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《蠱者 マジモン》

1キャプテン:2020/11/11(水) 21:51:27
夜景に灯る工場群の光たち。煙突の煙が空へと帰る。その鉄の建造物たちに囲まれて二人はポツンといた。男性が座り込み女の子を抱えて顔を覗き込む。女の子が瞼を開け、あたりを見渡す。

お兄さん、何で泣いてるの?

女の子の伸ばす手が男性の頬を撫ぜる。男性の涙が頬を伝い女の子の手に触れる。男性のその瞳はいつもの見慣れたものとは違っていた。白目のない単色の、まるで『虫の目』のような…

朝、サッキが目覚めて体をベッドから起こす。
「(アレは確か、昨日の帰り道で…ダメです思い出せません。)」
長い黒髪をゴムで後ろに結び、黒縁の眼鏡をかけて工場の連なる窓の外を眺める。窓にはいつも通りの自分の姿が映る。
「…はあ、よいお出かけ日和ですね。」
残念ながら、窓は雨に濡れていた。

2ノートン:2020/11/13(金) 11:11:21
コンコンと扉をノックする音が聞こえ、サッキが振り返る。工場中にある部屋の為、剥き出しになったパイプなどを避けながら、無機質な扉を開ける。

「おはよう」
「おはようございます、お兄さん」

兄と呼ばれた彼の名はゴゲット。歳は19歳で、見た目はすらっとした身長に、短めの黒髪の好青年だ。

「見てくれサッキ。さっき散歩してたら、これを見付けたんだ」
ゴゲットはとある”カード”をサッキに見せる。昔の人気アニメ”ドレイクハンター”のレアカードだった。几帳面にカードファイルへ収納した。

「他にも何枚かあった。今日はツイてる」
「おめでとう、お兄さん」
興奮している兄を、呆れた顔で見つめる彼女の名はサッキ。ゴゲットの妹である。歳は15歳。長い黒髪を触りながら、2人は部屋を後にした。

3キャプテン:2020/11/16(月) 23:27:14
「そうだ、お兄さん。昨日の帰り道で何か変わった事がありませんでしたか?」
サッキが部屋に戻ってきてゴゲットに問う。
「…何も無かったよ。」
「…そうですか。あと今晩“も”カレーライスです。」
それを聞いたゴゲットが慌てて口を開く…が、既にサッキの姿は扉の外に消えていた。

…その夜。
サッキが一人、街灯の下で待ちくたびれる。
「(夜道は危険だから迎えに行くと言われたのはお兄さんの方でしたのに)コレクションはしばらく没収ですね。」

ドサッ!!

何かが落ちた音がして顔を向ける。それは1人の少女だった。サッキが駆け寄ろうするが、ふと違和感に気づく。少女が起き上がり体を畝らせながらこちらを向いく。その目には…
「(白眼の無い、真っ黒い単色の瞳…コレって…あり得ない。どうして工場地帯の中に?)」
少女がありえない距離の跳躍をしてサッキに飛びかかる。
「(マジモン(蠱者)?!)」

4ノートン:2020/11/21(土) 22:20:43
「この子…感染している…!」
空中で、少女の口がカパッと開く。口から大量の触手がサッキ目掛けて飛び交う。

「俺の妹に手を出すな。”集蟲力”」
小さな黒い”何か”がサッキをぐるっと囲み、壁となる。触手は黒い壁を鞭打するが、びくともしなかった。

「遅刻です…お兄さん」
「すまない、サッキ」

サッキの前に現れたのは、ゴゲットだった。口から触手を出す少女を見下ろす。

「こんな小さいのに、感染者か…可哀想に」

5キャプテン:2020/11/25(水) 22:25:44
サッキがゴゲットの目を見て青ざめる。
「お兄…さん…その目、『虫』に感染して。…でもどうして?マジモン(蠱者)になっても意識がある。それに…その能力は?」

マジモン(蠱者)
工場地帯に住む私達はそう呼んでいる。10年前にこの世界に突如として現れた新種の虫、その虫に感染した人々をそう呼んでいる。感染した人間は虫に支配され、人としての自我を失い本能のままに人々を殺す…はずだった。

