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Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜
1
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/06(日) 23:06:24 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
初めまして、霧月 蓮(ムヅキ レン)と申します。ここでは始めて小説を書かせていただきます。
更新は非常に亀で、誤字脱字も非常に多いですが、生暖かい目で見てくださると助かります。
出来るだけ遠まわしに表現するように致しますが、グロイ表現が多々あります。それでも大丈夫、と言う方はどうぞよろしくお願いいたしますね。
アドバイス、感想等があれば喜んで。
一応、学園、ファンタジー、歪み、と言った感じの者が中心となっています。特殊能力が出てきたり、魔法使い吸血鬼が出てきたりと、多分滅茶苦茶です
非常に駄文で、まとまりのない文章ではありますが……。
2
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/07(月) 20:12:18 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
序章 闇(ブイオ)と光(ルーチェ)の人々
しん、と静まり返った校舎の廊下には規則的な足音だけが響いている。ここだけを切り抜くとなんとも階段に良くありそうなシチュエーションではあるが、廊下を歩いている人物……すなわち足音の主である少年は脅える素振りを見せるどころか自分の周りにすら興味を示していなかった。この少年、秋月 湊(アキヅキ ミナト)は、肩より二、三センチメートルほど長い白金の髪に深い青の瞳の持ち主である。ハーフのような顔立ちをしていて、肌の色はと言えば妙に白く病弱なイメージを受けるものだ。さらに言ってしまえば男子にしては細身で、少し力を入れただけで壊れてしまいそうなそんな脆く儚い印象を受けた。
彼が身に纏っているのは、真っ白なブレザーで、襟や裾に黒いラインの入ったものだ。そのブレザーのボタンは全て開けられていて、下に着ているYシャツと青いネクタイが見えていた。この程度の格好が一番楽だと湊本人は思っているのだが、ブレザーの丈が少々長めなため歩くたびにユラユラと揺れてみているほうとしては非常に鬱陶しく感じる。そんな湊の胸に輝く金の六芒星のバッチには“光高等部生徒会会長”と刻まれていて湊のこの学園での地位の高さを主張し続けていた。
しかし、現在の時刻は十一時三十分……生徒が見回りをするには少々どころかかなり遅い時間である。普通の一般生徒ならば今頃宿題に追われたり、眠りについていたりと思い思いに過ごしているころだろうか。しかしこの学園……聖鈴学園(セイレイガクエン)は違う。この学園は闇(ブイオ)の生徒と光(ルーチェ)の生徒の二つの大きなグループで構成され、その二つの争いが絶えることはほとんど無いのだ。
「……遅れました。現在の状況は?」
港が向かっていたのは、光高等部生徒会室というプレートのかかった教室で、中では二人の少年と、一人の少女がモニターと睨めっこをしていた。。その中の、肩より二、三センチメートルほど短い栗色の髪に、金の瞳の少年……三宮 優希(サンノミヤ ユウキ)が振り向いて少々文句ありげな表情をした後、ため息をつく。そして「相手の方は三人小鳥遊(タカナシ)三兄妹です。あれが出てきたとなると少々僕らが不利ですね。襲われている生徒は高度の自己治癒能力を所有しているため、どうにか持ちこたえています」と説明した。
3
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/07(月) 20:48:18 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
湊は小さくため息をついた後「またあの兄妹ですか……仕方ないですね。僕が出ましょう」と言う。それを聞いたその場にいた三人は思わず自分の耳を疑う湊はこの学園無いでもぶっちぎってトップを争う平和主義者の二人のうちの一人であり、本気で戦うところ、さらに言ってしまえば他人相手に怒っているなんていうことを目撃したものはいないのである。まぁ、この学園の生徒会は、能力、および力の強さ、頭脳、身体能力などで決められるため、会長である湊はトップクラスの力を持っていると考えて間違えはないだろう。
「戦う、ですか?」
恐る恐る、というような感じで、太股のあたりのまでの長さの黒髪に、所々銀色のメッシュを入れている、薄水色の瞳の少女、月見里 羽音(ヤマナシ ハオト)が問いかけた。それを聞いて少し首を傾げた後、小さく頷いた湊は「防ぐだけでも十分戦意を喪失させることは可能ですよ。もっとも時間が掛かりそうですが、問題はないでしょう。要は襲われている生徒の回復を完了させて逃がせば言いのですから」と静かな声で言う。僅かに浮かべた笑みは、自信の表れというよりは悲しげな笑みであった……。
そんな頃、モニターに映し出されていた部屋では二人の少女が机に座り、ただただ少年が刀を振るうのを眺めている。標的にされているのは湊と同じデザインの制服をきちんと着ている少年であった。しかしその制服は、血で紅く染まってしまっているうえに、あちこちが切り刻まれてしまっていて、かろうじてデザインが分かると言うような感じになってしまっている。逆に刀を振るっている白銀の髪、右が薄紫、左が水色の瞳に真っ黒なブレザーで襟と裾に白いラインの入った制服を身にまとった少年、小鳥遊 刹(タカナシ セツ)は全くといっていいほど傷ついておらず、返り血で制服とその髪の一部を紅く染めている程度だった。
「あ……あぁ……」
虚ろな目をして刹を見つめ必死に後ろへと逃げようとしている少年は斬り付けられては、傷が塞がれなんていうような堂々巡りを繰り返して疲れ果ててしまっている。自己治癒能力だなんて非常に便利なようにも感じるが、斬りつけられた瞬間の痛みをなくすことは出来ないし、簡単に死ぬことは出来ないし……もしかするとただ単に苦痛を与え続けるだけのものなのかもしれない。回復するだけで反撃は結局自分の力で行わなければいけない。攻撃には向かない能力なのだ。
フッと机に座っていた少女の内、太股の辺りまでの白銀の髪、右が薄紫、左が水色の瞳に、黒のケープ調の上着に真っ白なリボン、真っ白なラインの入ったものに、濃い灰色のワンピース、かかとの高い白のブーツを履いている少女、小鳥遊 紅零(タカナシ クレイ)が立ち上がって、ドアを見つめる。そんな彼女の胸元には銀の六芒星のバッチが輝いていてそれには“闇中等部生徒会会長”と刻まれている。
「さぁ……出来損ないの光の会長の登場だ……」
4
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/08(火) 19:14:26 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
ダンッと少々乱暴な音を立てて教室のドアが開く。入ってきたのはすっかり息を切らして肩で息をしている湊。しかしその目だけは鋭く刹や、紅零を捉えて揺らがない。しかし机に座っているもう一人の少女には注意が行っていない様だ。逆に机に座っているもう一人の少女、踝までの白銀の髪を黒いリボンでツインテールにしていて、紅零と全く同じ制服を身に纏った、薄紫の瞳の少女、小鳥遊 月華(タカナシ ゲッカ)はスチャッと机から降りて興味ありげに紅零の横に並ぶ。ちなみに身長は非常に小さく紅零と並んで立つと完全に妹のように見えてしまう。しかしその胸には“闇高等部生徒会会長”と刻まれた銀の六芒星のバッチがつけられているため、高等部の人間であり、紅零の姉であることを示している。もっとも飛び級制度がない学園だからこそこう断言できるのであるだけなのだが。
「久方振りですね……紅零さん、刹さん」
静かな、それでいて威圧感の漂う声で湊は言う。それを聞いた月華は両手をバタバタさせて「ボクの方は無視かよぅ!?」なんて非常に子供っぽい声を上げた。それを聞いて僅かに表情を緩め「貴方は全く変わっていないようで。お久しぶりです月華さん」と軽く頭を下げる。だからと言って威圧感が消えたというわけでもない。単純に言えば表情が緩んだだけでその他は呼吸が安定した以外何の変化もない。
刹が刀を振るう手を一度止めて、不思議なものでも見るように湊に目を向ける。その姿は月明かりに照らされた……悪魔。やれやれ、と小さく声を漏らした後「こんなことを言っても無駄かと思いますが……こんな無駄なこともうやめませんか?」と問いかける。刹は無言で首を傾げた後、紅零のほうを見た。紅零は嗤う。静かに嗤う……。
「あら……やはり出来損ないは出来損ないね? 復讐を諦めた愚者なんてそんなものかしら?」
巻き起こるのは嘲笑。静かに目を閉じて息を吸い込んだ後「はてさて……こんなことをしても“あの人たち”が戻ってくる訳ではないのに、復讐と称して殺意を他者に向ける……一体どちらが愚かでしょうかね。勿論僕も愚かである事は認めますが」と言い放つ。ギリッと歯軋りをした後、刹になにやら指示を出す紅零。嗚呼……どうやら平和的には終わらないようだ、そんな風に考えて僅かに悲しそうな表情をする湊。もっともそんなこと無意味なのは分かっているのだが。
静かな光が刹の手に舞い降りたかと思えば、その光は一瞬にして弓矢へと姿を変える。……創作能力、自分の思い浮かべたものを作り上げる特殊な能力の一つである。高度なものになればなるほど作り上げることのできるものは緻密で、より美しいものを一度に複数個作り上げることが出来るようになる。しかし元々、その場にはないものを作り出すので必ずそのものは三十分の間に形を崩してしまうなんていう不便な点も多々ある。所詮能力なんてそんなものなのだ。メリットがある分それに見合ったデメリットが必ずある。それが身体的な面か、精神的な面かは問わずに、だ。
「……戦うつもりはないのですが?」
そんなことを言ったところで刹は問答無用で弓矢を放つだろう。そう想像してすっかりため息をつくことぐらいしか出来なくなってしまう湊。案の定、だ。刹は優しげなそれでいて悪魔のような笑みを浮かべて弓を放つ。それに大人しく当たるか、と問われれば流石に否な訳で、とりあえず湊はヒラリと矢を避けることにする。能力を使えば早いのではあるのだが、湊の力はある条件が揃わないと使えないのだ。それ故に湊が能力を使うことは非常に少ない。まぁ結局ピンチに陥ったときはかなり強引にでも条件を揃えたりもするわけなのだが。
5
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/09(水) 20:38:05 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
ヒラリ、と一片の花弁が舞った。湊の手から不可思議な蔓が伸びて刹の手足を絡めとり、動きを封じ込める。条件が揃っていない状態で使える最小限の能力……先ほど条件が揃わないと能力は使えないと言ったばかりだったか。では訂正しよう。湊の能力は四つありそのうちの二つは条件が揃わないと使えない謎の能力、後の二つは植物を自在に操る植物操作と幻術などを見せ正常な視覚情報を奪う、視覚掌握である。二つの能力とも非常に高度なものであり、それ故に湊のことを悪魔と呼ぶものも多い。もっとも湊がこのような能力を使うのはあくまで防衛のためであり、攻撃のためではないのだが。
静かに紅零が手を動かす。一瞬にして蔓があっけなく朽ち果ててしまう。それを見てクククッと不気味な笑みを浮かべた後「忘れたのかしら? 俺の一つの能力、能力掌握の力を」と静かに告げる。能力掌握……他者の能力を一時的に奪い取り、自分のものにしてしまう能力である。勿論奪い取るといっても、劣化版複製に近いものであり、元の能力よりは劣る能力になることが多い。その辺はあくまで能力の持ち主の体調と気分によって変動するものであってなんとも言えないところがあったりもするのだが。
弓を刀へと変え、スイッと湊の首筋に鈍く光る刃を当て「所詮はそういうことです……。貴方はいつまで経っても出来損ない」と刹が嗤う。フッと虚ろな目をしていた少年の横にも湊が姿を現して、少年に立つように指示をしていた。ヒュンッという風斬り音がして、刀が振り下ろされる。
「残念でした。本物はこっちです」
弱弱しくも自分の足で立ち上がった少年を庇いながら湊が静かに告げた。その瞳に宿る光は強い意思。相手に攻撃の意思を見せないことを誓いながらも、自分の後ろに隠した少年は守るという絶対的な意思の光。振り返った刹は無言で息を呑む。湊の目に宿った光は闇に墜ちた彼等にはあまりにも鋭すぎて……。
「っはは……クソが!! お前がいなければ全て何事も無かったように回っていた!!」
吐き捨てるように、あまりにも突然刹が叫んだ。突然すぎて話の繋がりが見えずに黙って首を傾げる月華。紅零は腕を組み、刹の後ろから、湊を睨みつけている。刹と、紅零……どちらの目にも宿っているのは闇……。信じることを忘れ。疑うことしか出来なくなった悲しき闇……。そんな闇が湊には暗すぎて……。
ギュッときつく拳を握って湊は叫ぶ。「ええ。全ては僕のせいです。だから恨むのなら僕を恨め!! 関係のない人に刃を向けるな!!」と。小さく肩を揺らしながら、刀を銃に変える刹。引き金を引こうとする刹を制そうとする紅零……。撃たれてしまわぬ内に、少年を逃がそうと窓を植物で叩き割り、抱きかかえるような形で飛び出す湊。ユラリユラリと湊に近づく刹。
