようにぶつかり合った。
啓助の目には、倒れた恵と機械の部品に取り囲まれ倒れた来待があった。
「……?」
すると、第一番隊隊長堂本が後ろから歩いてくる音がした。
「またもやってくれたか、辻……」
啓助の頭には疑問符が浮かぶ。
「お前は、一角を何回も崩す。そんな大物に成るんだろうな……」
136
:
ライナー
:2011/09/10(土) 10:30:05 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
135≫の28行目の堂本ですが、苑寺です。
と、ついでに作者通信もお送りします。レスもったいないので(笑)
〜 作 者 通 信 〜
段々といろんな人が動き出していて、最近では小説書いてないと頭がボーッとして、イライラします(中毒か)
今回は、キャラクターのネーミングについて語ろうかと。
えー、ハッキリ言って名付けは適当です(笑)
一つ考慮したと言えば、乃恵琉君の名前ですかね。ハーフの名前なので、ちょっと良いものを探してきました^^
実を言うと、ラスボスの所まで全て名前は決まっていて、後は話しの動かし方だけなんです。
まあ、話しは本編を御覧頂ければ分かるかと……
137
:
ライナー
:2011/09/10(土) 11:15:20 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「にしてもキルブラックの行動は読めんな……」
苑寺は、首の骨を鳴らしながら言った。
「帰ってみれば、この有様。そんでシステムは誤作動起きるわ、何か面倒くさい奴いるわで大変なこっちゃ」
「俺……勝ったのか?」
啓助は半信半疑になり、自分の両手の手のひらを見つめる。
「ああ、良くやったぜ、本当に」
苑寺の声が届いていないのか、啓助はまだ手のひらを見つめていた。
「……信じられないなら、監視カメラのビデオでも見るか?壊れてるけどな」
鼻で笑う苑寺の冗談は、無論啓助には聞こえていなかった。
「99,8%は何のためにあると思いマスか?」
突然、来待の声が苑寺と啓助の耳に入った。
しかし、来待は倒れているはず。2人の視界にはしっかりと入っていた。
だが聞こえる、確かに来待の声が。
「ここデスよ」
その声に2人は振り向いた。
すると、そこにはもう1人来待がいたのだ。
「お、お前……何で……?」
驚く啓助の前に、苑寺が立ち塞がる。
「辻、お前は隊員の救出に当たれ。ここは俺がやる」
苑寺の両手は、来待に向かって炎を吹き上げていた。
「『フレイム』のアビリターデスか。精々時間稼ぎに成ればよいデスが」
来待は、周りに浮かぶリモートユニットを苑寺の方へ向かわせる。
苑寺は咄嗟に両手の炎を強め、リモートユニットを軽く突き飛ばし、来待に向かって拳を振り上げた。
炎の拳は当たるかと思いきや、直撃寸前に来待の姿が消える。
「辻!早く行け!」
叫ぶ苑寺の声は、戸惑いが重なる啓助に届いていない。
「余所見は禁物、デスよ」
現れた来待は両手に青白い光を放っていた。何と、来待の手はリモートユニットと化していたのだ。
それは両手に留まらず、両足までもがロボットだった。
歯を食いしばって躱す苑寺に、来待は足を青白く光らせ、ブーストするように加速する。
苑寺の両手の炎は、来待の青白い光に力負けし、空しく散った。
「何ィッ……!!」
「あなたの、負けデス」
青白い光は、来待の拳から広がり苑寺を包んだ。
その時、啓助の目に映ったのは、息を引き取った苑寺の姿だった。
138
:
ライナー
:2011/09/10(土) 14:17:57 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「次は、辻啓助。あなたデス」
来待は、機械と化した両手両足にリモートユニットを近づけた。
「てめェ……!!」
啓助は亡くなった苑寺の姿を見て拳に力を入れる。
リモートユニットを両手両足に付着させた来待は、操るように機械本体を身体に取り込んだ。
取り込まれたリモートユニットは、もはや来待の身体を人間の体にはしていない。
来待の両手両足は棘のように鋭く、そして全てを飲み込むような黒に変色していた。
「ここで問題デス。何故僕は2人いるか分かりマスか?」
来待の言葉を聞かない内に、啓助は両手に氷を纏わせ殴りかかった。
氷の拳が来待の鼻先で止まる。
またも青白い光で攻撃を防がれていたのだ。
「時間切れデス。正解は……」
氷の拳を止めた光は段々と広がり、啓助を押し出していく。
「50%程機械で出来ているノデ、向こうとこっちで50%真の体を持っていマス。だから、本来は1人だったのデス」
そう言って、鋭く尖った右手を啓助に向かって突き出した。
啓助は尖った右手を紙一重で躱すと、氷のように凍てつく目で来待を睨む。
「そう言うの、もう飽きたぜ」
再び啓助は両手に氷を纏わせると、来待を狙った。
「100%とか100%じゃないとか、そんなのただ、失敗を恐れてるだけだろ」
そう言うと、氷の拳は一直線に来待の頬に伸びる。そして、ユニオン通路には氷が砕ける音が響いた。
来待はその勢いで吹き飛ばされ、壁に背をぶつける。
しかし、煙が立ちこめる中からは来待が浮かび上がりながらゆっくりと現れた。
「その言葉には、あなたもそうでしょうと、返しておきマス。白赤光(サンライト)!」
機械化した来待の鋭い左手は、赤白い光を上げ、啓助を襲う。
啓助は頬に擦りながらも、直撃を避けるように躱した。
「俺だって失敗は避けたいさ、仲間に迷惑掛けてばっかりだしな、でも……」
来待は啓助の言葉を無視して、攻撃に移る。
「白青光(ムーンライト)!」
今度は、右手の青白い光が啓助を襲った。
啓助は先程と同じように躱そうとするが、今度の攻撃は素早さが増していた。相手も相当力が入っている。
右腕に負傷してしまった啓助は、左手で溢れる赤を抑えている。
「俺はだからこそ頑張ろうとなれるんだっ!!」
全身に『フリーズ』のオーラを力一杯出し始めた。
来待は啓助の言葉に眉を微かに寄せた後、両手を合わせ攻撃態勢に入った。合わせた両手は白青と白赤が混じり、白の入った紫へと光の色を変化させていった。
「白紫光(コスモライト)!!」
「氷結ッ!!」
2つの技はぶつかり合い、スピーカーが壊れたときのような高い音を響かせた。
139
:
ライナー
:2011/09/10(土) 15:48:56 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
両者、互いの技を受け合った。
しかし、互いに技をぶつけたまま固まっている。
「や、やるじゃねーか!」
「そちら……コソ」
そして、技同士は打ち消し合い雪のように白い光で力を失った。
両者は力を出し切り、足下をふらつかせる。
間を開けた2人は、足のふらつきを抑えることが出来ず、尻餅をついてしまった。
「やばいな、もう力がでねェや……」
「100%戦うことが出来マセンね。辻啓助、データに狂いを出し、侮り難し」
すると、来待と啓助の間に影のようにボォッと誰かが現れた。
「……こ、黒明(こくめい)様」
現れたのは小学生くらいの男の子で、黒の中に白が混ざった髪を持ち、モノクロのコートを身に纏っていた。
「駄目じゃん、負けちゃ。僕は君を推薦してあげてるんだけど、こんなんじゃ白闇(はくあん)に負けちゃうよ」
「も、申し訳ありません!!」
来待はボロボロの体でぎこちなく土下座をした。
「いいよ、もう。叔父さんに役に立たないときは殺しておけって言われてるし」
すると、黒明となぞられた少年はコートのポケットから黒い紐のようなものを取り出した。
驚いて声も出ない来待に、黒明は黒い紐を振り下ろした。
黒い紐が来待の背中にゴムを叩く様な音を響かせると、来待はその黒い紐に引き寄せられるように吸い込まれていった。
「これで、君の失態はチャラにするよ」
黒明は、啓助のことなんか目にも留めず、ゆっくりと歩き去っていった。
140
:
ライナー
:2011/09/11(日) 11:22:15 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
20、剣を求めて三千里
「まあ、今回はユニオンの一件がありましたし、大目に見ましょう」
第3番隊B班チームルームで乃恵琉が苦い顔で言った。
「それじゃあ、今日から剣を使わせてくれるんだな!!」
啓助はユニオンに攻めてきた来待撃退で、実力を表彰されたのだ。
そして、表彰と同時に単位得点まで上げて貰い、一番に評価されたのが、乃恵琉が以前否定した諦めない精神だそうだ。現に恵が証人となっている。
「しかし、以前より厳しい修行となります。そのつもりで気を引き締めて貰わなければ」
「分かってるって!お前だって父親説得したいんだろ?」
啓助の言い方は、お世辞にも気を引き締めているとは言えなかったが、乃恵琉はただ冷静に「行きましょう」と一言言った。
啓助達はユニオンの転送ルームを使用し、乃恵琉の言うある場所へと向かっていた。
転送による光が啓助達の目の前から消えると、見るからに落ち着きのない世界が広がっている。
そこは360度辺りを見回しても鉄ばかり見え、鋼の建物は所々スチームを上げていた。
「ここは、鉄という資源が豊富な綱板町(こうはんちょう)。生活のほとんどを機械で賄っている、そんな街です」
乃恵琉の説明通り、ある意味での『銀世界』が広がっていた。唯一自然があるとしたら、頭上に見える雲の掛かった青空だろうか。
それにしても、かなり国というのは世界観が変わってものだなと、啓助は思う。
「にしても、啓助君。昨日のこと覚えていないんですか?」
啓助は頭を抱えるようにして言った。
「ああ、来待以外にも誰かいたような気はしたんだが、近くにいた恵だったかな?それともドッペルゲンガーか?」
「……まあ、別に思い出せなくても問題はありませんが」
乃恵琉は啓助から顔を逸らし、黒鉄(くろがね)の地面を音を立てながら歩いていく。
暫く2人は無言で歩き続け、乃恵琉が突然足を止めた。
「着きました。ここがかの有名な刀鍛冶、鉄幹門四十郎(てっかんもん しじゅうろう)のいる家です」
威厳そうな名前を乃恵琉から聞いた啓助は、表情からして疑問符がいくつも浮かんでいる。
「……誰だそれ?」
乃恵琉は呆れた顔でため息を吐いた。
「あれだけ剣、剣とうるさいから、自分で何らかの予習をしてきているのか、と思いきや何にも知らないんですね」
笑ってごまかそうとする啓助を見て、再び大きなため息を吐く。
そして、鉄の引き戸を軽く3回程ノックし、ゆっくりと開き始めた。
引き戸の中からは、啓助達を押し返すように熱風が襲う。
中では汗を掻きながら、赤く熱の籠もった鉄の塊を金槌で打つ老人がいた。
「御邪魔いたします、鉄幹門四十郎さんですよね」
乃恵琉の挨拶を余所に、老人はただひたすらに鉄を打ち続けている。
待つことに痺れを切らした啓助は、老人に怒鳴り掛けようとした。
力強く一歩を踏みしめ、怒りを込めて次の一歩を踏み出そうとする。
しかし、その一歩を踏みしめる前に、乃恵琉の平手が啓助の胸部に飛び、途端に立ち止まる。
老人はまた暫くして手を止めた。
「で、何のようじゃい」
金槌を床に置き、老人は問いた。
「(このジジィ、人をまた上に……)」
「鉄幹門四十郎さんに剣を作って頂きたく……」
乃恵琉の発言は、鉄幹門の「駄目じゃ」という言葉に遮られる。
「剣と言えば、洋刀のこと。わしは洋刀は作らん」
鉄幹門の言葉を最後に、啓助達は家内から追い出されてしまった。
「……どういう事だよ」
「剣も打てると聞いたのですが、これは何かありそうですね……」
141
:
ライナー
:2011/09/11(日) 14:10:23 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助達は、それから何件もの刀鍛冶を訪ねた。
しかし、その全ては洋刀を作らないと言ったのだ。
「やはり、何かがあるようですね」
「何か?もしかして、冷蔵庫に取っておいた最後のアイスクリーム取られて意地張ってるとかか?」
「いや、そんな子供っぽい理由な分けないでしょう。とりあえず、この辺りの住人に聞き込みしてみましょう」
