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廃墟に咲く花

11 ◆Hh/9IKsAlU:2010/12/11(土) 17:36:05 HOST:softbank220001002089.bbtec.net

○ 追憶 −Souvenir− ○



「――……ドーレル? どこにいるのドーレル?」

 小さくか細い声が王宮の廊下に響き渡る。ひらひらとスカートの裾を靡かせて進み、そして王宮の離れの建物、使用人部屋へと少女とも女性ともとれるような容姿をした姫は入っていった。
 王宮の離れといっても城の敷地内とは変わりない。しかし、煌びやかな装飾やあちこちにある窓も減少している。
 けれどそれもまた、味のある建物であるのは確かだ。

 室内用のドレスであるとはいえ、姫の身にまとっているドレスはふわりと舞い、かつかつと音を立てながらハイヒールは光を放っている。姫の首筋を通って腰までかかる薄い茶髪はふんわりとカールされて歩くたびに美しく揺れる。姫の大きな蒼い瞳も、筋の通った鼻も、華奢な白い身体も全てが造りもののように美しい。
 姫はただ一直線に、とある部屋を目指している。
 そして目的地である部屋、『使用人書庫』と書かれたプレートの下がっている部屋にノックもせずに開いた。

「ドーレル!」
「……何です? 非常識なクレラお嬢様」
「一応常識あるもの」
「どうでしょうね、ノックもせずにこんな朝早くからやってくるなんて」

 ドーレルと呼ばれた男性は呆れたような顔をしながら、読んでいた厚い本を閉じ眼鏡を外して優しい瞳をクレラに向けた。そして黒い髪をさらりと耳にかけて微笑んだ。

「どうかされましたか? お嬢様」
「ん、……昨日ね、お父様と隣国の王様の会談があったの。……でね、隣国の次期王様があたしの4つ上らしいんだけど、……今度一緒にお食事会することになっちゃったの」
「クレラお嬢様にもついにそういう話が出るようになりましたか」
「……婚約の話もあるのよ」

 クレラは目元に涙を溜めながら顔を伏せて、薄茶色の髪の毛をくしゃっと触った。
 その姿を横目で見ながらドーレルは小さくため息をついて、埃のたまった本棚へと目を配って一冊の本を取り出してクレラに差し出す。

「クレラお嬢様がまだ4歳の頃……、私が12のときでしょうか。これをお嬢様に読みました」
「……ええ、覚えてるわ『小さな姫の恋』でしょう?」
「その通りです、まだ子供の姫が写真で見た隣国の王子様に恋をして、毎晩手紙を書いて夜空に浮かぶ月や星に願うのです」
「……『あなたに、あいたい』」
「そう、そして姫が初めて自国を出て王子様に会いに行って、また恋に落ちる」
「そして年月が過ぎて2人は結ばれる……この話はあたしが大好きな絵本よ」
 
 そう微笑みながらクレラはドーレルから『小さな姫の恋』と表紙に書かれた可愛らしい絵本を受け取り、胸に抱いて優しく触れた。
 クレラは小さく笑みをこぼしながら、明るく笑ってみせた。

「ありがとう。隣国の王子に会いに行く決心がついたわ。……けどねドーレル」
「……何です?」
「あたしが好きなのは、あたしが幼い頃からずっと想ってるのはドーレル、貴方よ」
「……ええ。知っています。……けれど私にも想い人がいるのです。ですので――」
「知ってるわ。だからあたしはこうやってドーレルと話せるだけでいいの」

 ドーレルは苦しそうな顔をしながらクレラを見つめていた。しかしクレラはドーレルとは裏腹に心の底から幸せで満ちているかのように微笑んで、華奢な身体を回れ右をして入ってきた扉へと足を運ぶ。
 そして扉の前まで来ると、また、ドーレルの方を向いて目を細めながら笑った。
 クレラはゆっくりと部屋を出て行った。ドーレルはクレラがいなくなった扉のほうを見つめたままため息をついた。けれどすぐに眼鏡をかけて読みかけの本を手にとった。

 書庫にある窓から入る朝の日差しは、いつもと変わりなく優しく温かく本棚を、書籍を、そしてドーレルを照らしていた。



◇◇◇
(...1)
(どこかの小さな国のお姫様クレラと、そこに仕える使用人ドーレル、そしてこれから出てくるドーレルの想い人が主要となる物語)


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