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高専武闘伝記

1武士さん:2014/08/24(日) 18:16:20
嘗ての栄光を思い出しながら綴るファンタジー

2武士さん:2014/08/24(日) 18:28:37
第1話 武士起床

AM2時・・・
辺りはまだ暗く。
春も始まりの頃で外は徐々に暖かくなってきた。
『パァーン!!』
一瞬で目覚ましを止める武士。
「・・・朝か・・・」
いつもの様に近所の公園に出かける武士。
家からそう離れてはいない大きめの公園。
「ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!・・」
素振りを始める武士。
2時間ぶっ通しでの素振りで彼の1日は幕をあけるのだ。

AM4時・・・
「・・・よし」
満足したのか帰っていく武士。まだ空は暗い。
「さて・・・」
家の前で手ぬぐいを取り出す武士。
そう、これも彼の日課。
「はいはいはいはいはいはいはいはいはいはい!!!」
目に見えぬ速さで彼の手が上下する!
実は寒風摩擦をしていたのだ。
寒風摩擦をしながら、新聞を待つ。これ基本。

AM5時・・・
「おはy「かたじけない・・・!」
新聞配達のお兄さんの言葉を遮り、新聞代を直接払う武士。
そして一言・・・。
「若いのによくやるな。拙者も見習いたいでござる」
そう言うと家に入っていく武士。しかしお兄さんは何も言わない。
『至っていつものことなのだ』

AM6時・・・
ご飯、味噌汁、焼き魚、漬物と質素な食事をすませた武士。
本当は袴を着たいのだが。
「最近の若者の『ふあっしょん』を学ぶためだ」と。
あえて今風の服装に着替える武士。
そして腰には自慢の愛刀を差して。
「でわ行って参る・・・!」
今日から武士の新たな1日が始まる・・・!

3武士さん:2014/08/24(日) 18:43:51
第2話 電車武士

AM7時・・・
電車に乗り込む武士。
この時間帯はいつも混んでいる。
ガタンガタンッ
「ふう・・・むっ?」
彼の目の先には大きな荷物を背負ったお婆さんと座席を占領する若者達
至ってベタな展開だ。
「あやつら・・・!」
乗客をかき分けて、その若者達へと向かっていく武士。
そして・・・
「おぬし!目の前に辛そうに立っている老人が目に入らんのか!」
と言ってみる武士。
しかし
「あぁ!?何だてめえ!?」
「死にかけのババアのことなんて知ったこっちゃねえんだよ!!」
「アハハッ言えてるわ、それ!」
とまるで武士の言葉に耳をかさない若者達
「(ぐっ・・・!抜くしかないのか!しかしこれでは・・・)」
なんかつぶやき始める武士。
そんな彼に若者はとうとう
「何ボソボソいってんだよ、てめぇ!!」
と殴りかかってきた!
「くっ・・・!無念・・・」
武士は『死』を覚悟した。
しかし痛みはいつまでたってもこない
「よく言ったなぁ。若いのにしちゃ立派だったぞ!」
がたいのいいサラリーマンが若者の腕をおさえている
「・・・ちっ!覚えてやがれ!」
勝てないと判断したのか、他の車両へと逃げていく若者達。
もう1度いうがあくまで『満員電車』での出来事である
「ありがとうございました・・・!」
お礼を言うお婆さん
「いえ、お礼ならそこの彼に言ってあげてください」
と言い残し去っていくリーマン
「ありがとうね、君」
お辞儀しながらお礼をいうお婆さん
「い、いや・・・拙者は何も・・・」
少し照れながら、それに答える武士。
そして周りからも・・・
「かっこよかったわよ、お兄さん!」
「とても真似できないよ。すごいなぁ」
と凄い盛り上がっている
「・・・・・」
そしてその空気に耐えられない武士
「お礼をしたいから住所と電話番号を教えてくれないかい?」
先ほどのお婆さんがいう
「む、むぅ・・・」
何だかんだ言って、悪い気はしない武士。
あっさりと教えてあげる。
そこへ・・・
「・・・あの・・・」
彼と同じくらいの年だろうか・・・一人の女子学生が声をかけてくる

『私もいいですか?住所と番号、教えてもらって?』

4武士さん:2014/08/24(日) 18:49:14
第3話 All openings

それはあまりにも、突然の出来事
その女子高生は昨今の若者にしては飾り気がなく、至って質素な娘だった
「なぜ、そなたまで・・・?」
武士はいささか困惑した。
この平成の世に生まれてから今日に至るまで、
女性と真っ当な付き合いをしたことなど皆無に等しかった。
確かに、先刻の武士の行いは一時の脚光を浴びるような行為だったかもしれないが、
大岡越前や遠山の金さんのような格好のいい英雄的な行為ではない
第一、その程度のことで女性が寄って来るほど
此の世は甘くはないことは、重々承知だった。
「あの・・・」
女子高生の方ももじもじとして下を向く
周囲の乗客も静まり返り、事の成り行きを黙って見守っている。
聞こえるのは、定期的に響く車輪が線路の繋ぎ目を踏み越える音のみとなった
永久に続くかと思うほど長く、刹那かと感じるほど短い一時
武士の降車駅が近いことを告げる車内放送が流れるまで、それは続いた
「ま、まあ、知りたいとあらば・・・」
この空気を嫌ってか、それとも相手の気を察してか、
武士は女子高生に住所と電話番号を伝えた
女子高生は武士に礼を言うと、長い黒髪をなびかせて開いた扉から足早に去っていった
武士はこの駅で降りなければならないことも忘れ、
普段の彼らしくもなく完全に気を抜いた抜け殻状態で雑踏の中に立ち尽くしていた

 ポン

何者かが、武士の肩を叩く
ハッと我に返った武士が振り向いた先には、彼に微笑みかける先程の老婆の姿
「がんばんなさいよぉ、まだあなたは、若いんだから」
一言小声でそう言うと、老婆も電車から降りていった

なんだ、ここで降りるのなら席を空けさせた意味も無かったか・・・

そう思いながら老婆を見送る武士
しかし、自分の気持ちをどう誤魔化そうと、
武士の心の片隅に芽生えたある感情は消えることはなかった

 恋心・・・

彼も薄々、気付き始めていた・・・

5武士さん:2014/08/24(日) 19:28:05
第4話 武士の芽生えし1つの恋

AM8時・・・
「ふう・・・」
学校に着いてからも、先ほどの出来事が頭からはなれない武士。
今日は高専初登校日。
国語100点、数学100点、英語0点。
一所懸命勉強してやっと受かった。
緊張して素振っていたのは言うまでもない。

「どうしたんだ?さっきからボーっとして?」
一人のクラスメイトが声をかけてきた
「・・・お主は?」
「ったく・・・自己紹介聞いてなかったのかよ・・・僕は島野。君の前の席」
「ぬ・・・すまぬでござる」

彼の名は島野。
見た目、茶髪なので今後、茶髪殿と呼ばれるようになる。
「なんだよ、初っ端から体調でも悪いのか?」
自己紹介でもボーっとしていた武士を不思議に思っていた。
「(悪い奴じゃなさそうだ。まあ・・・こやつに聞いてもらえば幾分楽になるだろうか)」
そう思った武士は今朝の出来事を茶髪に話す。
今後彼にとって茶髪は掛替えの無い仲間の一人なるのは、また別の話に。
「・・・なるほどな。で、どうなんだよ?好きなのか?その娘のこと」
親身になりつつ訊いてくる茶髪に武士は
「どうしてそうなるのだっ!!」
と反論する。
「いてて!!落ち着けバカ!」
「黙っていられるでござるか!」
茶髪を押しだし椅子を占領する武士。
「席とるな。邪魔だし」
「邪魔とは何でござるか。自業自得でござろう」

「おい!!!!」

ぴしゃっとその場を収める通った声
武士と茶髪の視線の先に1人の男が立っていた。

「何邪魔梨言ってんだよ!!」

「・・・」
「・・・は?」
「邪魔梨って言ってただろ」
「言ってねぇよ!お前誰だよ!」
「俺は、梨澄。市民と呼ばれる男だ!」

島野と梨澄が騒いでる横で落ち着いたのか黙り込む武士。
そして
「・・・わからんのだ・・・だが何だ?胸が痛むのだ・・・」
本音だった。
刀で切られる痛み、腕をつねられる痛み・・・それらのどれにも当てはまらない
それは今まで武士が経験したことのない苦痛だった。

「・・・そりゃお前『恋』だよ」
「・・・はっ??」
梨澄の突然の一言に情けない顔で応答する武士
キーンコーンカーンコーン・・・
「やべ、先生きちゃうぞ!」
そう言って自分の席に戻る市民。
「はい、授業始めるぞー!」
元気のいい声で数学の先生がはいってきた・・・が
「(恋・・・?)」
今の武士の耳には何も聞こえていなかった・・・

6武士さん:2014/09/04(木) 22:48:00
第5話 武士の決意

数学の微分積分、英語の重文複文、昼食のセブンイレブン・・・

すべてが、閃光のように過ぎ去っていった
すべては、初めて芽生えた気持ちの中に溶け込んでいった
『恋』
今まで一度も考えたことはなかった
しかし、それは消えることなく武士の意識を支配する
「(拙者が・・・恋を?)」
幾度となくその2文字を脳内から消そうとしたが、全て失敗に終わった
いくら頭ごなしに否定しても、自らの気持ちに決して嘘はつけない
逆に言えば、それが頭から離れないという事実こそが、恋心を抱いているという証拠でもある
その事実が武士をさらに悩ませた

午後の音楽の時間
もはや、先生の奏でる音階など耳には入らなかった
「コード?どれぇ?」
梨澄の渾身のギャグすら彼の彼方へと追いやった

帰宅途中も武士は考え続けていた
電車内。今朝あの娘と出会った空間
武士の目には普段とは全く違って見えた
「(拙者の事を・・・あの娘はどう思っているのだろう・・・)」
浮かんでは消える女子高生の横顔、笑顔、後姿・・・
自宅の最寄駅を通り過ぎたことにも気付かず、武士は虚空を見詰め続けていた
「(拙者は・・・拙者はどうすれば・・・)」
そのとき、武士の脳裏に初めて女子高生以外の姿が浮かんだ
あの時の老婆。女子高生と同じく、自分の視界からフッと消えていった

ゲシッ
『いたぁっ』
『あっ、すまんでござる』

『がんばんなさいよぉ、まだあなたは、若いんだから』

毎朝欠かさず素振りや乾布摩擦をこなし、学問にも励んできた
しかし、恋に関してはがんばったことなど、一度として無かった
「文武以外にも、がんばってみるか・・・」

今朝電車を降りてからずっと漂っていたもやのようなものが、やっと晴れた気がした

7武士さん:2014/09/04(木) 23:02:52
第6話 メトロノーム

今までの人生はそうだったのかも知れない
素振って、摩擦して、学校行って、素振って、摩擦して
一定旋律を奏でる振り子のように
定期的な生活が続くものだと思っていた
そしてこれからも・・・

だが、拙者は変わる
今日の朝、あの出来事のおかげで
変わることが出来るのだ

もやもやしているものがとれ、晴れた気持ちで帰る
最寄り駅から家まで走る
ゲ−ムセンタ−や本屋の並ぶ商店街の誘惑
しかし、武士の目にはとまらない
寄り道せずにまっすぐ帰った

家に着いた時、武士はあることに気づいた
「むむっ・・・」
「かっ鍵がないでござる・・」
武士は昼間、ボ−っとしていたてめロッカ−に家の鍵を忘れてきていた
「(父上や母上は仕事中、迷惑をかけたくはない)」
「酉の上刻(6時頃)まではまだある、学校まで取に行こう」

再び電車に乗る
突然携帯電話が鳴り出し、一通のメールが着ていた

「お兄さん、携帯電話の電源を切ってくれんかのう」
「す、すまんでござる」

吹っ切ったはずなのになぜかどきどきしてくる
心拍数が最高潮になる瞬間、武士はメールを見た
『明日の高田先生の国語って漢字テストあったっけ?』
このメールを送ってきたのは同じクラスの生徒で
泣く子も黙る鬼軍曹、小竹だった
「(はぁ〜)」
一気に気持ちが落胆した
『お主の心に聞いてごらんなさい』
携帯には不慣れで返信するころには学校についていた
素早い身のこなしで鍵を取り、近くの公園に落ちているごみを拾い集め
ゴミ箱に捨て本日4度目の電車に乗った

案外電車がすきなのかもしれないなぁ

座席が空いているにもかかわらず、つり革につかまった
2〜3回周りを見回し、ふと正面を向いた
なんと前の座席に座っていたのは、今朝の女子高生だった

8武士さん:2014/09/09(火) 22:40:55
第7話 はじめの一歩

周りの音が、消えた
扉の前に陣取っている女学生達の話し声も、
隣で週刊誌を広げる中年男性の咳払いも、
自分の息遣いさえも、全てが消えてなくなった
頭の中をガンガンと駆け巡る言葉・・・

なぜ・・・どうして・・・

自分の心臓の鼓動だけが、脳に直接伝わってくる

「(お、落ち着け・・・今何を・・・)」

最早、頭の中は真っ白だった
よく思えば武士はいままで女子に話したことが殆ど無かった
緊張・興奮・羞恥・混沌。
そのようなものが入り混じった今までに無い感情が武士を襲った

「(ええい。)」

よくよく見れば、今武士が立っている所は、
さっき学校から帰るときに立っていた場所だった
がんばってみよう。そう誓った、あの場所
生まれて初めて、恋してみようと誓った、あの場所

『がんばんなさいよぉ、まだあなたは、若いんだから』

あの老婆の声が頭を抜けた瞬間
一本の筋が通った

「(やってみるでござるか)」

女子高生はまだこちらに気付いていないようだ
携帯電話を開いて黙々と文字を打っている
武士が降りる駅までは、あと2駅
丁度電車が駅を出て加速し始めたところだ
大丈夫、時間はある。
迷いも完全に断ち切った
ただ話し掛けるだけならば、不得手な携帯電話もいらない
小一時間かけて文面を打ち、ちゃんと相手に送信されたか心配する必要もない
一言声をかければ、それで楽になる
ここで逃げ出せば、ずっと後悔する


「あの・・・」


それだけがやっと、声になった

9武士さん:2014/09/09(火) 22:50:40
第8話 志半ば

「あっ・・・」
携帯を打つ指を止め、武士のほうへ顔をむける女子高生
「えっと・・・そにょ・・・」
いざ声をかけたはいいが、緊張のあまり言葉がつまってしまう
むしろ

「(噛んでしまったでござる・・・)」

そんな情けない武士に女子高生はニコッと笑いながら言う
「こんばんわ。今朝は大変でしたね〜」
その控えめながら眩しい笑顔を見て、武士の心臓はより活性化した
そして目をそらしながら言葉を返す
「いや・・・たいしたことではないでござる・・・」
さらにこう続ける
「あのサラリーマンが来てくれなければ、拙者は何もできなかった・・・」
自分で言っていて情けない気持ちがどんどんこみ上げてくる
「(そういえば彼女も拙者のあの情けない姿を見ていたのだろうな・・・)」
自分から絡んでいってやられ返されるなんて、まさに愚の骨頂
けなされても仕方がないと思った
しかし彼女の反応はちがった
「ふふふ、でもそのキッカケになったのはあなたですよ?」
「えっ・・・?」
意外な一言
さらに彼女は話を続ける
「あなたの勇気ある行動が、周りの人の心を動かしたんです。それってすごいことだと思うけどなぁ・・・」
そして段々小さくなる声でとどめの一言
「それに・・・かっこよかったです・・・」
そう言うと頬を染めて黙り込んでしまった
それを聞いて、放心状態の武士。口はもちろん半開き
「・・・・・・」
たかだか数分の沈黙がえらく長く感じられる・・・

「次は〜おおぜき〜おおぜき〜」
そんな空気を破ったのは、車掌のアナウンスだった
「あっ・・・私降りなきゃ・・・」
それを聞いた武士はなんとも名残惜しそうな顔をする
「(また・・・会いたい。言うんだ、『今度また会ってください』と一言!)」
しかし・・・
「・・・うむ、達者でな・・・」
なんとも無愛想に返してしまった
「では、さようなら・・・」
そういい残して電車を降りてしまう女子高生
結局、最後は目を合わせることすらできなかった

ガタンガタンッ
電車の音だけが響き渡る車内で武士は涙を流した

「くそっ・・・!最後の一歩が・・・踏み出せなかった・・・!」

彼女は自分を『勇気のある』といってくれた
しかし結局は肝心なところで何もできなかった
それが何より許せなかった

「次は〜白川シーサイド〜白川シーサイド〜」

電車から降りてくる乗客達の中に武士の姿はなかった・・・

10武士さん:2014/09/09(火) 22:54:56
第9話 町田市の境で

砂の大地に、所々剥がれたアスファルトの舗装路
朽ち果てたコンクリートの建物は窓ガラスも無く、監視所としての機能も失われていた
そして、辺り一帯を取り囲んでいる錆びかけた鉄条網に掛かる看板には、
あからさまな赤い髑髏マークと共に、こう記されていた

〔これより先、立ち入りを禁ずる   町田市〕

これを静かに見下ろしている1人の少女は、恐ろしく場違いな雰囲気を醸し出していた
長い黒髪が乾いた風になびき、手に握られた携帯電話のストラップ人形が儚く揺れる
「また来たのか」
後ろからしわがれた男の声がした
年は丁度成人を向かえたぐらいで、見た目はごく普通の青年だ
男はゆっくりと少女の隣まで歩み、眼前に広がる荒廃した風景に目を向けた
「何度でも来るわ、あなたがうんと言うまでね」
少女は男の顔を見ずに言った
何故だろう。若々しいその姿とは裏腹に、顔は疲れたような表情のせいか
幾らか老けて見え、それでいて瞳は強い光を放っている
「何度来ようと無駄だ。どの道もう、俺にも止められない」
男はポケットからひしゃげたタバコの箱とライターを取り出し、一服し始めた
「今までだって、止めるチャンスはいくらでもあったはず。でもあなたは、何もしなかった・・・」
少女は初めて男の顔を見てそう言い放った
「ああ、しなかったし、しようとも思わなかった。・・・これ以上の話し合いは無駄だ」
男は煙をひとつ吐くと、相変わらず鉄条網の向こう側を見ながら言う
「直に大規模な戦闘が始まる。俺達は町田市民族として、奴等に屈するわけにはいかない・・・」
戦後も長い間この東京の一角で繰り広げられてきた内乱
政府にも見放されたこの地区で、ひたすらに自由を求める町田市民族と、
彼等を劣等種として地上から排除せんとするナシスト達との戦いが止むことはなかった
男の古びた腕時計は、もう午後5時を回っている
町田市民族がナシ党の本陣に夜襲を掛けるまで、もうあまり時間はない
「ここも危ない、もう帰れ。お前は町田市民族でもなければ、今はもう俺の恋人でもない。この戦いには関係ない・・・」
「あなた、死ぬ気でしょ?」
少女は半分叫ぶように言った
「私、諦めないから。あなたがどうしても戦うって言うんなら、絶対に止めてみせる」
「無駄だ。言ったはずだろ、もう誰にも止められない」
「そんなことない!勇気さえあれば、止められるって信じてる!周りの人も、きっとわかってくれる!」

       《・・・そう教えてくれた人が・・・いたから・・・》

少女は意を決したように振り向くと、足早にこの場から去っていった
「忠告はした・・・」
男は結局、少女の顔を一度も見なかった
見てしまったが最後、自分の気持ちが揺らいでしまいそうな気がしたから
民族のため戦いに身を投じる気が、失せてしまいそうな気がしたから・・・



午後7時08分。ゴールデンタイムのバラエティ番組を遮り、突如として緊急放送が流された
町田市で大規模な戦闘が開始された、と

11武士さん:2014/09/09(火) 23:16:33
第10話 そしてあの名作に繋がる

PM6時40分・・・
「・・・お客さん、お客さん!!」
「・・・・むっ?」
駅員が呼びかける声で我に帰る武士
「この電車はこのまま車庫に向かうので早く降りてください」
気がつくとここは終点の真木羽
「・・・承知仕った」
よろめきながら電車を降りた武士
ホームを歩きながら反対側のホームを目指す
「お客さん!終点ですよ・・・」
先ほどの駅員さんが車内で他のお客さんに声をかけて回っているようだ
「−−−−−−−!!−−−−−!」
不意に聞こえてきた大声に武士は振り向いた
「お客さん、こちらですよ。足元に気をつけてください」
「−−−−!−−−!!!」
相当酔っ払っているのか言葉になっていなかった
「−−−−−−!−−−−!−−−!!!!」

バキッ!

酔っ払いが駅員を殴り倒し、ホームをドカドカと歩いていった
武士は吹っ飛ばされた駅員へと走る
「大丈夫でござるか?」
「いやぁ、コレが仕事ですから」
「しかし・・・仕事といえど殴られては・・・」
「私はお客様の命を預かっている駅員です。」
すみません、と武士の手を取り立ち上がった。
「一分一秒でも正確に、お客様の向かう幸せな未来へお運びするのが私たちの仕事です」
それでは、と駅員は軽い会釈をし電車の中へと消えていった

「駅員か・・・気晴らしに少し歩くか。」
そう決めると駅をでて、大通りに沿って歩く。すると
ぐぅ〜  武士の腹がかわいい悲鳴をあげた
「(腹が減ったな・・・どこかで食べるとするか)」
そう思い、近くにいい食事処はないかとあたりを見渡す
『ふあーすとふうど』はあまり好みではないので、和風の店に入ることにした武士
店に入ろうとした、その時
「な〜にやってんだよ、こんなトコで」
声の先には市民がいた
「おぬしこそ何を?」
「ん?ちょっと買うもんがあってな。ところで飯食ってねえんだろ?一緒に食おうぜ〜!」
そういうと武士が目をつけていた店を離れようとする
「おい・・・拙者は・・・」
「わかってるって!和食がいいんだろ?あの店より安いトコあんだよ。そこ行こうぜ」
そしてしばらく道を進んだ所に一軒の居酒屋が見えてきた
「ここ、ここ!」
学生で居酒屋というのは少し入りづらいものだが
何のためらいもなく入っていく市民
「いらっしゃい!!」

12武士さん:2014/09/12(金) 19:53:38
第11話 夜の語り

「先にトイレいってくるから先に座っててくれ」
店内はイメージ通りの普通の居酒屋だった。
店には4〜5人の客がはいっておりにぎやかな話声が響いていた。
椅子に腰掛けると座は畳仕立てになっていた。
「これはよい。」
ふと店内を見回すと、掛け軸が店内のはじに掛かっていた。
その下には短刀が飾ってあった。
「拙者、この店気に入ったぞ。」
「だろ。たまたまおまえがいたからここに連れてきてやったんだぞ。感謝しろよ。」
武士は市民に
「ここには来た事あるでござるか?」
と聞いてみた。
「ああ。いちおバイトしたことあるから店の様子は知ってたけど。」
「なるほど。」
「んじゃ、ちょっトイレ。」
しばらくすると注文したものが出てきた。
武士は刺身を注文した。特に好物は鮪。
「うむ・・・なかなかうまいでござる。」
武士は刺身にしたつづみをうっていると
「なあ、何でおまえこんな時間に大通りにいたんだ?」
武士は先ほどまでの出来事を市民に話した。
「なるほどねぇ。つまり君も彼女お互いの事が好きだと言うことか?」
「いや・・・ぅ〜ん・・・」
武士はしばらく黙り込んだ。
「その子に会った時彼氏とかはいなかったの?」
「その時はいなかったが、もしかしたらいるかもしれん。」
そして市民はこう言った。
「俺は町田に住んでるが今までいろんなことがあった。」
「今のお前のように悩み苦しんだ時もあった。特にお前は女を前にするとろくな会話すらできない。」
「だがなそれが何や。お前はお前のやり方で今ある壁を乗り越えるだけや。」
武士の心にその言葉が響いた。
「どうしても吹っ切れなければいつでも相談しろよ。できる限りのことはやったるで。」
「すまぬ・・・。拙者のために。」
武士はこの時生まれてはじめて酒を口にしたくなった。
市民がトイレから戻ると
「でだ、話し変わるけど、お前電車好きになったんだって?」
「うむ、駅員(ぽっぽや)というのは素晴らしい職でござるな」
先ほどの出来事や駅員の対応を話した。
市民はしばらく聞いて、時より頷き、トイレへ行った。
「拙者、駅員を目指そうと思うのでござるよ」
「いいじゃねぇか。俺も昔から電車好きでよ。電車に乗って旅するのが好きなんだ」
「北は北海道から南は九州まで。まだ生きているうちに行ってみたい。」
「何を言ってる出ござるか。拙者たちはまだ若い。行く機会などまだまだあるでござろう」
「…そうだよな」
市民殿は窓の外の月を見ながら寂しそうにそう答えた。
そのとき、武士は彼の抱えている事柄には気がつかなかった。