乃恵琉はそう言うと、1人の通行人に声を掛けた。
「済みません、お訪ねしますがここでは何故洋刀を打つ刀鍛冶がいないのですか?」
乃恵琉の問いに、通行人は驚いた顔をしている。
「君、こんなところでそんな事言っちゃ駄目だよ……!」
「失礼しました。何分ここには不慣れなので」
通行人は、少し周りを気にしながら話した。
「ここ、綱板町でもちょっと前までは洋刀を打つ刀鍛冶がいたんだ。でも、新たな鉄素材を見つけるために、金属探知機が反応している鍾乳洞に入ったらしいんだ。しかし、そこで探知機の指す方向へ向かうと……」
そこまで言うと、通行人は息が止まりそうな勢いで言う。
「巨大な獣に襲われたそうなんだ……!何でも、洋刀を持っていた人には過剰に反応し、洋刀と命を奪った。それで洋刀は不吉の象徴とされているんだ」
乃恵琉は通行人から話を聞き終わると、頭を下げた。
去っていく通行人を見ながら啓助は思った。また面倒くさいことが始まりそうだと。
「啓助君、今の話しに矛盾を感じませんか?」
乃恵琉が不意に啓助に話しかける。
啓助は、乃恵琉の言う「矛盾」に疑問符を浮かべた。
「あの通行人の話しでは、鍾乳洞で金属探知機が反応した、と言いましたよね?ですが、鍾乳洞の中には自然物で金属は含みません」
そう言われて、啓助は何となく異変に気付く。
「……誰かが、金属を持ち込んだ以外にはあり得ないって事か」
「正解です」
乃恵琉は指を鳴らして、涼しく笑った。そして言葉を続ける。
「ですので、人工的に作られた何かを、獣が守っている。そういう推理が出来ます」
その言葉に啓助は再び悪寒が走る。
それに感づいたように、乃恵琉は言った。
「困っている市民を助ける事も、僕達ユニオン隊員の役目です」
「お、俺、今日から困った市民になろっと……」
啓助は強引にも乃恵琉に連れていかれ、噂の鍾乳洞に到着する。
初めて来た場所のはずだったが、啓助には見覚えのある場所だった。
何故ならそこは、キルブラック後陣隊長の沙斬と一戦を交え、煉が殺されたあの鍾乳洞だった。
突然、来ることが嫌だった啓助は、真剣な表情になる。
鍾乳洞に入っていくと、以前入った時とはほとんど変わりない。相変わらず足下が水浸しになっている。
足音の替わりに、足で水を蹴飛ばしながら啓助達は先へ進んでいった。
暫く啓助を先頭にして歩いて行くと、ある場所へとたどり着いた。それは、煉が殺されたというあの鍾乳洞の広間だった。
「啓助君、君の気持ちも分から無くは無いですが、ちゃんと真相を確かめなければいけませんよ」
すると、啓助は軽く息を吐いて言った。
「満更、ここでも良さそうだぜ」
微妙に光の差す広間で、乃恵琉は目を凝らした。すると、辺りには人間の死体と洋刀が散蒔くように倒れている。
142
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/11(日) 20:38:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
どうも^^コメントさせてもらいますね。
来待強ぇ!って思った途端に……アレって死んじゃったってことでしょうか?
にしても最近麗華が出ないのがちょっと残念です…。もっとも洋の方が出てない気が…。
恵も結構出てきましたね!
やっぱ惠は啓助が好きなのだろうか。キュンキュンします((殴
これからも頑張ってくださいね^^
143
:
とよに
:2011/09/13(火) 09:00:11 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
いつも読ませていただいています。
主人公かっこよさすぎて、もうキュンキュンです。
とても面白いと思うので、これからもがんばってください。
144
:
槙
◆uXwG1DBdXY
:2011/09/13(火) 13:37:59 HOST:KD027082037068.ppp-bb.dion.ne.jp
コメント失礼します、槙といいます。
以前自分の短編集にコメントしていただき有難う御座いました。ライナー様の作品は何度か見かけた事はあったのですが、長編だったので読む時間がなく断念してしまっていました。
ですが今回少し拝見させて頂いたのですが、とても興味がそそられるもので全部読んでしまいました。
個人的には主人公の啓助君、乃絵琉君、恵ちゃんが特に好きです。
続きがとても気になり次の更新が待ち遠しいです。
これからも頑張って下さい
それでは、乱文失礼いたしました
145
:
ライナー
:2011/09/17(土) 13:31:21 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメントがいつの間にか沢山……もうホント嬉しい限りです(涙目)
竜野翔太さん≫
その事につては……続きは未来で(オイっ!)
主人公が好きな女の子って良いんです!!主人公って作者の分身だから自分がそういう状況に成ってみたかったり何かしたりして……^^;
とよにさん≫
コメントありがとうございます。
リア友なんでレイ@ヴァルガさんなのは分かりますけど、これからも見て下さい!
槙さん≫
前から読んで頂いたなんて、本当に嬉しいです!!
主人公は作者の分身と言いながらも、自分は洋が大好きです。何故か^^;
頑張って更新しますので、これからも応援宜しくお願いします!!
皆さんコメントありがとうございました!
146
:
ライナー
:2011/09/17(土) 15:59:24 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「ここに……スゲぇ鉄があるんだろ?」
啓助は所々光の差す鍾乳洞で、微かに呟いた。
「君は、このような任務でも随分暢気ですね。もう、知らないふりをするのは疲れましたよ」
乃恵琉は啓助の背に向かって声を上げる。
「戦闘以外のことは忘れた、と言いましたよね?本当は苑寺さんが亡くなった覚えているのではないのですか?」
乃恵琉の問いに、啓助は耳を傾けたのか微量に震えた。
「……ああ、覚えてるぜ。だけど、ずっと落ち込んでるわけにもいかないだろ?役に立たなくて、仲間だって守れねェけど、今必死に頑張るしかないんだ」
啓助の発言に、乃恵琉は思った。心は強くなっていると。
「君は強くなることだけが目標ですか、情けないです」
ため息を吐いて言う乃恵琉だったが、その表情は笑っているように見えた。
すると突然、夕日の光が差す鍾乳洞に、咆哮が響く。
そうかと思うと、今度は夕日の光を全て塞いでしまうような、巨大な影が立ち塞がった。
「何だよ……コイツ……」
立ち塞がった影は、夕日の光で段々とその姿を現す。
その姿は、一見すると亀のような姿をしており、その甲羅は天空に向かうように螺旋を描いた形をしていた。
「この獣は甲水亀(こうすいき)ですね。『アクア』の能力を持っています。しかし、この大きさは今まで発見されたものより遥かに巨大なようですね」
甲水亀は螺旋状になった甲羅を強く発光させると、再び咆哮を上げた。叫び、口を開けた状態で、口から物凄い勢いの水泡を放つ。その勢いは、滝が地面と平行に落ちていくかのようだった。
啓助は咄嗟に手のひらを水泡に向け、凍結させる。
しかし、水泡の水圧が強く今にも氷の壁は砕けそうになっていた。
「くっ……乃恵琉も手伝ってくれ!俺1人じゃどうにも仕切れないっ!」
乃恵琉は、啓助の言葉を腕組みしながら聞き流した。
「今度やる試合の相手は麗華ですからね、これくらいはどうにかお願いします」
「今までに発見されてない大きさの獣をどうにかしろとぉ〜!!無理だっつの!!」
全力の否定にも、乃恵琉は動く気配はない。
「いざ、という時は僕も参戦しますので、ご心配なく。では、僕は外に行って缶コーヒーでも飲んできますので」
「それじゃ、いざという時が分かんないだろ!」
乃恵琉に大声で叫びつつも、啓助は必死に水泡を防いでいる。
甲水亀の水泡は、時間が経つ度に威力が増し、啓助を苦しめた。
啓助は水泡を防ぐことに精一杯で、その場を動くことが出来ない。しかし、攻撃をしなければこちらがやられてしまう。
埒の明かない1人と1匹を見て、乃恵琉はため息を吐いた。
「仕方がありませんね、少しだけ力を貸すとしましょう」
すると乃恵琉は、ベルトにしまった黄色の珠から深緑の槍身を伸ばす。
黄色い球から伸ばされたナチュラルランスの槍身を掴み、乃恵琉は甲水亀に向かって走り出した。
ナチュラルランスの槍先を、水の張った地面に擦りながら走ると、傷の付いた部分からはいつもの棘の付いた蔓とは違う植物が勢いよく生えてきている。
乃恵琉は水泡に向かって、ナチュラルランスの3本の槍先を振るうと、それに同調して植物は水泡の方へと伸びていった。
「行きますよ!『リーフライド』!!」
147
:
ライナー
:2011/09/17(土) 17:20:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
乃恵琉がそう唱えるように言うと、赤紫の花を咲かせた茎はナチュラルランスの槍身に、根まで巻き付き一体化していった。
植物と一体化したナチュラルランスは、水泡を弾くように防いでいる。
「この植物はミソハギといって、水辺に咲く花です。だから撥水(はっすい)効果は勿論、『リーフライド』で槍の特殊攻撃まで強めます!」
乃恵琉は啓助が技を聞くことを見越し、涼しい顔で説明を終えると、水泡を弾き退けた。
啓助にとっては、別に聞く気もなかったが絶対に言ってくるだろうと見越して敢えて言わなかった。出会って半年ばかりでわかり合えるのは、以心伝心と言ったところだろう。
甲水亀の水泡を弾いた乃恵琉は、ナチュラルランスの槍先を甲水亀に向け走り始めた。
次の水泡を放とうと、甲水亀が咆哮を上げる。
しかし、咆哮を上げたときにはもう乃恵琉がその頭上に跳び上がっていた。
乃恵琉はしっかりと標的を見定め、ナチュラルランスの3本に分かれた槍先を甲水亀に目掛けて振り下ろす。
地面に乃恵琉が着地すると、それと同時に水の張った地面に赤が染まった。
甲水亀が水を跳ね上がらして、蹲(うずくま)るようにして倒れる。
「おっと、弱すぎて倒してしまいました」
乃恵琉はナチュラルランスの槍身を黄色い球に込め、呟く。
そして黄色い球をベルトにしまうと、啓助の方を振り向いて言った。
「このくらい倒せるじゃないですか、僕みたいに」
余裕な表情で言ってくる乃恵琉に、引きつった顔で啓助は「お、おう」とぎこちなく言う。
「君の課題は、敵の攻撃の受け方ですね。真正面から受けて全てを防ごうなんて、防御主体のカウンタータイプの戦い方じゃないと死にます」
啓助は先程から、乃恵琉の「死にます」という言葉をとても気になっていた。幾つ自分が死ぬような戦い方をしていたのか、分かったもんじゃない。
「物の流れを、いかに抵抗を少なく受け流せるかが重要ですよ。今回は特殊攻撃でしたが、打撃の場合受け流して攻撃を打ち込めなければ話しになりません。時によっては、耐え切って自分のペ−スに持ち込む人もいますしね」
自分もだいぶ戦闘経験は積んでいるが、まだまだ戦闘術とは奥が深い、そう思う啓助だった。
啓助は曖昧に返事をし、本来の目的、特別な金属を見つけ出す事に集中していった。
場所的には事件が起こった場所に間違いは無いのだが、特別な金属が見つかりそうにない。
乃恵琉を見てみると、倒れた人々の剣に紛れていないか探りを入れている。乃恵琉の推理だと、特別な金属は剣だという推理だろう。
「はぁ〜、どこだよ鉄」
どこか諦め半分の啓助は、ポケットに手を突っ込んで辺りを忙しなく見回していた。
すると、鍾乳洞の広間に続く空洞に、夕日の光が当たり何かが見える。
「おい、乃恵琉!何かあっちにあるぜ?」
一方、こちらはユニオン自主トレーニングルーム。
恵と麗華が練習試合を行っていた。
「ちょっとちょっとぉ〜!!真面目にやってるの恵?」
麗華が何か物足りないように恵に言った。
「あ、ちゃ、ちゃんとやってるよっ!」
恵は銃を持つ両手を微かに振るわせながら言う。