嗚呼……無情にも悪魔の弾丸が放たれる。パン、という人を殺すにしては間抜な音と同時に、窓から飛び出して少年を突き飛ばした湊の肩から鮮やかな紅が噴出す。
肩を押さえそれでも植物を操作して少年を地面に叩きつけられないようにする。自分よりも他人……それが秋月湊という少年の生き方なのである……。
NEXT Story〜第一章 光(ルーチェ)の人々〜
6
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/09(水) 21:24:40 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
第一章 光(ルーチェ)の人々
小鳥の声が聞こえてくる。ゆっくりと瞳を開いた湊の視界に入ったのは優希の姿であった。湊の肩に手を乗せたまま静かに目を閉じている。何時間もそうしていたのだろう、頬には妙な汗が伝っている。服装は湊や襲われていた少年と全く同じ制服で胸には湊同様金の六芒星のバッチ。それにはやはり“光高等部生徒会副会長”と生徒会での彼の地位を現す文字が刻まれていた。窓でも開けているのだろうか、時々吹いてくる風が頬をなでるのが酷く心地よかった。
「三宮、さん?」
すっかり掠れた声で湊が言えば、キリッとしたつり目がゆっくりと開いて湊を見つめる。優希は静かに笑った後「会長、無断欠席三日、僕の残業分、たっぷり働いてもらいますから」と告げる。やれやれ、もう少し可愛らしい言葉は掛けられないものか、と文句を言ってやろうとも思ったが恐らく優希が寝ずに自分に治癒能力を向けてくれたのだろうと考え、苦笑いだけで返すことにする。ひそかにこの人は怒らせると後が怖いし、なんていう風に考えているのは間違っても優希に知られてはいけない。
小さく息を吐き「三日ですか……随分長い間気を失っていたようですね」なんていう風に呟いて、ゆっくりと体を起す湊。身に纏っている制服には紅がすっかりこびりついて落ちそうにもない。これはまた制服を新調しなくてはならないか、とため息をつく。優希は無表情とも、心配そうとも取れるような表情で「窓から飛び降りるなんてことは止めていただきたい。僕が飛び出してなかったら死んでましたよ? アンタ」なんていう風に冷たい言葉を吐く。やはり毒舌だな、と湊は頬を掻き力の抜けきった自らの体に鞭を打ち立ち上がる。
静かにドアが開き入ってきたのは湊が助けた、少年である。少年は肩より三センチメートルほど短い黒髪に、灰色の瞳、なんて言う平凡な容姿。雰囲気はいたって真面目そうであり、模範生、といったところであろうか? もっとも手に持っている黒魔術入門なんていう本を除いての話だが。
「先日は有難う。僕、高等部一年C組、黒羽 翆(クロハ スイ)……。回復能力を所有しています」
静かに少年、黒羽 翆が名を告げ、自らの能力を明かす。そんなことをしなくても湊と優希は生徒会の人間なので殆どの生徒の能力などは把握しているのだが。まぁ礼儀正しいということにしておくか、と湊はため息をついた。翆は続ける。静かな、それでもどこか、いや心底残念そうな声で「何故、僕を助けた? 僕は死にたかった。あの人の元に行きたかった……」と。
思わず顔を見合わせる湊と優希。なんと言って良いか分からないというような表情をした湊を見て呆れたような表情をして、翆の頬を思いっきり引っ叩く優希。この行動には翆を初め、普段優希を見ている湊でさえ驚いた。
「消失願望ということか……。なんて愚かな。生きたくても生きられなかったやつが山ほどいるんだ。少々贅沢ではないか? 少なくともお前のいうあの人が俺なら、お前がとっとと死んで自分のもとに来ても欠片も嬉しく無いが? まぁその人自身ではないからなんとも言えないし、自分の言ってることが正しいとも思わないがな」
全くの無表情でそう告げた優希は心底不愉快そうに鼻で笑う。流石というかなんというか……なんていう感じで湊は苦笑いを浮かべ「人間なんて急がなくてもいずれ死ぬんです。不老不死でもない限り、ね」と言う。翆はすっかり俯いてしまって、あれこれと言葉を捜す。
「世の中つらいことなんて山ほどあります。それでもそれと同じくらいに楽しいこともあるものですよ」
静かにそう笑った後、ゆっくりと歩き出す湊。優希は翆を睨みつけた後、湊の後を追って歩き出す。静かに翆は口を動かす「それは貴方達が強いから言える言葉なんだ」と……。
7
:
霧月蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/10(木) 21:53:24 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
生徒会室に戻った湊を待っていたのは、生徒会役員からの説教の嵐である。心配させんな、だとか勝手な行動をとるなだとか、窓を割るんじゃねぇ、また部活が問題起したぞ、どうすんだこの野郎とか、なんだか関係ないことも数個混ざっていたがひとまず気にしないことにしよう、そうしないとやっていけないと湊はため息をつく。ちなみにこの学園の生徒会は、会長一人、副会長一人、書記一人、会計一人、会長推薦の情報処理が一人の五人で構成されている。まぁ能力がトップクラスの連中の集まりなので、ある意味人間兵器が手を結んでいる非常に危険な状態だと捉える生徒も多い。
自分の席の前に高々と積み上げられた書類を見て呆れたような表情をして「誰ですか、こんな嫌がらせチックなことするのは」と呟く。そうすればその場にいた生徒会役員がいっせいに優希を指差した。それでもその中の一人、光高等部生徒会会計というバッジをつけたオレンジがかった茶髪に、透き通った青の瞳の少年、暁 風雅(アカツキ フウガ)は笑いながら「でも、全部目を当して分けてあるんだぜ。付箋で区切ってる。優ちゃんが倒れてる人に仕事を押し付けるのは可愛そうだ、って言って必死に片付けてたんだぜ?」なんていう風にさりげない報告。羽音もくすくすと笑って風雅の言葉に頷いていた。
「おや、相変らずなようで」
クスリというべきか、ニヤリというべきか……とにかく良く分からない笑みを浮かべて、優希に顔を向ける湊。優希は慌てたように顔を逸らし「ち、違う。お前に仕事を押し付けると倍返しにされそうで嫌なだけだ」と若干必死に言う。まぁそれはただただ怪しいだけで、羽音が静かに笑って「やっぱり素直じゃないです」と指摘してしまえば、何もいえなくなってしまうだけだった。ちなみに羽音は白のケープ調の上着に真っ黒なリボン、真っ黒なラインの入ったものに、薄い水色のワンピース、かかとの高い黒のブーツなんていう格好でやはり胸には生徒会の証であるバッチが輝いている。
一名女顔がいるとはいえ男ばかりの中に女子、なんて言うのもなんと言うか悲しいものがあるが、羽音自信は別に気にしてもいなかった。と、いうか風雅に気にしないでやんないと潰れるぜ? いろんな意味でと言われたこと、さらに力で選ばれたのだから性別など関係ないなんて言う優希の言葉を聞いて、大分時間は掛かったものの、ごく自然に生徒会に溶け込み始めている。もっとも風雅と優希が時々始める大喧嘩にはいまだ慣れずにいるが。
光だ、闇だなんて正直言って羽音には良く分からないものだったりもする。羽音は高等部からこの学園に入ったためあまりその辺の事情には詳しくないのだ。それに光も、闇もどちらも双方のグループが顔を合わせない限りは、普通の学生と何も変わらない。確かに闇のほうは不良のような連中が多いが、高がそんなことだ。闇だけのグループでいる限りは非常に温厚な生徒が多い。それが光と顔を合わせるだけで妙に攻撃的になる……それが羽音には理解できない。理解したくないというのが正しいかもしれないな、と考えて羽音は静かに笑みを浮かべる。
「まぁ会長復帰ってことでひと安心だろ。天使の羽音ちゃん」
語尾に星やらがついても可笑しくないぐらい明るい声で風雅が言う。羽音は苦笑いを浮べて頷いて「そうですね。会長はお強いですし、風雅さんの大暴走を止めてくださいますですから」小さく頷いてそういう羽音。天使なんて言う呼び名は彼女の能力ゆえであり、羽音自身もう否定するのも面倒になってきているので自然と定着してしまったものである。まぁ呼び名の原因となっている羽音の能力についてはまた後ほど話すことにしよう。
羽音の言葉を聞いて、僅かにショックを受けながらも頬を掻き「仕事の効率も上がるしな」と風雅は笑う。そんな風雅に対し優希は「……アンタは無駄な仕事を増やすだけでしょう?」とつめたい言葉を吐く。どうやら風雅は生徒会の中では珍しいくらいのお調子ものであり、余計な仕事ばかり増やしているらしい。それでも会話に参加できるだけ認められてはいる、と考えたい。
8
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/12(土) 23:26:37 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
「で、会長。部活動の問題の件はどうすんの? 結構苦情は言ってるから何らかの罰は必要だと思うけど?」
何気なく、風雅が言った言葉で、その場の空気が変わる。普段はふざけていても結局のところは生徒会。根は真面目な人間ばかりが集まっている。静かに優希が息を吐き「病み上がりにこの話題はどうかと思うが……対応を先延ばしにするわけにもいかないしな」と呟いて自分の席に座る。それを合図にして、全員が自分に与えられている席に座っていく。ただ一つ開いているのは、会長推薦の情報処理の席だけ。空席なのか休んでいるだけなのか、それは良く分からないが生徒会役員全員が気に留めていないようである。
重い表情でため息をついて「何でしたっけ? 野球部が他の学校の部活に危害を加えたんでしたっけ?」と湊が言う。小さく羽音が頷き「はいです。制服デザインは光のものです。一番酷い人で全治一ヶ月だそうですよ。もっとも名前が上がっているせいとはごく一部です」と言う。風雅は頬杖を突いてあれこれ思考をめぐらせているようで何も言いはしなかった。優希は静かにため息をついて、呆れたような表情を浮かべている。
「困ったものですね。闇じゃあるまいし、こんな問題を起すなんて……」
小さく呟いた言葉に風雅は「つっても闇も光を攻撃して殺したりするだけで外では普通だろ」なんて言う風に言う。あはは、と乾いた笑みを浮かべて少々困ったように視線を泳がせる湊。本来なら教師に任せたいところではあるが、生徒会からの案を審議して訂正を加えたりするだけだったりもするので、結局のところ生徒会である湊たちが決断を下さないといけないのだ。
羽音が小さな声で「厳重注意、では甘すぎますですね……やはり部活停止ですか?」なんて言う風に呟いている。湊のほうは少々メモを見ながら悩み顔。風雅なんて思考をめぐらせるのを諦めたのか、机に突っ伏して文句をいい始めている。それを睨む監視役的存在もいたりはするのだが、気にはならないらしい。
_____________________
区切りますね。あまり思いつかない……((
9
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/03/16(水) 19:58:33 HOST:i114-180-240-196.s04.a001.ap.plala.or.jp
「この際仕方ないでしょう。甘い処分を下して、調子に乗られるのも困りますし……部活動停止、と言ったところでどうでしょう? 廃部はやりすぎな気がしますし」
ため息をついて静かな声で湊が告げる。優希なんかはいかにも不服そうに「この誇り高き聖鈴学園の恥さらし者になんて甘い……」と呟いている。それでも湊に問いかけられれば反対だ、とは言わないのは湊には逆らえないのか、反対する気もないのか……その辺は良く分からないがとりあえず賛成してくれるようである。羽音は小さく笑って頷き、風雅も親指を立てて大賛成。と、いうか風雅の場合は話し合いに飽きてきただけだったりするので、処分がどうなろうが賛成していただろう。
疲れたように肩の力を抜き、羽音がテーブルの上に置いてくれたコーヒーを啜る。時間にして約三十分弱。もっとも殆どが黙り込んでいた時間なため、実際に言葉を発していたのは十分程度であろうか? そんな短い時間ではあったものの、三日間眠っていた湊からすれば酷く疲れると言うか、面倒なものだった。風雅が真面目にやらないのも原因かもな、と考えて湊は深くため息をつく。優希は優希ですぐに風雅に突っかかるし、そのたびに羽音はおろおろ、仲裁に入るのも結構疲れてしまう。
「まぁ、あれだよな。楓(カエデ)のやつ怪我してから大分仕事効率が落ちたよなぁ」
突然、何の前触れもなしに風雅が言う。優希は不愉快そうに顔を顰めて「お前が手を抜くからだろ? 少なくても会長は必死だ。ドジだが」と言う。ドジと言われて凄い勢いで顔を上げるのだが、事実なため文句が言えずにしょぼん、とするだけの湊。なんともだらしがないものである。羽音なんかは苦笑いを浮べて、一人一人に紅茶を淹れている。湊だけがコーヒーを飲んでいるが羽音にとってその辺は気にならないようである。むしろ湊がコーヒーにしてくれとか、自分が言ったものと別なものを頼むと嬉しそうに笑うから、結局のところ世話好きなだけかもしれない。
「そう言えば黒須(クロス)の馬鹿はどうなったんですか? あいつの方がはるかに風雅より使えたのに」
そんな風に優希が問いかければ、湊の表情に僅かな影が宿る。それを見た優希はああ、聞いてはいけないことを聞いてしまったな、と後悔する。しばらくの沈黙の後、おずおずと口を開いて、湊は「黒須さんは……墜ちてしまいましたよ。風雅さんが生徒会に入る三週間ほど前でしょうか」と告げる。墜ちるとは光の生徒が闇へと移動することを指し、あまりよくは思われてはいない行為である。多くの場合は裏切り者として扱われるわ、闇のほうにも元光の生徒として信用されないわで、あまり心地よい思いをするようなものではない。
