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《蠱者 マジモン》

1キャプテン:2020/11/11(水) 21:51:27
夜景に灯る工場群の光たち。煙突の煙が空へと帰る。その鉄の建造物たちに囲まれて二人はポツンといた。男性が座り込み女の子を抱えて顔を覗き込む。女の子が瞼を開け、あたりを見渡す。

お兄さん、何で泣いてるの?

女の子の伸ばす手が男性の頬を撫ぜる。男性の涙が頬を伝い女の子の手に触れる。男性のその瞳はいつもの見慣れたものとは違っていた。白目のない単色の、まるで『虫の目』のような…

朝、サッキが目覚めて体をベッドから起こす。
「(アレは確か、昨日の帰り道で…ダメです思い出せません。)」
長い黒髪をゴムで後ろに結び、黒縁の眼鏡をかけて工場の連なる窓の外を眺める。窓にはいつも通りの自分の姿が映る。
「…はあ、よいお出かけ日和ですね。」
残念ながら、窓は雨に濡れていた。

2ノートン:2020/11/13(金) 11:11:21
コンコンと扉をノックする音が聞こえ、サッキが振り返る。工場中にある部屋の為、剥き出しになったパイプなどを避けながら、無機質な扉を開ける。

「おはよう」
「おはようございます、お兄さん」

兄と呼ばれた彼の名はゴゲット。歳は19歳で、見た目はすらっとした身長に、短めの黒髪の好青年だ。

「見てくれサッキ。さっき散歩してたら、これを見付けたんだ」
ゴゲットはとある”カード”をサッキに見せる。昔の人気アニメ”ドレイクハンター”のレアカードだった。几帳面にカードファイルへ収納した。

「他にも何枚かあった。今日はツイてる」
「おめでとう、お兄さん」
興奮している兄を、呆れた顔で見つめる彼女の名はサッキ。ゴゲットの妹である。歳は15歳。長い黒髪を触りながら、2人は部屋を後にした。

3キャプテン:2020/11/16(月) 23:27:14
「そうだ、お兄さん。昨日の帰り道で何か変わった事がありませんでしたか?」
サッキが部屋に戻ってきてゴゲットに問う。
「…何も無かったよ。」
「…そうですか。あと今晩“も”カレーライスです。」
それを聞いたゴゲットが慌てて口を開く…が、既にサッキの姿は扉の外に消えていた。

…その夜。
サッキが一人、街灯の下で待ちくたびれる。
「(夜道は危険だから迎えに行くと言われたのはお兄さんの方でしたのに)コレクションはしばらく没収ですね。」

ドサッ!!

何かが落ちた音がして顔を向ける。それは1人の少女だった。サッキが駆け寄ろうするが、ふと違和感に気づく。少女が起き上がり体を畝らせながらこちらを向いく。その目には…
「(白眼の無い、真っ黒い単色の瞳…コレって…あり得ない。どうして工場地帯の中に?)」
少女がありえない距離の跳躍をしてサッキに飛びかかる。
「(マジモン(蠱者)?!)」

4ノートン:2020/11/21(土) 22:20:43
「この子…感染している…!」
空中で、少女の口がカパッと開く。口から大量の触手がサッキ目掛けて飛び交う。

「俺の妹に手を出すな。”集蟲力”」
小さな黒い”何か”がサッキをぐるっと囲み、壁となる。触手は黒い壁を鞭打するが、びくともしなかった。

「遅刻です…お兄さん」
「すまない、サッキ」

サッキの前に現れたのは、ゴゲットだった。口から触手を出す少女を見下ろす。

「こんな小さいのに、感染者か…可哀想に」

5キャプテン:2020/11/25(水) 22:25:44
サッキがゴゲットの目を見て青ざめる。
「お兄…さん…その目、『虫』に感染して。…でもどうして?マジモン(蠱者)になっても意識がある。それに…その能力は?」

マジモン(蠱者)
工場地帯に住む私達はそう呼んでいる。10年前にこの世界に突如として現れた新種の虫、その虫に感染した人々をそう呼んでいる。感染した人間は虫に支配され、人としての自我を失い本能のままに人々を殺す…はずだった。

「…覚えてないんだ、誰にも話せなくて。」
ゴゲットが震えだす。それを見てサッキが決意し、ゴゲットの両肩を強く掴んで言った。
「頼りないお兄さんは私を助けてくれました。何も分からなくても…それが一番大事な事実です。」
震えが少しずつ治まる。ゴゲットは強く頷き、マジモンの少女へと向き直った。

6ノートン:2020/11/28(土) 22:07:39
少女が触手を振り回す。辺りを手当たり次第、破壊し始めた。さらにその激しい音を聞き付けた工場の住人が、次第に集まり始める。

「し…集蟲力!!」
ゴゲットの黒い影が、少女を押さえ付ける。自身の力は隠れて何度か使用していた為、使い方は理解していた。しかし…

「サッキ!!この子を俺はどうすればいい!?」
「どうすればって…こんな現場、工場の人に見られたら、私達ここには居られなくなります…」
「し…しかし、俺はマジモンを相手にするのはこれが初なんだ…。殺すのか!?この子を!!感染したらもうどうしようもないのか!?」

7キャプテン:2020/11/30(月) 18:53:16
「あ〜もう!!しっかりしなさいアタシ!!」
サッキが自分の頬を思いっきりはたく。そして辺りを注意深く観察する。
「(とにかく、今ここでお兄さんを戦わせるわけにはいかない。)…逃げましょう、こっちです。」
サッキとゴゲットは走りだす。マジモンの少女が追いかけてくる。入り組んだ路地に入ると、マジモンは勢い余ってあちこちにぶつかりながら向かってくる。
「(予想通り、知性が無い分こういった狭く入り組んだ構造は苦手みたいですね。これで距離が稼げます。)頃合いを見てマジモンの動きを封じます。その後でサイレンを鳴らし、後のことは駆除係に任せて逃げましょう。」
マジモンの少女の口から触手が伸びる。
「今です、お兄さん!!」
「よしきた、集蟲力!!」
ゴゲットが壁のパイプを掴むと微細な生物達が移る。それらはパイプに穴を開け、中からマジモンの少女目掛けて煙が吹き出す。少女はよろめきながら倒れる。
「虫除けの煙、その製造ラインのパイプです。」

8ノートン:2020/12/06(日) 00:31:58
数分後、駆除係が駆け付ける。工場の煙で動けなくなった少女をマジモンと断定し、駆除が実施された。
2人の兄妹は、マジモンとなった少女の最後を見届ける事が出来なかった。それは一重に、少女をまだ人間に戻せる可能性があると信じたかったから…。

後日、2人は工場長に呼び出された。
「昨日は怖い思いをさせてすまなかったな」
「いえ、俺たちは大丈夫です」
「そうか。工場内にはマジモンは入れないはずなのだ。それが工場が安全地帯と言われる所以なのだ」
「あの…なぜマジモンは工場に入ってこれないのですか?」

