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《蠱者 マジモン》

1キャプテン:2020/11/11(水) 21:51:27
夜景に灯る工場群の光たち。煙突の煙が空へと帰る。その鉄の建造物たちに囲まれて二人はポツンといた。男性が座り込み女の子を抱えて顔を覗き込む。女の子が瞼を開け、あたりを見渡す。

お兄さん、何で泣いてるの?

女の子の伸ばす手が男性の頬を撫ぜる。男性の涙が頬を伝い女の子の手に触れる。男性のその瞳はいつもの見慣れたものとは違っていた。白目のない単色の、まるで『虫の目』のような…

朝、サッキが目覚めて体をベッドから起こす。
「(アレは確か、昨日の帰り道で…ダメです思い出せません。)」
長い黒髪をゴムで後ろに結び、黒縁の眼鏡をかけて工場の連なる窓の外を眺める。窓にはいつも通りの自分の姿が映る。
「…はあ、よいお出かけ日和ですね。」
残念ながら、窓は雨に濡れていた。

2ノートン:2020/11/13(金) 11:11:21
コンコンと扉をノックする音が聞こえ、サッキが振り返る。工場中にある部屋の為、剥き出しになったパイプなどを避けながら、無機質な扉を開ける。

「おはよう」
「おはようございます、お兄さん」

兄と呼ばれた彼の名はゴゲット。歳は19歳で、見た目はすらっとした身長に、短めの黒髪の好青年だ。

「見てくれサッキ。さっき散歩してたら、これを見付けたんだ」
ゴゲットはとある”カード”をサッキに見せる。昔の人気アニメ”ドレイクハンター”のレアカードだった。几帳面にカードファイルへ収納した。

「他にも何枚かあった。今日はツイてる」
「おめでとう、お兄さん」
興奮している兄を、呆れた顔で見つめる彼女の名はサッキ。ゴゲットの妹である。歳は15歳。長い黒髪を触りながら、2人は部屋を後にした。

3キャプテン:2020/11/16(月) 23:27:14
「そうだ、お兄さん。昨日の帰り道で何か変わった事がありませんでしたか?」
サッキが部屋に戻ってきてゴゲットに問う。
「…何も無かったよ。」
「…そうですか。あと今晩“も”カレーライスです。」
それを聞いたゴゲットが慌てて口を開く…が、既にサッキの姿は扉の外に消えていた。

…その夜。
サッキが一人、街灯の下で待ちくたびれる。
「(夜道は危険だから迎えに行くと言われたのはお兄さんの方でしたのに)コレクションはしばらく没収ですね。」

ドサッ!!

何かが落ちた音がして顔を向ける。それは1人の少女だった。サッキが駆け寄ろうするが、ふと違和感に気づく。少女が起き上がり体を畝らせながらこちらを向いく。その目には…
「(白眼の無い、真っ黒い単色の瞳…コレって…あり得ない。どうして工場地帯の中に?)」
少女がありえない距離の跳躍をしてサッキに飛びかかる。
「(マジモン(蠱者)?!)」

4ノートン:2020/11/21(土) 22:20:43
「この子…感染している…!」
空中で、少女の口がカパッと開く。口から大量の触手がサッキ目掛けて飛び交う。

「俺の妹に手を出すな。”集蟲力”」
小さな黒い”何か”がサッキをぐるっと囲み、壁となる。触手は黒い壁を鞭打するが、びくともしなかった。

「遅刻です…お兄さん」
「すまない、サッキ」

サッキの前に現れたのは、ゴゲットだった。口から触手を出す少女を見下ろす。

「こんな小さいのに、感染者か…可哀想に」

5キャプテン:2020/11/25(水) 22:25:44
サッキがゴゲットの目を見て青ざめる。
「お兄…さん…その目、『虫』に感染して。…でもどうして?マジモン(蠱者)になっても意識がある。それに…その能力は?」

マジモン(蠱者)
工場地帯に住む私達はそう呼んでいる。10年前にこの世界に突如として現れた新種の虫、その虫に感染した人々をそう呼んでいる。感染した人間は虫に支配され、人としての自我を失い本能のままに人々を殺す…はずだった。

「…覚えてないんだ、誰にも話せなくて。」
ゴゲットが震えだす。それを見てサッキが決意し、ゴゲットの両肩を強く掴んで言った。
「頼りないお兄さんは私を助けてくれました。何も分からなくても…それが一番大事な事実です。」
震えが少しずつ治まる。ゴゲットは強く頷き、マジモンの少女へと向き直った。

