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406 ◆Gv599Z9CwU:2010/08/02(月) 08:41:10 HOST:59-171-87-169.rev.home.ne.jp
「兄ちゃん兄ちゃん! 大きくなってるよ!」
「ああ……そりゃ大きくなるだろ。夏の花なんだから」
「私の身長に追いつきそう……兄ちゃんは高いからそう簡単には抜かされないよね」
「ああ、そうだな」
 学校帰りの服装のまま、妹の実夏は庭の隅にひっそりと佇む物置からジョウロを持って、縁側から真正面にあるひまわりに水をあげた。
 去年、母が買ってきたひまわりの種を植えたところ、今年芽が出て育ったということだ。そこまで大きくはならないだろうと踏んでいたのだが、どうやらそれは間違いだったらしい。今、そのひまわりは妹より桃ひとつ分低いだけで、夏真っ盛りのときには抜かしているに違いなかった。
 兄の悠は先ほど自分で切ったばかりのスイカを食べながら、楽しそうにひまわりを見つめる実夏を見やっていた。
「……そんなに見てて楽しいか?」
「楽しいよ! だって今まで庭に花なんてなかったし……」
「仕方ないだろ。父さんも母さんも忙しくて庭の手入れなんてできないんだから。俺たちだって学校あるし、毎日のようにはさすがに無理だし」
「だから夏休みだけなんだよね、花を育てられるの!」
「ひまわり限定でな」
 それ限定。夏に咲く花なんて限られていて、それでいてきちんと成長してくれる花を選ばなければ来年も育てることができない。育てられなかったら実夏の夏の楽しみを奪うことになる。あくまでも自分はあまり育てていないが。
「兄ちゃん、誰か来たよ?」
「あ?」
 不意をつかれてなんのことだと聞き返すより先に、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。面倒だと思いつつ重い腰をあげて見に行こうとすると、ドタドタと騒々しい足音が聞こえ、思わず顔をしかめた。
 ……この足音はあいつしかいない。
「やっほー! 悠も実夏も元気だったかー?」
「昴兄ちゃん!」
「……人が出るより先に勝手に上がりこむな。あと騒々しい足音をたてて走るな!」
「そんなこと気にすんなって! 従兄弟だろー? 邪険にすんなよー」
 庭から手を振る実夏に笑顔で手を振りかえして、従兄弟で腐れ縁でもある昴はさも当然のように縁側へと腰かけた。その行動には慣れているものだったからなにも言わず、悠は昴の分のコップを持ってきて麦茶を注ぐ。
 薄い琥珀色の麦茶をくいっと飲み干し、昴は安息の溜息をつく。
「昴兄ちゃん、今日来るなんて聞いてないよ?」
「うん、言ってないから。だって言ったら面白くないじゃん?」
「面白さを求めるな面白さを! ……来るなら来ると学校で言えばいいものを」
「言おうとしたけど部活があったからね。それに言わなくてこうやって押しかけても、悠はなんだかんだで置いてくれるし、実夏は実夏でやさしいし。だから安心して言わなかったんだよ、従兄弟ならではの信頼だと思わない?」
「従兄弟じゃなくても伝わるけどな、充分に」
 その信頼はどうかとも思うが、長年の知恵だといえば聞こえはいい。
「今年も順調に成長してるね」
「ああ、実夏が世話をしているからな」
「私がんばってるよ! 枯らさないように!」
「実夏のおかげでこれを見ると夏が来たーって思えるよ。ろくでなしの悠とは違って、実夏はしっかりしてるから」
 悪びれもなくさわやかな笑顔で実夏を褒める昴を、悠は思いきり睨む。けれどその視線を気にした様子もなく、笑顔のまま昴は言う。
「今年も花火とか夏祭りとか行こうね、面倒とか禁止で」
「それは明らかに俺に対してだけ言ってるよな? お前だって去年は」
「実夏も行くよね?」
「もちろん行く! 昴兄ちゃんの交渉技をまた見たい!」
 悠の言葉を遮って、昴は実夏に同意を求める。昴の交渉技を妹が身につけないことをひそかに願いながら、悠は小さく溜息を吐いた。
 夏が、やってくる。
 そう思ったとき、かすかにひまわりが揺れたように見えた。


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