9キャプテン:2020/12/08(火) 22:25:41
工場長がため息混じりに話す。
「そうだな。工場が『虫除けの煙』を製造しているのは知っているな。アレには虫の神経を麻痺させる効果がある。それを煙突で拡散して虫を寄せ付けないようにしている。それなのに…。」
「マジモンは入ってきた。工場長、ここに呼び出したのは私達を疑っているからですか?」
ゴゲットの静止も聞かずにサッキが攻撃的に話す。
「分からんさ、お二人が不審者を見たかもしれないだろう?工場内にも不審な輩は多い…?!」
突如、外で強烈な爆発音がした。サイレンと電話が鳴り響く。工場長が受話器を取る。
「何?!東区域の煙突が爆発?!マジモンが大量に侵入?!早く煙突の修理と駆除係を向かわせろ!!」

東区域。
壊れた工場群の外壁から四足歩行のマジモン達がゾロゾロと入ってくる。それを眺める短髪でスーツ姿、ガタイのいい女性。
「人間共め、よくも同族達を。私たちの痛みを思い知れ!!!」

10ノートン:2020/12/13(日) 22:51:36
「お前達、ここにいろよ!」
工場長は2人を置いたまま、部屋を飛び出す。

「工場にマジモンが大量侵入…?今までそんな事あったか!?」
「ありませんよお兄さん…」
サッキはゴゲットの服をグイッと掴み、工場長の部屋を出る。
「お…おい!部屋を出るなって言われたろ!」
「逃げるんです」
「えっ!?」
「確実に私達は疑われています。このまま兄さんの正体がバレたら、ここの連中に何されるか分かりません!ここは第一工場。とりあえず、次の第二工事へ身を隠します」

11キャプテン:2020/12/16(水) 22:13:15
サッキが廊下の非常用押しボタンを押す。施設内にブザーが鳴り響く。
「これで“見るからに一般人な私達”は避難しなければなりませんね。」
サッキがわざとらしい笑顔でそう言い、ゴゲットの手を引っ張る。しかし…
「…サッキすまない。俺、行くよ。」
サッキの表情が険しくなる。
「何を言っているんですかお兄さん。自惚れないでください。あなたは今、自分自身がこの工場内でどれだけ危険な存在か分かっていない。工場側の人に捕まったら、ただ殺されるだけじゃ済みません。数々の人体実験にかけられ、最後には解剖台に乗せられ、全身を切り刻まれてから死ぬんですよ。分かっているんですか?」
強気の言葉。しかし、サッキの握る手は震えていた。ゴゲットがサッキの手を両の手で強く握り、そして答える。
「…大丈夫、多分死なないから。」
サッキの手の震えが徐々に治まる。そしてわざとらしく深いため息を吐いて言った。
「まったく、フードか何かで顔を隠しましょう。そ、れ、と、私も同行しますよ。拒否権はお兄さんにはありませんからね。」

12ノートン:2020/12/24(木) 22:22:56
東区域では、駆除隊が大量のマジモン相手に苦戦していた。
「た…隊長!マジモンの数が多過ぎます!駆除が間に合いません!」
「こちら修理班!マジモンの阻害があり、煙突まで辿り着けません!」

隊長は頭を抱える。
「クソ…どうすれば…」

その時、工場長が駆け付けてきた。
「お前達!東区域は切り捨てるぞ!住民の避難を最優先に、急げ!!」

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14キャプテン:2020/12/31(木) 22:41:36
「そんな、”ウシロ“さんが来ればまだこの区域も…」
工場長が駆除係の一人を殴りつける。
「別の区域を死なせてからでは遅いんだ!!」

東区域の隔離防壁があちこちで下ろされる。
「そんな、間に合わない…誰か?!」
マジモンの大群が残された人々に襲いかかる。その瞬間、防壁ぎりぎりの隙間から二人組みが飛び込んできた。フードを深く被り顔は見えなかった。
「集蟲力、押し潰せ!!」
フードの男(ゴゲット)が掌を地面に叩きつける。すると地面から小さく蠢く何かの大群が現れ、マジモンの群れを覆い尽くした。
「皆さん、今のうちです。」
もう一人のフードの女(サッキ)が人々に指示する。
「早く!!この数相手は抑え込めない?!」

その姿を遠くから眺めるガタイのいいスーツ姿の女性。掌に“虫の複眼”のようなものが現れ、巨大な工場壁が掌で小さく圧縮される。そしてフードの男(ゴゲット)目掛けて弾丸の様に撃ち放たれた。
「蠱術(こじゅつ)、蠅叩(はえたたき)。」

15ノートン:2021/01/01(金) 21:53:11
放たれた弾丸は、ゴゲットの右腕を貫通した。
「痛った!?何だこれ…銃か!?」

ゴゲットは辺りを見渡すが、スナイパーらしき姿は見えない。それどころか、押し寄せる大量のマジモン相手で手一杯な状態。スナイパーを探すのは不可能に等しかった。
「サッキ、今銃で撃たれた!!多分俺たち狙われてる!!」
「えっ、大丈夫ですか!?お兄さ…」

サッキがゴゲットの方へ意識を向ける。それと同時に、2発目の弾丸は放たれた。

16キャプテン:2021/01/05(火) 22:02:27
放たれた2発目は…
「うあああアアアアアア?!」
サッキの服に穴が開き、血が滲み出す。そして腹を抱え、膝から崩れ落ちる。ゴゲットが苦悶の表情のままサッキに近づき抱きかかえる。
「サッキ…なぁ死ぬな。誰か…誰か!!」
ゴゲットの悲痛な声は、人々の逃げ惑う雑踏へと虚しく掻き消される。次第にマジモンの大群がゴゲットとサッキを覆い尽くし…

…下水道
マンホールの蓋が閉ざされ兄妹が下へと転げ落ちる。ゴゲットがサッキを抱き起こす。血が止まらない。
「俺の…せいだ。俺がみんなを助けに行こうなんて言ったからサッキは…?!」
その時、ゴゲットは見つけてしまう。触角頭の幼虫の姿をした、小さく透き通る物体を。それは…
「マジモン(蠱者)の…虫?」

17ノートン:2021/01/13(水) 21:38:12
ガタイのいい女は、消えた2人の行方を探った。
「どこに行った!?奴らは確実にマジモンを使いこなしていた。障害となるなら、確実に潰しておきたい」

降りて付近を探すが見当たらず。大量のマジモンが邪魔で探す事も困難だった。
「マジモンの群れが逆に仇となったか…いや、あれは?」
その時、女はマンホール付近に続く血痕を発見する。

「傷は深そうだな…すぐ殺しに行く」

18キャプテン:2021/01/17(日) 21:57:23
「(もしこれがうまくいっても、俺は一生妹に恨まれる事になるだろう。それ程に今俺がやろうとしている事は…恐ろしい事なんだから。)」
ゴゲットが目の前の虫を掴み、そして…