麗華はため息を吐いて、指に握るように挟んだナイフの刃を折りたたむように持ち手部分にしまった。
「辻の奴とアツアツだったのは分かるけど、少しはマシな戦い方してよ」
麗華の発言に、恵は赤面させて大声で言った。
「だ、だから違うよォ〜!!そんな事言うんだったら、井上君と練習すればいいよォ〜!!」
恵は麗華の返事を聞く前に、顔を隠してトレーニングルームを走りながら出て行った。
「……洋は張り合い無いしなー。そういえば辻、アイツ大丈夫かしら?」
148
:
ライナー
:2011/09/18(日) 10:54:38 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
21、凍界の剣
啓助は乃恵琉を連れ、広間に続く空洞へ一歩一歩進んでいく。
その空洞は光が全く差さず、広間からの光が頼りだった。
「ここに……ですか?」
乃恵琉は半信半疑で啓助に問う。
「確かに夕日の光に反射して、見えたんだ」
啓助は乃恵琉を背に、足下に張っている水を蹴飛ばすように歩いていった。
空洞に入っていった2人は、広間の光を頼りに辺りを見渡す。
しかし、空洞の奥までは光が届かず、手探りの作業以外方法がなかった。2人は同時にため息を吐き、姿勢を低くして探り始める。
作業は何時間かに渡り、辺りは暗くなった。もはや夕日の光も差してこない。
低い姿勢を保ち続けた2人は、腰をさすりながら姿勢を戻すとほんの僅かに月明かりが見える広間の方へと戻った。
「ありませんでしたね」
乃恵琉が何か恨めしそうな声で啓助に呟く。
「暗いからな、見つからないだけだろ……」
啓助は何か後ろめたそうな声で乃恵琉に呟いた。
先程からため息の同調が途絶えない2人は、またも同時にため息を吐くと星空を見上げる。
「そういえば、今何時だっけ?」
乃恵琉は啓助に言われ、携帯を取り出す。
「22時ですね」
「任務以外で外出してる時って、門限何時だっけ?」
すると、乃恵琉は少しためらって言った。
「22時ですね」
乃恵琉の言葉が寂しく、鍾乳洞の広間に反響する。
「「………」」
啓助は咄嗟に、行き先が分からぬまま走っていく。一方乃恵琉も同じように走りの一歩を踏み出した。
「うおー!!ヤベー!!」
「僕も気が付きませんでした。甲水亀を倒したらすぐに街の人々に報告すればいいものの……」
走って行く2人は、僅かな月明かりを頼りに来た道を進もうとする。
しかし、その僅かな月明かりは突然と消え、聞き覚えのある咆哮が響いた。
「……まさか」
啓助はその瞬間言葉を失う。
「そのまさか、のようですね」
乃恵琉は状況に動じず、冷静に言っている。
そう、その咆哮とは、先程乃恵琉が倒した甲水亀だったのだ。
「では、僕は外で缶コーヒーを買ってきます」
「いや、それ門限が大事なだけだろ!!てか、それさっきも聞いた!!」
「大丈夫です、君のためにコーラも買ってきますから」
啓助達が遣り取りしている間に、甲水亀は闇の中で水泡を放つ。
「そー言う事じゃねー!!」
その発言は、水泡の勢いに掻き消されるように途絶えていった。
149
:
ライナー
:2011/09/18(日) 14:06:05 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
大きく水の弾け飛ぶ音が鳴る。それは、もう水なんてレベルではない程の衝撃音だった。
啓助はその音と同時に身が飛ばされ、壁に窪みが出来てしまった。
窪みの出来た壁を背に、啓助はゆっくりと立ち上がった。
「啓助君、大丈夫ですか?」
乃恵琉が真顔で啓助に呼びかける。
啓助は背筋を伸ばし、指の骨と肩の骨を荒々しく鳴らすと、暗闇に僅かに見える甲水亀に向かって構えた。
「……大、丈夫な、訳ねェだろ!お前の眼鏡は伊達眼鏡か!」
啓助の安否が確認できた乃恵琉は、先程よりも冷静に言う。
「いや、『お前の目は節穴か』みたいに言われましても……」
乃恵琉の言葉に、啓助は舌打ちをして甲水亀の方を見据えた。
助走を付けて跳び上がった啓助は月光に影を生み、甲水亀の前頭部目掛けて、力一杯氷を纏った突きを繰り出す。
甲水亀は、それを読んでいたかのように啓助の方に目線を向け、水泡を放った。
啓助の突きは、甲水亀の水砲を凍結させ、次々と砕いていく。
「なめんなよ!!」
啓助はそのまま甲水亀の前頭部に突きを繰り出そうと勢いを付ける。
しかし、水砲の勢いは段々と増していき、今度は逆に水砲が氷を砕いていった。
氷、冷気共に無効化された啓助は、再び空洞の奥へと吹き飛ばされいく。
黒い景色しか広がらない空洞は、啓助に不安を与えた。まるで、怯えて檻に閉じこめられる小動物のように。
広間に続く通路が、月明かりを失った。甲水亀がそこに立ち塞がったのだ。
「では、啓助君。僕は甲水亀を一度弱らせたので、これにて失礼します」
甲水亀の後ろから、微かに乃恵琉の声が聞こえる。
「お、オイっ!門限と仲間で、門限取りやがったな!!」
啓助の無謀な呼びかけは、空洞に大きく響き渡るだけだった。
甲水亀はそれでも容赦なく、水砲を放つ。
啓助は音しか聞こえない水砲に、為すすべもなく攻撃を受けた。
「クッ……!!」
水泡の勢いで、啓助はまたも壁に体をぶつける。鈍い音を上げた壁は、落石の雪崩を起こすように崩れていった。
啓助は足を蹌踉(よろ)めかせながらも、深呼吸しながら立ち上がる。
「これで死んだら、乃恵琉の奴を呪い殺してやる……!」
両手に冷気を込め、闇雲に冷気を放った。
放たれた冷気は甲水亀に当たる様子はなく、地面に張られた水が凍る音が反響する。
焦る啓助に、甲水亀は大きく咆哮を上げた。そうかと思うと、暗闇に啓助に向かって水砲が飛び、啓助を襲った。
その水砲は先程のものより威力は弱化していたが、インファイトを打ち込む拳ように啓助の身体を傷つける。
「(何でこんなに暗いってのに、俺の居場所が……!)」
そして啓助は、その理由が分かった。甲水亀は地面に張っている僅かな水の波紋を感じ取っていることを。それ以外には考えられない。
さらに、啓助は電撃が走ったように思い出した。
最初に甲水亀の水砲を受けた時と、先程の水砲の威力を。
水砲の威力は、打ち込む度に弱化している。それは恐らく、乃恵琉の攻撃が当たったときからの弱りによるものだろう。
そう考えた啓助は、闇雲に闇の中を走る。
「(最初は、確か甲羅を発光させてやがったな。それなら、力を上げさせるには……)」
走る波紋に気付いたのか、甲水亀は細かい水砲を辺りにはなっている。
反響して、ハッキリ音の場所が分からないものの、啓助は水砲を自ら受けた。
そして、その時乃恵琉の言葉を思い出す。
「(『時によっては耐え切って自分のペースに持ち込む』か……)」
啓助は水砲を受けながらも、その発信源を読み取り、そこに向かって走り出した。
150
:
美々
:2011/09/18(日) 15:11:48 HOST:101-143-57-221f1.hyg2.eonet.ne.jp
小説書くんでよろしくお願いします。
151
:
美々
:2011/09/18(日) 15:12:23 HOST:101-143-57-221f1.hyg2.eonet.ne.jp
小説書くんでよろしくお願いします。
152
:
ライナー
:2011/09/18(日) 16:35:32 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
走り出した啓助は、再び両手に冷気を込める。
「(要は怒らせれば良いんだ……!!)」
甲水亀に接近し、目が慣れほんの僅かに姿が見えると、啓助は水の張った地面を、跳ねる魚のように跳び上がった。
そして、高く跳び上がると、冷気を込めた両手から無数の氷柱を放つ。
今度は、水に落ちる音はせず、打撲音や切傷音が響いた。技が甲水亀に命中したのだ。
傷つけられた甲水亀は、啓助の目論見(もくろみ)通りに咆哮を上げ螺旋状の甲羅を輝かせた。
「(掛かった……!)」
甲羅の光で少しばかり明るくなった鍾乳洞の空洞は、プリズムの光を帯びたように美しかった。
しかし、そうも言っていられない。甲水亀は再び激しい勢いの水砲を放つ。
啓助はそれを受け流すように、凍結させ水の進行方向を屈折させた。
「(いかに物の流れを、抵抗少なく受け流せるかってな!)」
乃恵琉の言葉は啓助の頭に焼き付いていた。
何故なら、啓助は同僚に教えられるのが恥ずかしいと思わなくなり、ただ強くなりたいと願っていたからだ。
そして水砲を受け流すと同時に、啓助の目にある物が留まった。それは、岩に挟まっている剣だった。
甲水亀の水砲を全て受け流した啓助は、隙を見て剣の方へと走る。
「これが、噂の金属か……?」
手にした剣は、鞘越しにでもその刀身がハッキリしていた。
刀身は適当な横幅に長さが1メートル程と、いかにも重量がありそうだった。しかし、持ってみると案外軽く、刀身の付け根から短い刃が突き出ているのが見える。
すると、辺りがほんの少し暗くなった。
甲水亀に気付かれたのか、啓助はそう思い振り返る。しかし、そこには甲水亀の姿は無く、広い空間が広がっている。
咄嗟に目を見張り上を見上げると、そこには甲水亀の姿の腹部が景色のように広がった。
「(跳んだのか!?)」
状況を見ながらも、少し半信半疑に成る啓助。しかし、それを余所に甲水亀は少しの間も与えずのし掛かろうとしている。
啓助はそれを防ごうと、無意識に剣を鞘から抜いた。
啓助は気が付いた。
いつの間にか意識を失っていたのだ。
啓助は意識が戻り、ゆっくりと目を開ける。
途端に痛みが背中を襲う。壁にぶち当てられ、しゃがみ込んだ状況だったのだ。
手元には、剣と、その鞘が握られていた。
剣の剣先は赤く染まっている。
今度は前方を見てみる。甲水亀は甲羅を地面に付け、仰向けに倒れていた。その姿は先程の迫力を無くし、浦島太郎に出てくる亀のようにか弱く感じた。
何故こんな状態になっているのか、これで分かった。
剣で受け止めたのは良いが、重量に負け啓助も吹き飛ばされたのだろう。
啓助は剣を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がった。暫くして、足がやっと言うことを聞くと、剣を鞘にしまう。
微かに震える手で、啓助はポケットの携帯を取り出すと時間を見た。0時30分、日付がいつの間にか変わっている。
力が出ない足を一所懸命に歩かせるが、またも言うことが聞かなくなった。
足が効かないだけなら良いが、意識まで朦朧(もうろう)としてきた。
そのうち、立っていられなくなり水の張った地面に膝をついた。そして意識がどこかへ吹っ飛び、そのまま倒れ込んでしまった―――。
暗闇で何かが聞こえる。
「……貴様は、この私を上手く使いこなせるというか。ーーー様よりも強く、鋭く、素早く、しなやかに」
暗闇で聞こえる声は、姿が見えない。
「だ、誰かいるのか……?」
啓助はその声に呼びかける。すると、光が目に飛び込んできた。
「大丈夫ですか?」
気が付くと啓助は畳の上に寝っ転がっていた。
隣で聞こえる声は、着物を着た20代前半の女性だった。
「……夢か」
「は?」
「あ、いや、こっちの話しなんで……ってここは?」
すると、隣の部屋から老人が現れた。
「あの怪物を倒し、まだ生きておるとは……運の良い小僧じゃ」
153
:
ライナー
:2011/09/18(日) 16:47:49 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
〜 作 者 通 信 〜
おなじみの作者通信です^^こんなの書いて無事に物語が終わるか不安ですが^^;
今のところ全体の2割程度終わっています(たぶん)
まだ3章の途中ですが、早く終わると良いです……
さて、実は本日、本作のキャラクター井上洋(いのうえよう)君の誕生日であります!パチパチ〜(暇人勃発)
これからも登場が増えるように願って下さい(洋のファンがいるかどうかですが^^;)
特に話すこともないので、次回予告予納な物を……
・剣を手にした啓助ですが、麗華とのバトルに勝つことは出来るのか!?(麗華ファンには麗華が勝てるかどうか!?)