6ノートン:2020/11/28(土) 22:07:39
少女が触手を振り回す。辺りを手当たり次第、破壊し始めた。さらにその激しい音を聞き付けた工場の住人が、次第に集まり始める。

「し…集蟲力!!」
ゴゲットの黒い影が、少女を押さえ付ける。自身の力は隠れて何度か使用していた為、使い方は理解していた。しかし…

「サッキ!!この子を俺はどうすればいい!?」
「どうすればって…こんな現場、工場の人に見られたら、私達ここには居られなくなります…」
「し…しかし、俺はマジモンを相手にするのはこれが初なんだ…。殺すのか!?この子を!!感染したらもうどうしようもないのか!?」

7キャプテン:2020/11/30(月) 18:53:16
「あ〜もう!!しっかりしなさいアタシ!!」
サッキが自分の頬を思いっきりはたく。そして辺りを注意深く観察する。
「(とにかく、今ここでお兄さんを戦わせるわけにはいかない。)…逃げましょう、こっちです。」
サッキとゴゲットは走りだす。マジモンの少女が追いかけてくる。入り組んだ路地に入ると、マジモンは勢い余ってあちこちにぶつかりながら向かってくる。
「(予想通り、知性が無い分こういった狭く入り組んだ構造は苦手みたいですね。これで距離が稼げます。)頃合いを見てマジモンの動きを封じます。その後でサイレンを鳴らし、後のことは駆除係に任せて逃げましょう。」
マジモンの少女の口から触手が伸びる。
「今です、お兄さん!!」
「よしきた、集蟲力!!」
ゴゲットが壁のパイプを掴むと微細な生物達が移る。それらはパイプに穴を開け、中からマジモンの少女目掛けて煙が吹き出す。少女はよろめきながら倒れる。
「虫除けの煙、その製造ラインのパイプです。」

8ノートン:2020/12/06(日) 00:31:58
数分後、駆除係が駆け付ける。工場の煙で動けなくなった少女をマジモンと断定し、駆除が実施された。
2人の兄妹は、マジモンとなった少女の最後を見届ける事が出来なかった。それは一重に、少女をまだ人間に戻せる可能性があると信じたかったから…。

後日、2人は工場長に呼び出された。
「昨日は怖い思いをさせてすまなかったな」
「いえ、俺たちは大丈夫です」
「そうか。工場内にはマジモンは入れないはずなのだ。それが工場が安全地帯と言われる所以なのだ」
「あの…なぜマジモンは工場に入ってこれないのですか?」

9キャプテン:2020/12/08(火) 22:25:41
工場長がため息混じりに話す。
「そうだな。工場が『虫除けの煙』を製造しているのは知っているな。アレには虫の神経を麻痺させる効果がある。それを煙突で拡散して虫を寄せ付けないようにしている。それなのに…。」
「マジモンは入ってきた。工場長、ここに呼び出したのは私達を疑っているからですか?」
ゴゲットの静止も聞かずにサッキが攻撃的に話す。
「分からんさ、お二人が不審者を見たかもしれないだろう?工場内にも不審な輩は多い…?!」
突如、外で強烈な爆発音がした。サイレンと電話が鳴り響く。工場長が受話器を取る。
「何?!東区域の煙突が爆発?!マジモンが大量に侵入?!早く煙突の修理と駆除係を向かわせろ!!」

東区域。
壊れた工場群の外壁から四足歩行のマジモン達がゾロゾロと入ってくる。それを眺める短髪でスーツ姿、ガタイのいい女性。
「人間共め、よくも同族達を。私たちの痛みを思い知れ!!!」

10ノートン:2020/12/13(日) 22:51:36
「お前達、ここにいろよ!」
工場長は2人を置いたまま、部屋を飛び出す。

「工場にマジモンが大量侵入…?今までそんな事あったか!?」
「ありませんよお兄さん…」
サッキはゴゲットの服をグイッと掴み、工場長の部屋を出る。
「お…おい!部屋を出るなって言われたろ!」
「逃げるんです」
「えっ!?」
「確実に私達は疑われています。このまま兄さんの正体がバレたら、ここの連中に何されるか分かりません!ここは第一工場。とりあえず、次の第二工事へ身を隠します」