「…覚えてないんだ、誰にも話せなくて。」
ゴゲットが震えだす。それを見てサッキが決意し、ゴゲットの両肩を強く掴んで言った。
「頼りないお兄さんは私を助けてくれました。何も分からなくても…それが一番大事な事実です。」
震えが少しずつ治まる。ゴゲットは強く頷き、マジモンの少女へと向き直った。

6ノートン:2020/11/28(土) 22:07:39
少女が触手を振り回す。辺りを手当たり次第、破壊し始めた。さらにその激しい音を聞き付けた工場の住人が、次第に集まり始める。

「し…集蟲力!!」
ゴゲットの黒い影が、少女を押さえ付ける。自身の力は隠れて何度か使用していた為、使い方は理解していた。しかし…

「サッキ!!この子を俺はどうすればいい!?」
「どうすればって…こんな現場、工場の人に見られたら、私達ここには居られなくなります…」
「し…しかし、俺はマジモンを相手にするのはこれが初なんだ…。殺すのか!?この子を!!感染したらもうどうしようもないのか!?」

7キャプテン:2020/11/30(月) 18:53:16
「あ〜もう!!しっかりしなさいアタシ!!」
サッキが自分の頬を思いっきりはたく。そして辺りを注意深く観察する。
「(とにかく、今ここでお兄さんを戦わせるわけにはいかない。)…逃げましょう、こっちです。」
サッキとゴゲットは走りだす。マジモンの少女が追いかけてくる。入り組んだ路地に入ると、マジモンは勢い余ってあちこちにぶつかりながら向かってくる。
「(予想通り、知性が無い分こういった狭く入り組んだ構造は苦手みたいですね。これで距離が稼げます。)頃合いを見てマジモンの動きを封じます。その後でサイレンを鳴らし、後のことは駆除係に任せて逃げましょう。」
マジモンの少女の口から触手が伸びる。
「今です、お兄さん!!」
「よしきた、集蟲力!!」
ゴゲットが壁のパイプを掴むと微細な生物達が移る。それらはパイプに穴を開け、中からマジモンの少女目掛けて煙が吹き出す。少女はよろめきながら倒れる。
「虫除けの煙、その製造ラインのパイプです。」

8ノートン:2020/12/06(日) 00:31:58
数分後、駆除係が駆け付ける。工場の煙で動けなくなった少女をマジモンと断定し、駆除が実施された。
2人の兄妹は、マジモンとなった少女の最後を見届ける事が出来なかった。それは一重に、少女をまだ人間に戻せる可能性があると信じたかったから…。

後日、2人は工場長に呼び出された。
「昨日は怖い思いをさせてすまなかったな」
「いえ、俺たちは大丈夫です」
「そうか。工場内にはマジモンは入れないはずなのだ。それが工場が安全地帯と言われる所以なのだ」
「あの…なぜマジモンは工場に入ってこれないのですか?」

9キャプテン:2020/12/08(火) 22:25:41
工場長がため息混じりに話す。
「そうだな。工場が『虫除けの煙』を製造しているのは知っているな。アレには虫の神経を麻痺させる効果がある。それを煙突で拡散して虫を寄せ付けないようにしている。それなのに…。」
「マジモンは入ってきた。工場長、ここに呼び出したのは私達を疑っているからですか?」
ゴゲットの静止も聞かずにサッキが攻撃的に話す。
「分からんさ、お二人が不審者を見たかもしれないだろう?工場内にも不審な輩は多い…?!」
突如、外で強烈な爆発音がした。サイレンと電話が鳴り響く。工場長が受話器を取る。
「何?!東区域の煙突が爆発?!マジモンが大量に侵入?!早く煙突の修理と駆除係を向かわせろ!!」

東区域。
壊れた工場群の外壁から四足歩行のマジモン達がゾロゾロと入ってくる。それを眺める短髪でスーツ姿、ガタイのいい女性。
「人間共め、よくも同族達を。私たちの痛みを思い知れ!!!」

10ノートン:2020/12/13(日) 22:51:36
「お前達、ここにいろよ!」
工場長は2人を置いたまま、部屋を飛び出す。

「工場にマジモンが大量侵入…?今までそんな事あったか!?」
「ありませんよお兄さん…」
サッキはゴゲットの服をグイッと掴み、工場長の部屋を出る。
「お…おい!部屋を出るなって言われたろ!」
「逃げるんです」
「えっ!?」
「確実に私達は疑われています。このまま兄さんの正体がバレたら、ここの連中に何されるか分かりません!ここは第一工場。とりあえず、次の第二工事へ身を隠します」