どよん、としたとでも言うのだろうか? 思い雰囲気が四人を取り巻く。普段はふざけている風雅だって仲間意識は強く、同じ所属の生徒は当たり前、時には闇の生徒まで救ってしまう人間である。普段は喧嘩ばかりだが、何だかんだ言って優希がピンチになれば即座に駆けつけるであろう。そんな人間。羽音だって仲間のためならば力を使うことは躊躇わない。もっとも、光の生徒としては人殺しなんてやりたくないのは誰だって一緒である。普段は毒舌な優希だって、目の前で同じ所属の生徒が殺されたりすれば弱音を吐くのだ。
湊は典型的な光、のタイプであり、相手が怪我をしていればそれがたとえ敵だろうがなんだろうが力を貸してしまうような人間。それ故に沢山の場面で裏切られもするし、そんな性格を利用されて深い傷を負ったりもする。肉体的にも精神的にも、である。それでも湊が正気でいられるのは意志の強さなのか、それとも何か裏があるのか……それは誰にも分からない。それでも支えようとする人間は沢山いるし、慕ってくれる人間も沢山いる。それ故に湊もそれらの人に心配を掛けまいと笑っていることが多かった。
「すみません……ああ! もう見回りの時間ですね。俺は今日は……一階ですか。風雅は三階、会長と羽音は二階ですね」
慌てて、話を逸らすように優希が言う。湊は薄く笑みを浮かべて小さく頷いている。羽音もどこか安心したように息を吐いて笑っていた。風雅なんかは沈黙の間に流した汗を苦笑いを浮べながら拭っているのだった。
10
:
雪音レイ/秋月葉月/刹那/秋空湊/奏/レン/打ち止め
◆REN/KP3zUk
:2011/04/02(土) 17:50:39 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
各自が生徒会室を出て自分の持ち場へと走る。少々逃げるような感じもしたが湊は全く気に留めていないようだ。正直、闇墜ちの話が出るたびにこんな感じなので慣れてしまっている。横でビクビクと震える羽音に向かって薄い微笑を向けて「二階は初等部の教室がありますね。僕の弟と、腹違いの妹がいるんですよ」なんて言う風に湊は優しく声を掛ける。僅かに顔を挙げ湊を見つめ、羽音は首を傾げる。その身長差、約二十センチメートル。上目遣いで自分を見てくる羽音に正直ドキッとするが身長差のせいだ、落ち着け自分なんて言う風に自分に言い聞かせている湊。
羽音は、いつの間にか闇墜ちの話をすっかり頭から追い出し、初等部生徒会のここが可愛い、だとかここが駄目だなんて言う風に熱弁を始める。湊も楽しげに話す羽音の話を聞いてクスクスと笑みを漏らしていた。羽音は小さい子が大好きなので初等部生徒会のメンバーや、その他初等部の大勢がお気に入りだったりする。湊も年下が好きだし(決して恋愛感情ではない)、以外かもしれないが優希もそうだ。そう考えると子供好きが集まったものだな、これはいい親になるかもしれない、なんて言ううふうにすっかり思考を話とは全く関係ないほうに脱線させている自分に、湊は苦笑いを浮べる。
そんな二人が二階にたどり着けば、まだ校舎に残っている初等部の生徒達は、楽しそうに談笑を繰り広げたり、廊下で鬼ごっこをして楽しんでいるようだ。そんな元気な初等部生徒の中にも、きゃあきゃあ声を上げて談笑しているタイプと、今日のテストはどうだった、あれはもっとこうするべきだなんて言う風に冷静に話しているグループがあったりする。それを見た湊は小さく頷いて個性的でよろしい、と考えたりしていた。羽音は微笑ましい光景でも見るかのように終始ニコニコ。そんな二人が通りかかれば殆どの生徒が黙って頭を下げる。そこに浮かんでいるのは羨望と、畏怖の念だった。
二人が高等部の生徒会メンバーだからか、それとも単純に先輩にあこがれているのか、それは良く分からないがまぁこの学校の風習のようになってしまっているので湊も困っていた。頭を下げなくてもいいと言っても聞いてくれない生徒が多いのだ。
「ルチ兄めーっけ!! 光の子が襲われてるの。ボクと涼(リョウ)だけじゃ手に負えないから手伝って!!」
突然現れて、一気にまくし立てるように言う夏夜 憐(ナツヨ レン)は太股のあたりまでの長さの濃紺の髪に右が赤、左が青のオッドアイの少女である。真っ白で黒いラインの入った上着に赤いリボンタイ、上着の下には真っ白なワンピースを着ている。おしゃれには気を使っているのか、頭には白いリボンのカチューシャ、首にはアクアマリンと、サファイアの埋め込まれた雪の結晶のネックレスをつけていた。ネックレスの方は校則違反にもなりそうだったが、能力制御用のものなのでぎりぎりセーフだったりもする。そんな彼女の胸にも初等部生徒会と刻まれた湊と同じデザインのバッチ。
緩んでいた表情を一瞬にして厳しいものへと変え、憐の横にいた肩位までのプラチナブロンドに深い青の瞳の少年、秋月 涼(アキヅキ リョウ)に視線を移す湊。涼は憐と同じ上着に赤いネクタイ、その下にワイシャツを着て、ズボンはハーフパンツを穿いている。その胸には初等部生徒会副会長と刻まれたバッチ。憐とは違って視線をあちこちに泳がせ落ち着きがない。それを見た湊はやれやれ、とため息をついた後、憐を急かし走り始める。周りの何も知らない生徒はキョトンとして首をかしげていたが今は相手にする暇などない。
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ここで光の主要キャラが一名以外揃いました((
11
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/02(土) 18:15:00 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
「涼君、状況の説明をお願いしますです」
憐の横を少しだけ浮いて滑るように移動する涼に羽音が言う。涼はすっと体の向きを羽音と湊に向けて小さく頷いた後「襲われているのは初等部の生徒で、吸血鬼の一族の子と無能力者のグループですね。闇もグループですし、憐さんの言霊を通さないやつがいて……」涙目になりながら一気に説明する。言霊というのは言ったことを実際に起こす能力のことであり、「この人形は僕の思い通りに動く」といえば実際に人形を思い通りに動かすことが出来たりするものである。しかし直接言霊を使い人の命にかかわるようなことは出来ない。さらに憐のタイプは言霊を使用する場合「我が言葉は真実の言葉」と言うフレーズが一番前につけなくてはならず少々面倒だったりする。
湊は黙って思考とめぐらせながら走る。言霊を通さない力といえば高度な魔法か、能力拒絶の系統の能力者だ。他には上位生物を召喚出来る者……そうなると少々厄介かもしれない、そう考えて深くため息をつく。下手をすれば自分や羽音でも太刀打ちできないかもしれないそう考えて少しだけ憂鬱になったりもする。そもそも言霊が通じないとなると湊の切り札さえ通じない可能性もあるのだから。少しだけ顔を上げて「涼、ここで能力を使って移動するのはやめなさいな。後々足手まといになられては困ります」冷たく、涼に向かって湊は言う。涼も小さくうなづいた後はむかいもせずに滑るような移動をやめた。
「涼、今日の能力の残量は?」
走るペースや呼吸を全く乱さずにそう問いかける湊。涼は少し考えるような動作をした後「今日はまだ一度しか使ってないのが九回は大丈夫です。優希さんみたく制限がなければいいのに」と小さくそう答える。九回かとため息をつき自分を含め四人の能力の弱点を上げていく。出た結論はどうにかフォローしあえる程度、場合によっては不利である。やれやれ、参ったなと小さく声を漏らす湊のことを羽音が不安そうに見上げた。
階段に差し掛かれば湊は、ダンッと手すりを越えて飛び降りる。後ろの方で涼たちが叫んでいるがそこは無視。さっさと行って先制攻撃したほうがいいと判断しての行動だ。横を通り過ぎた闇の生徒が咄嗟に攻撃を仕掛けようとしてきたが、周りにいた光の生徒がその闇の生徒を取り囲んで湊を庇う。事情は良く分からないが高等部の会長が急いでいるのだから邪魔はさせない、とでも言うように闇の生徒を睨みつけている。初めは抵抗していた闇の生徒もとうとう身動きすら取れなくなってしまった。廊下で談笑していた生徒も殆どが道を開け、涼たちが通り過ぎるまで廊下を塞がないようにしている。
こういうのは非常に助かるな、そう考えながらも湊は羽音達のペースなど微塵も考えずに突っ走る。少々息が上がってきたが戦いに支障が出るほどではないだろう、そう判断してどんどんペースを上げていく。羽音が後ろの方で「病み上がりなんだから、あまり無茶しないで下さい!!」と叫ぶが、病み上がりだとかそんなことは今関係ない、と一蹴。倒れたときは倒れたときだ、そんな風に考えるが何故か戦闘中に倒れてしまうことは考えていない。それが湊の甘さなのだろうか? 羽音は大きくため息をついて、死んでも知りませんからねと小さな声で呟いた。そんな憐の言葉を聞いて「ルチ兄は馬鹿だから気にしたら負け」なんて言うふうに言っている。涼は相変わらずおどおど。
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>>10
は名前ミスです。別のところの名前になってましたね。申し訳ありません。
12
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/02(土) 19:48:43 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
しばらく走ったところで湊は足を止める。聞こえてくるのは金切り声。少しだけ警戒してゆっくりと近づく。目に入ったのは……紅。あたりはすっかり紅く染まり白かった壁や色鮮やかな花瓶、透明な窓ガラスまでもを一色に染め上げていた。さすがの湊も声を失う。鋭く睨む視線の先には、血が滴るレイピアを握った少年、霧月 蓮(ムヅキ レン)がいた。真っ黒なロングコートを着て深くフードを被り顔を隠している。フードの中から覘くのは赤と青の瞳、真っ白な膚……濃紺の髪。首にはサファイアとアメジスト、ゴールデンベリルの埋め込まれた蝶のネックレスをつけている。腕にも全く同じデザインのブレスレットをつけていた。身長は湊より五センチメートル程度低い。
ギリッと歯軋りとした後、紅く染まった生徒の一人が、無傷の生徒を抱きしめて「助けて……」なんてか細い声を上げたのを聞いて、湊は制服の下に隠し持っていた拳銃を取り出した。蓮はケタケタと笑い「なるほど、誰よりも闇に近かったアンタが光にいると……これは滑稽だな」と冷たく言い放つ。口の中で五月蝿い、と呟きながらも銃の安全装置を外す湊。銃如きじゃ相手に敵いはしない、そう分かっていても能力を使うのを躊躇ってしまった。相手の能力を理解しているから、下手に能力を使えば危ないことも分かるのだ。
スイッと湊に刀を向ける蓮。どうやら湊が能力を使うまでは、自分も能力を使わないつもりのようだ。湊の後ろの方から聞こえてくる四つの足音に僅かに顔を顰めながらも、視線だけはずっと湊のことを捉えていた……。
「こういう風に戦うのは初めて、でしたね。貴方は随分戦闘慣れしていそうだ」
小さくため息をついてそういう湊。皮肉のつもりではあったが蓮はクスリと笑って「まぁな。伊達に場数は踏んでいないさ」なんて言う風にあっさりと肯定されてしまった。苦笑いを浮べて引き金を引く。やけに軽い音が響くと同時に蓮が走り出す。膝下まであるロングコートを羽織っているにも変わらずに軽やかに銃弾を交わしてゆく蓮。口には出さないが、湊はこう思う。……化け物め、と。蓮とは初等部からの付き合いではあるがそのときから得体の知れないオーラを漂わせていたな、そんな風に考えて苦笑いを浮べる。こんな無駄な思考めぐらせる余裕まで有るのか自分は、と。
ヒュンッと風斬り音が聞こえた。目の前を横切るレイピアを見て、僅かに体が震えた。怖い、素直にそう思う。立場柄、闇との戦闘は何度も経験したことがある。しかし、多くの場合相手は低級から中級程度の能力者や無能力者で、蓮のように本気で下手に能力を使えない相手とは滅多に戦ったことがないのだ。紅零の力も確かに恐ろしいが、あちらは所詮劣化コピー。元の能力ほど協力じゃないし、自分の力をコピーされたところで弱点は知っているわけだからそこまで脅威になるわけでもない。刹の方は確かに能力でいろんな武器作り、それを扱って戦うし、相手の動きを何らかの能力で縛ってしまう。だが所詮はその程度。動きを縛られたところで能力は使えるし、様々な武器を使われたところで能力で防いでしまえば致命傷を負うことはない。
月乃とは戦ったことはないが、あれは蓮と同じぐらい不気味だな、と考える。羽音達の足音が近くなってきた。さて、そろそろ一撃食らわせないと本当に不利になってしまうな、そう考え、半ば強引に体の向きを変え蓮に蹴りを入れる。レイピアで防がれるか? なんて言う風に心配したりもしたがそんなことはなく、あっさりと蹴り飛ばされる。壁に叩きつけられる蓮を見て、銃使う必要なかったじゃないかとため息をつきすばやく銃を制服の下に戻す。そう言えば涼からはグループだと聞いていたが他のメンバーが見当たらない、まさか味方まで殺したのだろうか? なんて言う風に蹴りが決まったことで完全に余裕が出てきている湊。
「あー……。……力使うわ」
能力を使わない戦闘に無理を感じたのだろう、首につけているネックレスに触れてそう宣言する蓮。能力に依存しているタイプか、なんて湊は蓮に呆れの含まれた視線を向ける。それでも蓮に能力を使われてしまえば大体均等である立場が一気に崩れこちらが不利になってしまう。失敗した……小さくそう呟いて、湊は後悔する。