・啓助にライバル出現!?
・奴が啓助達の元に返ってくる!?
こんな感じです^^;
まあ、これを見て楽しみにしていただけたらと(変更する恐れもあります)
154
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 19:01:59 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
うお、新キャラですね!
にしてもいいですね、着物の女性ってw
乃恵琉は仲間意識があるのかどうか、よく分からない奴ですね。
もしかして麗華よ同じくツンデレだったり…。
啓助VS麗華が楽しみです!
155
:
ライナー
:2011/09/18(日) 22:46:45 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
新キャラの人は、キャラ的にサブの中のサブに入るので、これからはあまり登場しないと思います^^;
まあ、乃恵琉はスパルタ指導だと考えてください(笑)
ツンデレ……結構あり得る可能性が(笑)
啓助、体ボロボロですが頑張らせます^^(スパルタ指導者か)
156
:
白井俊介
:2011/09/22(木) 16:16:52 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
読ませていただきました。とても面白い作品で、文体も好きです。
麗華のツンデレ具合がとても大好きです!!
やっぱりかわいいですよね〜ww
これからも応援させていただきますのでがんばってください。
157
:
KIKKOMAN
:2011/09/23(金) 10:35:26 HOST:pw126198146188.42.tik.panda-world.ne.jp
白井俊介って実名ですかwww
158
:
ライナー
:2011/09/23(金) 10:52:08 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
白井俊介さん≫
コメントありがとうございます!
やっぱツンデレ好きな人多いんですね、もっと麗華のシーン増やそうかな。
ご期待に添えて頑張りたいと思いますので、応援宜しくお願いします^^
159
:
ライナー
:2011/09/23(金) 11:56:06 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
呆れ顔でため息を吐いている老人は、昼間訪ねた鉄幹門四十郎だった。
「あ、昼間のジジイ」
「ジジイとはなんじゃい!言葉には気を付けい!……しかし小僧、とんでもない物持ってきたな。いや、正確には駒子が持ってきたという方が正しいか」
鉄幹門の言う『駒子』という名前は、隣にいる着物の若い女性だろう。歳からして孫か娘かどちらかと言ったところだろう。
それともう一つ、『とんでもない物』も見当は付いていた。啓助の唯一の持ち物が、左手にしっかりと鞘に入った剣だったからだ。
「じーさん、この剣知ってんの?」
啓助の問いに、鉄幹門は当たり前のように言う。
「わしは刀鍛冶じゃぞ、有名な物なら一目で分かる。小僧が持っているその剣は『凍界裂剣(とうかいれっけん)』と言うて、寒さが厳しい地方である騎士が使っていた剣じゃ。その能力は冷えれば冷える程に鉄の粒子が引き締まり、切れ味が増すもんじゃて」
鉄の粒子が引き締まるとはどのようなことなのか、ほとんど知識のない啓助は質問しておきたかったが、そうもいかない。麗華との勝負は刻一刻と迫ってきているのだ。
それに、自分のアビリティに合った武器を手に入れたのだ、使わずにはいられない。
「それじゃ、ちょこっと使ってみっかな!」
啓助がその場で剣を抜こうとする。が、素早く鉄幹門にストップを入れられた。
「おい、小僧!剣はお前の拾得物じゃから何も言わんが、どこかへ用があるんじゃないのか?」
鉄幹門の言葉に、啓助は青ざめる。
慌てて携帯で時間を確認すると、既に時は6時30分と完全に朝方になっていた。
そして、同時に着信履歴の方にも目を通す。
するとユニオンからは10件以上の着信があったことが判明した。
焦りに焦る啓助は、急いでユニオンに電話を掛ける。
暫くユニオンの受付と言葉を交わし、通話を切った。転送帰還を願ったところ、転送システムが誤作動を起こしていて、帰還方法は徒歩かシステム復旧を待つしかないようだ。
「30分程度の短い間だったが、どーも」
啓助は携帯を閉じ、剣を左手に持って立ち上がった。
「もう行くんですか?」
呼びかける駒子に、啓助は背を向けたまま言う。
「とりあえず何処か泊まれる所探さないといけないんで」
「だったらここを使えばええ」
鉄幹門は腕組みしながら啓助に言った。
啓助はその発言に、思わず振り返る。
「マジ!?じーさんホントはいい人なんだな!ジジイって言ってごめんなさい」
「だがその代わり、家のことは手伝って貰う。いいな!」
「ハイ!」
「まだなんですか……?」
「もうちょっとですね」
啓助は駒子の手伝いで山に来ていた。
何故山なんかに来たかというと、綱板町では定食屋などはあるのだが、自分達で料理を作るとなると、街に買い出しに行くか近くの山で収穫するかのどちらかのようらしい。
現在は火を起こすための薪集めをしている。
ただ集めさせられるのならまだ良いのだが、朝から12時現在までやらされ、背中に登山リュックでも背負うように薪が乗せられている。その姿は差し詰め『二宮金次郎』と言ったところだろうか。
一方駒子の方は、近くの川で魚を釣ったり、山菜などを集めていた。
啓助はその光景を見据えながら、現代でこんな姿を拝めるとは思いもしなかった。
「そろそろ良いですよ、もうすぐお昼ですし」
駒子の言葉で、啓助は一安心する。しかし、気を抜くと薪に押しつぶされそうになるので少し戸惑った。
その後、啓助は鉄幹門の家で昼食をご馳走となった。
食べるものは全て田舎料理だったが、とても美味しく感じる。栄養配分だけ考えられたユニオンの食料とは大違いだ。
そして途端に、ユニオンに属する前の事を思い出した。家族や友人のことを今思うと、少し涙が溢れそうになる。
鉄幹門達はその姿を見ていただろうが、きっと啓助に気を利かせたのだろう。ただ静かに昼食にありついていた。
160
:
PANDORA
:2011/09/23(金) 13:38:20 HOST:pw126198014032.42.tik.panda-world.ne.jp
こんにちわ
この小説の隠れファンな私ですwww
それにしても面白いです!!
自分は麗華と恵のガールズトークが
もう少しみてみたっかた!
麗華が恵をいじってる雰囲気が笑えました
長くなってすいません
今後も頑張って下さい。
楽しみにしてます!!
161
:
ライナー
:2011/09/23(金) 14:09:35 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
22、路地裏の戦域
「ごちそーさんでした」
啓助は昼食を食べ終え一息吐くと、剣を持って外へ出かけた。
街の大通りに出ると、時間はまだ昼時で定食屋の方からは賑やかな声が聞こえる。
賑やかな声に紛れ、昼酒を呑み泥酔している中年の男などの風景が見えた。
そんな風景を見て、啓助は視線を前方に戻す。
すると前方に見えたのは、キルブラックの下っ端が身に纏うマントのような黒装束だった。
「……!!」
黒装束を着た人物は啓助の姿を見つけると、逃げるようにビルの路地裏に去って行く。
啓助もその姿を見ると、慌てて黒装束を追った。
路地裏に入って行くとそこには、ビルの壁と換気扇くらいしか見あたらない。
啓助は自分の目を疑いながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
すると突然、啓助の身体に矢が刺さる勢いで電流が流れた。
「グッ……!!」
電流は啓助を縄で縛り付けるように身体に巻き付いている。
苦しみながらも、啓助は流れる電流の発信源を目で追う。
目で追った先には、ビルの壁に2匹の蜘蛛が糸を吐くように電流を啓助に流していた。
そうかと思うと、今度は上空から何者かが舞い降りてくる。3人いる中の2人は先程の黒装束だ、そしてもう1人は裏切りを果たした堂本の姿だった。
「て、テメェ……!」
「ヨォ辻……随分と元気そうじゃねぇか。雷蜘蛛(らいぐも)の電気は気持ちいいか?」
電気の磔(はりつけ)を受けている啓助に、堂本は笑って言う。
「雷蜘蛛はコイツで操られてんだ。スゲェだろ?」
堂本は啓助の顔の前に、碁石でも挟むような持ち方で紙の札を差し出す。
それは随分前、麗華救出の時に麗華のアビリティを遮っていたあの札だった。
「覚えてそうな顔してんじゃねぇか。じゃあコイツはどうだ?」
次に差し出されたのは錠剤のような物。啓助はこれにも見覚えがあった。
同じく麗華救出の時、赤羽との一戦で赤羽が服用した薬だ。
「札はお前が知っている通り、人間に付けりゃアビリティを封じ、獣に付けりゃ意のままに操ることが出来る代物。そしてこの錠剤は、服用すればアビリティの能力を短時間だけ強化するという薬だ」
堂本は錠剤と札をコートのポケットにしまうと、話を続ける。
「これで分かるように、俺らキルブラックの科学力、戦闘力はとても優れている。これ以上刃向かうようなら次に使者を送り殺すことになる。ついでに雷蜘蛛の相手をしてやってくれ、辻」
堂本はそう言い残すと、黒装束達を残して去っていった。
堂本が去った途端、それが合図だったかのように黒装束は雷蜘蛛に命令を出す。
雷蜘蛛の出す電流の電圧は段々と増し、突き刺さった矢が身体を剔(えぐ)るような痛みを啓助に感じさせた。
啓助は痛みのあまり、獣のような咆哮を上げる。
そしてその咆哮は、啓助の意識を掻き消していった。
辺りは黒色に染まっていた、鍾乳洞の時と同じように。
闇の中にはあの時と同じ声が響いていた。
「お前……中々に面白い力を持っているようだな。今回だけはその力を借りて助けてやろう。だが、次この力を使うにはお前がこの力を使いこなせるようになってからだ……」
啓助は自分が意識を失っていることに気付いた。
目が覚めた途端、剣を握り、前方の黒装束を切り裂いている。無意識にも戦っていたのだ。
上を見上げると、雷蜘蛛が一目散に逃げていく姿が見えた。
啓助は来待戦での疲れと同じ物を感じる。
記憶を一部失っていた、あの来待戦と同じような感じだ。
疲れを残しながらも、啓助は剣を鞘にしまう。
「ヒューヒュー!格好良いね啓助!」
後ろから囃(はや)し立てるように声が聞こえてくる。
何となく聞き覚えのある声に振り向くと、ヒロシ状態と化した洋の姿があった。
「お前……!何でここに!?」
「キルブラックの処理で派遣されたのさ。でも、君が処理っちゃったみたいだね」
啓助は少し気がかりになることを、洋に問いてみる。
「じゃあ、転送システムで来たんだよな……?」
「いや、歩きさ。歩きじゃないとナンパ出来ないじゃないか」
聞くんじゃなかった、啓助はそう思う。
そう思い、拍子抜けした瞬間、それを狙っていたかのように矢が啓助の足下に降りた。
162
:
ライナー
:2011/09/23(金) 14:14:22 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
PANDORAさん≫
コメントありがとうございます!