13武士さん:2014/09/12(金) 20:09:35
第12話 星空を見上げて

楽しい時間をすごしたつもりだったが
市民の言葉が武士の心の何かを突いた。
武士はしばらくただ呆然としていた。
「お、もうこんな時間か。トイレ行ってくるな」
店の時計をみるとすでにPM9:00をまわっていた。
「ごちそうさま。」
店長が返した。
「また来いよ。」
「お会計は3670円です。」
ふと武士は財布をみた。
「拙者、金がない・・・」
電車の乗り越し料金などで残金は800円足らずであった。
すると市民が
「心配するな。俺が全部もってやる。」
「だがな、俺は強欲(グリード)だから貸した金のことは忘れねぇぜw。」
武士はこう言った
「大丈夫だ。おぬしからの貸し、必ず返す。」
やっぱり市民は頼り?になる。
ガ ラ ガ ラ
店の戸を開けると夜空には星が輝いている。
「美しい。よきかな。」
しばし見入っていると
「今日は空が澄んでる。この季節の星はきれいでいい。」
「拙者も星は好きだ。見ていると心まで浄化される。」
「俺は駅のトイレによって、もう家帰る。気いつけろよ。」
そういうと市民は去っていった。
「達者でな。」
武士も自分の帰路についた。
「はぁ〜。拙者はこれからどうすればいいでござるか。」
小言をいいながら歩を進めていくと次の駅が見えてきた。
「もうこんなところか。」
駅前はまだ人々が行き交い、ネオンがひかり、活気に満ちていた。
武士は歩を進め続けた。
そして踏み切りに差し掛かったその時、武士の足がピタリと止まった。

14武士さん:2014/09/13(土) 01:00:17
第13話 崩れていく平和

7〜8分はたっただろうか
武士の足は一向に動く気配がない
何か考え込んでいるようだった
「・・・」
「(なぜこの踏切は開かぬ。それに・・・)」
ここに留まるが運命のごとく踏切は武士の行く手を阻んだ
なにかただならぬ気配を感じていた
「(この怪しげな空気はなんだ、志野々目駅からか?)」
武士は摺り足で駅へ急いだ
駅はいつものように活気がある
しばらくして突然後ろから肩をたたかれた
「何奴!?」
「おいおい、何警戒してんだ?」
後ろにいたのは、同じクラスの小竹と露牧と隣のクラスの柿本だった
「お主らは、こんなところで何をしておる?」
武士は悪い胸騒ぎがしていながらも悟られまいと話しかけた
「えっつぉー補修が終わってさぁ、ボーリング行って来たんだよ。」
「どう?一緒に電車で帰んない?」
武士は市民の貸しを思い出した
「拙者、今金がない・・・」
3人はため息をついた
「わかった。また今度ね」
「おい武士!じゃあな」
そう言うと3人は改札を越えていった
「(何もなければよいのだが)」
そして武士も胸騒ぎを押し殺し家に向かって歩き出した
100メートルぐらい離れて心配になり一度振り返った、その時・・・
(ドド〜ン)
鈍い爆発音のようなものが駅から聞こえてきた

15武士さん:2014/09/13(土) 01:03:47
第14話 救出!脱出!そして・・・

ドドーン!!
周りに響き渡る鈍い爆発音・・・
そして駅のほうから黒い煙がわき出てきた
「・・・!あやつらを助けなければ!!」
一目散に駅へと駆けていく武士

武士の目に映った光景はまさに地獄絵図だった
逃げ惑う人々、崩れゆく建造物・・・
「(ほんの数分前までは、あんなに活気溢れていたというのに・・・)」
そんなことを考えながら友人の姿を捜す武士
「(外ではない・・・ならば!)」
急ぎ足で駅の入り口に向かう武士。すると
「君!!ここは危険だ!下がってなさい!!」
と警察らしき人が声をかけてくる
「中に友がいるのだ!推し通る!!」
武士は強引に通ろうとするが
「ダメだ!友人の救出は我々にまかせて・・・」
「ええい!!やむをえん!」
そう言い武士は警察官の急所を思い切り蹴った!
「はぐっ!!むぉぉぉぉ・・・」
なんともなさけない声をあげ、倒れる警察官
「すまぬ・・・だがこちらも退けんのだ・・・!」
と言い残し駅の中へ走っていく武士・・・

「ごほっごほっ何も見えんではないか・・・」
駅の中は煙が充満していて、ほぼ何も見えない
「小竹殿〜!露牧殿〜!柿本殿〜!!」
構内にすごいでかい武士の声が響きわたる・・・
すると
「お〜い!こっちだ〜!!」
と聞きなれた声が聞こえた
「市民殿か!?」
「そうだ〜!!みんな無事だぞ〜!!」
ホッと一息ついて
「今いくぞー!!」
と返事を返し、声の方向へ向かっていく武士
すると市民や露牧の姿が見えてきた
不思議とこのあたりは煙も少なく、全員の姿がしっかりと確認できた
「皆のもの無事か?」
武士の問いに小竹が答える
「おれらは無事だけど・・・市民が・・・」
よく見ると市民の膝からは血が凄い勢いで流れていた
「大丈夫か!?」
「なに・・・ちっと擦りむいただけだよ。」
「無理はいかん!すぐに脱出しよう!!」
そう言って立ち上がろうとした時だった
ガラガラガラッ!!
武士が来た道を天井が音を立てて崩れ去った
「うそだろ〜!?」
柿本がアンビリーバボーといった顔で声をあげた
「(くっ・・・ここまでか・・・)」
武士もあっけなくあきらめかけたその時
「・・・ホームだ。ホームに向かおう」
この局面を打破した男。それは市民だった
「よし!みんな走れ!ここも危ないだろうからな!」
市民が大きな声で皆に呼びかける
小竹、露牧、柿本・・・次々と走り去っていく
市民もそれに続こうとするが足のせいで思うようにいかない
「乗れ!!」
勢いよく市民を担ぐとすごい速さで走る武士
「お、おい・・・」
何か言いたげな市民
どうせはずいから下ろせ的なセリフであろうと
「申したいことがあるなら、生き残ってから申せ!!」
と返しておく
「ああ・・・そうだな」
それから一切の会話もなくホームに着いた一行
「これからどうすりゃいいんだ!?」
あせりながら露牧が言う
「そこのはしごから線路におりろ。後は道なりに行けば外にでられる・・・」
市民が疲れたような声で答える
「「「よっしゃ〜!!」」」
それを聞くと3人は元気よく線路におり、走っていく
「ふっ・・・元気なやつらだのう・・・なあ?」
笑いを浮かべながら市民に話をふる武士
しかし市民は黙ったままだ
「・・・?どうかしたのか?」
不思議そうな表情をうかべながら市民のほうへ顔を向ける武士
その時・・・

ドド〜ン!!

武士は爆発によって崩れた駅の瓦礫を見つめていた
そこは確かに先ほどまで3人がいた場所だった・・・

16武士さん:2014/09/13(土) 01:04:59
第15話 つらき現実

どこからであろうか。何かが崩れる音が依然続いている
「馬鹿な・・・みんな!みんなぁ!!」
武士は目の前で起きた出来事を受け入れられずにいる
「小竹殿!!露牧殿!!柿本殿!!」
返事は返ってこない
武士の声だけがむなしく響きわたる
「くそっ!くそぉぉぉ!!」
武士が涙を流しながら言う
それもそうだ。目の前で友人を失ったのだから
「お前のせいじゃねえよ」
張り詰めた空気を市民の声が切り裂く
涙を拭きながら市民のほうを見る武士
「あいつらが悪いんだ。この計画は駅にいる人間すべてが死ななければいけなかった」
市民が背を向けながら言う
「なのにあいつらは生きてた。ここで俺の顔を見られたら元も子もない」
武士は市民が何を言っているのかわからなかった
「まだわからないのか?この事件は・・・俺が巻き起こしたんだよ」
「空言をぬかすな!おぬしがそのようなこと・・・」
「しないっていいてえのか?忘れんな、俺は町田民族だぜ」
呆気にとられる武士をよそに市民は続ける
「いや正確には『俺ら』か。今頃町田を中心に各地で戦闘が始まってるはずだ」
思わぬ衝撃の連続に思考がついていかない

「・・・お前にゃこの場にいて欲しくなかったよ」
場の空気が変わった
「(空気が・・・重い・・・!)」
武士は気づいた
この空気。これは自分に向けられている・・・殺気
「例外はねえ・・・この場に存在する以上、お前でも・・・殺す」
そう言うと長めのサバイバルナイフを取り出す市民
「ほら・・・お前も抜けよ。・・・どうした、怖いのか?」
武士は震えていた
武者奮いとは違う。真の意味で恐ろしかった
震える声で武士が言う
「もう・・・退けんのか?」
ほんの一瞬空気が緩んだ。市民にも迷いがあったのかもしれない
「どの道逃げ道はねえんだ。俺らの運命は『死』だよ」
そういうと間合いをつめてくる市民
「死なせはせんよ・・・拙者がな」
武士は背中に担いだ袋から竹刀を抜き、構える

この戦いがキッカケで武士は更に悲しく厳しい戦いに巻き込まれていくのだった・・・

17武士さん:2014/09/13(土) 01:05:56
第16話 奇跡

じりじりと市民殿が近づいてくる
武士は思った、甘い考えを捨て覚悟を決めねばと
「(市民殿の構えにスキはない・・・どうする)」
牽制しあってから5〜6分が過ぎようとしていた
しびれを切らし先に動いたのは市民殿だった
「はぁぁぁぁ」
ナイフを向け一直線に走ってくる
「むむ・・・」
武士は紙一重でコレを避け距離をとった
上着には数本の切傷が入っていた
「よく避けられたな、しかし次は!」
武士の目つきが変わった
「お主に・・・次はない!」
そう言うと武士は目にもとまらぬ速さで市民殿の右手のナイフを叩き落した
武士の目は鋭さをさらに増していく
市民殿の視界に映る無数の白い閃光
自分がやられたと気づいた時にはすべてが終わったあとだった
市民殿はその場にうつ伏せに倒れた

「・・・」
武士はボーっと暗闇をみている
脱出のことなんて到底考えられない
その時、かばんが光っていることに気がついた
携帯が何かを受信したようだ
ソレを見てようやく武士は理解した
市民殿を担ぎ一目散にその場をあとにした

18武士さん:2014/09/13(土) 01:07:29
第17話 市民の決意

「ん・・・」
まぶたをあけると白い天井が目にはいる
「(この独特の匂い・・・病院?)・・・はっ!」
勢いよく上体を起こす・・・がその瞬間身体に痛みがはしる
「っつ〜・・・」
「気がついたか」
ベットのかたわらには武士がいた
ようやく前後の記憶がはっきりしてくる
「まいったね〜・・・生き残っちまったか」
冗談っぽく言う市民に武士は
「話せ。なぜあのような行為にいたったのか」
真剣な顔で市民にたずねる武士
そこで市民は枕元に置いてある自分の携帯に気づく
「・・・俺の携帯、見たか?」
「ああ・・・そのおかげで我々はこうして生き残っている・・・」


『あと5分で一斉爆破だ。言い残すことがあるなら今のうちに送っとけよ。』
市民の携帯が受信したメールにはそう書かれていた
「一斉爆破だと・・・?それに・・・なんだこの市民殿が死ぬと決め付けているかのような文章は!」
「これじゃ市民殿は捨て駒にされているようではないか!」
武士は怒りで気が狂いそうになった
そこでもう一つ受信メールがあることに気づく
それは市民の携帯から市民の携帯へのメール
『下水道』
そう書かれていた
「これは・・・まさか?」
チラッと市民のほうを振り返る武士
「こやつ・・・こうなることを知ってて逃げ道を残しておいておいたというのか」
「こうしてはおれん!さっさと脱出せねば・・・!」
武士は市民を肩に担ぎその場を後にした・・・


「まあこんなところか・・・」
一通りの説明を終える武士
それを聞くと何かを決断したような表情になる市民
「・・・あの時駅にいた人間は全員無事だ」
「なんだと・・・?」
驚きを隠しきれない武士
「それは真なのか!?では小竹殿達も生きておるのだな!?」
「ああ・・・今はな」
市民は続ける
「お前には話しとくよ・・・どうせもう退けないとこまで来ちゃってるしな」
市民の決断・・・それは

『一族との決別』

19武士さん:2014/09/13(土) 01:08:01
第18話 町田市民族本部

「(・・・すまない)」
今しがた一通のメールを送り終わった携帯電話を閉じながら、男は心の中で謝罪した

夜襲が効いたらしく、今のところ町田市民族側に軍配が上がっている
出来れば不意打ちなどしたくはなかったが、奴等が相手ではそうも言ってはいられない
ナシスは小国の軍隊並みの軍事力を有している。少しでも気を抜けば一瞬にして戦局は悪化するのは確実だ

いつも通り、自衛隊は戦闘には介入せず周辺の区の警備に取り掛かるだろう
国は憲法九条がどうのと言っているが、早い話が、怖いのだ
と言っても、国民世論は二部に分かれているので叩きが怖いわけではない
ナシスが相手となれば当然自衛隊側にもそれなりの被害が出るからだろう
ただでさえ資金と人員が不足している状態では、確かにわからない話ではない

男は苦笑した
あくまで一般市民である自分達が―つい先程も一人―我が身を犠牲にして戦っているというのに、
国は豊富な軍事力を持ちながらも損害を恐れ、指を咥えて静観を決め込んでいる
そんな国を無意識のうちに認め、擁護している自分は、一体何なのだろう
町田市民族でありながら、日本国民でもある。そんな狭間でまだ迷っている自分に、少々嫌気が差した

男は意識を眼前に戻し、東京都の地図にぽつんと張られた一枚の赤いシールを見つめた
野戦テントの天井に吊り下げられた黄色っぽい電灯に照らされ、それは独特な雰囲気をかもし出している
JR真木羽駅・・・今回の作戦を成功させるためには、どうしてもこの駅を爆破する必要があった
例えどんな犠牲を払おうと、同じ町田市民族である同士を殺すことになろうとも
罪悪感は無かった。だが、何ともいいようのない虚無感が体を支配している
今こうして自由を手にしようと戦っている最中なのに、またしても可笑しな話だ

だが問題は無い。全てが予定通りに進んでいる
そうやって自分を納得させようとしたが、逆に新たな問題を思い起こさせる結果になった
「あいつ、本気で俺達を止める気なのか・・・」
不意に脳裏に浮かんできたのは、黒髪の少女の姿だった
忠告はした、と言ったものの、忠告など聞くような性格でない事はわかりきっている
ただならぬ不安に襲われたその直後、テントの外に誰かの気配を感じた
間もなく、見慣れた人懐っこい笑顔が湯気の立つカップを2つ持って入ってきた
「少しは休んだらどうです?」
両手に物を持っているので敬礼は割愛するものとしても、許可もなしにずかずかと入り込み、
挨拶もしないで唐突に上の者に・・・この俺に話し掛けてくるのは、いつものこと
無礼といってしまえばそうなのだが、憎めない人間というのは、どこにでもいる
この男の戦闘能力などといったものよりも、そういった天性の才能の方が、よほど羨ましく思えた
「ああ・・・。だが前線では戦いの真っ最中だってのに、ゆっくりなんざしてはいられないが・・・」
普段からあまりゆっくりしたことなどなかったが、それを無理矢理この戦いのせいにしている
そういう自分勝手なところが彼女を呆れさせた理由なのか、と再び苦笑した

結局ひとつも迷い事が消えることはなく、一旦眠って全てを忘れようと思い、コーヒーを飲み干す
・・・コーヒーなど飲んだら眠れなくなるじゃないかと気が付いたときには、もう手遅れだった

20武士さん:2014/09/15(月) 20:38:31
第19話 いざ町田

「ナシス・・・それがおぬしらの敵でござるか」
自分に確認するかの様に言う武士
(ナシス・・・?どこかで聞いたような・・・)
まあ思い出せなかった
「ああ。そしてそいつらは十中八九政府の命令で動いている」
「なんだと!?ではおぬしらは・・・」
「と言っても一部の議員の独断だがな。俺らが勝つにはそいつらを抑えなきゃならねえ」
考えがあまかったと武士は思った
市民達は武士の想像をはるかに上回る敵を戦っていたのだ
「・・・勝算はあるのか?」
「ある。うちにはすげえ軍師がいてな。その人の作戦通りにやれば、まあ勝てるだろうな」
武士はあのメールを思い出していた
(おそらくあのメールの差出人が市民のいう軍師なんだろうな・・・ならばその作戦とは)
「その作戦にはどれだけの犠牲者がでるというのだ?」
市民が暗い表情を浮かべながら言う
「最後の全面戦争を入れると双方にかなりの死者がでるだろうな・・・」
「・・・・・」
武士は黙り込んでしまう
いや、怒りを抑えるのに必死なのだ
(多くの犠牲を払っての勝利にどんな価値があるというのだ・・・!!くそっ・・)
「だがな・・・ナシスの兵隊のほとんどは一般人だ。関係のない人まで犠牲にするなんて間違ってる」
「・・・!」
武士は驚いた
てっきり市民はこの作戦に賛成していると思っていたからだ
現に参加していたわけだし
市民は続けて言う
「それに同胞が血ぃ流すの見たくねえんだよ。だから・・・」
「あいつらを止めに行く!」
握りこぶしを作りながら言った市民
「うむ、拙者もお供させてくれ。おぬしだけを行かせたりはせぬ!」
武士も立ち上がりながら、それに同調する
一応主人公は武士です
「ああ、できれば来させたくないが・・・一人じゃ心細いからな〜」
と少しふざけた調子になる市民
(うむ!いつもの市民殿だ!)
「では、町田へ参ろう!!」

21武士さん:2014/09/15(月) 21:09:34
第20話 束の間の一時

「っとその前にお前らはまず怪我治せよな」
聞き覚えのある声に武士はハッと振り向いた
病室の扉にはよりかかった柿本がいた
首から三角巾で左腕を吊り
顔には大きな火傷があった

(どことなく元気はなさげだが仕方ないか・・・)
「柿本殿、無事でよかった」
「露牧と小竹は大丈夫なのか?」
柿本は下をうつむいた言う
「小竹は頭を打ってまだ意識が回復しない。例え、意識が戻っても以前のようには・・・」
「露牧は病院までは一緒だったんだけど、突然居なくなっちゃったんだ」
「馬鹿な・・・彼も怪我をしているはずでは・・・」
柿本の言葉に驚いたのは武士だけだった
市民は何やら少し考えるようなそぶりを見せたのを武士は見逃さなかった
「きっと大丈夫さ」
ベッドに寝てる市民が怪訝そうな顔をして言った
武士はその意味がまだわからなかった
「取り合えず柿本殿、話は後だお主も病室へ」
柿本の肩を支えながら武士は病室を出ようとした
「柿本。・・・茶髪は?」
柿本はしばし沈黙し
「今は休もう」
「市民殿も怪我を治すことだ、担当の先生は1週間で退院出来ると言っている」
もやもやを胸にしまい病室の扉を開け出ていった
廊下で見舞いに来た沖田と笹塚とすれ違ったが二人は気づかなかったようだ
病院を出て駅へ行こうとして思いバス停へ向かって歩いていく
(そういえば電車はとうぶん無理だな)
50メートルぐらい歩いたところで突然雨が降ってきた
(・・・誰かが・・・泣いておるのか・・・)
一人で雨に濡れながらバス停で待っているとその時
「あの・・・風邪ひきますよ」

22武士さん:2014/09/15(月) 21:16:46
第21話 戸惑いの雨

そこには一人のおばさんが立っていた。
「拙者はだいじょうぶでござる。」
「何をいってるの、体が震えてるわよ。」
武士は知らぬ間に武者震いをしていた。
その震えは雨のせいで震えているのか、はたまた・・・
「こんなところにいると、風邪をひくわよ。」
「だいじょうぶでござる。」
武士はふと時刻表をみた。
次のバスはいまから三十分後、武士はふとため息をついた。
(拙者はこの現実でどうすればいいのだろう。)
すると
「何をそんなに悩んでいるの?」
武士は事のあらましを話した。

「そう・・・そんなことが。」
深い沈黙がながれた。
「わたしもね、息子が昨日の事件で入院しているらしいのよ。丁度あなたの同じくらいの歳でね。」
「どこの病院かはわからないけどきっと生きてると信じてる。」
おばさんのやつれた様な原因はそれか
「そうであったか・・・」
「息子とは音信普通、今どうしているのやら。」
しばらく沈黙があたりを制した。
そして武士が
「息子さんの手がかりなどはあるでござるか?」
すると
「ええ・・・。私が大事にしている写真が。」
そうするとおばあさんは鞄の中から一枚の写真を取り出した。
「これよ。」
するとそこには驚くべき人物が写っていた。
「こ、これは!」

23武士さん:2014/09/15(月) 21:24:54
第22話 雨の中の嵐

写真にはおばさんと小さな男の子が満面の笑みで写っていた
しかし幼いながらどこか見覚えのある顔
「これは・・・小竹殿ではないか!」
武士の放った一言におばさんが物凄い勢いで聞き返してきた
「この子を知ってるの!?今どこにいるかわかる!?ねえ!?」
「お、落ち着いてくだされ御婦人殿。」
勢いに耐えられなかった武士はおばさんをなだめる
するとおばあさんは不安そうな顔でこう聞いてきた
「あの子は・・・大丈夫なんですか・・・?」
「無論でござるよ。今この先の病院に入院おりますよ」
武士はこれ以上心配させまいと即答した
すると安心して気が抜けたのか、おばさんは涙をながし
その場に座り込んでしまった
「よかった・・・本当によかった・・・!」
武士は鼻をいじりながら
「さあ、顔を見に行ってあげてくだされ。小竹殿もそれを望んでいるはず・・・」
「ええ・・・ありがとうね」
そう言うと軽くおじぎをして病院のほうへと急ぎ足で向かっていった
そんなおばさんの後姿を見て、武士は自分の母のことを思い出していた

〜これを話すと長いので今回はカットさせていただきます〜

「・・・小竹殿がうらやましいな」
パッパー!
「そこの君、乗んないの??」
ふと我に返ると目の前にはバスが来ていた
武士が感傷に浸っている間に到着していたようだ
「君!聞いてるのか?乗るの?乗らないの?」
運転手は少しキレ気味である
「の、乗るでござる!」
武士はあわてて返事をする
残金を確認しようと財布をあけながらバスに乗り込もうとしたその時だった
ドンッ
「んがっ!?」
「きゃあ!?」
突然背中に強い衝撃を受けた武士
当然前に倒れこんでしまう
「つつ・・・な、なにごとだ・・・?」
階段にぶつけた足を押さえながら後ろを向くと1人の少女が尻餅をついていた
右手で肩にかかるくらいの茶髪をかき分けながら左手で腰を抑えている
事態を把握した武士はすぐに謝罪の言葉を言おうとした
「す、すまぬこt「いった〜い!何やってんのよ〜!!」
武士の声をかき消すほどの大声で非難の声をあげる少女
「そn「ああ〜!!ズボン濡れちゃったじゃんよ〜!どうしよう・・・」
「・・・・・」
何も言わせてもらえない武士
だから丸くなったとか言われるのだ
すると少女がキッと武士を睨みつけてきた
「あんたがボーっと突っ立ってたせいだからねっ!!」
少女は武士の財布を踏んだのにも気づかず
1人バスの中に入っていった

24武士さん:2014/09/15(月) 21:32:48
第23話 バス武士
 
落ちた財布を拾い上げ武士は金を払いバスに乗った
中を歩いていくと先ほどの少女が赤い顔をしてこちらを見ている
(なんなんだ、そんなに見つめられると拙者まで恥ずかしくなるではないか)
取り合えず話しかけてみようとする武士
「あn「さっきはごめん!」
またもや言えなかった
「今日は運がなくて気が立ってたんだ」
「友達と大喧嘩するし、地下鉄であんなことが起きるし、突然雨が降ってくるしさ〜もう最悪」
地下鉄の言葉を聞いた瞬間、悪夢が頭をよぎった
「う〜ん?どうかした?」
顔を覗き込んでくる少女に対し武士は目線を逸らした
「・・・いや、それは災難であったな」
「拙者も電車で帰るはずだったのだが・・・」
武士は初めて最後まで話せた
「実はさぁ、ぶつかったのがあんたみたいな人でほっとしたわ」
「最近治安悪いからさぁ〜もし変な奴だったら連れてかれて何されるかわかんないじゃん?」
(む、よくしゃべる方だな)

「次は〜白川シーサイド駅前〜白川シーサイド駅前〜」

武士があわててボタンを押そうとしたが先にランプがついた
少女が押していたのだ
「え?あんたもここで降りんの?」
少女はかなり驚いてるようだ
「うむ、ここからちょっと歩いたとこに拙者の家がある」
次に話す言葉がなかなか見つからん武士に対し少女はどんどん話してきた
「いつもは電車って言ってたけど、どこのガッコー行ってんの?」
「もしかして工業高校?私服だからゼッタイそうでしょ」

バスが止まり二人は降りた
バス停にはたくさんの人が並んでいた

「貴女の申すとおり工業高校に行っておる」
少女の質問はとまらない
「もしかして同じ学年に茶髪っていない?私そいつの友達なんだw」
武士は世界は狭いなと痛感した
「知っておる。同じクラスでござる」
少女はまた驚いたような顔をした
「世界って狭いね〜」
それは数刻前まで武士が思っていたことそのままだった
「私はあっちだからここでお別れ〜あんた携帯ぐらい持ってるっしょ?ならアド教えてよ!友達になろね」
武士は強引にメアドを取られた
「私のはコレだからメールしてねwそんじゃね〜」
少女は上機嫌でその場を後にした

