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メルヘンに囁いて、

10ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/05(土) 17:50:09




 帰りのHRが終わる。
 もちろん、俺のテンションは低い。



 早く沙月のところに行きたいのもあるけど、それだけじゃない。




「き、煌くん怒ってる?」




 沢田がびくびくしながら話しかけてきた。
 元はと言えばお前の所為なんだけど。




「なんで俺のこと推薦したの?」

「いや、なんか適任だと思って」

「はいはいそうですか」





 見事に推薦で、学級委員が俺に決まってしまったんだ。




「……俺行くわ」

「あ、うん、はい。ばいばい!」




 別に沢田のことが嫌いなわけじゃないけど、素直じゃない俺はスタスタと教室を出た。




 ――その瞬間。




「煌くん、ちょっといいかな?」





 出た、放課後の淡井先生。
 ちょっと警戒しながら振り向く。




「……なんですか?」

「あのね……早速学級委員にお願いしたいことがあって」





 こうなることを予想してたから、学級委員なんてやりたくなかったんだ。




 淡井先生が俺を頼るちゃんとした理由ができてしまうから。
 でもまあ、引き受けてしまったものはしょうがない。




「長引くことですか?」




 溜息を吐いてから聞くと、淡井先生は控えめに言った。




「その、黒板のチョーク補給しにいってほしくて」

「そういうのって入学前に揃えておくもんじゃないんですか」

「ごめんなさい、担任の仕事なんだけどあたしうっかり忘れてて」

「……先生が行けばいいじゃないですか」

「あたしこれから会議があっていけないの」




 これは、俺が折れるしかないかもしれない。




「沙月のところ行ってから――」

「何でそんなに沙月ちゃんに執着するの?」

「……は?」

「沙月ちゃんはお姉さんでしょ? 家族なのに、どうしてそんなに、」

「家族が大事なのは当たり前ですよ」

「だけど……」

「他人にとやかく言われたくないんで。チョークの補給は明日の一時間目までにしとくんで俺帰ります」




 俺と沙月の関係に口出すなよ糞女。
 六組に向かって歩くと、淡井先生が俺の名前を呼んできたけど無視した。




     ×





「――てな感じで、逃げてきました」




 校舎を出たところで沙月にさっきまでのことを説明すると、
 予想通り不機嫌そうな顔で言った。




「何あの女、沙月と煌くんが仲良しなのに嫉妬してるんだよ」

「あのさ……」

「なーに?」

「俺、これからも沙月と登下校したいから……明日、マジで頑張って」

「うんっ、任せろ!」




 明日は絶対遅刻しないぞ。

11ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/06(日) 19:57:42







「煌くん遅いよ!」




 ……俺は夢を見てるのではないだろうか。





 普段の俺の生活リズムは、朝六時に起きて……そこから準備する感じ。
 いつも沙月は寝坊するから、八時までには頑張って起こして家を出るのは早くても八時二十分。




 それなのに。





「え、沙月……?」





 今日の沙月はありえないくらいめずらしく、俺より早く起きていた。





「今何時?!」




 沙月より遅いなんて、と焦る俺。
 やばい、もしかして今九時だったりする?