良いですよね、二人のガールズトーク^^
やっぱり麗華の票が多いな、麗華の出番を増やそう。
これからも頑張りますので、応援宜しくお願いいたします!!
163
:
PANDORA
:2011/09/23(金) 15:26:03 HOST:pw126198014032.42.tik.panda-world.ne.jp
もう一人の洋のキャラと普段の大食いの洋キャラのギャップに
はまりましたwww
ライナーさんのキャラ設定が面白いです!!
164
:
ライナー
:2011/09/24(土) 18:38:23 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
PANDORAさん≫
またのコメントありがとうございます!
キャラ設定は結構気を遣っている方なので、嬉しいです!
ではではwww
165
:
ライナー
:2011/09/25(日) 12:48:29 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「だ、誰だ!」
啓助の声に、颯爽(さっそう)と何者かが舞い降りてくる。
「ご機嫌よう」
降りてきた人物は鉄幹門の娘、駒子の姿だった。
駒子は背に矢を背負い、片手には弓を握っている。
「と言っても、私駒子じゃないんです」
いきなり現れて何を言い出すんだ、啓助はそう思ったが、後ろでは筋肉質で女好きな洋(ひろし)が鼻息を荒くしてそれどころではなかった。
啓助は、洋の居る背後からとても嫌な予感がする。
「お嬢さん、ボクと一緒にお茶しませんか?」
案の定、洋は駒子の手を握ってナンパを仕掛けている。
「お、おい。洋……」
啓助が呆れながら洋を止めようとしている。すると、駒子の姿が段々と光を帯びて姿形が変わっていった。
「これでも良いと申されますか?」
「……!!」
次に言葉を発したときは、駒子の姿ではなくなっていた。
着物姿は変わりなかったが、水色に輝く髪と、同じ色の瞳、そして整った顔つきに凜とした口元が見える。
「はい、良いですお姉さん」
洋はそれでも動じなかった。年上でも、年下でも、相手から攻撃を仕掛けてきても女好きは変わらないらしい。にしても、洋の女好きには呆れた。
「では、妾を愛すと申しますなら、あの童をお消しになって下さい」
女は啓助の方を指差す。
焦った啓助は、洋を一瞬疑い一歩後退る。しかし、洋は女からソッと手を離し、クールな笑みを浮かべた。
「そう言うワイルドな女性は嫌いじゃないけど、仲間を傷つけることは絶対に出来ないな」
この時、啓助は一瞬でも洋を疑ったことを反省した。どんなに女好きでも仲間は仲間なのだ。
その言葉を聞いた女は、少し不機嫌そうな表情を浮かべて名乗りだした。
「妾はキルブラック左陣隊長、遠尾(えんび)。悲しゅうて仕方ありませんが、命令なので殺させて頂きまする」
「待て!じゃあ、本物の駒子さんはどうした!」
啓助の問いに、遠尾は表情を変えずに言う。
「甲水亀を操って、人を殺したとき、その時……」
言い方からして相手はあまり戦意がないようだ、しかし何かしら隠し持っているのも確か。
「それから妾が代わりを務めようと、変装して……」
遠尾の言葉はそこで止まった。洋が一直線に金槌を打ったからだ。
「あんな綺麗な女性を、こ、殺しただと!!」
「(……女好きにも程があるだろ)」
啓助は、洋が怒りを見せる趣旨が間違っているような気がする。
そしてあまりの女への執着心に、先程の『仲間』という言葉を前言撤回したくなった。
すると遠尾は途端に姿を消す。
「!!『ファスト』か!?」
あまりの速さに、啓助はそう呟く。
「いや、啓助。走り出す様子がなかった事から推測すれば、これは……時を操る『タイム』」
そう言っている間にも、様々な方向から矢が飛んで来た。
直線上に伸びた矢は、勢いよく洋の背に刺さる。だが、いつものように平然な顔で矢の金属部分を身体へと取り込む。
「今回の鉄は、油の使い方が荒いね。刃物の武器を使うときは切れ味が落ちないように、適量の油を使わないと」
洋は平然と鉄の批評をしているが、『メター』の能力者の鉄を取り込む部分を見るのは、あまり良い気持ちはしない。
気が付くと、先程と同じ場所に遠尾が立っている。
しかし今度は遠尾だけでなく、先程逃げていった雷蜘蛛も一緒だった。
恐らく、先程の雷蜘蛛は時を戻して呼び出した物だろう。そうすると、『タイム』のアビリターはかなり厄介だ。
「啓助!考えていても始まらない、ボクは雷蜘蛛の方を担当させて貰うよ!」
悩む啓助を余所に、洋は両腕を鎖へと変化させ、雷蜘蛛の体を縛り付けた。
そうすると、啓助の敵は絞られる。『タイム』を使う遠尾だ。
啓助は素早く剣を抜き、遠尾に向かって振り下ろす。
だが、やはり『タイム』のせいで軽々と躱されてしまった。
そして、啓助が呆気に取られていると、今度は四方八方から無数の矢が飛んでくる。
矢の攻撃は何とか冷気によって凍らせられたが、これでは攻撃の隙が出来ない。
「さ、どうしまするか?童よ」
先程よりも余裕の見える声が啓助の耳に入って来る、ただそれだけだった。
「啓助、洋刀の使い方が違うよ!」
洋は縛り付けている雷蜘蛛に電流を流されている。
「いや、お前大丈夫なの?」
電撃を受けながらも、洋は雷蜘蛛を叩き付け応戦していた。
「うん、脚が電流を流すアース代わりになっているからね。そのくらい啓助も分かるだろ?」
啓助は少し痛いところを突かれた、が、話しを戻し紛らわす。
「で、洋刀の使い方って?」
「ああ、それは……」
166
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 13:45:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね^^
ああ、駒子さんが……結構好きだったのに…。
最近出番無いなー、と思ってたら洋くん出てきましたねw
それにしてもスパルタ少年とツンデ麗華はいつ出るのか((
続きが楽しみですw
頑張ってくださいね!
167
:
ライナー
:2011/09/25(日) 14:45:01 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
駒子さんは確かに急な展開となりました……^^;
洋はあまりにも出番ないんで、出させて頂きました。これからも出番が増えると良いですが(笑)
乃恵琉と麗華の登場はもうすぐです!
是非、啓助と麗華の戦闘シーンを楽しみにして下さい!
168
:
ライナー
:2011/09/25(日) 17:38:21 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「洋刀って言うのは、切れ味を重視する日本刀とは違い、突き技が重視されるんだ。だから切っ先で斬りつけたり、そのまま突いたり、するのさ!」
「ああ、そうなんだ……」
啓助は曖昧な返事を返す。
何故かというと、洋はアドバイスをしただけで、全く助けようとする動きを見せなかったからだ。
やはり、敵は敵でも女には手が出せないと言うことだろうか。
そう考えている間にも、啓助の周りからは無数の矢が飛ぶ。
「(またか……!)」
啓助は剣を真上に振り上げ、刀身に巨大な花を咲かせるように氷を作り出した。
巨大な氷の花は、矢の全てを弾くと同時に消される。なるべくアビリティを節約しなくては、いつまで戦闘が続くか分からないのだ。
剣をゆっくり下ろすと、今度は背後からオーラによる気配を感じる。
気配に向かって気付かれないように、剣をゆっくりと持ち上げる。そして剣の切っ先を後ろに向けた。
「(切っ先で斬りつけ、突き技を重視………)」
心の中でそう呟き、切っ先を徐々に上げて行く。
剣の目測と、気配の感測を頭の中で計っていった。
よく見てみると、剣の切っ先は刀身全体の3分の1ほどあり、戦闘方法は洋の言うとおり突きが主流らしい。流石『メター』の能力者と言うべきだろうか、伊達に鉄を扱っているだけのことだけはある。
気配は気を反らせる為だったのか、前方に何十本かの矢が啓助に向かって来た。
啓助は、冷気で矢を全て薙ぎ払うと視線を背後に向けた。
それと同時に、剣の切っ先が遠尾の方へ伸びる。
剣の突きは神速を思わせるような速さだったが、既に遠尾の姿はなかった。相手も状況に応じられるように、相当な反射神経を鍛え持ち合わせているようだ。
「(アイツ倒すには、相手が時間を止められない隙を作り、それを突く……)」
再び啓助は心の中で呟く。
すると、またも同じように辺りから矢の雨が降って来た。
「(……!同じ戦法なのに、面倒臭いな)」
啓助の体力は、アビリティを使うごとに減っていく。
そして段々と使う力を増していかなければいけないのだ。来待、甲水亀戦と同じように、多くのオーラを。
黒い景色が浮かび上がった。
その中で、青く丸い光が薄らかに見える。
「……お前は力をここまでも制御できないとはな」
「おい、どういう事だ?話しが読めねェよ!」
啓助は声の相手に呼びかける。
「お前は自分の力を制御できなければ、いつか死ぬ」
「誰だよ、誰なんだよ一体!!」
啓助の問いに、声の相手は最後に呟いた。
「……ただのしがない騎士剣だ」
次の瞬間、啓助はもう啓助ではなかった。
獣のように目をひん剥き、噛み締めた歯を見せながら物凄い量の冷気を纏っている。その冷気は本物の獣を思わせるような勢いだった。
「あ、アビリティに呑まれた……!?」
今まで平然とした表情を見せていた洋は、ここで初めて驚きの表情を浮かべる。
「グオオオオオオォォォォォッ!!」
獣のように咆哮を上げた啓助は、剣を片手に物凄い跳躍力で跳び上がった。
人からすれば何故跳び上がったのかは不明だ。しかし、獣のようになった啓助は違った。跳び上がり剣を構えた先には、遠尾が現れたのだ。
「何っ!?」
遠尾も驚きの表情を見せている。どうやら時間を止めて移動したものの、時間を戻した瞬間に啓助が立ちはだかったのだろう。
啓助の持つ剣の切っ先には、強い冷気が込められいた。そして啓助が切っ先を遠尾の方へと突き出すと、大量のガラスが破片の破片まで割れるような音が裏路地を突き抜けて響き渡った。
そこからは悲惨な光景が広がった。