「う…ううん、私…?!」
サッキがハッとして起き上がり自分の腹を触る。布が巻かれて止血がしてあった。ゴゲットが突然走り寄りサッキを抱きしめる。
「“喋ってる”、良かった!?…止血が間に合って。」
「痛ったいですお兄さん!!ここは?」
ゴゲットが慌てて離れる。サッキが激臭に鼻を摘んで辺りを見渡す。どうやらそこは下水道のようだった。
「逃げていた皆さんは、どうなりましたか?」
その質問にゴゲットが顔を伏せ、そして答えた。
「ここに逃げ込んだ時、皆んなとは別れてしまって…分からないんだ。すまないサッキ、俺のわがままのせいで。」
サッキがため息混じりにゴゲットに言った。
「もう慣れっこですよ、お兄さんのお世話は。」

19ノートン:2021/01/23(土) 20:57:00
少し遠くで、ガンッと音がする。
何者かが、この下水道に侵入してくる音だった。

「スナイパーか!?逃げないと…!!」
ゴゲットはサッキを見る。死の淵から脱したとはいえ、そもそもが”有り得ない”治療法。
ここでサッキと共に危険の中を逃げ回るのは、得策では無い。ゴゲットはある判断を下す。

「サッキ、一人で逃げろ。俺が奴の足止めをする」
「なにを言っているの!?嫌だ!!」

サッキはゴゲットを掴む。その時気づいた。ゴゲットの腕は、震えていた。

「心配無い、足止めだけだ。奴を倒そうなんて思っちゃいないさ。隙を見て俺も逃げる」
集蟲力発動。小さな蟲の大群がサッキの周囲を取り囲み、強制的に遠くへ連れて行った。
「お兄さんッツ!!??」

20キャプテン:2021/01/29(金) 22:28:30
…数分間が長く感じられた。
「や…めろ…。」
奥から現れたマジモン達によりゴゲットの体は押さえ込まれ動きを封じられていた。

「お前、私たちと同じなのか?」
下水道の奥からスーツ姿のガタイの良い短髪の男性?が現れ話しかけてくる。その目が単色に染まる。
「男?その目…喋…れるのか?アンタも人の意識があるのか?!」
ゴゲットが声を絞り出す。男性?が続けて話す。
「違う…お前は…じゃない。」
男性?が近づいてゴゲットの頭を片手で掴む。その時スーツに名札が見えて『アト』と書かれていた。
「可哀想に、人の体に閉じ込められて…。」
アトという男性がもう片方の手で石を掴む。掌で石がバキバキと小さく圧縮され宙に浮く。
「今、解放してあげるからね…蠱術、蠅叩。」
哀れみの顔で、アトが今にも飛び出しそうな圧縮石をゴゲットに向けて構える。
「あと私は女だ。」
「…何を言ってるんだ?嫌だ、死にたくない。やめろ…やめろおおおおおお!!!」
突如、ゴゲットの目が単色に染まる。体に能力、集蟲力による小虫達が蠢き…

…「…お兄さん?!」
サッキが元いた方向を振り向く。ゴゲットの叫び声が下水道に反響して聞こえてきた。

21ノートン:2021/02/13(土) 18:04:53
小さな虫はどんどんゴゲットを覆っていき、次第に全身を包み込んだ。まるで黒い繭の様な状況だった。
繭の中で、虫たちと会話を始めるゴゲット。
「俺はお前たちを恐れていた。未知の力が怖かったんだ…でも今は力を貸してくれ」

その光景を眺める女。
「ほう…面白い。この圧縮された石、その反発力。どこまで耐えられるか実物だな」

石の破片は弾け、強力な弾丸となりゴゲットを襲う。ズボズボと繭の中に食い込む。さらに女は石を拾い、再び圧縮する。

「次々行くぞ」

幾度となく降り注ぐ石のつぶて。後には穴だらけになった繭だけが残った。

22キャプテン:2021/02/18(木) 23:06:42
「(さっきの叫び声、お兄さんが危険です!!)」
反対方向に走っていたサッキが息を切らせ、大きな鉄門の前で止まる。
「ハァッハァッ、あった!!」
はしごを上り、そして見下ろす。大量の汚水が水門によってせき止められていた。
「マア…助カルタメデスカラ。オ兄サンニハ我慢シテモライマショウ。」
鼻を摘みながらサッキが鼻声で言った。…

…空の小虫繭を囮にゴゲットがスーツ女の背後に周る。腕を無数の小虫で覆い固め、思いっきり殴った。しかし…顔面で拳は止まる。
「…舐めているのか?」

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24ノートン:2021/02/22(月) 20:39:42
「そんなカスみたいな虫を集めた所で、私には届かない」
「だんだん分かってきたぞ…俺の能力。カスかどうか…試してみろよ」
「(何だコイツ!?さっきまでビクビクしていたのに、いきなり勢い付きやがった)」
怯えていたゴゲットが、徐々に強気な姿勢になる。活路や勝機を見出した時、ゴゲットは緊張が解け攻めに転じる性格だった。

女の顔面に触れた拳から、大量の極小の虫が湧く。それらは女の鼻や耳から侵入しようとする。
「うっ…止めろ、気持ち悪い!!」

女はゴゲットを右腕で突き飛ばす。その時、右腕に痛みが走る。
「痛い…!?」
腕を見ると、出血していた。
「…小賢しい真似を!」
「痛いだろ?極小の虫を集めて引っ掻いてやった。所でお前、名前は何だ?何が目的だ!!」

25キャプテン:2021/02/25(木) 23:16:15
「名前、目的…分かるはずだ。そんなもの知ったって何の意味もない。」
「…あなたは本当に虫、マジモン(蠱者)なのか?」
黙りこくるスーツ女。握りしめた拳をこちらに向ける。突き出した拳を開いた瞬間、粒子が鋭く分散した。
「散り散りになれ、蠅叩。」
「(まずい?!)守れ、集蟲力?!」
ゴゲットが目を瞑り、小虫達が自身を囲む。瞼を開いた時、足元は小虫達がひっくり返り地面に散らばっていた。眼前にはスーツ女が…体を捻り避けるが、物凄い勢いで肩に肘鉄を打ち付けられた。
「が…ハッ?!(強者だ?!…息…が)」
「(避けた?!頭を狙ったが。この人間を生かすと仲間達が危険だ。)」
ゴゲットが膝から崩れ落ちる。

26ノートン:2021/03/12(金) 21:50:38
その頃地上では、マジモンの群れが工場に大量侵入していた。
「工場長!避難が間に合いません…数が多過ぎます!!」
「クソ…ここまでか…」
押し寄せるマジモンの群れは、次第に逃げ遅れた住人を捉え始める。
「おかあさーーーん!!!!」
1人の少年が泣きじゃくる。少年の母親はもう…。

その少年に、風船を渡す1人のピエロが居た。
「えっ?」
「私の後ろに居なさい」

ピエロはマジモンの群れに向き合う。両の手を出し、パンッと手を叩いた。すると、目の前の1匹のマジモンが急に膨らみ、破裂した。さらにピエロは拍手をし始める。パチパチパチパチ…と音がする度に、マジモンが次々と膨らみ、破裂していった。