「あはは……それはヤバイ」
13
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/04(月) 15:22:50 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
あ、ミス発見。「協力=強力」ですね
変換ミスがあるようで……
14
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/04(月) 16:52:50 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
「振り回されながら戦うのも嫌いではありませんが……男である以上は振り回す方がいいですよね!!」
半ば叫ぶようにそう言った後、意味もなく振るった手には金色の弓が握られていた。言葉とは裏腹にその表情は戦いたくない、と主張を続けていた。蓮がフッとネックレスから手を離す。蓮のつけているネックレスは淡い光を発し始めていて、これから何かが起こる、ということを示していた。羽音だけでもいいから早く着てくれ、心からそう願うが足音を聞く限り後二分はかかるだろう。さて、後二分、どうやって能力を使わせないようにするか……そう考えていると軽く頭痛を覚える。明らかに無理なのだ。雑談をして時間を稼ぐにも二分は流石に長すぎる。能力使用の予兆を見せている相手に武器で攻撃なんて仕掛けてしまったら即座に能力で反撃されてしまうだろう。蹴りが決まったときの余裕は何処へ行ったのか、すっかり追い詰められてしまっていた。
蓮はニヤリ、と笑う。今からお前をバラバラにしてやる……口には出さないものの目がそう言っていた。冷や汗が湊の頬を伝う。自分の馬鹿なんて叫びたくもなるがそれは後ろから来るであろう羽音達には不安要素となってしまうだろう、そう考えて必死に堪えた。口元だけが嫌にはっきり見える蓮は妙に不気味であった。口元だけを見せるだけでここまでも不気味になるものか……単純に蓮という存在が異質なだけなのか……、気になりはするが結論を知りたいとは思わなった。それこそ知ってしまったら自分も目の前にいる蓮のようになってしまうのだろう、そう考えて少しだけため息をつく。何でこんなピンチになりながら戦いとは関係ない方に思考を持っていけるんだよ、自分なんて言う風に少々自嘲を浮べる。
「偉大なる四大精霊、水のウィンディーネ、同じく風のシルフィードよ……我が名のもとに姿を現せ!!」
何処からか強い風が吹いた。思わず風の吹いてきた方を確認するが何もいない。湊は眉を顰め蓮の方に視線を戻す。蓮の横には美しい女性。流れるような青の髪に寂しげな水色の瞳……全身を包む水のような綺麗な色をしたドレス……。寒色ばかりだからであろうが、見ているだけで寂しくなってくる。感ではあるもののこっちがウィンディーネかと判断して湊はため息をつく。シルフィードは何処だと思い目を凝らすがそれらしきものは全く見えない。そんな湊を見て蓮はケタケタと笑う。そして平坦な声で「残念、シルフィードは空気に溶け込んでしまって俺でも気配を判じるのでやっとなんだ」と言った。湊はため息をつき、オイオイ、それでよく戦闘の場に出そうと思ったな、そう考えながら自分のホワイトダイアモンドの埋め込まれた星型のネックレスに触れる。
四大精霊クラスの相手となると勝てる気もしないが、抵抗しないよりはましだろう、そう考えた。自らのネックレスが淡い光を発したのを確認した後、一度目を瞑る。能力を使うには一度落ち着いた方がいい、攻撃を食らってしまえばそこまでではあるが、大丈夫。視覚掌握を使って自分の周りの情報をゆがめる。この程度のことなら精霊であるシルフィードやウィンディーネは気付いてしまうであろうが、あくまで精霊などを召喚できるだけの人間である蓮には分からないはずだ。気配でさぐっても視覚情報がゆがめられている以上迂闊には攻撃できないだろう、そんな風に甘い魂胆だった。結論を言ってしまえばあっさりと攻撃されてしまったのだ。甘かったな自分、そんな風に考えてため息をついた。
「バーカ。精霊から情報を拾えば問題ねーんだよ」
吐き捨てるように蓮がそう言った。湊はグッと金の弓矢を握る力を強くして「甘かったですね……なるほど情報の共有まで出来るのですか」と呟く。これは思っていた以上にきついな。それとも湊の想像が甘いだけか……まぁここでは明らかに湊の想定が甘すぎる、それだけだといえるかもしれない。幼い頃m蓮の召喚の実力の低さを見てしまっているからどうせこの辺までしか出来ないだろう、と決め付けてしまうのだ。
15
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/05(火) 11:46:25 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
後頭部でも殴られたのだろうか? 酷く頭が痛む、そう考えながら湊は顔を顰め、矢を放つ。矢は空中で止まってフワフワと浮いている。シルフィードか、そう考えて湊はニヤリと笑みを浮かべた。その刹那に矢から無数の枝が伸びて隙間もなくシルフィードを包み込んでしまった。指示を出したのは湊であり、湊がシルフィードの全体像を把握するのは無理なので首から上が出たなんとも間抜な状態なのだが。蓮はあわててシルフィードに抜け出すように指示を出す。それでもシルフィードは抜け出そうとしない……否、出来なかった。
蓮の顔が歪むのを見て湊は心底嬉しそうに笑って「こんなことも出来るんですね。植物にシルフィードを捕らえろと指示を出してみたのですが」と弾んだ声で言う。よりいっそう蓮の顔が歪むのを見て湊は満足げに頷いて、手に持っていた種をポイッと投げた。それからは枝が出るわけでもなく、ただただ湊の手のひらに落ちて転がった。人の顔が歪むのを見て喜ぶ人間ではないはずなのだが、戦いのときになると相手の歪んだ顔は自分が有利だという証拠のような気がして、心地がよいものだった。こんなことで心地いいと思う自分は少し異常かもしれない、そう考えて湊は小さく肩を揺らす。
「まぁ、所詮はランクの違いってことです。僕はSの上……ですけど?」
静かに湊が言う。ランクというのはこの学園の中で能力の強さを分けたもので、下から順にD、C、B、A、Sがある。さらにその中で、上中下と分けられていた。その中でも生徒会に入るチャンスが得られるのはAの上ランク以上のもの、と非常に狭いのだ。ちなみにBの中以上のランクのものは能力制御のネックレスをつけている。これは過去に安全とされていたBの中ランクのものが暴走してしまい、多くの生徒がその能力の犠牲になってしまってから決定したものだった。能力暴走の原因は分からないが、制御する装置がなかったからだ、と強引に上が決めたのである。
悔しそうに、それでも目だけは鋭く湊を睨みつけながら「下がれシルフィード。 ……俺はSの下だがな……」と言った。スゥッとシルフィードが消えて絡まっていた木の枝が音を立てて床に落ちる。湊はまったく、蓮もそうではあるが戦う気があるのだろうか自分なんて言う風に考えて、小さく首を振る。馬鹿馬鹿しい、とにかく羽音達が来たらあのはじで脅えている子達を連れて逃げてもらって、涼だけを残しておいてもらおう、そう考えて弓矢を空中に投げる。弓矢は不自然な音を立てて剣へと姿を変えていく。
「あー!! 会長勝手に戦いを始めないでくださいです!!」
蓮が右手を前に突き出して、ウィンディーネに指令を出そうとしているところで、少々気の抜ける声が聞こえてきた。剣を構えながらも湊が後ろを向けば、羽音と涼が不満ありげな表情で、憐は明らかに呆れたような表情をして立っていた。蓮は僅かにため息をついて時計を確認する。その後に静かな声で「ウィンディーネ、下がれ。タイムアップだ」と言った。きょとんとして首を傾げる湊たちをよそにフワリとコートを翻して歩いていってしまった。しばらくポカンとした後に慌てて傷ついた生徒達に駆け寄る。
どうやら怪我負っているのは一人だけで、しかも回復の早い吸血鬼、致命傷になるようなものは少ないということでどうにか言霊と羽音の力のコンボで回復させることに成功した。湊はその間中、涼に説教をされていた。本来は湊が兄であるのだから、こんなことがあるなんてことは全くないのだがどうやらこの兄弟は違うらしい。仕舞いには湊が話を聞かないものだから涼に頬を思いっきり引っ張られている始末。回復が終わった憐は小さな声で「何をやっているのだねこの兄弟は」と呟いた。羽音も同感だというように小さく頷いている。
「馬鹿兄!! 相手は高度の召喚能力者ですよ!? 下手をすればここにいる全員が全滅の可能性もあったんですからね!!」
あーはいはい、と湊に受け流されて頬を膨らませる涼。憐にお前の兄に何を言っても無駄だ諦めろ、といわれて疲れたように頷く。そんな涼の頭を静かに撫でる羽音。助かった生徒達なんかはなんか自分たちの持っている生徒会のイメージと違う、なんて言う風にショックを受けているようだった。そんなことよそに、湊は無言で蓮の走っていった方を眺めいるのだった。
NEXT Story〜第二章 闇(ブイオ)の人々〜
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:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/05/04(水) 19:46:23 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
第二章 闇(ブイオ)の人々
少々乱暴に蓮が一つの教室のドアを開く。その部屋の中では紅零が優雅に紅茶を啜り、真新しいソファの上で刹が眠っていた。眠っているのにもかかわらずしっかりと日本刀を抱いているあたり、仮眠程度なのだろう、と蓮は判断して苦笑いを浮べた。まったく、まだ小さいくせに無理をしてとも言いたくなるがそれを言ってしまえば、目の前で紅茶を啜っている紅零に徹底的に殴られそうなので言葉を飲み込んだ。何故刹に言った言葉で紅零が怒ったりするのか、そう思うかもしれないが刹と紅零は背丈が全く同じなのである。単純に同じ身長の刹が小さいといわれれば間接的に自分のことも小さいと言っている、と解釈してしまうようだった。
その辺は少々過剰反応過ぎるだろう、と思いながらも気に触るようなことを言わなければ普通の少女と大差ないと蓮は思っているので、気にとめもせず、ただただ小さいという言葉を二人に向けないようにだけしていた。もっとも、そのほかの言葉はそのときそのときの気分によって反応が変わってしまうので、言った後に後悔する、なんて言うことも多々あるのではあるが。それでも蓮が紅零に構うのはやはり幼い頃からの姿を知っているから、であろうか? それは本人ですら分からないらしいが蓮が紅零を信用しているのも、紅零が蓮に心を許しているのも揺るぎのない事実であった。
「あら……戻ってきていたのね。お疲れ様。と言っても失敗したみたいだけども」
ふと顔を上げた紅零が蓮に向かってそういう。小さく頷きながらフードを脱げば紅零が若干上機嫌な様子であったため僅かに首を傾げる。ここで何かあったのか、と聞いて紅零の機嫌が悪くなるのは避けたいし、紅零の場合は本当に機嫌がよければ勝手に話し始めるだろう、そう考えて蓮は何も言わずに床に腰を下ろした。付き合いは長いものの正直言って紅零との接し方を模索しているようなところがあるのは、絶対に本人には覚られないようにしなくては、そう思うと自然にため息が出てきた。
自分の顔を怪訝そうに覗き込みながらも、何かを話したそうにしている紅零を見れば少しだけ笑みがこぼれるも、表情の変化が乏しいせいか紅零は全く気付いていないようだった。それでも話したいことはあるようでトテトテと蓮に近づいてきて横に座った。一体何を言い出すのだろうか、そう考えて予想できる言葉とそれに対する受け答えを何個か頭の中で挙げていくが、紅零の姿を見ても特に当てはまるものはない。髪形はまったくといっていいほど変わってもいないし、化粧をしているわけでもない。一体どんな言葉が飛び出してくるのか、それが全く分からずにビクビクしてしまう蓮。
「聞いてよ、お兄様意識を取り戻したって!!」
紅零の言葉を聞いて蓮は思わず目を見開く。紅零が兄の話を自分に持ち出すのは珍しかったのもあるし、紅零がいつにもなく子供のように笑っていたというのもある。珍しいこともあるものだな、それほど兄のことが好きなのだろうと考えて、一人頷いた。それを見た紅零は蓮が無表情ながらも喜んでくれているとでも解釈したのだろう、よりいっそう明るい笑顔を浮かべて鼻歌を歌い始めていた。普段からこうならもっと可愛げがあるだろうに、そう考えてクスリ、と蓮は笑う。
17
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/05/05(木) 21:22:44 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
いつの間にか目を覚ました刹が小さく欠伸をして、目を擦っていた。その表情はどこか不機嫌そうに見えた。そんな刹を見て少し首を傾げた後、さては紅零と意見が食い違ったか、説教されて不貞寝、そうでもなければ刹視点で見て誰かが紅零に無礼でも働いたのだろう、と考える。正直に言うと刹が寝起きで機嫌が悪いのはそれ以外の理由はほぼ無いのである。刹は重度のシスコンではあるがため、紅零に関することは結構根に持つ。まぁ代わりと言ってはなんだがそれ以外の怒りの感情は、短時間でも寝てしまえばころっと忘れてしまうのである。そう言った面から見れば扱いやすい存在かもしれない。
