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.。.:*・゚☆虹空☆.。.:*・゚
416
:
海
◆Gv599Z9CwU
:2010/08/29(日) 15:24:16 HOST:61-26-251-166.rev.home.ne.jp
◇◇
「……で? 見たことのないものだったけどおばあさんが説明してくれたから買ってきた? そんな理由で買ったのかお前は」
目の前に置かれたふたつの果物を嫌そうな顔で凝視しながら、ラウルはあきれ混じりに言って溜息を吐いた。その間にもそれらを凝視している。まるでなにかを探るように、どこかで見たことがあるとでも言いたげな視線で。
「だって、親切なおばあさんだったから……」
「だからといって知らないものをむやみやたらに買うものじゃない」
「そうなんだけど、でも……知らないものって試しに買ってみたいって思うじゃない?」
「思わない。残念ながら我はお前とは考えが違うんだ」
「そんなことは承知の上! とりあえずなにか作ってくる」
「……これらでか?」
「ちょっとしたもの。茶菓子……みたいな」
「あいにく、ここには紅茶などないがな」
「わかってるわよ」
変わった形のそれらふたつを抱えて、ソフィーは少し離れたキッチンへ立つ。しばらくすると心地よい調理の音が響いてきて、ラウルは椅子にもたれかかったまま書類にペンを走らせた。
世界に見放された少女が、人を信頼して買ったという。誰を頼ることもできず路頭に迷い、普通なら世界も人をも憎むのが当然だと思っていた。
そのラウルの価値観を、ソフィーは鮮やかに裏切ってみせたのだ。
「……なぜ、世界を憎まない」
小さな小さなつぶやきは、誰に聞こえることもなく空間へ溶けていく。
「憎んでいれば、壊してやることだっていとわないのに」
簡単に、壊してだってやるのに。
くしゃりと前髪を掴む。わずらわしいほどまばゆい金の髪を妬ましそうに見つめて、ラウルはちっと舌打ちした。
ふとよぎるのはソフィーの艶やかな黒髪。腰まで伸びたそれは陽の光をあびてさらに艶やかに見え、まだ幼さの残る顔立ちによく映える。
(ソフィーが金の髪のほうが似合っているな)
自分の姿を鏡に写して見たことはないが、おそらくソフィーのほうが似合っているだろうとラウルは思う。そうすれば金髪碧眼で、とても見栄えのする少女になるだろうに。
「……ラウル?」
突然呼ばれた名前にはっとしてそちらを見やる。そこにはソフィーがバスケットを抱えて立ち、心配そうに双眸が揺れていた。
「いや……なんでもない」
「そう? ならいいけど。それより茶菓子、結構早くできたと思わない?」
目の前に突きだされたバスケットの中に詰めこまれている、さまざまな形のクッキー。中にはいびつなものもあるが、それはそれで仕方ない。
「確かに早いな。あの得体の知れないもののおかげか?」
「どういうこと? ラウル、あの果物のこと知ってるのっ?」
「どこかで見たことあると思ってな、思いだした」
一度しか食べたことのないものではあったが、あの外見と中身とのギャップが激しかったものをたやすく忘れていた自分自身に腹が立つ。
「思いだしたといっても名前じゃなくてふたつ名だけどな」
「ニックネームみたいな?」
「そうだな、通称それは『神の果物』だ」
「神様の……?」
「神が食べると言われているものだ。外見にそぐわず、中身は甘美。明らかに神が好むようなものじゃないか」
神なんているのかと聞かれれば、知らないと答えるが。
「だからこれも甘い」
ひとつのクッキーをつまんで口に運ぶ。入れた瞬間広がる甘みに少々むせそうになるのを必死で抑え、なんとか飲みこむ。
「おいしい?」
「……甘いがな」
はあ、と溜息を吐いて、ずっと気になっていた疑問を投げかけた。
「――なぜお前は、世界を憎まない?」
問いかければ、なにを言うのだとばかりに首がかしげられる。
「お前は世界に見捨てられたのと同じだ。両親を殺され、親戚を頼ることもできず、誰かが助けてくれたわけでもない。普通だったら悲観的になるものだろう?」
「それは……」
「お前さえ望めば、たやすく世界を壊してやるのに」
驚きに、青藍色の瞳が見開かれる。そして彼女は―――微笑んだ。
「でも、世界は悲しいことにあふれているわけじゃない。悲しいことがあれば、楽しいことがもっと楽しくなる。母さんは、苦痛はスパイスだって言ってた」
「…………」
「つらいことがあっても、そのあとに楽しいことが来るって信じてるから。だから、世界を憎まないで生きていける。それにラウルは私のことを助けてくれたわ、全員に見放されただなんて思ってない」
「……お前は、お人よしだな」
「ラウルがそう言うなら、きっとそうでしょうね」
朗らかにソフィーは笑う。
いつか、世界を憎まずにいられる日が来るのだろうか。誇りをもって今の自分の役をまっとうできる日が。
やさしく笑うソフィーを見て、ラウルはそう思わずにはいられなかった。
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