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あの作品のキャラがルイズに召喚されましたin避難所 4スレ目

1ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/08/14(月) 13:53:15 ID:tnRMCI/M
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
避難所用SS投下スレ11冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1392658909/

まとめwiki
ttp://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。

45ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 21:57:16 ID:uPUZJleA
 もしもルイズが『魅惑の妖精』亭でウエイトレスの女の子達に混じって如何わしい格好をして働いたら、そのオーラを掻き消せるかもしれない。
 ルイズに御酌をされる相手も、まさか自分がトリステインで一、二を争う名家のお嬢様に御酌されるとは思ってもいないであろうし…。
 御酌ついでに酔った客に色々話を吹っかれば、思いも寄らぬ情報をゲットできるという可能性も無くはないのだ。
 
「…何より働けばお給金を出してくれるだろうし情報も集められるしで、一石二鳥だろ?」
「う〜ん…とりあえず右ストレートパンチか左ローキックのどちらが良いか答えてくれないかしら?」
「今のはちょいとしたジョークだ、忘れてくれ」
 いかにも名案だぜ!と言いたげな表情を浮かべる魔理沙に、ルイズは優しい微笑みを顔に浮かべてそう返した。
 それを聞いた普通の魔法使いは肩を竦めて自分の言ったことをそっくり撤回すると、二人のやり取りを見ていた霊夢が口を開く。
「大体、何でいきなりそんな提案が出てくるのよ?」
「いやぁホラ、昨夜一階で夕食を食べてた時にスカロンがぼやいてたんだよ。…後一人くらい女の子が来てくれないモノかしら…って」
『だからって貴族の娘っ子に突然あんな如何わしい服着させて平民にお酌させろってのは、そりゃいくら何でも無理過ぎるだろ』
「なっ…!し、失礼な事言うわないでよデルフ、私にだってそれくらいの事…は―――難しいかも」
 霊夢と魔理沙に続いたデルフの容赦ない言葉にルイズは怒ろうとしたものの、咄嗟に昨夜の事を思い出して言葉がしぼんでしまう。
 ひとまずは『魅惑の妖精』亭に泊まる事となった彼女は、一階で働く店の女の子たちの姿をしっかりとその目で捉えていた。

 程々に露出の高いドレスに身を包んだ少女達は料理や酒を客に運び、彼らが出してくれるチップを回収していく。
 その時に客の何人かがお尻や胸の方へと伸ばしてくる手を笑顔で跳ね除けているのを見て、あれは自分には無理だろうなと感じていたのである。
「…っていうか、許し難いわね。貴族である私の体を触ろうとしてくる相手の手を笑顔で離すなんて事自体が」
『だろうな。もし昨日の客共がお前さんの尻や…えーと、そのち…慎ましやかな胸に触ろうとした時点で相手は確実に痛い目見るだろうし』
 思わず口が滑りそうになったのを慌てて訂正しつつ、デルフがそう言うとルイズはコクリと頷き…ついで彼をジロリと睨み付けた。
「あんた、今物凄く失礼な事言おうとしたでしょ?」
「はて、何がかね?」
 「慎ましやか」は別に失礼じゃないのか…魔理沙がそんな事を思いながらすっとぼけるデルフを見つめていると、
「はぁ〜…全く、アンタ達はホント考えるのはてんでダメなのねぇ?もう少し頭を使いなさいよ頭を」
 それまで彼女たちの会話の輪から少し離れていた霊夢が、溜め息をつきながらルイズと魔理沙の二人にそんな事を言ってきたのだ。
 当然、魔理沙とデルフはともかくルイズが反応しない筈がなく、彼女の馬鹿にするような言葉にすぐさま反応を見せたのである。
「何よレイム?子供のメイジ相手にしてやられたアンタが、私達をバカにできるの?」
「…!い、痛いところ突いてくるわねー。…あんな連中もう二、三日あればすぐにでも見つけてお金を取り返してやるっての」 
 ジト目でルイズ達を睨んでいた霊夢は、ルイズに一昨日の失敗を蒸し返されると苦々しい表情を浮かべてしまう。
 その後、気を取り直すように咳払いをしてから何事かと訝しむルイズへ話しかけた。

「え〜…ゴホン!…まぁ私達の言うとおりアンタが平民に混じって情報収集に向かないのは明白な事よね?」
「そりゃそうだけど、一々蒸し返さないで…って私もしたからお相子かぁ」
 巫女の容赦ない指摘に彼女は渋々と頷くと、霊夢はチラリと魔理沙を一瞥した後に、ルイズに向けてこう告げた。
「私さぁ、思ったんだけど……何もアンタ自身が直接情報収集に行かなくてもよさそうな気がするのよねぇ」
「はぁ?それ一体どういう…―――」
 突然の一言にルイズが驚きを隠せずにいると、霊夢は今にも迫ろうとする彼女に両手を向けて制止する。

46ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 21:59:12 ID:uPUZJleA

「話は最後まで聞きなさい。…別にアンタが役立たずって言いたいワケじゃないのは分かるでしょうに。
 私が言いたいのは、アンタや私以上に゙平民たちに紛れて情報収集できるプロ゙が今この場にいるって事なのよ。…分かる?」

 自分の突然すぎる言葉にルイズが「えぇ?」と言いたげな表情を浮かべるのを見て、霊夢はスッと人差し指をある方向へと向ける。
 その人差し指の向けられた方向へ思わずルイズもそちらへ顔を向けると、そこにいたのは見知った…というより見知り過ぎた少女がいた。
 指さされた少女本人は少し反応が遅れたものの、思わず自分の指で自分を指して「私?」と霊夢に問いかける。
「えぇそうよ?こういうのはアンタが得意でしょうに、霧雨魔理沙」
「……えぇ!?私がかよ!」
 霊夢の言ゔ平民たちに紛れて情報収集できるプロ゙にされた魔理沙は突然の決定に驚いたものの、
 何を驚いているのかと勝手に決めつけた霊夢は怪訝な目で普通の魔法使いを見つめていた。

 何はともあれ、勝手に情報収集係にされた魔理沙はその日から早速霊夢の手で平民の中へと放り込まれてしまった。
 ルイズは突然のことにどう対応したらいいか分からず、デルフは面白い見世物と思っているのか静観に徹していた。
 魔理沙は霊夢に文句を言おうとしたものの、それを予想していた巫女さんはこんな事を言ってきたのである。

――本来ならルイズ本人がやれば良いんだけど結果は散々だったし、デルフは当然の様に動けない。
    私はあの盗人兄妹を捕まえなきゃいけないし…となれば、アンタに白羽の矢が刺さるのは当然じゃないの
 
 こういう口げんかでは紫に次いで上手い霊夢に対し、魔理沙は苦々しい表情を浮かべる他なかった。
 その時になって初めてルイズが「いくらなんでも魔理沙に頼むのは…」と失礼な擁護をしてくれたものの、あの巫女さんは彼女にこう囁いたのである。

―――まぁ任せときなさいよ。コイツはコイツでそういうのを集めるのも得意だしさ。
     それにアンタには、コイツが集めてきた情報をこっちの世界の文字で書類にするっていう仕事があるのよ
     
 とまぁそんな事を言って最終的にはルイズも納得してしまい、晴れて霧雨魔理沙は街中で情報収集をする羽目になってしまった。
 最初は何て奴らかと思って少し怒っていた彼女であったが、冷静さを取り戻すと成程と自分に充てられた仕事に納得してしまう。
 ルイズが平民の中に紛れるのは下手なのは散々見たし、であれば誰かが拾ってきた情報を紙に書いてアンリエッタに送る仕事しかないだろう。
 そして、その情報を集める仕事を担当するのが自分こと――霧雨魔理沙ということなのである。
 霊夢が自分達の金を盗んだ相手を執拗に捕まえようとするのは…まぁ俗にいう『負けず嫌い』というやつかもしれない。
 本人もやられたままでは納得がいかないのは何となく分かるし、何よりあんだけ馬鹿にされてまんまと逃がしてしまったのである。
 絶対自分には捕まえる役を譲ってはくれないだろう。無理やり奪おうとすれば…゙幻想郷式のルール゙に則った決闘が始まるのは明白だ。

(それに霊夢はこの世界の文字の読み書き何てできないだろうし、私ならアイツ以上に他の人間と接してるしな)
 まだ納得できないが、妥当と言うことか…。市場から聞こえる賑やかな声をBGMに、魔理沙はチクトンネ街の通りを歩きながら考えていた。
 昨日、王都で降った大雨のおかげで道には幾つもの水たまりができ、青空に浮かぶ雲や横を通り過ぎる人々の姿を鏡の様に写していく。
 こころなしか通りの熱気もそれまでと比べて涼しいと感じる気がした魔理沙は、天からの恵みに思わず感謝したくなった。
 しかし、昨日の大雨ついでに起こったトラブルを思い出してしまい、感謝の念はひとまず横に置いて昨夜の出来事を思い返してしまう。
「それにして…昨日は本当に参ったぜ。当然の様に雨漏りしてきたし…やれやれ」

 それは昨日の…雨が降る前の事で、藍が自分たちを『魅惑の妖精』亭の屋根裏部屋に押し込んだのが始まりであった。

47ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:01:08 ID:uPUZJleA
 紫にあの店で過ごせるようにしろと言われた彼女はその日の夕方にスカロンと話し合って決めたのだという。
 その時には昼頃から王都の上空を覆い始めた黒雲から大雨が降ると察し、ルイズ達はそれから逃げるようにして店へと戻ってきていた。
 幸い突然の土砂降りで服を濡らすことなく戻る事ができた三人と一本が店の入り口で佇んでいると、あの式が部屋まで案内してくれる事となった。
 丁度開店時間で賑わい始める一階から客室がある二階に上がったところで、彼女はまず最初にしたのか゛ルイズ達への謝罪と弁明だった。
「すまん、スカロンと話し合ったのだが…今の季節はどの空き部屋も゙もしも゙の事を考えて入れないとの事らしい」
「えー、そうなの?じゃあ私が今朝寝てた部屋はどうなのよ。あそこは誰も泊まってなさそうな感じだったけど?」
 申し訳なさがあまり感じられない藍の言葉に霊夢が異議を唱えたが、そこへルイズがさりげなく入ってきた。
「アンタ知らないの?あの部屋って今はシエスタの部屋なのよ」
「……え?何それ、私はそんな話全然聞いてなかったけど」
 ルイズの口から出た意外な一言に霊夢が怪訝な表情を浮かべると、ルイズも目を細めて「本当よ」と言葉を続ける。
「昨日は気絶したアンタをベッドで寝かせる為に、ジェシカと同じ部屋で寝てくれたらしいわ」
「そうだったの。てっきり空き部屋があるかと思ってたけど…どうりで部屋が綺麗だったワケだわ」
「シエスタは魔法学院で穏やか〜にメイドさんをしてたからな。…後でアイツにお礼でも言っておいた方がいいと思うぜ」
 三人がそんな風に賑やかにやり取りするのを見ていた藍は、気を取り直すように大きな咳払いをして見せた。
 それで三人が話し合うのを止めるのを確認してから、彼女はルイズの方へと体を向けて話しかける。

「んぅ…ゴホン!それでまぁ、お前たちが二階の部屋に泊まるのは無理だが…今の持ち金だけでは他の宿には泊まれないんだろう?」
 式の質問は資金を盗まれ、今の所自身の口座にある貯金しかお金がないルイズへの確認であった。
 ルイズはすぐに答える事無く、暫し今の預金でどれだけ泊まれるか簡単に計算してから藍へ言葉を返す。
 九尾の式へと向けられたその顔は険しく、決して楽観できるような答えではないという事は察しがついた。

「…まぁ安い宿なら三泊四泊なら余裕でしょうけど、流石に夏季休暇が終わるまで連泊するのは無理ね
 しかもこの時期は国内外から旅行者が王都に来てるから、大抵の安宿はバックパッカーに部屋を取られてると思うし…」

「つまり三泊四泊した後は路上生活…って事か、いやはや〜……って、うぉ!」
「余計な事言わないでよ、想像しちゃったじゃない!」
「こらこら、アンタ達。喧嘩は後にするか私の見えない所でやりなさいよ、全く」
 ルイズの後を勝手に継ぐように魔理沙がそんな事を言うと、すぐさまルイズに掴みかかられてしまった。
 見た目の割に意外と腕力のあるルイズに揺さぶられる前に話を進めたい霊夢によって、魔理沙は何とか危機を脱する事が出来た。
 ホッと一息つく黒白と、そんな彼女をジッと睨むルイズを余所に彼女は藍は「話を続けて」と促した。

「一応、その事も含めてスカロン店長に話したら………暫し悩んだ後に゙とある゙一室を貸しても良いと許可してくれたよ。
 少々手入れが行き届いてないが掃除すれば何とか住めるようにはなるし、窓もあってそれなりに風通しの良い部屋だぞ?」

 右手の人差し指を立てて淡々と説明していく藍の言葉に、ルイズと魔理沙の顔に笑みが浮かび始めてくる。
 てっきり申し訳ないが…と言われて追い出されるかと思っていたのだ、嬉しくないわけがない。
 思ったよりも良い反応を見せる二人を見て藍もその顔に笑みを浮かべると、人差し指に続き更に親指立ててこう言った。
「…まぁこういう時は大なり小なり対価を払うべきだが、元々誰かが住むのを考慮してないから……金を払う必要は無いとの事だ」
「な、何ですって?」

48ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:03:25 ID:uPUZJleA
 全く予想していなかったサービスにルイズは喜び舞い上がるよりも、後退りそうになる程驚いた。
 何せ自分の貯金を崩して宿泊代を払うつもりだったというのに、それをする必要が無いというのである。
 ここまで来ると流石のルイズでも嬉しいという気持ちより先に、何か裏があるのではと勘ぐってしまう。
「ちょ…ちょっと待ってよ!流石にお金はいらないって…それ本当に部屋として使えるの?」
 サービス精神旺盛過ぎる藍にルイズは思った疑問をそのままぶつけると、霊夢が後に続い口を開く。
「ルイズと同じ意見ね。…第一、紫の式であるアンタが口出してるんだから何か考えてるでしょうに」
『タダほど怖いモノはねーっていう法則だな』
 彼女の辛辣な意見にデルフも諺で追従してくると、藍は微笑みを浮かべたまま二人へ言った。

「まぁお前たちがそう思うのも無理はないだろうな。けれど、一応人は住めるんだぞ」
 そう言って藍は立てていた人差し指と親指を使って、パチン!と軽快に指を鳴らして見せる。
 誰もいない廊下に軽いその音が響き渡り、一瞬で窓の外から聞こえる雨の音と一階の賑やかさに掻き消されてしまう。
 突然のフィンガースナップに何をするつもりかと訝しんでいた霊夢達の頭上から突如、聞き覚えのある少女の声がくぐもって聞こえてきた。
「藍さまー、もう下ろしていいの?」
「!…これって、確かチェンっていう貴女の式の声じゃ…」
 本来ならだれもいない筈の天井から聞こえてきたのは、藍の式である橙の声であった。
 意外にも猫被っていた彼女の事が強く印象に残っていたルイズへ返事をする前に、藍は「いいぞ!」と頷いて見せる。
 その直後…天井から鍵を開けた時の様な金属音がなったかと思うと、独りでに何かが天井から舞い落ちてきた。
 
 ゆっくりと、まるで冬の夜空から降ってくる雪の様な――ーけれどもドブネズミの如き灰色のソレが、パラパラと落ちてくる。 
 偶然にもソレが目の前で落ちていく様を目にした霊夢は、見覚えのあったその物体の名前を口にした。
「これは…埃?―――――って、うわッ!」
 彼女が言った直後、その埃が落ちてきた天井が物凄い音と共に落ちて来るのに気が付き慌てて後ろへと下がる。
 魔理沙とルイズ、それにデルフも何だ何だとその落ちてくる天井を目にし――それがただの天井ではない事に気が付く。
 木と木が擦れる音と共に天井から下りてきたのは、年季の入った階段であった。
「これって、階段…隠し階段か!すげーなオイ」
「『魅惑の妖精』亭って、こんなものまであるのね…」
 自分たちの頭上から現れたソレを見て魔理沙は何故か嬉しそうに目を輝かせ、ルイズは呆然としていた。
「驚いたわね〜、まさかこんな場末の居酒屋にこんな秘密基地じみたものがあるだなんて」
『うーん、この階段の年季の入りよう…オレっちから見たら、数年前かそこらに取り付けたものじゃねぇな』
 霊夢も二人と同じような反応を見せていたが、それとは対照的にデルフはこの階段が古いものだと察していた。
 隠し階段は『魅惑の妖精』亭となっている建物に最初から付けられていたのか、床を傷つける事が無いようしっかりと造られている。
 もしも後から造られているのなら、よほどの名工でも無い限りこうも完璧な隠し階段を取り付けるのは無理ではないだろうか。
 そのインテリジェンスソードの疑問に答えるかのように、藍はルイズ達へ軽く説明し始める。

「スカロンが言うにはこの店が『魅惑の妖精』亭という今の名前ではなく、
 『鰻の寝床』亭っていう新築の居酒屋として建てられた時に造ったらしい」

49ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:05:45 ID:uPUZJleA
 おおよそ築四百年物の隠し階段なんだそうだ、と最後に付け加える様にして藍が言うと、
「まぁ結局、色々と問題が発生したから使ったのは開店から数年までだったらしいけどねー」
 階段を上がった先にある暗闇からヒョコッと橙が顔を出して、必要もない補足を入れてくれる。
 どうやら先ほどの声からして、自分が帰ってくる前にそこにいたのだろうと何となく察しがついた。
 いらぬ説明を入れてくれた橙に礼を言う義理も無いルイズは暫し隠し階段を見つめた後、ハッとした表情を浮かべる。
 
「まさか私たちがこれから暫く寝泊まりする場所って…」
「まさかも何も、今橙のいる階段の先にある部屋がそうさ」
 ルイズの言葉に藍がそう答えると、彼女は隠し階段の先を指さして言った。
「ようこそ『魅惑の妖精』亭の屋根裏部屋へ。…とはいっても、客室とは呼べない程中は乱雑だがな」


「…まぁ屋根裏部屋は秘密基地って感じがあって良いけどさぁ、流石に雨漏りするってなるとな…」
 昨日の事を思い出していた魔理沙はそんな事を呟いて、屋根裏部屋へと通された後の事を思い出す。
 結局、藍と橙に背中を押されるようにしてルイズ達はあの隠し階段の向こうにあった部屋で暫く寝泊まりする羽目となってしまう。
 荷物は粗方持ち運ばれていたのだが、それを差し引いても屋根裏部屋は正に「長らく放置された倉庫」としか例えようがない程ひどかった。
 部屋の隅には蜘蛛が巣を張ってるわネズミが梁や床の上を走り回るわで、挙句の果てには蝙蝠までいたのである。
 「何よコレ!」と驚きと怒りを露わにするルイズに対し、藍は平気な顔で「同居人達だ」言ってのけたのは今でも覚えている。
 流石にルイズだけではなく霊夢もこの仕打ちに対しては怒ったものの、魔理沙本人はそれでもまぁマシかな…程度に考えていた。

 蜘蛛は箒で巣を蹴散らしてやれば出ていくだろうし、ネズミは罠でも張っておけば用心して顔を出してこなくなる。
 蝙蝠に関しては…まぁこの夏季休暇が終わるまで同居するほかないだろう。
 お金はほとんどないし行く当てもない、つまり結果的にはこの屋根裏部屋しか自分たちが寝泊まりできる場所は無いのだ。
 それに昨日の外はあれだけの土砂降りだったのである、雨風がしのげる場所があるだけマシなのかもしれない。
 元々倉庫として使われていただけあって、使っていないベッドが何個か置かれていたのは不幸中の幸いという奴である。
 シーツは後からシエスタに言えば持ってきてくれるというし、スカロンたちも押し込んでそのまま…というつもりはないようだ。

 最初は怒っていたルイズと霊夢も仕方ないと思ったのか、ひとしきり文句だけ言った後は一階で夕食を頂く事になった。
 デルフも特に異議は無いのか、階段を下りる前に屋根裏部屋を見回していた魔理沙に「早くしろよー」と声を掛けるだけであった。
 お金はお昼の内にルイズが財務庁から下ろしてきてくれたので、程々に美味いモノが食べる事が出来た。
 しかし…問題はその後、夕食を食べ終わり少し酒を引っかけてから三階へ戻った時にそのアクシデントは既に起こっていた。
 以前にもその勢いを増した雨風に勝てなかったのか、屋根裏部屋の天井から雨水が滴り落ちてくるという事態が発生していたのである。
 ポタ、ポタ、ポタ…と音を立てて床を叩く幾つもの水滴は、当然ながら藍が持ってきてくれていたルイズ達の荷物を容赦なく濡らしていた。
 これには流石の魔理沙とデルフも驚いてしまい、急いで荷物を二階に降ろしたのはいいもののそこから先が大変であった。
 雨漏りを直そうにも外は大雨で無理だし、雨水を入れる為の器を探そうにも見当たらない。つまり手の打ちようがなかったのである。

 結局…その夜はスカロンたちに事情を話して、仕方なく二階の客室を無理言って貸してもらう羽目になってしまった。
 そこまでは良かったが、そこから後は色々と大変だったのである。良い意味で。
 スカロンたちもまさか雨漏りを起こしていたとは知らなかったのか、明日――つまり今日にも大工を呼んで直してくれるのだという。

50ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:07:22 ID:uPUZJleA

 彼曰く「あなた達が屋根裏部屋に入らなかったら、気付かなかったかもしれないわぁ〜」とも言っていた。
 その時に屋根裏部屋を初めて見たというジェシカが、
 
「これも客室として使えるんじゃなーい?」
 
 とか言ったおかげ…かどうかは分からないが、更に色々と手直しするかもしれないのだという。
 ひとまず蝙蝠とかネズミやらを何とかした後でそれは考えるらしく、その駆除自体もまだまだ先になるのだという。
 とりあえず雨漏りさえ何とかしてもらえれば、後は掃除をするだけで多少はマシになるだろう。
  

「まぁ、昨日みたいな散々な体験をしないのならそれに越したことはないがな……ん?」
 苦く新しい思い出を振り返る魔理沙がひとり苦笑した時、ふと前方で誰かが道端でしゃがんでいるのに気が付いた。
 それが単なる通行人か体調の悪い人間なら彼女もそこまで気にしなかったのか知れない。
 しかし…少し前方にいるその人影はまだ十代前半と思しき少女であり、何より髪の色が明らかに周囲の人々から浮いているのだ。
 彼女を一瞥しつつ、けれど声は掛る程ではないと思ってか横を通り過ぎていく平民たちの髪の色は大抵金髪か茶髪で、偶に赤色とか緑色も確認できる。
 だがその少女の髪の色は、驚く事に銀色なのである。どちらかといえば白色に近い薄めの銀色といえばいいのだろうか。
 陽光照りつける通りの中でその銀髪は光を反射しており、少し離れたところから見る魔理沙からしてみればかなり目立っていた。
 
 そんな不思議な色の髪を腰まで伸ばしている少女は、通りを右へ左へと見回して何かを探しているらしい。
 端正でしかしどこか儚げな顔に不安の色をありありと浮かび上がらせ、照りつける太陽の熱で額から汗を流しながらしきりに顔を動かしている。
 魔理沙は少女が自分のいる通りへと視線を向けた時に顔を一瞥できたが、少なくともそこら辺の子供よりかはよっぽど綺麗だという感想が浮かんできた。
 髪の色とあの綺麗な横顔…もしかすればあの少女は今のルイズと同じぐワケありの女の子゙なのかもしれない。
 そこら辺は憶測でしかないが、思い切って本人に直接訊いてみればすぐに分かる事だろう。
 とはいっても、見ず知らずの女の子に声を掛けた所で驚かせてしまうか逃げられてしまうかのどちらかもしれないが…
 
「ま、この私が興味を持ってしまったんだ。声を掛けずに素通り…ってのは性に合わないぜ」

 彼女は一人呟くと昨日訪れた自然公園へ行く前に、目の前にいる銀髪の少女に声を掛けていく事にした。
 どんな反応を見せてくれるか分からないが、せめて今は何をしてるか…とかどこから来たのかとか聞いてみたいと思っていた。
 自分の興味に従い足を前へ進めていく魔理沙の気配を察知したのか、反対方向を向いていた少女がハッとした表情を彼女へ向けてくる。
 しかし一度動いたら止まらないのが霧雨魔理沙である。自分目がけて歩いてくる黒白に銀髪の女の子は困惑の表情を浮かべた。
「あっ……ん、…っわ!」
 それでもせめて立ち上がろうと思ったのか腰を上げたものの、足が痺れたのか思わず転げそうになってしまう。
 幸い転倒する事無く慌てただけで済んだものの、その頃には魔理沙はもう彼女と一メイル未満のところまで近づいていた。
 一体何が始まるのかと少女は無意識の体を硬くすると、黒白の魔法使いはおもむろに右手を上げて彼女に話しかけたのである。

51ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:09:24 ID:uPUZJleA
「よぉ、何か探し物かい?」
「…………。…………」
 突然自分に向けて挨拶しながらもそんな言葉を掛けてきた黒白に、少女は緊張気味の表情を浮かべて黙っている。
 そりゃそうだ、例え同性同年代?の相手でも何せ見ず知らずの者が近づいてきたらそりゃ警戒の一つはするだろう。
 対して、魔理沙の方は相手が見た事の無い相手であっても特に態度を崩すことなく、不思議そうな表情を浮かべている。
(ありゃ?ちょっと反応が薄かったかな…って、まぁ当たり前の反応だけどな)
 …反省する気は無いが、相変わらず私ってのはデリカシーとやらがなってないらしい。
 これまで一度も省みた事が無い自分の短所の一つを再認識しつつ、黙りこくる銀髪の少女へ魔理沙はなおも話しかけた。

「いやぁ、ここら辺じゃあ見ない顔と髪の色をしてたもんだからつい声を掛けちゃって…、ん?」
「………たから」
 最後まで言い切る前に、魔理沙は目の前の少女がか細い顔で何かを言おうとしてるのに気が付いた。
 言葉ははっきりとは聞こえなかったが、口の動きで何かを喋っているのに気が付いたのである。
 魔理沙が一旦喋るのを止めた後で、少女は気恥ずかしそうな表情を浮かべつつ上手く伝えきれなかったことを言葉にして送った。
「……わ、私―…そ、その…この街へは、初めて旅行へ…来たから」 
 多少言葉を詰まらせおどおどとしながらも、少女は素直な感じで魔理沙にそう言った。
 それを聞いた魔理沙は少女が旅行客だと聞いて、ようやく不安げな様子を見せる理由がわかってウンウンと頷いて見せる。
「成程な、どうりで道に迷った飼い犬みたいに不安そうな顔してたんだな。納得したよ」
「なっ…!そ、それどういう事ですか!?べ、別に私はま、迷ってなんかいないし、第一犬なんかでも…―――……ッ!」
 魔理沙の冗談は通じなかったのか、犬と例えられた少女がムッとした表情を浮かべて言葉を詰まらせながらも怒ろうとした時、
 突如少女のすぐ後ろにある路地裏へと続く道から、本物の犬の鳴き声が聞こえてきたのである。
 それを耳にした少女は驚いたのか身を竦めて固まってしまい、魔理沙は突然の鳴き声にスッと耳を澄ます。 

「お、話をすれば何とやらか?まぁでも…この吠え方だと飼い犬とは思えないがな」
 恐らく街の人々が出す生ごみ等を食べて生活している野良犬なんだろう、吠え方が荒々しい。
 きっと仲間か野良猫と餌か縄張りの奪い合いでもしているのだろうが、朝からこう騒々しくしては人々の顰蹙を買うだろう。
「朝っぱらから大変元気で羨ましいぜ、全く。………って、どうしたんだよ?」
 帽子のつばをクイッと持ち上げながら、そんな事を呟いた後で魔理沙は少女の様子がおかしい事に気が付く。
 先ほどしゃがんでいた時とは違って両手で守るようにして頭を抱えて蹲ってしまっている。
 一体どうしたのかと思った彼女であったが、尚も聞こえてくる野良犬の声で何となく原因が分かってしまった。

「もしかしてかもしれないが…お前さん、ひょっとして犬が苦手なのか?」
 魔理沙の問いに少女はキュッと目をつむりながらコクコクと頷き…次いでおもむろに顔を上げた。
 何かと思って魔理沙は、少女の顔が信じられないと言いたげな表情を浮かべているのに気が付く。
 一体どうしたのかと魔理沙が訝しむ前に、少女は耳を両手で塞ぎながら口を開いた。
「え?あ、あのワンワン!って怖い吠え方をする小さい生き物も犬なんですか!?」
「…………はぁ?」
 少女からの突然な質問に、魔理沙は答えるより前に自分の耳を疑ってしまう。
 今さっき、恐い恐くないという以前の言葉に魔理沙は暫し黙ってから再度聞き直すことにした。

52ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:11:08 ID:uPUZJleA
「……………スマン、今何て?」
「え…っと、ホラ!今後ろの道からワンワンって鳴いてる生き物も犬なんですか…って」
「イヤ、こういう場所でワンワンって鳴く生き物は犬しかいないと思うが」
「え、でも…犬ってもっと大きくて、人を背中に乗せたりもできて…あとヒヒーン!って鳴く動物なんじゃ…」
「それは馬だ!」

 少々どころか斜め上にズレた会話の果てに突っ込んでしまった魔理沙の叫び声が、通りに木霊する。
 これには素通りしようとした通行人たちも何だ何だと足を止めてしまい、少女達へと視線を向けてしまう。
 思いの外大きな叫びに通りは一瞬シン…と静まり返り、時が止まったかのように人の流れが静止している。
 路地裏にいるであろう野良犬だけが、一生懸命何かに対して吠えかかる声だけが鮮明に聞こえていた。
 

「知らなかった…、まさかあの小さくておっかない四本足の生き物が犬だったなんて…」
「はは…まぁ良いんじゃないか?世の中に犬を馬と思う人間がいても良いと思うぜ?」
 それから暫くして、魔理沙は未だ呆然とする少女を先導するかのようにチクトンネ街の通りを歩き続けていた。
 魔理沙は落ち込む少女ー顔に苦笑いを浮かべてフォローしつつ、馬を犬と勘違いしていた彼女に突っ込んだ後の事を思い出す。


 最初何かの冗談かと思った彼女が少女の言葉に、思わず突っ込みを入れてしまった後は色々と大変であった。
 何せ自分の怒鳴り声でそのまま尻もちついた彼女が何故か泣き出してしまい、魔理沙は変な罪悪感に駆られてしまう。
 事情を知らぬ人間が見れば、気弱そうな銀髪の少女を怒鳴りつけて泣かした悪い魔法使いとして見られかねないからだ。
 とりあえず平謝りしつつも、野良犬の鳴き声が怖いらしいので仕方なく彼女をそこから遠ざける必要があった。
 移動した後も少女はまだ泣いていた為に放っておくことが出来ず、魔理沙は動きたくても動けないまま彼女の傍にいたのである。

 大体小一時間ほど経った時に、ようやく泣き止んだ少女は頭を下げつつ魔理沙に自分の事を詳しく話した。
 名前はジョゼット、以前はとある場所にある建物でシスター見習い…?として暮らしていたのだという。
 しかし丁度一月前にある人達が自分を秘書見習いにしたいといって彼らの下で働き始めたらしい。
 そして今日ばその人達゙の内一人で、自分が゙竜のお兄さん゙と呼ぶ人が今この街で働いているので、もう一人の人と一緒に会いに来たのだという。
「…で、その後は竜のお兄さんと会ったのはいいけど、調子に乗ってホテルから通りの方へ出ちゃって…」
「成程、それで路地裏に入り込んじゃって…挙句の果てに野良犬に追いかけられた結果…ワタシと出会ったというワケか」
 自分が言おうとした言葉を魔理沙に先取りされてしまったのに気づき、ジョゼットは思わず恥ずかしそうに頷いた。
 それで、竜のお兄さんやもう一人のお兄さんが心配しているから、急いでホテルに戻らなければいけないのだという。
 魔理沙はそこまで聞いて、先程ジョゼットが道の端で不安そうな表情を浮かべていた理由が分かってしまった。
「はは〜ん!つまり、帰ろうと思っても道が分からないから帰れなかったんだな?」
「……!」
 容赦する気の無い魔理沙の指摘に、ジョゼットは思わず頬を紅潮させながら頷く。
 その後は、何だかんだでジョゼットと彼女を拾ったお兄さんたちとやらに興味が湧いた魔理沙は少しばかり彼女に付き合う事にした。
 つまりは乗りかかった船として、迷子のジョゼットをそのホテルまで連れていく事にしたのである。

53ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:13:16 ID:uPUZJleA

「……にしても、大通りから少し離れただけでも大分涼しいんだな…」
 先ほどの事を思い出し終えた魔理沙は、今歩いている小さめの通りを見回しながら一人感想を呟く。
 賑やかな市場から少し離れているここの人通りはやや少ないものの、散歩をするにはうってつけの道であろう。
 恐らく市場に行った帰りなのか、紙袋を抱えた平民たちの多さから見て自宅へ戻る際にここを通る者が相当いるらしい。
 建物の影もあるおかけで真夏の暑い太陽から隠れるこの場所は、ちょっとした避暑地の様な場所になっているようだ。
 魔理沙はそんな事を考えつつ箒片手に歩いていると、後ろをついて来るジョゼットが「あの…」と申し訳なさそうに声を掛けて来たのに気づく。

「ん?どうしたんだ」
 また素っ頓狂な質問かと思ったが、それを顔に出さず魔理沙が聞いてみると彼女はオロオロしつつも口を開く。
「え…っと、その…ありがとう、ございます。初対面なのに、道に迷った私を助けてくれるなんて…」
「あぁ、その事か!そう気に病む事はないさ、この街って私の生まれ故郷よりずっと大きいしな、迷うのは無理ないと思うぜ?」
 だからそう気に病むなよ?そう言ってコロコロと笑う魔理沙を見て、ジョゼットもその顔に微笑みを浮かべてしまう。

 何だか不思議な女の子だと、ジョゼットは思った。
 黒と白のエプロンドレスに絵本に出てくるメイジが被るようなトンガリ帽子にその手には箒。
 子供のころに読んだ絵本ではメイジが箒を使って空をとぶ話はいくつもあるが、実際は箒で空は飛べないのだという。 
 ではなぜ箒なんか持って街中にいるのだろうか?そんな疑問が頭の中に浮かんできてしまう。
 ――――まさかとは思うが、本当に箒で飛べるのだろうか?あのどこまでも続く青空を。
「……くす、まさかね」
「…?」
 変な想像をしてしまったジョゼットは小さく笑ってしまい、それを魔理沙に聞かれてしまう。
 しかし聞いた本人もまさか手に持っている箒の事を笑われたというのに気付かず、ただただ首を傾げていた。

 そうこうする内に小さな通りを抜けて、魔理沙はジョゼットの案内でブルドンネ街の一角へと入っている事に気が付く。
 周りを歩く人々の中にチラホラと貴族の姿が見えるし、何より平民たちの服装もチクトンネ街と比べれば小奇麗であった。
 右を見てみると幾つものホテルや洒落たレストランがあり、まだ開店前だというのに美味しそうな匂いを周囲に漂わせている。
 左には川が流れており、昨日の大雨の影響か水の色が土砂のせいで薄茶色に染まっていた。
 チクトンネ街とはまた違うブルドンネ街の景色を二人そろって見とれかけたところで、慌てて我に返った魔理沙がジョゼットに聞く。
「あ、そういや…ここら辺で合ってるんだよな?」
「え…うん、路地裏で犬に出会う前に川を見ながら歩いたから…」
 危うく目的を忘れかけた二人は何となく早足で前へと進むと、左側に小さな広場があるのに気が付いた。
 どうやら川の水はそのまま道の下にある暗渠に流れていくようで、濁流の音が微かに穴の中から聞こえてくる。
 地下へと続く暗い穴を一瞥した魔理沙がジョゼットの方へ顔を向けると、彼女は川を横切るようにして造られた左の広場を指さした。
 