「え? 今は六時だよ?」




 アラーム通りに起きたから六時であたりまえのはずなんだけど、でも。




「沙月……早くない?」





 沙月はもう髪の毛もセットして、制服を着ていて。
 スクバも持って、もう登校できる状態になっていた。




「だって、煌くんと引き離されちゃ嫌だもん」

「だからといって早すぎなんじゃ……」

「もー! いいから早く準備してー!」





 はいはい、と適当くさい返事をして部屋を出て行く。
 リビングに行くと、テーブルの上にはトーストが置いてあった。




「早く食べてー!」





 元気の良い沙月。
 なんだか急がなきゃいけないような気がして、自然と急いでトーストを食べた。





「はいっ、制服!」




 食べ終えたらすぐに制服を準備されて、
 なんだか慣れないこの光景に母さんが笑いだした。




「どうしたのー? 二人して変!」




 ちなみに母さんは沙月に似て美人(マザコンではない)。
 ついでに性格も沙月に似て可愛い(マザコンではない)。




「なんかねっ、変な教師がいて……次遅刻したら二人で登校するなって言うから」

「何その教師! 女の人?」

「うん! 男子生徒を誘惑するって噂されてる先生!」

「煌、大丈夫なの〜?」




 沙月と母さんの会話は聞いててふわふわした気持ちになってくる。




「ああ、うん」




 とりあえず心配かけたくないから、
 母さんにこの話はしないって沙月と決めたんだ。



 全てのことが終わったら話す、かもしれないけど。






 話してるうちに準備を終えて、携帯を鞄の中にいれてから言った。




「沙月、準備終わったよ」

「よしっ、しゅっぱーつ!」




 バタバタと廊下を走り、玄関まで行く。






「「行ってきまーす」」




 今日も元気良く、家を飛び出した。

12ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/06(日) 20:17:04








「なあ沙月」

「なあにっ?」





 ただいま登校中。





「何で時間余裕なのに走る必要があんの?」





 なぜか俺たちは走って登校している。
 いや、本当不思議でたまらないんだけど。




「だって、少しでも早く行きたいし!」

「まあ、わかるっちゃわかるけどさ……」




 走っていると、もう学校が見えてきた。





「そろそろ歩かない?」




 俺の言葉に、沙月が疲れたのか頷いて歩き出す。




「ふうー、ここまでくれば安心だねっ」

「何か俺ら誰かから追われて逃げてるみたい」

「あは、実際煌くんは追われてるけどね!」

「え、いや、まあ……そうだけど」

「煌くんは安心しててね! 沙月が逃がしてあげる!」




 本当は弱くて弱くて、でも強がってる沙月を見るといつも思う。
 あー、俺が守ってやらなきゃなって。



 逃がしてあげるなんて元気いっぱいに言われても、
 その気持ちの裏が不安でいっぱいなことなんてもう分かりきってるし。




「沙月、あのさ……」

「うんー?」

「俺、淡井先生の作戦にハマってみようと思うんだよね」

「え?」

「わざとハマって……本気で誘惑されたら、証拠写真とか撮ったりして校長に突き出してクビにさせる」

「煌くんこわ! でもそれいいかもー!」





 俺と沙月の関係に口出しするんだから、
 それくらいの覚悟はしてもらわなきゃ困るし。




「じゃあさ、帰り……しばらく遅れるかも」

「うんっ、淡井先生を騙すためなら大歓迎ー」

「騙すって言い方は何かやだけど、でも教室で待っててくれたら終わり次第すぐ行くから」

「うん、わかった!」




 そんなことを話しているうちにもう学校についてしまった。
 何事もなかったかのように、普通の会話をしながら登校する。





 校門にはいつも通り淡井先生が立っていて、少し足取りが重くなった。





「おはようございます!」




 ドヤ顔の沙月。
 呆然とした表情の淡井先生。




「あら、早いのね」

「だって煌くんとバラバラに登校しろとかふざけたこと先生が言うから」




 喧嘩腰の沙月。




「ふざけてないわ、本気よ。……でも、これなら大丈夫そうね」




 昨日の不機嫌な俺を見たからなのか、
 ただ素直に従う作戦なのか。



 意外と大人しく淡井先生は引き下がった。




「あ、煌くん! チョークの補給、あたしがやっておいたから」