11キャプテン:2020/12/16(水) 22:13:15
サッキが廊下の非常用押しボタンを押す。施設内にブザーが鳴り響く。
「これで“見るからに一般人な私達”は避難しなければなりませんね。」
サッキがわざとらしい笑顔でそう言い、ゴゲットの手を引っ張る。しかし…
「…サッキすまない。俺、行くよ。」
サッキの表情が険しくなる。
「何を言っているんですかお兄さん。自惚れないでください。あなたは今、自分自身がこの工場内でどれだけ危険な存在か分かっていない。工場側の人に捕まったら、ただ殺されるだけじゃ済みません。数々の人体実験にかけられ、最後には解剖台に乗せられ、全身を切り刻まれてから死ぬんですよ。分かっているんですか?」
強気の言葉。しかし、サッキの握る手は震えていた。ゴゲットがサッキの手を両の手で強く握り、そして答える。
「…大丈夫、多分死なないから。」
サッキの手の震えが徐々に治まる。そしてわざとらしく深いため息を吐いて言った。
「まったく、フードか何かで顔を隠しましょう。そ、れ、と、私も同行しますよ。拒否権はお兄さんにはありませんからね。」

12ノートン:2020/12/24(木) 22:22:56
東区域では、駆除隊が大量のマジモン相手に苦戦していた。
「た…隊長!マジモンの数が多過ぎます!駆除が間に合いません!」
「こちら修理班!マジモンの阻害があり、煙突まで辿り着けません!」

隊長は頭を抱える。
「クソ…どうすれば…」

その時、工場長が駆け付けてきた。
「お前達!東区域は切り捨てるぞ!住民の避難を最優先に、急げ!!」

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14キャプテン:2020/12/31(木) 22:41:36
「そんな、”ウシロ“さんが来ればまだこの区域も…」
工場長が駆除係の一人を殴りつける。
「別の区域を死なせてからでは遅いんだ!!」

東区域の隔離防壁があちこちで下ろされる。
「そんな、間に合わない…誰か?!」
マジモンの大群が残された人々に襲いかかる。その瞬間、防壁ぎりぎりの隙間から二人組みが飛び込んできた。フードを深く被り顔は見えなかった。
「集蟲力、押し潰せ!!」
フードの男(ゴゲット)が掌を地面に叩きつける。すると地面から小さく蠢く何かの大群が現れ、マジモンの群れを覆い尽くした。
「皆さん、今のうちです。」
もう一人のフードの女(サッキ)が人々に指示する。
「早く!!この数相手は抑え込めない?!」

その姿を遠くから眺めるガタイのいいスーツ姿の女性。掌に“虫の複眼”のようなものが現れ、巨大な工場壁が掌で小さく圧縮される。そしてフードの男(ゴゲット)目掛けて弾丸の様に撃ち放たれた。
「蠱術(こじゅつ)、蠅叩(はえたたき)。」

15ノートン:2021/01/01(金) 21:53:11
放たれた弾丸は、ゴゲットの右腕を貫通した。
「痛った!?何だこれ…銃か!?」

ゴゲットは辺りを見渡すが、スナイパーらしき姿は見えない。それどころか、押し寄せる大量のマジモン相手で手一杯な状態。スナイパーを探すのは不可能に等しかった。
「サッキ、今銃で撃たれた!!多分俺たち狙われてる!!」
「えっ、大丈夫ですか!?お兄さ…」

サッキがゴゲットの方へ意識を向ける。それと同時に、2発目の弾丸は放たれた。

16キャプテン:2021/01/05(火) 22:02:27
放たれた2発目は…
「うあああアアアアアア?!」
サッキの服に穴が開き、血が滲み出す。そして腹を抱え、膝から崩れ落ちる。ゴゲットが苦悶の表情のままサッキに近づき抱きかかえる。
「サッキ…なぁ死ぬな。誰か…誰か!!」
ゴゲットの悲痛な声は、人々の逃げ惑う雑踏へと虚しく掻き消される。次第にマジモンの大群がゴゲットとサッキを覆い尽くし…

…下水道
マンホールの蓋が閉ざされ兄妹が下へと転げ落ちる。ゴゲットがサッキを抱き起こす。血が止まらない。
「俺の…せいだ。俺がみんなを助けに行こうなんて言ったからサッキは…?!」
その時、ゴゲットは見つけてしまう。触角頭の幼虫の姿をした、小さく透き通る物体を。それは…
「マジモン(蠱者)の…虫?」

17ノートン:2021/01/13(水) 21:38:12
ガタイのいい女は、消えた2人の行方を探った。
「どこに行った!?奴らは確実にマジモンを使いこなしていた。障害となるなら、確実に潰しておきたい」