 そこから先は左へと進み、まだ人の少ない小さな広場を抜けたところでまたしても道の片方に川が流れていた。
 ここには排水溝がすぐ真下にあるので、今度は川の流れに逆らって歩くような形となるらしい。
「なるほど…さっきの排水溝とはそれほど離れてないから、多分こことあそこの川の水は全部地下に流れてるのか?」
 だとすればこの街の真下には、巨大なため池があるようなもんだな…と魔理沙がそんな想像をしていた時、
 何かを見つけたであろうジョゼットが自分の横を通り過ぎ一歩前へ出ると、すぐ近くの建物を指さして叫んだのである。

54ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:15:13 ID:uPUZJleA
「あった!あれ、あれだわ。あのホテルは川の傍にあったもの、間違いないわ!」
 嬉しそうなジョゼットの言葉に思わず魔理沙もそちら方へ視線を向けると、彼女の言うとおりホテルが建っていた。
 これまで通り過ぎてきたものとは違い、妙に新築の雰囲気が残るホテルの看板には『タニアの夕日』という名前が刻まれている。

「『タニアの夕日』…か、確かにここの屋上から見たら夕日は良く見えるかもな?…昨日を除いてだがな」
 看板の名前を読み上げながら、さぞ昨日だけ名前負けしていたに違いないと思っていると、
「わはは!やったぁー、やっと戻れたぁー!あはははー!」
「ちょ…っ!?お、おい待てって!」
 それまで大人しかったジョゼットが嬉しそうな笑い声を上げ、ホテルの入口目がけて走り出したのである。
 周囲の人々の奇異な者を見る視線と、突然のハイテンションに珍しく驚いている魔理沙の制止を振り切って。
 よっぽど嬉しかったのであろう、長い銀髪を振って走る彼女の後姿を見て、魔理沙はヤレヤレと肩を竦めて見せた。

「……ま、結局遅かれ早かれ中に入ってたんだし。仕方ない、私もついて行くとするか」
 あのホテルの中にいるであろうジョゼットを連れてきた者たちがどんな人たちなのか知りたくなった魔理沙は、
 もう大丈夫だろうと一人静かに立ち去るワケがなく、ジョゼットの後を追ってホテルの入口へと足を進めた。
 
 一足先に入ったジョゼットに続くようにしてドアを開けた魔理沙は、思わず口笛を吹いてしまう。
「へぇ―、こいつは中々だな!ウチの屋根裏部屋が動物の住処に見えてしまうぜ」
 笑顔を浮かべて辺りを見回す彼女の目には、二年前にリニューアルした『タニアの夕日』の真新しさが残るロビーが映っている。
 流石ブルドンネ街のホテルという事だけあるが、何よりもロビーの隅にまでしっかりと手が行き届いているからであろう。
 フロントやロビーの真ん中に配置されたソファー、そして建物の中に彩りを与えている観葉植物にも古びた所は見えない。
 床にも埃の様な目に見えるゴミは魔理沙の目でも視認できず、まるで鏡面かと思ってしまう程に磨かれている。
 
 少々ぼやけて見えるがそれでも自分の顔を映す床を見つめていた魔理沙の耳に、ふとジョゼットの声が聞こえた。
「お兄様!竜のお兄様ー!」
 その声でバット顔を上げ、声のした方へ目を向けた先にジョゼットが手を振っているのが見えた。
 丁度ロビーから上の階へと続く階段の手前で足を止めた彼女は、その階段の上にいる誰かに手を振っているらしい。
 彼女の言ゔ竜のお兄様゙とやらがどんな人物なのか知りたい魔理沙は、すぐさま目線を彼女が手を振る方へと向ける。
 階段を上った先にあるホテル一階の廊下、そこで足を止めてジョゼットと目線を合わせたのはマントを羽織った美青年であった。
 魔理沙が今いる位置からでは詳細は分からないが、少なくともそう判断できるほど整った容姿をしている。
 
 見えないのならもう少し近づこうかと思ったその時、ジョゼットを見つけたその青年も声を上げた。
「ジョゼット!ようやく帰って来たんだな、このやんちゃ者め。迷子になったのかと思ったよ」
 軽く叱りつつも、その顔に安堵の笑みを浮かべる青年はそのまま階段を降りてジョゼットの方へと近づいていく。
 そして十五秒も経たぬうちにロビーへ降りてきた彼を見て、ジョゼットもまた笑みを浮かべて言った。
「まぁ酷いわお兄様、私が報告しようとした事を先に言い当てちゃうなんて!」
「これから僕が直々に君を探しに行こうかと思ったけど、取り越し苦労で済んで何よりだよ」
「あら、そうでしたの?…だったらもう少し迷っていたら良かったかも知れませんわね」
 悪戯っ気のあるジョゼットの言葉に青年は「こいつめぇ!」と笑いながら彼女の髪をクシャクシャと撫でまわす。
 それに対しジョゼットは怒るでも嫌がるでもなく、頭を撫でられている仔犬の様に嬉しがっていた。

55ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:17:16 ID:uPUZJleA
 まるでカップルの様な慣れ合いを見て、魔理沙はやれやれと溜め息をついて肩も竦めてしまう。
 この後はジョゼットをここまで連れてきた事を話して、ついでほんの少しお話でもしたいと思っていたが、これでは無理そうだ。
「とはいえ、このまま黙って去るのも私の性分じゃあないし―――はてさて…」
 イチャつく二人の周りに出来た蚊帳の外で、一人考える魔理沙の姿にジョゼットは気が付いたのだろうか。
 頭をやや乱暴に撫でられて笑っていた彼女はハッとした表情を浮かべると、すぐにロビーを見回し始める。
 そして、ここまで一緒に来てくれた魔理沙がすぐそこまで来てくれていた事に気が付くと、彼女に手を振りながら呼びかけた。

「黒白のお姉さん!こっち、こっちにいる人が竜のお兄様だよ!」
「ん?―――………なッ」
 少女が突然あげた声に青年と魔理沙は同時に互いの顔を見つめ、それぞれ別の反応を見せた。
 突然ジョゼットに呼びかけられた魔理沙は少し驚きつつも箒を持つ右手を挙げて「よぉ、初めまして!」と気軽な挨拶をして見せる。
 しかし青年は違った。彼もまた挨拶を返すつもりだったのだろうか、右手を少しだけ上げた状態のまま―――目を見開いて驚いていた。
 それだけではなく、体を少し仰け反らせ声も漏らしてしまったが為に、魔理沙だけではなくジョゼットも青年の方へ顔を向けてしまう。
 そして、ついさっきまで自分の頭を笑いながら撫でてくれた彼の表情の変わりっぷりに怪訝な表情で首を傾げ、彼に声を掛けた。

「……?お兄様?」
「――――…え、あ…!ゴホン!いや、何でもない」  
 ジョゼットの呼びかけが効いたのか、魔理沙を見て驚き硬直していた青年はハッと我に返り、
 ついで誤魔化すように咳払いをしてそう言うと、ジョゼットよりも怪訝な顔つきをした黒白の方へと視線を向け直す。
 一方の魔理沙は自分を目にしてあからさまに驚いて見せた彼の様子から、自分の勘がしきりに「怪しい!」と叫んでいる事に気付いていた。
 まるで今顔を合わせるのはマズイと思った相手が目の前にいて驚き、一瞬遅れてそれを誤魔化す時の様なワザとらしい咳払い。
 あれは…そう。紅魔館の門番をしている美鈴が居眠りしていて、咲夜が様子を見にきていたのに気が付いて慌てて目を開け咳払いした時のような手遅れ感。
 湖上空でそれを目撃し、その後の顛末もばっちり見ていた魔理沙には目の前の青年が取った行動にそんな既視感を覚えていた。
 問題は、互いに初めて顔を合わせるというのになぜ青年はそんな反応を見せたのか…である。霧雨魔理沙にとって、それは無性に気になる事であった。
 
(ちょっと挨拶だけして、後はお茶とかお茶請け―――ついで昼飯も頂いて帰る予定だったが…こりゃ思いの外、面白そうな事になってきたぜ)
 三度のパン食よりも米食が好きな魔理沙は、遠慮なく自分の好奇心を優先する事にした。
 場合によってはジョゼットを怒らせるかもしれないが、今の彼女にとって青年が何で驚いたのかを知りたくてたまらないでいた。  
 と、なれば即行動…と言わんばかりに魔理沙は今にもため息をつきそうな表情を浮かべると、肩を竦めながらジョゼットに話しかけた。
「おいおい、いきなりどうしたんだコイツ?私を見てびっくりするとは、随分な挨拶じゃないか」
「そうですよね?竜のお兄様、どうしたんですか急に驚いちゃったりして」
 挑発とも取れる魔理沙の言葉に気付かず、ジョゼットも若干頬を膨らませて青年に先ほどの驚愕について聞いている。
 まぁ見ず知らずの自分を助けてくれて、ホテルまでついてきてくれた恩人に対してあんな様子を見せれば、そりゃだれだって失礼だと感じるだろう。
 とはいっても、それ程怒っている様には見えないジョゼットに応えるかのように、青年は再度咳払いをしながら言い訳を述べた。

「コホン、いやーすまないね君。僕はこれまで色んな女の子と知り合ってきたけど…一瞬君が女装をした男の子だと思ってね?」
「んな…ッ!お、おと…女装!?」 
 これを言い訳と捉える他者がいるのなら、そいつは色んな意味で世の中の中性的な女性の敵になるだろう。
 最も言われた魔理沙自身は、自分が中性的だと一度も思ったことが無いし霊夢達幻想郷の知り合いからもそういう風に見られたことは無い。
 だがジョゼット以上に見ず知らずの男に何も言ってないのに驚かれ、初っ端からそんな言い訳をされたら怒るよりも先に驚くしかなかった。
 そして青年の声はロビーにいた客やフロントの係員たちの耳にも入ったのか、皆一斉に魔理沙達へ視線を向けている。
「お、お兄様…!なんて酷い事言うんですか!どう見てもこの人は女の子でしょう!?」
「そう怒るなよジョゼット、今のはロマリアじゃあちょっとした褒め言葉みたいなもんさ」

56ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:19:08 ID:uPUZJleA
 流石のジョゼットも周囲から注がれる視線と恩人に対する無礼な発言に対して、顔を真っ赤にして青年に怒鳴っている。
 しかし一方の青年は先ほど目を見開いて驚いていた時とは全く違い酷く冷静であり、その整った顔に不敵な微笑みを浮かべて言葉を返す。
 次いで、先ほどまでの自分と同じように驚き硬直している魔理沙へ「すまなかったね」と手遅れな謝罪を述べてから話しかけた。

「さっきも言ったよう、僕はこれまで色んな女の子と出会ってきたが…君みたいに男の言葉を使う快活な子と出会ったのは初めてでね。
 つい中性的で綺麗だと遠回しに褒めたつもりだったのだが、君の耳にはとんでもない侮辱として届いてしまったようだ。その事については謝るよ」

 照れ隠しの様な、それでいて相手を小馬鹿にしているとも取れる笑みを浮かべる青年に魔理沙はどう返せばいいか迷ってしまう。
 とりあえず苦虫を噛んだうえで無理やり浮かべた様な笑みを顔に浮かべつつ、いえいえ…とか適当な言葉を口にしようとした所で彼女は気づく。
 自分の顔を見つめる青年の両方の瞳…左は鳶色で右は碧色と、それぞれの色が違う事に気が付いたのである。
「ん?その目は…」
「あぁ、これかい?僕と初めて会うの人は真っ先にその事を聞いてくるから、いつ聞いてくるのかと心待ちにしてたんだ」
 恐らくこれまで何度も聞かれているのだろうか、若干の皮肉を交えながらも青年はサッと教えてくれた。
 自分の両目の色が違うのは生まれつき虹彩の異常があるらしく、そのせいで幼少期は色々と待遇が悪かったのだという。
「ハルケギニアじゃあ僕みたいな『月目』は縁起が悪い人間扱いされるし、おかげでしょっちゅう冷や飯を食わされたもんだよ」
「ふぅーん…冷や飯云々はどうでもいいが、私は綺麗だと思うぜ?なりたいかと言われれば別だけどな」
 手振りを交えて軽い軽い説明をしてくれたジュリオに魔理沙もまた毒と本音を混ぜて素直に月目を褒めた。
 女である自分をさらりと女装男子扱いしたイヤな奴ではあるが、良く見てみればまるで丁寧に磨かれた宝石の様に綺麗なのである。

 青年は魔理沙が褒めてくれたことに対しありがとうと素直に礼を述べ、さっと右手を彼女の前に差し出した。
 突然の右手に一瞬何かと思った彼女であったが、すぐに察して自分の右手で彼の差し出す手を握る。
 手袋越しの手は少々くすぐったいものの、握力から感じるに自分に対してあまり警戒はしていないようであった。
 互いの顔を見つめあい、暫し無言の握手が続いたところで魔理沙は自分の名を名乗る。
「私は魔理沙、霧雨魔理沙だ。街中で迷ってたジョゼットを見つけた普通の魔法使いさ」
「魔法使い?メイジじゃなくて…?」
「ここら辺の人間には名乗る度に似たような疑問を抱かれてるが、誰が言おうともメイジじゃあなくて魔法使いなんだ」
「成程、面白いヤツだよ君は。それに名前も良い」
 隠すつもりが全くない魔理沙の自己紹介に青年は笑いながらも頷いて、次に自分の名を名乗った。

「僕の名前はジュリオ、ジュリオ・チェザーレ。ワケあって今はトリステインへ出張している普通じゃないロマリア神官さ」
「おいおい、人の名乗りを模倣するかと思いきや…何て自己主張の激しい奴なんだ」
「いかにもメイジですって格好しておいて、わざわざ魔法使いとか主張する君も相当なもんだぜ?」
 互いに笑顔を浮かべつつ、棘のある会話をする二人の間には自然と和やかな雰囲気が漂っている。
 それを見守っていたジョゼットは、ジュリオが魔理沙を男子扱いした時の一触即発の空気が変わった事にホッと一息つくことができた。
 緊張に包まれていた周囲の空気も元に戻るのを感じつつ、ジュリオは魔理沙からここに来るまでの出来事を聞く事となった。
 興味本位でホテルの外に出て、街中を歩いていたら野良犬に追いかけられて道に迷った事。
 そして偶然通りがかった魔理沙に助けられて、トコトコ歩きながらようやくここへ辿り着くまでの話を聞いてジュリオはウンウンと頷いた。

57ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:21:15 ID:uPUZJleA
「キミには助けられたようなものだね。まさかトリスタニアに、キミみたいに親切な魔法使いさんがいるとは予想もしていなかったよ」
「何といっても私は魔法使いだからな。自分が興味を抱いたモノにとことん付き合うのは職業柄のさだめ…ってヤツさ」
「おや?僕の知らない世界では魔法使い…というのは職業として扱われているらしいねぇ。どこに行ったらなれるんだい?」
「残念だがこの業界はライバルが少ない程に得なんでな、なりたいなら自分で方法を探してみな」
 そこまで言った所で、いつのまにか魔法使いに関しての話になってしまったのに気づいた二人はクスクスと笑う。
 出会ってまだ十分も経たないというのに、すっかり打ち解けたかのような雰囲気になってしまっているからだろうか。
 二人して明確な理由が無いまま暫しの間笑い続け、それから少ししてジュリオが共に落ち着いてきた魔理沙へ話しかけた。

「改めて言うが本当に助かったよ。トリスタニアは以外に複雑な街だし、性質の悪い平民たちもいるしね」
「あぁ確かに…路地裏とか結構入り組んでるし、いかにもチンピラって奴らもあちこち見かけてるな」
 念には念を入れるかのようなジュリオの言葉に魔理沙は納得するかのように頷きつつ、ついでジョゼットの方へ目を向ける。
 恐らくこの世界の人間でも珍しい銀髪に小さな体躯。もしも自分と出会わずに夜中まで迷い続けていたら大変な事になってたかもしれない。
 そう考えると自分はとても良い事をしたぜ!…と誰に自慢するでもなく内心で踏ん反り返っている。
 一方のジョゼットは自分を見つめてニヤニヤする魔理沙に首を傾げた思った瞬間、
 ハッとした表情をその顔に浮かべると慌てて頭を下げて、ここまでついてきてくれた彼女へお礼を述べた。。

「あ、あの!助けてくれて本当にありがとうございます、キリサメ・マリサ…さん!」
「別にタメ口でもいいぜ?でも゙さん゙付けは別に嫌いじゃあないし、嬉しいけどな」
 魔理沙の言葉に頭を上げたジョゼットは暫し考えるかのように体を硬直させた後、再度頭を下げて言い直した。
「じゃ、じゃあ…ここまでついてきてくれて、ありがとう。マリサ、さん」
「ははは、そうそうそんな感じでいいんだよ!…っていうか、別に言い直さなくたっていいんだけどな」
 律儀にも言葉を訂正してお礼を述べてくれたジョゼットに魔理沙は苦笑するしかなかった。
 彼女としてはほんのアドバイス程度だったのだが、どうやら真面目に受け取ってしまったらしい。
 ちょっと言い過ぎたかな?魔理沙がそう思った時、それはジュリオの背後――先程まで彼がいた一階から聞こえてきた。

「ジョゼット、無事だったのですね!」
「え…あっ、せ…―――セレンのお兄さん!」

 ジュリオと比べ微かに低く、しかし十分に若いと青年の声に真っ先に振り向いたジョゼットは、真っ先にそう叫んだ。
 遅れてジュリオも背後を振り返り、魔理沙は視線を動かして階段を降りてくる青年の姿が目に入る。
「あれは…?」
「彼は…セレン。ここへジョゼットを連れてきた騒ぎの張本人にして、もしかすると…彼女の身を一番案じてた人さ」
「…!成る程、ジョゼットが言ってたもう一人のお兄さんってアイツの事なのか」
 思わず近くにいたジュリオに訪ね、返事を聞いた魔理沙はここに来る前にジョゼットが言っていた事を思い出す。

58ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:23:07 ID:uPUZJleA
 年の程は良く分からないものの、階段の上からでも分かる程にその背丈は大きかった。
 恐らくジュリオと比べて一回り大きいがそれでいて痩せているためか、一見するとモデルか何かだと見間違えてしまう。
 ジュリオのそれと比べてやや濃い色の金髪をショートヘアーで纏めており、窓から漏れる陽の光で反射している。
 そして何よりも一番目についたのは、ジョゼットがセレンと呼んだ青年の表情から『優しさ』のようなものが溢れ出ていた事だ。

 『優しさ』――或いは『慈悲』とも言うべきか、とにかく彼の顔には『怒り』や『悲しみ』といった負の感情…というモノが一切見えないのだ。
 普通なら勝手にホテルから出て、街で迷ってしまったジョゼットを怒るべきなのだろうが、その予想は惜しくも外れてしまう。
 優しい笑みを浮かべる金髪の青年セレンが階段を降り切ると同時に、ジョゼットが彼の下へ走り出す。
 セレンは駆け寄ってくる少女を自らの両腕と体で優しく抱きとめると、繊細に見える銀髪を優しく撫でてみせたのである。
「あぁジョゼット、まさか探しに行く前に帰ってきてくれるとは…始祖に感謝しなければなりませんね」
「はい、仰る通りです!…けれど、始祖のご加護だけではなく、それにマリサさんにも!」
「?…マリ、サ…?もしかすると、そこにいる黒白のトンガリ帽子の少女ですか?」
 ジョゼットの口から出た聞き慣れぬ名前にセレンは顔を上げ、ジュリオの後ろにいる魔理沙へと視線を向ける。
 それを待っていたと言わんばかりに魔理沙は左手の親指でもって、自分の顔を指さしてみせた。
「そ!ジョゼットの言うマリサさん…ってのはこの私、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙さ!」
「普通の、魔法…使い?メイジではなく?」
 魔理沙の自己紹介で出た゛魔法使い゙という言葉に彼もまた首を傾げ、それを見たジュリオがクスクスと笑う。
「セレン、そこは疑問に感じるでしょうが彼女にとってはそれが至極普通なんだそうですよ」
「…ほぉ、成程!つまり変わっているという事ですね?…嫌いじゃあありませんよ、そういうのは」
 笑うジュリオの言葉にセレンもまた微笑みながら返すと抱きとめていたジョゼットを少しだけ離して魔理沙と向き合う。
 一方の魔理沙も自分の顔を指していた親指を下ろすと、今度は彼女の方からセレンへ向けて右手を差し出す。
 それを見てセレンも気持ちの良い笑顔を浮かべながら、自分の両手でもって彼女の手を優しく包み込むように握手する。

「ジョゼットの知り合いになったばかりの私だが、以後お見知りおきを…ってヤツで頼むぜ」
「えぇ勿論。…私の名はセレン、セレン・ヴァレンです。今日、貴女という素晴らしい人、貴女を出会わせたくれた始祖の御導きに感謝を」
 互いに気持ちの良い握手をする最中、ふと魔理沙はセレンの首からぶら下がる銀色のアクセサリーに気付く。
 それは彼女のいる世界では良く見るであろう十字架とよく似た、敬虔なブリミル教徒が身に着ける聖具であった。

59ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/08/31(木) 22:29:43 ID:uPUZJleA
以上で八十六話の投稿は終了です。
今年の夏は色々と忙しく、またやる事も多かった季節でした。

それでは今日はここらで…
また来月末にお会いしましょう。ノシ

60名無しさん:2017/09/07(木) 22:26:27 ID:9RFKZYoI


61ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/08(金) 05:05:22 ID:gEw1OzH.
おはようございます。焼き鮭です。投下を行います。
開始は5:08からで。

62ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/08(金) 05:09:07 ID:gEw1OzH.
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十五話「暗黒の化身」
超古代尖兵怪獣ゾイガー
超古代怪獣ゴルザ(強化)
邪神ガタノゾーア 登場

「ピアァ――――ッ!」
 ガリアから飛び立ち、今まさにアクイレイアを狙ってロマリア艦隊を壊滅せしめたゾイガーの
群れは、ロマリア側の虎街道上空にて侵攻を阻止しに出動したウルティメイトフォースゼロと
激しい交戦を繰り広げていた。
『ちっくしょう! こいつら、何てスピードだ! 攻撃が全然当たんねぇぜ!』
 空中でファイヤースティックを振るうグレンファイヤーが毒づいた。先ほどからゾイガーへ
向けて如意棒を振り回しているのだが、一体にさえかすりもしない。
『こっちもだ! ジャンミサイルが振り切られるとは……!』
 ジャンボットもまた搭載火器をフル使用しているが、ゾイガーの動きがあまりに速すぎて、
ロックオンすらも出来ないありさまであった。
 それもそのはず。ゾイガーの飛行速度はネオフロンティアスペースの当時の主力戦闘機
ガッツウィングはもちろんのこと、高速型のブルートルネードも、果てはマキシマオーバー
ドライブ搭載のスノーホワイトでさえ追いつけないほどの常軌を逸した速さなのだ。生半可な
攻撃では、ゾイガーの影を捉えることすら出来ない。それが何体もいるという恐ろしさ!
「ピアァ――――ッ!」
 それほどのスピードを出しながら縦横無尽に飛び回るゾイガーたちは、口から光弾を吐いて
ジャンボットとグレンファイヤーを一方的に攻撃する。
『ぐわぁぁッ!』
『うおあぁぁッ! くっそうッ……!』
 光弾を肩に被弾し悲鳴を発する二人。歴戦の戦士たるこの二人が大いにてこずるこの怪獣たちに、
怪獣迎撃に出撃したロマリア軍の部隊はますます太刀打ちすることは出来なかった。
「速すぎて目で追うことすら出来ない……! これでは戦いにもならん……!」
 ロマリアの聖堂騎士の一人が唖然とつぶやいた。艦隊はまだ残存しているが、ガッツウィングと
比べたらはるかに遅いハルケギニアのフネではゾイガーに対抗することなど到底出来ない。
オストラント号でも不可能である。人間たちは、何も出来ることがなく立ち尽くすばかり。
『はぁッ!』
 グレンファイヤーやジャンボットも苦戦する中、ミラーナイトは鏡のトリック全開でゾイガーに
対抗している。空に張り巡らした鏡にミラーナイフを連続反射させることで、一体の羽を切り
飛ばしたのだ。
「ピアァ――――ッ!」
 片側の羽を失ってバランスを崩したゾイガーが谷底へ向けて真っ逆さまに転落していった。
それを追いかけるのはグレンファイヤー。
『ようやく一体落としたか! とどめは俺に任せな!』
 役割分担をして、グレンファイヤーは地上に落ちたゾイガーを叩く。そのつもりだったのだが……。
『うらぁッ!』
 炎の拳を、ゾイガーが弾き返した!
『ん何!?』
「ピアァ――――ッ!」
 更にグレンファイヤーを蹴り返すと、残った片側の羽を自ら引っこ抜いて身軽となる。
そして跳ねながらグレンファイヤーに猛然と反撃を行う。
『くッ、飛べなくなっても戦えんのか! 何て手強い奴らだ……!』
 さしものグレンファイヤーも冷や汗を垂らした。一体だけでもこれほど隙がないのに、
まだまだ何体もいるのだ!
 追いつめられるウルティメイトフォースゼロ。この戦いに、地上から入り込もうとする
人間がただ一人だけいた。

63ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/08(金) 05:12:00 ID:gEw1OzH.
「ウルティメイトフォースゼロが危ないわ! 援護するわよ!」
 ルイズだ。虎街道の入り口、戦場を一望できる崖の上で、杖を握り締めながら前に出ようと
するのを、彼女の護衛のギーシュたちが慌てて制止した。
「ルイズ! おい、馬鹿な真似はよせ! 無闇に身を乗り出そうなんて、いくら何でも
命知らずが過ぎる!」
「怪獣の速度を見ろ! 向こうがこっちに気づいたら、まず間違いなく死んだと悟る前に
消し飛ばされるぞ!」
 ロマリアは聖女となったルイズの護衛に聖堂騎士隊や民兵の連隊をつけたが、今はどちらも
敵怪獣の強力さにすっかりと怖じ気づいていた。オンディーヌも、ルイズがいなければずっと
身を潜めていたい気分である。
「何言ってるのよ! 隠れてるだけで戦いに勝てる!? ウルティメイトフォースゼロは
勇敢に戦ってるのに、このハルケギニアの貴族のあんたたちはコソコソしようっていうの!?」
 怒鳴り散らすルイズだが、ギーシュは反論。
「だからって、きみは無謀だよ! 呪文も唱えないでさ! 何だか昔のきみに戻ってしまった
みたいだよ。やはり、サイトを帰してしまって落ち着きをなくしてるんじゃないのかい?」
 その言葉にドキリとするルイズ。
「て、適当なことを言わないでちょうだい! わたしはただ、自分の後ろにいる人々を守りたいだけよ!」
 強がるルイズだが、実際は図星であった。才人がいない……彼の分まで戦わなくてはならない……
それを意識しすぎるあまり、つい功を焦ってしまうのだ。
 虚勢を張るルイズに参るギーシュたちは、ふと彼女に尋ねかけた。
「ところで、サイトの代わりになるとか言ってた男はどこに行ったんだい? いつの間にか、
姿が見えないけれど」
「ランなら……先に戦いに行ったわ」
「ええ!? まさか、あの激戦に生身で飛び込んでいったのかい!? 無茶な!」
 マリコルヌが叫んだその時、彼らの目の前を、崖の下から現れたウルトラマンゼロが猛然と
飛び上がっていった!
「シェアッ!」
「おおッ! ウルトラマンゼロだ!」
 ゼロの登場には、ギーシュたちも一瞬心が沸き上がった。
 ランから変身したゼロは全速力でミラーナイトたちを苦しめるゾイガーの群れに飛び込んで
いきながら、ルナミラクルゼロへと姿を変えた。
『この星にはこれ以上手出しはさせねぇ! ミラクルゼロスラッガー!』
 ゼロは数を増やしたスラッガーを飛ばし、ゾイガーを纏めて三体滅多切りにして爆散させた。
ゾイガーの超スピードをも超える早業であった。
「ピアァ――――ッ!」
『レボリウムスマッシュ!』
 ルナミラクルゼロの超能力でゾイガーと同等のスピードを出しながら、手の平から発する
衝撃で片っ端から弾き飛ばしていく。ゼロもまた才人の分まで戦おうとしているのだが、
ルイズとは違ってあくまで冷静に、それでいて闘志を燃やしていつも以上の力を発揮する
ことに成功していた。
『助かりました、ゼロ!』
『ここから盛り返すぞ!』
 ゼロの加勢によってウルティメイトフォースゼロが徐々に押していく。それに合わせて、
人間たちの心にも希望が灯っていく。
「おお、すごい! さすがゼロ!」
「この調子ならいけるわ! 生き残りは、わたしの“爆発”で纏めて地上に叩き落とせば……」
 意気込むルイズだったが……彼女たちは、すぐに思い知らされることとなる。
 あれほど手強かったゾイガーが、真の戦いの『前座』でしかなかったことを。
「プオオォォォォ――――――――!!」

64ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/08(金) 05:14:55 ID:gEw1OzH.
 怒濤の勢いを見せていたゼロだったが、突如谷底から長く巨大な触手が伸びてきて、彼を
はたき落としたのだ。
『うおぉッ!?』
「あぁッ!? ゼロがッ!」
「何事だ!? 触手!?」
 不意打ちを食らったゼロが谷底に落下。すぐに起き上がるものの、彼はそこで目の前に
現れた『もの』を目にして驚愕する。
『な、何だ! 闇!?』
 ゼロの眼前に、広大な谷を埋め尽くそうとしているかのように、『闇』としか言いようない
もやのようなものが立ち込めているのだ。いや……その『闇』は凝縮されていき、ゼロをも
超える巨体の怪物を形作っていく。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ルイズたちもその怪物の姿を目にして、一斉に絶句した。
「な、何だ、あの化け物の異常な姿は……! いくら何でもおかしいだろう……!」
「しかもでかい……! ゼロが子供みたいだ……!」
 ギーシュが『異常』と称したその怪物の姿は、巻貝かアンモナイトから怪物の首と四肢、
触手が生えているかのようなもの。しかもその眼は、下顎についている。まるで顔の上下が
逆になっているようだ。顔の上下が逆の生物が他にいるだろうか?
 それに全高が百五十メイル辺りもある。ゼロの倍以上だ! そして全身から発せられる
プレッシャーは、並みの怪獣の比ではない。距離の離れている聖堂騎士隊や民兵が、一目散に
逃げ出してしまったほどだ。
 ゼロはこの闇の怪物の名を、戦慄とともに口にした。
『邪神ガタノゾーア……! こんな奴までいやがったか……!』
 それは広い宇宙でも特に恐れられる名前の一つだ。かつてネオフロンティアスペースの
地球の超古代文明を滅ぼし、現行文明もまた滅ぼしかけたほどの大怪物である! その力は
計り知れないものに違いない。
『だがッ! 俺は負けねぇぜッ!』
 ゼロはストロングコロナゼロになって、超巨大なガタノゾーアにも恐れずに果敢に挑んでいく。
『おおおぉぉぉッ!』
「プオオォォォォ――――――――!!」
 一瞬で距離を詰めて、鉄の拳を真正面からぶち込む! ……が、ガタノゾーアは全くびくとも
しなかった。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアは少しの身動きもしないまま、全身からエネルギーをほとばしらせてゼロを
弾き返す。
『ぐあッ!?』
 吹っ飛ばされたゼロにガタノゾーアの触手が襲い掛かり、首に巻きついて締め上げる。
『ぐッ、ぐぅぅぅぅ……!』
 必死に触手に抗うゼロだが、ストロングコロナのパワーを以てしてもなかなか引き千切る
ことが出来ない。延々と苦しめられるゼロ。
『何て野郎だ……! ゼロを簡単にあしらってやがるッ!』
 おののくグレンファイヤー。しかし仲間たちはゾイガーに足止めされており、ゼロの救援に
向かうことが出来ないでいた。
『ぜあぁッ!』
 ようやく触手を千切って拘束から逃れたゼロ。だがこれはガタノゾーアに無数にある触手の
一本でしかないのだ。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアは触手の数を増やし、更に巨大なハサミつきの触手を伸ばしてゼロを追撃。
ハサミはゼロの上半身ほどもあるサイズだ。
『うおぉッ! ぐあぁぁッ!』
 大量の触手を叩きつけられて、さしものゼロもどんどんと追いつめられていく。カラー
タイマーも危険を報せ、このままでは極めてまずい。

65ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/08(金) 05:16:57 ID:gEw1OzH.
『ぐッ……はぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 全身からエネルギーを発して触手を吹き飛ばした一瞬の隙に、ゼロは決死の反撃に転ずる。
『ガルネイトバスタァァァ―――――ッ!』
 全力を込めた光線をガタノゾーアに叩き込む! 灼熱の光線はガタノゾーアの中央に炸裂し、
ガタノゾーアの動きが停止した。
「決まったッ!」
 ぐっと手を握り締めるルイズたち。――しかし、
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアが停止していたのはほんのわずかな時間だけであった! それ以外は、通用した
様子が見られない。
『なッ……!?』
 動揺するゼロ。その隙が命取りとなり、触手のハサミに両肩を掴まれて動きを封じられてしまった。
『しまったッ! うおおぉぉ……!』
 もがいて逃れようとするゼロだったが……既に遅かった。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアから暗黒の光線が照射され、ゼロのカラータイマーを貫いた!
『がッ……!?』
 ゼロの視界から色が消える。そして……カラータイマーが瞬く間に石化し、ゼロの全身も
完全に石化してしまった……!
「ぜ、ゼロッ!?」
『ゼロぉッ!』
『ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
 絶叫する仲間たち。しかし石化したゼロは物一つ言わず、ガタノゾーアの触手に突き
飛ばされて谷底に倒れる。
「ウルトラマンゼロが、負けた……」
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ゼロを石像に変えたガタノゾーアが、勝ち誇るように咆哮。ルイズはそれに、キッと怒りの
眼差しを向けた。
「よくもゼロを……! ありったけの“爆発”を食らわせてやるわ!!」
 激しい怒りを燃やすルイズ。しかし相手はゼロを一蹴するほどの規格外の化け物。“爆発”も
通用するかどうか。
 だがやらねばならない。ゼロの仇を取るのだ! とルイズは呪文を唱えるのだが……。
「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 突然新たな怪獣の鳴き声が、下から起こった。直後、ルイズたちの立っている崖に亀裂が走る。
「あ、危ないッ!」
「ルイズ、下がるんだッ!」
「放してッ! あいつをぶっ飛ばさなきゃ!」
「その前にきみが転落死するぞ!?」
 危険を察知したオンディーヌが慌てて、ルイズを抱えながら退避。それがぎりぎり間に合い、
崖の崩落から逃れることが出来た。
 しかし崩れた崖の中から、一体の新たな怪獣が出現したのだった!
「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 ガタノゾーアのしもべの怪獣ゴルザ! それもマグマのエネルギーを吸収することで肉体を
強化した個体だ! 戦いの騒乱に紛れて、地中を掘り進んできたのだ。
「わッ、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」
 一斉に悲鳴を発するオンディーヌ。何せ怪獣は目と鼻の先だ!
『彼らが危ないッ!』
 焦るミラーナイトたちだが、未だにゾイガーの群れに苦戦していて救援に回ることは
出来なかった。ルイズたちを助けられる者が、この場には誰もいない!

66ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/08(金) 05:19:29 ID:gEw1OzH.
「くぅッ……!」
 目の前にそびえ立つゴルザを憎々しげに見上げるルイズ。しかし山のような怪獣に対して、
彼女はあまりにちっぽけであった。

「ウアァッ!」
 キリエロイドを撃退してブリミルたちの村を救ったかに見えたティガ=才人だったが……
その後すぐに現れた新たな脅威に、まるで太刀打ちできずに叩きのめされていた。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 その相手とは、邪神ガタノゾーア! 六千年前にも現れていたのだ。そして今まさに才人を
追い詰め、殺そうとしている!
『つ、強すぎる……! こんな奴が現れるなんて……!』
 ガタノゾーアはティガのあらゆる攻撃を受けつけない。パワータイプとなって筋力を底上げし、
ハンドスラッシュやデラシウム光流など様々な光線を次々繰り出しているのだが、ガタノゾーアには
少しのダメージも与えられている様子がなかった。
「プオオォォォォ――――――――!!」
「ウワァァァッ!」
 ガタノゾーアの触手がティガを殴りつける。ティガはパワータイプになっても力負けし、
ねじり伏せられる。
『だ、駄目だ……! ブリミルさんたちを、守らなきゃなんないのに……!』
 もしブリミルが死んでしまったら、現代のルイズたちは全員タイムパラドックスで消滅して
しまうかもしれない。これまでの出逢いが、全てなくなってしまうのだ……。だがエネルギーは
もう残りわずか。ここからどうやったら逆転が出来るのだろうか。
 最早打つ手なし。才人は己の無力さを噛み締めるしかない。そう思われた時だった。
「負けるな、ウルトラマン!」
 誰もが絶望している中、それでも応援を続ける者が一人。そう、ブリミルである。
「ぼくはそれでも、きみたちが見せてくれる光を信じる! ぼくに何が出来るか分からない
けれど……ぼくも戦うよ! きみたちの、力となるッ!」
 懸命な思いをとともに、ブリミルは杖を掲げる。そして才人にとっては聞き慣れた、“爆発”の
呪文を唱え始めた。当たり前と言えば当たり前だが、ルイズのものと同一だ。
 しかしその杖先に灯った光は、“爆発”の輝きとは異なるものだと才人には分かった。
『あれは……?』
「こ、この輝きは……? いつもの光り方じゃない……」
「ブリミル、どういうこと?」
 呪文を唱えたブリミル本人も何事か分かっていないようだ。問いかけたサーシャが、
あることに気づく。
「ブリミル、杖だけじゃなくあなた自身も光ってるわ!」
「えッ!? うわッ、本当だ!」
 ブリミルの身体全体がほのかに光り、その光が杖に集まっていく。杖に灯る輝きはまばゆい
ほどになり、サーシャたちは思わず顔をそらした。
「おぉッ!?」
 最高潮に高まった光が勢いよく飛び、ティガのカラータイマーに入り込んでいった。その瞬間、
色が青に戻る。
 それだけではない。ティガの肉体にも大きな変化が発生し、黄金色の光に包まれていく!
『こ、この光は!? 身体中に……力がみなぎってくる!!』
 思わず興奮する才人。ルイズの虚無魔法で何故か力が回復することは何度かあったが、
今のこれはその比ではない。限界以上に力が湧き上がってくるのだ!
「ハァッ!」
 立ち上がったティガの身体が、そのままぐんぐんと巨大化。自分と同等の体躯になっていく
ティガに、ガタノゾーアが初めて狼狽えたように見えた。
 ウルトラマンティガは、黄金の光に覆われた最強の形態……グリッターティガとなったのである!

67ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/08(金) 05:21:55 ID:gEw1OzH.
ここまでです。
ウルトラお家芸、石化。

68ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 11:43:48 ID:EofJgLJk
ウルゼロの人、乙です。
ブロンズ像、石化、黄金像、宝石化。ウルトラ戦士はだいたい一度は固まらさせられますね。

こんにちは。こちらもウルトラ5番目の使い魔、64話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。今回はちょっと長めです。

69ウルトラ5番目の使い魔 64話 (1/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 11:45:10 ID:EofJgLJk
 第64話
 湖の舞姫
 
 用心棒怪獣 ブラックキング 登場!
 
 
 ハルケギニアに平穏な時が流れるようになってから、しばらくの時が過ぎた。
 その間、魔法学院やトリスタニアで少々の事件はあったが、世間はおおむね安定を保っていた。
 しかし、平穏とはなにもないことを意味するわけではない。平和な中でこそ行われる熾烈な戦いはいくらでもある。
 地球で例えるなら、受験戦争、会社内での成績争い。いずれも、他者を押しのけて自己の利益をはかる生々しい争いだ。
 だからどうした? そう思われるかもしれない。しかし過去のウルトラの歴史において、たったひとりの負の情念から凶悪な怪獣が出現した例は数知れないのだ。
『ほかの知的生命体では、なかなかこうはいきません。人間という生き物は、ある意味宇宙でもっとも有用な資源ですね』
 この世界のどこかで、ある宇宙人がこう言った。
 そして、ハルケギニアは貴族社会。当然、それにはそれにふさわしい戦いの場が存在する。
 
 
 ある夜、場所はトリステインの名所であるラグドリアン湖の湖畔。
 広大な湖畔の一角には貴族の別荘地が並び、そこではある貴族の別荘の広大な庭園を会場にして、トリステインが主催の園遊会が開かれていた。
「諸国の皆さん、本日は我が国の園遊会にお越しいただきありがとうございます。ささやかですが宴の席を用意しました。今宵は堅苦しいしがらみを抜きにして、隣の国に住む友人として語り合いましょう」
 トリステインを代表して、アンリエッタ女王(本物)が貴賓にあいさつをした。それに応えて、集まった数百の貴族たちからいっせいに乾杯の声が流れる。そして彼らは、解散を伝えられると会場のあちこちに散って、思い思いに食事や談笑を楽しみ始めた。
 もちろん、これはただのパーティなどではない。トリステイン貴族の他にも、ここにはゲルマニアやアルビオンの貴族が何十人も招待され、彼らは楽しげな会話の中で、様々な取引や情報交換、場合によっては縁談の相談などを行っている。
 貴族とは権力で成り立っている存在ゆえに、その勢力の維持には他の勢力の取り込みや連帯は欠かせず、特に外国の貴族とのつながりは大きな力となる。逆に言えば、貴族の世界で孤立することは身の破滅を意味することに直結するため、園遊会は貴族たちにとって、自らの繁栄や安全を支えるための重要な行事なのである。
「園遊会の一席で、戦争が起きもすれば止まりもいたします」
 マザリーニ枢機卿は、アンリエッタへの教育の一環としてこう語った。
 さらに貴族の繁栄は、その貴族の国の繁栄にもつながる。アンリエッタもそのために、数々の貴族とのあいだを行き来して話を続けている。アンリエッタは幼いころに参加させられた園遊会で、子供心には退屈のあまりに抜け出して、少年時代のウェールズと出会って恋に落ちた。今回、この場にウェールズの姿はないが、アンリエッタも今では自分の立場の義務と責任を理解できない子供ではない。

70ウルトラ5番目の使い魔 64話 (2/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 11:51:41 ID:EofJgLJk
 様々な政治的思惑が交差し、場合によっては歴史を動かしかねない交渉がなされていく。平民には想像もできない高度で深淵な駆け引きの場がここにあり、よくも悪くもハルケギニアの社会には欠かせない存在としてあり続けてきた。
 
 そして、そんな賑やかなパーティ会場の一角に、ギーシュとモンモランシーが席を並べていた。
「ああ、我らの女王陛下。今日もなんて美しいんだ! まるで夜空に咲いた一輪の百合。この大空に輝く二つの月さえも、陛下の前ではかすんで見えるでしょう」
「ふーん、つまりわたしより女王陛下のほうがいいって言うのね? わたしが一番だって言ってくれた、あの日の言葉は嘘だったのねえギーシュ?」
「あ、いやそんなことはないよモンモランシー! これは、トリステイン貴族としてのぼくの忠誠心から来てるものであって」
「嘘おっしゃい! あんたの視線、陛下のどこを見てたかわたしが気づいてないとでも思うの? ほんとに、ギーシュの言葉はアルビオンの風石より軽いんだから」
 高貴な園遊会にふさわしくない低レベルな喧嘩をしている、きざったらしい一応二枚目と、金髪ツインテールドリルの少女。その場違いな様に、近くを通りかかった貴族の何人かは首をかしげて通り過ぎていった。
 しかし、なぜこの場にまだ学生である二人がいるのだろうか? もちろん二人とも遊びで参加しているわけではない。まだ学生の身とはいえ、二人とも名のある貴族の一員である。この場にいるという意味はじゅうぶんに理解していた。
 もっとも、まだこういう場での立ち振る舞いがわかってないあたり、二人が無理に参加させられているのは周りから見れば容易に察せられた。
「機嫌を直しておくれよモンモランシー。女王陛下は例外さ、むしろ女王陛下と比べることのできるモンモランシーこそすばらしいんじゃないか。ごらんよ、女王陛下の威光はいまやハルケギニア中に知れ渡り、なんとも壮観な眺めだと思わないかい? アルビオンをはじめとする世界中の名士が幾十人も顔を揃えているよ。これに参加できるなんて、ぼくらはなんて幸せなんだ。そう思わないかい?」
「はいはい、はしゃぎすぎてトリステインの田舎者だって思われないようにしてよね。うちの父上は、この園遊会でモンモランシ家の名誉回復しなきゃいけないって張り切ってるんだから、あんたのせいで失敗したなんてことになったら、わたしは実家に二度と帰れなくなっちゃうわ」
 はしゃぐギーシュにモンモランシーが釘を刺した。二人とも、今日は魔法学院の制服ではなく貴族の子弟としてふさわしいきらびやかな衣装に身を包んでいた。ギーシュのタキシードの胸と背中には、グラモン家の家紋である薔薇と豹が刺繍されており、モンモランシーのドレスにも同様に家紋が編み込まれている。ギーシュのグラモン家やモンモランシーのモンモランシ家にとっても今日のことは重要で、ふたりともそれぞれの一族の一員として学院を欠席してでも呼び寄せられていたのだ。
 とはいえ、普段は二人とも園遊会に参加することなど、まずない。そもそも園遊会に参加したがる貴族は膨大な数に上るため、国内から参加する家は一部を除いてくじ引きで決めることになっている。今回は幸運にも、グラモンとモンモランシ家が名誉なその資格を勝ち得たのだった。
 それゆえに園遊会に参加し、どこかしらの有力貴族とコネを作れれば自分の家にとっての助けになると、ふたりとも大きな意気込みを持ってここにやってきた。特にこのふたりの実家は、かなりのっぴきならない状況を抱えている。
「確かモンモランシ家は、水の精霊の怒りに触れてしまって水の精霊との交渉役を下ろされてしまったんだっけ? そのせいで収入も激減して、なんとか新しい稼ぎ口を見つけなきゃいけない君のお父上も大変だね」
「はいはい、あなたのところだって、お父上やお兄様方の女好きが行き過ぎて、貢いだお金が青天井なんでしょう? 出征の出費の数倍は出してるって、もっぱらの噂よ」
「うぐっ! じ、女性に最大限の敬意を払うのはグラモン家の伝統だから仕方ないんだよ。あっ、心配しないでくれよモンモランシー。僕はいつまでも、君だけの、君だけを愛し続けるからね!」
「はいはいはい。あーあ、こうなったらグラモン家の伝統を見習って、わたしも外国のかっこいい殿方を探そうかしら?」
「そ、そりゃないよモンモランシー」
 情けない声を漏らすギーシュを、モンモランシーは白けた眼差しで見下ろしている。ギーシュの手に持った薔薇の杖も、持ち主の心情を反映したのか心持ちしおれて見えるが、自業自得であろう。

71ウルトラ5番目の使い魔 64話 (3/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 11:55:16 ID:EofJgLJk
 モンモランシーはギーシュから視線を外すと、会場に並べられたテーブルに並べられている豪勢な料理を皿に取り、不機嫌そうにしながらも舌つづみを打った。アンリエッタ女王の園遊会の予算削減方針で、前王のころに比べれば半分以下の規模になっているが、それでも山海の珍味を集めた料理の数々はたまらなく美味だった。
 没落した貧乏貴族のモンモランシーは、普段こんな豪勢な料理を口にすることはない。魔法学院の料理も平民から見れば豪勢だが、この園遊会の料理に比べれば地味と言ってよかった。貴族と一口に言っても、きっちり勝ち組と負け組はあるのである。
「いっそ本当にギーシュなんか捨てて、ここで新しい彼を探そうかしら」
 ため息をつきながらモンモランシーはそう思うのだった。
 最近のギーシュのおこないは目に余る。このあいだのアラヨット山の遠足のときには、同じ班になったティファニアに終始くっつきっぱなしで自分のところには一度も来なかった。あの後、少々体に教え込ませたが、まだ怒りが収まったわけではないのだった。
 この園遊会での立ち振る舞いひとつで、貧乏貴族が大貴族になることもありうる。もしモンモランシーがどこかの大貴族の殿方のハートを射止めれば、モンモランシ家にはバラ色の将来が約束されるだろう。
 でも、ギーシュが冷たくされたときに見せる情けない顔を見ると、許してやろうかという気がどこからか湧いてくるのである。まったく、難儀な男を好きになってしまったものだとつくづく思う。
「ふ、ふん! だったらぼくも、このパーティで外国の姫を射止めてやろうじゃないか。後から後悔しても遅いよ、モンモランシー」
「好きにすれば?」
 モンモランシーは軽く突き放した。学院の女生徒ならともかく、それこそ誘いは星の数ほどもあるであろう外国の淑女がギーシュごときの安っぽい台詞にひっかかるとは思えなかったのだ。ただ、それ自体は自分にとって腹立たしいものではあったが。
 ギーシュとモンモランシーは、その後もパーティの貴族たちからは一線を引いた距離で、いつも学院でしているような会話を続けた。
 どのみち暇は有り余っている。二人とも、それぞれの実家から、やっと掴んだ園遊会の出席権に加えてやるから来いと言われて張り切ってここまでやってきたが、ふたりの実家からの期待はすぐにしぼんでしまった。
 それはギーシュとモンモランシーの関係をそれぞれの実家が知ったゆえで、モンモランシ家のほうは娘が武門の名家であるグラモン家の息子と懇意であるなら願ってもなしと言い、グラモン家のほうは五男坊のギーシュがそこそこの相手を見つけたのなら特に咎める気はない、とあっさり認めて、無理に売り込みをしなくてもよいぞと解放されてしまったのだ。
 これではふたりの、特にモンモランシーのやる気の減退は著しかった。もっとも、実はふたりの実家がふたりを呼んだ主な目的は、今回の園遊会で有力貴族たちに、「うちの子をどうかよろしくお願いします」という顔見せであったために、最初にそれがすめばほかの活躍を期待などはされていなかった。ふたりが先走っただけである。
 ただ、いざ誰かに話しかけようかと思っても、会場にはギーシュとモンモランシーの他には同年代はほとんど見えず、話が合いそうな相手が見つからないのが現実ではあった。
「園遊会でポーションの話題を出してもしょうがないものね。わたしの手作りの香水じゃ、本場の高級品に勝てるわけがないし。あーあ、こういうときキュルケだったらファッションの話題とかから切り出してうまくやるんでしょうけど、正直甘く見てたわ」
 モンモランシーは、園遊会という大人の世界に足を踏み入れるのに、自分がどれだけ未熟だったかを参加してつくづく思い知らされていた。

72ウルトラ5番目の使い魔 64話 (4/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 11:57:14 ID:EofJgLJk
 対してギーシュはといえば、ときおり通りかかる女性にダンスを申し込んだりしていたが、例外なくけんもほろろに断られている。いつもだったら怒るところだが、こうも見え透いて失敗していると哀れにさえ見えてくる。
 
 賑やかな園遊会の蚊帳の外に置かれ、すっかり腐っているモンモランシーとギーシュ。
 しかし、ふたりは幸運であったのかもしれない。なぜなら、華やかに見える園遊会の裏では、どす黒い思念が渦巻いていたからだ。
「この、伝統も格式もない成り上がりめが。貴様など、一スゥ残らず搾り取って、いずれ乞食に叩き落してくれるわ」
「貴様が余計な横やりを入れたおかげでうちの息子の縁談が破談になった。必ず生かしてはおかんからな」
 言葉にはならない貴族同士の敵意や殺意のぶつかり合いが笑顔の裏で繰り広げられていた。
 園遊会では、時に莫大な金や権力の移動が起こる。そこでは当然、勝者と敗者の間での憎悪の応酬も日常茶飯事なのだ。それは会場の中に限った話ではなく、園遊会に参加できなかった貴族も合わせると、その恨みの量は果てしなく膨れ上がる。自分を差し置いて園遊会に参加したあいつめ、という逆恨みもまた深い。
 ギーシュやモンモランシーの親が、園遊会にふたりを本格的に参加させなかった理由のひとつがここにある。ふたりとも、貴族の一員として園遊会で『そういうことがある』のは知識として知ってはいても、生で体験したことはない。学院では、ギーシュをはじめ貧乏貴族たちがベアトリスに媚びを売っているが、そんな生易しいものではない弱肉強食の世界が園遊会の真実なのである。
 いまだ少年のギーシュと少女のモンモランシーは、園遊会のほんの入り口に触れたにすぎない。そのことに気づくには、まだ数年必要であろう。
 
 そして、この渦巻く『妬み』の波動に目をつける者がいても、それは何の不思議もなかった。
 夜空から、赤い月を背にして地上を見下ろす赤い怪人。そいつは腕組みをして、地上の貴族たちの駆け引きを眺めながらつぶやいた。
「ウフフ、これはまたすごい『妬み』の力ですねえ。これに関しては、私が小細工をしなくても入れ食い状態ですよ。でもそれだけじゃつまらないですし……フフ、せっかくだからもう少し見物してからにしますか」
 趣味悪く人間たちを見下ろし、なにかを企む宇宙人。人間たちはまだ誰も、空にたたずむ悪魔の姿には気づいていない。
 
 パーティ会場で続く、園遊会という名の戦争。それは貴族社会の繁栄と新陳代謝のためには必要ではあるとはいえ、その二面性の強さは幼き日のアンリエッタやウェールズが飽き飽きしたのも当然だと言えた。
 しかし、そんな泥沼の中にあっても、美しい花が咲くことはあった。
「ルビティア侯爵家ご息女、ルビアナ・メル・フォン・ルビティア姫様。ご入場あそばせます!」
 進行役の声が高らかに響き、会場に新しい参加者がやってきた。
 その声に、入り口を振り返った貴族たちは、いっせいに天使が降臨したのを見たかのような感嘆のうめきを漏らした。数名の護衛と使用人を従えて入場してきたのは、淡いブロンドの髪を肩越しになびかせながら、輝くようなシルクのドレスをまとった麗しき令嬢であったのだ。
「おお……なんと」
「美しい……」
 貴族たちは、一瞬前まで笑顔背剣の争いをしていたことを忘れ、その令嬢の容姿に見惚れてしまった。

73ウルトラ5番目の使い魔 64話 (5/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:03:03 ID:EofJgLJk
 年のころはアンリエッタよりもやや上で、大人びた雰囲気ながらも口元は微笑を浮かべているように優しく、かつモンモランシーと似たサイドテールで髪をまとめている姿は活発さも感じられた。それでいてドレスから覗く手足はすらりと細く、しみ一つない肌は最高級の磁器にも例えられよう。そして、一歩一歩静々と歩く様は、まるで天使が雲上を歩んでいる姿をも思わせ、なによりもその美貌は、アンリエッタに勝るとも劣らない。
 ルビアナと呼ばれたその令嬢は、例えるならば最上級の人形師が作り上げたドールが生を得たかのような美しさで、一瞬にして会場の貴族たちの目をくぎ付けにしてしまい、粛々と歩むルビアナの姿を貴族たちは惚けながら見送っていく。そしてギーシュとモンモランシーも、初めて見るその美しい姿に感動を覚えていた。
「なんて綺麗な人、いったいどこのお姫様かしら」
「ルビティア侯爵家、ゲルマニアでも五本の指に入る大貴族さ。先代がルビーの鉱山の発見で財を成した一族で、ルビティアの性もその功績で賜ったそうだよ。なにより、侯爵の一人娘は並ぶ者がいないという絶世の美女だと聞いていたけど……ああ、想像以上のお美しさだ。まるでルビーの妖精、いや女神だよ」
 ギーシュの例え通り、ルビアナのドレスには無数のルビーがあしらわれており、シルクのドレスの純白とルビーの真紅とで芸術的なコンストラクトを描いていた。
 もっともモンモランシーにとってはギーシュのそんなうんちくも、美人の情報にだけは詳しいのね、と嫉妬の火種になってしまうだけで、ブーツの上からヒールを突き立てられるはめになっていた。
 
 やがてルビアナ嬢はアンリエッタの前に立つと、上品な礼をした後にあいさつを交わした。
「はじめまして、アンリエッタ女王陛下。お招きいただき、ありがとうございます。到着が遅れてしまったことを、心からお詫び申し上げます」
「いいえ、遠路はるばる我がトリステインによくぞおいでくださいました。心より歓迎の意を申し上げます。はじめまして、ミス・ルビアナ。本日はささやかながら、トリステインの園遊会を楽しんでいかれてくださいませ」
 アンリエッタとルビアナは優雅な会釈をかわしあった。それはまるで、二輪の百合が並んで咲いたかのような輝きを放ち、ささくれだった貴族たちの心を一時なれども癒していった。
 だがそれとして、貴族たちは、まさかルビティア家が参加してくるとはと驚きを隠せないでいる。伝統こそないが、ルビティアはルビーの専有により宝石市場に大きな影響力を持つため、貴族と宝石、魔法と宝石は切っても切れない関係な以上、その発言力は単なる貴族の枠では収まり切れないものを持つ。トリステインで釣り合う力を持つ貴族は、恐らくヴァリエール家のみだろう。
 さらにそれにもましてルビアナ嬢が参られるとは驚きだ。絶世の美貌を持つ才女だという噂だけは皆耳にしていたが、侯爵の秘蔵っ子なのか表舞台に姿を見せることはほとんどなかった。それを、いくらゲルマニアと同盟関係にあるとはいえ、小国トリステインが招待に成功するとは信じられない。
 すると、ルビアナは集まった貴族たちに会釈をすると、鈴の音のような声で話し始めた。
「ここにお集まりの、隣国トリステインの皆さん。そして我が同胞ゲルマニアや、アルビオン、ガリアの皆さま、お初にお目にかかります。わたくしはルビアナ・メル・フォン・ルビティア、以後お見知りおきをお願いします。わたくし、非才の身なれど、祖国のために見識を積み、ひいてはハルケギニア全体の繁栄の役に立てるよう、ここに遣わされてまいりました。どうか皆さま、この若輩の身を哀れと思い、よき友人となってくれることをお願いいたします」
 会場からいっせいに拍手があがった。さらにルビアナはアンリエッタと並んで手を取り合い、両者のあいだに友情が生まれたことをアピールする。それは外交辞令のパフォーマンスだとしても、非のつけようもないくらい美しい流れであった。
 しかし現実的な問題としては、ルビティアがトリステインを足掛かりにして国外進出を狙っているということを明らかにしたわけだ。アンリエッタ女王はそれを狙ってルビティアを招待したのか? それともルビティアがアンリエッタに売り込んだのか? いずれにしても当然、貴族たちは奮起する。もしルビティア家とコネを作れれば、それはこの上ない力となるだろう。

74ウルトラ5番目の使い魔 64話 (6/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:04:39 ID:EofJgLJk
 アンリエッタは一歩下がると、ルビアナに微笑みかけた。
「さあ、堅苦しいあいさつはここまでにして、パーティを楽しんでいらしてください」
「ありがとうございます。では、どなたかわたくしとダンスをごいっしょしてくださいませんか?」
 手を差し出したルビアナに、貴族たちはいっせいに前に並んで「我こそは」と競い合った。もちろん、ここでパートナーに選ばれればメビティアとのコネを作る絶好の機会だからだ。
 もろちんグラモン家も例外ではない。ギーシュの兄たちもいっせいに駆け出し、ギーシュも兄たちに遅れてはなるまいと兄たちに並んでいく。
 モンモランシーは、そんなギーシュの後姿を気が抜けた様子で見送っていた。
「ほんとにバカなんだから……」
 止める気はない。グラモン家の一員として、ここで動かなかったら後で父や兄たちに叱られるであろうことはモンモランシーもわかっていた。
 しかし、きれいな女性に向かって一目散に駆けていくギーシュの姿を見て、腹立たしいものが胸に渦巻く。後で自分を称える歌の十個でも作らないと許してあげないんだから、とモンモランシーは心に決めた。
 そしてあっという間に、ルビアナの前には若い貴族たちの壁が出来上がった。グラモン家をはじめ、あちこちの貴族の子弟たちが、まさに貴公子といった精悍な姿で「私がお相手をつとめましょう」と、ひざまずきながら姫に手を差し出しているのだ。
 ギーシュも、四人の兄たちの端に並んでポーズをとっていた。そのポーズの形は、さすが学院で女生徒をデートに誘うのが日課なだけはあって形は様になっているといってもいい。しかしギーシュは、内心では横目で兄たちを見ながらあきらめていた。
「さすが兄さんたち、かっこいいなあ。悔しいけど、ぼくじゃとてもかなわないよ」
 いくらギーシュが自惚れの強いナルシストといっても、尊敬する兄たちの前ではなりを潜めざるを得なかった。いまだ学生の身分の自分と違って、すでに成人した兄たちは武門の名門の一員としてそれぞれ武勲を立て、園遊会に出た回数も多い。当然立ち振る舞いも自分とは格が違い、家族だからこそよくわかっていた。
 それだけではなく、この園遊会には数多くの貴族が参加しており、グラモンはその中のほんの一部に過ぎない。格式や伝統、資産でグラモン以上はいくらでもおり、さらに見た目美しい美男子も多い。ギーシュを彼の友たちは馬鹿とよく呼ぶが、このような状況を理解できないような愚か者ではなかった。
 万が一グラモンに目をつけてもらえたとして、選ばれるのは恐らく長男か次男。末っ子の自分など目にも入れてもらえまい。顔を伏せながらギーシュは、そう思っていた。
 しかし……
「いっしょに踊っていただけますか、ジェントルマン」
 声をかけられ、手を握られて顔を上げたとき、ギーシュは信じられなかった。そこには、自分の手を取って優しく見下ろしてくるルビアナの顔があったからだ。
 え? まさか、とギーシュの脳はフリーズした。思わず隣にいる兄たちの様子を見てみると、全員が一様に驚きを隠せない様子でいる。ほかの貴族たちも同様で、ギーシュはようやく自分になにが起こったのかを理解した。
「ぼ、ぼくをパートナーに選んでくださったのですか?」
「はい。わたくしと一曲、お相手してくださいませ」
 動揺を隠せずに、震えながら尋ねたギーシュに、ルビアナは笑みを崩さずに答えた。

75ウルトラ5番目の使い魔 64話 (7/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:05:12 ID:EofJgLJk
 ギーシュの頭が真っ白になる。想像を超えたことが起こったからだけではなく、アンリエッタにも劣らないほどの美貌の令嬢が自分を誘ってくれている。しかも、アンリエッタがまだ”少女”の域にとどまっているのに対して、ルビアナは少女から一歩踏み出した成熟した”女”の美しさを発し、かといって熟れ過ぎた老いの兆候はまったくなく、新鮮な輝きを保っている。まさに、美女という表現の完成形であり、見とれることが罪とはならぬ天女だったからだ。
『こんなバカなことがあるはずがない。これは夢だ!』
 あまりの出来事に、ギーシュは己の意識を失神という避難所に逃れさせようと試みた。しかし、隣の兄から「ギーシュ!」と、叱責の声が響くと我に返り、グラモン家のプライドを振り絞ってルビアナの手を握り返した。
「ぼくでよろしければお相手を承りましょう。レディ、あなたのパートナーを喜んでつとめさせていただきます」
「ありがとうございます。ジェントルマン、あなたのお名前をうかがってもよろしいですか?」
「ギーシュ・ド・グラモン。レディ・ルビアナ、あなたのご尊名に比べれば下賤な名ですが、その唇でギーシュとお呼びいただければ、この世に生を受けて以来の名誉と心得ます」
「はい、ではミスタ・ギーシュ。あなたに最高の名誉を与えます。その代償に、わたくしに至福の一時を与えてくださいませ」
「全身全霊を持って、お受けいたしましょう」
 覚悟を決めると、ギーシュは己の中に流れるグラモンの血を最大に湧きあがらせてルビアナに答えた。父や兄から教わった女性に尽くすスキルをフルに使い、リードしようと全力で試みる。
 その様子を、ほかの貴族たちは呆然と見ているしかなかった。一流の貴族から見ればギーシュの振る舞いは未熟で、なぜあんな小僧がという腹立たしい思いが湧いてくるが、まさか邪魔をするわけにはいかない。モンモランシーは理解が追いつかず、ただ立ち尽くして見ているだけだ。
 そして、ふたりはパーティ会場の真ん中に出ると、優雅に会釈しあって手を結んだ。それを合図に、楽団からミュージックが流れ始める。
「交響曲・水と風の妖精の調べ……レディ・ゴー」
 涼やかな音楽が始まり、ギーシュとルビアナは手を取り合ってステップを踏み始めた。貴族にとって社交ダンスは基本のたしなみだけに、ギーシュも危なげなく踊りを披露する。
 対してルビアナはギーシュに合わせるようにして、ふたりのタップのリズムはほぼ重なって聞こえた。不協和音はなく、ギーシュとルビアナは鏡写しのように美しいシンメトリーを飾り、その心地よさにギーシュはしだいに緊張をほぐれさせていった。
「ミス・ルビアナ、ぼくはまるで白鳥と踊っているように思えますよ」
「うふふ、嬉しいですわ。さあ、ミスタ・ギーシュ、音楽はまだ始まったばかりです。もっと楽しみましょう」
 音楽は序曲から第一楽章へと移り、緩やかな動きからタンタンと軽快なリズムに変化し、少しずつ動きが速くなっていく。
 月光をスポットライトに、優雅に、時に素早く舞うギーシュとルビアナ。
 楽しくなってきたギーシュは、いつもモンモランシーなどにしているように、乏しいボキャブラリーを駆使してルビアナをほめちぎり始めた。
「おお、あなたはなんと美しいんでしょう。世界中のオペラを探しても、あなたほどの人はいない。あなたの髪はキラキラ輝き、まるで海のよう。瞳は……」
 そこで、瞳の色を褒めようとしたギーシュは口を止めざるを得なかった。ルビアナの瞳はほとんど閉じられたままで、瞳の色はわからない。するとルビアナはそれに気づいたようで、困ったようにギーシュに言った。
「すみません、わたくしは目があまりよろしくないもので。薄目でい続けなければいけないことを、お許しください」
「そ、それは大変失礼いたしました! ぼくとしたことが、とんでもないご無礼を」
「いいえ、いいのです。それより、もっと楽しく踊りましょう」
 気分を害した様子もないルビアナに、ギーシュはほっとした。しかし、瞳が見えないとしても、目を閉じたまま踊り続けるルビアナのなんと美しいことか。

76ウルトラ5番目の使い魔 64話 (8/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:07:25 ID:EofJgLJk
 ターン、タップ。音楽に合わせて動きも複雑さを増していく。ここからがダンスの本番だ。
 だがギーシュはダンスが複雑さを増すにつれ、ルビアナの信じられない技量を目の当たりにすることになった。ギーシュもガールフレンドをダンスに誘うことは何度もあったが、ルビアナのそれは身のこなし、正確さともに次元が違っていたのだ。
”この人、とんでもなく上手い!”
 心の中でギーシュは驚嘆した。高度なダブルターンを、ルビアナは表情を一切崩すことなく完成させてしまった。その動きの完璧さは、実家で見たダンスの先生のそれを軽く上回っている。
 例えるならば、花の上で舞う蝶の妖精。そう錯覚してもおかしくないだろう。
 このままだと自分だけ置いていかれてしまう! ギーシュは焦った。全力でリードするつもりが、このままだとルビアナの独り舞台になってしまう。
 しかし、ギーシュが焦ったのは一瞬だけだった。ルビアナに置いていかれるかと思ったギーシュの動きが、ルビアナに合わせたように精密さを増し始めたからだ。
「ギーシュのやつ、いつのまにあんなにダンスが上達していたんだ?」
 見守っていたギーシュの兄たちが、自分たちの知るギーシュよりずっと卓越した動きを見せるギーシュに驚いて言った。モンモランシーも、以前に自分と踊った時よりはるかにレベルが上の動きを見せるギーシュに驚いている。
 いや、一番驚いているのはギーシュ本人だ。自分にできる動きを超えているどころか、知らないはずの動きさえできる。これは、まさか。
「ミス・ルビアナ、あなたがぼくのリードを?」
「はい、失敬かと思いましたが、ミスタ・ギーシュならばわたくしに付いていただけると思いまして。わたくしは少しだけミスタ・ギーシュのお手伝いをしただけ、これは貴方が本来持っている力ですわ」
 優しく微笑みかけてくるルビアナに、まいったな、とギーシュは心の中で完敗を認めた。
 ダンスを通して、相手の技量をも実力以上に引き出す。操り人形にされている感じは一切なく、それどころか体が動きを元々知っていたかのように自然と動き出している。殿方を立てることも忘れない、この人は紛れもなく天才だ。
「さあ、ギーシュ様ももっと軽やかに。曲はまだまだ続きますわ。もっとわたくしを見て、そしていっしょに楽しみましょう」
「ええ、一時から無限までのすべての時間を、共に楽しみましょうミス・ルビアナ」
「ルビアナとお呼びください。さあ、無限のような一瞬の時間を共に」
 ギーシュとルビアナは踊り続けた。ふたりが舞う、その美しさは貴族たちの心に永遠に刻まれ、アンリエッタも心から見惚れた。
 だが、それ以上にギーシュは楽しかった。こんな楽しいダンスを踊ったことはない。ルビアナは誰よりも優しく、美しく、ギーシュの目はルビアナの虜になり、ギーシュの体は疲れを忘れて動き続けた。
 
 けれど、永遠は一瞬にして終わる。楽団の演奏が終わり、ふたりの動きが同時に止まる。
 それはめくるめく夢の終焉。ふたりに対して、会場から惜しみのない拍手が送られた。
「ブラボー!」
「グラモンの末っ子、まだ学生だというのにやるではないか」
 非の付け所のないパーフェクトなダンスに、数多くの賞賛がギーシュに与えられた。ギーシュの父や兄たちも、誇らしげに拍手を続けている。

77ウルトラ5番目の使い魔 64話 (9/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:08:19 ID:EofJgLJk
 しかしギーシュの耳には、会場の賞賛はほとんど届いていなかった。彼の意識のすべては、いまだずれることなくルビアナに向かい続けていたのだ。
「ルビアナ……最高でした。ぼくは、こんな楽しいダンスをこれまで経験したことがなかった。一生、いえ来世まで決して今日のことを忘れることはないでしょう!」
「ありがとう、ギーシュ様。わたくしも、心から楽しいひと時を味わわせていただきました。あなたにパートナーになっていただいたことは、間違いではありませんでした」
 それはギーシュにとって最高の賛辞であった。この世にふたりといないほどの完璧な女性に認めてもらえたことは、グラモン家の人間としてこれほど誇らしいものはない。
 しかしギーシュの夢見心地はすぐに終わらされた。ダンスが終わると、ルビアナには「次はぜひ私と踊ってください」と、貴公子たちが押し掛けてきたのである。ギーシュはたちまち押し出され、現実を意識させられた。
「そ、そうだよね。園遊会じゃ、これが当然さ……」
 少しでも多くの貴族とつながりを作るため、有力な貴族は次々にパートナーを変えることが常識だ。
 しょせん、自分は偶然選ばれたそのひとりに過ぎない。ギーシュはすごすごと引き下がろうとし、そんなギーシュをモンモランシーはやきもちという名の歓迎で慰めようとやってきた。だが、ギーシュが踵を返そうとした、そのとき……
「お待ちになって、ギーシュ様」
 ぎゅっと手を握りしめられ、振り返ったギーシュは自分の目を疑った。ルビアナが、自分の手を握って引き留めてくれているではないか。
「まだ、わたくしたちのダンスは終わっていませんわ。アンコール、よろしいかしら?」
「ル、ルビアナ……」
「うふふ。さあ参りましょう!」
 ルビアナはそのままギーシュの手を引いて駆けだした。ギーシュは訳も分からず、「えええっ!?」と、間抜けな声と顔をしながら引かれていく。
 当然、貴族たちは愕然とする。そして、ギーシュの兄たちをはじめとする何人かは後を追って走り出そうとしたが、その背に鋭い叱責が投げかけられた。
「お待ちなさい!」
「じ、女王陛下!? しかし」
「無粋な殿方を好く女性は、この世に一人もおりませんわよ。それにわたくしは、ミス・ルビアナに楽しんでいってくださいと言いました。せっかくのところに水を差して、わたくしに恥をかかせるつもりですか?」
 アンリエッタは、自分にも覚えがあることだけに、ふたりを引き止めることを許さなかった。まさかこうなるとは予想外だったが、乙女心がどういうものなのかは自分が一番よく知っている。
 がんばってくださいね、とアンリエッタは心の中でエールを送った。この園遊会で、少しでも多くのトリステイン貴族がルビティア家と交友を持ってくれることを期待していたけれども仕方ない。マザリーニ枢機卿は怒るだろうけれど、国家の繁栄とロマンス、どちらが重大であるかなんてわかりきったことなのだから。
 女王にそこまで言われては、貴族たちも引き下がるしかなく、悔し気にしながらも足を止めてふたりを見送った。ただ一人を例外として。
 