27キャプテン:2021/03/16(火) 18:21:46
静まり返る場、生き延びた大人達がピエロを恐怖の眼差しで見る。ピエロが苦悶のため息をつく。
「ピエロさんはいい人だよ!!…多分(小声)」
少年が大人達に向かって叫ぶ。だが彼等の表情は変わらなかった。
「ありがとう少年。さあ、走って!!」
そう言い、ピエロは少年の背中をポンと押した。
「(遠くから叫び声、下水処理施設の近くか。)」…

…下水道。
地を這うゴゲットにスーツ女が拳を構える。
「まるで虫だな、容易く潰れろ。蠅たた…?!」
ゴゲットの体に冷たいものが当たる。目前には…
「冷っ…臭っ…汚っ(これって下水?…ヤバ?!)」
思う間も無く、2人の姿はどこからか来たドス黒い激流に流された。

28ノートン:2021/03/28(日) 22:23:42
「うおおぉぉぉあああ!!!!」
激しく迫り来る流水。ゴゲットは下水に流されながらも、意識を集中させる。
小さな虫が次々と繋がって行き、ロープのように長くしなるアイテムへと変化した。

「このまま流されるのは非常にマズイ!どこか…掴まれる所は!?」
咄嗟に、鉄の柱にロープを巻き付ける。グッとロープを握りしめ、激しい流水をなんとか耐え凌いだ。

「虫のロープに捕まるのが必死で、腕に力が入らない…」

ゴゲットは辺りを慎重に見回す。恐ろしい女の姿は見当たらなかった。
「何だったんだ、あの下水は。とりあえず、あの化け物は撒けた…のか?」

29キャプテン:2021/04/01(木) 22:12:05
「お兄さん?!」
上流から流れてきた平たい救命ボート。手が差し伸ばされ、ゴゲットが引っ張り上げられ乗る。
「サッキ、助かったよ。危うく溺れかけ…て…」
準備万端の救命胴衣、何より乗っているボート。
「サッキ、まさかこの下水…。」
サッキが屈託のない笑顔をゴゲットに向けた。

サッキは水門を開いた事、ゴゲットは戦闘と相手との会話内容の事を互いに話した。
「汚水流すとかひどいよサッキ?!」
「助け船です、相手は手だれの様でしたから。」
「それにしてもアイツ、オレ達とは違うのか?」
「ええ、やはり体が虫に支配されて…オレ達?」
「んっ?!…ああいや、間違えたオレだオレ。」
「…喋るマジモン。目的は、何か手がかりが?」
「ああそういえばコレ、アイツが落としたの。」

…名札?
名前の欄には『アト』と書かれていた。

30ノートン:2021/04/08(木) 22:04:50
数時間後ー。マジモンの襲来により、工場の東区域はほぼ壊滅状態。死者13名。避難した住人は西区域へと移っていた。

突如現れた”ピッキータ”と名乗る旅の道化師の尽力により、マジモンは殲滅。工場長の怒号が飛び交う中、駆除隊・修理班が総出で事態の立て直しに当たっていた。

その様子を、マンホールの隙間からこっそり観察するゴゲット。

「ダメだ…もうここにはいられない」
「疑われた時点で負け…ですね。私達は、恐らく工場長に”敵”として認識されてる」
「あぁ。下水路を通って、別の工場に移動しよう」

その時。マンホールをガッと持ち上げられる。ピエロの顔が突如現れた。

「くっさ…。何してんの君ら?」

31キャプテン:2021/04/13(火) 21:14:33
兄妹を見下ろす道化師の姿。
「お二人さん下水から来たのか?良く無事だったなぁ。あっちの方はマジモンが多かったろう?」
「(ピエロ…無茶苦茶怪しい)流されてきたおかげで助かったのよ。退いてくれる?怪我してるの。」

二人の姿を怪しい目で見送るピエロ。
「(あの二人…どこかで)」

崩れる工場建造…人々の悲鳴…死体と悪臭。
その光景を目の当たりにし、そして自身が肩と腕を貸すサッキを一目見て…最後に天を仰いだ。
「ただ生きていたいだけなのに。」
そう呟くと、ゴゲットはもう片方の拳を強く握った。

32ノートン:2021/04/18(日) 21:57:00
「工場長が探している兄妹、君たちか?」
振り返るゴゲットとサッキ
「ピエロ!まだ居たのか!?」

ジロジロと2人を見るピエロ。
「工場長が指名手配してる兄妹の情報と一致するな」
「指名手配だって!?」
「そうだよ!なるほどねー、だから下水に隠れてた訳だ」
「…連行する訳ですか…私達を」

焦る2人に、名刺を渡すピエロ。
「安心しなよ。僕も君達と”同じ側”の人種だ。名はピッキータ。この工事から脱出するんだろう?協力するよ」

ゴゲットはサッキを見る。
「どうするサッキ…?信用するか…コイツを?」

33キャプテン:2021/04/20(火) 17:41:46
「(喋れるからこの人は大丈夫…では無い。私たちは既に『喋る』『単色と通常への眼光変化』『通常のマジモンとの協力』『特殊な力』これらを踏まえた敵と相対している。つまり…敵は人間社会に紛れ込める事になる。)」
息の詰まるような緊張が張り巡らす。

「ピエロさん?!」
突然、男の子がピッキータに駆け寄ってくる。
「さっきは怪物から助けてくれてありがとう。お母さんにも会えたよ。」
笑顔で握手する二人を見てゴゲットがニヤける。それを見てサッキは気の抜けたため息を吐いた。
「まあ、今はその子を信じてみましょう。」…

…とある救急用テント内。
簡易ベッドに横たわる人の瞼が開き、眼光が単色に染まっていく。

34ノートン:2021/05/04(火) 22:22:30
ピッキータの的確な指示の元、彼の部屋で、誰にも悟られる事なく身支度を済ませたゴゲットとサッキ。

「体を洗えて、気分も清々しいです」
「そうだな。俺も大事なカードを置いて行かずに済んでよかった」

ピッキータが部屋に入ってくる。机の上に、パサっと地図を置いた。
「目的地は第2工場だったな?通常は戦車型バスで移動するが、お前達はここ(第1工場)では指名手配されてる。皆が寝静まった夜、荒野を歩いていくしかないだろうな」
「…距離はどれくらいある?」
「100kmって所か」

ゴゲットとサッキはげっそりした顔でお互いを見た。
「俺のサポートはここまでだ。せいぜい頑張ってくれよ」

35キャプテン:2021/05/15(土) 23:02:29
「別れるのか?せっかく出会えたのに?」
ゴゲットが目を見開いてピッキータを見る。
「俺が一緒だとその…目立つだろ?あとその怪我、どうにかしないと。」
…結局、目立たない為に服装を変え、3人は一旦離散した。サッキの傷の治療の為でもある。

…サッキが病室のベッドで体を起こす。
「(体はもう大丈夫。後は隙を見て…?!)」
「嫌…嫌…イヤ?!虫が、虫が私の体から?!」
隣のベッドの病弱そうな女性が体を必死に払う。
「(虫這いの幻覚症状…アレが噂の。)」
サッキが近づいて女性を強く抱きしめる。
「大丈夫、虫は居ない…大丈夫だから!!!」
さっきの言葉に女性が少しずつ落ち着く。医者と看護師たちが病室に現れ、病弱そうな女性に駆け寄る。
「患者様どいてください!!」
「(…今のうちね。)」
サッキが病室を後にする。
「(虫のせいで…皆。)とにかく今は、早くここ(病院)を出ないと。」

