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鳥籠の中の雪兎は
51
:
雪音
◆mzHXeB1fFY
:2010/12/15(水) 20:47:16 HOST:180-146-101-51f1.shg1.eonet.ne.jp
時が、止まった気がした。
どうして、とか、何で、とかそんなこと考えられる余裕がなかった。ただ、周りの音も一切聞こえなくて、瞳に映るのも貴方の姿だけ、たったそれだけだった。
それだけなのに、すごくすごく胸の奥が痛くて、……懐かしかった。
◇
「そーらっ!たこ焼き買ってきたよーっ!」
「うわ、熱々じゃない。よし!早く食べよ、佳織」
最寄り駅の駅ビルはきっと若者の溜まり場所。こんなにも中高生が集まる場所ってこの辺じゃこの駅ビルくらいだと思う。だってビルにある店舗は有名な高級店から100円ショップまで幅広くあるし、メジャーなファーストフード店もたくさんあるんだから、と思いながら、空は熱々のたこ焼きをはふはふしながら頬張った。
佳織が器用に楊枝でたこ焼きを食べているのを見て、空は羨ましそうに目を細めて笑う。
「……佳織、最近はどーなの?」
「どーって別に、健斗とはラブラブですよ相変わらず」
「そっか。……別れてから相手の大切さに気づくような馬鹿みたいなことしちゃ駄目よ」
「ふふ、りょーかいっ」
佳織と佳織の彼氏は周りから見ても仲がいい。……だからこそ余計心配してしまう。
――あたしのように、なってしまったら
不吉な考えをどこかへ飛ばすかのように、空はたこ焼きを丸々一つ、口に入れた。
かつお節が喉に詰まって、咳き込んでしまう。それに気づいた佳織が急いでペットボトルのお茶を空に差し出して、空は涙目になりながら受け取った。
「けほっ、けほ……。うぅ、ありがとう佳織」
「どしたの空?空らしくないじゃん、……ってまーたどうせ根岸のこと」
「う……ん。でも佳織にはなってほしくないの。あたしと圭吾みたいには」
圭吾、と言ったその部分だけものすごく懐かしそうな愛おしそうな、辛そうな苦しそうないろいろ複雑に混ざり合った表情を浮かべながら空は微笑した。笑うことでしか、この気持ちを心に閉まっておけない気がして。
佳織は何も言わずに空の頬に手を伸ばして、つねった。
「痛いんだけど、佳織さん」
「……空、」
「何よー?あ、別に圭吾のことを未練たらしく想ってるわけじゃないからね?」
「ばか、バカ。……空が根岸のこと好きなくらい私にはわかるからっ!それより……っ」
苦しそうに顔を歪めて佳織は口を後ろめたそうに閉じた。空は佳織の長い茶髪に触れて華のように微笑んで、「バカはどっちよ」と呟いた。
空は佳織が言いたいことがわかっていた、だからこそ自分を想って最後まで言葉を紡がなかった佳織の優しさが温かかった。今にも崩れてしまいそうなくらい顔を歪めている佳織にむけて空は明るく笑った。
「あのね、あたしは圭吾に彼女が出来たことくらい知ってるのよ」
「うそ……ッ!」
「嘘ついてどうすんの。……ショックだけどね、でもあたしは、……圭吾が好きなんだわ」
遠くを見つめながら、それでも意思の強い瞳と感じながら佳織は「空らしいね」と笑った。その笑顔には頑張れでも諦めろでもなくて、ただ、空のしたいことをすればいいという佳織の願いがこもっていた。
◇
「んじゃそろそろ帰らないとね」
携帯で現在の時刻を確認しながら佳織が言った。
確かに駅ビルの窓から見える景色は夕焼けを通り越して暗くなり始めている。空も「そうだね」と名残惜しそうに呟きながら出口へと歩いていた、とき。
空の、足が止まった。
「……空?」
「…………っ!」
「空?そーら?空さーんっ?」
どれだけ佳織が空に話しかけても返事はない。返事どころか佳織がここにいるという存在さえも忘れてしまっているかのように立ち止まっている。空は小さく息を呑み、まばたきをする。
佳織は空の行為を不審に思い、空の視線の先に目を向けた。
そこには、空を一直線に向いたまま立ち尽くしている1人の男子、根岸圭吾がいた。
お互いの視線を絡めたまま、空も圭吾も微動だにしない。周りの景色も何も見えてないような、周りの音も何も聞こえてないような、そんな風に立ち止まっている。2人の時間は、今止まっているかのように。
「……け、いご」
今にも消えそうな、なくなってしまいそうな声で空は囁いて、早足で歩き出した。
佳織は優しい眼差しを空にむけて、圭吾が空に向かって走り出したのを確認して、微笑みながら近くのベンチに腰掛けた。
***
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