 ルビアナは、ギーシュの手を引いたままパーティ会場を抜け、邸宅の敷地も抜け、そのままの足でラグドリアン湖の湖畔へとやってきた。

78ウルトラ5番目の使い魔 64話 (10/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:14:53 ID:EofJgLJk
「ふう、ここまで来ればいいでしょう。わぁ、これがラグドリアン湖……なんて大きくて、そして心地よい風が吹く場所なんでしょう!」
 湖畔の砂利をシューズで踏みながら、子供のようにルビアナははしゃいでいた。そんなルビアナの姿は、月光を反射するラグドリアンに照らされて、まるで幻想の世界に迷い込んでしまったようにギーシュは思った。
「ルビアナ、いったいなにを……?」
 それでもギーシュは、貴族の常識からはあまりにも外れたルビアナの行動を問いかけた。すると、ルビアナはギーシュのほうを向いて、深く頭を下げた。
「すみません、ギーシュ様。ぶしつけだと承知していますが、どうしても他の誰かと手をつなぐのが嫌で、申し訳ありません」
「い、いえ、頭をお上げください。ぼくのほうこそ、レディの心の機微を察せられなかったとは男子として失格……ええっ!」
 言いながら、ギーシュは自分の言葉の意味に恐れおののいた。つまり、ルビアナは自分だけと手をつなぎたいと言ってくれている。これが、学院の女子を相手にしたのであれば、余裕を持って大げさにきざったらしく喜びの表現をあげたであろうが、相手はグラモンを歯牙にもかけない規模を誇る大貴族。普通なら、あり得るわけがない。
「ミ、ミス・ルビアナ、お戯れはおよしになってください。ぼ、ぼくなんてまだ未熟な学生の身。あなたのような高貴なお方と、釣り合うわけがありません」
「いいえ、私は自分の意思でここにいるすべての殿方の中から、ギーシュ様、あなたとならば踊りたいと思って手を取りました。私は、自分で認めた相手以外の誰とも踊りはしません」
「で、ですがそれでは貴族としての本分が……あなたも、本国に示しがつかないのでは」
「構いません、すべての責任は私が取ります。私は、いつか骨となるその日まで、自分の踊りだけを踊り続けます。それが私が決めた、生涯ただひとつのわがままです」
 はっきりと言い放ったルビアナに、ギーシュは唖然とした。
 貴族としての重要な責務のひとつを投げ捨てる。しかも、彼女ほどの大貴族がなどと普通は考えられない。
 しかし、同時にギーシュはどこかルビアナがまぶしく見えた。そんなわがままを通しても、彼女の才覚ならば埋め合わせをしてお釣りがくるほどを得られるに違いない。
 貴族社会で自分のわがままを通すことがどれだけ難しいか。ウェールズと結婚したアンリエッタも、その道のりは薄氷の連続であったし、平民の才人と恋愛関係にあるルイズも相当な悩みを抱えているのはギーシュにもわかっている。
 それでも、自分の通したい筋を、道理に反するわがままだとしながらも通している。貴族社会に合わせるのを当然だと考えていたギーシュには、ルビアナがルイズやアンリエッタと並んで美しく見えたのだ。
「ミス・ルビアナ、いやルビアナ。ぼくはあなたに感動しました。ぜひ、もう一度踊っていただきたい。さあ、お手を」
「ありがとうございます。ギーシュ様、こんなわたしのわがままを聞いてくださいまして」
 ギーシュとルビアナは手を取り合い、湖畔をダンスホールにして第二幕を踊り始めた。
 ミュージックは風と波の音。スポットライトは変わらず月光だが、湖畔に反射した光が幻想的に照らし出している。
 湖畔の砂利を踏みしめる音さえ、ミュージックに加わる。ダンスをするには不向きな足場のはずだが、やはりルビアナとのダンスはそんな不自由さをまったく感じさせないほど素晴らしかった。
 踊るギーシュとルビアナ。その中で、ふたりは語り合い始めた。
「ルビアナ、なぜぼくを……グラモンのたかが末っ子に過ぎないぼくを選んでくれたのですか?」
「それはあなたが、あの殿方たちの中でひとりだけ、温かい眼差しでわたくしを見ていてくれたからですわ」
「ぼくが?」
「ええ。わたしがあの会場に入っていったとき、ほかの方々はルビティアの私だけを見ていました。けれどあなたは、純粋に私だけを見ていてくれました」

79ウルトラ5番目の使い魔 64話 (11/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:16:54 ID:EofJgLJk
「そんな、ぼくはあなたの美しさに見とれていただけで……って、あなたは目が弱いはずじゃ」
「ふふ、見えないからこそ、よく見えるようになるものもあるのですわ。ギーシュ様、あなたはとても明るい人……きっと多くのお友達がいて、あなたはその中心で皆を引っ張っていく太陽のような人なのでしょう」
「か、買い被りですよ」
 そうは言ったものの、自分が水精霊騎士隊のリーダーだということをほとんど言い当てている。たぶん、口調や態度などを分析したのだろうが、顔色などにごまかされないからこそ、人柄を見抜く眼力は本物だ。
 すごい人だ。ほとんど完全無欠と呼んでもいいのではないか? ギーシュは誰もが認めるナルシストではあるが、あまりのルビアナの能力の高さにコンプレックスを感じ始めていた。
 しかし、ルビアナは悲しそうな声でギーシュにつぶやいた。
「ですがギーシュ様、私は本来ならギーシュ様と踊る資格のない卑しい女なのです」
「な! どういうことです。あなたのような素晴らしい方に何があろうと僕は気にしませんよ。美しい薔薇にトゲがあるのは当然のことではないですか!」
「そうではないのです。私の出身がゲルマニアだということはご存知でしょう。ルビティアは財力によって爵位を手に入れた成り上がりの系譜……それゆえに、私は神の御業である魔法を使えないのです。あなたと同じ、メイジではないのです」
 ギーシュははっとした。確かに、平民が金銭で爵位を買うのはゲルマニアでは珍しくない行為ではあるが、トリステインではまだ一部の例外を除いては貴族はメイジであるという常識がある。
「軽蔑なさいましたか? 私はしょせん、貴族の名前だけを持つ平民の娘……始祖の血統からなるトリステインの正当なる貴族には劣る……」
「そんなことはありません!」
「ギーシュ様?」
「ぼくは、あなたほど美しく優れた貴族を見たことがない。確かに、始祖ブリミルは我々に魔法をお与えになりました。しかし、ぼくの友人や知り合いにはメイジでなくとも誇り高く、強く、国のために貢献している人が大勢います。ぼくは、そんな彼らを魔法が使えないからと見下したことはない……いや、前にはあったかもしれないけど今は魔法が使えない仲間も皆同志だと思っている。だからあなたも、少なくともぼくの前ではメイジでないことを気にする必要なんかありません」
 正直なギーシュであった。だがルビアナは目を閉じたままながら、その瞼から一筋の涙を流した。
「ありがとうギーシュ様、私はトリステインにやってきて本当によかったですわ」
「涙を拭いて、ルビアナ。乙女の涙はもっと嬉しいことが起きたときにとっておくべきです。さあ、今はなにもかもを忘れて踊りましょう!」
 手を結び、ギーシュとルビアナは観客のいない彼らだけのステージで楽しく踊り続けた。
 いや、正確には少しだけ観客はいた。
 一人は会場から唯一ふたりをつけてきたモンモランシー。彼女は楽しく踊るギーシュとルビアナを湖畔の木の影から唇をかみしめながら見つめていた。
「ギィィシュュウゥゥ! わたしとだってあんなに長く踊ってたことないくせにぃぃ! なによ、そんなにそのゲルマニア女のほうがいいわけなの! 今日という今日は血祭りにあげてやるわ!」
 まるでルイズが乗り移ったような、鬼気迫る嫉妬のオーラを巻き散らしながらモンモランシーは吠えていた。
 
 そしてもうひとり空の上から、あの宇宙人がその嫉妬の波動を感じ取って笑っていた。
「いやはや、ものすごいマイナスエネルギーの波動ですね。たった一人がこれほどのエネルギーを発せられるとは、なんとも人間というものはおもしろい。けど、このエネルギーを集めるのはやめておいたほうがよさそうですねえ」
 硫酸怪獣ホーが勝手に生まれそうなパワーを感じたが、この手のマイナスエネルギーは特定の目的を持って動くことが多いので、宇宙人は制御が面倒だと考えて収集をやめた。
 扱いやすいとすれば、パーティ会場で貴族たちが発しているような恨みと欲望のエネルギーである。しかしそれも、先のギーシュとルビアナの披露したダンスの余韻で小康状態にある。

80ウルトラ5番目の使い魔 64話 (12/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:18:11 ID:EofJgLJk
「まったく、余計なことをしてくれますねえ。もう量はじゅうぶんでしたけど、こうも澄んだ空気だとどうも気持ちがよくありません。では……我ながら小物っぽいとは思いますが、八つ当たりしてあげなさい! カモン、ブラックキング!」
 宇宙人が指をパチリと鳴らすと、ラグドリアンの湖畔が揺らめいて、周辺を大きな地震が襲った。
 なんだ! 驚く人々が事態を飲み込むよりも早く、パーティ会場のそばの地中から土煙をあげながら巨大な黒い怪獣が姿を現した。
 
「わ、か、怪獣ですぞぉーっ!」
 
 貴族たちは眼前に出現した巨大な怪獣に驚き、魔法で立ち向かうことも忘れて逃げ出したり腰を抜かしたりしていた。
 しかしそれは逆に賢明であったといえるかもしれない。なぜなら、ここに現れた黒々とした蛇腹状の体を持ち、頭部に大きな金色の角を持つ怪獣は用心棒怪獣ブラックキング。かつてナックル星人に操られて、ウルトラマンジャックを完敗に追い込んだほどの強豪なのだ。とても準備なしで挑んで勝てるような相手ではない。
 ジャックに首をはねられ、怪獣墓場で眠っていたところをあの宇宙人に甦らされて連れてこられた。今回ナックル星人はいないものの、あの宇宙人を新しい主人として、唸り声をあげながらパーティ会場へ進撃しだした。
「適当に脅してやりなさい。その人たちはマイナスエネルギーをよく生んでくれますから、あまり殺してはいけませんよ」
 宇宙人のうさ晴らしに巻き込まれて、貴族たちは迫りくるブラックキングから逃げまどった。
 もちろん、中にはギーシュのグラモン家のように、一時のショックから立ち直ったら反撃に打って出ようとする武門の家柄もある。しかし、それをアンリエッタは止めた。
「やめなさい! 今は招待客の避難に全力を尽くすのです」
 外国からの招待客に万一のことがあってはトリステインの恥。グラモン家のギーシュの兄たちは、武勲をあげるチャンスを逃すことに悔みながらも女王の命に従った。
 もっとも、彼らはすぐに自らの蛮勇がストップされたことを女王に感謝することになった。ブラックキングが鋭い牙の生えた口から放った赤色の熱線が、会場のある貴族の邸宅を直撃し、一発で粉々にしたからである。
「すごい破壊力だ」
 ブラックキングの溶岩熱線。対ウルトラマンを目的に飼育されているブラックキングは全能力がバランスよく高く、弱点が存在しないと言ってもいい。
 
 一方そのころ、湖畔にいたギーシュたちも当然ブラックキングの巨体を目の当たりにしていた。
 湖畔から会場まではざっと百メイル。それなりの距離があって、ブラックキングの目的は会場であるから彼らはブラックキングの横顔を見るだけで済んでいるが、ギーシュはここで無駄な意地を見せていた。
「止めないでくれルビアナ。ぼくはグラモンの一門として戦いに行かねばならないんだ。僕が行かなけりゃ父さんや兄さんたちに合わせる顔がないんだ!」
「おやめください! あなたが行ってもあれを倒すのは無理です。危険すぎますわ」
「相手がなんであろうと、トリステイン貴族がやすやすと引くわけにはいかない! 頼むから見守っていてください。あなたに捧げる武勲をきっと持ち帰ってみせます」
 明らかに悪い方向で調子に乗っていた。水精霊騎士隊がいれば、まだリーダーとして自制は効くし、レイナールなどの抑え役もいる。

81ウルトラ5番目の使い魔 64話 (13/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:19:29 ID:EofJgLJk
 だが、暴走しかけるギーシュに業を煮やし、ついにモンモランシーが割り込んできた。
「いい加減にしなさいギーシュ!」
「わっ! モ、モンモランシー、いつのまにそこに」
「そんなことどうでもいいでしょ! あなたはまた美人の前だといい格好しようとして。こんな場所に女の子ひとり置いていって万一のことがあったらどうするの?」
 あっ! とするギーシュを、モンモランシーはさらに叱りつける。
「女の子ひとりも守れないで、なにが貴族よ騎士よ。もしその人があんたがいない間にケガでもしたら、それ以上の不名誉はないでしょう」
「ご、ごめんモンモランシー、君の言うとおりだ。ぼくは間違っていた、手の中の薔薇一輪も守れないでなにが男だろうか。なんと恥かしい! 許しておくれ」
 平謝りするギーシュ。モンモランシーは、ほんとにこれだから目を離せないんだからとまだカンカンだ。
 ルビアナは、突然現れたモンモランシーに少し驚いた様子でいたが、すぐに落ち着いた様子でモンモランシーにあいさつをした。
「失礼、お見受けするところモンモランシ家のお方ですわね。ギーシュ様を止めていただき、どうもありがとうございます。私の細腕ではどうすることもできませんでした」
「フン! このバカは甘やかしちゃダメなのよ。可愛い女の子と見れば、ホイホイ尻尾を振る破廉恥男なんだから」
 怒りのたがが外れたモンモランシーは、もう相手が誰であろうと遠慮はしていなかった。しかし、無礼な態度をとられたのに、ルビアナの反応はモンモランシーの予想とは違っていた。
「いいえ、それはきっとギーシュ様は博愛のお気持ちがお強い方だからなのでしょう。モンモランシー様がお怒りになったのも、そんなギーシュ様がお好きだからなのですわね」
「なっ! あ、あなた、初対面の相手に何言ってるのよ」
「お隠しにならなくてもよいですわ。モンモランシー様の声には、怒りはあっても憎しみはありませんでした。それに、ギーシュ様のそうしたことをよくご存じとは、きっと貴女はギーシュ様の一番なのでしょうね」
「なっ、なななな!」
 モンモランシーもまた、ルビアナの洞察力の深さに意表を突かれていた。
 だが、危機は空気を読まずにやってくる。モンモランシーの予想した通り、ブラックキングが歩いたことによって蹴り飛ばされた岩のひとつが偶然にも、こちらに向かってすごい勢いで飛んできたのだ。
「きゃあぁっ!」
 岩は数メイルの大きさのある庭石で、避けても避けきれるようなスピードではなかった。フライで飛んでも落ちた岩がどちらの方向に跳ね返るかはわからない。もちろんモンモランシーの魔法で受け止めきれる威力ではない。
 しかし、ここでとばかりにギーシュは杖をふるって魔法を使った。
「ワルキューレ、レディたちを守るんだ!」
 ギーシュの青銅の騎士ゴーレムが、三体同時に錬金されて岩に向かって飛びあがった。受け止めるなんて無茶は考えていない、ワルキューレそのものの質量を使った弾丸だというわけだ。
 飛んできた岩はワルキューレ三体と空中衝突し、互いにバラバラになって舞い散った。そしてギーシュは薔薇の杖を口元にやり、どやあとキザったらしくポーズをとってかっこをつけた。

82ウルトラ5番目の使い魔 64話 (14/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:21:51 ID:EofJgLJk
「ぼくがいる限り、君たちには傷一つつけさせやしないよ」
「ほんと、かっこつけるのだけはうまいんだから。けどまあ、助けてくれてありがと」
 モンモランシーはぷりぷり怒ったふりをしながらも礼を言い、それからルビアナも感謝の意を示した。
 ブラックキングはしだいに遠ざかり、もう岩も飛んでこないだろう。どうやら完全にこちらは眼中にないようだが、ブラックキングの背中を見送りながらルビアナは残念そうにつぶやいた。
「それにしても、ギーシュ様とのダンスはこれからというところでしたのに、無粋な怪獣様ですわね」
 憮然とするルビアナの声色は、日没で鬼ごっこを中断させられた子供のような純粋な憤慨のそれであった。
「まったくだね。ルビアナといっしょなら、ぼくは朝までだって踊れたろうにさ」
「ギーシュ、わたしと舞踏会に出たときに「疲れた」って言って先に抜けたのは誰だったかしら?」
 いつもの調子に戻ったギーシュとモンモランシーも同調して言う。怪獣は遠ざかりつつある、もうすぐ園遊会で何かあったときのために待機していた軍の部隊もおっとり刀で駆けつけてくるだろうから、自分たちの出番はないはずだった。
 
 そのころ、会場に乱入したブラックキングは貴族たちを追いかけていた。しかしアンリエッタが迅速に逃げることを最優先させたため、少々の軽傷者を除いては人的被害は出ていなかった。
 だが、このまま暴れ続ければいずれは追いついて蹂躙することもできるだろう。けれども、宇宙人はそこまでする必要を感じてはいなかった。
「もういいでしょう。これで人間たちにはじゅうぶんに恐怖を植え付けられました。仕込みはこれまで……戻りなさいブラックキング」
 死人にマイナスエネルギーは出せない。貴族たちが逃げまどう姿を見て、じゅうぶんに溜飲を下げた宇宙人はブラックキングを引き上げた。あとは貴族たちのあいだで責任の押し付け合いでも始めてくれれば重畳というものだ。
 ブラックキングは命令に従い、あっというまに地中に潜って消えてしまった。後には、呆然とする貴族たちが残されただけである。
 
 そうして、一応の平和は戻った。
 貴族たちは破壊された会場から少し離れた場所にある別の庭園に移動して、ほっと息をついている。
 当然、ギーシュたちももう抜け出しているわけにはいかず、そこに戻っていた。
「おお、ギーシュよ。無事であったか」
「ははっ、父上。このギーシュ、全力でルビアナ姫をお守りしておりました」
「うむ、それでこそ我がグラモンの一門。よくやったぞ」
 ギーシュは父や兄たちも無事であったことにほっとしつつ、帰還を報告した。
 もしかしたら怒られるのではと内心では恐々としていたが、父は意外にも上機嫌であった。もっとも、ルビアナが後ろで微笑んでいれば、たとえ怒っていたとしても気分は逆転したに違いない。
 けれども、褒められていい気分になっていたギーシュに、次に父が浴びせた言葉がギーシュの心を凍り付かせた。

83ウルトラ5番目の使い魔 64話 (15/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:24:35 ID:EofJgLJk
「ギーシュ、ルビティアの姫のお気に入りになられるとは見事ではないか。これはもう、モンモランシの小娘などと遊んでいる場合ではないぞ」
「えっ……」
 ギーシュは言葉を返すことができなかった。それは、ギーシュにとって初めて体験する貴族世界の理不尽のひとつであった。
 ルビティアとモンモランシでは、比較にならない格の差がある。家のために、どちらと付き合わねばならないかは言うに及ばずだが、そうなるとモンモランシーと付き合うことはできなくなってしまう。
 ギーシュの心に霜が降る。嫌だと言いたいが、そうすれば父の期待を裏切り、激怒させてしまうだろう。さらにグラモン家に恥をかかせることになる。どうすればいいかわからない。
 父はギーシュにだけ聞こえるように言ったので、後ろにいるモンモランシーとルビアナには聞こえていないはずだ。ここは自分がはっきりと意思表示をしなければならない。だが、なんと答えればいいのだ?
 冷や汗を噴き出すギーシュ。耳を澄ますと、会場のそこかしこから言い合う声が聞こえだした。貴族たちが、格上の自分を差し置いて先にお前が逃げ出すとは何事だ、とか、お前の息子はうちの娘にあれだけ求婚しておいたくせに守ろうともしなかったではないかなどと言い合っているのだ。
 これが園遊会の実体。ギーシュはその欺瞞を身をもって体験し、打つ手なく戸惑っている。
 まさに、あの宇宙人が望んだとおりの、人間の醜い面がさらけ出された煉獄が実現されつつあった。
「ウフフ、いいですね。これでこそ人間のあるべき姿というものです」
 しかし、宇宙人が高笑いし、ギーシュが思考の堂々巡りの深淵に落ちかけたそのとき、誰もが予想していなかった事態が起こった。
 
「うわっ! なんだ、また地震か!」
 
 地面が揺れ動き、土煙が噴き出して、地中から巨大な影が姿を現す。
「出たっ、またあの怪獣だ!」
 ブラックキングが庭園のそばから再度出現し、貴族たちを見下ろして再び暴れだしたのだ。
 溶岩熱線が集まっていた貴族たちの一団を狙い、十数人が一度に吹き飛ばされる。さらにブラックキングは狂ったようにのたうちながら庭園に乱入していった。
 たちまち逃げ出す貴族たち。しかし、驚いていたのは宇宙人も同じであった。
「ブラックキング! 何をしているんです。誰が出て来いと言いましたか!」
 彼は命令をしていなかった。しかしブラックキングは出てきて、今度は宇宙人の命令を聞かずに無差別に暴れている。
 これはどうしたというのだ? 困惑しながら空から見下ろす宇宙人。すると彼は、ブラックキングの姿が先ほどと明らかに違うところを見つけた。

84ウルトラ5番目の使い魔 64話 (16/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:27:00 ID:EofJgLJk
「角が、機械化されている!?」
 そう、ブラックキングの立派な角があった頭部に、角の代わりに巨大なドリル状の機械が取り付けられていたのだ。
 さしずめ、ブラックキング・ドリルカスタムとでも呼ぶべきだろうか。ドリルはそれが飾りでないことをアピールするように、先端から紫色の光線を放ち、離れた場所にある別の貴族の別荘を粉々に粉砕してしまったのだ。
「改造手術をされている。ですが、いったい誰が!」
 ブラックキングは正気を失っているらしく、無茶苦茶に吠えて暴れながら熱線や光線を撃ちまくっている。それを止めることは、もう誰にもできなかった。
 
 庭園は大パニックになり、もう秩序だった避難は望むべくもなく、貴族たちは皆好き勝手に逃げまどっている。
 そしてその猛威は、不運にもギーシュたちのほうへと向けられた。
「ギーシュ!」
「ギーシュ様!」
 逃げ遅れたモンモランシーとルビアナに向けて、ブラックキングのドリル光線の照準が定められる。
 ギーシュは、ありったけのワルキューレを錬金してふたりの前に立ちふさがった。しかし、青銅のワルキューレの壁でどれだけ耐えられるものか。
 ならば、せめてひとりだけを全ワルキューレでカバーすれば守り切れるかもしれない。ギーシュの耳に、父や兄たちの声が響く。
「ギーシュ、ルビティアの姫様を守るんだ」
 そんなことは言われなくてもわかっている。しかし、ギーシュはどれだけ道理をわきまえても、それができる男ではなかった。
 そう、好きな子の前でかっこ悪いところを見せるくらいなら死んだほうがマシ。それが男だと信じるのがギーシュだった。
「ぼくは、ふたりとも守る! 足りない分の壁には、ぼくの体を使えばいいんだよ!」
 ワルキューレをモンモランシーとルビアナの前に均等に配置し、さらにその前にギーシュは立ちふさがった。
 これで死ぬなら本望。ギーシュは覚悟し、彼の耳に父や兄たちの絶叫が響く。
 だが、まさにブラックキングの光線が放たれようとしたとき、なぜかブラックキングの頭がふらりと揺れて光線の照準が大きくそれた。
 光線ははずれ、ギーシュには爆風と吹き飛ばされた砂や石だけが叩きつけられた。とはいえ、それだけでもじゅうぶんな威力で、ギーシュは傷だらけになりながら吹き飛ばされた。
「うわあぁぁっ!」
「ギーシュ!」
「ギーシュ様!」
 ワルキューレの影に守られて爆風をやり過ごせたモンモランシーとルビアナは、すぐにギーシュに駆け寄った。

85ウルトラ5番目の使い魔 64話 (17/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:29:24 ID:EofJgLJk
 だがその後ろからブラックキングが狙ってくる。ギーシュの父や兄たちは、駆け付けようとしたが、もう遅かった。
「だめだ、やられるっ!」
 ドリルからいままさに光線が放たれるかと思われた。しかし、光線は放たれず、ブラックキングは目の焦点を失い、そのままフラリと揺らぐと地面に倒れこんでしまった。
 轟音が鳴り、横倒しになるブラックキングの巨体。ブラックキングは口から泡を吐いて痙攣していたが、すぐに動かなくなってしまった。
「無理な改造で、脳に負担がかかりすぎたんですね」
 呆然としたまま、宇宙人はつぶやいた。
 貴族たちも、突然絶命したブラックキングに呆然とするしかないでいる。だが、モンモランシーとルビアナは傷ついたギーシュを前に、それどころではなかった。
「ギーシュ、大丈夫! わたしがわかる?」
「ああ、モンモランシーだろう。よくわかるよ、いやあ君の顔を間近で見るのは永遠に飽きないねえ」
「バカ! またかっこつけて傷だらけになって。あなた血だらけじゃない!」
「いやいや大丈夫だよ。ちょっと体中しびれてるけど、痛みはないんだ。かすり傷だよ、ちょっと休めば立てるさ」
 だが、そういうときが一番危ないのをモンモランシーは知っていた。一時的に痛覚が麻痺していても、いずれ耐えがたい苦痛に襲われる。治療は一刻を争う。
 モンモランシーは杖を取り出して、治癒の魔法を唱え始めた。傷の深そうな部分から順々に、しかし治癒に止血が追いつかない。モンモランシーが焦り始めたとき、ルビアナがハンカチを手にそばにかがみこんだ。
「お手伝いしますわ」
 ハンカチを包帯代わりに、それでも足りなければドレスを引きちぎってルビアナはギーシュの止血をしていった。
 その行為に、ギーシュは「大事なお召し物をぼくなんかのために、もったいない」と止めようとしたが、ルビアナは気にした様子もなく言った。
「よいのです。ギーシュ様のお役に立てて破れたのなら、このドレスは私の誇りですわ。それより、ギーシュ様のために一番がんばっておられるのはモンモランシー様です。モンモランシー様をこそ見てあげてください」
 こんなときの気配りもできて、モンモランシーはこれが大人のレディなのかと少し悔しくなった。
 だけど負けない。こんなぱっと出のゲルマニア女なんかにギーシュをとられてたまるものか。
 やがて手当は終わり、治療が早かったおかげでギーシュはたいした後遺症もなく普通に立ち上がることができた。
「あいてて、まだ少し痛むけどもう大丈夫だよ。モンモランシー、ルビアナ、君たちのおかげだ。ありがとう」
「ま、まあ、あんたに助けられたわけだし、わたしにだって貴族の誇りってものはあるから当然よ」
「わたくしは何もしていません。モンモランシー様が、ギーシュ様を救ったのですわ。本当に、お似合いのふたりです」
 ルビアナにそう言われ、ギーシュとモンモランシーは照れた。
 しかし、それぞれの家の問題はまだ引きずっている。すると、ルビアナはギーシュとモンモランシーの手を取り、三人の手を重ねて言った。

86ウルトラ5番目の使い魔 64話 (18/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:30:48 ID:EofJgLJk
「わたくしたち、とてもよいお友達になれそうですね」
 その光景で、グラモン家はもうなんの文句も言うことはできなくなってしまったのである。
 それだけではなく、ルビアナは事態の鎮静に四苦八苦しているアンリエッタの元に向かうと、各国の貴族たちに向かって宣言した。それはまとめると、今日の事件での損失はルビティア家が補填する。自分は、危急の事態にあっても冷静に判断するアンリエッタ女王に深い感銘を受けた、トリステインにルビティアは協力を惜しまない。これからもトリステインで皆さまとお付き合いしたいのだと。
 それにより、不満をたぎらせていた貴族たちは一気に大人しくなった。ゲルマニア有数の大貴族とのパイプがつながるのなら、今日のことなど安いものだ。
 当然、アンリエッタにとっても渡りに船である。ルビアナの申し出に感謝し、友好を約束した。
 
 
 そして、夢のような時間は終わりを告げる。園遊会は満足の内に終了し、ギーシュとモンモランシーはルビアナと別れる時がやってきた。
「さようなら、ギーシュ様、モンモランシー様。おふたりと出会えて、今日はとても楽しい一日でした」
「ルビアナ、短い時間でしたけどぼくもとても楽しかったです。あなたからはいろいろと教えられました。今日のこの時を一生胸に焼き付けることを約束します」
「ま、まああなたがいい人だっていうのはわかったわ。だからわたしからも言うわ、ありがと」
 手を取り合い、別れを三人は惜しんだ。
 これからルビアナはゲルマニアに帰る。そうなれば、また会えるかはわからない。
 そうなれば……ギーシュは不安だった。ルビアナにとって、今日のことぐらいは数多くある出会いのひとつに過ぎず、すぐに忘れ去られてしまうのではないか? グラモンとルビティアはそれほどの格差がある。
 しかし、ルビアナはギーシュの心の機微を見抜いたのか、再びギーシュとモンモランシーの手を取り言った。
「そうですわ。再会を願って、このラグドリアン湖の水の精霊に誓いを捧げましょう」
「え? 誓い、ですか」
「はい、ラグドリアンの精霊は別名誓約の精霊と聞いております。私たちの友情が永遠であることを誓えば、いつか必ずまた会えますわ」
 それは虹色の提案であった。精霊への誓約は違られることはないという。
 だが、人間の誓約に絶対はない。するとルビアナは、同じく見送りに来ていたアンリエッタに見届け人を頼んだ。
「ええ、わたくしでよければ見届けさせていただきますわ。あなた方三人の誓約、トリステイン女王の名の下に、この耳と目にとどめましょう」
 それ以上の確約などはあろうはずがなかった。ギーシュ、モンモランシー、そしてルビアナはラグドリアン湖を望み、それぞれの誓いの言葉を口にした。
「誓約します。ぼく、ギーシュ・ド・グラモンはモンモランシーを一番に愛し続け、ルビアナを永遠に愛し続けることを」
「誓約します。わたし、モンモランー・ラ・フェール・ド・モンモランシーはギーシュを愛し、ルビアナと変わらぬ友情を持ち続けることを」
「誓約します。私、ルビアナ・メル・フォン・ルビティアはギーシュ様とモンモランシー様に永久に続く友情を貫くことを」
 こうして誓約は終わり、三人は固く友情を結んで別れた。

87ウルトラ5番目の使い魔 64話 (19/19) ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:32:03 ID:EofJgLJk
 別れ際に、モンモランシーはルビアナに「ギーシュ様をよろしく」と頼まれ、「当然よ」と言い返した。
 遠ざかっていくルビアナの馬車を見送りながら、ギーシュとモンモランシーは思った。
 いい人だった。そして、すごい人だった……できるなら、あんな大人になりたいものだ。と。
 また会える日はいつ来るだろうか? ふたりの胸を、寂しい風が吹き抜けていった。
 
 
 だが、事態は収束したが、謎はまだ残っている。
 空から一部始終を見守っていた宇宙人は、この園遊会で集まったマイナスエネルギーの塊を手にしながらも釈然としない様子でつぶやいていた。
「『妬み』のエネルギー、確かに頂戴いたしました。しかし、いったい何者がブラックキングを改造したのでしょう……ブラックキングが地中に潜ってから出てくるまで、ほんの数十分……そんな短時間で、ブラックキングを改造できるほどの技術を持った者が、まだハルケギニアにいるというのですか? それに、なんの目的で……? 一体何者が……まさか……これは、遊んでいてはまずいかもしれませんね」
 ハルケギニアで起きている異変の元凶の宇宙人。しかしこの宇宙人も、ハルケギニアのすべてを知り尽くしているわけではない。
 深淵のように美しく純粋で底のない邪悪との邂逅が、すぐそこに迫っていることをまだ誰も知らない。
 ハルケギニアの戦士たちとウルトラマンたちを翻弄する、短いが熾烈な戦いが、もう間もなく始まる。
 
 
 続く

88ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/09/08(金) 12:33:12 ID:EofJgLJk
今回は以上です。
ギーシュはけっこうスピンオフも作れる名キャラクターだと思うんですよね。

89ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 17:55:24 ID:hTCLJjSU
5番目の人、乙です。私の投下を行わせていただきます。
開始は17:58からで。

90ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 17:58:16 ID:hTCLJjSU
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十六話「輝ける明日へ」
邪神ガタノゾーア
超古代尖兵怪獣ゾイガー
超古代怪獣ゴルザ(強化) 登場

 ブリミルを初めとした、村の人間たちは黄金色に輝く巨大なティガ、グリッターティガを
見上げて、その神々しい立ち姿に唖然と目を奪われていた。しかし一番驚いているのは、
誰であろう、グリッターティガを生み出したブリミルであった。
「ち、ちょっとブリミル! あんた一体何したの!? ウルトラマンが大きくなって、全身
金ぴかになったわよ!」
 サーシャが泡を食って尋ねかけても、自分の杖を見つめたまま首を振るだけだった。
「わ、分からないよ! ぼくにも分からない……。だけど、ぼくの杖から出た光がウルトラマンを
あの姿に変えたのか? 今の光は……?」
 そして才人もまた、今の己の身体を見下ろして驚愕していた。
『この姿は、六冊目の本の世界で変身したのと同じ……いや、今度は身体がでっかくなってる!』
 トリステイン王立図書館での事件のことを思い出す才人。あの時、六冊目の世界で、自分と
ゼロは七人のウルトラ戦士とともにグリッターヴァージョンとなった。ウルトラ戦士の光が
限界以上に達した時に変身することが出来る、究極の姿だ。
 しかしそう簡単になれるものではない。本来なら何百人、何千人以上もの人間の光が集まる
ことでようやく変身可能となるもの。しかし今は、明らかにブリミル一人の力でグリッター
ティガとなった。いくら何でも、たった一人の人間の光で変身するとは、起こり得るもの
だろうか。しかし現実にこうなっている。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 考え込んでいる才人だったが、ガタノゾーアの咆哮によって意識が現実に引き戻された。
『いや、今は戦いに集中するべきだな!』
 ティガがぐっと腕を脇に引き締めると、カラータイマーを中心に光のエネルギーが集まる。
そして、
「ハァッ!」
 ガタノゾーアへ拳を突き出す。ただのパンチにも関わらず、光がほとばしってガタノゾーアに
直撃した。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 その一撃によって、ガタノゾーアの巨体が軽々と吹っ飛ぶ!
「おぉぉッ!」
「すごい!」
 ブリミルたちはグリッターティガの攻撃の威力に一斉に感嘆した。
「ハッ!」
 続いてキックを繰り出すティガ。これも光が放たれ、ガタノゾーアの闇の衣を剥いで深い
ダメージを与える。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 先ほどまでは全く攻撃が通用せずに一方的にいたぶられていたティガだったが、一転して
まばゆい光が暗黒を照らし出していく!
『一気に決めてやる!』
 相手が動けない内にティガは両腕を前にピンと伸ばし、左右に開いていく。ゼペリオン光線の
構えだ!
「ハッ!」
 L字に組んだ腕から発射される、ゼペリオン光線を超えたグリッターゼペリオン光線が
ガタノゾーアに直撃した!
「プオオォォォォ――――――――!!」
 全身から火花が飛び散り、致命傷を負うガタノゾーア。しかしティガは完全に闇を祓うために、
最後の攻撃を行った。
「タァッ!!」
 エネルギーを全てカラータイマーに集めて解き放つ、タイマーフラッシュスペシャル!

91ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 18:00:23 ID:hTCLJjSU
「プオオォォォォ――――――――……!!」
 その光によってガタノゾーアは消滅していき、同時に闇も晴れて消え失せた。空は本来の、
澄んだ夜空に戻る。
「やったッ!」
「あの大怪獣をやっつけた!」
「俺たちは助かったんだ!」
 ウルトラマンティガの勝利によって人々の心からは恐怖が完全に取り払われ、皆一斉に喜びに
沸き立った。サーシャとブリミルも笑顔となって、ティガへ大きく手を振る。
「ありがとう、ウルトラマン! 恩に着るわ!」
「本当にありがとう! そして、これからもぼくたちに力を貸してほしい! ぼくたちも、
必ずこの世界に平穏を取り戻してみせるから!」
 未来への希望に溢れるブリミルたちの姿を見下ろした、まさにその時に、才人の視界が
急激に薄れていった……。

「はッ!?」
 才人が気がつくと、目に飛び込んできた光景は夜空ではなく、薄暗い天井だった。
 身体を起こすと、自分がベッドに寝かされていたことを知った。周りは板壁の薄暗い部屋。
見覚えはない。ロマリアの大聖堂でもないようだ。一体どうなっているのか。
「……まさか、今までのこと全部、夢だったのか? でも、随分生々しかったけど……」
「お目覚めかい?」
 思わず独白すると、すぐ横から椅子に腰かけているジュリオに声を掛けられた。
「わ! お前、どうしてこんなところに! ……いや、今はそんなこといいか」
 才人は己の記憶を手繰り寄せ、今一番に確かめなければいけないことをジュリオに問いかけた。
「ここはどこなんだ?」
「アクイレイアの街だよ」
「それって、教皇聖下の記念式典とかを行うっていう……。でも、どうして寝かして連れて
きたんだ? 逃げ出すとでも思ったか?」
「いや、そうじゃない」
「まぁいい。それより、ガリアはどうした? やっぱり手を出してきやがったか?」
「たった今襲われてるところだよ」
「何だってぇ!?」
 跳ね起きる才人。ジュリオは現況を説明する。
「ガリアから飛来した怪獣群が、我がロマリア連合皇国に攻めてきた。今現在、国境では
激しい戦闘が繰り広げられている」
「何だと? ギーシュはルイズは?」
「彼らは既に投入されたよ」
「こ、こうしちゃいられねぇじゃねぇか!」
 才人はすぐにドアに取りついたが、鍵が掛かっていて開かなかった。
「おいジュリオ! 開けろ!」
「まぁ、そう焦るな。その前に、きみに確認を取らなければいけないことがある」
「何言ってんだよ! あいつらが戦ってるんだろ!」
「すぐ済むから聞けって。まず、きみを眠らせたのはルイズだ。彼女はきみを故郷に帰らせたと
話したが、この通りきみはまだここにいる。この戦いの後にそうするつもりだったのだろう。
その手段は……知らないけど、きみ自身の気持ちはどうなのかって思ってさ」
「俺の気持ち?」
「つまり……こういうことさ」
 立ち上がったジュリオが鍵を外し、扉を開く。その先はごく普通の居間なのだが……
一つだけ普通でないものが、才人を待ち受けていた。
「……」
 キラキラ光る、鏡のような形をした物体。それは、ゲート。先ほどの六千年前の夢の中で目にしたばかりで
あり、そうでなくても才人にとって忘れられないもの。このハルケギニアに来ることになったきっかけ、
何もかもの始まりである……。
「何でこれが……」

92ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 18:03:37 ID:hTCLJjSU
「ワールド・ドアです。あなたの世界と、こちらの世界をつなぐ魔法です。先日の担い手同士の
会合で、新たに目覚めました」
 居間にはもう一人、ヴィットーリオがにこやかに微笑みながら才人に呼びかけてきた。
「ミス・ヴァリエールの意思だけでなく、あなたご自身が故郷へ帰られたいのならば、その
ゲートに飛び込んで下さい」
「帰れる訳ないじゃないですか! ルイズが戦っているというのに!」
「そう答えを急がずに。あなたのためにも、わたしたちのためにも、この部分ははっきり
させなければならないのです。特に危急時にこそ、人の本心が出るものです」
 才人は頭ではルイズたちのところへ向かわなければいけないと思いながらも、ゲートから
見える光景に目を吸い寄せられていた。
 何故ならその光景は、今となっては懐かしい、夢にまで見た自宅のものだったからだ。
台所には、今すぐにでも無事を報せたい母親の姿まである。
「ご安心を。向こうからは、こちらの様子は見えません。ゲートは一方通行ですから、くぐる
ことも出来ません」
「けれど、聖下の精神力が持続なさるのも十数秒ほど。早く決断するんだ、兄弟」
 目に飛び込むのは、日本にいたら至極当たり前の景色。しかし今の才人にとっては如何なる
場所よりも魅力的なもの。思わず一歩を踏み出した才人だったが……。
 その足は、踏みとどまられた。
「俺の剣と“槍”はどこだ」
「いいのかい? もしかしたら、最後のチャンスになるかもしれないのに」
「同じことを言わせるな。俺の剣と“槍”はどこだ。俺は、ルイズたちを助けに行く」
 今すぐに地球へ帰りたい気持ちがないと言えば嘘になる。しかし、そうしたら二度とここには
戻ってこられないかもしれない。そうなったら、この地で仲間たちと築いてきたものが全て『嘘』に
なってしまうかもしれない……。故に才人は踏みとどまったのだ。
 そして後ろに振り向いた才人は、背後を取っていたジュリオがほっとしたように拳銃を
下ろしたのに気がついた。
「勘違いするなよ。ぼくたちが必要とするのは、きみの左手に書かれた文字であって、決して
きみじゃないということを」
「お前……」
 ジュリオは珍しく真剣みを帯びた。
「おめでたい奴だな。異世界に戻ればルーンが消える? 生憎と、そこまでぼくたちの“絆”は
便利に出来ちゃいない。使い魔でなくなるルールは一つ、“死”だけだ。そうとも。ぼくたちは
“必死”なんだ。そのためには、何だってやる。覚えておけ兄弟、ぼくたちの“拠り所”は“主人”
じゃなきゃいけないんだ。そうじゃなかったら、絶対に聖地は奪回できない。次にまた姿を
くらまそうものなら、今度こそ殺す。忘れるな」
 才人は怒りに震えながら拳を握り締め、ジュリオに振りかぶった。ジュリオは笑みを浮かべた
まま、避ける素振りも見せずに拳を受けた。派手に吹っ飛び、ドアにぶち当たる。
 倒れたまま才人へ告げた。
「この建物を出た目の前に倉庫がある。そこにきみの“槍”が置いてあるよ」
 すぐに飛び出していこうとした才人だったが、不意に立ち止まってヴィットーリオへ言った。
「聖下」
「何でしょう?」
「もう一回だけ、扉を開いて下さい。指一本くぐる程度の奴でいいんだ。そんぐらいは
いいでしょう?」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 ルイズたちは、瞬く間にゴルザによって蹴散らされて絶体絶命のまさに崖っぷちにまで
追いつめられていた。無理もない。ロマリアから貸し与えられた兵隊は全員、ゴルザの脅威に
とっくに遁走し、残ったのは十数名程度の生身のオンディーヌだけ。それだけでは精神力の
限りに呪文を撃ち尽くしても、とても怪獣に敵うものではない。ルイズの“虚無”も、呪文を
唱える暇もなかった。
『うわあぁぁぁぁぁぁッ!』
『ぐわぁぁぁッ!』

93ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 18:06:10 ID:hTCLJjSU
 ウルティメイトフォースゼロもまた、こちらを助けるどころか自身らが風前の灯火であった。
ウルトラマンゼロが石にされてしまい、ガタノゾーアが加わった怪獣軍団が圧倒的な戦闘力で
残る三人をねじ伏せたのだ。
 ガタノゾーアが虎街道を突破してくるのも時間の問題。最早ルイズたちに勝ち目はないのだが……。
「ルイズ! 逃げろ!」
 ゴルザの光線によって吹き飛ばされ、倒れたまま動けないギーシュが叫んだ。ルイズは
ゴルザを目の前にしながら、杖を握り締めたまま逃げようとしないのだ。
「逃げられないわ、わたしだけは……! わたしが逃げ出したら……サイトにどう顔向け
するっていうのよ……!」
 ルイズは己に言い聞かせた。才人の意思を無視して彼を故郷へ送り帰す選択をした自分が、
彼が守ろうとしてくれたこの世界を見捨てることなど出来やしない。たとえここで散ることに
なったとしても、最後まで戦うことをあきらめては……!
「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 そうは思っても、足を振り上げて自分を踏み潰そうとしてくるゴルザの前に心が恐怖で
塗り潰されてしまい、杖を振る手も止まっていた。
 わななくルイズは反射的に、もう叫ばないと決めた言葉を叫んでいた。
「サイト! 助けて!」
 その刹那――ゴルザの支えとなっている足が、地面の下から突き出てきた鈍色の円錐の
ようなものに突き上げられ、ゴルザの身体がバランスを崩して傾いた。
「グガアアアア!!」
 派手に転倒するゴルザ。これによりルイズは踏み潰されずに済んだ。
「え……?」
 驚愕するルイズの目の前に、円錐が地面の下から真の姿を晒す。それは才人がカタコンベで
見せらせ、コルベールたちの強力の下にアクイレイアまで移動させられたマグマライザーだ!
 そしてハルケギニア人の誰も操縦方法を知らないマグマライザーを走らせることの出来る
人間は、ただ一人しかルイズには思いつかなかった。
「サイトッ!!」

「全く、ほんと馬鹿だなあいつ……。あんな状況になったらとっとと逃げろよ」
 マグマライザーのコックピットで、操縦桿を握る才人が毒づいた。彼がジュリオに言われた
通りに倉庫に向かうと、そこで待っていたのはこのマグマライザーと整備をしてくれたコルベールに
タバサ、キュルケ。彼らからマグマライザーを預かると、地中を移動してまっすぐにこの虎街道に
まで駆けつけたのだ。
 そして起き上がるゴルザへレーザー光線を浴びせながら挑発。
「ほら、ノロマ野郎! 悔しかったら追いかけてこい!」
「グガアアア! ギャアアアアアアアア!」
 わざと背を向けて逃げると、転倒させられたゴルザは憤って追跡してきた。才人の狙い通りに、
ルイズたちから引き離す。この間にオンディーヌがルイズを救出して退避していった。
 安堵する才人だったが、表情はすぐに苦渋に染まる。
「思ってたよりずっと悪い状況だぜ……。まさかゼロが石にされてるなんて……」
 虎街道で待ち受けていたのは、あのガタノゾーア。他にも怪獣が数体。この状況をマグマ
ライザー一機で覆すことなど出来るのだろうか。
「けど、やるしかねぇッ!」
 決意を固めてマグマライザーのアクセルを全開にする才人。
 だが、その決意を粉砕するような攻撃が上空から降ってきた。
「ピアァ――――ッ!」
 一体のゾイガーの光弾だった。それがマグマライザーの正面の地面を穿ち、マグマライザーの
タイヤがその穴に嵌まって停止してしまう。
「しまった!」
 地底戦車のマグマライザーでも、すぐに地中に潜行することは出来ない。その隙を突いた
ゴルザの光線が直撃してしまう!

94ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 18:08:15 ID:hTCLJjSU
「うわぁぁッ!!」
 たちまちに爆破炎上するマグマライザー!
「サイトぉぉぉぉぉ―――――――――――ッ!?」
 絶叫するルイズ。その才人は爆発にこそ巻き込まれなかったものの、あっという間に火災に
取り囲まれてしまう。文字通り進退窮まる大ピンチだ。
「くッ……! せっかく故郷に帰るのもフイにしてここまで来たんだ! こんなあっさりと
死んでたまるかぁッ!」
 それでも才人の心にあきらめはなかった。上着で火の手を可能な限り振り払いながら、
ハッチへ向かって脱出しようとする。
「俺はぁぁぁぁぁッ! 絶対にあきらめないッ!!」
 想いの限りに叫んだ、その時――急に、懐から温かい光が漏れ出し始めた。
「えッ!? こ、この光って、まさか……!?」
 まさか、と思いながらも、懐からその『光』を引っ張り出す。
 手の中にあるのは、スティック型の変身アイテム……スパークレンス!
「な、何で!?」
 疑問に思いながらもほぼ無意識の内に、才人はスパークレンスを天高く掲げた。
 翼型のレリーフが開き、光が溢れる!

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 ゴルザは炎上するマグマライザーを完全に破壊しようとにじり寄っていく。ゾイガーも
空から接近し、内部の才人の息の根を確実に止めようとしていた。
「やめなさいッ! そんなことは、絶対させないわ!!」
 ルイズは杖を先ほどよりもずっと強く握り締め、とにかく“爆発”を起こして怪獣たちを
阻止しようとしたが……その視界に、いきなり光が溢れた。
「きゃッ!?」
「うわぁッ! 何だ!?」
 思わず顔を覆うルイズたち。
 その間に……光り輝く手刀が、ゴルザの胸を深々とかすめ切って致命傷を負わせた。
「グガアアアア……!?」
 不意打ちに対処できずにグラリと倒れるゴルザ。更に光溢れる光線が、ゾイガーも貫いて
爆散させる。
「ピアァ――――ッ!!」
 一挙に二体の仲間が撃破され、ガタノゾーアたち怪獣軍団がさすがに動きを止めた。
 そしてミラーナイトたちは、マグマライザーから飛び出した『巨人』を見やる。
『あ、あれは!?』
 銀色のボディに、赤と紫の模様と胸部を覆うプロテクター、そしてその中心に青く輝く
カラータイマーを持った、紛れもないウルトラマン! ウルトラマンティガが大地に立っていた!
「おぉぉッ!? あれはウルトラマン! ゼロ以外のウルトラマンが!」
「この状況で新たなウルトラマン!? 奇跡だぁーッ!」
「どうかぼくたちを、ゼロたちを助けてやってくれぇッ!」
 ティガの姿を認めたオンディーヌはわっと歓声を発した。しかしルイズだけは、ティガの
立ち姿をしげしげとながめ、ぽつりと小さくつぶやいた。
「サイト……!」
「――タァッ!」
 ティガはまっすぐに峡谷へ飛び込み、谷底に着地すると同時にガタノゾーアへタイマー
フラッシュを放つ。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 渾身のフラッシュが一瞬闇を照らし出して、ガタノゾーアの目をくらませた。その隙に
ティガは、額のクリスタルからエネルギーを照射。石像にされたゼロのビームランプから
光を分け与えた。
『――はぁッ!』
 たちまちの内に石化が解け、ウルトラマンゼロは復活して立ち上がった!

95ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 18:10:11 ID:hTCLJjSU
「やったぁぁぁ―――――! ゼロがよみがえったぞぉぉぉぉぉッ!!」
 谷底を見下ろしたオンディーヌの歓声が強まった。ゼロはティガに振り返って驚愕。
『ウルトラマンティガ!? どうしてここに……』
 聞きかけたが、その顔をよく確かめて、更に目を見張った。
『才人なのか……!』
 ティガはゆっくりとうなずき、ガタノゾーアへと構えながら向き直る。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアの方も持ち直して、ティガとゼロへ対して触手を揺らめかせている。ゾイガーの
群れの方は、ティガの乱入によって持ち直したミラーナイトたちが食い止めてくれていた。
 ゼロもティガに合わせて、宇宙拳法の構えを取る。
『よぉーしッ! 一緒にあいつをぶっ倒そうぜぇッ!』
 ティガとゼロ、二人の光の戦士が強大なる暗黒の化身へと立ち向かっていく!
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアは触手を伸ばしてティガとゼロを迎え撃つが、ティガが素早くそれを両手
チョップで弾き返す。
「ハッ!」
「セェアッ!」
 そこにゼロがエメリウムスラッシュを撃ち込み、触手をガタノゾーアの方へ押し返した。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 しかしガタノゾーアの触手は無数にある。それが一辺に迫ってくる!
「ハァァッ!」
 だがゼロは動じずにゼロスラッガーを投擲。渦を描くように回転しながら飛ぶスラッガーは
触手を斬りつけながら押しのける。
「ヂャッ!」
 開かれた触手の中央にティガがティガスライサーを繰り出した。更にゼロがウルトラゼロ
ランスを投げ飛ばす。
「セェェェアッ!」
 二人の刃と槍が闇を切り裂きながら飛んでいき、ガタノゾーアをかすめて裂傷を入れる。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 初めてまともなダメージを食らったガタノゾーアが悲鳴のような咆哮を発した。
「す、すごい! さっきとは比べものにならない勢いだ!」
「あの怪物を押してるぞ!」
「何て連携の良さだ! 息ぴったりだよ!」
 ギーシュたちはティガとゼロの奮闘ぶりに感嘆。一人事情を知るルイズは、ぐっと拳を握った。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアがティガたちを纏めて始末しようと石化光線を発射してきたが、ティガと
ゼロは即座にジャンプして回避。そのまま空中で停止してガタノゾーアを見下ろす。
 互いにアイコンタクトを取ってうなずき合うと、それぞれ腕をまっすぐ横に伸ばして
必殺光線の構えを取った。
「タァーッ!」
「デェェェェヤァッ!」
 ティガのゼペリオン光線、ゼロのワイドゼロショットが同時にガタノゾーアに命中! 
そうすることで相乗効果を生み出す合体技、TZスペシャルだ!
「プオオォォォォ――――――――!!!」
 ガタノゾーアは膨れ上がっていく光のエネルギーを抑えることが出来ず、闇が光によって
打ち消されていく!
「ピアァ――――ッ!!」
 爆発的に膨張した光はゾイガーの群れをも呑み込んで、完全に消し去った。
 光が晴れると、超古代の怪獣軍団は跡形もなく消滅したのである。
「いぃぃやぁったあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
「勝ったんだ! 光の大勝利だぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッ!!」
 オンディーヌは一番の大歓声を上げて、互いに抱き合って喜び合う。ルイズも思わず口元を
抑えながら目尻に涙を浮かべた。

96ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 18:12:28 ID:hTCLJjSU
 ガタノゾーアたちを打ち倒したティガとゼロは着地すると、向かい合って光に変わっていく。
そして二人の光が混ざり合って、一つになった――。

『……結局、元の鞘に戻っちまったなぁ』
 ルイズたちの元へと歩いていく才人の左腕には、再びウルティメイトブレスレットが
嵌まっていた。再びゼロと融合した証拠である。
「何だか、もうこれがないと落ち着かなくなったよ。次からは勝手にいなくならないでくれよ? 
ゼロ」
『悪かった悪かった! それじゃあ、これからもよろしく頼むぜ……でいいんだな? 才人』
「ああ!」
 ゼロに力強く応じた才人の元へと一番に走ってきたのはルイズであった。彼女は才人の
胸をポカポカ叩きながら言う。
「どうして来ちゃったのよ〜〜〜〜〜!」
「何言ってんだよ、俺が来なかったら死んでたくせに。というか人を勝手に帰そうとしてんじゃ
ねぇよ!」
 怒鳴られたルイズが口をもごもごさせながら、激しく泣いた。
「だって……サイトがお母さんからの手紙見て泣いてるんだもん……可哀想になっちゃったんだもん……。
わたしより、家族の方がいいんじゃないかって……そっちの方があんたは幸せなんじゃないかって……」
 才人はルイズを優しく抱き締めて言った。
「自分の幸せは、自分で選ぶ。そして俺の幸せは、多分ここにあると思うんだよ……」
 感極まって才人を抱き締め返すルイズだが、そこにゼロが口を挟んだ。
『邪魔するようで悪いが、お袋さんのことはどうすんだ? せめて無事を知らせるぐらいの
ことはしてやるべきじゃ……』
 それに才人は、微笑みながらこう答えた。
「それなら心配ないぜ。こっちからもメールを送ったんだ」
 才人の懐の通信端末には、先ほど才人が地球へと送信したメールのデータが入っていた……。

 母さんへ。

 驚くと思いますけど、才人です。黙って家を出てしまい、ほんとにごめんなさい。いや、
ほんとは黙って出た訳じゃないけど……言っても理解されないと思うので、そういうことに
しておきます。とにかく、ごめんなさい。
 メールありがとう。
 心配してくれてありがとう。
 さっき、ちょっとだけ母さんの顔が見えました。ちょっとやつれてたんで、悲しくなりました。
心労で喉が通らないかもしれないけど、ちゃんと食べて下さい。
 俺は生きてます。
 無事ですから、安心して下さい。
 俺は今、地球とは別の世界にいます。そこでウルトラマンになってます。
 信じてくれないとは思いますけど、ほんとのことです。頭がおかしくなったと
思われても仕方ないけど……ほんとです。
 その世界は、怪獣がたくさんいて大変なことになってます。俺の友達や大事な人がとても
困ってるんです。
 俺は、その人たちの力になりたいんです。
 だからまだ……帰れません。
 でも、いつか帰ります。
 お土産を持って、帰ります。
 だから心配しないで下さい。
 父さんやみんなによろしく伝えて下さい。
 取り留めなくてごめんなさい。急いで書いてますんで。
 母さんありがとう。
 ほんとにありがとう。
 ウルトラマンは大変だけど、俺は幸せです。
 生んでくれてありがとう。
 それではまた。平賀才人。

97ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/16(土) 18:13:22 ID:hTCLJjSU
以上です。
一話の中で二回死ぬガタノさん。

98ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/17(日) 19:52:01 ID:XAEoHj8Q
こんばんは、焼き鮭です。続けて久々の幕間を投下します。
開始は19:55からで。

99ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/17(日) 19:55:45 ID:XAEoHj8Q
ウルトラマンゼロの使い魔
幕間その十「歴史の真実と謎」

 ガリア王国が送り込んできた恐るべき超古代怪獣軍団は、ウルティメイトフォースゼロと
ウルトラマンティガに変身した才人の活躍によって撃滅された。しかし、これはガリアとの
真の戦いの、ほんの前哨戦でしかなかったのだ。
 ヴィットーリオは即位三周年記念式典で、ガリアへ対する“聖戦”を宣言したのだ。
「我が親愛なるロマリアの民、及び始祖と神の僕の諸君。此度は北方より来たる悪魔の軍勢が
神の遣わした戦士たちにより退けられ、この祝祭の席を開けたことは真に幸いです。……しかし
ながら、あの悪魔どもは悲しいことに、我々と同じ人間の手によってけしかけられたものなのです」
 ヴィットーリオの演説に、集ったブリミル教の信徒は一斉にどよめいた。
「その黒幕とはガリア、悪魔を操り神に仇なす異端の名はガリア王ジョゼフ一世。そうでなければ、
あの悪魔どもがガリアをただ通過してこのロマリアの地に侵攻してくる理由がありません。また、
ガリアの異端どもはエルフとも手を組み、我らの殲滅を企図しているのです」
 信徒たちに動揺が走る。ヴィットーリオの言には確たる裏づけが欠けているが、先ほど
怪獣たちの脅威に晒されて不安と恐怖のどん底にあった民たちは、その反動もあって面白い
ほどに鵜呑みにし、ガリアに対する怒りに燃え上がった。
「最早悪魔の力を行使し、我が物顔に我々の土地と生命、そして信仰を蹂躙しようとする
異端の陰謀を許してはおけません。わたくしは始祖と神の僕として、ここに“聖戦”を
宣言します」
 そのひと言により、ガリアとの戦端がはっきりと切って落とされてしまったのであった。
 ……アクイレイアのルイズたちがあてがわれた客間では、ロマリアの耳がないことを確認
してから、ルイズがそのことに対しての苛立ちをぶちまけた。
「何が陰謀を許してはおけない、よ。陰謀を張り巡らしていたのは自分たちの方じゃない! 
あんな奴の持ちかけた話に乗っかった自分を呪いたいくらいだわ!」
 ルイズの格好はロマリアから与えられた巫女服ではなく、普段の学生服だ。才人から、
地球へのゲートをくぐろうとしたら撃ち殺されていたという話を聞いた途端に、怒り心頭して
巫女服を捨てたのであった。曰く、もうこんなものに袖を通していられない、と。
「ガリア王をおびき寄せて廃位に追い込むなんてのも、こっちを乗せるための建前に
過ぎなかったんだわ。この状況こそが本当の目的……。そのために国境付近にあらかじめ
軍を配備して、ガリアを挑発した。何が“人間同士の戦火を止める”よ! そのために
戦火を起こすなんて、本末転倒じゃない! ここまで来たらエルフとの交渉なんてのも
信用ならないわ!」
 才人はヴィットーリオへの怒りを喚くルイズにうなずきながらも警告する。
「気をつけろよ。あいつらは異常だぜ。おまけにその異常さに気づいてて、しかも肯定してやがる。
一筋縄じゃいかないぜ」
「サイト、やっぱりあんたは帰るべきよ。こんな世界につき合うことはないわ。向こうは
あんたを生かして帰さないつもりみたいだけど、ゼロに変身さえしてしまえばどうしようも
出来なくなるわよ」
 改めて才人を説得するルイズだったが、才人はきっぱりと言った。
「見足りない。だからまだ、帰らない」
「何を?」
「お前の笑顔」
 そのひと言にルイズは言葉の通りに真っ赤になり、照れくさいやら嬉しすぎるやらで
ぎくしゃくとした動きをした。
 そんなところに口を挟むゼロ。
『いちゃついてるとこ悪いんだがよ』
「い、いちゃついてなんかないわよ!?」
『ガリアとロマリアのことは一旦置いておいて、そろそろ才人が見たっていう六千年前の
夢のことについて話し合おうぜ。きっとかなり重要なことに違いねぇ』
 この客間には今、ミラーとグレン、そしてミラーがシエスタから腕輪を借りてきたという
形でジャンボットもいる。彼らはこれから、才人の夢のことについて相談と会議を始めるのだ。

100ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/17(日) 19:58:25 ID:XAEoHj8Q
 話し合いの席をミラーが仕切る。
「まずはサイト、改めて確認します。あなたが見た夢というのは、始祖ブリミルと初代
ガンダールヴが出てくる内容で間違いないですね?」
「ああ」
 はっきりと肯定する才人。
「初めは単なる夢かと思ったけど、やたらとリアルだったし……それに、夢と同じように現実に
俺がウルトラマンティガに変身したんだ。今はほんとに時間をさかのぼったとしか思えねぇや。
今はもうティガに変身できないけど……」
 才人がゼロと再び融合してから、スパークレンスはいつの間にか消えてなくなっていた。
恐らく、ティガはもう自分の元からは去ったのだろう。きっと、才人を助けるという役目を
終えたからだ。
 これに意見するルイズ。
「でもおかしいじゃない。あんたの身体はずっとこの現代の時間にあったままだったんでしょ?」
「ジュリオの奴がずっと監視してたみたいだからな。あいつが嘘を言う必要はないだろ」
「それじゃあ過去に行くなんてこと出来ないじゃないの。変な言い方だけど……現代と過去の
二つの時間に、同時に存在するなんて」
 そのルイズの意見についてジャンボットが論ずる。
『これは憶測に過ぎないが、サイトは精神だけが過去へ移動したのではないだろうか』
「精神だけ?」
『そうとすればつじつまが合う。精神が今の時間にないのならば、サイトがずっと眠ったまま
だったのも当然となる』
「いや、いくら何でもそれは無理があるんじゃ……」
 半信半疑のルイズだが、ゼロはジャンボットを支持した。
『ウルトラ戦士の周りじゃあ奇跡的な出来事がよく起こるもんだぜ。俺自身、何度か経験がある』
「奇跡ってそうそう起こらないから奇跡って言うんじゃないの……?」
 冷や汗を垂らすルイズであった。
 ここでグレンが話題を切り換える。
「難しいことは分かんねぇけどよ、今重要なのはサイトが実際過去に行ったかどうかじゃ
ねぇだろ? サイトの体験したことが真実かどうかだ」
 重々しくうなずくルイズ。
「そうね……。仮にサイトの見たものが全て事実だとしたら、これはハルケギニアで語り
継がれた歴史がひっくり返るほどの大発見よ。始祖ブリミルがエルフを使い魔にしてたなんて!」
 興奮するルイズ。それはそうだ。エルフと言えば人間の仇敵であり、始祖ブリミルの最大の
敵だった悪魔。その教えが、完全に否定されるのだ。
 才人が後を引き継ぐ。
「しかも六千年前の時点で既に怪獣はハルケギニアにいたんだぜ。そしてブリミルとエルフは
一緒にそれに立ち向かってた。ほんとに、今まで聞いたことと丸っきり真逆だ」
「でも、それをどうやって事実か確かめればいいのかしら……」
「そうだ、デルフに聞いてみよう」
 才人はデルフリンガーを鞘から引き抜いた。デルフリンガーが初代ガンダールヴの得物
だったのならば、当然当時のことを知っているはずである。
「よ。伝説」
「やぁ相棒。ようやく俺の存在を思い出したってのか。全く薄情なこって」
「ごめんごめん、忙しくて気が回らなかったんだよ。それで、俺が見たものってほんとのこと? 
それともよく出来たフィクション?」
「ほんとのこったろ」
 デルフリンガーのあっさりとした肯定に、この場の全員が目を丸くした。ルイズはデルフ
リンガーをなじる。
「あんた、何でそんな大事なことを今まで黙ってたのよ!」

101ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/17(日) 20:00:31 ID:XAEoHj8Q
「黙ってた訳じゃねぇよ。忘れてたんだ。でも、相棒の言葉で思い出したんだ。そういや、
そうだったなって」
「じゃあ思い出したこと、全部話なさいよ!」
「無理だよ……。何せ断片的でな。つまらねぇことなら割と思い出せるんだが、肝心なことは
サッパリさ」
「ブリミルさん、何かニダベリールとか名乗ってたよ」
「多分、若い頃の名前だな。そん時は俺はまだ生まれてなかったから知らねえけど」
「そういや、あの時お前はどこにもいなかったな」
 相槌を打つ才人。ここでミラーが一旦注目を集める。
「これで裏づけが取れましたね。サイトが見たものは真実だった。……ですが、そうとすると
別の疑問が生じます。それは、何故その内容が今の世に全くといっていいほど伝わっていないのか」
「だよなぁ〜。怪獣が元々この星にいたなんて話、今ここで初めて聞いたぜ」
 腕組みしながらうんうんとうなずくグレン。中にはソドムのように伝説の巨竜という形で
存在が言い伝えられていた例外もあるが、そんなのは極一部だ。ゼロたちはこれまでずっと、
ほとんどの怪獣たちは次元震の影響でハルケギニアに侵入したものだと思っていた。
 ジャンボットは言う。
『正確には、元からいた訳でもない。六千年前、ブリミルたちとほぼ同時期にどこかから
出現するようになったみたいだな』
「そのどこかってどこだよ」
『それが分からないから、今こうして話し合っているのだろうが』
 グレンに手厳しく突っ込むジャンボット。ミラーは顎に指を掛けて考え込んだ。
「始祖ブリミルは元々ハルケギニアの民ではなかったのですよね。“虚無”の力で、どこかから
移住してきた……。それと怪獣の出没が同時というのは、無関係ではない気がします。始祖の
元いた土地とはどこなのか……それが分かれば答えに一気に近づけるのでしょうが」
「でも始祖ブリミル降誕の地、つまり聖地はエルフに牛耳られてて、近づくことすら出来ないのよね」
 ため息を吐くルイズ。その聖地を取り戻すことが、ヴィットーリオの最終目的のようだが。
 ゼロがミラーに提案する。
『ミラーナイト、お前の能力で探りを入れられねぇか? 鏡の世界からエルフの土地を覗き込んでさ』
「やってみましょう」
「俺としては、怪獣もそうだけど、ウルトラマンが六千年前のハルケギニアに来てたって
ことの方が興味あるな。それも一人や二人じゃなかったみたいだぜ」
 才人が少しわくわくしながら言った。それに同意するゼロ。

102ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/17(日) 20:02:52 ID:XAEoHj8Q
『俺も同じウルトラ戦士として興味深いな。けど、それも怪獣の存在と同じように伝承されて
ないみてぇだな』
「一応、始祖ブリミルの伝説には、始祖は神の遣わした天使とともに悪魔と戦ったとあるわ。
わたしはずっと、悪魔っていうのはエルフのことだと思ってたけど……」
 顔をしかめるルイズ。ここまでの話から考えるに、悪魔の正体とは怪獣だったのだろう。
「でも、この程度の表現でしか言い伝えられてないってのはちょっと奇妙よね。いくら六千年の
隔たりがあるとはいえ、もうちょっと具体的に伝承されてても良さそうなものなのに」
 とのルイズの言葉に、ミラーはしばし考え込んでから、言い放った。
「もしかしたら、長い時間の中で自然に忘れられたのではなく、何者かが情報を隠蔽したの
ではないでしょうか。だから後世に正しい形で伝わらなかったのでは」
「えぇ!?」
「そもそも始祖の祈祷書、“虚無”の呪文書も、指輪がなくては読めないという注意書きが、
読めない文の中に含まれていたのでしょう。普通、そんな致命的なミスをすると思いますか?」
 内心同意するルイズ。これまでもいささか妙なことだとは思っていたが……誰かが“虚無”を
目覚めさせないように、そのように細工したとするなら納得できる話だ。
「デルフリンガーもほとんどのことが思い出せないのも、ひょっとしたら記憶を封じられて
いるからかもしれません」
「ってことはこいつをいじったり何かしたら、記憶が一辺に思い出させられるかもしれねぇってか?」
「おいおいやめてくれよ。変なことすんのはさ。頭はねえが頭ん中いじくられんのはさすがに
御免だぜ?」
 グレンの提案を拒否するデルフリンガー。ジャンボットも同意する。
『デルフリンガーは生物でも、電子頭脳でもない。私たちには未知の力で生命を維持している。
下手なことをしたら、デルフリンガーという存在そのものが消えてしまうかもしれん。危険すぎる』
「だよなぁ。さすがに仲間の命に代えられることじゃねぇや」
 デルフリンガーの記憶を無理に呼び覚ますという手段は却下される。しかしそうすると、
現状ではこれ以上謎に近づく道はない。
 議論が煮詰まってきたところで、ゼロが取り仕切った。
『これ以上俺たちで話し合ってても先には進まねぇ。この先ハルケギニアでの冒険を続けりゃ、
答えに近寄れるものも見つけられるだろう。それまでは放置だ』
「そうね。とりあえずは、今目の前にある問題を解決するところから始めましょう」
「ああ。まずはガリアをぶっ倒して……それからロマリアの聖戦とやらを止めてやるんだ」
 ゼロの出した結論にルイズ、才人と賛成し、全員の気持ちが一致した。
 これから彼らは、再び起こってしまった戦乱と、争いを引き起こす目論見を阻止するために
行動することを、ここに決意したのであった。

103ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/17(日) 20:04:02 ID:XAEoHj8Q
ここまでです。
ガリア編もいよいよ終局が見えてきました。

104名無しさん:2017/09/19(火) 17:42:54 ID:rN4rAlWU
乙ー

105ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 12:51:19 ID:eipzXTp6
ウルゼロの人、乙です。
そしてこんにちは。ウルトラ5番目の使い魔、65話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

106ウルトラ5番目の使い魔 65話 (1/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 12:56:08 ID:eipzXTp6
 第65話
 剣下の再会(前編)
 
 殺戮宇宙人 ヒュプナス 登場!
 