11キャプテン:2020/12/16(水) 22:13:15
サッキが廊下の非常用押しボタンを押す。施設内にブザーが鳴り響く。
「これで“見るからに一般人な私達”は避難しなければなりませんね。」
サッキがわざとらしい笑顔でそう言い、ゴゲットの手を引っ張る。しかし…
「…サッキすまない。俺、行くよ。」
サッキの表情が険しくなる。
「何を言っているんですかお兄さん。自惚れないでください。あなたは今、自分自身がこの工場内でどれだけ危険な存在か分かっていない。工場側の人に捕まったら、ただ殺されるだけじゃ済みません。数々の人体実験にかけられ、最後には解剖台に乗せられ、全身を切り刻まれてから死ぬんですよ。分かっているんですか?」
強気の言葉。しかし、サッキの握る手は震えていた。ゴゲットがサッキの手を両の手で強く握り、そして答える。
「…大丈夫、多分死なないから。」
サッキの手の震えが徐々に治まる。そしてわざとらしく深いため息を吐いて言った。
「まったく、フードか何かで顔を隠しましょう。そ、れ、と、私も同行しますよ。拒否権はお兄さんにはありませんからね。」

12ノートン:2020/12/24(木) 22:22:56
東区域では、駆除隊が大量のマジモン相手に苦戦していた。
「た…隊長!マジモンの数が多過ぎます!駆除が間に合いません!」
「こちら修理班!マジモンの阻害があり、煙突まで辿り着けません!」

隊長は頭を抱える。
「クソ…どうすれば…」

その時、工場長が駆け付けてきた。
「お前達!東区域は切り捨てるぞ!住民の避難を最優先に、急げ!!」

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14キャプテン:2020/12/31(木) 22:41:36
「そんな、”ウシロ“さんが来ればまだこの区域も…」
工場長が駆除係の一人を殴りつける。
「別の区域を死なせてからでは遅いんだ!!」

東区域の隔離防壁があちこちで下ろされる。
「そんな、間に合わない…誰か?!」
マジモンの大群が残された人々に襲いかかる。その瞬間、防壁ぎりぎりの隙間から二人組みが飛び込んできた。フードを深く被り顔は見えなかった。
「集蟲力、押し潰せ!!」
フードの男(ゴゲット)が掌を地面に叩きつける。すると地面から小さく蠢く何かの大群が現れ、マジモンの群れを覆い尽くした。
「皆さん、今のうちです。」
もう一人のフードの女(サッキ)が人々に指示する。
「早く!!この数相手は抑え込めない?!」

その姿を遠くから眺めるガタイのいいスーツ姿の女性。掌に“虫の複眼”のようなものが現れ、巨大な工場壁が掌で小さく圧縮される。そしてフードの男(ゴゲット)目掛けて弾丸の様に撃ち放たれた。
「蠱術(こじゅつ)、蠅叩(はえたたき)。」

15ノートン:2021/01/01(金) 21:53:11
放たれた弾丸は、ゴゲットの右腕を貫通した。
「痛った!?何だこれ…銃か!?」

ゴゲットは辺りを見渡すが、スナイパーらしき姿は見えない。それどころか、押し寄せる大量のマジモン相手で手一杯な状態。スナイパーを探すのは不可能に等しかった。
「サッキ、今銃で撃たれた!!多分俺たち狙われてる!!」
「えっ、大丈夫ですか!?お兄さ…」

サッキがゴゲットの方へ意識を向ける。それと同時に、2発目の弾丸は放たれた。

16キャプテン:2021/01/05(火) 22:02:27
放たれた2発目は…
「うあああアアアアアア?!」
サッキの服に穴が開き、血が滲み出す。そして腹を抱え、膝から崩れ落ちる。ゴゲットが苦悶の表情のままサッキに近づき抱きかかえる。
「サッキ…なぁ死ぬな。誰か…誰か!!」
ゴゲットの悲痛な声は、人々の逃げ惑う雑踏へと虚しく掻き消される。次第にマジモンの大群がゴゲットとサッキを覆い尽くし…