25武士さん:2014/09/15(月) 21:38:03
第24話 仁義の果てに

(なんと気の強い女性だ)
と武士は思って帰ろうとした時
「・・・むっ!?」
(右手には拙者の携帯・・・じゃあ左手のは・・・)
武士は考えるより先に行動した
雨は一応やんでいたため全力で走って少女の後を追った
少女はジャスコムの信号機で停まっている
追いついた武士は
「ゼェゼェ・・・携帯をお忘れですぞ・・・ゼェゼェ」
少女はハッと気がついた
「いっけな〜また忘れちゃったwありがとね」
息切れもだいぶなくなり普段の素振りの成果がでたようだ
「では、拙者はこれよりジャスコムへ買い物に行ってまいる」
武士は夕飯のことを考えていなかった
「じゃあ、私も行く」
(!?)
武士にとっては予想外であった
(う〜む・・・。まさかこのような展開になるとは・・・)
二人はジャスコムへ向かう
その間も少女と話を続けた
「私もこの近くに住んでるんだけど、あまり見かけないね」
武士はとっさに答える
「拙者、あまり寄り道は好まぬので」
ジャスコムに入ると冷房が寒いくらいに感じ
(これは寒すぎる!)
「なんかここ冷房効きすぎてない?」
「うむ、拙者も寒いくらいだ」
家に冷房が無いなんて言えなかった
かごをとり、買い物をはじめる
「ねえねえ、ここで何買うの?」
目では食材を探しながら武士は
「夕刻の膳の食材を買っておる」
少女は再び驚き
「自炊してるんだ!えっら〜い」
 
「37「それ以上言う必要はないでござる」
店員が値段を言う前に武士は金を既に置いていた
ジャスコムを出たとき雨はやんで人通りが多くなっているようだ
「そろそろ帰るは、またお話しようね」
そう言うと少女は自分の家の方向に歩き出した
「・・・ま・・・待ってくだされ、まだそなたの名を聞いておらん」
「拙者、武士でござる」
名を名乗るにはまず自分から
少女は振り向き
「知ってるよ。私は弓坂、弓坂千秋。」
そう言うと弓坂は手を振り歩き始めた

26武士さん:2014/09/15(月) 21:52:41
第25話 一年で一番長い時間

(さて・・・だいぶ遅くなってしまったな)
携帯を見るとすでに10時を回っている
武士は重い食材を両手に持ちながらも急ぎ足で家へと向かった

ガチャ
「ただいま帰ったでござる―――といっても誰もおらんか・・・」
バタバタバタ
「武士!」
武士の両親は毎日遅くまで仕事をしている
その為炊事、洗濯などといった家庭の仕事はすべて武士が行っている
武士が寝たころに帰ってきて、武士が起きるころには出かけている
それが両親の日課であったはずだった
「は、母上!」
「怪我は?何も無かった?どうして連絡くれなかったの?」
昨日、気を失ってから連絡してなかった
それにずっと病院だったし。
ふと小竹殿のおばさんを思い出した。
「すまぬでござる。。心配させたが、拙者は無事でござる」
泣く母親をなだめながら、武士はある決意をした

「ふう・・・」
食事と風呂をすませた武士は自分の部屋の畳に寝転んでしまった
(色々な出来事があって、いささか疲れたでござるなぁ)

黒髪の少女との出会い・・・
駅の爆発・・・
市民殿との戦い・・・
小竹殿の怪我・・・
露牧殿の謎の行動・・・

その時武士の携帯が震えた
いつも「まなーもーど」にしているのだ
『さっそくども〜>▽< いきなりなんだけどさ、なんで刀もってんの?
 今気づいちゃったんだよね〜 ̄▽ ̄; だからよかったら教えてくれないかな?
 ってゆうか今は平成、廃刀令も明治時代からゆ〜こ〜なの!私だってそれくらい知ってるよぉ??笑 』
(・・・もう1つあった)
強気な少女、弓坂との出会いだ
(ぐ・・なんと難解な言語なのだ)
ピッピッピッ
          [送信しました]
「本当に・・・長い刻であった・・・」
メールを送り終えると武士はそのまま目を閉じて寝てしまった

27武士さん:2014/09/15(月) 22:42:18
第26話 夢魔の亡霊

気づくと武士は何か薄暗い部屋にいた。
するとそこには小竹が立っていた
「よ、武士。昨日ぶり。」
「小竹殿、意識が回復したでござるか?」
「それはなんとも言えないな。これはお前の夢の中だからさ」
武士は言いたいことがたくさんあったが順番に言うことにした。
「お主の母さまに会ったござる」
「あぁ。さっき来たよ。凄い泣いてたけど、声が出なくてさ」
「・・・親不孝でござるな」
「そういうなよ・・・自力じゃ起きれないんだからさ」
何かもどかしさを感じる言い方だった
「いや、なんでもないでござる。拙者の夢に何の用でござるか?」
「お前を導いてやろうと思ってな」
「冗談キツイでござる。守護天使にでもなったでござるか?」
「まぁ、そんなとこだ。」
「ついでに武士・・・お前に頼みたいことがある」
「なんでござる?」
「これから出会うある人にこれを渡してくれ」
小竹から小さなお守りを渡された
「それともう市民に関わるな。待っている未来は苦痛と不幸だ。」
(?)
「これからお前の周りは激変するが、己が信念を貫け。惑わされるな。」
「今言えることはコレだけだけどな。じゃあ、またな」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

武士は目がさめた。
そこは自宅の布団の上だった
夢だったのか・・・
手に小さなお守りが握られているのに気が付くのに時間はかからなかった

28あなたを、犯人です:あなたを、犯人です
あなたを、犯人です

29武士さん:2014/09/15(月) 23:52:09
第27話 運命の赤い糸?

「・・・夢・・・ではないであろうな・・・」
時計は7時を回っている
相当疲れていたせいか目覚ましをセットするのを忘れてしまったのだ
「これでは素振りや寒風摩擦をしている余裕はないか・・・」
武士はお守りを置き足取り重く居間に向かう
母様は心配して疲れたのかまだ眠っていた
武士は朝食の準備にとりかかった

「黙想・・・ご馳走様でした!」
食事を終えた武士は真っ先に携帯に向かう
昨日弓坂とのメールの直後すぐに寝てしまったからだ
(もしあの後返信が来ていたら・・・またまた申し訳ないことを・・・)
案の定メールはきていた
しかしそれは弓坂からのメールではなかった
『おう、起きてる?一昨日の1件で今日は休校になったぞ!
 だから大木町のゲーセンでも遊びに行こうと思うんだけど・・・
 お前も一緒にどうかな〜と思ってさ!』
赤木からのメールだ
(拙者遊びに行くなんて気分じゃ・・・いやみんなそうなのだろうな)
赤木は、いつも小竹と柿本と一緒にいた
その為小竹の意識は戻らず、柿本は怪我
悲しいはずが無い・・・
「・・・拙者も行くとしよう」
武士もかつて背中を斬られたとはいえ、比較的多く彼らと共に行動していた
返信を終えるとすぐに着替えて家を後にした

「おっきたきた!」
現地に着くとすでに2人がいた
二人とな?
「むっ・・・横川殿?!」
「へへっ?びびったべ?w」
武士の問いに赤木が即答する
それのそのはず、この二人は仲が悪かったはず
あの事件の後に何かあったようだ
「武士のびびった顔も見れたし」
「うっし!じゃあさっそくカラオケでも行くか!」
「か、からおけでござるか!!」
武士は歌うのが苦手・・・というより恥ずかしいのであった
その為昔からカラオケに着いていくことはあっても歌わずじまいであった
「問答無用!さっさと行くぞ!」
そういうとすごい速さで走っていってしまう赤木
横川もそれに続く
「む〜まあいい!やるだけやってやろうではないか!」
武士もとうとうあきらめて2人の後を追った

「いや〜歌った歌った!」
時計を見ると午後1時近く
武士がここに着いたのは9時ちょうどぐらいだったので4時間近く歌ったことになる
ちなみに武士が歌った曲は・・・主題歌と昭和初期の演歌
「腹が減ったな。そろそろ飯にするか」
赤木が提案する
「賛成〜!んじゃその辺のファーストフードにでも入るか!」
そう言うと赤木はチラッと横川の方を見る
「よ〜いドン!」
赤木の合図で赤木だけ走り出した!
・・・横川と武士を残して
「ど、どういうことだ、横川殿?」
「KYなんだよ、あいつは・・・」
二人は歩きながら追いかける
目的地は走るほどもない近い場所だった
「はぁ・・・はぁ・・・俺の勝ち」
赤木は訳も分からず勝ちを主張した
「・・・赤木殿・・・!」
横川の一言に激震が走った
「何やってんだお前?」
「・・・・・」
赤木は言い返せなかった
「早く入ろうぜ、武士!!」
武士たちは店内へと向かう
その時だった

「あ〜あんたは!」
大声にびっくりしながらも振り返る一同
「やっぱりそうだ〜!昨日はメール返せなくてごめん!」
弓坂であった
とっさに武士も謝ろうとするが
「こt「今日は袴姿じゃん〜!なんでなんで??」
またも遮られる武士の言葉
相変わらずである
弓坂の問いには赤木が答えた
「ファンタジー世界から出てきたんだよこいつ」
「へ〜・・・うん、確かにそんな感じ!」
首を何度も縦に振り必要以上に納得してみせる弓坂
「じゃあ!ブシ君って呼ぶねっ!」
「いや、それはちょっと・・・」
武士がボソッと非難の声をあげる
「なによ〜!私のネーミングセンスにケチつける気!?」
キッと武士を睨みつける弓坂
赤木と横川が心の中で同じことをつぶやく
彼女の威圧感に負けてしまった武士は
「・・・それで結構でござる・・・」
とあっさり認めてしまった

30武士さん:2014/09/20(土) 18:55:40
第28話 波乱の予感

2時になろうとしていた
「待ち合わせの〜あっ!!!こっちこっち〜」
弓坂は誰かに手を振っている
すると入り口から2人の少女がやってきた
「ごめん、16秒遅れたわ」
赤い髪の少女が言う
「いや〜話してたからぜんぜん暇なんて思わなかったw」
弓坂は即答した
来る言葉がわかっていたようだ
(む、赤と緑と茶か派手な少女たちだ)
武士は横川があきれた顔しているのに気がついた
赤い髪の少女が
「弓坂。この人たち・・・は?」
少し赤いの髪の少女が驚いてる
「何で貴方がここにいるんですか!」
指を指す先にいるのは赤木
「ん?俺?」
「貴方のせいで私の小遣いがパーになったんですよ」
「しらねぇよ!だいたい俺はお前のことしらねぇし」
口喧嘩が始まる寸前に弓坂が間に入った
「スト〜ップ!!あんたたち知り合いなの?」
赤い髪の少女が先に
「昨日ゲーセンで渇上げされた」
「ばばば、馬鹿なこと言うんじゃねぇよ」
「それでは飽き足らず身体「あーーーー」」
赤木は言葉を遮った
「あの事件の後に…そんなお前を友達認定した俺が恥ずかしいよ・・・」
横川が横でため息をついた
"あの事件"の言葉
後ろで俯いていた緑髪の少女が反応したのを武士は見逃さなかった

弓坂もそうであるが彼女たちは白川女学院の生徒なのであろう
武士たちの工業高校と一番近い距離にある学校
イベントなど同時開催されるため交流はかなりあった

まぁ、あれほど大規模な事件
そして最寄り駅でもあるため
何か辛いことがあっても不思議ではないと武士は思った

弓坂はそのことに気付き半ば強引に話を進めた
「私たちの学校もお休みで気晴らしに出たんだけど女三人じゃこわーい」
「要は一緒に遊ばない?ってことだろ?」
横川がやれやれといった感じになっていた
「どうする?横川殿。拙者はいいと思うのだが」
「マジ?二言はないな?」
横川の驚いた反応にすかさず弓坂が
「良し決定」
弓坂の笑顔がいたずらっ子のようになってきた
「行き先は〜?」
弓坂が会話を振ると先ほどまで口げんかをしていた二人が
「あそこしか・・・」
「・・・ねぇだろう!」
武士に悪寒が走った
これはやばい・・・と
「じゃあカラオケに大決定!!」
もはや後の祭りだった
武士の財布も喉も風前の灯だった

31武士さん:2014/09/20(土) 19:20:16
第29話 各々の闇

カラオケで12曲ぐらい歌ったとこで小休止が入った
「あはは〜ブシ君、ほんっと演歌好きだね」
「ほんとだよな。しかも渋い」
「あにめの歌しか歌わぬお主に言われたくはないでござる」
やはりここでもからかわれる武士
「ござる〜ぅ。よーしっ!『そばかす』うたいまぁーす」
「よっ待ってました!」
弓坂がマイクを持ち、赤木が合いの手を入れる
「ところで、弓坂。」
「ん〜ん?」
「彼らは誰?」
「へっ?」
間の抜けた声がスピーカーから響く
最もな質問だと頷く武士
やっと気がついたかと呆れ半分の横川
「じゃ自己紹介すっか」
赤木だけは微塵も感じてなかった

成り行きで自己(人物)紹介が始まった
「え〜っと、俺が赤木であっちが横川、竹刀持ってるのが武士。」
赤木は淡々と紹介した
また緑髪の少女が反応し浮かない顔をしていた
弓坂がまえに出てきて
「私は弓坂、赤い髪の方が、三枝。緑の髪が鮎沼。」
微妙な間が空く
横川は合コンみたいだと苦笑した
やはり最初にしゃべり始めたのは赤木だった
「よっしゃ歌おう!」

赤木と三枝が熱唱する中
武士は鮎沼の横に座り話しかけた
彼女らが必死に元気付けようとしている対象は鮎沼だと
うすうす感じていた
「せっかくのからおけでござる。楽しまねば」
ゆっくりと鮎沼は顔を上げ武士の目を見た
キッっと鋭い眼光の一瞬後には涙を溜めていた

ガシャーン

机が倒れ、武士は鮎沼に胸倉を掴まれていた

33武士さん:2014/09/20(土) 21:10:30
第30話 罪と責務と

ガシャーン

机が倒れ、武士の好きなコーラが宙を舞う
コーラが赤木の股間に着地したときには
武士は鮎沼に胸倉を掴まれていた
「ちょっと、美香!やめなって」
弓坂が間髪入れずに割り込む
奥で赤木が蹲っている
「離して、ちーちゃん。だって、どうして。この人が無事で彼が・・・」
その先は言葉になっていなかった
鮎沼は頬に涙が流れガクッとしゃがみ込む様に倒れた
「あなた・・・強いんでしょ・・・一緒に居たんでしょ・・・なんで止められなかったのよ!!」
そう叫んで鮎沼は三枝に抱かれ泣き続けた
弓坂は武士と横川に目配せをし、部屋から外に出た

自販機前
重々しい空気に最初に口を開いたのは弓坂だった
「あの事故で美香は大切な人を失った。失いかけた。」
志々野目で起きた自爆テロ
多くの人が亡くなり、地下鉄ともあって未だに捜索活動が続いている
「どうして拙者が近くに居たと知って?そもそもなぜ拙者を?」
「彼女は・・・」
「小竹の幼馴染だろ?」
横川が言った
「知ってた?」
「薄々感付いてた。携帯で一緒に写ってる写真も見たし。体育祭にも応援に来てたからな」
「拙者気がつかないでござった。女子はみな同じにしか・・・」
横川と弓坂が軽蔑したようなまなざしでこちらを見ていた。
「鈍いというか・・・」
「サイテー・・・」

小竹は日頃から友人たちの話をするのが好きだった
中でも変わった奴の話として武士が登場することが度々あった
あの日も武士と出会った事をメールしていたらしい
そして小竹は意識不明
行き場のない悲しみとぶつけどころのない怒りの矛先が武士に向いた
それだけのことだった

「拙者は顔を合わさぬほうがいいのでは?」
「ブシ君が気にする必要はないのよ。知らない人がやったことだから」
部屋に戻る途中その言葉が重々圧し掛かった
確かに普段であればそう思える
しかし、爆破の犯人を知っている武士にとって何よりの罪悪感となった
部屋に戻ると三枝の膝枕で鮎沼は泣き疲れて寝ていた
ついでに赤木もパンツ姿で地べたに寝ていた
「目の前でコーラのかかったズボンを脱ぎ始めたから掌底極めといた」
三枝が淡々と説明する
大よそ想像がついた
「・・・身の危険を感じた」
三枝がちょっと頬を赤らめた

34武士さん:2014/09/20(土) 22:09:56
第31話 迷い

「んじゃ、俺は彼女を背負って帰るよ。家近いし」
横川の申し出に誰も異論はなかった
「友人の幼馴染に手出したりしねぇから。そいつじゃあるまいし」
そういうと横川は鮎沼を背負いカラオケを出て行った
「まって、私も行く。弓坂、また学校でね。」
そういうと三枝も横川の後を追った
「拙者たちも帰るでござるか」
「そうだね」
気絶している赤木にそっとメモを残し、その場を後にした

『知らない人がやったことだから』
武士の脳裏に深く焼きついた言葉
あの時は梨澄の話を聞き、彼を手助けしようと思った
ただ、夢の小竹の言葉。
『それともう市民に関わるな。待っている未来は苦痛と不幸だ』

「−−シく・・・ねぇ・・・ブシ−−−てば」

武士は悩んだ
「(拙者、何を信じてよいのか…)」
市民は未だ何かを隠そうとしているのは明白だった
「(市民殿の話を聞いてまるで市民殿が正義と感じていたのか・・)」
テロを起こしたのは市民だが起こさせた人物は他にいる
アニメでありそうな展開だが現実問題そう簡単ではない
真の黒幕が出てきたからといって憎悪がそちらに向くわけではない
「(もう一度、話を聞く必要があるでござるな)」

「ブシ君!!!」

目の前に突然弓坂の顔が出てきた
「うぉ、何でござるか」
「全っ然!話し聞いてないんだもん!」
「すまんでござる」
ジーっと武士の顔を覗き込んで
「何か隠してることあるでしょ」
ギクッとなったのを悟られまいと平静を保つ
市民の事はまだ伏せておいたほうがいい
「好きな人のこと。考えてたんでしょ!」
「ぬ?」
「恋してますって顔してた!いやらしい。」
「そんな・・・(図星)」
そういわれて女子高生の笑顔が頭に浮かんだ
「あ〜あ。私も茶髪に連絡しよ〜」
「茶髪殿と弓坂殿は付き合っているので?」
自分の本心を悟られまいと話を切り返した
「茶髪はそう思ってないみたいだけどね・・・じゃ、私こっちだから」
「うむ、まためーるするでござる」
「またね〜おやすみ〜」
そういうと弓坂は手を振って去っていった

「これから市民殿のお見舞いに行こうと思うんだが・・・お主も行くでござるか?」
弓坂と分かれてしばらくして茂みに向かって武士は問いかけた
腰の刀に手をかける
武士が始めて手にした刀
切先諸刃造『永峰』
「いや、遠慮しておく。ただ、下手な動きをすれば後に引けなくなるぞ」
「それがわからぬ拙者ではない。お主も引き際を見誤るな。大切なものを失くす前に」
「・・・警告したぞ・・・」
茂みから気配が消える間際
「・・・忠告感謝する」
そう聞こえた


その頃・・・病院―――――
医者たちが廊下を息をきらしながら走り回っている
「見つかったか!?」
「いえ・・・どこに行ったというんだ・・・まったく」

部屋のカーテンがそよ風でゆれている
心地よい光が部屋のベッドに射している
しかしそのベッドに患者の姿はない
部屋の名札には『梨澄』と刻まれていた

35武士さん:2014/09/20(土) 22:59:34
第32話 そして・・・

武士は何も知らずに病院についた
なぜか市民の病室が慌しい
「どうかなさったのか?」
武士は医者の一人に聞いてみる
「ちょっと失礼。急いでるんだ」
そういうと医者は武士から離れていった
状況が飲み込めない
もしや、ナシス政府が刺客を送ってきたのか
嫌な考えが脳裏に浮かぶ
「市民が逃げ出したんだとよ」
振り返るとそこにはジャンプを持った柿本が居た
見るからにいつでも退院できます
そんな感じであった
「さて、これからどうする?」
「うむ、市民殿の性格からすると町田へ向かったのでござろう」
武士はうすうす市民が逃げ出すことを予想はしていた
「拙者これより市民殿を追うが、柿本殿はいかが致す?」
「武士、まだ早い。こちらは情報不足だ。闇雲に追ったところで埒は明かない」
「しかし・・・」
「まぁ、いったん学生に戻ろう」
「(何か策があるのか柿本殿・・・)」
武士は柿本の肩を支え学校の寮へと向かった
道中
「なぁ、市民を捕まえてお前はどうしたい?」
柿本の唐突な質問に対し武士はこう答えた
「拙者、思いっきりひっぱたくでござるよ。そしてもう一度一緒に机を並べたい」
「・・・」
柿本はしばらく黙った
武士は内心ヒヤヒヤしていた
柔剣道やサバイバルゲームなど集団勝負事に負け無しの戦略家
そんな柿本を敵に回せばタダではすまない
そう感じ取っていた
「それがお前の選択だな。甘っちょろいが好きだぜ。なんかジャンプみたいだな」
「・・・忝い」

××××××××××××××××××××××××××××××××
ナシス司令部
軍幹部が反撃作戦の会議をしていた
薄暗い部屋に白熱灯の光、タバコの煙が立ち込めている
「反乱軍の奴らが決意を見せつけるため地下鉄を爆破したそうだが死傷者が少ない、所詮は臆病者の集まりということさ」
「我々の情報によると現場近くの病院で爆破実行者が入院しているという、だから病院を完全に破壊する」
「テロリストを匿っているがために粛清すると通告しよう」
一人の男が話を聞き飛び込んできた
「まて、あの病院には数千人の人が入院している、それを「うるさい!」
ドン!
銃声と共に飛び込んできた男は倒れた
「邪魔だ!この死体を片付けろ!」
二人の兵士が死体を引きずっていく
硝煙や血の匂いがタバコの匂いで消される
ここでは人一人殺したところで何も動じない
「何か言いたい事があるかね大佐。」
司令官らしき人物が呼ぶ先に自分が居た
損な役回りだ
前線基地を指揮していた自分が突如こんな政府中央の奥地に呼ばれたと思えば
病院攻略の指揮を仰せつかるとは・・・
明らかトカゲの尻尾切りでしかない
「・・・いいえ。ただ密偵によると実行犯は近くの工業高校に戻っている可能性がある」
「手負いとはいえあの『双頭銃騎』だ。それぐらいの戦力は妥当であろう」
ツイてないことに『双頭銃騎』ときたもんだ
このところコーヒーの飲みすぎで寝不足なのか
普段よりも頭痛がひどくなった気がする
「我々の潜入部隊の楔を解き。病院と工業高校を地図から消そう」
ゆとりとでも言うのかわけのわからない奴まで出てきやがったか
地図から消すとか、世界征服だとか言い出す奴ほど信用は出来ない
こんな奴が自分の上司だと泣けてくる
「大佐。君に任せられるかな」
テスト・・・というわけか
どう転んでも自分は恨まれるな
「了解しました」
「作戦は本日09:00時に決行とする」

36武士さん:2014/09/20(土) 23:03:39
第31話 軍指令の思惑

月明かりはいつもと変わらない、儚く地面を染めていた
風は煙草の煙が揺れる程度で肌に心地良い
「指令」
後ろから少し怯えたような声がした
振り返るまでもない、金魚の糞とは彼の為にあるような言葉だ
どうしようもない気の弱さとは裏腹に、仕事はきっちりとこなしてくれる
「さっきのことか?」
ほんの数分前のことだ。総帥の側近・・・極点的タカ派といわれる参謀長のあの男が
同士に向かって何の躊躇いもなく銃を放ったのは
「いくらなんでも、あれはやりすぎでは・・・」
この男が、上に直接進言できるほどの根性を持っているわけはないが、
俺に言ったところでどのみち何の解決にもなりはしない
軍指令の自分とて、そんなあからさまな批判などをしたら
本当の意味で首が飛ぶかもしれない。いや、あの男なら絶対にやる
「死体を見て怖気付いたか?」
表情は真面目に、内心は意地悪くニヤつきながら言ってやった
自分が楽しんでいると言えばそうだが、このぐらいの態度が
この男にとっては生かさず殺さずで調度いいのだ
「い、いえ、そういうわけでは・・・ですが、俺は総帥の理想に憧れて隊に入りました
奴等、俺が言えることではありませんが、大した度胸も無いくせに
卑怯な手ばかり使ってきます。・・・できれば正攻法でそれを討ちたいんです」
「手段に気を使って理想を実現できないんじゃ意味がないんだよ
参謀長、あれで作戦の悪魔っつわれた人だ。信用しとけ」
兵達は「あの人は狂っている」とよく陰口を叩いているが、まんざら冗談でもない
作戦の立案に関しては本当に狂ったように目の色を変えると聞く
だが、実際あの人が立てた作戦が失敗に終わったと耳にしたこともない
参謀長といいこの部下といい、普段がどうであれ仕事はこなす人物は信用に値する
「・・・じゃあ、本当に病院は爆破されるんですね」
「当り前だ。総帥も補佐官も、この作戦に賛成していらっしゃる
やつらに対する見せしめとして有効な手段だ、ってな・・・」
正直、自分も今回の作戦は無謀だと思っているが、立場的に部下の前でそうは言えない
それに、参謀長とて総帥のお墨付きがなければ作戦を実行できないので
作戦に反対することは総帥に反抗することになる
「心配すんな、お前が心配しなくても総帥の理想は達成される
・・・大きな声では言えんが、もうすぐ新兵器も実践配備されると聞いた」
それ以降、部下は黙り込んでしまった
自分なりに必死に心の整理をしているのだろう