36ノートン:2021/05/29(土) 20:25:08
真夜中。第一工場を後にしたゴゲットとサッキ。
「なぁサッキ…その、大丈夫か?」
「何がです?」
「いや…お前の体さ。あの血の量…正直死んでもおかしくない状況だった。俺がお前の体に蟲を…」
ゴゲットはサッキの体を見る。
「こんな状況で100kmも歩くなんて…正直不安しかない」

段々と落ち込んで行くゴゲット。サッキは元気がなくなった兄を励ます。
「手段はどうあれ、兄さんのお陰で助かった。感謝してますよ私」

サッキはある岩陰を指差す。訳も分からず進むゴゲット。そんな彼の目に、衝撃の光景が映る。
「ば…バイク!?何でこんな物が…」
「そもそも私、荒野を100kmも歩くつもり毛頭ありませんから。ちょっとは頭使ってよ、お兄さん」

37キャプテン:2021/06/03(木) 19:49:12
工場の光を背にバイクに跨るゴゲット、その後ろに座り掴まるサッキ。
「色々あったな、マジモンとの遭遇。虫の力に喋るマジモン。指名手配に、謎のピエロ。」
ゴゲットの呟きにサッキが続ける。
「そして…虫に人生を蝕まれた者たち。どうして…みんなただ生きていただけなのに。」
サッキが今まで見てきた惨状を思い出し、ゴゲットの背を掴む手に力が籠る。
「そうさ。ただ、生きていたいだけなんだ。俺たちも。」
夜の荒野に凶々しい者たちのシルエットと叫び声が木霊する。
「マジモン達だ。」
「進みましょうお兄さん、ただ…生きる為に。」
「ああ、そうだよなサッキ。」
荒野にエンジン音が鳴り響いた。

38ノートン:2021/06/13(日) 21:41:49
ゴゲットは進む。荒れ果てた荒野を、ひたすらに…。
暫く進むと、巨大な崖が目の前に広がっていた。

「崖か、クソっ!迂回する必要があるな」
「迂回すると言っても…」

サッキは辺りを見渡す。崖は長く広がっており、迂回すればかなりのタイムロスは避けられなかった。

「仕方ないよサッキ。バイクがあるだけマシさ」
「ちょっと待って下さい、お兄さん」
サッキはあるアイディアを思い付く。なんと、集蟲力を応用して崖を渡ろうと言うのだ。

「まだ制御出来る自信がない。集蟲力で橋を作って渡るなんて無理だ…俺には出来ない」

39キャプテン:2021/06/16(水) 22:11:06
…数分後
「やった、うまくいったぜサッキ。」
「ですね…それにしても『集蟲力』って…漫画の読み過ぎです、お兄さん。」
「クソッ、兄としての威厳が!!」
崖に架けた蠢く虫橋を兄妹2人はバイクの光を頼りに、降りて押しながら慎重に渡る。そして真ん中に差し掛かった頃…
「よし!あと半分…」ズガーーーン!!!
目の前を巨大な何かが掠めた。橋が半壊しバイクは崖下へ落ちた。2人は辛うじて残る橋に掴まる。
「クソ?!何だ?何か上から…?!」
2人が頭上を見上げる。夜の暗さで辛うじて小さな影が揺らめくのが見えた。
「空…ありえません…そんな?!」…

…4’400メートル上空
浮遊する液体に浮く華奢な体、長い髪を指でクルクルと巻いて遊ぶ人物。そして単色に染まる目。
「ハズレか、バイクの灯りも消えちゃったか。」
その周りを約30台以上の車輌が浮遊する液体の中にプカプカと浮かんでいた。
「ホントにもう人使いが荒いなぁ〜、アトちゃんは…私のこと毛嫌いする事ないのに〜。」

40ノートン:2021/06/25(金) 22:20:04
「マズイ…非常にマズイ状況だ!」
焦るゴゲット。今いる場所は、崖の丁度中間地点。渡り切るにはまだ先は長く、1Kmはある。

「落ちたら即死のこの状況…とにかく、早く渡るしかない」
「お兄さん!上を見て下さい!!」
上空から何やら黒い塊が降ってくる。ゴゲットは目を凝らす。距離が近づくにつれて、正体が判明する。

「あれは…車だ!空から車が降ってきているぞ!!」
車やバイクなどの車両が、ゴゲット達目掛けて次々と降ってきた。

「し…集蟲力!!」
橋を作るのに能力の大半を使っているゴゲット。操れる残り少ない蟲で何とか凌ごうとするが…。

「ダメだ!使える蟲が少な過ぎてカバー出来ない!!」

41キャプテン:2021/06/29(火) 18:31:47
同時刻、第一工場病院内。
薄暗い非常灯、ナースコールが不気味に鳴り響く血塗れの院内。そこに恰幅のよい男が1人立っていた。

「殺したんですかウシロ係長?虫も人間も?!」
その惨状を目の当たりにした駆除係の1人が恰幅のよい男性に詰め寄る。ウシロ係長と呼ばれた男性はその駆除係の襟を掴み壁に押し付けた。
「見分けれる訳ねぇだろ。急患に紛れ虫が広がり手に負えねぇ状況だ。理解しろ…これがオレ達の戦いだ。」
恰幅のよい男性が襟を離すと、駆除係の1人はへたり込んでしまった。

外へ出ると工場長と秘書が待ち構えていた。
「嫌われ役を済まない。これから避難民を第二工場に移す。護衛を頼む、ウシロ駆除係長。」
「あいよっ…秘書長ちゃんまたヒデェ格好だな!名札も無えし、シャワー中で慌てて着替えたのか?」
秘書の女性が慌てて眼鏡と長髪、制服を整え言う。
「今の発言、セクハラですよウシロさん?」

42ノートン:2021/07/11(日) 11:04:58
降り注ぐ車やバイクを見ながら、ゴゲットは咄嗟にある判断を下す。

「サッキ。俺にしがみつけ」
「何をするつもりです!?」
サッキはゴゲットを見る。その表情は、何かを決意した力強さを感じていた。

「俺を信じて…くれるか?サッキ」
ゴゲットの本気の目。サッキは黙って頷き、ゴゲットにしがみつく。

次の瞬間ー。

ゴゲットとサッキは崖から飛び降りた。
「きゃあああああああああああ!!!!」

43キャプテン:2021/07/16(金) 18:52:23
ゴゲットが残された虫の架け橋を掴む。それがヒモンジーのように細く伸びる。ヒモに引っ張られ、2人の落下速度が徐々に落ちていく。

…ドサッ!!
真っ暗な崖下の道。ゴゲットとサッキは着地し、少し痛がりながらも安堵する。
「すみません兄さん、橋なんて不用意でした。」
「結果的に危機を脱したんだ。結果往来さ。」
サッキが強く奥歯を噛みしめる。
「私にも能力が有るはずなのに…どうして?!」
「…個人差があるんだろう、まあ仕方ないさ!」