遠尾の着物には赤や、赤に染まった氷が取り巻き、アスファルトの地面にまるで流星のように落ちて行く。
墜落した遠尾の体はアスファルトを削り取り、アスファルトの割れ目にその体を転がした。
「グオオオオオオオォォォォォッ!!」
啓助は咆哮を上げ、地面に着地してもなお斬撃を遠尾に食らわせる。
遠尾の体はバラバラになり、生きているかとかどうかではない。
「止めろ啓助!これ以上やって何の意味がある!」
洋は啓助の方へと駆け寄って、その行動を止めようとする。しかし、啓助の纏っている冷気はとんでもない圧力で、近付けば近付く程身体が凍り付けになっていく。
今、啓助を止められる者は誰もいなかった。
169
:
ライナー
:2011/10/01(土) 16:49:35 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
洋は悲惨な光景の向こうに、何者かが歩いてくるのを察した。
足音が徐々に近付いてくると、洋は悲惨な光景を余所に足音の方を振り向く。
ゆっくりと路地の影から姿を現したのは、モノクロのコートを身に纏い、白と黒が混ざった髪をツインテールに結んだ小さな少女だった。
少女は沈黙して人の原形を失った遠尾と、暴れ狂う啓助を見た。
「あーあ、オモチャじゃないんだからさー!」
そう言うと、少女はコートの懐から白い紐を取り出す。
「白闇ちゃんの正義のテッツイ食らえー!」
少女は羽のように軽そうな紐を、鞭のように大きく撓(しな)らせ啓助に向かって叩き付けた。
叩き付けた白い紐は、啓助の体に吸盤のように張り付き、強大な冷気を吸い取っていく。
「フー、遠尾はいいや死体だし。せっかく黒明と差を付ける大チャンスだったのに〜!ま、『タイム』のアビリティは時間を戻しても使用回数少ないし、戻る前の時間の記憶がたまに残ってる人とかいるし、しょーがないか」
独り言を立て続けに言う少女は、洋の方に視線を向けて言った。
「ねーねーそこのバンダナのお兄ちゃん、あの『フリーズ』のお兄ちゃんのお友達?」
洋は戸惑いながら曖昧に返事を返す。
「だったら危ないかもね、あのお兄ちゃんのアビリティは頭脳を持っちゃったみたい」
少女の言葉に、洋の顔がさらに曇る。
「……君は一体誰なんだい?」
少女は、洋の問いに自信ありげに言った。
「私は、キルブラック陣位総司令隊長補佐(じんいそうしれいたいちょうほさ)の白闇(はくあん)ちゃんでーす!」
洋はその返答を聞くと、右腕をハンマーに変え踏み出そうとする。
「今動いて大丈夫?沙斬を倒した井上洋君ってのは確認済みだけど、隊長補佐は一瞬で倒されないよ?」
余裕の表情を見せる白闇に、洋は汗を掻き歯を強く噛み締めながらハンマーを右腕の形へと戻した。
「それじゃー、次戦う時を楽しみにしているから、その時は一緒に遊んでね、おにーいちゃん!」
黒い世界に、電灯の白い光が降り注いでくる。
気が付いて目をカッと開くと、啓助はカプセルのような物の中に入れられ、何本ものコードに繋がれていた。
暫くして電子音がすると、啓助に繋がれたコードは外れ、カプセルが開く。
啓助はカプセルから出ると、3番隊隊長矢杉がカルテを持って近付いてきた。
「やあ、お早う。良い睡眠は取れたかな?」
「あ、ええ、まあ……」
矢杉はいつもと何ら変わりはない啓助を見て、カルテの方へ目を移す。
「で、気を失う前は何があったんだい?」
「え?えーと……」
頭を掻きながら考える啓助に、矢杉は言った。
「ハハ、まだ疲れが溜まっているようだね。医務室で休んでくるといいよ」
啓助は曖昧に返事をして、医務室へと足をヨタヨタさせながら向かっていく。
医務室でベッドを借り、すぐさま潜ると暗闇の声のことを考えていた。
すると、ベッドのカーテンの向こうから声が聞こえて来る。
「おーい、辻!大丈夫?」
啓助の耳にそう言葉が届くと、暖簾(のれん)くぐりをするように麗華と乃恵琉が入って来た。
「洋から聞きましたよ、何やら大変だったようですね」
2人はベッドの近くに備え付けてある椅子を、自分の側まで持ってきて腰掛ける。
「いや、そうにはそうなんだが、記憶がハッキリしてねぇんだ……」
乃恵琉は持参した缶コーヒーのフタを開け、一口飲んで言った。
「洋からの話しだと、キルブラックの幹部との戦闘中にアビリティに呑まれたみたいですね。あ、コーラ入ります?」
乃恵琉は、啓助にまだ冷え切っているコーラを差し出す。
「いや、いい……(この眼鏡マジでコーラ買って来やがったよオイ!)」
啓助はそれを断った。
「話を戻しますが、アビリティに呑まれるということは滅多にありません」
乃恵琉は近くのテーブルにコーラを置いて言った。
「んじゃ、どうやってアビリティに呑まれるんだよ」
「それは「それは、アビリティが頭脳を持って行動しようとするからよ」
乃恵琉の言葉を、麗華が断ち切るように話しを持って行く。
話しを持って行かれた乃恵琉は、目ならぬ眼鏡を曇らせ言葉を失っていた。
「アビリティは、頭脳を持つとドンドン強くなっていくけど、宿っている体の免疫や、身体能力よりも強くなるとその体を乗っ取ろうとするのよ。まあ、アンタは弱いからすぐに殺されるだろうけど、明日の試合楽しみにしてるから。じゃ」
麗華はそう言うと、カーテンをもう一度暖簾(のれん)くぐりをし、去っていく。
もう前日か、啓助はそう呆気に取られているが、ベッドの側には落ち込んだ乃恵琉がまだ座っている。
啓助は、慰めようとテーブルに置かれたコーラを乃恵琉に差し出した。
「コーラ、いるか?」
「いえ、遠慮しておきます……」
170
:
ライナー
:2011/10/02(日) 17:46:23 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
23、気強いあの娘は六刀流
試合当日、午前5時と早朝だったが啓助と麗華は既に同情へと来ていた。
東側の位置には、麗華が折り畳み式のナイフを出し入れし、慣れた手つきでジャグリングしている。
西側では、啓助が丁寧に剣を磨いていた。
「あーら、今更になってメンテナンス?そんなの昨日のうちに終わらせておくのが普通でしょ。今の時間はウォーミングアップを優先するべきよ」
余裕そうに麗華は言う。
啓助は少しムスッとして、剣の付け根に付いた2本の刃を拭いて、素振りを始めた。
「昨日は体休めるだけで精一杯だったんだよ!」
道場の端では沢山の門下生が並び、差し詰め野球観戦のような賑わいを見せている。
その観客席のような端で、道場師範の英治が座り、その隣には睨み合うように乃恵琉が座っていた。
「いよいよですねー」
英治は乃恵琉の隣で、相変わらずの笑みを浮かべ言う。
「本当、長かったですよ、この期間」
一方、乃恵琉は英治に似ず、顔を顰(しか)めていった。
そんな静かに火花を散らす隣で、洋はいつものようにロールパンを頬張り、さらにその隣では恵が可愛らしく座っている。
しかし、恵は心なしか啓助の方へ微かに目線が寄っていた。
「ウィーッス!それじゃそろそろ時間なんで、両方とも定位置へお願いするッス」
どうやら審判は、門下生と言うことで健二らしい。道場にいる面々は久しかったが、啓助はそのようなことは考えている暇もなかった。
「んじゃ、ヨーイ……」
健二の右腕が振り上げられ、啓助は剣を片手に持ったまま唾を呑む。
「始めっ!」
その途端、麗華は片手に3本ずつ握ったナイフを柄から突き出し、啓助に向かって走り出す。
その合計6本の刃は白く輝き、まるで白鳥の翼を思わせるようだった。
輝かしい光景も束の間、咄嗟に啓助は剣の新刀を向け、攻撃を防ぐ。
ワイングラスを合わせたような高い金属音は、麗華の意気込みを表示していた。
「(当たりが軽い……なめて掛かりやがってる!)」
「麗華は本気を出していないようですね……」
乃恵琉の言葉に、洋はロールパンを食べる手を止め聞いた。
「え〜、何でさ〜?」
「いくら刃物同士だからといって、あそこまで高い音を出すには力を抜くしかありませんから」
今度は、恵が乃恵琉の言葉に反応する。
「それじゃあ、啓助君不利なんだ……」
金属音と一緒に跳ね上げられた麗華の片手は、防御した啓助の目を一瞬奪った。
そして、その一瞬の隙を狙い、もう片方の手で追撃を行う。
白鳥の翼撃のような一発は、素早く啓助の懐を剔(えぐ)り込んだ。
「グッ……!!」
「詰めが甘いわね、辻! まあ、作戦に面白い具合で引っ掛かるから楽しいけど!」
一撃を食らい後方に飛んだ啓助は、足に踏ん張りを入れ、飛ばされる勢いを止める。
麗華と距離を取った啓助は、剣に冷気を込め、刀身に氷を纏わせた。
その剣は、巨大な氷柱を思わせるほどの大きさを持っていた。
「良い物持ってるんじゃない!あの『凍界裂剣(とうかいれっけん)』ね!」
「『凍界裂剣(とうかいれっけん)』は騎士が持っていたときの名前、俺の手にあるときは本名で呼んで貰うぜ!」
啓助は剣の切っ先を前方に向けた構えで、麗華に急接近する。
麗華に氷を纏った切っ先が近付くに連れ、剣全体が氷の上からさらに冷気を帯び始めた。
「本当の名は……」
氷と冷気の二重の威力を持った切っ先は麗華を襲った。
「『氷柱牙斬(つららげざん)』だ!」
切っ先が襲った瞬間、結晶の吹雪が吹き荒れるような轟音を響かせると、2人は土煙ならぬ雪煙の中へ消えていった。
171
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/02(日) 19:11:05 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね^^
啓助って結構暴走しますよね…何かそこが不安なんですけど…
そしていよいよ啓助VS麗華だー!
個人的には麗華に勝ってほしいけど、ストーリー的には啓助だろうな。うん。
この戦いで、麗華→啓助←惠
みたいになってくれたらいいな〜w
172
:
ライナー
:2011/10/06(木) 22:57:09 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!!
啓助暴走ですか、それはまた色々あってから解決させてやりたいですね(笑)
やっと啓助VS麗華になりましたね。ここまで来るの長かったー!