話をしているうちに朝日が見え、いつの間にか風も止んでいた
少し安心した。風がなければ爆破による火災もあまり延焼しないだろう
自分にそう言い訳をした気がする

あいつらを巻き込みたくなかった

もう後戻りはできない

37武士さん:2014/09/20(土) 23:09:50
第34話 双頭銃騎

「この先は一般人は立ち入り禁止だ」
鉄条網に囲まれた場所
ここは捨てられた町、町田
日本政府より独立して町全体を囲ってしまった
その中は衛星写真ですら覗く事が出来ない
入り口である大きな鉄門に立つ2人の兵が1人の男に注意する
「・・・・・」
しかし男は耳を貸そうとせず、なお歩みを止めない
「止まれ!これ以上近づくと撃つぞ!!」
しびれを切らせた兵士達は男に銃を向ける
それでも男は止まろうとしない
「くっ!やむを得まい、撃て!」
兵の1人がそう指示した瞬間だった
パパンッ
男が手に持った二丁の拳銃から放たれた弾丸は兵の銃の銃口をとらえた
そして銃口を塞がれたことで行き場を失った圧力が銃を暴発させる
ドガァァンッ!!
「くっ・・・!」
銃を失った兵は後ずさりする
「死にたくなかったら大人しくしてろ・・・」
男は兵達に一言残して、門を抜けようとした
しかしその時、門の奥から1人の男が出てきた
「相変わらず騒がしいやつだな。ただでさえ武器が不足してるってのに・・・」
疲れたような顔をしている男はタバコに火をつけながら言った
それに対して二丁拳銃の男は頭をかきながら言葉を返す
「しょうがねえだろ〜?通行証はお前に預けたままだったんだからよ」
その言葉を聞くとフッと軽い笑みを浮かべる男
「どうやら亡霊じゃなさそうだな・・・【双頭銃騎】梨澄・・・」
「これまた懐かしい呼び名なこった・・・まっ帰ってきたってコトだな」
そう言うと互いに拳をあわせる2人
「・・・まさか生きて帰ってくるとはな。しかも任務を成功させた上で」
「ああ、お節介なバカのせいで生き残っちまった」
市民はにやけながら男の問いに答えた
「そうか・・・よく帰ってきた・・・!」
男は勢いよく門のほうへ振り返る
すると門の奥には何人もの兵達が立っていた
「英雄の凱旋だ!一同敬礼っ!!」
男がそう言うと兵達は一斉に敬礼をした
市民はそんな様子を複雑な表情で見ながら、奥へと消えていった

38武士さん:2014/09/21(日) 00:15:27
第33話 崩れ逝く平穏

学校が始まり教室へ入った武士は言葉を失った
「・・・なあ柿本殿」
「ああ、武士」
教室を見回すと明らかに人数が少ない
爆弾テロで影響でここまで多くの影響が出ていようとは
地下鉄だけではなく心まで砕いてしまったほどの衝撃だったようだ
巻き込まれたのか、精神障害なのか、交通機関が無くて来れないのか・・・
人数の1/3が休んでいた
市民や小竹はもちろん、朝宮、角鬼、笹塚、島野、伊豆大島、赤木・・・他にも何人か
「おっはようさーん」
赤木がやってきた

プルルル
一通のメールが携帯に届いた
『やばい、屋上集合』
「先生!おなかが痛いです!」
「拙者もでござる・・・」
「トイレは一人ひとりだ!無限大にぶっとばすぞぉ」
拙者達は教室からそそくさと逃げ出した
屋上に着くとそこには朝宮と韮崎がいた
「朝宮殿に笹塚殿。なぜここに」
「俺が頼んどいたのさ。信頼できる奴に」
柿本が言った
「では今日休んでるのは?」
「全部が全部そういうわけでもないさ。朝宮、どうした?」
「お前ら・・・何に手を出したんだ・・・」
情報通の朝宮がいつになく真剣な顔つきで問いかけてきた
ついで韮崎が話し始める
「情報の海にダイブして市民を調べたが、奴は相当なタマだな」
「町田の内紛の中心を突っ走ってるような奴だ。狂人だよ」
「それでも拙者、市民殿を明らめきれぬ」
「このことは他言無用だぞ。この学校にもスパイがいる」
まさか
武士と柿本は驚きを隠せなかった
こんな都内のいち高校にスパイなどと思ったが
敵も中々のようだ
「もう一つ、敵の今度の狙いは−−−−−」

次の瞬間
ドーンと鈍い音が鳴り響き
H型の校舎が激しく揺れた

39武士さん:2014/09/22(月) 12:05:24
第36話 血の楔

ドーン。
地面が裂けそうな程激しい揺れに武士達は立っていられなかった
身を屈め激しい衝撃波を避ける
目を開けると黒煙とコンクリート片が降り注ぐ
まるで噴火現場のようだ
「柿本殿!」
「イテテ、俺は大丈夫だ」
のそのそと動きながら柿本が答えた
「韮崎殿!」
「大丈夫だっ問題ない。」
韮崎も直ぐ様返事をした
「朝宮ど・・・の?」
先ほどまで朝宮がいた場所に人影はなかった
次に武士が朝宮の姿を捉えたのはフェンスの向こう側だった
体重の軽い朝宮は爆風で一旦木綿のように飛ばされたに違いない
ここは屋上
下まで落ちれば助からない
「朝宮殿!」
武士の叫びを聞き取ったかは定かではない
ただ武士に向かって親指を立て黒煙の闇へと堕ちていった

「しっかりしろ、武士!」
「すまぬ、ただ…」
友の死
見た目以上に武士へのダメージは大きかった
「おい、このままじゃヤバイぞ!」
韮崎が指差す先
武士と柿本は言葉を失った
フェンス越しに見た先の世界はこの世の地獄を見ているようだった

H型校舎の中央棟は大きく抉れ火の手が上がっていた
工場棟上の中庭の真ん中には大きな穴が開き下まで見えている
食堂は跡形もなかった
油やプラスチックの焦げる匂いに混ざり人間が焼ける匂いが鼻をつつく
さらに目を疑う光景が…

タカタカタカタカ
逃げ惑う学生を銃で撃つ人間

「くそっあんにゃろー」
「拙者が止めるでござる!」
「まてっ!」
柿本と武士を韮崎が制止した
「闇雲に乱戦に巻き込まれない方が良い。相手はプロだ」
「しかし…」

40武士さん:2014/09/22(月) 14:34:55
第37話 反撃の狼煙

韮崎と柿本がそれぞれどこかに電話していた
武士は歯痒かった
1分、また1分と過ぎるたびに犠牲者が増えていく
「(拙者、友をいや、こんな時代を変えるために刀を振るうでござる!師匠、やはりあなたは間違っていた)」
柿本と韮崎が同時に通話を辞める
「お前もか?」
「あぁ、圏外だ」
「状況を整理しよう」

現在工業高校がナシス一派に襲撃されている
敵の数は不明
教室にいる沖田達は応戦しているがスパイとでも言うのか裏切り者が複数いるらしい
誰が信頼出来るかパニックらしい
同時刻に病院も爆破襲撃された
目的は共通して梨澄だろう
暗殺でござろうか?
おそらくな
小竹殿は?
笹塚と横川が保護した
拙者達はどうするでござるか?
奴らのもうひとつの目標を守る
この学校で開発されたレアメタルだ
それはなんでござるか?
軍事利用されたらどえらい代物だそうだ
沖田達が開発者である永平教授を確保した
それであとは?

「隠れてやり過ごすしかない」
「そんな悠長なことは言ってられないでござる!」
武士は怒りで震えていた
「目の前の敵を一人でも多く殺めるでござる」
「待て!まだはやい!」
武士は階段へと走って行った
「ばっか野郎が」
韮崎が唾を吐き捨てる
口のなかはジャリジャリで血の味さえしてきた
「どうする?軍師さん?」
「ん?あぁ、武士が行くのは想定済み。そろそろかな」
柿本時計を見やった
「(俺の戦略は正しいが、この戦いかた何処かで…まさかな)」
「反撃開始だ」
秒針が9:30になった瞬間
大きな爆発音と共に学生の反撃が始まった

41武士さん:2014/09/23(火) 20:43:52
第38話 町田難民自治区

堅い木のベッドに寝そべる
天井には銃弾の跡
部屋を見回すと壊れかけた本棚に壁にはナイフが飾ってある
どれもこれも埃がかぶっていた
「戻ってきたってわけだ」
そう市民はつぶやいた
4年前、レアメタルの存在を知り工業高校へと潜入した
学校というもの自体初めてであったが
初めての学び宿に初めての友達…
心地よい日々が続いて
初めて自分の罪に気がついた
潜入者にして一番侵してはならない罪
友人たちに情が移ってしまった
一時使命を忘れ本気で平和な世界で過ごそうとした
「はてさて、俺は英雄かそれとも臆病ものか…」
「にしても、もう一度ふわふわなベッドで寝てみたかったな」
クスッと鼻で笑った

コンコンッ
「入れっ!」
「梨澄、本部で幹部方がお待ちだ」
木のベッドから身体を起こし従者の後について行った


反政府組織本部
地下洞窟を利用した広大なジオフロント
核兵器にも耐えられる特殊シャッター装備という
ただ、相変わらずカビ臭い
「ようこそ双頭銃騎」
「この裏切り者がなぜここに」
「梨澄は任務を全うしていた!地下鉄爆破だって成功した」
反政府組織内にも過激派と穏健派の2派が存在する
4年前までは俺も過激派の一部だった
だがこの4年間の人々の出会いが俺を変えた
「4年も潜入してレアメタルすら獲得できない愚か者が」
「我々の希望の星が聞いてあきれる」
円卓を囲んで半分の人間がブツブツとつぶやく
「あの工業高校は侮りがたく、慎重にならざるを得ませんでした」
市民はそう発言する
間違っていない、あの学校、あの学年、あのクラスには化け物が多く存在した
「俺だったら3日で目標を完遂してみせる」
ひとりしゃしゃり出てきた男に市民は睨みを利かせた
「…(目で殺す!)」
「くっ…」
男は怯み口を閉ざした
「それぐらいにしておけ、まずはよく帰ったと言おう」
最高司令官が一度会話を断った
「君が英雄か否かはもうまもなくわかるよ」
「どういう・・・ことです?」
「ナシスが武力で工業高校制圧にかかった」
「なっ・・・」
言葉を失った
ナシスの特殊部隊はよく訓練されている
それだけでも手ごわいのにあの学校にはスパイが多数潜入していた
「その結果を見て、君の今後の任務を言い渡そう。それまで休んでいたまえ」
「・・・」
市民は円卓の部屋を後にした

42武士さん:2014/09/23(火) 21:22:22
第39話 学生プレゼンツ

「3」
時計の秒針が刻々と9:30に近づいていく
「2」
何事もなくナシス特殊部隊が永平研究室を取り囲み扉を開け突入した
「1」
刹那
「ドーン!」
永井研を含め特殊部隊員をC4爆弾が吹き飛ばした
無線が飛び交う
どうやらこちらを皆殺しにする算段のようだ
「はい、成功」
「おい、有住!隠れないと殺されるぞ!」
「こそこそするのは見た目も心も性にあわねぇ」
言ってるそばから廊下の反対側にナシスが2人突入してきた
「貴様らかぁ!!」
タタタタタタタ
有住に銃撃を開始する
しかし銃弾は途中で何かにはじかれてしまった
「防弾ガラスでしたー」
挑発するような物言いをする
「ふざけた真似を」
「待て!」
ナシスの一人が気がついた
「トラップだ!」
「く、なめたガキだ。」
廊下に張ってあるピアノ線を見つけたらしい
線の端には手榴弾がガムテでつけてある
「所詮はガキ。プロには敵わん」
トラップを解除しようとしたとき、防弾ガラスの向こう側で
「はい、残念。トラップはダミーでリモコンでした」
有住の言葉に一瞬呆けた声を出したナシスの2人は真っ赤な炎に呑まれていった
「まったく、趣味の悪い奴だぜ。もっと紳士的にスマートに戦わないとな」
そういうと沖田はPSPを3台取り出した
システムをリンクさせるとそこにはコックピット画面
小型多脚戦車の遠隔コントローラになっていた
「いやーっほう!」
3台の戦車が黒煙渦巻く戦場へ駆けて行った

特殊部隊は何が起こっているのか全く把握できなかった
30分前までは蹂躙していた自分たちが徐々に負傷者が増えている
「くそっ、何が起こっている!」
『刀を振る侍が…ぎゃーーー』
『罠だらけで進めない!』
『小型のラジコン多脚戦車が!うわっ、こっちへきたー!』
無線は入り乱れ何が何だか分からない
「隊長はどうした!」
「先ほどから姿が見えません」
「裏切ったか…パンツァーファウストで外壁から攻めるぞ」
「ヤー」
5人が横並びに構える
引き金に手をかけた瞬間
カンカン
と乾いた音がし、兵隊が最後に見たものは筒に小さな穴が開いていた

十日月タワービル屋上
「俺だ」
「いいや、僕だね」
工業高校近くのビルの屋上で2人の男が言い争っている
船戸と八潮だ
スナイパーライフルを担ぎお互いの戦果を言い争う
「言い争う前に敵を潰して犠牲者を減らせ…」
2人が振り向くと1つ、また1つと着実にスコアを伸ばす西園がいた

43武士さん:2014/09/23(火) 22:21:40
第40話 軍師

柿本は屋上から戦いを眺めていた
韮崎が校内に配置されている監視カメラから情報を読み取る
どうやらかなりの善戦のようだ
だがどうも腑に落ちない
敵の戦略は緻密で繊細
攻め方が被害を極力抑えようとするモノだ
しかし、人選が失敗だったか
現場指揮官が相当間抜けなのか
戦術の真意を理解していない
ガタン
不意に扉が開き二発の銃声
一発はパソコン
もう一発は韮崎を捉えていた
「韮崎!」
「おおっと動くなよ。知将さん」
銃を持った黒い影が2つ階段から出てきた
「やはり、お前達か。」
視線の先にはクラスメイトである二人が立っていた
「戦術お見事。ただ詰めが甘いぜ。ま、うちの軍師も同じだがな」
日の光に顔が浮き上がる
吉岡と伊豆大島
『かつて』クラスメイトだった者達だ
「俺にレアメタルを渡してくれりゃ生かしてやるが?」
「どうせ人質にして市民を呼ぶ算段だろ?」
「お見通しって奴かよ」
ピーピー
伊豆大島が無線を取り吉岡に話した
「被害はでかいが最期の部隊が永平教授を追い詰めた。お前らの敗けだ」
「・・・」

無線で話す伊豆大島が騒ぎだした
会話をスピーカーに流す
『目標が消え扉が閉まって!エアコンから冷気と紫の煙が!!』
『ザーザーザー』
『こちら、帝国ホテルの209号室です。デリバリーのお届けはいかがでしょうか?』
吉岡が無線を剥ぎ取りどなり散らした
「貴様は誰だ!」
「元クラスメイトの鈴沢だよ。冥土への送り人さ」

44武士さん:2014/09/23(火) 23:06:15
第41話 バックグラウンド

「うわぁ、もうだめだぁ」
伊豆大島が逃げ出した
それから間髪入れず階段から十日月とじいが上がってきた
「もう諦めなよ。僕の私設軍隊が包囲した」
「うるせぇ!町田市民を殺るまで俺は死なねぇ。動くな!!」
吉岡がリモコンを取り出す
「こいつは関東に電気を供給してる発電所に仕掛けた爆弾のスイッチだ。電気を失って混乱したとこで逃げさせてもらう」
ポチッ
瞬く間に電気がストップした
ハズだった
「残念だね。発電所は今日はお休みだよ。爆破したって人間すら殺せないよ」
「ばかな…どうやって」
「首相に僕がキャンプするのに電気があったら楽しめないと言ったんだよ」
十日月は柿本のところまで歩く
その前にじいが絨毯をひく
「それに電気を食うからね。君達が殺したと思ってたのは全部立体映像だよ」
さすがの吉岡も開いた口が塞がらない
これだけ暴れて被害は特殊部隊だけだというのだ
「ここの地下には日本を支えて余りある大型融合炉がある。電気が切れることはまずないよ。」
ドサッと吉岡が膝をついた
どうやら観念したらしい
階段から赤木が上がってきた
「赤木君、韮崎君に例のものを」
十日月が赤木に指示を出す
赤木が持ってきたのは赤い液体
「ニラ、これを飲め」
「…何か…人が飲むものに…見えん…」
「良いから飲め」
ゴクンと飲む
韮崎がうめき出す
骨が溶け傷口が熱くなり血が沸騰する
シュー
韮崎は気絶しているが傷口は塞がった
「さすがスマグのフルヒールポーション」

45武士さん:2014/09/24(水) 11:54:08
第42話 所変わって鮫島駅

今日は不思議なことが起こる
そんな気がしていた
先週に入って突然祝日が増えた
いきなりお休みになったからって予定が入るわけじゃあない
ましてや彼氏とのデートなんて夢のまた夢だ
「弓坂!弓坂!」
「あっ、えっ、うわっ」
三枝の呼び掛けに驚いて大判焼きを落としてしまった
せっかくの有名なお店で買ったのに
ハニー抹茶ベーコンチーズ味
「下手物なんか買うからよ」
「ひどーい。ちょっとちょうだい!」
「あっ、ちょっ千秋!」
三枝の大判焼きをかじる
「もう…」
三枝はちょっと不貞腐れた顔をした
クスクスっと笑った
最近、ニュースは暗い話題で一杯だ
だけど私には関係ないと思っていた
「ん?あれは?」
三枝の指差す先に橋のうえに黒髪の女性がいた
「確か…」
「長谷部沙織。隣のクラスでミス白女の」
「しっ、知ってるわよ!」
三枝を叱咤した

橋の上にいくと長谷部はずっと一方向を見ていた
「長谷部さん、おはよ」
「あ、おはようございます。」
「こうしてお話するの初めてだね」
「はい」
いつの間にか反対側にいた三枝が長谷部に大判焼きを渡す
「あんた!隠してたの!?」
「私、一つじゃ足りない」
食い意地が張っている

長谷部と三人ならんで話をした
白女のこと工業高校のこと
最近出会った不思議な友達のこと

ちょうど9:00に差し掛かったとき
ドーンと地震のような揺れを感じ
おとのする方向を見ると黒煙が上がっていた
長谷部は驚いたような顔をした
嫌な予感がした
「長谷部さんをお願い!」
「了解」
私は走って工業高校へ向かった
軍人のような白スーツが検問のようなものをして中に入れない
しかし裏道を知らない私じゃなかった
回り道により結構時間を食った
工業高校前に着いたとき校舎はひどい有り様だった
校門を抜け入り口に近づいたとき
扉から一人の男が飛び出してきた

あ、これはいけないやつだ
と思った

46武士さん:2014/09/24(水) 14:10:46
第43話 お豆

中学時代、高校受験に失敗した俺は路頭に迷っていた
そんな時に、約束を守れば高校に受からせてやると体の良い条件に飛び込んだ
言われてみれば俺の不幸はそこからだった
工業高校の生活はわりと楽なものだった
maxiで女の子とも出会った
吹き抜けのあるロビーで待っていたが誰も来なかった
マックで30万稼いだ
未成年に手を出してしまったこともあった
ただ何をしたいのか
何をすれば良いのか
わからなくなっていた
4年ぶりに奴等から連絡が来たとき目を疑った
ついに来たかと思った
決行は9:00
戦闘訓練は受けていたが緊張が走る
そもそも同じクラスの吉岡が俺の上司だったとは気が付かなかった

そして今
作戦は失敗した
吉岡を残し一階へと走っている
おかしなことに仲間の死体しかない
学生の虐殺をしたのに
死体が一つとしてない
バンッと扉を開け飛び出す
そこには茶髪の女性が立っていた
ここまでか…
いや、死ぬ前に良い思いをしよう
理性ではなく本能で女性につかみかかった

48武士さん:2014/09/24(水) 15:53:59
第44話 秘剣将清水流

柿本と韮崎を屋上に置いて階段を下り始めた
頭は冷静で血の熱さが流れるのを感じる
抜き身の刀を下げ廊下を歩く
朝宮や後輩たちを殺され激昂すると思った
しかし頭の中はすっきりしていた
もう誰にも邪魔はされない
廊下の反対側でナシスの特殊部隊5人が銃を向ける
当たる気はしなかったが、撃たせても得はないだろう
刀を一旦納刀し構える
敵が銃の引き金に手をかけた瞬間
「秘剣将清水流…壱ノ型!!」
銃身から弾が一発も出ることはなかった
神速の抜刀術
初めて人を斬る感触
何が起きたか分からないような顔をして死んでいる兵士
そして改めて自身の力を知る
自然と口が緩む
笑い声が出てきた
続けざまに3人を斬る
返り血を浴び着物が赤く染まる
師匠が恐れていたこと
武士は力に屈し鬼へと成り果てた

斬って斬って斬り続けた
もはや敵も味方もなく
斬る感触、圧倒的な優越感
身体のすべてを力が支配していた
止まらない、止めることができない
学生は皆まやかしだと気がついた
だから躊躇なく斬った
ナシスは敵だ
首をはねた

気がついたら
一階まで下りていた
ほとんど殲滅しただろう
扉を斬り表に出た
そこには裏切り者が見たことある茶髪の女性に馬乗りになっている
服は無残に破れ肌があらわになっていた
とめどない怒りと闇を吐き出す
「うおおおおぉおぉぉぉぉ!!」
秘剣将清水流参ノ型
神速における突進術から放たれる突き
鋼鉄ですら貫く突き
もはや止まる筈がなかった

49武士さん:2014/09/24(水) 16:35:29
第45話 僕たちの戦い

「悪かったな、十日月」
「突然言われたからどうしたらいいのかすごく悩んだよ」
柿本と十日月が笑いながら話した
吉岡はじいに縛られ韮崎はまだ目が覚めない
多少の怪我人はいるだろうが死亡者はいない
そう確信していた
「まさか、ホログラムだけでもびっくりしたのに付近封鎖に短期間でよく融合炉まで」
「工業高校は表向きお金がないからね、1教授だけじゃ厳しいものがあるよ」
十日月は胸ポケットから扇子を出し仰いで見せた
「んー??おい、十日月、ホログラムに白女の学生データも入れたのか?」
「おかしいですね。この学校のデータしか・・・」
「まさか!!」
柿本が大慌てで赤木のいるフェンスから下を覗く
そこにはさっき逃げ出した伊豆大島が門から丁度入ってきた弓坂を押し倒し
服を引きちぎって馬乗りになる姿を鮮明にとらえた
ここからじゃどうしようもできない…
階段を下りて行く時間はない…
「じい!」
「はっ。ご命令のままに」
吉岡を縛り終えたじいがワイヤーを張り一直線に屋上から飛び降りた
「俺も行く!」
赤木はワイヤーをつけずそのまま飛び降りた
間に合うのか…
刹那
武士が刀を突き立て飛び出してきた
修羅と化した武士の姿に唾をのむ
一瞬の出来事だった
武士の一撃をじいが防ぐ
「赤木君。彼女を頼む」
ドシンッ
赤木の着地に地面が割れた
「ぐああああああああ。足がしびれた!!」
ゴロゴロゴロ
「く、使えん。しかし…これが…武士君なのか…?」
じいが手ほどきした時よりも遥かに腕を上げた
そして見たことのない剣術…
いや…これは確か…
考える暇のない武士の斬撃
神速から放たれる剣技に押され始める
小太刀が砕け、刃が襲う
ガキィィン
武士の刀をトンファーで防いだ
「舐めるなよ小僧」

50武士さん:2014/09/24(水) 17:09:57
第46話 力を止める力

「ぬおおぉぉ!」
じいが吹き飛ばされた
壁にたたきつけられ悶える
「歳は…とりたくないですな…」
武士は飛び、刀を下に構える
上方から下方へ撃つ突き
このままでは伊豆大島を貫き弓坂まで突きぬける

ドシュッギィィィィン!!

伊豆大島の身体を突きぬけ弓坂の身体に到達する直前
武士の刀が何かに弾かれた
刀を弾いた鉄の板がくるくると一人の男の手元に戻ってくる
「さすがにおイタが過ぎるぞ。武士」
そこには盾と剣を構えた赤木がいた

ギィィィンンギィンギィィィン!!