ズガアアンッ…ズガアアンッ…バァンッ?!
崖下の谷道、二人の数十メートル前方と後方で車輌が落下し爆発した。崖が崩れて道を塞ぐ。そして上方…岩壁伝いに大量の蠱者の唸り声が迫る。
「ハハッ、出口無しか…コレはマズイな。」
ゴゲットが力無い声を漏らした。

44ノートン:2021/08/05(木) 13:30:25
サッキは辺りを見渡す。かなり狭いが、人1人通れるような穴を見つけた。
「お兄さん!見て下さい、岩壁のそこの隙間に小さな穴があります。洞窟に繋がってるかもしれない…ひとまず隠れましょう!」
「…分かった!」

2人は洞窟内部へと入った。サッキの予想は的中。内部は広い空洞になっており、暗闇でも光る〝光花(こうか)〝が生えているお陰で、内部の状況も鮮明に把握出来た。

「はぁ…はぁ…ダメかと思った…」
近くに流れる川の水をガブガブ飲むゴゲット。崖からの決死のダイブ、空から降り注ぐ車、あまりの非日常。2人は体力的にも精神的にも追い詰められていた。

「サッキ…疲れたよ、俺…」

45キャプテン:2021/08/15(日) 21:34:57
ゴゲットが尻餅をつき、力無く頭が下る。
「すまない…サッキ。本当は、俺は…痛っ?!」
急にゴゲットの体が持ち上がる。サッキが腕を引っ張り上げ、自分の肩に乗せ立ち上がらせた。
「今更、弱音を聞きたくはありません。先ずは助かることを考えましょう、お兄さん。」
「(違うんだサッキ、俺は…クソッ!!)」
ゴゲットが苦虫を噛みしめた。
入り口からはマジモン特有の鳴き声が洞窟内まで反響してくる。ゴゲットとサッキはそのまま逃げる様にして洞窟の奥へと必死に歩く。…

…外では例の液体と浮遊していた人物が崖下に降りていた。
「居ない。車に潰されたか、それとも…液体空気内の微生物も元気だし、もう少し粘るか!!」

46ノートン:2021/08/17(火) 00:38:47
崖下に降りてきた人物…その見た目は髪が長く、華奢な体で男か女か判別出来ない。そんな謎の人物のケータイが鳴る。
「サガルか?私だ、アトだ。例の2人は仕留められたか?」
「分からないな。死体が見当たらない」
「分からないじゃ困るんだよ。しっかりしろ、情けない男め!」

ブチっと電話が切れる。
「何でアトさんは俺にあんなに当たりが強いんだ…嫌われてるのか?」

少し凹むサガル。辺りに散乱した車に腰掛け、頭を抱える。その時偶然にも、ゴゲット達が抜け穴として使った洞窟の入り口を発見してしまう。
「穴があるな…狭いが人1人通れるくらいの穴だ。怪しいぞ…まさかあいつら、この穴を使って…?」

47キャプテン:2021/08/20(金) 23:07:04
ピシャッ…洞窟内に小さく反響する。
「水の音?…下がれサッキ?!」
ゴゲットがサッキを後ろに突き飛ばし、『集中力』を発動する。兄妹の周りを小さく蠢く虫達。
「ハァッハアッ…(虫の数が少ない、虫橋に消費し過ぎた。体力も…ああクソ!!弱音を吐くな。)まぁ大丈夫だサッキ、俺が守るから。」

そして、それは角から現れた。
光花に照らされる濡れた金髪ストレートの長髪、華奢でスレンダーな体の可愛い見た目の子。
「(…カワイイ…痛っ、サッキ?!)」
サッキに脇を小突かれてしまうゴゲット。
「さっきは車を落としてゴメンね。あなた達は危険だってアトちゃんから聞いてて。私の名前はサガル。それでね、急で悪いんだけど…」
緊張する兄妹…サガルが頭を下げて言った。

「私達の仲間になって欲しいの。」

48ノートン:2021/08/29(日) 22:16:34
突然のサガルの誘惑。勿論ウソだと頭では理解していたゴゲット。しかし疲労困ぱいし、能力もろくに使えなくなっていた。そして、守らなければいけない妹の存在…。

ゴゲットは精神的にかなり追い詰められていた。

「仲間になれば、もう俺たちを襲わないんだな?」
「ちょっと、お兄さん!?」

サガルは驚いていた。
「あら、まさか乗ってくるなんて。てっきり反抗してくるもんかと思ったわ」
「約束しろよ、俺たち兄妹には手を出さないと!そしたらなってやるよ、仲間にな」

49キャプテン:2021/09/02(木) 21:21:58
「いいよ。あと誤解してるようだけど…私は男だよ。」
「「…はぁ?!」」

驚愕する二人。
その隙にサガルが地面に手を触れると液体が兄妹の足元に溢れる。乾いた感触の液体が体を覆う。判断がつかず液体が口にまで入ってしまう。
「(息が…できる?!)」
バゴッ…ベギッ…ドゴッ…グギュギュ
するとサガルがゴゲットの顔面や腹を何度も何度も蹴りまくる。ゴゲットが対抗するが水中で上手く動けない。サガルが満面の笑顔を向け、最後には両脚に首を挟み絞めあげる。
「『手』じゃなくて『足』だから安心して。私の『浮輪蛟』、呼吸は出来るしね。でも普通の水と違って浮力、水圧が高いから自由には動けないと思うよ。」

サッキが必死に何か言っているのが見える。次第にゴゲットの意識が遠のく。
「君達の正体や『虫の寿命』の事とか気にはなるけど、まぁ生捕りにできたんだし、アトちゃんや巫蠱(ふこ)達も許してくれるかな。」
それを聞いた後、ゴゲットの意識は更に遠のいた。

「(ハァ…弱っちぃんだな…俺って。)」

50ノートン:2021/09/23(木) 08:20:21
気絶したゴゲット。目を覚ますと、牢獄に幽閉されていた。
「うっ…体中が痛い…サッキ!?」
横を見ると、サッキは倒れ込んでいた。
「大丈夫か!?サッキ!!」

ゴゲットの足には鎖が繋がれており、サッキの側へ寄ることが出来なかった。
「クソ…あの男女の仕業か!」
ゴゲットは集蟲力を使って鎖を破壊しようとするが、能力が使えない。
「何だ…何で能力が使えない!?」

その時、コツコツと足音が近づいて来るのが分かった。誰か来る。ゴゲットは身構えていた。
「久しぶりだな」
現れたのは、第一工場の工場長だった。

51キャプテン:2021/09/26(日) 00:23:14
「坊主達まで虫になっちまうとは…世も末だな。」
その奥から現れた。だらしない声に兄妹が反応する。
「そんな…どうしてここに居るんだよ?『ウシロおじちゃん』。」…

