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237:2009/11/21(土) 10:56:58 HOST:119-171-144-210.rev.home.ne.jp
「秋桜さん、今日もまた生けているのですね」


 襖から差し込んでくる光が遮られたことがわかると、秋桜はゆっくりとその相手を見やる。彼女が振り向くとともに結わいている桜色の髪が肩を流れ、耳上に飾られている桃の髪飾りがしゃらりと音をたてた。
 そして秋桜が微笑みかけると、襖に正座をし、無表情で彼女が生けている花を見つめていた人物はすっと腰を軽くあげたままで部屋へと入ってくる。


「毎日の日課ですから…」
「生けたくもない花を生けるのも日課ですか」


 使用人たちが聞いたら無礼だと叱られるような言葉や態度、最悪の場合、解雇ということだって考えられるのに、彼はそういったことを気にしていないらしく思ったことは遠慮なくぶつけてくる。その素直さが秋桜には必要だったから、彼女はあえてそういう人物を自分専用の使用人とした。
 ―――生けたくもない花。
 それは、華道家元本家の肩書きの元、展覧会へ出品しなければならない作品。
 やらなければならないと思いながら生けることを、秋桜は何よりも悲しんでいた。花は、自分の感性のままに表現するものだから。


「私は秋桜さんがすることに文句は言いませんが。こうして傍で仕えさせていただいているだけで感謝しておりますので」


 その感謝の気持ちも、彼は表情に出さない。時間が刻を刻んでいくように淡々と述べられる言葉。


「櫂さんは、幸せですか?」


 いつだったか、「さんをつける必要はありません」と言われたことがあったけれど、自分に仕えてくれている人を呼び捨てにはできなくて今でもそれは健在だった。
 ―――幸せですか?
 あなたは、私に仕えていて。
 ほとんどの自分の自由をすべて私に捧げていて。


「……幸せじゃなかったなら、私はここに残っていませんよ」


 なんて回りくどい言い方なのだろう。
 それでもあたたかみのある言葉に思えて、秋桜はゆっくり微笑んだ。


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