武士の剣技を受け続ける赤木
「(く…力の丸薬と素早さの丸薬を呑んでこなければ即死だった…)」
「・・・・・・」
武士の猛攻が続く
「(あまり長くは持たない…刃油と鎧油を含めて38秒ってとこか…なら!!)」
シールドバッシュ
武士との距離を一旦とる
「とっておきなんだが仕方ねぇ!」
ポシェットから赤黒く禍々しい干し柿の様なものを取り出す
寿命を縮める行為だとは分かっていても今はすべてを委ねるしかない
自身の剣気と武士の心に…
「ドラゴンの心臓だ!」
赤木の反撃が始まった
「コンプリートプロテクション!!」
武士の乱撃を完璧なまでにブロックする
盾で防ぎ続ければいくら刀とはいえ刃毀れする
「スイングインフィニティー!」
目にもとまらぬ速さの連撃
武士は刀で防いではいるが徐々に着物の裾が切れて行く
「(致命傷には至らないか…時間もねぇ)」
「ボーリングバッシュ!」
「ファイナルチャージング!!」
「パラレルスティング!!!!」
武士の刀を弾き飛ばし力いっぱい峰打ちを叩き込んだ

51武士さん:2014/09/25(木) 22:48:39
第47話 苦悩の始まり

柿本たちが屋上から降りてきた時
そこに立っているのは赤木だけだった
柿本は弓坂の上に覆い被さる伊豆大島をどけ自分の上着を被せそっと抱き起こす
「赤木・・・お前がが裏切り者だったのか・・・」
柿本が軽蔑した眼で見る
「俺じゃねぇよ!確かに武士をぶっ飛ばしたのは俺だけど・・・」
「やっぱりじゃねぇか・・・!」
「まっ!ちょま!!」
「じい!」
十日月がじいに駆け寄る
じいはしばらく赤木がいじられるのは楽しそうに見ながら
こってりしぼられたとこで現状の説明をした

「私だけでは殺されていたかもしれません。赤木君に助けられました。ほっほっほ」
「悪い、少し取り乱してた」
柿本は平謝りする
「いや、例を言われる筋合いはねぇ。俺もギリギリだったからな・・・」
柿本は赤木が右腕を庇っている事、両腕両足ともに服が赤く滲んでいる事気がついたが
追求はしなかった

「カハッ」
武士が目覚めた
近くに居た人間に緊張が走る
武士が正気に戻っていなければ今度こそ防ぐ手がない
しかしそれは杞憂に終わった
武士はゴロンと仰向けになると顔に手を当て大泣きに泣いた
「見ていた…分かっていた…でも止められなかった…」
「心身ともに未熟な拙者のためを思って…師匠の言った通りであった…」
武士の声がさびしく吹き抜けに木霊した

「(くそ・・・あいつらぜってーゆるさねぇ・・・)」
皆が武士に気を取られている隙に伊豆大島は腰に下げていたワルサーPPKを抜きうつ伏せに構える
「(お前だけでも道連れにしてやるよ・・・)」

パンッ

52武士さん:2014/09/25(木) 23:25:33
第48話 新たなる旅路

なんだろう
ふわふわしてて
ぽかぽかしててあたたかい
わたし、たしかきゅうにぶしくんがしんぱいになって
それでこうぎょうこうこうまできたんだった・・・
それでへんなおとこにのしかかられて・・・
しんじゃったのかなぁ・・・

ふと弓坂は柿沼の腕に抱かれて目が覚めた
声を出そうにも声が出ない
武士君…何故泣いているの?
そう聞きたいのに・・・
うすうす感づいてた
武士君の優しさ
島野君にとって私は幼馴染のそれ以上でもなかった・・・
私、武士君のことが好きなのかも…
あれは・・・私を犯そうとした奴?
銃を持って・・・!!
いけない!!

柿本の手を振り払うように弓坂は飛び出した
赤木・・・ではなく
その先に仰向けになっている武士の方に
足に力が入らず倒れこむように武士の頭に覆い被さる瞬間

パンッ

乾いた音がし全身の力が抜ける
ああ、やっぱり・・・
今日は不思議なことがおこると思ってた・・・
ついてないや・・・

53武士さん:2014/09/25(木) 23:57:28
第49話 取り返せぬ現実

パンッ

武士はすべてを見ていた
いや、見てしまった
乾いた火薬音とともに自分めがけて倒れこむ弓坂の胸から鮮血が飛び散る
その血は武士の顔へとかかっていった
「弓・・・坂・・・殿・・・?」
弓坂は武士のすぐ真横に倒れた
「こんちくしょ!!」
赤木のシールドブーメランが伊豆大島の銃をはじき
柿本の蹴りが顔面に決まってダウンした
武士は痛む身体を起こし弓坂を抱き寄せる
目には大粒の涙を流し
「ブシ・・・くん?」
「しゃべるなでござる・・・」
「赤木!ヒールポーション!」
「ニラで飲ませたので全部だ。高いんだぞ!持ってたら自分に使ってる・・・」
もはや打つ手はなかった
「私ね・・・ブシ君の力に・・・ゴホゴホ」
「しゃべるなでござる・・・」
弓坂の肩を強く抱く
弓坂は武士の顔に両手を伸ばす
「お友達の・・・こと・・・恨まないで・・・」
「私・・・ブシく・・・」

すきだよ

弓坂の手が地に落ちる
「弓坂殿・・・?」
血の気の引いたような白い素肌に紅い血がたれる
もう揺すっても弓坂が反応することはなかった
徐々に失われていく体温
いつもより軽く感じられた
「なぁぁぁしぃぃすーーーーーーーーーーーー!!!」
武士は空に向かってほえた
弓坂を抱え武士が立とうとしたとき
行く手に十日月と私設軍人数名が行く手を阻んだ
「今回の一件で死傷者は出ては困るんだよ。彼女を渡してもらおう」
「彼女は拙者が埋葬する。邪魔しないでほしい」
「そうは行かないよ。悪く思わないでね」
ドシュ
十日月の手刀が武士の首筋にヒットする
ガクッと力が抜け弓坂を落しそうになる
しかし弓坂の体は白スーツの軍人が抱え
武士はその場に崩れて気を失った

弓坂は棺桶のようなカプセルに入れられ車に運び込まれる
「後を頼む・・・」
「ああ、任せろ」
柿本が武士を背負い校内へ向かう
十日月はじいから受け取った白衣を着て車に乗り込んだ

54武士さん:2014/09/26(金) 20:39:22
第50話 現実との狭間

武士が目を開くとそこは白い空間だった
以前来たことがある見慣れた空間だ
「よっ、元気か?」
話しかけてきたのは誰でもない小竹だった
「あぁ・・・お主でござるか・・・」
「つれねぇな・・・せっかくお友達が逢いに来てやったのに」
武士には生気が無かった
小竹はため息をついて武士の横に座った
「おめぇなぁ・・・だから言っただろ、市民に関わるなと」
「それを無視すると決めたのに、こんなとこでなにしてんだよ」
「拙者は・・・疲れたでござるよ。力を御する強さも無く・・・友との約束も守れず」
「大切なものまで失ってしまったでござる・・・」
力なく武士は泣き崩れた
「小竹殿・・・頼む連れて行ってくれ・・・ここは死後の世界なのだろう?」
「・・・あのなぁ武士」
語りかけるように小竹は綴った
「このまま終わっていいのか?確かに大切なものは"守れなかった"」
「・・・」
「弔い合戦もせず、市民もほっといて、戦線が拡大したら、それこそ犯罪者だぞ?」
「・・・」
「主人公が恋をして、諦めて手近な女をNTR失敗して燃え尽きるってどんな物語だよ」
「・・・」
「迷惑なんだよ!そんな駄スレいらねぇんだよ!うんざりなんだよ!」
「・・・」
「立てよ武士!俺の知ってるお前はそんなんじゃねぇだろ!」
胸倉を掴み上げ右手で頬をたたく
「お前の手は弓坂を救うのには向いていなかった。だが、お前の手でしか出来ない事もある!」
武士の頬に涙が垂れる
何かを思い出したように目がきらきらしている
小竹はいつしかの武士を見ているようだった
そう、国語の時間
「武士君、3番」
市民が指名し武士が答えた
「奥義!」
あの時と同じ目をしていた

「すまぬ・・・拙者・・・思い出した・・・」
「やらねばならぬ事が見えたでござる・・・」
武士は小竹の手を払い自分自身の脚で立った
「へへっ、行って来いクソ野郎。市民をぶん殴って恋を成就させて来い」
「勝手口はあちら」
小竹が指す方向にヘブンズゲートと書いてある
「あ、間違えた。そっちはトイレ。」
武士は現実世界へ戻るトンネルを歩き始めた
「またきていいでござるか?」
「バーロ、お前は俺に一生意識不明でいろってか?」
「すまぬ、いずれ現実で」
「ああ、またな」

55武士さん:2014/09/26(金) 20:43:15
第51話 悪夢の始まり


「一瞬にして一個師団をも壊滅させる兵器だぁ?」
先程からずっと、鉄条網越しに荒廃した大地を見詰めていた男は、
持っていた双眼鏡を下ろして表情一つ変えずに言った
「ええ。噂なんスけどね、ナシスが作りだしたって話を、最近ちらほらと・・・」
その傍らにいるもう一人の男は、そう言い終わらないうちにあくびを一つ噛み殺した
既に当りは大分暗い上に、隣に立っている上官は隊内では生真面目男で通っている
そんな男が余所見などするわけはないので、声を立てて大あくびでもしない限りはばれないだろう
「馬鹿な・・・奴等にそんな技術があるなるわけなかろう。くだらん与太話だ」
「しかし、ナシスが戦車を製造してるって噂が流れたときだって、誰も信じてませんでしたよ」
未だにどのような経路で戦車等の兵器の製造技術を入手したのかはわかっていない
結果として対応は遅れ、ナシスは陸上自衛隊にもある程度の被害を与えうるほどの陸上戦力を手にした
こうして政府には憲法九条の他にも自衛隊を出し難い原因が増えたわけだ
航空自衛隊の対地攻撃能力など最初から期待されていないことも浮き彫りとなった
「それとこれとは話が別だ。いいから任務に集中しろ」
再び上官は双眼鏡を覗いた
男は覇気のない声で「はっ・・・」と応えると、自分も双眼鏡を手に取った

こんなことをしていて意味があるのかというと、大いに意味がある
実際、自衛隊の最新の装備があれば、こんな大人数−手の空いている隊員の多く−で
暗視装置付の双眼鏡を手に周囲を監視する必要など無い
しかし、少なくとも周辺の住民は、自衛官が真面目に仕事を
している姿があるだけでも、不安感がかなり払拭されるのだ
したがって、ほとんどの隊員は双眼鏡を覗くだけで、その先の景色など意識してはいない
本当に真面目に仕事をしてもらわないと困るのは、本来の監視員と、車両の中で装置とにらめっこをしている数名のみだ

「・・・ん?あれは?」
しばらくして、上官が唐突に呟いた
「何かあったんスか?」
男は適当に双眼鏡を左右に振りながら言った
さっき一羽の鳥が横切った以外には、特に変わったことは無い
「この近所に、青果店かなにかがあったか?」
思わず男は「はい?」と気の抜けた声で聞き返した
いくらなんでも、いきなりこの上官の口から「青果店」とはどうしたことだろう
「あそこに落ちているのは・・・リンゴか?何故こんな所に・・・」
男は急いで上官の見ている方向に双眼鏡を向けた
確かに、リンゴのような果物がひとつ、砂地の上に落ちているのが確認できた
「それらしい木はありませんし、トラックの荷台から落ちたのでは?」
「あんな所をトラックが通らないだろう。ちょっと拾ってきてみろ。許可する」
男は短く返事をすると、言われた通り鉄条網を乗り越えてその果物に近付いた

近くでよくよく見てみると、それはリンゴではなかった
どうやら梨のようだ。ヘタの部分を上にして、砂に少し埋まるような形で落ちている
「・・・腐ってるようにも見えないな。何でこんな所に・・・」
ぶつぶつとそう呟きながら男はその梨を拾い上げた







 「大変です!自衛隊創設以来最悪の事態が・・・」
 
 「どうした、何があったというのだ!?」
 
 「町田市南西部で監視に当たっていた部隊が・・・全滅しました」
 
 「馬鹿な!?町田市の監視をしているのは、不測の事態に備えて全て戦車を含む機械化部隊の筈だろう!?」
 
 「いえ・・・車両等に一切被害はありません」
 
 「なに?」
 
 「兵員のみが・・・全て死亡しました。しかも、外傷等は無かったそうです」
 
 「・・・どういう、ことだ・・・?」

56武士さん:2014/09/26(金) 20:48:55
第52話 マンドラゴラ

こんなにも複雑な気持ちは生まれて初めてだった

つい先程発生した「事故」に関する報告書が入った鞄を片手に、男はあの吐き気がするような部屋へと足を進めていた
まさかこんな形であの兵器の正体を知るとは思わなかったし、兵器の正体そのものについては未だに信じられない
その兵器が誤って漏洩し、運悪くその餌食になった自衛隊員達には申し訳ないが、
これでもう実験の最終段階である捕虜を使っての生体実験をやらずに済んだのだ
罪悪感を感じる暇もなく、自分の知らない間に実験が終了したのは有難い
だが、ある種の安堵感のようなものまで感じている自分には、少々嫌気がさした
この兵器が、これから何百、何千もの人間を葬り去るのだろうから・・・

色々と考えている内に、気が付けば部屋の前に立ってドアをノックしていた
「入れ」
珍しく冷静で、それでいて興奮を隠し切れていないような参謀長の声が返ってきた
部屋の中はいつもの緊張感溢れる嫌な空気と共に、期待と興奮の入り混じった
総統を除くナシスのトップ達の顔が並び、例え様の無い異様な雰囲気に包まれていた
「さあ大佐、早く掛けて下され、さあ」
急かすようにそう言ったのは、何を隠そうあの兵器を開発した研究所の所長だった
参謀長と共に一番興奮しているのもこの人だろう。どうやら暑いらしく、
いつもは全て閉め切っている白衣のボタンが、今は全開になっていた
たんまりと蓄えられた鬱陶しい口髭が、汗で一層の輝きを帯びた禿頭と対照的だ
促された椅子に座り、男は厳重にロックされた鞄を開けて報告書の束を取り出した
「えーそれでは例の音響兵器に関する報告ですが・・・」

音響兵器
まるでB級映画に出てきそうな響きだが、実際に使用されてしまったので信じざるを得ない
この「植物音響兵器」、開発番号L0L1-tαは、高性能且つ生産性に優れた対人兵器として開発が進められた
見た目は梨の実に酷似しており、ある程度過酷な環境にも数週間は耐えるが、自ら繁殖活動を行うことはできない
外観上での梨との相違点は裏側に直接毛状の根が生えていることのみで、
その部分は完全に地面に埋まってしまうので普通の梨と全く見分けはつかない
それに、その根の存在を確認した瞬間には、近辺の生物という生物は死滅しているだろう
この植物は自らの一部が著しく傷付けられると瞬間的に収縮運動を開始し、その際に致死性を含む特殊な音波を発する
つまり、地面から拾い上げて細い毛状根の一部を切断したり、車両等で「実」の部分を
轢き潰してしまうと、その時点で周囲の生物の生存率は絶望的となる
当然だが、特殊な防音加工を施した車両や建造物で無い限り、内部の生物も問題なく死滅する
研究所が言うにはまだ試作品のため、致死性音波の到達範囲は100mにも満たないが、
そのお陰で今回の事件に一般市民の犠牲者は一人も出なかった
無論、上層部の人間はそんなことは気にもしていないが・・・

「・・・以上が、音響兵器に関する報告です」
報告書を読み終えると、ほとんどの人間が満足げな表情を浮かべていた
研究所の所長に至っては頭と同じぐらい目が爛々と輝いている
参謀長が身を乗り出し「素晴らしい・・・すでに実戦投入が可能ではないか!」と半ば叫ぶように言うと、
それをきっかけに全員が封を切ったように各々の感想を吐き出し始めた
「漏洩は、怪我の功名といったところか・・・」
「国も事故原因が判明するまでは動けんだろう」
「しかし、同士討ちの危険性も孕む。配備は特に慎重に行わないといかんな」
それまで沈黙に包まれていた室内が途端に騒がしくなる
いい年をした大人達が、まるで新しい玩具を与えられてはしゃいでいる子供の様だが、
この光景が滑稽だとは思えない。むしろ、戦慄のようなものを覚えた
「このことは、私から一村(ひとむら)総統に報告しておく。ご苦労だった!」
珍しく上機嫌になった参謀長が強引に手を取って握手をしてきた
指令は「どうも」となるべく嬉しそうに応えたが、多分表情は思いっきり強張っていたに違いない

酒でも飲んで全て忘れたい気分だが、病院爆破に成功し、制御の利かなかった部下も始末した
今日はとことん嫌な一日だった

58武士さん:2014/09/26(金) 23:18:44
第53話 工業高校

武士が目を覚ましたのはアルコールの匂い漂う保健室
身体を起こすと隣には韮崎が寝ていた
視線を胸元に移すと血がたくさん付いている
弓坂の血
少し涙が出そうになった
韮崎の横で伏せって寝ている
靴を履き瓦礫をよけ職員室へ向かう
途中にあるテレビモニターから声が聞こえてくる
画面こそひびが入っているがニュースが流れていた
『繰り返します。今日未明町田市南西部で自衛隊部隊と通信が−−−』
 
『−−−全員死亡したものt−−−ザザザ−−』

ニュースは途切れテレビがしゃべりだす事は無かった
そのままテレビを通り過ぎ職員室へ向かう
中には柿本や赤木、鈴沢達がいた
「おう、武士起きたか?」
最初に西園が気がついた。
「ああ、大丈夫でござる。さっきのニュースといいどうなっているでござる?」
「どうにもこうにもナシスが宣戦布告しやがった」
「まだ正式な布告はなされていないがな」
柿本が現状を説明する
「ナシスの新兵器・・・でござるか?」
「十中八九間違いない。そのせいで日本全域で暴動が起きている」
「特に千葉がヒデーんだふなっしーが焼き討ちにあった」
テレビを回すとふなっしーが火あぶりになっていた
「どうして・・・」
「まだ俺らに伝わっていない情報があるのさ」 

サーーーーーーーーー

ブラインドを上げるとあちこちで火災や黒煙が上がっていた
「毒ガスとの情報もある。スーパーなどで食料品の強奪が始まり、収拾が付かない」
「さながら・・・世紀末ってとこだな・・・」
鈴沢が窓越しにそうつぶやいた
永峰が武士の刀を持って来た
「どうする?磨ぎ直せばまだ使えるが?」
「拙者には必要ないでござる。刀を持たずして戦うでござるよ」
「そうか・・・」
永峰が刀を包みなおした
「何人も何人も斬り殺しておいて今更逃げるんじゃないですよ。」
「な、永平先生!」
「永峰君。良い刀を打つようになったね。久々に私も腕を振りたくなってね」
「では・・・」
永平教授が刀を一本放り投げた
「武士君、剣に生き剣にくたばる。これ以外あなたに道は無いはずです」
「・・・」
「長年考えてた金属組成の刀です。まだ不完全ですが今のあなたなら十分でしょう」
「かたじけない・・・」
「あっ、飴舐めさせてください」

59武士さん:2014/09/27(土) 15:49:13
第54話 町田への永い旅

刀を得て町田に行く決意をした武士だが思わぬ障害に阻まれた
交通手段である
町中の暴動が一気に激しくなる
十日月関連施設が次々と焼け落ちていく
正面にある十日月タワービル本社は私設軍が周りを固め
ビル自体にセキュリティーが張り巡らされ全く動じていない
工業高校周辺の学生や寮住まいの学生が続々と集まってきた
もはや、道路は破壊され鉄道が動くわけもない
ラジオによればどうやら"げんかい高速鉄道"も名前の通り限界を超え
運行していないようだ
「どうすれば・・・」

「お困りのようだね」
武士たちが一斉に振り向くとそこには機械油で汚れた吉葉先生がいた
「町田に行く手段がないと?ははっ、そんなこともあろうかと用意しておいた」
吉葉先生が地下へと武士たちを連れていく
そこにはミニ鉄道がレールの上に置かれていた
トンネルの先は漆黒の闇
吉葉先生が言うには町田直通らしいが途中に駅はなく、
何かあって崩れれば命の保証はしないということだ
鉄道には機関士を含め4人分の椅子が用意してあった
つまり王道の4人パーティー
「この列車を使えばメンバーチェンジも可能!」
「すげww先生ぱねぇっすww」
鈴沢が興奮気味に言った
「いやいや、4人で行き、1人戻りまた3人連れて行くほうが建設的でしょ」
西園の一言が皆を現実に引き戻した
「ぐ・・・この列車は片道切符なのだ」
吉葉先生が言いなおす
「いやいや、メンバーチェンジ機能否定しちゃったよ・・・」
岡島のつっこみが決まった
「さて、人選でござるが・・・」
「一旦職員室で他のメンバーとも合流しよう」

「へぇ、こんなとこにこんなもんがあったんですねぇ。」
階段の上から独特なイントネーションのしゃべりをした男が降りてきた

60武士さん:2014/09/28(日) 18:44:47
第55話 ナシス三羽烏

コツコツコツ
階段をメガネをかけたオッサンが一段一段降りてくる
「柿本くんでしたねぇ。私を疑っていたのは。」
「あなたがここに居るってことは・・・まさか!」
「山名先生でしたっけぇ。私も英語担当がやりたかったんですけど彼が先任で目障りだったんですよぉ」
徐々に灯が照らされ顔が顕になる
そこには武士達が予想していなかった人物が居た
「小滝・・・先生?」
そうドイツ語の小滝先生だった
「まさか、吉葉先生までそっちがわでしたとはねぇ」
「貴様、他の先生たちをどうした!」
「生きているんだか死んでいるんだか。山名先生ならこの世にはいませんけどねぇ」
ぽりぽりと頭をかきながら
「ま、あなたたちもここで死ぬんですけどねぇ!」
威圧
瞬時に空気が変わった
ビリビリと肌に伝播する
しっかり気を持っていないと気絶しそうなほどに

ブクブクブクドシャッ
鈴沢が泡を吹いて倒れてしまった
「みんな倒れてくれればよかったんですけどねぇ」
「口数が減りましたねぇ。私は伊豆大島君たちとは違い正規軍ですから」

言葉のひとつひとつでも気が飛びそうだ
武士は歯を噛み締める
桁が違う
これが市民を縛り、弓坂を死に追いやった”敵”なのだ
ビリビリビリ
「(声が・・・でないでござる・・・)」
「ほかのお仲間は無事ですかねぇ」
「・・・くっ、俺たちを見くびるなぁ!」
柿本が金縛りを解き小滝に襲い掛かる
「頭の悪いあんたにゃ考え付かない手を打ってあんだよ」
「賢い子は嫌いですよぉ」

地下工業高校ターミナルの戦いが始まった

主人公
「武士」「柿本」「西園」「鈴沢」「岡島」「吉葉先生」
VS
ナシス
「小滝先生」

62武士さん:2014/09/28(日) 20:21:26
第56話 ナシス三羽烏パート2

一方
笹塚と横川は寝たきりの小竹を連れ学校の校門で矢潮と船戸と合流していた
保健室に入り、小竹をベッドに載せた
「ちょっと俺は様子を見てくる」
笹塚が保健室を出て行った
「いててて・・みんな大丈夫か?」
韮崎が目を覚ました
「起きなくていいぞ。無理すんな」
船戸が韮崎を再び寝かせる
「病院のほうはどうだった?」
「ひどいもんだ。本気で爆破しやがった」
横川が肩をすくめた
「十日月が居なきゃ今頃どうなってたか想像したくもないな」
「なぁ、お前らこの戦いをどう思う?」
船戸が不意に問いかける
「日本人のために戦うとか、正直ね・・・」
「逃げるというのか?」
保健室の奥から声がした
先ほどの戦闘の傷を治療していた赤木だった
「俺たちが命を賭ける事じゃないと言ってるんだ」

どかっ!
「ぐわぁ・・・」

扉が切り裂かれ人間が飛び込んできた
「二浦先生!」
血だらけで飛び込んできたのは情報の二浦先生だった
「すまん、やられた・・・」
「先生、まず手当てを・・・」
「ヘイ、ボーイ。ちょっとオイタがスギマシタネ」

保健室に小柄な男が入ってきた
「あなたは・・・」
「サットゥン先生・・・」
船戸と矢潮が呆然となっていた
普段優しい先生が返り血を浴び普段では考えられない狂気に満ちていた
「船戸・・・コレが答えだ。覚悟を決めろ」
赤木が船戸の方見る
船戸は諦めたようにうなずいた
「オーケー。俺らが逃げても追われるわけね」

保健室の戦い

主人公
「赤木」「横川」「船戸」「矢潮」「韮崎」「小竹」「二浦先生」
VS
ナシス
「サットゥン」

66武士さん:2014/10/01(水) 18:41:16
第57話 ナシス三羽烏パート3

5階ナシス対抗本部(専攻科室)
「おう、お帰り。小竹は無事だったか?」
笹塚が入ると有住が声をかけてきた
「小竹はな・・・ただ表は酷いもんだよ」
「だろうな、ここの窓から見るだけでも酷そうだ」
そういうと有住はカーテンを開ける
あちこちで火の手が上がり収拾がつかないようだ
「だいぶここもやられたな・・・」
笹塚が寂しそうにいう
「おそらく、この戦いが終わったらここは廃校だろう」
PSPをやっていた沖田が会話に加わった
「いろいろ楽しかったな・・・あのころは」
「まだ死んだわけじゃないだろ諦めるな」