「ああ、昨日はすみません。学級委員になったショックで不機嫌だったんで」

「ふふ、なっちゃったものは仕方ないからこれからはどんどん仕事よろしくね!」




 もちろんこんなの演技。
 作り笑顔を浮かべて、それっぽく機嫌良さげな言葉言っとけば調子にのるだろうと思ったから。




 沙月とこそっと笑い合って、昇降口に向かった。

13ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/07(月) 20:46:06







 時が過ぎるのは早いもので、あっというまに放課後。





「煌くん、ちょっといいかな?」




 いつものように、淡井先生の誘惑タイム。
 俺は機嫌が良いふりをして、沙月の元に飛んでいきたい気持ちを抑えた。




「なんですか?」

「これ運ぶの手伝ってほしくて」





 これ、と言って淡井先生が指さしたのは今日集めた提出物の山。
 新学期だから集めるものが多くて、こんなにどっさりになったんだろう。




「わかりました、職員室でいいですか?」

「うん、あたしの机の上に置いてほしくて」

「先生の机……俺わかんないですけど」

「大丈夫! あたしもこれ持って一緒行くよっ」




 次に淡井先生がこれと言ったのは学級日誌と出席簿と、英語のプリントの山。
 ちなみに淡井先生の担当科目は英語。




「……英語のプリント多いっすね」

「そうかな? まあ、このくらい大丈夫だよっ」




 とか言いながら学級日誌と出席簿が落ちそうになっている。
 ……危なっかしい人って思わせる作戦なのかわからないけど、大人しくハマってみることにした。




「学級日誌と出席簿くらい俺が持ちますよ」

「い、いいの? 煌くんの方が持ってる量多いのに」

「先生も女なんだから、こんくらい男に任せといてください」





 こんな言葉、沙月くらいにしか使わないだろう。
 まあこれは作戦なんだから、と思い込ませ、必死に羞恥から耐える。




「……なんか煌くん、こんなこと言っちゃあれだけど頼りになるよね」

「なんすかそれ、そういうのは沢田に言ってやってください」




 犠牲になる沢田。
 学級委員の恨みだこの野郎。



 まあ沢田も鈴ちゃんとか呼ぶほど淡井先生推しらしいし、大丈夫だろ。




「えー、何で沢田くん?」

「ちょ、そこでブーイングしちゃいます?」

「だってあたし、煌くんが……」




 そこまで言って、淡井先生は言葉を止める。
 これも作戦か?
 わざとらしい女だな。




「…………あ、着きましたよ先生」




 ここは一応鈍感なふりをして、職員室に入る。




「う、うん! ありがと煌くん」




 淡井先生の席までついていき、プリントを置いた。
 ふう、と深い溜息。
 嫌とかじゃなくて、ふう疲れた、みたいなほうのね。




「あれ、先生もこっちに用あるんですか?」




 俺が職員室を出ようとすると、ついてくる淡井先生。
 これは結構本心で聞いてみた。




「うん、あたし今日特別教室の戸締りの係で」

「あ、俺やっときましょうか?」

「いいの? でも……煌くんばっかりに押しつけるのは申し訳ないし」

「じゃあ二人でいきます?」




 結構軽いノリで、ふざけるようにそう聞く。





「え、あ……うん、二人がいいな」





 淡井先生が簡単にハマった。
 意外と単純だな、とか思ってみる。




 淡井先生は、ドアのすぐ横にある特別教室の鍵を持って歩き出した。
 鍵は紐で一つにまとめられていて、じゃらじゃらと音が鳴り響く。




「俺、こんないっぱいの鍵初めて見ました」




 鍵の形はそれぞれ違い、少し興味を持ってしまう。




「ふふん、あたしも初めて見たときはびっくりしたよー」




 なぜか自慢げな淡井先生。
 こういうところはやっぱり沙月に似てる、かな。




「あれ、淡井先生っていつから教師始めたんですか?」

「うーんと、一昨年だけど教育実習生として何回かこの学校は来たことあるんだ」

「え、じゃあ教師始めたときの年齢とか若すぎないっすか」

「早く現場に出たくてっ」





 夢を語る淡井先生はどこか楽しげでキラキラしてて――




 俺は、証拠写真を撮って校長に突き出して、
 この人の長年の夢をぶち壊そうとしてるんだと思うと、胸が痛くなってきた。






 今になって迷いが見え始める。






 なあ、沙月。
 俺、どうしたらいい?

14ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/08(火) 19:27:03







「ふう、ここで最後だね」





 教室に入って戸締りの確認をして、鍵を閉める。
 この作業を繰り返してずっとやってきた。




 職員室は一階にあって、一度三階まで登りきってから
 音楽室、家庭室、視聴覚室、金工室、木工室、第一理科室、調理室、第二理科室の順で鍵を閉めていく。




 そして今はちょうど、第二理科室の鍵を閉め終わったところだった。




「煌くん?」




 ぼーっとしていると、淡井先生が名前を呼んできた。
 俺らしくもなく、あわてて淡井先生の方を向く。





「なんですか?」

「なんかぼーっとしてたね、煌くんっぽくない」

「……そうですか?」

「うん……何かあったの?」

「……特に何も」





 理科室の机にもたれかかっていると、
 淡井先生が一歩一歩確実に歩み寄ってきてるのがわかった。






 そろそろだ。






 そう察知して、考えることはできたのに。
 携帯をこそっと取り出して録音するとか、写真の準備とかそういうことをする予定だったのに。






 楽しげに、キラキラとした瞳で夢を語る淡井先生の顔が思い浮かんで、なかなか動けなかった。






「ねえ、煌くん……あたし、」






 そっと、淡井先生の指が俺の頬に触れる。
 ぐい、と少し強引に机の上に押し倒された。








「あたしね、煌くんのこと好きになっちゃったみたい……」







 俺って馬鹿だ。
 ちょっとした感情の迷いに、こんなに優柔不断になるなんて。






 俺は黙り込んで、ただじっと淡井先生の顔を思い浮かべた。







 淡井先生の顔が近づく。
 キスされるんだって思って、でも今更逃げることもできなかった。






 唇が重なり合いそうになったその瞬間。








「煌くん!!!」







 沙月の声。




 ピタリと、淡井先生の体が止まった。





「煌くんのばか!! 煌くんは優しすぎなんだばか!!!」





 沙月の言葉に目が覚める。
 けどなぜか、淡井先生の夢を壊す気にはなれなくて。





「淡井先生」

「な、なあに?」




 動揺しまくりの淡井先生に作り笑顔を浮かべて言った。





「また明日」

「え、ええ……その、今のこと」

「わかってます……でも俺、」

「いいの! 言わないで……でもあたしの気持ちは変わらないし、今まで通りよろしくね!」




 良い人のふりを突き通したまま、沙月の元に駆け寄った。

15ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/08(火) 19:45:44








 第二理科室を飛び出して、
 俺の鞄らしきものを持った沙月はぐいぐいと俺を引っ張っていった。




 無言で歩き続けて、やっと昇降口につく。





「沙月」





 俺が口を開くと、沙月は小さく肩を震わせて俯いていた。
 もしかして泣いているのだろうか、と思って少し戸惑ってしまう。





「ごめん、その……上手くやれなくて」




 こう思ったのは事実。




 ――だけど、これ以上淡井先生を騙したくないっていうのが本音だった。






「沙月、」





 もう一度名前を呼ぶと、沙月は顔を上げて言った。






「煌くんのばか」





 沙月の目からは涙があふれていて、更に戸惑ってしまう。






 沙月は小さい頃からよく泣いていた。
 でも、その涙は自分のための涙なんかじゃなくて。




 たとえば沙月の母さん――今の母さんがもう離婚したはずの元夫にしばらくストーカーされていたことがあって。
 そのときに、母さんを守ってやれない自分が嫌だって、母さんのために泣いていた。



 俺の元母さんは、なぜか俺のことを恨んでいて。
 「お前なんか産まなきゃよかった」って散々貶されて。
 でもそのときに泣いたのも、俺じゃなく沙月だったんだ。






 本当は弱いくせに強がって。
 他人のために涙を流して、他人を守れない自分を悔やんで。





 そんな沙月を見て俺は、初めて心から守りたいと思う人ができたんだ。





 他人を守ろうとしている沙月が愛おしくて、儚くて。
 今にも壊れてしまいそうなこの子を、俺が守らなきゃって思ったんだ。






 なのに。






 今沙月を泣かせているのは俺なんだ。






「沙月、泣くなよ」

「ごめんねっ……沙月、煌くんの気持ちわかってなかったっ……」

「沙月、」

「沙月ぜんぜん優しくない……人の夢潰そうとして、最低なことばっかりしてる……」





 そんな酷い提案したのは沙月じゃなく俺なのに。




 沙月は今、俺の所為で泣いてる。
 俺の所為で、罪悪感に押しつぶされてる。






「沙月わかんないよ……沙月は、煌くんを助けたかっただけだったのっ……」






 どんなに声をかけても、沙月は黙ろうとしなかった。





「不安だった、だけでっ……」






 その一言を言って、更に泣き崩れた沙月。
 俺はいつの間にか、そんな沙月を抱きしめていた。





「きら、くん……?」




 驚いた声を出して、沙月が大人しくなる。






「俺さ、沙月が心配してくれて嬉しかった。危ないかもって教えてくれたときも、沙月がいなきゃ俺やばかったなって思ったよ」






 できるだけ笑いながら、
 できるだけ沙月を安心させるように言う。






「俺があのとき迷ったのは、たしかに夢を壊そうとしてる自分が嫌になったからだけど……沙月がそんな責任感じることじゃないじゃん」

「でも、」

「だって沙月もそれに気づいたんでしょ? ならまだ大丈夫だよ。録音も、証拠写真も撮ってないし」





 まだ、手遅れなんかじゃないから。





「俺たちは何も知らない、何も見てない。それでいいんじゃない?」





 現実逃避になるかもしれないけど。
 それでも、それが一番沙月を落ち着かせる方法だから。

16ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/09(水) 20:32:52








 やっと落ち着いた沙月を連れて、
 ゆっくりと沙月のペースに合わせて歩き家についた。





「沙月」

「……なーに?」

「俺、沙月を守りたかった」

「え?」





 はてなマークだらけの沙月。
 可愛いって思う。





「強がって、でも実は弱くて、人のために泣いてあげる沙月を守りたかったんだ」

「……うん」

「でも今日、俺が沙月を泣かせたって思うと……なんかもう、罪悪感だらけだった」

「……沙月も、煌くんを困らせたって罪悪感だらけだったよ」

「俺たちさ、そんな遠慮し合うような仲じゃないじゃん?」





 俺が笑ってそう言うと、沙月もやっと笑顔を見せてくれた。





「うんっ」





 そして沙月は笑顔のまま、言葉を続ける。





「あのね、煌くんにお願いがあるの!」

「んー? 何?」












「淡井先生を、助けてあげてほしいんだ」







 キラキラといつも以上に輝いた目で沙月が言った。
 俺が、淡井先生を助ける?