  
 謎の宇宙人の手により、書き換えられた舞台となったハルケギニア。
 そこでは彼によって、今日もなんらかの陰謀が進められている。
 しかし、忘れてはいないだろうか? この世界には、数々の災厄の発端となったあの侵略者がまだ健在でいることを。
 そして、奴は当然他人の事情などを鑑みたりなどしない。腐肉にたかるハゲワシやハイエナが譲り合うことなどしない。
 
 
 『それ』が、いつハルケギニアにやってきたのか。そんなに昔の話ではない。
 『それ』は、ハルケギニアが破滅招来体によって闇に閉ざされている時期のいずれかに、嵐に包まれる聖地から現れた。
 『それ』は、巨大な宇宙船に乗ってやってきた。
 送り込んできたのはヤプール。奴は、まだ動けない自分に代わって、ハルケギニアに混乱を巻き散らすエージェントとして『それ』と契約し、送り込んだのだ。
 しかし、『それ』が底に秘めた邪悪を、ヤプールさえまともに理解しているわけではなかった。
 悪は正義の敵となる。しかし、悪が悪の味方となるとは限らない。『それ』が誰を傷つけ、誰を利するのか、
 そして時が経ち、解き放たれた美しき殺戮者の魔の手によって彩られる、短くも真紅に満ちた日々が始まろうとしている。
 これは、物語の大筋のほんのすきまに挟まれた、悪夢のような数週間の記録。その始まりである。
 
 
 トリステイン魔法学院の遠足や、トリスタニアを騒がせた三面のバカどもの騒動からもしばらくして、トリステインは再び平穏な日々を送りつつあった。
 だがその影で、無視できない凶事が進行していることを、新聞の一面を見た市民は暗然とした思いで感じ取っていた。
「子供の行方不明事件、昨日もタルブ村で三件発生。トリステインだけでも、これで二十四人の子供が突然いなくなっている……か。うちのガキにも外に出るなって言っとくか」
 ある日、なんの前触れもなく子供が姿を消す。子供を持つ家庭を震え上がらせる事件が、このところトリステインやガリアで頻発していた。
 身代金の要求などはなく、消える子供も貴族や平民を問わずに、子供であるという共通点以外はない。
 
 もちろん、こういった事態を官憲が見逃すわけはない。近年禁止になった奴隷取引の密売目的と見て、すでに水面下では動き始めている。
 しかし、敵もさるもので、いまだに誘拐団の検挙にはいたっていない。しかし、少ない手がかりを元に、少しずつ捜査の網を絞り込んでいっていた。
 そして、その捜査をおこなう人間たちの中に、青髪の女騎士の姿もあった。
「では、お子さんを最後に見たのは三日前の……わかりました。ご協力感謝します」
 ある村で、突然息子が消えた家での聞き込みを終えて、浮かない様子で彼女は出てきた。

107ウルトラ5番目の使い魔 65話 (2/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:01:27 ID:eipzXTp6
 ここもほかと同じで、目ぼしい手がかりはなかった。だがそれ以上に、憔悴しきった様子の両親の姿が痛々しかった。目を腫らして、恐らく子供がいなくなってからろくに寝ていないに違いない。
 しかし、捜査に進展がないというわけではなかった。彼女の手には、真新しい報告書の写しが握られていて、それには約一年半ほど前に解決したはずの、ある事件の顛末が記されていた。そして、その首謀者の名前に目をやったとき、彼女の眉が不快気に揺れた。
「やはり手口が似ている……今さら出てきて今度は何をしようというんだ。それともお前、まだあの頃の遊びの続きをしているつもりなのか……?」
 書類をしまい、彼女は歩き出した。まだ、どこの衛士隊も犯人の足取りさえ掴めていない。しかし、彼女の足取りには迷いがなく、やがて彼女の姿は真夏の陽炎の中に消えていった。


 
 そんなある休日のことである。才人はルイズやティファニアとともに、トリスタニアにある修道院の孤児施設を訪れていた。
「あっ、テファお姉ちゃんだ。おーいみんな、テファお姉ちゃんたちが来てくれたよーっ!」
 子供の元気な叫び声が施設にこだまして、たいして大きくもない施設から子供たちがわっと飛び出してきた。
「テファおねえちゃん!」
「わーい! テファおねえちゃんだ」
「みんな、ただいま。いい子にしてた?」
「はーい!」
 子供たちは、親同然に慕っているティファニアがやってきたことで、踊るように喜んで集まってきた。
 その子供たちに、ティファニアや才人は手にいっぱいに持ったお菓子やおもちゃなどのお土産を差し出した。たちまち群がる子供たちの手に奪われて、才人たちの手は空になる。
「みんな、久しぶりだな。元気してたかよ」
「うん、サイトおにいちゃんたち、ありがとう」
 クッキーを手にした子にお礼を言われて、才人はまとまりの悪い髪をかいて照れた。
 この施設の子供たちのほとんどは、才人やルイズにとっても見慣れた相手だ。彼らはウェストウッド村にティファニアといっしょに住んでいたが、ティファニアがガリアにさらわれた際に子供たちだけで村に残すのは危険だと判断してトリステインへ連れてきた。その後も、何もない森の中よりは人のいる場所で生活させたほうが子供たちの将来にとって望ましいということで、この施設に預けられたのである。

108ウルトラ5番目の使い魔 65話 (3/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:02:22 ID:eipzXTp6
 もちろん、子供たちはティファニアと離れ離れになるのはつらかった。しかし彼らは健気にも聞き分けて、慣れない土地での共同生活を受け入れた。そして、彼らが楽しみにしているのが、ときおりのティファニアの訪問なのである。
「オッス、サイトのあんちゃん。テファねえちゃんに手ぇ出してないだろうな」
「ようジム、お前も元気そうだな。前より背が伸びたか? てか太ったかコラ」
「やべっ、やっぱそう見えるかい。まじいなあ、最近メシがうまくってついつい……これじゃテファねえちゃんに見せられないよ」
 少年のひとりと憎まれ口を叩きあいながら才人は笑った。子供たちはみんな血色がよくて元気そうだ。ウェストウッド村で遊んだ時と変わらないわんぱくっぷりは、彼らがこのトリステインになじんだ証なのだろう。
 また、ルイズはこの修道院の管理人である老神父と和やかに話していた。
「ありがとうございます、貴族さま。遠路お越しいただきまして、おかげで子供たちもとても喜んでおります」
「かまわないわ。わたしにとっても浅い仲じゃないもの。あはは、サミィにマリー、後で遊んであげるから、今は神父様とお話があるから、ちょっと我慢してね」
 子供のパワーには、さすがのルイズもたじたじであった。そんなルイズに、しわだらけの顔をした老神父が穏やかに話しかけてくる。
「皆、元気で素直で、健やかに育ってくれております。よほど、あの子たちを育てたティファニア殿の教育がよかったのでしょうな。私共としても、あの子らが育つのを見るのが楽しくて仕方がない毎日なのです」
「そうね。この子たちが大きくなれば、きっとトリステインはいい国になるわ。それより、運営費のほうは大丈夫? もし足りないなら、女王陛下に上申してあげるけど」
 孤児院は主に教会の寄付などで運営されているため、正直安定しないのが実情だ。ほかにロングビルことマチルダも資金を出してはくれているものの、子供を育てるには本当に金がいくらあっても足りないものだ。幸い、ここは神父様がよくできた方なので子供たちの教育については心配ないけれど、金銭についてはロングビルが今でも不安を感じていることはルイズも知っていた。
 けれど神父様はにこやかに首を振った。
「いいえ、実は最近ゲルマニアのお金持ちの方が援助をしてくださるようになったので、今では子供たちにお腹いっぱい食べさせることができております」
「ふーん、ゲルマニアにも奇特な奴がいるのねえ。キュルケに爪の垢を煎じて飲ませたいものだわ」
 ルイズは素直に感心した。ゲルマニアの金持ちといえば守銭奴のイメージが強いが、中には例外もいるものだ。
 だが、これでアンリエッタに余計な心労をかけさせないですむのはありがたい。ルイズはたまにアンリエッタに送る手紙の中で、市政の様子を簡単でもいいから報告してほしいと頼まれていた。今回、ティファニアに付き合ってここに来たのもその一環で、トリステインの財政は現在安定しているけれど、あらゆる場所を満足させるのは不可能だ。当然、どこかでゆがみが生じるため、そこに民衆の不満が集まることになるのだが、どうやら次に出す手紙に心苦しいものを書かなくてもよさそうでほっとした。
 しかし、老神父は少し顔を曇らせると、ルイズにだけ聞こえる声で不安を口にした。
「ただ、心配なのは最近新聞を騒がせている誘拐事件です。もうかなりの数の子供が消えていると言いますし、我々も心配で」
 するとルイズも顔を曇らせた。
「そうね。どこの誰かは知らないけど、性根の腐った奴がいるものね。わたしが見つけたらトリステインから叩き出してやるところだけど、犯人が捕まるまでは子供たちから目を離さないほうがいいわね」
「おっしゃるとおりです。ですが、なにぶんみんな遊びたい盛りの頃。大人の我々では抑えきれないものがありましてなあ。よいことなのですが、複雑なことです」

109ウルトラ5番目の使い魔 65話 (4/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:03:50 ID:eipzXTp6
 確かに、子供たちのパワーはすごいものだ。真面目に考え込んでいたルイズの前で、才人が悲鳴をあげながら、あっちからこっちへと引っ張られていく。ウェストウッド村のときと変わりない光景に、ルイズの頬も緩んだ。
「あはは、あれじゃサイトが一番のおもちゃね。テファ、サイトを助ける必要なんかないわよ。無駄に頑丈だからその程度じゃ死にゃしないって」
「お、おいルイズ、そりゃねえって! いてて!」
「なに言ってるの。テファにいっしょに来ないかって誘われて、即答したのはあんたでしょうが。もうしばらくそこで遊ばれてなさい」
 にべもないルイズの言葉に、才人は悲鳴をあげながら子供の波の中へと消えていった。
 とはいえ、ルイズのほうもいつまでも高みの見物とはいかず、何人かの子供に誘われると仕方なくついていった。そこで、女の子に編み物を教えようとして毛糸玉を作り、逆に教えられて顔を赤くしているのはルイズらしいと言うべきか。
 しかし、子供たちに翻弄されながらもティファニアだけでなく、才人やルイズの表情は明るい。ちびっこと遊ぶのが大好きというのは全宇宙のウルトラマンたちの共通点かもしれない。
 
「つ、疲れた」
 しばらくしてやっと解放された才人は息をついた。下手な訓練やドンパチよりよほど体力を使う、これを日常的にやってるんだから子供というのはたいしたものだ。
 教会の古ぼけた椅子に座って才人が休憩していると、そこにとことこと一人の少女が寄ってきた。
「サイトおにいちゃん、大丈夫?」
「ん? おっ、アイちゃんか。元気そうだな、みんなと仲良くしてるか?」
「うん、男の子たちはアイの子分なんだよ。いつかアイの騎士団を作って、おじさんに見せてあげるんだ。えっへん」
 小さな胸をはる少女を、才人は優しく頭をなでてあげた。
 才人にとって、この幼い少女の成長を見届けるのは感慨深いものがある。今となっては懐かしい思い出になるが、自分がハルケギニアに来て間もない頃の事件で、彼女と彼女の育ての親であったミラクル星人をテロリスト星人の魔の手から救い出したことがある。その後、星に帰ったミラクル星人からこの少女、アイを引き取り、ティファニアのところに預けて成長を見守ってきた。
 アイは才人になでられて、うれしそうに笑った。それに釣られて才人も笑みを浮かべる。兄弟のいない才人にとって、アイは年の離れた親戚の子のような存在であった。
「おじさんと会えなくて、寂しくないか?」
「うん、少し……でも、アイが寂しがってるとおじさんが安心してお星さまに帰れないもの、我慢するの。それに、今はみんながいるし、サイトお兄ちゃんたちも会いに来てくれるもん」
「そっか、偉いねアイちゃんは。ほんと、ルイズもこれくらい素直なら可愛げがあるんだがなあ」
「あーっ、いけないんだいけないんだ。ルイズお姉ちゃんに言っちゃうぞ」
「げげっ、それは勘弁してくれ。ほら、飴あげるから」
「わーい」
 子供は意外とリアリストなもので、大人を出し抜く術をいくらでも知っている。才人は、冷や冷やしながらポケットの中に菓子を残していた自分の賢明さを褒めたたえていた。

110ウルトラ5番目の使い魔 65話 (5/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:07:35 ID:S9iHivT2
 教会の中にいるのは、休憩に入った才人とアイだけで、涼しい空気が流れてがらんとしている。掃除が行き届いているようで清潔なものだが、子供たちの遊び場にもなっているようで、ところどころの椅子が乱れていた。
「みんなといっしょに遊ばなくていいのか?」
「うーん、ちょっとくたびれちゃった。だってみんな子供なんだもの。でもアイは大人だから、サイトおにいちゃんをおもてなししてあげるの」
「はは、ありがとうな」
 才人はもう一回、アイの頭をなでてあげた。
 精一杯背伸びをする子供というのはかわいいものだ。才人にも、あまり思い出したいものではないがこういう時期があった。もっとも、今でも抜けきったわけではないが、人間は自分以外のことはよくわかるものだ。
 耳をすませば、子供たちの遊ぶ声がまだ教会の外から聞こえる。ティファニアはひっぱりだこだろうし、ルイズのヒステリーを起こす声が聞こえるところからすると子供に負けてむきになっているようだ。
「ありゃあ、今は近寄らないのが身のためだな」
「じゃあ、お兄ちゃん。こっちに来て、おもてなししてあげるから」
「おっ、なにかななにかな?」
 才人はアイに手を引かれて教会の裏手に入っていった。
 子供たちや職員はほとんどが庭のほうへ行ってしまったようで、人気のない廊下を走ってゆくと、そこには素晴らしい光景が広がっていた。
「ひゃあ、教会の裏庭はひまわり畑だったのか」
 驚く才人の前に、太陽の畑が広がっていた。
 夏の日差しに照らされて、背の高いひまわりが何百と空へ向かって伸びている。そのまぶしい光景を誇らしげに、アイは才人に語って聞かせた。
「むふん、ひまわりはね。そのまま売ってもいいし、種をとって油を搾れば売れるしで、教会のうんえーひになるんだって。ついでに、わたしたちのじゅーそーきょーいくにもいいんだって、神父様が言ってた」
「そうなのか。おれなんて、小学校の頃にハムスターのエサにしたくらいしかしてないのに、みんな偉いな。それで、これをおれに見せたいのがおもてなしかい?」
「ブッブー、こっちに来て。奥の小屋で、ひまわりの蜂蜜から作ったジュースを作ってるの。サイトお兄ちゃんにだけ、特別に飲ませてあげる」
「おっ! そりゃ楽しみだ」
 喉が渇いていた才人は一も二もなく飛びついた。
 ひまわり畑の中の道をアイに手を引かれてついていく。途中で何匹もの蜂とすれ違ったが、何百という花の中では人間なんかどうでもいい様子で八の字ダンスを踊っていた。
 目的の小屋は畑の奥にあり、人の背より高くなったひまわりにさえぎられて、近くに行かなければ見えないものだった。

111ウルトラ5番目の使い魔 65話 (6/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:20:54 ID:S9iHivT2
 アイはこっそり持ち出していた小屋の鍵を取り出し、待っててねと笑う。ところがである。小屋の影から、ひそひそと誰かの話し声が聞こえてきた。
「だから……よし……いいぞ」
「これで……終わり……やっと」
 野太い男の声。しかも二人……才人は一瞬、教会の職員の誰かかと思ったが、その身に沁みついた経験から無意識に警戒態勢に入り、そっと小屋の裏をうかがった。
「サイトお兄ちゃん?」
「しっ、ちょっと静かにしてて」
 何がとは言えないが、嫌な予感がしてならない。そして小屋の壁に隠れて、裏の気配をうかがうと、確かに人の気配がする。
 なんだ? ガサゴソという音がする。それに、「ずらかるぞ」という声も聞こえた。もう怪しいどころではない。才人は背中のデルフリンガーの存在を確かめると、一気に飛び出した。
 
「お前ら、そこでなにしてやがる!」
 
 飛び出した才人の大声に、隠れていた二人の男がびくりとなって振り返る。
 果たして、そこにいたのは教会の人間ではなかった。一般的な平民の服をまとっているものの、筋肉質の見るからに傭兵くずれじみた雰囲気を放つ男。ここは教会の敷地内、無許可の人間が立ち入ることはできないはずだ。
 だが、才人は二人の男が運び出そうとしていた荷物にこそ目がいった。ひとりが担いだ大きな麻袋から、子供の足がわずかに覗いていた。
「あの靴、マーちゃんだよ!」
「てめえら、最近噂の人さらいだな。覚悟しやがれ、ぶっとばしてやる!」
 激高した才人はデルフリンガーを抜いて切りかかっていった。男たちは、ここで人が出てくるとは予想外だったようで、才人の振りかざしたデルフリンガーにおびえて、担いでいた子供を麻袋ごと落としてしまった。
 とたんに、しまった、と声をあげる人さらいの男。それと同時に、アイも教会のほうへ向かって、「誰かーっ! 人さらいだよ! 早く来てーっ!」と、大声で叫ぶ。
 今の声は間違いなく届いているはずだ。すぐにルイズたちが駆けつけてくるだろう。
「ここが年貢の納め時だな。観念しろ、悪党ども!」
 才人はアイをかばいながら、うろたえている人さらいたちにデルフリンガーを突き付けた。
 だが、勝ったと思った才人はここで一瞬だが致命的な油断をしてしまった。

112ウルトラ5番目の使い魔 65話 (7/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:21:35 ID:S9iHivT2
「んだ? ね、眠い……?」
 突然、急激な眠りが湧いてきた。才人がなんとか目を凝らしてみると、もう一人の男が杖を握っていた。
「しまった。メイジがいたのか」
 催眠の効果を持つ魔法を使われたのだということに気づいたときには遅かった。才人は立っていることができず、ひざをついてしまう。
 起きて、とアイが叫んでくるが、魔法の力をまともに受けては才人も気を失わないだけで精一杯だった。
 そして、逆転に成功した人さらいの男たちはほっと息をついて話し合った。
「アニキ、やりましたね。まさか、こんなところに剣士がいるとは。こいつ、どうしやす?」
「バカ野郎、こいつらには俺たちの顔を見られてる。ガキは捕まえろ。小僧は俺が始末する」
 人さらいたちは冷酷だった。アイに子分の男が襲い掛かって、たちまち手を取って捕まえる。アイは離してと叫ぶが、大人の力には抗いようもない。
 対して才人には、メイジの男が魔法の矢を放ったが、そこでメイジは自分の目を疑った。
「なにっ! 魔法が吸い込まれた。マジックアイテムの剣か!」
 デルフリンガーの効力で、才人に向かった魔法は刀身に吸い込まれて消えてしまった。メイジの男は動揺し、さらにそこにひまわり畑の向こうから声が響いてきた。
「サイトーッ!」
 危急を知ってルイズや神父たちが駆けつけてきたのだ。大勢の足音が近づいてくることに、人さらいたちは焦る。
「アニキ、まずいですぜ!」
「くそっ! 仕方ない、こいつらの始末は後だ。そっちの小僧も担げ! 逃げるぞ」
 才人をすぐに始末するのは無理と判断した人さらいたちは、やむを得ずアイといっしょに才人も担いで走り出した。
 教会の裏庭の先は、塀を隔てて小道になっている。彼らは塀に空いた穴から抜け出ると、そのまま先に進んだ通りに止めてある馬車に飛び込んで御者台で待っていた男に怒鳴った。
「すぐに出せ! まずいことになった」
 御者の男はそれで事態を理解したようで、即座に馬車を出発させた。
 馬車は通りから大通りに出ると、何事もなかったかのように淡々と進んでいく。馬車の形はありふれたもので、もし追っ手が馬車を見たとしても大通りで別の馬車列に紛れてしまえば発見は困難になると思われた。
 ただし、通報されてトリスタニアの出口に検問を張られたら出られなくなる。昔と違い、今は役人も少々の賄賂では動いてくれなくなった。

113ウルトラ5番目の使い魔 65話 (8/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:24:17 ID:S9iHivT2
 しかし、人さらいたちは逃げ切れるという確信があるというふうに、悠々と馬車をある方向に走らせ続けた。
 
 そのころ、人さらいたちを見失ったティファニアやルイズたちは、やむを得ず衛士隊に駆けこんでいた。
「ああ、こんなことになってしまうなんて。サイトさん、アイちゃん、どうか無事でいて」
「落ち着いてテファ、衛士隊が動いた以上、どのみちもう犯人たちはトリスタニアからは出られないわ。サイトたちはまだ必ずトリスタニアにいる。あきらめずに探すのよ」
 必死に冷静になるように自分をはげまし、ルイズはなんとしても才人を助け出すと誓った。しかし広いトリスタニアのどこを探せばいいものか、皆目見当もつかなかった。
 教会では、神父様や子供たちが必死に二人の無事を祈り続けている。彼らにできることは、神に祈ることしかほかになかった。
 誘拐事件がトリスタニアのど真ん中で起こったことで、威信を傷つけられた衛士隊は全力で捜索を開始した。が、犯人につながる有力な情報は、日没を迎えても何一つ見つからなかったのだ。
 
 一体、才人とアイをさらった誘拐団の馬車はどこに消えたのか?
 その姿は、平民の住まうごみごみとした市街地ではなく、貴族の邸宅の並ぶ高級住宅街の中の、一軒の廃屋の中にあった。
 そこは、見捨てられてしばらく経つ廃屋。しかも買い手がつかなかったと見えて、外から見たら人がいるとはとても思えないような幽霊屋敷であった。
 馬車は門をくぐると、邸宅の庭から地下に向かって空いた入り口に入っていって姿を消した。どうやらこの家では、外観の保全のために車庫を地下に設置していたらしい。目立つ馬車を隠すには、もってこいの構造と言えた。
「おら、降りろガキども!」
 車庫の奥の倉庫で、才人とアイは乱暴に馬車から引きずり出された。
 才人は馬車に揺られていた間に魔法の効果が薄れ、ある程度は意識が戻っているものの、まだ体をまともに動かせないでいる。そんな才人に、人さらいの男は才人の手から奪ったデルフリンガーを突き付けた。
「へっへっ、余計なことしてくれたなクソガキが。おかげで俺たちは姉御に雷を落とされるのは確実だ。その前に、ぶっ殺してやるぜ、覚悟しやがれ」
「てめえら……ここは、どこだ?」
「あん? 兄貴の魔法を受けて、もう目が覚めてるとは驚きだぜ。だが、いくら助けを呼んでも無駄だぜ、ここは一族郎党フーケに皆殺しにされた貴族のお屋敷、薄気味悪くて誰も近寄りゃしねえからな」
 フーケの? なるほどと才人は理解した。ホタルンガによって皆殺しにされた貴族の邸宅を、こいつらは隠れ家にしてるわけだ。
 なんとかルイズたちに知らせないと。才人は思ったが、魔法の影響でまだ体が自由に動かない。アイが、やめて! と叫んで飛びかかったが、あっさりと振り払われてしまった。
「アイちゃん! てめえら、そんな小さな子に!」
「けっ、どうせこのガキどもも、もうすぐタダじゃすまなくなるんだ。てめえは珍しい剣を持ってるけどよ、だったらこいつで串刺しになるなら本望だろ? 死ねや!」

114ウルトラ5番目の使い魔 65話 (9/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:26:52 ID:S9iHivT2
 男がデルフリンガーを振り上げる。そしてそのまま才人の心臓を目がけて振り下ろそうとした、その瞬間だった。
 
「ああぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
 
 突然、それまで黙っていたデルフリンガーが大声をあげた。
 当然、インテリジェンスソードなどと思っていなかった人さらいの男は仰天してデルフリンガーを手落としてしまった。
 乾いた音を立て、才人のすぐ前に転がるデルフ。デルフは意識混濁の才人にも容赦なく怒鳴った。
「相棒、早く俺を持て! 今しかチャンスはねえ!」
「デ、デルフ」
「早くしろ! 手を伸ばせ! そこの娘っ子がどうなってもいいのか!」
 はっとした才人は、渾身の力で手を伸ばし、デルフを掴み上げた。その感触で意識が完全に戻り、雄たけびをあげながら立ち上がって男に斬りかかっていく。
「うおぉぉぉぉっ!」
 どのみち体が本調子ではないので、力任せのチャンバラだ。男は迫ってくる才人に、懐からナイフを取り出して応戦しようとしたが、才人の気迫とスピードが一瞬勝っていた。
「でありゃぁぁぁーっ!」
 袈裟懸けの一刀が人さらいの男の体を切り裂き、血しぶきが飛んだ。
 やった。才人は確かな手ごたえを感じていた。その証拠に、男は悲鳴を上げながら崩れ落ちていく。
「ぎゃああっ、そんなっ……こんなガキなんかに」
 傭兵くずれの男は才人を若いとあなどって、自らの墓穴を掘ることになった。見た目だけはたくましい肉体を、ほこりまみれの床に倒れこませてのたうつ。致命傷には一歩及ばないが、戦闘不能なだけの傷は与えたようだ。
「や、やった……」
 才人はデルフリンガーを杖にしてひざをついた。まだ魔法の余韻で体がしびれて調子が戻らない。
 だがデルフは焦った声でさらに才人に怒鳴った。
「バカ野郎! まだ終わってねえ!」
 そのとおりだった。才人が緊張を解いた、その隙にもう一人の男が杖を抜いてアイに突き付けていたのだ。

115ウルトラ5番目の使い魔 65話 (10/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:29:25 ID:S9iHivT2
「動くんじゃねえ、さっさとその妙な剣を捨てろ。さもねえとガキの頭を吹っ飛ばすぞ」
「畜生、敵はもうひとりいたんだった……」
 まさに痛恨のミスだった。アニキと呼ばれていたメイジの男のことを忘れていたとは、自分のうかつさに歯噛みしてももう遅い。
 メイジの男の杖の先は、部屋の隅で倒れているアイにまっすぐ向いている。しかも才人から男に対してはざっと七・八メートル、アイに対しても五メートルはある。
 才人は頭の中で計算して絶望的だと思った。まだ自由に動かないこの体じゃ、男に飛びかかるのもアイをかばうのも、魔法が放たれるよりも確実に遅れてしまう。
「どうした! 早くしろ、俺は気が短いんだ」
 いらだった男が怒鳴った。メイジの男は周到にも、倉庫の唯一の出入り口のドアに背中を預けて陣取っている。車庫の入り口のほうは馬車でふさがれていて、これでは逃げ場がない。
 どうすればいいんだ? アイを度外視すれば、不自由なこの体でもなんとかメイジひとりくらいは倒せなくもない。だが、そんなことは絶対にできない。
 デルフが、相棒しっかりしろ! と、叫んでくる。せめてあと五分あれば体調も万全に戻って、アイをかばいつつ男も倒せるんだが……今はその五分が絶望的に長かった。
「畜生! 好きにしやがれ」
 才人はやけっぱちになってデルフを放り出した。デルフが、相棒! と叫びながら転がっていく。これで才人は完全に無防備になってしまった。
「いい心がけだぜ。じゃあ、死んでもらおうかい!」
 メイジの男が才人に杖の先を向けて魔法の呪文を唱える。なにを唱えているかは知らないが、まず確実に才人の命を奪えるシロモノだろう。
 だが才人は死に瀕しながらも、まだあきらめてはいなかった。あいつの魔法をなんとか一発耐えきる、そうしてデルフを拾い上げて第二撃が来る前に斬りかかる。普通に考えれば一撃目で死んでしまうか、よくて瀕死の可能性が高い。それでも、才人はあきらめだけはしていなかった。
「来るなら来やがれ! 俺はまだあきらめちゃいねえ」
「なら、死ね!」
「やめてーっ!」
 才人、男、そしてアイの叫びが倉庫にこだまする。
 しかし、男の杖から魔法が放たれることはなかった。なぜなら、男が魔法を放とうとしたその瞬間、男が背にしていたドアから鈍い音がしたかと思うと、ドアの板をぶち抜いてきた銀色の刃が背中から男の体を貫通したからだ。
「がっはっ? え、あ?」
 男は間の抜けた声を漏らすと、激痛とともに自分の左胸から生えた剣の先を見下ろし、そのまま眼球を反転させながら崩れ落ちた。
 才人やアイは、いったい何が起きたのかと訳が分からない。一本の剣がドアを貫通してきて男の心臓を貫いた。一体誰が? いや、才人はあの形の剣先を持つ剣に見覚えがあった、あれを正式装備にしている部隊といえば。
 ドアから剣が引き抜かれ、ノブが回されてきしんだ音を立てながら開いた。そして、その先から現れた青髪の剣士は。

116ウルトラ5番目の使い魔 65話 (11/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:31:14 ID:S9iHivT2
「姉さ、ミシェルさん!」
「サイト、なぜこんなところにいる?」
 現れたミシェルの姿に、才人は困惑を隠せずに叫んだ。対してミシェルも才人がなぜこんなところにいるのか不思議な様子で、才人は自分たち二人がさらわれてきた経緯を簡単に話した。
 そしてミシェルがどうして現れたのかについては、聞かなくても才人にもだいたい見当はついた。
「ミシェルさんは、この誘拐団を追ってここに?」
「……そういうことだ。それにしても、まったくお前という奴は、わたしがたまたまお前の声を聞きつけなかったらどうなっていたか」
 ミシェルは呆れた声で言った。
 そのとき、アイが才人のところに怯えた様子でやってきたので、才人は「この人は味方だよ」と告げてあげた。
「こ、こんにちは。わたし、アイです」
「はじめまして。わたしはミシェル・シュヴァリエ・ド・ミラン。サイトを守っていてくれたんだね、ありがとう」
 ミシェルが優しく微笑むと、アイも緊張が解けたようににこりと笑い返した。
 しかし、空気が和んだのもそこまでだった。最初に才人が倒した男が、倒れたままだが短いうめき声を漏らすとミシェルは血相を変えて再び剣を引き抜いたのだ。
「ちっ、そっちはまだ息があったか!」
「ちょ、ミシェルさん。あいつはもう身動きできないんだし、殺しまでしなくっても」
 確実に始末しようとするミシェルに、才人は慌てて割り込んだ。だがミシェルは躊躇を見せずに才人を押しのけようとする。
「そういう問題じゃない。今のうちに……ちっ、もう遅いか!」
「遅いって……えっ?」
 才人は人さらいの男のほうを振り向いて驚いた。
 なんと、それまで普通の人間の姿だった男の体が部分的ながらも変貌していっていたのだ。手は大きく鋭い爪のようなものに変わり、肉体も人間から怪人然としたものに変化していく。
 そして男は身もだえしながら断末魔のように漏らした。
「うあぁぁ、変わる、変わっちまうぅぅ! やめろ、助けて、タスケ。グアァァァッ!」
 ついに頭さえもでこぼことしたのっぺらぼうの完全な怪人体となってしまった男は、立ち上がるとその鋭い爪を振り上げてきた。

117ウルトラ5番目の使い魔 65話 (12/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:33:33 ID:S9iHivT2
「なっ、なんなんだこいつ!」
「話してる暇はない! 早く剣を拾え! 来るぞ」
 言ったとたんに、怪人は人間離れしたスピードで襲い掛かってきた。
 爪の連撃をミシェルが剣ではじき、突進をかわす。しかし怪人はひるんだ様子もなく、バーサーカーのように向かってくる。
 才人はその隙に、投げ出したデルフリンガーを拾い上げて構えた。幸い、もう体の不調はない。
「アイちゃん、部屋の隅でじっとしてるんだ。デルフ、行くぞ」
「おうよ!」
 才人はデルフを持ち、苦戦しているミシェルに加勢するために飛び込んだ。
「くらえっ!」
 怪人の爪と才人のデルフリンガーが激突して火花が散る。すごい強度とすごい力だと、一回のやり取りで才人は怪人の強さを理解した。
 こいつは、一回でも殴られたら人間なんかひとたまりもない。
「サイト! 油断するな。こいつはもう人間じゃない!」
「はい! この野郎めっ」
 才人も気持ちを切り替えて、化け物になってしまった男に容赦なく斬りかかっていく。
 こいつはなんだ? 見たこともないが、どこかの宇宙人なのか? いや、それを考えるのは後でいい。いや、考えている余裕がある相手ではなく、才人が加わったことで二対一になったにも関わらず、怪人は二人と互角の勝負を繰り広げていた。
 並の人間の動体視力ではとらえきれないほどの速さで繰り出される爪の攻撃を、才人とミシェルは力負けしながらもさばいた。部屋に、石と金属がぶつけ合ったような鈍い音が何度も響き渡る。
 そして一瞬の隙をつき、才人は怪人の胴を横なぎに斬り払った。が。
「硬いっ!」
 日本刀の刀身は怪人の皮膚を薄く切り裂いただけで、中の肉までは刃が通らなかった。
 怪人の青い血が刀身につき、才人は怪人が復讐の勢いで振り下ろしてきた爪をすんでのところで受け止めた。切れないわけではないが、威力が足りないのだ。
 これじゃ倒せない! 才人は怪人の攻撃を受け止めながら焦った、そのときだった。
「サイト、そのまま押さえつけていろ!」
 ミシェルが怪人の死角から、『ブレイド』の魔法をかけた剣を振り上げながら叫ぶのが見えた。

118ウルトラ5番目の使い魔 65話 (13/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:34:47 ID:S9iHivT2
 あれならいける! 才人は渾身の力で怪人の攻撃に耐え抜き、そのチャンスにミシェルは大上段から必殺の一刀を怪人の首に叩きつけた。
「であぁぁーっ!」
 魔法の光をまとった剣が怪人の首を直撃し、吹き飛んだ首が倉庫の壁に叩きつけられて転がった。
 いくら強靭な肉体を持つ怪物でも、首を切り落とされればどうしようもない。才人に押さえつけられていた胴体のほうも力を失って倒れ、解放された才人はほっとしてようやく息をつけた。
 見ると、ミシェルのほうも楽ではなかったらしく、軽くではあるが呼吸が乱れている。才人は床に倒れこんだ怪人の死体と、転がった首を交互に見下ろして、憮然としてミシェルに尋ねた。
「なんなんですか、この化け物は?」
「わからん。ここに来る前にも、誘拐団のひとりを捕らえて口を割らせるために痛めつけたらこうなった。瀕死にしても同じだ。どうやら、こいつらは極度の苦痛を感じると怪物に変貌してしまうらしい」
「気色わりい……」
 才人は不快気に吐き捨てた。それになにがなんだかわからないが、怪物になってしまったこの男は、自分が変貌してしまうことに恐怖していた。同情できる人間ではないが、かといってざまあみろと思うにも残酷すぎる。
 しかし、思慮に興じている余裕はなさそうだった。部屋の隅で怯えていたアイが、おにいちゃん……と、不安げな声をかけてきたことで、才人は自分たちが誘拐団の本拠地にいるのだということを思い出した。
「アイちゃん……よしよし、もう大丈夫だからね。ミシェルさん、ともかくここを離れようぜ」
 才人は、自分たちはともかくアイをこんなところに置いてはおけないとミシェルにうながした。ミシェルは、才人に抱かれながら慰められているアイを少しうらやましそうに見つめたが、すぐにうなづいて言った。
「サイト、誘拐団はわたしが始末する。お前はその子を連れて、早くここから逃げろ」
「えっ? わたしがって、アニエスさんや銃士隊のみんなは?」
「今回のことはわたしの独断だ。皆はまだ何も知らん。ともかく行け、ここはわたしだけで十分だ」
 才人は、そう言われてもと戸惑った。さっきの怪人の強さを思うとミシェルを一人で行かせるのは心配だ。が、かといってアイをこんな場所でほっておくわけにもいかない。
 だが、敵は待ってはくれないようだった。才人が答えを出す暇も与えられず、馬車が入ってきた車庫の入り口が突然鋼鉄のシャッターで閉じられてしまったのだ。
「出口が!」
「ちっ、気づかれたか」
 廃屋のはずなのに、この仕掛け。ミシェルが忌々しげにつぶやくと、天井から恐らくは魔法の仕掛けによって、若い女性の声が響いてきたのだ。
『ごきげんよう、素敵な戦士のお二方。二人がかりとはいえ、ヒュプナスを倒すとはやるじゃないの。見ての通り、もう逃げ道はないわ。すぐ始末してもいいけど、あなたたち面白そうね。私はこの屋敷の一番奥にいるわ、私を倒せたらあなたたちは外に出してあげる。そういうわけで、ご機嫌よう』
 一方的に言うだけ言うと、相手の声は途切れてしまった。
 才人は、まるで遊ばれているような感じに憤って、偉そうにしやがって! と地団太を踏んだ。

