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鳥籠の中の雪兎は

32雪音 ◆mzHXeB1fFY:2010/11/20(土) 10:52:16 HOST:119-231-157-124f1.shg1.eonet.ne.jp
  【君に送る10のプレゼント――花束】

「す、好きですっ! あの、よかったら付き合ってください!」
「ごめんね」

 即答。
 勇気を振り絞ってやって来たであろう少女をあっさり突き放した。
 悪いとは思うが、相手も悪いと思う。せめて俺を引き留めたのが今日じゃなければ、ここまでの早い返事はしなかったかもしれないのに。今日は、誰にも俺の行動を一秒たりとも止めてほしくないんだ。
 案の定、目の前の少女は涙を流し始める。見たことがない少女だけど、どこか近くの高校生だろうか? 少女の隣にいるその少女の友達らしき子は、その子を宥め、なぜフるんだと言わんばかりに俺を睨む。

「じゃ、俺急いでるから…………」

 苦笑いしながら、一刻も早く此処から立ち去ろうとすると、俺を睨んでいた子が立ち上がる。

「待ってください! この子の事何にも知らないのに断るなんて、おかしいじゃないですか!」

 呼び留めないで、そう言いそうになった言葉を飲み込む。
 少女にそう言われると、仕方がなく手に持っていた花束を少女達へ見せつけた。それは、全体的に白でまとめあげられた美しい花束。
 少女達は、その花束を目にしても俺が何を言いたいのか分からないらしい。お互い目を見合わせて不思議そうな表情を浮かべる。

「俺には愛してる人が、いるんだ」

 その言葉を聞くと、少女達は花束が俺が言う愛してる人に渡す物だと気付く。
 今度こそ、俺を好きだった少女は泣き崩れた。俺は罪悪感を感じながらも、足を前へと進ませ、その場を立ち去ろうとする。今度は流石に少女の友達は俺を呼び留めなかった。

―――― 

「ちょっと遅くなった。ごめん、待たせたね」

 彼女は、そよそよと草の香りを乗せた春風に吹かれている。
 ああ、今日もなんて美しい事か。今にも抱きしめたい衝動に駆られるが、その儚く弱い体じゃ俺が抱きしめたらすぐに折れそうで、その衝動を抑える。

「今日の花束の百合、綺麗だと思わない? 君、百合好きだったよね」

 彼女は何も答えずに春風に吹かれているだけだ。それでも、俺にはその姿が「ありがとう」と語っているようで、思わず「どういたしまして」と微笑んでしまった。

「それでも、君には勝てないね。やっぱり君が世界で一番綺麗みたいだ」

 こつこつと彼女に一歩一歩近付いていく。
 近付けば近付くほど『愛しい』は増えていく。
 とうとう衝動が抑えきれなくなって、花束を彼女の前に置くと、彼女にキスをした。甘くて優しい味と香り。

「大好きだよ」

 俺がキスした先は、紫色に小さく儚げに咲き誇る菫の花。
 俺は、彼女が死んだこの場所で彼女の代わりに生き続ける菫草にキスをする。 
 花に花束を贈り、その花束の中に君への愛しさも入れておこう。


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