降りて付近を探すが見当たらず。大量のマジモンが邪魔で探す事も困難だった。
「マジモンの群れが逆に仇となったか…いや、あれは?」
その時、女はマンホール付近に続く血痕を発見する。

「傷は深そうだな…すぐ殺しに行く」

18キャプテン:2021/01/17(日) 21:57:23
「(もしこれがうまくいっても、俺は一生妹に恨まれる事になるだろう。それ程に今俺がやろうとしている事は…恐ろしい事なんだから。)」
ゴゲットが目の前の虫を掴み、そして…

「う…ううん、私…?!」
サッキがハッとして起き上がり自分の腹を触る。布が巻かれて止血がしてあった。ゴゲットが突然走り寄りサッキを抱きしめる。
「“喋ってる”、良かった!?…止血が間に合って。」
「痛ったいですお兄さん!!ここは?」
ゴゲットが慌てて離れる。サッキが激臭に鼻を摘んで辺りを見渡す。どうやらそこは下水道のようだった。
「逃げていた皆さんは、どうなりましたか?」
その質問にゴゲットが顔を伏せ、そして答えた。
「ここに逃げ込んだ時、皆んなとは別れてしまって…分からないんだ。すまないサッキ、俺のわがままのせいで。」
サッキがため息混じりにゴゲットに言った。
「もう慣れっこですよ、お兄さんのお世話は。」

19ノートン:2021/01/23(土) 20:57:00
少し遠くで、ガンッと音がする。
何者かが、この下水道に侵入してくる音だった。

「スナイパーか!?逃げないと…!!」
ゴゲットはサッキを見る。死の淵から脱したとはいえ、そもそもが”有り得ない”治療法。
ここでサッキと共に危険の中を逃げ回るのは、得策では無い。ゴゲットはある判断を下す。

「サッキ、一人で逃げろ。俺が奴の足止めをする」
「なにを言っているの!?嫌だ!!」

サッキはゴゲットを掴む。その時気づいた。ゴゲットの腕は、震えていた。

「心配無い、足止めだけだ。奴を倒そうなんて思っちゃいないさ。隙を見て俺も逃げる」
集蟲力発動。小さな蟲の大群がサッキの周囲を取り囲み、強制的に遠くへ連れて行った。
「お兄さんッツ!!??」

20キャプテン:2021/01/29(金) 22:28:30
…数分間が長く感じられた。
「や…めろ…。」
奥から現れたマジモン達によりゴゲットの体は押さえ込まれ動きを封じられていた。

「お前、私たちと同じなのか?」
下水道の奥からスーツ姿のガタイの良い短髪の男性?が現れ話しかけてくる。その目が単色に染まる。
「男?その目…喋…れるのか?アンタも人の意識があるのか?!」
ゴゲットが声を絞り出す。男性?が続けて話す。
「違う…お前は…じゃない。」
男性?が近づいてゴゲットの頭を片手で掴む。その時スーツに名札が見えて『アト』と書かれていた。
「可哀想に、人の体に閉じ込められて…。」
アトという男性がもう片方の手で石を掴む。掌で石がバキバキと小さく圧縮され宙に浮く。
「今、解放してあげるからね…蠱術、蠅叩。」
哀れみの顔で、アトが今にも飛び出しそうな圧縮石をゴゲットに向けて構える。
「あと私は女だ。」
「…何を言ってるんだ?嫌だ、死にたくない。やめろ…やめろおおおおおお!!!」
突如、ゴゲットの目が単色に染まる。体に能力、集蟲力による小虫達が蠢き…

…「…お兄さん?!」
サッキが元いた方向を振り向く。ゴゲットの叫び声が下水道に反響して聞こえてきた。

21ノートン:2021/02/13(土) 18:04:53
小さな虫はどんどんゴゲットを覆っていき、次第に全身を包み込んだ。まるで黒い繭の様な状況だった。
繭の中で、虫たちと会話を始めるゴゲット。
「俺はお前たちを恐れていた。未知の力が怖かったんだ…でも今は力を貸してくれ」

その光景を眺める女。
「ほう…面白い。この圧縮された石、その反発力。どこまで耐えられるか実物だな」

石の破片は弾け、強力な弾丸となりゴゲットを襲う。ズボズボと繭の中に食い込む。さらに女は石を拾い、再び圧縮する。

「次々行くぞ」

幾度となく降り注ぐ石のつぶて。後には穴だらけになった繭だけが残った。

22キャプテン:2021/02/18(木) 23:06:42
「(さっきの叫び声、お兄さんが危険です!!)」
反対方向に走っていたサッキが息を切らせ、大きな鉄門の前で止まる。
「ハァッハァッ、あった!!」
はしごを上り、そして見下ろす。大量の汚水が水門によってせき止められていた。
「マア…助カルタメデスカラ。オ兄サンニハ我慢シテモライマショウ。」
鼻を摘みながらサッキが鼻声で言った。…