目が合ったのでとりあえず「お目覚めか……お兄さんの件おめでと」なんて言う風に声を掛ければ、刹は余計に不機嫌そうな顔。地雷でも踏んだか? 蓮はそう考えて首を傾げる。普段の刹はと言えば気に入らないことを言ったりしたり、紅零の妨害をしない限りは相手が光である場合を除き、温厚でニコニコ笑っているような子である。紅零は少し困ったような表情をして「さっきからあの調子。困ったものよ」なんて言う風に蓮に耳打ちをする。それっきり何を言っていいのかも分からないというように黙り込んでしまう。
「……お兄様なんて……あんな人、僕は大嫌いだ」
ポツリ、と刹が呟いた。どういうことだ、蓮がそう問いかける前に刹が声を荒げ始める。ただただ心の内を叫び始める。
「あんな人……お姉様や僕を裏切ったじゃないか!! 見捨てたじゃないか!! 湊と……あいつと同じ裏切り者だ!!」
刹達とその兄の間に何があったか、それは蓮には分からない。紅零や刹と行動することは多かったが、それと同じくらいに病院で一人で過ごすことも多かった。それゆえ蓮が持っている刹達の情報も穴だらけで、足りないものばかりだ。たとえば刹が紅零に異常なまでの執着を見せること……これは元々シスコンだったためとも言えるが“あの日”を境に酷くなっている。その“あの日”に何があったかは蓮は途中までしか知らない。正しく言うと途中までしか見ていないのである。途中まではその場にいたが、あることが原因で病院に担ぎ込まれる羽目になり……その後のことは誰に聞いても教えてはくれない。少なくても蓮が見ていたところまででは刹が紅零に執着を見せるようになるのには不十分だ。
刹達とその兄の間に何かが起こったとすると、自分が病院に運び込まれた直後あたりだろうと蓮は考える。蓮の記憶には残っていないだけでもっと前に起こっている可能性もあるが、少なくても自分が病院に運び込まれる前までは、刹は純粋に兄のことを尊敬していたと思う。となるとやはり自分が入院している間、さらに言えば自分が病院に運び込まれた一〜三時間の間に起こったことが原因だと考えられる。何故そんな短時間に絞り込めるかと問われれば紅零にその兄が病院に運び込まれた時間を聞き、帰ってきた時間から推測すると行動を起せる時間がそれぐらいしかないためだ。もっとも情報が少なすぎて蓮にはどうとも言えないのではあるが。
「俺には良く分からんが……紅零はそうは感じていないようだが?」
蓮がそう言うと、刹はキッと蓮を睨みつける。紅零はすっかり困った顔をしてため息をつく始末。こういう場合多くは蓮が何とかしなくてはならないので、酷く面倒だ。蓮一人では流石に出来ることも限られてくるのだし、間違った対応をすればさらに機嫌を損なってしまう。心の底から刹を初めとする小鳥遊兄妹との対立は避けたいと思っている蓮にとって、今、刹の機嫌を損なうことは非常に都合が悪いことだ。困ったことになった、と頭を抱える蓮。元々人との関わりが得意ではないせいかこういうときにどうしていいのかが全く分からない。普段と同じような対応をすればまず機嫌を損ねるだろう。出来ることなら面倒だと叫んでしまいたい。
18
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/05/13(金) 22:11:47 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
どうしていいのか分からずに黙り込んでいれば刹は小さく笑った。まるで知っているというように、心の中の何かを吐き出すように笑い出す。ヤバイ、そう思って蓮が動き出したときには刹はすでに刀を抜き放っていた。少し首を傾げた後「知ってるさ……。僕の言うことなんてどうでもいいだろ? お姉様の言うことが正しいとでも言うんだろ?」なんて平坦な声で言う。地雷を踏んだかと蓮は深くため息をついた。ゆっくりと向けられる刀に目を向けながらも己の武器は取り出さない。武器を取り出してこれ以上機嫌を悪くされても面倒だと思ったのだ。事実そのような対応をして被害が拡大したこともある。
蓮はさて、どうしたものかと考え込みながらも、出来るだけ表情を変えないようにする。こういうときにどういう顔をしていいかも分からないのだ。精神を落ち着かせるだとか、安定、落ち着きをつかさどるような精霊や妖精、神などを召喚すればいいのかもしれないが、召喚には非常に重いリスクが付きまとうのだ。特に蓮のように四大精霊などを呼び出せるようなクラスになってしまうと余計である。召喚能力者なんていってしまうと妙に万能なイメージを持ってしまうかもしれないが実際のところはそうでもない。それに見合う代償を支払ってやっと召喚することができるものなのだ。さらに言ってしまえば、才能も問題であり才能が無ければいくら代償を支払ったところで何も得ることは出来ない。まぁ当然といえば当然の話である。
能力を得た変わりに蓮が失ったものといえば右目の視力と一部の感情である。視力なんて言うのはまだ左目が見えているため問題はない。しかし感情の方は多少どころは非常に問題ありだ。元々感情表現は得意な方ではないのだが、余計に感情を表現することが出来なくなった、とでも言うのだろうか? しかも失ったのが負の感情ならまだしも、蓮が失った感情は主に喜びである。出来なかったことが成功してもなんとも思わないし、出来なかったことができるようになるのなんて、よくあること、で済ませてしまうのだ。まぁ自分のことだけならば良いのではあるが、他人、もしくはクラスメート全員が喜んでいる中一人だけが無表情でいたりする。まぁ楽しむというような感情がなくなっていないのが唯一の救いかもしれない。
「……逃げないんですか?」
クスッと笑みを零しながら刹が言う。蓮は小さく頷いて真っ直ぐと刹を見つめる。逃げ切れる自信がないというのもあるがやはり一番の問題は先ほども言ったとおり、これ以上刹の機嫌を損ねることである。先ほどから紅零は黙ってあれこれ考えているようで動きを見せない。使えない後輩め、そんな風に心の中で毒を吐くが、口に出してしまえば敵が増えるだけなので黙っておくことにする。
19
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/05/15(日) 16:16:30 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
「逃げても無駄、だろ?」
蓮は目の前でほくそ笑む刹に向かって吐き捨てるように言う。闇のごく一部の主要メンバーが刹のことを白銀の悪魔、なんて言うように呼ぶのがよく理解できる。仲間を消すことだって全く躊躇いのない冷徹さ……下手をすれば闇ごと壊滅してしまいそうだ、そう考えて蓮は僅かな笑みを浮かべた。そんな蓮の顔を見て眉をひそめ、無言で手に握った刀を振り上げる刹。頭を庇いもせずに振り上げられる刀と、刹の腕を交互に見る。刹が使う刀は僅かに特殊な装飾の施された日本刀であり、長さは2尺4寸5分……大体74.4センチメートル程度のものである。重さは1400グラム程度のもので、振り回すにしては少々無理がある。刹のような中学生程度なら尚更であろうか? さらに日本刀を扱うものが合う事故で多いのはその刀を振るうさいにその重さに負けてしまい、自分の足を切ってしまう、というものらしい。そう考えると蓮は自分が切られるよりも、刹が誤って足を切ってしまわないかのほうが心配である。
低い舌打ちと刀が振り下ろされるのを示す風斬り音。静かに目を閉じて刀が自分の頭を砕くのか、それとも体を切り裂くのかをただただ待つ。ここで命乞いをしないで死を楽しみながら待っているあたり自分は歪んでいるのだろうな、と蓮は考えていれば、ガキンなんて言うような金属が聞こえた。いつまで立っても振り下ろされることない日本刀を怪訝に思い薄く眼を開けば、紅零が日本刀で刹の刀を防いでいるのが目に入った。刹は驚いたように目を見開いて紅零に刀を防がれた状態のまま固まってしまっていた。
「何で逃げないのよ、この馬鹿!! 上手く逃げると思ってたから別のこと考えていたじゃない!!」
紅零が顔を僅かに蓮に向けて叫ぶように言う。何で俺が怒られるんだよ、そんな風に思いながらも蓮は少しだけ後ろに引いて立ち上がる。鋭い目つきで刹が睨んでくるが、とりあえず気にしないことにして、紅零をどうにかしなくてはならないかと考えてため息をついた。ここで紅零に死なれては高等部にいる紅零の姉、月華に絞め殺されるとなにやら物騒な考えが浮かんできたが、とりあえず頭を振って追い出すことにした。怪我させるのも戦力が減るから避けたいし、腕一本ぐらいの覚悟ぐらいは必要だろうかと苦笑いを浮べる。
「つか紅零、何でテレキネシスで防がなかったし」
目の前に紅零の肩が少し揺れた。ああ、テレキネシスを使えることを忘れていたのだろう、そう勝手に解釈して、刹に近づく。刹の耳元で「そのままだと大好きなお姉ちゃん叩ききることになるぜ?」なんて言う風に囁いてやれば、あっさりと刹は刀を引いて鞘にしまった。姉の存在はやはり大きいところのようだ、と笑みを浮かべながら刹の頭をなでてやる。そんな蓮を威嚇するかのように刹はただただ睨みつける。この光景を見ているとなんだか、兄が弟を宥めているようにも見えるのだから不思議だ。
20
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/02(木) 19:20:43 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
はぁ、と蓮はため息をつく。疲れたというよりもほっとしたというのが正しい。刹はいまだに不愉快そうな様子ではあるが刀を再び抜こうとするそぶりは見せない。もしかすると能力でナイフでも作って飛ばしてくるかもしれない、そうも考えたがそれをやろうとしたところですぐに気づくことが出来る。所詮は能力。魔法だと聞くと万能に近い気もするが能力、といわれるとそうもいかない。単純にできることが限られているからである。刹の場合は武器など意思を持たないものならば容易に生み出して、操ることが出来る。それが百だろうが千だろうが、だ。
しかし元々はないものを一時的に作る能力だと、どうしても空間に歪みができてしまうことになる。なかったものを強制的にあるに変換してしまうのだから仕方がないのだろうか。その際に生まれる歪みに能力者が耐えられなくなってしまうのが三十分であり、そこで一旦能力を0に戻す……つまりは発動していた能力を解除し、元の歪みのない状況へと戻す必要があるのである。また、これはあくまで刹の話であり、他の能力者だと十分ももたないものが多い。そうじゃなくても多くは十五分程度で耐え切れなくなってしまうのだ。さらに言えば多くのものを作り出すほど能力の質は落ちる。
刹はと言えばいくら作り出したところで三十分はもつし、一つ一つの質もその辺の能力者に比べて高い。元々刹の創作能力自体が希少な能力であるため、能力は平均していることが多い。そう考えれば刹のずば抜けた能力は異端だといえる。
「っと、俺はそろそろ行くぜ。元々顔見世程度のつもりだったしな」
そう言ってフードを被りなおした蓮を見て紅零は僅かに顔を顰め「あら、もう少しゆっくりしていけばいいじゃない?」なんて言う風に言った。それにかぶせるように刹も「急いで何処に行くんです? 何かやましいことでも?」とからかうような口調で言った。散々からかってすっきりしようとでも考えているのだろうか、と蓮は考えて低く舌打ちをした。あまり触れられたくないようなことだったのだろうかそう考えて刹はしてやったりとばかりに笑みを浮かべる。
「墓。何ならついてきてもいいぜ?」
なんでも無いことのようにさらっと言う蓮。それを聞いて思わず声を失うのは紅零である。刹の方はぞっとしたような顔をして固まっていた。さらっとした物言いとは違い、表情は完全に闇そのものである。いじり倒そうかと思っていた刹であったが、下手なことを言えば殺される、そう考えてしまって何もいえなかった。もっとも蓮が刹を殺そうとするなんてまずありえない話なのだが。
「もしかして桜梨(オウリ)ちゃんの?」
紅零の問いかけに僅かに頷いて「一応は双子の片割れだしな。あの時は死ぬなんて思ってなかったけど。クソ生意気で化け物みたいな奴だったし」と答えた。双子、墓なんて言う言葉が出てきた瞬間に刹はバツが悪そうに顔を逸らした。刹の兄妹や家族は全員生きている。それは単純に蓮や過去の湊、蓮の双子の片割れ……多くの人物に守られてここまできたからである。今でこそまともに刀を振るって戦うことが出来る刹でも、ある事件が起こるまではただの無力な少年……。
その点、蓮はと言えば当時から弱音や、好き、なんて言う感情を素直に表に出そうとはしない素っ気無い奴だった。今は大分話すようになってきたが昔は何を言っても帰ってくるのは無言ばかり。辛うじて話していた相手といえば湊や双子の片割れである、桜梨程度だった。刹からしてみればとっつきにくくて怖い……それでも守ってくれる頼りがいのある存在だった。それと同じように蓮も桜梨のことを頼りにしていたし、心の支えとしていた。その人物が死んでしまったのである。刹や紅零を守ろうとしたせいで。
それでも蓮が刹や紅零に感情をぶつけることはなかったと思う。憐や涼とも決め手となる出来事が起こるまでは上手くやっていたし、湊にはしょっちゅう慰められていたのも刹は目撃している。その湊の腕の中で蓮が声を上げて泣いていたのも……。それを見て以来、桜梨を初め死んでしまった人のことを話題に出すのはやめた。思い出させて悲しい思いをさせたくない、そう思っての行動だった。それが正解なのかは刹には分からないが……。紅零も小さく頷いて「そう。じゃあ行ってらっしゃい」と引きつった笑みを浮かべて小さく手を振って見送った。