…下水道
マンホールの蓋が閉ざされ兄妹が下へと転げ落ちる。ゴゲットがサッキを抱き起こす。血が止まらない。
「俺の…せいだ。俺がみんなを助けに行こうなんて言ったからサッキは…?!」
その時、ゴゲットは見つけてしまう。触角頭の幼虫の姿をした、小さく透き通る物体を。それは…
「マジモン(蠱者)の…虫?」

17ノートン:2021/01/13(水) 21:38:12
ガタイのいい女は、消えた2人の行方を探った。
「どこに行った!?奴らは確実にマジモンを使いこなしていた。障害となるなら、確実に潰しておきたい」

降りて付近を探すが見当たらず。大量のマジモンが邪魔で探す事も困難だった。
「マジモンの群れが逆に仇となったか…いや、あれは?」
その時、女はマンホール付近に続く血痕を発見する。

「傷は深そうだな…すぐ殺しに行く」

18キャプテン:2021/01/17(日) 21:57:23
「(もしこれがうまくいっても、俺は一生妹に恨まれる事になるだろう。それ程に今俺がやろうとしている事は…恐ろしい事なんだから。)」
ゴゲットが目の前の虫を掴み、そして…

「う…ううん、私…?!」
サッキがハッとして起き上がり自分の腹を触る。布が巻かれて止血がしてあった。ゴゲットが突然走り寄りサッキを抱きしめる。
「“喋ってる”、良かった!?…止血が間に合って。」
「痛ったいですお兄さん!!ここは?」
ゴゲットが慌てて離れる。サッキが激臭に鼻を摘んで辺りを見渡す。どうやらそこは下水道のようだった。
「逃げていた皆さんは、どうなりましたか?」
その質問にゴゲットが顔を伏せ、そして答えた。
「ここに逃げ込んだ時、皆んなとは別れてしまって…分からないんだ。すまないサッキ、俺のわがままのせいで。」
サッキがため息混じりにゴゲットに言った。
「もう慣れっこですよ、お兄さんのお世話は。」

19ノートン:2021/01/23(土) 20:57:00
少し遠くで、ガンッと音がする。
何者かが、この下水道に侵入してくる音だった。

「スナイパーか!?逃げないと…!!」
ゴゲットはサッキを見る。死の淵から脱したとはいえ、そもそもが”有り得ない”治療法。
ここでサッキと共に危険の中を逃げ回るのは、得策では無い。ゴゲットはある判断を下す。

「サッキ、一人で逃げろ。俺が奴の足止めをする」
「なにを言っているの!?嫌だ!!」

サッキはゴゲットを掴む。その時気づいた。ゴゲットの腕は、震えていた。

「心配無い、足止めだけだ。奴を倒そうなんて思っちゃいないさ。隙を見て俺も逃げる」
集蟲力発動。小さな蟲の大群がサッキの周囲を取り囲み、強制的に遠くへ連れて行った。
「お兄さんッツ!!??」

20キャプテン:2021/01/29(金) 22:28:30
…数分間が長く感じられた。
「や…めろ…。」
奥から現れたマジモン達によりゴゲットの体は押さえ込まれ動きを封じられていた。

「お前、私たちと同じなのか?」
下水道の奥からスーツ姿のガタイの良い短髪の男性?が現れ話しかけてくる。その目が単色に染まる。
「男?その目…喋…れるのか?アンタも人の意識があるのか?!」
ゴゲットが声を絞り出す。男性?が続けて話す。
「違う…お前は…じゃない。」
男性?が近づいてゴゲットの頭を片手で掴む。その時スーツに名札が見えて『アト』と書かれていた。
「可哀想に、人の体に閉じ込められて…。」
アトという男性がもう片方の手で石を掴む。掌で石がバキバキと小さく圧縮され宙に浮く。
「今、解放してあげるからね…蠱術、蠅叩。」
哀れみの顔で、アトが今にも飛び出しそうな圧縮石をゴゲットに向けて構える。
「あと私は女だ。」
「…何を言ってるんだ?嫌だ、死にたくない。やめろ…やめろおおおおおお!!!」
突如、ゴゲットの目が単色に染まる。体に能力、集蟲力による小虫達が蠢き…

…「…お兄さん?!」
サッキが元いた方向を振り向く。ゴゲットの叫び声が下水道に反響して聞こえてきた。


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