カシャ。カシャ。

写真を撮る少年
「おい、吉敷。写真ばっか撮ってないでちったぁ手伝え」
「お前らが勝手にやってることだろ。俺には関係ない」
吉敷はレンズに向き直り写真を撮り始めた
笹塚は有住に向き直る
「武士たちは地下へ向かった」
「この学校に地下なんてあったのか?」
「吉葉研と深尾研に入り口があるんだ」
「た、たいへんだぁ!」
本部に加堂が飛び込んできた
「加堂さん、どうした!?」
「吉葉研の地下扉が破壊されてる!!」
「なんだとっ!」
有住が立ち上がった
「深尾研に行こう」
「扉は俺たちが何とかしよう」
二人の男が立ち上がった
梅田と石和田
「梅田、石和田・・・いいのか?」
「有住。お前と組むのは最初で最後だぞ」
「戦いを終わらせようぜ」

「そんなことはさせませんよ」

いつ、扉が開いたのか
どこから入ってきたのか
誰もわからない
いつのまにやらその人はいた

「もっとも、私を捉えることは不可能ですけどね」
「青濱先生!!」

主人公
「笹塚」「沖田」「有住」「加堂」「梅田」「石和田」「吉敷」
VS
ナシス
「青濱先生」

67武士さん:2014/10/01(水) 18:41:50
第58話 十日月タワービル

十日月タワービルにはいくつものラボがある
その一つの医療ラボより十日月が出てきた
「あーあ。鉄道予約しなくちゃ」
つかつかと廊下を歩きながら歩行を妨げないようにじいが召物を変えていく
エレベーターに乗る15mの距離内で白衣から私服へと変わった
エレベーターに乗り振り返る
「じい、ここでよい。僕は行く所がある」
「御意」
おもむろにエレベーターのボタンを押す
目的地は屋上

屋上に到着するとそこには珍しい人物が居た
「やぁ、『人がゴミのようだ』とか言わないでくれよ?」
「まさか。好きだけどさ。あの人は」
「会いに来たんだろ?彼女に」
「さっき見てきたの。綺麗だった。君のおかげでね」
十日月はその人物の横に並ぶ
「どう思う?今の状況を。」
「厳しいね。ニュースは見たかい?」
「新兵器の噂だろ?ありゃぁ・・・」
「サンプルを持ってきたんだ。」
十日月がぎょっとして身構える
「ああ、苗だから死にはしないよ。気絶するぐらいさ」
冷凍カプセルに入った新兵器を十日月に託す
「梨か?」
「見た目はね。実のところは音響兵器さ」
「音か・・・こりゃまたやっかいだあね」
十日月はクスクス笑った
「にしても、コレを見ているとあいつを思い出す」
「元気にしていたよ。ただ生きて帰って肩身は狭そうだったけどね」
「反政府側にも刺客が来て体勢が変わったからな。それより新兵器持ってきて足はつかないかい?」
「政府側は裏切り者の処罰には厳しいからね。彼と足がつかないように慎重を喫したから遅くなったのさ」
「さながら世界大戦だね」
十日月は屋上から身を乗り出しながらそう呟いた
「そろそろ行くよ。デートに遅れる」
「加勢はしていかないのかい?今ピンチだよ」
その人物は少し悩んだ顔をした
「まだ刺客に顔を見せたくはない。諜報員の鉄則って奴さ。んじゃまたさいなら」
そういうと階段を下りていった
「無茶するなよ・・・島野・・・」

68武士さん:2014/10/01(水) 18:42:39
第59話 ナシス三羽烏パート3

バンッバンッ
堰を切ったように沖田がショットガンを放つ
弾が目標を捉える頃には何も無い空間が広がる
机や椅子がはじけ、ホワイトボードに穴が開く
「まったく、野蛮ですね」
ドシュッ
教室のどこを探してもいなかった青濱が突如加堂の後ろに現れナイフを突き立てた
「ぐああぁ。」
「加堂さん!」
笹塚が畳針を瞬時に投げるも虚しく壁に刺さった
静寂が生まれる
倒れた加堂から鮮血が流れる
早く治療しなければ間に合わない
「くそ!」
石和田が当たり構わず暴れだした
机を蹴りロッカーを倒し椅子を投げつけ
「野蛮なのは嫌いだといったはずですよ」
石和田の巨体が宙に浮く
ピアノ線を首にかけられ宙吊りになる
間一発手を入れたがズブズブとピアノ線が食い込む
梅田が線を切ったが手の指の骨まで食い込みほぼ戦闘力を喪失した
「わりぃ」
「気にすんな」
「他人を気にする余裕があるんですか」
梅田が飛び込んだ真下に青濱が構える
掌底のアッパーがあごに入り天井まで弾き飛ばされ倒れる
梅田は動かなくなった
どうやら脳震盪を起こしているらしい
ほんの数分で4人を戦闘不能にした
沖田と笹塚が背中を合わせる
「どうする?」
「相性は最悪ときた」
「どうにかs−−−−」
青濱の回し蹴りが沖田のわき腹に直撃する
メキメキメキ
嫌な音とともにロッカーに激突した
吉敷があることに気が付いた
目で見ても青濱が捕らえられないが写真には写っていた
しかし、撮影し、写真を確認する頃には殺されているだろう
そう考えると吉敷はうかつにしゃべる事が出来なかった
ドシュドシュドゴォォォン
笹塚は両肩に傘が刺さり壁に磔の状態になった
「たいした事無いですね」
「お前らの稼いだ時間。無駄にしない」
そこには有住が立っていた
襲撃されて間もないのに罠を張り巡らせた
仲間がやられているのを涙を呑み見守った
唇は血が出るほどかみ締めた跡がある
ワイヤートラップは無理だった
光学レーザートラップの嵐
すると青濱は自由に動き出した
「ばかな・・・トラップは完璧なはず」
「私の影の薄さには機械といえど気付きません」
改めて笹塚に向き直り最後の傘を彼目掛けて投げた
「ちくしょぉぉぉ。」
笹塚が目を開けた瞬間、眼前に迫る傘が見えた
その時だった

「えっつぉ、わり、おくれたぜぇ」

69武士さん:2014/10/01(水) 19:41:21
第60話 ナシス三羽烏パート2

二浦先生は電撃戦を得意とする速攻派
戦闘力も低くは無い
しかし赤子の手を捻るが如くサットゥンは弄り尽くした
南斗水鳥拳のような業を使う
華麗な舞で敵を切り刻むまさにそれである
矢潮が瞬時に背中からイングラムMAC-10を引き抜く
引き金に指をかけた瞬間、サットゥンは二浦先生を楯にした
「アマイアマイヨボーイ」
二浦先生を楯にしたまま矢潮に突進する
「避け切れない!ならっ」
「矢潮!離れろ!」
「えっ!?」
ドシュ
二浦先生越しにサットゥンの手が矢潮身体を突き抜ける
突き抜けた手をグーパーグーパーしてみせ引き抜く
「ツギハダレダボーイ?」
「あんただよ!」
サットゥンお得意のポーズをとる間もなく横川が平手突きをお見舞いする
病室においてあった名刀「永峰」武士が使って刃毀れしているが刺突系ならまだ戦える
しかし
「(刀がうごかねぇ・・・)」
両手の甲と甲で刀を押さえている
しかし肝心の手が触れていない
船戸がここぞとばかりにライフルを放つ
キュイン
刀を払い上げサットゥンは右手を振りかざすと刀は4つに切れた
「くっ・・」
そのまま横川の横をすり抜けるように腕を切り付け蹴りをいれ吹き飛ばす
飛んできた弾丸を左手で払いそのままへ船戸のライフルごと腕を切って見せた
ドシャドシャッ
横川と船戸が吹き飛ばされる
横川は右腕、船戸は左腕を切り込まれていた
「透き通るような透明な薄刃、鋼鉄に刃形を残しても刃毀れしない硬さ、
 大した筋力も無いのに振り回せる軽さ。魔法金属ミスリルか」
赤木がやれやれと立ち上がった
横川が顔を上げるとカーテンが切れ光が差し込む
サットゥンの両の腕に鉤爪が現れた
「アチラガワノニンゲン。ハイジョスル」
サットゥンが薬を飲み込み飛び掛ってきた
「ちっ。」
赤木は舌打ちしながら楯で防御する
横川、韮崎にはその速さは見えなかった
「コレハ豪水トカ超神水トカイワレテルモノデース」
※豪水:ワンピース/超神水:ドラゴンボール
赤木は素早さの水薬を飲む
身体はもう悲鳴を上げている
そんなことはわかっていた
「ピリオム、ヘイスト、速度増加!!」
魔法での補助ブースト
「キミハゲームノ世界ヲ渡レルヨウデスガ、ワタシハアニメデース」
「うそつきやがれ、エセ外人!」
ギャッギャッギャッギャアアアアン
楯で斬撃を防ぎ受け止める
「!?」
何かに気が付いた赤木がばっと距離をとる
サットゥンも慌ててその場を離れる
先までいた場所に電撃が走った

「ったく・・・お前ら、俺が寝てる間に何しやがってんですか」

70武士さん:2014/10/01(水) 20:05:31
第61話 ナシスパート1

小滝は酔拳のような怪しげな格闘術を繰り出してきた
紙一重で避わそうにも手や脚が不思議な方向に曲がり打撃を食らう
武士は刀を抜かず鞘で受け止める
柿本と西園はギリギリの範囲を見極め攻撃を繰り出す
岡島と吉葉は見守っていた
「長期戦はこちらには不利でござるっ!」
「わかってる、しかし・・・」
まさに結界
小滝の範囲3メートには近づけない
あたりは薄暗く足場も悪い
敵にとっては最高のコンディションといえる
「グハッ・・・」
西園が一発食らう
何とか離脱し体勢を立て直す
蜘蛛の巣に入るように一度捕らえられれば連撃をくらい生きて出る事は不可能
そう悟ったのか
西園が動力ケーブルを切断した
「おやぁ?」
電気が消える
武士と柿本は何者かに突き飛ばされ尻餅をつく
非常電源が入ると列車の車両に跨っていた
西園が加えて鈴沢を列車に放り投げる
「指導者失格です」
そうこちらに呟いた
「バイバイベイビー」
岡島が手を振る
プシューガショガショガショ
3人を乗せ列車が進む
吉葉先生がアクセルを入れ固定したらしい
「お前ら、!!」
「待つでござる!」
列車に跨った状態でトンネルの天井は座高の高い武士の頭スレスレ
立つ事など到底出来なかった
列車が闇へと包まれる
ゴリュゴリュ
人間の骨が砕かれるような音を聞きながら武士たちは町田へと出発した

71武士さん:2014/10/02(木) 12:06:22
第63話 地下道

ゴトンゴトンゴトン
闇の中を列車が進む
頭の中は真っ白だった
「・・・」
「・・・」
武士と柿本は終始無言だった
無理もない
彼らは仲間を見捨ててここにいるのだ

ガタンゴトン
どれくらい経っただろう
このまま死んでしまうんじゃないかとさえ思える
ただただ、今は吉葉先生を信じるしかなかった

プシュー

電車が止まる
天井に手が届かないところからするとどこか開けた場所に出たようだ
携帯のライトをつける
「柿本殿…」
「あぁ、前に進もう。あいつらのためにも」
「拙者達が進まねば報われぬ」
鈴沢を背負い立ち上がる
足元は砂利道で明かりがなければ躓きそうだ
遠くに明かりが見える
武士は刀を握り柿本は臨戦態勢
徐々に近付く人影
すると大きなバックパックを背負った初老の男性だった
「おや、うちの学生だね」
「拙者、武士と申す。名乗られよ。」
「ばか、武士!この方は…」
「いいよ、気にしないで。私は荒金。工業高校の元校長だよ」

72武士さん:2014/10/02(木) 19:48:12
第64話 地下道

武士たちは荒金に導かれて地下道を進んだ
地下道と言うよりも廃坑のようだ
時より水の滴り落ちる音が木霊する
「荒金殿。ここは一体」
「今は昔、町田帝国と呼ばれる強大な軍事国家だったようだ」
松明を掲げると辺りが照らされる
中世と言うに相応しい石造りの家々が立ち並ぶ
落石でつぶれている家、根っこに閉ざされている家と様々だが
大方の形は保っていた
「いつからここに眠っているのかわからないが・・・殆どが水に沈んでしまってね」
荒金が水に松明を向けると信じられない透明度の水の先に街が見えた
「年々、水位はあがっているからいずれはここもなくなるよ」
「しかし、荒金殿はどうしてここを?」
「好奇心だったのさ、ここを知っているのはいいちこ先生とバーミヤン先生だけだよ」
歴史いいちこ先生、本名伊原先生。
地理バーミヤン先生、日藤先生。
「かつて、この帝国は空に浮いていたそうな。ただその動力源が解析できないのでね」
「いつの時代にこんなものが・・・」
「宇宙人なのかはたまた、神の悪戯か。君たちにいいものを見せてあげよう」
荒金が松明を消す
辺りは闇と静寂に包まれた
すると
ポゥ ポゥ ポゥ
微弱ではあるが少しずつ明るくなってきた
徐々に周りが明るくなり荒金や武士、柿本の姿が映し出される
空を見ると地下とは思えない満面の星空となった
「すげぇ・・・」
「荒金殿、これは?」
「ほっほっほ。ここら辺の梨には飛行梨が含まれているんだよ」
「飛行梨?聞いたこと無いな」
「どれ、見せてやるかな」
荒金が手元にある梨を取るとトンカチで割って見せた
コーーーーーン
割れた梨の断面から発行する液状のものが滲み出るのが見えた
しかしすぐに暗く梨へと変化する
武士や柿本が触っても濡れている感触はしなかった
武士の胸元が突然光り輝く
手にとって見ると光っているのは小竹から夢でもらったお守りだった
「こいつは・・・すごい・・・」
荒金が驚いたようにお守りを見る
武士はお守りの封の中から光っている梨を取り出した
「おまえさん・・・こいつは、飛行梨の結晶だ。私も見るのは初めてだ・・・」
「どおりで梨たちが・・・騒ぐわけだ・・・」
「その昔・・・町田人だけが結晶にする業をもっていたと・・・」
「荒金殿。これには一体どのような力があるでござるか」
「梨たちが騒ぐとき、真の継承者が近づいているとされる・・・」
「眠りから醒めたがっていると?」
柿本の問いかけに荒金は少し黙った
「その梨には強い力がある。力のある梨は人を幸せにもするが、不幸をまねくこともあること。」
「ましてその梨は人の手が作り出したもの・・・。・・・その・・気になってね・・・。」
「これは拙者宛ではござらんよ。ある人物に宛てた届け物でござる」
「もう、しまってくれ。私には・・・その・・・強すぎる・・・」
「すまぬでござる」
武士がお守りにしまうと同時に松明に火をつけた

73武士さん:2014/10/03(金) 11:58:50
第65話 キャンプ町田

「荒金殿はなぜこの様なところに?」
「どうもこのところ梨達が騒いでいてね。こう言うときに地下に来るのは大好きだ」
「そういう話じゃありません」
柿本が話題を戻す
ポットからコーヒーを入れ武士と柿本に渡し
荒金はしばらく考えたがようやく決心をしたように話始めた
「以前から我が校の技術力がナシスの標的となっている事が度々あった」
「確かに、いち工業高校にしては不自然なくらいの設備でしたね」
「もともと現代の技術に加えて遺失文明の技術に未来文明の技術を研究する施設だったのさ」
「ホログラフィックや融合炉、刀鍛冶などもその一環なんですね」
「そうだ。そして日本中からその技術を吸収、運用できる素質を持つ原石を集め磨くための教育機関が工業高校なのだ」
「拙者達が…」
「もともとは国の援助もあり私を含めた創設者4人の理想的な環境となった」
荒金は手を頭に当てる
「ただ、一人だけ物足りないと感じていたのだろう。そう一村だけが」
一村正義、現町田政府総統
「今や町田政府のスパイが日本の政府高官に数多くいる。それに政治家のバックであるパトロンとしても」
「腐っているでござるな」
「やつは独自の研究を行い、ついに完成させてしまった。音響兵器を…」
「人類に絶望したあの事件。奴の全てが変わってしまったのだろう」
そういうと荒金は口を閉ざしてしまった

74武士さん:2014/10/04(土) 18:33:38
第66話 町田上陸

「ここから出られるよ」
荒金が指し示した先から光が漏れる
肌に風を感じ乾いた空気の匂い
「かたじけないでござる」
「なんだ?このおっさん」
鈴沢が起きたようだ
「荒金さん・・・」
「大丈夫だよ、君達がいいたいことは分かっている。あの学校には私が信頼を置く世界最強の男がいるからね。連絡しておこう」
「すみません・・・仲間をよろしくお願いします」
柿本が頭を下げる
「君達も大切な生徒だからね。そうそうどこだったか」
荒金がポケットや鞄をごそごそと探し始めた
「あったあった、この場所を尋ねなさい。きっと君達の力になる」
武士が受け取った紙を柿本が覗き込む
「こ・・・ここは」
荒金が武士に手招きしている
「武士君、君は悩んでいるようだね。己が力の使い道を」
「いや、怯えているのかね。力に支配されるあの感覚に」
「拙者!怯えてなど!」
「今のままでは君はずっと中途半端だよ」
「ぐ・・・」
「何も護れないどころか足を引っ張るばかり」
「少し脱皮しないとね。大丈夫だよ。君は凄い潜在能力をもっている」
「永平先生が君にその刀を託した。だから私も君に期待したい。護ってくれ、この世界を・・・」

洞窟から表へ出ると日差しが差し込む
少しの立ちくらみの後、見えた光景は
「ジャングル?」
生い茂った草木が無法地帯のように所狭しと並ぶ
鳥の声、虫の歌、風のささやきに混ざり花の香りと・・・ほのかな鉄錆に油の匂い
よく観ると葉に隠れた朽ちた自動車や戦車が転がる
最近のものではない
町田は第二次大戦後から内紛絶えず秩序がない状態だった
そんななかナシス党を率いた一村一派が町田を纏め上げ一つの枠を作った
最初、国民たちは平和に喜び憂いたが
それが間違いだった時がついた頃にっは手遅れだった
町田は強大な軍事都市国家となっていた
戦わざるものは食うべからず
弱肉強食の食物連鎖の世界だった

75武士さん:2014/10/04(土) 21:22:51
第67話 風雲町田

ジャングルを少し歩くと開けた高台に出た
そして一同は絶句した
今まで歩いてきた緑のジャングルとは打って変わって
一面が茶色の世界
そこは砂漠と言っても過言ではない
廃墟のような町にパオと呼ばれる天幕が張ってある
武士達が集落へ下りていくと子供たちが群がってきた
「なっ、何でござるか!」
「武士、大丈夫だ。コレが彼らの仕事なんだよ」
「乞食」それは紛争地域では当たり前の職業なのだ
天幕地帯を抜け廃墟街へ入る
破壊しつくされた町並み、焼け焦げた炭が散らばっている
電気すら通っていない商店街の中に一軒だけきらびやかな店があった
「柿本・・・」
「ああ、鈴沢・・・ここだろう・・・」
「これは・・・」

★★★黒美人★★★
〜ピンクサロン〜

「誰から入る?」
「お前行けよ武士」
「いや拙者は・・・」
「いや、俺が行く。可愛い子は俺が・・・」
すると中から女性が出てきた
「あら、お兄ちゃん達。おはいりよ安くしとくわよ」
30代後半のおばちゃんだった
「鈴沢!よく見ろ」

★★★黒美人★★★
〜ピンクサロン〜
▽▽喘ぐ熟女▽▽

「やっぱ、武士!お前だ!」
「なんでそうなるでござる」
「見た目が釣り合うんだよ!」
柿本と鈴沢に押される形で店に入る
中は銭湯のような受付が見え写真が一杯飾ってある
右から30代後半〜左80代まで
ただ受付のお姉ちゃんは20代前半ぐらいの可愛い子だった
「いらっしゃいませ〜☆」
「やぁ、君は僕とデートにいくべきだね」
いつの間にか鈴沢が受付の女の子手を握っていた
「きゃはは〜☆ありがとうございますぅ」
「貴方達はこっちですぅ〜☆」
受付の案内する扉から3人が入るとその先には古いアメリカのバーみたいな雰囲気だった
「よぅ、お前ら、こっちへこいよ」

76武士さん:2014/10/04(土) 22:08:57
第68話 協力者

「未成年に酒なんかだしゃーしねーよ」
「たっ、高田先生!」
「ま、くつろいでくれ」
武士と柿本が驚く
「けちぃな、酒くれ酒、あと肉な3秒で持って来い」
「どんどんふてぶてしいよ、君」
鈴沢がナイフとフォークを持ってカウンターに既に座っていた
「ここは俺の副業の店だ」
「あっちのピンクいのも?」
「モグモグ、おっさんの趣味だろ」
「はっはっは、熟女好きだからなぁ」
高田は豪快に笑い飛ばして見せた
「疲れたろ。ここは安全地帯だ。ゆっくり休んでいけ」

夕食のあと風呂に入り鈴沢は酒を飲んで寝てしまった
武士はベッドに横になる
ここのところ満足に寝ていない
瞼が石の様に重い
「(トイレに・・・)」
武士は意識を失った

バーのカウンターで高田と柿本が話していた
「表の集落はブラフさ、子供たちもここで預かっているよ。孤児院もかねてる」
「あの店の外観のセンスは・・・」
「ああすりゃ、若い馬鹿共は躊躇するだろ?来たら来たで物好きなおばちゃんたちが相手するよ」
町田でもやはり子供に影響が出ている
大人達は戦場へ駆り出され子供たちが無意味に死亡していく
「食料とかはどうしてるんです?」
「普段は地下菜園で自給自足。他の物資や発電機の燃料は十日月ルートで入ってくる」
柿本はもうひとつきになっていた
地下にあった大量の武器
一個大隊ほどある物資に疑問を抱いていた
「じゃあ、あの武器は?」
「ここが笹塚武器商店本拠地ってとこだな」
「あ、納得した」
そんなこといっていたなと
「ここにナシスは?」
「たまに巡回に来る。反政府軍も武器を買いにくるよ」
「梨澄の居所を知りませんか?」
「あいつ、有名人だからな・・・ま、ちょっと調べてみるよ」
「しばらくここに居ろよ。子供たちの相手をしてくれ」
「しょうがないですね」
「3人じゃどうしようもないだろ。仲間も調達してやるよ」

77武士さん:2014/10/04(土) 23:24:52
第69話 孤児院

久々にぐっすり眠った武士
AM2時・・・
やはり町田でも辺りはまだ暗く。
一瞬で目覚ましを止める武士。
「・・・朝か・・・」
なにか吹っ切れた
そんな感じだった
「ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!ハァ!!・・」
素振りを始める武士。
すると不意に後ろから殺気を感じた
何かしらの刃物が振り下ろされ武士は鞘で受けきる
まだ薄暗く相手の顔まで見えない
「何者でござるか!名乗られい!」
まごうことなくここは敵地
敵が名乗るはずがない
武士は気持ちを切り替え戦闘体制にはいる
投げナイフの猛襲
武士は細かに弾いていくが鞘を被った刀
その若干の重さで動きが追いつかなくなってくる
防ぎきるのは無理だと判断し横に飛んで避ける
その先に刃物が襲う
間一髪刀の柄で防いだが意識が刀に向きすぎていた
スパァァァン
思いっきり足を払われ転倒する武士
起き上がろうとしたその時、胸に足を置かれ眼前に刃物が迫った
「刀を抜くことに躊躇いがあるなら今すぐ帰れ」
「なに・・・を・・・」
その声には聞き覚えがあった
「村上さん!!」
「よっ久しぶり。師匠も来てるぞ」
「訓練は欠かさないようだが・・・この馬鹿弟子がっ!」
「師匠(せんせい)」
村上先輩。武士の兄弟子。剣術ではなく柔術使い
第16代目 藤原 清水。本名:小山 厳正。普段は体育教師をしている有名な柔道家
ひとたび刀を持てば秘剣将清水流現継承者
武士の師匠である
「話は聞いたよ。辛い思いをしたな」
「武士、連絡が着たけど。学校の方はひとまず落ち着いたらしい」
「村上!俺が話してるんだろう。まったく」
「あ、すんません」
「古木田先生から連絡が来たよ。敵味方及び周辺地域に甚大な被害が出たと」
「死者が・・・でたでござるか?」
武士が一番恐れていた
西園や岡島が心配だ
ほかのみんなも・・・
「詳しくは3日後ぐらいにむこうから応援が来るからそいつらに聞くといい」
「・・・・」
「それで、俺はお前に1週間訓練をつけてやろうと思って来た。ついでに奥義の伝授もな」
「師匠・・・」
「お前は俺の禁を破った・・・だが身をもって知ったはずだ。その理をな」
「拙者・・・」
「だから刀が抜けないんだろう?意識のどこかでブレーキをかけちまってる」
そう、あの日以来、刀が抜けない
刀の柄を持っても力を入れても
まるで接着剤でくっついているかのように刀が抜けない
「みすみすお前にまで死んで欲しくない。荒金先生から頼まれたんだ」
「基礎体力は俺が見る、早朝と夕方、日中は先生と剣術の稽古だ」
「拙者・・・負けるわけにはいかんでござる・・・」
地獄の1週間が始まった