21
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/05(日) 14:26:50 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
学園内に墓地があるというのはどういうことなのだろうか? 単純に生徒の身内、兄弟だと生き残った生徒が学校の敷地から出なくてもよいようにされている。この学園初等部から高等部全ての課程を終了するまでは生徒が学校の敷地内から出ることを許されていない。単純に対立が激化する学園から少しでも離れれば戻ってきたときに環境が大きく変化していることがある。それについていけなくなってしまう事を考えてのことである。
他にもこの学園にいるのが能力者、魔法使い、吸血鬼など人から見て“化け物”等と称されるものが多いことも原因の一つである。勿論、能力を持たず、魔法も使わない、吸血鬼でもない一般人も居るのだがそのものたちも学園の外とは僅かに違いがある。頭脳に然り身体能力に然り……そう言った面で外での生活に対応できると判断されるまでは外に出してもらえない。特にAの中ランクのものとなると評価は余計に厳しくなっていく。
それゆえにこの学園内で教師をしているのは、この学園卒業の能力者達が多いのだ。そう考えればこの学園は一種の保護、育成施設と捉えることが出来るかもしれない。事実、この学園にきたことで一切制御できなかった能力を制御できるようになり、今では外の一般人に紛れて生活しているものもいる。外からの攻撃があったところで生徒を捨てるようなことはなく、多くの場合理事長一人で対処をしていた。
「なあ、桜梨……お前が死んでもう三年経つのに、俺はまだ……」
一つの小さな墓の前、小さな今にも消えてしまいそうな声で蓮が言う。小さな墓には霧月 桜梨(ムヅキ オウリ)と刻まれその下には生まれた年と死んだ年……。そっとそこを手でなぞって、今にも壊れてしまいそうな、無理矢理な笑みを浮かべて……。ツゥッと頬を伝う透明な雫は静かに地面を濡らしていった。
運命なんて言うものは残酷である。寄り添う二人でも唯一の身内でも時が来れば容赦なく引き裂いてしまう。だからこそ蓮は思う。運命なんか絶対に信じない、と。自分の身内が殺されたことを運命なんかで片付けさせはしないと強く思う。運命だから仕方がないなんていって諦めているような奴を見れば、腹を割いて、八つ裂きにしてやりたいという衝動に駆られることさえもある。それをどうにか抑えながら生活しているのはストレスの連続である。
「……もうすぐこの学園は戦火に飲まれる。今までのとは比にならないほどでかい戦火に……そうしたら俺はお前のところにいけるのかな……?」
きつく、爪が手のひらに食い込むほどに握った拳は僅かに震えていた。それは死に対する恐怖か、これから始まるであろう大きな戦いへの、死という希望を見出しての武者震いか……。蓮の口元に浮かぶ笑みは無邪気な子供のように見えた。それと同時校舎の方からは爆発音、誰が暴れているのだろうか、手に持っていた花束を墓石の前に置きフラリと校舎に向かって歩き出す。死臭を好む獣のように死の音の聞こえる方へとただただ進む。
22
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/06(月) 20:54:43 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
フッと校舎に入ったところで蓮は足を止めた。遠くから聞こえてくる悲鳴、罵声、嘆き。時計を見ればちょうど十九時を回ったところ。なるほど光狩りの時間かと小さく頷いて、また足を進める。光狩りというのは闇が一日に一度行う光を“消す”作業のことである。日によって時間は変わるがそう言えば今日は十九時からだったなと蓮は連絡班からの伝言を思い出して、頬を掻いた。蓮はこれでも実質闇のトップに立つ五人……闇高等部生徒会の副会長である。ここで行動を起さないのも内で敵を増やす原因になるのだろうか、そう考えて気が乗らないながら、コートのポケットから銀のナイフを取り出す。
目の前を横切ったのは、黒い翼を持った銀髪の少年。あいつで良いか、そう考えてナイフを少年に向けて投げつける。少年ははっとしたように振り返って、ナイフを片手でつかむ。その制服は闇を示す漆黒のもの。涙目になりながらも「酷いですねー副バ会長ぉー僕ですよぉー悠斗(ユウト)ですよぉ」手で掴んだナイフを床へと放り投げ、僅かに頬を膨らませながら言う少年。フッと少年の姿が赤茶の髪を一本で束ね、気だるげな緋色の瞳をもつ小さな子供に変化する。彼の名前は小早川 悠斗(コバヤカワ ユウト)、身長百三十四センチメートルとかなり小柄だが一応は高等部生徒会書記に任命された高校生である。
「なんだ……変化していたなら分かりやすくしろ。見たことない奴だから光だと思っただろうが」
全く顔色を変えずに蓮はそういう。どうせ刺さったところで死なないんだろうとでも言いたげな表情で悠斗を睨みつける。悠斗のほうも悠斗でニコニコと笑って中指を立てて蓮を挑発。そんな安っぽい挑発には乗らなかったものの、フードの奥ではすっかり表情をゆがめている蓮。……どうやらこの二人は犬猿の中らしい。
闇は基本的に内部での争いは禁止されている。単純に闇全体での敵は光であり、力を向けるべきは光に対してだと実質的リーダー、高等部生徒会長の月乃が示したためである。そのおかげもあってか闇の内部での打ち合いは少なかった。全くない、とはいえ無いが少なくても光の最下層に比べればうんと少なかった。もっとも不満を持つものは月乃を初めとする生徒会メンバーに歯向かったりもする。しかし多くの場合それは一瞬で鎮圧されてしまい、見せしめと称されて嬲り殺されていく。恐怖政治でしかないようにも思えるがコレも効果あり……。
しかし蓮と悠斗は例外であった。顔を合わせるたびに喧嘩、同じ光を追ってぶつかっては喧嘩……生徒会の仕事の最中でも喧嘩、もはや月乃公認の喧嘩仲間へと化している。さらに言ってしまえばこの二人の場合は普通の能力者や魔法使い、一般人とは身体のつくりが違うので簡単に死ぬことはない。それも月乃に勝手にやっていろと言われる要因の一つだった。
「しっかし最近は過激ですねぇー。このままだと“全面戦争”が起きてしまいそうですぅー」
にっこりと、言ってる言葉にはそぐわない笑みを蓮へとむける悠斗。蓮は深くため息をついて「高度予知能力を持つお前が言うと洒落にならんから止めておけ。つか喋り方ウゼェよ」なんて言うように軽く言葉を返した。先ほど自分が言った学園が戦火に飲まれるという言葉と悠斗の言葉が重なれば完全に顔を顰めた。蓮と悠斗の言葉が近いものだったときの多くは予想を超えることが多い。予知とありとあらゆる精霊、生物から情報を得られる蓮がいうことなのだ、ほぼ間違いはないと言ってもいいだろう。
「まぁ、戦火に飲まれるだろうさ。そう遠くないうちに、“あの日”より醜い戦火に」
小さな、それでもやけに聞こえる声で蓮は言った。悠斗は久しぶりに意見が一致したというように満面の笑みを浮かべて手を叩いた。それを見て蓮は小さく舌打ちをして顔を逸らした。悠斗と意見があっても嬉しくなんかないというように。それと同時に蓮は思う。紅零や、刹をはじめとする“あの日”からの仲間だけはどんな手を使っても、どれだけ自分の手を使っても守ると……。それは闇に染まった、一人の少年の覚悟……。
NEXT Story〜第三章 聖鈴学園〜
23
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/07(火) 21:36:32 HOST:i118-21-90-39.s04.a001.ap.plala.or.jp
フッと校舎に入ったところで蓮は足を止めた。遠くから聞こえてくる悲鳴、罵声、嘆き。時計を見ればちょうど十九時を回ったところ。なるほど光狩りの時間かと小さく頷いて、また足を進める。光狩りというのは闇が一日に一度行う光を“消す”作業のことである。日によって時間は変わるがそう言えば今日は十九時からだったなと蓮は連絡班からの伝言を思い出して、頬を掻いた。蓮はこれでも実質闇のトップに立つ五人……闇高等部生徒会の副会長である。ここで行動を起さないのも内で敵を増やす原因になるのだろうか、そう考えて気が乗らないながら、コートのポケットから銀のナイフを取り出す。
目の前を横切ったのは、黒い翼を持った銀髪の少年。あいつで良いか、そう考えてナイフを少年に向けて投げつける。少年ははっとしたように振り返って、ナイフを片手でつかむ。その制服は闇を示す漆黒のもの。涙目になりながらも「酷いですねー副バ会長ぉー僕ですよぉー悠斗(ユウト)ですよぉ」手で掴んだナイフを床へと放り投げ、僅かに頬を膨らませながら言う少年。フッと少年の姿が赤茶の髪を一本で束ね、気だるげな緋色の瞳をもつ小さな子供に変化する。彼の名前は小早川 悠斗(コバヤカワ ユウト)、身長百三十四センチメートルとかなり小柄だが一応は高等部生徒会書記に任命された高校生である。
「なんだ……変化していたなら分かりやすくしろ。見たことない奴だから光だと思っただろうが」
全く顔色を変えずに蓮はそういう。どうせ刺さったところで死なないんだろうとでも言いたげな表情で悠斗を睨みつける。悠斗のほうも悠斗でニコニコと笑って中指を立てて蓮を挑発。そんな安っぽい挑発には乗らなかったものの、フードの奥ではすっかり表情をゆがめている蓮。……どうやらこの二人は犬猿の中らしい。
闇は基本的に内部での争いは禁止されている。単純に闇全体での敵は光であり、力を向けるべきは光に対してだと実質的リーダー、高等部生徒会長の月乃が示したためである。そのおかげもあってか闇の内部での打ち合いは少なかった。全くない、とはいえ無いが少なくても光の最下層に比べればうんと少なかった。もっとも不満を持つものは月乃を初めとする生徒会メンバーに歯向かったりもする。しかし多くの場合それは一瞬で鎮圧されてしまい、見せしめと称されて嬲り殺されていく。恐怖政治でしかないようにも思えるがコレも効果あり……。
しかし蓮と悠斗は例外であった。顔を合わせるたびに喧嘩、同じ光を追ってぶつかっては喧嘩……生徒会の仕事の最中でも喧嘩、もはや月乃公認の喧嘩仲間へと化している。さらに言ってしまえばこの二人の場合は普通の能力者や魔法使い、一般人とは身体のつくりが違うので簡単に死ぬことはない。それも月乃に勝手にやっていろと言われる要因の一つだった。
「しっかし最近は過激ですねぇー。このままだと“全面戦争”が起きてしまいそうですぅー」
にっこりと、言ってる言葉にはそぐわない笑みを蓮へとむける悠斗。蓮は深くため息をついて「高度予知能力を持つお前が言うと洒落にならんから止めておけ。つか喋り方ウゼェよ」なんて言うように軽く言葉を返した。先ほど自分が言った学園が戦火に飲まれるという言葉と悠斗の言葉が重なれば完全に顔を顰めた。蓮と悠斗の言葉が近いものだったときの多くは予想を超えることが多い。高度の予知をもつ悠斗とありとあらゆる精霊、生物から情報を得られる蓮がいうことなのだ、ほぼ間違いはないと言ってもいいだろう。
「まぁ、戦火に飲まれるだろうさ。そう遠くないうちに、“あの日”より醜い戦火に」
小さな、それでもやけに聞こえる声で蓮は言った。悠斗は久しぶりに意見が一致したというように満面の笑みを浮かべて手を叩いた。それを見て蓮は小さく舌打ちをして顔を逸らした。悠斗と意見があっても嬉しくなんかないというように。それと同時に蓮は思う。紅零や、刹をはじめとする“あの日”からの仲間だけはどんな手を使っても、どれだけ自分の手を使っても守ると……。それは闇に染まった、一人の少年の覚悟……。
NEXT Story〜第三章 聖鈴学園〜
一部言葉が足りないところがありましたので修正。後々見直していくとおかしいところが沢山ありますね……。
24
:
ライナー
:2011/06/12(日) 22:44:31 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
別スレで書かせて貰ったとおり読ませて頂きました!
文章力が高いですね、よほど推敲したとお見受けします^^
設定も面白いです。読めば読むほど吸い込まれていく感じです!
あと、気になった点では改行をもう少しするべきではと思います。
大事な文章を引き立たせるためにも必須です。(自分も大して上手い改行やってませんが^^;)
文章は塊が多いほど読む意欲を削り、良い作品でも飽きられることが多いそうです。
改行は小説の作法というらしいですから、もう少し取り入れてみては?
25
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/14(火) 19:07:26 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>ライナー様
あわわ、こんな低クオリティをお読みくださって感謝です!!
文章力についてはやっと、と言う程度でございます。表現等まだまだ学ぶことが沢山でして。
それは嬉しいです。やはり自信がないとはいえ必死に考えた物なので、面白いといってもらえるのは一番の喜びだったりします
改行、ですか。確かにぎちぎちに詰め込んでありますからね。だから読ませる気ないだろうとか言われてしまうのかもしれません;
なるほど、なるほど、それでは少しでも読みやすい作品となるよう、気をつけていきたいと思います。
貴重なご意見、ご感想有難うございました!
