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避難所用SS投下スレ11冊目

777ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/05/31(水) 21:09:17 ID:WZ82hnBc
 その声に窓から離れていた住人の下級貴族達も何だ何だと窓へ近づき、そして驚く。
 何せ隣の建物から跳んできた女が壁に手と足だけで貼り付いているのだから、驚くなという方が無理である。
 途端若い貴族たちは争うようにして窓から身をのり出し、その内の何人かがハクレイへと声を掛けた。
「おいおいおい!こいつは驚いたな、まさか珍しい黒髪の女性がこの辛気臭い共同住宅に貼り付くだなんて!」
「そこの麗しいお姉さん。良かったらこのまま僕の部屋に入ってきて、質素なディナーでもどうですか?」
 得体が知れないとはいえ、そこは美女に飢えた青春真っ盛りの下級貴族たち。
 見たことも聞いたことも無い方法で壁に貼り付くハクレイに向かってあろうことか、必死にアプローチを仕掛けてきた。
 そんな彼らに思わずどう対応してよいか分からず、困った表情を浮かべつつ彼女は通りの方へと視線を向ける。

 少女は既に人ごみの中に入ってしまったものの、目印と言わんばかりに人ごみが大きく動くのが見えた。
 それは遠くから見つめるハクレイへ知らせるように移動し、この広場から離れようとしている。
「あそこか。でも流石にここからだと届かないし、ようし…!」
 少女の大体の一を確認した彼女は一人呟いてから、今自分が貼り付いている共同住宅を見上げた。
 四階建てのソレには屋上が設けられているらしく、手すり越しに自分を見下ろす下級貴族たちが数人見える。
 恐らく夕涼みに屋上へ足を運んでいたのだろう、何人かはその手に飲みかけのワイン入りグラスを握っていた。
 今彼女がいる場所からは丁度三メイル程であろうか、゙少し頑張れ゙ばすぐにたどり着ける距離である。
 
「んぅ〜…ほっ!よっ!」
 もう一度手足に力を込めたハクレイは、霊力を纏わせたままのソレで器用に共同住宅の壁を登り始めた。
 まるでヤモリのようにスイスイと壁に手足を貼り付かせて登る女性の姿と言うのは、何とも奇妙な姿である。
 窓や屋上からそれを見ていた下級貴族達や広場で見守っている平民たちも、皆おぉ!とざわめいた。
 一体全体、何をどうしたらあんな風に壁を登れるのか分からず多くの者たちが首を傾げている。
 その一方で、下級とはいえ魔法に詳しい下級貴族たちの驚きはかなりのもので、部屋にいた者たちの殆どが顔を出し始めていた。
「おいおい!見ろよアレ?」
「スゲェ、まるでヤモリみてぇにスイスイと登っていきやがる…」
 それ程勉強ができたというワケでも無かった者達でも、あんなワザは魔法ではない事を知っている。
 じゃああれは何なのだと言われてそれに答えられる者はおらず、彼女が壁を登っていく様は黙って見るほかなかった。
 
「は…っと!…ふぅ、大分慣れてきたわね」
「わっ、ホントに来ちゃったよこの人!」
 時間にすればほんの十秒程度であっただろうか、ハクレイは無事屋上へ辿り着く。
 やはり夕涼みに来ていたらしく、ほんの少しのつまみ安いワインで宴を楽しんでいた若い貴族達は皆彼女に驚いている。
 無理もないだろう。女が手と足だけで壁に貼り付いて登ってやってきたのならば、誰だって驚くに違いない。
 そんな事を思いながら驚く貴族たちを余所に屋上へ足を着けたハクレイは、意外な程この『力』を使える事に内心驚いていた。
 最初にエア・ストームで吹き飛ばされ、貼りついた時と比べれば彼女は格段に『慣れ』始めている。
 まるで水を得た魚のように物凄い勢いで『忘れていたであろう』知識を取り戻し、活用していた。

(まぁ今は便利っちゃあ便利だけど…うぅん、今はこの事を考えるのは後回しよ)
 そこまで思ったところで首を横に振り、彼女は屋上から周囲の光景を見下ろしてみる。
 既に陽が落ちようとしている時間帯の王都の通りは人でごったがえし、繁華街としての顔を見せかけている最中だ。
 眼下の喧騒が彼女の耳にこれでもかと入り込んでくる中、ハクレイは必死に逃げる少女の姿を捉える。


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