どうですかねー?分かりませんよ〜?ま、次の更新を楽しみにしていただけたらと思います。
おお!啓助両手に花!まさにウハウハじゃないでs((殴
作者なのに変な次元に飛び込んでしまいました(笑)
麗華→啓助←惠はリア友にも言われました^^;
どうなりますかね〜?恋愛風刺はそこまで考えていませんが、啓助ウハウハも良いk((殴
とりあえず、そちらも参考にさせていただきます^^
ではでは,コメントありがとうございましたwww
173
:
ライナー
:2011/10/07(金) 23:23:39 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
訂正です。
≫170の3行目
同情→道場です
174
:
ライナー
:2011/10/08(土) 00:35:10 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
暫くして雪煙が晴れると、麗華は『氷柱牙斬(つららげざん)』の切っ先を片手に握った3本のナイフで抑えている。
「辻……アンタにしては、積極的に攻撃して来るじゃない……!」
麗華はそう言い、抑えた剣を弾くと一緒に弾かれた啓助の身体に向かって、ナイフの刃先を迫らせた。
咄嗟に啓助は刀身を前に突き出し、攻撃を防ぐ。
「それじゃ、丁寧に武器の名前教えてもらったし、私の武器も紹介しようかしら!」
再び交わる刀身を弾き、麗華は言った。
「私の六刀ナイフは『白鳥夢掻(しらとりむそう)』よ!」
弾かれた衝撃で、啓助は先程よりも後ろに飛ばされると、麗華は両手に持った6本のナイフを交差させた。
「おや、水野さんはもう必殺技ですか」
英治は乃恵琉に微(かす)かに笑みを見せながら言った。
「もう……ですか」
麗華の交差させたナイフは白い光を帯びて行き、まるで湖に住む白鳥を思わせるかのように美しかった。
「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
その言葉が麗華の口から放たれると、素早く啓助の剣を通り越し、交差したナイフを引き裂くように斬りつける。
啓助の身体に白い×状のラインを付けて、その部分から剔り込まれるような痛みを痛感させられた。
「グァッ!!」
啓助は痛みを耳で感じさせるような声を上げる。
一方麗華は啓助に背中を見せるように着地し、白鳥が翼を休めるようにナイフの刃先を斜め下に向けていた。
そして、その状態から動かない様子を見ると、勝ちを確定しているようだった。
痛みのあまり、啓助は片手に握った剣を落石のように鈍い音を立てて落とす。
さらにそこから膝を突き、攻撃された胸部の部分を必死に抑えていた。
「こ、これは……」
乃恵琉が額に汗を浮かべ、眼鏡を掛け直す。
「この{白羽刈剔(しらはがいてつ)}という技は、腕を内から外に動かす力を利用した物です。腕を外から内へ動かすよりも効率的な上に、念動の威力も加わっている必殺技なんですよ。啓助君立てますかね、どうです乃恵琉?」
笑って余裕そうにしている英治をチラッと見て、乃恵琉は言った。
「大丈夫ですよ、父さん」
啓助は、微量に震えながらも剣を杖代わりにして立ち上がる。
啓助が立ち上がったのを察したのか、麗華は振り向き強気な笑みを見せた。
「そう来なくっちゃね!これで終わりは悲しいわよね!」
ゆっくりと啓助が立ってみせると、麗華は再び『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を構え急接近してくる。
白い念動を纏った刀身は、再び啓助の胸部に剔り込んだ。
啓助は弱った体でダメージを受けながらも、攻撃の衝撃を利用し、幾らか距離を取る。
「どう?私の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の威力は……ってもう元気ないみたいね。そろそろ終わりにしましょうか」
それもそのはず、{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の威力は計り知れない物で、啓助のほとんどの体力を奪っていた。
すると、麗華は指の間で握ったナイフを交差させ、白い念動を送り込む。{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の構えだ。
それを察した啓助は、力を振り絞り、剣に強い冷気を込めた。
「(こんなんでくたばれるか……!)」
175
:
ライナー
:2011/10/08(土) 16:17:51 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
啓助は冷気を込めた剣を前に構える。
麗華の攻撃{白羽刈剔(しらはがいてつ)}を予想していたが、それは啓助の思いこみだった。
{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の交差させる構えから、麗華は大きく両腕を開き、翼のようなナイフを広げる。
「{白鳥飛術(しらとりひじゅつ)}!!」
麗華の口からそう発せられると、翼を羽ばたかせるようにナイフの刀身を振り下ろした。
「………!!」
啓助はその瞬間目を疑った。
まるで、では無く、本当に白鳥の如(ごと)く飛んでいるのだ。
観客席では、乃恵琉が苛立(いらだ)ちを見せ微(かす)かな貧乏揺すりをしている。
「ここまで技を教え込んでいるとは、流石ですね父さん……」
見るからにも余裕の無い乃恵琉に、英治は笑みを見せ言った。
「ええ、彼女はとても筋が良いので技を伝授しやすかったですよ」
「今度は私の番よ、覚悟しときなさい!」
麗華は広い道場内を巧(たく)みに利用し、急降下しては啓助の体を切り裂いていった。
斬撃を受け、怯むに怯む啓助に、容赦なく麗華の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』が剔り込む。
「(くそっ……!攻撃を食らえばまた攻撃、全く隙がない……!)」
力強く握っている剣は、その役割も空しく斬撃一つ防いでいない。
何故なら、『氷柱牙斬(つららげざん)』は洋剣、つまり片手剣のため柄が短く、両手で扱うよりも難しく防ぐことが出来ないのだ。
そんな絶対不利的状況で、啓助の思考に電撃のようにひらめきが浮かぶ。
「(確か、洋剣は騎士などが使った物、片手剣ならもう片方の手を使うためには……!!)」
麗華は啓助に空中で斬撃を与えると、再びターンして攻撃態勢に入った。
斬撃の痛みを堪(こら)えると、剣を持たない左手に冷気を集める。
その事を知らず、麗華は白い翼のような念動を纏うナイフを下ろし、啓助に急接近していた。
そして、次の斬撃の瞬間、麗華の予想していなかった感覚が刃を下ろした片手を襲う。
「……!!」
「へっ、残念だったな!」
啓助の身体へ剔り込むのとは違う、甲(かん)高い金属音を立てて、麗華は床に着地した。
そして麗華はある状況に不意を突かれた。
麗華の片手からは、2本の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』が消えている。
ゆっくりと立ち上がり、啓助に強気な笑顔を見せる麗華だったが、再び不意を突かれ表情が硬直した。
「ホント、しぶといわね、辻って……!」
麗華の視線が向く方向には、左手に氷の盾を持った啓助がある。
さらに麗華の視線をズームしてみると、啓助の氷の盾に麗華の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』があるではないか。
「しぶとさだけが自慢だってな!」
「ほう、やりますねー、啓助君も」
英治は意外な展開に歓声を上げる。
そして、乃恵琉も同様に、歓声の声を上げた。
「これは僕にも予想外でしたよ、父さん。にしても普段は足遅い人が逃げ足だけ早いように、啓助君は機動力が備わっているようですね」
しかし、性格なのか歓声を上げても、どことなくクールな雰囲気が乃恵琉を包んでいるような気がする。
「ハハハハ、面白いことを言いますね、乃恵琉。この勝負、差し詰め 念動の白鳥(サイキスワン)VS 氷の騎士(アイスナイト)と言ったところですかねー」
英治も父の威厳を見せんとしているのか、冗談で張り合っている。
そして、その光景を見て惠は思っていた。
「(本当は凄く仲良しなんだなぁ)」と。
啓助は、自慢げな顔をしてから、氷の盾に刺さった『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を抜き取り、麗華に向かって投げた。
一直線に投げられた『白鳥夢掻(しらとりむそう)』は麗華の手の中に戻り、ナイフとして光を輝かせる。
「返してくれるの?随分と優しいのね」
「勝負はフェアじゃないとな!」
啓助の一言に、2人は武器を構え直し、睨み合った。
まるでこれからが勝負だと言うように。
176
:
ライナー
:2011/10/08(土) 16:45:39 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
〜 作 者 通 信 〜
随分と久々な作者通信です^^;
最近はバトル一辺倒になってしまい、そろそろ読者のことも考えなければと焦っております。
とりあえず、啓助VS麗華が終わったらコメディー、恋愛路線を走っていこうかと(笑)
では、今回はキャラクターの個性について語りましょうか……
啓助の個性をストーリーを作る前に考えていたのですが、何かごく普通の少年になってしまいました……^^;逆にそれが個性になっていれば幸いなのですが。
照れ性の恵、大食いの洋(よう)と変化後の女好きな洋(ひろし)、秀才几帳面な乃恵琉、姉御肌(ツンデレ)な麗華。
笑顔のさわやかなで乃恵琉の父親英治、何かと軽々しい健二……などなど、個性を作るのは非情に大変です。
仲間でこんなに性格があると敵はさらに考えるのが大変です^^;
しかし、これからも新たな個性を見いだしたりして、読者様を楽しませていきたいので、宜しくお願いします!
あ、コメントも……(オイッ)
177
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 17:48:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせていただきます。
まずは一言。
麗華ちゃんカワユス((死
何か武器の名前とか技名とかカッコよすぎて、惚れちゃいました!
恵も可愛いと思うけど、やっぱり。
麗華ちゃんカワユs((
とりあえず、啓助VS麗華と、この話の後に入るらしい恋愛路線に期待しています!
頑張ってくださいね^^
178
:
ライナー
:2011/10/08(土) 22:15:00 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!!
な、何か凄い熱狂ぶりですね!ここまで受けが良いとは……麗華の魅力恐るべし(笑)
武器名ですか?結構竜野さんと似た感じの作りになっていたので、少々焦っていたのですが、気に入って貰えて良かったです。
恵も可愛いですよね、もちろん麗華も……^^;
この後の恋愛路線はただいま試行錯誤中です!