26
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/17(金) 18:43:03 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
なりきり掲示板の方で「感想書きます!」なんて言っていたのにかなり遅れてしまって申し訳ないですorz
>>24
様と同じになってしまいますが、文章力がとても高くて情景がわかりやすいです^^
続き楽しみにしてます!
あと、私も最近小説上げてみました。
あなたの素敵な小説には到底及ばない堕クオリティですが、読んでいただければな、と思っています^^
27
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/17(金) 19:25:22 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>月峰 夜凪様
いらっしゃいませでございます。
文章力はやたらと低いです。表現力もないですし、書いている本人が混乱していたりします
ええ、今書いている途中なので完成し次第あげますね。
お、そうなんですか?
後ほど見てみますね。ちなみに僕の小説は誰よりも堕クォリティでございます
28
:
kalro
:2011/06/17(金) 20:20:10 HOST:nttkyo007103.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
kalroです!
小説読ましていただきました。とてもおもしろいです!
読んでいる内にどんどん内容に引き込まれます!
僕も小説書いてますが到底およびませんね・・。
異能や魔法がとても好きなのでとても読んでいて楽しかったです。
続きを楽しみにしています。これからも頑張ってください!!
29
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/17(金) 21:36:29 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>kalro様
有難うございます。自信がないながら面白いといっていただけて幸いでございます。
内容に、引き込まれる、ですか。それならよかったです。分かり難い点等ありましたら言ってくださいませ。
んー……そうでもないと思います。僕なんてその辺にごろごろいるレベルより下程度ですよ。
私も異能や魔法は好きです。設定を練るのも読むのも楽しいですから。
はい、亀更新ですが地道に頑張っていこうと思います。コメント有難うございました
30
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/18(土) 13:02:46 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
第三章 聖鈴学園
ひらりと桜が舞い落ちるのを見ていた。月に照らされた桜が妙に懐かしく思えて食いつくように窓から桜を見つめ続けている。仕事が残っているといって生徒会室に一人残ったところまではよかった。しかし外が気になってしまい仕事が全く手につかない。小さくため息をついて湊は自分を嗤う。結局何も変わっていないんじゃないか、そう考えてただただ自分のことを嗤った。不思議なことで生徒会のメンバーと離れ一人になれば過去のことが頭を巡った。忘れたと思っていた忌々しい記憶たちが……。
小さくドアが開く音がした。男子陣がドアを開けたにしては静かだったし、羽音が忘れ物でも取りにきたのだろうか? そう考えて顔さえも向けずに窓の外を眺めていた。どうせ仕事中の休憩だと判断して勝手に去っていくだろう。そう考えた。そういう点から見れば湊は生徒会のメンバーにでさえ距離を作ってしまっているようだ。
「光会長。光側の魔法使いさんが帰ってきましたの。これで特殊情報統括組織正式活動開始なの」
思っていたより高い声だった。顔を声のするほうに向けてみれば、そこにはジト目気味で明るい桃色の目に、膝まである透き通るような水色の髪を少女が立っていた。髪には桃色のヘアピンを二本つけていた。服装は湊や紅零たちとは全く違う物で、白と桃色を貴重としたセーラー服だった。少女の名前はアズラエル。特殊情報統括組織のリーダーである。
特殊情報統括組織というのは魔道書を初めとした魔法使いが扱う様々な情報類を外に漏らさないようにする物であり、光、闇のどちらにも属していないものであった。現在管理している魔道書の数は百冊程度、最前期はもっと冊数が有ったのだが湊や蓮がいう“あの日”に多くの魔道書が焼けてしまったのである。どうにかパートナーである一人の少年と運び出せたのが百冊だった。
「魔法使い……楓のことですね。あの方は呪術師に近いと思いますが……とりあえずアズさん、報告感謝です。ところで利樹(リキ)さんは?」
フウッと息を吐いた後にそういう湊。アズラエルは首を傾げた後「利樹は部屋で本の整理中なの」と言って笑った。サボりか、そう呟いた後頬を膨らませたアズラエルをみて湊は小さく手を合わせた。利樹という少年とアズラエルは幼いときより共にいるので仲が非常によかった。アズラエルの方は利樹のことを心から信頼しているようで、彼の悪口を言われてたりすると非常に怒る。まぁ彼女は超がつくほど天然なので、悪口に気づかないことも有るのだが。
31
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/18(土) 13:16:18 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
アズラエル、利樹君は月峰 夜凪様よりお借りしています。私が使うとなんだか可愛げがなくなってしまうような……。
それと
>>30
の貴重=基調です。申し訳ありません。
意味が分からないところ、解説がほしいところが有りましたら教えてください。物語に差し支えない程度で補足させていただきます。
まだ未熟ではありますが、どうぞ温かい目で見ていただけるよう、お願いいたします。
32
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/20(月) 20:15:36 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
「さて、コレで今正式に活動しているのは、特殊情報統括組織と理事長直属の中枢部、各生徒会……か」
アズラエルがさった後、小さく呟いて湊は窓に額を当てる。ひんやりとした感覚は気持ちよくもなんともなくて、ただガラスの存在を主張する程度の物にしか感じられない。静かに目を閉じて深く息を吸う。あまりにも自分が知っているこの学園が最悪だったことに似すぎていた。もしかすると厄介なことになるかもしれないなそう考えて深く息を吐いた。そんなこと考えたって憂鬱になるだけじゃないか、そう考えて首を振る。その程度で考えを払拭することはできないのではあるが。
「湊。そんなに不安がらなくても貴方は予知方面は鮮やかなくらいにサッパリなのですから、気にしなくても問題ないかと」
ふとドアが開く音と車椅子が動いているような、そんな音が聞こえた。聞きなれた声に驚いて顔を向ければそこには、腰の辺りまでの銀の髪にの少年がいた。車椅子に座って足には真っ白な布をかけている。しかしその両目は包帯でぐるぐる巻きにされ隠されてしまっている。その胸元に輝くのは湊のものと同じ形をしたバッチ。そのバッチには生徒会長推薦情報処理と刻まれていた。
そんな少年の名前は小鳥遊 楓(タカナシ カエデ)。湊の幼い頃からの友人でもはや腐れ縁と化しているような人物であった。故にさらっと湊の考えを当ててしまったりと、色々湊にとって不都合なことが多いようである。ある事件をきっかけにしばらく、というか二年以上学園を離れていたのだが、それが今日戻ってきたというわけである。
「と、言うか先ほど優希君にも会ってきましたが、貴方を初めあの頃のメンバーは大きく変化しているのですね。いい意味にも、悪い意味にも」
クスリと楓が口元に手を当てて笑う。その後にキュッと口を結んで俯いてしまった。どうしたのだろうかそう考えて湊は楓に近づく。ゆっくりと急に大きな音を立てたりしないように気を払いながら楓の目の前へと移動すれば、黙ってしゃがみこみ楓の顔を覗き込んだ。震えていた。ただただ楓は震えて、無理矢理のぐちゃぐちゃの笑顔を浮かべていた。
「学園の内部事情も大きく変わってしまっている……私ただ一人があの頃に取り残されて……」
目を見開いた後、そっと楓の頭をなでた。正直に言えば恥ずかしくて仕方がない。湊は楓が学園から離れていることを羨ましいと思ったことがあった。毎日続く殺戮と、争いそれに疲れ果てて楓はいいな、こんなところにいなくてすむのだから、と。それが酷く悲しく思えた。勿論この学園に残るのも辛いかもしれない。しかし今の楓はどうだろう? ちっとも気楽そうにしてはいないじゃないか……。
33
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/25(土) 13:07:13 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
小さく、楓の肩が揺れた。泣いたのだろうか? そう考えて湊の焦りは頂点に達した。楓は何故だか一度泣いた後のテンションが凄まじく不安定になるのだ。ハイテンションになったかと思えば、急に沈みだすし、そうなってしまうと湊もついていけなくなってしまう。クスリと抑えていた笑い声が漏れるのが聞こえた。はっとしたように港が顔を上げれば楓が腹を抱えて大笑いしていた。口元は押さえているが笑い声で完全に漏れている。コイツは……と思わず拳を握るが相手は一応病みあがり。深くため息をついて振り上げそうになった拳を押さえる。
先ほどまでのしおらしさは何処へやら、もはや笑い声を抑えることさえやめて、声を上げて笑う楓。明るい声で「いやー、相変らず騙しやすいですね。何とかしないと足元すくわれますよ?」と言った。湊はふいっと顔を逸らして「う、五月蝿いです。相変らず悪趣味ですね」と言い放った。少し首を傾げた後、サッサと自分の席に座ってしまった湊の横に楓は移動する。どこか不機嫌そうな湊の顔を見て、僅かに沈んだ表情を見せた。もっとも見ているのは口元だけなので湊からすれば胡散臭いだけなのだが。
「……すみません、久しぶりだったから……」
俯いて謝罪の言葉を口にする楓を横目で見た後何も言わずに、ノートパソコンのキーボードを 叩き始める湊。どうしよう、本気で怒っているかもしれない、そうな風に考えて楓は恐る恐る顔を上げた。楓の予想に反して湊は笑みを浮かべていた。楓には見えないのだから、意味はないのだが、安心したような穏やかな笑みを浮べていた。
「あの時のこと話しますよ。知らないままじゃ嫌でしょう?」
そっと湊が口を開いた。首をかしげて楓が口をパクパクと動かす。穏やかな笑みを浮かべた湊はやけに平坦な調子で話し始めた。むごたらしくて、血に染まった忌まわしい記憶を……。楓が今の湊の表情を見たらどんな顔をするのだろうか? 驚いたような表情をするのだろうか? 君が悪いとでも言うような表情をするのだろうか? それほどまでに湊の浮べている笑みは異質で、気味の悪い物だった。
「……それで、僕が能力を暴走させてしまいましてねぇ。殺してしまった……何人も、何人も。見方も、敵も。結局悪いのは闇じゃない……僕、なんですよ」
もういい、そういうかのように楓が首を振る。今の湊はどこかおかしい、そう考えてため息をつく。断片的な欠片を手に入れながらもその先を聞くことを躊躇った。大体予想は出来る。湊が殺してしまったという人物の中に紅零たちが湊に敵意を見せる原因となった人がいるのだろうと。楓はため息をついて「この学園……聖鈴学園はどうなっているのでしょうか」と呟いた。また湊に話を聞くのもいいかもしれないそう思いながらも、現在の湊から漂う不穏な雰囲気にはそれをさせない何か、があるように感じた。優希辺りに聞いてみるかそう考えて、軽く額を押さえた。
「嫌な予感がしますね……当たらなければよいのですが」
ふと呟いた楓の言葉を合図だというかのように、生徒会室のドアが乱暴に開かれた……。
34
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/25(土) 13:09:54 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
またミスに気付いていながら直すのを忘れていた……。
×どこか不機嫌そうな湊の顔を見て、僅かに沈んだ表情を見せた。
○どこか不機嫌そうな湊の雰囲気を察して、僅かに沈んだ表情を見せた。
です。申し訳ありません>< 盲目キャラはあまり書かないので凡ミスが多いかと思われます。
35
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/26(日) 20:01:42 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
そこに立っていたのは刹だった。全くの無表情でスタスタと楓に近づく。普段は隠しているさっきも今日は隠しきれないようだった。普段一緒にいる紅零もいないことから考えれば、指令を受けての単独行動か、独自の判断で勝手な行動をしているかのどちらかだなそう考えて湊はため息をつく。不思議な事に先ほどまでの妙な雰囲気は払拭されていた。どうやら気が別の方向に向けばあっさりと切り替えが出来てしまう人間らしい。ここまであっさり切り替えられてしまうと、ビクビクするのも馬鹿らしくなってくるような気もする。
ドアの開く音に驚いて身体を震わせた後、少しだけ首を傾げた楓に刹は容赦なく日本刀を突きつける。刺しはしなかったがその鋭く光る切っ先をただただ楓に向けた。ヤバイと動き出した湊は能力で作り上げたナイフで囲んで動きを止める。楓は刹の実の兄だというのに、刀を向ける事に躊躇いなどは一切ないようだった。その瞳に宿っているのは深い闇。紅零やその他闇のメンバーとは比べ物にならないほど暗くて冷たい闇。紅零といるときは決して見せる事がない絶対なる闇。その闇を真正面から見た湊は思わず顔を逸らしてしまった。
「刹、ですか?」
震える声で楓が問いかけた。刹は醜く、歪んだ笑みを浮かべて一度刀を下ろして楓の耳元に口を寄せる。そして静かな、平坦な声で「えぇ……僕は刹ですよ? 貴方を殺しに来た。貴方が光である以上、僕が咎められる事はなぁい」と言った。しばらくの沈黙の後、刹はゆっくりと楓から距離をとる。まるで踊るかのように……。心底楽しそうに笑いながら、ある程度離れたところでスイッと刀を構えた。まるで抵抗されるとそう考えているかのように、慎重に間合いを計いる。その目には獲物を確実に狙う鷹のような鋭さがあった。
グッと湊が自分を取り囲むナイフに手を伸ばしたところで楓が小さく首を振った。そうしてやけにはっきりとした声で「湊、手は出さないでいいですよ。この子は少し厄介ですからねぇ」と言った。まるで見えているかのように湊のいる方から刹のほうへと体の向きを変更させた。それを見た刹は、右手を上げて湊の周りにあったナイフを消す。しかし開放というよりは新しく作り上げた檻に閉じ込めただけだ。
「ちょ、楓さん!? 貴方戦えるんですか!?」
叫ぶかのように湊が声を上げた。フッと音もなく楓が車椅子から立ち上がって両目を隠すように巻いてあった包帯を取った。その下から現れたのは僅かに濁った水色の瞳。見えているのかは怪しいのだが、それを見た刹が僅かに怯んだ。楓は伝統の光に視線を移して眩しいと言うかのように目を細めた後に小さくため息をつく。
「じゃあ始めましょう? この聖鈴学園ではコレが普通なのでしょう?」
36
:
神音 光希
◆ptZpvaYoVY
:2011/06/26(日) 20:09:51 HOST:i118-17-46-116.s10.a021.ap.plala.or.jp
初めまして! 神音光希と申します。
大分前から読ませて貰っていましたが、なかなか感想が投稿出来ずにいました。
今までずっと読んでて、描写がとも分かりやすくてスラスラと読めたりしました。
シリアスとかファンタジーとか僕は大好きなので、とても楽しく読むことができました。
僕も小説を書いていますが、なかなか描写がかけないので見習いたいと思います……。
これからも感想を書いていきたいと思いますので、宜しくお願いします!!