78武士さん:2014/10/05(日) 00:22:08
第70話 兵隊の悩み

一通の電報が届いた
なぜ今頃モールスだの電報だのを通信手段とするのか男は不思議に思っていた
携帯電話や無線の発達によりすばやくクリアな音声が届けられるこのご時勢に
そのすべてはこの作戦のためであったのだろう
男は手元にある封筒に手をかけた。閲覧禁止の封書である

[スカイ・ナシ・ハリケーン作戦]
作戦内容はナシスの秘密工作員達が第二次大戦後各国の宇宙開発研究機関に紛れ込み
戦後から今までに打ち上げられた衛星すべてに小型核弾頭を装備させてきた
といっても大きさは梨そのものの大きさで爆発しても広島の原爆ほどの威力はない
しかし、この衛星をジャックし、一定の高度で爆破、四散させるととてつもない広範囲で
電波障害が起こることが判明している
これを攻撃・防御ともに自由に扱えるようにするための作戦である

コーヒーメーカーからマイカップにコーヒーを注ぎ一口飲んでため息を吐いた
封筒をポンっと書類棚に投げ鍵をかける。果たしてここまでする必要があるのだろうか
胸に秘めた疑問と葛藤しながら今後の作戦スケジュールを見ていく
代わり映えのしない作戦スケジュールを見ていたほうがどれだけ良かったか
このところ士気が上がり反政府軍やそれに組する日本国の要所を襲撃破壊する作戦が多い
一村総統は何を考えているんだ?
一言でも呟けば自分に明日がないことすら分かっていても口から出そうになる
そういうときはグーッとコーヒーとともにその言葉を飲み込むようにしている

新しく届いたばかりの報告書を読む
従卒の割には綺麗に読みやすく内容をまとめるのがうまい
報告書に目を通し思わず苦笑してしまった。ここには盗聴器があるかもしれないけどたまには
こういうのも良いだろう
報告の内容では工業高校を襲撃するもレアメタルに関する資料は発見できずと
はじめからこうなることは分かっていた。向こうにも自分が信頼できる軍師やそれを実行できる
人物達が多くいるからと。こちらの戦力はほぼ壊滅。ナシス三羽烏が壊滅したのが痛手だな
襲撃以来、湾岸の方で地震が頻発しているとの情報を聞き、大変な人を怒らせてしまったと感じているのは
政府内にも何人もいない
まだ工業高校監視部隊として[星を継ぐ者]が残っている。今、総統命令が出れば彼らとてただではすまないだろう

報告書を読み終えたところで丁度コーヒーがなくなった

「はいります」

従卒が入ってくる
以前は許可なくずかずか入ってきていたが今や軍人らしくなってきた
戦争というものは実に怖い。技術を加速するだけでなく恐怖という記憶を人々に植え付け
人間の成長も促進するというのだろうか
書類を置いて出ようとするとコーヒーカップが空であることに気づき淹れようとコーヒーメーカー
に向かった

「ああ、もういいんだ。それより・・・」

手話
盗聴されているかもしれない部屋で一番有用な会話手段
従卒もこくっとうなづき失礼しますとテントを出て行った
外は砂埃が舞うため軽いコートを着て男も後を追った
このキャンプ地はオアシスに近い
といっても20mほど歩けば大きな池に着く。そこに従卒はいた
「ご苦労様です。大佐。」
「何か聞きたそうな顔をしていたのだがどうかね?」
「・・・隠せませんね。実は・・・」
陽が落ちあたりは暗くなる。風の音と水の音が男達の会話を虚無の彼方へと追いやった
数十分話したところで男は従卒に促した。このまま戻っても門限破りで処罰されかねない。
テントから従卒に直筆のメモと良い酒を持たせ寄宿舎へと帰らせた
「久々に一杯呑むか・・・」
カップを取り出し中身を注ぐ
その中身がコーヒーだと飲むまで気がつかなかった

79武士さん:2014/10/05(日) 08:49:12
第71話 梨澄レポート

ナシス党政府のやり方には余りにも酷いものがある
そう一人の男が提唱し反旗を翻した
奇しくも反政府組織立上げは華々しいものとなったが
現状を鑑みても最善の策だったとは思えない
もはや反政府組織は駆逐どころか掃討対象に成り下がっている
戦力的にはまだあるものの、これ等をまとめる軍師がいない
ゲリラ戦法とはよく言えたものだ。中身は無差別テロといっても過言ではない。
敵の衛星兵器により連絡網を寸断された状況において、井の中の蛙という言葉の
意味そのままだろう。そして敵の新兵器は舌を巻くほどすごい。
本町田を流れる恩田川には原潜がいた。我等が攻撃できないと知ってか姿を晒し
続けている。津田町にある池には空母が配備されている。ステルス系の他国では
見た事も無い形の奴だ。搭載機もなにやら凄そうだが近くで見た事は一度も無い
MBTには何度か遭遇した。自衛隊の一○式に似たような形状だったことから
日本政府関係者の中にもナシスのスパイが潜り込んでいると考えるのは容易だった
一度だけソ連のKV-2に似た戦車で砲塔に梨が乗っているのを見た
あれが指揮官車両だったのだろうか
生体コンピュータや軍用アンドロイドの噂も聞く
ましてや毒ガスや音響兵器でさえ登場してしまった
やつらの軍工場を破壊するしかない
次の作戦・・・というより次の俺の行動は決まった

80武士さん:2014/10/05(日) 10:37:58
第72話 ハードメニュー

武士が師匠と村上との稽古に入って3日がたった
どしゅっ
「ぐああああ」
「てめぇ、さっき言ったこともう忘れてやがんな」
バキッ
「ゲホゲホ」
「勘に頼るな。お前の筋力じゃその刀は裁ききれないぞ」
ザシュッ
「ぐ・・・もう一度お願いします!」
「(最初よか反応速度が上がってきている・・・ま、昔ほどじゃないがな)」

早朝から深夜までの稽古で武士の疲労もピークに達している
宿の部屋に戻るや否や体が動かなくなり泥のように眠る日々が続いた
ある朝、武士が目を明けるとそこには受付の女の子がいた
どうやら洗濯物やら食事を運んできてくれていたらしい
「すまぬでござる。拙者が自分で出来れば苦労をかけぬのだが・・・」
「いいえ、とんでもないです。私には・・・コレしかできませんから」
そういうと武士に一礼して部屋を出て行った
武士は始めてあったときから違和感を抱えていた
「(恋・・・とは違う・・・これはいったい・・・)」

柿本と鈴沢が談話していた
「うっす」
「これから稽古?」
「うむ、村上さんの稽古を終え、膳を食したら師匠の稽古へ行くでござる」
「そういやwww昨日受付ちゃんと話しちゃったww」
「話しただけで嬉しいとはめでたい頭だな。小学生かよ」
「うっせww」
「高田先生も出かけてしまって紹介を受けなかったな」
「名前聞こうぜww」
すると受付の女の子がやってきた
「お食事の用意が出来ました。暖かいうちに食べてくださいね」
「ねぇ、受付ちゃん!名前聞かせて!」
鈴沢が飛びつく
「あ、あの・・・えっと・・・実は、私名前わからないんです・・・」
「えっと・・・わからない?」
「はい、高田さんに拾われる前の記憶が無いんです」

81武士さん:2014/10/05(日) 13:52:18
第73話 偽りの迷い

今朝の出来事が頭を離れなかった
受付の女の子の告白
彼女もまた、町田事件の被害者なのだ
『恩田川の橋のふもとに流れ付いているのを高田さんに拾われました』
『両親の顔も自分の名前さえも思い出せない私を引き取り育ててくれました』
『高田一穂って名前で白女に通ってるんですよ。今は休学中ですけど』

ビシッ
師匠の剣の小手が決まる
「今日はいつにもまして腑抜けてやがるな。剣に迷いが出ている」
師匠は刀を鞘に納める
「大方、自分の剣で何でもかんでも救おうなんざでかい事考えてたんだろう。この馬鹿が」
「少し昔の話をしてやろう」
「幕末の動乱、飛天御剣流を扱う人斬りがいた。彼は混沌の中、己が剣で時代を斬り開いた」
「だが、明治が始まってみれば、自身が振りかざした力のせいで歴史に捻れが生じ」
「数多くの亡霊を生み。自身の手で片付ける事を余儀なく要求された」
「挙句、身体はボロボロ。過ぎた力の代償とでもいうのだろうな」
「今のままではまったく同じことを繰り返すぞ?」
「人々を動かすのは剣ではない。よく考えろ。午後まで休憩だ」
「ぐ・・・しかし師匠」
「午後からお前に秘剣将清水流 拾ノ型及び奥義 零ノ型の伝授を開始する」

一旦お店に戻ると受付(今後一穂と記載)が洗濯物を干していた
「武士さ〜ん。お帰りなさい。ボロボロの袴はアチラに脱いでおいてください」
「すまぬ。一穂殿」
「洗った後、お裁縫しときますからね」
一穂の動きを見ていると何か違和感を感じる
何か・・・他とは違うような
「あ、そうだ。十日月さんの車で救援物資と援軍の方がお見えになってますよ」
「ぬ?本当でござるか?」
「今日は豪華なお食事を用意します☆」
「営業スマイルになってるでござるよ・・・」
十日月の車のほうへと向かった

82武士さん:2014/10/05(日) 14:27:34
第74話 少ない救援

武士が脚早に店の前へ行くと十日月印の車両が一両止まっていた
一穂が車とはいったが・・・そんな生易しいものではなかった
「すげぇ・・・」
「これは・・・なんでござるか・・・」
「十日月工廠製造、大型機動戦闘車両ですよ。型式まで言いましょうか?」
振り向くと赤いカーペットの上を十日月が歩いていた
「十日月殿・・・」
弓坂の一件が頭をよぎり、武士は素直に喜べなかった
「十日月!学校のほうは大丈夫か?」
「賊は撃退したけど、被害は甚大だね。特に人的な・・・」
十日月がリストを見せる
柿本と鈴沢が上から読んでいきガクッと肩を落とした
「死んだ人間も死んだほうがマシだった人間も数多いよ」
「てめぇ・・・そんな淡々と」
「僕だって大切な人を置いてきてまでここに着てるんだ。この馬鹿げた状況を打破する為に」
武士は見回した。かつての師であるじいの姿が見えない
「じいは今でも本社で指揮を執っている。液状化でいつ沈むかわからない本社ビルで」
十日月の頬に一筋の涙がこぼれる
「まともに戦える人員も、物資も運んできた。止めてくれ・・・この状況を・・・」
十日月はそう言ったが、車両から降りてきたのはたった3人だった
一人目は吉敷。二人目は赤木。そして三人目は予想しえなかった人物だ。
機動戦闘車のステップをヒョイヒョイヒョイと降りてきた
「三枝・・・殿?」
「武士。しばらくぶり」
「三枝殿も戦うでござるか?」
「冗談。後方支援と柿本君のサポート」
「よぉ武士。三日ぶり。」
「変わりないな赤木殿」
赤木がこちらに手を振ってきた
顔や首筋、手に何本もの傷があった

83武士さん:2014/10/05(日) 20:57:53
第75話 奥義


一週間が早くも過ぎ去った
己がそれぞれ休息を取る者・作戦を考える者・上達を望む者
全ては明日の作戦に掛かっている
今まで多くの人々が犠牲になったそんな彼らが報われるために成功させねばならぬ
後は・・・拙者の奥義完成を待つのみであった
今日は村上さんはいない拙者と師匠の二人のみ
「秘剣将清水流拾の型は奥義伝授のための足掛け技。何でも良い、拾の型を破ってみろ」
ドサドサドサ
工業高校の教員用ジャージを脱ぎさる
中には拘束具のようなものが装備されていた
「さすがに重さ40kgのジャージを脱ぐと軽くて良いな。さて・・・」
師匠が武士を一睨みする
ズズズ
全身の毛が逆立つ
さっきまで鬱陶しかった砂嵐が止み静寂が訪れる
大気の呼吸が止まる
日差しの照りが暗く感じる
これが第16代 藤原 清水の真の姿
ビビビ
手足の筋肉が痙攣する
「ほう・・・腰からの抜刀術か」
「秘剣将清水流自体騎馬体勢からの背負い太刀の型が基本でござる。背負いから初撃のまでの時間にロスが出る」
「正解だが、俺の太刀から放たれる拾の型。お前の両峰の刀で神速の先の超神速に追いつけるか?」
「・・・」
「まだだな・・・まだ迷いがある。半日俺はここで待つ。すべて終わらせて来い」
「師匠!?」
「時間ねぇぞ」

武士は一礼し黒美人に戻ってきた
師匠が感じた迷いとは・・・
自分に問いかけても答えは出てこない
すると受付のほうで声が聞こえた
「ここで武器を売ってるんでしょ!?お金なら幾らでもある」
「だあからここは風俗のお店だってお嬢ちゃん」
「知ってます。一穂さんが言ってました」
「あの野郎・・・」

「あ、あなたは・・」
「お主・・・」
いつぞやの忘れていた感情が湧き出してきた
最近メールを送ることすら忘れていた
武士の勇気の源
すべては黒髪の少女から始まったこの物語
『すべて終わらせて来い』
師匠の言葉が響く

ゲシッ
『いたぁっ』
『あっ、すまんでござる』

『がんばんなさいよぉ、まだあなたは、若いんだから』
老婆の声も響く

「拙者、お主の事が好きでござる!」
「えっ!?」

「えっ!?」
「あ・・・」

84武士さん:2014/10/05(日) 22:23:25
第76話 真の想い

ヒソヒソヒソ
誰かのヒソヒソ話が聞こえる
顔が真っ赤になる
拙者の目の前にはベッドで横になった”彼女”がいた
「まさか武士君の意中の人がさおりんだったなんてねぇ」
「驚愕。」
「市民に相談してたのはそれか・・・」
「君の心にテイルチェイサーさ」
三枝が赤木の方の見る
「質問。RSやってるでしょ」
「おう、やってるぞ」
「何鯖?」
「青鯖だよ」
「ヴィスケスでしょ」
「む、君は?」
「私、板前」
「ずっと前から好きでした」
「うん、私も」
ふたりはぎゅっと抱きついた
「おおうおう・・ドイツもコイツも・・・」
「まったくですね」
柿本と一穂が呆れる
「拙者、行って来るでござる」
「あぁ、彼女のためにもかえって来いよ」

師匠の待つ結界へと入る
「心が決まった目をしている。良い目だ・・・いくぞ」
「ぐ・・・」
秘剣将清水流拾の方
パワータイプの突進術
力と力で押しのけるには分が悪い



その一文字が頭に浮かぶ
だが背景は真っ白ではなかった
市民殿・・・小竹殿・・・柿本殿・・・・・弓坂殿・・・沙織殿!!

「死」のむこうの「生」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ダン ギュウイィィィィィン!

ドシャ
「ぐはっ・・・」
「師匠!」
吹き飛ばされた師匠のもとに駆け寄る
師匠の刀は真っ二つに切れていた
しかし師匠の身体には刀傷はなかった
「ゴホゴホ・・良い刀だ・・・行け、皆が待っている」
「しかし、師匠は?」
「村上がいるから大丈夫だ。いけぇ!」

85武士さん:2014/10/07(火) 23:25:53
第77話 記念写真

武士は駆け足でピンサロへ戻る
途中、不思議な感覚に囚われていた
「(あのとき・・・最初は死を覚悟した)」
「(ただ・・・皆の声が聞こえてきて生きたいと思った)」
「(師匠の刀を倒さねばならない敵と思ったら拙者の名刀さながらに変化した)」
「(その先の師匠の鼓動で、敵じゃないと思ったら両峰の刀に戻った)」
「(まるで、意志があるかのように・・・)」
武士は考え事をしながら長谷部の部屋を開けた
「長谷部殿!」
「きゃああああああああああああ」
そこには着替え中の長谷部が居た
「すまんでござ・・」
しゃべる前に長谷部に張り飛ばされる
廊下に吹き飛ばされるとそこには顔面を腫らした赤木が居た
「わが・・・人生に・・・悔いなし・・・」
「あ、赤木殿!戻って来るでござる」
「情状酌量の余地なし」
そこには三枝が仁王立ちしていた
それを横から見た一穂と柿本がケタケタ笑う
「あのっ・・・さ、皆で写真撮らない?」
唐突に吉敷が言った
「皆が戦ってるのも知ってる。誰よりも傷ついてるのも・・・」
「だけど・・・僕さ・・・戦うことも出来ないし皆の手伝いも出来ないけど」
「こういう真実って絶対に後に残さなきゃいけないと思うんだ・・・」
吉敷は言葉を重ねた
「この戦いの真実を紡ぐことこそ僕の闘いだと思ってる・・・」
そう、彼も4年間ともに戦ってきた仲間の1人だった
自分に戦闘力がないことに苦悩し苦しんできた
それを見てみぬ振りしてきた
「わかったでござる。撮ろう」
こうして「武士」「柿本」「鈴沢」「吉敷」「一穂」「三枝」「長谷部」
の写真をとることが出来た
しかし今後このメンバー集まることは二度となかった
そう・・・あんなことになるなんて

86武士さん:2014/10/08(水) 13:35:52
第78話 ラ・フランスプロジェクト

最近司令部内が静かすぎる。そう感じざるを得ない
このところ上層部から発案される作戦はパフォーマンス染みた陽動の一環ではないかと思うときがある
音響兵器での自衛隊の牽制、新型戦車による反政府軍の制圧、空母艦載機による絨毯爆撃
机に腰掛けコーヒーを飲みながらパソコンに向き合う
大佐の俺ですら開けない作戦ファイル『ラ・フランスプロジェクト』
これがいったい何を意味するのか音響兵器を開発した禿げ頭のジジイの姿を見ないことも気がかりではある
探りを入れたところでメリットはない
下手に手出せば逆に噛まれる危険性がある
関係があるのかここのところ発掘部隊が地下に向かうことが多い
地下に何があるのか…
迷いを降りきるためにも射撃場に向かうことにした
射撃場につくと幹部の1人がいた
緻密で計算高く冷酷な作戦立案により『氷心の女王』と噂される17、8の女性士官だ
さながら秋葉原のアイドル的な雰囲気で取り巻きがいつもたくさんいる
強気で冷淡な物言いと失態をした部下や捕虜の扱いは非道と揶揄されていた
ただそんな女が俺の前では後悔しているだなんだと慈悲の言葉を口にする
任官したばかりの俺を疑っているのだろう
毛頭そんな女の言葉を信じる理由もない
ましてや今時『私の足をお舐め』なんて一部のM男にしか受けねぇっつの
「珍しいわね。何しに来たのかしら」
「軍人なんだからいつでも鍛練しとくのは当たり前でしょう」
女王に声をかけられ一目をおかれていると噂だち後ろにいる取り巻きどもから殺意の視線が送られてくる
「それもそうね。なら、勝負しましょう。同じハンドガンで標的を少しずつ遠くしてく。はずした方が負け」
「負けたら罰則でも?」
「貴方が負けたら私の傘下になる。忠誠も誓ってもらうわよ」
「俺が勝ったら?」
「美味しいお酒をご馳走するわ。美女つきで」
あまりメリットないな
「」

87武士さん:2014/10/09(木) 10:05:59
第79話 ガンシューティング

どうしてこうなった
勝っても負けても取り巻きどもに狙われる
男はそう思っていた
ターゲットを至近距離にセットする
使用する銃はトカレフ
有効射程は50m
4mの位置から2m刻みで下げていく
「最初はどっちから?」
「レディーファーストで」
バン
一発の銃声と共に勝負が始まった
ビシッ
女王の撃った弾丸は的の真ん中を正確に射抜いた
バン
男も的の中央に穴を開ける
「なかなかやるわね元民間人の割には」
「この距離じゃあな」
二人はひたすら撃ち続けた
正確無比に的の中心を撃ち抜いていく
40m地点で勝負が動いた
「貴方、童貞?」
ビシッ
女王の唐突な質問に対し手元が狂う
中心から僅かに右側に流れた
「何か関係あるのですか?」
「その年まで童貞なんてね。私なんか」
「ビッチ?」
「な、な、なんですってー!!」
ビシッ
女王の弾丸は的の中央より左上に流れた
取り巻き連中が真っ赤な顔しておこっている
「そう言うことですな。幹部殿はさぞ淫乱生活をお楽しみなのでしょう」
ビシッ
的の中心を撃ち抜く
男は平静を取り戻した
「上官侮辱罪で処罰するわよ?」
ビシッ
真ん中より右上に当たる
「ご自由に」
ビシッ
中心を射抜く
50m地点でお互い辛うじて的には当たっていた
もう二、三発で勝負は決まるだろう
「貴方はなぜ町田に来たの?」
女王が問う
バン
ターゲットをかすめた
命中判定が反応しない
「あ、」
バン
チュイーン
男の弾丸もかすめたがこちらは命中判定が反応した
「あらら、負けちゃった」
「久々にいい訓練になりましたよ」
「さっきの問い、今度のディナーまでに考えておいて」
「イエス・マム」
負けたらどうしよう
男は一瞬頭をよぎったがとりあえず勝ったことに胸を撫で下ろした

88武士さん:2014/10/10(金) 19:21:39
第80話 新兵器開発研究所襲撃大作戦

政府軍の兵器開発速度が速すぎる
ここ数週間であらゆる反政府軍の拠点が制圧された
町田民族は優秀な戦闘民族
今の政府は女性兵士の訓練
子供のゲリラ教育と見過ごせない部分が多々ある
新兵器開発研究所は政府の最重要施設
残された我らに出来ることは
「双頭銃騎を差し向けよう」
「しかし、奴等の守備隊には伝説の傭兵が…」
しばしの沈黙が降りる
「素直にしたがってくれますかね」
「寝返る可能性も…」
「大丈夫です。彼は従わざるを得なくなる」
「何か秘策でも?」
中年のオヤジがニヤーっと笑う
「この町田に一台しかないウォシュレットを爆破すると伝えよ」
「な、なんだと!?」
「国宝をなんだと思っている!」
「こいつ、狂ってやがる!」
罵声や怒号が飛んだ
「ついでに奴の妹も人質にする」
「しかし、今は工業高校の別動隊に保護されている」
「工業高校の周辺の爆破のおかげで奴ら、政府軍と勝手につぶしあいをしやがった」
「別動隊とはいえかなりの戦力だ」
「目には目をだよ。君たち、入りたまえ」
「「はっ!」」
「お前たちは…!?」

89武士さん:2014/10/11(土) 18:53:23
第81話 戦う理由(ワケ)

市民の所在がわかり、武士たちは翌日の朝、出発を決意した
そのため黒美人にて慎ましやかに宴会の準備が行われていた
もしかすればこの中の誰かが命を落とすかもしれない
高田が配慮してくれたのだ
「俺、意外と料理上手いんだぜ」
赤木を含めた女性人が皆で料理を作っていた
武士はその間、少しでも鍛錬を積むため素振りをしていた
「ハッハッハッハッ!」
時間を忘れ汗を流しているといつしかそこに長谷部の姿があった
どうやら素振りを見られていた武士
そっと頬を染めた
「あっ、ごめん。邪魔になっちゃた?」
「そっそんなことは無いでござる」
慌ててタオルを首に掛け、袴を着なおす
長谷部がそっと岩から降り武士の近くに来た
「宴会の準備が出来たから呼びに来たの」
「すまんでござる。すっかり時間を忘れていた」
「結構自信作なんだぞ」
「それは楽しみでござる」
バサッとバスタオルを頭から被せられる武士
目の前の長谷部がくるっと反転して黒美人に戻っていく
空は夕焼け空
心地よい風が流れる
「あの・・・さ」
「ん?」
「とし・・・市民さんに会ってどうするの?」
「どうもこうも、拙者が聞きたいでござるよ」
「へ?」
長谷部がこちらに向き直る
「拙者だって、今の事態がどうなってどうすればいいかわからないでござる」
「急に巻き込まれたのはここにいる皆同じなのでござるよ」
武士は続けた
「戦いたい人などおらぬ。拙者たちはまだ学生なのだから」
「とし・・・市民さんを殺したり?」
「まさか・・・一発ぐらいはぶん殴ってやるかもでござろうが。殺しはせぬよ」
ホッとした表情を見せた長谷部
武士には何がなんだかわからなかった
「あのね、私、市民さn−−−−−−−−−−−−−−−−−−−」
ザザザザザz
黒い影が一瞬にして目の前で話していた長谷部の身体をさらっていく
「武士さんっ!武士さん!」
「長谷部どn−−−−−−沙織ぃー!」
その声を妨げるように不気味な笑い声が響いていく
「フハハハハハハ!!この小娘は預かった。」
「返してほしければ、新兵器開発研究所まで来い!武士よぉ!」
声を聞いて凍りつく武士
瞬時にして長谷部の姿が見えなくなった
さっきまで長谷部がいた場所に『おくのほそ道の旅』と書かれた冊子が一冊落ちていた
「ぐ・・・ぐおおぉぉぉぉ杉野ぉぉぉぉぉ!」
武士は吼えた