…空の小虫繭を囮にゴゲットがスーツ女の背後に周る。腕を無数の小虫で覆い固め、思いっきり殴った。しかし…顔面で拳は止まる。
「…舐めているのか?」

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24ノートン:2021/02/22(月) 20:39:42
「そんなカスみたいな虫を集めた所で、私には届かない」
「だんだん分かってきたぞ…俺の能力。カスかどうか…試してみろよ」
「(何だコイツ!?さっきまでビクビクしていたのに、いきなり勢い付きやがった)」
怯えていたゴゲットが、徐々に強気な姿勢になる。活路や勝機を見出した時、ゴゲットは緊張が解け攻めに転じる性格だった。

女の顔面に触れた拳から、大量の極小の虫が湧く。それらは女の鼻や耳から侵入しようとする。
「うっ…止めろ、気持ち悪い!!」

女はゴゲットを右腕で突き飛ばす。その時、右腕に痛みが走る。
「痛い…!?」
腕を見ると、出血していた。
「…小賢しい真似を!」
「痛いだろ?極小の虫を集めて引っ掻いてやった。所でお前、名前は何だ?何が目的だ!!」

25キャプテン:2021/02/25(木) 23:16:15
「名前、目的…分かるはずだ。そんなもの知ったって何の意味もない。」
「…あなたは本当に虫、マジモン(蠱者)なのか?」
黙りこくるスーツ女。握りしめた拳をこちらに向ける。突き出した拳を開いた瞬間、粒子が鋭く分散した。
「散り散りになれ、蠅叩。」
「(まずい?!)守れ、集蟲力?!」
ゴゲットが目を瞑り、小虫達が自身を囲む。瞼を開いた時、足元は小虫達がひっくり返り地面に散らばっていた。眼前にはスーツ女が…体を捻り避けるが、物凄い勢いで肩に肘鉄を打ち付けられた。
「が…ハッ?!(強者だ?!…息…が)」
「(避けた?!頭を狙ったが。この人間を生かすと仲間達が危険だ。)」
ゴゲットが膝から崩れ落ちる。

26ノートン:2021/03/12(金) 21:50:38
その頃地上では、マジモンの群れが工場に大量侵入していた。
「工場長!避難が間に合いません…数が多過ぎます!!」
「クソ…ここまでか…」
押し寄せるマジモンの群れは、次第に逃げ遅れた住人を捉え始める。
「おかあさーーーん!!!!」
1人の少年が泣きじゃくる。少年の母親はもう…。

その少年に、風船を渡す1人のピエロが居た。
「えっ?」
「私の後ろに居なさい」

ピエロはマジモンの群れに向き合う。両の手を出し、パンッと手を叩いた。すると、目の前の1匹のマジモンが急に膨らみ、破裂した。さらにピエロは拍手をし始める。パチパチパチパチ…と音がする度に、マジモンが次々と膨らみ、破裂していった。

27キャプテン:2021/03/16(火) 18:21:46
静まり返る場、生き延びた大人達がピエロを恐怖の眼差しで見る。ピエロが苦悶のため息をつく。
「ピエロさんはいい人だよ!!…多分(小声)」
少年が大人達に向かって叫ぶ。だが彼等の表情は変わらなかった。
「ありがとう少年。さあ、走って!!」
そう言い、ピエロは少年の背中をポンと押した。
「(遠くから叫び声、下水処理施設の近くか。)」…

…下水道。
地を這うゴゲットにスーツ女が拳を構える。
「まるで虫だな、容易く潰れろ。蠅たた…?!」
ゴゲットの体に冷たいものが当たる。目前には…
「冷っ…臭っ…汚っ(これって下水?…ヤバ?!)」
思う間も無く、2人の姿はどこからか来たドス黒い激流に流された。

28ノートン:2021/03/28(日) 22:23:42
「うおおぉぉぉあああ!!!!」
激しく迫り来る流水。ゴゲットは下水に流されながらも、意識を集中させる。
小さな虫が次々と繋がって行き、ロープのように長くしなるアイテムへと変化した。