119ウルトラ5番目の使い魔 65話 (14/14) ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:36:55 ID:S9iHivT2
「ミシェルさん、こうなったら二人でここのボスをぶっ倒してやろうぜ……ミシェルさん?」
「トルミーラ……やはり、あなたか」
 ミシェルはなぜか、声のしてきた天井を遠い目で見続けている。
 才人は何回かミシェルに呼びかけ、そしてミシェルは重い面持ちで答えた。
「そうだな、仕方ない。こうなれば、進むより道はないようだ。サイト、こうなったらしっかりその子を守ってやれ」
「はい……それとミシェルさん。さっきトルミーラって……誘拐団のボスを知ってるんですか?」
「……道すがら話そう。ここは意外と広いぞ、わたしからはぐれるなよ」
 ミシェルはそう告げると、すでに屋敷の見取り図を暗記しているらしく、迷いなく歩き始めた。
 ドアをくぐり、魔法のランプの明かりが照らすボロボロの廊下を三人は歩いていく。だが人の気配がどこからかする。誘拐団の手下が待ち伏せているのかもしれない。
 才人は、いつでもアイをかばえるよう左手でアイの手をつないで、右手でデルフを握りながら、正面の警戒を続けながら進むミシェルについていった。
 ギシギシと、不穏な音が足元から否応なく響く。才人が、こんなシチュエーションのホラー映画があったなと思ったとき、ミシェルは振り返らないまま話し始めた。
「去年の春のことだ。トリステインで、傭兵団が主犯の誘拐事件が起きた。だがその一味は通りがかったあるメイジに倒され、一味は全員逮捕されたことで解決した……はずだった。だが一か月前、一味はチェルノボーグの牢獄から脱走し、いまだに行方不明のままだ。そして、その一味の頭目の名前が、トルミーラという女メイジだ」
「って、牢獄から一味まとめて脱走って! そんな大ニュース、聞いたこともないですよ」
「当然だ。牢獄にとってはこの上ない大失態。所長以下看守たち揃ってで隠蔽され、明るみに出たのはつい最近だ。今頃は所長ら全員が捕縛されて、逆に牢獄に叩き込まれていることだろう。それも国の失態につながるから隠匿され、一般には公開されることはない」
 才人は呆れかえった。そんな馬鹿な役人たちのせいで誘拐団が野放しにされ、多くの子供が危険な目に会っている。
 ただ、才人はひっかかっていた。さっきのミシェルの口調は、単に知っているというだけではなさそうだった。すると、ミシェルは寂しそうな、あるいは忌々しげなふうにも見える複雑な表情で語り始めた。
「トルミーラは、元貴族だ。そして十三年前、わたしはトルミーラと会ったことがある。いや、世話になっていたことがあると言うべきか……短い間だったが、わたしにとってかけがえのない……そして、もっとも恥ずべき恩人さ」
 ミシェルは、周囲への警戒を続けながら、静かに過去の自分の因縁を語り始めた。
 人は過去を消すことは決してできない。そして、過去は時として残酷な刺客となって人に襲い掛かる。
 
 そして、変貌した誘拐団員。それが意味するものとは何か?
 単なる誘拐事件として発したこれが、途方もない狂気の一端であることを、このときはまだ誰も知らなかった。
 
 
 続く

120ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/09/20(水) 13:42:01 ID:S9iHivT2
今回はここまでです。
久しぶりに本作のメインヒロイン登場です。そして初のセブンX怪獣登場です。

121ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/24(日) 00:06:27 ID:D5TtEua.
5番目の人、乙です。私の投下を行います。
開始は0:10からで。

122ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/24(日) 00:10:19 ID:D5TtEua.
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十七話「カルカソンヌの夜」
波動生命体プライマルメザード 登場

 ガタノゾーア率いる超古代怪獣軍団の撃退後、教皇ヴィットーリオは怪獣を操る黒幕たる
ガリアに対して“聖戦”を宣言。するとロマリアはまるで初めから準備が成されていたかの
ように――実際そのようになる手筈だった訳だが――瞬く間に部隊を編成し、たったの二週間
ほどでガリアの奥深く、首都リュティス目前にまで侵攻した。
 ここまでの速い進軍は、ガリア軍の分裂も理由にあった。元々気分屋で意味不明な勅命を
出しまくっていたため国内でも『無能王』と蔑称されて支持の低かったジョゼフであるが、
人類の敵である怪獣を操っているとして教皇から“聖敵”と認定されたことで、いよいよ
多くの人心が彼から離れた。特に理不尽な理由で不遇をかこち、王政府に不満と恨みを抱えて
いた多くの諸侯たちはロマリアに寝返り、結果ロマリア軍はほぼ無血でリュティスから西に
四百リーグ離れただけの城塞都市カルカソンヌまで踏み込んだ。
 しかしそこで進軍はストップした。カルカソンヌの北を流れるリネン川に向こうには、
それでも王政府に忠誠を誓うガリア王軍が防衛陣形を敷いているからだ。その勢力はおよそ
九万。対するロマリアの兵力は反乱軍を合わせてもせいぜい六万。国の半分が反旗を翻しても
ロマリア側を三万も上回るとは、さすがはハルケギニア一の大国である。聖戦の錦旗を掲げて
いるロマリアも1.5倍もある兵力差を前にしては、容易に攻め込むことは出来なかった。
 一方でガリア王軍の戦意も低かった。聖戦を発動した相手を敵に回すことの愚かしさも
加え、やはりジョゼフの求心力のなさが彼らにも少なからず影響していた。
 そのような事情が重なった結果、両軍は川を挟んでの硬直状態を既に三日も続けていた。

 リネン川では今日も、ロマリア軍の兵士とガリア軍の兵士が川を挟みながら罵詈雑言を
飛ばし合う。
「ガリアのカエル食い! お前の国は、ほんとにまずいものばっかりだな! パンなんか
粘土みたいな味がしたぜ! おまけにワインのまずさと来たら! 酢でも飲んでる気分だな!」
「ボウズの口にはもったいねぇ! 待ってろ! 今から鉛の玉と、炎の玉を食わせてやるからな!」
「おいおい! 怖気づいて川一つ渡れねぇ野郎がよく言うぜ!」
「お前たちこそ、泳げる奴がいねぇんだろ! いいからとっとと水練を習ってこっちに来やがれ! 
皆殺しにしてやる!」
 罵り合いはエスカレートしていき、やがて興奮した貴族の一人二人が川を渡り、中州で
一騎討ちを行う。勝利者はそこに居残り、己の軍旗を立てて、負けた陣営からは敵討ちの
ように別の挑戦者が現れる、というように軍旗の掲げ合いが延々と繰り広げられていた。
 そんな様子を、ミラーとともにいるルイズが呆れた目でぼんやりながめていた。
「全く、男ってのはよくあんな下らない諍いに熱心になれるものね。グレンだって、ミラー、
あなたが止めてなかったらいの一番に参加してたわよね」
 とぼやくルイズに、ミラーが言う。
「グレンはあんな性格だからですが、他の人たちは、こうでもしないといたたまれなくて
しょうがないからでしょう」
「いたたまれない?」
 聞き返したルイズにうなずくミラー。
「教皇の命令とはいえ、私たちですらまだガリアが怪獣を使役している動かぬ証拠を得ては
いません。だから今度の戦の大義について内心迷いがある。対するガリア側も、軍の半数が
ロマリアについている状態です。それで本気で戦える気分になれるはずがありません」
「まぁ確かにね」
「ですがここまで来てしまった以上は、お互い何もしないままでいる訳にはいかない。だから
こんな小競り合いでも戦の対面を保っていないことには、気持ちが落ち着かないのでしょう」
 説明を聞いたルイズが肩をすくめる。
「ほんと、軍隊って面倒なものね。まぁこっちからしたら、このにらみ合いが続く方が都合が
いい訳だけど」

123ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/24(日) 00:13:30 ID:D5TtEua.
 ルイズはガリアの領土に攻め入る前に、アンリエッタにヴィットーリオたちが才人を謀殺
しようとしたことを伝えた時のことを思い返した。
 アンリエッタも、人間同士の争いの防止と聞かされていながら、その実はガリアとの開戦が
目的だったことを思い知らされ、己の考えの甘さを悔いるとともにヴィットーリオへの反感を
強めていた。そこにルイズたちの報告を受けて、彼女は何かを決心したような顔になった。
 そしてアンリエッタはルイズと才人に「わたくしにお任せ下さい。わたくしは全生命を
賭けて、この愚かしい“聖戦”を止めてみせましょう」と宣言し、その準備として一旦
トリステインに帰国していった。同時に自分が戻るまでに決定的な会戦が始まらないよう、
時間稼ぎをしてほしいと頼んだのであった。そのため、下らなくとも均衡状態が続いている
ことはルイズにとっては願ったり叶ったりである。
 しかしミラーは残念そうに首を振った。
「ですが、いつまでもこのままでいられる保証はありません」
「え?」
「ここは敵地です。そこに留まる時間が長引くのに比例してこちらが不利になるものです。
更にそんな状態に陥れば、反乱を起こしたガリアの諸侯も再度寝返る恐れがあります。
そうなれば、均衡は一気に崩れ去るでしょう」
 ミラーの語った状況を想像して、渋い顔になるルイズ。
「また、ガリア王政府……はっきり言えば、ジョゼフ王がまたも怪獣を差し向けてくることも
十分ありえます。今はまだその兆候はありませんが……」
 それが一番恐れていることであった。ジョゼフが何を考えているのかは知らないが、虎街道
以来怪獣を刺客に送ってくることは起きていない。しかしその気になればいつでも出来るはずだ。
怪獣ならばウルティメイトフォースゼロが相手になれるが、その戦いの余波でロマリア側に打撃が
あったら、こんな均衡はすぐにでも崩れてしまうことだろう。そうなれば敗戦は必至だ。
「つまり、表面的には均衡が取れてるようでも、実際はこっちの旗色が大分悪いってことね。
ああ、姫さま、早く戻られないかしら。何をどうするつもりなのかは知らないけど……」
 祈るようにつぶやいたルイズは、はたとミラーに尋ねかける。
「ところで、サイトはどこに行ったか知ってる? 今日は朝から姿が見えないんだけど……」
「サイトならあっちの方で、ゼロと一緒にいますよ」
 ゼロと? ルイズはミラーの言動を訝しんだ。才人とゼロは再度融合したので、一緒にいる
なんてことはいちいち言わなくてもいいことのはずだ。
 ともかくミラーが指し示した方向へ向かってみると、そこで才人が誰かに剣の稽古をつけて
もらっていた。
「もっと自分の感覚を研ぎ澄ませ! 一瞬たりとも集中を切らすな! もう一度行くぜ!?」
「ああ! 頼む!」
 その相手とはランであった。ルイズは驚いて二人の稽古に割って入る。
「サイト! どうしてまたゼロと分離してるの?」
 ランの正体はもちろんゼロである。つまり才人は、再びゼロと一体化したというのにまた
分かれているということだ。どうしてそんなことをしているのか。
 ルイズに振り返った才人とゼロが順番に答えた。
「ちょっとな、ジョゼフの奴をぶっ倒す時のために備えて、少しでも鍛えてもらってたんだ。
こうして剣の相手をしてもらう方が一番効率いいからな」
「ジョゼフの正体が宇宙人の変身とかだったらともかく、人間だったら才人の純粋な実力で
戦わなきゃならねぇ。その時に確実に勝てるようにってな」
 ルイズはそんな二人に呆れ果てる。
「姫さまが武力による戦い以外で決着をつけようとなさってるじゃない。あんたたちは姫さまの
ことを信じてないの?」
「そうじゃないけど、ジョゼフだけはどうしても俺の手で直接引導を渡してやりたいんだ。
あいつがタバサにしたことは、ほんとに思い返すだけで腹が煮えくり返るからな!」

124ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/24(日) 00:16:32 ID:D5TtEua.
 憤りながらの才人の発言。ルイズは無駄に熱意を燃やす才人に肩をすくめるとともに、
ある意味でタバサに熱を上げる才人の様子が若干面白くなかった。
 そんなところに、マリコルヌたちオンディーヌの仲間が駆けつけてきた。
「サイト! こんなところにいたのか!」
「あッ! その男はこないだの!」
 マリコルヌたちはランの顔を認めると、険しい顔で彼に対して身構えた。彼らからしたら、
突然現れて才人の居場所を奪ったように見えるランは憎らしく感じるのだろう。その正体が
ウルトラマンゼロだと知ったら、一体どんな反応を見せるのだろうか。
 才人は苦笑しながらマリコルヌたちに取り成した。
「みんな、この人は俺の友達で、訓練をつけてくれた師匠でもあるんだ。だからそう嫌わないで
やってくれよ」
 その言葉は嘘ではない。才人はゼロの戦いぶりをすぐ側で見ていることで強くなった面もある。
 才人の言葉でオンディーヌの態度も変わる。
「えッ、そうだったのか?」
「何だ。それならそうと俺たちにも紹介してくれよな! 全く水臭いぜ」
「すいません。にらんだりなんかして」
 態度を軟化させて謝罪するマリコルヌたちに手を振るゼロ。
「いいんだ。それより才人に何か用があったんじゃないのか?」
「ああそうだった! サイト、ギーシュの奴を助けてやってくれないか」
 マリコルヌが才人に振り返って頼み込んだ。
「ギーシュを?」
「あの目立ちたがり屋、酔った拍子に中州の決闘に加わろうとしてるんだ。だけど相手が
こっちの貴族を三人も抜いてる奴でさ、ギーシュじゃあどう考えても荷が重いんだよ。
殺されるかも」
「あんの馬鹿」
 才人は急いで駆け出し、川原へと躍り出て今まさに出航しようとしていたギーシュの小舟に
上がり込んだ。
 それを見送ったルイズは大きなため息を吐いた。
「ギーシュの奴、相変わらず困ったものね。最近少しはマシになったかと思ったのに、やっぱり
問題起こすんだから」
「全くだな」
 ゼロも苦笑いして肩をすくめた。

 ガリアの騎士は相当な手練れであったが、才人とて数々の激戦に揉まれた猛者。無事に撃退し、
ギーシュを助けることに成功した。更にはガリア側の後続も次々返り討ちにし、オンディーヌは
才人が倒した騎士から身代金をせしめて大儲けした。才人は、そんなことをしに来たんじゃ
ないんだけど、とぼやいていた。
 しかし最後の相手となった、鉄仮面を被った男は、それまでの決闘が子供の遊びに思えるかの
ように強い戦士であった。さすがの才人もてこずり、緊張の汗を流したが……男は才人と鍔迫り合いを
しながら、こんなことを聞いてきた。
「シャルロット……いや、タバサさまを知っているか?」
 男はタバサの家系であった、オルレアン公派の人物だったのだ。彼はわざと才人に負け、
釈放金に紛れさせたタバサ宛ての手紙を才人に送ったのだった。
 その日の夜、才人はその手紙をタバサに渡しに行った。しかし“聖戦”が発動してからと
いうもの、自分やタバサにはどこに行こうともロマリアの見張りがついていて、内容如何に
よっては彼らの前で読む訳にはいかない。そこで才人はタバサとの逢引きのふりをして、
シルフィードに乗って空へと上がることにした。
 その間、タバサが妙に黙っているので、才人は少々気を揉んだ。
「……ごめん。嫌だったか?」
「……平気」
 タバサが黙っていたのは全く別の理由からだったが、幸か不幸か、才人にそれを察する
洞察力はなかった。
「……昼間、中州で俺たちガリア軍の貴族と一騎討ちをやってたんだよ」
「知ってる」

125ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/24(日) 00:19:16 ID:D5TtEua.
「最後の相手が、俺にこれを託した。タバサにこれを渡してくれって。お前の味方じゃないのか?」
 才人が預かった手紙をタバサに差し出した。タバサが封筒を破り、中から出てきた便箋を
杖の灯りで読み始める。
「カステルモール」
「やっぱり、知ってる奴か? 聞いたことがあるな。そうだ! お前を助け出した時に、
ガリア国境で俺たちを逃がしてくれた奴だ!」
 感慨深げにつぶやく才人。アーハンブラからの逃避行で、ガリアからゲルマニアへ逃れる際の
国境破りの際に、タバサを連れていると知りながら見逃してくれた男だったのだ。
「俺も読んでいいか?」
 タバサの許可を得て、手紙の内容に目を走らせる才人。そこには、ジョゼフに対して決起を
起こしたが返り討ちに遭ったこと、どうにか逃げおおせてからは傭兵のふりをしてガリア軍に
潜り込んでいること、そしてタバサに“正統な王として即位を宣言されたし”と書いてあった。
そうすれば、ガリア王軍からの離反者を纏め上げてタバサの元に馳せ参じると……。
 才人は厳めしい顔となってタバサに尋ねかける。
「難しいことになってきたな……。で、どうするんだ?」
「どうすればいいのか分からない」
 才人は考え込む。ガリア王軍のほとんどが忠誠を誓うのは、王家の血筋。今となっては
その血筋は、表向きはジョゼフの系列しか残っていないから、ジョゼフの下についているが、
そこにタバサが王権を主張して進み出れば、確かに王軍からも離反者が多く出ることだろう。
亡きオルレアン公は、ジョゼフとは反対に人望に厚かったからだ。
 しかしそうすることは、タバサの危険が大きい。タバサが国のほとんどを奪い取れば、
ジョゼフもいよいよ黙ってはいまい。本気でタバサの命を狙ってくる恐れが強い。才人は
そんなことは認めがたかった。
 才人は考えた後に、タバサに告げた。
「今、姫さま……アンリエッタ女王陛下は国に帰っている。この“聖戦”を止めるために、
何か策を練っている最中なんだ。俺たちはそれまで自重しろと言われてる。一騎討ち騒ぎとか
やっちゃったけど……。だから、タバサもとりあえずこの件は置いといてくれないか?」
「……分かった」
 タバサは素直に才人の頼みを聞き入れた。
 そして二人は、手紙の末尾の一行に、目を丸くした。
“ジョゼフは恐ろしい魔法を使う。寝室から、一瞬で中庭に移動してのけた。くれぐれも
ご注意されたし”
「タバサ、こんな魔法を聞いたことがあるか?」
 タバサは首を横に振った。彼女の豊富な知識でも、そんな魔法には覚えがなかった。
「となると……。未知の呪文。……まさか、虚無?」
「……その可能性は低くはない」
 緊張した声音でタバサが答えた。ジョゼフは四系統の魔法の才能がないことが、『無能王』と
呼ばれるようになった最大の理由なのだ。
「この話はここに留めておこう。ロマリア軍がどこで聞いているか分からないからな。全く、
空の上ぐらいしか落ち着いて内緒話が出来ないなんて」
 ため息を吐いた才人に、タバサが不意に寄り添ってきた。
「どうした? 寒いのか?」
 タバサはこくりとうなずいた。
「そっか……。夜だし、空の上だもんな」
 納得する才人だが、しかし風はシルフィードが上手くそらしてくれているから、才人が
寒いと感じていないならばタバサも同じはずなのだ。
 だが才人は疑わず、マントを広げてタバサの身体も覆った。
「……じゃあ、そろそろ帰るか」
 才人はそう言ったが、タバサは次のように告げた。
「もうちょっと」
「え?」

126ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/24(日) 00:21:30 ID:D5TtEua.
「……もうちょっとだけ、飛んでいたい」
 才人には、どうしてタバサがそんなことを言うのか見当がつかなかった。しかしタバサが
そう言うのならば、と従うことにする。
「そうか。それじゃあもう少しだけ……」
 と言いかけたのだが……その時に、ガリア側の陣地の上空に何やら怪しげなものが漂って
いることに気づいて言葉を途切れさせた。
「何だあれ?」
 才人のひと言にタバサも我に返って顔を上げ、そして硬直した。目に映ったものが理解
できなかったからだ。
 空に浮かぶ『それ』は、白く巨大なクラゲのようだった。しかし当たり前な話、クラゲは
空にはいない。そしてその輪郭はやたらとおぼろげであり、一体だけのようでありながら
複数いるように見える。どうにもはっきりとしないその光景は、幻覚も疑うところだ。
「空に……でかいクラゲ?」
 呆気にとられる才人たちだったが、やがてそれにばかり気を取られていられない事態が
発生していることに気がつく羽目になった。
 地上を見下ろすと、崖の裾野の平原を貫くリネン川をいくつもの点が横断していた。
 そしてその点の正体は……全員ガリア軍の兵士や騎士であった!
「何!? ガリアの夜襲か!?」
 色めく才人だったが、タバサが緊張した面持ちで否定した。
「……違う。様子がおかしい」
 高空からでは正確な様子は分からないが、川を渡るガリア軍は全員がてんでバラバラで、
隊列の概念すら成していない。しかも身分までがごちゃ混ぜであり、貴族が平民の中に平然と
混ざり込んでいる。普通ならば考えられないことだ。
 極めつけは、彼らの全員が正常な精神状態にないことだった。船も使わずに夜の川を泳いで
渡ろうなど、正気の沙汰ではない。
 才人はハッと、空に漂う巨大クラゲに目を戻した。
「まさか……あいつの影響かッ!」

 突然夜空に現れた怪物に注意を向けている才人たちは気づかない。いや、たとえそれが
なかったとしても悟ることはなかっただろう。一羽のフクロウが、才人たちの会話を拾える
ギリギリの距離を保ちながらシルフィードを尾行していたということに。黒いフクロウの姿は
夜空の中に紛れ込んでおり、また気配を完全に殺して夜の闇と同化していたのだ。

127ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/24(日) 00:23:35 ID:D5TtEua.
今回はここまで。
波動生命体ってドゴラを思い出します。

128ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/30(土) 21:34:02 ID:dTP6KUWI
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下を行います。
開始は21:37からで。

129ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/30(土) 21:37:10 ID:dTP6KUWI
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十八話「悪夢の四重奏」
超空間波動怪獣メザード
超空間波動怪獣サイコメザード
超空間波動怪獣サイコメザードⅡ
超空間波動怪獣クインメザード 登場

 夜空での密会中、謎の空飛ぶ巨大クラゲとリネン川を横断しようとする正気を失ったガリア軍を
目撃した才人とタバサ。二人は眼下のガリア軍の様子を一瞥した後、前方のクラゲの方をにらみつける。
「あいつら、やっぱりただごとじゃねぇぜ……。あのクラゲが何かしたことは確実だ!」
 才人の言葉にこくりとうなずくタバサ。あの奇怪な生物とガリア軍の異常が偶然同時発生
したとは考えにくい。これもガリア王政府の悪だくみの一つだろうか。
「けど……あのクラゲは何なんだ!? 一匹なのか? それとも大量にいるのか?」
 才人たちは判別をつけられなかった。何故なら、クラゲは一箇所にいるように見えて、
次の瞬間には別の地点にただよっているようにも見えるからだ。一瞬たりとも、同じ場所には
留まっていない。これは一体どういう現象なのか。
 このことについてゼロが答えた。
『あれは一点にのみ存在してるんじゃねぇ……あの空域全体に同時に存在してるんだ!』
「へ? それってどういう意味?」
 ゼロの言葉は、聡明なタバサでさえ理解できなかった。ゼロが説明する。
『かなり難しい話になるから詳しいことは省くが、あのクラゲの身体は波みたいにゆらゆら
してて広い範囲に跨ってるんだ。人間の脳じゃそれを正しく認識することは出来ないから、
姿をはっきりと捉えられねぇんだよ。当然三次元の生き物じゃねぇ……いわゆる異次元怪獣だな』
「異次元怪獣……つまり掟破りって訳だな」
 一応は納得する才人。異次元に存在する怪獣は、時間と空間をねじ曲げるブルトンに代表
されるように、三次元世界の物理法則をあっさりと無視するものだ。
 そして目の前の巨大クラゲは、生物でありながら量子力学の観点における粒子の振る舞いを
するのである。通常の生物のように時空間の一点に連続して存在しているのではなく、広域に
確率的に存在している……いわば波動生命体なのだ。M78ワールドの怪獣では、ディガルーグが
近い性質を有している。
『ともかく今すべきことは、あの怪獣をどうにかしてガリア軍の侵攻を止めることだ』
「分かった。タバサはみんなのところに行ってガリア軍の接近を知らせてくれ!」
 手短にタバサへ指示する才人。こうして渡河するガリア軍の姿を事前に発見できたのは、
不幸中の幸いだ。向こうが渡り切る前ならば対処が間に合う。
 そして才人は自らシルフィードの上より空中へ投げ出し、大空で風を切りながらウルトラ
ゼロアイを装着した。
「デュワッ!」
 才人の身体が瞬時にウルトラマンゼロのものに変身。ガリア軍を操っている波動生命体
めがけ飛んでいく。
『でもゼロ、身体が波みたいな奴をどうやってやっつければいいんだ? 普通の攻撃が通用
するのか?』
『しねぇだろうな』
 即答するゼロ。肉体が100%の確率で存在していない状態では、如何なる威力の攻撃もすり抜けて
しまって何の効果も発揮しないからだ。
『けど案ずるな! 対処の方法はあるぜ!』
 才人に頼もしく応えながら、ゼロはルナミラクルゼロに変身。
「ジュアッ!」
 そして広げた両腕の間から波紋を飛ばし、波動生命体にぶつける。するとどうしたこと
だろうか。空に同時に存在しているように見えた波動生命体の身体が一点に集まっていき、
一個の存在として確立されたのだ。
『すっげぇ! 今のどうやったんだ?』
『あいつの波長と真逆の波長をぶつけることで、存在の確率を一点に収束させたのさ。これで
奴はもう波じゃねぇ』

130ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/30(土) 21:39:45 ID:dTP6KUWI
 ルナミラクルゼロの超能力によってなせる妙技。これによって波動生命体は攻撃を透過
することは出来なくなった。
 だが、これによってまた別の問題が発覚した。
『しかし……まずいな。あいつそもそも一体だけじゃなかったみたいだぜ』
『え?』
『見ろ、今の「奴ら」の姿を!』
 改めて確認すると……存在が収束されたにも関わらず、空に飛んでいるクラゲの数は何と四体。
 つまり、元から波動生命体は四体も存在していたのだ!
『ま、マジかよ!』
 さすがに動揺する才人。しかも波動生命体の群れは地上に降下すると、その姿をグロテスクな
怪物のものへと変化させたのだった。
「キャアオッ! キャアオッ!」
「ギャアァァァ!」
「キャアァァァ!」
 クラゲの傘から首が伸びたような怪物、それが二本の足で直立したようなもの、更にそれの
腹に人面が備わっているもの、更に更に顔が他と違って背面にも人面が並ぶものの、計四体が
カルカソンヌの市街地に出現した。
 波動生命体の正体、メザード。その一族であるサイコメザード、サイコメザードⅡ。そして
女王個体であるクインメザードの超空間波動怪獣軍団だ!
「ギャアァァァ!」
「キャアァァァ!」
 そしてガリア軍は、このメザードたちの発する電波によって脳神経を操作され、まるで
マリオネットのように意のままに操られているのだった。
「キャアァァァ! キャアァァァ!」
 メザードたちはクインメザードの指揮によって、四体がかりでゼロに襲い掛かろうとしている。
 しかし集団には集団だ。ゼロにも仲間はいるのだ!
『待ちな! 俺たちのことも相手してもらうぜぇ!』
『とぁッ!』
『ジャンファイト!』
 グレンファイヤー、ミラーナイト、ジャンボットが直ちにゼロの元へと集合した。怪獣軍団は
三人の登場に思わず足を止める。
『よっし! 頭数は同じだ! みんな、一気に行こうぜぇッ!』
 通常形態に戻ったゼロの号令により、ウルティメイトフォースゼロは怪獣軍団に正面から
ぶつかっていく! ここにカルカソンヌの人間たちの命運を分ける乱闘は開始されたのだった。

 メザードたちの力で理性を失い、操り人形にされているガリア軍だが、リネン川から
カルカソンヌの市街地の間にはおよそ百メイルの切り立った崖がそびえ立っている。さすがに
崖をよじ登ることは出来ないので、大半の兵士は長く続くジグザグの階段に押し寄せている。
 その階段の頂上には、タバサからの連絡によって緊急出動したオンディーヌやロマリア軍が
バリケードを築いたので、ガリア軍の侵攻はそこで食い止められていた。頭数ならばガリア軍が
圧倒的に上だが、階段を上れるのは限られた人数だけ。それならば止めるのも難しい話ではない。
メイジは“フライ”を使って飛んでくるが、基本的に高い場所にいる方が戦いでは有利。飛んで
くるメイジは魔法で各個撃退されていた。
「ふぅ、何とか壁が間に合ったな。これでガリア軍は街の中に入れない」
「タバサが報せてくれなかったら危なかったね」
 バリケードを構築して息を吐いたギーシュとマリコルヌがつぶやき合った。タバサの連絡が
なかったら、彼らはガリア軍の接近に気づくのが遅れ、侵攻の阻止が間に合わなかっただろう。
そうなったことを想像したらぞっとする。
 また、彼らはガリア軍の様子にも恐怖心を覚えていた。

131ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/30(土) 21:42:23 ID:dTP6KUWI
「しかし……今のガリア軍のありさまには、身の危険に関係なくおぞましい気分になるよ」
「分かるよ。それに正気じゃない相手を攻撃するのは気が引けるね……」
 今のガリア軍は虚ろな目でうめき声を上げながらバリケードに押し寄せており、何度押し
返されようとも自分のダメージも構うことなく這い戻ってくる。怪談に出てくるような動く
死体さながらだ。人間はこのような、常識から外れたものに恐怖を抱く。また、操られている
だけの相手を攻撃するのも騎士道にもとる。そのためロマリア軍は完璧な防衛態勢を築きながら、
士気は時間が経つ毎に衰えていた。
 士気が減衰していては勝てるものも勝てない。これに危惧したルイズは、崖の向こうで
波動怪獣軍団と戦っているウルティメイトフォースゼロに祈った。
「お願い、みんな……。出来るだけ早く片をつけて……!」

 グレンファイヤーはメザードに狙いを定めてパンチを繰り出す。
『おらぁぁぁッ!』
「キャアオッ! キャアオッ!」
 拳をまともに食らうメザードだが、殴り飛ばされながらも重力を無視したような動作で着地。
ゆらゆらと蠢く様子からは、さほどダメージを受けていないように見えた。
『何ッ!』
 メザードの肉体は柔軟性が高い。そのため衝撃を受け流しているのだった。
「キャアオッ! キャアオッ!」
 メザードは胴体部の傘の頂点から怪光弾をグレンファイヤーへ連続発射。
『ぐッ!』
 ひるませたグレンファイヤーに触手を伸ばして巻きつけ、電撃を流し込んだ。
『ぐわあぁぁぁッ!』
「キャアオッ! キャアオッ!」
 電流を延々と食らわし続け、グレンファイヤーをじわじわと苦しめるメザード。
『ぐッ、そうは行くかぁぁぁぁぁッ!』
 しかしグレンファイヤーが気合いを発すると、彼から生じたエネルギーによって電撃が逆流。
触手が焼き切れた!
「キャアオッ!!」
『そんなにふらふらなよなよしてんじゃねぇぜ! 男だったら腰に力入れなッ!』
 切れた触手を投げ捨てたグレンファイヤーが一喝。そして腕に炎のエネルギーを溜める。
『俺が根性焼き直してやるぜ! グレンスパークッ!!』
 灼熱の光弾が投擲さえ、メザードに直撃。たちまち爆発を起こし、メザードは全身に火が
点いて炎上していった。
「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」
 サイコメザードは空中を滑空しながら、ミラーナイトへ腹より怪光弾を降り注がせる。
『何の!』
 しかしミラーナイトは頭上にディフェンスミラーを張って光弾を防ぎ切った。そして着地した
サイコメザードへミラーナイフを飛ばす構えを取る。
「ギャアァァァ!」
 だがこの時、サイコメザードが不気味に眼を細めた。
 すると対岸の街に残っていた兵士たちや元々のカルカソンヌの住民がわらわらと集まってきて、
サイコメザードの前方に展開。サイコメザードに操られているのだ!
『何ッ! 何と卑劣な……!』
 ミラーナイトは手を止めざるを得なかった。下手にサイコメザードを攻撃したら、操られて
いる人々が押し潰されてしまうかもしれない。
「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」
 人間を盾にする卑怯千番なサイコメザードは、ミラーナイトが動けないのをいいことに
両腕を伸ばして彼を捕まえようとする。
 しかし腕がぶち抜いたのは鏡であった!
「!?」
『そういうことをするだろうと思ってました』
 サイコメザードの背後からミラーナイトが言ってのけた。彼は人間を操作するメザードたちの
やり口を事前に推測し、お得意の鏡像トリックを用いて逆に罠を掛けていたのだ。

132ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/30(土) 21:44:45 ID:dTP6KUWI
 ミラーナイトはサイコメザードが反応を起こす前に背後からがっしりと捕まえて、空高くへ
投げ飛ばした。
「ギャアァァァ!!」
『シルバークロス!』
 十字の光刃がサイコメザードを切り裂き、人間に被害を出すことなく打ち破ったのであった。
『むんッ!』
「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」
 ジャンボットはサイコメザードⅡの腹部に鉄拳を入れる。重い一撃によたよたと後ずさる
サイコメザードⅡだが、指先から電撃を飛ばしてジャンボットに反撃。
『むおッ!』
 激しい電撃の嵐にジャンボットが体勢を崩したようであったが、それは一瞬だけで、
ジャンブレードで電撃を絡め取って相手の攻撃を無力化する。
「ギャアァァァ!」
『貴様たちのような卑怯極まる相手に、この鋼鉄の武人は絶対に屈さんッ!』
 正義の怒りに燃えるジャンボットには、小手先の攻撃など通用したりはしなかったのだ。
ジャンボットは頭部から銃身をせり出して必殺の光線を発射する。
『ビームエメラルド!』
 光線がサイコメザードⅡを貫き、そのまま炎上させて消滅させたのであった。
 そしてゼロはクインメザードと戦っているが、ボス格だけあってその実力は一番高く、
雷撃によってゼロの接近を防ぐ。
「キャアァァァ! キャアァァァ!」
『うおッ! こりゃ近づけそうにねぇな……。ならッ!』
 距離を詰められないのならと、ゼロスラッガーを飛ばす構えを取ったゼロだが、クインメザードは
不意に足元を触手でしたたかに叩く。
「キャアァァァ!」
 その場所から炎の柱が起こり……どういうことだろうか。ストロングコロナゼロが現れた
ではないか!
『何ッ!』
『ゼロ、あれはどういうことなんだ!? どうしてゼロがもう一人……!』
 動揺する才人に、ゼロは答える。
『奴の特殊能力によって作られた、俺の偽者のようだな……!』
 クインメザードには他のメザードにはない独特な能力がある。それは実体を伴った幻影を
作り出すことで、それを使って幻影のストロングコロナゼロを作り上げたのだ! ゼロには
ゼロをぶつけようという目論見だろうか。
「キャアァァァ! キャアァァァ!」
 幻影ゼロはクインメザードの指示により、本物のゼロに飛び掛かってくる!
『うおッ!』
 ゼロは幻影ゼロとがっぷり四つを組む。しかし相手の凄まじい筋力に押され気味になる。
『くッ……!』
 幻影とはいえパワーに優れたストロングコロナゼロ。通常状態のゼロでは勝ち目はないのか?
 ……と、思われたのだが、
『舐めんなよ! 幻影の俺をぶつけられるなんてのは経験済みだ! もう俺は、自分には
負けねぇぜぇぇぇぇッ!』
 啖呵を切ったゼロが腕に一層の力を込めると、本物のパワーが幻影を上回り、幻影ゼロの
足が地面から浮き上がった。
『どりゃあああッ!』
 この一瞬の隙に、ゼロは己の幻影を竜巻のような勢いで放り投げる!
「キャアァァァ!」
 この結果にたじろぐクインメザード。ゼロはこの絶好のチャンスを逃したりはしなかった。
「シェアッ!」
 ワイドゼロショットがクインメザードに炸裂! クインメザードは一瞬にして爆裂し、
メザード軍団はこれで全てが倒された。

133ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/30(土) 21:46:55 ID:dTP6KUWI
 同時にガリア軍の支配が解け、彼らはバタバタとその場に倒れ込んでいった。川の水の
中に突っ伏した者はいち早く目覚めて慌てて飛び起きた。
「終わった……」
「ふぅ、助かった……」
 ギーシュを始めとして、ロマリア軍はガリア軍の侵攻が停止したことに大きく息を吐いて
安堵したのだった。