「淡井先生、このまま放っておいたらどんどん嫌な印象になっちゃうじゃん?」

「うん、まあ」

「だからねっ、煌くんが止めてあげてほしいの」





 それは、実際に俺が望んでいたことで。
 さすが俺の姉、だなんて思ったりした。




「今これをできるのは煌くんしかいないの。騙すんじゃなくて、助けてあげて」

「……よかった、沙月が元気になって」

「もー! 今沙月真剣なのー!」

「わかってるって、俺もそうしたかった」





 もう一度笑い合って、俺たちは淡井先生を助け出す作戦を考えた。

17ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/12(土) 20:12:18









 次の日の朝。
 今日もなぜか沙月は早起きだった。




 早く起きて早く準備して、ちょっとだけ会議のような時間をとる。






「よし、じゃあ淡井先生救出隊の今日の活動を確認するよっ」

「はいはい」

「もー、煌くん適当な返事しないでー!」

「わかったってば」




 実は昨日、あのあとに俺と沙月で淡井先生をどう助けるか話したんだけど……
 わざわざ早起きしてそれの確認をするようだ。





「まず煌くんが淡井先生のお手伝いしてー、淡井先生が何か言ってきたら優しく説得!」






 これ、確認する意味ないんじゃないか。






「煌くんわかったー?」

「わかったわかった」

「よし、じゃあれっつごー!」






     ×






 時が過ぎるのは早いもので(きっと二回目)あっというまに放課後。
 俺は、いつも通り教室に少し残っていた。





「煌、くん……」





 気まずそうに話しかけてくる淡井先生。
 気まずくなるくらいならキスしようとしなきゃ良かったのにってたまに悪い自分がチラチラ出てくる。




「淡井先生、」

「あ、あたし用事あるんだった! ごめんね煌くん、ばいばい!」

「え、ちょっと先生、」





 淡井先生は、出席簿もなにも持たずに教室を飛び出してしまった。
 これはどうすべきだろうか。
 とりあえず、置いていった出席簿と学級日誌と、一応英語の集めた課題を持って職員室へ向かうことにした。

18ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/12(土) 20:27:30








「失礼します」






 提出物を抱えて職員室に入ると、そこに淡井先生の姿はなくて。
 とりあえず机に置いて今日は引き返そうとも思ったけど、淡井先生の隣の席の先生に声をかけられてしまった。





「あれ、君手伝い?」

「あ、はい」

「淡井先生のクラス……ってもしかして、君が矢野くんか」





 愛想の良さそうな男の先生。
 イケメンだし、女子にモテそうなタイプ。





 …………ん?





 女子にモテそうって、







「六組担任の……?」

「そう! 俺、偶数クラスの数学担当してる叶悠翔! よろしくー」





 なかなか会わないなーって思ったら、偶数クラス担当だったのか。
 それにしても、噂通りのイケメンだな。






「沙月が御世話になってます」

「いやいや、御世話になってんの俺のほうかもよ」

「え、なんでですか」

「沙月ちゃんさ、「煌くんが迎えに来るまで手伝います」って仕事手伝ってくれんの」

「……へえ」

「あれ? 嫉妬?」

「馬鹿かよ」

「大丈夫、安心して。沙月ちゃん普段から煌くん煌くんうるさいから」






 それはそれで、なんとなく恥ずかしいんだけど。





「六組では煌くん有名だよ」

「は、」

「一組に探しにいく人いるけど、女子にもモテモテだし」

「は、」

「沙月ちゃんが嫉妬してる」

「んなわけねえだろ」

「まあまあ、ところで淡井先生は?」





 苦笑しながら、叶先生が話をそらした。





「教室出てっちゃって、戻ってこないから運んできたんですけど……」

「マジ? じゃあさ、探してきてくんね?」

「なんでですか」

「いや、まだ一学年の担任で仕事しなきゃいけないからさ、呼び戻してほしいんだ」

「……わかりました」

「ん、よろしく〜」





 叶先生、悪い人ではないんだろうけど……
 沙月のことを沙月ちゃんって呼んでるところと、ちょっと図々しいところは好きじゃないかな。


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