「このまま流されるのは非常にマズイ!どこか…掴まれる所は!?」
咄嗟に、鉄の柱にロープを巻き付ける。グッとロープを握りしめ、激しい流水をなんとか耐え凌いだ。

「虫のロープに捕まるのが必死で、腕に力が入らない…」

ゴゲットは辺りを慎重に見回す。恐ろしい女の姿は見当たらなかった。
「何だったんだ、あの下水は。とりあえず、あの化け物は撒けた…のか?」

29キャプテン:2021/04/01(木) 22:12:05
「お兄さん?!」
上流から流れてきた平たい救命ボート。手が差し伸ばされ、ゴゲットが引っ張り上げられ乗る。
「サッキ、助かったよ。危うく溺れかけ…て…」
準備万端の救命胴衣、何より乗っているボート。
「サッキ、まさかこの下水…。」
サッキが屈託のない笑顔をゴゲットに向けた。

サッキは水門を開いた事、ゴゲットは戦闘と相手との会話内容の事を互いに話した。
「汚水流すとかひどいよサッキ?!」
「助け船です、相手は手だれの様でしたから。」
「それにしてもアイツ、オレ達とは違うのか?」
「ええ、やはり体が虫に支配されて…オレ達?」
「んっ?!…ああいや、間違えたオレだオレ。」
「…喋るマジモン。目的は、何か手がかりが?」
「ああそういえばコレ、アイツが落としたの。」

…名札?
名前の欄には『アト』と書かれていた。

30ノートン:2021/04/08(木) 22:04:50
数時間後ー。マジモンの襲来により、工場の東区域はほぼ壊滅状態。死者13名。避難した住人は西区域へと移っていた。

突如現れた”ピッキータ”と名乗る旅の道化師の尽力により、マジモンは殲滅。工場長の怒号が飛び交う中、駆除隊・修理班が総出で事態の立て直しに当たっていた。

その様子を、マンホールの隙間からこっそり観察するゴゲット。

「ダメだ…もうここにはいられない」
「疑われた時点で負け…ですね。私達は、恐らく工場長に”敵”として認識されてる」
「あぁ。下水路を通って、別の工場に移動しよう」

その時。マンホールをガッと持ち上げられる。ピエロの顔が突如現れた。

「くっさ…。何してんの君ら?」

31キャプテン:2021/04/13(火) 21:14:33
兄妹を見下ろす道化師の姿。
「お二人さん下水から来たのか?良く無事だったなぁ。あっちの方はマジモンが多かったろう?」
「(ピエロ…無茶苦茶怪しい)流されてきたおかげで助かったのよ。退いてくれる?怪我してるの。」

二人の姿を怪しい目で見送るピエロ。
「(あの二人…どこかで)」

崩れる工場建造…人々の悲鳴…死体と悪臭。
その光景を目の当たりにし、そして自身が肩と腕を貸すサッキを一目見て…最後に天を仰いだ。
「ただ生きていたいだけなのに。」
そう呟くと、ゴゲットはもう片方の拳を強く握った。

32ノートン:2021/04/18(日) 21:57:00
「工場長が探している兄妹、君たちか?」
振り返るゴゲットとサッキ
「ピエロ!まだ居たのか!?」

ジロジロと2人を見るピエロ。
「工場長が指名手配してる兄妹の情報と一致するな」
「指名手配だって!?」
「そうだよ!なるほどねー、だから下水に隠れてた訳だ」
「…連行する訳ですか…私達を」

焦る2人に、名刺を渡すピエロ。
「安心しなよ。僕も君達と”同じ側”の人種だ。名はピッキータ。この工事から脱出するんだろう?協力するよ」

ゴゲットはサッキを見る。
「どうするサッキ…?信用するか…コイツを?」

33キャプテン:2021/04/20(火) 17:41:46
「(喋れるからこの人は大丈夫…では無い。私たちは既に『喋る』『単色と通常への眼光変化』『通常のマジモンとの協力』『特殊な力』これらを踏まえた敵と相対している。つまり…敵は人間社会に紛れ込める事になる。)」
息の詰まるような緊張が張り巡らす。

「ピエロさん?!」
突然、男の子がピッキータに駆け寄ってくる。
「さっきは怪物から助けてくれてありがとう。お母さんにも会えたよ。」
笑顔で握手する二人を見てゴゲットがニヤける。それを見てサッキは気の抜けたため息を吐いた。
「まあ、今はその子を信じてみましょう。」…

…とある救急用テント内。
簡易ベッドに横たわる人の瞼が開き、眼光が単色に染まっていく。


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