37
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/26(日) 20:47:42 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>神音 光希様
初めまして。
描写についてはまだまだ未熟でございます。自分でもあれ? と思うような言い回しが多々ありますから
私もシリアス、ファンタジーは好きなので楽しく書いています。それに実力が追いついていないのが現実ですが。
コメント有難うございました。
38
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/02(土) 14:38:09 HOST:i121-115-45-73.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>35
伝統の光→電灯の光です。ミスが多くてすみません
_________________________________
しばらく睨みあった後、フッと楓が天上へと手を伸ばす。それに遅れて刹が楓の懐に飛び込んだ。牢屋の中から出ようと必死になりながらもこんなのが、普通だと思われてはたまらないと湊は考える。それに刹は敵ではあるが目の前で血が流れるのは見たくない。刹は本気だし、楓も同じだった。刹の能力で作り上げられた牢屋がガチャガチャと音を立てるが、鉄格子を捻じ曲げるほど湊は怪力ではない。低く舌打ちをして能力を使おうとしたところで、刹が声を普段はないほどに荒げて言う。その姿に思わず湊も動きを止めて、刹を見つめる。
「ふざけるなよ……お姉様を捨てておいて今頃のうのうと現れやがって。しかも光につくだ? 何処まで馬鹿にしてくれんだよ!?」
ヒュンッという風斬り音とともに刹の刀が振るわれた。それなのに楓は慌てることもなく、静かに目を閉じて繰り返し何かを呟いている。今度こそと湊がポケットの中に手を突っ込んで、種を一つ取り出す。湊の能力の一つ植物、植物操作は自在に植物を操ることができる。強度や動き、操作速度まで操作できる反面近くに植物や、その種子がないと意味を成さない。それ故に湊は普段から植物の種子をいくつか持ち歩いていた。拳銃などの武器を使うのもいいのだが、それだと大抵の能力者には防がれてしまう。テレキネシスやテレポート、音掌握などさまざまな能力がある時点で、能力なしに戦おうというのが間違っているのである。
湊が手の中にある種子を成長させようと、意識を集中し始めたその時、大きく視界が揺れた。それは刹も同じようで、まっすぐと楓を切り裂く予定だった刀は勢いを失って下へと刃の軌道を変化させる。唯一の救いといえば下へと向かった刀が刹の足を切り裂いてしまわなかったことだろうか。2、3歩よろめいた後に右手で額を押さえる刹に目を向けて、楓は静かに悲しそうな笑みを浮かべた。湊の方はといえば訳が分からないというような表情をしながら、両手を下へと下げている。手を上げようにも力が入らないのだ。手に握っていた種子は音もなく床へと落ちた。
「異端に裁きを、私に守護を」
平坦な声で楓が告げる。鋭い光が走ったかと思えば、刹と湊の体から力が抜けて床へと突っ伏す。湊の場合は小さな牢屋に閉じ込められていたため、顔面を強打することになってしまったのだが。痛む顔を押さえようにも、力が入らない。意識があるのが不思議なぐらいに指一つ動かすことさえ出来なかった。刹が絞り出すような声で何かを言っているが湊も、楓もそれを聞き取ることは出来ない。遅れて刹の刀が倒れる音が響いた。不自然に遅れて倒れた刀に楓は芽をやったが、すぐに興味なさ気な表情をして、床に突っ伏す刹に目をやる。
小さく息を吐いた後に、楓は静かに指を鳴らした。それに少し遅れて湊と楓の体に妙な圧力がかかる。ビクンッと不自然な位に体を震わせて湊は声を上げた。刹の方は声さえ出せないようで痙攣するかのように体を震わせている。その目だけは鋭く楓を睨みつけているが、涙が溜まってしまっているため恐ろしさなどはかけらも感じない。小さく楓は口を動かす。声には出さないが謝るかのように“ごめんなさい”と。優位に立っているはずなのに、少しも嬉しくなさそうに、ただただ口を小さく動かしている。
39
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/02(土) 14:42:08 HOST:i121-115-45-73.s04.a001.ap.plala.or.jp
しばらく睨みあった後、フッと楓が天上へと手を伸ばす。それに遅れて刹が楓の懐に飛び込んだ。牢屋の中から出ようと必死になりながらもこんなのが、普通だと思われてはたまらないと湊は考える。それに刹は敵ではあるが目の前で血が流れるのは見たくない。刹は本気だし、楓も同じだった。刹の能力で作り上げられた牢屋がガチャガチャと音を立てるが、鉄格子を捻じ曲げるほど湊は怪力ではない。低く舌打ちをして能力を使おうとしたところで、刹が声を普段はないほどに荒げて言う。その姿に思わず湊も動きを止めて、刹を見つめる。
「ふざけるなよ……お姉様を捨てておいて今頃のうのうと現れやがって。しかも光につくだ? 何処まで馬鹿にしてくれんだよ!?」
ヒュンッという風斬り音とともに刹の刀が振るわれた。それなのに楓は慌てることもなく、静かに目を閉じて繰り返し何かを呟いている。今度こそと湊がポケットの中に手を突っ込んで、種を一つ取り出す。湊の能力の一つ植物、植物操作は自在に植物を操ることができる。強度や動き、操作速度まで操作できる反面近くに植物や、その種子がないと意味を成さない。それ故に湊は普段から植物の種子をいくつか持ち歩いていた。拳銃などの武器を使うのもいいのだが、それだと大抵の能力者には防がれてしまう。テレキネシスやテレポート、音掌握などさまざまな能力がある時点で、能力なしに戦おうというのが間違っているのである。
湊が手の中にある種子を成長させようと、意識を集中し始めたその時、大きく視界が揺れた。それは刹も同じようで、まっすぐと楓を切り裂く予定だった刀は勢いを失って下へと刃の軌道を変化させる。唯一の救いといえば下へと向かった刀が刹の足を切り裂いてしまわなかったことだろうか。2、3歩よろめいた後に右手で額を押さえる刹に目を向けて、楓は静かに悲しそうな笑みを浮かべた。湊の方はといえば訳が分からないというような表情をしながら、両手を下へと下げている。手を上げようにも力が入らないのだ。手に握っていた種子は音もなく床へと落ちた。
「異端に裁きを、私に守護を」
平坦な声で楓が告げる。鋭い光が走ったかと思えば、刹と湊の体から力が抜けて床へと突っ伏す。湊の場合は小さな牢屋に閉じ込められていたため、顔面を強打することになってしまったのだが。痛む顔を押さえようにも、力が入らない。意識があるのが不思議なぐらいに指一つ動かすことさえ出来なかった。刹が絞り出すような声で何かを言っているが湊も、楓もそれを聞き取ることは出来ない。遅れて刹の刀が倒れる音が響いた。不自然に遅れて倒れた刀に楓は目をやったが、すぐに興味なさ気な表情をして、床に突っ伏す刹に目をやる。
小さく息を吐いた後に、楓は静かに指を鳴らした。それに少し遅れて湊と刹の体に妙な圧力がかかる。ビクンッと不自然な位に体を震わせて湊は声を上げた。刹の方は声さえ出せないようで痙攣するかのように体を震わせている。その目だけは鋭く楓を睨みつけているが、涙が溜まってしまっているため恐ろしさなどはかけらも感じない。小さく楓は口を動かす。声には出さないが謝るかのように“ごめんなさい”と。優位に立っているはずなのに、少しも嬉しくなさそうに、ただただ口を小さく動かしている。
______________________________________
二つ変換ミスを発見したので修正。圧力を掛けられたのは楓じゃないのに楓と書いていたとか……
40
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/02(土) 15:40:49 HOST:i121-115-45-73.s04.a001.ap.plala.or.jp
ふと、楓が湊のいる牢屋に近づいてきた。苦しげに声を上げながら体を震わせているその姿に顔を向ければ、心底後悔したような表情を浮かべる。フラリと僅かに視界が揺れるのを感じながらもただただ湊を見つめる。湊には今それがどんなことだかという事にに思考を割く余裕なんてないのだが、楓は無言で湊を見下ろしていた。悲しそうにそれでも何かを堪える様に複雑な表情をしながら。しばらくした後にフッと体を刹の方へと向ける。ゆっくりと床に転がる刀に手を伸ばす刹を見て、流石にランクの違いで効き目に違いは出るのかとため息をついた。出来ることなら刹を傷つけたくはなかった。数少ない家族で実の兄弟を手にかけたいなんて微塵も思っていないのだ。当然といえば当然のことであろう。
「う……あぁぁぁぁぁ!!」
両目に涙を溜めて湊が絶叫する。その声に驚いた刹がぴたりと動きを止めた。先ほどまでは震えていた湊の体がピタリと動かなくなる。それに目をやることはなく楓は平坦な声で「私が使ったのは能力者にのみ有効な魔法です。傷はつきませんし、一時的に意識がなくなるだけなので安心して眠ってくださいね」と告げて笑った。色々な感情でぐちゃぐちゃになったぼろぼろの笑顔を……。だからと言って魔法の発動を止めたりはしなかった。今魔法を止めたりすれば先に意識を失った湊を含めて、刹はここにいる全員に牙をむくだろう。自分が殺されるは嫌だし、刹に自分を殺させるのも嫌だった。それに兄弟の問題に、関係ない湊が巻き込まれるのも嫌。意識がなくなった後も圧力をかけられ続ける湊に謝罪の言葉を述べながら、楓はさらに圧力を強いものへと変化させる。
大きく刹の体が仰け反る。自然に圧力から逃れようとしているようだが、もう力が入らなくなってしまったようだ。意識を失うのも時間の問題だろうか、そう考えて静かに声を上げ始めた刹に近づく楓。刹のその手は刀に届く寸前で伸ばされていた。自分の顔の横に立った楓に助けを請うように顔を向けて、両目に溜まった涙を流していた。その姿を見て楓の心が揺らぎそうになる。助けてあげてもいいのではないだろうか? この子は意識がない人を襲ったりする子ではない、自分は殺されてしまうかもしれないがその前に少しだけでも躊躇いを見せてくれるのではないだろうか? もしかしたら一瞬でも昔のように笑いかけてくれるのではないのだろうか? そう言った考えを首を振りながら必死に頭の中から追い出そうとした。出来るだけ刹の顔を見ないように顔を逸らす。
「ゆ、るさない……」
ポツリ、と刹が呟いた。その後はもう声を上げることさえせずにぐったりとしていた。しっかりと閉じられた目からは意識を手放した後でも涙が零れている。指をならして湊と刹に圧力をかけていた魔法を解き、そっと刹の頬に触れた。妙に冷たいようなそんな気がして、僅かに焦りを見せる。もしかして死んでしまったのだろうか? 混乱に落ちかけた楓を救ったのは小さな、刹の口から漏れる吐息だった。ほっとしたように息を吐いて静かに刹の頭を撫でてやる。刹は何の反応も示さなかったが、楓はただただ満足そうに笑っていた。
しばらくの静寂の後、楓は再び両目を隠すように包帯を巻いて車椅子に座った。いつの間にか牢屋が消えて、冷たい床に突っ伏した湊はソファに寝かせて、ブレザーの上を掛けてやる。三十分ぐらいで目を覚ますだろう、そう推測してそれまでに刹を紅零に押し付けるか寮に送り届けるか、そう考えて刹を抱きかかえる。ゆっくりと動き始める車椅子が自動だということが今は凄く助かった。
ふいに動き始めていた車椅子が停止した。機械的な音声は「前方に人。しばらくお待ちください」なんていう風に告げる。教師でも見回りに来たのだろうか、楓はそう考えて小さく首をかしげた。そんな楓の耳に次に飛び込んできた声は車椅子が発する機械的なものでも、腕の中にいる刹の声でも、横たわる湊の声でもなく、低く静かな冷たい声……。蓮の声だった。
「相変わらず甘いな。楓は」
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