麗華ちゃんだそうかな(笑)
ではではwww
179
:
ライナー
:2011/10/08(土) 23:40:44 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
24、念動の白鳥(サイキスワン)VS氷の騎士(アイスナイト)
睨み合った状態で、麗華は{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の構えに入る。
「(………あ)」
この時啓助はあることに気付いた。
麗華には{白羽刈剔(しらはがいてつ)}、{白鳥飛術(しらとりひじゅつ)}という必殺技を持っている。しかし、啓助は今までに基礎体力作りや、剣術を1から学んだため必殺技を持ち合わせていない。
真正面から当たるのはかなり危険だ、そう考えた啓助だったが、2つの技はどちらも攻撃範囲が広く躱すことが出来な事が言えた。
「(クッ……体力的にも次を受けるのは痛いな、どうすれば……)」
考えている間にも、着々と麗華のパワーチャージは溜っていく。
「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
そしてついに技は解き放たれ、急接近した。
遣り場のない啓助は、氷の盾に冷気を込め麗華にそれを向ける。
それと同時に×状の白いラインは、氷の盾の中で光を多方に反射させた。
「(うぅっ……!!)」
光が反射することとは余所に、技の威力は盾を通じて啓助に襲いかかった。
足で踏ん張りを効かせ、左手には精一杯の冷気を盾に送っている。
冷気は盾を修復しようとするが、それよりも先に{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の威力が盾にヒビを入れて行く。
ヒビが入っていった氷の盾は、次第に全体にヒビが通り、形を砕かれていった。
「んじゃ、オシオキされて貰うわよ!」
氷の盾が完全に消え去ると、その衝撃で啓助は中に低く飛ばされる。
そして、啓助のほんの少しの隙を見逃さなかった麗華は、攻撃のため下に下ろした刃をアッパーするように追撃した。
さらに追撃された啓助は、顎(あご)を上げて高く宙を舞う。
「この試合の楽しみ様……僕達の目的忘れていますねー」
観客席では、英治が絶えない笑みを見せて言う。
「あ、でも良いんじゃないですか?利用されてるって感じたら、麗華怒って止めちゃいそうだし……」
恵は、啓助の無惨な姿から目をそらすように会話に参加する。
「そうですよ、こんなところで止められては困ります。僕が勝てば父さんは帰宅、父さんが勝てば引き延ばしという大切な試合なんですから」
啓助は頭から床に落ちると、口から吐血し、掠(かす)れた呻(うめ)き声を発した。
「……吐血しちゃったし、この試合、私が勝ちよね?審判判定は?」
「!!」
麗華の呼びかけに、健二は目を奪われた。一瞬で啓助をダウンに持ち込んだのだ、無理はない。
「どうやら僕の勝ちかなー」
英治は満足そうに言う。
「あ、ああ、あああぁぁぁぁ……あれ大丈夫なのかな!?」
恵は全身を振るわせて、半分涙目になっている。
「……母さんに何て言えばいいのか」
乃恵琉は目線を下に向け、悔しそうな叫び声を上げた。
「うーん、ここで食べるパンも美味しかったんだけど、ってあれ血じゃないよね?」
洋は吐血した姿に気付いていないのか、能天気な言葉を発している。
「ちょっと待って下さい、父さん。あの赤い液体……」
「待てよ、まだ終わっちゃいねぇ……」
啓助は剣を杖にしてゆっくりと立ち上がる。
「何言ってんのよ!吐血は流石にまずいに決まってんでしょーが!」
麗華は『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃を柄の部分に折りたたみ、遠回しな勝ちを宣言していた。
その宣言に啓助はフッと嘲(あざ)笑いを見せた。
「この赤い液体をよく見てみろ!」
手に付いた赤い液体を、審判の健二に見せる。
「こ、この赤い液体は……」
啓助がそう言い掛けると、道場内は一気に静まりかえった。
180
:
ライナー
:2011/10/09(日) 14:14:51 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「これは、試合前の朝飯に食ってきたオムライスのケチャップだ!」
確かによく見てみると、血というには少しドロドロした感じがある。
その瞬間、道場内は凍り付くように静まりかえった。
流石は『フリーズ』のアビリターと言うべきか。
「ケチャップだ!」
周りの静けさに、啓助は再度言い放つ。
「いや、聞こえてるわよ! って言うか試合前に何重たそうな食べ物食べて来てんのよ! それに汚いし!」
「それがさー、ユニオン入ってから一度もオムライス食ってなかったなーって思ったら急に食いたくなっちゃってさー」
「『急に食いたくなっちゃってさー』じゃないでしょーが!! どんだけ私のことなめて掛かってんのよ! てかもう拭きなさい!」
啓助は服の裾で適当に拭くと、健二に試合続行を志願した。
「あー、じゃ試合続行でー……」
「焦りましたよ全く……というか、むしろ負けて貰った方が清々(すがすが)しく終れた気がします」
乃恵琉が呆れ顔でため息を吐く。
「オムライスかー、ボクも食べに行こっと」
自前のパンを食べ終わったにも関わらず、洋は試合を余所に道場を出て行った。
「参りましたよ、全く……」
そして、再び乃恵琉はため息を吐いた。
「……まあ、いいわ。その方が倒し甲斐があるわよね」
麗華が、言葉を発する度に悪魔のような笑みを浮かべる。
啓助はこの瞬間、負けた方が良かったと垣間見た。
とにもかくにも試合は続行、麗華は『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握り直し戦闘態勢に入る。
「行くわよ!」
刃をナイフの柄から素早く出すと、麗華は啓助目掛けて『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃を薙ぎ払った。
啓助は、それを見越したかのようにバク転して攻撃を躱す。
「でっかい剣持ってるくせに、身軽なんだから……!」
麗華は『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刀身に念動を纏わせて、追撃を試みる。
しかし、啓助は剣を背中に刺した鞘に戻し、挑発をするように紙一重で躱していった。
「なるほどなるほど、啓助君も考えましたね」
英治は、いつもの笑顔と腕組みをしながら感心している。
乃恵琉は、英治の言葉を分かっているとでも言うように黙って試合に目を向けていた。
それとは裏腹に、恵は英治の顔を覗き込むようにしてクエスチョンマークを浮かべている。
「説明しましょうか?」
恵がぎこちなく「ハイ」と言うと、再び試合に目を向けながら説明しだした。
「彼が今使っているのは『怒車(どしゃ)の術』という実際に使われていた忍術を使っています。その効果は相手を挑発させ、冷静な判断力を失わせる物なんですよ」
恵は英治の説明で状況を理解し、感心していると、乃恵琉が今日何度目かの呆れ顔を見せて言う。
「まあ、啓助君は『怒車(どしゃ)の術』と分かって使っているとは思えませんがね」
翼撃のような連続攻撃を軽々と躱されると、麗華は急にその行動を止めた。
「どうした、もう諦めたか?」
啓助が声を掛けると、先程まで余裕を見せていたとは思えない息の荒い麗華がいる。
「フゥ……違うわよ。{白鳥飛術(しらとりひじゅつ)}!!」
麗華は体勢を立て直し、両手を大きく開くと、ナイフを翼のように羽ばたかせた。
飛び上がった麗華に啓助は剣を構え、視線をロックオンする。
水を空中で切るように、麗華は片手のナイフを下ろし急接近する。ここまでは前回見せてきた攻撃方法とは同じだ。
つまり、啓助は躱せないと判断し同じ方法で攻撃していると言うことだ。
「氷の盾を忘れちゃ困るぜ!」
啓助はやはり前回と同じように、左手に冷気を込めて氷の盾を作り出す。
そして、麗華の攻撃を見計らって氷の盾を『白鳥夢掻(しらとりむそう)』に突き出した。
その瞬間、氷の盾に触れた『白鳥夢掻(しらとりむそう)』は、低く強く響いた金属音を鳴らし、まるで砂山を崩すように砕いていく。
「何ッ!?」
咄嗟に『氷柱牙斬(つららげざん)』を構えた啓助は刀身に冷気を込め、柄の握りを強めて3本のナイフへとぶち当てた。
181
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ライナー
:2011/10/09(日) 18:28:05 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
互いにぶつかり合った武器は激しい金属の加音を響かせると、道場内に竜巻のような衝撃波を生み出した。
両者はそこで武器を離し、試合直前と同じ幅で距離を取る。
そして、両者は同時に武器を構え直した。
「ハァ……やるじゃねーか!」
「フゥ……当たり前でしょ、アンタより弱い奴なんて見たこともないわ!」
しかし2人ともすでに息は荒く、激しく肩を上下させている。
互いにその状況を確認すると、それと同時に同じ事を心の中で呟いた。
「「(最後の一撃で……決まる!)」」
「もう2人は体力が限界そうですねー」
英治は笑みを浮かべながら言う。
「そうですね、しかし啓助君はよく麗華にここまで戦えましたよ」
乃恵琉はここまで来て、少し弱気な言葉が出た。
「お、乃恵琉ギブアップさせますか?」
乃恵琉の言葉に英治は問い質(ただ)す。
「ここまで出来たんです、もう後には引けないこと、啓助君が是が非でも引かない事は父さんもご存じでしょう?」
両者は構えた武器にゆっくりとオーラを纏わせていた。
「(私をここまで追い詰めるなんて、辻の奴結構マシな修行したんだ。でも、今回も譲らせない!)」
麗華は交差させた6本の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を段々と白い念動に包んで行く。
「(……正直ここまで出来るとは思ってなかったが、これが最後ならやるしかない! 思いつきの必殺技をなめんなよ!)」
一方、啓助は剣の切っ先を前に出した構えで刀身全体に冷気を込めた。
「2人とも怪我しなければいいけど……」
恵は試合を見つめながら握りしめた手を振るわせている。
「関原さん、これは真剣勝負ですから……多少の怪我はあると思いますよ」
乃恵琉は何か言いづらそうに言葉を放った。
この場で「もしかしたら大けがをし兼(か)ねない」なんて言えないからだ。
にしても、洋は未(いま)だにオムライスを食べに行ってから返ってきていない。
両者の持つ光り輝く武器は、互いを「試合終了」に持ち込ませるような鋭さがあった。
そして、2人はアイコンタクトを交わすと同時に足を踏み出した。
「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
麗華の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』は6本全てが強い白光に包まれ、白鳥のような翼を再び現し、啓助に接近して行く。
「{凍突冷波(とうとつりょうは)}!!」
一方、啓助の持つ『氷柱牙斬(つららげざん)』には纏われるだけの冷気が纏わり、月のような青白い光が放たれる。
互いの刃と刃がぶつかり合い、激しい金属音と念動と冷気による吃音が響き渡った。
過ぎ去るように攻撃し合い冷気と念動は、互いを弾き合い道場内を光で包んだ。
道場内を包む光が少しずつ消えていくと、2人は距離を取って背を向けている。
ここからが問題だ。必殺技をぶつけ合ったは良いが、その威力に耐え相手を倒したのはどちらか一方になるのだから。
道場の観客席では、見ている者全てが緊張感で息を呑む。
そして、その静けさが漂った後、床に膝を突く音が鳴った。
182
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ライナー
:2011/10/10(月) 16:51:25 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
膝を突く音の後には身体が倒れる音が響く。
そして、決着が付いた。
勝ったのは―――
「う、ウィナー水野麗華!」
健二の判定が道場内に響き渡る。
その瞬間、観客席からは麗華を称(たた)える歓声がドッと沸き上がった。
倒れたのは、啓助だったのだ。
「あ、啓助君、負けちゃった……」
恵は悲しそうに呟く。しかし、一番悲しいのは乃恵琉だろう。拳をグッと強く握り、唇を噛み締めている。
「………」
乃恵琉は暫く沈黙し、啓助の倒れた姿を見て呆れたようなため息をまた一つ吐いた。
そのため息は、試合中の啓助を貶(けな)すようなため息ではなく、笑みが溢れているため息だった。
「乃恵琉君、僕の勝ちのようですね」
英治は満足そうな笑み浮かべて、乃恵琉に言う。
「ええ、完敗ですよ、父さん」
そう言う乃恵琉の表情に、勝負に負けた『悔しさ』はどこにも現れていなかった。
一言父親と言葉を交わした乃恵琉は、ベルトから黄色い球を取り出し、『ナチュラルランス』へと変化させる。
そして、『ナチュラルランス』の3本の巨大な槍先で啓助の服の襟(えり)を掴み、啓助ごと『ナチュラルランス』を肩に担いだ。そのぞんざいな扱い方は、試合の最後までもスパルタだった。
「では、敗者は去るとしますか」
ゆっくりと道場の外へ足を歩ませる乃恵琉を見て、英治は呼び止める。
「待って下さい、乃恵琉君」
麗華への歓声が響く道場内で、英治の言葉は掻き消されたが、乃恵琉はそれを聞き取ったのか立ち止まった。
立ち止まった乃恵琉に英治は近付くと、その真後ろで呟く。
「僕は、明日帰宅します」
「……!!」
あまりの衝撃的な言葉に、乃恵琉は素早く振り向いた。
「な、何故……」
「本当は明日帰ることになっていたのです。しかし、家はフランスですからね。暫く乃恵琉君にも会えなくなりますし、それに……」
そう言いかけて、英治は初めて乃恵琉に笑み以外の真剣な表情を見せた。
「息子の実力、成長を親として確かめたかったんです」
「!」
「今回のことは、アンドレにも仕掛け人になって貰いました。お母さんの迫真の演技はどうでしたか、乃恵琉?」
「か、母さんが仕掛け人ですって!?」
乃恵琉は自分の母、アンドレまでもが仕掛け人だと知ると、乃恵琉には珍しくフニャッとした気の抜けた表情を浮かべた。
「そして、このことは水野さん達には秘密ですよ。もちろん啓助君も」
言葉を失った乃恵琉に、英治は続けて言う。
「本当に良かったですよー、乃恵琉君。これで安心して帰れます。こんな親のためにここまで成長してくれるなんて、僕の自慢の息子ですよ」
「家族と積極的に向き合わない人間に言われても嬉しくありませんよ。それに僕はあなたの息子なんかという格付けされた人間ではなく、1人の人間。自立が早かった1人の人間です」
乃恵琉は体の向きを道場の外に向け、足を歩ませた。
そして、英治はその姿を見送りながら、心の中で言う。
「(はいはい、分かってますよ。一人の人間、乃恵琉君)」
家族という者は、離れていても関係は壊れない、そしていつでも通じ合える機会がある。乃恵琉の辞書にまた1つ、新たな項目が埋まっていった。
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