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鳥籠の中の雪兎は
11
:
雪音
◆mzHXeB1fFY
:2010/10/26(火) 19:18:21 HOST:180-146-97-244f1.shg1.eonet.ne.jp
[遊女の恋] #5*end /GL注意/舞台は遊郭となりますので苦手な方は注意
――あたしは、この男を殺したのだ――
菊屋の若旦那と話していたであろう、顔も知らない若い男が、目の前でいろんな器官から水を垂れ流しながら、震えている。
周りにいた男客も、遊女たちも、一斉に叫び声をあげたり、急いで逃げようとしていたりする。
(ああ、こんなことをしたら殺されるんだろうな)
以外に、主犯である自分がこの騒ぎの中で、最も冷静である。そんな考えすらも、冷静に浮かんだ。
殺される? 自分達を家畜の如く扱ってきた奴らに何故殺されなければいけないのか?
コイツラに此処へ連れて来られて、コイツラにこんな生活をさせられて、コイツラに心も体も汚されて。
冷静だった脳が、一気に熱くなる。何かが切れた音がする。
もう何もかもが憎い憎い憎い憎い憎い! その瞬間、この遊郭で働いている者も、雇っている者も、客も、遊女も、何もかも憎くなった。今まで押し込んできた感情が、蓋をあけられたかのように止まる事を知らずに溢れだす。汚くて濁った感情が。
全員死ねばいい! 小鳥遊以外全員憎い! 小鳥遊以外全員死ね!
手に持っていた小刀を、使い方もしらないのに振り回した。何人かの男は自分を止めようとしたり殺そうとしたりした気がするけど、体に深い傷をつけられようが、片っぱしから近くの人間を斬っていった。他の男客と比べて、優しくていいお兄さんの男客でも、幼い頃からずっと一緒に此処にいた遊女でも、今まで仲良くしてきて小鳥遊の次に好きだった遊女でも、皆斬って言った。
気付けば、自分の周りの者はすべて倒れていた。正しくは、自分の周りの者はすべて死んでいた。女にやられたとは思えないぐらい残酷な屍と化して。沢山あったはずの建物さえも、ほとんどの物が全壊。マシな物は半壊。
蝶蘭は、赤く染まっている。自分の血なのか他人の血か分からないが、小鳥遊に褒められた鶯色の髪さえ、紅蓮である。唯一違う色が、これまた小鳥遊に褒められた瑠璃色の瞳。そこには何の感情も浮かんでいなく、ただ、目の前の現実をしっかりと受け止めている。
がさり
音が鳴る。あまりにも小さな音であったが、もう自分以外の誰も動くはずのないこの場所なので、意外に大きな音に聞こえた。
その音の発信源を、蝶蘭はゆっくりと首だけを動かして見る。その先にいたのは――
「小鳥遊」
小鳥遊も、また真っ赤になっていた。
見事な黒真珠のような輝きを持つ黒髪も、彼岸花の色だった。赤椿色だと思ってた瞳も、今では血の色にしか見えない。
小鳥遊の手には、日本刀が握られている。それももちろん真っ赤。刀は、蝶蘭の小さな頼りない小刀とは反対に、細身の小鳥遊に持てるのかというぐらいしっかりとした良い品。それが真っ赤に染まっていて、小鳥遊も真っ赤に染まっていながらも今普通に動いているということは、彼女も自分と同じ行動をしたということだろう。『皆殺し』。だとしたら、説明がつく。戦いの経験もない蝶蘭が1人で、しかも小さな小刀1つでできる訳がない。理由は分からないが、すぐに蝶蘭は、小鳥遊は自分と同じように周りの人間を殺したと悟る事ができた。小鳥遊も、蝶蘭が何を犯したのか、既に察しているようだ。
小鳥遊は、笑っていた。それはそれは辛そうで、でも少し嬉しそうな笑みだった。
「わっちは蝶蘭を愛していんす」
すごくすごくすごく待ち望んでいた言葉。でも、特に感動はなく、蝶蘭は静かにその言葉を受け入れる。周りは、時が止まっているかのように静かだった。
「あんさんの為ならこなことしても構んせん。後悔していない。なぜなら、どなたよりも愛してるから」
「…………」
「だから、だから――――」
「わっちと逃げ出してくれんせんか? この遊郭から……世界から!」
小鳥遊はまだ言葉を続けようとした。
だが、それは叶わなかった。
なぜなら、
その口は蝶蘭の口によって塞がれていたから。
赤しかない二人っきりの静寂な場所で、透明な涙が2雫堕ちて行った。
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