…数十時間前、同地点崖下。
駆除係護衛の元、避難民を車両で第二工場に移送中、ゴゲット達の落ちた崖とマジモンたちに道を阻まれる。護衛、避難民の迂回組と駆除係による囮組に別れる命令が下された。

「クソッ、虫が多すぎる!!早く虫除けを?!」
「ダメだ?!虫除けを撒いたら虫達が迂回組の方に向かっちまう。囮の役目を忘れるな?!」
「だけど…クソが?!」
仲間たちの死体から目を背ける。マジモン達が生き残り2人に襲いかかる瞬間…恰幅の良い男性が両腕装着の電動機から『糸鋸』を射出し、マジモン達を切断した。

「ウシロ…駆除係長!!」

52ノートン:2021/10/02(土) 14:25:16
「工場長!」
ウシロは工場長の名を呼ぶ。
「こいつらの駆除、俺に任せてくれねぇか」

ウシロは鉄格子の前にドカンと座る。
「災難だったな。ゴゲット、サッキ」
「ウシロさん。俺たちは死ぬんですか…?」
「虫になってんのはゴゲット、お前だけだ。サッキは俺が責任持って面倒見る」
「やめて下さいウシロおじちゃん!お兄ちゃんを殺さないで!!」
「俺は駆除係の長だ。情で動く訳にはいかねぇ。すまねぇな、サッキ」
「そんな…」

泣き崩れるサッキ。そして絶望するゴゲット。
その場を後にしたウシロは、別室である人物と会っていた。
「後生の頼みだ。お前しか頼れる奴がいない…2人をもう一度逃してやってくれないか?」

奇妙なピエロの服を着た道化は答える。
「2度目だぜ?ウシロ。このピッキータ様に頼み事とは…。まぁいいぜ、親友の頼みなら断る道理がない」

53キャプテン:2021/10/11(月) 22:29:57
「すまない。あと…ゴゲットの体なんだが、やっぱり同じだったよ…進行しているようだ。」…

…「俺がおねんねした後、何があったんだ?」
ゴゲットがサッキに尋ねた。
「…駆除係が洞穴の外にいることを知ったサガルは、私にお兄さんを担がせ解放し、洞穴の奥へと居なくなりました。多分、私達を駆除係の囮にして後で脱出したんでしょう。」
「成る程、頭の切れる奴だ。」
「その後、私達は捕まり、虫の検査を受けて兄だけ陽性、今に至ります。…お兄さん…私の体って…。」
「…あの虫のロン毛野郎、よく喋る奴だったな。まるで言いふらすよう…に…」
バタンッ!!
「お兄さん?!」
…スピーッスピーッスピーッ。
「この状況で…また寝るんですか?」

54ノートン:2021/10/24(日) 21:54:44
駆除、つまり処刑の日。ゴゲットは目を覚ますと、辺りは荒野。目の前には駆除隊が並んでいた。
「そうか、睡眠薬で眠らされた訳か。今日俺は死ぬ…」

駆除隊の中心には、ウシロがいた。ウシロはゴゲット目掛けて駆除装置を構えていた。
「抵抗するなよゴゲット」
「ウシロさん、何もしませんよ。サッキを…頼みます」

ウシロのGOサイン。駆除隊員が次々と駆除剤を発射。ゴゲットに当たる、その直前の出来事だった。

ドウゥゥゥン!!!
突然の爆破音。次々と地面が爆破し、爆煙がモクモクと辺りを覆う。爆破されたのは地面だけではなく、ゴゲットの牢獄も爆破していた。

「ゲホッゴホッ!!どうなってる!?」
ゴゲットは煙の立ち込める檻の外へ出た。

55キャプテン:2021/10/28(木) 22:04:34
…「…お兄さん」
牢獄の中、サッキが紙切れを眺める。
「『処刑時…ゴゲット助ける』…ですか。私は誰かに助けられてばかりです…(私に虫はついていなかった。下水道でお兄さんは寄生虫を摘んでいた様に見ました。でも…多分あの時お兄さんは…。)」
悔しさからかサッキが奥歯を噛みしめる。
「移動です。」
女性の声、鉄格子が突如開く。制服姿の眼鏡に長髪の女性、そして男たちがサッキを連行する。
「あなた達は…「黙れ!!秘書長、急ぎましょう。」
その声に対し、サッキが微かに震える。
「(秘書…長?!)」

サッキの内ポケットにある下水道で拾った名札。
『第一工場秘書長 アト』…

…同時刻、荒野。
「ゲホッゴホッ!!どうなってる!?」ゴゲットは煙の立ち込める檻の外へ出た。

56ノートン:2021/11/07(日) 22:04:14
煙の中、何者かの手がゴゲットの胸ぐらを掴み、ぐいっと引き寄せられる。
「あんたは…ピッキータ!?」
「黙れ!いいか、俺の言う通りにしろ!今からお前の能力で、お前そっくりの分身を作り出せ!!出来るか?」
「…やってみる」

状況は飲み込めていなくても、ピッキータが助けに来てくれた事だけは理解出来た。ゴゲットは集中し始める。

その頃、煙の外では駆除体の連中が声を荒げていた。
「何が起きている!?」
「隊長!射殺の合図を!!」
「ウシロ隊長!!」
「隊長!!」

駆除隊は皆ウシロの判断を待っていた。
「(…3、2、1…よし、もう撃つぞ。上手くやってる事を願う…ピッキータ、ゴゲット…)撃てぇ!!!!」

駆除隊は銃を構え、ゴゲット目掛けて弾丸を撃ちまくった。

57キャプテン:2021/11/11(木) 20:14:46
「…駆除係長。」
ウシロが倒れた『それ』を抱え、うつむく。
「…あとは俺がやる。お前らは下がってろ。」
駆除係達がウシロの悲壮な姿に対し、申し訳無さそうに第二工場の方へと戻った。ウシロがニヤつく。抱える人型が細かい虫となって散った。…

…第二工場行き食料搬入車内。
「ピッキー、ウシロと知り合いだったのか?!」
「ピッキータだよ!!」
荷台に乗り揺られるゴゲットとピッキータ。
「昔、色々あってね。ウシロが君達兄妹と身寄りの無い子供達を世話していたのをボランティアで手伝ってた事がある。もう覚えて無いだろう。僕も大きくなった君達に気づかなかった。」
「小さい頃(…虫達が現れた後か。)…サッキ。」
「ああ、早くあの子を迎えに行ってあげよう。」

58ノートン:2021/11/21(日) 14:38:40
ガタガタ揺れる荷台。ふとゴゲットが空を見ると、あり得ない光景が広がっていた。
「ピッキータ…何だよあれ!?」
「これは一体…」

空中に浮いているのは、黄金のピラミッド。大きさは戦車位の、そこまで大きくない物体だった。

「布を覆って隠れろ!何なのか分からん…正体不明だ!!」

ピッキータとゴゲットは布で覆い被さり、その場をやり過ごした。ピラミッドは全く違う方向へと進んで行った。

「不気味だ…あれもマジモンの能力なのか?」
ピッキータの言葉に、ゴゲットは反応する。
「なぁ、ピッキータ。何で俺はこんな能力者になったんだ?俺は誰に命を狙われてるんだ?」