 怪獣たちによる奇襲が防がれて、ゼロから戻った才人はロマリア側の陣営に戻ってきた。
周囲はまだ混乱と事態の後始末が終わっておらず、彼に構う暇のある者はいなかった。
「危ないとこだったけど、どうにか犠牲者を出さずに済んだな。姫さまの帰りまでに、こっちが
総崩れになるなんてことにならなくてよかった」
 と才人は安心を口にしていたが、ゼロは危惧の声を発する。
『だが、今回のことで多くの人間が精神的なショックを受けたことだろう。どんな経緯に
なるにせよ、これで今の均衡状態は長くは続かねぇことになるだろうな……』
「……そうなのか……」
 ゼロの指摘で才人は顔を曇らせる。ロマリア軍が、ガリアの防衛線が崩れたことにつけ込んで
渡河しようとするか、逆に別の場所に展開しているガリア軍がロマリアの動揺しているところを
狙って進軍してくるか、どちらになるかは分からないが、戦局に動きがあるのは才人たち的には
良くない。彼らはアンリエッタに、本格的な戦いにならないように約束しているのだ。
「姫さま、早く戻られないものか……」
 才人がここにいないアンリエッタに願っていると、彼の元にジュリオが駆けつけてきた。
「やぁサイト、ここにいたか! ずっと姿が見えないから心配したんだぜ」
 彼の顔を見ると、才人は一瞬にしてしかめ面となった。
「よく言うぜ。こないだは殺そうとしたくせに」
 ストレートに嫌味をぶつけるが、ジュリオはまるで意に介さなかった。
「そう言ってくれるなよ。ぼくたちも聖地の回復のために必死なんだ。別にきみが憎い訳
じゃない。この世界にいてくれるのなら、当然生きててくれた方がありがたいさ」
「はん、どうだか」
 ジュリオに冷めた目を送る才人。彼はこの食えない男がどうも苦手であった。自分たちの
非道さをそのまま理解した上で受け止め、こちらに誠実な態度を見せる。その分、逆に真意を
測りがたいのだ。
 と思っていたその時、才人の頬を何か鋭いものがかすめた。
「あいでッ!」
 一羽のフクロウであった。フクロウはジュリオの肩に止まる。
「おや、ネロじゃないか。お帰り」
「何だよそいつ……」
「ぼくのフクロウだよ。おや、いけない! 血が出てるぜ」
 才人の頬は、フクロウの爪がかすめて切れていた。ジュリオは何気ない仕草で才人の頬を
濡らす血をハンカチでぬぐった。
「よせよ。血なんかすぐ止まるよ」
 才人がなれなれしいジュリオの手を払うと、ジュリオは気を悪くした風もなくハンカチを仕舞った。
 才人はそんなジュリオに、重要なことを尋ねる。
「こんな大騒動になっちまったが、いつまでガリアとにらみ合いを続けるつもりなんだ?」
 ジュリオは両手を広げて思わせぶりな態度を取った。
「さぁね。でもまぁ、そう遠くない内に風が吹くと思うよ」
 そのまま才人に背を向けて、スタスタと歩み去っていく。
 ……その顔には、してやったりというような不敵な笑みが浮かんでいた。

134ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/09/30(土) 21:47:36 ID:dTP6KUWI
以上です。
ガリア編もいよいよ終わりが近いです。

135ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:02:07 ID:Xfy8vrRQ
ウルトラマンゼロの人、投稿おつかれさまでした。

さて、こんばんは。無重力巫女さんの人です。
後一時間程度で十月になりますが、八十七話の投稿を二十三時五分から始めます。

136ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:05:10 ID:Xfy8vrRQ
 チクントネ街から旧市街地の間を横切るようにして造られた一本の水路がある。
 この水路もまた地下への下水道へと続いており、人通りの少なさもあってか地下へと続く暗渠が他よりもやや不気味な雰囲気を醸し出している。
 また、水路と道路には三メイル以上の段差があるせいか通行人が落ちないようにと鉄柵が設けられている。
 普段は旧市街地と隣接している場所であるためか人気も無く、水の流れる音だけがBGМ代わりに水路から鳴り響いている。
 一部の人間の間では、王都で川の流れる音を静かに聞きたいのならこの場所と囁かれているらしいが冗談かどうか分からない。
 まぁ最も、すぐ近くには共同住宅が密集している通りがあるので完全に人の気配がしない…という日はまず来ないだろう。

 そんな静かで、活気ある繁華街と棄てられた廃墟群の間に挟まれた水路には、今多くの人間が押しかけていた。
 それも平民や貴族達ではなく、安い鎧に槍と剣などで武装した衛士隊の隊員たちが十人以上もやってきているのである。
 年齢にバラつきはあれど、彼らは皆一様に緊迫した表情を浮かべて柵越しに水路を見下ろしていた。
 彼らの視線の先には、水路の端に造られた道に降りた仲間たちがおり、彼らは一様に暗渠の方へと視線を向けている。
 暗渠の中にも既に何人かが入っているのか、一人二人出てくると入り口で待つ仲間たちと何やら会話を行う。
 そして暗闇の奥で何かが起こった――もしくは起こっていた?――のか、入口にいた者達も暗渠の中へ入っていく。

 衛士達が何人もいるこの現場に興味を示したのか、普段はここを訪れない者たちが何だ何だと押し寄せている。
 近くの共同住宅に住む平民や下級貴族たちが大半であり、彼らは衛士達が張った黄色いロープの前から水路を覗こうと頑張っていた。
 ハルケギニアの公用語であるガリアの文字で「立ち入り禁止」と書かれたロープをくぐれば、それだけで罪を犯した事になってしまう。
 ロープを挟んで平民たちを睨む衛士たちに怯んでか、それとも罪を犯すことを恐れてか誰一人ロープをくぐろうとしない。
 張られている位置からでは上手く水路が見れないものの、それでも衛士達の間から漏れる会話で何が起こったのか察し始めていた。

「なぁ今の聞いたか?地下水道の出入り口で白骨死体が見つかったらしいぜ」
「しかも聞いた限りじゃあ衛士隊の装備をつけてたって…」
 一人の平民の話に若い下級貴族が食い付き、それに続いて中年の平民女性も喋り出すす。
「殺人事件?…でも白骨って、じゃあ殺されてから大分経つんじゃないの?」
「いや…それがここの下水道近くに住んでるっていうホームレスが言うには、ここ最近死体なんて一度も見なかったらしいぞ」
 女性の言葉に旦那である同年代の平民男性がそう返し、他の何人かが視線をある人物へ向ける。
 彼らの目線の先、ロープの向こう側で一人の男性衛士から事情聴取を受けているホームレスの男性の姿があった。
 いかにもホームレスのイメージと聞かれた大衆がイメージするような姿の中年男性は、気怠そうに衛士からの質問に答えている。

 朝っぱらだというのに喧騒ならぬ物騒な雰囲気を滲ませている一角を、博麗霊夢は屋上から見つめていた。
 そこそこ良かった朝食の直後にここへ向かう衛士達の姿を見た彼女は、とある淡い期待を抱いてここまで来たのである。
 淡い期待…即ち自分のお金を盗んでいったあの兄妹の事かと思っていた彼女は、酷くつまらなそうな表情で地上を眺めていた。
「何よ?てっきりあの盗人たちが見つかったのかと思ったら…単なる殺人事件だなんて」
『単なる、と言い切っちゃうのはどうかと思うがね?お前さんたちが寝泊まりしてる場所からここはそう遠くないんだぜ』
 デルフの言葉で彼が何を言いたいのかすぐに理解した霊夢は口の端を微かに上げて笑う。

137ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:07:13 ID:Xfy8vrRQ
「どんな殺人鬼でも、あの店を襲おうもんならスグに襲ったことを後悔するわね」
『随分自身満々じゃないか…って言っても、確かにお前さんたちと遭遇した殺人鬼様は間違いなく不幸になるだろうな』
「んぅ〜…それもあるけど、何よりあそこにはスカロンが店を構えてるし大丈夫でしょ?」
 半分正解で半分外れていた自分の言葉を補足してくれた霊夢に、デルフは『あぁ〜』と納得したように笑う。
 確かに、どんなヤツが相手でも人間ならば間違いなく『魅惑の妖精』亭の店長スカロンを前に逃げ出す事間違いなしである。
 タダでさえ体を鍛えていて全身筋肉で武装しているというのに、オネェ言葉で若干オカマなのだ。
 見たことも無い容疑者が男だろうが女だろうが、スカロンが前に立ちはだかれば大人しく道を譲るに違いない。

 それを想像してしまい、ついつい軽く笑ってしまったデルフに気を取り直すように霊夢が話しかける。
「まぁ今の話は置いておくとして、普通の殺人事件でこんなに衛士が出てくるもんなのかしら?」
『確かにそうだな。…何か事情があるんだろうが、にしたって十人以上来るのはちょっとした大ごとだ』
 道路の上にいる人々と比べて、建物の屋上に霊夢の目には衛士達の動きが良く見えていた。

 その手振りや身振りからしても、自分たちと同じヒラか少し上程度の衛士が死んだ゙だげの事件とは思えない。
 道路の上から現場を指揮する隊長格と思しき隊員が、数人の隊員に人差し指を向けて急いで何かを指示している。
 少し苛ついている感じがする隊長格に隊員たちは敬礼した後、人ごみを押しのけて街中へと走っていく。
 暗渠へ入っていった隊員達の内二人が上から大きな布を掛けた担架を担ぎ、慎重に歩きながら出てきた。
 まるで大きくていかにも骨董的な割れ物を運ぶかのような慎重さと、人が乗せられているとは思えない程の凸凹が見えない布。
 きっとあれが、の中で死んでいたという衛士隊員の白骨死体なのだろう。
 入り口にいた隊員の内一人がその担架の方へ体を向け、十字を切っている。
 それに続いて何人かが同じように十字を切った後、担架は水路から道路へと出られる梯子の方まで運ばれていく。
 恐らく別の何処かに運ぶのだろう、隊長格の隊員が他の隊員と一緒に鉤付きのロープを水路へ落としている。

 そんな時であった、突如繁華街の方向から猛々しい馬の嘶きが聞こえてきたのは。
 何人かの隊員たちと野次馬が何事かと振り返り、霊夢もまたそちらの方へと視線を向ける。
 そこにいたのは、丁度手綱を引いて馬を止めた細身の衛士が慣れた動作で馬から降りて地に足着けたところであった。
『何だ、増援?…にしちゃあ、一人だけか』
「もう必要ないとは思うけど…あの金髪、どこで見た覚えがあるような?」
 地上にいる人々とは違い、霊夢の目には馬から降りたその衛士の背中しか見えなかった。
 辛うじて髪の色が金髪である事と、それを短めにカットしているという事しか分からない。
 それが無性に気になり、いっその事降りてみようかしらと思った彼女の運が良い方向へ働いたのだろうか。

 馬を下りたばかりの衛士は、別の衛士に後ろから声を掛けられて振り返ったのである。
 髪を少し揺らして振り返ったその顔は―――遠目から見ても女だと分かる程に綺麗であった。
 猛禽類のように鋭い目つきで後ろから声を掛けてきた同僚と一言二言会話を交えて、水路の方へと向かっていく。
 霊夢と一緒に見下ろしていたデルフが『へぇ〜女の衛士かぁ』ぼやくのをよそに、霊夢は少々面喰っていた。
 何故ならその女性衛士と彼女は、今より少し前に顔を合わせていたからである。

「あの女衛士、確かアニエスって言ってたような…」
 まさかこんな所で顔を合わすとは思っていなかった霊夢は、案外にこの街は狭いのではと感じていた。

138ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:09:09 ID:Xfy8vrRQ
 一波乱どころではない騒ぎに巻き込まれたアニエスが元の職場に戻れたのは、つい今朝の事である。
 軍部からの演習命令で一時トリステイン軍に入り、そのままタルブでの戦闘に巻き込まれた彼女は散々な思いをした。
 アルビオンとの戦いが終わった後もタルブやラ・ロシェールでの戦闘後の処理作業に追われ、
 更に戦闘開始直後に出現した怪物を間近に見たという事で、数日間にも渡って取り調べを受け、
 やっと衛士隊への復帰命令が来たと思えば、王都へ戻る際の馬車が混雑したり…と大変な目にあったのだ。

 そうして王都に戻れたのは今朝で、幸いにも書類に書かれていた復帰までの期日には間に合う事が出来た。
 彼女としては一日遅れる事は覚悟していたものの、早めにゴンドアを出ていて良かったとその時は胸をなで下ろしていた。
 駅舎の警備をしている同僚の衛士達と一言二言会話をした後で、手ぶらでは何だと思って土産屋で適当なモノを幾つか購入し、
 すっかり緑に慣れてしまっていた目で幾つも建ち並ぶ建物を見上げながら、アニエスは第二の故郷となった所属詰所へと戻ってきた。
 ふと近くにある広場にある時計で時刻を確認してみると丁度八時五十分。彼女にしては珍しい十分前出勤となる。
 いつもならばもっと早い時間に出勤して、昨日残した書類の片づけや鍛錬に時間を使うアニエスにとって慣れない時間での出勤だ。

 とはいえ立ちっ放しもなんだろうという事で彼女は玄関の傍に立つ同僚に敬礼し、中へと入る。
 そして彼女の目の前に広がっていた光景は―――慌てて緊急出動しようとする大勢の仲間たちであった。
 まるで王都に敵が攻めて来たと言わんばかりに装備を整えた姿の仲間数人が、急ぎ足で彼女の方へ走ってきたのである。
 彼らの鬼気迫る表情に思わずアニエスが横にどいたのにも気づかず、皆一様に外へと出ていく。
 いつもの彼女らしくないと言われてしまう程身を竦ませたアニエスが何なのだと目を丸くしていると、後ろから声を掛けて来た者がいた。

――あっ!アニエスさんじゃないか、戻ってきたんですか!?

 その声に後ろを振り向くと、そこには衛士にしては珍しく眼鏡を掛けた同僚がいた。
 彼はこの詰所の鑑識係であり、事件が起きた際に現場の遺品や被害者のスケッチなどを担当している。
 まだ鑑識になって日は浅いものの、若いせいか隊長含め仲間たちからは弟分のように可愛がられている。
 その彼もまた衛士隊の安物の鎧と鑑識道具一式の入ったバッグを肩から掛けて、外へ出ようとしていたところであった。
 アニエスは彼の呼びかけにとりあえず右手を上げつつ、何が起こったのか聞いてみることにした。

―――あぁ、今日が丁度復帰できる日なんだ。…それよりも今のは何だ?どうにもタダ事ではなさそうだが…
――――それが実は僕も良く知らないんですが、今朝未明に衛士隊隊員の死体が発見されたそうで…
―――――何だと?だがそれにしては騒ぎ過ぎだろ、こんなに騒然としてるなんて…隊長は何て?

139ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:11:10 ID:Xfy8vrRQ
 ふとした会話の中でアニエスが何気なく隊長の名を口にした途端、鑑識の衛士ばビクリと身を竦ませた。
 単に驚いただけではないというその反応を見て、アニエスは怪訝な表情を浮かべる。
 鑑識の青年衛士も、顔を俯かせて暫し何かを考えた後……ゆっくりと顔を上げて口を開いた。

―――実は、隊長はその…昨晩の夕方に退勤して以降、行方が分からなくて…自宅にもいないそうなんです…
――――な…ッ!?
―――――それで、発見された白骨死体が衛士隊員だという事で…みんな―――
――――――勝手な想像をするんじゃないッ!

 ちょっとどころではない死地から帰ってきて早々に、どうしてこんな良くない事が起きてしまうのか。
 アニエスは自分の運の無さを呪いながらも大急ぎで支度を整え、鑑識から現場を聞いて急行したのである。
 場所はチクトンネ街と旧市街地の間にある川で、既に何人もの衛士達が書けてつけているとの事らしい。
 本当なら応援はもういらないのだろうが、それでもアニエスはわざわざ馬を使ってまで現場へと急いだ。

 そうして現場へとたどり着いた時、既に件の白骨遺体は水路から上げられる所だったらしい。
 馬を降りて一息ついた所で、既に現場で野次馬たちを見張っていた同僚に声を掛けられた。
「おぉアニエス、戻ってきたのか?…すまんな、復帰早々こんなハードな現場に来てくれるとは」
「野次馬相手なら幾らいても足りなくなるだろう?それより、例の遺体はどこに……ん、あっ!」
 同僚と軽く挨拶しつつ、痛いはどこにあるのかと聞こうとしたところで彼女は群衆がおぉっ!声を上げた事で気が付いた。
 そちらの方へ視線を向けたと同時に、水路にあった被害者が引き上げられようとしていたのである。

 アニエスは失礼!と言いながら野次馬たちを押しのけてそちらへと向かう。
 何人かが押すなよ!と文句を言ってくるのも構わず進み、ようやく目の前に引き上げられたばかりの担架が見えた。
 野次馬を防いでいる衛士達が咄嗟に止めようとしたものの、同僚だと気づくとロープを持ち上げてアニエスを自分たちの方へと招いた。
「戻ってきたのかアニエス、大変だったらしいな」
「その話は後にしてくれ、それよりここの現場担当の隊長格は?」
 仲間たちの言葉を軽く返しつつそう言うと、水路に残っている部下たちにも上がる様指示していた上官衛士が前へと出てくる。
「俺の事…ってアニエスか!エラい久しぶりに顔を見た様な気をするが、よく帰ってこれたな」
「あっ、はい!奇跡的に傷一つ負わずに戻ってこれました。…それで、被害者の身元は分かったのですか?」
 彼女が良く知る隊長とはまた別の管轄を持つ彼の言葉にアニエスは軽く敬礼しつつ、状況の進展を探った。
 キツイ仕事から帰ってきたというのに熱心過ぎる彼女に内心感心しつつも、上官衛士は首を横に振りつつ返す。

「今の所俺たちと同じ服装をした白骨死体…ってだけしか分からんな。軍服と胸当てだけで身分証の類は持っていなかっ
 たから尚更だ。それに俺たちだけじゃあ骨で性別判断何てできっこないし、何より白骨死体にしては妙に綺麗すぎる。ホラ、見てみろ?」

 彼はそう言うと共に担架の上に掛かった布を少しだけ捲り、その下にある白骨をアニエスへ見せてみる。
 最初は突然の骨にウッと驚きつつも、恐る恐る観察してみると…確かに、上官の言葉通り洗いたての様に真っ白であった。
 まるで死体安置所で冷凍保管されていた遺体から肉を丁寧に落として、骨を漂白したかのように綺麗なのである。

140ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:13:32 ID:Xfy8vrRQ
 別に腐って乾燥した肉片とかついている黄ばんだ骨が見たいわけではないのだが、それでもこの白さはどことなく異常さが感じられた。
 思わずまじまじと見つめているアニエスへ補足を入れるかかの様に、上官は一人喋り出す。

「第一発見者の浮浪者がここら辺を寝床にしてるらしくてな、昨夜は濁流に飲み込まれないよう旧市街地にいたらしい。
 それでも、今朝見つけるまであんな綺麗な骨は絶対に無かった…と手振りを交えながら話してくれた。」

 上官の言葉にアニエスはそうですか…と生返事をした後、ふと気になった事を彼へと質問する。
「…それならば、この骨は昨夜の暖流で流れて来たのでは?」
「可能性は無くは無いが、それにしては変に綺麗すぎる。見てみろ、この白さなら好事家が言い値で買うかもしれんぞ」
 仮にも同僚であった者に対して失礼な例え方をしているとも聞こえるが、彼の表情は真剣そのものであった。
 茶化し、誤魔化しているのだろうとアニエスは思った。実際今の自分も冗談の一つぐらい言いたい気持ちが胸中にある。
 この骨が自分の管轄区の、粉挽き屋でバイトしていた自分を衛士として雇ってくれた隊長だと思いたくはなかったのだ。
 今のところは身元が全然分からないという事で安堵しかけているが、それでも不安は拭いきれない。

 もやもやと体の内側に浮かんでいるそれを誤魔化すかのように、アニエスは口を開く。
「それで、身元の特定作業はもう行っているのですか?」
「あぁ。今日欠勤している者を優先的に調べているが…ここは王都だ、全員調べるとなると明日の昼まで掛かる」
 アニエスからの質問に上官は肩をすくめてそう言うと、アニエスは仕方ないと言いたげにため息をつく。
 欠勤者だけではなく、非番の者まで調べるとなれば…文字通り街中を駆け巡らなければいけないのだ。
 これが単なる殺人事件ならばここまで大事にはならないが、殆ど傷がついていない白骨という奇怪な状態で見つかっているのだ。
 もはや衛士である前に、一介の平民である自分たちが対応できる事件としての範囲を超えてしまっている。

 持ち上げていた布をおろし、アニエスの方へと向いた上官は渋い表情を浮かべたまま言った。
「一応魔法衛士隊にも報告はしておいたが、正直今の国防事情では来てくれるかどうか…だな」
「確かに、平時ならばメイジが関与していると考慮して動いてくれますが…今はアルビオンと戦争が間近という状況ですし」
 上官の言葉にアニエスは頷く。彼女の言うとおり、今はこうした街中の事件で対応してくれる魔法衛士隊は別の任務に就いている。
 大半は新しく補充された新人隊員達に訓練を施し、更に有事に備えて軍や政府関連の施設の警備を優先するよう命令されている筈だ。
 となれば、いくら怪奇的な事件だとして出動を乞うても「今は衛士隊だけで対応せよ」という返事が返ってくるのは間違いないだろう。
 今はドットクラスメイジの手を借りたいほどに、王宮と軍が忙しいのはつい数日前までそこに所属していたアニエス自身が知っている。
 先の会戦で主な将校を何人も失った王軍と、戦力に余裕のある国軍を統合させた陸軍の創設及び部隊の再配置で更に忙しくなるだろう。
 それが本格的に行われる前に衛士隊へ復帰する事ができたアニエスは、思わずホッと安堵したくなった。

 ―――しかし、そこで彼女は胸中に秘めていた『願い』を思い出し、内心で安堵する事すら自制してしまう。
 もしも、この騒ぎに乗じて正式に軍に配備されていれば――――自分はもっと『王宮』へ近づく事ができたのでは、と。
 トリスタニアの象徴でもあるあの宮殿の中に眠るであろう『ソレ』へとたどり着ける、新たな一歩になっていたかもしれない。

 そこまで考えた所で彼女はハッと我に返り、首を横に振って今考えていた事を頭から振り払う。
(今はそんな事を考えている場合じゃないだろうアニエス。もう過ぎた事だ…今は、目の前の事件に集中しなければ)

 ひょっとすると、自分の体と頭は自分が思っている以上に疲れているのかもしれない。
「…少なくとも今できる事は情報収集です。可能ならば、私もお手伝いします」
 そんな事を思いつつ、それでも担架に乗せられた白骨の正体を知りたい彼女は上官に申し出た。

141ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:17:04 ID:Xfy8vrRQ

「できるのか?それなら頼む。今は猫の手も借りたい状況だ、是非ともお願いしよう。後、お前んとこの隊長と出会ったらボーナス給弾むよう言っておく」
 疲れているであろう彼女に上官は冗談を交えつつ許可すると、アニエスは「はっ!」と声を上げて敬礼する。
 直後に彼女は踵を返し、野次馬たちの向こう側で同僚が宥めている馬の所へ向かおうとした、その時であった。

 急いで馬の所へ戻ろうとする彼女の視界の端に、紅白の人影が一瞬だけ入り込んできたのである。

「ん?………何だ?」
 思わず足を止めて人影が見えた方向へ視線を向けると、そこにあるのは屋上付きの建物であった。
 個人の邸宅ではなく、一階に雑貨屋などがある共同住宅らしく窓越しに現場を眺めている住人がチラホラと見える。
 しかし窓からこちらを覗く人々の中に紅白は見えず、屋上を見てみるも当然誰もいない。
 だが彼女は確かに見た筈なのである。何処かで見た覚えのある、紅白の人影を。

「気のせいだったのか、それとも単に私が疲れすぎているだけなのだろうか…」
 納得の行かないアニエスは一人呟きながらも馬の所へ辿り着くため、再び野次馬たちを押しのける小さな戦いへと身を投じた。

『さっきの口ぶりからして知り合いだったらしいが、声かけなくても良かったのかい?』
「アニエスの事?別に良いわよ。知り合いだけど親しいってワケではないし、向こうも忙しそうだったしね」
 水路からの喧騒が小さく聞こえる路地に降り立ったばかりの霊夢へ、背中に担いだデルフがそんな事を言ってきた。
 昨日の雨で出来た水たまりをローファーで軽く蹴り付けつ道を歩く彼女は、大したことじゃ無いと言いたげに返す。
 建物と建物の間に出来ているが故に道は陽が遮られており、幾つもの水たまりが道端にできている。
 それをローファーが踏みつけると共に小さな水しぶきがあがり、未だ乾いていないレンガの道を更に濡らしていく。
「あんな事件は衛士に任せといて、今はあの盗人兄妹を捕まえて金を取り返すのが最優先事項なのは、アンタも分かってるでしょうに」
『オレっちは手足が無いから持ってても意味ねェけどな』
 鞘に収まった刀身を震わせて笑う彼に、霊夢は「アンタは良くても私達がダメなのよ」と返す。
 いくら子供であっても、あれ程の大金を一気に使おうとすれば大なり小なり人々のちょっとした話題になるのは明白である。
 そうであるなら楽なのだが、明らかに手慣れている感じからして常習犯なのは間違いないだろう。
 と、なれば…盗んだ大金で豪遊などせずに、小分けにして生活費にするというのなら探し出せる難易度は一気に高くなる。

「とりあえず昨日はルイズと大雨のせいで行けなかった現場に行って、アイツらを捜すかそれに関する情報を集めないとね」
『成程、容疑者が確認の為に現場へ戻るっていう法則を信用するのか』
 デルフがそう言うと共に陽の当たらぬ路地から出た霊夢は、目に突き刺さるかのような光に思わず目を細める。
 途端、まるで空気が思い出したかのように夏の熱気へと変わり彼女と服を熱し始めた。

142ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:19:01 ID:Xfy8vrRQ
「いくら私でも手がかりの一つか二つ無いと分からないし、何か収穫の一つでもあればいいんだけどねぇ…」
 ハルケギニアの夏の気候に慣れぬ彼女は未だ活気の少ない通りへと入りつつ、デルフに向けて呟く。
 霊夢としては、そう都合よくあの兄妹二人の内一人が現場へ戻っているとはあまり思ってはいなかった。
 ただ何かしらの証拠や、あの近辺にいる住民へ聞き込みをして情報が手に入ればと考えてはいたが。

 霊夢のそんな意見に、デルフはほんの一瞬黙ってからすぐさま口を開いた喋り出す。
『とはいってもなぁ、ソイツらが手練れの常習犯なら現場には戻らないと思うぜぇ?』
「それは分かってるよ。だけどこっちは明らかな情報不足なんだし、私が動かなきゃあゼロから先には進まないわ」
 諦めかけているようなデルフの言葉に彼女はやや厳しめに返事しつつ、通りを歩いていると、
 ふと三メイル先にあるベンチに腰かける、短い金髪が似合う見知り過ぎた顔の女性がいるのに気が付いた。
 その女はこちらをジッと睨んでおり、その瞳からは人ならざる者の気配を僅かにだが感じ取る事ができる。

『あの女…って、もしかしてあの狐女か?』
「その通りの様ね。アイツ、一体何用かしら」
 気配に見覚えがあったデルフがそこまで言った所で、バトンたったするかのように霊夢が口を開いて言った。
 敵意は感じられないが、昨日見た彼女の豹変ぶりをを思い出した霊夢は若干気を引き締めて女へ近づいていく。
 金髪の女は何も言わずにじっと霊夢とデルフを睨み続け、彼女と一本が後一メイルというところでようやく口を開いた。

「やぁ、盗人探しは順調に進んでるかい博麗霊夢よ」
「残念ながら芳しくない。…って言っておくわ、八雲藍」

 自分の呼びかけに対しそう答えた霊夢にベンチの女―――八雲藍もまた目を細めて睨み返す。
 それでこの巫女が怯むとは全く思ってもいなかったし、単に自分を睨む彼女へのお返しみたいなものであった。
 両者互いに力ませた目元を緩ませないでいると、霊夢の背にあるデルフが金属音を鳴らしながら喋り出す。
『おいおい堅苦しすぎるぜお前ら?…って言っても、昨日は色々あったから仕方ないとは思うがよ』
 昨日ルイズたちと一緒に、藍の豹変と何かに動揺する紫を見ていたデルフの言葉に霊夢が軽く舌打ちしつつ視線を後ろへ向ける。

143ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:21:08 ID:Xfy8vrRQ
「だったら少し黙っててくれない?ただでさえ暑いっていうのにそこにアンタの濁声まで加わったら参っちゃうわ」
『ひでぇ。…でもまぁ許す、今はお前さんが俺の使い手だしな。じゃあお言葉に甘えて少し静かにしておくよ』
 随分な言い様であったがそれで一々怒れる程デルフは生まれたばかりではなかったし、経験もある。
 背中越しに感じる霊夢の気配から、ベンチの狐女に昨日の事を聞きたいのであろうというのは何となく分かる事が出来た。
 デルフは彼女の剣として、ここは下手に口を出さすのはやめて大人しく黙っておくことにした。

 それから数秒、静かになったデルフを見てため息をついた霊夢は再び藍の方へと視線を向ける。
 特徴的な九尾と狐耳を縮めて人に化けた彼女もまたため息をつきき、自分の隣の席を無言で指さす。
 ―――そこに座れ。そう受け取った霊夢はデルフを下ろすとベンチに立てかけて、藍の横に腰を下ろした。
 太陽の光に照らされ続けた木製のそれは熱く、スカート越しでも容赦なく彼女の背中とお尻へと熱気が伝わってくる。
 せめて木陰のある場所に設置できなかったのか。そんな事を思っていた霊夢へ、早速藍が話しかけてきた。

「昨日の夜は悪かったな。まさか雨漏りしていたとは考えてもいなかったよ」
「……そうね。でもまぁ、そのおかけで昨日はマトモな部屋で寝れたし結果オーライって事で許してあげるわ」
「何だその言い方は?もしかすれば私に仕返ししてかもしれないって言いたいのかお前は」
「あら、仕返しされたかったの?何なら今この場でしちゃっても良いんだけど」
「やれるものなら…と言いたいがやめておけ、こんな所で騒げば今度こそ紫様の堪忍袋の緒が音を立てて切れるぞ」
「それなら遠慮しておくわ。アンタが怒るよりもそっちの方が十倍怖いんですもの」
 そんな短い会話の後、ほんの少しの間だが二人の間を沈黙が支配した。
 お互い本当に言いたい事、そして聞きたい事をいつ口に出そうか迷っているのかもしれない。
 いつもならば霊夢が先陣切って口を開きたいのだろうが、昨日久々に姿を見せた紫の動揺を思い出してか口を開けずにいる。

 これまで色んな所で彼女の前に現れては、色々なちょっかいを掛けてきた大妖怪こと八雲紫。
 並の妖怪なら名を聞いただけでも怯んでしまう博麗の巫女である彼女を前にしても、常に余裕満々で接してきた。
 ちょっかいを掛け過ぎた霊夢が激怒した時もその余裕を崩す事なく、むしろ面白いと更にちょっかいを掛けてくる事もあった。
 だからこそ霊夢は変に気にし過ぎていた。まるで世界の終わりがすぐ間近だと気づいてしまった時の様な様子に。

 ブルドンネ街では市場が始まったのか、遠くから人々の活気づいた喧騒が耳に入ってくる。
 一方で夜はあれだけ騒がしかったチクントネ街は未だ静かであり、時折二人の前を人々が通り過ぎていく。
 きっと市場へ買い出しに行くのだろう、手製の買い物袋を手に歩く女性の姿が多い。
 年の幅は十代後半から六十代までとかなり広く、何人かが集まって楽しげな会話をしているグループも見られる。
 そんな人たちを見ながら、霊夢と同じく黙っていた藍は意を決した様に一呼吸おいてからようやく口を開いた。
「やはり気になっているんだろう、私が急にお前へ掴みかかった事が」
「それ意外の何を気にすればいいっていうのよ。滅茶苦茶動揺してた紫の事も含めて、昨日から聞きたかったのよ?」
 藍の言葉に待っていましたと言わんばかりに霊夢は即答し、ジッと九尾の式を見据えた。

144ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/09/30(土) 23:23:08 ID:Xfy8vrRQ
 それは昨日――霊夢たちの前に紫が現れた時の事。
 紫は言いたい事を言って、霊夢たちも伝えたい事を伝え終えていざ紫が部屋を後にしようとした時であった。
 何気なく霊夢は昨日見た変な夢の事を話した直後、まるで興奮した獣の様に藍が掴みかかってきたのである。
 突然の事に掴まれた本人はおろかルイズと魔理沙に橙も驚き、思わず霊夢は紫に助けを求めようとした。
 しかし、紫もまた藍と同様に―――いや、もしくは式以上におかしくなっている彼女を見て霊夢は目を丸くしてしまった。
 前述した様に、まるで世界の終わりを予知したかのように動揺している紫の姿がそこにあったのだ。

――――ちょっと、どういう事?何が一体どうなってるのよ…

 面喰った霊夢が思わず独り言を言わなければ、ずっとその状態のままだったかもしれない。
 まるで見えない拘束か立ったまま金縛りに掛かっていたかのように、数秒ほどの時間をおいて紫はハッと我に返る事が出来た。
 それでも目は若干見開いたままであったし、額から流れる冷や汗は彼女の体が動くと同時に更に滲み出てくる。
 紫はほんの少し周囲にいる者たちを見回して、皆が自分を見ている事に気が付いた所で誤魔化すように咳払いをした。
「…ごめんなさい。少し暑くてボーっとしていたみたい」
「ボーっと…って、貴女明らかに何かに動揺していたんじゃないの?」
 いつも浮かべる者とは違う、苦々しさの混じる笑顔でそう言った彼女へ、ルイズがすかさず突っ込みを入れる。
 ルイズは紫が『何に』動揺していたのかまでは分からなかったが、それでも暑すぎてボーっとしていた何て言い訳を信じる気にはなれなかった。
 あの反応は霊夢の言葉を聞き、その中に混じっていた『何か』を聞いて明らかに動揺していたのである。

 そんなルイズの突っ込みへ返事をする気は無いのか、紫は霊夢に掴みかかっている藍へと声を掛けた。
「藍、霊夢を放してあげなさい。彼女も嫌がってるだろうし」
「え――…?あ、ハイ。ただいま…」
 気を取り直した紫の命令で藍は正気に戻ったかのように大人しくなり、霊夢の両肩を掴んでいたその手を放す。
 九尾の狐にかなり強く掴まれてジンジンと痛む肩を摩る霊夢は、苦虫を噛んだ時の様な表情を浮かべて痛がっている。
 そりゃ式と言えども列強ひしめく妖怪界隈でもその名が知られている九尾狐に力を込めて肩を掴まれれば誰だって痛がるだろう。
 大丈夫なの?と心配そうに声を掛けてくれるルイズに霊夢は大丈夫と言いたげに頷くと、キッと藍を睨み付けた。

「アンタねぇ…、一体どういう力の入れ方したらあんなに強く掴めるのよ」
「それは悪かったな。…だが、こっちも一応そうせざるを得ない理由があるんだよ」
「理由…ですって?どういう事よソレ」
 霊夢の言葉に肩を竦めつつ、藍は若干申し訳なさそうな表情を浮かべつつもその言葉には全く反省の意が見えない。
 まぁそれは仕方ないと想おうとしたところで、彼女は藍の口から出た意味深な単語に食いつく。
 どんな『理由』があるにせよ乱暴に掴みかかってきたことは許せないが、それを別にして気になったのである。
 あの八雲藍がここまで取り乱す『理由』が何なのか、霊夢は知りたかった。
 早速その『理由』について問いただそうとした直前、彼女よりも先に紫が藍へ向けて話しかけたのである。

「霊夢、藍とする話が急に出来たから少し失礼するわね」
「え?あの…紫さ――うわ…っ!」
 突然の事に霊夢だけではなく藍も少し驚いたものの、有無を言えぬまま足元に出来たスキマの中へと落ちてしまう。
 藍が大人しく飲み込まれてしまうと床に出来たスキマは消え、傷一つ無い綺麗なフローリングに戻っている。


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