90武士さん:2014/10/12(日) 11:27:29
第82話 僕たちの戦争

黒美人に戻るとそこは惨憺たる有り様だった
家は焼け落ちおばちゃん達が倒れていた
一穂を見つけ近くによる
一穂が座って泣いている先には高田先生がいた
見るからに致命傷といった傷が見受けられる
高田先生は力のない手で武士を呼ぶ
「すまない…警戒していたはずだったが…まさか反政府軍の刺客が来るとは…」
「市民殿の」
「いや、今となってはナシスが反政府軍に差し向けたスパイだ」
ガフッと血を吐き出す
「頼む武士、一穂を…皆を守ってやってくれ…」
「高田先生!」
「お、おとうさん!!」
「一穂…強力な援軍を呼んでおいた…」
そう言い残し高田先生は息を引き取った

「拙者たちにも戦う理由ができたでござる。今までは見て見ぬふりをしてきたが、もう我慢出来ぬ」
いまだ戦線は拡大しつつあった
もはや関東全域で自衛隊と国連の連合軍相手に町田民族は戦っている
「私もいくよ。戦力がほしいでしょ?」
「しかし一穂殿には戦う理由が…」
「あるよ。復讐だ。こう見えても私の強いんだよ?」
そういうと一穂は武士を片手で軽々持ち上げて見せた
「お、お主!」
「私、両手足義肢なんだ。工業高校の加東先生と大小野先生の自信作」
「それに俺たちもいる!」
柿本を筆頭に仲間達が並ぶ
「俺と三枝がバックアップ。鈴沢が背中を守る。武士と赤木に高田がフォワードだ」
「それと、吉敷。お前はこなくていい。お前はお前にしかできない戦いがあるだろう?」
吉敷は頷いた
「今日は寝て、明日出発。」

91武士さん:2014/10/16(木) 22:02:13
第83話 町田政府新兵器開発研究所

「フハハハハハ」
研究所の1ブロックで不気味な笑い声がこだまする
「ついに完成したぞ強化外骨格のアームスーツが!」
「加東博士。くれぐれも我々の協力があったことをお忘れなく」
取り巻きの研究者達が取り囲む
「分かっている・・・それに」
加東の視線の先には銃を向けられた青年と初老の男性が居た
「君は非常に優秀な学生だったよ岩口くん」
すると青年…岩口は
「僕はあなたを見損ないましたよ」
と吐き捨てた
「やれやれ・・・それに協力感謝しますよ小橋先生」
初老の男性…小橋は
「ナシスの犬に話す言葉もない・・・」
半ば呆れた口調で問いに答えた
「小橋先生、そうですね。久々に筋肉勝負をしましょう」
加東は強化外骨格で小橋の手を掴む
「ぬううぅぅぅぅぅん!」
「ぐあああああああ」
小橋の手を赤子のように捻る
「ハッハッハ。今となっては私の方が強いようですね」
「小橋先生!加東先生、あなたの恩師じゃないんですか!」
岩口が食って掛かる
「恩師だからこそ、筋肉組織の研究に使って生かしてあげたんですよ。」
「魂も売ってしまったんですか」
「さてね。小橋先生に1日考える時間を与えましょう。僕の部下になるか2人で死ぬか」
「・・・」
どさっと小橋を放り投げた
「くさってるよ!あんたは・・・」
小橋と岩口は兵隊につれていかれる
「このスーツは貴方を研究して数倍強い。その研究成果から作られた檻。脱獄など考えないことです
加東の笑い声だけが響いていた

地下牢
小橋と岩口は同じ牢に入れられた
見張りは脱獄できないと知ってかさっさと退散していった
小橋は倒れたまま動かない
「小橋先生・・・どうすれば・・・」
「脱獄すればいいよ」
「俺も同じ意見だね」
岩口が目を凝らすとそこに居たのは
「小日出先生?遠条先生?」
流体力学コンビの2人の先生だった
「やつらに捕まって、永遠と流れのけいさんをせられたよ」
「とんでも兵器だぜありゃ」
「脱獄ったって・・・小橋先生がこんな・・・」
「一理ある」
そこに立っていたのは小橋だった
「脱獄したってここじゃ・・・逃げ切れないですよ」
「大丈夫だよ。我々には内通者がいるんだよ」
小日出がそういうと1人の兵士が階段からやってきた
「お前ら、飯だ」
「うるせぇ、バレバレなんだよ」
遠条が叱咤する男を岩口がみると・・・島野だった
「よっ、鍵もってきたぜ?」
「早くしてよ。荒金先生に報告しなきゃいけないんだから」
「わかりましたよ・・・」
小日出と遠条が牢から出る
「小橋先生と岩口も」
すると小橋先生は鉄格子を両手で掴む
「ぬううううぅぅぅうぅぅぅんん!!!!」
ぐにゃり
粘土のように鋼鉄がゆがむ
「ば・・・ばかな!」
岩口と遠条が驚く
「加東先生が思いやられるよ・・・」
小日出先生が嘆く
「ご自慢の牢屋がこれなら・・・アームスーツも大したことないな・・・」
島野が呆れた
「奴に研究されたが、全力を見せた覚えはないぞ」
小橋先生が高らかと笑った
「さて、反撃だ」
このころ、武士と市民が研究所に着いていた

92武士さん:2014/10/19(日) 09:18:51
第84話 対峙

「おやまぁ、面白い状況になってきましたね」
アームスーツを駆った加東が見る先には
現代最後の侍こと武士
反政府軍の双頭銃騎こと市民
反政府軍の三狂人こと杉野・山外・松田
そして山外と松田に抱えられた一人の少女
「さぁ、双頭銃騎。彼女を帰して欲しければ、武士を殺せ。剣道部で私に恥をかかせた恨みだ」
ドーーーーン!
誰もが凍りついた
「いやっ・・・」
山外や松田でさえ引いている超々個人級の恨み
「(要はあの少女ということですか)」
加東は冷静に分析していた
おそらくここで武士と双頭銃騎が激突すれば覚醒の最終フェイズが始まる
人類最強へのシフト
小橋先生とは違った形に顕現するのか
研究者として非常に楽しみだった

「市民殿!」
「武士、悪いが死んでもらうぜ」
市民が弾丸を放つ、武士は鈍刃刀の制御を会得し、弾丸を切り払っていく
「市民殿!長谷部殿とはどんな関係なんでござるか!」
「俺の、大切な人なんだよ!」
その言葉に武士が揺らぐ
長谷部殿は二股をかけていた?
いいやちがう・・・
そんなことを考えている間にこめかみに銃弾が抜ける
市民は本気で殺しにかかっている
「市民殿・・・一つ聞く。お主はこの戦争、どう思う」
「極悪非道の政府を倒すための聖戦と思っている。あの時賛同してくれただろっ」
「あの時は、学校のことしか見ていなかった。ただ殻を破れば、反政府軍も同じに思えるでござる」
「なにを・・・」
「現に長谷部殿をさらった奴らは、店を焼き討ちにし、多くの人命を奪い、高田先生も殺したでござる」
「なっ・・」
「これこれ、言葉が過ぎますよ。双頭銃騎、貴方は彼女を救いたいんでしょ?」
杉野の不気味な声が闘いの間に入る
「貴方がここで武士と戦い、そして倒れることで武士の内なる力が覚醒するのです」
「俺が武士に勝てないとでも言うのか!?」
「そうです。私の【おくの細道の旅】を買わなかった君では解らないでしょうが」
長谷部に銃を突きつける
「やめろぉ!」
「レディーとギルメンは大切にな」
三狂人の中に突如として割り込んだ人影
光学迷彩装備の赤木だった

93武士さん:2014/10/19(日) 09:43:56
第85話 外野の戦い

赤木と山外・松田が対峙してた
長谷部は杉野が抱えている
「赤木君、君は優秀とは行かなかったがなかなかのものだよ」
「うるせぇよ。俺は今幸せMAXなんだよ!」
二人に切り込む
山外は赤木に語りかける
「時に、君は純度100%のお酒を飲んだことがあるかい?」
「酒は飲まねぇ!未成年だからな!」
「そりゃ残念だ」
赤木が山外の打撃を避け着地するとその床は濡れていた
足元から酒の臭いと気化熱でいやな寒気がした
「はぁぁぁぁ!」
松田がライターを投げ込む
とっさに赤木は避け跳んだ
一瞬にして炎に包まれる
「赤木君、君はドイツ人の金髪の女性を見たことがあるかい?」
「それと何の関係がある!?」
「金髪の女性は秘部の毛も金色なんだよ」
「なっ・・」
同人誌を読んでいる赤木にとってたやすく想像が出来た
少し頬を赤らめ視線を外した瞬間を山外は見逃さなかった
猛打が極まり赤木がぶっ飛ぶ
「これぞ童貞戦術」
酒に弱いエロに弱いお子様向けな戦術
赤木の判断力は著しく低下していた
ここからは山外・松田の一方的な攻撃が続いた
「そろそろおわりにしようか、赤木君」
血だらけの赤木の前に一人の男が立ちふさがった
「童貞虐めはそれぐらいにしとこうか」
そこに立っていたのは鈴沢だった
「厄介なのがでてきたね」
山外が距離をとる
「赤木、そこで寝ていろ。三枝がポーション取りに行ってるから」
「わるい・・・そいつらは・・・」
「大丈夫、こいつらの戦術は俺には効かねぇ。もっとハードなプレイだからな」
赤木から見た鈴沢の背中は大きく見えた
三枝が到着した頃には鈴沢が二人を倒した後だった

94武士さん:2014/10/20(月) 19:05:38
第86話 大混戦

目を開くと手足は縛られ吊るされていた
そして頭に入ってくる光景を否定したかった
そこには武士と市民が殺しあっている
やめてっ
そう叫ぼうとしたが猿轡を噛まされていることに気がついた
涙が出てくる
するとフッと浮遊感に包まれた
「よっと」
誰かに抱きかかえられた
「彼女はもらってくよ」
柿本だった

「覚えてるよ、君は私から『おくの細道の旅』を借りて暗記し買わずに単位を取った小僧」
「あんたとは出来が違うんでね」
スラッ
刀を引き抜く

「拙者がお相手いたそう」

杉野と柿本の間に武士が舞い降りた
武士VS杉野

「アームスーツ部隊、奴らを囲め」
加東が周辺を囲む指令を出す
アームスーツが200程姿を現した
「く・・・」
赤木がもがく
「諦めが悪いね君も」
ひょこっと小橋先生が現れた
「貴様!なぜここに!」
「重要区画に木造じゃだめだよ」
小橋VS加東

「加東君なにをやっているんだい?」
「おやまぁ、天然鍵(メインキー)と人工鍵(サブキー)までいるじゃないの」
二人の人影がやってきた
「(メインキーにサブキー?)」
建物の影から島野はその言葉を聞いた
「あれは・・・伝説の傭兵・・・」
高田の声が震えていた
「小早先生と藤校長・・・」
柿本はその迫力におされていた
小早と藤の前に立ちはだかる二人の人間
「分身の術は」
「お前達の専売特許じゃないんだよ」
ドーーーーン!
市民と小日出だった
梨澄・小日出VS小早・藤

「そんなとこで何ねてんだ?単位いらねぇのか」
「なっ・・・何でこんなとこ居るんだよ!」
「師弟だから」
赤木・遠上・三枝・高田・柿本・長谷部・鈴沢VS200体のアームスーツ

95武士さん:2014/10/24(金) 23:20:32
第87話 結末

ガシィ
加東のアームスーツと小橋が取っ組み合う
「ひとつ聞きますけど、君はここで死ぬのと私の子分に戻るのとどちらが良いです?」
「死ぬのは1人、貴方だけです。何度言ったら・・・」
「残念ですよ。観ていなさい岩口君」
「ぬぅぅぅぅぅぅん!」
連打乱打猛打
ドドドドドドドドドド
アームスーツが圧砕していく
加東が投げ出され動かなくなった
「加東君の目が覚めたら補修です」
小橋が圧倒した

200体のアームスーツ相手に女性3人を護りながら戦うのは骨が折れる
「ぐあああああああ」
「鈴沢!」
鈴沢の体が軽く吹き飛ばされる
遠上先生と赤木がケーブルで繋がれ中心のパソコンで三枝がパラメータをセットしている
奴らの狙いは明らかに長谷部だ
天然鍵(メインキー)と何か関係あるのか
今はそれどころじゃない
柿本が出来ることは時間稼ぎだ
「しまった!」
一瞬の不意を突かれて1体のアームスーツが長谷部に襲い掛かる
ドン!ドン!
高田の右手がある位置から煙が出ている
アームスーツに二つの大穴が開いていた
「おまえ・・・」
「私は義手義足なんだ。四肢には様々な武器が仕込まれてます」
左手からのブレードでアームスーツを引き裂く
「遠上先生のデータインストール完了、赤木!」
「おうよ!」
赤木が再起動し一本の剣を持ち198体のアームスーツの真ん中に突き抜ける
「赤木!無茶するな」
柿本がそういうと
「ノーさんきゅ」
赤木に向かって複数のアームスーツが突き進む
目を閉じフゥーっと息を吹く
遠上先生の流体制御コマンドをインストールした赤木の敵ではなかった
「ドラゴン・ツイスター!!!!」
蒼白い龍が現れ次々とアームスーツを食い殺した
198体を葬るのに5分と掛からなかった

分身対決は小早と藤に軍配が上がった
小日出は重傷、市民も奮闘したが最強の傭兵には敵わなかった
「模倣は完璧だったのに・・・なぜ」
「君達の模倣は完璧だよ、ただ模倣する相手の戦闘力を考えていないことだ」
そう小日出は戦闘職じゃなかった
「メインキーは頂いて行くよ」
そういうといつの間にか長谷部を担いだ藤が後ろに現れた
「しまった!」
「次は世界の絶望の中で会おう」
そういうと小早と藤は姿を消した

96武士さん:2014/10/27(月) 22:27:00
第88話 未熟

勝負は一瞬だった
神速の抜刀術
互いが交差し停止する
数刻の間の後、先に動いたのは杉野だった
「松尾芭蕉が隠密だったという説がある。一般人じゃ到底踏破出来ない道のりが『おくの細道』だ」
つかつかと歩き武士のほうに向き直る
「私は同じ道を同じ時間で踏破出来た。なぜだか分かるかな?」
杉野は刀を鞘にしまう
「君が最期の侍であるように私は最期のお庭番衆の1人なのだよ。アディオス」
そういうと杉野は手を振って小早たちが消えていった方へ歩き出した
「武士!」
市民と赤木が駆け寄ってきた
ポンっと肩に手を置くと武士はガクッと崩れ落ちた
柿本が近寄り脈を確かめる
「脈はあるし、息もしているが・・・」
武士の目に光がなかった
赤木が見やると鈍刃刀が真っ二つに折れ地面に刺さっていた
「今の武士は次元の迷宮、すなわち自分が何者だか分からなくなってしまっている」
声のする方向には島野が居た
「てめぇ!今まで何してやがった!」
市民が島野の胸倉を掴む
「逃げてた!俺はお前らみたいにデタラメ人間じゃないんだよ!」
「お前ほどの戦闘力があってよくいう!」
市民が殴り飛ばした
「たとえ仲間が殺されようとそれを助けることなく、仲間が危険な状態であろうと警告を発する程度でそれ以上の支援は一切しない」
「なんだそれ?」
柿本の呟きに赤木が反応した
「武士を救うには夢渡る能力者が必要だ。手助け出来るな!皆を・・・頼む」
「知った風な口を!」


グラグラグラ
不規則な地震に体の自由を奪われる
「この国は・・・いったいどうなっちまったんだ・・・」
柿本が空を見上げる
天が真っ二つに割れていた
「ここにいたのか!」
十日月があわててやってきた
「どうした?」
「角鬼から連絡が来た!ラ・フランスプロジェクトの全貌!このままじゃヤバイ!」
十日月が手持ちのタブレットを見せる
「こ・・・これは!!!」
一同が驚愕した

97武士さん:2014/11/04(火) 21:48:31
第89話 真実

『ラ・フランスプロジェクト』
それは人類に課せられた最初で最期の罪
かつて祖先であるアダムとイブは禁断の果実「林檎」を手にした
「林檎」を食べた彼らは英知を授かることとなる
しかしこのとき「梨」の存在には気がつかなかった
「梨」はひとより英知を奪い去る禁断の果実
ナシスが作りし果実はこの「梨」そのものであった
音響兵器とは名ばかりの副産物でしかなかった
「梨」の地に根を張る異様なスピードが気になっていた
ここまで来る間に何人もの人間の頭の上に「梨」が乗っていた
気がつくべきだった
彼らこそ「梨」に食われた人間なのだ
自分で考えることを失い、命令に忠実な人形なのだ
そして一村の考えた『ラ・フランスプロジェクト』
人類全員を奴隷化し支配下に置くそんな作戦なのだ
確かに力による無気力人間の統治
飢餓も疫病も殺人でさえ無くなるのかもしれない・・・・
しかし・・・

この世界には童話で「ジャックと梨の木」が存在する
ジャックが梨の木を上り巨人から拝借した宝で幸せになる話だ
一村は巨人になろうというのだ
巨大な禁断の果実の木を使い全世界に梨を降らそうというのだ
地面に落ちた梨を動かせば即死し、人体に当れば一瞬にして頭から梨が生え無気力人間に
もはや助かる見込みはなかった


「基地司令はいるか!」
角鬼は町田を脱出し自衛隊対策本部へと駆け込んだ
止める手立てはそれしかない
「貴様は誰か!」
「角鬼国連大佐だ」
手前に居る若い中尉が何かを照合している
奥から銃をもった兵士と少佐相当官がやってきた
「角鬼大佐、君は、謀反を起こし亡命した嫌疑がかけられている」
「なんだと・・それより今は司令にあわせてくれ!」
「ダメだ!ひっとらえろ!貴様にはっこの戦争の責任をとってもらう」
「わかった・・だが今は話を聞いてくれ!」
少佐が聞く耳を持たずに角鬼を捕らえたそのときだった
「そのお話聞かせてもらおうか。隊きっての秀才将校のお話を」
「閣下!」
少佐の敬礼した先に1人の男が立ってた
それはかつての恩師であり上官だった
角鬼に一筋の希望が差し込んだ

98武士さん:2014/11/14(金) 19:31:27
第90話 決意

十日月の話を聞いた一同は絶句した
『ラ・フランスプロジェクト』の真実
「く・・・俺たちは・・」
赤木は地面に拳を立てた
「今、十日月財閥総出で政府に働きかけジオフロントに人々を避難誘導させていますが」
十日月はうなだれる
「結構な人間が侵食されています・・・頭の梨を取れば死亡し、ヘタを切るとアンテナが圏外になるように暴走を始めます・・・」
「ワクチンとかはないのかよ・・・」
市民が声を荒げていう
「間に合うか・・・どうか」
十日月を責めても始まらない
「そういや、奴ら。沙織をメインキーとか一穂をサブキーと言っていたが」
柿本が尋ねる
「それは・・・」
十日月が一穂に目をやる
「私・・・何があっても驚かないから・・・お願い」
十日月は少し考えたようだが話し始めた
「長谷部さんは・・・梨の木を制御するための生体端末・・・いわば人語を入力するための翻訳機。おそらく一穂さんも」
「・・・」
「今、梨の木を開花させれば間違いなく暴走、無差別攻撃となる。それを制御するための生贄」
市民が黙っていなかった
十日月に掴み掛かる
「てめぇ!それを知ってて!」
「知ったからって何か出来るのかよ!俺だって悔しいんだよ・・・」
十日月は泣き始めた
「梨の木の成長には莫大なエネルギー源がいる・・・」
「まさか・・・」
「工業高校の地下核融合炉・・・」
「今・・青柳先生が戦ってはいるが・・・何分SSの数が多くて・・・」
柿本は周りを見た
かろうじて立ってはいるが、皆激戦で疲弊していた
「小橋先生、すみません。皆を頼みます」
「おまえら・・何も言わん。こいつらは無事逃がそう」
「ありがとうございます」
柿本は駄目かもしれないが救援部隊を組織し工業高校へ向かうことを決意した

選抜隊
柿本・赤木・市民・高田

見送り
小橋・遠上・三枝・十日月・岩口・島野

脱落
武士・鈴沢・小日出

「高田さん、いいのか?」
高田は手をひらひらさせて笑顔で言った
「梨の木の暴走を止めるには私の力がいるっしょ」
「すまない・・・」
あっちでは三枝が赤木に泣きついていた
「いやだー!!私もいく!!」
「だめだ。お前はここで待っていて欲しい。ヒーラーが前線に出るなんてもってのほかだ」
「だって・・・」
赤木は顔を真っ赤にし照れくさそうにポケットから小箱を出した
三枝が受け取り箱を開けると中からマイクロチップ付きの指輪が出てきた
「これ・・・」
「あーなんだ。俺のバックアップだ。大事に持っておいて欲しい」
三枝の顔が真っ赤になる
頭から湯気が出てそのまま気絶した
市民が寝ている武士に話しかける
「お前と一緒にいれて楽しかったよ。俺も変わったよ。ナルホド・ザ・ワールド」
「次会うときは平和な世界でな」
各々が別れを告げ出発する
柿本が島野を呼び止める
「やられっぱなしは癪だから何とかするさ」
「無茶するなよ」
「そうだな・・・角鬼を支援しにいくさ。死ぬなよ?」
「モンハンとジャンプが待ってるから死なないさ」

そういうと男たちは出発した

99武士さん:2014/11/14(金) 20:09:42
第91話 工業高校

少し時を戻し
工業高校
「一村総統。工業高校制圧完了致しました」
「うむ。地下融合炉は?」
「深尾教授を捕らえ準備中です」
「放して!」
一村の前に長谷部が引き出される
杉野たちが片膝を付く
「おうおう鍵の到着だな」
「あなた、正気!?」
バシン
一村は長谷部の顔に蹴りを入れる
長谷部は人形のように吹き飛んだ
髪を掴み顔を上げさせる
「鍵が喋るな。鍵じゃなきゃ今頃、慰み物にするとこだ」
兵士たちが敬礼する中、一村は校長室へと向かった
「捕虜はいかが致します?」
「奴らは人柱だ。監禁しておけ」
「はっ!」
「しかし・・・あっけないな」
「は?何をおっしゃいます。われわれ親衛隊の実力と言うものです」
一村は校長座に座りにやーっと笑った
「そうかな?なら奴を止めてみせろ」
「我々に勝てない敵など・・・」
ビリビリビリ
地面が細かく揺れる
「来たぞ?」
一村が屋上へと歩く
階段や校舎側には親衛隊が5000人近くいた
かなり先の校庭の隅にポツンと一人の男を確認した

「おおぉい。一村先生。私の同僚や愛する生徒たちは無事なんでしょうねぇ」

周囲の空気が振動する

100武士さん:2014/11/16(日) 15:03:51
第92話 戦い

ナシス軍は動揺した
「ば、ばかな!奴は振動研究シンポジウムで日本にはいないはずだ!」
司令官らしき人が声を荒げて言う
無理も無い
ここに居るはずの無い男が立っているのだ
秘書官らしき人物が長谷部を抱え奥へ非難しようとした
「ちょっと待ってな、お嬢さん」
「青柳先生!」
「こりゃあ、またえらくたくさんいるねー」
校庭の端にいる小柄な男が辺りを見回す
「先生・・・どうして・・・私が梨の木の制御回路になれば人類は死滅しなくて済む。こんな私でも出来る事がまだあるのに・・・」
「・・・」
「助けて欲しくない!これ以上武士君たちに迷惑をかけたくない!私が犠牲に・・・」
「・・・はぁ?勘違いしてませんか?貴女が犠牲になることはない。だって、私が潰しに来たんだから!」
青柳が5〜6歩前に進むと腰を落とし両の拳を握り締め左右へと一気に開いた
ビシビシビシ
大気にひびが入り割れる
周りの建物や草木が皆倒れていく
「青柳は振動界の王子(プリンス)と呼ばれた地震人間だ!!こちらが数で有利だと思うな。奴は世界を滅ぼせる力をもつ男だ!!!!』

長谷部は涙を流しながら青柳を見ていた
「先生・・・私が勝手にしたこと・・・なのになんで助けになんて来たの・・・」
「勝手?貴女は優しい生徒だから。こういう行動は予想できてました。生徒の尻を拭うのも教師の役目でしょう」
1mの定規を一村の方向に構え振り下ろす
「強制振動!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
校庭を振動が這いナシス軍をなぎ倒していった
「まだまだこれから」
にやっと青柳が笑う
司令官が再び
「青柳・・・地震を自在に操る男・・・あの歳でまだこれほどの力を秘めているとは!一瞬も油断するな!奴はこの世界を滅ぼす能力を持ってる男だ」
部下を叱咤する
振動は校舎を貫き大きな金属音がなった
「くそ・・・なんだったんだ!?」
司令官や幹部たちが机の下から出て辺りを見回す
すると兵士の一人が司令部に駆け込んできた
「司令!大変です!工場棟の分厚い金属扉が先ほどの地震で吹き飛びました!」
「ばかな!あそこには抵抗派の捕虜を閉じ込めていたのだぞ!」
「さすがは青柳。司令。地上は任せる。私はこの女と地下へ向かう」
「ハッ!」


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