59キャプテン:2021/11/28(日) 21:07:43
ピッキータが考える仕草をする。
「『脳の認識が違う』…そう聞いたな確か。普通の人とは違って『脳が寄生虫を認識できる』。だから『脳が虫を支配できる』…らしいよ。」
…ゴゲットの頭上に『???』が増殖する。

「…もういい!!私は研究者じゃないんだ。奴らが何で私達を狙うのかなんて知らない!!」
「ハァッ…(襲ってきた撃つ奴や液体操る奴…アイツらも俺達と同じなのか?それとも…。)」…

…牢獄前廊下。
拘束されサッキが秘書長と男達に連れてかれる。
「(この秘書長って人、やはり…下水道で襲ってきたアトって人です。眼鏡や髪型、服装で見た目は変えていますが…何とかして逃げ出さないとです!!)」

60ノートン:2021/12/01(水) 22:49:24
「何している?」
「ウシロおじちゃん!?」
サッキが連行される道中、たまたま廊下でウシロと遭遇した。アトが面倒そうな表情でウシロを見る。
「工場長の命令で連行しています」
「何も聞いてないぞ俺は」
「何故あなたに言う必要が?たかが駆除隊長に、話す事はありません」
「くっ…!!」

連行されるサッキの背中を見ながら、ゴゲットの言葉を思い出す。
『サッキを…頼みます』

「わかってらぁゴゲット…俺に任せとけ」

61キャプテン:2021/12/06(月) 21:44:15
「(だが…どうすればいい!!)」
ウシロが苦虫を噛む。
「…この女はマジモンです!!!」
サッキの大声が廊下に反響し全員の動きが止まる。サッキを掴み、秘書長の体がピキピキと音を立て筋肉質になり、カツラと眼鏡が落ち、短髪になり…目はマジモン特有の単色に染まる。

そして手に握った銃弾を離す。
「…蠅叩。」
「伏せろ?!」
轟音と共に銃弾が弾けて消える。ウシロは曲がり角に飛び込み体を丸める。寸分の狂いも無く男達がいっせいに倒れた。
「蟲殺しどもめ!!」
「…ヒッ?!」
サッキが小さな悲鳴を上げる。二人の足元に瞬く間に男達の血が広がった。隠れるウシロが虫狩機から糸鋸を引く。
「(クソッ、サッキの位置が近ぇ。伸ばした糸鋸に巻き込んじまう)…全く、アト秘書長ちゃんまで虫だったとは、世も末だな。」

62ノートン:2021/12/10(金) 20:36:46
「何故お前を殺さなかったか分かるか?ウシロ」
アトがウシロに近寄る。
「知るか…化け物が」
「証人になれ。工場長にこう伝えるのだ。『マジモンの襲来があり死者数名。内、秘書長アトと罪人サッキも襲来に巻き込まれ死亡』とな。」
「お前らマジモンと、グルになれって事かい」

「従っては駄目です!ウシロおじちゃん!」
サッキの叫びに、ウシロが答える。

「当たり前よ。待ってな嬢ちゃん。今助けて…やるからな!」
糸鋸で攻撃するウシロ。しかし…。
それと同時に、アトの弾丸がウシロを貫通していた。

63キャプテン:2021/12/14(火) 20:53:47
「おじ…ちゃん…おじちゃん?!」
サッキが暴れるがアトの腕力に敵わない。そこへ細長い糸鋸がサッキの体を締め付け自身の背後に引っ張り出し、緊急ボタンを押す。隔離壁が閉まった。
「こんな助け方で…すまねぇな、サッキ。」
「ウシロ…大量殺戮者が!!」
中にはアトと出血止まらぬウシロが残された。

アトが右掌を開こうとした瞬間、右手首が切断され吹っ飛ぶ。ウシロがアトの周囲の床、壁、天井に全身装備の大量の糸鋸の細長いギザギザを伸ばし張り巡らす。そしてそれを巻き取る力で全方位を飛び回る。

速さに反応できず、アトの体がウシロの大量の糸鋸によりズタボロに切り裂かれる。
「痛ッ…(ああ、クソが。ガキどもの顔がチラつきやがる…死ぬ前のってやつだなこりゃ。)」

64ノートン:2021/12/26(日) 18:17:26
「開けて!開けてください、おじちゃん!!」
ガンガンと隔離部屋の分厚い壁を叩く。外の状況は分からず…だが、このままではウシロは殺される。それだけが分かっていた。

ゴゲットの安否も分からず、恩人が自分を守り死のうとしている。サッキの心には、何も出来ない自分への反逆の心が目覚めていた。

「何で私は無力なの…もう、守られるだけの存在は嫌だ…ウシロおじちゃんを…助けたい!!!」

サッキの目は、マジモン特有の単色に染まっていった。

65キャプテン:2022/01/01(土) 22:57:20
ウシロの全身装甲から延びる、張り巡らされた細長くしなやかな鉄のギザギザ。それがアトの傷だらけの体を締めつけていた。
「(コイツ自分の体に何をした…硬過ぎる…ムシカリ機でも切断しきれねぇ。)」
アトが切断された右手とは逆の左掌を開く。圧力から解放された弾丸がウシロの体を瞬時に貫通した。
「(ハァ…世も末だねぇ。)」

隔離壁が破壊される。中からアトが現れ、俯き座り込むサッキを見下ろす。
「お前も虫達の仇「テメェは殺します。」
サッキの冷ややかな…熱い殺気の篭った声だった。

66ノートン:2022/01/09(日) 21:15:44
第一工場の一角にある工場長室。数名の駆除隊員がなだれ込む。
「工場長!!2階渡り廊下にて、マジモンが出現!数名の駆除隊員が死傷!!そして…現在ウシロさんが交戦中です」
「何だと!?」
工場長は声を荒げ、立ち上がる。
「目撃者の証人によると、秘書長がマジモンである可能性が…」

秘書長の話しをした途端、隊員が胸から大量の出血をし、死亡。
「ひ…ひえぇぇ!!??」
突然の悲劇に訳もわからず、慌てふためく隊員達。

「ミーンミンミン」

さらに、工場長室から突如鳴り響く、蝉の鳴き声。音量が次第に大きくなり、隊員は鼓膜から血を流し死亡した。

「アトさん、演技はここで終わりということですか?」
工場長の目は、マジモン特有の単色に染まっていた。

67キャプテン:2022/01/17(月) 06:51:13
殴る音…血飛沫…。
サッキが倒れ込む。その単色の目でアトを睨む。
「その目…成る程。今その体から解放してやる。」
アトが残った左腕の拳をサッキの心部に当てる。
「また会おう。」
ズガンッ!!!

サッキの掌とアトの掌の間に、掌サイズのダンゴムシが丸まっている。
「何だ…その虫は?私の弾丸は、どこへ?」
アトの左腕から血が噴き出し、後退りする。
「(あのダンゴムシに弾かれて…左腕を貫いた?!)」
「何なの?…この『可愛い』の。」
サッキがヨタヨタと立ち上がった。


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